説明

高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置

【課題】可使時間(ポットライフ)および硬化時間を短縮しつつ、FRP層の耐久性を維持及び向上させる高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置を提供する。
【解決手段】高圧タンクの製造方法は、主剤を硬化剤により反応させて得られる熱硬化性樹脂を用いた高圧タンクの製造方法であって、主剤を含浸した繊維を基材にフィラメントワインディング法を用いて巻回させプレFRP層を形成する工程(S100)と、プレFRP層が形成された基材を後述する硬化用金型の収容部に収容し(S102)、硬化用金型に設けられた注入配管を介してプレFRP層に硬化剤を加圧条件下で注入し(S104)、プレFRP層の主剤と硬化剤とを反応させて、基材に熱硬化性樹脂と繊維とを含むFRP層を形成する工程(S106)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧タンク等の高圧容器は、鉄等に比べ軽量であって強靱性を有するFRP(Fiber Reinforced Plastic)部材が用いられ、基材表面にFPR部材からなるFRP層が形成されている。ここで、FRP部材は、例えば、繊維と樹脂を含み、プラスチックが強化されたものである。
【0003】
FRP層を形成する方法として、例えば、フィラメントワインディング法(以下「FW法」ともいう)が知られており、このフィラメントワインディング法は、樹脂を含浸した繊維を、円筒状の基材に巻き付けて、FRP層を形成する方法である。FRP層を形成したのち、通常、熱硬化処理が施される。
【0004】
例えば、特許文献1には、FRP層のうち、外側に向かうほど硬化開始温度の高い樹脂を用いるマトリックス樹脂を用いる多層FRP層の製造方法が提案されている。ここで、マトリックス樹脂は、樹脂からなる主剤と、樹脂を硬化させる硬化剤とからなる。
【0005】
上述した多層FRP層の製造方法は、硬化剤の種類及びFW法による巻回時間に応じて、フィラメントワインディング作業中に、硬化が開始してしまう場合がある。
【0006】
また、特許文献2には、樹脂からなる主剤成分と、硬化剤からなる硬化剤成分とを、それぞれ個別に糸状または紐状に吐出流下させ、それぞれを独立に被着体面に複数の線状に塗布した後、加圧接着させる積層体の製造方法が提案されている。
【0007】
主剤成分と硬化剤成分とを独立に線状にして被着体に塗布する際に、主剤成分と硬化剤成分との塗布位置やそれぞれの成分の比率に応じて、被着体表面の硬化にばらつきが生じるおそれがある。また、繊維強化複合材を用いていないので、FRP層を形成することはできない。
【0008】
なお、特許文献3には、例えば、繊維間に半硬化状態の熱硬化性樹脂が含浸されたプリプレグ繊維を用いて1〜10層に対するフィラメントワインディング成形を行い、続いて、液状の熱硬化性樹脂が含浸された繊維玉を用いて11〜36層に対するフィラメントワインディング成形を行い、フィラメントワインディング成形時の繊維間からの熱硬化性樹脂のしみ出しを抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−126615号公報
【特許文献2】特公平4−17139号公報
【特許文献3】特開2008−286297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、主剤と硬化剤とを混合した熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を基材にフィラメントワインディング法により巻回し、熱硬化性樹脂を硬化させて高圧タンクを製造する総製造時間を考慮して、熱硬化性樹脂の硬化時間を制御していた。一方、高圧タンクの製造時間の短縮化が望まれている。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、可使時間(ポットライフ)および硬化時間を短縮しつつ、FRP層の耐久性を維持及び向上させる高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置を提供する。ここで、可使時間(ポットライフ)とは、主剤である樹脂に、硬化剤を混合した後、粘度や状態が使用に耐えられなくなるまでの時間をいう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置は以下の特徴を有する。
