説明

高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置

【課題】ライナへの繊維の巻き付けの際の特に内層部の繊維の緩みの発生を抑制することができる高圧タンクの製造方法を提供する。
【解決手段】ライナ28とライナ28の外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造方法であって、ライナ28を冷却してライナの外面に少なくとも1層目の繊維を巻き付け、繊維層を形成する高圧タンクの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車や天然ガス自動車等には、燃料ガスとしての水素ガスや天然ガス等を貯蔵する高圧タンクが搭載される。高圧タンクとして、樹脂製または金属製タンク(ライナ:内容器)の外面に単位密度当りの強度が非常に高い炭素繊維強化プラスチック材(CFRP材)等を巻き付けて補強した高圧タンクが知られている。このような高圧タンクを製造する際、例えばフィラメントワインディング法のように炭素繊維等の繊維束にエポキシ樹脂等の樹脂溶液を含浸させた状態で樹脂製タンクの外面に巻き付けて繊維層を形成した後、樹脂を硬化させて補強層を形成する方法がある。
【0003】
フィラメントワインディング法で高圧タンクを製造する場合、タンクの高い強度を確保するためには、炭素繊維等の繊維の張力を高くすることが好ましい。
【0004】
通常、ライナに繊維束を何層も巻き付けて繊維層を形成するが、特に内層部は高張力で巻き付けることが望まれ、内層部の繊維張力が低いと繊維層の空隙や繊維折れが発生して、タンク強度低下の原因となることがある。また、高い張力で繊維束を巻き付けて積層していくと、先に巻き付けた内層部の繊維の緩みが発生し、タンク強度低下が発生することがある。そのため、高圧タンクに要求される性能を充分に満足できない可能性がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、タンクの耐圧性を向上させるために、中空としたタンク基体の外側面に硬化用樹脂材料付きの強化繊維を巻付けて形成した耐圧シェルを具備する高圧タンクの製造方法において、前記タンク基体の内部には圧力調整用の流体を充填し、この圧力調整用の流体を加圧しながら前記タンク基体に巻付張力を加えた前記強化繊維を巻付けることにより繊維層を形成するとともに、この繊維層を多層積層して前記耐圧シェルを形成すること、前記圧力調整用の流体を加温することにより前記強化繊維に塗着した前記硬化用樹脂材料の硬化を促進させながら前記繊維層を形成することが記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1の技術では、ライナへの繊維の巻き付けの際の特に内層部の繊維の緩みの発生を充分に抑制することができない場合がある。
【0007】
また、特許文献2には、所望の繊維体積含有率(FRP層の単位体積に占める繊維の割合)を有するFRP成形体を製造するために、フィラメントワインディング法によりFRP成形体を製造する方法において、導電性を有する繊維に、熱硬化性の樹脂を含浸させる工程(a)と、前記樹脂を含浸した前記繊維の長さ方向の一部に通電しながら、前記繊維を回転部材の周囲に巻き付ける工程(b)と、を備えること、樹脂含浸繊維層の形成中にワークが凹むのを防ぐために、ワークの内部を加圧することが記載されている。
【0008】
特許文献3には、繊維強化プラスチック層の内層側の繊維体積含有率が高くなることを抑制するために、FRP成形体の製造方法において、マンドレルの周囲に樹脂含浸繊維層を形成する工程(a)と、該樹脂含浸繊維層の厚さ方向に、外層側が高温で内層側が低温となる温度勾配を生じさせた状態で、前記樹脂含浸繊維層を昇温させる工程(b)と、を具備すること、樹脂含浸繊維層を熱硬化させる際に、マンドレル10の内部に冷媒を循環させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2004/070258号パンフレット
【特許文献2】特開2009−028961号公報
【特許文献3】特開2009−012341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ライナへの繊維の巻き付けの際の特に内層部の繊維の緩みの発生を抑制することができる高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造方法であって、ライナを冷却して前記ライナの外面に少なくとも1層目の繊維を巻き付け、繊維層を形成する高圧タンクの製造方法である。
【0012】
また、前記高圧タンクの製造方法において、前記ライナを冷却して前記ライナの外面に少なくとも1層目の繊維を巻き付けた後に前記ライナを加熱して、前記少なくとも1層目より後の層の繊維を巻き付けて繊維層を形成することが好ましい。
【0013】
