説明

高周波スイッチ回路

【課題】少なくとも25GHz帯の高周波帯で高性能な特性が得られる高周波スイッチ回路を提供する。
【解決手段】第3整合回路112及び第4整合回路122は、マイクロストリップライン等の分布定数回路で構成されており、特性インピーダンスがZ0で線路長が1/4波長となるように形成されている。第3整合回路112と第1スイッチ113、及び第4整合回路122と第2スイッチ123をそれぞれ組み合わせることで、送信側高周波スイッチ110及び受信側高周波スイッチ120を、ショートまたはオープンの状態に切り替えることができる。送信側高周波スイッチ110または受信側高周波スイッチ120がショート状態になるとそのスイッチが閉となり、オープン状態になると開となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、準ミリ波帯を利用した車載UWBレーダ等の高周波回路で用いられる高周波スイッチ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高周波の信号系に用いられるスイッチ回路は、MOS型FET等のFETを用いて構成される。このような高周波スイッチ回路では、図11に示すように、FETのゲート端子に供給する電圧をHighにしたときにドレインーソース端子間に電流が流れてFETがオンとなり、一方、FETのゲート端子に供給する電圧をLowにしたときにドレインーソース端子間の電流が停止されてFETがオフとなる。そして、FETがオンのときにスイッチがオンとなり、FETがオフのときにスイッチがオフとなるように構成されるのが一般的である。
【0003】
また、別の高周波スイッチ回路として、特許文献1、2ではPINダイオードを用いて構成されたものが開示されている。特許文献1の高周波スイッチ回路では、PINダイオードが入力端と出力端の間に設けられ、これと並列に共振回路が接続されている。共振回路は、PINダイオードに順方向バイアスが供給されていないときに、PINダイオードに生じる寄生コンデンサとともに少なくとも2つの異なる所定周波数帯で共振して所定周波数帯の信号の入力端から出力端への通過を阻止している。また、特許文献2には、電気性能のばらつき等を改善するためのPINダイオードを用いた高周波スイッチ回路の構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−274241号公報
【特許文献2】特開2007−142743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のFETを用いた従来の高周波スイッチ回路では、利用できる周波数帯が20GHz以下となっており、その周波数特性が20GHz以上に対応していない。また、特許文献1、2に記載のPINダイオードを用いた高周波スイッチ回路でも、やはり利用できる周波数帯が20GHz以下となっており、その周波数特性が20GHz以上に対応していない。
【0006】
そこで、本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、少なくとも25GHz帯の高周波帯で高性能な特性が得られる高周波スイッチ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高周波スイッチ回路の第1の態様は、アンテナポートと送信ポートと受信ポートとが第1接続部で接続され、所定の高周波信号を前記送信ポートから前記アンテナポートに伝送させるか、または前記高周波信号を前記アンテナポートから前記受信ポートに伝送させるか、のいずれか一方に切り替える高周波スイッチ回路であって、前記送信ポートと前記第1接続部との間に接続される第1整合回路と、前記受信ポートと前記第1接続部との間に接続される第2整合回路と、前記送信ポートと前記第1整合回路との間の第2接続部に一端が接続される第3整合回路と、前記第3整合回路の他端に接続されて該第3整合回路をショートまたはオープンに切り替える第1スイッチと、前記受信ポートと前記第2整合回路との間の第3接続部に一端が接続される第4整合回路と、前記第4整合回路の他端に接続されて該第4整合回路をショートまたはオープンに切り替える第2スイッチと、を備え、前記送信ポートから前記アンテナポートに前記高周波信号を伝送するときは、前記第1スイッチを閉として前記第3整合回路をショートにする一方、前記第2スイッチを開として前記第4整合回路をオープンにし、前記アンテナポートから前記受信ポートに高周波信号を伝送するときは、前記第1スイッチを開として前記第3整合回路をオープンにする一方、前記第2スイッチを閉として前記第4整合回路をショートにすることを特徴とする。
【0008】
