説明

高耐熱合成高分子化合物及びこれで被覆した高耐電圧半導体装置

【課題】150℃以上の高温で使用するSiCなどのワイドギャップ半導体装置において、ワイドギャップ半導体素子の絶縁性を改善し、高耐電圧のワイドギャップ半導体装置を得る。
【解決手段】ワイドギャップ半導体素子の外面を、合成高分子化合物で被覆する。この合成高分子化合物は、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する1種以上の有機珪素ポリマーAとシロキサンによる線状連結構造を有する1種以上の有機珪素ポリマーBとをシロキサン結合により連結させた有機珪素ポリマーC同士を、付加反応により生成される共有結合で連結させて三次元の立体構造に形成している。この合成高分子化合物に高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子を混合し、熱伝導率を高くしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性が高い合成高分子化合物及びこれで被覆した耐熱性が高く熱放散性の良い高耐電圧パワー半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
比較的大きな電力を扱うパワー半導体装置では、大電力通電時に発生する熱により半導体装置が高温になるので、高い耐熱性が要求される。現状のパワー半導体装置ではほとんどがシリコン(Si)パワー半導体装置を用いているが、その耐熱限界温度は通常150℃である。現在Siパワー半導体装置の耐熱限界温度を200℃程度に高くする試みが進められている。
一方、炭化珪素(以下、SiCと記す)等のワイドギャップ半導体材料でパワー半導体装置を構成することが試みられている。SiC等のワイドギャップ半導体材料はSiに比べてエネルギーギャップが大きく、絶縁破壊電界強度も約1桁大きい等の優れた物理特性を有しているため、高耐熱で高耐電圧のパワー半導体装置に用いるのに好適である。
【0003】
SiCを用いた従来例の高耐熱・高耐電圧のパワー半導体装置の例としては、以下に示すSiCダイオード素子が、2001年の国際学会論文集「Proceedings of 2001 International Symposium on Power Semiconductor Devices & IC’s」の27頁から30頁(以下、先行技術1)に開示されている。このSiCダイオード素子では、SiC基板上に電荷を注入するpn接合をエピタキシャル成長技術によるエピタキシャル膜で形成する。基板の端部領域のエピタキシャル膜をメサエッチングで除去した後、電界を緩和するターミネーション部をイオン打ち込みで形成する。具体的には、深さ約1μmのメサエッチング処理で厚さ0.7μmのp型エピタキシャル層を除去し、0.4μmの二酸化シリコンなどの無機物膜でパッシベーション膜を形成している。これにより12kV〜19kVの高耐電圧を有するSiCダイオード素子が得られる。
【0004】
図6は前記従来例のSiCダイオード素子を用いて各種機器に組み込むのに便利なSiCダイオード装置を構成した場合のパッケージの断面図である。図において、下面にカソード端子92を有する金属製の支持体93の上面にSiCのダイオード素子90がそのカソード電極97を接して取付けられている。支持体93にはさらに、絶縁物12を介して絶縁を保ちつつ支持体93を貫通するアノード端子91が設けられている。アノード端子91はリード線8で、SiCダイオード素子90のアノード電極96に接続されている。支持体93の上面には、ダイオード素子90を覆うように金属製のキャップ94が設けられ、ダイオード素子90を含む空間95を密封している。この空間95には六弗化硫黄ガスが充填されている。六弗化硫黄ガスを充填する理由は次の通りである。アノード電極96と、パッシベーション膜98で被覆されていない露出側面90aとの間は、沿面距離が短いので逆耐電圧を高くすることができない。この逆耐電圧を高くするために、パッケージ内に絶縁用ガスとして六弗化硫黄ガスを充填している。絶縁用ガスとして窒素ガスなどの不活性ガスやアルゴンなどの希ガスを用いたのでは、最大絶縁破壊電界が低いために、高電圧の印加時にガス中で放電を起こし、SiCダイオード素子90そのものや、二酸化シリコンなどのパッシベーション膜98が破壊されてしまう。そこで耐電圧を高くするために、現状では150〜200℃程度の高温でも極めて安定な六弗化硫黄ガスを充填して放電による絶縁破壊を防ぐようにしている。
【特許文献1】特許第3395456号公報
【特許文献2】特許第3409507号公報
【非特許文献1】「Proceedings of 2001 International Symposium on Power Semiconductor Devices & IC’s」の27頁から30頁
【非特許文献2】「パワーデバイス・パワーICハンドブック」第289頁及び図9.102:電気学会編.コロナ社発行(発行日1996年7月30日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
六弗化硫黄ガスは絶縁用ガスとしては現在のところ最も優れた絶縁性を持つが、弗素を含んでいるため、地球温暖化防止の観点から使用を避ける必要がある。特に高い絶縁性を得るためには半導体装置内に充填する六弗化硫黄ガスの圧力を常温で2気圧程度にする必要がある。半導体装置の使用中に温度が上昇すると、この圧力は2気圧以上に高くなるので、半導体装置のパッケージを相当堅牢にしないと爆発やガス漏れの危険性がある。ワイドギャップ半導体装置は500℃近い高温で動作させる場合もあるが、その場合にはガスが熱膨張しガス圧は相当高くなり、爆発やガス漏れの危険性が更に増すとともに、六弗化硫黄ガスが熱分解し耐電圧が低下するなどの問題もある。
【0006】
六弗化硫黄ガス以外の物質で半導体装置の高絶縁性を保つために、半導体素子を厚く覆う優れた絶縁性を有する従来の材料としてシリコンゴムやエポキシ樹脂が知られている(非特許文献2を参照)。シリコンゴムはシロキサン(Si−O−Si結合体)の線状構造をもつポリメチルフェニルシロキサンを含む合成高分子化合物である。温度が150℃以下では、これらの合成高分子化合物の被覆体で半導体素子(半導体チップ)全体を覆うことで高い絶縁性を保ち耐電圧を高くすることができる。
【0007】
上記のポリメチルフェニルシロキサンは耐熱性がそれほど高くないが、Siパワー半導体素子のように接合温度が150℃以下の範囲で使用する半導体装置の場合は高耐電圧を実現できる。しかしワイドギャップ半導体材料のSiCを用いる半導体素子のように、200℃以上の高温で使用する場合は耐熱性が十分とはいえない。使用中にSiC半導体素子の温度が200℃以上になると、ポリメチルフェニルシロキサンの被覆体は柔軟性が乏しくなる。また空気中で230℃以上になるとガラス化して完全に堅くなってしまう。そのためSiC半導体素子の温度が室温に戻ると、ポリメチルフェニルシロキサンの被覆体の内部に多数のクラックが発生する。また、ポリメチルフェニルシロキサンで被覆した素子を高温で長時間六弗化硫黄ガスなどの不活性ガス中で動作させると、重量の減少が生じて素子表面近傍でボイドやクラックが発生する。これはポリメチルフェニルシロキサンの側鎖のメチル基やフェニル基が分解して蒸発するためと推察される。ボイドやクラックが発生すると素子の表面保護が不完全になりリーク電流が増大する。さらにクラック発生時に素子のパッシベーション膜を損傷することがあり、その結果としてリーク電流が大幅に増加して半導体素子の破壊に至る場合もある。以上のようにポリメチルフェニルシロキサンは耐熱性が低く高温では高電界に耐えることができず耐電圧性が良くないという欠点がある。
エポキシ樹脂も同様であり、高温では柔軟性が乏しくなり、200℃以上になるとガラス化して堅くなってしまう。そのためSiC半導体素子の温度が通電時の高温状態からオフ時の室温状態に戻ると、エポキシ樹脂の内部に多数のクラックが発生し高電界には耐えることができず耐電圧性はよくない。
【0008】
また、シリコンゴムやエポキシ樹脂は熱伝導率が低く、これらで被覆している半導体素子が発生する熱を十分に放散できない。熱はもっぱら支持体93のみを経由して放散されることになり、半導体素子が高温になって場合によっては熱破壊してしまう。特に半導体素子の接合部と支持体93との距離が、接合部と、樹脂やゴムに接触している素子表面との距離よりもかなり大きい場合は、半導体素子で発生する熱の放散が悪化し素子の温度が著しく上昇する。支持体の熱伝導率や熱容量が小さい場合は支持体を介する熱放散も悪化するので特に深刻になる。
【0009】
本発明は、半導体装置を構成する半導体素子を覆う合成高分子化合物を高耐熱かつ熱伝導性の良い物質にすることにより、高耐熱・高耐電圧の半導体装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の合成高分子化合物は、付加反応により生成される共有結合で連結し、三次元の立体構造を形成しうる高分子組成物であり、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた、分子量が2万から80万である第3の有機珪素ポリマーの1種以上と、熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子の1種以上を含有することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、耐熱性に優れているが硬化後の柔軟性が非常に乏しいため厚塗りが困難で耐電圧性が乏しいシロキサンの橋かけ構造を有する第1の有機珪素ポリマーを、耐熱性に乏しいが硬化後の柔軟性が高いため厚塗りが可能で耐電圧性が高いシロキサンの線状連結構造を有する第2の有機珪素ポリマーを介して三次元的に連結する。これにより、第2の有機珪素ポリマーが備えている柔軟性を失うことなく第1の有機珪素ポリマーの優れた耐熱性を保持できるので、高耐熱且つ高耐電圧という2つの特性が両立する合成高分子化合物を得ることができる。
