CFRPプリプレグ及び接合体
【課題】接着性能が高いCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)プリプレグの提供。
【解決手段】CFRPプリプレグのマトリックス樹脂に含まれるエポキシ樹脂分を100質量部としたときに、(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とし、且つビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーを0〜15質量部含むビスフェノールA型エポキシ樹脂を45〜75質量部含み、(2)エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ当量が180以下のエポキシ樹脂を55〜25質量部含み、(3)硬化剤としてジシアンジアミド粉体を3〜6質量部含み、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを1〜4質量部含み、(4)充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるアルミニウム粉体を10〜30質量部含ことを特徴とする。
【解決手段】CFRPプリプレグのマトリックス樹脂に含まれるエポキシ樹脂分を100質量部としたときに、(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とし、且つビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーを0〜15質量部含むビスフェノールA型エポキシ樹脂を45〜75質量部含み、(2)エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ当量が180以下のエポキシ樹脂を55〜25質量部含み、(3)硬化剤としてジシアンジアミド粉体を3〜6質量部含み、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを1〜4質量部含み、(4)充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるアルミニウム粉体を10〜30質量部含ことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送機器、電気機器、医療機器等の製造分野全般において使用されるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)に関する。具体的には、マトリックス樹脂を改良したCFRPプリプレグ、及びそのCFRPプリプレグと被着材(CFRP又は金属合金等)を接合した接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、金属合金同士、又は金属合金とCFRPをエポキシ接着剤により強固に接着する技術を開発した。特許文献1には、アルミニウム合金同士、又はアルミニウム合金とCFRPとを1液性エポキシ接着剤を使用して強固に接着する技術を開示している。同様に、特許文献2、3、4、5、及び6には、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び一般鋼材を、それぞれ金属合金又はCFRP部材と1液性エポキシ接着剤を使用して強固に接着する技術を開示している。
【0003】
ここで、上記技術においては金属合金表面を所定の形状、構造とすることで、アンカー効果によって接着力を獲得していた。本発明者らは、この理論を「NAT(Nano Adhesion Technologyの略)」と称している。NATでは、金属合金表面が以下に示す3条件を具備することで、被着材との強固な接着を達成することとしている。
【0004】
(1)第1の条件は、最新型のダイナミックモード型の走査型プローブ顕微鏡で金属合金表面を走査したときに、RSmが0.8〜10μmであり、Rzが0.2〜5μmである粗度面となっていることである。ここでRSmは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される輪郭曲線要素の平均長さであり、Rzは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される最大高さである。この粗度面を「ミクロンオーダーの粗度を有する表面」と称す。
(2)第2の条件は、上記ミクロンオーダーの粗度を有する金属合金表面に、さらに5nm周期以上の超微細凹凸が形成されていることである。当該条件を具備するために、上記金属合金表面に微細エッチングを行い、前述のミクロンオーダーの粗度をなす凹部内壁面に5〜500nm、好ましくは10〜300nm、より好ましくは30〜100nm(最適値は50〜70nm)周期の超微細凹凸を形成する。
(3)第3の条件は、上記金属合金の表層がセラミック質であることである。具体的には、元来耐食性のある金属合金種に関しては、その表層が自然酸化層レベルかそれ以上の厚さの金属酸化物層であることを要し、耐食性が比較的低い金属合金種(例えばマグネシウム合金や一般鋼材等)では、その表層が化成処理等によって生成した金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であることが第3の条件となる。
【0005】
これらを模式的に図にすると図16のようになる。金属合金40の表面にはミクロンオーダーの粗度を成している凹部(C)が形成され、さらにその凹部内壁には超微細凹凸(A)が形成され、表層はセラミック質層41となっており、この超微細凹凸に接着剤硬化物層42の一部が浸入している。このようにした金属合金表面に液状の接着剤が侵入し、侵入後に硬化すると、金属合金と硬化した接着剤は非常に強固に接合するという簡潔な考え方である。
【0006】
接着剤接合の手順を以下に示す。まず、金属合金表面をエッチングし、上記3条件を満たすようにする。そして、液状の1液性エポキシ接着剤をその金属合金の所定範囲に塗布し、デシケータに入れて一旦真空下に置き、その後常圧に戻すなどして金属合金表面の超微細凹凸に接着剤を侵入させる。即ち、金属合金表面に接着剤を充分に染み込ませる。その後、前記所定範囲に被着材を貼り合わせ、加熱して接着剤を硬化させる。
【0007】
こうした場合、エポキシ接着剤が液体であれば、その粘度が高くとも、金属合金表面のミクロンオーダーの粗度に係る凹部(前記第1条件における凹凸の凹部)内に侵入可能である。そして侵入したエポキシ接着剤は、その後の加熱でこの凹部内で硬化することになる。実際には、この凹部の内壁面には超微細凹凸がさらに形成されており(前記の第2条件)、且つこの超微細凹凸は、セラミック質の高硬度の薄膜(前記の第3条件)で覆われていることから、凹部内部に侵入して固化したエポキシ樹脂は、スパイクのような超微細凹凸に掴まって抜け難くなる。
【0008】
本発明者らは、「NAT」によって、金属合金同士、又は金属合金とCFRP(carbon fiber reinforced plasticsの略)との高強度の接着が可能であることを実証した。一例として、「NAT」の条件を具備するA7075アルミニウム合金同士を、市販の1液性エポキシ接着剤を使用して接着した結果、70MPaもの強烈なせん断破断力、引っ張り破断力を示す接合体を得ることができた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 2008/114669 A1(アルミニウム合金)
【特許文献2】WO 2008/133096 A1(マグネシウム合金)
【特許文献3】WO 2008/126812 A1(銅合金)
【特許文献4】WO 2008/133030 A1(チタン合金)
【特許文献5】WO 2008/133296 A1(ステンレス鋼)
【特許文献6】WO 2008/146833 A1(一般鋼材)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「高性能を生む接着剤えらび」前田勝啓著,p51,平成4年3月1日初版第7刷(技術評論社)
【非特許文献2】スリーボンド・テクニカルニュース19(昭和62年10月1日発行,株式会社スリーボンド)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、前述したように市販の1液性エポキシ接着剤を使用し、「NAT」に基づいて、金属合金同士又は金属合金とCFRPを接着接合する実験を行ったが、金属合金とCFRPの接着に関しては、金属合金同士を接着した場合と比較して、せん断破断力及び引っ張り破断力が低下する傾向にあった。金属合金とCFRPの強固な接着は、航空機や船舶等の様々な分野で待望されている。しかしながら、金属合金とCFRPを1液性エポキシ接着剤で接着した場合に、金属合金同士の接着と同等の接着力を安定的に得ることができなかった。具体的に言えば、金属合金とCFRPを接着した複合体は、せん断破断力及び引っ張り破断力の複合体間のばらつきが大きく、実用性に問題があった。接着剤を改良することで、複合体間の接着力のばらつきを幾分小さくすることは可能であったが、根本的な解決には至らなかった。また、このばらつきを小さくしようとすると接着力自体が低下するという問題も生じた。
【0012】
本発明者らが、金属合金同士の接着力と比較してCFRPと金属合金の接着力が劣る要因を調査した結果、以下の事実が明らかになった。端的に述べると、CFRPと金属合金の複合体が破断する要因はCFRP中の炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力にあることが判明した。CFRPと金属合金の複合体を引っ張り破断した後、その金属合金の破断面を拡大観察したところ、その全てについて炭素繊維が多く付着していた。即ち、硬化したCFRPプリプレグ表層における硬化したマトリックス樹脂と硬化した接着剤の間の接着力が、硬化したCFRPプリプレグ内部における硬化したマトリックス樹脂と炭素繊維の間の接着力を超えていたのである。これにより、破断時は、硬化したマトリックス樹脂と炭素繊維の間で先に剥離が生じ、これが低い接着力として現れていた。言い換えると、金属合金表面と接着剤硬化物間、及び接着剤硬化物とマトリックス樹脂硬化物間の相互間の接着力は極めて高く、且つ接着剤硬化物自体も極めて強固であるため、金属合金とCFRPの接着力を決定する要因は、炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力にある。
【0013】
このことから、炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力の向上が、金属合金とCFRPとの接着力向上に直接的に寄与すると推定される。本発明は、このような背景のもとになされたものであり、その目的は、炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力を向上させたCFRPプリプレグを提供すること、また、そのCFRPプリプレグと被着材(CFRP又は金属合金)が強固に接合された接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
CFRPは超軽量ながら鋼を超える強靭さを有し、極めて優れた構造材料として認められている。高価であるため当初は戦闘機用構造材として使用されるに留まっていたが、近年は航空機、ゴルフクラブ、テニスラケット、釣竿等の民生品にも使用されており、一般的な構造材料として認識されつつある。このような事情もあり、CFRPプリプレグの炭素繊維、炭素繊維の表面処理方法、及びマトリックス樹脂等に関する技術は確立されている。しかしながら、上述したように本発明者らが「NAT」を開発した結果、金属合金と1液性エポキシ接着剤、当該1液性エポキシ接着剤とCFRPとの強固な接着が可能となり、その結果として、CFRPプリプレグにおける炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力が問題化した。
【0015】
炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力を向上させるための手法として(1)最適な炭素繊維の選択(繊維強度ではなく表面性に着目する)、(2)炭素繊維の表面処理方法の改良、及び(3)マトリックス樹脂の改良が考えられる。ここで(1)及び(2)に関しては炭素繊維メーカーでなければ困難であるものの、(3)は炭素繊維メーカー以外でも可能である。近年は、表面処理が施された炭素繊維束又は炭素繊維織物が市場に流通している。本発明ではCFRPプリプレグに使用するマトリックス樹脂を改良することによって、当該マトリックス樹脂と炭素繊維との接着力を向上させた。以下、本発明のCFRPプリプレグの特徴について、通常のCFRPプリプレグと比較して説明する。
