説明

高熱伝導性複合粒子及びそれを用いた放熱材料

【課題】コンポジット(複合材料)等の熱伝導率を向上させるための窒化アルミニウムの高熱伝導性複合粒子及びそれを用いた放熱材料を提供。
【解決手段】窒化アルミニウム粒子の表面に化学的に結合したメソゲン基及び窒化アルミニウムと反応性のある官能基を有する有機化合物により窒化アルミニウム粒子を処理して有機被覆層を形成した高熱伝導性複合粒子、それを用いた樹脂組成物、その硬化物、樹脂シート、プリプレグ、積層体、電子装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム粒子を表面被覆した複合粒子に関わり、特に、各種の電気および電子機器の発熱性電子部品(例えば、ICチップやプリント配線基板)から発生される熱を効率よく放熱するための放熱材料及び放熱材に含有される窒化アルミニウム粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICチップやプリント配線基板などの電子部品は小型、高性能化に伴い、発熱量が増加傾向にあり、電子機器を構成する絶縁材料には高い放熱性が求められている。また、絶縁材料には、絶縁耐圧の高さや成型の容易さから有機材料が使われている。有機材料の高熱伝導化には、配向性の高いメソゲン基を有するモノマーを含む樹脂組成物を重合させた液晶性樹脂を利用することが有効であることが知られている(特許文献1)。
【0003】
更に有機材料の放熱性を高めるために、一般に、一般に熱伝導率が高く絶縁性の微粒子をフィラーとして樹脂に添加する方法が用いられている。熱伝導率が高く絶縁性のフィラーとしては、窒化アルミニウムが注目されている。
【0004】
しかしながら、窒化アルミニウムは空気中の水分と反応し、アンモニアが生成すると共に、窒化アルミニウムの表面に水酸化アルミニウムを形成し、熱伝導率が大きく低下するという欠点がある。そこで、窒化アルミニウム表面を無機物や有機物で被覆することにより耐水性を向上させる方法が広く用いられている。無機物で表面被膜をする例として、フィラーを熱処理することにより、熱伝導性の良いαアルミナをフィラー表面に形成させる方法が知られている。
【0005】
しかし、αアルミナをフィラー表面に形成させる方法では、αアルミナに亀裂が生じることにより、急激に耐水性が下がる可能性がある。また、無機物であるフィラーと有機材料である樹脂の親和性は低く、界面の熱抵抗により熱伝導率が低下する可能性がある。αアルミナ相の亀裂対策としては、熱処理の雰囲気に不活性ガスを用いることにより、フィラーの亀裂を低減できることが知られている(特許文献2)。有機物で表面処理をする例としては、フィラーに脂肪族炭化水素でフィラーの表面処理をする方法が知られている(特許文献2)。
【0006】
脂肪族炭化水素でフィラーの表面処理をした場合、高い耐水性が得られる。しかしながら、有機物で被膜することによって、フィラーの熱伝導率が大きく低下してしまうという問題がある。
【0007】
特許文献3、5には結晶性エポキシ樹脂と、メソゲン基を有する熱可塑性樹脂と、窒化アルミニウムなどの無機フィラーを含む樹脂組成物を用いたプリプレグが記載されているが、無機フィラーとメソゲン基を有する化合物を反応させることは記載していない。
【0008】
特許文献4にはメソゲン基を有するビスマレイミドとフィラーとして窒化アルミニウムなどの無機充填剤とを含む樹脂組成物が開示されているが、上記ビスマレイミドは官能基を持たず、窒化アルミニウム粒子と反応しない。
【0009】
特許文献6にはメソゲン基及び重合性基を有する液晶モノマーと、フィラーを含む樹脂組成物が記載されているが、フィラーと上記液晶モノマーとを反応させることについての記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−323162号公報
【特許文献2】特開2004−115369号公報
【特許文献3】特開2008−106126号公報
【特許文献4】特開2007−224060号公報
【特許文献5】特開2007−120922号公報