本発明の他の観点の合成高分子化合物は、付加反応により生成される共有結合で連結し、三次元の立体構造を形成しうる高分子組成物であり、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた、分子量が2万から80万である第3の有機珪素ポリマーの1種以上と、高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子の1種以上を含有することを特徴とする。
この発明によれば、この合成高分子化合物には、熱伝導性の高い絶縁性セラミックスの微粒子が混合されているので、耐電圧性を損ねることなく高い熱伝導性を達成できる。ここで、熱伝導性が高いとは、少なくともエポキシ樹脂やシリコンゴムの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有することを意味し、他の性能を損ねなければ熱伝導率は高ければ高いほど良い。
【0012】
本発明の半導体装置は、半導体素子、及び半導体素子を外部の機器に電気的に接続するための電気接続手段の少なくとも一部分を被覆する合成高分子化合物を有する半導体装置において、前記合成高分子化合物が、付加反応により生成される共有結合で連結し、三次元の立体構造を形成しうる高分子組成物であり、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた、分子量が2万から80万である第3の有機珪素ポリマーの1種以上を含有することを特徴とする。
【0013】
この発明の半導体装置では、半導体素子及び電気接続手段を以下の合成高分子化合物で被覆する。すなわち、耐熱性に優れているが硬化後の柔軟性が非常に乏しいため厚塗りが困難で耐電圧性が乏しいシロキサンの橋かけ構造を有する第1の有機珪素ポリマーを、耐熱性に乏しいが硬化後の柔軟性が高いため厚塗りが可能で耐電圧性が高いシロキサンの線状連結構造を有する第2の有機珪素ポリマーを介して三次元的に連結することにより、第2の有機珪素ポリマーが備えている柔軟性を失うことなく第1の有機珪素ポリマーの優れた耐熱性を保持しながら、高耐熱且つ高耐電圧という2つの特性を両立させた合成高分子化合物で被覆する。
【0014】
本発明の他の観点の半導体装置は、半導体素子、及び半導体素子を外部の機器に電気的に接続するための電気接続手段の少なくとも一部分を被覆する合成高分子化合物を有する半導体装置において、前記合成高分子化合物が、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた分子量が2万から80万の第3の有機珪素ポリマーの1種以上を、付加反応により生成される共有結合で連結し、三次元の立体構造に形成した化合物、及び前記化合物に混合された高い熱伝導性を有する絶縁性のセラミックスの微粒子を、15%以上の体積充填率で含有していることを特徴とする。
この発明によれば、この合成高分子化合物には高熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子を混合しているので、熱伝導性が良く、半導体素子で生じる熱の放散効果が高い。また、絶縁性セラミックスの微粒子がフィラーとしても機能するので厚く盛り上がった形状を保つ形状保持性がよく耐電圧性の向上にも寄与できる。従って、この合成高分子化合物で半導体素子を被覆することにより、放熱性に優れており形状保持性もよいことから更に高い耐熱性と高い耐電圧を有する半導体装置を得ることができる。
【0015】
本発明の他の観点の半導体装置は、熱伝導性の良い基板上に取付けられた少なくとも1つの半導体素子、前記半導体素子を外部の機器に電気的に接続するための電気接続部、前記半導体素子と前記電気接続部の少なくとも一部を被覆する、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた分子量が2万から80万の第3の有機珪素ポリマーの1種以上を、付加反応により生成される共有結合で連結し三次元の立体構造に形成した化合物であり、且つ高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子を含有する第1の合成高分子化合物、前記第1の合成高分子化合物で被覆した半導体素子及び電気接続部を収納するように前記基板に設けられた硬質樹脂製の容器、前記容器内の隙間に充填された、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第4の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第5の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた分子量が2万から80万の第6の有機珪素ポリマーの1種以上を、付加反応により生成される共有結合で連結し三次元の立体構造に形成した化合物であり、且つ高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子を含有する第2の合成高分子化合物上記、及び前記電気接続部につながり、前記容器の外へ導出された外部接続端子を有する。
【0016】
この発明の半導体装置では、第1の合成高分子化合物で半導体素子及び電気接続部を被覆することにより、耐電圧を高くすることができる。さらに半導体素子及び電気接続部を収納する容器に第2の合成高分子化合物を充填することにより、外部から機械的な振動や衝撃が加わったとき、内部の半導体素子及び電気接続部が損傷を受けるのを防止できる。前記第1及び第2の合成高分子化合物は熱伝導率の高い絶縁性セラミックスの微粒子を含有しているので、熱伝導性が良く、半導体素子から発生する熱を容器に伝導して外部へ放散させる効果が高い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、半導体装置を構成する半導体素子の上面と側面を合成高分子化合物で被覆する。この合成高分子化合物は、付加反応により生成される共有結合で連結し、三次元の立体構造を形成しうる高分子組成物であり、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた、分子量が2万から80万である第3の有機珪素ポリマーの1種以上と、熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子の1種以上を含有することを特徴とする第1の合成高分子化合物であり、第2の有機珪素ポリマーは第1の有機珪素ポリマーよりも分子量が大きい。
【0018】
この合成高分子化合物は適度な粘性と硬化後の高い柔軟性を有するので、半導体素子の上にドーム状に厚く塗布することができる。その結果半導体装置は高い耐熱性と高い耐電圧性を有するものとなる。
合成高分子化合物には高い熱伝導率を有する絶縁性セラミックスの微粒子を混合しているので熱伝導性が良く、半導体素子で生じる熱の放散効果が高い。合成高分子化合物の熱放散性が良いので、半導体素子内で発生した熱を半導体素子の支持体側からだけでなく被覆物である合成高分子化合物側からも放散できる。そのため素子の過剰な温度上昇を抑制でき動作速度などの素子の性能の低下や素子の熱破壊を防止できる。また、絶縁性セラミックスの微粒子が合成高分子化合物のフィラーとしても機能するので更に厚く盛り上がったドーム状の形状を形成しその形状を保つ形状保持性がよく耐電圧性の向上にも寄与できる。従って、この絶縁性セラミックスの微粒子を充填した合成高分子化合物で半導体素子を被覆することにより放熱性に優れかつ形状保持性もよくなることから更に高い耐熱性と高い耐電圧性を有する半導体装置を得ることができる。
【0019】
SiCなどのワイドギャップ半導体には内部に積層欠陥が存在すると通電時のオン電圧が増大するという劣化現象が発生し、素子の温度が高くなるほど増大するという問題がある。この発明の合成高分子化合物では、絶縁性セラミックスの微粒子を混合しているので半導体素子で生じる熱の放散効果が高いため素子の温度上昇を抑制でき、オン電圧の増大を抑制できるので高い信頼性を実現できる。
【0020】
合成高分子化合物はワイドギャップ半導体およびそのパッシベーション膜として使用される二酸化シリコンや窒化シリコンなどの無機物膜との親和性が極めてよい。そのため合成高分子化合物が半導体素子の表面に強固に付着して半導体装置の高い耐湿性を維持できるとともに高い熱伝導性が保たれ、高い温度で動作させる場合に特に高い信頼性と高耐電圧性を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の合成高分子化合物及びこれで被覆した高耐電圧半導体装置の最良の実施の形態について以下に説明する。