また、前記高圧タンクの製造方法において、前記ライナを冷却して繊維を巻き付ける際に、前記ライナの内部を加圧状態にすることが好ましい。
【0014】
また、前記高圧タンクの製造方法において、前記ライナの内部を冷却して繊維を巻き付けることが好ましい。
【0015】
また、前記高圧タンクの製造方法において、0℃以下の不活性ガスを用いて前記ライナの内部を冷却して繊維を巻き付けることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造するための高圧タンクの製造装置であって、ライナを冷却する冷却手段を有することが好ましい。
【0017】
また、前記高圧タンクの製造装置において、前記ライナを加熱する加熱手段を有することが好ましい。
【0018】
また、前記高圧タンクの製造装置において、前記ライナの内部を加圧状態にする加圧手段を有することが好ましい。
【0019】
また、前記高圧タンクの製造装置において、前記冷却手段が、前記ライナの内部を冷却するものであることが好ましい。
【0020】
また、前記高圧タンクの製造装置において、前記冷却手段が、前記ライナの内部に0℃以下の不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、ライナを冷却してライナの外面に少なくとも1層目の繊維を巻き付けて繊維層を形成することにより、ライナへの繊維の巻き付けの際の特に内層部の繊維の緩みの発生を抑制することができる高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の一例の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置における繊維の巻き付け部分の構成の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態における高圧タンクの製造方法における高圧タンクの軸方向の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の一例の全体構成の概略を図1に示す。また、本実施形態に係る高圧タンクの製造装置における繊維の巻き付け部分の構成の一例の概略を図2に示す。
【0025】
図1に示すように、高圧タンクの製造装置1は、繊維巻き付け装置10を備える。繊維巻き付け装置10は、ライナ28を支持するための回転支持部12を有する。図2に示すように、この回転支持部12には、ライナ28を冷却する冷却手段としての冷却機構14が設置されている。冷却機構14は、例えばライナ28の内部に低温不活性ガス等の冷媒を供給する不活性ガス供給手段等の冷媒供給手段としてのガスボンベ等に通じる冷却用配管18を備える。また、回転支持部12には、ライナ28を加熱する加熱手段としての加熱機構16が設置されていてもよい。加熱機構16は、例えばライナ28の内部に温風等の熱媒を供給する温風供給手段等の熱媒供給手段等としての温風発生装置等に通じる加熱用配管20を備える。冷却用配管18と加熱用配管20とを切り替える切替手段としての切替バルブ22と、冷却用配管18および加熱用配管20に切替バルブ22を介して接続され、切替バルブ22と回転支持部12とに接続される配管24とを備えていてもよい。
【0026】
本実施形態に係る高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置1の動作について説明する。
【0027】
図1,2に示すように、ライナ28は、繊維巻き付け装置10の回転支持部12に設置される。例えば、略円柱状のライナ28は図3に示すようなライナ28の軸を通したシャフト32によって、図2に示すように回転支持部12に支持される。回転支持部12によってライナ28が回転され、図1のボビン36から繰り出された繊維束34がライナ28の外面に巻き付けられる。繊維束34には、例えば、繊維巻き付け装置10の上流側で、エポキシ樹脂等の熱硬化性の樹脂溶液が含浸され、その後、図2に示すように繊維ガイド部40で角度調整されて、ライナ28に巻き付けられる。このとき、冷却機構14および加熱機構16によりライナ28の温度が調整され、ライナ28が冷却状態または加熱状態にされて、繊維束34が巻き付けられる。こうして、ライナ28の外面に繊維束34が所定の厚みおよび所定の方向で巻き付けられ繊維層が形成される。
【0028】
ライナ28に繊維束34を巻き付ける前に、図1のように拡幅ローラ38等の拡幅手段を設けて、拡幅ローラ38等に繊維束34を押し付けて予め拡幅しておいてもよい。ここで、繊維束を拡幅するとは、例えば、繊維束を構成する繊維を拡げて繊維束を略扁平な状態にすることを意味する。
【0029】