【特許文献6】特開2008−108756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
窒化アルミニウム粒子の耐水性を向上し、かつ有機被膜を施しても窒化アルミニウムの熱伝導率が低下しないように有機被膜に対策を講じる必要がある。本発明の目的は、コンポジット(複合材料)等の熱伝導率を向上させるための窒化アルミニウムの高熱伝導性複合粒子及びそれを用いた放熱材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を化学的に被覆するメソゲン基を有する有機化合物の有機被覆層とを含むことを特徴とする高熱伝動複合粒子を提供するものである。窒化アルミニウム粒子の表面を上記有機被覆層で被覆することにより、吸着や接着などにより形成した被覆層よりも薄く、かつ粒子全体を一様に被覆することができるので、窒化アルミニウムの熱伝導性をあまり低下することがない。また、有機被覆層が化学的に窒化アルミニウム粒子の表面に結合しているので、窒化アルミニウムの耐水性が向上し、絶縁特性が損なわれることがない。特に、窒化アルミニウム粒子の表面に多孔質(亀裂)のアルミナ皮膜が形成され、その孔を介してメソゲン基を有する有機化合物が化学的に窒化アルミニウムの表面に結合した構造の高熱伝導性窒化アルミニウム複合粒子が好ましい。
【0013】
本発明は、更に上記高熱伝導複合粒子を用いたコンパウンドは、伝熱材料、たとえば、積層板や印刷配線基板に用いられるプリプレグ、半導体素子などの電子部品の封止材料、被覆材料などを提供するものである。
【0014】
本発明は、上記高熱伝導複合粒子、各種熱硬化性樹脂または熱硬化性樹脂、更に必要に応じて通常添加される成分を含む樹脂組成物を提供する。また、上記樹脂組成物を用いた成型品などが提供される。熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物の場合はその硬化物を提供する。
【0015】
本発明の樹脂組成物のうち熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物は、絶縁材料として使用できるプリプレグに適用できる。プリプレグは、上記高熱伝導性複合粒子と、繊維基材と半硬化状態のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂及び必要に応じて硬化剤等を含む。上記プリプレグにおいて、前記エポキシ樹脂がメソゲン基を有することが望ましい。
【0016】
本発明は、プリプレグを単独または他のプリプレグ(たとえば、上記高熱伝導性複合粒子を含まない樹脂組成物を用いたもの)あるいは樹脂シートと積層接着した積層体を提供することができる。
また、本発明は、上記高熱伝導性複合粒子を含む樹脂組成物によりIC、コンデンサ、電力用半導体素子、LEDなどの電子部品を封止または被覆したことを特徴とする電子装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、窒化アルミニウムの高熱伝導性を損なわないで、耐水性に優れ、化学的に安定した高熱伝導性複合粒子が得られ、それを用いた伝熱材料は安定した特性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の1実施例による高熱伝導性複合粒子の断面模式図。
【図2】本発明の他の実施例による高熱伝導性複合粒子の断面模式図。
【図3】本発明の複合粒子の充填樹脂シートを使用したハイブリッド自動車用インバータ(IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)チップとヒートシンクの接着)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