本発明の高周波スイッチ回路の他の態様は、一端が前記第1接続部に接続され、他端が接地された第5整合回路をさらに備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の高周波スイッチ回路の他の態様は、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチはそれぞれ、順方向バイアスのときの抵抗値が所定の基準抵抗値以下であり逆方向バイアスのときのキャパシタンスが所定の基準容量値以下であるPINダイオードと、前記PINダイオードを順方向バイアス又は逆方向バイアスにするための電源を供給する電源供給回路と、を備えて構成され、前記PINダイオードのアノード端子が前記電源供給回路に接続されるとともにカソード端子が前記第3整合回路または前記第4整合回路の他端に接続され、前記PINダイオードが順方向バイアスのときに閉となり、前記PINダイオードが逆方向バイアスのときに開となることを特徴とする。
【0010】
本発明の高周波スイッチ回路の他の態様は、前記PINダイオードのアノード端子には、前記電源供給回路と並列に所定の広帯域の周波数に対応するラジアルスタブが接続されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の高周波スイッチ回路の他の態様は、前記電源供給回路は、ソース端子が所定の正電源に接続されたPチャネル型のMOS型FETと、ソース端子が所定の負電源に接続されたNチャネル型のMOS型FETと、前記Pチャネル型のMOS型FETのドレイン端子に接続された保護抵抗と、前記Nチャネル型のMOS型FETのドレイン端子に接続された別の保護抵抗と、を備え、前記Pチャネル型のMOS型FET及び前記Nチャネル型のMOS型FETのそれぞれのゲート端子にHigh信号が入力されると、前記Pチャネル型のMOS型FETがオンとなる一方前記Nチャネル型のMOS型FETがオフとなって前記正電源が前記保護抵抗を経由して出力され、前記Pチャネル型のMOS型FET及び前記Nチャネル型のMOS型FETのそれぞれのゲート端子にLow信号が入力されると、前記Pチャネル型のMOS型FETがオフとなる一方前記Nチャネル型のMOS型FETがオンとなって前記負電源が前記別の保護抵抗を経由して出力されることを特徴とする。
【0012】
本発明の高周波スイッチ回路の他の態様は、前記高周波信号は、準ミリ波帯の信号であることを特徴とする。
【0013】
本発明の高周波スイッチ回路の他の態様は、前記第5整合回路の線路長は、前記高周波信号の2倍波の1/4波長に略等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少なくとも25GHz帯の高周波帯で高性能な特性が得られる高周波スイッチ回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る高周波スイッチ回路の等価回路図である。
【図2】第1実施形態の高周波スイッチ回路を備える送受信システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】ダイオードの順方向バイアス時及び逆方向バイアス時の等価回路図である。
【図4】第1実施形態の高周波スイッチ回路の回路図である。
【図5】第1実施形態の高周波スイッチ回路の送信時及び受信時の状態を示す等価回路図である。
【図6】電源供給回路の構成を示す回路図である。
【図7】電源供給回路のMOS型FETの動作を示す説明図である。
【図8】電源供給回路を接続した第1実施形態の高周波スイッチ回路の全体構成を示す回路図である。
【図9】第1実施形態の高周波スイッチ回路の状態遷移を示す説明図である。
【図10】第1実施形態の高周波スイッチ回路の挿入損失特性を示すグラフである。
【図11】MOS型FETを用いた従来の高周波スイッチ回路の動作を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態における高周波スイッチ回路について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。本発明は、準ミリ波帯を利用した車載UWBレーダ等の高周波回路で用いられる高周波スイッチ回路に関するものである。
【0017】
本発明の実施の形態に係る高周波スイッチ回路を、図1、2を用いて説明する。図1は、本実施形態の高周波スイッチ回路100の構成を示す等価回路図であり、図2は、高周波スイッチ回路100を備える送受信システムの概略構成を示すブロック図である。本実施形態の高周波スイッチ回路100は、アンテナポート101、送信ポート102、及び受信ポート103の3つのポートを有してSPDT(Single Pole Double Throw)の構成となっている。アンテナポート101には送信と受信に共用のアンテナ10が接続され、送信ポート102及び受信ポート103には、それぞれ送信信号を出力する送信系回路11と受信信号を処理する受信系回路12が接続される。
【0018】
