説明

高温で不均一系触媒化学反応を連続的に行うための装置

本発明は、マイクロ波透過性管を含む、不均一触媒化学反応を連続的に行うための装置であって、マイクロ波透過性管の長軸がモノモードマイクロ波アプリケータのマイクロ波伝播方向にあり、マイクロ波透過性管が、触媒活性種を担持するかまたは触媒活性種から成る連続気泡発泡体で満たされている装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業的規模でマイクロ波照射しながら高温および過剰圧力にて不均一系触媒化学反応を連続的に行うための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応は触媒により加速させることができる。これに関して特に興味深いのは、固定化された触媒活性材料の傍を反応物が流れる不均一触媒反応である。このようにして製造された生成物中には、均一触媒反応とは異なり基本的に残留物が残らず、装置の設計がふさわしいと、高い空時収率で大量の生成物を製造することができる。触媒反応は高温で行われる場合に特に効率がよいが、その場合でも、この反応の実施に必要な温度は触媒が存在しない場合より低い。
【0003】
通常、連続的な不均一触媒反応は、触媒活性固体を含むか、または触媒活性種を含浸した担持材料を含んでおり、かつ反応混合物が貫流する反応器内で行われる。工業的規模で不均一触媒反応を行う際に問題となるのは、しばしば、反応の活性化に必要な反応物温度を、反応器の横断面全体にわたって均質に調整することである。要求される熱伝導を確保するために必要な、より高いジャケットまたは発熱体の温度は、加熱面において反応物の局所的な(部分的な)過熱をしばしば生じさせ、またこれにより、望ましくない副反応または反応混合物の分解もしばしば生じ、それによって生成物の品質および/または収率が低下する。その上、工業的には温度上昇は、その際に生じる圧力により制約を受ける。少なくとも数リットルまたは数立方メートルの大きな反応容器内では、高圧下での反応の実施は、その際に生じる安全性リスクのため、もし実施されるとしても、大きな技術的出費を伴ってのみ実現可能である。さらに、触媒として一般に用いられる固体ランダム充填体は、その低い気孔率により反応器内での高い圧力損失を生じさせる。
【0004】
連続的な反応を工業的規模で高温および高圧で行うには、一方では安全技術的要求を達成するために、他方では有用な収率の達成に必要な滞留時間を確保するために、通常は、貫流式に稼働する壁の厚い容器または横断面が小さくて長い管(栓流反応器(Stroemungsrohre))が用いられる。このような方法に関しては、要求される高い加熱速度を調整するために、工業的規模で上昇するジャケット温度が必要であり、このジャケット温度は、既に述べたように望ましくない副反応または分解も生じさせ得る。それに対して中程度のジャケット温度では、釜において標的温度に達するのに長い滞留時間が必要となり、その際に生じるバックミキシングにより転化が制限される。栓流反応器内では、低い温度勾配のために小さな流速および/または長い管が必要となる。しかしながらこのように徐々に加熱する間に、多くの反応においては、同様に望ましくない、例えば動力学的に促進される副反応が観察される。
【0005】
化学合成の新たなアプローチは、マイクロ波場において反応を実施することである。M. Hajek(A. Loupy、Microwaves in Organic Synthesis、Wiley 2006、第13章)(非特許文献1)は、マイクロ波での加熱により反応速度および/または選択性を上昇させた多数の不均一触媒反応を発表している。このような反応技法は、1日当たり数kgを超える製造、つまり工業的規模での合成を可能とする装置が今まで知られていなかったので、これまでは主に実験室規模で使用されており、小工業規模ではまれにのみ使用されていた。
【0006】
Wolfら(AOSTRA J. of Research (1986) 3、53)(非特許文献2)は、マイクロ波照射下で、ニッケル粉末による、またはニッケルを含む合金による触媒反応が行われる貫流式装置を開示している。装置のデザインは、実験室規模での転化のために設計されており、少なくとも物質内へのマイクロ波の浸入深さが制限されていることにより、工業的な使用に有用な規模への拡大は不可能である。
【0007】
Shoreら(Angew. Chem. 2006、118、2827〜2832)(非特許文献3)は、マイクロ波支援反応がその中で行われる、パラジウム薄膜でコーティングされた直径1.150μmのキャピラリを開示している。このパラジウムコーティングにより転化率は明らかに上昇する。
【0008】
特許文献1は、マイクロ波照射下での原油の触媒的脱硫方法を開示している。しかしながら提案されている装置デザインは、少なくとも物質中へのマイクロ波の浸入深さが数センチメートルに制限されていることにより、工業的な規模への転用は不可能である。
【0009】
特許文献2は、触媒活性物質でコーティングされたキャピラリまたは触媒活性体を含むキャピラリ中を流れる反応物が、キャピラリの長軸に対して垂直に入射されるマイクロ波放射にさらされるマイクロ反応器を開示している。短い照射ゾーンおよび数センチメートルにしか達しない反応物中へのマイクロ波の浸入深さにより、このような装置は実験室規模での稼働に制限される。
【0010】
Mazzocchiaら(C. R. Chemie、2004、7、601〜605)(非特許文献4)は、マイクロ波により支援された、ゼオライトによる不均一触媒作用下でのメタノールによるトリグリセリドのエステル交換を開示している。この場合、密閉された容器内での170℃で2時間の照射では、中程度の転化しか達成されない。
【0011】
Esveldら、(Chem. Eng. Technol. 23(2000)、429〜435頁(非特許文献5)は、モンモリロナイトの存在下に脂肪族アルコールと脂肪酸を溶媒なしでエステル化させる、ろうエステルを連続的に製造する方法を記述している。コンベヤーベルト上において、反応混合物がマイクロ波照射によって5分以内に反応温度まで加熱され、次いで、発生する反応水を十分に除去するためにさらに30分間その温度に維持される。この方法は必然的に、高沸点の反応体(および反応生成物)に対してのみ適用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2009/064501号
【特許文献2】国際公開第2006/024167号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】M. Hajek(A. Loupy、Microwaves in Organic Synthesis、Wiley 2006、第13章)
【非特許文献2】Wolfら(AOSTRA J. of Research (1986) 3、53)
【非特許文献3】Shoreら(Angew. Chem. 2006、118、2827〜2832)
【非特許文献4】Mazzocchiaら(C. R. Chemie、2004、7、601〜605)
【非特許文献5】Esveldら、Chem. Eng.Technol. 23(2000)、429〜435頁
【非特許文献6】K. Lange、K.H. Loecherer、「Taschenbuch der Hochfrequenztechnik」、第2巻、K21頁以下
【非特許文献7】D. Bogdal、「Microwave-assisted Organic Synthesis」、Elsevier 2005年
【非特許文献8】M. Organ(Angew. Chem. 2006、118、2827〜2832)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって本発明の課題は、工業規模にて高温で不均一系触媒化学反応を連続的に行うための装置であって、反応物を出来る限り迅速に、かつ部分的過熱なしに所望の反応温度に加熱することができる装置を提供することである。さらにこの装置は、高温でも反応混合物が液体状態または溶解状態に留まるように、大気圧を超える稼働を可能にする。この装置は、高い空時収率、高いエネルギー効率、さらにその上確実かつ再現性のある稼働を可能にする。本発明のさらなる課題は、不均質な反応混合物および/または混合不可能なもしくは完全には混合できない反応体を激しく混合しながらマイクロ波照射にさらすことができる、マイクロ波支援反応を連続的に行うための装置を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