窒化アルミニウムの熱伝導率は、約170W/mKであり、メソゲン基を有する有機化合物の熱伝導率はおおよそ0.5W/mKであり、メソゲン基を有する有機化合物が高熱伝導性を有するといっても、窒化アルミニウムの熱伝導性と比較すれば、おおよそ300分の1以下である。したがって、メソゲン基を有する有機化合物の有機被覆層はなるべく薄い方が、窒化アルミニウムの高熱伝導性を損なわないことになる。その意味で、窒化アルミニウム粒子の表面にメソゲン基を有する有機化合物を化学的に結合させることは、非常に薄い有機被覆層を形成するのに有効である。これに対し、吸着や塗布によると、有機被覆層が厚くなり、また粒子表面から剥離することがありうる。これに対し化学的に結合させた場合は、窒化アルミニウム粒子の表面に一様にかつ薄く被覆を形成させることができ、かつ強固に結合しており、特性が安定している。
【0020】
また、窒化アルミニウムは外部雰囲気特に水分に影響されやすく、容易に加水分解してその電気絶縁性や高熱伝導性が損なわれるという問題があるが、メソゲン基を有する有機化合物で粒子を被覆することにより、窒化アルミニウムの耐水性を向上することができる。窒化アルミニウム粒子と反応させないと、仮にメソゲン基を有する有機化合物と窒化アルミニウム表面が接触していても、窒化アルミニウムの表面を強固に被覆することができないので、たとえばその粒子を用いた材料が外部に露出する部分においては被覆が剥離したりして窒化アルミニウム粒子が露出して加水分解をする可能性がある。
【0021】
本発明における有機被覆層は、メソゲン基を有する有機化合物を窒化アルミニウム粒子の表面に化学的に結合させたもので、その厚さは100nm以下、好ましくは50nm、特に好ましくは1〜20nmである。
【0022】
図1において、窒化アルミニウム粒子11の表面にメソゲン基と窒化アルミニウムと反応しうる官能基を有する有機化合物を反応させて形成した有機被覆層12が形成される。
【0023】
図2において、窒化アルミニウム粒子11の表面に亀裂を有する酸化アルミニウム層13を形成し、更にその表面に上記酸化アルミニウム皮膜13を介してメソゲン基を有する有機化合物の被服層12を形成する。この場合、酸化アルミニウム層は亀裂14が形成され、その亀裂を介してメソゲン基を有する化合物の官能基が窒化アルミニウムと反応して化学的に結合するようにする。窒化アルミニウム粒子の表面に多孔質酸化アルミニウム皮膜を予め形成しておくと、窒化アルミニウムの加水分解が抑制される。
【0024】
メソゲン基を有する有機化合物を窒化アルミニウム粒子に化学的に結合させるために、上記有機化合物は末端に窒化アルミニウムと反応性の官能基を有する物を用いる。官能基としては、カルボキシル基、アルコール性水酸基、リン酸基、チオール基、チオカルボン酸基などがある。特に水酸基及びカルボキシル基が好ましい。
【0025】
窒化アルミニウム粒子は種々の樹脂材料のフィラーとして用いられるものであるが、窒化アルミニウム粒子と他の無機フィラー、有機フィラーなどと混合してもよい。アルミナ、シリカ、チタニア、ガラス、ジルコニア、タルクなどの無機フィラーと混合する場合、高熱伝導性が要求される場合は、窒化アルミニウムのフィラー全体に占める割合を50重量%以上、特に80重量%以上とする。経済性を考慮する必要がある場合は、窒化アルミニウムの量はフィラー全体の10重量%以上とする。
【0026】
本発明で用いるメソゲン基を有する有機化合物は、窒化アルミニウムと化学的に反応する官能基を有するものであり、その一般式は下記化学式(1)で示される。
【0027】
【化1】

【0028】
pは1〜3の整数である。上記(式1)において、n、m、lは0〜2が好ましい。
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の複合粒子とは(1)窒化アルミニウム粒子表面がメソゲン基を有する有機化合物が化学的に結合した有機層で被膜されていることを特徴とする窒化アルミニウム粒子、及び(2)窒化アルミニウム粒子表面がαアルミナ層で被膜されており、更にαアルミナ層の表面が、メソゲン基を有する有機層で被膜されていることを特徴とする窒化アルミニウム粒子である。(2)の複合粒子は、好ましくは、窒化アルミニウム粒子表面を被覆するαアルミナ層が亀裂を有し、αアルミナ層の亀裂において、メソゲン基を有する有機化合物と窒化アルミニウム粒子が結合をしていることを特徴とする窒化アルミニウム粒子である。この場合、主に有機被覆がαアルミナの亀裂部に形成されるので有機被膜による熱伝導率の低下をより防ぐことが出来る。