【0016】
[CFRPプリプレグ]
30年以上前の資料ではCFRPはACM(Advanced composite materialの略)と言われ、そのプリプレグは炭素繊維織物に1液性エポキシ接着剤を染み込ましたものであった。即ち、離型紙の上に炭素繊維布を敷き、そこへ粘性液体である1液性エポキシ接着剤を塗布し、炭素繊維布全体に浸透させて、これにポリエチレン製フィルムを被せてプリプレグとしていた。このプリプレグはマトリックス樹脂(ここでは1液性エポキシ接着剤)が染込んだ炭素繊維束や炭素繊維布であり、表面は粘着性を有する。それ故、運搬や保管に不便であるため、離型紙又はポリエチレンフィルムをカバー材として使用している。使用時には、カバー材で挟んだ状態のシート状プリプレグを鋏で切断し、その後にカバー材を剥がし、成形治具上にプリプレグを積層して焼成していた。
【0017】
現在ではマトリックス樹脂中のエポキシ樹脂及び硬化剤が改良され、マトリックス樹脂は常温で固体又は高粘度の熱硬化性エポキシ樹脂組成物となっている。従って、CFRPプリプレグの加工は容易にできる。現在市販されているCFRPプリプレグの組成、特に、マトリックス樹脂の具体的な組成はメーカーの重要機密であり非公開なので詳細は不明であるが、概ね以下の組成を基本としている。マトリックス樹脂となるエポキシ樹脂は、その主成分がビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体型であり、その他にビスフェノールA型エポキシ樹脂の多量体型、及び、3個以上のエポキシ基を有する多官能型エポキシ樹脂を含む3〜5種類程度の異なったエポキシ樹脂同士の混合物となっている。この混合物に硬化剤として芳香族ジアミン又はジシアンジアミドを加え、加熱しつつ混練したものをマトリックス樹脂としている。
【0018】
硬化剤を芳香族ジアミンとすると、エポキシ樹脂硬化物のTg(ガラス転移点)を150〜190℃と高くすることができ、CFRPの耐熱性を確保できる(非特許文献1)。芳香族ジアミンの添加量はエポキシ当量に基づいた値が最適であり、通常、エポキシ樹脂100質量部に対して25〜35質量部となる。硬化剤として最もよく使用される芳香族ジアミンはジアミノジフェニルスルホン(「DDS」という)であり、これは固体である。エポキシ樹脂混合物は高粘度の液体であり、これに混合する硬化剤は固体であって、かつ、その添加量が上述したように多い。それ故、エポキシ樹脂混合物を60〜80℃に加熱した状態で硬化剤との混合操作を行うことになる。具体的には加熱ロールによって両者が混練されてシート状のマトリックス樹脂となる。即ち、混練物は常温で固体となる。このシート化されたマトリックス樹脂2枚によって、炭素繊維束又は炭素繊維布を挟み込み、再び加熱しつつロールにかけて1層物にしたものがCFRPプリプレグとなる。この方法によるCFRPプリプレグは全体として硬く薄いシート状物であり、マトリックス樹脂が固体となっているのでカバー材は原則必要なく、これを切断する際に自動制御されたカッターが使用できる。
【0019】
一方、硬化剤をジシアンジアミドとした場合、そのエポキシ樹脂硬化物のTgはエポキシ樹脂組成によって変化する(非特許文献2)。この非特許文献2には「エポキシ樹脂間の重合について、硬化剤として脂肪族ポリアミン又は芳香族ジアミンを使用した場合と、ジシアンジアミドを硬化剤とした場合とで異なり、ジシアンジアミドの場合は付加重合だけでなく触媒的重合も生じている」とある。その根拠として、ジシアンジアミド粉体を硬化剤として用いた場合、最適の添加量はエポキシ当量に基づく値より遥かに少なく、エポキシ樹脂100質量部に対し3〜8質量部となる。それ故、ジシアンジアミドを硬化剤とした場合、マトリックス樹脂は、硬化剤添加前のエポキシ樹脂混合物より若干の粘度上昇が生じるに過ぎず、常温では固体とならずに通常は高粘度液状物となる。
【0020】
それ故、CFRPプリプレグの製造方法は前述した旧式の方法となる。CFRPプリプレグの両面を離型紙又はポリオレフィンフィルムで挟み込んで製品化している。このCFRPプリプレグの切断には鋏やカッターを使用できる。CFRPプリプレグからCFRP部材を作成する際は、CFRPプリプレグを切断して多数のプリプレグ片を作成する。このプリプレグ片を治具内に積層して全体を締め付けた状態とし、その治具をオートクレーブに入れて真空にしつつ加熱する。または、その治具を耐熱バッグに入れて真空にし、真空にしたまま熱風乾燥機、加熱プレス、又はオートクレーブに入れて加熱する。マトリックス樹脂が加熱されて80〜90℃になると、一端溶融して高粘度液状物となる。従って、この温度で減圧することでCFRPプリプレグ間及びCFRPプリプレグ中の空気を抜くことが出来る。その後、さらに昇温しつつオートクレーブ内を加圧状態にすることが好ましい。このようにすることで、CFRPプリプレグ間やCFRPプリプレグ中の空気が抜けたあとのボイドは潰され、マトリックス樹脂中の気泡を排除して完全硬化させることが可能となる。加熱温度は140〜180℃とし、この温度で1〜2時間加熱することが好ましい。
【0021】
[マトリックス樹脂の改良]
本発明の目的は硬化したマトリックス樹脂と炭素繊維の間の接着力を向上することにある。本発明者らは前述したNATに適した1液性エポキシ接着剤を開発する過程において、この1液性エポキシ接着剤の組成をCFRPプリプレグのマトリックス樹脂に応用することを検討した。本発明者らは、NATにおける3条件を具備する金属合金同士を1液性エポキシ接着剤によって接着させ、その接着力を測定する実験を行った。このとき明らかになったことは、エポキシ接着剤による金属合金同士の接着力は、金属合金の表面形状、即ち、物理的要因で決定されるということである。言い換えると、金属合金全般に対して化学的な要因、即ち接着剤の濡れ性は好ましかった。これらの金属合金の表層は金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であるから、エポキシ樹脂は含酸素基やイオン性を有する基との親和性が良いと推定される。
【0022】
一方、炭素のみからなるカーボンナノチューブは親油性であるから、炭素繊維も同様の親油性表面を有し、表面に含酸素基は少ないと推定される。それ故に炭素繊維自体はエポキシ樹脂との濡れ性は良くないと推定される。このような問題に対して、(1)炭素繊維に表面処理を施し、繊維表面を酸化させてカルボン酸基又は水酸基等を当該繊維表面に付けることでエポキシ樹脂との親和性を高めるという手段が考えられる。即ち、親和点濃度の向上である。この他にも、(2)炭素繊維表面に凹凸が存在する低級炭素繊維を敢えて選択することで、マトリックス樹脂との接着性を向上させるという方法がある。但し、この方法では炭素繊維自体の繊維強度が低下するという問題がある。その他、(3)マトリックス樹脂中のエポキシ基濃度を向上させる方法も考えられる。
【0023】
上記(1)及び(2)に関しては、炭素繊維メーカーでないと詳細な検討が困難である。本発明者らは(3)に関して検討した。(3)を達成するために、エポキシ樹脂の平均エポキシ当量を低下させることを試みた。そのためにエポキシ樹脂中のビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体型の比率を高め、エポキシ当量の小さい多官能型のエポキシ樹脂の比率を高めた。さらに、硬化剤の含量が少なくて済むように、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を使用した。ジシアンジアミド粉体を使用した場合、その接着性能が最高になる添加量はエポキシ樹脂100質量部に対して3〜8質量部に過ぎず、エポキシ当量に基づいて算出される15〜30質量部と大きく異なる。要するに、マトリックス樹脂の硬化剤に芳香族ジアミンでなくジシアンジアミド粉体を使用することで、マトリックス樹脂中の硬化剤の比率を減らし、マトリックス樹脂中のエポキシ基濃度を高めることが出来る。
【0024】
本発明に係るマトリックス樹脂の組成は以下の通りである。このマトリックス樹脂を構成する全エポキシ樹脂混合物を100質量部としたときに、(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とするビスフェノールA型エポキシ樹脂を45〜75質量部、(2)エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ樹脂を55〜25質量部混合したものである。(2)としては、エポキシ当量180以下のものが好ましく、フェノールノボラック型エポキシ樹脂「JER154(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、アニリンに3つのエポキシ基が付いたアニリン型エポキシ樹脂「JER630(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(略号でTGDDM)「JER604(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」等を使用できる。このエポキシ樹脂混合物100質量部に対して、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を3〜8質量部添加し、更に硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを1〜4質量部添加した。
【0025】
本発明は、マトリックス樹脂中の基本組成、即ち、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量に含まれるエポキシ基含量を相対的に増やすことで、マトリックス樹脂硬化後の炭素繊維とマトリックス樹脂との接着力を向上せんとするものである。それ故、エポキシ樹脂の全量を分子量の小さいビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体にした場合でもその効果を得ることが出来る。しかしながら、エポキシ樹脂分をビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体のみとした場合、常温下におけるマトリックス樹脂と炭素繊維の接着力は高いが、CFRP部材の耐熱性(硬化したマトリックス樹脂の耐熱性)が低く、高温下(150℃)における接着力は極めて低くなってしまうという問題がある。それ故、マトリックス樹脂硬化物に耐熱性を備えさせるべく、(2)芳香環を有し且つエポキシ基を3個以上有する多官能型エポキシ樹脂を55〜25質量部混合している。また、マトリックス樹脂硬化物の迅性を向上させるべく、(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂中に分子量の大きいビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーを0〜15質量部混合するようにしたものである。
【0026】
ここで(2)多官能型エポキシ樹脂55〜25質量部中には、分子量300以下のエポキシ樹脂が十分含まれることが重要である。即ち、この多官能型エポキシ樹脂中の70〜100質量%を分子量300以下のもので構成することが好ましい。このような多官能型エポキシ樹脂を混合することによって、マトリックス樹脂硬化物の硬度を向上させ、高い耐熱性を確保することができた。
【0027】
本発明者らは、以下のエポキシ樹脂を混合してマトリックス樹脂のエポキシ樹脂分を作成した。
(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とするビスフェノールA型エポキシ樹脂(以下の2つの混合物)
(1−1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体
「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
粘度:25℃で120〜150P(常温で液状)
エポキシ当量:184〜194
分子量:約370
(1−2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマー
「JER1004(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
粘度:25℃でQ〜U(ガードナーホルト粘度)
エポキシ当量:875〜975
分子量:約1650
(2)芳香環を有し且つエポキシ基を3個以上有する多官能型エポキシ樹脂(以下の2つの混合物)
(2−1)フェノールノボラック型エポキシ樹脂
「JER154(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
粘度:52℃で350〜650P(常温で固形)