本発明の新規な合成高分子化合物はシロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する、ポリフェニルシルセスキオキサン、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリメチルフェニルシルセスキオキサン、ポリエチルシルセスキオキサン及びポリプロピルシルセスキオキサンの群から選択した少なくとも1つを有する第1の有機珪素ポリマー(以下、有機珪素ポリマーAという)、及びシロキサンによる線状連結構造を有する、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン及びポリメチルフェニルシロキサンの群から選択した少なくとも1つを有する第2の有機珪素ポリマー(以下、有機珪素ポリマーBという)を含有している。前記有機珪素ポリマーAと前記有機珪素ポリマーBはシロキサン結合により線状に連結されて大型の第3の有機珪素ポリマーを形成している。前記合成高分子化合物は、前記大型の第3の有機珪素ポリマーの複数のものが付加反応により生成される共有結合で立体的に連結されて三次元の立体構造を形成した化合物を形成している。
【0022】
更に前記合成高分子化合物は高い熱伝導率を有する絶縁性セラミックス微粒子を含有している。この高熱伝導率を有する絶縁性セラミックス微粒子は窒化アルミニューム(AlNと記す)、酸化ベリリューム(BeOと記す)、アルミナ(Al23と記す)及び多結晶SiCの各微粒子の群から選択した少なくとも1種を含有している。
【0023】
前記の合成高分子化合物は、例えば有機珪素ポリマーAと有機珪素ポリマーBとがシロキサン結合により線状に連結されて重量平均分子量(以下、単に分子量と記す。)が2万から80万の大型の第3の有機珪素ポリマーを構成し、この第3の有機珪素ポリマーの複数のものがアルキレン基で連結されているのがより好ましい。
【0024】
シロキサンの橋かけ構造を有する有機珪素ポリマーAは耐熱性に優れているが粘度が大きく硬化後の柔軟性も非常に乏しいため厚塗りが困難で耐電圧性が乏しい。しかし、本発明によると、有機珪素ポリマーAを、シロキサンの線状連結構造を有する有機珪素ポリマーBを介して交互に線状に連結することにより、有機珪素ポリマーBが備えている柔軟性を失うことなく有機珪素ポリマーAの優れた耐熱性を保持しながら、高耐熱且つ高耐電圧という2つの特性が両立する合成高分子化合物を得ることができる。耐熱性をより高くするには有機珪素ポリマーAの分子量を大きくすると良いが、その場合粘度が高くなり硬化後の柔軟性も低くなる。また、柔軟性を高くするには有機ポリマーBの分子量を大きくすると良いが、その場合耐熱性が低くなる。有機珪素ポリマーAの好ましい分子量は200から20万であり、より好ましくは200から7万である。有機珪素ポリマーBの好ましい分子量は5千から20万である。有機珪素ポリマーAの分子量は有機珪素ポリマーBの分子量よりも小さくするのが好ましい。
【0025】
更に前記合成高分子化合物が含有する高熱伝導率を有する絶縁性セラミックス微粒子は、局部的な電界集中を避け高耐電圧を実現するために、その形状は鋭くとがった先鋭部が少なく球形に近いほど好ましい。また、合成高分子化合物への絶縁性セラミックス微粒子の混合率(以下、充填率という)は所望の熱伝導率を考慮して設定するのが好ましい。充填率が小さいと熱伝導率の増大効果は乏しいので、合成高分子化合物に占める絶縁性セラミックス微粒子の体積充填率は15%volから80%volであるのが好ましい。粒径が大きすぎると体積充填率が低下する。一方、粒径が小さすぎても粒子同士がお互いに凝集しやすくなり、やはり体積充填率が低下する。このため粒径は0.01μmから50μmの範囲が好ましい。充填率を50%以上に高くするには、粒径の異なる粒子をブレンドするのが良く、その場合の粒径比は1:1/10〜1:1/200の範囲が好ましい。これらの充填された絶縁性セラミックス微粒子は合成高分子化合物の結合には影響を及ぼさないので耐熱性を損ねることはない。一方、粘度には影響するが上記の充填率や粒径の範囲では実用上問題を生じない。
【0026】
本発明における合成高分子化合物は、結合のほとんどがシロキサン結合を有していることから、前記のように高い絶縁性すなわち高耐電圧性能を有する。また合成高分子化合物は、ワイドギャップ半導体素子のパッシベーション膜として使用される二酸化シリコンや窒化シリコンなどの無機物膜との親和性が極めてよく、パッシベーション膜の表面に強固に付着する。さらにSiCやGaNなどのワイドギャップ半導体そのものとも親和性が極めてよく、半導体素子の表面に強固に付着するすぐれた接着性を有することが見出されている。
【0027】
このすぐれた接着性を有する合成高分子化合物で被覆したワイドギャップ半導体素子を有する半導体装置は高い耐湿性を有するので、信頼性の高い半導体装置を実現できる。この合成高分子化合物はSiCやGaNなどのワイドギャップ半導体との親和性が極めてよい。従って、例えばパッシベーション膜にピンホール等の欠陥部が存在してワイドギャップ半導体が露出している場合でも、合成高分子化合物がワイドギャップ半導体素子の表面を直接保護するパッシベーション膜として働き高い信頼性を実現できる。
【0028】
有機珪素ポリマーBはSiゴムとほとんど同じ分子構造を有する。従ってSiゴムで従来から実証されているように、パッシベーション膜用の無機物、銅、アルミニューム及びステンレス等の各種金属、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びフェノール樹脂などの各種樹脂及び各種ガラス等との接着性が極めて良好でありこれらに強固に付着する。このため、この合成高分子化合物の表面保護膜は半導体素子の金属電極や電気接続手段、支持体等にも強固にかつすきまなく密着して付着するので高い耐湿性が得られる。そのため高い信頼性と高い耐電圧性能を有する半導体装置を実現できる。
【0029】
本発明における合成高分子化合物は、大部分がシロキサン構造を有するため、紫外線および可視光線に対する透光性が高い。このため合成高分子化合物を半導体素子や電気接続手段へ塗布したときの状況を目視で観察することができる。例えば目視により気泡やボイド等が存在しないことを確かめながら効率的に塗布作業を進めることができる。
【0030】
本発明における合成高分子化合物を用いたワイドギャップ発光パワー半導体装置やワイドギャップ光結合パワー半導体装置においては、高温においても半導体素子を保護できる高温高耐電圧性と、高温においても光をよく透過する高効率光結合性の両方を同時に満たすことができる。
充填された絶縁性セラミックス微粒子は、上記の透光性や半導体装置構成材料との接着性に若干影響を及ぼすが、上記の充填率や粒径の範囲では実用上問題を生じない。
【0031】
以下、本発明の好適な実施例を図1から図5を参照して説明する。各図において、その構成の理解を容易にするために、図示された各要素の寸法は実際の寸法とは対応していない。各実施例において、「半導体装置」とは、半導体素子をパッケージ内に収納し、半導体素子の各電極を、外部へ導出するそれぞれの電極端子にリード線で接続したものをいう。
<<第1実施例>>
【0032】
本発明の第1実施例の高耐熱半導体装置を図1の断面図を参照して説明する。
図において、本発明の第1実施例の半導体装置は、耐電圧8kVの高耐電圧SiC(炭化珪素)pnダイオード素子13をパッケージ14に収納したものであり、高耐熱かつ高熱放散性の合成高分子化合物の被覆体16でSiCpnダイオード素子13を被覆している。
SiCpnダイオード素子13は以下の構成を有する。厚さ約300μmの高不純物濃度のn型のSiCのカソード領域1の上面に厚さ約90μmの低不純物濃度のn型のSiCのドリフト層2が形成されている。カソード領域1の下面にはカソード電極7が形成されている。ドリフト層2の中央領域に、主接合を形成するp型のSiCのアノード領域3が形成されている。アノード領域3にはアノード電極6が形成されている。アノード領域3の周囲にはp型の電界緩和領域4が形成されている。アノード領域3及び電界緩和領域4を含むSiCpnダイオード素子13の上面には、二酸化シリコン層、窒化シリコン層、二酸化シリコン層の順で積層した3層構造の表面保護膜5が形成されている。アノード電極6は、電気接続手段である金のリード線8でアノード端子9の上端9aに接続されている。図1ではリード線8は1本のみ図示されているが、リード線8は、リード線8を流れる電流値に応じて複数のものを並列に接続すればよい。
【0033】
カソード電極7は金属の支持体10に電気的接続を保って取り付けられている。支持体10にはカソード端子11が接続されている。アノード端子9とカソード端子11は外部の装置等の配線に接続される。アノード端子9は支持体10に高融点の絶縁ガラス12を介して絶縁を保ちつつ固着されている。支持体10の上にはSiCpnダイオード素子13を覆うように金属製のキャップ14を設け、SiCpnダイオード素子13を含む空間15を密閉している。SiCpnダイオード素子13及びリード線8の一部を覆うように合成高分子化合物の被覆体16が設けられている。被覆体16は、第1の有機珪素ポリマー(以下、有機珪素ポリマーAという)としてポリフェニルシルセスキオキサンを含有し、第2の有機珪素ポリマー(以下、有機珪素ポリマーBという)としてポリジメチルシロキサンを含有する透明な合成高分子化合物で形成され、この合成高分子化合物内には絶縁性セラミックスである窒化アルミニウム(AlN)の微粒子を混合している。空間15内には窒素ガスが封入されている。
【0034】
本実施例のSiCpnダイオードの半導体装置の製作方法の一例を以下に説明する。図1において、あらかじめ製作したSiCpnダイオード素子13を、金シリコンを含む高温半田を用いて支持体10の上面の所定位置に半田付けする。次にリードボンデング装置を用いて直径80ミクロンメートルの金線(複数)のリード線8の両端をそれぞれアノード金属電極6と、アノード端子9の上端9aとに接続する。