高周波スイッチ回路100は、スイッチ動作として、アンテナポート101と信号伝送が可能なポートを、送信ポート102と受信ポート103との間で切り替えている。すなわち、アンテナポート101に接続される第1接続部104から送信ポート102側に送信側高周波スイッチ110が設けられ、受信ポート103側に受信側高周波スイッチ120が設けられており、送信側高周波スイッチ110と受信側高周波スイッチ120とが交互に開閉される。
【0019】
送信時には、送信側高周波スイッチ110を閉にして送信ポート102とアンテナポート101との間で信号伝送を可能にするとともに、受信側高周波スイッチ120を開にして受信ポート102とアンテナポート101との間で信号伝送を不可にしている。また、受信時には、送信側高周波スイッチ110を開にして送信ポート102とアンテナポート101との間で信号伝送を不可にするとともに、受信側高周波スイッチ120を閉にして受信ポート102とアンテナポート101との間で信号伝送を可能にしている。
【0020】
本実施形態の高周波スイッチ回路100では、20GHz以上の高周波信号に対するスイッチ動作を可能にするために、送信側高周波スイッチ110及び受信側高周波スイッチ120を所定の分布定数回路と所定のスイッチを用いて構成しており、この分布定数回路をショートまたはオープンにすることでスイッチ動作を実現している。
【0021】
図1において、第1接続部104から送信ポート102への伝送線路を第1整合回路105で表し、第1接続部104から受信ポート103への伝送線路を第2整合回路106で表している。送信側高周波スイッチ110は、第2接続部111から第1整合回路105と並列に第3整合回路112が接続され、第3整合回路112に第1スイッチ113が接続されている。また、受信側高周波スイッチ120は、第3接続部121から第2整合回路106と並列に第4整合回路122が接続され、第4整合回路122に第2スイッチ123が接続されている。
【0022】
第1整合回路105、第2整合回路106、第3整合回路112、及び第4整合回路122は、マイクロストリップライン等の分布定数回路で構成されており、特性インピーダンスがZ0で線路長が1/4波長となるように形成されている。このような特性を有する第3整合回路112と第1スイッチ113、及び第4整合回路122と第2スイッチ123をそれぞれ組み合わせることで、送信側高周波スイッチ110及び受信側高周波スイッチ120を、ショートまたはオープンの状態に切り替えることができるようにしている。送信側高周波スイッチ110または受信側高周波スイッチ120がショート状態になるとそのスイッチが閉となり、オープン状態になると開となる。
【0023】
上記のような特性を有する第1スイッチ113及び第2スイッチ123として、PINダイオードを用いることができる。PINダイオードは、オン時に残留インダクタンスLfを有し、オフ時にキャパシタンスCjを有しており、PINダイオードがオンのときをスイッチ閉の状態とし、オフのときをスイッチ開の状態とすることができる。以下では、第1スイッチ113及び第2スイッチ123にPINダイオードを用いるものとし、第1スイッチ113及び第2スイッチ123を、第1PINダイオード113及び第2PINダイオード123として説明する。
【0024】
PINダイオードに正電源または負電源を供給したときの状態を、図3に示す等価回路図を用いて説明する。一般に、図3(a)に示すダイオードDに順方向バイアスを供給すると、図3(b)に示すような抵抗Rfと等価になり、逆方向バイアスを供給すると図3(c)に示すような抵抗RrとキャパシタンスCjとを直列に接続した等価回路になる。
【0025】
従来、高周波スイッチに用いられるPINダイオードDは、図3(b)に示す順方向バイアス供給時には、バイアス電流を大きくするほど、高周波信号に対して低インピーダンス状態になる。また、図3(c)に示す逆方向バイアス供給時には、バイアス電流がバイアス電圧に依存せずほぼ一定となり、PINダイオードDのキャパシタンスCjを0.5pF程度以上5pF程度以下とすることで、高周波信号に対してPINダイオードDが高インピーダンス状態(リアクタンス成分が主体)となるようにしていた。
【0026】
順方向バイアス時における等価回路の抵抗Rfの値は、バイアス電流を小さくしていくとそれに反比例して大きくなることから、順方向バイアスを供給したオン状態における挿入損失と逆方向バイアスを供給したオフ状態におけるアイソレーションは、それぞれPINダイオードのオン時の抵抗Rfとオフ時のキャパシタンスCjで決めることができる。
【0027】
しかしながら、従来のPINダイオードを用いた高周波スイッチでは、20GHz以上の準ミリ波帯に対応できない。本実施形態では、第3整合回路112と第1PINダイオード113、及び第4整合回路122と第2PINダイオード114を用いて送信側高周波スイッチ110及び受信側高周波スイッチ120を構成することで、準ミリ波に対応しかつ周波数広帯域化を実現できる高周波スイッチ回路100を提供することが可能となっている。