エポキシ当量:176〜180
(2−2)アニリンに3つのエポキシ基が付いたアニリン型エポキシ樹脂
「JER630(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
粘度:25℃で5〜10P(常温で液状)
エポキシ当量:90〜105
【0028】
ここで、上記(2)としては、次の(2−3)を使用することもできる。
(2−3)4官能のエポキシ樹脂であるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
「JER604(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
粘度:25℃で50〜100P(常温で高粘度液体)
エポキシ当量:110〜130
【0029】
上記エポキシ樹脂の混合物に無機充填材を混合させて粘度を調整したものをマトリックス樹脂とした。無機充填材として使用するのはタルク又はクレー等の鉱物質充填材に限られない。本発明においては無機充填材としてアルミニウム粉末を使用したときに、マトリックス樹脂と炭素繊維との接着力を向上させることができた。本発明では充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるアルミニウム粉体を10〜30質量部と、粒径分布の中心が10〜30μmのクレーを0〜30質量部(好ましくは10〜25質量部)併用する。これらを十分に混練してマトリックス樹脂とする。
【0030】
このようにして得られるマトリックス樹脂は高粘度の液状、所謂ペースト状となり、高性能接着剤の組成に近いものとなる。このマトリックス樹脂には、さらに、耐衝撃性を高めることを目的としてCFRPプリプレグで使用されている水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体も添加することも可能である。粒径分布の中心が10〜30μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体を全エポキシ樹脂100質量部に対し0〜30質量部加えてもCFRPプリプレグの硬化性能、接着性能に影響はなかった。ポリエーテルスルホン樹脂(以下、「PES」という)は融点300℃以上の熱可塑性樹脂であり、常温から150℃程度までであれば十分に硬いが、非常な力がかかった時にはクリープして変形するのでCFRP部材に耐衝撃性を与える。
【0031】
このようにして作成したマトリックス樹脂と市販の炭素繊維を組み合わせてCFRPプリプレグを作成した。このCFRPプリプレグを積層してCFRP部材を作成し、被着材と接着させて接合体の接着力を測定した。その結果、市販のCFRPプリプレグと比較して接着力が著しく改善した。
【0032】
(CFRPプリプレグの作成方法)
市販の表面処理済み炭素繊維織物(以下「CFクロス」という)を用意する。このCFクロスより一回り大きいシリコーン樹脂使用の離型紙とポリエチレンフィルムを用意する。離型紙上にCFクロスを拡げて端部をテープ又はピンで固定し、このCFクロスに上記マトリックス樹脂を塗布する。このマトリックス樹脂はペースト状であり、塗布量はやや多めでよい。塗布後に塗布面をポリエチレンフィルムで覆い、軽く中央から端部に向かって押付けて空気を抜く。そして再度、中央から端部に向かって押付けて余剰のマトリックス樹脂を押し出す。これにより、離型紙、CFRPプリプレグ、ポリエチレンフィルムの3層構造のシート状物が完成する。このシート状物の周囲を切断して端を揃える。得られたシート状物はポリエチレン製の袋に入れて封じ、5℃以下にした冷蔵庫に保管した。使用時には冷蔵庫から出して1時間程度常温で放置し、袋から出して必要な大きさに切断した後、カバー材(離型紙及びポリエチレンフィルム)を剥がして積層して使用する。
【0033】
[コボンド法による接合体の作成]
コボンド法によるCFRP部材と被着材の接合体の作成方法について説明する。CFRPプリプレグの積層物を治具で固定し、オートクレーブに入れて減圧下で昇温し、90℃程度まで積層物の温度が上がった後に常圧に戻し、更には数気圧の加圧状態にする。CFRPプリプレグは90℃前後で一旦軟化するので、この時点でCFRPプリプレグの層間に挟まれていた空気が抜ける。次いで加圧されることで、空気が抜けたあとの空隙が潰される。更に積層物を硬化温度まで昇温して完全硬化させ、加熱を止めてオートクレーブから積層物を取り出す。この積層物をCFRP部材とする。又は、必要に応じて積層物を高圧水切断機で切断加工して形状化したものをCFRP部材とする。このCFRP部材と被着材(CFRP部材又は金属合金)を接着剤によって接着することで接合体を作成する。
【0034】
[コキュア法による接合体の作成]
一方、コキュア法による接合体の作成においては、既硬化のCFRP部材を被着材と接着させるのではなく、未硬化のCFRPプリプレグと被着材を抱き合わせた状態で加熱し、一体化する。例えば、未硬化のCFRPプリプレグの積層物同士を一体化する場合、CFRPプリプレグ積層物同士の所定範囲を密着させた状態で治具を使用して固定する。そして、治具によって固定した状態でオートクレーブに入れて全体を硬化させる方法がある。これがコキュア法によるCFRP(未硬化のCFRPプリプレグの積層物)同士の接着法である。ここで、未硬化のCFRPプリプレグの積層物同士をエポキシ接着剤を介して接着させるようにしても良い。即ち上記所定範囲にエポキシ接着剤を塗布しておき、オートクレーブ内でCFRPプリプレグのマトリックス樹脂とエポキシ接着剤を一時に硬化させる。これもコキュア法による接着である。CFRPプリプレグ積層物同士の接触面に対して上下から締め付ける力を加えることが困難な場合等には、エポキシ接着剤を使用することが好ましい。
【0035】
また未硬化のCFRPプリプレグの積層物と金属合金とを接着させる場合には、先だって金属合金表面の接着領域にエポキシ接着剤を塗布した後、後述する染み込まし処理を行う。その後、その金属合金と未硬化のCFRPプリプレグの積層物とを密着させ、治具によって固定する。これをオートクレーブに入れて加熱し、CFRPプリプレグのマトリックス樹脂とエポキシ接着剤を一時に硬化させる。これもコキュア法による接着である。
【0036】
[CFRP部材の粗面化]
CFRP部材を被着材と接着させる場合、CFRP部材表面を粗面化することで安定した接着力が得られる。この表面の研磨は研磨紙によって可能であり、本発明者らが試行錯誤を行った結果、JISR6252に規定される80番〜480番、好ましくは120番〜240番のやや目の粗い研磨紙でCFRP部材表面を10〜20回程度研磨したものが、安定的に高い接着力を発揮する被着材となった。粗面化後の表面に付着した汚れ(微粉)を除去するため、CFRP部材を洗剤を含む水溶液に浸漬した後、乾燥する。または、強い水流で粗面化した部分の汚れを取り去り、水道水又は純水に漬けて水洗し、乾燥しても良い。後述する実験例では研磨紙を使用したが、研磨用部材は研磨紙に限らない。量産工程では研磨紙に代えてサンドブラストを使用することが可能である。
【0037】
CFRP部材表面から炭素繊維の一部が剥き出しとなる程度の粗面化が好ましい。概して炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性よりも、炭素繊維と1液性エポキシ接着剤の接着性が優れているからである。市販の1液性エポキシ接着剤を使用した場合、常温下では炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性よりも、炭素繊維と1液性エポキシ接着剤の接着性が優れている。しかし、100℃以上の高温下においては市販の1液性エポキシ接着剤と炭素繊維との接着力が急激に低下して、この1液性エポキシ接着剤と炭素繊維との間で破断が生じる。即ち、高温下においては、本発明で使用するCFRPプリプレグにおける炭素繊維とマトリックス樹脂との接着力ではなく、炭素繊維と1液性エポキシ接着剤の接着力の低下によって破断に至るのである。
【0038】
この結果に基づけば、高温下における炭素繊維と1液性エポキシ接着剤との接着力を向上させることが可能であれば、常温から高温にかけてCFRP部材と被着材とが極めて強固に接着された接合体を得ることができることになる。即ち、常温下においては、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着力が問題となるので、マトリックス樹脂を改良することによって両者の接着力を向上させる。一方で、高温下においては、炭素繊維と1液性エポキシ接着剤との接着力が問題となるので、1液性エポキシ接着剤の改良によってこの接着力を向上させることを試みた。本発明者らが開発した耐熱型1液性エポキシ接着剤を使用した場合、高温においてCFRP部材と被着材とが極めて強固に接着された接合体を得ることができる。これは、剥き出しになった炭素繊維の周囲を改良した1液性エポキシ接着剤が覆うことになるからである。この接着剤に関して以下に説明する。
【0039】
[使用する接着剤]
本発明者らはNATを適用した接着において、主として1液性熱硬化型接着剤を使用した。主液と硬化剤を混合して接着剤を作成し、混合後の数分〜1時間以内に塗布して常温で硬化させる2液性接着剤であっても金属合金とCFRPの接着自体は可能である。しかしながら、接着力は1液性熱硬化型接着剤に及ばない。これはNATにおいては接着剤が金属合金表面のミクロンオーダーの粗度をなす凹部に侵入し、さらにその凹部内壁面にある超微細凹凸にまで侵入した後に硬化することによって強固な接着を可能としているからである。例えば2液性エポキシ樹脂接着剤等の2液性接着剤では、主液と硬化剤を混合した直後から高分子化・ゲル化が開始されるので、分子径が大きくなり過ぎて超微細凹凸に侵入せず、超微細凹凸が接着力の向上に寄与しないという問題がある。その結果として接着力の獲得が困難となる。また2液性接着剤では2液を混合してから金属合金表面に塗布し、金属合金表面に染み込ませる染込ませる作業(後述)までの時間を固定できず、接着力自体が安定しないという問題がある。但し、一般的に2液性接着剤に区分されている接着剤であっても、硬化剤を混合してから直ちに高分子化・ゲル化が起こらず、数時間程度は実質的に反応が進まない物であれば使用できる。少なくともNATを適用した接着においては1液性熱硬化型接着剤と同等に扱うことができる。
【0040】
[1液性エポキシ接着剤]
上記理由から本発明においてはCFRPと金属合金の接着に1液性エポキシ接着剤を使用した。NATの3条件を具備する金属合金同士を接着する場合、市販の汎用1液性エポキシ接着剤を使用しても常温下で60〜70MPaのせん断破断力が得られる。一方で150℃におけるせん断破断力は6〜15MPa程度であり、耐熱性が課題となっていた。 本発明者らが、エポキシ樹脂の組成及び充填材に関して改良を施した結果、常温下におけるせん断破断力を70〜80MPaに向上させ、150℃におけるせん断破断力を40MPa前後まで向上させることができた。本発明者らが開発した1液性エポキシ接着剤は特に耐熱性に優れており、NATの3条件を具備する金属合金同士の接着には当然有効であるが、CFRP部材を対象とした接着においても効果を発揮する。
【0041】
1液性エポキシ接着剤の組成は、前述したマトリックス樹脂と同様である。即ち、以下に示すものとなる。マトリックス樹脂を構成する全エポキシ樹脂混合物を100質量部としたときに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とするビスフェノールA型エポキシ樹脂を45〜75質量部、エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ当量180以下のエポキシ樹脂を55〜25質量部混合したものである。このエポキシ樹脂混合物100質量部に対して、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を3〜8質量部添加し、更に硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを1〜4質量部添加する。これに充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるアルミニウム粉体を10〜30質量部、粒径分布の中心が10〜30μmのクレーを10〜30質量部添加する。更に、これに粒径分布の中心が10〜30μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体を全エポキシ樹脂100質量部に対し0〜30質量部添加することが好ましい。
【0042】
(スペーサー)
