説明

高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備

【課題】めっき性不良の発生を防止できる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%でSi:0.2〜3%及びMn:1〜3%のうちの1種以上を含有する鋼板1を、直火加熱方式の直火帯2で加熱し、さらに竪型還元帯3において還元雰囲気中で表面の還元と焼鈍を行ったのち、溶融亜鉛めっき浴に浸漬させて亜鉛めっきを行う高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、竪型還元帯3では、少なくとも入側領域において雰囲気ガスを鋼板進行方向と逆方向に流すようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直火加熱方式の直火帯と竪型還元帯を備える焼鈍炉で熱処理したのち溶融亜鉛めっきを施して製造する高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。また、本発明は高強度鋼板の製造に好適な溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板は安価な金属材料であるため、自動車、家電、建材等の分野において広く用いられている。近年、自動車業界においては、耐久性の向上に加えて、燃費向上および排出ガス削減の観点から自動車の軽量化が進んでおり、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の使用が急増している。高強度溶融亜鉛めっき鋼板は鋼中元素としてSi、Mn等が添加され、通常連続溶融亜鉛めっき設備を用いて製造される。連続溶融亜鉛めっき設備を用いて、Si、Mnが多量に添加された鋼板を焼鈍した後溶融亜鉛めっきすると、鋼板表面のSiやMnの酸化物によってめっき不良が発生する問題がある。
【0003】
SiやMnを多量に添加した高強度鋼板に溶融亜鉛めっきを施す場合、鋼板表面に一旦適正なFe酸化皮膜を形成し、その後Fe酸化皮膜厚をめっきを阻害しない程度に還元して溶融亜鉛めっきすると、めっき不良の発生防止に有効である。
【0004】
例えば、特許文献1には、鋼板表面に適正なFe酸化皮膜を形成した後形成したFe酸化皮膜厚を還元する方法として、無酸化炉を有しない連続式溶融亜鉛めっき設備を用い、還元炉を2ゾーン以上に分割して各ゾーンの露点を調整、すなわち第1ゾーンでは炉内に水蒸気を導入して露点を調整して鋼板表面に適正なFe酸化皮膜を形成し、次いで第2ゾーンではFe酸化皮膜を還元するように露点を調整する方法が記載されている。
【0005】
また、酸化膜を生成する方法として、直火還元を利用する方法が有効であることが、特許文献2に記載されている。また、直火還元を使用すれば、特許文献1よりもSiやMnを多量に添加した高強度鋼板に溶融亜鉛めっきを施すことができることが、特許文献3に示されている。ここで、直火還元とは、直火加熱方式の直火帯を使用して鋼板表面を酸化した後に、鋼板表面を還元する方法である。これは直火帯を複数の帯(ゾーン)に分け、先に鋼板が通過する帯を高空気比で燃焼して一旦表面を酸化させ、後ろの帯では空気比を低くして還元性を有する火炎で加熱しながら鋼板表面を還元することによって行われる。
【0006】
図1は、直火加熱方式の直火帯で直火還元を利用して酸化膜を生成した後、この酸化膜を還元し、しかる後亜鉛めっきを行う溶融亜鉛亜鉛めっき鋼板の製造設備の要部構成例を示す概略側面図である。
【0007】
図1において、1は鋼板、2は直火加熱方式の直火帯(以下、単に「直火加熱帯」とも記載する。)、3は竪型還元帯(以下、単に「還元帯」とも記載する。)、4は冷却帯、5はスナウト、6は溶融めっき槽、7はガスワイピング装置である。直火加熱帯2と竪型還元帯3が連接されている。溶融めっき槽6にはめっき金属である溶融亜鉛が保持されている。
【0008】
直火加熱帯は複数の加熱ゾーンに分割され、各々の加熱ゾーンには直火加熱バーナ103が配置され、燃料供給系統101から燃料ガス、空気供給系統102から燃焼用空気が供給される。各加熱ゾーンの燃料ガス流量、燃焼用空気流量及びその流量比は独立に制御可能である。
【0009】
