説明

高周波回路、それを用いたアレイアンテナ装置および集積回路

【課題】運用中にスイッチを動作させる必要が無い場合に、あらかじめ必要なスイッチを動作させて、ある一つの状態を決め、同時にスイッチを物理的に固定し、以後、高電圧を加えることなく、その状態を保持することができる。
【解決手段】ばね状の梁3をもつスイッチと、スイッチの梁3を駆動するための駆動電極4と、スイッチ側高周波接点5と、スイッチ側高周波接点5に対向して、基板に設けられた基板側高周波接点6と、駆動電極4の駆動により高周波接点5,6が接触したときに、高周波を伝送する高周波線路と、高周波接点5,6を構成している金属を溶融させ、固着させるに十分な電流をながすための直流電源14と、高周波線路と直流電源14との間に設けられたインダクタ9,10と、高周波線路に直列に装荷されたコンデンサ7,8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は高周波回路に関し、特に、数〜数十GHz帯におけるスイッチとして用いられるRF−MEMS(Radio Frequency - Micro Electro Mechanical System)高周波回路、および、高周波回路を用いたアレイアンテナ装置および集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のRF−MEMSスイッチは、金属ばね状のスイッチの梁と、その梁の下側に設けられた駆動電極とからなり、スイッチと駆動電極との間に数10ボルトの電圧を加えることで、ばね状のスイッチを下方向(駆動電極側)に引き付けることで動作する。スイッチの先端に接点を設け、スイッチが下方向に引き付けられると同時に、接点が基板上の別の接点に接触し、伝送路が閉じるようにすることで、電気信号を開閉することができる(例えば、特許文献1、非特許文献1、および、非特許文献2参照)。静電気力によって、スイッチの開閉を行う方式が一般的であるが、熱や圧電素子を用いて駆動電圧を低くする方法も提案されている。また、スイッチを駆動するための電圧が高いことに対しては、昇圧回路を別に用意する方法も提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−149750号公報
【非特許文献1】K. E. Petersen著、“Micromechanical Membrane Switches on Silicon”、IBM J. of Research and Development、 Vol. 23、 No.4、 pp376-385、 1979
【非特許文献2】出尾 晋一 著、「高周波MEMSスイッチの耐電力評価」、平成17年電気学会全国大会3−127、Vol.3、pp.188
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のRF−MEMSスイッチを用いた高周波回路は、ある一つの状態を保持するためには常に高電圧をスイッチに加えておく必要があるという問題点があった。そのため、高電圧を高周波回路に供給するための電源が必要となり、当該電源の存在が小型化への妨げになってしまうという問題点があった。また、高電圧をスイッチに加え続けるため、消費電力が増加するという問題点もあった。
【0005】
この発明はかかる問題点を解決するためになされたもので、運用中にスイッチを動作させる必要が無い場合に、あらかじめ必要なスイッチを動作させて、ある一つの状態を決め、同時にスイッチを物理的に固定し、以後、高電圧を加えることなく、その状態を保持することが可能な高周波回路、および、それを用いたアレイアンテナ装置および集積回路を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、ばね状の梁をもつスイッチと、上記スイッチの梁を駆動するための駆動電極と、上記スイッチに設けられたスイッチ側高周波接点と、上記スイッチ側高周波接点に対向して、基板に設けられた基板側高周波接点と、上記スイッチに接続された高周波線路と、前記基板側高周波接点に接続された高周波線路と、上記スイッチを閉状態に動作させた際に上記スイッチ側高周波接点と前記基板側高周波接点とを構成している金属を溶融させ、固着させるに十分な電流をながすための電源と、上記高周波線路の少なくともいずれか一方と上記電源との間に設けられたインダクタと、上記高周波線路の少なくともいずれか一方に直列に装荷されたコンデンサとを備えた高周波回路である。