【0013】
(1)主剤を硬化剤により反応させて得られる熱硬化性樹脂を用いた高圧タンクの製造方法であって、前記主剤を含浸した繊維を基材にフィラメントワインディング法を用いて巻回させプレFRP層を形成する工程と、前記プレFRP層に前記硬化剤を加圧条件下で注入し、前記プレFRP層の主剤と硬化剤とを反応させて、前記基材に熱硬化性樹脂と繊維とを含むFRP層を形成する工程と、を有する高圧タンクの製造方法である。
【0014】
主剤は、硬化剤がなければ反応しないため、主剤のみを含浸した繊維を基材にフィラメントワインディング法を用いて巻回している間に、主剤が硬化することはない。一方、硬化剤を加圧条件下で注入することによって、主剤のみを含むプレFRP層中に硬化剤を強制的に浸透させ、プレFRP層全体を硬化させることができる。したがって、従来、硬化時間の短かった硬化剤を使用することができ、FRP層形成時間を大幅に短縮させることができ、その結果、高圧タンクの製造時間の短縮化を図ることができる。
【0015】
(2)上記(1)に記載の高圧タンクの製造方法において、前記FRP層を形成する工程において、硬化開始温度の低い硬化剤を注入し、次いで硬化開始温度の高い硬化剤を順に注入して、前記プレFRP層の主剤と硬化開始温度の低い硬化剤及び硬化開始温度の高い硬化剤を反応させ、前記基材に熱硬化性樹脂と繊維とを含むFRP層を形成する高圧タンクの製造方法である。
【0016】
フィラメントワインディング成形の後、硬化剤を注入して熱を用いて硬化させる場合、基材に形成された層の厚み(肉厚)方向に温度分布が生じ、通常、基材側の内層は外層に比べ温度が低くなる傾向がある。そこで、硬化開始温度の低い硬化剤を先に圧入して基材側の内層に硬化開始温度の低い硬化剤を浸透させ、一方、外層に硬化開始温度の高い硬化剤を圧入することによって、温度分布に応じた硬化速度を有する硬化剤を配置することができ、FRP層全体の硬化時間を短縮することができ、また硬化度を均一に保つことができる。
【0017】
(3)上記(1)または(2)に記載の高圧タンクの製造方法において、前記主剤を含浸した繊維が、予め主剤が含浸され半硬化状態のプリプレグ繊維である高圧タンクの製造方法である。
【0018】
プリプレグ繊維を用いることにより、主剤を繊維に含浸させる工程が省かれるため、FRP層形成時間を大幅に短縮させることができ、その結果、高圧タンクの製造時間の短縮化を図ることができる。また、一般に、主剤を繊維に均一に含浸させるため、繊維を主剤バスへ走行させる時間を短縮するには限界がある。したがって、プリプレグ繊維を用いることで、高圧タンクの製造時間が大幅に短縮される。
【0019】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の高圧タンクの製造方法において、前記主剤が、エポキシ樹脂であり、前記硬化剤が、メルカプタン系硬化剤およびチオール系硬化剤の少なくとも一方である高圧タンクの製造方法である。
【0020】
エポキシ樹脂によりFRP層の強靱性が得られるとともに、メルカプタン系硬化剤およびチオール系硬化剤のような速硬化性の硬化剤を用いることに、FRP層形成時間を大幅に短縮させることができ、その結果、高圧タンクの製造時間の短縮化を図ることができる。
【0021】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の高圧タンクの製造方法において、前記FRP層を形成する工程において、さらに加熱を行う高圧タンクの製造方法である。
【0022】
加熱を行うことにより、より硬化時間を短縮化させることができ、その結果、高圧タンクの製造時間が大幅に短縮される。
【0023】
(6)主剤を硬化剤により反応させて得られる熱硬化性樹脂を用いて高圧タンクを製造する製造装置であって、前記主剤を含浸した繊維を基材にフィラメントワインディング法を用いて巻回させプレFRP層を形成する巻回装置と、前記プレFRP層が形成された基材を収容可能な収容部と、前記収容部に硬化剤を注入可能な少なくとも1つ以上の注入配管とを設けられた硬化用金型と、を備えた高圧タンクの製造装置である。
【0024】
