説明

高周波電力増幅器および送信装置

【課題】アイソレータを削除するとともに、送信電力の低下によらずに負荷変動に対処して、高周波電力増幅器を負荷変動に整合させることができるようにする。
【解決手段】送信信号を増幅する第1のトランジスタ21に対して、その出力インピーダンスを調整するための第2のトランジスタ22と、アンテナ31からの反射電力を利用して、第2のトランジスタ22のバイアスを調整するバイアス調整部を設ける。バイアス調整部は、方向性結合器26の逆方向結合出力として得られるアンテナ31からの反射電力の平均電力に相当する直流電圧refdetを生成する検出部29と、この出力を基準電圧detrefと比較する比較器17を有し、比較器出力で第2のトランジスタ22のバイアスを制御する。これにより、アンテナ31のインピーダンス変動に応じて、高周波電力増幅器の出力インピーダンスを変化させ、アンテナ負荷との整合をとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電力増幅器、特に携帯電話機のような移動通信端末に使用して好適な高周波電力増幅器およびこれを用いた送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機のような移動通信端末においては、使用状態によってアンテナに対するユーザの手や頭などとの関連によりアンテナ負荷(インピーダンス特性)が変化することが知られている。
【0003】
従来、高周波電力増幅器とアンテナの間には、携帯電話機のアンテナインピーダンスの変動により発生する反射から電力増幅器を保護するとともに、高周波電力増幅器以降の負荷の変化を防止するためにアイソレータが設けられる(特許文献1参照)。この技術では、アンテナ負荷変動に起因する歪み電力を低減するために、アンテナ負荷変動が生じた場合、負荷からの反射電力に応じて送信電力を低下させることにより、歪み電力を一定以下に抑制する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2005−51775号公報
【非特許文献1】Andre van Bezooijen, Christophe Chanlo, Arthur H. M. ban Roermund 共著 "Adaptively Preserving Power Amplifier Linearity under Antenna Mismatch", 2004 IEEE MTT-S (Microwave Theory and Techniques Society)、pp.1515-1518
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、携帯型の移動通信端末は小型化が要求されており、比較的に実装サイズが大きいアイソレータを削除できれば好ましい。
【0005】
非特許文献1には、アイソレータを用いずに、不整合時に電力増幅器の直線性を適応的に維持する技術が提案されている。この技術においては、出力トランジスタのコレクタに接続されたピーク検出器の出力に応じて、電力増幅器に前置された可変増幅器のゲインを低下させる制御を行っている。
【0006】
この技術によれば、アイソレータが削除されるが、歪みの防止のために送信電力を低下させると、移動通信端末からの送信電力が低下するために、通信障害を生じる恐れがある。
【0007】
本発明はこのような背景においてなされたものであり、アイソレータを削除するとともに、送信電力の低下によらずに負荷変動に対処して、高周波電力増幅器を負荷変動に整合させることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による高周波電力増幅器は、アンテナに接続される送信装置に用いられる高周波電力増幅器であって、送信信号を増幅する第1の電力増幅トランジスタと、この第1の電力増幅トランジスタの出力インピーダンスを調整するための第2の電力増幅トランジスタと、アンテナからの反射電力を利用して、前記第2の電力増幅トランジスタのバイアスを調整するバイアス調整部とを備え、前記バイアス調整部により、アンテナのインピーダンス変動に応じて、高周波電力増幅器の出力インピーダンスを変化させ、高周波電力増幅器とアンテナ負荷との整合をとることを特徴とする。 前記バイアス調整部は、アンテナからの反射電力を検出し、これを高周波電力増幅器とアンテナ負荷との間の不整合の度合いとして前記第2の電力増幅トランジスタのバイアスを調整する。これにより、前記第1および第2の電力増幅トランジスタのバイアスが不均一として、高周波電力増幅器の出力インピーダンスがアンテナのインピーダンス変動に追従させ、高周波電力増幅器とアンテナ負荷との整合をとることができる。
【0009】