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、ばね状の梁をもつスイッチと、上記スイッチの梁を駆動するための駆動電極と、上記スイッチに設けられたスイッチ側高周波接点と、上記スイッチ側高周波接点に対向して、基板に設けられた基板側高周波接点と、上記スイッチに接続された高周波線路と、前記基板側高周波接点に接続された高周波線路と、上記スイッチを閉状態に動作させた際に上記スイッチ側高周波接点と前記基板側高周波接点とを構成している金属を溶融させ、固着させるに十分な電流をながすための電源と、上記高周波線路の少なくともいずれか一方と上記電源との間に設けられたインダクタと、上記高周波線路の少なくともいずれか一方に直列に装荷されたコンデンサとを備えた高周波回路であるので、運用中にスイッチを動作(開閉)させる必要が無い場合に、あらかじめ必要なスイッチを動作させて、ある一つの状態を決め、同時に、そのスイッチを物理的に固定することで、以後、高電圧を加えることなく、その状態を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る高周波回路を示す構成図である。なお、以下の各実施の形態1〜4の説明においては、高周波回路としてRF−MEMS高周波回路を例に挙げて説明する。図1において、1,2は高周波端子、3は高周波端子1に接続されたばね状スイッチの梁、4はばね状スイッチを駆動させるための駆動電極、5はばね状スイッチの梁3の先端に設けられたスイッチの梁側の高周波接点、6は高周波端子2に接続されて高周波接点5に対向するように基板側に設けられた基板側の高周波接点、7は、高周波端子1と高周波接点5との間に設けられ、直流電源14からの直流電流をカットするためのコンデンサ、8は、高周波端子2と高周波接点6との間に設けられ、直流電源14からの直流電流をカットするためのコンデンサ、9は高周波端子1と直流電源14との間に設けられ、高周波信号をカットするためのインダクタ、10は高周波端子2と直流電源14との間に設けられ、高周波信号をカットするためのインダクタ、11は駆動電源13と駆動電極4との間に設けられた保護用抵抗、12は直流電源14とインダクタ10との間に設けられた電流値設定のための抵抗、13は直流の駆動電源、14は接点5,6を融着させるための直流電源である。
【0009】
このように、この発明の実施の形態1に係るRF−MEMS高周波回路は、ばね状の梁3をもつスイッチと、スイッチの梁3を駆動するための駆動電極4と、直接接触型の接点5,6と、接点5,6が接触したときに形成されて、高周波端子1,2間の高周波を伝送する高周波線路と直流電源14との間に設けられた高周波信号カット用のインダクタ9,10と、高周波線路に直列に装荷された直流電流カット用のコンデンサ7,8と、直接接触型の接点5,6を構成している金属を溶融させ、それらを互いに固着させるに十分な電流を流すための直流電源14とから主に構成されている。
【0010】
次に動作について説明する。駆動電源13に電圧を発生させると、スイッチの梁3と駆動電極4との間に電圧がかかり、静電力により梁3は駆動電極4に引き寄せられる。同時に、スイッチの梁3と一体で動作する梁3側の高周波接点5も同時に基板側に引き寄せられる。梁3が駆動電極4に接触する前に、梁3側の高周波接点5が基板側の高周波接点6に接触し、スイッチの動作は止まる。この動作により、高周波端子1、コンデンサ7、スイッチの梁3、接点5,6、コンデンサ8、および、高周波端子2がつながって高周波線路を形成し、高周波の伝送が可能になる。なお、スイッチが不良でスイッチの梁3と駆動電極4が接触した場合でも、保護用抵抗11により、電流が制限され、駆動電源13が故障することは無い。
【0011】
スイッチを閉じた状態で固定するには、この状態で、接点融着のための直流電源14に電圧を発生させる。これにより、直流電源14、インダクタ9、スイッチの梁3、接点5,6、インダクタ10、抵抗12、電源14の順に電流が流れる。このとき、電流値設定のための抵抗12の抵抗値は、接点5,6の接触抵抗より十分大きくなるように設定されているので、接触抵抗の値がばらついても、接点5,6を流れる電流値は所望の値となる。この電流により接点5,6の温度が上昇し、接点5,6の金属が柔らかくなり、融着する。ひとたび融着すれば、電源14を切っても、スイッチは閉じた状態を維持する。
【0012】
以上のように、本実施の形態においては、ばね状の梁3をもつスイッチと、スイッチの梁3を駆動するための駆動電極4と、スイッチの梁3に設けられたスイッチの梁側の高周波接点5と、スイッチの梁3側の高周波接点5に対向して、基板に設けられた基板側の高周波接点6と、駆動電極4の駆動によりスイッチの梁3側の高周波接点5と基板側の高周波接点6とが接触したときに、高周波を伝送する高周波線路と、スイッチの梁3側の高周波接点5と基板側の高周波接点6とを構成している金属を溶融させて、互いに固着させるに十分な電流をながすための直流電源14と、高周波線路と直流電源14との間に設けられたインダクタ9,10と、高周波線路に直列に装荷されたコンデンサ7,8とを備え、スイッチが閉じた状態で、直流電源14に電圧を発生させて、それにより、接点5,6の金属を柔らかくして融着させるようにしたので、スイッチを物理的に固定し、以後、高電圧を加えることなく、その状態を保持することが可能である。これにより、高電圧を高周波回路に供給するための電源は不要となり、小型化を図ることができる。また、消費電力も大幅に削減することが可能である。
【0013】
実施の形態2.