驚くべきことに、長軸がモノモードマイクロ波アプリケータのマイクロ波伝播方向にあり、触媒活性のおよび/または触媒活性種を担持する連続気泡発泡体で満たされたマイクロ波透過性管内で、転化すべき反応物がマイクロ波照射により加熱される装置では、不均一触媒化学反応を連続的な方法において工業的に有意義な量で実施できることが見出された。本発明による装置では、触媒活性のおよび/または触媒活性種を担持する発泡体ならびにこの発泡体中を貫流する反応物が均一に加熱され、したがって、触媒活性のおよび/または触媒活性種を担持する開放気孔発泡体の内部とそれを取り囲む管壁との間で大きな温度勾配が生じることはない。この装置は、非常に迅速だがそれにもかかわらず穏やかな、反応物の加熱を、非常に高い空時収率および高いエネルギー効率で可能にする。さらに、入射するマイクロ波出力を調節することで、加熱速度および最高温度を簡単、迅速かつ再現可能に調整することができる。さらにその上、マイクロ波照射中に反応混合物は非常に激しく混合される。
【0016】
本発明の対象は、マイクロ波透過性管を含む、不均一触媒化学反応を連続的に行うための装置であって、マイクロ波透過性管の長軸がモノモードマイクロ波アプリケータのマイクロ波伝播方向にあり、マイクロ波透過性管が、触媒活性種を担持するかまたは触媒活性種から成る連続気泡発泡体で満たされている装置である。
【0017】
本発明のさらなる対象は、不均一触媒化学反応を行うための方法であって、長軸がモノモードマイクロ波アプリケータのマイクロ波伝播方向にあり、触媒活性種を担持するかまたは触媒活性種から成る連続気泡発泡体で満たされているマイクロ波透過性管内で、反応物が、マイクロ波の照射により転化される方法である。
【0018】
本発明による装置および本発明による方法は、好ましくは、有機化学の反応に適している。特に適しているのは、触媒活性種の存在により反応速度を促進させ得る反応である。本明細書において反応速度の促進とは、例えば単位時間当たりの温度および圧力のような反応条件がその他の点では同一の場合に、触媒が存在しないときより多くの転化が起こること、および/または触媒の存在により、同じ転化率でより高いスループットが可能であることを意味する。さらに、本発明による装置および本発明による方法は、大きな発熱性の反応熱を伴わずに進行する反応に適している。したがって、本発明による装置およびこの装置で実施される方法は、反応熱ΔHが−50kJ/mol未満、特に−20kJ/mol未満、例えば、−10kJ/mol未満である反応を行うために特に適している。本発明による装置および本発明による方法は、反応熱ΔHが+0.1kJ/mol超、特に+1kJ/mol〜+250kJ/mol、例えば、+2kJ/mol〜+100kJ/molである吸熱反応に特に適している。触媒活性種は一般に非常に高いマイクロ波吸収を示すので、本発明による方法に基づき、それ自体は非常に低いマイクロ波吸収しか示さない物質または反応混合物も反応させることができる。適切な化学反応の例には、エステル化、エステル交換、アミド化、エステル加水分解、エーテル化、アセタール化、エン反応、ディールス・アルダー反応、酸化、アンモ酸化、シアン化、還元、水素添加、水素化脱酸素、還元的アミノ化、求核置換、付加、加水分解、異性化、転位、縮合、脱カルボキシル化、脱離、環化、メタセシス反応、金属触媒カップリング反応、例えば、スズキ反応、ヘック・カップリング、ソノガシラ・カップリング、スティル・カップリング、ウルマン反応およびクマダ・カップリング、アルキル化、アシル化、例えば、フリーデル・クラフツアシル化、クラッキング反応、ならびに重合、例えば、重縮合がある。原油の水素化脱硫および鉱油の蒸留のためにも、本発明による装置および方法は非常に良く適している。本来の反応体の他に、反応混合物は、例えば溶媒などの助剤も含んでいてよい。
【0019】
本発明によれば、連続気泡発泡体とは、セル構造で低密度の、セル壁が実質的に閉じていない材料を意味する。したがって、この構造は相互に連結した柱部(Stegen)から成ることが好ましい。柱部および空洞は、相互に貫通している2つの連続的なネットワークを構成する。したがってこの開放気孔発泡体は、触媒活性のまたは触媒活性種を含む表面を有する頑丈な構造内に、多数の流動経路を含んでいる。
【0020】
好ましくは、連続気泡発泡体は、マイクロ波透過性管(以下、反応管とも言う)の長手方向にも短手方向にも反応物が流動し得るように構造化されている。さらに連続気泡発泡体は、高い貫流速度でも、反応管内で生じる圧力損失が可能な限り低くなるように構造化されている。連続気泡発泡体に起因する圧力損失は、流速5m/sの空気に対して好ましくは5・10Pa/m未満、特に好ましくは2・10Pa/m未満、とりわけ1・10Pa/m未満、例えば、0.5・10Pa/m未満である。好ましい連続気泡発泡体の気孔率は、少なくとも20%、好ましくは35〜99%、特に好ましくは50〜95%、例えば、70〜90%である。発泡体の気孔率とは、連続気泡発泡体の密度(ρ)と柱部を構成する材料の密度(ρs)との比を意味する。
気孔率=(1−ρ/ρ)・100
【0021】
その際、好ましくは、開放気孔率は、存在するセル全体の少なくとも50%、特に好ましくは65〜100%、とりわけ70〜99%、例えば、75〜95%である。ASTM D3576に基づいて決定可能な気孔数またはセルサイズは、広い範囲で変化させることができる。気孔数は好ましくは1〜150ppi(ppi=pores per inch)、特に好ましくは5〜100ppi、とりわけ10〜80ppi、例えば、20〜60ppiである。好ましい連続気泡発泡体の気孔サイズは1cm〜0.01mm、特に好ましくは0.5cm〜0.1mmである。本発明により適切な連続気泡発泡体は、少なくとも、発泡体中を貫流する反応物の圧力に耐えるために十分な強度を有している。好ましい連続気泡発泡体の、スタンプ圧入(Stempeleindruck)により決定可能な平均強度(破壊荷重)は、少なくとも100N、特に200〜15,000N、例えば、300〜10,000Nである。発泡セラミックの強度は、規定の直径の検査スタンプを発泡セラミック中に押し込んで、力−変位曲線を記録する簡単な検査法によって確定することができる。構造破壊に必要な力を強度の尺度として使用する。この力は破壊荷重として単位Nで示され、10個の試料の一群の平均値として確定される。したがって、連続気泡発泡体の強度は、直径20mmの検査スタンプを使用する検査機によって確定することができ、その際、被検体は、破壊荷重を横切る方向において少なくとも40×40mmで、厚さが少なくとも10mmである。破壊荷重としては、力−変位曲線の第1のピークを使用する。このピークは、一番上の柱部平面が突き破られたことに起因している。
【0022】
さらなる好ましい一実施形態において、連続気泡発泡体は、反応物が乱流状になるように形成されている。
【0023】
好ましい一実施形態において、マイクロ波透過性管は、特殊に成形された触媒活性表面を有する連続気泡発泡体で満たされているか、またはそのような連続気泡発泡体で構成された充填体を含んでいる。特に好ましい一実施形態においては、連続気泡発泡体は、触媒活性種でのコーティングのための、または触媒活性腫のインターカレーションのための表面である。
【0024】
好ましくは、連続気泡発泡体は、少なくともマイクロ波放射にさらされる領域(加熱ゾーン)内では反応管の空洞を実質的に完全に満たすような寸法である。その際、特に好ましくは、発泡体は反応管の内部空間に対応する形状を有しており、コアとして反応管内で固定されている。このような発泡体コアの直径は、反応管の内径の好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは95〜99.9%、例えば、96〜99%である。特に好ましい一実施形態において、発泡体コアは、反応管の壁と同一平面上に終了する。これにより、反応混合物が、触媒活性のおよび/または触媒活性種を担持する連続気泡発泡体を通過せずに反応管中を貫流し得る流路の形成が回避される。特定の一実施形態においては、反応管と発泡体が相互に一体的に結合している。
【0025】
さらなる一実施形態においては、連続気泡発泡体を、触媒活性のおよび/または触媒活性種を含浸した成形体の形で反応管に入れることもできる。成形体としては任意の形状が適しており、好ましくはタブレット形、リング形、筒形、星形、車輪形、または球形であり、特に好ましくは、反応管の横断面に対応する直径を有する筒形である。好ましくは、反応管の容積は、成形体のランダム充填により出来る限り広い範囲で満たされる。この実施形態では、好ましくは反応管の50体積%超、特に好ましくは70〜100体積%、とりわけ80〜99体積%、例えば、85〜95体積%が成形体(気孔体積を含む)で満たされている。充填体は、好ましくは、篩、フリット、または横断面の圧縮により、反応管内で保持される。
【0026】
好ましくは、開放気孔発泡体を製造するために用いられる材料は、目標とする反応温度より高い融点を有しており、特に好ましくは、目標とする反応温度より少なくとも50℃、特に少なくとも100℃、とりわけ目標とする反応温度より少なくとも200℃高い。