【0028】
本実施形態の高周波スイッチ回路100では、PINダイオード113、123として、オン時の直列抵抗Rf(主に残留インダクタンスLfによるリアクタンス成分)が小さく、かつオフ時のキャパシタンスCjが小さいPINダイオードを用いる必要がある。抵抗Rf及びキャパシタンスCjが次式
Rf<5[Ω]
Cj<0.05[pF]
を満たし、かつ高周波信号に対応したPINダイオードを用いるのがよい。
【0029】
第1PINダイオード113は、カソード端子が送信ポート102側の第3整合回路112に接続され、アノード端子は順方向バイアス又は逆方向バイアスを供給するための電源供給回路に接続される。同様に、第2PINダイオード123は、カソード端子が受信ポート103側の第4整合回路122に接続され、アノード端子は電源供給回路に接続される。第1PINダイオード113及び第2PINダイオード123のそれぞれのオン/オフ動作は、アノード端子側に正電源が供給されたときにオン状態になり、負電源が供給されたときにオフ状態になる。
【0030】
図1に示す高周波スイッチ回路100では、上記構成に加えて特性インピーダンスZMの第5整合回路107が第1接続部104に接続されている。この第5整合回路107は、第1PINダイオード113または第2PINダイオード123がオンのときの直流成分をショートさせている。また、送信ポート102から送信信号に混在して入力される送信信号の2倍波を抑制するように構成されている。すなわち、第5整合回路107の線路長は、2倍波の波長λ’の1/4となるように形成されている。第5整合回路107は、送信系及び受信系の信号系回路に影響を与えることはない。
【0031】
送信側高周波スイッチ110及び受信側高周波スイッチ120の回路構成を詳細化した本実施形態の高周波スイッチ回路100の回路図を図4に示す。送信側高周波スイッチ110及び受信側高周波スイッチ120が、例えば25GHz帯の準ミリ波帯に対応できるようにするには、第1PINダイオード113及び第2PINダイオード123として、オン時の直列抵抗Rfが5Ωより低い低抵抗で、オフ時のキャパシタンスCjが0.05pFより低い低キャパシタンスのものを用いる必要がある。
【0032】
本実施形態では、第1PINダイオード113及び第2PINダイオード123のアノード端子側を高周波信号に対し接地された状態にするために、それぞれのアノード端子側に第1ラジアルスタブ114及び第2ラジアルスタブ124を接続している。ラジアルスタブは、所定の高周波特性が広帯域の周波数に対して得られるものである。ラジアルスタブによりアノード端子側を高周波信号に対し接地された状態にすることで、アノード端子側に接続される電源供給回路が送信系及び受信系の信号系回路に影響するのを防止している。
【0033】
第1PINダイオード113と第1ラジアルスタブ114との間、及び第2PINダイオード123と第2ラジアルスタブ124との間には、正電源及び負電源を供給するための第1バイアスポート115、及び第2バイアスポート125が接続されている。それぞれのバイアスポートには所定の電源供給回路が接続される。
【0034】
ラジアルスタブは周波数の広帯域化に寄与できることから、第1ラジアルスタブ114及び第2ラジアルスタブ124をアノード端子側に接続することで、第1バイアスポート115及び第2バイアスポート125に接続される電源供給回路が送信系及び受信系の信号系回路に影響するのを広帯域で防止している。これにより、準ミリ波帯において低挿入損失、広帯域化を実現すると同時に、電源供給回路が高周波信号に対して高いアイソレーションを確保することができ、周波数特性に影響する寄生容量を除去することができる。
【0035】
図4に示す回路構成では、高周波スイッチ回路100の特性を最適化するために、第3整合回路112、第4整合回路122、第1ラジアルスタブ114及び第2ラジアルスタブ124の特性インピーダンスを、第1整合回路105及び第2整合回路106の特性インピーダンスZ0とは異なるZcとしている。
【0036】
次に、送信ポート102から高周波信号を入力してアンテナポート101に伝送させる送信時の高周波スイッチ回路100の状態、及びアンテナポート101から入力した高周波信号を受信ポート103に伝送させる受信時の高周波スイッチ回路100の状態を、図5を用いて説明する。図5は、送信時及び受信時の高周波スイッチ回路100の状態を示す等価回路図である。
【0037】
送信時には、第1バイアスポート115に正電源が供給される一方、第2バイアスポート125に負電源が供給される。これにより、第1PINダイオード113が順方向バイアス供給によりオン状態になり、第2PINダイオード123が逆方向バイアス供給によりオフ状態になる。このとき、図5(a)の等価回路に示すように、第1PINダイオード113を示すオン時の直列抵抗Rf1が低インピーダンス状態となり、伝送線路長λ/4の第3整合回路112によりショート状態が作り出される。その結果、送信側高周波スイッチ110がオンとなって送信ポート102からアンテナポート101への高周波信号の伝送が可能となる。