【0035】
その後SiCpnダイオード素子13の全面、及びリード線8のアノード金属電極6との接続部近傍を覆うように、前記のAlN微粒子を混合した合成高分子化合物を山状に塗布し被覆体16を形成する。塗布方法としては、所定の直径の孔を有するノズルから所定量の合成高分子化合物を押し出す方法が適している。合成高分子化合物は塗布後200℃程度の温度で所定時間保つと、ある程度の柔軟性を有する状態で硬化する。合成高分子化合物の分子量を前もって調整して粘度を適切に調節することにより、これを塗布したときに図1の被覆体16に示すようにドーム状に盛り上がり、SiCpnダイオード素子13の全体をすきまなく300μm以上の厚さで覆うことができるようにする。本実施例の場合は最も厚い部分は約1.2mmである。合成高分子化合物の粘度が高すぎると、図1に示すような所望のドーム状に整形することが難しく、且つ塗布したときSiCpnダイオード素子13と被覆体16との間にすきまができることがある。逆に粘度が低すぎると、ドーム状に盛り上がらず被覆体16の厚さを300μm以上の所望の厚さにすることができない。
【0036】
このような粘度にするために、本実施例では有機珪素ポリマーAとして分子量が約15000のポリフェニルシルセスキオキサンを、有機珪素ポリマーBとして分子量が約90000のポリジメチルシロキサンとを交互にシロキサン結合により線状に連結して分子量が約32万の大型の第3の有機珪素ポリマーを構成する。この第3の有機珪素ポリマーの複数のものを付加反応によりアルキレン基で連結させて三次元の立体構造を有する合成高分子化合物を形成している。また、この合成高分子化合物には、高い熱伝導性を有する、すなわち高い熱伝導率を有するように絶縁性セラミックスの、粒径が約2μmのAlNの微粒子を混合(充填ともいう)し約45%volの体積充填率で含有させている。その結果、耐電圧性能を損ねることなく約4.7W/mKの高熱伝導率を達成できた。体積充填率を高くすると粘度が高くなるので、体積充填率は20%volから80%vol範囲で、所望の熱伝導率と所望の粘度とを勘案して設定するのが望ましい。
SiCpnダイオード素子13を合成高分子化合物で被覆しこれを熱硬化させた後、窒素雰囲気中で金属キャップ14を支持体10に取り付けて溶接し、内部空間15に窒素ガスを充たしてSiCpnダイオードが完成する。
【0037】
本実施例のSiCpnダイオードのアノード端子9とカソード端子11間に、カソード端子11の電位が高くなるように電圧(逆方向電圧)を印加して測定した逆耐電圧は約8.5kVであった。Siの半導体装置では動作不能である、350℃の高温においても上記の逆耐電圧を維持できた。本実施例のSiCpnダイオード素子13に、250℃の高温雰囲気中で250A/cm2の電流密度で電流を流したときの順方向電圧は4.31Vであった。また逆方向の電圧8kVを印加したときのリーク電流密度は3×10-5A/cm2以下であり、動作速度の目安となる逆回復時間は約45ナノ秒であった。合成高分子化合物にAlN微粒子を混合しない場合に比べて順方向電圧は約4%増大し、リーク電流密度と逆回復時間は約10%低減した。これは、合成高分子化合物に混合したAlN微粒子による合成高分子化合物の熱伝導率の増加により、これで被覆したSiCpnダイオード素子13の熱が合成高分子化合物を経て内部空間15に放散され、SiCpnダイオード素子13の温度上昇が抑制されたことによると推定される。SiCpnダイオード素子13の温度を直接測定することは不可能であるが、前記のように順方向電圧の上昇と、リーク電流密度及び逆回復時間の減少からSiCpnダイオード素子13の温度の低下を推定することができる。
【0038】
この条件で500時間連続通電試験をしたが、素子の接合温度が330℃以上と推定されるにもかかわらず、試験終了後の被覆体16にクラックや変形は生じなかった。また白濁などが生じて透明度が悪化することもなかった。この点からも合成高分子化合物に混合したAlN微粒子による熱放散性の向上により、素子の過度の温度上昇が抑制されたものと推測される。500時間の連続通電試験の終了後、300℃の高温雰囲気中で8kVの逆方向電圧を印加してリーク電流を測定したところ、電流密度は4×10-5A/cm2であり、通電試験前との差は少なかった。通電時の順方向電圧も4.33Vであり、通電試験前後でほとんど変化しなかった。前記の各試験後、半導体装置を分解して目視で観察した。その結果、有機珪素ポリマーAとしてポリフェニルシルセスキオキサンを含有し有機珪素ポリマーBとしてポリジメチルシロキサンを含有する合成高分子化合物の被覆体16がSiCpnダイオード素子13の電界緩和領域4の表面保護膜5の上だけでなく、SiCpnダイオード素子13の側面に露出したSiCの層にも強固に付着していることが確認された。
【0039】
本発明の第1実施例によれば、SiCpnダイオード素子13の周囲を、前記有機ポリマーAと前記有機ポリマーBを所定の割合で含有しかつ絶縁性セラミックスの微粒子を混合した合成高分子化合物で被覆することにより、SiCpnダイオード素子13を六弗化硫黄ガスの雰囲気中に置いた場合と同等の高い絶縁性を高温で得ることができる。すなわち地球温暖化に悪影響を与える有害な物質の六弗化硫黄ガスを使用することなく高い耐熱性と高い絶縁性を有するSiCpnダイオードが実現できる。
<<第2実施例>>
【0040】
本発明の第2実施例の半導体装置は、耐電圧5kVのSiC−GTOサイリスタ(Gate Turn Off Thyristor)装置であり、図2にその断面図を示す。図3は図2におけるGTOサイリスタ素子20を紙面に垂直な面で切断したセルの一つの断面図であり、実際の素子では図3に示すセルが図の左右方向に複数個連結されている。図2及び図3において、厚さ約320μmの高不純物濃度のn型SiCのカソード領域21の上面に、厚さ約3μmのp型SiCのバッファー層22を設けている。カソード領域21の下面にカソード電極32が設けられている。バッファー層22の上に厚さ約60μmの低不純物濃度のp型SiCのドリフト層23を設けている。ドリフト層23の中央部に厚さ約2μmのn型のベ−ス領域24とp型のアノード領域25が順次形成されている。n型のベース領域24の周辺にはn型の電界緩和領域26が形成されている。GTOサイリスタ素子20の表面には二酸化シリコン層、窒化シリコン層、二酸化シリコン層の3層構造の表面保護膜27が形成されている。p型のアノード領域25にはアノード電極28が形成されている。このアノード電極28上の左側の領域には2層目のアノード電極29が形成され、右側の領域には絶縁膜30を介してゲート電極31が形成されている。図3に示すように、n型のベース領域24には1層目のゲート電極33が形成され、ゲート電極33は、図示していない接続部でゲート電極31に接続されている。
【0041】
アノード電極29は金のリード線34によりアノード端子35の上端35aに接続されている。ゲート電極31は金のリード線36によりゲート端子37の上端37aに接続されている。リード線34、36及びアノード端子35及びゲート端子37は電気接続手段である。カソード電極32はカソード端子39を有する金属の支持体38に取り付けられている。アノード端子35及びゲート端子37は、それぞれの高融点絶縁ガラス40及び41で支持体38との間の絶縁を保ちつつ支持体38を貫通して固定されている。
【0042】
GTOサイリスタ素子20の全面、及びリード線34及び36のGTOサイリスタ素子20との接続部近傍を覆うように、合成高分子化合物を250μm以上の厚さで塗布し被覆体42を形成する。合成高分子化合物の粘度が高すぎると、実施例のような所望のドーム状に形成することが難しく、且つ塗布したときSiCGTOサイリスタ素子20と被覆体42との間にすきまができることがある。逆に粘度が低すぎると、ドーム状に盛り上がらず被覆体42の厚さを250μm以上の所望の厚さにすることができない。ドーム状になる適度の粘度にするために、本実施例では有機珪素ポリマーAとして分子量が約3500のポリメチルフニルシルセスキオキサンと、有機珪素ポリマーBとして分子量が約1万のポリメチルフェニルシロキサンとを交互にシロキサン結合により線状に連結して分子量が約4万の大型の第3の有機珪素ポリマーを構成する。この第3の有機珪素ポリマーの複数のものを付加反応によりアルキレン基で連結させて三次元の立体構造を有する合成高分子化合物を形成している。また、この合成高分子化合物には所定の高い熱伝導率を実現するために絶縁性セラミックスの微粒子として粒径が約3μmのAlN微粒子と粒径が約0.1μmのAlN超微粒子とを6:4の体積比で約49%volの体積充填率になるように混合している。このように構成した合成高分子化合物は、耐電圧性能を損ねることなく約11W/mKの高い熱伝導率を有する。
上記のようにGTOサイリスタ素子20を合成高分子化合物で被覆し硬化させた後、窒素雰囲気中で金属キャップ43を支持体38に取り付けて溶接する。これにより内部空間44に窒素ガスが封入されたSiC−GTOサイリスタ装置が完成する。
【0043】
なお、GTOサイリスタ素子20は金シリコンの高温半田を用いて支持体38に半田付けされる。リード線34、36は直径80ミクロンメートルの金線であり、リードボンデング装置を用いてそれぞれアノード電極29とアノード端子35間及びゲート電極31とゲート端子37間に取り付けられる。図2では、リード線34、36はそれぞれ1本づつ図示されているが、リード線34、36は、リード線34、36を流れるそれぞれの電流値に応じて複数のものを並列に接続してもよい。