【0027】
第1の好ましい実施形態i)において、連続気泡発泡体はセラミック材料から形成されている。セラミック材料は、多くの反応に対して著しい触媒作用を有する。しかしながら、セラミック材料自体はまったく、または非常に少ししか触媒活性を示さない反応で使用するために、第2の好ましい実施形態ii)においては、セラミックに1種または複数のさらなる触媒活性種を混入または含浸させることができる。第3の好ましい実施形態iii)において、連続気泡発泡体は実質的に、1種または複数の金属、特に遷移金属、遷移金属を含む合金、それらの酸化物、またはそれらの混合物から形成されている。
【0028】
第1の実施形態i)の好ましいセラミック発泡体は、反応管と同一材料または異なる材料から成ることができる。好ましい実施形態i)においては、発泡体は反応管と同一材料から成る。本発明により適切なセラミックのための好ましい材料は、例えば、酸化アルミニウム、サファイア、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、およびそれらの類似物ならびにそれらの混合物である。二酸化ケイ素、ケイ酸塩、および特に水晶、ならびにそれらと前述のセラミックとの混合物も適している。
【0029】
従来技術においては、開放気孔セラミック発泡体が知られている。このようなセラミック発泡体は一般的に、最初に、焼失可能な発泡構造、通常は有機発泡構造、例えばポリウレタン発泡体に、セラミックを形成するための成分を含む通常は水性の懸濁液(泥漿)を含浸させることにより製造される。その後、この含浸させた発泡構造から、場合によっては余分な懸濁液が除去され、溶媒を取り除くために発泡構造が乾燥され、続いて、発泡構造は燃焼するが発泡構造上に堆積した懸濁液の成分はセラミックへと焼結する温度でか焼される。その際、当初のポリマー発泡体がもっていたのと同一のマクロ構造を有する、発泡構造のいわゆるポジティブコピーが得られる。開放気孔発泡体を機械的に非常に安定にするには、ポリマー発泡体の空洞を、セラミックを形成するための成分を含む懸濁液で満たし、続いて本来のポリマーを熱分解除去することによりポリマー構造のいわゆるネガティブコピーを得ることが特に有用であった。例えば、ポリマー基体、基体のコーティング密度、懸濁液の化学組成、および/または使用された工程段階を変えることにより、数多くの多様な連続気泡構造を製造することができる。つまり例えば、様々な形状、物理的性質、気孔率、流動抵抗、比表面積、触媒活性、および/または耐用期間を有する発泡体を製造することができる。したがって例えば、ポリマー基体、泥漿の組成、および焼結条件を適切に選択することにより、連続気泡発泡体を、マクロ気孔率、メソ気孔率、および/またはミクロ気孔率に関し、発泡体の自己体積に比べて反応物がアクセスし得る表面が出来る限り大きくなるように構造化することができる。「マクロ気孔」とは、直径が約500オングストローム(Å)超の気孔、「メソ気孔」とは、直径が約20オングストローム〜約500オングストロームの気孔、「ミクロ気孔」とは、直径が約20オングストローム未満の気孔を意味する。
【0030】
本発明により適切な連続気泡発泡体の製造方法のさらなる例は、ヘテロ凝集である。この場合、コロイド系において、例えば、セラミックの形成に適したナノ粒子とポリマー粒子との静電相互作用により構造が得られ、この構造が、フィルタリングおよびか焼により、本発明により適切な性質を有する連続気泡発泡体になる。ここでも、例えば、ナノ粒子およびポリマー粒子のサイズ、形状、電荷、電荷密度、および化学組成を変えることにより、得られる連続気泡発泡体の性質を広い範囲で調整することができる。この方法は、大きな表面積、高い触媒活性、および低い流動抵抗を有する連続気泡セラミック発泡体を製造するために特に適している。
【0031】
適切な連続気泡発泡体には、球、マイクロ球、粒子、ナノチューブ、および/または中空ファイバの集合体で構成され、か焼により凝結された構造も含まれ、この構造は、大きな表面積および多数の流動経路を有している。セラミックを形成する材料の懸濁液、または遷移金属、その酸化物、ケイ酸塩、塩、および/もしくは錯体を、直接的に発泡させ、かつ場合によっては、得られた構造をか焼することによっても、本発明による連続気泡発泡体を得ることができる。
【0032】
セラミック自体はまったく、またはあまりにわずかしか触媒活性を示さない反応に関しては、第2の好ましい実施形態ii)において、第1の好ましい実施形態i)の連続気泡セラミックに1種または複数のさらなる触媒活性種を混入させるか、コーティングするか、または含浸させることが有用であった。したがって、特に好ましい実施形態ii)においては、開放気孔発泡体は、触媒活性種がインターカレートされており、かつ/または触媒活性腫をコーティングされているか、または含浸しているセラミック材料から成る。
【0033】
その際、触媒活性種としては、原理的には、それ自体は消費されることなく1種または複数の化学反応を促進することができるすべての固体化合物が適している。本発明により好ましい触媒は、マイクロ波放射の著しい吸収を示す。
【0034】
したがって、連続気泡セラミック発泡体には、例えば、少なくとも1種の酸性または塩基性に反応する材料を混入させることができる。このような発泡体は、原理的には、上で実施形態i)に関して説明した連続気泡セラミック発泡体と同一の方法により入手可能であり、その際、セラミックを形成するための成分を含む懸濁液に、触媒活性種またはその前駆体が添加され、この触媒活性種または前駆体は、セラミックを構成する材料にインターカレートされる。このような、塩基性に反応する添加物の例は、例えば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の塩および酸化物であり、例えばCaO、MgO、NaO、KO、NaCO、KCO、CsCO3、およびそれらの混合物である。酸性または塩基性の形でのモンモリロナイト、ゼオライト、粘土、ケイ酸塩、酸化アルミニウムも、触媒活性種として泥漿に添加することができる。炭化ホウ素BCも泥漿に添加することができる。同様に、例えば、実施形態i)に関して説明した方法により入手可能な連続気泡セラミック発泡体に、前述のまたは別の酸性または塩基性に反応する材料をコーティングするかまたは含浸させることができ、例えば、連続気泡セラミック発泡体上に、少なくとも1種の触媒活性材料および/またはその前駆体の溶液または懸濁液を塗布し、続いて乾燥させ、かつ場合によってはそのように処理された発泡体をか焼することにより、コーティングまたは含浸させることができる。
【0035】
さらに、連続気泡セラミック発泡体に、少なくとも1種の遷移金属、その酸化物、硫化物、ケイ酸塩、塩、および/もしくは錯体、遷移金属を含む合金、ならびに/またはそれらの混合物を混入することができるか、またはそれらをコーティングすることができるか、または含浸させることができる。特に適切な遷移金属は、周期表のIVA族〜VIIIA族ならびにIA族およびIIA属の元素である。本発明により適切な触媒活性種の例は、遷移金属ならびにその酸化物およびケイ酸塩である。適切な金属の例は、パラジウム、ニッケル、コバルト、白金、ロジウム、鉄、銅、クロム、亜鉛、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、銀、金、バナジウム、タングステン、チタン、マンガン、モリブデン、ジルコン、およびアルミニウムならびにそれらの混合物である。様々な金属、例えば様々な遷移金属の混合物および合金、または遷移金属と主族の金属(例えば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属)との混合物および合金も、本発明により触媒として用いることができる。このような混合物の例は、銅−亜鉛、ニッケル−モリブデン、コバルト−ニッケル−モリブデン、コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステン、ニッケル−ナトリウム、およびニッケル−タングステン−チタンである。