【0038】
一方、第2PINダイオード123を示すオフ時の等価回路のキャパシタCj2が高インピーダンス状態となり、伝送線路長λ/4の第4整合回路122によりオープン状態が作り出される。その結果、受信側高周波スイッチ120がオフとなってアンテナポート101から受信ポート103への高周波信号の伝送が遮断される。
【0039】
受信時には、第1バイアスポート115に負電源が供給される一方、第2バイアスポート125に正電源が供給される。これにより、第1PINダイオード113が逆方向バイアス供給によりオフ状態になり、第2PINダイオード123が順方向バイアス供給によりオン状態になる。このとき、図5(b)に示すように、第1PINダイオード113のオフ時のキャパシタCj1が高インピーダンス状態となり、第3整合回路112によりオープン状態が作り出される。一方、第2PINダイオード113のオン時の直列抵抗Rf2が低インピーダンス状態となり、第4整合回路122によりショート状態が作り出される。その結果、送信側高周波スイッチ110がオフとなる一方、受信側高周波スイッチ120がオンとなる。
【0040】
次に、第1バイアスポート115及び第2バイアスポート125に接続される電源供給回路を、図6の回路図を用いて説明する。同図に示す電源供給回路130は、MOS型FET131、132と、保護抵抗133、134を備え、さらに正電源に接続される+Vポート135、負電源に接続されるーVポート136、及び制御信号を入力するバイアス制御ポート137を備えている。+Vポート135に接続される正電源、またはーVポート136に接続される負電源から供給される電源は、保護抵抗133または134を経由して第1バイアスポート115または第2バイアスポート125に供給される。保護抵抗133、134は、MOS型FET131、132を保護するとともに、第1PINダイオード113、第2PINダイオード123に供給する電流値を決定している。
【0041】
MOS型FET131はPチャネル型のMOSFETであり、ソース端子が+Vポート135に接続され、ドレイン端子が保護抵抗133に接続されている。また、MOS型FET132はNチャネル型のMOSFETであり、ソース端子が−Vポート136に接続され、ドレイン端子が保護抵抗134に接続されている。MOS型FET131、132のオン/オフ制御は、バイアス制御ポート137から入力されるHighまたはLowの制御信号がそれぞれのゲートに供給されることで行われる。
【0042】
電源供給回路130から第1バイアスポート115または第2バイアスポート125に正電源を供給するときは、バイアス制御ポート137からHighの制御信号をMOS型FET131、132に供給する。これにより、Pチャネル型のMOS型FET131は、ソース−ドレイン間がオンとなり、+Vポート135から保護抵抗133を介して第1バイアスポート115または第2バイアスポート125に正電源が供給される。これに対し、Nチャネル型のMOS型FET131は、ソース−ドレイン間がオフとなる。
【0043】
一方、電源供給回路130から第1バイアスポート115または第2バイアスポート125に負電源を供給するときは、バイアス制御ポート137からLowの制御信号をMOS型FET131、132に供給する。これにより、Pチャネル型のMOS型FET131は、ソース−ドレイン間がオフとなるのに対し、Nチャネル型のMOS型FET131は、ソース−ドレイン間がオンとなる。そして、−Vポート136から保護抵抗134を介して第1バイアスポート115または第2バイアスポート125に負電源が供給される。
【0044】
MOS型FET131、132にHighまたはLowの制御信号を供給するのに、汎用デジタルICを用いることができる。汎用デジタルICをバイアス制御ポート137に接続し、この汎用デジタルICでHighまたはLowの制御信号を所定のタイミングで作成して出力する。これにより、電源供給回路130から正電源または負電源が供給されて高周波スイッチ回路100が動作し、アンテナポート101が送信ポート102と受信ポート103のいずれか一方と信号伝送可能になる。
【0045】
上記説明の電源供給回路130の動作を図7に示す。図7は、バイアス制御ポート137から供給される制御信号に従って、MOS型FET131、132のオン/オフ状態、及び電源供給回路130から出力される電源、のそれぞれの変化を示している。制御信号がHighのときは、MOS型FET131がオン、MOS型FET132がオフとなり、電源供給回路130から正電源が供給される。また、制御信号がLowのときは、MOS型FET131がオフ、MOS型FET132がオンとなり、電源供給回路130から負電源が供給される。
【0046】