主剤のみを含むプレFRP層が形成された基材を硬化用金型の収容部に収容し、この収容部に少なくとも1つ以上の注入配管により注入することにより、効率よく、主剤のみを含むプレFRP層全体に均一に硬化剤を注入させて、浸透させることができる。これにより、硬化度の均一なFRP層が形成される。
【0025】
(7)上記(6)に記載の高圧タンクの製造装置において、硬化用金型の注入配管には、硬化剤を圧入可能な加圧手段が設けられている高圧タンクの製造装置である。
【0026】
加圧手段を用いて硬化剤を圧入することによって、速やかに主剤のみを含むプレFRP層に浸透させることができ、これにより、硬化時間をより短縮化させることができる。
【0027】
(8)上記(6)または(7)に記載の高圧タンクの製造装置において、前記硬化用金型は、さらに前記収容部を加熱可能な加熱装置を備える高圧タンクの製造装置である。
【0028】
硬化剤注入後に加熱装置によって加熱することにより、硬化時間をさらに短縮化させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、従来、硬化時間の短かった硬化剤を使用することができ、FRP層形成時間を大幅に短縮させることができ、その結果、高圧タンクの製造時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る含浸バスを用いたフィラメントワインディング成形に用いる巻回装置の一例の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る高圧タンクの製造における硬化剤注入装置の概略構成図である。
【図3】本発明の実施の形態における高圧タンクの製造方法の一例を説明するフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係るプリプレグを用いたフィラメントワインディング成形に用いる巻回装置の一例の概略構成図である。
【図5】本発明の実施の形態における高圧タンクの製造方法の他の例を説明するフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態における高圧タンクの製造方法の他の例によるFRP層の厚み方向の構成について説明する図である。
【図7】図6の破線で囲ったX部分の拡大模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0032】
本実施の形態における高圧タンクの製造方法の一例は、図3に示すように、主剤を硬化剤により反応させて得られる熱硬化性樹脂を用いた高圧タンクの製造方法であって、主剤を含浸した繊維を基材にフィラメントワインディング法(以下「FW法」ともいう)を用いて巻回させプレFRP層を形成する工程(S100)と、プレFRP層が形成された基材を後述する硬化用金型の収容部に収容し(S102)、硬化用金型に設けられた注入配管を介してプレFRP層に硬化剤を加圧条件下で注入し(S104)、プレFRP層の主剤と硬化剤とを反応させて、基材に熱硬化性樹脂と繊維とを含むFRP層を形成する工程(S106)と、を有する。
【0033】
FW法を用いて主剤を含浸した繊維を基材に巻回させてプレFRP層を形成する工程(図3のS100)に用いる巻回装置の一例が、図1に示されている。図1に示すように、巻回装置20は、リール12に巻き付けられた繊維10を巻き取りながら、繊維10を主剤が貯留されている主剤含浸バス14に浸漬走行させ、この主剤が含浸した含浸繊維22を基材16の表面に巻き付ける装置である。ここで、繊維は、例えばカーボン繊維が用いられる。また、表面の巻き付け方は、フープ巻き、ヘリカル巻きのいずれであってもよい。なお、フープ巻きは、基材16の軸方向に対して略垂直に含浸繊維22を巻き付けるものであり、ヘリカル巻きは、基材16の軸方向に沿って、含浸繊維22をらせん状に巻き付けるものである。
【0034】
本実施の形態における主剤とは、硬化剤との反応により熱硬化性樹脂を形成する樹脂であれば如何なる樹脂でもよいが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。主剤として、好ましくは、エポキシ樹脂であり、直鎖型であっても分岐型であってもよい。本実施の形態の主剤は、原則、後述する硬化剤と反応させる前に硬化反応は開始しない。
【0035】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0036】