第2実施例のSiC−GTOサイリスタ装置において、アノード端子35の電位がカソード端子39よりも高電位になるように順方向に5kV電圧を印加し、ゲート端子37の電位をアノード端子35と同電位にすると、電流が流れないオフ状態が維持され、5kVの耐電圧が得られた。
【0044】
次にこのオフ状態でゲート端子37の電位をアノード端子35よりも低電位にし、アノード端子35からゲート端子37に向けてゲート電流を流すと、SiC−GTOサイリスタ装置はオン状態になり、アノード端子35とカソード端子39間に電流が流れる。さらにオン状態でゲート端子37の電位をアノード端子35よりも高電位にすると、アノード端子35とカソード端子39間に流れている電流がゲート端子37からカソード端子39間に転流し、オフ状態になる。このときのアノード端子35とカソード端子39間の電圧が逆耐電圧である。
【0045】
具体的には、カソード端子39に負の電圧を印加し、ゲート端子37にアノード端子35を基準にしてビルトイン電圧以上の高い電圧を印加すると、SiC−GTOサイリスタ素子20はオンとなる。このときドリフト層23内にカソード領域22から電子が注入されるため伝導度変調が生じ、オン抵抗が大幅に低下する。SiC−GTOサイリスタ素子20がオンした状態において、ゲート端子37の電位をアノード端子35の電位より高くすると、アノード端子35とカソード端子39間を流れる電流の一部がゲート端子37から引き抜かれることになり、GTOサイリスタ素子20をオフ状態にすることができる。
【0046】
本第2実施例のSiC−GTOサイリスタ装置の逆耐電圧は約5.8kVであり、250℃の高温雰囲気中でもこの逆耐電圧を維持でき、逆方向電圧が5kVでのリーク電流密度は5×10-4A/cm2以下と良好であった。このように、本発明では、SiのGTOサイリスタでは困難な高い耐熱性と耐電圧性を確認できた。
また、本実施例のSiC−GTOサイリスタ装置について、以下の第1及び第2の動作試験を行い更なる本発明の効果を確認できた。
【0047】
第1の動作試験では、本実施例のSiC−GTOサイリスタ素子20に210A/cm2の高い電流密度で電流を流し、この電流を2kHzの周波数でオン・オフ動作をさせつつ、150℃の高温雰囲気中で250時間の連続動作をさせたが実用上特に問題になるような事項は発生しなかった。この時のSiC−GTOサイリスタ素子20の接合温度は約308℃と推定される、従来のシリコンのGTOサイリスタでは接合温度が150℃以上では動作不可能である。また5kV級のシリコンのGTOサイリスタでは電流密度が210A/cm2のものを作ることも困難である。
【0048】
第2の動作試験では、前記の電流密度で電流を流しつつ、気温80℃、湿度85%の高温高湿度の雰囲気中で500時間の連続動作をさせた。前記第1及び第2の動作試験の終了後このSiC−GTOサイリスタ装置を分解して調べたが合成高分子化合物の被覆体42が変形したりクラックや白濁が生じていなかった。
【0049】
前記第1の動作試験開始直後のSiC−GTOサイリスタの順方向電圧は4.2Vであった。一般に、SiC−GTOサイリスタなどのワイドギャップバイポーラ半導体では内部に積層欠陥が存在する場合は通電時の順方向電圧が増大するという劣化現象が発生し、素子の温度が高くなるほど増大するという問題が生じる。しかし、本実施例では絶縁性セラミックスの微粒子を混合し半導体素子で生じる熱の放散効果を高くしたので、素子の温度上昇を抑制でき、その結果として上記の劣化現象を抑制できる。すなわち、第1及び第2の動作試験終了後、前記第1の動作試験と同じ条件で順方向電圧を測定したが、その増大分は0.3V以下であった。第1及び第2の動作試験終了後に逆方向の電圧5kVを印加したときのリーク電流密度は温度250℃で6×10-4A/cm2以下であり、わずかな変化であった。室温においてターンオン時間は約0.42マイクロ秒、ターンオフ時間は約1.1マイクロ秒であった。このスイッチング時間も前記第1及び第2の動作試験の前後で大きな変化はみられなかった。一方、合成高分子化合物にAlN微粒子を混合しない場合は1.5V以上の順方向電圧の増大が見られ、ターンオフ時間も約12%低減した。
【0050】
なお本実施例のSiC−GTOサイリスタ素子20のターンオン時間及びターンオフ時間は、耐圧6kVの従来のシリコンのGTOサイリスタの約20分の1である。
GTOサイリスタ素子20に塗布した本実施例の合成高分子化合物の被覆体42のGTOサイリスタ素子20等への付着状態について調べたところ、被覆体42は、GTOサイリスタ素子20の電界緩和領域26上の保護膜27及び側面のSiCの露出面にも強固に付着していた。
<<第3実施例>>
【0051】
本発明の第3実施例の半導体装置である光結合ワイドギャップパワー半導体装置を、図4の断面図を参照して説明する。図において、発光機能を有するパワー半導体素子としては、耐電圧3kV・電流容量200AのGaN(ガリウムナイトライド)−npnバイポーラトランジスタ51を用いている。受光素子としてはSiC−ホトダイオード52を用いている。SiCホトダイオード52はGaN−npnバイポーラトランジスタ51に対向するように同一パッケージ内に設けられている。
【0052】
図4に示すGaN−npnバイポーラトランジスタ51においては、厚さ約300μmの高不純物濃度のn型のGaNコレクタ領域53の上面に厚さ約1.7μmのp型のGaNベース領域54が形成され、その上に厚さ約3μmの高不純物濃度のn型のエミッタ領域55が順次形成されている。GaNコレクタ領域53の下面にはコレクタ電極66が設けられている。GaNベース領域54の周辺のコレクタ領域53内にはn型の電界緩和領域56が形成されている。GaNベース領域54の右端部に金属のベース電極58が設けられている。n型エミッタ領域55の上に、発光窓60を有する金属のエミッタ電極59が設けられている。GaNコレクタ領域53及び電界緩和領域56の上には窒化シリコン層と二酸化シリコン層の2層構造の表面保護膜57が形成されている。
【0053】
ベース電極58は、金のリード線61によりベース端子62に接続されている。エミッタ電極59は、2本の金のリード線63、64によりエミッタ端子65に接続されている。コレクタ電極66はコレクタ端子68を有する金属の支持体67に取り付けられている。
【0054】
SiCホトダイオード52は、その受光部80がGaNーnpnバイポーラトランジスタ51の発光窓60に対向して光50を受光するようにキャップ70の内側面に窒化アルミニウムなどの絶縁板71を介して接着されている。SiCホトダイオード52のアノード電極72は、金のリード線73により金属のアノード端子74に接続されている。カソード電極75は金のリード線76によりカソード端子77に接続されている。アノード端子74とカソード端子77はそれぞれの外部配線に接続される。アノード端子74及びカソード端子77はキャップ70の貫通孔に高融点絶縁ガラス78、79を介して固着されている。
【0055】
GaNーnpnバイポーラトランジスタ51、SiCホトダイオード52、リード線61、63、64、73、76及びベース端子62の端部及びエミッタ端子65の端部を覆うように、有機珪素ポリマーAとしてポリエチルシルセスキオキサンを含有し、有機珪素ポリマーBとしてポリジメチルシロキサンを含有する合成高分子化合物の被覆体81が設けられている。リード線61、63、64、73、76及びエミッタ端子65、ベース端子62、コレクタ端子68、アノード端子74及びカソード端子77は電気接続手段である。リード線61、63、64、73、76は、それぞれを流れる電流値に応じて、それぞれ複数の線を並列に接続したものを用いればよい。
【0056】
合成高分子化合物の粘度が高すぎると、実施例のような所望の形成することが難しく、塗布したときGaN−npnバイポーラトランジスタ51と被覆体81との間にすきまができることがある。逆に粘度が低すぎると、SiCホトダイオードとGaNーnpnバイポーラトランジスタ51のリード線の露出部が多くなりリード線間で放電したりし耐電圧性能が低下する場合がある。合成高分子化合物を適切な粘度にするために、本実施例では有機珪素ポリマーAとして分子量が約1500のポリエチルシルセスキオキサンと、有機珪素ポリマーBとして分子量が約55000のポリジメチルシロキサンとを、交互のシロキサン結合により線状に連結して分子量が約17万の大型の第3の有機珪素ポリマーを構成している。この第3の有機珪素ポリマーの複数のものを付加反応によりアルキレン基で連結させて三次元の立体構造を有する合成高分子化合物を構成している。また、この合成高分子化合物には熱伝導率を高くするために絶縁性セラミックスの微粒子として粒径が約1.5μmの酸化ベリリウム(BeO)微粒子を約47%volの体積充填率になるように含有させている。これにより、耐電圧性能を損ねることなく約6.5W/mKの高熱伝導率を達成できた。BeOは透明に近く光の透過性がよいので、光50の通過の障害にはならない。
【0057】
第3実施例の光結合ワイドギャップパワー半導体装置の製作方法の一例を以下に説明する。あらかじめ製作したGaN−npnバイポーラトランジスタ51を金シリコンの高融点半田を用いて支持体67の所定位置に半田付けする。リードボンデング装置を用いて直径80ミクロンメートルの金のリード線63、64でエミッタ電極59とエミッタ端子65を接続する。ベース電極58とベース端子62とを金のリード線61で接続する。硬化前の合成高分子化合物の被覆体81の素材をGaN−npnバイポーラトランジスタ素子51を包み込むように厚く塗布する。
