説明

駆動力伝達装置

【課題】引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができる駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動力伝達装置は、ハウジングとインナシャフトとの間に介在する収容空間の潤滑油を貯溜するタンク44、及びハウジングを収容する円筒状の収容部40cを有する装置ケースを備え、ケースにおいて、収容部40cは、ハウジングの外周面に対向する内周面40bを有し、タンク44は、収容部40cの内周面40bに開口し、かつ四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時においてハウジングの回転に伴い生じる遠心力に基づいて収容空間の潤滑油を導入する油導入口441aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車における入力軸からの駆動力を出力軸に伝達する駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の駆動力伝達装置として、例えば四輪駆動車に搭載され、一対の回転部材をクラッチによってトルク伝達可能に連結するようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この駆動力伝達装置は、入力軸と共に回転する第1の回転部材と、この第1の回転部材の軸線上で回転可能な第2の回転部材と、この第2の回転部材と第1の回転部材とをトルク伝達可能に連結する摩擦式の第1のクラッチと、この第1のクラッチに第1の回転部材及び第2の回転部材の軸線に沿って並列する電磁クラッチと、この電磁クラッチの電磁力を受けて動作する摩擦式の第2のクラッチと、この第2のクラッチのクラッチ動作によって第1の回転部材からの回転力を第1のクラッチ側への押付力に変換するカム機構とから構成されている。
【0004】
第1の回転部材は、一方に開口する有底円筒状のフロントハウジング、及びこのハウジングの開口部に装着された円環状のリヤハウジングからなり、入力軸に連結されている。そして、第1の回転部材は、車両用のエンジンなど駆動源の駆動力を入力軸から受けて回転する。
【0005】
第2の回転部材は、第1の回転部材に回転軸線上で相対回転可能に配置され、かつ出力軸に連結されている。
【0006】
第1のクラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。そして、第1のクラッチは、メインクラッチとして機能し、インナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが摩擦係合して第1の回転部材と第2の回転部材とをトルク伝達可能に連結する。
【0007】
電磁クラッチは、第1の回転部材及び第2の回転部材の軸線上に配置されている。そして、電磁クラッチは、電磁力を発生させて第2のクラッチを動作させる。
【0008】
第2のクラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、メインクラッチの電磁クラッチ側に配置されている。そして、第2のクラッチは、電磁クラッチの電磁力を受けて動作するパイロットクラッチとして機能し、第1の回転部材の回転力をカム機構に付与する。
【0009】
カム機構は、第1の回転部材からの回転力によるカム作用によって第1のクラッチに押付力を付与する押付部を有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。
【0010】
以上の構成により、エンジン側からの駆動力が入力軸を介して第1の回転部材に入力されると、第1の回転部材がその軸線回りに回転する。ここで、電磁クラッチに通電すると、電磁クラッチの電磁力によって第2のクラッチが動作する。
【0011】
次に、第2のクラッチの動作時に第1の回転部材からの回転力をカム機構が受けると、この回転力がカム機構によって押付力に変換され、この押付力が第1のクラッチに付与される。
【0012】
そして、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに接近して摩擦係合し、この摩擦係合によって第1の回転部材と第2の回転部材とがトルク伝達可能に連結される。これにより、エンジン側の駆動力が入力軸から駆動力伝達装置を介して出力軸に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−14001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、特許文献1に示す駆動力伝達装置によると、四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時による走行時にカム機構が第2の回転部材からの回転力のみならず、第2のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとの間に潤滑油の粘性に基づいて発生する所謂引き摺りトルクによって第1の回転部材からの回転力も受け、この回転力によるカム推力の発生によってカム機構の押付部が第1のクラッチを押し付ける。このため、第1のクラッチがカム機構によって増幅された押付力を受け、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに摩擦係合する。この結果、旋回性や燃費に悪影響を及ぼす虞がある。
【0015】
従って、本発明の目的は、引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができる駆動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜(14)の駆動力伝達装置を提供する。
【0017】
(1)四輪駆動と二輪駆動との切り替えが可能な四輪駆動車の駆動源によって回転する円筒状の第1の回転部材と、前記第1の回転部材の内部に少なくとも一部が収容され、かつ前記第1の回転部材にクラッチを介して断続可能に連結された第2の回転部材と、 前記第2の回転部材と前記第1の回転部材との間に介在する収容空間の潤滑油を貯溜するタンク部、及び前記第1の回転部材を収容する円筒状の収容部を有するケースとを備え、前記ケースにおいて、前記収容部は、前記第1の回転部材の外周面に対向する内周面を有し、前記タンク部は、前記収容部の前記内周面に開口し、かつ前記四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時において前記第1の回転部材の回転に伴い生じる遠心力に基づいて前記収容空間の潤滑油を導入する油導入口を有する駆動力伝達装置。なお、円筒状の
第1の回転部材は、外周面が円筒面であるものの他、例えば、軸方向断面の形状が花びら状や、軸方向断面の形状が内周面のスプライン形状が転写された形状である等の外周面の全体又は一部が凹凸面に形成されたものも含まれる。また、円筒状の収容部は、第1の回転部材を回転可能に収容する内周面を有する。
【0018】
(2)上記(1)に記載の駆動力伝達装置において、前記ケースは、前記四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時における前記第1の回転部材の回転に伴い形成される潤滑油による油流の方向に沿って前記タンク部の前記油導入口が開口されている。
【0019】
(3)上記(1)又は(2)に記載の駆動力伝達装置において、前記ケースは、前記収容部の前記内周面と前記第1の回転部材の外周面との間に介在する環状空間を含み、かつ前記収容空間に連通する油収容室を有する。
【0020】
(4)上記(2)に記載の駆動力伝達装置において、前記ケースは、前記四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時における前記油導入口の下流側に位置する油導出口を前記タンク部に有し、前記油導出口が前記油流の方向と交差する方向に沿って開口されている。
【0021】
(5)上記(4)に記載の駆動力伝達装置において、前記ケースは、前記タンク部における前記油導入口の開口面積が前記油導出口の開口面積よりも大きい面積に設定されている。
【0022】
(6)上記(3)乃至(5)のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記第1の回転部材は、前記外周面が前記ケースの内周面との間にポンプを形成して前記収容空間の潤滑油を前記油収容室に流出させるためのポンプ形成部を有する。
【0023】
(7)上記(6)に記載の駆動力伝達装置において、第1の回転部材は、前記ポンプ形成部の外径が油流入側から油流出側に向かって漸次大きくなる寸法に設定されている。
【0024】
(8)上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記ケースは、前記タンク部が前記第1の回転部材と共に回転する回転部材によって形成されている。
【0025】
(9)上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記第2の回転部材は、前記駆動源と異なる副駆動源からの回転力を受けたカム機構の作動による前記クラッチのクラッチ動作によって前記第1の回転部材に断続可能に連結されている請求項1乃至8のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【0026】
(10)上記(9)に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記副駆動源からの回転力を受けて回転するカム部材、前記カム部材を転動する転動部材、及び前記転動部材の転動によってカム推力を前記クラッチ側に出力する出力部材を有し、前記出力部材がその回転軸線回りの回転の規制を受け、かつ前記転動部材を転動可能に保持して前記回転軸線の方向に移動可能なリテーナによって構成されている。
【0027】
(11)上記(9)又は(10)に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記クラッチを構成して互いに隣り合う第1のクラッチプレートと第2のクラッチプレートとの間のクリアランスを短縮するための第1のカム推力、及び前記第1のクラッチプレートと前記第2のクラッチプレートとを摩擦係合させるための第2のカム推力を前記カム推力に含ませ、前記副駆動源からの回転力を前記第1のカム推力及び前記第2のカム推力に変換する。
【0028】
(12)上記(10)又は(11)に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記カム部材が前記副駆動源に減速機構及び歯車伝達機構を介して噛合するギヤ部を有する。
【0029】
(13)上記(12)に記載の駆動力伝達装置において、前記減速機構は、前記副駆動源からの回転力を入力するとともに、この回転力を減速して前記歯車伝達機構に出力する偏心揺動減速機構である。
【0030】
(14)上記(13)に記載の駆動力伝達装置において、前記減速機構は、前記副駆動源の回転軸線を軸線とし、この軸線に平行な軸線を中心軸線とする偏心部を有する回転軸と、前記回転軸の前記偏心部に転がり軸受を介して嵌合する中心孔、及び前記中心孔の軸線回りに等間隔をもって並列する複数の貫通孔を有する外歯歯車からなる入力部材と、前記入力部材に前記外歯歯車の歯数よりも大きい歯数をもって噛合する内歯歯車からなる自転力付与部材と、前記自転力付与部材によって付与された自転力を前記入力部材から受けて前記歯車伝達機構に出力し、前記複数の貫通孔を挿通する出力部材とを備えた。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された車両の概略を説明するために示す平面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す分解斜視図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。同図において、上半分はディスコネクト状態を、また下半分はコネクト状態をそれぞれ示す。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置における装置ケースのケース本体を説明するために示す斜視図。
【図5】(a)及び(c)は、本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置のタンクにおいて、四輪駆動車の四輪駆動状態の前進時及び二輪駆動状態の前進時の潤滑油による油流を説明するために示す正面図。(a)は二輪駆動状態の前進時の油流を、また(b)は四輪駆動状態の前進時の油流をそれぞれ示す。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置のポンプ形成部を説明するために示す斜視図。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置における油流出路の油路を説明するために示す断面図。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す分解斜視図。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置の副駆動源及び減速機構を説明するために拡大して示す断面図。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置のタンクにおいて、四輪駆動車の四輪駆動状態の前進時及び二輪駆動状態の前進時の潤滑油による油流を説明するために示す正面図。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置の減速機構を説明するために模式化して示す断面図。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構を説明するために示す斜視図。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構において、カム部材を説明するために示す斜視図。
【図15】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構において、出力部材(リテーナ)を説明するために示す斜視図。
【図16】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構において、転動部材及び支持ピンを説明するために示す斜視図。
【図17】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構の動作を説明するために示す簡略化して示す側面図。
【図18】本発明の第3の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[第1の実施の形態]
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車200は、駆動力伝達系201,駆動源としてのエンジン202,トランスミッション203,主駆動輪としての前輪204L,204R及び補助駆動輪としての後輪205L,205Rを備えている。
【0034】
駆動力伝達系201は、四輪駆動車200におけるトランスミッション203側から後輪205L,205R側に至る駆動力伝達経路にフロントディファレンシャル206及びリヤディファレンシャル207と共に配置され、かつ四輪駆動車200の車体(図示せず)に搭載されている。
【0035】
そして、駆動力伝達系201は、駆動力伝達装置1,プロペラシャフト2及び駆動力断続装置3を有し、四輪駆動車200の四輪駆動状態を二輪駆動状態に、また二輪駆動状態を四輪駆動状態にそれぞれ切り替え可能に構成されている。駆動力伝達装置1の詳細については後述する。
【0036】
フロントディファレンシャル206は、サイドギヤ209L・209R,一対のピニオンギヤ210,ギヤ支持部材211,及びフロントデフケース212を有する。サイドギヤ209L,209Rは前輪側のアクスルシャフト208L,208Rに連結されている。一対のピニオンギヤ210はサイドギヤ209L,209Rにギヤ軸を直交させて噛合する。ギヤ支持部材211は一対のピニオンギヤ210を支持する。フロントデフケース212はギヤ支持部材211,一対のピニオンギヤ210,サイドギヤ209L・209Rを収容する。フロントディファレンシャル206はトランスミッション203と駆動力断続装置3との間に配置されている。
【0037】