本発明の目的は、CFRP部材と金属合金の強固な接着を可能とするものであるが、この接着に際しては線膨張率の違いが問題となる。CFRP部材の線膨張率は含まれる炭素繊維量によって異なるが、通常は0.3×10−5℃−1程度である。一方、アルミニウムは金属中で最も大きな線膨張率を有し、その値は2.2×10−5℃−1程度である。従って、この両者の間には、1.9×10−5℃−1程度の差がある。常温(25℃)で隙間無く接着したCFRP片とA7075アルミニウム合金片の複合体が150℃の環境下に置かれるとした場合、(1.9×10−5℃−1)×(150℃−25℃)=0.24%のズレが生じ、長さ10mmに対して、10mm×0.24%=0.024mmのズレが生じることになる。従って、耐熱性のある1液性エポキシ接着剤を使用した場合であっても、高温になると軟化して接着力が急激に低下する。それ故に接着される双方の材料が高硬度(高弾性率)であれば、高温下でズレを起そうとする力を接着力で押さえ込むことが不可能になり、破壊が進行すると予測される。
【0043】
要するに、A7075アルミニウム合金片同士の接合体の接着力よりもCFRP片とA7075アルミニウム合金片の接合体の接着力が常に低く、本発明等の利用によって、その差異を縮めることは可能である。しかし、150℃程度以上の高温下では線膨張率の違いによって生じるズレを完全に封じることは不可能である。本発明者らは高温下における線膨張率の差異を緩和すべく、A7075アルミニウム合金片とCFRP片に挟まれる接着剤硬化物層の厚さを厚くすることを試みた。これは150℃以上の高温となったときに、エポキシ樹脂硬化物の硬度が低下し、充填した純アルミ系アルミニウム粉体及びポリエーテルスルホン樹脂粉体の柔軟性がズレの緩和に寄与することを期待したためである。接着剤硬化物層の厚さとして、百〜数百μmの厚さを確保できれば充填材の迅性が十分に発揮され、その接着剤硬化物層の上面及び下面の間で生じるズレを吸収することができる。
【0044】
本発明者らは、45mm×15mm×3mm厚のCFRP片及びアルミニウム合金片を1液性エポキシ接着剤により接着した複合体を作成した。このときの接着面積は0.5cm2程度とした。接着方法はコボンド法であり、CFRP片とアルミニウム合金片の双方の端部に接着剤を塗布し、それぞれについて、後述する染み込まし処理を行った後で接着剤塗布領域同士を密着させてクリップで固定し、熱風乾燥機に入れて接着剤を加熱硬化させたものである。CFRP片及びアルミニウム合金片はクリップによる圧力で接着面の方向に押付けられ、間に挟まった接着剤の多くは縁部から外に押し出される。
【0045】
クリップによる圧力を考慮すると、通常の1液性エポキシ接着剤であれば接着剤硬化物層の厚さは0.1mm未満となる。この接着剤硬化物層の厚さが0.1mm以上となるようにすべく、1液性エポキシ接着剤中に粒径100μm前後の粉体を充填材として含ませることとした。この大粒径の粉体を「スペーサー」と称す。本発明者らは、スペーサーとして粒径75〜150μm程度で粒径分布が狭く、且つ入手容易な物を選択した。具体的には、ポリエーテルスルホン樹脂粉体、水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂の粉体、ステンレス鋼等の金属粉体、炭酸カルシウム粉体、タルク粉体等である。これらを1液性エポキシ接着剤に添加して、CFRPとA7075アルミニウム合金の接着試験を行った。
【0046】
常温下での接着力を比較した場合、スペーサー含有の1液性エポキシ接着剤とスペーサーを含有しない1液性エポキシ接着剤に明確な差異は認められない。少なくともスペーサーの含有が接着力を低下させる要因になることはないと考えられる。理論的にはエポキシ樹脂との親和性さえ良ければスペーサーとして使用することができる。後述する実験において使用した水酸基付きPES粉体及びステンレス鋼粉体はスペーサーとして適しているといえる。その他、粒径100μm程度のアルミニウム粉体、銅粉、銀メッキ付き銅粉等も使用可能と推定される。これらは市販されているので容易に入手可能である。なお、CFRP同士の接着においては線膨張率の差という問題が生じないのでスペーサーは不要である。スペーサーは接着剤塗布領域に一定の個数以上含まれることで効果が生じる。それ故、添加量に関しては接着面積にもよるが、概ねエポキシ樹脂100質量部に対して1〜20質量部含まれるようにすると良い。
【発明の効果】
【0047】
本発明では、マトリックス樹脂を改良することによって炭素繊維とマトリックス樹脂の接着力を向上させた。具体的には、エポキシ樹脂中に含まれるエポキシ基を増やし、硬化剤として芳香族ジアミン類を使用せずにジシアンジアミドを使用することによって硬化剤の添加量を少なくするようにした。即ち、マトリックス樹脂中に含まれるエポキシ基の濃度を向上させた。表面処理された炭素繊維に存在する親エポキシ点に対して、マトリックス樹脂中のエポキシ基濃度を高くすることで接着力を高めようとしたものである。
【0048】
本発明者らは、CFRPプリプレグを積層して硬化させたCFRP片同士を1液性エポキシ接着剤によって接着し、その接合体のせん断破断力を測定する実験を行った。その結果、本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片は、従来型CFRPプリプレグを使用したCFRP片と比較してせん断破断力で5MPa以上、上回っていた。このときのせん断破断力は、主に炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力で決定されるため、炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力が明確に向上していることになる。また、CFRP片と金属合金片を接着させた場合にも同様の結果を得た。
【0049】
本発明のCFRPプリプレグを使用することによって、CFRP部材(硬化させたCFRPプリプレグ)と被着材(金属合金又はCFRP部材)とが極めて強固に接着された接合体を得ることができた。この接合体の接着力は、金属合金同士を接着した接合体に近いものであった。さらに、CFRP部材と被着材の接着に際して、耐熱性を有する1液性エポキシ接着剤を使用することによって、常温から高温にかけて強固な接着力を有する接合体を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、A7075アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液で化学エッチングし、水和ヒドラジン水溶液で微細エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図2】図2は、A5052アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液で化学エッチングし、水和ヒドラジン水溶液で微細エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図3】図3は、AZ31Bマグネシウム合金をクエン酸水溶液で化学エッチングし、過マンガン酸カリ水溶液で化成処理した表面の10万倍電子顕微鏡写真((a)(b)いずれも10万倍)である。
【図4】図4は、C1100銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図5】図5は、C5191リン青銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図6】図6は、「KFC」銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図7】図7は、「KLF5」銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図8】図8は、「KS40」純チタン系チタン合金を1水素2弗化アンモニウム水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図9】図9は、「KSTi−9」α−β系チタン合金を1水素2弗化アンモニウム水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図10】図10は、SUS304ステンレス鋼を硫酸水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図11】図11は、SPCC冷間圧延鋼材を硫酸水溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図12】図12は、SPHC熱間圧延鋼材を硫酸水溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図13】図13は、CFRPプリプレグを積層してCFRP板を作成するための焼成治具の断面図である。
【図14】図14は、金属合金片とCFRP片、又はCFRP片同士を接着した試験片である。
【図15】図15は、補強した金属合金片とCFRP片を接着した試験片である。
【図16】図16は、金属合金と熱硬化性エポキシ樹脂組成物が接着したときの表面構造を示す断面模式図である。
【図17】図17は、CFRP部材と金属合金の複合体、又はCFRP部材同士の接合体を作成するための焼成治具の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
[被着材としての金属合金]
本発明のCFRPプリプレグは炭素繊維とマトリックス樹脂の接着力を高めたものである。しかし、その接着力が問題となるのは、前述したようにCFRP部材と接着剤硬化物間、接着剤硬化物と被着材間の接着力が極めて高い場合である。従って、被着材がNATの3条件に適合する表面を有する金属合金であれば、CFRPプリプレグのマトリックス樹脂を改良した効果を発揮することができる。以下、被着材としての金属合金について説明する。
【0052】
(NATの条件に適合する金属合金)
前述の「NAT」に基づく表面構造を具備する金属合金としては、理論上特にその種類に制限はない。しかし、実際に「NAT」を適用できるのは、硬質で実用的な金属合金である。本発明者等は、アルミニウム、マグネシウム、銅、チタン、及び鉄を主成分とする金属合金種に関して「NAT」が適用可能であることを確認した。特許文献1にアルミニウム合金に関する記載をした。特許文献2にマグネシウム合金に関する記載をした。特許文献3に銅合金に関する記載をした。特許文献4にチタン合金に関する記載をした。特許文献5にステンレス鋼に関する記載をした。特許文献6に一般鋼材に関する記載をした。しかし、「NAT」ではアンカー効果により接着力の向上を図っているので、少なくともこれらの金属合金種に限定されるものではない。以下、金属合金表面を「NAT」の条件に適合する表面構造とするための表面処理工程について述べる。
【0053】
(化学エッチング)
この表面処理工程における化学エッチングは、金属合金表面にミクロンオーダーの粗度を生じさせることを目的とする。腐食には全面腐食、孔食、疲労腐食など種類があるが、その金属合金に対して全面腐食を生じる薬品種を選んで試行錯誤し、適当なエッチング剤を選ぶことができる。文献記録(例えば「化学工学便覧(化学工学協会編集)」)によれば、アルミニウム合金は塩基性水溶液、マグネシウム合金は酸性水溶液、ステンレス鋼や一般鋼材全般は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、これらの塩、等の水溶液で全面腐食するとの記録がある。
【0054】
又、耐食性の強い銅合金は、高濃度の硝酸水溶液や強酸性とした過酸化水素などの酸化性酸や酸化剤配合液によって全面腐食させられるし、チタン合金は蓚酸や弗化水素酸系の特殊な酸で全面腐食させられることが専門書や特許文献から散見される。実際に市場で販売されている金属合金類は、純銅系銅合金や純チタン系チタン合金のように純度が99.9%以上で合金とは言い難い物もあるが、これらも本発明の金属合金に含まれる。実際に使用されている金属合金の殆どは、特徴的な物性を求めて多種多用な元素が混合されて純金属系の物は少なく、実質的にも合金である。
【0055】
即ち、金属合金の殆どは、元々の金属物性を低下させることなく耐食性を向上させることを目的として純金属から合金化されたものである。それ故、金属合金によっては、前記酸・塩基類や特定の化学物質を使っても、目標とする化学エッチングができない場合もよくある。実際には使用する酸・塩基水溶液の濃度、液温度、浸漬時間、場合によっては添加物を工夫しつつ試行錯誤して適正な化学エッチングを行うことになる。
【0056】
化学エッチング法については、特許文献1にアルミニウム合金に関する記載、特許文献2にマグネシウム合金に関する記載、特許文献3に銅合金に関する記載、特許文献4にチタン合金に関する記載、特許文献5にステンレス鋼に関する記載、及び特許文献6に一般鋼材に関する記載をした。
【0057】