【0058】
あらかじめ製作したSiCホトダイオード52を金シリコンの高融点半田を用いて、金属キャップ70の内側面に窒化アルミニウム絶縁板71を介して半田付けする。次にリードボンデング装置を用いて直径80ミクロンメートルの金のリード線73でアノード電極72とアノード端子74を接続する。またカソード電極75を金のリード線76でカソード端子77に接続する。次に硬化前の合成高分子化合物の被覆体81の素材を、SiCホトダイオード52、リード線73、76のSiCホトダイオード52との接続部近傍を包み込むように厚く塗布する。最後に金属キャップ70と支持体67を、SiCホトダイオード52の受光部80がGaN−npnバイポーラトランジスタ51の発光窓60に対向し、且つ両者を包み込んでいる各々の合成高分子化合物の被覆体81の素材が接するように組合わせて、窒素雰囲気中で溶接する。その後所定の温度に加熱して合成高分子化合物の被覆体81をある程度の柔軟性を有する状態に硬化させて完成する。
【0059】
第3実施例の光結合ワイドギャップパワー半導体装置の動作の一例を次に示す。まず、GaN−npnバイポーラトランジスタ51のコレクタ端子68の電位をエミッタ端子65よりも高電位にして順方向バイアス状態にする。そしてベース端子62の電位をエミッタ端子65と同電位にすると、電流が流れないオフ状態が維持される。耐電圧は3kVであり高耐電圧を実現できた。SiCホトダイオード52はアノード端子74の電位をカソード端子77よりも低電位にして逆方向バイアス状態しておく。
【0060】
オンオフ駆動は次のようにする。ベース端子62の電位をエミッタ端子65の電位よりも高電位にし、ベース端子62からエミッタ端子65に向かうベース電流を流す。これにより、エミッタ電極59から電子が注入されてGaN−npnバイポーラトランジスタ51がオン状態になり、約387〜565nmの間の波長の光50が生じる。この光50はSiCホトダイオード52で受光され、光量に対応する光電流がアノード端子74とカソード端子77間を流れる。
【0061】
GaN−npnバイポーラトランジスタ51のオン状態のときに、ベース端子62の電位をエミッタ端子65と同電位か低電位にすると電子の注入が止まり、コレクタ電極66とエミッタ電極59間を流れる電流は遮断され、発光も停止する。SiCホトダイオード52は、光がなくなるので光電流がなくなりオフ状態になる。
【0062】
本実施例のGaN−npnバイポーラトランジスタ51の耐電圧は約3.5kVであり、250℃の高温においてもこの耐電圧を維持できた。3kVでのリーク電流密度は2×10-4A/cm2以下と良好であった。また、GaN−npnバイポーラトランジスタ51とSiCホトダイオード52間の絶縁耐圧は5kV以上であり、5kVでのリーク電流は1×10-5A/cm2以下であった。温度250℃で連続1000時間の電圧印加試験をした後でも、リーク電流の増加は測定誤差の範囲内の微少な値であった。3kV以上の高耐電圧を有するにもかかわらず150A/cm2の高電流密度の電流を流すことができた。また200℃の高温雰囲気中で500時間連続して通電した後でも合成高分子化合物の被覆体81が変形したり、クラックや白濁が生じてはいなかった。また、温度80℃湿度85%の高温高湿度雰囲気中で200時間通電した後でも合成高分子化合物の被覆体81が変形したり、クラックや白濁が生じてはいなかった。
【0063】
温度200℃、電流密度150A/cm2で通電時の順方向電圧は5.2Vであり試験前後の変化は測定誤差範囲の小さな値であった。前記の試験後に3kVの導電圧を印加したときのリーク電流密度は250℃で2×10-4A/cm2以下であり試験前に比べてほとんど変化がなかった。ターンオン時間は0.1マイクロ秒、ターンオフ時間は0.13マイクロ秒と高速であり、このスイッチング時間にも試験前後の変化はみられなかった。これは、合成高分子化合物に混合したBeO微粒子による熱放散性の向上により素子の温度上昇が抑制されたため劣化が少なかったことによると推定される。合成高分子化合物にBeOの微粒子を混合しない場合は、順方向電圧、リーク電流密度、ターンオフ時間に変化が見られた。
【0064】
なお、被覆体81を破断して観察したところ、有機珪素ポリマーAとしてポリエチルシルセスキオキサンを含有し、有機珪素ポリマーBとしてポリジメチルシロキサンを含有する合成高分子化合物の被覆体81は、GaN−npnバイポーラトランジスタ51の側面に露出したGaNにも強固に付着していることが確認できた。
<<第4実施例>>
【0065】
本発明の第4実施例の高耐熱半導体装置は、モールド型のSiC−GTOモジュールであり、1つのパッケージ内に1アーム分のSiC−GTO素子とSiCダイオード素子が組込まれている。図5はその主要部の断面図である。SiC−GTO素子20は第2実施例に記載の耐電圧5kVの素子である。SiCpnダイオード素子13は耐圧が5kVに設計されている点を除けば第1実施例に記載の素子と同様の構造を有する。
図5において、ニッケルメッキを施した熱伝導性のよい銅基板101の面上に所定の距離を隔てて例えば窒化アルミニウム製の2つの絶縁基板116及び118がそれぞれ高温半田115、117により接着されている。
【0066】
絶縁基板116には、ニッケルメッキを施した銅箔のパターンで内部配線120、121及び122が形成されている。内部配線121の上にSiC−GTO素子20のカソード電極32が高温半田により接着されている。SiC−GTO素子20のアノード電極29は電気接続部であるリード線34により、内部配線120に接続されている。またSiC−GTO素子20のゲート電極31は電気接続部であるリード線36により内部配線122に接続されている。
絶縁基板118には、銅箔のパターンで内部配線125及び126が形成されている。内部配線126にSiCpnダイオード素子13のカソード電極7が高温半田で接着されている。SiCpnダイオード素子13のアノード電極6は電気接続部であるリード線8により内部配線125に接続されている。
【0067】
SiC−GTO素子20、リード線34、36及び内部配線120、122の大部分を覆うように、第1の合成高分子化合物の樹脂を塗布し被覆体130を形成する。同様にしてSiCpnダイオード素子13、リード線8及び内部配線125、126の大部分を覆うように、合成高分子化合物の樹脂を塗布し被覆体131を形成する。合成高分子化合物の被覆体130、131は第2実施例と同様のポリメチルフェニルシルセスキオキサンとポリメチルフェニルシロキサンを主成分として含有する合成高分子化合物であり、前者の分子量は約5000、後者の分子量は約7万である。この被覆体130、131の硬化後、銅基板101を構成要素として含み、銅基板101に取付けてパッケージ(容器又は外囲器)を構成するためのエポキシ樹脂など硬質樹脂製の強固なフレーム102を取付ける。フレーム102の上部には、同じエポキシ樹脂製の強固なカバー105を取付けてパッケージを形成する。このエポキシ樹脂の硬化剤としてはポリイミダゾールを用いた耐熱性の高い樹脂としている。
【0068】
銅基板101へのフレーム102及びカバー105の取付け方法は、ねじ等を用いて取付けるか、又は接着剤により接着する。フレーム102及びカバー105は例えば硬化剤としてイミダゾールを用いたエポキシ樹脂であり、ガラス転移温度は約325℃である。カバー105には端子板107が設けられている。端子板107は、めねじを有するアノード端子110、カソード端子111及びゲート端子112と予備端子113を備えている。SiC−GTO素子20のアノード電極29につながる内部配線120は、アルミニウム等の接続線141、及びカバー105と端子板107との間を通る図では見えない導体を経てアノード端子110に接続されている。SiC−GTO素子20のカソード電極32につながる内部配線121は、図示を省略した導体によりカソード端子111に接続されている。SiC−GTO素子20のゲート電極31がつながる内部配線122はアルミニウム等の接続線142及び図では見えない導体を経てゲート端子112に接続されている。
【0069】
SiCpnダイオード素子13のアノード電極6につながる内部配線125は、アルミニウムの接続線143及び図では見えない導体を経てカソード端子111に接続されている。SiCpnダイオード素子13のカソード電極7につながる内部配線126は、アルミニウム等の接続線144及び図では見えない導体を経てアノード端子110に接続されている。
【0070】
銅基板101、フレーム102及びカバー105で形成されるパッケージ内の隙間にはゲル状の第2の合成高分子化合物の充填材165が充填されている。充填材165は被覆体と同様にポリメチルフェニルシルセスキオキサンとポリメチルフェニルシロキサンを主成分として含有する合成高分子化合物であるが、前者の分子量は約1500、後者の分子量は約5万5千とし、合成高分子化合物粘度を15000cp程度に低くしている。ちなみに、被覆体の粘度は46000cpである。この結果、充填材は硬化後に高温でも極めて柔軟にできるので、モジュール160に外部から加わる機械的な振動や衝撃によって内部の素子が振動するのを防ぐ緩衝剤としての機能をこの充填材165に持たせることができる。また合成高分子化合物の外囲器のフレーム102及びカバー105、合成高分子化合物の被覆材130、131及び合成高分子化合物の充填材165には絶縁性セラミックスの微粒子として、それぞれ粒径が異なるAlN微粒子を含有させている。すなわち、フレーム102及びカバー105には粒径が約1μmのAlN微粒子を約46%volの体積充填率で充填している。また被覆材130、131及び充填材165には粒径が約0.5μmのAlN超微粒子を約58%volの体積充填率で充填している。これにより、耐電圧性を損ねることなく約19.5W/mKの高熱伝導率を達成でき、放熱性を大幅に向上できた。