適切な塩の例は、酢酸塩、ハロゲン化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、および/または硫酸塩であり、本発明により適切な錯体化合物の配位子の例は、単座配位子および多座配位子、好ましくは二座配位子、三座配位子、およびそれ以上の配位座をもつ配位子であり、例えば、トリフェニルホスフィン(TPP)、ジベンジリデンアセトン、1,2−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、シクロペンタジエニル;2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン(NorPhos)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2,5−ジエン(=ノルボルナジエン、NOR)、2,2’−ビス[(N,N−ジメチルアミノ)(フェニル)メチル]−1,1’−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセン(MandyPhos)、(3,5−ジオキサ−4−ホスファシクロヘプタ[2,1−a;3,4−a’]ジナフタレン−4−イル)ジメチルアミン(MonoPhos)、4,4’−ジ−tert−ブチル−4,4’,5,5’−テトラヒドロ−3,3’−ビス−3H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]ホスフェピン(Binapin)、ブトキシカルボニル−4−ジフェニルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノメチルピロリジン(BPPM)、(1R,2R)−ビス[(2−メトキシフェニル)フェニルホスフィノ]エタン(DIPAMP)、O−イソプロピリデン−2,3−ジヒドロキシ−1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DIOP)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、エチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)、テトラメチルエチレンジアミン(TEMEDA)、エチレンジアミン(EN)、ジエチレントリアミン(DIEN)、イミノジアセテート(IDA)、ジエチレンテトラミン、トリアミノトリエチルアミン、ニトリロトリアセテート(NTA)、エチレンジアミノトリアセテート(TED)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラアセテート(DOTA)、シュウ酸塩(OX)、クエン酸塩、酒石酸塩、ジメチルグリオキシム(DMG)、トリス(ピラゾリル)ボレート(Tp)、2,2’−ビナフチルジフェニルジホスフィン(BINAP)、8−ヒドロキシキノリン、2,2’−ビピリジン(BPY)、1,10−フェナントロリン(PHEN)、ジメルカプトコハク酸、ニトリロトリ酢酸(NTA)、およびポルフィリン骨格をベースとする配位子である。
【0036】
開放気孔セラミック発泡体のコーティングまたは含浸は、例えば、遷移金属、その塩および/または錯体の溶液または懸濁液を、セラミックに浸み込ませることによって行うことができ、その際、微分散化された金属または金属塩および/または金属錯体から成る層が塗布される。含浸は、好ましくは、上述の金属の可溶性の塩および/または錯体、例えば、酢酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩、および/または硫酸塩によって行われる。溶液および/または懸濁液の製造には、水だけでなく、極性有機溶媒、ならびに水と1種もしくは複数の極性有機溶媒とから成る混合物が好ましい。遷移金属ならびにその塩および錯体は、例えば吸収により、特に錯体は化学結合により、連続気泡発泡体に固定させることができる。さらに、遷移金属ならびにその塩および錯体は、例えばか焼またはその他の化学的プロセスにより、対応する金属酸化物に転換させることができる。特に好ましい一実施形態においては、特に、ポリマー発泡体のポジティブコピーを触媒活性種でコーティングすることができる。得られた構造は、続いて例えば焼結によりさらに最適化させることができる。さらに、連続気泡発泡体の触媒活性種によるコーティングは、例えば、粉末コーティング、電気めっき、または蒸着によって行うことができる。
【0037】
触媒活性種を混入させた、および/またはコーティングした連続気泡発泡体は、発泡体の総重量に対して触媒活性種を好ましくは0.001〜25重量%、特に好ましくは0.05〜20重量%、例えば、0.1〜10重量%含んでいる。
【0038】
第3の好ましい実施形態iii)の連続気泡発泡体は、実質的に、1種または複数の遷移金属、遷移金属を含む合金、それらの酸化物、硫化物、ケイ酸塩、またはそれらの混合物から形成される。好ましい触媒活性材料は、遷移金属およびその酸化物である。特に適切な遷移金属は、周期表のIVA族〜VIIIA族ならびにIA族およびIIA族の元素である。適切な金属の例は、パラジウム、ニッケル、コバルト、白金、ロジウム、鉄、銅、クロム、亜鉛、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、銀、金、バナジウム、タングステン、チタン、マンガン、モリブデン、ジルコン、およびアルミニウムならびにそれらの混合物である。様々な金属、例えば様々な遷移金属の混合物および合金、または遷移金属と主族の金属(例えば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属)との混合物および合金も、本発明により触媒として用いることができる。このような混合物の例は、銅−亜鉛、ニッケル−モリブデン、コバルト−ニッケル−モリブデン、コバルト−モリブデン、ニッケルータングステン、ニッケル−ナトリウム、およびニッケル−タングステン−チタンである。
【0039】
このような発泡体の製造は、第1の実施形態i)のセラミック発泡体の製造に関して説明した方法に倣って行うことができる。その際、例えば、ポリマー発泡体に、1種または複数の遷移金属、遷移金属を含む合金、それらの酸化物、硫化物、塩、および/または錯体の液体または懸濁液を含浸させ、余分な材料を除去し乾燥した後、ポリマーを熱分解により除去する。その際、ポリマー発泡体の含浸は、好ましくは、上述の金属の可溶性の塩および/または錯体、例えば、酢酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩、および/または硫酸塩によって行われる。溶液および/または懸濁液の製造には、水だけでなく、極性有機溶媒、ならびに水と1種もしくは複数の極性有機溶媒とから成る混合物が好ましい。その際、ポリマー発泡体のポジティブコピーもネガティブコピーも製造可能である。本発明により適切な連続気泡発泡体を製造するための数多くのさらなる方法が知られており、それは例えば、触媒活性金属または金属酸化物の直接的な発泡である。
【0040】
触媒活性のまたは触媒活性種を担持する開放気孔発泡体をその使用前に活性化することがしばしば有用であった。これは、例えば発泡体の熱処理によって行うことができる。その際、マイクロ波の照射下での熱処理が特に有用であった。例えば水素化脱硫の場合、金属または金属酸化物をその使用前に、公知のやり方で硫化物に転換することができる。
【0041】
約1cm〜1mの波長、および約300MHz〜30GHzの周波数を有する電磁波をマイクロ波と呼ぶ。この周波数帯域が原理的に本発明による方法に適している。好ましくは、工業的、学問的、医学的、家庭用または類似の用途向けに許可された周波数、例えば、915MHz、2.45GHz、5.8GHzまたは24.12GHzの周波数を有するマイクロ波放射が本発明により使用される。
【0042】
好ましい一実施形態において、本発明による装置のマイクロ波透過性管は、反応物がその中を貫流する際にマイクロ波放射にさらされる、耐圧性の化学的に不活性な管(反応管)である。その際、反応管は実質的に直線状である。反応物の加熱は、好ましくは、その長軸がモノモードマイクロ波アプリケータのマイクロ波伝播方向にある、マイクロ波透過性の直線管内で行われる。
【0043】
好ましくは、マイクロ波による反応物の照射は、マイクロ波発生器に結合された中空導波管(Hohlleiters)の内部に存在する、マイクロ波透過性で直線状の反応管内で行われる。好ましくは、反応管は中空導波管の中心対称軸と軸方向に一直線に並ぶ。
【0044】
マイクロ波アプリケータとして機能する中空導波管は、好ましくは空洞共振器として形成されている。好ましくは、空洞共振器の長さは、その中で定常波が形成されるような寸法である。さらに好ましくは、中空導波管内の反応物に吸収されなかったマイクロ波は、その末端で反射される。マイクロ波アプリケータを反射型の共振器として形成することによって、発生器から供給される出力が同じ場合には電場強度の局所的増大が生じ、エネルギー利用が高まる。
【0045】
空洞共振器は好ましくはE01nモードで稼働する。ただし、nは整数を表し、共振器の中心対称軸に沿ったマイクロ波場の極大の数を示す。この操作に際して、電場は、空洞共振器の中心対称軸の方向を向く。電場は中心対称軸の領域で1つの極大を有し、外側面に向かって値0へと減少する。この電場の形状は、中心対称軸の周りで回転対称である。nが整数となる長さを有する空洞共振器を使用することにより、定常波の形成が可能となる。反応管を通過する反応物の所望の流速、必要とされる温度、および共振器内での必要とされる滞留時間に応じて、使用されるマイクロ波の波長に対する共振器の長さが選択される。nは、好ましくは1〜200の整数、特に好ましくは2〜100の整数、特には3〜50の整数、とりわけ4〜20の整数、例えば、3、4、5、6、7、8、9または10である。