【0030】
具体的には、(1)の複合粒子は、窒化アルミニウム粒子をメソゲン基とアルコール性水酸基またはカルボキシル基を有する化合物と有機溶媒を用いて加熱する工程により形成することができる。また、(2)の複合粒子は、窒化アルミニウムを酸素を含む気体雰囲気下で焼成することにより粒子の表面にアルミニウムの酸化物皮膜を形成する工程、表面に形成した酸化アルミニウムを1100℃以上の温度でα結晶化させ亀裂の入った酸化アルミニウム皮膜を形成する工程、表面にαアルミナ皮膜を有する窒化アルミニウム粉末とメソゲン基を有する有機化合物たとえば、メソゲン基とアルコール性水酸基またはメソゲン基とカルボキシル基を有する化合物を有機溶媒に溶解して得た溶液中で、窒化アルミニウム粒子を加熱する工程により形成することができる。
【0031】
本発明の(1)及び(2)の複合粒子は、耐水性が向上できるという効果がある。また、本発明の複合粒子をフィラーとしてメソゲン基を有する高熱伝導樹脂中で用いる場合、複合粒子のメソゲン基と樹脂のメソゲン基のスタッキングにより、樹脂の配向性が向上でき、かつ樹脂とフィラーの接着性が向上できる。
【0032】
本発明の原料として用いることのできる窒化アルミニウム粒子は、直接窒化法、還元窒化法、気相反応法等、いずれの製造法により形成された窒化アルミニウム粒子にも適用が可能である。
【0033】
原料としての窒化アルミニウム粒子の平均粒子径は、0.5〜100μm程度、好ましくは5〜40μm程度が好ましい。原料としての窒化アルミニウム粒子の平均粒子径を選択することにより、本発明の複合粒子をフィラーとしてより効果的に利用することができる。また、原料としての窒化アルミニウム粒子は窒化アルミニウムの単結晶あるいは窒化アルミニウム結晶の焼結体のいずれでも良い。
【0034】
本発明の高熱伝導性複合粒子及び熱硬化性樹脂特にエポキシ樹脂硬化物に含まれるメソゲン基とは、剛直かつ配向性を有する官能基であり、具体的には下記(式1)に記載される構造を有する。
【0035】
前記(化1)に示されるもののうち、エステル結合をもたず、加水分解の起きにくい化合物が好ましい。更に好ましくは、本発明の高熱伝導性複合粒子における窒化アルミニウム粒子を被覆する有機被覆層のメソゲン基と、その熱伝導性複合粒子を配合する樹脂とのメソゲン基の構造が同一である方が、樹脂間の親和性がよく、剥離しにくいので、好適である。
【0036】
本発明の高熱伝導性複合粒子は、窒化アルミニウム粒子表面にメソゲン基を有する有機化合物層が化学的に結合して形成された複合粒子であって、メソゲン基を有する有機層の被膜には、メソゲン基及び窒化アルミニウムと反応する官能基を分子中に1個以上有する有機化合物が利用できる。窒化アルミニウムと反応する置換基として、アルコール性水酸基やカルボキシル基を有するものは特に好ましい。例えば、メソゲン基とアルコール性水酸基を有する有機化合物としては、下記(式2)に記載される構造をもつものが利用できる。メソゲン基とカルボキシル基を有する有機化合物としては、下記(式3)に記載される構造を持つものが利用できる。(式2)及び(式3)におけるX,Y、nの意味は(式1)における定義と同じであり、jは0〜24であり、特に1〜4が好ましい。
【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
メソゲン基とアルコール性水酸基を有する有機化合物(式2)の具体例としては、4−ビフェニルメタノール、2−ビフェニルメタノール、2,2−ビフェニルジメタノール、2−メチル−3−ビフェニルメタノール、3−(ヒドロキシメチル)(1,1−ビフェニル)−4−オール、1−(4−ビフェニルイル)−1−エタノール、2−(4−ビフェニルイル)−2−プロパノールなどがある。
【0040】