上述の実施の形態1では、高周波接点5,6に電流を流し、融着するようにしたものであるが、以下に、駆動機構を融着する場合の実施の形態を示す。
【0014】
図2は、このような場合の実施例である。図2において、21,22は高周波端子であり、23,24は互いに並行に設けられたばね状スイッチの梁で、そのうちの梁24は、高周波端子21に接続されている。梁23と24とは絶縁体34を介在させて接合されており、一体で動作する。また、図1において、25は、梁23に対向して設けられ、ばね状のスイッチを駆動させるための駆動電極であり、26は、スイッチの梁23の先端に設けられた、梁23側の直流接点であり、27は、直流接点26に対向するように基板側に設けられた基板側の直流接点である。28は、スイッチの梁24の先端に設けられた、梁24側の高周波接点であり、29は、高周波接点28に対向するように基板側に設けられるとともに、高周波端子22に接続された基板側の高周波接点である。30は駆動電極25と駆動電源32との間に設けられた保護用抵抗、31は直流電源33と直流接点27との間に設けられた電流値設定のための抵抗、32は、梁23と駆動電極25との間に接続された、ばね状スイッチを駆動させるための直流の駆動電源、33は、直流接点26と抵抗31との間に接続された、接点融着のための直流電源である。
【0015】
次に動作について説明する。駆動電源32に電圧を発生させると、スイッチの梁23と駆動電極25との間に電圧がかかり、静電力により梁23は駆動電極25に引き寄せられる。同時に、スイッチの梁23と一体で動作する梁23側の直流接点26と、スイッチの梁23と一体で動作する別の梁24に配置された高周波接点28も、同時に、基板側に引き寄せられる。梁23が駆動電極25に接触する前に、梁24側の高周波接点28が基板側の高周波接点29に接触し、そのわずか後に、梁23側の直流接点26が基板側の直流接点27に接触し、スイッチの動作は止まる。この動作により、高周波端子21、スイッチの梁24、接点28,29、および、高周波端子22がつながって高周波線路が形成され、高周波の伝送が可能になる。なお、スイッチが不良で、スイッチの梁23と駆動電極25が接触した場合でも、保護用抵抗30により、電流が制限され、駆動電源32が故障することは無い。
【0016】
スイッチを閉じた状態で固定するには、この状態で接点融着のための直流電源33に電圧を発生させる。これにより、直流電源33、スイッチの梁23、直流接点26,27、抵抗31、電源33の順に電流が流れる。このとき、電流値設定のための抵抗31は、直流接点26,27の接触抵抗より十分大きく、接触抵抗の値がばらついても、接点を流れる電流値は所望の値となる。この電流により直流接点26,27の温度が上昇し、直流接点26,27の金属が柔らかくなり、融着する。ひとたび融着すれば、電源33を切っても、スイッチは閉じた状態を維持する。これにより、高周波接点28,29も閉じた状態を維持する。
【0017】
なお、上記実施の形態1では、高周波線路と接点融着用の電流路とが電気的に接続されていたため、高周波信号カット用のインダクタ9,10と、直流電流カット用のコンデンサ7,8とが設けられていたが、本実施の形態においては、絶縁体34により遮断され、高周波線路と接点融着用の電流路とが電気的に接続されていないため、インダクタやコンデンサ等は不要である。
【0018】
以上のように、本実施の形態においては、ばね状の梁24をもつスイッチと、スイッチの梁24を駆動するための駆動電極25と、スイッチに設けられたスイッチの梁24側の高周波接点28と、スイッチの梁24側の高周波接点28に対向して、基板に設けられた基板側の高周波接点29と、駆動電極25の駆動によりスイッチの梁24側の高周波接点28と基板側の高周波接点29とが接触したときに、高周波を伝送する高周波線路と、梁24に接合され、梁24と一体で動作する第2の梁である別の梁23と、梁23に設けられた梁23側の直流接点26と、梁23側の直流接点26に対向するように基板に設けられ、梁24側の高周波接点28と基板側の高周波接点29とが接触したときに、梁23側の直流接点26に接触する基板側の直流接点27と、梁23側の直流接点26と基板側の直流接点27とを構成している金属を溶融させ、固着させるに十分な電流をながすための電源33とを備えるようにしたので、スイッチを物理的に固定し、以後、高電圧を加えることなく、その状態を保持することが可能である。これにより、高電圧を高周波回路に供給するための電源は不要となり、小型化を図ることができる。また、消費電力も大幅に削減することが可能である。
【0019】
実施の形態3.