実際に行う作業として全般的に共通する点を説明する。金属合金を所定の形状に形状化した後、当該金属合金用の脱脂剤を溶かした水溶液に浸漬して脱脂し、水洗する。この工程は、金属合金を形状化する工程で付着した機械油や指脂の大部分を除くための処理であり、常に行うことが好ましい。次いで、薄く希釈した酸・塩基水溶液に浸漬して水洗するのが好ましい。これは本発明者等が予備酸洗浄や予備塩基洗浄と称している工程である。一般鋼材のように酸で腐食するような金属合金では、塩基性水溶液に浸漬し水洗する。また、アルミニウム合金のように塩基性水溶液で特に腐食が早い金属合金では、希薄酸水溶液に浸漬し水洗する。これらは、化学エッチングに使用する水溶液と逆性のものを前もって金属合金に付着(吸着)させる工程であり、その後の化学エッチングが誘導期間なしに始まることになって処理の再現性が著しく向上する。それ故にこの予備酸洗浄、予備塩基洗浄工程は本質的なものではないが、実務上、採用することが好ましい。これらの工程の後に化学エッチング工程を行う。
【0058】
(微細エッチング・表面硬化処理)
また上記表面処理工程における微細エッチングは、金属合金表面に超微細凹凸を形成することを目的とする。また本発明における表面硬化処理は、金属合金の表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とすることを目的とする。金属合金種によっては前記化学エッチングを行っただけで同時にナノオーダーの微細エッチングもなされ、超微細凹凸が形成される場合がある。さらに、金属合金種によっては表面の自然酸化層が元よりも厚くなって表面硬化処理も完了している場合もある。例えば、純チタン系のチタン合金は化学エッチングだけを行うことで、表面がミクロンオーダーの粗度を有し、且つ超微細凹凸も形成される。即ち、化学エッチングと併せて微細エッチングもなされる。しかし、多くは化学エッチングによりミクロンオーダーの大きな凹凸面を作った後で微細エッチングや表面硬化処理を行う必要がある。
【0059】
この時でも予測できない化学現象に見舞われることが多い。即ち、表面硬化処理や表面安定化処理を目的に化学エッチング後の金属合金に酸化剤等を反応させたり化成処理をしたとき、得られる表面に偶然ながら超微細凹凸が形成される場合がある。マグネシウム合金を過マンガン酸カリ系水溶液で化成処理した場合に生じた酸化マンガンとみられる表面層は10万倍電子顕微鏡でようやく判別つく5〜10nm直径の棒状結晶が錯綜したものである。この試料をXRD(X線回折計)で分析したが、酸化マンガン類由来の回折線は検出できなかったが、表面が酸化マンガンで覆われていることはXPS分析で明らかである。XRDで検出できなかった理由は、結晶が検出限界を超えた薄い層であったからである。要するに、マグネシウム合金では表面硬化処理としての化成処理を施したことで、微細エッチングも併せて完了していたことになった。
【0060】
銅合金でも同様で、塩基性下の酸化で表面を酸化第2銅に変化させる表面硬化処理を行ったところ、純銅系銅合金では、その表面は楕円形の穴開口部で覆われた特有の超微細凹凸面になる。一方、純銅系でない銅合金では凹部型でなく10〜150nm径の粒径物又は不定多角形状物が連なり、一部融け合って積み重なった形の超微細凹凸面になる。この場合でも表面の殆どは酸化第2銅で覆われており、表面の硬化と超微細凹凸の形成が同時に起こる。
【0061】
一般鋼材に関しては、更なる検証が必要ではあるものの、ミクロンオーダーの粗度を形成するための化学エッチングだけで超微細凹凸も併せて形成されていることが多く、元来表層(自然酸化層)が硬いこともあって、表面硬化処理や微細エッチング処理を改めて行わずとも、「NAT」の条件を備える場合があった。その際の問題は、自然酸化層の耐食性が十分でないために接着工程までに腐食が開始してしまうこと、また、接着後の環境如何では短時間で接着力が低下することであった。これらは化成処理によって防ぐことができる。例を挙げると、化成処理をしていない一般鋼材(SPCC:冷間圧延鋼材)同士をフェノール樹脂系接着剤で接着した接合体に関しては、4週間という短期間で接着力が急激に低下した。一方、化成処理をした一般鋼材(SPCC)同士をフェノール樹脂系接着剤で接着した接合体に関しては、同じ期間では当初の接着力から低下しなかった。
【0062】
また、本発明者らは、一般に、化成処理によって金属合金表面に形成された被膜(化成被膜)の膜厚が厚いと、接着力が低下することが多いことを確認している。前記のマグネシウム合金に付着した酸化マンガン薄層のように、XRDで回折線が検出されないような薄層である方が、強い接着力が得られる。化成被膜が厚い金属合金同士をエポキシ接着剤で接着し、破壊試験した場合、破壊面は殆どが化成皮膜と金属合金層との間となる。本発明者らが行った実験では、厚い化成皮膜とエポキシ接着剤硬化物との接合力は、その化成皮膜と金属合金との接合力より常に強かった。即ち、一般鋼材でも、化成処理時間を更に長くして化成処理層を厚くすれば、接着力は長期間低下しないと考えられる。しかしながら化成皮膜を厚くすれば、接着力自体が低下する。従って、どの程度でバランスを取るかは、使用目的、用途等にもよる。
【0063】
[染み込まし処理]
(金属合金)
NATに適合する第1の条件〜第3の条件を具備する金属合金表面に1液性エポキシ系接着剤を塗布した後、その金属合金をデシケータ等の容器に入れて密閉し、容器内を真空ポンプ等で一旦減圧し、その後に常圧に戻す操作を行う。具体的には、容器内を数十mmHg程度まで減圧して一定時間以上(概ね数秒〜数分)置き、その後空気を入れて常圧に戻す(又は数気圧以上の圧力まで加圧する)ことが好ましい。減圧状態に置く時間は、接着剤の超微細凹凸への侵入具合に応じて調整する。この減圧/常圧戻し操作を数回繰り返すのが好ましい。この減圧/常圧戻し操作に使用する容器、例えばデシケータは使用前に50〜70℃に暖めておくことが好ましい。これは塗布した接着剤の粘度を下げて表面の超微細凹凸に染み込み易くするためである。接着剤の接着剤粘度を15Pa秒以下、好ましくは10Pa秒以下とすることで超微細凹凸に侵入させる。染み込まし処理を終えた金属合金を容器から取り出して熱風乾燥機に入れ、接着剤を硬化させる。
【0064】
ここで、金属合金表面に塗布しようとする接着剤の粘度が低い(例えば10Pa秒以下である)場合には上記減圧/常圧戻し操作を行うまでもなく、接着剤が超微細凹凸に侵入する場合がある。この場合には、当然染み込まし処理は不要である。また、塗布しようとする接着剤の粘度が高くても、金属合金を暖めておくことにより、塗布後に接着剤の粘度が低下して超微細凹凸に侵入する場合がある。この場合にも染み込まし処理は不要となる。これら、接着剤塗布前における金属合金の加熱、及び染み込まし処理は、接着剤の超微細凹凸への侵入具合に応じて行えばよい。
【0065】
(CFRP部材)
粗面化したCFRP部材の所定箇所に、1液性エポキシ接着剤を塗布した後、デシケータ等の容器に入れて密閉し、容器内を真空ポンプ等で一旦減圧し、その後に常圧に戻す操作を行う。具体的には、容器内を数十mmHg程度まで減圧して一定時間以上(概ね数秒〜数分)置き、その後空気を入れて常圧に戻す(又は数気圧以上の圧力まで加圧する)ことが好ましい。減圧状態に置く時間は、接着剤の粗面化部分に係る凹凸への侵入具合に応じて調整する。この作業は、粗面化により生じたCFRP部材表面の凹凸に接着剤を侵入させることを目的とする。即ち、CFRPのマトリックス樹脂が硬化したエポキシ樹脂硬化物に、エポキシ接着剤である接着剤を染み込ませるのである。硬化剤を混入した後の接着剤の粘度が数十Pa秒以上と高い場合には、染み込まし処理に使用する容器は予め50〜70℃に加熱しておく。これによりエポキシ接着剤の粘度を15Pa秒以下、好ましくは10Pa秒以下にする。
【0066】
ここで、CFRP部材に塗布しようとする接着剤の粘度が低い(例えば15Pa秒以下である)場合には上記減圧/常圧戻し操作を行うまでもなく、接着剤が粗面化部分に係る凹凸に侵入する場合がある。この場合には、当然染み込まし処理は不要である。また、塗布しようとする接着剤の粘度が高くても、CFRP部材を暖めておくことにより、塗布後に接着剤の粘度が低下して粗面化部分の凹凸に侵入する場合がある。この場合にも染み込まし処理は不要となる。これら、接着剤塗布前におけるCFRP部材の加熱及び染み込まし処理は、接着剤の凹凸への侵入具合に応じて行えばよい。
【0067】
[実験例]
以下、本発明の実施の形態を説明する。測定等に使用した機器類は以下に示したものである。
(a)X線表面観察(XPS観察)
数μm径の表面を深さ1〜2nmまでの範囲で構成元素を観察する形式のESCA「AXIS−Nova(クレイトス(米国)/株式会社 島津製作所(日本国京都府)製)」を使用した。
(b)電子顕微鏡観察
SEM型の電子顕微鏡「S−4800(株式会社 日立製作所製)」及び「JSM−6700F(日本電子株式会社(日本国東京都)製)」を使用し1〜2KVにて観察した。
(c)走査型プローブ顕微鏡観察
「SPM−9600(株式会社 島津製作所製)」を使用した。
(d)X線回折分析(XRD分析)
「XRD−6100(株式会社 島津製作所製)」を使用した。
(e)複合体の接合強度の測定
引っ張り試験機「MODEL−1323(アイコーエンジニアリング株式会社(日本国大阪府)製)」を使用し、引っ張り速度10mm/分でせん断破断力を測定した。
次に積層材を構成する金属合金板の表面処理について説明する。
【0068】
[実験例1](アルミニウム合金(A7075)の表面処理)
市販の厚さ3mmのアルミニウム合金板材「A7075」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のA7075片を多数作成した。槽の水に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス株式会社(日本国東京都)製)」を投入して濃度7.5%の水溶液(60℃)とした。これに前記A7075片を7分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を1分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を4分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に3%濃度の硝酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記A7075片を2分浸漬し、水洗した。次いで5%濃度の過酸化水素水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を5分浸漬し、水洗した。次いで前記A7075片を、67℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0069】
上記処理をしたA7075片を電子顕微鏡観察したところ、40〜100nm径の凹部で覆われていることが分かった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図1に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。又、走査型プローブ顕微鏡にかけて粗度データを得た。これによるとRSmは3〜4μm、Rzは1〜2μmであった。
【0070】
[実験例2](A5052アルミニウム合金片の表面処理)
市販の厚さ1.6mmのアルミニウム合金板材「A5052」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のA5052片を多数作成した。槽の水に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を投入して濃度7.5%の水溶液(60℃)とした。これに前記A5052片を7分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A5052片を1分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記A5052片を2分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に3%濃度の硝酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A5052片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記A5052片を2分浸漬し、水洗した。次いで前記A5052片を、67℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0071】