また、メソゲン基とカルボキシル基を有する有機化合物(式3)の具体例としては、4−ビフェニルカルボン酸、2−ビフェニルカルボン酸、4’−メチル−2−ビフェニルカルボン酸、4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸、2−ヒドロキシ(1,1’-ビフェニル)−4−カルボン酸、4−(4−フルオロフェニル)安息香酸、2−フルオロビフェニル−4−ビフェニルカルボン酸、2’,4’−ジフルオロ(1,1’−ビフェニル)−4−カルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4−ビフェニル酢酸、4−フェニルアゾ安息香酸、4−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、5−(フェニルアゾ)サリチル酸、4−(ベンジリデンアミノ)安息香酸、4−(2−ヒドロキシベンジリデンアミノ)安息香酸、4−(2−ヒドロキシベンジリデンアミノ)サリチル酸、4−(4−メトキシベンジリデンアミノ)安息香酸、4−(4−メトキシベンジリデンアミノ)サリチル酸、4−(2−メトキシベンジリデンアミノ)安息香酸、4−(2,4−ジヒドロキシベンジリデンアミノ)安息香酸、4−(4−ヒドロキシベンジリデンアミノ)サリチル酸、4−(4−クロロベンジリデンアミノ)安息香酸、4−(4−クロロベンジリデンアミノ)サリチル酸、4−ベンゾイル安息香酸などがある。
【0041】
本発明の(2)の複合粒子は窒化アルミニウム粒子表面が亀裂を有するαアルミナ層で被膜されており、窒化アルミニウム粒子の表面かつαアルミナの亀裂部を介してメソゲン基を有する有機化合物で修飾されていることを特徴とする窒化アルミニウム粒子である。亀裂を有するαアルミナ層は窒化アルミニウム粒子を酸素含有ガス雰囲気下で500℃〜1100℃程度、好ましくは800℃〜1000℃で窒化アルミニウム粒子表面に酸化物を形成した後、窒素もしくは不活性ガス雰囲気かで1100℃以上で窒化アルミニウム粒子表面の酸化アルミニウムをαアルミナ化することにより形成できる。また、窒化アルミニウムを限られた酸素量の中で焼成することにより、結晶化を生じない温度で、酸化アルミニウムを形成した後、酸素の少ない、もしくは酸素のない雰囲気下で結晶化を生じさせ、αアルミナを形成することもできる。また、窒化アルミニウム表面を加水分解せしめた後、窒素もしくは不活性ガス雰囲気下で焼成、生成した酸化アルミニウムをαアルミナ化することにより形成することもできる。熱処理により酸化アルミニウム皮膜を形成する方が、工程が簡単で好ましい。
【0042】
αアルミナ層を有する窒化アルミナ粒子を形成する際に、酸素ガス雰囲気下において1100℃以上で焼成し、酸化アルミニウムのαアルミナの結晶化を行うと、結晶化に伴い生じた亀裂の内部が更に酸化されてしまう。亀裂内部が酸化してしまうと窒化アルミニウムの表面が無くなるので、焼成の後に行う窒化アルミニウムと反応させて形成する有機被覆の処理が困難となる。
【0043】
よって、窒化アルミニウムの焼成は第一に結晶化を生じない温度で酸化アルミニウムを形成し、第二に窒素または不活性ガス雰囲気下で結晶化させ、αアルミナを形成することが好ましい。
【0044】
また、窒化アルミニウムを限られた酸素量の中で焼成することにより、結晶化を生じない温度で、酸化アルミニウムを形成した後、酸素の少ない、もしくはない雰囲気下で結晶化を生じさせ、亀裂を有するαアルミナ層を形成することもできる。
【0045】
プリプレグ、樹脂シートにおいて用いる熱硬化性樹脂特にエポキシ樹脂は、メソゲン基を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましい。硬化剤は、アミン化合物やその誘導体、脂環式酸無水物、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、イミダゾールやその誘導体、フェノール類又はその化合物や重合体などを用いることができる。また、これらを2種類以上併用しても良い。
【0046】
エポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂を硬化させるために硬化剤を配合することが好ましい。硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤の配合量は、配合する硬化剤の種類や得られる熱伝導性エポキシ樹脂成形体の物性を考慮して適宜設定すればよい。具体的に硬化剤の配合量は、好ましくはエポキシ基1モルに対して硬化剤の化学当量が0.005〜5当量、さらに好ましくは0.01〜3当量、最も好ましくは0.5〜1.5当量である。この配合量がエポキシ基1モルに対して0.005当量未満であると、エポキシ樹脂を速やかに硬化することができないおそれがある。一方、5当量を超えて配合すると、硬化反応が速すぎるおそれがある。なお、ここでの化学当量は、例えば硬化剤としてアミン系硬化剤を使用した際は、エポキシ基1モルに対するアミンの活性水素のモル数を表わす。
【0047】
本発明におけるプリプレグ、樹脂シートを形成する際に本発明の複合粒子と共に、アルミナ、窒化ホウ素等、他の粒子を任意の割合で用いることもできる。これにより、熱伝導率、接着性等を調整することができる
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子(古河電子工業(株)商品名:ALNフィラー FAN−f30−TY,)と4−ビフェニルカルボン酸を、脱水トルエンを溶媒として3時間還流した。得られた粒子をトルエンで洗浄した後、120℃で2時間乾燥させることにより、窒化アルミニウム粒子の表面にメソゲン基を有する厚さ10nmの有機化合物の有機被覆層が形成された複合粒子を得た。複合粒子の耐水性は、複合粒子2gを60℃の水200mLに加え、30分後の水溶液のpHを測定し、加水分解により生じるアンモニアの影響を調べた。
【0049】
得られた複合粒子にエポキシ樹脂(1−(3−メチル−4−オキシラニメトキシフェニル)−4−(オキシラニメトキシフェニル)−1−シクロヘキセン)、硬化剤(1,5−ジアミノナフタレン,サンケミカル)、及び溶媒(メチルエチルケトン及びシクロヘキサノンの混合溶媒)を配合した。エポキシ樹脂と硬化剤の混合比率は,エポキシ/アミン当量比で1:1とした。樹脂に充填する複合粒子の混合の割合は、エポキシ樹脂、硬化剤を含めた樹脂硬化物全体に対する体積比率で、60vol%になるようにワニスを配合した。配合したワニスを,ペットフィルム上に,300μmの厚さに塗工した後、100℃で15分間乾燥し、溶媒を揮発させた。更に乾燥したワニスをペットフィルムで挟み、140℃で真空プレスすることによりプリプレグを得た。
【0050】
得られたプリプレグの両面のペットフィルムを剥がし、替わりに表面が粗化された銅箔で挟み160℃で真空プレスを行い、銅箔に圧着させた。これを更に、温度140℃で2時間、190℃で2時間加熱することにより完全硬化させ、シート状の熱硬化性樹脂の硬化物を得た。得られた硬化物の両面の銅箔を200g/Lの過硫酸アンモニウム及び5ml/Lの硫酸の混合溶液を用いた酸エッチングにより除去し、複合粒子の充填樹脂シートを得た。得られた複合粒子の充填樹脂シートを1cm角に切出し、熱拡散率を測定するための試験片(試料1)とした。フラッシュ法装置(Bruker製NETZSCH,nanoflash LFA447)を用いて,切出した試験片の熱拡散率を測定し、これにアルキメデス法により測定した密度とDSC法により測定した比熱を乗じて、厚さ方向の熱伝導率を求めた。
(実施例2)
平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子5gを高温管状炉(35mmφ×1200mm)に入れ、Arガスを0.5L/分で流しながら、室温から1200℃まで120分で昇温させた。1200℃で1時間保持した後、1200℃から室温まで240分で降温させ、表面に亀裂を有する厚さ80nmのαアルミナ被覆層を形成した窒化アルミニウム粒子を得た。XRDにてαアルミナの(100)面と窒化アルミニウムの(113)面の積分強度比を測定し、αアルミナの被膜厚を算出した。得られたαアルミナ被覆層を形成した窒化アルミニウム焼結粒子と4−ビフェニルカルボン酸を、脱水トルエンを溶媒として3時間還流した。得られた粒子をトルエンで洗浄した後、120℃で2時間乾燥させることにより、αアルミナの亀裂部を通して窒化アルミニウムの表面にメソゲン基を有する有機化合物で亀裂を修飾された複合粒子を得た。
【0051】