次に、プレFRP層に硬化剤を加圧条件下で注入し、プレFRP層の主剤と硬化剤とを反応させて、基材に熱硬化性樹脂と繊維とを含むFRP層を形成する工程(S102からS106)に用いる硬化剤注入装置の構成について、図2を用いて説明する。
【0037】
図2に示すように、硬化剤注入装置は、プレFRP層30が形成された基材16を収容可能な収容部と、収容部に硬化剤を注入可能な少なくとも1つ以上の注入配管42とを設けられた硬化用金型40が設けられ、さらに、硬化開始温度の異なる硬化剤を貯留する第1の硬化剤貯留槽46と第2の硬化剤貯留槽48と、第1の硬化剤貯留槽46および第2の硬化剤貯留槽48から注入配管42に導入する導入管44と、導入管44により注入配管42に導入される硬化剤を圧入するために圧力を加える加圧手段54とが設けられている。さらに、必要に応じて、図示しないが、硬化用金型40内に加熱手段が設けられている。また、本実施の形態では、第1の硬化剤貯留槽46には、硬化開始温度が相対的に低い硬化剤が貯留され、第2の硬化剤貯留槽48には、硬化開始温度が相対的に高い硬化剤が貯留されている。
【0038】
本実施の形態において、硬化剤は、熱硬化樹脂を反応により得ることができれば如何なる硬化剤であっても良いが、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、変性アミンなどの一級、二級、三級アミンであって、具体的には、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノールなどのアミン系硬化剤や、ポリアミド樹脂、メルカプタン系硬化剤、トリアジンチオール等のチオール系硬化剤など挙げられる。ここで、アミン系硬化剤およびポリアミド樹脂は、硬化開始温度が高く、可使時間(ポットライフ)も例えば7〜8時間と長い。一方、メルカプタン系硬化剤、トリアジンチオール等のチオール系硬化剤は、硬化開始温度が低く、可使時間(ポットライフ)も例えば2〜10分(約25℃で)であり、速硬化性を有する。上述のメルカプタン系硬化剤を用いたエポキシ樹脂「2086B Three Bond(スリーボンド)社製」は、100℃で10分で硬化する。また、チオール系硬化剤を用いたエポキシ樹脂である「YL7300」、「YLH1301」(ジャパンエポキシレジン社製)は、低温速硬化型エポキシ樹脂であり、硬化時間は50℃で5分である。
【0039】
ここで、上述したように、可使時間(ポットライフ)とは、主剤である樹脂に、硬化剤を混合した後、粘度や状態が使用に耐えられなくなるまでの時間をいう。
【0040】
次に、図2に示す硬化剤注入装置を用いたプレFRP層への硬化剤の注入および硬化反応操作について、以下に説明する。
【0041】
予め設定した硬化開始温度に応じて、バルブ50,52のいずれかを開けて、第1の硬化剤貯留槽46または第2の硬化剤貯留槽48のいずれかから所望の硬化剤を、導入管44を介し、硬化用金型40の注入配管42を介して、プレFRP層に硬化剤を浸透させる。ここで、硬化剤の注入時に、加圧手段54を用いて加圧することにより、硬化剤がより短時間でプレFRP層に浸透する。さらに、硬化用金型40内に設けられた加熱手段(図示)することにより、プレFRP層30中の主剤と硬化剤との硬化反応が促進されて、さらに短時間で、基材16に熱硬化性樹脂と繊維とを含むFRP層が形成される。
【0042】
ここで、加圧手段54は、硬化剤の注入の際に、加圧状態を変化させてもさせなくてもよく、例えば、初期に高い加圧状態に保ち、後に低い加圧状態にするように制御してもよく、また、注入の間常時同じ加圧状態であってもよく、また初期に低い加圧状態に保ち、後に高い加圧状態にするように制御してもよい。また、硬化剤を所定量注入した後も、硬化剤の浸透促進および逆流防止のために、加圧状態に保つことが好ましい。
【0043】
また、FW法によりプレFRP層30を形成した際に、プレFRP層中の主剤の重量を把握するため、基材16へのプレFRP層30の形成前後の重量を測定しておく。そして、測定により得られたプレFRP層中の主剤の重量に応じて、訂正配合比になるよう、硬化剤の注入量を設定し、上述した操作により硬化剤を所定量注入する。
【0044】
硬化用金型40は、プレFRP層30が形成された基材16を収容する収容部が内部に形成された上側金型と下側金型とからなり、プレFRP層30が覆われる収容部を有する形状であれば如何なる形状であってもよい。硬化用金型40を用いることにより、従来の熱風炉による硬化に比べ効率よく熱を加えることができ、硬化剤を加えたときの外部への垂れも防止できる。