本発明による送信装置は、ベースバンド信号処理部と、このベースバンド信号処理部で生成された送信信号を増幅する高周波電力増幅器とを備え、この高周波電力増幅器がアンテナに接続される送信装置であって、前記高周波電力増幅器は、前記ベースバンド信号処理部からの送信信号を入力整合回路を介して受けて増幅する高周波トランジスタと、この高周波トランジスタの出力信号を段間整合回路を介してバイアス信号として受ける第1の電力増幅トランジスタと、この第1の電力増幅トランジスタの出力インピーダンスを調整するための第2の電力増幅トランジスタと、アンテナからの反射電力を利用して、前記第2の電力増幅トランジスタのバイアスを調整するバイアス調整部とを備える。この高周波電力増幅器は、アンテナのインピーダンス変動に応じて、高周波電力増幅器の出力インピーダンスを変化させ、高周波電力増幅器とアンテナ負荷との整合をとる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電力増幅装置によれば、アイソレータを削除しつつ、アンテナ反射電力を利用して二つの電力増幅トランジスタのバイアスを不均一に調整することにより、アンテナインピーダンス変動に従って電力増幅器の最適負荷を変化させ、インピーダンスの整合をとることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態による高周波電力増幅器を含む送信装置10の構成例を示す。
【0013】
入力整合回路(Min)12は、ベースバンド信号処理部11からの送信信号rfinを受けてその出力をソース接地高周波トランジスタ(FET)13のゲートに接続する。ソース接地高周波トランジスタ13のドレインは、段間整合回路(Mm)14を介して、第1のソース接地電力増幅トランジスタ(FET)21のゲートに接続される。段間整合回路14の出力は、また、コンデンサ19を介して第2のソース接地電力増幅トランジスタ(FET)22のゲートに接続される。
【0014】
第1および第2の電力増幅トランジスタ21,22のドレインはそれぞれ第1および第2の出力整合回路(Mo1,Mo2)23,24を介して、互いに結合され、方向性結合器26に入力される。方向性結合器26の出力はデュプレクサ30を介してアンテナ31に接続される。デュプレクサ30は送信回路と受信回路の送受信動作にアンテナ31を共用するための回路である。
【0015】
方向性結合器26は、その順方向結合出力を、高周波電力の平均電圧を検出する検出部(pdet)28に入力する。この検出部28から出力される信号detは、送信出力に比例し、ベースバンド信号処理部11にフィードバックされ、送信電力値を安定に保持するためのモニタ信号として用いられる。
【0016】
方向性結合器26は、また、その逆方向結合出力を検出部(pdet)29に入力する。検出部29は、アンテナ負荷からの反射電力の平均電圧を検出する。その出力refdetは、ベースバンド信号処理部11から出力される予め定められた基準信号detrefと、電圧変換部(比較器)17で比較される。この比較出力がバイアス電圧信号vbiasとして、第2のソース接地電力増幅トランジスタ22のゲートに印加される。上記コンデンサ19は、電圧変換部17の出力が第1の電力増幅トランジスタ21のゲートにバイアスとして伝わることを阻止する手段として機能する。
【0017】
図1からわかるように、この送信装置10の構成においては、電力増幅器からアンテナ側のインピーダンスの変化を見えにくくするためのアイソレータは設けられていない。
【0018】
アンテナ接続部は、理想的には50オームに整合されているが、移動通信端末の使用状況に応じたアンテナインピーダンスの変動により、このインピーダンスと電力増幅器側の出力インピーダンスとの間で不整合が生じる。その結果、方向性結合器26の逆方向結合出力にアンテナからの反射電力が出力される。この反射電力の平均電力に相当する直流電圧refdetを検出部29で生成し、この直流電圧refdetと、予め設定した基準電圧detrefとを電圧変換部17にて比較し、第2の電力増幅トランジスタ22のゲートバイアス電圧を変化させる。ここで、この電圧変換部17の出力は、コンデンサ19により遮断され、第1の電力増幅トランジスタ21のバイアスに影響を与えない。
【0019】
アンテナの負荷変動によりアンテナインピーダンスが変化すると、第2の電力増幅トランジスタ22のゲートバイアス電圧が変化し、これに応じて、第1および第2の電力増幅トランジスタ21,22の合成された出力インピーダンスも変化する。この変化は、合成した出力インピーダンスがアンテナの負荷変動に追従する方向に生じる。その結果、アンテナの負荷変動があっても、高周波電力増幅器との不整合が解消または軽減される。
【0020】
なお、整合回路12,14,23,24および検出部28,29の構成自体は公知であり、特にそれらの具体的な構成を限定するものではない。
【0021】
図2は、本実施の形態の動作を説明するための負荷図(スミスチャート)である。上記バイアス電圧の調整により、電力増幅器としての最適負荷がどのように変化するかを示している。
【0022】
先ず、上記バイアス調整が行われる前の電力増幅器の最適負荷(即ち、消費電流及び歪が最適値となる負荷)が、図中の“vbias変動前”201にあったものとする。アンテナインピーダンスが、同じく図中の“頭部接触”211の範囲にあれば、この変動範囲において、電力増幅器は規定の電流及び歪を満足する。この状態の後、アンテナが指掛け状態になると、アンテナインピーダンスが図中“指掛”212の位置に移動する。この状態では、“指掛”212で示したアンテナ状態による負荷変動範囲が“vbias変動前”201で示した電力増幅器の最適負荷変動範囲から外れるため、電力増幅器の電流及び歪が、動作周波数により、規定を満たさない場合が生じる。このとき、前述のバイアス調整部のvbias電圧により、電力増幅器に最適な負荷インピーダンスを、図2中の“vbias変動後”202で示す最適負荷変動範囲に移動させる。その結果、消費電流、歪が満足されるようになる。
【0023】