複合粒子を用いてプリプレグ及び樹脂シートを作製する工程は実施例1と同様に行った。得られた複合粒子の充填樹脂シートを1cm角に切出し、熱拡散率を測定するための試験片(試料2)とし、実施例1と同様に熱伝導率を求めた。
(実施例3)
実施例1で用いた4−ビフェニルカルボン酸に代えて4−ビフェニル酢酸を用いたこと以外は実施例1と同様に試験片(試料3)を作製し、熱伝導率を求めた。
(実施例4)
実施例2で用いた4−ビフェニルカルボン酸に代えて4−ビフェニル酢酸を用いたこと以外は実施例2と同様に試験片(試料4)を作製し、熱伝導率を求めた。
(実施例5)
実施例1で用いた4−ビフェニルカルボン酸に代えて4−ビフェニルメタノールを用いたこと以外は、実施例1と同様に試験片(試料5)を作製し、熱伝導率を求めた。
(実施例6)
実施例2で用いた4−ビフェニルカルボン酸に代えて4−ビフェニルメタノールを用いたこと以外は実施例2と同様に試験片(試料6)を作製し、熱伝導率を求めた。
(実施例7)
実施例1で用いた1−(3−メチル−4−オキシラニメトキシフェニル)−4−(オキシラニメトキシフェニル)−1−シクロヘキセンに代えてビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン製EP−828)を用いてワニスを配合した。更に、実施例1において、真空プレスでプリプレグを作製する工程、銅板に圧着する工程を除き、実施例1と同様に試験片(試料7)を作製し、熱伝導率を求めた。
(比較例1)
実施例1において、4−ビフェニルカルボン酸を還流によって反応させる工程を除き、実施例1と同様に試験片(試料8)を作製し、熱伝導率を求めた。
(比較例2)
実施例2において、4−ビフェニルカルボン酸を還流によって反応させる工程を除き、実施例2と同様に試験片(試料9)を作製し、熱伝導率を求めた。
(比較例3)
実施例1で用いた4−ビフェニルカルボン酸に代えてステアリン酸を用いたこと以外は実施例1と同様に試験片(試料10)を作製し、熱伝導率を求めた。
(比較例4)
実施例2で用いた4−ビフェニルカルボン酸に代えてステアリン酸を用いたこと以外は実施例2と同様に試験片(試料11)を作製し、熱伝導率を求めた。
(比較例5)
実施例7で用いた4−ビフェニルカルボン酸に代えてステアリン酸を用いたこと以外は実施例2と同様に試験片(試料12)を作製し、熱伝導率を求めた。
【0052】
実施例1から7及び比較例1から5で得られた耐水試験の結果と熱伝導率の測定結果を表1に示す。表1は、被膜剤、樹脂、αアルミナの被膜厚(nm)、耐水試験におけるpH、コンポジットの熱伝導率(W/mK)を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1より、試料1から12の熱伝導率を比較した。試料1、試料3及び試料5のメソゲン基を含む複合粒子を充填した樹脂シートの熱伝導率は、それぞれ3.3W/mK、3.4W/mK、3.4W/mKであり、試料10のフィラーを脂肪族炭化水素で被膜した樹脂シートの熱伝導率2.9W/mKに比べて高い熱伝導率であった。有機化合物による被膜に加えてαアルミナ層も含む試料2、試料4及び試料6の熱伝導率は3.6W/mK、3.6W/mK、3.5W/mKであり、比較例4の試料11の熱伝導率3.5W/mKと比べて同等もしくは、高い熱伝導率であった。樹脂がビスフェノールA型エポキシ化合物の場合においても、実施例7の試料7のメソゲン基を含む複合粒子を充填した樹脂シートの熱伝導率は、比較例5の試料12のフィラーを脂肪族炭化水素で被膜した樹脂シートの熱伝導率よりも高い値を示した。
【0055】
試料1から12で使用した複合粒子の耐水性をpH値によって比較すると、実施例1から7のいずれの複合粒子においても、pH値があまり上昇せず、窒化アルミニウムが著しく加水分解しておらず、高い耐水性を有することが認められた。これに対し、比較例1の試料8で使用した被膜処理を施していない窒化アルミニウム粒子及び比較例2の試料9で使用したαアルミナ被膜のみの窒化アルミニウム粒子の場合はpH値が上昇し、窒化アルミニウムが加水分解していることが認められた。
【0056】