還元帯3は、炉内の上部及び下部に所定の高さをもって配設された炉内ロールが所定間隔で複数設けられている。還元帯3内を走行する鋼板1は、上部炉内ロール9aと下部炉内ロール9bで支持されて鉛直方向に走行する。この鉛直方向の鋼板走行路を縦パスと記載する。複数の縦パスが存在し、隣り合う縦パスでは鋼板の走行方向が逆である。また還元帯3の縦パス間に鋼板に面してラジアントチューブバーナ8が配設されている。
【0010】
とNを含む低露点の還元性ガスがガス供給配管105から冷却帯4の複数箇所に供給され、供給されたガスは還元帯3入側に流れ、直火加熱帯2と還元帯3を接続する接続部16から直火加熱帯2に流出する。このガスによって、還元帯3の雰囲気は還元性に保持される。
【0011】
図示されていない鋼板送り出し装置から送り出された鋼板は、直火加熱帯2の前段で燃料ガスを用いて直火加熱され、鋼板表面の圧延油が除去されるとともに、鋼板表面にFe酸化物(酸化皮膜)を形成する。直火での加熱であるので加熱速度が速く、鋼板温度が低くても、燃焼ガス温度が高く、燃焼ガス中のラジカルが鋼板に達して鋼板との反応に関与するので反応速度が速く、酸化膜が早く形成される、などの特徴がある。この特徴によって、直火による加熱では、直火以外の加熱の場合にSiやMnなどの易酸化性元素が優先的に酸化され、鋼板内を拡散して鋼板表層に濃化するのに較べて、Fe酸化物の生成が早く易酸化物の濃化が少ないことが利点となる。
【0012】
直火加熱帯の後段は燃焼の空気比を調節して還元を実施することで、易酸化物はそのままに、還元された純鉄層が表面に形成されて、めっきが容易になる。
【0013】
次に鋼板は還元帯3に通板される。鋼板は、還元帯3を通板される間に、高温のラジアントチューブ8によって所定温度で所定時間に加熱焼鈍され、同時に鋼板表面の直火還元で残った酸化皮膜が還元される。還元は、還元性ガスを炉内に導入することで行われ、通常、還元性ガスとして、水素濃度が数%〜数十%(vol%)の水素と窒素の混合ガスを使用し、還元反応の進行は、炉内の温度パターンや通板速度、炉内ガスの水素濃度と供給量で決まる。還元帯で鋼板の還元が完了するように適宜の条件が選ばれる。
【0014】
酸化皮膜が還元された鋼板1は、冷却帯4で溶融めっき槽6に浸漬させるのに適した鋼板温度に調整されたのち溶融めっき槽6に浸漬めっきされ、溶融めっき浴槽6から引き上げられてガスワイピング装置7で所要のめっき付着量に調整され、さらにスパングル調整あるいは合金化処理が施された後冷却され、あるいは前記処理を施すことなく冷却され、所要の溶融亜鉛めっき鋼板となる。
【特許文献1】特許第3014529号公報
【特許文献2】特開平5−195084号公報
【特許文献3】特許第2530939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
Si濃度やMn濃度が高い鋼板を溶融亜鉛めっきする際に、直火加熱帯で形成するFe系酸化皮膜を厚くして、形成したFe系酸化皮膜が次の還元工程で十分に還元されれば、より高いSi濃度やMn濃度の鋼板のめっきが可能になるはずであるが、酸化皮膜が厚いと還元工程でFe系酸化皮膜の還元が不十分となり、還元されなかった酸化層が残留するために安定して良好なめっきが得られないという問題があった。
【0016】
本発明の課題は、Si濃度及びMn濃度が高い鋼板を加熱焼鈍したのち溶融亜鉛めっきを施して高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際に、めっき性不良の発生を防止できる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することである。
【0017】
また、本発明の課題は、Si濃度及びMn濃度が高い高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造に好適な溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決する本発明の要旨は次のとおりである。
【0019】