本実施形態の高周波スイッチ回路100に電源供給回路130を接続した全体構成の回路図を図8に示す。2つの電源供給回路130が、第1バイアスポート115及び第2バイアスポート125のそれぞれに接続される。ここで、第1バイアスポート115に接続される電源供給回路130のバイアス制御ポートを137aとし、第2バイアスポート125に接続される電源供給回路130のバイアス制御ポートを137bとするとき、バイアス制御ポート137a、137bに供給される制御信号によって、高周波スイッチ回路100の状態がどのように遷移するかを、表1及び図9を用いて説明する。
【表1】

【0047】
制御信号の一例として、表1及び図9では、ケース1でバイアス制御ポート137a、137bの両方にLowを供給している。このとき、送信側高周波スイッチ110、受信側高周波スイッチ120ともオフになり、送信ポート102、受信ポート103ともアンテナポート101と遮断されている。ケース2では、バイアス制御ポート137aにHighを供給し、バイアス制御ポート137bにLowを供給している。このとき、送信側高周波スイッチ110がオン、受信側高周波スイッチ120がオフとなり、送信ポート102からアンテナポート101に信号伝送可能となる一方、受信ポート103とアンテナポート101との間は遮断される。
【0048】
ケース3では、バイアス制御ポート137aにLowを供給し、バイアス制御ポート137bにHighを供給している。このとき、送信側高周波スイッチ110がオフ、受信側高周波スイッチ120がオンとなり、アンテナポート101から受信ポート103に信号伝送可能となる一方、送信ポート102とアンテナポート101との間は遮断される。なお、バイアス制御ポート137a、137bの両方にHighが供給されると、アンテナポート101が送信ポート102と受信ポート103の両方と信号伝送可能になってしまうが、バイアス制御ポート137a、137bに接続される汎用デジタルICにおいて、バイアス制御ポート137a、137bの両方にHighが供給されないように論理回路で制御している。
【0049】
高周波スイッチ回路100の挿入損失特性(S21特性)を図10に示す。同図では、送信側高周波スイッチ110をオン/オフしたときの送信ポート102からアンテナポート101への挿入損失を(a)に示し、受信側高周波スイッチ120をオン/オフしたときのアンテナポート101から受信ポート103への挿入損失を(b)に示している。送信側高周波スイッチ110及び受信側高周波スイッチ120とも、オン時には挿入損失が小さく(S21の絶対値が小さい)、オフ時には挿入損失が大きく(S21の絶対値が大きい)なることがわかる。各スイッチとも、オン時には第3整合回路/第4整合回路122でショート状態が作り出されるのに対し、オフ時には第3整合回路/第4整合回路122でオープン状態が作り出されて高いアイソレーションが得られる。
【0050】
本実施形態の高周波スイッチ回路100では、図10に示すようなスイッチ切り換えを、切り換え時間1μs以下の高速に行うことが可能である。また、オフ時のアイソレーションとして、周波数25GHzで20dB以上を実現することができる。このように、本実施形態の高周波スイッチ回路100は、準ミリ波帯の高周波信号に対し高性能なスイッチ動作を実現している。
【0051】
上記説明のように、本発明によれば、閉のときに低抵抗を有し開のときに低キャパシタンスを有するスイッチと所定の分布定数回路を用いて構成することにより、少なくとも25GHz帯の高周波帯で高性能な特性が得られる高周波スイッチ回路を提供することが可能となる。また、上記のような特性を有するスイッチとしてPINダイオードを用いることで、回路構成及び回路規模を簡略化し、低消費電力化、低コスト化を実現することが可能となる。さらに、上記のスイッチに用いるPINダイオードを樹脂モールドすることで、PINダイオードの取り扱いが容易になるとともに高信頼性を確保することができる。
【0052】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る高周波スイッチ回路の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における高周波スイッチ回路の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 アンテナ
11 送信系回路
12 受信系回路
100 高周波スイッチ回路
101 アンテナポート
102 送信ポート
103 受信ポート
104 第1接続部
105 第1整合回路
106 第2整合回路
107 第5整合回路
110 送信側高周波スイッチ
111 第2接続部
112 第3整合回路
113 第1PINダイオード(第1スイッチ)
114 第1ラジアルスタブ
115 第1バイアスポート
120 受信側高周波スイッチ
121 第3接続部
122 第4整合回路