【0046】
空洞共振器のE01nモードは、英語ではTM01nモードとも称される(例えば、K. Lange、K.H. Loecherer、「Taschenbuch der Hochfrequenztechnik」、第2巻、K21頁以下(非特許文献6)を参照)。
【0047】
マイクロ波アプリケータとして機能する中空導波管内へのマイクロ波エネルギーの入射は、適切な寸法の穴またはスリットを通して行うことができる。本発明により特に好ましい一実施形態において、マイクロ波による反応物の照射は、マイクロ波の同軸遷移(koaxialem Uebergang)を伴う中空導波管内に存在する反応管内で行われる。この方法にとって特に好ましいマイクロ波装置は、空洞共振器と、空洞共振器にマイクロ波場を結合するための結合装置と、2つの対向する端壁に位置し、共振器中を反応管を貫通させるための、それぞれ1つの開口部とから構成されている。空洞共振器中へのマイクロ波の結合は好ましくは、空洞共振器内に突出する結合ピンを介して行われる。結合ピンは、結合アンテナとして機能する、好ましくは金属製の内部導体管(Innenleiterrohr)として形成されていることが好ましい。特に好ましい一実施形態において、この結合ピンは前面開口部の1つを通って空洞共振器内に突出している。特に好ましくは反応管は同軸遷移の内部導体管に接続され、特に反応管はその内部導体管の空洞を通って空洞共振器内に導かれる。好ましくは、反応管は空洞共振器の中心対称軸と軸方向に一直線に並ぶ。そのために空洞共振器は好ましくは、2つの対向する端壁に位置する、反応管を貫通させるための、それぞれ1つの中心開口部を有する。
【0048】
結合ピンへの、または結合アンテナとして機能する内部導体管へのマイクロ波の供給は、例えば、同軸の接続ライン(Anschlussleitung)によって行われる。好ましい一実施形態において、マイクロ波場は中空導波管を介して共振器に導入され、その際、空洞共振器から突き出た結合ピン端部が、中空導波管の壁に存在する開口部内へと中空導波管内に導入され、中空導波管からマイクロ波エネルギーを取り出して、共振器内に結合する。
【0049】
特定の一実施形態において、マイクロ波による反応物の照射は、マイクロ波の同軸遷移を伴うE01n丸形中空導波管内に軸対称に存在するマイクロ波透過性反応管内で行われる。その際、反応管は、結合アンテナとして機能する内部導体管の空洞を通って空洞共振器へと導かれる。さらなる好ましい一実施形態において、マイクロ波による反応物の照射は、マイクロ波の軸方向の入射を伴うE01n空洞共振器中を導かれるマイクロ波透過性反応管内で行われ、その際、空洞共振器の長さは、マイクロ波場の極大がn=2以上形成されるようになっている。さらなる好ましい一実施形態において、マイクロ波による反応混合物の照射は、マイクロ波の軸方向の入射を伴うE01n空洞共振器を通して導かれるマイクロ波透過性反応管内で行われ、その際、空洞共振器の長さは、マイクロ波場の極大をn=2以上有する定常波が形成されるようになっている。さらなる好ましい一実施形態において、マイクロ波による反応物の照射は、マイクロ波の同軸遷移を伴う円筒形E01n空洞共振器内に軸対称に存在するマイクロ波透過性反応管内で行われ、その際、空洞共振器の長さは、マイクロ波場の極大がn=2以上形成されるようになっている。さらなる好ましい一実施形態において、マイクロ波による反応混合物の照射は、マイクロ波の同軸遷移を伴う円筒形E01n空洞共振器内に軸対称に存在するマイクロ波透過性反応管内で行われ、その際、空洞共振器の長さは、マイクロ波場の極大をn=2以上有する定常波が形成されるようになっている。
【0050】
例えば、マグネトロン、クライストロン、およびジャイロトロンなどのマイクロ波発生器が当業者に周知である。
【0051】
マイクロ波照射に使用される反応管は好ましくは、マイクロ波透過性の高融点材料から製造される。特に好ましくは、非金属の反応管が使用される。本明細書において「マイクロ波透過性」とは、それ自体では限りなくわずかにマイクロ波エネルギーを吸収して熱に変化させる材料を意味する。物質の、マイクロ波エネルギーを吸収して熱に換える能力の尺度としてしばしば誘電損率tanδ=ε''/ε'が使用される。誘電損率tanδは、誘電損失ε''と誘電定数ε'との比として定義される。様々な材料のtanδ値の例は、例えば、D. Bogdal、「Microwave-assisted Organic Synthesis」、Elsevier 2005年(非特許文献7)に挙げられている。本発明により適切な反応管としては、2.45GHzおよび25℃で測定したtanδ値が0.01未満、特に0.005未満、とりわけ0.001未満となるものが好ましい。好ましくは、マイクロ波透過性で熱に安定な材料としては、第一に鉱物をベースとした材料、例えば、石英、酸化アルミニウム、サファイア、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素などが考慮の対象となる。特にフルオロポリマー、例えば、テフロンなどの熱に安定なプラスチック、およびポリプロピレンやポリアリールエーテルケトン、例えば、ガラス繊維強化ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのエンジニアリング・プラスチックも管材料として適切である。反応中の温度条件に耐えるためには、これらのプラスチックでコートした石英や酸化アルミニウムなどの鉱物が反応装置用材料として認められている。
【0052】
本発明による特にマイクロ波照射に適した反応管は、1mm〜約50cm、特に2mm〜35cm、とりわけ5mm〜15cm、例えば、10mm〜7cmなどの内径を有する。反応管とは本明細書において、長さと直径との比が、5を超え、好ましくは10〜100,000、特に好ましくは20〜10,000、例えば、30〜1,000などである容器を意味する。その際、反応管の長さとは、ここでは、マイクロ波照射が行われる、管の区間を意味する。
【0053】
本発明により特に適切なE01空洞共振器は好ましくは、使用されるマイクロ波放射線の少なくとも半分の波長に相当する直径を有する。空洞共振器の直径は、使用されるマイクロ波放射線の波長の半分の、好ましくは1.0〜10倍、特に好ましくは1.1〜5倍、とりわけ2.1〜2.6倍である。E01空洞共振器は好ましくは円形の横断面を有し、E01丸形中空導波管とも呼ばれる。E01空洞共振器は、特に好ましくは筒形、とりわけ円筒形を有する。
【0054】
マイクロ波照射にさらされる、反応管の領域(加熱ゾーン)における反応物の滞留時間は、様々な要因、例えば、反応管の形状、入射するマイクロ波エネルギー、反応物のマイクロ波比吸収率、および所望の反応温度などに依存する。反応管および特に加熱ゾーンにおける反応物の滞留時間は、通常30分未満、好ましくは0.01秒〜15分、特に好ましくは0.1秒〜10分、とりわけ1秒〜5分、例えば、5秒〜2分などである。その際、マイクロ波放射の強度(出力)は、反応物が反応管から出る際に所望の反応温度を有するように調整される。
【0055】
本発明による方法を実施する際に空洞共振器内に入射されるマイクロ波出力は、特に目標とする反応温度、しかし反応管の形状にも、したがって反応容積、および反応管を通過する反応物の流速および化学反応を実施するために必要とされる照射時間にも依存する。入射されるマイクロ波出力は、通常200W〜数100kW、特に500W〜100kW、例えば、1kW〜70kWである。マイクロ波出力は、1つまたは複数のマイクロ波発生器によって発生させることができる。空時収率を最大にするために、マイクロ波出力は好ましくは、反応混合物が可能な限り短時間で所望の反応温度に達するが、マイクロ波アプリケータ内で放電を起こすことはないように調整される。
【0056】
好ましくは、マイクロ波照射に起因する温度上昇は、例えばマイクロ波強度および/または流速を調節することによって、最大で500℃に制限される。温度は、例えば反応管の表面で測定することができ、好ましくは、加熱ゾーンを出た直後の反応物で決定される。本発明による方法の実施は、100〜400℃の温度、特に120〜350℃の温度、とりわけ150〜300℃、例えば、180〜270℃の温度で特に有用であった。好ましい一実施形態において、転化生成物は、マイクロ波照射が終わるとすぐに、可能な限り急速に、120℃未満の温度、好ましくは100℃未満、とりわけ60℃未満の温度に冷却される。
【0057】