リヤディファレンシャル207は、サイドギヤ214L・214R,一対のピニオンギヤ215,ギヤ支持部材216及びリヤデフケース217を有する。サイドギヤ214L,214Rは後輪側のアクスルシャフト213L,213Rに連結されている。一対のピニオンギヤ215はサイドギヤ214L,214Rにギヤ軸を直交させて噛合する。ギヤ支持部材216は一対のピニオンギヤ215を支持する。リヤデフケース217はギヤ支持部材216,一対のピニオンギヤ215,サイドギヤ214L・214Rを収容する。リヤディファレンシャル207はプロペラシャフト2と駆動力伝達装置1との間に配置されている。
【0038】
エンジン202は、トランスミッション203及びフロントディファレンシャル206を介して前輪側のアクスルシャフト208L,208Rに駆動力を出力することにより前輪204L,204Rを駆動する。
【0039】
また、エンジン202は、トランスミッション203,駆動力断続装置3,プロペラシャフト2及びリヤディファレンシャル207を介して一方の後輪側のアクスルシャフト213Lに駆動力を出力することにより一方の後輪205Lを、トランスミッション203,駆動力断続装置3,プロペラシャフト2,リヤディファレンシャル207及び駆動力伝達装置1を介して他方の後輪側のアクスルシャフト213Rに駆動力を出力することにより他方の後輪205Rをそれぞれ駆動する。
【0040】
プロペラシャフト2は、リヤディファレンシャル207と駆動力断続装置3との間に配置されている。そして、プロペラシャフト2は、エンジン202の駆動力をフロントデフケース212から受けて前輪204L,204R側から後輪205L,205R側に伝達する。
【0041】
プロペラシャフト2の前輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン60及びリングギヤ61からなる前輪側の歯車機構6が配置されている。プロペラシャフト2の後輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン70及びリングギヤ71からなる後輪側の歯車機構7が配置されている。
【0042】
駆動力断続装置3は、フロントデフケース212に対して回転不能な第1のスプライン歯部3a、リングギヤ61に対して回転不能な第2のスプライン歯部3b、及び第1のスプライン歯部3a,第2のスプライン歯部3bにスプライン嵌合可能なスリーブ3cを有する例えばドグクラッチからなり、四輪駆動車200の前輪204L,204R側に配置され、かつアクチュエータ(図示せず)を介して車両用のECU(Electronic Control Unit:図示せず)に接続されている。そして、駆動力断続装置3は、プロペラシャフト2とフロントデフケース212とを断続可能に連結するように構成されている。
【0043】
(駆動力伝達装置1の全体構成)
図2及び図3は駆動力伝達装置を示す。図4は装置ケースを示す。図5(a)及び(b)は潤滑油の油流を示す。図6はポンプ形成部を示す。図7はフロントハウジングとリヤハウジングとの嵌合状態を示す。図2及び図3に示すように、駆動力伝達装置1は、第1のクラッチとしてのメインクラッチ(多板クラッチ)8,電磁クラッチ9,第2のクラッチとしてのパイロットクラッチ10,第1の回転部材としてのハウジング12,第2の回転部材としてのインナシャフト13,第1のカム機構15及び第2のカム機構16を有し、四輪駆動車200(図1に示す)の後輪205R側に配置され、かつ装置ケース4内に収容されている。
【0044】
また、駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213L(図1に示す)とを連結する位置に配置されている。そして、駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト2(図1に示す)と後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)とを断続可能に連結するように構成されている。
【0045】
これにより、駆動力伝達装置1による連結時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207(いずれも図1に示す)を介して、また他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2とが歯車機構7,リヤディファレンシャル207及び駆動力伝達装置1を介してそれぞれトルク伝達可能に連結される。一方、駆動力伝達装置1による連結の解除時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207を介して連結されたままであるが、他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2との連結が遮断される。
【0046】
装置ケース4は、図2〜図4に示すように、回転軸線Oの片側(図3の右側)に開口するケース本体40、及びケース本体40の開口部を閉塞するケース蓋体41からなり、四輪駆動車200(図1に示す)の車体に配置されている。そして、装置ケース4は、その内部にハウジング12の一部及びインナシャフト13の一部を収容する。
【0047】
ケース本体40は、収容部40cと、取付部40aと、タンク部としてのタンク44とを有する。
【0048】
収容部40cは、リヤハウジング19の外周面19eに対向する内周面40bを有する略円筒状の部材によって形成されている。ケース本体40内には、収容部40cの内周面40bとリヤハウジング19の外周面19eとの間に介在する環状空間43aが設けられている。ケース本体40内には、ハウジング12の収容空間12aに連通する油収容室43が設けられている。
【0049】
取付部40aは、収容部40cの径方向の外側に突出して収容部40cに一体に設けられている。取付部40aには、エンジン202(図1に示す)と異なるカム作動用の駆動源5が取り付けられている。取付部40aには、回転軸線Oと平行な軸線方向に開口する貫通孔400aが設けられている。
【0050】
タンク44は、収容部40cの径方向の外側であって、油収容室43の外部に配置されている。タンク44は、収容部40cに一体に設けられている。タンク44は、第1のタンク部44a及び第2のタンク部44bを有する。タンク44は、油収容室43及び収容空間12aの潤滑油を貯溜可能である。
【0051】
第1のタンク部44aは、図5(a)及び(b)に示すように、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態の前進時にハウジング12の矢印Q方向への回転に伴い形成される潤滑油の油流Sにおいて第2のタンク部44bの上流側(図4ではタンク44の上側)に配置され、かつ収容部40cの内周面40bの一部を構成する隔壁440a及び装置ケース4の外壁によって形成されている。
【0052】
第1のタンク部44aには、その上流側の流通口として機能し、かつ四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時において油収容室43の潤滑油を導入する油導入口441aが設けられている。
【0053】
油導入口441aは収容部40cの内周面40bに開口している。油導入口441aは、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にハウジング12の回転に伴い形成される潤滑油による流れを油流Sとするとともに、開口面(仮想周面)441Aと内周面40bとが交差する部位のうち油流Sの上流側の部位を交点aとすると、交点aを通る内周面40b上の接線bを含む内面442Aを有する。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にハウジング12が回転する方向とは反対側の方向に開口している。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にインナシャフト13が回転する方向に開口している。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの内部から見て、潤滑油の油流Sの上流側に開口している。油導入口441aは、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にハウジング12の回転に伴い形成される潤滑油による油流Sの方向(ケース本体40の内周面40b)に沿って開口されている。これにより、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導入口441aから第1のタンク部44aへの導入が円滑に行われる。
【0054】
油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にハウジング12が回転する方向に開口している。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にインナシャフト13が回転する方向に開口している。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの内部から見て、潤滑油の油流Tの下流側に開口している。油導入口441aは、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にハウジング12の回転に伴い形成される潤滑油による油流Tの方向と交差する方向に開口している。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの内部から見て、潤滑油の油流Tの下流側に開口している。これにより、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導入口441aから第1のタンク部44a内への導入が円滑に行われ難くなる。
【0055】
また、第1のタンク部44aには、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時に潤滑油による油流Sの下流側の流通口として機能し、かつケース本体40の軸線方向(回転軸線O)と平行な方向に開口する油導出口442aが設けられている。
【0056】
第2のタンク部44bは、油流Sにおいて第1のタンク部44aの下流側(図4ではタンク44の下側)に配置され、かつ第1のタンク部44aと同様に収容部40cの内周面40bの一部を構成する隔壁440b及び装置ケース4の外壁によって形成されている。第2のタンク部44bの内容積は、第1のタンク部44aの内容積よりも大きい容積に設定されている。また、第2のタンク部44bは、第1のタンク部44aとの間に油導出口442a及び油収容室43に連通し、かつ収容部40cの内周面40bに開口する流通口48aを有する断面凹状の油受部48が介在して配置されている。
【0057】
隔壁440bにおける回転軸線O方向の長さは、ケース本体40における回転軸線O方向の長さと略等しく、かつ第1のタンク部44aの隔壁440aにおける回転軸線O方向の長さよりも大きい寸法に設定されている。
【0058】
第2のタンク部44bには、その上流側の流通口として機能し、かつ油受部48に連通する油導入口441bが設けられている。
【0059】
油導入口441bは油受部48に開口している。油導入口441bは、第2のタンク部44bから見て、第1のタンク部44a側にある。油導入口441bは、ハウジング12の周方向において、第2のタンク部44bの四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にハウジング12が回転する方向とは反対側の方向に開口している。油導入口441bは、ハウジング12の周方向において、第2のタンク部44bの四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にハウジング12が回転する方向に開口している。
【0060】
また、第2のタンク部44bには、その下流側の流通口として機能し、かつ油流Sの方向と交差する方向に沿って開口する油導出口442bが設けられている。
【0061】
油導出口442bは収容部40cの内周面40bに開口している。油導出口442bは、開口面(仮想周面)442Bと内周面40bとが交差する部位のうち油流Tの上流側の部位を交点cとすると、交点cを通る内周面40b上の接線dと交差する内面443Bを有する。油導出口442bは、第2のタンク部44bから見て、第1のタンク部44aとは反対側にある。油導出口442bは、ハウジング12の周方向において、第2のタンク部44bの四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にハウジング12が回転する方向に開口している。油導出口442bは、ハウジング12の周方向において、第2のタンク部44bの四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にハウジング12が回転する方向とは反対側の方向に開口している。これにより、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導出口442bから第2のタンク部44b内への導入が円滑に行われ難くなる。
【0062】
油導出口442bは、油流Tの方向と交差する方向にも開口されているため、四輪駆動車200の四輪駆動時の前進時に潤滑油の油導出口442bからタンク44内への導入が円滑に行われ難くなり、収容空間12a及び油収容室43に十分な潤滑油が貯溜される。言い換えると、油導出口442bの開口方向である内面443Bと収容部40cの内周面40bの接線dとがなす角度(劣角)θは、油導入口441aの内面442Aと収容部40cの内周面40bの接線bとがなす角度(劣角)θ(本実施の形態では、内面442Aと接線bとが一致し、θ=0°である。θ:図示せず)(θ<θ)よりも大きい角度に設定されているため、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導出口442bからタンク44内への導入が円滑に行われ難くなり、収容空間12a及び油収容室43に十分な潤滑油が貯溜される。
【0063】
油導出口442bの開口面積は、第1のタンク部44aにおける油導入口441aの開口面積よりも小さい面積に設定されている。これにより、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時においては、油導入口441aからタンク44(第1のタンク部44a)内に流入する潤滑油の油量が油導出口442bからタンク44(第2のタンク部44b)外に流出する潤滑油の油量よりも多くなり、それだけタンク44内に潤滑油が貯溜され易い。
【0064】
ケース蓋体41は、ケース本体40にワッシャ付きボルト42によって取り付けられ、全体がインナシャフト13(後述)を挿通させるキャップ部材によって形成されている。
【0065】
駆動源5は、図2及び図3に示すように、減速機構(図示せず)を内蔵するとともに、電動モータ50を有し、ケース本体40の取付部40aにボルト51によって取り付けられている。駆動源5は、エンジン202(図1に示す)と異なる副駆動源として機能する。駆動源5のケース本体40に対する取り付けは位置決めピン52を用いて行われる。減速機構としては、例えば電動モータ50のモータ軸50aに固定されたウォームホイール(図示せず)、及びこのウォームホイールに噛合するウォーム53を有する歯車減速機構が用いられる。駆動源5(ウォーム53)には、第2のカム機構16(後述)にその作動力としての回転力を伝達するための伝達部材54が連結器55を介して取り付けられている。
【0066】
伝達部材54は、所定の曲率半径をもつ曲面部54a有し、第2のカム機構16の上方に配置され、かつ装置ケース4内に収容されている。曲面部54aには、歯車伝達機構56の一部を構成する外歯540aが設けられている。伝達部材54の連結器55への取り付けは止め輪57を用いて行われる。
【0067】
連結器55は、減速機構のウォーム53に連結する円筒部55a、及び伝達部材54に連結する軸部55bを有し、ウォーム53と伝達部材54との間に介在して配置されている。円筒部55aはその外周面に貫通孔400aの内周面との間にシール機構58が介在して、また軸部55bはその外周面に止め輪57がそれぞれ取り付けられている。
【0068】
(メインクラッチ8の構成)
メインクラッチ8は、複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81を有する摩擦式のメインクラッチからなり、ハウジング12とインナシャフト13との間に配置されている。
【0069】
そして、メインクラッチ8は、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う内外のクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング12とインナシャフト13とを断続可能に連結する。
【0070】
インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスは、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態の前進時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士が摩擦係合しない寸法に設定されている。
【0071】
インナクラッチプレート80は、その内周部にストレートスプライン嵌合部80aを有し、ストレートスプライン嵌合部80aを円筒部13a(インナシャフト13)のストレートスプライン嵌合部132aに嵌合させてインナシャフト13に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0072】
インナクラッチプレート80には、その円周方向に沿って並列し、かつ回転軸線O方向に開口する複数の油孔80b(図2及び図6に示す)が設けられている。複数のインナクラッチプレート80のうち電磁クラッチ側最端部のインナクラッチプレートは、メインクラッチ8の一方側の入力部として機能し、第1のカム機構15のメインカム151(後述)からアウタクラッチプレート81側に押付力(第1のカム推力)Pを受けると、この押付方向への移動によって互いに隣り合うインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを摩擦係合させる。また、複数のインナクラッチプレート80のうち電磁クラッチ9側の最端部と反対側の最端部のインナクラッチプレートは、メインクラッチ8の他方側の入力部として機能し、第2のカム機構16の出力用のカム部材161(後述)から押付部材162(後述)を介してアウタクラッチプレート81側に押付力(第2のカム推力)Pを受けると、この押付方向への移動によって互いに隣り合うインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスC(図6に示す)を例えばC=0に短縮する。
【0073】
アウタクラッチプレート81は、その外周部にストレートスプライン嵌合部81aを有し、ストレートスプライン嵌合部81aをリヤハウジング19のストレートスプライン嵌合部19b(後述)に嵌合させてハウジング12に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0074】
(ハウジング12の構成)
ハウジング12は、フロントハウジング18及びリヤハウジング19からなり、他方の後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)の軸線(回転軸線O)上に配置され、かつサイドギヤ214R(図1に示す)に連結されている。そして、ハウジング12は、全体がフロントハウジング18側と反対の側に開口する円筒部材によって形成されている。ハウジング12には、その内周面とインナシャフト13の外周面との間に介在する収容空間12aが設けられている。
【0075】
フロントハウジング18は、第1〜第3のハウジングエレメント20〜22からなり、リヤハウジング19の開口内周面に取り付けられ、かつコイルホルダ23に玉軸受24を介して回転可能に支持されている。
【0076】
コイルホルダ23は、その外周面に装置ケース4の内周面との間に介在するシール部材25が取り付けられ、全体がフロントハウジング18を挿通させる鍔付き円環部材によって形成されている。コイルホルダ23の装置ケース4に対する取り付けは、位置決めピン26を用いて行われる。また、コイルホルダ23は、その内周囲にフロントハウジング18(第1のハウジングエレメント20)の外周面との間で介在する環状空間27が形成されている。
【0077】
コイルホルダ23には、装置ケース4内に開口する油路23a、及び油路23aに連通して環状空間27に開口する油路23bが設けられている。油路23aはコイルホルダ23の軸線と平行な軸線をもって、また油路23bは油路23aの軸線と直交する軸線をもってそれぞれ形成されている。油路23bには、コイルホルダ23外側への潤滑油の漏洩を防止するためのボール状の栓体28が取り付けられている。また、コイルホルダ23には、リヤハウジング19側に開口する収容空間23cが設けられている。
【0078】
玉軸受24は、その軸線方向の移動が止め輪29,30によって規制され、かつ環状空間27に配置されている。
【0079】
フロントハウジング18には、図6に示すように、リヤハウジング19側に開口し、かつ各内径を互いに異にする3つの孔部18a〜18cが設けられている。孔部18aの内径は最大の寸法(最大内径)に、孔部18bの内径は最小の寸法(最小内径)に、また孔部18cの内径は孔部18aの内径と孔部18bの内径との間の寸法(中間内径)にそれぞれ設定されている。
【0080】
これら孔部18a〜18cのうち最小径の孔部18bは、その軸線方向に均一な内径をもつ油貯溜空間としての第1の空間部180b、第1の空間部180b側から孔部18cに向かって内径を漸次大きくする第2の空間部181b、及び第1の空間部180bから第2の空間部181bに向かって内径を漸次大きくする第3の空間部182bによって形成されている。これにより、第2の空間部181bの最小内径が第3の空間部182bの最大内径と同一の寸法に、また第3の空間部182bの最小内径が第1の空間部180bの内径と同一の寸法にそれぞれ設定される。孔部18bの内周面であって、第2の空間部181bを形成する部位は、その勾配が第3の空間部182bを形成する部位の勾配よりも大きいテーパで形成されている。孔部18bの内周面において、第2の空間部181b及び第3の空間部182bを形成する部位はポンプ形成部として機能する。
【0081】
第1のハウジングエレメント20は、各外径を互いに異にする3つの胴部20a〜20cを有し、フロントハウジング18の内周側に配置され、全体が軟鉄等の磁性材料からなる軸状部材によって形成されている。胴部20aの外径は最大の寸法(最大外径)に、胴部20bの外径は最小の寸法(最小外径)に、また胴部20cは胴部20aの外径と胴部20bの外径との間の寸法(中間外径)にそれぞれ設定されている。最大外径の胴部20a内には孔部18aが、最小外径の胴部20b内には孔部18bが、また中間外径の胴部20c内には孔部18cがそれぞれ配置されている。
【0082】
胴部20aは、その外周囲に第2のハウジングエレメント21の内周面との間に介在する環状空間31が形成されている。胴部20aには、環状空間31及び孔部18aに開口する油路200aが設けられている。また、胴部20aには、油路200a(フロントハウジング18の孔部18a)及び収容空間23cに開口する油路201aが設けられている。
【0083】
胴部20bは、その外周囲にコイルホルダ23の内周面との間に介在するシール機構32が配置されている。胴部20bには、環状空間27及び孔部18bに開口し、かつ油路23a,23bと共に装置ケース4内の潤滑油を第1の空間部180bに流入させるための油流入路Aを構成する油路200bが設けられている。
【0084】
胴部20cは、その内周囲にインナシャフト13の外周面との間に介在する針状ころ軸受33が配置されている。
【0085】
第2のハウジングエレメント21は、フロントハウジング18の外周側に配置され、全体が第1のハウジングエレメント20と同様に軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。第2のハウジングエレメント21の外周面には、その径方向に突出する複数(本実施の形態では4個)の係合凸部21aが設けられている。複数の係合凸部21aは、第2のハウジングエレメント21の円周方向に等間隔をもって配置されている。
【0086】
第2のハウジングエレメント21には、その外周面及び環状空間31に開口し、かつ孔部18a内の潤滑油を装置ケース4の油収容室43内(ハウジング12外)に流出させるための油流出路Bを油路200aと共に構成する油路21bが設けられている。また、第2のハウジングエレメント21には、コイルホルダ23の内周面との間にポンプを形成する外周面21cを有する截頭円錐形状のポンプ形成部21dが一体に設けられている。ポンプ形成部21dの外周面21cは、コイルホルダ23の内周面との間に収容空間23c側から油収容室43に潤滑油を流動させる環状空間21eが形成されている。
【0087】
ポンプ形成部21dは、油流入側端部210dから回転軸線Oまでの寸法rが油流出側端部211dから回転軸線Oまでの寸法r(r<r)よりも小さい寸法に設定されている。そして、ポンプ形成部21dの外径は、油流入側端部210dから油流出側端部211dに向かって漸次大きくなる寸法に設定されている。このため、ハウジング12が回転すると、ポンプ形成部21dにおける外周面21cの周速度が油流入側端部210dから油流出側端部211dに向かって漸次高くなるため、環状空間21eの圧力が油流入側から油流出側に向かって漸次低くなり、ポンプ形成部21dの外周面21cとコイルホルダ23の内周面との間に矢印Z方向に吸引力をもつポンプ作用が生じる。これにより、コイルホルダ23の収容空間23cに流入した潤滑油は、環状空間21eに導入された後、環状空間21eを流動して油収容室43内に導出される。
【0088】
第3のハウジングエレメント22は、第1のハウジングエレメント20と第2のハウジングエレメント21との間に介在して配置され、全体がステンレス鋼等の非磁性材料からなるハウジングエレメント連結用の円環部材によって形成されている。
【0089】
リヤハウジング19は、ハウジング12の収容空間12aに露出するストレートスプライン嵌合部19bを有し、装置ケース4内に収容され、全体が無底円筒部材によって形成されている。そして、リヤハウジング19は、フロントハウジング18と共に回転軸線Oの回りに回転する。リヤハウジング19には、その外周面にコイルホルダ23側で突出するフランジ19cが設けられている。また、リヤハウジング19には、フロントハウジング18(第2のハウジングエレメント21)の係合凸部21aに係合する複数(本実施の形態では4個)の係合凹部19dが設けられている。
【0090】
図7に示すように、複数の係合凹部19dは、ストレートスプライン嵌合部19bにおける複数のスプライン歯190bのうち互いに隣り合う2つのスプライン歯間に介在する部位でリヤハウジング19におけるコイルホルダ23(図6に示す)側の開口周縁及びフランジ19cの一部を切り欠くことにより形成されている。リヤハウジング19の外周面には、フランジ19cと係合凸部21aとの間に介在する止め輪34が取り付けられている。
【0091】
(インナシャフト13の構成)
インナシャフト13は、各外径が互いに異なる3つの円筒部13a〜13c、これら円筒部13a〜13cのうち円筒部13a,13b間に介在する段差面13d、及び円筒部13a,13c間に介在する段差面13eを有し、ハウジング12の回転軸線O上に配置され、一部がハウジング12の内部に収容され、全体が軸線方向両側に開口する無底円筒部材によって形成されている。円筒部13aの外径は最大の寸法(最大外径)に、円筒部13bの外径は最小の寸法(最小外径)に、また円筒部13cの外径は円筒部13aの外径と円筒部13bの外径との間の寸法(中間外径)にそれぞれ設定されている。そして、インナシャフト13は、その開口部内に後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)の先端部を挿入させて収容する。後輪側のアクスルシャフト213Rは、インナシャフト13にスプライン嵌合によって相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0092】
最大外径の円筒部13aは、最小外径の円筒部13bと中間外径の円筒部13cとの間に介在してインナシャフト13の軸線方向中央部に配置されている。最大外径の円筒部13aの外周面には、孔部18a内のフロントハウジング18側で突出するフランジ130aが一体に設けられている。フランジ130aには、その両端面に開口し、かつ油流入路Aと油流出路Bとの間で潤滑油を流動させる油流動路131aが設けられている。
【0093】
また、最大外径の円筒部13aの外周面には、ハウジング12の収容空間12aに露出し、かつメインクラッチ8におけるインナクラッチプレート80のストレートスプライン嵌合部80aに嵌合するストレートスプライン嵌合部132aが設けられている。
【0094】
最大外径の円筒部13aの内周面には、装置ケース4内における潤滑油の装置ケース4外への流出を防止するためのキャップ状の栓体35が取り付けられている。最大外径の円筒部13aには、その内外周面に栓体35とフランジ130aとの間で開口する油路133aが設けられている。
【0095】
最小外径の円筒部13bは、インナシャフト13の一方側(図3では左側)に配置され、かつフロントハウジング18の孔部18c内に針状ころ軸受33を介して回転可能に支持されている。最小外径の円筒部13bには、そのフロントハウジング18側の開口部を閉塞する有底円筒状のシャフト蓋36が取り付けられている。
【0096】
シャフト蓋36には、フロントハウジング18(第1のハウジングエレメント20)における孔部18bの内周面であって、第2の空間部181bを形成する部位に対向し、かつ第2の空間部181b及び第3の空間部182bを形成する部位との間にポンプを形成する外周面360aを有する截頭円錐形状のポンプ形成部36aが一体に設けられている。ポンプ形成部36aの外周面360aは、第1のハウジングエレメント20の内周面との間に孔部18b(第1の空間部180b)側から孔部18cに潤滑油を導入して針状ころ軸受33等に供給するための環状空間37が形成されている。環状空間37は、その内外径が油流入(導入)側から油流出(導出)側に向かって漸次大きくなる寸法に設定されている。
【0097】
ポンプ形成部36aは、油導入側端部361aから回転軸線Oまでの寸法Rが油導出側端部362aから回転軸線Oまでの寸法R(R<R)よりも小さい寸法に設定されている。そして、ポンプ形成部36aの外径は、油導入側端部361aから油導出側端部362aに向かって漸次大きくなる寸法に設定されている。このため、インナシャフト13が回転すると、ポンプ形成部36aにおける外周面360aの周速度が油導入側端部361aから油導出側端部362aに向かって漸次高くなるため、環状空間37の圧力が油導入側から油導出側に向かって漸次低くなり、ポンプ形成部36aの外周面360aと第1のハウジングエレメント20の内周面(第2の空間部181b及び第3の空間部182bを形成する部位)との間に矢印Y方向に吸引力をもつポンプ作用が生じる。これにより、フロントハウジング18の孔部18b内(第1の空間部180b)に流入した潤滑油は、第2の空間部181b及び第3の空間部182b(環状空間37)に導入された後、環状空間37を流動して孔部18c内に導出される。
【0098】
中間外径の円筒部13cは、インナシャフト13の他方側(図3では右側)に配置され、装置ケース4(ケース蓋体41)の内周面に玉軸受38を介して回転可能に支持されている。中間外径の円筒部13cの外周面には、玉軸受38と段差面13eとの間に介在する円筒状の受部材39が取り付けられている。中間外径の円筒部13cの先端部には、その外周面とケース蓋体41の内周面との間に介在するシール機構45が配置されている。玉軸受38は、その軸線方向の移動が止め輪46,47によって規制され、かつ中間外径の円筒部13cの外周面とケース蓋体41の内周面との間に介在して配置されている。
【0099】
(電磁クラッチ9の構成)
電磁クラッチ9は、電磁コイル90及びアーマチャ91を有し、メインクラッチ8にハウジング12の回転軸線O上で並列して配置されている。そして、電磁クラッチ9は、ハウジング12の回転時に電磁力Fの発生によるアーマチャ91の電磁コイル90側への移動によって第1のカム機構15を作動させ、メインクラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを互いに摩擦係合させる。
【0100】
電磁コイル90は、車両用のECUに接続され、かつコイルホルダ23内に合成樹脂製のボビン90aを介して保持されている。そして、電磁コイル90は、通電によってコイルホルダ23,フロントハウジング18,パイロットクラッチ10及びアーマチャ91等に跨って磁気回路Mを形成し、アーマチャ91にフロントハウジング18側への移動力を付与するための電磁力Fを発生させる。
【0101】
アーマチャ91は、その外周面にストレートスプライン嵌合部91aを有し、ストレートスプライン嵌合部91aをストレートスプライン嵌合部19bに嵌合させてリヤハウジング19に相対回転不能かつ相対移動可能に連結され、第1のカム機構15(メインカム151)とパイロットクラッチ10との間に介在して配置され、かつハウジング12の収容空間12aに収容され、全体が鉄等の磁性材料からなる環状板によって形成されている。そして、アーマチャ91は、電磁コイル90の電磁力Fを受け、フロントハウジング18側に回転軸線Oに沿って移動する。
【0102】
(パイロットクラッチ10の構成)