本実施形態では、図2のように、回転支持部12に、冷却用配管18と加熱用配管20とが切替バルブ22、配管24を介して接続されて、不活性ガス供給手段等の冷媒供給手段により低温不活性ガス等の冷媒を冷却用配管18、配管24および回転支持部12を通じてライナ28内に供給して、ライナ28の内部を冷却状態にしてライナ28の外面に少なくとも1層目の繊維束34を巻き付けて内層部を形成する。その後切替バルブ22を切り替えて、温風供給手段等の熱媒供給手段により温風等の熱媒を加熱用配管20、配管24および回転支持部12を通じてライナ28内に供給して、ライナ28の内部を冷却状態から加熱状態にして、前記少なくとも1層目より後の層の中間層部から外層部の繊維束34を巻き付けて繊維層を形成する。
【0030】
高圧タンクにおいて高い強度を確保するためには、巻き付ける繊維の張力を高くすることが望ましい。繊維層の内層部より外層部の繊維の張力を高くすると、先に巻き付けた内層部の繊維が緩み、強度、疲労性能等が低下することがあり、特に、ライナに近い巻き始めの内層部の張力を上げることが望ましい。フィラメントワインディング法において、高い張力でライナに繊維を巻き付けると、特に樹脂ライナの場合にライナの変形が生じ、必要な繊維張力まで上げることが困難な場合がある。そのため、高圧タンクに要求される性能(バースト強度等)を満足できないことがある。そこで、繊維の張力にライナの強度が負けないように、空気等を用いてライナに内圧をかけることがあるが、特に繊維束の巻き始めはライナの内圧を高くするとライナ自体が変形してしまうことがある。本実施形態では、空気等の代わりに、繊維束34の巻き始めでは低温不活性ガス等の冷媒を用いることにより、ライナ28を冷却状態、好ましくは冷凍硬化状態にして、ライナ28の剛性を上げた状態で繊維束34を巻き付ける。
【0031】
本実施形態において、繊維束34の巻き数が増えるに従い、温風等の熱媒を用いてライナ28の温度を上昇させることが好ましい。これにより、繊維束34に含浸しているエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の粘度を下げて密着性を上げることにより、繊維間の緩みを防止することができ、かつ、繊維間の接着性向上をはかることができる。
【0032】
このように、繊維束34の巻き始めにはライナ28を冷却状態、好ましくは冷凍硬化状態にして、内層部の繊維に張力を充分にかけて繊維束34を巻き付けることにより、繊維に必要な張力がかけられ、かつ、ライナ28への繊維束34の巻き付けの際の繊維の緩みの発生を抑制することができる。よって、繊維の積層時の張力を上げ過ぎることなく、積層時の繊維間の緩みを防止することができるため、タンク強度および疲労強度が確保され、高性能の高圧タンク26を製造することができる。特に、ライナ28に繊維束34を巻き付けて高圧タンク26を製造する際に、先に巻き付けた内層部の繊維の緩みを防止できるため、中間層部から外層部まで、繊維に張力を充分にかけて繊維束34を巻き付けることができ、高い強度の高圧タンク26を製造することができる。
【0033】
また、内層部から外層部にかけて繊維束34を巻き付けるに従い、ライナ28の温度を上昇させながら繊維束34を巻き付けることにより、繊維間の密着性および接着性を向上することができるため、繊維層における空隙等の発生も防止することができる。
【0034】
特に、複数のボビン36から繊維束34を繰り出してライナ28に巻き付ける多給糸フィラメントワインディング法では、多くの繊維束34を同時に巻き付けるために高い張力がライナ28にかかるので、本実施形態に係る製造方法による効果がより発揮される。
【0035】
また、本実施形態において、ライナ28への繊維束34の巻き付けの際の内層部の繊維の張力を高くし、かつ、中間層部から外層部になるに従って徐々に繊維の張力を下げることが好ましい。ライナ28の内層部から外層部にかけて、繊維張力差をつけることができるため、繊維の緩みを防止でき、タンクの高い疲労強度が確保される。
【0036】
繊維束34の巻き付け工程後、高圧タンク26は、加熱炉等において熱処理される。高圧タンク26は、例えば130℃程度で、10〜15時間程度加熱される。この加熱により、熱硬化性樹脂等が含浸された繊維束34が熱硬化され、図3に示すような補強層30が形成される。その後、高圧タンク26は冷却される。このようにして、ライナ28の外面に補強層30が形成された高圧タンク26が製造される。
【0037】
高圧タンク26は、ライナ(内容器)28、補強層(外層)30を含んで構成されている。また、高圧タンク26は、ガス充填・放出口等を備えてもよい。
【0038】
ライナ28は、略円柱状等に形成されてなり、例えば高圧水素ガスなどの媒体をその内部に収容するためのものであり、水素ガス等のガスに直接接触する層である。ライナ28の形状、サイズ、厚みは使用目的、仕様等に応じたものを任意に選択することができる。ライナ28の厚みは、例えば、2mm〜4mmの範囲である。
【0039】
ライナ28は、樹脂材料、金属等を含んで構成される。ライナ28を構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。ライナを構成する金属としては、アルミ合金等の金属が挙げられる。ライナの肉厚やライナを構成する材料の種類は、ライナ28に要求される強度、気密性、成形性等に応じて適宜選択することができる。これらのうち、強度や耐ガス透過性等の点からナイロン等のポリアミド樹脂が好ましい。また、本実施形態に係る高圧タンクの製造方法は、特にライナ28が樹脂材料から構成される場合に効果をより発揮する。