【0045】
従来のように、主剤と硬化剤を混合したものを繊維に含浸させてFW法により基材に巻回させた後に硬化させる製造方法では、高圧タンクの製造に係る時間(例えば4〜10時間)と硬化にかかる時間は同等時間(例えば130℃で7時間)かけていたが、本実施の形態における高圧タンクの製造方法および製造装置では、FW法による巻回と硬化とを別工程にしたため、硬化にかかる時間を従来に比べ大幅に短くすることができる(例えば100℃で10分または50℃で5分)。
【0046】
また、図1に示す巻回装置に用いた、含浸バスを用いて主剤を繊維に含浸させてから基材に巻き付ける代わりに、図4に示すように、予め主剤が含浸され半硬化状態のプリプレグ繊維24を用いることにより、含浸されている主剤量が予め分かっているので、適正な硬化剤量が、上述したプレFRP層の形成前後の重量の測定を行わなくても分かるという利点がある。さらに、主剤を繊維に含浸させる工程が省かれるため、FRP層形成時間を大幅に短縮させることができ、また、一般に、主剤を繊維に均一に含浸させるため、繊維を主剤バスへ走行させる時間を短縮するには限界があるので、プリプレグ繊維を用いることで、高圧タンクの製造時間が大幅に短縮される。ここで、プリプレグとは、繊維に主剤のみが適量含浸されたものであり、樹脂として反応していない状態をいう。なお、他の製造方法は上述同様であるため、説明は省略する。
【0047】
本実施の形態における高圧タンクの製造方法の他の例について、図2,5,6,7を用いて以下に説明する。
【0048】
本実施の形態における高圧タンクの製造方法の他の例は、図5に示すように、主剤を硬化剤により反応させて得られる熱硬化性樹脂を用いた高圧タンクの製造方法であって、主剤を含浸した繊維を基材にフィラメントワインディング法(以下「FW法」ともいう)を用いて巻回させプレFRP層を形成する工程(S100)と、プレFRP層が形成された基材を後述する硬化用金型の収容部に収容し(S102)、硬化開始温度の低い硬化剤を加圧条件下で注入し(S114)、次いで硬化開始温度の高い硬化剤を加圧条件下で順に注入して(S116)、プレFRP層の主剤と硬化剤とを反応させて、基材に熱硬化性樹脂と繊維とを含むFRP層を形成する工程(S106)と、を有する。
【0049】
図6に示すように、フィラメントワインディング成形の後、硬化剤を注入して熱を用いて硬化させる場合、基材16に形成された層32の厚み(肉厚)方向に温度分布が生じ、通常、基材16側の内層は外層に比べ温度が低くなる傾向がある。そこで、硬化開始温度の低い硬化剤を先に圧入して、図7に示すように、基材側の内層に硬化開始温度の低い硬化剤を浸透させ、一方、外層に硬化開始温度の高い硬化剤を圧入することによって、温度分布に応じた硬化速度を有する硬化剤を配置することができ、FRP層全体の硬化時間を短縮することができ、また硬化度を均一に保つことができる。
【0050】
次に、図2に示す硬化剤注入装置を用いたプレFRP層への2種類の硬化剤の注入および硬化反応操作について、以下に説明する。
【0051】
まず、バルブ52を閉じて、バルブ50を開けて、第1の硬化剤貯留槽46から硬化開始温度が相対的に低い硬化剤60(図7)を導入管44を介し、硬化用金型40の注入配管42を介して、プレFRP層に硬化剤を浸透させる。その際に、加圧手段54を用いて加圧することにより、適正量の硬化開始温度が相対的に低い硬化剤60がより短時間でプレFRP層に浸透する。次いで、バルブ50を閉じて、バルブ52を開けて、第2の硬化剤貯留槽46から硬化開始温度が相対的に高い硬化剤62(図7)を導入管44を介し、硬化用金型40の注入配管42を介して、プレFRP層に硬化剤を浸透させる。その際に、加圧手段54を用いて加圧することにより、適正量の硬化開始温度が相対的に低い硬化剤60がより短時間でプレFRP層に浸透する。さらに、硬化用金型40内に設けられた加熱手段(図示)することにより、プレFRP層30中の主剤と硬化剤との硬化反応が促進されて、さらに短時間で、基材16に熱硬化性樹脂と繊維とを含むFRP層が形成される。
【0052】