以上の実施の形態1、2は、スイッチ単体を融着して固定するようにした高周波回路について説明したが、ここでは、当該高周波回路を、複数のアンテナからなり、各アンテナの位相を調整して、電波の放射あるいは到来方向を特定の方向に向けることが可能なアレイアンテナ装置に適用した場合の実施の形態を示す。
【0020】
図3は、アレイアンテナ装置の移相量調整に高周波回路を用いた場合の実施例である。図3において、101、102は高周波端子、103、104、123、124、143、144はばね状スイッチの梁、105、106、125、126、145、146は駆動電極、107、108、127、128、147、148はスイッチの梁側の高周波接点、109、110、129、130、149、150は基板側の高周波接点、111、112、131、132、151、152は保護用抵抗、116、136、156は電流値設定のための抵抗、119は接点融着用の直流電源、120は高周波線路、140は高周波線路120より長い高周波線路、160は高周波線路140よりもさらに長い高周波線路、117、118はスイッチ103、104を導通させる制御端子、137、138はスイッチ123、124を導通させる制御端子、157、158はスイッチ143、144を導通させる制御端子、161、162は直流をカットするコンデンサ、113、114、115、135、155は高周波信号をカットするインダクタである。図3の構成は、上記の実施の形態1で説明した高周波回路が計6個設けられており、各2個ずつが、それぞれ、高周波線路120,140,160に対してスイッチの閉時に接続されるように配置されている。
【0021】
まず、高周波線路120近傍について説明する。スイッチの梁103は、一端がコンデンサ161を介して高周波端子101に接続され、他端には高周波接点107が設けられている。梁103には、駆動電極105が対向して設けられ、駆動電極105に保護用抵抗111を介して接続されている制御端子117に電圧が印加されることにより、スイッチが動作する構成となっている。また、高周波接点107に対向するように、高周波線路120の先端に設けられた高周波接点109が配置されている。高周波接点107および109には、それぞれ高周波信号カット用のインダクタ113,115を介して接点融着用の電源119が接続されている。また、インダクタ115と電源119との間には、電流値設定のための抵抗116が接続されている。
【0022】
また、スイッチの梁104は、一端がコンデンサ162を介して高周波端子102に接続され、他端には高周波接点108が設けられている。梁104には、駆動電極106が対向して設けられ、駆動電極106に保護用抵抗112を介して接続されている制御端子118に電圧が印加されることにより、スイッチが動作する構成となっている。また、高周波接点108に対向するように、高周波線路120の先端に設けられた高周波接点110が配置されている。高周波接点108には、高周波信号カット用のインダクタ114を介して接点融着用の電源119が接続されている。また、高周波接点110は、スイッチ閉成時に、高周波線路120および高周波信号カット用のインダクタ115を介して接点融着用の電源119に接続される。
【0023】
次に、高周波線路140近傍について説明する。スイッチの梁123は、一端がコンデンサ161を介して高周波端子101に接続され、他端には高周波接点127が設けられている。梁123には、駆動電極125が対向して設けられ、駆動電極125に保護用抵抗131を介して接続されている制御端子137に電圧が印加されることにより、スイッチが動作する構成となっている。また、高周波接点127に対向するように、高周波線路140の先端に設けられた高周波接点129が配置されている。高周波接点127および129には、それぞれ高周波信号カット用のインダクタ113,135を介して接点融着用の電源119が接続されている。また、インダクタ135と電源119との間には、電流値設定のための抵抗136が接続されている。
【0024】
また、スイッチの梁124は、一端がコンデンサ162を介して高周波端子102に接続され、他端には高周波接点128が設けられている。梁124には、駆動電極126が対向して設けられ、駆動電極126に保護用抵抗132を介して接続されている制御端子138に電圧が印加されることにより、スイッチが動作する構成となっている。また、高周波接点128に対向するように、高周波線路140の先端に設けられた高周波接点130が配置されている。高周波接点128には、高周波信号カット用のインダクタ114を介して接点融着用の電源119が接続されている。また、高周波接点130は、スイッチ閉成時に、高周波線路140および高周波信号カット用のインダクタ135を介して接点融着用の電源119に接続される。
【0025】