(1)質量%でSi:0.2〜3%及びMn:1〜3%のうちの1種以上を含有する鋼板を、直火加熱方式の直火帯で加熱し、さらに竪型還元帯において還元雰囲気中で表面の還元と焼鈍を行ったのち、溶融亜鉛めっき浴に浸漬させて亜鉛めっきを行う高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、竪型還元帯では、少なくとも入側領域において雰囲気ガスを鋼板進行方向と逆方向に流すようにすることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0020】
(2)直火帯と還元帯の接続部付近の還元帯の雰囲気ガスの露点を測定し、その測定値から直火帯の燃焼制御を行うことを特徴とする、(1)に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0021】
(3)直火帯と還元帯の接続部付近の還元帯の雰囲気ガスの露点と、還元帯出側の雰囲気ガスの露点を測定してその関係から、還元帯へ供給する雰囲気ガス流量を調整することを特徴とする、(1)または(2)に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0022】
(4)直火加熱方式の直火帯と竪型還元帯を有する焼鈍炉と、その下流に溶融亜鉛めっき装置を備える溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備において、竪型還元帯の少なくとも入側領域の隣り合う鋼帯の縦パスの間に、該縦パスの間の雰囲気ガスの流れの方向を鋼板進行方向と逆方向に規制する仕切りが設けられていることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【0023】
(5)仕切り設置後の開口面積率が、10%以下であることを特徴とする、(4)に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【0024】
(6)直火加熱方式の直火帯と竪型還元帯との接続部近傍の竪型還元帯の雰囲気ガスの露点を測定する露点計を竪型還元帯に備えることを特徴とする、(4)または(5)に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【0025】
(7)さらに還元帯出側の雰囲気ガスの露点を測定する露点計を竪型還元帯に備えることを特徴とする、(6)に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、還元帯内の還元性ガスの流れの方向が鋼板の進行方向と逆方向になるような流路が構成されることで、鋼板に随伴して直火加熱帯から還元帯に流れるガス流れを抑止する効果がある。また、還元帯内では、酸化皮膜の還元により発生した高露点ガスは、該高露点ガスの発生位置から、鋼板進行方向とは逆方向の直火加熱帯側に流れる。この高露点ガスは還元を終えた鋼板進行方向に流れることがないため、還元された鋼板がこの高露点ガスによって再度酸化されることがない。還元帯で発生した高露点のガスは、鋼板の進行方向とは逆方向に集積していくので、還元帯入口から還元帯出口に向けて徐々に還元性が増すような雰囲気の分布が確保され、還元帯出口付近で最大の還元力が確保できる。その結果、酸化膜の還元反応が安定し、Si濃度及びMn濃度が高い鋼板であっても、還元帯において安定して良好な還元作用が発現されることで、安定して良好なめっき性が発現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明者らは、Si濃度及びMn濃度が高い鋼板を直火加熱方式の直火帯と竪型還元帯を備える熱処理炉で熱処理したのち溶融亜鉛めっきを施して高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際に、安定して良好なめっき性を得る方法について種々検討した。その結果、還元帯内における雰囲気ガスの流れ方向を鋼板進行方向と逆方向とするような流路を形成することで、安定して良好なめっき性がえられることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされた。
【0028】
以下、本発明について従来技術と対比して説明する。
【0029】