123 第2PINダイオード(第2スイッチ)
124 第2ラジアルスタブ
125 第2バイアスポート
130 電源供給回路
131、132 MOS型FET
133、134 保護抵抗
135 +Vポート
136 ーVポート
137 バイアス制御ポート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナポートと送信ポートと受信ポートとが第1接続部で接続され、所定の高周波信号を前記送信ポートから前記アンテナポートに伝送させるか、または前記高周波信号を前記アンテナポートから前記受信ポートに伝送させるか、のいずれか一方に切り替える高周波スイッチ回路であって、
前記送信ポートと前記第1接続部との間に接続される第1整合回路と、
前記受信ポートと前記第1接続部との間に接続される第2整合回路と、
前記送信ポートと前記第1整合回路との間の第2接続部に一端が接続される第3整合回路と、
前記第3整合回路の他端に接続されて該第3整合回路をショートまたはオープンに切り替える第1スイッチと、
前記受信ポートと前記第2整合回路との間の第3接続部に一端が接続される第4整合回路と、
前記第4整合回路の他端に接続されて該第4整合回路をショートまたはオープンに切り替える第2スイッチと、を備え、
前記送信ポートから前記アンテナポートに前記高周波信号を伝送するときは、前記第1スイッチを閉として前記第3整合回路をショートにする一方、前記第2スイッチを開として前記第4整合回路をオープンにし、
前記アンテナポートから前記受信ポートに高周波信号を伝送するときは、前記第1スイッチを開として前記第3整合回路をオープンにする一方、前記第2スイッチを閉として前記第4整合回路をショートにする
ことを特徴とする高周波スイッチ回路。
【請求項2】
一端が前記第1接続部に接続され、他端が接地された第5整合回路をさらに備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波スイッチ回路。
【請求項3】
前記第1スイッチ及び前記第2スイッチはそれぞれ、順方向バイアスのときの抵抗値が所定の基準抵抗値以下であり逆方向バイアスのときのキャパシタンスが所定の基準容量値以下であるPINダイオードと、前記PINダイオードを順方向バイアス又は逆方向バイアスにするための電源を供給する電源供給回路と、を備えて構成され、
前記PINダイオードのアノード端子が前記電源供給回路に接続されるとともにカソード端子が前記第3整合回路または前記第4整合回路の他端に接続され、
前記PINダイオードが順方向バイアスのときに閉となり、前記PINダイオードが逆方向バイアスのときに開となる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高周波スイッチ回路。
【請求項4】
前記PINダイオードのアノード端子には、前記電源供給回路と並列に所定の広帯域の周波数に対応するラジアルスタブが接続されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高周波スイッチ回路。
【請求項5】
前記電源供給回路は、
ソース端子が所定の正電源に接続されたPチャネル型のMOS型FETと、
ソース端子が所定の負電源に接続されたNチャネル型のMOS型FETと、
前記Pチャネル型のMOS型FETのドレイン端子に接続された保護抵抗と、
前記Nチャネル型のMOS型FETのドレイン端子に接続された別の保護抵抗と、を備え、
前記Pチャネル型のMOS型FET及び前記Nチャネル型のMOS型FETのそれぞれのゲート端子にHigh信号が入力されると、前記Pチャネル型のMOS型FETがオンとなる一方前記Nチャネル型のMOS型FETがオフとなって前記正電源が前記保護抵抗を経由して出力され、
前記Pチャネル型のMOS型FET及び前記Nチャネル型のMOS型FETのそれぞれのゲート端子にLow信号が入力されると、前記Pチャネル型のMOS型FETがオフとなる一方前記Nチャネル型のMOS型FETがオンとなって前記負電源が前記別の保護抵抗を経由して出力される
ことを特徴とする請求項3に記載の高周波スイッチ回路。
【請求項6】
前記高周波信号は、準ミリ波帯の信号である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の高周波スイッチ回路。
【請求項7】
前記第5整合回路の線路長は、前記高周波信号の2倍波の1/4波長に略等しい
ことを特徴とする請求項2に記載の高周波スイッチ回路。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−211589(P2011−211589A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78516(P2010−78516)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】