パイロットクラッチ10は、電磁クラッチ9への通電によるアーマチャ91の電磁コイル90側への移動によって互いに摩擦係合可能な円環状の摩擦板からなるインナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101を有し、アーマチャ91とフロントハウジング18との間に配置され、かつハウジング12の収容空間12aに収容されている。そして、パイロットクラッチ10は、インナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してリヤハウジング19と第1のカム機構15(パイロットカム150)とを断続可能に連結する。
【0103】
インナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。
【0104】
インナクラッチプレート100は、その内周部にストレートスプライン嵌合部100aを有し、ストレートスプライン嵌合部100aをストレートスプライン嵌合部150aに嵌合させてパイロットカム150に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0105】
アウタクラッチプレート101は、その外周部にストレートスプライン嵌合部101aを有し、ストレートスプライン嵌合部101aをストレートスプライン嵌合部19bに嵌合させてリヤハウジング19に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0106】
(第1のカム機構15の構成)
第1のカム機構15は、ハウジング12(リヤハウジング19)からの回転力を受けて回転する入力用のボールカム部材(パイロットカム)150、このパイロットカム150に回転軸線Oに沿って並列する出力用のボールカム部材(メインカム)151、及びこのメインカム151とパイロットカム150との間に介在する複数(本実施の形態では6個)の球状のカムフォロア152を有し、メインクラッチ8とフロントハウジング18との間に配置され、かつハウジング12の収容空間12aに収容されている。そして、第1のカム機構15は、電磁クラッチ9のクラッチ動作によって受けるハウジング12からの回転力をメインクラッチ8のクラッチ力(摩擦係合力)となる押付力(第1のカム推力)Pに変換する。
【0107】
パイロットカム150は、その外周部にインナクラッチプレート100のストレートスプライン嵌合部100aに嵌合するストレートスプライン嵌合部150aを有し、インナシャフト13(円筒部13a)のフランジ130aに針状ころ軸受153を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。そして、パイロットカム150は、メインカム151との間に第1のカム推力Pを発生させてメインクラッチ8に出力する。
【0108】
パイロットカム150には、円周方向に並列し、かつカムフォロア152側に開口する複数(実施の形態では6個)のカム溝150bが設けられている。複数のカム溝150bは、パイロットカム150の円周方向に等間隔をもって配置されている。そして、複数のカム溝150bは、その中立位置からパイロットカム150の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝によって形成されている。
【0109】
メインカム151は、クラッチプレート押付部151aをメインクラッチ8側に有し、インナシャフト13(最大外径の円筒部13a)に相対移動可能に回転軸線Oに沿って配置され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。そして、メインカム151は、電磁コイル90の通電状態において第1のカム機構15によるカム作用によって、すなわちパイロットカム150の回転によって発生する第1のカム推力Pをカムフォロア152から受けてメインクラッチ8側に移動し、回転軸線Oの一方側(図3の左側)でメインクラッチ8の入力側のインナクラッチプレート80にクラッチプレート押付部151aを押し付ける。
【0110】
メインカム151には、円周方向に等間隔をもって並列し、かつカムフォロア152側に開口する複数(実施の形態では6個)のカム溝151bが設けられている。そして、複数のカム溝151bは、その中立位置からメインカム151の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝によって形成されている。また、メインカム151には、回転軸線Oと平行な方向に開口する複数(実施の形態では6個)の油孔151c、及び複数のカム溝151bの開口方向と反対方向に開口する複数(実施の形態では6個)のピン取付孔151dが設けられている。複数の油孔151c及び複数のピン取付孔151dは、メインカム151の円周方向に等間隔をもって交互に配置されている。
【0111】
ピン取付孔151dには、メインカム151と押付部材162(第2のカム機構16における出力用のカム部材161)との間に介在する復帰用スプリング154を案内するガイドピン155が取り付けられている。これにより、復帰用スプリング154のばね力がメインカム151及び出力用のカム部材161を互いに離間させる方向に作用し、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスが四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態の前進時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士を摩擦係合させない寸法に設定される。
【0112】
カムフォロア152は、パイロットカム150のカム溝150bとメインカム151のカム溝151bとの間に介在して配置され、かつリテーナ(図示せず)によって転動可能に保持されている。
【0113】
(第2のカム機構16の構成)
図2〜図4に示すように、第2のカム機構16は、その作動力となる回転力を駆動源5から受けて回転する入力用のカム部材160、及び入力用のカム部材160に回転軸線O上で並列する出力用のカム部材161を有し、第1のカム機構15にメインクラッチ8を介して回転軸線O上で対向する位置に配置されている。そして、第2のカム機構16は、第1のカム機構15による第1のカム推力Pの変換に先行して作動し、押付部材162をメインクラッチ8に押し付けてインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスCを例えばC=0に短縮するための第2のカム推力Pを第1のカム推力Pの方向と反対方向に沿って入力用のカム部材160と出力用のカム部材161との間で発生させる。
【0114】
入力用のカム部材160は、伝達部材54に歯車伝達機構56を介して連結され、かつ受部材39に針状ころ軸受164を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。入力用のカム部材160には、外周縁に沿って突出する扇形状の凸片167が一体に設けられている。凸片167には、伝達部材54の外歯540aに噛合する外歯167aが設けられている。
【0115】
出力用のカム部材161は、入力用のカム部材160と押付部材162との間に介在して軸線方向に移動可能(円周方向には移動不能)に配置され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。
【0116】
押付部材162は、その内周縁にストレートスプライン嵌合部162aを有するとともに、メインクラッチ8側にクラッチプレート押付部162bを有し、ストレートスプライン嵌合部162aをインナシャフト13(円筒部13a)のストレートスプライン嵌合部132aに嵌合させてインナシャフト13に相対回転不能かつ相対移動可能に連結され、かつ出力用のカム部材161に針状ころ軸受171を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。
【0117】
そして、押付部材162は、第2のカム機構16の作動によって発生する第2のカムPを出力用のカム部材161から受けてメインクラッチ8側に移動し、回転軸線Oの他方側(図3の右側)でメインクラッチ8の入力側のアウタクラッチプレート81にクラッチプレート押付部162bを押し付ける。
【0118】
(駆動力伝達装置1の動作)
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作につき、図1,図3,図4,図6及び図7(a)及び(b)を用いて説明する。
【0119】
図1において、四輪駆動車200のエンジン202を始動すると、エンジン202の回転駆動力がトランスミッション203を介してフロントディファレンシャル206に伝達され、さらにフロントディファレンシャル206から前輪側のアクスルシャフト208L,208Rを介して前輪204L,204Rに伝達され、前輪204L,204Rが回転駆動される。
【0120】
この場合、駆動力断続装置3において、第1のスプライン歯部3aと第2のスプライン歯部3bとの間の動力伝達は不能である。また、四輪駆動車200の停止時や定常走行時には、図3(上半分)に示すように、電磁クラッチ9の電磁コイル90が非通電状態にあるため、電磁コイル90を基点とした磁気回路Mが形成されず、アーマチャ91が電磁コイル90側に移動してハウジング12に連結されることがない。
【0121】
このため、第1のカム機構15においてメインクラッチ8のクラッチ力(摩擦係合力)となる第1のカム推力Pが発生せず、メインクラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とが互いに摩擦係合せず、エンジン202の回転駆動力はハウジング12からインナシャフト13に伝達されない。
【0122】
ここで、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時に伴うポンプ形成部21dによるポンプ作用及び潤滑油による油流Sについて説明する。なお、ポンプ形成部36aによるポンプ作用については省略する。図5(a)に示すように、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時には後輪205Lの回転によってハウジング12が矢印Q方向に回転する。この際、ハウジング12の回転によってポンプ形成部21dの外周面21cとコイルホルダ23の内周面との間に矢印Z方向(図6に示す)に吸引力をもつポンプ作用が生じる。
【0123】
これにより、ハウジング12の収容空間12aにおける潤滑油が油路201a(図6に示す)に流入し、この油路201aを流動して収容空間23c(図6に示す)に流入する。
【0124】
次に、収容空間23cに流入した潤滑油は、環状空間21eに導入された後、環状空間21eを流動して油収容室43に導出される。
【0125】
そして、油収容室43内に導出した潤滑油は、ハウジング12の回転に伴い発生する遠心力を受けるとともに、ケース本体40の内周面40bに沿う油流Sを形成する。このため、潤滑油がケース本体40の内周面40bに沿って流動し、その一部はタンク44における第1のタンク部44a内にその油導入口441aから、また第2のタンク部44b内にその油導入口441b(図4に示す)からそれぞれ流入して第1のタンク部44a及び第2のタンク部44bに貯溜される。
【0126】
この場合、油導出口442bの開口面積が第1のタンク部44aにおける油導入口441aの開口面積よりも小さい面積に設定されているため、油導入口441aからタンク44(第1のタンク部44a)内に流入する潤滑油の油量が油導出口442bからタンク44(第2のタンク部44b)外に流出する潤滑油の油量よりも多くなり、それだけタンク44内(第1のタンク部44a及び第2のタンク部44b内)に貯溜され易い。
【0127】
従って、本実施の形態においては、四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時における走行時に収容空間12a及び油収容室43内の潤滑油が少なくなり、インナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間での引き摺りトルクの発生が抑制される。
【0128】
一方、二輪駆動状態にある四輪駆動車200を四輪駆動状態に切り替えるには、駆動力伝達装置1によってプロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Rとをトルク伝達可能に連結し、引き続き駆動力断続装置3によってフロントデフケース212とプロペラシャフト2とをトルク伝達可能に連結する。
【0129】
ここで、プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213L,213Rの連結時には、先ず駆動源5の駆動力を第2のカム機構16に付与し、第2のカム機構16を作動させる。この場合、第2のカム機構16が作動すると、入力用のカム部材160が回転軸線O回りに回転する。
【0130】
このため、入力用のカム部材160及び出力用のカム部材161が相対回転し、これら両カム部材160,161間にカム作用が発生し、これに伴い第2のカム推力Pが入力用のカム部材160から出力用のカム部材161に作用する。これにより、図3に示すように、出力用のカム部材161が入力用のカム部材160から離間する方向に回転軸線Oに沿って移動する。
【0131】
そして、出力用のカム部材161が入力用のカム部材160から離間する方向への移動によって押付部材162をメインクラッチ8側に復帰用スプリング154に抗して移動させ、押付部材162がクラッチプレート押付部162bでメインクラッチ8を第1のカム機構15側に押し付けて移動させる。これにより、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスCが例えばC=0となる。
【0132】
次に、電磁コイル90が通電されると、電磁コイル90を基点とした磁気回路Mがコイルホルダ23,フロントハウジング18,パイロットクラッチ10及びアーマチャ91等に跨って形成され、アーマチャ91が電磁コイル90への通電に基づいて発生する電磁力F(吸引力)によってフロントハウジング18に接近する方向に移動する。このため、アーマチャ91がフロントハウジング18にパイロットクラッチ10を介して連結され、さらにはパイロットクラッチ10のクラッチ動作によってハウジング12の回転力がパイロットカム150に伝達され、パイロットカム150が回転する。
【0133】
これに伴い、第1のカム機構15が作動し、第1のカム機構15において発生するカム作用によってメインクラッチ8のクラッチ力(摩擦係合力)となる第1のカム推力Pに変換され、この第1のカム推力Pによってメインクラッチ8のクラッチプレート80,81同士を摩擦係合させる方向にメインカム151が復帰用スプリング154のばね力に抗して移動する。
【0134】
そして、メインカム151がクラッチプレート80,81同士を摩擦係合させる方向への移動によってクラッチプレート押付部151aでメインクラッチ8を第2のカム機構16側に押し付ける。
【0135】
これにより、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレートが摩擦係合し、エンジン202の回転駆動力がハウジング12からインナシャフト13に伝達され、さらにインナシャフト13から後輪側のアクスルシャフト213L,213Rを介して後輪205L,205Rに伝達され、後輪205L,205Rが回転駆動される。
【0136】
次に、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に伴うポンプ形成部21dによるポンプ作用及び潤滑油による油流Tについて説明する。なお、ポンプ形成部36aによるポンプ作用については省略する。図7(b)に示すように、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にはエンジン202の駆動によってハウジング12が矢印Q方向(矢印Q方向と反対の方向)に回転する。この際、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時による場合と同様に、ハウジング12の回転によってポンプ形成部21dの外周面21cとコイルホルダ23の内周面との間に矢印Z方向(図4に示す)に吸引力をもつポンプ作用が生じる。
【0137】
これにより、ハウジング12の収容空間12aにおける潤滑油が油路201a(図6に示す)に流入し、この油路201aを流動して収容空間23c(図6に示す)に流入する。
【0138】
次に、収容空間23cに流入した潤滑油は、環状空間21eに導入された後、環状空間21eを流動して油収容室43に導出される。
【0139】