図1の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備において、従来技術の還元帯3の構造と雰囲気ガスの流れを図2を用いて説明する。図2において、冷却帯4から還元帯3に流れた低露点の還元性ガスは還元帯3出側から入側に向かって流れ、さらに直火加熱帯2へ流出する。還元帯3において、鋼板は、鋼板の縦パス間に多数配置されたラジアンチューブバーナ8によって加熱されるが、炉壁はそれらを内部に納めた大きな箱のような構造になっているため、還元帯3内のガスは自由に流れる。そのため、次のような問題点がある。
【0030】
酸化皮膜の還元で発生した高露点のガスは、図2中の矢印で示すように、炉内に拡散してしまい、高露点のガスを直火加熱帯2に効率的に排出できない。
【0031】
また、直火加熱帯2の雰囲気は燃料ガスの燃焼成分であるので多量の水分を含有し高露点であるが、この直火加熱帯2内の高露点のガスが鋼板1に随伴して還元帯3内に侵入し、それが還元帯3内に拡散することで、還元帯3内の雰囲気ガスの還元能力が不安定化する。
【0032】
また、直火加熱帯2で鋼板表面に形成する酸化皮膜を厚くすると、還元帯3でその酸化皮膜を還元することによって還元帯3内の露点が上昇するが、露点上昇した雰囲気が還元炉3内を拡散して還元能力を阻害する。
【0033】
また、Si及びMnを多量に含有しない通常の溶融亜鉛めっき鋼板を製造している途中で、Si及びMnを多量に含有した高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造すると、還元帯3の還元能力が経時的変化して鋼板の還元が不安定となり安定しためっきを行えない。
【0034】
このように、図2の従来装置では、還元帯3における雰囲気ガスの還元作用が低下する問題があるため、Si濃度及びMn濃度が高い鋼板では、還元能力が低下したり、不安定になったりする問題があり、めっき性不良の発生を確実に防止できなかった。
【0035】
図3は、本発明の実施の形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備の焼鈍炉の還元帯の構成例を示す概略側面図である。図3の装置では、図2の装置に対して、還元帯3の隣り合う縦パス間に仕切り11が付加され、さらに露点計13および14が各々直火加熱帯2と還元帯3の接続部付近の還元帯側および還元帯出側(還元帯3と冷却帯4の接続部付近の還元帯3)に付加されている。図4は、図3の還元炉3内の雰囲気ガスの流れを説明する模式図である。
【0036】
図3では、仕切り11は隣り合う縦パス同士の間に鋼帯に面して設けられているので、鋼帯パス面に対して直交する方向への雰囲気ガスの流れが規制される。その結果、冷却帯から還元帯へ流入した還元作用の高いガスの流路が、鋼板通板方向と逆方向となる流路が形成される。この鋼板通板方向と逆方向となる流れは、鋼板に随伴した直火加熱帯から還元帯へのガス流れを抑止する効果がある。
【0037】
また、還元帯内では、酸化皮膜が還元されることで雰囲気ガスの露点が上昇する。この露点が上昇した雰囲気ガスは、図4中の矢印で示すように、鋼板走行方向と逆方向に還元帯入側に向かってに流れるため、表面の酸化皮膜が還元された鋼板を再度酸化させるおそれがない。直火加熱帯で厚く形成された酸化皮膜が還元帯で還元されて露点が上昇しても、露点が上昇したガスは還元帯入側に向かって流れるので、鋼板進行方向下流の露点を上昇させることがない。
【0038】
また、還元帯で高露点となったガスは、鋼板進行方向とは逆方向の還元帯入側に集積していき、還元帯入口から還元帯出口に向けて徐々に還元作用が増加するような雰囲気ガスの分布を確保し、還元帯出口付近で最大の還元力が確保できる。そのため、還元帯は良好な還元力を維持できる。
【0039】
図3に示した構造の還元帯では、前記のような還元力の分布となるので、還元帯において安定して良好な還元作用が発現され、Si濃度及びMn濃度が高い鋼板であっても安定して良好なめっき性が発現される。
【0040】
還元帯3におけるガスの流れ方向を規定して還元帯における還元性を良好にする点から、還元帯3の全領域において隣り合う縦パス間に仕切り11を設けることが好ましいが、還元性に支障がない場合は、還元帯3の一部領域にだけ仕切り11を設けてもよい。この場合、酸化物が最も多く、鋼板温度が上昇して、還元が最も進行するのは、還元帯3の入側領域(還元帯中央から上流側に相当する領域)であるため、仕切り11は、少なくとも還元帯3の入側領域の縦パス間に設けることが好ましい。