【0071】
上記の構成により、SiC−GTO素子20とSiCpnダイオード素子13がパッケージ内で逆並列に接続され、外部に導出されたアノード端子110、カソード端子111及びゲート端子112を備えるモジュール160が得られる。
本実施例のSiC−GTOモジュール160の逆耐電圧は約5.7kVであり、SiのGTOのモジュールでは動作不能の250℃の高温でも前記の逆耐電圧を維持できた。逆電圧5kVでのリーク電流密度は2×10-4A/cm2以下であり良好であった。また、3kV以上の高耐圧のSiダイオードでは通電困難な200A/cm2の高電流密度の電流を、180℃の高温空気雰囲気中で本実施例のSiC−GTOモジュール160に通電し200時間稼動させたが、被覆体130、131、165にクラックの発生や変形等の異常は生じなかった。温度250℃で電流密度200A/cm2での通電時の順方向電圧は4.3Vであり、200時間稼働前後の変化は測定誤差範囲でありほとんど変化しなかった。
【0072】
また稼働後の逆電圧5kVでのリーク電流密度も温度250℃で3×10-4A/cm2以下であり、ほとんど変化がなかった。また200時間稼働後の逆電圧5kVでのリーク電流密度も温度250℃で3×10-4A/cm2以下であり、前後でほとんど変化がなかった。これは有機珪素ポリマーAとしてポリメチルフェニルシセスキオキサンを含有し有機珪素ポリマーBとしてポリメチルフェニルシロキサンを含有する合成高分子化合物の被覆体130、131が、SiC−GTO素子やダイオード素子各々のパッシベーション膜だけでなくSiCが露出した素子側面にも強固に接着していることによる。SiC−GTO素子20のターンオン時間は0.4マイクロ秒、ターンオフ時間は0.7マイクロ秒である。このターンオフ時間は耐電圧6kVのシリコンGTO素子の1/20以下であるので動作は高速である。このターンオン・ターンオフ時間にも経時変化はみられなかった。これは、合成高分子化合物に混合したAlN微粒子による熱放散性の向上により素子の温度上昇が抑制され且つ劣化も少なかったことによると推定される。合成高分子化合物にAlN微粒子を混合しない場合は、順方向電圧、リーク電流密度、ターンオフ時間に変化が見られた。
【0073】
以上、第1から第4の4つの実施例を説明したが、本発明はさらに多くの適用範囲あるいは派生構造をカバーするものである。本発明は例えばワイドギャップ半導体素子の、MOSFETや接合FET、SITやIGBT、MOSサイリス等にも適用可能である。更に高周波高出力MESFETやラテラルMOSFETおよび接合FET、HEMTのショットキーダイオード、JBS(Junction Barrier controlled Schottky)ダイオードなどにも適用可能である。
前記各実施例では、SiCやGaNを用いた素子や受光素子の場合のみを述べたが、本発明は他のワイドギャップ半導体材料を用いた素子にも適用できる。特に、ダイヤモンド、ガリュームリンワイドギャップ半導体材料を用いた素子にも有効に適用できる。
また各々の半導体領域の極性のn型をp型に、p型をn型に逆転させた構成の半導体装置にも当然ながら適用できる。
【0074】
有機珪素ポリマーAは、前記のポリフェニルシルセスキオキサン、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリメチルフェニルシルセスキオキサン及びポリエチルシルセスキオキサン以外に、ポリプロピルシルセスキオキサンでもよくこれらポリキオキサンの2種類以上が含有されたものでもよい。更に、有機珪素ポリマーBは前記のポリジメチルシロキサンやポリジフェニルシロキサンだけでなく、ポリジエチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサンでもよく、これらポリシロキサンの2種類以上が含有されたものでもよい。
【0075】
第1から第3実施例ではそれぞれ金属キャップ14、43、70を用いたTO型の半導体装置について説明したが、本発明は金属キャップでない高耐熱樹脂キャップの半導体装置にも適用できる。また半導体装置の構成はTO型以外の、スタッド型や平型、高耐熱樹脂を用いたSIP型、Siのパワーモジュールで一般的なモールド型の構成でもよい。第3実施例では光結合半導体装置を例示したが、発光半導体素子のみを有する半導体装置、又は受光半導体素子のみを有する半導体装置にも同様に適用することができる。
【0076】
第4実施例のモールド型のモジュールの合成高分子化合物外囲器は、耐熱性の高い他のエポキシ樹脂やケブラー樹脂(商標)などでもよい。また合成高分子化合物充填材に含有される有機珪素ポリマーAのポリメチルフェニルシルセスキオキサンは、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリエチルシルセスキオキサン及びポリプロピルシルセスキオキサンでもよく、有機珪素ポリマーBのポリメチルフェニルシロキサンはポリジフェニルシロキサンやポリジエチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンでもよく、これらポリシロキサンの2種類以上が含有されたものでもよい。更に合成高分子化合物充填材は有機珪素ポリマーAを含有せず有機珪素ポリマーBのみを含有するものでもよい。
また、絶縁性セラミックス微粒子としてはAlNとBeOを用いたが、Al23、多結晶SiC、ダイヤモンド、窒化ほう素などの熱伝導率の高い他の絶縁性セラミックス微粒子を用いても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、高耐電圧かつ高耐熱のワイドギャップ半導体装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】発明の第1実施例のSiCpnダイオード装置の断面図である。
【図2】本発明の第2実施例のSiC−GTOサイリスタ装置の断面図である。
【図3】本発明の第2実施例のSiC−GTOサイリスタ素子の図2の紙面に垂直な面の断面図である。
【図4】本発明の第4実施例の光結合ワイドギャップパワー半導体装置の断面図である。
【図5】本発明の第5実施例のSiC−GTOモジュールの断面図である。
【図6】従来のSiCダイオード装置の断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1 カソード領域
2 ドリフト層
3 アノード領域
4 電界緩和ターミネーション領域
5 パッシベーション膜
6 アノード電極
7 カソード電極
8 リード線
9 アノード端子
10 支持体
11 カソード端子
12 絶縁ガラス
13 SiCpnダイオード素子
14 金属キャップ
15 窒素などの不活性ガス
16、42、81 被覆体
20 GTOサイリスタ素子
21 カソード領域
22 pベース領域
23 pドリフト層
24 nベース領域
25 アノード領域
27 パッシベーション膜
29 アノード電極
31 ゲート電極
32 カソード電極
34、36 金のリード線
51 GaNnpnバイポーラトランジスタ
52 SiCホトダイオード
53 コレクタ領域
54 ベース領域
55 エミッタ領域
57 パッシベーション膜
60 発光窓
80 受光部
101 銅基板
102 フレーム
105 カバー
116、118 絶縁基板
130、131 被覆体
165 充填材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加反応により生成される共有結合で連結し、三次元の立体構造を形成しうる高分子組成物であり、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた、分子量が2万から80万である第3の有機珪素ポリマーの1種以上を含有することを特徴とする合成高分子化合物。
【請求項2】
付加反応により生成される共有結合で連結し、三次元の立体構造を形成しうる高分子組成物であり、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた、分子量が2万から80万である第3の有機珪素ポリマーの1種以上と、高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子の1種以上を含有することを特徴とする合成高分子化合物。
【請求項3】
付加反応により生成される共有結合で連結し、三次元の立体構造を形成するとともに、高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子の1種以上を20%〜80%の体積充填率で含有していることを特徴とする請求項2記載の合成高分子化合物。
【請求項4】
前記第1の有機珪素ポリマーが、ポリフェニルシルセスキオキサン、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリメチルフェニルシルセスキオキサン、ポリエチルシルセスキオキサン及びポリプロピルシルセスキオキサンの群から選択した少なくとも1つであり、
前記第2の有機珪素ポリマーが、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン及びポリメチルフェニルシロキサンの群から選択した少なくとも1つであることを特徴とする請求項1又は2記載の合成高分子化合物。