そして、油収容室43内に導出した潤滑油は、ハウジング12の回転に伴い発生する遠心力を受けるとともに、ケース本体40の内周面40bに沿う油流Tを形成する。このため、潤滑油がケース本体40の内周面40bに沿って流動する。
【0140】
この場合、油導出口442bが油流Tの方向と交差する方向に沿って開口されているため、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導出口442bからタンク44内への導入が円滑に行われ難くなり、収容空間12a及び油収容室43に十分な潤滑油が貯溜される。油導出口442bの開口方向である内面443Bと収容部40cの内周面40bの接線dとがなす角度(劣角)θは、油導入口441aの内面442Aと収容部40cの内周面40bの接線bとがなす角度(劣角)θ(本実施の形態では、内面442Aと接線bとが一致し、θ=0°である。θ:図示せず)(θ<θ)よりも大きい角度に設定されているため、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導出口442bからタンク44内への導入が円滑に行われ難くなり、収容空間12a及び油収容室43に十分な潤滑油が貯溜される。
【0141】
[第1の実施の形態の効果]
以上説明した第1の実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0142】
(1)四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時に収容空間12a及び油収容室43内の潤滑油が少なくなり、引き摺りトルクを低減することができるとともに、四輪駆動車200の二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する際にメインクラッチ8におけるクラッチ動作の応答性を高めることができる。
【0143】
(2)四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に油収容室43内に潤滑油を十分に貯溜することができるため、メインクラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との摩擦係合時における各クラッチプレートの発熱による損傷発生を抑制することができる。
【0144】
(3)四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にハウジング12の回転時にポンプ形成部21dのポンプ作用によって収容空間12aの潤滑油を油収容室43に流出させることができる。
【0145】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2実施の形態に係る駆動力伝達装置につき、図8〜図17を用いて説明する。図8〜図17において、図2〜図7と同一又は同等の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0146】
(駆動力伝達装置の全体構成)
図8及び図9は駆動力伝達装置の全体を示す。図10は駆動力伝達装置の要部を示す。図11はタンクを示す。図8〜図11に示すように、駆動力伝達装置1Aは、クラッチとしての多板クラッチ8,第1の回転部材としてのハウジング12,第2の回転部材としてのインナシャフト13及びカム機構16Aを有し、四輪駆動車200(図1に示す)の後輪205R(図1に示す)側に配置され、かつ装置ケース4内に収容されている。
【0147】
そして、駆動力伝達装置1Aは、プロペラシャフト2(図1に示す)と後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)とを断続可能に連結する。すなわち、後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2とは駆動力伝達装置1を介在させて連結されている。後輪側のアクスルシャフト213L(図1に示す)とプロペラシャフト2とは駆動力伝達装置1を介在させることなく連結されている。
【0148】
これにより、駆動力伝達装置1Aによる連結時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが、また他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2とがそれぞれ歯車機構7及びリヤディファレンシャル207(共に図1に示す)を介してそれぞれトルク伝達可能に連結される。一方、駆動力伝達装置1による連結の解除時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207を介して連結されたままであるが、他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2との連結が遮断される。
【0149】
装置ケース4は、回転軸線O片側(図9の右側)に開口するケース本体40、及びケース本体40の開口部を閉塞するケース蓋体41を有し、四輪駆動車200の車体に取り付けられている。装置ケース4内には、油収容室43を含み、かつカム機構16A及び多板クラッチ8等を収容する主収容空間42Aが形成されている。
【0150】
ケース本体40は、収容部40cと、取付部40Cと、タンク部としてのタンク44とを有する。
【0151】
収容部40cは、第2のハウジングエレメント121の外周面121bに対向する内周面40bを有する略円筒状の部材によって形成されている。収容部40cには、ハウジング12における第1のハウジングエレメント120を挿通させるエレメント挿通孔40A、及びエレメント挿通孔40Aの外側開口周縁からその軸線方向に突出する円筒部40Bが設けられている。ケース本体40とケース蓋体41とには回転軸90A(回転軸線O)と平行な軸線をもつ丸ピンからなる複数(本実施の形態では3個)のガイド(固定ガイド)43Aが取り付けられている。複数のガイド43Aは、回転軸線O回りに等間隔をもって配置されている。ケース本体40内には、収容部40cの内周面40bと第2のハウジングエレメント121の外周面121bとの間に介在する環状空間43aが設けられている。ケース本体40内には、ハウジング12の収容空間121aに連通する油収容室43が設けられている。
【0152】
取付部40Cは、収容部40cの径方向の外側に突出して収容部40cに一体に設けられている。取付部40Cには、エンジン202(図1に示す)と異なるカム作動用の駆動源5(図8に示す)が取り付けられている。取付部40Cには、回転軸線Oと平行な軸線方向に開口する貫通孔400Cが設けられている。
【0153】
図8、図9、図11を参照して、タンク44は、収容部40cの径方向の外側であって、油収容室43の外部に配置されている。タンク44は、収容部40cに一体に設けられている。タンク44は、第1のタンク部44a及び第2のタンク部44bを有する。タンク44は、油収容室43及び収容空間121aの潤滑油を貯溜可能である。
【0154】
第1のタンク部44aは、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態の前進時にハウジング12の矢印Q方向への回転に伴い形成される潤滑油の油流Sにおいて第2のタンク部44bの上流側(図11ではタンク44の左側)に配置され、かつ収容部40cの内周面40bの一部を構成する隔壁440a及び装置ケース4の外壁によって形成されている。
【0155】
第1のタンク部44aには、その上流側の流通口として機能し、かつ四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時において油収容室43の潤滑油を導入する油導入口441aが設けられている。
【0156】
油導入口441aは収容部40cの内周面40bに開口している。油導入口441aは、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にハウジング12の回転に伴い形成される潤滑油による流れを油流Sとするとともに、開口面(仮想周面)441Aと内周面40bとが交差する部位のうち油流Sの上流側の部位を交点aとすると、交点aを通る内周面40b上の接線bを含む内面442Aを有する。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にハウジング12が回転する方向とは反対側の方向に開口している。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にインナシャフト13が回転する方向に開口している。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの内部から見て、潤滑油の油流Sの上流側に開口している。油導入口441aは、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にハウジング12の回転に伴い形成される潤滑油による油流Sの方向(ケース本体40の内周面40b)に沿って開口されている。これにより、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導入口441aから第1のタンク部44aへの導入が円滑に行われる。
【0157】
油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にハウジング12が回転する方向に開口している。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にインナシャフト13が回転する方向に開口している。油導入口441aは、ハウジング12の周方向において、第1のタンク部44aの内部から見て、潤滑油の油流Tの下流側に開口している。油導入口441aは、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にハウジング12の回転に伴い形成される潤滑油による油流Tの方向と交差する方向に開口している。これにより、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導入口441aから第1のタンク部44a内への導入が円滑に行われ難くなる。
【0158】
第2のタンク部44bは、油流Sにおいて第1のタンク部44aの下流側(図11ではタンク44の右側)に配置され、かつ第1のタンク部44aと同様に収容部40cの内周面40bの一部を構成する隔壁440b及び装置ケース4の外壁によって形成されている。第2のタンク部44bの内容積は、第1のタンク部44aの内容積よりも大きい容積に設定されている。
【0159】
また、第2のタンク部44bには、その下流側の流通口として機能し、かつ油流Sの方向と交差する方向に沿って開口する油導出口442bが設けられている。
【0160】
油導出口442bは収容部40cの内周面40bに開口している。油導出口442bは、開口面(仮想周面)442Bと内周面40bとが交差する部位のうち油流Tの上流側の部位を交点cとすると、交点cを通る内周面40b上の接線dと交差する内面443Bを有する。油導出口442bは、第2のタンク部44bから見て、第1のタンク部44aとは反対側にある。油導出口442bは、ハウジング12の周方向において、第2のタンク部44bの四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時にハウジング12が回転する方向に開口している。油導出口442bは、ハウジング12の周方向において、第2のタンク部44bの四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にハウジング12が回転する方向とは反対側の方向に開口している。これにより、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導出口442bから第2のタンク部44b内への導入が円滑に行われ難くなる。
【0161】
油導出口442bは、油流Tの方向と交差する方向にも開口されているため、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導出口442bからタンク44内への導入が円滑に行われ難くなり、収容空間12a及び油収容室43に十分な潤滑油が貯溜される。言い換えると、油導出口442bの開口方向である内面443Bと収容部40cの内周面40bの接線dとがなす角度(劣角)θは、油導入口441aの内面442Aと収容部40cの内周面40bの接線bとがなす角度(劣角)θ(本実施の形態では、内面442Aと接線bとが一致し、θ=0°である。θ:図示せず)(θ<θ)よりも大きい角度に設定されているため、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導出口442bからタンク44内への導入が円滑に行われ難くなり、収容空間12a及び油収容室43に十分な潤滑油が貯溜される。
【0162】
ケース蓋体41は、ケース本体40にボルト42によって取り付けられ、全体がインナシャフト13(後述)を挿通させるキャップ部材によって形成されている。ケース蓋体41のケース本体40への取り付けは、位置決めピン411を用いて行われる。
【0163】
ケース蓋体41には、ケース本体40の取付部40Cに減速機構9A等を介して対向する蓋部41a、及び蓋部41aの外端面に突出する外側円筒部41bが設けられている。蓋部41aと取付部40Cとの間には、主収容空間42Aに連通する副収容空間44Aが設けられている。蓋部41aと取付部40Cとにはガイド43Aと平行な支持軸45Aが取り付けられている。また、ケース蓋体41には、インナシャフト13を挿通させるシャフト挿通孔41cが設けられている。
【0164】
駆動源5は、電動モータ50を有し、駆動源用ハウジング52A内に収容され、かつ減速機構用ハウジング94にボルト53Aによって取り付けられている。また、駆動源5は、電動モータ50のモータ軸(入力軸としての駆動軸)50aに減速機構9A及び歯車伝達機構10Aを介してカム機構16A(後述するカム部材17A)に連結されている。これにより、電動モータ50のモータ回転力(駆動力)が減速機構9Aで減速されて歯車伝達機構10Aからギヤ部170aを介してカム部材17Aに確実に伝達される。
【0165】
モータハウジング51Aは駆動源用ハウジング52に固定されている。電動モータ50の回転部分は、モータハウジング51Aに対して回転可能に配置され、かつモータ軸50aに接続されている。電動モータ50は、モータハウジング51Aに対してモータ軸50aが回転する。
【0166】
図12は減速機構を示す。本実施の形態において、減速機構は、偏心揺動減速機構であり、偏心揺動減速機構のうちでも少歯数差インボリュート減速機構である。偏心揺動減速機構を用いることにより大きな減速比を得ることができる。図10及び図12に示すように、減速機構9Aは、回転軸90A,入力部材91A,自転力付与部材92A及び複数(本実施の形態では6個)の出力部材93Aを有し、駆動源用ハウジング52Aとケース本体40の取付部40Cとの間に介在して配置され、かつ減速機構用ハウジング94内に収容されている。そして、減速機構9Aは、電動モータ50のモータ回転力を減速して駆動力を歯車伝達機構10Aに伝達する。
【0167】
回転軸90Aは、電動モータ50のモータ軸50aの軸線O(回転軸90Aの回転中心の軸線Oと等しい)から偏心量δをもって平行に偏心する軸線Oを中心軸線とする偏心部900Aを有し、モータ軸50aに連結され、かつ減速機構用ハウジング94のハウジングエレメント940及び歯車伝達機構10Aの第1の歯車(出力軸としての従動軸)100Aにそれぞれ玉軸受95,96を介して回転可能に支持されている。
【0168】
入力部材91Aは、軸線O(本実施の形態では軸線Oとする)を中心軸線とする中心孔910Aを有する外歯歯車からなり、減速機構用ハウジング94内に収容され、かつ中心孔910Aの内周面と偏心部900Aの外周面との間に針状ころ軸受97を介在させて回転軸90Aに回転可能に支持されている。針状ころ軸受97に代えて、ラジアル荷重が受けられる他の種類の転がり軸受であってもよい。そして、入力部材91Aは、電動モータ50からモータ回転力を受けて偏心量δをもつ矢印m,m方向の円運動(軸線Oが軸線O回りの公転運動)を行う。
【0169】
入力部材91Aには、軸線O回りに等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では6個)の貫通孔としてのピン挿通孔911Aが設けられている。ピン挿通孔911Aの孔径は、偏心量δに針状ころ軸受98の外径を加えた寸法よりも大きい寸法に設定されている。入力部材91Aの外周面には、軸線Oを中心軸線とするピッチ円のインボリュート歯形をもつ外歯912Aが設けられている。入力部材91Aの電動モータ50側には、そのモータ側端面と減速機構用ハウジング94との間に介在する孔付きスペーサ913Aが配置されている。
【0170】