【0040】
樹脂材料から構成されるライナ28は、例えば、上記樹脂の射出成形により成形される。例えば、金型にポリアミド樹脂等の樹脂を流し込んで、略半円柱体を2つ成型し、それらをレーザ等により溶着して樹脂のライナ28が成形される。この射出成形により、厚みが略均一なライナ28が成形される。
【0041】
補強層30は、ライナ28の外側を覆うように設けられてライナ28を補強する層であり、例えば、繊維およびマトリックス樹脂を含んで構成される。補強層30を構成する繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維等が挙げられる。
【0042】
また、補強層30を構成するマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。これらのうち、強度、接着性、耐ガス透過性等の点からエポキシ樹脂が好ましい。
【0043】
補強層30は、例えば、繊維の繊維束にマトリックス樹脂溶液を含浸させた状態でライナ28の外面に巻き付けた後、樹脂を硬化させて形成することができる。
【0044】
補強層30の厚みは、巻き付ける繊維束34の層数等により調整することができ、例えば、20mm〜40mmの範囲である。繊維束34の層数は例えば、30層〜60層程度である。
【0045】
繊維束34は、例えば、上記繊維が10,000〜40,000本程度束ねられたものである。
【0046】
冷却手段としての冷却機構14は、ライナ28を冷却し、冷却状態、好ましくは冷凍硬化状態にするものであればよく、その構成は特に制限されない。冷却機構14は、外部からライナ28を冷却するものであっても、内部からライナ28を冷却するものであってもよい。冷却機構14としては、不活性ガス供給手段等の冷媒供給手段により低温不活性ガス等の冷媒をライナ28内に供給するものの他に、外部冷却等が挙げられる。
【0047】
なお、ガスを冷媒としてライナ28内に供給する場合、この冷却手段は、ライナ28の内部を加圧状態にする加圧手段としても機能することができる。もちろん、外部からライナ28を冷却し、空気等のガスをライナ28内に供給して、ライナ28の内部を加圧状態してもよい。
【0048】
冷媒としては、低温不活性ガス等の低温ガス、液体窒素等の低温液体等が挙げられる。低温不活性ガス等の低温ガスをライナ28内に供給する構成のものが、簡易であり、量産性等の点から好ましい。また、ライナ28の内部を冷却状態かつ加圧状態にすることができるため、低温不活性ガス等の低温ガスを冷媒として用いることが好ましい。冷媒の温度は、例えば、0℃以下である。
【0049】
加熱手段としての加熱機構16は、ライナ28を加熱し、加熱状態にするものであればよく、その構成は特に制限されない。加熱機構16は、外部からライナ28を加熱するものであっても、内部からライナ28を加熱するものであってもよい。加熱機構16としては、温風供給手段等の熱媒供給手段により温風等の熱媒をライナ28内に供給するものの他に、IH等が挙げられる。
【0050】
熱媒としては、温風等の高温ガス、温水等の高温液体等が挙げられる。温風等の高温ガスをライナ28内に供給する構成のものが、簡易であり、量産性等の点から好ましい。また、繊維層の内層部で繊維束34に含浸しているエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の粘度を下げて密着性を上げるために、温風等の熱媒をライナ28内に供給し、ライナ28の内部から加熱することが好ましい。熱媒の温度は、例えば、40℃以上である。
【0051】
なお、繊維束34の巻き始めにライナ28を冷却状態にして繊維束34を巻き付けた後、加熱手段としての加熱機構16を用いずにライナ28の温度を自然に上昇させながら、内層部から外層部にかけて繊維束34を巻き付けてもよい。しかし、生産効率等の点から、加熱機構16を用いて強制的にライナ28の温度を上昇させることが好ましい。
【0052】
本明細書において「冷却状態」とは、ライナ28の外面が0℃以下の状態であればよく特に制限はないが、例えば、ライナ28の外面が0℃〜−5℃程度の冷却状態のことをいう。また、「冷凍硬化状態」とは、ライナ28を構成する材料にもよるが、例えば、ライナ28の外面が−5℃〜−10℃程度の冷凍状態のことをいう。
【0053】
本明細書において「加熱状態」とは、ライナ28の外面が常温(20℃〜30℃程度)以上の状態であればよく特に制限はないが、例えば、ライナ28の外面が40℃〜50℃程度の加熱状態のことをいう。
【0054】
本明細書において「加圧状態」とは、大気圧より高い圧力の状態であればよく特に制限はないが、例えば、0.2MPa〜0.8MPa程度の加圧状態のことをいう。
【0055】