反応ゾーンにおいて、原料、生成物、場合によっては副産物、および存在する場合には溶媒は、温度上昇によって圧力蓄積をもたらし得る。過剰に存在する1種または複数の原料、生成物、副産物、および場合によっては溶媒を揮発および分離させるために、および/または反応生成物を冷却するために減圧する際、この過剰圧力を利用することができる。
【0058】
反応物の転化は、反応管を出るときにはまだ化学的平衡になっていないことが多い。したがって好ましい一実施形態において、反応混合物は、反応管を通過後に直接に、すなわち中間冷却なしに等温反応区域に運ばれ、この等温反応区域内で一定時間、反応温度に保たれる。好ましくは、等温反応区域も、触媒活性のまたは触媒活性種を含む開放気孔発泡体で満たされている。この反応区域を出てはじめて、反応混合物は、場合によっては減圧され、冷却される。反応管から等温反応区域に直接に運ぶとは、反応管と反応区域の間で、熱を供給および特に熱を排出するための積極的な処置を講じないことを意味する。反応管から出るときと反応区域に入るまでの間の温度差は好ましくは、±30℃未満、特に±20℃未満、特に好ましくは±10℃未満、とりわけ±5℃未満である。特定の一実施形態において、反応区域に入る際の反応物の温度は、反応管から出る際の温度に一致する。この変形実施形態は、反応物を、迅速かつ的確に、部分的過熱なしに所望の反応温度に加熱し、その後、反応物を冷却する前に一定時間前記反応温度で滞留させることを可能にする。したがって、空時収率の上昇、エネルギー効率の上昇、さらにその上確実かつ再現性のある稼働を達成することができる。この実施形態において、反応物は、好ましくは反応区域を出た直後に出来る限り急速に、120℃未満の温度、好ましくは100℃未満の温度、特に60℃未満の温度に冷却される。
【0059】
等温反応区域としては、反応管で調整された温度での反応混合物の滞留を可能にする、化学的に不活性なあらゆる容器が考慮の対象となる。等温反応区域とは、反応区域にある反応物の温度が流入温度に比べて±30℃、好ましくは±20℃、特に好ましくは±10℃、とりわけ±5℃で一定に保たれることを意味する。したがって、反応区域から出る際に反応物は、反応区域に入る際の温度から、最大で±30℃、好ましくは±20℃、特に好ましくは±10℃、とりわけ±5℃異なる温度を有する。
【0060】
連続的に稼働する撹拌容器および容器カスケードの他に、特に管が等温反応区域として適切である。この反応区域は、選定された温度条件および圧力条件下で機械的に安定であり、化学的に不活性であるという条件付きで、例えば、金属、セラミック、ガラス、石英またはプラスチックなどの様々な材料からなるものでよい。その際、断熱容器が特に有用である。反応区域における反応物の滞留時間は、例えば、反応区域の体積によって調整することができる。撹拌容器および容器カスケードを使用する際は、容器の充填度によって滞留時間を調整することが同様に有用である。好ましい一実施形態においては、等温反応区域にも、触媒活性のまたは触媒活性種を含む開放気孔発泡体が充填されている。この発泡体は、反応管内と同一の発泡体またはそれとは異なる発泡体であってもよい。
【0061】
好ましい一実施形態においては、反応区域として管が使用される。その際、加熱ゾーンに接続された、マイクロ波透過性反応管が延長されたものでも、同一材料または異なる材料からなる、反応管と接続された別個の管でもよい。管の長さおよび/またはその横断面によって、所与の流量における反応物の滞留時間を決定することができる。反応区域として機能する管は最も単純な場合には断熱されており、したがって反応物が反応区域に入る際に支配的な温度は、上記の限界内に保たれる。しかし、反応区域内で、例えば熱媒体または冷媒を介して、反応物に適切なエネルギーを供給または除去することもできる。この実施形態は、装置または方法を開始する際に特に有用である。したがって、反応区域は、例えば、管コイルとしてまたは管束として形成することが可能であり、これらは加熱浴もしくは冷却浴中にあるか、または二重ジャケット管(Doppelmantelrohre)の形で、熱媒体または冷媒の作用を受ける。反応区域は、さらなるマイクロ波アプリケータ内にあってもよく、反応物はその中でもう一度マイクロ波で処理される。その際、モノモードと同様にマルチモードで動作するアプリケータも使用可能である。
【0062】
等温反応区域における反応物の滞留時間は、実施される反応の反応速度、および場合によっては起こり得る望ましくない副反応の速度に依存する。理想的には、反応区域における滞留時間は、支配的条件によって規定される熱平衡状態に達するようになっている。滞留時間は、一般に1秒〜10時間、好ましくは10秒〜2時間、特に好ましくは20秒〜60分、例えば、30秒〜30分である。さらに好ましくは、反応区域内での反応物の滞留時間と加熱ゾーン内での滞留時間との比は、1:2〜100:1、特に好ましくは1:1〜50:1、とりわけ1:1.5〜10:1である。
【0063】
本発明による装置は通常、入口に計量ポンプおよびマノメーターが設けられており、出口に圧力保持装置および冷却装置、例えば、熱交換器が設けられている。したがって、非常に広い圧力範囲および温度範囲内での反応が可能である。
【0064】
反応管または等温反応区域を出た後の反応混合物の冷却は、例えば、熱交換器、断熱膨張、または冷溶媒による希釈によって行うことができる。通常、反応混合物は大気圧まで減圧されるが、続く工程段階に向けて、または特殊な装置を使用する場合には、大気圧より高いまたは低い圧力に減圧することもできる。すなわち、例えば、溶媒および/または未転化原料を分離するには、大気圧を明らかに下回る圧力に反応混合物を減圧することが有用である。冷却は、転化された生成物の性質および予定されるさらなる工程段階に応じて、減圧の前もしくは後にも、または減圧途中の圧力下で行うことができる。
【0065】
反応混合物の製造は、連続的、非連続的、または準バッチ工程で行うことができる。したがって、反応混合物の製造は、上流の(準)バッチ工程で、例えば、撹拌容器内で行うことができる。反応混合物は、1種または複数の反応体、好ましくは2種〜10種、例えば2種、3種、4種、5種、6種、またはそれ以上の反応体、ならびに場合によっては助剤、例えば溶媒、およびさらなる好ましくは均一系の触媒および/または共触媒を含むことができる。反応混合物は好ましくは、その場で製造され、単離はされない。好ましい一実施形態において、原料は、互いに独立に、場合によっては溶媒で希釈されて、反応管に入る直前に混合される。したがって、反応混合物の諸成分が、混合区域で一緒にされ、そこから、場合によっては中間冷却の後に、加熱ゾーンに運ばれることが、特に有用である。さらに、好ましくは、原料は、本発明による方法に、液状で供給される。そのために、融点がより高いおよび/または粘性がより高い原料は、例えば、溶融状態で、および/または溶媒と混合して、例えば溶液、分散液、乳濁液として添加することができる。さらなる触媒が添加される場合、反応管に入る前にこれを原料の1つにまたは原料混合物に添加してもよい。ガス状系および不均一系も、本発明による方法によって転化することができ、その際、反応物を運ぶために対応する技術的な装置が必要となる。その際、反応混合物の固体成分の粒子サイズは、発泡体の気孔サイズより明らかに小さくなければならない。好ましくは、固体成分の粒子サイズは、存在するとすれば、発泡体の気孔サイズの最大限50%、特に最大限10%、例えば最大限2%である。
【0066】
特定の一実施形態においては、1種または複数のガス状原料が使用される。適切なガス状原料の例は、水素、酸素、塩素、フッ素、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、ヒドラジン、および塩化水素である。これらは、好ましくは、反応混合物が反応管に入る前に、対応するポンプによりその他の反応体へと運ばれる。ガス状原料を使用する際は、好ましくは、ガスが液状でまたは反応混合物中に溶解されて存在するように、反応条件を選択する。これに代わる策として、ガスは、対応する化合物の反応によって加熱ゾーン内で製造され、その場で、本来の反応に介入することもできる。したがって例えば、水素添加を、水素分子によって、または例えば蟻酸塩を水素供与体とする移動水素化によって行うことができる。この場合、触媒活性のおよび/または触媒活性種を担持する発泡体を通過するときに、反応体の非常に良好な混合、ならびに反応混合物と触媒活性のおよび/または触媒活性種を担持する発泡体との集中的な接触が行われる。その際、この系の耐圧性に基づき、高圧下でも、特に、ガス状の成分またはその他の低沸点の成分も漏れ出ることなく稼働することができる。
【0067】
副反応を避けるために、および出来る限り純粋な生成物を製造するためには、原料および生成物を不活性な保護ガス、例えば、窒素、アルゴンまたはヘリウムの存在下で取り扱うことが有用である。
【0068】
反応物は、内部導体管中を導かれる端部またはそれに対向する端部において、反応管に供給することができる。