次に、高周波線路160近傍について説明する。スイッチの梁143は、一端がコンデンサ161を介して高周波端子101に接続され、他端には高周波接点147が設けられている。梁143には、駆動電極145が対向して設けられ、駆動電極145に保護用抵抗151を介して接続されている制御端子157に電圧が印加されることにより、スイッチが動作する構成となっている。また、高周波接点147に対向するように、高周波線路160の先端に設けられた高周波接点149が配置されている。高周波接点147および149には、それぞれ高周波信号カット用のインダクタ113,155を介して接点融着用の電源119が接続されている。また、インダクタ155と電源119との間には、電流値設定のための抵抗156が接続されている。
【0026】
また、スイッチの梁144は、一端がコンデンサ162を介して高周波端子102に接続され、他端には高周波接点148が設けられている。梁144には、駆動電極146が対向して設けられ、駆動電極146に保護用抵抗152を介して接続されている制御端子158に電圧が印加されることにより、スイッチが動作する構成となっている。また、高周波接点148に対向するように、高周波線路160の先端に設けられた高周波接点150が配置されている。高周波接点148には、高周波信号カット用のインダクタ114を介して接点融着用の電源119が接続されている。また、高周波接点150は、スイッチ閉成時に、高周波線路160および高周波信号カット用のインダクタ155を介して接点融着用の電源119に接続される。
【0027】
次に動作について説明する。制御端子117、118にそれぞれ電圧を印加すると、スイッチの梁103と駆動電極105との間、および、スイッチの梁104と駆動電極106との間に電圧がかかり、静電力により梁103、104はそれぞれ駆動電極105、106に引き寄せられる。同時に、スイッチの梁103と一体で動作する梁側の高周波接点107、およびスイッチの梁104と一体で動作する梁側の高周波接点108も同時に基板側に引き寄せられる。梁103が駆動電極105に接触する前に、梁側の高周波接点107が基板側の高周波接点109に接触し、スイッチの動作は止まる。また、梁104が駆動電極106に接触する前に、梁側の高周波接点108が基板側の高周波接点110に接触し、スイッチの動作は止まる。この動作により、高周波端子101、コンデンサ161、スイッチの梁103、接点107と109、高周波線路120、接点110と108、スイッチの梁104、コンデンサ162、および、高周波端子102がつながり、高周波信号の伝送が可能になる。スイッチが不良でスイッチの梁103と駆動電極105とが接触した場合でも、保護用抵抗111により、電流が制限され、制御端子117に接続された駆動電源が故障することは無い。また、スイッチが不良でスイッチの梁104と駆動電極106が接触した場合でも、保護抵抗112により、電流が制限され、制御端子118に接続された駆動電源が故障することは無い。
【0028】
同様に、制御端子137、138に電圧を印加すると、スイッチの梁123と駆動電極125との間、および、スイッチの梁124と駆動電極126との間に電圧がかかり、静電力により梁123、124はそれぞれ駆動電極125、126に引き寄せられる。同時に、スイッチの梁123と一体で動作する梁側の高周波接点127、および、スイッチの梁124と一体で動作する梁側の高周波接点128も同時に基板側に引き寄せられる。梁123が駆動電極125に接触する前に、梁側の高周波接点127が基板側の高周波接点129に接触し、スイッチの動作は止まる。また、梁124が駆動電極126に接触する前に、梁側の高周波接点128が基板側の高周波接点130に接触し、スイッチの動作は止まる。この動作により、高周波端子101、コンデンサ161、スイッチの梁123、接点127と129、高周波線路140、接点130と128、スイッチの梁124、コンデンサ162、および、高周波端子102がつながり、高周波信号の伝送が可能になる。スイッチが不良でスイッチの梁123と駆動電極125とが接触した場合でも、保護用抵抗131により、電流が制限され、制御端子137に接続された駆動電源が故障することは無い。また、スイッチが不良でスイッチの梁124と駆動電極126とが接触した場合でも、保護用抵抗132により、電流が制限され、制御端子138に接続された駆動電源が故障することは無い。
【0029】
同様に、制御端子157、158に電圧を印加すると、スイッチの梁143と駆動電極145との間、および、スイッチの梁144と駆動電極146との間に電圧がかかり、静電力により梁143、144はそれぞれ駆動電極145、146に引き寄せられる。同時に、スイッチの梁143と一体で動作する梁側の高周波接点147、および、スイッチの梁144と一体で動作する梁側の高周波接点148も同時に基板側に引き寄せられる。梁143が駆動電極145に接触する前に、梁側の高周波接点147が基板側の高周波接点149に接触し、スイッチの動作は止まる。また、梁144が駆動電極146に接触する前に、梁側の高周波接点148が基板側の高周波接点150に接触し、スイッチの動作は止まる。この動作により、高周波端子101、コンデンサ161、スイッチの梁143、接点147と149、高周波線路160、接点150と148、スイッチの梁144、コンデンサ162、および、高周波端子102がつながり、高周波信号の伝送が可能になる。スイッチが不良でスイッチの梁143と駆動電極145とが接触した場合でも、保護用抵抗151により、電流が制限され、制御端子157に接続された駆動電源が故障することは無い。また、スイッチが不良でスイッチの梁144と駆動電極146とが接触した場合でも、保護用抵抗152により、電流が制限され、制御端子158に接続された駆動電源が故障することは無い。