【0041】
仕切り11は、隣り合う縦パス間を完全に隔離する構造でなく、一部開口部分を有していてもよい。通常の竪型還元帯は、図3に示すように、鋼板の縦パス間にラジアントチューブバーナ8を設置するような構造になっている。このような場合、図3に示すように、仕切り11は、隣り合う縦パス間の炉壁と、該炉壁に対向する炉内ロールの鋼板が巻きかけられていない側のロール下端部との間、ロール上端部との間(下部炉壁3bと上部炉内ロール9a下端部、上部炉壁3aと下部炉内ロール9b上端部)に、ラジアントチューブバーナ8を跨いで略鉛直に設けることで、ガスの流れ方向を鋼板進行方向と逆方向に規制することができる。仕切り11は、その一端が還元帯の下部炉壁3bまたは上部炉壁3aに接するように設け、もう一端は炉内ロール9aまたは9bに近接して設けることが好ましく、また、熱歪み等を考慮してラジアントチューブバーナ8との間に若干間隔をあけて設けてもよい。
【0042】
仕切り11が設けられていない部分(開口部分)が大きくなると、この開口部分を通ってガスが移動し、ガスの流れの方向を鋼板走行方向と逆方向に規制する作用が低下する。仕切り設置部分の開口面積率が25%以下であればガスの流れの方向を鋼板走行方向と逆方向に規制する作用によって還元性を向上させる効果が確認されたが、ガスの流れの方向を鋼板走行方向と逆方向に規制する効果をより確実に発現させるためには、仕切り板11は、仕切り設置後の開口面積率が10%以下となるように設けることがより好ましい。
【0043】
ここで、仕切り設置部分の開口面積率とは、仕切り設置部分における鉛直方向炉断面の炉内面積に対する、該断面部分において該断面と直角方向へのガスの流れを規制するものが存在していない部分の面積の比率である。言い換えれば、相対する鋼板の間の空間を分離できていない割合である。
【0044】
図3に示すように、隣接し相反する方向に進行する鋼板1と鋼板1の間の空間を、ほぼ二分するように、仕切り11とラジアントチューブバーナ8とで分断する場合、該部分の鉛直方向断面の炉内面積をS0、仕切り11の面積をS1、ラジアントチューブバーナ8の断面積をS2としたとき、開口面積率S=(S0−(S1+S2))/S0×100(%)である。
【0045】
仕切りは、使用される温度域における耐熱性と、操業で破損しない強度を備え、実質的にガスを遮断できるものであればよく、例えばセラミックボード等,公知の耐熱材料が使用される。
【0046】
本発明は、質量%でSi0.2〜3%及びMn1〜3%を含有する鋼板を対象とする。鋼成分組成の限定理由について説明する。
【0047】
Si:0.2〜3質量%
Siが0.2%未満では強度の向上効果が小さく、3%を超えると本発明法でも良好なめっき性を確保できなくなる。
【0048】
Mn:1〜3質量%
Mnが1%未満では強度の向上効果が小さく、3%を超えると本発明法でも良好なめっき性が確保できなくなる。
【0049】
Si、Mn以外の鋼成分は特に限定されない。高強度薄鋼板の製造に用いられる成分組成のものを使用できる。
【0050】
図1の設備において、還元帯3を図3の構造とした溶融亜鉛めっき鋼板の製造装置を用いて、次のようにして高強度溶融亜鉛めっき鋼板が製造される。
【0051】
図示されていない鋼板送り出し装置から送り出された本発明で規定する成分組成を有する鋼板は、直火加熱帯2で鋼板成分組成、材質規格に対応して設定されたヒートパターンに沿って所定温度に加熱昇温され、同時に鋼板表面の圧延油が除去されるとともに、鋼板表面に酸化皮膜が形成される。直火加熱帯では、酸化皮膜が後の還元によって、めっき性が十分確保できる量生成するようにする。本発明が対象とする鋼板では、酸化皮膜はその厚さが0.01〜1μmとなるように形成することが好ましい。また、総じてSi、Mnの量が多ければ酸化膜厚は厚い方が良い。直火加熱は、Fe酸化物が早く生成されることで、SiやMnなどの易酸化性元素の選択的酸化が抑制される。直火加熱帯での操業条件は、直火加熱帯出側ゾーンの鋼板温度をSi、Mnが低い鋼板に対して高めに設定し、燃焼時に使用する空気比を理論空燃比よりも高めにして燃焼ガスの余剰酸素が多くなるように燃焼制御を行う。前述の酸化皮膜厚が確保された後に直火還元を行う余地があれば、還元を行ってもよいが、通常の直火加熱帯の長さでは、形成した酸化皮膜を完全に還元することができないので、還元が不十分なままに直火加熱帯を通過する。