上記処理をしたA5052片を電子顕微鏡観察したところ、30〜100nm径の凹部で覆われていることが分かった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図2に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。又、走査型プローブ顕微鏡にかけて粗度データを得た。これによるとRSmは1〜2μm、Rzは0.3〜0.5μmであった。
【0072】
[実験例3](AZ31Bマグネシウム合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmのマグネシウム合金板材「AZ31B」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のAZ31B片を多数作成した。槽の水に市販のマグネシウム合金用脱脂剤「クリーナー160(メルテックス株式会社製)」を投入して濃度7.5%の水溶液(65℃)とした。これに前記AZ31B片を5分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度の水和クエン酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記AZ31B片を6分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1%濃度の炭酸ナトリウムと1%濃度の炭酸水素ナトリウムを含む水溶液(65℃)を用意し、これに前記AZ31B片を5分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に15%濃度の苛性ソーダ水溶液(65℃)を用意し、これに前記AZ31B片を5分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に0.25%濃度の水和クエン酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記AZ31B片を1分浸漬して水洗した。次いで過マンガン酸カリを2%、酢酸を1%、水和酢酸ナトリウムを0.5%含む水溶液(45℃)を用意し、これに前記AZ31B片を1分浸漬し、15秒水洗した。次いで前記AZ31B片を、90℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0073】
上記処理をしたAZ31B片を電子顕微鏡観察したところ、5〜20nm径の棒状結晶が複雑に絡み合って100nm径程度の塊となり、その塊が面を作っている超微細凹凸形状で覆われている箇所があった。電子顕微鏡を10万倍として観察したときの写真を図3(a)及び(b)に示した。又、走査型プローブ顕微鏡で走査して粗度観測を行ったところRSmが2〜3μm、Rzが1〜1.5μmであった。
【0074】
[実験例4](C1100銅合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmの純銅系銅合金であるタフピッチ銅板材「C1100」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のC1100片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記C1100片を5分浸漬して水洗した。次いで1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)に前記C1100片を1分浸漬して水洗することで予備塩基洗浄した。次いで銅合金用エッチング材「CB−5002(メック株式会社(日本国兵庫県)製)」を20%、30%過酸化水素を18%含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記C1100片をを10分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記C1100片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記C1100片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬し、よく水洗した。その後、前記C1100片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0075】
上記処理をしたC1100片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは3〜7μm、Rzは3〜5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図4に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径又は長径短径の平均が10〜150nmの孔開口部又は凹部が30〜300nmの非定期な間隔で全面に存在する超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていた。
【0076】
[実験例5](C5191銅合金片の表面処理)
市販の厚さ0.8mmのリン青銅板材「C5191」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のC5191片を多数作成した。槽に市販のアルミ合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記C5191片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。続いて別の槽に銅合金用エッチング材「CB−5002」を20%分、30%過酸化水素水を18%分含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記C5191片を15分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記C5191片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記C5191片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬し、水洗した。その後、前記C5191片を、90℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0077】
上記処理をしたC5191片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.3〜0.4μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図5に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径又は長径短径の平均が10〜200nmの凸部が混ざり合って全面に存在する超微細凹凸形状であり、純銅系であるタフピッチ銅の微細構造とは全く異なった形状であった。
【0078】
[実験例6](KFC銅合金片の表面処理)
市販の厚さ0.7mmの鉄含有銅合金板材「KFC(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKFC片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記KFC片を5分浸漬し、水洗した。次いで1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)に前記KFC片を1分浸漬して水洗することで予備塩基洗浄した。次いで銅合金用エッチング材「CB5002」を20%分、30%過酸化水素水を18%分含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記KFC片を8分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記KFC片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記KFC片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬してよく水洗した。その後、前記KFC片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0079】
上記処理をしたKFC片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.3〜0.5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図6に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径又は長径短径の平均が10〜200nmの凸部が混ざり合って全面に存在する超微細凹凸形状で全面が覆われていた。
【0080】
[実験例7](KLF5銅合金の表面処理)
市販の厚さ0.7mmの特殊銅合金板材「KLF5(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKLF5片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記KLF5片を5分浸漬し、水洗した。次いで1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)に前記KLF5片を1分浸漬して水洗することで予備塩基洗浄した。次いで銅合金用エッチング材「CB5002」を20%分、30%過酸化水素水を18%分含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記KLF5片を8分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記KLF5片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記KLF5片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬してよく水洗した。その後、前記KLF5片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0081】
上記処理をしたKLF5片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.3〜0.5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図7に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径10〜20nmの粒径物及び50〜150nm径の不定多角形状物が混ざり合って積み重なった形状、言わば溶岩台地斜面ガラ場状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていた。
【0082】
[実験例8](KS40チタン合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmの純チタン型チタン合金板材「KS40(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKS40片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記KS40片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。次いで別の槽に1水素2弗化アンモニウムを40%含む万能エッチング材「KA−3(株式会社 金属化工技術研究所(日本国東京都)製)」を2%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記KS40片を3分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。次いで前記KS40片を3%濃度の硝酸水溶液に1分浸漬し、水洗した。その後、前記KS40片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0083】
上記処理をしたKS40片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.8〜1.5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図8に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。電子顕微鏡での観察から、幅と高さが10〜数百nmで長さが数百〜数μmの湾曲した連山状突起が間隔周期10〜数百nmで面上に林立している超微細凹凸形状であることが分かった。さらに、XPSによる分析から、表面には酸素とチタンが大量に観察され、少量の炭素が観察された。これらから表層は酸化チタンが主成分であることが分かり、しかも暗色であることから3価のチタンの酸化物と推定された。