【0030】
ここで、たとえば高周波線路140の電気長が高周波線路120の電気長に比べて、10度長く、高周波線路160の電気長が高周波線路120の電気長に比べて20度長くしておくことで、制御端子137、138に電圧を加えた状態、制御端子157、158に電圧を加えた状態は、制御端子117、118に電圧を加えた状態にくらべて、10度および20度だけ位相が遅れた状態を実現できる。
【0031】
また、スイッチを閉じた状態で固定するには、おのおのの状態で接点融着のための直流電源119に電圧を発生させる。制御端子117、118に電圧を印加した状態であれば、直流電源119、インダクタ113、スイッチの梁103、接点107、109、インダクタ115、抵抗116、電源119の順に電流が流れる。また、直流電源119、インダクタ114、スイッチの梁104、接点108、110、インダクタ115、抵抗116、電源119の順に電流が流れる。このとき電流値設定のための抵抗116は、接点107、109の接触抵抗、および、接点108、110の接触抵抗より十分大きく、接触抵抗の値がばらついても、接点を流れる電流値は所望の値となる。この電流により接点の温度が上昇し、接点の金属が柔らかくなり、融着する。ひとたび融着すれば、電源119を切っても、スイッチは閉じた状態を維持する。
【0032】
また、同様に、制御端子137、138に電圧を印加した状態であれば、直流電源119、インダクタ113、スイッチの梁123、接点127、129、インダクタ135、抵抗136、電源119の順に電流が流れる。また、直流電源119、インダクタ114、スイッチの梁124、接点128、130、インダクタ135、抵抗136、電源119の順に電流が流れる。このとき電流値設定のための抵抗136は、接点127、129の接触抵抗、および、接点128、130の接触抵抗より十分大きく、接触抵抗の値がばらついても、接点を流れる電流値は所望の値となる。この電流により接点の温度が上昇し、接点の金属が柔らかくなり、融着する。ひとたび融着すれば、電源119を切っても、スイッチは閉じた状態を維持する。
【0033】
また、同様に、制御端子157、158に電圧を印加した状態であれば、直流電源119、インダクタ113、スイッチの梁143、接点147、149、インダクタ155、抵抗156、電源119の順に電流が流れる。また、直流電源119、インダクタ114、スイッチの梁144、接点148、150、インダクタ155、抵抗156、電源119の順に電流が流れる。このとき電流値設定のための抵抗156は、接点147、149の接触抵抗、および、接点148、150の接触抵抗より十分大きく、接触抵抗の値がばらついても、接点を流れる電流値は所望の値となる。この電流により接点の温度が上昇し、接点の金属が柔らかくなり、融着する。ひとたび融着すれば、電源119を切っても、スイッチは閉じた状態を維持する。
【0034】
以上のように、本実施の形態においては、複数のアンテナからなり、各アンテナの位相を調整して、電波の放射あるいは到来方向を特定の方向に向けることが可能なアレイアンテナ装置の各アンテナに接続された高周波回路を移相器として上記実施の形態1の構造を有する高周波回路から構成するようにしたので、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0035】
なお、上記の説明においては、高周波回路が実施の形態1で示した構成を有する例について説明したが、その場合に限らず、高周波回路が実施の形態2で示した構成を有するようにしてもよい。また、その場合には、実施の形態2と同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0036】
また、大型のアレイアンテナを製造した場合、最終的な位相の調整が必要な場合があるが、本実施の形態によれば、長さの異なる高周波線路を複数個用意しておき、例えば、高周波線路140の電気長が高周波線路120の電気長に比べて、10度長く、高周波線路160の電気長が高周波線路120の電気長に比べて20度長くしておくことで、制御端子137、138に電圧を加えた状態、制御端子157、158に電圧を加えた状態は、制御端子117、118に電圧を加えた状態にくらべて、10度および20度だけ位相が遅れた状態を実現できるようにしたので、実施の形態1および2に係る移相器を各アンテナに装着することにより、組み立て後に最適な位相に調整し、調整後に移相器を固定することができる。
【0037】
実施の形態4.