【0052】
次に鋼板は還元帯3に通板される。鋼板は、還元帯3を通板される間に、鋼板成分組成、材質規格に対応して設定されたヒートパターンに従って、高温のラジアントチューブバーナ8によって所定温度で所定時間に加熱焼鈍されるとともに、鋼板進行方向と逆方向に流れる還元性雰囲気ガスによって、鋼板表面の酸化皮膜が還元される。還元は、十分に生成したFe酸化物がFeとして還元されるまで行う。還元速度は、還元帯の温度と水素量で依存する。還元帯の温度は焼鈍条件で決まるが、焼鈍温度は大きく変えられないため、還元の調整は主に水素量の調節、具体的には炉内に供給する還元性ガスの流量及び/または水素ガス濃度を適宜の条件に調整して行う。
【0053】
酸化膜が還元された鋼板1は、常法に従い、冷却帯4で溶融めっき槽6に浸漬させるのに適した鋼板温度に調整されたのち溶融めっき槽6に浸漬めっきされ、溶融めっき浴槽6から引き上げられてガスワイピング装置7で所要のめっき付着量に調整され、さらにスパングル調整あるいは合金化処理が施された後冷却され、あるいは前記処理を施すことなく冷却され、所要の溶融亜鉛めっき鋼板となる。
【0054】
直火加熱帯2でSiやMnなどの易酸化性元素の過度な酸化が抑制されており、還元帯3でFe酸化物が十分に還元されることで、前記で製造された溶融亜鉛めっき鋼板では、安定して良好なめっき性が発現される。
【0055】
図3に示す構造の還元帯では、雰囲気ガスは、鋼板通板方向と逆方向に還元帯出側から入側に流れることで、還元帯内の各場所での露点が安定する。したがって、露点を測定することで、直火加熱帯の酸化状態や還元帯の還元状態を評価でき、またこれらを容易に制御することができる。
【0056】
直火加熱帯の酸化皮膜厚が厚いと還元帯における還元反応の負荷が大きくなり、還元帯との接続部付近の還元帯の雰囲気ガスの露点が高くなる。従って、直火加熱帯と還元帯の接続部付近の還元帯の雰囲気ガスの露点を測定することで、直火加熱帯の酸化程度(酸化皮膜厚さ)を評価することができる。また、直火加熱帯で鋼板を直火加熱するガスの燃焼条件を制御することで、直火加熱帯で形成される酸化皮膜厚を制御することができる。従って、直火加熱帯と還元帯の接続部付近の還元帯の雰囲気ガスの露点の測定結果に基いて直火加熱帯のガスの燃焼制御、特に空燃比制御を行い、直火加熱帯で形成される酸化皮膜厚を制御することができる。
【0057】
また、還元帯出側の雰囲気ガスの露点から、酸化皮膜の還元帯での還元状態を評価できる。炉内に供給する還元性ガスの水素量(ガス供給量または水素濃度)を調整することで還元帯における酸化皮膜の還元程度を調整することができる。従って、還元帯出側の雰囲気ガスの露点の測定結果に基いて炉内に供給する還元性ガスの水素量を調整し、還元帯における酸化皮膜の還元程度を制御することができる。
【0058】
例えば、直火加熱帯で適正な酸化膜厚が形成され、還元帯でこの酸化膜が十分に還元されて良好なめっき性が得られ、そのときの直火加熱帯と還元帯の接続部付近の還元帯の雰囲気ガスの露点(以下DP1)がDP1m、還元帯出側の雰囲気ガスの露点(以下DP2)がDP2mであった場合、直火加熱帯で形成された酸化皮膜厚、還元帯での還元程度、めっき性と、直火加熱帯と還元帯の接続部付近の還元帯の雰囲気ガスの露点DP1、還元帯出側近傍の雰囲気ガスの露点DP2は、上記露点DP1m、DP2mと表1に示すような対応関係がある。
【0059】
例えば、Aは適正条件Cに対して酸化皮膜厚が過大であったが、この酸化膜が十分に還元された結果良好なめっきが得られた場合である。この場合、還元帯における酸化皮膜の還元量が多くなるため露点DP1は適正条件Cの露点DP1mより高くなる。また、還元帯通板中に酸化皮膜が十分に還元されたことで還元帯出側近傍では還元反応が進行しなくなるため、露点DP2は適正条件Cの露点DP2mより低くなる。したがって、前記の各露点の測定結果に基づいて、表1の制御方法に記載されるような制御を行うことで、直火加熱帯でより適正な酸化被膜形成、還元帯でより適正な還元を行うことが可能になり、もってより良好なめっき性が得られるようになる。
【0060】