【請求項5】
前記第1の有機珪素ポリマーの分子量が前記第2の有機珪素ポリマーの分子量よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2記載の合成高分子化合物。
【請求項6】
前記高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子は、窒化アルミニウム(AlN)の微粒子、酸化ベリリウム(BeO)の微粒子、アルミナ(Al23)の微粒子及び多結晶SiCの微粒子の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項2記載の合成高分子化合物。
【請求項7】
前記合成高分子化合物は、シロキサンによる橋かけ構造を有する第1の有機珪素ポリマーの1種と、シロキサンによる線状連結構造を有する第2の有機珪素ポリマーの1種とをシロキサン結合により線状に連結させた、分子量が2万から80万の第3の有機珪素ポリマーを1種以上構成し、この1種以上の第3の有機珪素ポリマーを付加反応により生成される共有結合で連結して三次元の立体構造に形成した化合物、及び
前記高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子を20%から80%の体積充填率で含有していることを特徴とする請求項1又は2記載の合成高分子化合物。
【請求項8】
半導体素子、及び半導体素子を外部の機器に電気的に接続するための電気接続手段の少なくとも一部分を被覆する合成高分子化合物を有する半導体装置において、
前記合成高分子化合物が、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた分子量が2万から80万の第3の有機珪素ポリマーの1種以上を、付加反応により生成される共有結合で連結し、三次元の立体構造に形成した化合物を含有していることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
半導体素子、及び半導体素子を外部の機器に電気的に接続するための電気接続手段の少なくとも一部分を被覆する合成高分子化合物を有する半導体装置において、
前記合成高分子化合物が、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた分子量が2万から80万の第3の有機珪素ポリマーの1種以上を、付加反応により生成される共有結合で連結し、三次元の立体構造に形成した化合物、及び
前記化合物に混合された高い熱伝導性を有する絶縁性のセラミックスの微粒子を、15%以上の体積充填率で含有していることを特徴とする半導体装置。
【請求項10】
前記合成高分子化合物は、シロキサンによる橋かけ構造を有する第1の有機珪素ポリマーの1種と、シロキサンによる線状連結構造を有する第2の有機珪素ポリマーの1種とをシロキサン結合により線状に連結させた、分子量が2万から80万の第3の有機珪素ポリマーを1種以上構成し、この1種以上の第3の有機珪素ポリマーを付加反応により生成される共有結合で連結して三次元の立体構造に形成した化合物、及び
前記高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子を20%から80%の体積充填率で含有していることを特徴とする請求項8記載の半導体装置。
【請求項11】
前記半導体素子がワイドギャップ半導体の、炭化珪素(SiC)を用いたSiC半導体素子および窒化ガリウム(GaN)を用いたGaN半導体素子のいずれか一方であり、
前記第1の有機珪素ポリマーが、ポリフェニルシルセスキオキサン、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリメチルフェニルシルセスキオキサン、ポリエチルシルセスキオキサン及びポリプロピルシルセスキオキサンの群から選択した少なくとも1つであり、
前記第2の有機珪素ポリマーが、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン及びポリメチルフェニルシロキサンの群から選択した少なくとも1つであることを特徴とする請求項8記載の半導体装置。
【請求項12】
前記半導体素子がワイドギャップ半導体受光素子とワイドギャップ半導体発光素子のいずれか一方または両方を組み合わせたものであり、
前記第1の有機珪素ポリマーが、ポリフェニルシルセスキオキサン、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリメチルフェニルシルセスキオキサン、ポリエチルシルセスキオキサン及びポリプロピルシルセスキオキサンの群から選択した少なくとも1つであり、
前記第2の有機珪素ポリマーが、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン及びポリメチルフェニルシロキサンの群から選択した少なくとも1つであることを特徴とする請求項8記載の半導体装置。
【請求項13】
前記第1の有機珪素ポリマーの分子量が前記第2の有機珪素ポリマーの分子量よりも小さいことを特徴とする請求項8から請求項12のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項14】
前記高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子は、窒化アルミニウム(AlN)の微粒子、酸化ベリリウム(BeO)の微粒子、アルミナ(Al23)の微粒子及び多結晶SiCの微粒子の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項8から請求項12のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項15】
熱伝導性の良い基板上に取付けられた少なくとも1つの半導体素子、
前記半導体素子を外部の機器に電気的に接続するための電気接続部、
前記半導体素子と前記電気接続部の少なくとも一部を被覆する、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第2の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた分子量が2万から80万の第3の有機珪素ポリマーの1種以上を、付加反応により生成される共有結合で連結し三次元の立体構造に形成した化合物であり、且つ高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子を含有する第1の合成高分子化合物、
前記第1の合成高分子化合物で被覆した半導体素子及び電気接続部を収納するように前記基板に設けられた硬質樹脂製の容器、
前記容器内の隙間に充填された、シロキサン(Si−O−Si結合体)による橋かけ構造を有する少なくとも1種の第4の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する少なくとも1種の第5の有機珪素ポリマーとを、シロキサン結合により連結させた分子量が2万から80万の第6の有機珪素ポリマーの1種以上を、付加反応により生成される共有結合で連結し三次元の立体構造に形成した化合物であり、且つ高い熱伝導性を有する絶縁性セラミックスの微粒子を含有する第2の合成高分子化合物上記、及び
前記電気接続部につながり、前記容器の外へ導出された外部接続端子
を有する半導体装置。
【請求項16】
前記第1および第2の合成高分子化合物は、シロキサンによる橋かけ構造を有する第1の有機珪素ポリマーと、シロキサンによる線状連結構造を有する第2の有機珪素ポリマーとを交互にシロキサン結合により線状に連結させて第3の有機珪素ポリマーを構成し、前記第3の有機珪素ポリマーの複数のものを、付加反応により生成される共有結合で連結して三次元の立体構造に形成した化合物を含有することを特徴とし、
第2の合成高分子化合物が第1の合成高分子化合物よりも高い柔軟性を有していることを特徴とする請求項15記載の半導体装置。
【請求項17】
前記半導体素子がワイドギャップ半導体を用いたSiC半導体素子およびGaN半導体素子のいずれか一方であり、
前記第1と第4の有機珪素ポリマーが、ポリフェニルシルセスキオキサン、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリメチルフェニルシルセスキオキサン、ポリエチルシルセスキオキサン及びポリプロピルシルセスキオキサンの群から選択した少なくとも1つであり、
前記第2と第5の有機珪素ポリマーが、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン及びポリメチルフェニルシロキサンの群から選択した少なくとも1つであることを特徴とする請求項15記載の半導体装置。
【請求項18】
前記半導体素子が、SiC−GTO素子とSiCダイオード素子であり、前記容器内で前記電気接続部により逆並列に接続されていることを特徴とする請求項15記載の半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−206721(P2006−206721A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19877(P2005−19877)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】