以上の実施の形態3では、RF−MEMS高周波回路をアレイアンテナ用の高周波回路に適用した場合の実施の形態であったが、ここでは集積回路に適用した実施の形態を示す。
【0038】
図4は、集積回路中の高周波増幅器の整合回路の一部にRF−MEMS高周波回路を用いた場合の、実施例である。図4において、201、202は高周波端子、203は整合回路を含んだ高周波増幅器、204、205、および206は、高周波信号の主伝送路であるマイクロストリップ線路、207、208は調整用のスタブとなるマイクロストリップ線路、209、210はばね状スイッチの梁、211、212は、それぞれ、梁209,210に対向して設けられた駆動電極、213、214は、それぞれ、スイッチの梁209,210側の高周波接点、215、216は、それぞれ、高周波接点213,214に対向して設けられた、基板側の高周波接点、217、218は調整用のコンデンサ、226、227は、それぞれ、制御端子228,229と駆動電極211,212との間に設けられた保護用抵抗、225は電流値設定のための抵抗、228、229は制御端子、221、222、224は高周波信号をカットするインダクタ、223は直流電源である。
【0039】
図4に示すように、高周波端子201および202間には、マイクロストリップ線路204,205、高周波増幅器203、マイクロストリップ線路206が順に直列に接続されている。また、マイクロストリップ線路204と205との間には、マイクロストリップ線路207の一端が並列に接続されている。マイクロストリップ線路207の他端には、梁209とマイクロストリップ線路208とが並列に接続されている。梁209の先端には、高周波接点213が設けられている。高周波接点213に対向して、高周波接点215が配置されている。高周波接点215には、コンデンサ217とインダクタ221とが並列に接続されている。インダクタ221の他端は直流電源223に接続されている。コンデンサ217の他端は接地219されている。また、梁209には、駆動電極211が対向しており、駆動電極211には保護用抵抗226を介して制御端子228が接続されている。
【0040】
また、マイクロストリップ線路208の他端には、梁210とインダクタ224とが並列に接続されている。梁210の先端には、高周波接点214が設けられている。高周波接点214に対向して、高周波接点216が配置されている。高周波接点216には、コンデンサ218とインダクタ222とが並列に接続されている。インダクタ222の他端は直流電源223に接続されている。コンデンサ218の他端は接地220されている。また、梁210には、駆動電極212が対向しており、駆動電極212には保護用抵抗227を介して制御端子229が接続されている。さらに、インダクタ224の他端には、電流値設定のための抵抗225が接続され、抵抗225の他端は接地されている。
【0041】
次に動作について説明する。制御端子228あるいは229に電圧を印加すると、スイッチの梁209と駆動電極211との間、あるいは、スイッチの梁210と駆動電極212の間に電圧がかかり、静電力により梁209、あるいは210はそれぞれ駆動電極211、212に引き寄せられる。同時に、スイッチの梁209とあるいは210と一体で動作する梁側の高周波接点213あるいは214も基板側に引き寄せられる。梁209が駆動電極211に接触する前に、梁側の高周波接点213が基板側の高周波接点215に接触し、スイッチの動作は止まる。あるいは、梁210が駆動電極212に接触する前に、梁側の高周波接点214が基板側の高周波接点216に接触し、スイッチの動作は止まる。この動作により、制御端子228に電圧をかけた場合には、マイクロストリップ線路204と205の間に、マイクロストリップ線路207を介した接地コンデンサ217が装荷された状態になる。また、制御端子229に電圧をかけた場合には、マイクロストリップ線路204と205の間に、マイクロストリップ線路207と208を介した接地コンデンサ218が装荷された状態になる。さらに、どちらの制御端子にも電圧をかけない場合、および、両方の制御端子に電圧を書けた場合も、マイクロストリップ線路204と205の間に、マイクロストリップ線路207と208、コンデンサ217、218に応じた異なるサセプタンス素子が装荷された状態になる。
【0042】
このように、2つのスイッチにより4つの異なるサセプタンス素子を装荷できるので、増幅器203が、製造時のばらつきなどにより特性が変化しても、スイッチを切り替えることで、より最適な高周波特性に調整できる。
【0043】
スイッチを閉じた状態で固定するには、おのおのの状態で接点融着のための直流電源223に電圧を発生させる。制御端子228に電圧を印加した状態であれば、直流電源223、インダクタ221、接点215、213、スイッチの梁209、マイクロストリップ線路208、インダクタ224、抵抗225の順に電流が流れる。制御端子229に電圧を印加した状態であれば、直流電源223、インダクタ222、接点216、214、スイッチの梁210、インダクタ224、抵抗225の順に電流が流れる。このとき電流値設定のための抵抗225は、接点213、215の接触抵抗、および接点214、216の接触抵抗より十分大きく、接触抵抗の値がばらついても、接点を流れる電流値は所望の値となる。この電流により接点の温度が上昇し、接点の金属が柔らかくなり、融着する。ひとたび融着すれば、電源223を切っても、スイッチは閉じた状態を維持する。
【0044】