また、例えば、前述Aの場合のように、露点DP1が高く、露点DP2が低い場合、酸化皮膜が過大に形成されているもののこの酸化皮膜が十分に還元されていると判断されるので、直火加熱帯では酸化皮膜厚を薄くするように燃焼制御し、酸化皮膜厚が薄くなるように燃焼制御し、それに対応して、還元帯では還元性を弱めるような制御をすることで、良好なめっきを確保しながら効率的な操業が可能になる。
【0061】
なお、表1において、「↓」(下向き矢印)は酸化程度または還元程度を緩くする条件に変えること、「↑」(上向き矢印)は酸化程度または還元程度を強くする条件に変えること、「→」(横向き矢印)は酸化程度または還元程度を変えないことを示している。
【0062】
【表1】

【0063】
また、直火加熱帯での適正な酸化状態に対応する露点DP1、還元帯での適正な還元状態に対応する露点DP2が分かっていない成分組成、材質規格の鋼板でスケール残りによるめっき不良が発生した場合でも、直火加熱帯での酸化程度を強くする(又は酸化程度を弱くする)ように燃焼条件を変更し、また還元帯で還元程度を強くする(又は還元程度を弱くする)ように雰囲気ガスの供給条件を変更し、各露点DP1、DP2が条件変更前の各露点に対して低下するか上昇するかの変化傾向を把握することで、良好なめっきが得られる条件への変更指針を得ることができる。
【0064】
例えば、露点DP1、DP2がいずれも高くなった場合、酸化皮膜がより厚くなり、これによって露点DP2が高くなったと判断し、直火加熱帯の燃焼制御を酸化皮膜厚を薄くする方向に変更すればよい。そしてこの条件に変更後の各露点の変化傾向を再度把握し、より適切な条件に変更すればよい。
【0065】
炉内に供給する還元性ガスが冷却帯だけでなく、還元帯に供給してもよく、この場合も前記と同様の制御をすることができる。
【実施例1】
【0066】
表2に示す成分組成と残部Fe及び不可避不純物からなる鋼を熱間圧延、酸洗、冷間圧延し、厚さ1mm×幅1mのめっき原板を作製した。この鋼板を直火加熱帯、還元帯(竪型還元帯)、冷却帯を備える焼鈍炉で焼鈍し、引き続き溶融亜鉛めっき槽で溶融亜鉛めっきし、ガスワイピング装置でめっき付着量を片面当たり40g/mに調整した。直火加熱帯は、直火予熱帯、直火酸化帯、直火還元帯を備える。還元帯には、図3に示すように、還元帯の全縦パス間にセラミックボード製の仕切り板を設け、仕切り板の開口部分の面積率を変える実験を行った。仕切り板は、整流化を考慮して全体が翼状になるような構造とした。
【0067】
製造条件は次のとおりである。
・ライン速度:80mpm
・直火加熱帯:
直火予熱帯で予熱後、直火酸化帯で鋼板を直火加熱して酸化し、次に直火還元帯では直火還元後鋼板温度が600〜630℃となるように直火還元した。直火酸化帯の空気比、直火還元帯の空気比を表3に示す。
・還元帯:
焼鈍条件;鋼板加熱温度を800℃とした。
・溶融亜鉛めっき:
浴温;470℃
・雰囲気ガス:H:8vol%−N:92vol%(露点:−50℃程度)、流量1000Nm/H
このようにして作製した溶融亜鉛めっき鋼板の外観を目視観察し、不めっきの有無を評価した。評価結果を表3に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
表3に示すように、仕切りの開口面積率が10%以下とすることで良好なめっき性が示された。従来装置では、ラジアントチューブそのものはガスを通さないため、鋼板間面積の70%を塞いでいる(開口面積率=30%)が、ガスに対して流れを乱し、鋼板間を横切るような流れを生じる形状であるため、不めっきを生じていたと考えられる。従来装置では、直火加熱帯の空気比を上げても不めっきの改善が認められないのに対し、仕切り板を設けて開口部面積率を5%減少した本発明装置の例(No.4)では、不めっきが改善された。開口面積率を減ずるとともに不めっきが改善されており、特に開口面積率が10%以下で顕著な効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、めっき性不良の発生のない、質量%でSi0.2〜3%及びMn1〜3%を含有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法として利用することができる。