ここで、硬化開始温度が相対的に低い硬化剤60として、メルカプタン系硬化剤、チオール系硬化剤を用い、硬化開始温度が相対的に高い硬化剤62として、アミン系硬化剤およびポリアミド樹脂を用いてもよいし、また、硬化開始温度が相対的に低い硬化剤60としてチオール系硬化剤を用い、硬化開始温度が相対的に高い硬化剤62として、メルカプタン系硬化剤を用いてもよい。後者の組み合わせは、硬化時間が大幅に短縮されるだけでなく、硬化温度も従来の交換温度より低い温度に設定することが可能であるため、製造コストも削減される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、高圧タンクを用いる用途であれば、いかなる用途にも有効であるが、特に車両用の燃料電池に燃料ガスを供給するための高圧タンクに供することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 繊維、12 リール、14 主剤含浸バス、16 基材、20 巻回装置、22 含浸繊維、24 プリプレグ繊維、30 プレFRP層、32 層、40 硬化用金型、42 注入配管、44 導入管、46 第1の硬化剤貯留槽、48 第2の硬化剤貯留槽、50,52 バルブ、54 加圧手段、60 硬化開始温度の低い硬化剤、62 硬化開始温度の高い硬化剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤を硬化剤により反応させて得られる熱硬化性樹脂を用いた高圧タンクの製造方法であって、
前記主剤を含浸した繊維を基材にフィラメントワインディング法を用いて巻回させプレFRP層を形成する工程と、
前記プレFRP層に前記硬化剤を加圧条件下で注入し、前記プレFRP層の主剤と硬化剤とを反応させて、前記基材に熱硬化性樹脂と繊維とを含むFRP層を形成する工程と、を有することを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧タンクの製造方法において、
前記FRP層を形成する工程において、硬化開始温度の低い硬化剤を注入し、次いで硬化開始温度の高い硬化剤を順に注入して、前記プレFRP層の主剤と硬化開始温度の低い硬化剤及び硬化開始温度の高い硬化剤を反応させ、前記基材に熱硬化性樹脂と繊維とを含むFRP層を形成することを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高圧タンクの製造方法において、
前記主剤を含浸した繊維が、予め主剤が含浸され半硬化状態のプリプレグ繊維であることを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高圧タンクの製造方法において、
前記主剤が、エポキシ樹脂であり、
前記硬化剤が、メルカプタン系硬化剤およびチオール系硬化剤の少なくとも一方であることを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の高圧タンクの製造方法において、
前記FRP層を形成する工程において、さらに加熱を行うことを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項6】
主剤を硬化剤により反応させて得られる熱硬化性樹脂を用いて高圧タンクを製造する製造装置であって、
前記主剤を含浸した繊維を基材にフィラメントワインディング法を用いて巻回させプレFRP層を形成する巻回装置と、
前記プレFRP層が形成された基材を収容可能な収容部と、前記収容部に硬化剤を注入可能な少なくとも1つ以上の注入配管とを設けられた硬化用金型と、を備えたことを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の高圧タンクの製造装置において、
硬化用金型の注入配管には、硬化剤を圧入可能な加圧手段が設けられていることを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の高圧タンクの製造装置において、
前記硬化用金型は、さらに前記収容部を加熱可能な加熱装置を備えることを特徴とする高圧タンクの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−811(P2011−811A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146417(P2009−146417)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】