【0084】
[実験例9](KSTi−9チタン合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmのα−β型チタン合金板材「KSTi−9(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKSTi−9片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記KSTi−9片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダ1.5%濃度の水溶液(40℃)を用意し、これに前記KSTi−9片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に、市販汎用エッチング試薬「KA−3」を2重量%溶解した水溶液(60℃)を用意し、これに前記KSTi−9片を3分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。このKSTi−9片には黒色のスマットが付着していたので、3%濃度の硝酸水溶液(40℃)に3分浸漬し、次いで超音波を効かしたイオン交換水に5分浸漬してスマットを落とし、再び3%硝酸水溶液に0.5分浸漬し、水洗した。次いで前記KSTi−9片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。乾燥後のKSTi−9片に金属光沢はなく暗褐色であった。
【0085】
上記処理をしたKSTi−9片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によるとRSmは4〜6μm、Rzは1〜2μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図9に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。その様子は実験例8の図8に酷似した部分に加え、表現が難しい枯葉状の部分が多く見られた。
【0086】
[実験例10](SUS304ステンレス鋼片の表面処理)
市販の厚さ1mmのステンレス鋼板材「SUS304」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のSUS304片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記SUS304片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。続いて別の槽に1水素2弗化アンモニウムを1%と98%硫酸を5%含む水溶液(65℃)を用意し、これに前記SUS304片を4分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。次いで、前記SUS304片を、3%濃度の硝酸水溶液(40℃)に3分浸漬して水洗した。次いで前記SUS304片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0087】
上記処理をしたSUS304片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によると、RSmは1〜2μmであり、Rzは0.3〜0.4μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図10に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。電子顕微鏡による観察から、表面が直径20〜70nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状、言わば溶岩台地斜面ガラ場状の超微細凹凸形状で覆われていた。更に別の1個をXPS分析にかけた。このXPS分析から、表面には酸素と鉄が大量に、又、少量のニッケル、クロム、炭素、ごく少量のモリブデン、珪素が観察された。これらから表層は金属酸化物が主成分であることが分かった。この分析パターンはエッチング前のSUS304と殆ど同じであった。
【0088】
[実験例11](SPCC鋼材片の表面処理)
市販の厚さ1.6mmの冷間圧延鋼板材「SPCC」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のSPCC片を多数作成した。槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記SPCC片を5分浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次いで別の槽に1.5%苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記SPCC片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に98%硫酸を10%含む水溶液(50℃)を用意し、これに前記SPCC片を6分浸漬し、イオン交換水で十分に水洗した。次いで前記SPCC片を、1%濃度のアンモニア水(25℃)に1分浸漬して水洗した。次いで前記SPCC片を、2%濃度の過マンガン酸カリ、1%濃度の酢酸、及び0.5%濃度の水和酢酸ナトリウムを含む水溶液(45℃)に1分浸漬して十分に水洗した。その後、前記SPCC片を、90℃とした温風乾燥機内に15分入れて乾燥した。
【0089】
上記処理をしたSPCC片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によると、RSmが1〜3μm、Rzが0.3〜1.0μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図11に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡による観察結果から、高さ及び奥行きが80〜200nmで幅が数百〜数千nmの階段が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていることが分かる。パーライト構造が剥き出しになった様子であり化成処理層はごく薄いことが分かる。
【0090】
[実験例12](SPHC鋼材片の表面処理)
市販の厚さ1.6mmの熱間圧延鋼材「SPHC」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のSPHC片を多数作成した。槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記SPHC片を5分浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次いで別の槽に1.5%苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記SPHC片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に98%硫酸を10%と1水素2弗化アンモニウム1%を含む水溶液(65℃)を用意し、これに前記SPHC片を2分浸漬し、イオン交換水で十分に水洗した。次いで前記SPHC片を、1%濃度のアンモニア水(25℃)に1分浸漬して水洗した。次いで前記SPHC片を、80%正リン酸を1.5%、亜鉛華を0.21%、珪弗化ナトリウムを0.16%、塩基性炭酸ニッケルを0.23%含む水溶液(55℃)に1分浸漬して十分に水洗した。その後、前記SPHC片を、90℃とした温風乾燥機内に15分入れて乾燥した。
【0091】
乾燥後、前記SPHC片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によると、RSmが1〜3μm、Rzが0.3〜1.0μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図12に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡による観察結果から、高さ及び奥行きが80〜500nmで幅が数百〜数万nmの階段が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていることが分かり、これもパーライト構造であった。
【0092】
[実験例13](マトリックス樹脂の作成)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体が主成分の分子量約370のエポキシ樹脂「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、固体である分子量約1650の多量体のビスフェノールA型エポキシ樹脂「JER1004(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、多官能型のフェノールノボラック型エポキシ樹脂「JER154(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、アニリン型の3官能エポキシ樹脂「JER630(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、4官能のエポキシ樹脂であるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン「JER604(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、粒径分布の中心が16μmの純アルミニウム系アルミニウム合金粉体「フィラー用アルミニウムパウダー(東洋アルミニウム株式会社製)」、エポキシ樹脂の硬化剤である微粉型ジシアンジアミド「DICY7(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレア「DCMU99(保土ヶ谷化学工業株式会社製)」、粒径分布の中心が20μmの水酸基付きPES粉体「ウルトラゾーンE2020P−SRMicro(BASF社製)」、平均粒径が8〜12μmの微粉タルク「ハイミクロンHE5(竹原化学工業株式会社(日本国兵庫県)製)」、これと同等の粒径のクレー(カオリン)「サテントン5(竹原化学工業株式会社製)」を入手した。
【0093】
「JER828」を65質量部、「JER1004」を5質量部、「JER154」を10質量部、「JER630」20質量部をビーカーに取り、160℃とした熱風乾燥機内に放置して加熱し、固体型「JER1004」を溶融すると同時によく撹拌し、全体を均一化した。その後、放冷し、エポキシ樹脂液として保管した。
【0094】
次いで乳鉢に、前記混合物100質量部、粒径分布中心が16μmのアルミニウム粉体「フィラー用アルミニウムパウダー」14質量部、粒径分布中心が8〜12μmのクレー「サテントン5」を14質量部、硬化剤としての微粉型ジシアンジアミド「DICY7」5質量部、及び硬化助剤としての「DCMU99」2.5質量部を取った。この乳鉢内容物を乳棒で15分混練した。1時間放置してから再度乳棒で数分混練した。これをポリエチ瓶に取り1日間室温下で放置してエージングし、その後5℃とした冷蔵庫に保管した。
【0095】
[実験例14](CFRPプリプレグの作成)
厚さ約0.2mmのCFクロス「TR3110M(三菱レイヨン株式会社製)」を入手し130mm×130mmに切断した。一方、シリコーン樹脂使用の離型紙を200mm×200mmに切断して木製平板の上に置き、4方をテープとピンで固定した。次いで、その中央に130mm×130mmに切断したCFクロスを敷いて、4方をテープとピンで固定した。次いで実験例13で作成したペースト状のマトリックス樹脂を、プラスチック製ヘラを使用してCFクロスの上から塗布した。マトリックス樹脂の塗布層は均一に厚くなるようにした。塗布層の上から200mm×200mmに切断した0.01mm厚のポリエチレンフィルムを被せた。そのポリエチレンフィルムの中央部に重しとなるブロックを置き、一定圧で押さえ付けた状態で中央部から端部に向かって移動させた。これにより、マトリックス樹脂がCFクロス表面に染み出し、余分なマトリックス樹脂はCFクロスの端から外部に押し出される。その後、離型紙及びポリエチレンフィルムに挟まれ、マトリックス樹脂が塗布された状態のCFクロスの端を、カッターによって切断し、110mm×110mmの正方形状のシートを作成した。同様の操作を繰り返して、110mm×110mmの正方形状のシートを多数作成した。これら正方形状のシートをデシケータに入れて密閉し、デシケータ内を真空ポンプで減圧し、5分ほどして常圧に戻した。これによって、マトリックス樹脂及びCFクロス内部の空気を抜いて、マトリックス樹脂をCFクロス全体に行き渡らせる。このようにして作成した多数のCFRPプリプレグ(離型紙及びポリエチレンフィルムに挟まれた状態)を袋に封じ、5℃とした冷蔵庫に保管した。