自転力付与部材92Aは、軸線O(本実施の形態では軸線Oとする)を中心軸線とする内歯歯車からなり、減速機構用ハウジング94のハウジングエレメント940と装置ケース4の取付部40Cとの間に介在して配置され、全体が軸線Oの両方向に開口して減速機構用ハウジング94の一部を構成する円環部材によって形成されている。そして、自転力付与部材92Aは、入力部材91Aに噛合し、電動モータ50のモータ回転力を受けて公転する入力部材91Aに矢印n,n方向(軸線O回り)に自転力を付与する。自転力付与部材92Aの内周面には、入力部材91Aの外歯912Aに噛合するインボリュート歯形の内歯920Aが設けられている。内歯920Aの歯数をZとするとともに、入力部材91Aの外歯912Aの歯数をZとすると、減速機構9Aの減速比αがα=Z/(Z−Z)から算出される。
【0171】
複数の出力部材93Aは、略均一な外径をもつピンからなり、入力部材91Aのピン挿通孔911Aを挿通して歯車伝達機構10Aにおける第1の歯車100Aのピン取付孔1000Aに取り付けられている。そして、複数の出力部材93Aは、自転力付与部材92Aによって付与された自転力を入力部材91Aから受けて第1の歯車100Aに出力する。
【0172】
複数の出力部材93Aの外周面には、入力部材91Aにおけるピン挿通孔911Aの内周面との間の接触抵抗を低減するための針状ころ軸受98が取り付けられている。
【0173】
歯車伝達機構10Aは、第1の歯車100A及び第2の歯車101Aを有し、減速機構9Aとカム機構16Aとの間に介在して配置され、かつ装置ケース4内に収容されている。歯車伝達機構10Aでは、減速機構9Aで減速された駆動源5からの駆動力を受けてカム機構16Aに伝達する。
【0174】
第1の歯車100Aは、回転軸90Aの軸線O上に配置され、かつ装置ケース4内に玉軸受102,103を介して回転可能に支持されている。第1の歯車100Aは、各外径を互いに異にする円筒部1001A〜1004Aを有し、軸線両方向に開口する段状の円筒部材によって形成されている。
【0175】
円筒部1001Aは、円筒部1002A〜1004Aの各外径よりも大きい外径をもって減速機構9Aの近傍に配置されている。円筒部1001Aの外周面とケース本体40(取付部40C)の貫通孔400Cの内周面との間には玉軸受102が介在して配置されている。
【0176】
円筒部1002Aは、円筒部1001Aと円筒部1003Aとの間に介在して配置されている。円筒部1002Aの外周面とケース本体40(取付部40C)の貫通孔400Cの内周面との間にはシール機構104が介在して配置されている。
【0177】
円筒部1003Aは、円筒部1002Aの外径よりも小さい外径をもって円筒部1002Aと円筒部1004Aとの間に介在して配置されている。円筒部1003Aの外周面には、第2の歯車101Aのギヤ部1010Aに噛合するギヤ部1005Aが設けられている。
【0178】
円筒部1004Aは、円筒部1001A〜1003Aの各外径よりも小さい外径をもってケース蓋体41(蓋部41a)の近傍に配置されている。円筒部1004Aの外周面とケース蓋体41(蓋部41a)における凹孔410aの内周面との間には玉軸受103が介在して配置されている。
【0179】
第2の歯車101Aは、ギヤ部1010Aが第1の歯車100Aのギヤ部1005Aに噛合する位置に配置され、かつ支持軸45Aに玉軸受105を介して回転可能に支持されている。支持軸45Aの外周囲には、玉軸受105とケース本体40との間に介在するスペーサ106が配置されている。
【0180】
(多板クラッチ8の構成)
多板クラッチ8は、図9に示すように、回転軸線O方向に並列する複数のインナクラッチプレート80(第1のクラッチプレート)及び複数のアウタクラッチプレート81(第2のクラッチプレート)を有する摩擦式のクラッチからなり、ハウジング12とインナシャフト13との間に配置されている。
【0181】
そして、多板クラッチ8は、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う内外のクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング12とインナシャフト13とを断続可能に連結する。
【0182】
インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が円環状の摩擦板によって形成されている。インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間の初期状態におけるクリアランスCは、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態の前進時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士が摩擦係合しない寸法に設定されている。
【0183】
複数のインナクラッチプレート80は、その内周部にストレートスプライン嵌合部80aを有し、ストレートスプライン嵌合部80aを円筒部13a(インナシャフト13)のストレートスプライン嵌合部132aに嵌合させてインナシャフト13に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0184】
複数のインナクラッチプレート80には、その円周方向に沿って並列し、かつ回転軸線O方向に開口する複数の油孔80bが設けられている。
【0185】
複数のアウタクラッチプレート81は、その外周部にストレートスプライン嵌合部81aを有し、ストレートスプライン嵌合部81aを第2のハウジングエレメント121のストレートスプライン嵌合部121c(後述)に嵌合させてハウジング12に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0186】
(ハウジング12の構成)
ハウジング12は、図9に示すように、第1のハウジングエレメント120及び第2のハウジングエレメント121からなり、後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)の軸線(回転軸線O)上に配置され、かつ装置ケース4内に針状ころ軸受122,123を介して回転可能に支持されている。
【0187】
第1のハウジングエレメント120は、回転軸線Oを軸線とする軸状部材からなり、ハウジング12の一方側(図9では左側)端部に配置され、かつサイドギヤ214R(図1に示す)にスプライン嵌合によって連結されている。第1のハウジングエレメント120の外周面とエレメント挿通孔40A及び円筒部40Bの両内周面との間に針状ころ軸受122が介在して配置されている。第1のハウジングエレメント120の外周面と円筒部40Bの内周面との間には、エレメント挿通孔40Aの軸線上でシール機構124が介在して配置されている。第1のハウジングエレメント120には、カム機構16A側に開口する丸孔からなる凹部120aが設けられている。
【0188】
第2のハウジングエレメント121は、ハウジング12の他方側(図9では右側)端部に配置され、かつカム機構16A側に開口する有底円筒部材によって形成されている。第2のハウジングエレメント121には、インナシャフト13との間で多板クラッチ8を収容する収容空間121aが形成されている。また、第2のハウジングエレメント121には、その内周面(収容空間121a)に露出し、かつ円周方向に沿って並列する複数のスプライン歯121cからなるストレートスプライン嵌合部121cが設けられている。ストレートスプライン嵌合部121cは、複数のスプライン歯121cの一部(例えば3個のスプライン歯)を取り除くことにより、カム機構16A及び収容空間121a側に開口して油収容室43(環状空間43a)に連通する開口部1210cを有する油導出路121cが設けられている。これにより、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態の前進時において、ハウジング12の回転に伴い生じる遠心力に基づいて収容空間121aの潤滑油が油導出路121cを流動して開口部1210cから油収容室43(環状空間43a)に導出される。第2のハウジングエレメント121の底部とケース本体40のエレメント挿通孔40Aの内側開口周縁との間には針状ころ軸受123が介在して配置されている。
【0189】
(インナシャフト13の構成)
インナシャフト13は、図9に示すように、ハウジング12の回転軸線O上に配置され、かつハウジング12に針状ころ軸受130,131を介して、またケース蓋体41に玉軸受132を介して回転可能に支持されている。インナシャフト13は、各外径が互いに異なる円筒部13a〜13c,軸部13Dを有し、軸線方向片側(図1に示す後輪205R側)に開口する有底円筒部材によって形成されている。インナシャフト13は、その開口部内に後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)の先端部を挿入させて収容する。後輪側のアクスルシャフト213Rは、インナシャフト13にスプライン嵌合によって相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0190】
円筒部13aは、円筒部13cと軸部13Dとの間に介在して配置されている。円筒部13aの外径は、円筒部13b,13c及び軸部13Dの各外径よりも大きい寸法に設定されている。円筒部13aの外周面には、第2のハウジングエレメント121の収容空間121aに露出し、かつ多板クラッチ8におけるインナクラッチプレート80のストレートスプライン嵌合部80aに嵌合するストレートスプライン嵌合部132aが設けられている。円筒部13aの底部と第2のハウジングエレメント121の底部との間には針状ころ軸受131が介在して配置されている。
【0191】
円筒部13bは、インナシャフト13の一方側(図9では右側)端部に配置されている。円筒部13bの外径は、円筒部13cの外径よりも小さい寸法に設定されている。円筒部13bの外周面とケース蓋体41におけるシャフト挿通孔41cの内周面との間にはシール機構133が介在して配置されている。
【0192】
円筒部13cは、円筒部13aと円筒部13bとの間に介在して配置されている。円筒部13cの外径は、円筒部13aの外径と円筒部13bの外径との間の寸法に設定されている。
【0193】
軸部13Dは、インナシャフト13の他方側(図9では左側)端部に配置され、かつ第1のハウジングエレメント120の凹部120a内に収容されている。軸部13Dの外径は、円筒部13a〜13cの各外径よりも小さい寸法に設定されている。軸部13Dの外周面と第1のハウジングエレメント120における凹部120aの内周面との間に針状ころ軸受130が介在して配置されている。
【0194】
(カム機構16Aの構成)
図13はカム機構を示す。図9及び図13に示すように、カム機構16Aは、カム部材(入力部材)17A,リテーナ(出力部材)18A及び転動部材19Aを有し、インナシャフト13における円筒部13cの外周囲に配置され、かつ装置ケース4の主収容空間42Aに収容されている。そして、カム機構16Aは、多板クラッチ8にクラッチ動作力となる押付力を付与するためのカム推力に駆動源5(電動モータ50)からのモータ回転力(減速機構9Aからの駆動力)を変換する。カム推力には、多板クラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間にクリアランスCを例えばC=0とするための第2のカム推力P、及び多板クラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを互いに摩擦係合させるための第1のカム推力Pが含まれる。
【0195】
図14はカム部材を示す。図9及び図14に示すように、カム部材17Aは、インナシャフト13を挿通させるシャフト挿通孔170Aを有し、カム機構16Aの一方側(図9では右側)端部に配置され、回転軸線O回りに回転する円環部材によって形成されている。
【0196】
カム部材17Aの外周縁には、その放射方向に突出する凸片170が設けられている。凸片170には、歯車伝達機構10Aにおける第2の歯車101A(ギヤ部1010A)に噛合するギヤ部170aが設けられている。
【0197】
カム部材17Aの軸線方向一方側端面には、シャフト挿通孔170Aの開口周縁から後輪205R(図1に示す)側に向かって突出する円筒部171Aが設けられている。円筒部171Aの内周面とインナシャフト13における円筒部13cの外周面との間には針状ころ軸受171が介在して配置されている。カム部材17Aの軸線方向一方側(図9では右側)端面とケース蓋体41のクラッチ側端面との間には針状ころ軸受172が介在して配置されている。カム部材17Aの軸線方向他方側(図9では左側)端面は、多板クラッチ8に対向するカム面としての凹凸面173で形成されている。
【0198】
凹凸面173は、カム部材17Aの軸線回りに交互に並列する凹部174及び凸部175を有し、転動部材19Aを転動させて回転軸線Oに沿う方向の第1のカム推力P及び第2のカム推力Pを転動部材19Aに付与する。本実施の形態では、カム部材17Aの円周方向に互いに隣接する凹部174及び凸部175を一組の凹凸部とすると、三組の凹凸部から凹凸面173が構成される。
【0199】
凹部174は、切り欠き幅が略均一な一対の切り欠き側面174a,174b、及び一対の切り欠き側面174a,174b間に介在する切り欠き底面174cを有する断面略矩形状の切り欠きによって形成されている。
【0200】
一方の切り欠き側面174aは、回転軸線O回りの一方側で凹部174から凸部175へ転動部材19Aを誘導するための曲面をもつ誘導面として機能する。他方の切り欠き側面174bは、回転軸線O回りの他方側で切り欠き底面174cに略直交するストッパ面として機能する。
【0201】
凸部175は、3つ凹部174のうち互いに隣り合う2つの凹部間に介在して配置されている。凸部175において、転動部材19A側の端面は、カム部材17Aの円周方向に互いに隣接する面175a,175bから構成されている。
【0202】
一方の面175aは、凹部174側から他方の面175bに向かって(カム部材17Aの円周方向に沿って)カム部材17Aの軸線方向厚さ(凸部175の突出高さ)を漸次大きくする傾斜面からなる軌道面で形成されている。これにより、一方の面175aの円周方向両端部のうち凹部174側の端部を始端部175a(図17に示す)とすると、カム機構16Aは転動部材19Aが始端部175aに配置された状態においてリテーナ18Aから第2のカム推力Pを出力する。また、一方の面175aの円周方向両端部のうち始端部175aと反対側(他方の面175b側)の端部を終端部175a(図17に示す)とすると、カム機構16Aは転動部材19Aが始端部175aと終端部175aとの間に配置された状態においてリテーナ18Aから第1のカム推力Pを出力する。
【0203】
他方の面175bは、カム部材17Aの軸線方向厚さを略均一な寸法とする平面で形成されている。
【0204】
図15は出力部材(リテーナ)を示す。図9及び図15に示すように、リテーナ18Aは、インナシャフト13を挿通させるシャフト挿通孔180Aを有し、カム機構16Aの他方側(図9では左側)端部に配置され、回転軸線Oの方向に移動可能な円環部材によって形成されている。そして、リテーナ18Aは、その回転の規制を複数のガイド(固定ガイド)43Aで受けて第1のカム推力P及び第2のカム推力Pを多板クラッチ8側に出力し、かつ転動部材19Aを転動可能に保持するリテーナによって構成されている。シャフト挿通孔180Aは、転動部材19Aを収容する収容空間として機能する。
【0205】
リテーナ18Aのクラッチ側端面には、シャフト挿通孔180Aの開口周縁から多板クラッチ8側に向かって突出する円筒部18bが設けられている。円筒部18bの外周囲には、リテーナ18Aから第1のカム推力P及び第2のカム推力Pを受けて多板クラッチ8(アウタクラッチプレート81)を押し付ける円環状の押付部材20Aが配置されている。押付部材20Aの片側(多板クラッチ側端面と反対側)端面とリテーナ18Aのクラッチ側端面との間には針状ころ軸受21Aが介在して配置されている。針状ころ軸受21Aとリテーナ18Aとの間には、多板クラッチ8のクラッチプレート間隔を調整するためのシム26Bが介在して配置されている。
【0206】
リテーナ18Aの外周縁には、その放射方向に突出する複数(本実施の形態では3個)の凸片22Aが設けられている。複数の凸片22Aは、リテーナ18Aの円周方向に等間隔をもって配置されている。複数の凸片22Aには、ガイド43Aを挿通させるガイド挿通孔220Aが設けられている。ガイド挿通孔220Aの内周面とガイド43Aの外周面との間には軸受ブッシュ23Aが介在して配置されている。これにより、リテーナ18Aがガイド43Aに沿って移動する際の抵抗が低減される。ガイド挿通孔220Aの開口周縁とケース本体40のスプリング受面40dとの間に復帰用スプリング24Aが介在して配置されている。