図3に本発明によるシート(伝熱材料)の使用例として、ハイブリッド自動車用インバータの模式図を示す。ハイブリッド自動車用インバータにおいて、ワイヤーボンド1と繋がった発熱性のIGBTチップ2は、半田3により銅板4に接合されている。銅板4とヒートシンク6は放熱樹脂シート5によって接着されている。こうしたハイブリッド自動車用インバータの放熱樹脂シート5において、本発明によるシートを利用することによって、IGBTチップからの発熱をより効率的に逃がすことが出来る。
【符号の説明】
【0057】
1…ワイヤーボンド、2…IGBTチップ、3…半田、4…銅板、5…放熱樹脂シート、6…ヒートシンク、11…窒化アルミニウム、12…メソゲン基を有する有機化合物の有機被覆層、13…アルミナ層、14…アルミナ層の亀裂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面に化学的に結合したメソゲン基を有する有機化合物を含む有機被覆層とを含むことを特徴とする高熱伝導複合粒子。
【請求項2】
前記有機被覆層の厚さは100nm以下であることを特徴とする請求項1記載の高熱伝導複合粒子。
【請求項3】
前記有機被覆層の厚さは1〜50nmであることを特徴とする請求項1記載の高熱伝導複合粒子。
【請求項4】
請求項1に記載の複合粒子において、前記メソゲン基を有する有機化合物が下記(式1)に示される分子構造を有することを特徴とする高熱伝導複合粒子。
【化1】

【請求項5】
請求項4において、一般式が(式2)で示されるメソゲン基を有する化合物であることを特徴とする高熱伝導性複合粒子。
【化2】

【請求項6】
請求項4において、一般式が(式3)で示されるメソゲン基を有する化合物であることを特徴とする高熱伝導性複合粒子。
【化3】

【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の複合粒子において、更に、前記窒化アルミニウム粒子の表面を被覆するαアルミナ層を含むことを特徴とする高熱伝導複合粒子。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の複合粒子において、前記有機被覆層が窒化アルミニウム粒子をメソゲン基とアルコール性水酸基またはカルボキシル基を含む化合物で処理して形成されたものであることを特徴とする高熱伝導複合粒子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の高熱伝導複合粒子を樹脂相に含む樹脂組成物。
【請求項10】
熱硬化性樹脂と請求項1〜8のいずれかに記載の高熱伝導複合粒子を含む樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記エポキシ樹脂がメソゲン基を有するものであることを特徴とする請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載の樹脂組成物のB−ステージ状態の樹脂シート。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の高熱伝導複合粒子と、繊維基材と半硬化状態のエポキシ樹脂を含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項15】
請求項13記載のプリプレグにおいて、前記エポキシ樹脂がメソゲン基を有することを特徴とするプリプレグ。
【請求項16】
請求項13または14に記載の複数のプリプレグを単独で、または他のプリプレグあるいはシートと積層接着した積層体。
【請求項17】
請求項9〜12のいずれかに記載の高熱伝導性複合粒子を含む樹脂組成物により電子部品を封止したことを特徴とする電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−236376(P2011−236376A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110796(P2010−110796)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】