【0072】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備は、質量%でSi0.2〜3%及びMn1〜3%を含有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造する装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備の要部構成例を示す概略側面図である。
【図2】従来の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備における還元帯の概略構造と還元炉内の雰囲気ガスの流れを説明する模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備の焼鈍炉の還元帯の構成例を示す概略側面図である。
【図4】図3の還元帯内の雰囲気ガスの流れを説明する模式図である。
【符号の説明】
【0074】
1 鋼板
2 直火加熱方式の直火帯(直火加熱帯)
3 竪型還元帯(還元帯)
4 冷却帯
5 スナウト
6 溶融めっき槽
7 ガスワイピング装置
8 ラジアントチューブバーナ
9a、9b 炉内ロール
11 仕切り
13、14 露点計
16 直火加熱帯と還元帯の接続部
101 燃料供給系統
102 空気供給系統
103 直火加熱バーナ
105 ガス供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でSi:0.2〜3%及びMn:1〜3%のうちの1種以上を含有する鋼板を、直火加熱方式の直火帯で加熱し、さらに竪型還元帯において還元雰囲気中で表面の還元と焼鈍を行ったのち、溶融亜鉛めっき浴に浸漬させて亜鉛めっきを行う高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、竪型還元帯では、少なくとも入側領域において雰囲気ガスを鋼板進行方向と逆方向に流すようにすることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
直火帯と還元帯の接続部付近の還元帯の雰囲気ガスの露点を測定し、その測定値から直火帯の燃焼制御を行うことを特徴とする、請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
直火帯と還元帯の接続部付近の還元帯の雰囲気ガスの露点と、還元帯出側の雰囲気ガスの露点を測定してその関係から、還元帯へ供給する雰囲気ガス流量を調整することを特徴とする、請求項1または2に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
直火加熱方式の直火帯と竪型還元帯を有する焼鈍炉と、その下流に溶融亜鉛めっき装置を備える溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備において、竪型還元帯の少なくとも入側領域の隣り合う鋼帯の縦パスの間に、該縦パスの間の雰囲気ガスの流れの方向を鋼板進行方向と逆方向に規制する仕切りが設けられていることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項5】
仕切り設置後の開口面積率が、10%以下であることを特徴とする、請求項4に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項6】
直火加熱方式の直火帯と竪型還元帯との接続部近傍の竪型還元帯の雰囲気ガスの露点を測定する露点計を竪型還元帯に備えることを特徴とする、請求項4または5に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項7】
さらに還元帯出側の雰囲気ガスの露点を測定する露点計を竪型還元帯に備えることを特徴とする、請求項6に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−146241(P2007−146241A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343165(P2005−343165)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】