【0207】
リテーナ18Aには、その内外周面に開口し、かつ支持ピン25Aを挿通させる複数(本実施の形態では3個)のピン挿通孔18cが設けられている。複数のピン挿通孔18cは、カム部材17A及びリテーナ18Aの軸線(回転軸線O)と直交する方向の軸線Vをもち、それぞれが対応する凸片22Aの近傍に配置されている。複数のピン挿通孔18cの内側開口周縁には円環状のころ受部材26Aを着座させる座面180cが、また外側開口周縁にはナット27Aを着座させる座面181cがそれぞれ設けられている。
【0208】
支持ピン25Aは、外径を互いに異にする大小2つの胴部25a,25b(大径の胴部25a,小径の胴部25b)を有し、胴部25a及びナット27Aによって軸線方向への移動の規制を受けた状態でリテーナ18Aに取り付けられている。支持ピン25A内には、その軸線に軸線を一致させて芯材28Aが埋め込まれている。
【0209】
大径の胴部25aは、シャフト挿通孔180A内に露出した状態で支持ピン25Aの軸線方向一方側(回転軸線O側)端部に配置されている。大径の胴部25aの外周面は針状ころ29Aの内側軌道面として機能する。大径の胴部25aには、回転軸線O側の端部で外周面に突出し、かつ複数の針状ころ29Aを介してころ受部材26Aに対向する鍔部250aが設けられている。
【0210】
小径の胴部25bは、ピン挿通孔18cを挿通した状態で支持ピン25Aの軸線方向他方側(ガイド43A側)端部に配置されている。小径の胴部25bには、ナット27Aを螺合(結合)するねじ部250bが設けられている。
【0211】
図16に転動部材及び支持ピンを示す。図9及び図16に示すように、転動部材19Aはリテーナ18Aのシャフト挿通孔180A内に配置されている。転動部材19Aは円筒部材によって形成されている。転動部材19Aの外周面は凹凸面173(図14に示す)を転動する。そして、転動部材19Aは、ピン挿通孔18cの軸線V(図15に示す)上に配置され、かつ大径の胴部25aの外周面に針状ころ29Aを介して回転可能に支持されている。
【0212】
転動部材19Aには、軸線方向中央部で針状ころ29A側に突出する円筒状の凸部190Aが設けられている。凸部190Aの軸線方向一方側端面は鍔部250aの端面に、また軸線方向他方側端面はころ受部材26Aの端面にそれぞれ対向する。凸部190Aの内周面は針状ころ29Aの外側軌道面として機能する。支持ピン25Aと複数の針状ころ29Aと転動部材19Aとは、それぞれ軸受の内輪(又は内軸)と転動体と外輪とに相当し、このうち外輪の外周面が凹凸面173を転動する一種のローラである。
【0213】
(駆動力伝達装置1Aの動作)
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作につき、図1,図9,図11及び図17を用いて説明する。図17はカム機構における転動部材の動作状態を示す。
【0214】
図1において、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時には、エンジン202の回転駆動力がトランスミッション203を介してフロントディファレンシャル206に伝達される。そして、フロントディファレンシャル206から前輪側のアクスルシャフト208L,208Rを介して前輪204L,204Rにエンジン202の回転駆動力が伝達され、前輪204L,204Rが回転駆動される。
【0215】
この場合、駆動力断続装置3では、第1のスプライン歯部3aと第2のスプライン歯部3bとの間でトルク伝達が不能となっている。また、図9(上半分)において、駆動源5の電動モータ50が非通電状態であるため、電動モータ50のモータ回転力が減速機構9A及び歯車伝達機構10Aを介してカム機構16Aに伝達されず、カム機構16Aが作動することがない。そして、転動部材19Aは凹部174の切り欠き底面174cに当接し、インナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とは摩擦係合していない。
【0216】
ここで、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時に伴う潤滑油による油流Sについて説明する。図11に示すように、四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時には後輪205Lの回転によってハウジング12が矢印Q方向に回転する。
【0217】
これに伴い、第2のハウジングエレメント121における収容空間121aの潤滑油は、ハウジング12の回転によって発生する遠心力を受けて油導出路121cの開口部1210cから油収容室43(環状空間43a)に導出されるとともに、ケース本体40の内周面40bに沿う油流Sを形成する。
【0218】
このため、潤滑油がケース本体40の内周面40bに沿って流動し、その一部はタンク44における第1のタンク部44a内にその油導入口441aから流入して第1のタンク部44aに貯溜される。第1のタンク部44a内の潤滑油は、第1のタンク部44aと第2のタンク部44bとの間に介在する連通路44cを経て第2のタンク部44bに流入し、第2のタンク部44bにも貯溜される。
【0219】
この場合、油導出口442bの開口面積が油導入口441aの開口面積よりも小さい面積に設定されているため、油導出口442bからタンク44外に流出する油量は油導入口441aからタンク44内に流入する潤滑油よりも少なくなり、それだけタンク44内に潤滑油が貯溜され易い。
【0220】
従って、本実施の形態においては、四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時による走行時に油収容室43内の潤滑油が少なくなり、インナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間での引き摺りトルクの発生が抑制される。
【0221】
一方、二輪駆動状態にある四輪駆動車200を四輪駆動状態に切り替えるには、駆動力伝達装置1によってプロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Rとをトルク伝達可能に連結する。引き続き、駆動力断続装置3によってフロントデフケース212とプロペラシャフト2とをトルク伝達可能に連結する。プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Lとは、リヤディファレンシャル207等を介してトルク伝達可能に常時連結されている。
【0222】
このため、エンジン202の回転駆動力がプロペラシャフト2からリヤディファレンシャル207及び後輪側のアクスルシャフト213L等を介して後輪205Lに伝達され、後輪205Lが回転駆動される。
【0223】
ここで、駆動力伝達装置1によってプロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Rとを連結するには、図9(下半分)に示すように、電動モータ50のモータ回転力をカム機構16Aに付与し、カム機構16Aを作動させる。この場合、カム機構16Aが作動すると、カム部材17Aが回転軸線O回り一方向(リテーナ18Aを矢印X方向に移動させる方向)に回転する。
【0224】
これに伴い、転動部材19Aは、図17に実線で示すようにカム部材17Aにおける凹凸面173の凹部174に配置された状態(初期状態)から転動し、図17に一点鎖線で示すようにカム部材17Aの凸部175の一方の面175aに乗り上げて始端部175aに配置される。この際、カム機構16Aにおいて、多板クラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスC(図9に示す)をC=0とするための第2のカム推力Pに電動モータ50のモータ回転力が変換される。
【0225】
このため、転動部材19Aは、回転軸線Oに沿って多板クラッチ8側(矢印X方向)に移動し、この移動方向に針状ころ29A及び支持ピン25Aを介してリテーナ18Aを押し付ける。
【0226】
これに伴い、リテーナ18Aは、復帰用スプリング24Aのばね力に抗して矢印X方向に移動し、インナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを互いに接近させる方向に押付部材20Aを押し付ける。
【0227】
これにより、押付部材20Aがインナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81を矢印X方向に押し付け、互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスC(図示せず)が例えばC=0となる。
【0228】
次に、カム部材17Aが電動モータ50のモータ回転力を受けて回転軸線O回り一方向にさらに回転すると、転動部材19Aが図17に一点鎖線で示す位置から凸部175の一方の面175aを他方の面175bに向かって転動する。この後、転動部材19Aが一方の面175aの終端部175aに到達して凸部175の他方の面175bに乗り上げる。この際、例えば始端部175aと終端部175aとの間で転動部材19Aが一方の面175aを転動する範囲であって、終端部175aに近い側に到達したとき、カム機構16Aではインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを摩擦係合させるための第1のカム推力Pに電動モータ50のモータ回転力が変換される。
【0229】
このため、転動部材19Aは、図17に二点鎖線で示すように回転軸線Oに沿って多板クラッチ8側(矢印X方向)に移動し、この移動方向に針状ころ29A及び支持ピン25Aを介してリテーナ18Aを押し付ける。
【0230】
これに伴い、リテーナ18Aは、復帰用スプリング24Aのばね力に抗して矢印X方向に移動し、インナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを互いに摩擦係合させる方向に押付部材20Aを押し付ける。
【0231】
このため、押付部材20Aがインナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81を矢印X方向に押し付け、互いに隣り合う2つのクラッチプレート同士が摩擦係合する。
【0232】
これにより、エンジン202の回転駆動力は、ハウジング12からインナシャフト13に、さらにインナシャフト13から後輪側のアクスルシャフト213Rを介して後輪205Rに伝達され、後輪205Rが回転駆動される。
【0233】
ここで、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に伴う潤滑油による油流Tについて説明する。図11に示すように、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時にはエンジン202の駆動によってハウジング12が矢印Q方向に回転する。
【0234】
これに伴い、第2のハウジングエレメント121における収容空間121aの潤滑油は、ハウジング12の回転に伴い発生する遠心力を受けて油導出路121cの開口部1210cから油収容室43(環状空間43a)に導出されるとともに、ケース本体40の内周面40bに沿う油流Tを形成する。このため、油収容室43内の潤滑油がケース本体40の内周面40bに沿って流動する。
【0235】
この場合、油導出口442bの開口方向である内面443Bと収容部40cの内周面40bの接線dとがなす角度(劣角)θは、油導入口441aの内面442Aと収容部40cの内周面40bの接線bとがなす角度(劣角)θ(本実施の形態では、内面442Aと接線bとが一致し、θ=0°である。θ:図示せず)(θ<θ)よりも大きい角度に設定されているため、四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に潤滑油の油導出口442bからタンク44内への導入が円滑に行われ難くなり、油収容室43に十分な潤滑油が貯溜される。
【0236】
[第2の実施の形態の効果]
以上説明した第2の実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0237】
(1)四輪駆動車200の二輪駆動状態の前進時に油収容室43内の潤滑油が少なくなり、引き摺りトルクを低減することができるとともに、四輪駆動車200の二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する際に多板クラッチ8におけるクラッチ動作の応答性を高めることができる。
【0238】
(2)四輪駆動車200の四輪駆動状態の前進時に油収容室43内に潤滑油を十分に貯溜することができるため、メインクラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との摩擦係合時における各クラッチプレートの発熱による損傷発生を抑制することができる。
【0239】
(3)リテーナ18Aの回転を規制してカム部材17Aのみを回転させて第1のカム推力P及び第2のカム推力Pを得るため、カム機構16Aの搭載スペースとしては従来のようには広くならない。また、リテーナ18Aの回転が規制されることは、カム機構16Aの作動時に転動部材19Aがカム部材17Aの回転に追従して転動し、所望のカム動作を確保することができる。
【0240】
(4)リテーナ18Aのシャフト挿通孔18a内に転動部材19Aを収容するため、カム機構16Aの軸線方向寸法を短縮して装置全体の小型化に貢献することができる。
【0241】
(5)リテーナ18Aは、その円周方向に並列する複数のガイド43Aに沿って移動するため、複数のガイド43Aによって回転が規制される。
【0242】
(6)転動部材19Aは、円筒ころであるため、カム部材17Aに線接触して転動する。これにより、転動部材が玉(ボール)である場合に比べてラジアル荷重の負荷能力が高められる。
【0243】
(7)カム部材17Aにおいて、リテーナ18Aを多板クラッチ8側に移動させる(第1のカム推力P及び第2のカム推力Pを得る)ための2段カムを凹凸面173によって得ることができる。この場合、凹凸面173における凸部175の一方の面175aがカム部材17Aの円周方向に沿ってその軸線方向厚さを漸次大きくする軌道面で形成されているため、転動部材19Aが一方の面175aを上る方向(始端部175a側から終端部175a側)に転動すると、リテーナ18Aの多板クラッチ8側への移動量が増加する。
【0244】
(8)カム部材17Aが減速機構9A及び歯車伝達機構10Aを介して噛合するギヤ部170aを有する。このため、電動モータ50のモータ回転力は、減速機構9Aで減速された後、歯車伝達機構10Aからギヤ部170aを介してカム部材17Aに確実に伝達される。
【0245】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3実施の形態に係る駆動力伝達装置につき、図18を用いて説明する。図18は駆動力伝達装置の全体(一部省略)を示す。図18において、図3と同一又は同等の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0246】
図18に示すように、本発明の第3の実施の形態に係る駆動力伝達装置250は、ハウジング12の径方向に開口する油導出口を兼用する油導入口251aを有し、ハウジング12と共に回転する円筒状のタンク251を備えた点に特徴がある。
【0247】
このため、タンク251は、その内周面251bとハウジング12の外周面(リヤハウジング19の外周面)との間にシール部材252を介在させて回転軸線O上に配置され、かつハウジング12(リヤハウジング19)の外周面に取り付けられている。そして、タンク251は、ハウジング12と共に回転し、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態の前進時において、ハウジング12の回転に伴い生じる遠心力に基づいて収容空間12aの潤滑油を油導入口251aから導入して内部に貯溜する。なお、ハウジング12において、リヤハウジング19がリヤディファレンシャル207側(図18の左側)に、またフロントハウジング18が後輪205R側(図18の右側)にそれぞれ配置されている。
【0248】
油導入口251aは、タンク251及び収容空間12aに連通し、リヤハウジング19の筒部に回転軸線Oに沿って複数個(図18では3個示す)配置され、全体が回転軸線Oに直交する軸線Lをもつ貫通孔によって形成されている。そして、油導入口251aは、ハウジング12の回転時に収容空間12aの潤滑油をタンク251内に導入する。また、油導入口251aは、ハウジング12の停止時にタンク251の潤滑油を収容空間12aに導出する油導出口として機能する。
【0249】
このように構成された駆動力伝達装置250においては、ハウジング12の回転に伴い発生する遠心力又は自重によって収容空間12aの潤滑油が第1の油導入口251aからタンク251に流入して貯溜される。