以上のように、本実施の形態は、上記実施の形態1の構造を用いた高周波回路を備えたRF−MEMS高周波集積回路であるので、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0045】
なお、上記の説明においては、高周波回路が実施の形態1で示した構成を有する例について説明したが、その場合に限らず、高周波回路が実施の形態2で示した構成を有するようにしてもよい。また、その場合には、実施の形態2と同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0046】
また、実施の形態1あるいは2の構造を用いた高周波回路を含む集積回路であるので、高周波特性の調整を行うことで、回路のばらつきを抑え、性能の向上を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の実施の形態1に係るRF−MEMS高周波回路の構成を示した構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係るRF−MEMS高周波回路の構成を示した構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3に係る、RF−MEMS高周波回路を備えたアレイアンテナ装置の構成を示した構成図である。
【図4】この発明の実施の形態4に係る、RF−MEMS高周波回路を備えた集積回路の構成を示した構成図である。
【符号の説明】
【0048】
1,2 高周波端子、3 梁、4 駆動電極、5 高周波接点、6 高周波接点、7,8 コンデンサ、9,10 インダクタ、11 保護用抵抗、12 抵抗、13 駆動電源、14 直流電源、21,22 高周波端子、23,24 梁、25 駆動電極、26 直流接点、27 直流接点、28 高周波接点、29 高周波接点、30 保護用抵抗、31 抵抗、32 駆動電源、33 直流電源、101,102 高周波端子、103,104,123,124,143,144 梁、105,106,125,126,145,146 駆動電極、107,108,127,128,147,148 高周波接点、109,110,129,130,149,150 高周波接点、111,112,131,132,151,152 保護用抵抗、113,114,115,135,155 インダクタ、116,136,156 抵抗、117,118 制御端子、119 駆動電源、120 高周波線路、137,138 制御端子、140 高周波線路、157,158 制御端子、160 高周波線路、161,162 コンデンサ、201,202 高周波端子、203 高周波増幅器、204,205,206 マイクロストリップ線路、207,208 マイクロストリップ線路、209,210 梁、211,212 駆動電極、213,214 高周波接点、215,216 高周波接点、217,218 コンデンサ、226,227 保護用抵抗、225 抵抗、228,229 制御端子、221,222,224 インダクタ、223 直流電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばね状の梁をもつスイッチと、
上記スイッチの梁を駆動するための駆動電極と、
上記スイッチに設けられたスイッチ側高周波接点と、
上記スイッチ側高周波接点に対向して、基板に設けられた基板側高周波接点と、
上記スイッチに接続された高周波線路と、前記基板側高周波接点に接続された高周波線路と、
上記スイッチを閉状態に動作させた際に上記スイッチ側高周波接点と前記基板側高周波接点とを構成している金属を溶融させ、固着させるに十分な電流をながすための電源と、
上記高周波線路の少なくともいずれか一方と上記電源との間に設けられたインダクタと、
上記高周波線路の少なくともいずれか一方に直列に装荷されたコンデンサと
を備えたことを特徴とする高周波回路。
【請求項2】
ばね状の梁をもつスイッチと、
上記スイッチの梁を駆動するための駆動電極と、
上記スイッチに設けられたスイッチ側高周波接点と、
上記スイッチ側高周波接点に対向して、基板に設けられた基板側高周波接点と、
上記スイッチに接続された高周波線路と、前記基板側高周波接点に接続された高周波線路と、
上記梁に接合され、上記梁と一体で動作する第2の梁と、
上記第2の梁に設けられた第2の梁側直流接点と、
上記第2の梁側直流接点に対向するように基板に設けられ、上記スイッチ側高周波接点と前記基板側高周波接点とが接触したときに、第2の梁側直流接点に接触する基板側直流接点と、
上記スイッチを閉状態に動作された際に上記第2の梁側直流接点と前記基板側直流接点とを構成している金属を溶融させ、固着させるに十分な電流をながすための電源と
を備えたことを特徴とする高周波回路。
【請求項3】
複数のアンテナからなるアレイアンテナ装置であって、
各アンテナに接続された高周波回路は、請求項1または2に記載の高周波回路から構成されていることを特徴とするアレイアンテナ装置。
【請求項4】
高周波の集積回路であって、
前記高周波の集積回路には、請求項1または2に記載の高周波回路が接続されていることを特徴とする集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−252612(P2008−252612A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92298(P2007−92298)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】