【0069】
管断面、照射ゾーン(反応物がマイクロ波放射にさらされる、反応管の区域を意味する)の長さ、流速、空洞共振器の形状、入射されるマイクロ波出力、およびその際に達する温度を変えることによって、所望の反応温度が出来る限り迅速に得られるように、かつ最高温度での滞留時間が、副反応または連続反応を限りなくわずかにしか生じさせないほど短いように、反応条件を調整する。個々の化学反応に望ましい反応条件の調節は、好ましくは、入射されるマイクロ波出力を介して、加熱ゾーンの端部で達成される反応混合物の温度を制御することによって行われる。その際、圧力は、反応区域の端部にある減圧弁(圧力保持装置)を介して、生じる生成物および副生成物を含めた反応混合物が沸騰しない程度に高く調整される。ガス状反応体が存在する場合は、その濃度および反応管内での圧力を、好ましくは、ガス状反応体が反応混合物中に溶解されて、または液化した形で存在するように調整する。
【0070】
本方法は、好ましくは1bar(大気圧)〜500bar、特に好ましくは1.5〜200bar、特には3bar〜150bar、とりわけ10bar〜100bar、例えば、15bar〜50barの圧力で実施される。高い圧力下での稼働が特に有用であり、その際、原料、生成物、場合によっては存在する溶媒、および/または反応中に形成される生成物の沸点(常圧において)より上で稼働される。特に好ましくは、圧力は、マイクロ波照射中、反応混合物が液体状態に留まり、沸騰しない程度に高く調節される。
【0071】
本発明による装置および本発明による方法により、不均一系触媒化学反応を、高収率にてラージスケールで、非常に迅速に、エネルギーを節約して、かつ安価に実施することが可能になる。その際、本発明による方法の利点は、特に、例えば容器の壁面において、反応物の平均温度を大幅に超過することなく、マイクロ波により反応物が目的とする反応温度まで迅速であるにもかかわらず適切に加熱されることである。これは、長軸が、モノモードマイクロ波アプリケータのマイクロ波伝播方向にあり、特に、例えばマイクロ波の同軸遷移を伴うE01空洞共振器の内部にある反応管の内部の対称なマイクロ波場の中心において反応物が照射される場合に、特に著しい。温度勾配による熱伝達を用いた従来の加熱法とは対照的に、本発明による装置を用いれば、反応混合物を最も熱に弱い成分の分解温度近くまで加熱することができ、この条件で支配的な平衡状態に達するまでその温度を維持することが可能となる。
【0072】
本発明による装置およびそれを利用した方法において、空洞共振器内に入射されるマイクロ波エネルギーを利用する場合に、非常に高い効率が得られ、その効率は一般に、入射されたマイクロ波出力の50%超、しばしば80%超、場合によっては90%超、特別の場合には95%超、例えば、98%であり、したがって、従来の製造法と比べても、従来技術のマイクロ波方法と比べても経済的にも生態学的にも有利である。
【0073】
その上、本発明による装置および方法により、装置の体積によって制限されるほんの少量の反応物への連続的マイクロ波照射によって、制御された、確実で再現可能な反応を行うことができる。特に、長軸がモノモードマイクロ波アプリケータのマイクロ波伝播方向にある反応管内の対称的マイクロ波場の中心で反応物を照射する場合、マイクロ波照射中、反応物はマイクロ波の伝播方向と平行に移動される。したがって、例えば波頂および節点においてマイクロ波場の強度が変化することにより局所的過熱をもたらす可能性がある、制御不能な場分布による既知の過熱現象が、反応物の流動運動によって相殺される。上記の利点により、例えば、10kW超または100kW超の高いマイクロ波出力で稼働すること、したがって空洞共振器内でのごく短い滞留時間と組み合わせて、1施設1年当たり100トン以上の大きな生産量を達成することも可能になる。
【0074】
その際、無触媒下のマイクロ波支援反応に比べても、触媒作用下で熱により加熱される反応に比べても、反応管内での反応物の滞留時間は、短くてよくなり、したがって、規定の転化率の達成に必要なマイクロ波透過性管は、より短くおよび/またはより細くてよい。その際、触媒活性のまたは触媒活性種を含む開放気孔発泡体で満たされた同じ寸法の栓流反応器内での、熱によるジャケット加熱下での対応する転化の際に生じるような熱分解生成物の生成は事実上観察されなかった。さらに、驚くべきことに、本発明による方法により製造された生成物中には、洗い落とされた触媒が非常に低い含有量でしか存在せず、これにより通常、粗生成物のさらなる処理は必要ない。担持材料として開放気孔発泡体を使用することにより、反応物は、連続気泡発泡体によって引き起こされた短手方向の混合により非常によく混合され、多くの場合には乱流状になる。したがって、特に、相互に混合不可能な、または限定的にしか混合可能でない原料も、それぞれ別々に、反応管に入る直前に配量添加することができる。したがって、層流ではしばしば観察されるような、原料が相並んで流れ、反応に至り得ないということは回避される。同様に、完全には相互に混合可能でない反応相手の混合も改善され、反応が容易になる。その上、発泡体状の構造は、非常に大きな触媒活性表面を有するが、通常の、粒状またはその他の固体の形の固定床触媒が示すような、流れる反応物に、より大きな流動抵抗をもたらすことはない。したがって、本発明による装置および/またはこの装置を利用する方法を使用すると、目的生成物の収率および純度がより高くなる。
【実施例】
【0075】
マイクロ波による反応混合物の照射は、筒形空洞共振器(60×10cm)内に軸対称に位置するアルミナからなる反応管(60×1cm)で実施した。反応管は、全長にわたって、それぞれの例において詳述される連続気泡発泡体で満たされていた。空洞共振器の1端面で、反応管が、結合アンテナとして機能する内部導体管の空洞を通って延びていた。マグネトロンによって生じる、周波数2.45GHzのマイクロ波場が、結合アンテナにより空洞共振器内に結合され(E01空洞照射器、モノモード)、その中で定常波が形成された。反応管を出た後、特に明記しない限り、反応混合物は大気圧まで減圧され、直ちに強力熱交換器により約40℃まで冷却された。
【0076】
反応管の端部における反応物の所望の温度が一定に保たれるように、マイクロ波出力を、実験期間にわたりそのつど調整した。したがって、実験記録に記されたマイクロ波出力は、入射マイクロ波の時間平均値を示す。反応混合物の温度測定は、反応管(絶縁特殊鋼細管(φ1cm)内の約15cmの区間)から出た直後にPt100温度センサーを用いて行った。反応混合物によって直接吸収されなかったマイクロ波エネルギーは、空洞共振器の、結合アンテナと対向する端面で反射され、戻る際にも反応混合物によって吸収されずマグネトロンの方向に反射されたマイクロ波エネルギーは、プリズム系(サーキュレータ)によって、水を入れた容器に導いた。入射エネルギーとこのウォータープールの加熱との差を求め、その値から反応物に加えられたマイクロ波エネルギーを計算した。
【0077】
高圧ポンプおよび圧力解放弁により、反応管内の反応混合物を、すべての原料および生成物または縮合生成物を常に液状に保つのに充分な動作圧下に置いた。反応混合物を一定流量にて装置中をポンプ圧送し、流速を変更することによって反応管における滞留時間を調整した。
【0078】
生成物の分析は、CDCl中で500MHzのH核磁気共鳴測定法により行った。
【0079】
例1
ナタネ油脂肪酸メチルエステルの製造
撹拌器、内部温度計および圧力補償器を備える10lのビュッヒ撹拌オートクレーブ中にナタネ油4.4kg(5mol、分子量878g/mol)を投入し、メタノール1.12kg(35mol)を混合した。こうして得られた混合物を35barの動作圧力にて5l/hで連続的に反応管中をポンプ圧送し、その際、この反応管は、この実験のために、気孔率70%において気孔数50ppiのコージライトから成る連続気泡発泡体で満たされていた。2.2kWのマイクロ波出力にさらすと、その91%が反応物によって吸収された。反応混合物の反応管における滞留時間は約30秒であった。反応混合物は、反応管を出た後では211℃の温度を有していた。
【0080】
理論値の97%の、トリグリセリドの転化が達成された。反応生成物はわずかに黄色っぽく着色しており、反応生成物のカルシウムイオン含有量は5ppm未満(検出限界未満)であった。より比重の高いグリセリンを除去し、蒸留により過剰なメタノールを除去すると、ナタネ油脂肪酸メチルエステル4.2kgが得られ、これには副産物としてジグリセリド0.5%およびモノグリセリド1.3%が含まれていた。
【0081】
例2
スズキ・カップリング