【0250】
従って、本実施の形態においては、四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時における走行時に収容空間12a及び油収容室43内の潤滑油が少なくなり、インナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間での引き摺りトルクの発生が抑制される。
【0251】
また、本実施の形態においては、タンク251の外側が空間部であるため、コイルホルダ23の内周面とフロントハウジング18(第1のハウジングエレメント20)の外周面との間に空隙gが、またコイルホルダ23の外周面とフロントハウジング18(第2のハウジングエレメント21)の内周面との間に空隙gがそれぞれ形成され、コイルホルダ23とフロントハウジング18との間での引き摺りトルクの発生が抑制される。
【0252】
なお、駆動力伝達装置250には、第1の実施の形態に示す第1のカム機構15及び第2のカム機構16に代えて単一のカム機構253が用いられている。
【0253】
カム機構253は、パイロットカム254,メインカム255及び転動体256を有し、ハウジング12とインナシャフト13との間に介在して配置されている。そして、カム機構253は、ハウジング12の回転力をパイロットクラッチ10から受けてパイロットカム254とメインカム255との間で発生するカム作用(カム推力P)によってメインクラッチ8に押付力を付与する。
【0254】
[第3の実施の形態の効果]
以上説明した第3の実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0255】
インナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のみならず、コイルホルダ23とフロントハウジング18との間において引き摺りトルクの発生が抑制されるため、引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができる。
【0256】
以上、本発明の駆動力伝達装置を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0257】
(1)上記実施の形態では、支持ピン25Aと転動部材19Aとが相対回転であるため、これら部材間に介在する転動体として針状ころ29Aを用いたが、本発明はこれに限定されず、針状ころ29A以外の転動体として玉,円筒ころ,棒状ころ,円すいころ,凸面ころ,凹面ころなど他の転動体を用いてもよい。
【0258】
(2)上記実施の形態では、減速機構9Aが偏心揺動減速機構であり、少歯数差インボリュート減速機構である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えばサイクロイド減速機構等の偏心揺動減速機構を用いてもよく、偏心揺動減速機構以外の他の減速機構を用いてもよい。
【0259】
(3)上記実施の形態では、インナクラッチプレート80(第1のクラッチプレート)とアウタクラッチプレート(第2のクラッチプレート)81との間のクリアランスCを例えばC=0に短縮するための第2のカム推力Pを発生させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、インナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとの間のクリアランスが初期状態の場合と比べて小さくなるような第2のカム推力を発生させてもよい。
【0260】
(4)上記の実施の形態では、前輪204L,204Rが主駆動輪であり、後輪205L,205Rが補助駆動輪である四輪駆動車200に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、前輪が補助駆動輪であり、後輪が主駆動輪である四輪駆動車に適用してもよい。
【0261】
(5)上記実施の形態では、ハウジング12が入力軸側に、またインナシャフト13が出力軸側にそれぞれ連結されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ハウジングを出力軸側に、またインナシャフトを入力軸側にそれぞれ連結しても本実施の形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0262】
1,1A…駆動力伝達装置、2…プロペラシャフト、3…駆動力断続装置、3a…第1のスプライン歯部、3b…第2のスプライン歯部、3c…スリーブ、4…装置ケース、40…ケース本体、40a…取付部、40b…内周面、400a…貫通孔、40c…収容部、41…ケース蓋体、42…ワッシャ付きのボルト、5…駆動源、50…電動モータ、50a…モータ軸、51A…モータハウジング、52A…駆動源用ハウジング、51…ボルト、52…位置決めピン、53…ウォーム、53A…ボルト、54…伝達部材、54a…曲面部、540a…外歯、55…連結器、55a…円筒部、55b…軸部、56…歯車伝達機構、57…止め輪、58…シール機構、6…歯車機構、60…ドライブピニオン、61…リングギヤ、7…歯車機構、70…ドライブピニオン、71…リングギヤ、8…メインクラッチ(多板クラッチ)、80…インナクラッチプレート、80a…ストレートスプライン嵌合部、80b…油孔、81…アウタクラッチプレート、81a…ストレートスプライン嵌合部、9…電磁クラッチ、90…電磁コイル、90a…ボビン、91…アーマチャ、91a…ストレートスプライン嵌合部、10…パイロットクラッチ、100…インナクラッチプレート、100a…ストレートスプライン嵌合部、101…アウタクラッチプレート、101a…ストレートスプライン嵌合部、12…ハウジング、12a…収容空間、13…インナシャフト、13a〜13c…円筒部、13d,13e…段差面、13D…軸部、130a…フランジ、131a…油流動路、132a…ストレートスプライン嵌合部、133a…油路、15…第1のカム機構、150…パイロットカム、150a…ストレートスプライン嵌合部、150b…カム溝、151…メインカム、151a…クラッチプレート押圧部、151b…カム溝、151c…油孔、151d…ピン取付孔、152…カムフォロア、153…針状ころ軸受、154…復帰用スプリング、155…ガイドピン、16…第2のカム機構、160…入力用のカム部材、161…出力用のカム部材、162…押付部材、162a…ストレートスプライン嵌合部,162b…クラッチプレート押圧部、164…針状ころ軸受、167…凸片、167a…外歯、9A…減速機構、90A…回転軸、900A…偏心部、91A…入力部材、910A…中心孔、911A…ピン挿通孔、912A…外歯、913A…孔付きスペーサ、92A…自転力付与部材、920A…内歯、93A…出力部材、10A…歯車伝達機構、100A…第1の歯車、1000A…ピン取付孔、101A…第2の歯車、1010A…ギヤ部、1001A〜1004A…円筒部、1005A…ギヤ部、16A…カム機構、17A…カム部材、170…凸片、170a…ギヤ部、170A…シャフト挿通孔、171A…円筒部、171,172…針状ころ軸受、18A…リテーナ、180Aシャフト挿通孔、18b…円筒部、18c…ピン挿通孔、180c,181c…座面、173…凹凸面、174…凹部、174a,174b…切り欠き側面、174c…切り欠き底面、175…凸部、175a,175b…面、175a…始端部、175a…終端部、19A…転動部材、190A…凸部、20A…押付部材、21A…針状ころ軸受、22A…凸片、220A…ガイド挿通孔、23A…軸受ブッシュ、24A…復帰用スプリング、25A…支持ピン、25a,25b…胴部、250a…鍔部、250b…ねじ部、26B…シム、26A…ころ受部材、27A…ナット、29A…針状ころ、18…フロントハウジング、18a〜18c…孔部、180b…第1の空間部、181b…第2の空間部、182b…第3の空間部、19…リヤハウジング、19b…ストレートスプライン嵌合部、190b…スプライン歯、19c…フランジ、19d…係合凹部、19e…外周面、20…第1のハウジングエレメント、20a〜20c…胴部、200a,201a,200b…油路、21…第2のハウジングエレメント、21a…係合凸部、21b…油路、21c…外周面、21d…ポンプ形成部、210d…油流入側端部、211d…油流出側端部、21e…環状空間、22…第3のハウジングエレメント、23…コイルホルダ、23c…収容空間、23a,23b…油路、24…玉軸受、25…シール部材、26…位置決めピン、27…環状空間、28…栓体、29,30…止め輪、31…環状空間、32…シール機構、33…針状ころ軸受、34…止め輪、35…栓体、36…シャフト蓋、36a…ポンプ形成部、360a…外周面、361a…油導入側端部、362a…油導出側端部、37…環状空間、38…玉軸受、39…受部材、42A…主収容空間、43A…ガイド、44A…副収容空間、45A…支持軸、40C…取付部、400C…貫通孔、40d…スプリング受面、40A…エレメント挿通孔、40B…円筒部、411…位置決めピン、41a…蓋部、410a…凹孔、41b…外側円筒部、41c…シャフト挿通孔、43…油収容室、43a…環状空間、44…タンク、44a…第1のタンク部、440a…隔壁、441a…油導入口、441A…開口面、442a…油導出口、44b…第2のタンク部、440b…隔壁、441b…油導入口、442b…油導出口、44c…連通路、45…シール機構、46,47…止め輪、48…油受部、48a…流通口、94…減速機構用ハウジング、940…ハウジングエレメント、95,96…玉軸受、97,98…針状ころ軸受、102,103…玉軸受、104…シール機構、105…玉軸受、106…スペーサ、120…第1のハウジングエレメント、120a…凹部、121…第2のハウジングエレメント、121a…収容空間、121b…外周面、121c…ストレートスプライン嵌合部、121c…スプライン歯、121c…油導出路、1210c…開口部、122,123…針状ころ軸受、124…シール機構、130,131…針状ころ軸受、132…玉軸受、133…シール機構、250…駆動力伝達装置、251…タンク、251a…油導入口、251b…内周面、252…シール部材、253…カム機構、254…パイロットカム、255…メインカム、256…転動体、200…四輪駆動車、201…駆動力伝達系、202…エンジン、203…トランスミッション、204L,204R…前輪、205L,205R…後輪、206…フロントディファレンシャル、207…リヤディファレンシャル、208L,208R…前輪側のアクスルシャフト、209L,209R…サイドギヤ、210…ピニオンギヤ、211…ギヤ支持部材、212…フロントデフケース、213L,213R…後輪側のアクスルシャフト、214L,214R…サイドギヤ、215…ピニオンギヤ、216…ギヤ支持部材、217…リヤデフケース、A…油流入路、B…油流出路、g,g…空隙、P…カム推力、P…第1のカム推力、P…第2のカム推力、C…クリアランス、M…磁気回路、L…軸線、O…回転軸線、S,T…油流、V…軸線、θ,θ…角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四輪駆動と二輪駆動との切り替えが可能な四輪駆動車の駆動源によって回転する円筒状の第1の回転部材と、
前記第1の回転部材の内部に少なくとも一部が収容され、かつ前記第1の回転部材にクラッチを介して断続可能に連結された第2の回転部材と、
前記第2の回転部材と前記第1の回転部材との間に介在する収容空間の潤滑油を貯溜するタンク部、及び前記第1の回転部材を収容する円筒状の収容部を有するケースとを備え、
前記ケースにおいて、
前記収容部は、前記第1の回転部材の外周面に対向する内周面を有し、
前記タンク部は、前記収容部の前記内周面に開口し、かつ前記四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時において前記第1の回転部材の回転に伴い生じる遠心力に基づいて前記収容空間の潤滑油を導入する油導入口を有する
駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記ケースは、前記四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時における前記第1の回転部材の回転に伴い形成される潤滑油による油流の方向に沿って前記タンク部の前記油導入口が開口されている請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記ケースは、前記収容部の前記内周面と前記第1の回転部材の外周面との間に介在する環状空間を含み、かつ前記収容空間に連通する油収容室を有する請求項1又は2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記ケースは、前記四輪駆動車の二輪駆動状態の前進時における前記油導入口の下流側に位置する油導出口を前記タンク部に有し、前記油導出口が前記油流の方向と交差する方向に沿って開口されている請求項2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記ケースは、前記タンク部における前記油導入口の開口面積が前記油導出口の開口面積よりも大きい面積に設定されている請求項4に記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記第1の回転部材は、前記外周面が前記ケースの内周面との間にポンプを形成して前記収容空間の潤滑油を前記油収容室に流出させるためのポンプ形成部を有する請求項3乃至5のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項7】
第1の回転部材は、前記ポンプ形成部の外径が油流入側から油流出側に向かって漸次大きくなる寸法に設定されている請求項6に記載の駆動力伝達装置。
【請求項8】
前記ケースは、前記タンク部が前記第1の回転部材と共に回転する回転部材によって形成されている請求項1乃至7のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項9】
前記第2の回転部材は、前記駆動源と異なる副駆動源からの回転力を受けたカム機構の作動による前記クラッチのクラッチ動作によって前記第1の回転部材に断続可能に連結されている請求項1乃至8のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項10】
前記カム機構は、前記副駆動源からの回転力を受けて回転するカム部材、前記カム部材を転動する転動部材、及び前記転動部材の転動によってカム推力を前記クラッチ側に出力する出力部材を有し、前記出力部材がその回転軸線回りの回転の規制を受け、かつ前記転動部材を転動可能に保持して前記回転軸線の方向に移動可能なリテーナによって構成されている請求項9に記載の駆動力伝達装置。
【請求項11】
前記カム機構は、前記クラッチを構成して互いに隣り合う第1のクラッチプレートと第2のクラッチプレートとの間のクリアランスを短縮するための第1のカム推力、及び前記第1のクラッチプレートと前記第2のクラッチプレートとを摩擦係合させるための第2のカム推力を前記カム推力に含ませ、前記副駆動源からの回転力を前記第1のカム推力及び前記第2のカム推力に変換する請求項9又は10に記載の駆動力伝達装置。
【請求項12】
前記カム機構は、前記カム部材が前記副駆動源に減速機構及び歯車伝達機構を介して噛合するギヤ部を有する請求項10又は11に記載の駆動力伝達装置。
【請求項13】
前記減速機構は、前記副駆動源からの回転力を入力するとともに、この回転力を減速して前記歯車伝達機構に出力する偏心揺動減速機構である請求項12に記載の駆動力伝達装置。
【請求項14】
前記減速機構は、
前記副駆動源の回転軸線を軸線とし、この軸線に平行な軸線を中心軸線とする偏心部を有する回転軸と、
前記回転軸の前記偏心部に転がり軸受を介して嵌合する中心孔、及び前記中心孔の軸線回りに等間隔をもって並列する複数の貫通孔を有する外歯歯車からなる入力部材と、
前記入力部材に前記外歯歯車の歯数よりも大きい歯数をもって噛合する内歯歯車からなる自転力付与部材と、
前記自転力付与部材によって付与された自転力を前記入力部材から受けて前記歯車伝達機構に出力し、前記複数の貫通孔を挿通する出力部材と
を備えた請求項13に記載の駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−100079(P2013−100079A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−225334(P2012−225334)
【出願日】平成24年10月10日(2012.10.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】