本実施の形態によれば、アイソレータを削除しても、アンテナ反射電力を利用して二つの電力増幅トランジスタ21,22のバイアスを不均一に調整することにより、アンテナインピーダンス変動に応じて、電力増幅器の最適負荷を変化させ、電力増幅器とアンテナ負荷との整合をとることができる。アイソレータを削除する代わりに方向性結合器やバイアス調整部の部品が必要となるが、これを差し引いてもアイソレータの削除はコストおよびスペースの削減の効果がある。
【0024】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記で言及した以外にも種々の変形、変更を行うことが可能である。例えば、トランジスタとしてFETを用いる例を示したが、バイポーラ型のトランジスタを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態による高周波電力増幅器を含む送信装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の動作を説明するための負荷図である。
【符号の説明】
【0026】
10…送信装置、11…ベースバンド信号処理部、12…入力整合回路(Min)、13…ソース接地高周波トランジスタ、14…段間整合回路(Mm)、17…電圧変換部(比較器)、19…コンデンサ、21,22…第1および第2のソース接地電力増幅トランジスタ、23,24…出力整合回路(Mo1,Mo2)、26…方向性結合器、28,29…検出部、30…デュプレクサ、31…アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナに接続される送信装置に用いられる高周波電力増幅器であって、
送信信号を増幅する第1の電力増幅トランジスタと、
この第1の電力増幅トランジスタの出力インピーダンスを調整するための第2の電力増幅トランジスタと、
アンテナからの反射電力を利用して、前記第2の電力増幅トランジスタのバイアスを調整するバイアス調整部とを備え、
前記バイアス調整部により、アンテナのインピーダンス変動に応じて、高周波電力増幅器の出力インピーダンスを変化させ、高周波電力増幅器とアンテナ負荷との整合をとることを特徴とする高周波電力増幅器。
【請求項2】
前記バイアス調整部は、前記第1および第2の電力増幅トランジスタの合成出力を受けてアンテナに供給する方向性結合器と、この方向性結合器の逆方向結合出力から反射電力の平均電圧を検出する検出部と、この検出部の出力信号を所定の基準信号と比較する比較器とを有し、この比較器の出力により前記第2の電力増幅トランジスタのバイアスを制御することを特徴とする請求項1記載の高周波電力増幅器。
【請求項3】
前記比較器の出力が前記第1の電力増幅トランジスタのバイアスに影響を与えることを阻止する手段をさらに備えたことを特徴とする請求項2記載の高周波電力増幅器。
【請求項4】
前記方向性結合器の順方向結合出力から高周波電力の平均電圧を検出する検出部をさらに備え、この検出部の出力は送信電力値を安定に保持するためのモニタ信号として用いられることを特徴とする請求項2記載の高周波電力増幅器。
【請求項5】
ベースバンド信号処理部と、
このベースバンド信号処理部で生成された送信信号を増幅する高周波電力増幅器とを備え、
この高周波電力増幅器がアンテナに接続される送信装置であって、
前記高周波電力増幅器は、
前記ベースバンド信号処理部からの送信信号を入力整合回路を介して受けて増幅する高周波トランジスタと、
この高周波トランジスタの出力信号を段間整合回路を介してバイアス信号として受ける第1の電力増幅トランジスタと、
この第1の電力増幅トランジスタの出力インピーダンスを調整するための第2の電力増幅トランジスタと、
アンテナからの反射電力を利用して、前記第2の電力増幅トランジスタのバイアスを調整するバイアス調整部とを備え、
アンテナのインピーダンス変動に応じて、高周波電力増幅器の出力インピーダンスを変化させ、高周波電力増幅器とアンテナ負荷との整合をとることを特徴とする送信装置。
【請求項6】
前記バイアス調整部は、前記第1および第2の電力増幅トランジスタの合成出力を受けてアンテナに供給する方向性結合器と、この方向性結合器の逆方向結合出力から反射電力の平均電圧を検出する検出部と、この検出部の出力信号を所定の基準信号と比較する比較器とを有し、この比較器の出力により前記第2の電力増幅トランジスタのバイアスを制御することを特徴とする請求項5記載の送信装置。
【請求項7】
前記比較器の出力が前記第1の電力増幅トランジスタのバイアスに影響を与えることを阻止する手段をさらに備えたことを特徴とする請求項6記載の送信装置。
【請求項8】
前記方向性結合器の順方向結合出力から高周波電力の平均電圧を検出する検出部をさらに備え、この検出部の出力は送信電力値を安定に保持するためのモニタ信号として前記ベースバンド信号処理部で用いられることを特徴とする請求項6記載の送信装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−274399(P2007−274399A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98303(P2006−98303)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(501431073)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社 (810)
【Fターム(参考)】