撹拌器、内部温度計および圧力補償器を有する、窒素で不活性化処理した10lのビュッヒ撹拌オートクレーブ中に、エタノール、水、およびジメチルホルムアミドから成る混合物6リットルを投入し、その中に4−ブロモトルエン1.13kg(6.6mol)およびフェニルボロン酸732g(6.0mol)を溶解した。続いて、再び窒素で不活性化処理した。こうして得られた原料溶液を30barの動作圧力にて3.8l/hで連続的に反応管中をポンプ圧送し、その際、この反応管は、パラジウムをドープした酸化アルミニウム発泡体で満たされていた。この実験のために、気孔数40ppiおよび気孔率60%の酸化アルミニウム発泡体に、M. Organ(Angew. Chem. 2006、118、2827〜2832)(非特許文献8)の指示に基づいてPdを含浸させた。反応混合物を1.8kWのマイクロ波出力にさらすと、その95%が反応物によって吸収された。反応混合物の反応管における滞留時間は約39秒であった。反応混合物は、反応管を出た後では248℃の温度を有していた。
【0082】
核磁気共鳴測定法により決定して、理論値の75%の収率(過少量で使用されたフェニルボロン酸に対して)が得られ、生成物のパラジウム含有量は5ppm未満(検出限界未満)であった。薄膜蒸発器により、使用した溶媒を取り除き、生成残渣を真空蒸留装置に運んだ。蒸留による精製(134〜136℃/12mbar)後に、純度99%超の4−メチルビフェニル706gが得られた。
【0083】
例3
ヒマワリ油の触媒的水素化
撹拌器、内部温度計および圧力補償器を有する、窒素で不活性化処理した10lのビュッヒ撹拌オートクレーブ中に、不飽和脂肪酸を90%の分率で有するヒマワリ油7リットルを投入し、70度に加熱した。続いて、この油を8barの動作圧力にて1時間につき4リットルで連続的に反応管中をポンプ圧送し、その際、この反応管は、例2において述べたようなPdドープ酸化アルミニウム発泡体で満たされていた。その際、反応管に油が入る前に、原料流に、装置の内部で生じる8barの圧力を超えない程度に水素ガスを加えた。
【0084】
1.7KWのマイクロ波出力により、反応管の端部で160℃の平均反応温度が調整された。油/H混合物の反応管における滞留時間は平均37秒であった。反応生成物は、反応管を出た後で、熱交換器により40℃に冷却された。
【0085】
結果として得られた硬化ヒマワリ油は、反応後、不飽和脂肪酸含有量が7%であった。静置すると、生成物は、短時間で、白いワックス状の物質に固化し得る。
【0086】
例4
移動水素化によるシクロヘキサノンのシクロヘキサノールへの触媒的還元
撹拌器、内部温度計および圧力補償器を有する、窒素で不活性化処理した10lのビュッヒ撹拌オートクレーブ中に、イソプロパノール(無水)5リットルを投入し、撹拌しながらシクロヘキサノン2.94kg(30mol)を添加し、50℃に加熱した。続いて、こうして製造されたシクロヘキサノン溶液を25barの動作圧力にて1時間につき3リットルの流速で反応管中をポンプ圧送し、その際、この反応管は、気孔数30ppiおよび気孔率60%の、ルテニウムを含浸させたコージライト発泡体で満たされていた。入射された1.5KWのマイクロ波出力は、反応物を155℃に加熱した。イソプロパノール/シクロヘキサノン溶液の反応管における滞留時間は約1分であった。反応生成物は反応管を出た後で、熱交換器により40℃に冷却された。H核磁気共鳴測定法により決定された収率は、投入されたシクロヘキサノンに対して93%であった。反応生成物のルテニウム含有量は5ppm未満(検出限界未満)であった。
【0087】
例5
ディーゼル油の脱硫
撹拌器、内部温度計および圧力補償器を有する、10lのビュッヒ撹拌オートクレーブ中に、沸騰範囲が160〜365℃で、硫黄含有量が1,000ppmの中間留分(「ディーゼル油」)8リットルを投入し、窒素で不活性化処理した。この硫黄含有ディーゼル油を20barの動作圧力にて5l/hの流速で連続的に反応管中をポンプ圧送し、その際、この反応管は、この実験のために、気孔率60%において気孔数75ppiの、炭化ケイ素を混入させた酸化アルミニウムから成る連続気泡発泡体で満たされており、この発泡体には、酸化コバルトと酸化モリブデンから成る混合物が塗布されており、硫化物の形に転換されていた。反応管にディーゼル油が入る前に、ディーゼル油流中に、適切な配量添加機構によりHが圧入された(常圧に対して1.5l/h)。3kWのマイクロ波出力を印加すると、その85%が反応物によって吸収された。反応物の反応管における滞留時間は約30秒であった。反応物は、反応管を出た後では275℃の温度を有していた。熱交換器により、この系の圧力解放に先立ち60℃に冷却され、その後、生成物は脱ガス容器内へと減圧され、脱ガス容器内では、発生した硫化水素および未反応の水素の残りが、窒素を通すことによって除去された。こうして得られたディーゼル油の残留硫黄含有量は35ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波透過性管を含む、不均一触媒化学反応を連続的に行うための装置であって、前記マイクロ波透過性管の長軸がモノモードマイクロ波アプリケータのマイクロ波伝播方向にあり、前記マイクロ波透過性管が、触媒活性種を担持するかまたは触媒活性種から成る連続気泡発泡体で満たされている装置。
【請求項2】
導波管を介してマイクロ波発生器と接続された中空導波管の内部に、十分にマイクロ波透過性の反応管を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
マイクロ波アプリケータが、空洞共振器として形成されている、請求項1または2のいずれか一つに記載の装置。
【請求項4】
マイクロ波アプリケータが、反射型の空洞共振器として形成されている、請求項1〜3のいずれか一つに記載の装置。
【請求項5】
反応管が、中空導波管の中心対称軸と軸方向に一直線に並ぶ、請求項1〜4のいずれか一つに記載の装置。
【請求項6】
マイクロ波の同軸遷移(koaxialem Uebergang)を有する空洞共振器を含む、請求項1〜5のいずれか一つに記載の装置。
【請求項7】
空洞共振器が、E01nモード(但し、nは1〜200の整数)で稼働可能なようになっている、請求項1〜6のいずれか一つに記載の装置。
【請求項8】
空洞共振器が、その中で定常波を形成し得るようになっている、請求項1〜7のいずれか一つに記載の装置。
【請求項9】
マイクロ波照射が、100〜400℃の温度で可能である、請求項1〜8のいずれか一つに記載の装置。
【請求項10】
マイクロ波照射が、大気圧より高い圧力で可能である、請求項1〜9のいずれか一つに記載の装置。
【請求項11】
連続気泡発泡体が、加熱ゾーンの領域内で反応管を実質的に完全に満たしている、請求項1〜10のいずれか一つに記載の装置。
【請求項12】
連続気泡発泡体が、それ自体で触媒活性であるセラミック材料から成る、請求項1〜11のいずれか一つに記載の装置。
【請求項13】
連続気泡発泡体がセラミック材料であり、前記セラミック材料が、それとは異なる触媒活性種を担持する、請求項1〜11のいずれか一つに記載の装置。
【請求項14】
連続気泡発泡体が触媒活性金属から成る、請求項1〜11のいずれか一つに記載の装置。
【請求項15】
ASTM D3576に基づいて決定された連続気泡発泡体の気孔数が、1〜150ppiである、請求項1〜14のいずれか一つに記載の装置。
【請求項16】
連続気泡発泡体の気孔率が少なくとも20%である、請求項1〜15のいずれか一つに記載の装置。
【請求項17】
連続気泡発泡体の気孔サイズが0.01mm〜1cmである、請求項1〜16のいずれか一つに記載の装置。
【請求項18】
スタンプ圧入(Stempeleindruck)により決定可能な連続気泡発泡体の平均強度が、100〜15,000Nである、請求項1〜17のいずれか一つに記載の装置。
【請求項19】
触媒活性種を担持するかまたは触媒活性種から成る連続気泡発泡体で満たされたマイクロ波透過性管を、転化される反応物が貫流できるように作製されている、請求項1〜18のいずれか一つに記載の装置。
【請求項20】
不均一触媒化学反応を行うための方法であって、長軸がモノモードマイクロ波アプリケータのマイクロ波伝播方向にあるマイクロ波透過性管内で、反応物がマイクロ波の照射により転化され、前記マイクロ波透過性管が触媒活性種を担持するかまたは触媒活性種から成る連続気泡発泡体で満たされている、方法。
【請求項21】
不均一触媒反応が、請求項1〜19のいずれか一つに記載の装置において行われる、請求項20に記載の方法。

【公表番号】特表2013−505125(P2013−505125A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530146(P2012−530146)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005427
【国際公開番号】WO2011/035852
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【Fターム(参考)】