例えば、ライナ28の内部を、例えば0.2MPa〜0.4MPa程度の加圧状態かつライナ28の外面で0℃〜−5℃程度の冷却状態にして、ライナ28の外面に内層部(例えば、1層目から4〜5層目)の繊維束34を巻き付け、その後切替バルブ22を切り替えて、ライナ28の内部を、ライナ28の外面で40℃〜50℃程度の加熱状態にして、中間層部から外層部(例えば、5〜6層目以降)の繊維束34を巻き付ければよい。
【0056】
通常、繊維束34の巻き付け方向は、ライナ28の回転軸に対して略垂直方向、または斜め方向である。
【0057】
本実施形態に係る高圧タンク26は、例えば、移動体に搭載され、内部に高圧ガスを貯蔵する高圧タンクである。また、高圧タンク26は、据え置き型の高圧タンクであってもよい。
【0058】
ここで、移動体としては、二輪の車両、バスや乗用車等の四輪以上の自動車のほか、電車、船舶、航空機、ロボットなどが挙げられ、特に燃料電池車両である。高圧ガスとしては、水素ガスや圧縮天然ガスなどが挙げられる。
【0059】
本実施形態に係る高圧タンクの製造装置および高圧タンクの製造方法により得られる繊維束は、樹脂溶液を含浸させて硬化した繊維強化プラスチック材(FRP材)等として、各種素材の強化材等に用いることができる。例えば、炭素繊維の場合、炭素繊維の繊維束にエポキシ樹脂等の樹脂溶液を含浸させた炭素繊維強化プラスチック材(CFRP材)として、高圧タンク、自動車用シャフト、航空機の胴体、部品等の補強材として用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 高圧タンクの製造装置、10 繊維巻き付け装置、12 回転支持部、14 冷却機構、16 加熱機構、18 冷却用配管、20 加熱用配管、22 切替バルブ、24 配管、26 高圧タンク、28 ライナ(内容器)、30 補強層(外層)、32 シャフト、34 繊維束、36 ボビン、38 拡幅ローラ、40 繊維ガイド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造方法であって、
ライナを冷却して前記ライナの外面に少なくとも1層目の繊維を巻き付け、繊維層を形成することを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記ライナを冷却して前記ライナの外面に少なくとも1層目の繊維を巻き付けた後に前記ライナを加熱して、前記少なくとも1層目より後の層の繊維を巻き付けて繊維層を形成することを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記ライナを冷却して繊維を巻き付ける際に、前記ライナの内部を加圧状態にすることを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記ライナの内部を冷却して繊維を巻き付けることを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の高圧タンクの製造方法であって、
0℃以下の不活性ガスを用いて前記ライナの内部を冷却して繊維を巻き付けることを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項6】
ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造するための高圧タンクの製造装置であって、
ライナを冷却する冷却手段を有することを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の高圧タンクの製造装置であって、
前記ライナを加熱する加熱手段を有することを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の高圧タンクの製造装置であって、
前記ライナの内部を加圧状態にする加圧手段を有することを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の高圧タンクの製造装置であって、
前記冷却手段が、前記ライナの内部を冷却するものであることを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項10】
請求項9に記載の高圧タンクの製造装置であって、
前記冷却手段が、前記ライナの内部に0℃以下の不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段を含むことを特徴とする高圧タンクの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235551(P2011−235551A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109537(P2010−109537)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】