【0096】
[実験例15](CFRP部材の作成)
市販の厚さ0.2mmの平織型CFRPプリプレグ「パイロフィルTR3110(三菱レイヨン株式会社製)」を用意し、これから220mm×220mmの正方形片(厚さ0.2mm)を多数切り出した。図13に示す焼成治具を使用し、CFRPプリプレグの積層物からなるCFRP板を作成する。金型本体2及び金型底板5を組み合わせると、金型本体2の側壁と金型底板5の上面によって金型凹部が形成される。この金型凹部を覆うように、0.05mm厚の離型用フィルム17を敷いた。
【0097】
この離型用フィルム17の上に、切断しておいた220mm×220mmの市販のCFRPプリプレグ15枚を積層した。これらCFRPプリプレグの積層物が図中のCFRPプリプレグ積層物22として示されている。このCFRPプリプレグ積層物22を覆うように離型用フィルム14を敷いた。離型用フィルム14の上にPTFE製のブロック15を乗せ、ブロック15の上に鉄製の錘18を乗せて大型オートクレーブの中に置いた。オートクレーブの蓋を閉めて内温を約90℃とした後に真空ポンプで内圧を10mmHg以下とした。この温度で15分加熱し、その後温度を上げて135℃に達したときに空気を入れて常圧に戻した。その後、135℃で40分加熱し、その後で更に165℃まで温度を上げて、165℃前後を維持するように調節しつつ30分加熱した。その後、加熱を停止して放冷した。その後、オートクレーブを開き、焼成治具1を分解してCFRP板(CFRPプリプレグ積層物22の硬化物)を得た。このCFRP板を高圧水切断機により切断して、45mm×15mmで厚さ3mmのCFRP片を多数作成した。同様の工程を繰り返し、CFRP片を多数作成した。
【0098】
上記のようにして作成したCFRP片の表面端部から15mmを、JISR6252に規定される120番の研磨紙で10数回しっかり研磨して、粗面化した。次いで、超音波発信端を設置した槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」7.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これに超音波をかけた状態として、粗面化したCFRP片を5分浸漬した。その後、このCFRP片を水洗し、80℃にセットした熱風乾燥機に15分入れて乾燥した。このようにして得られたCFRP片はアルミ箔で包んで保管した。
【0099】
[実験例16](CFRP部材の作成)
市販の厚さ0.2mmの平織型CFRPプリプレグ「パイロフィルTR3110(三菱レイヨン株式会社製)」を用意し、これから220mm×220mmの正方形片(厚さ0.2mm)を多数切り出した。また、実験例14で作成した110mm×110mmで厚さ0.2mmのCFRPプリプレグ(本発明)を多数用意した。このとき本発明のCFRPプリプレグはカバー材(離型紙及びポリエチレンフィルム)で覆われている状態である。図13に示す焼成治具を使用し、これらCFRPプリプレグの積層物からなるCFRP板を作成する。金型本体2及び金型底板5を組み合わせると、金型本体2の側壁と金型底板5の上面によって金型凹部が形成される。この金型凹部を覆うように、0.05mm厚の離型用フィルム17を敷いた。
【0100】
この離型用フィルム17の上に、220mm×220mmに切断しておいた「パイロフィルTR3110」12枚を積層した。更に積層した「パイロフィルTR3110」上に、その形状(220mm×220mm)に合わせて本発明のCFRPプリプレグ(110mm×110mm)を4枚(2枚×2枚)敷き詰めた。この際にはCFRPプリプレグからカバー材(離型紙及びポリエチレンフィルム)を剥がして積層した。さらに、この本発明のCFRPプリプレグ4枚からなる層を、3層構造とした。即ち、本発明のCFRPプリプレグ(110mm×110mm)は、4×3=12枚使用した。これらCFRPプリプレグの積層物が図中のCFRPプリプレグ積層物22として示されている。このCFRPプリプレグ積層物22を覆うように離型用フィルム14を敷いた。
【0101】
離型用フィルム14の上にPTFE製のブロック15を乗せ、ブロック15の上に錘18を乗せて大型オートクレーブの中に置いた。オートクレーブの蓋を閉めて内温を約90℃とした後に真空ポンプで内圧を10mmHg以下とした。この温度で15分加熱し、その後温度を上げて135℃に達したときに空気を入れて常圧に戻した。その後、135℃で40分加熱し、その後で更に165℃まで温度を上げて、165℃前後を維持するように調節しつつ30分加熱した。その後、加熱を停止して24時間放冷した。その後、オートクレーブを開き、焼成治具1を分解してCFRP板(CFRPプリプレグ積層物22の硬化物)を得た。このCFRP板を高圧水切断機により切断して、45mm×15mmで厚さ3mmのCFRP片を多数作成した。同様の工程を繰り返し、CFRP片を多数作成した。このCFRP片を構成するCFRPプリプレグ層15層のうち、表層3層が本発明のCFRPプリプレグにより構成される。
【0102】
上記のようにして作成したCFRP片の表面端部から15mmを、JISR6252に規定される120番の研磨紙で10数回しっかり研磨して、粗面化した。次いで、超音波発信端を設置した槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」7.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これに超音波をかけた状態として、粗面化したCFRP片を5分浸漬した。その後、このCFRP片を水洗し、80℃にセットした熱風乾燥機に15分入れて乾燥した。このようにして得られたCFRP片はアルミ箔で包んで保管した。
【0103】
[実験例17](コボンド法によるCFRP片同士の接着)
市販の1液性エポキシ接着剤「EP106NL(セメダイン株式会社製)」を入手した。実験例15において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグのみで構成されるCFRP部材)同士をこの接着剤によって接着した。まず、双方のCFRP片の粗面化した範囲に接着剤を塗布してデシケータに入れて密閉し、デシケータ内を減圧し、減圧下に数分置いてから常圧に戻した。この減圧/常圧戻しを数回繰り返した後、双方のCFRP片をデシケータから取り出した。図14に示すように、双方のCFRP片23、24の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。接着面積(図14の斜線部分25)は0.5cm2程度となるようにした。これと同様の方法で、実験例16において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグと本発明のCFRPプリプレグで構成されるCFRP部材)同士を上記接着剤によって接着した。即ち、双方のCFRP片の粗面化した範囲に接着剤を塗布して、染み込まし処理を行い、双方のCFRP片23、24の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。
【0104】
これらを90℃にセットした熱風乾燥機に入れ、135℃に昇温して40分加熱した。その後、さらに165℃まで昇温して30分加熱した後、電源を切って放冷した。このようにして得られたCFRP片23及び24の接合体20について、3日後に試験機を使用して引っ張り破断して、せん断破断力を測定した。これらの試験は常温及び150℃において行った。その結果、実験例15で得たCFRP片同士の接合体は、常温下で46.4MPaのせん断破断力を示した。一方、実験例16で得たCFRP片同士の接合体は、常温下で56.7MPaのせん断破断力を示した。この結果から、接着範囲に本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片の方が、高い接着力を示すことが確認された。なお、150℃におけるせん断破断力は、いずれの接合体も低く、数MPaであった。
【0105】
[実験例18](接着剤1の作成)
1液性エポキシ接着剤を以下のようにして作成した。「JER828」65質量部、「JER1004」5質量部、「JER154」10質量部、「JER630」15質量部、及び「JER604」5質量部をビーカーに取り、160℃とした熱風乾燥機内に放置して加熱し、固体型「JER1004」を溶融すると同時によく撹拌し、全体を均一化した。
【0106】
次いで乳鉢に、前記エポキシ樹脂混合物100質量部、粒径分布の中心が16μmのアルミニウム粉体「フィラー用アルミニウムパウダー」14質量部、粒径分布の中心が8〜12μmのクレー「サテントン5」14質量部、硬化剤としての微粉型ジシアンジアミド「DICY7」5質量部、及び硬化助剤として「DCMU99」2.5質量部を取った。この乳鉢の内容物を乳棒で3分混練した。その後、1時間放置してから再度乳棒で数分混練した。これをポリエチ瓶に取り、5℃とした冷蔵庫に保管した。このようにして得られた1液性エポキシ接着剤を接着剤1とする。
【0107】
[実験例19](接着剤2の作成)
1液性エポキシ接着剤を以下のようにして作成した。「JER828」50質量部、「JER154」10質量部、「JER630」20質量部、及び「JER604」20質量部をビーカーに取り、160℃とした熱風乾燥機内に放置して加熱し、全体を均一化した。
【0108】
次いで乳鉢に、前記エポキシ樹脂混合物100質量部、粒径分布の中心が16μmのアルミニウム粉体「フィラー用アルミニウムパウダー」20質量部、粒径分布の中心が8〜12μmのクレー「サテントン5」20質量部、粒度分布の中心が20μmの水酸基付きPES粉体「ウルトラゾーンE2020P−SRMicro(BASF社製)」5質量部、硬化剤としての微粉型ジシアンジアミド「DICY7」5質量部、及び硬化助剤として「DCMU99」3質量部を取った。この乳鉢の内容物を乳棒で3分混練した。その後、1時間放置してから再度乳棒で数分混練した。この混合物をポリエチ瓶に取り、5℃とした冷蔵庫に保管した。
【0109】
一方、ステンレス鋼SUS304L製である粒径分布の中心が100μmのステンレス鋼粉体「DAP304L(大同特殊鋼株式会社製)」を入手し、100gをビーカーにとって、市販の中性液体洗剤「アタック(花王株式会社製)」を3質量%含む水溶液1リットルを加え、ガラス棒で1分間掻き回した後、10分放置した。その後、上記ビーカーの液体を濾過し、分離されたステンレス鋼粉体をイオン交換水を大量に使用して洗浄した。そのステンレス鋼粉体をビーカーに移し、苛性ソーダ1質量%を含む水溶液200ccを加えて軽く撹拌した後、1分間放置した。
【0110】
その後、上記ビーカーの液体を濾過し、分離されたステンレス鋼粉体をイオン交換水を大量に使用して洗浄した。そのステンレス鋼粉体をビーカーに移し、硫酸5質量%と1水素2弗化アンモニウム1質量%を含む水溶液500ccを加えて軽く撹拌した後、5分間放置した。そのビーカーの液体を濾過し、分離されたステンレス鋼粉体をイオン交換水を大量に使用して洗浄した。そのステンレス鋼粉体をビーカーに移し、硝酸3質量%を含む水溶液500ccを加えて軽く撹拌した後、5分間放置した。さらに、そのビーカーの液体を濾過し、分離されたステンレス鋼粉体をイオン交換水を大量に使用して洗浄した。これにより得られたステンレス鋼粉体を大型シャーレに移し、シャーレ全面に広げてからシャーレを傾けて下部に溜る水を濾紙等で吸い取り、100℃にセットした温風乾燥機内に30分置いて乾燥した。このようにして得られたステンレス鋼粉体を使用する。
【0111】
前述した冷蔵庫に保管していた混合物を取り出して乳鉢に入れた。その混合物中のエポキシ樹脂量100質量部に対して、ステンレス鋼粉体を5質量部、粒径が90〜106μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体を10質量部分加えて1分以上混練した。混練後の混合物を乳鉢からガラス瓶に移して蓋をした後、5℃とした冷蔵庫に保管した。ここで前述した粒径90〜106μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体は、水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂顆粒「スミカエクセル5003P(住友化学株式会社製)」を粉砕し、分級した物である。このようにして得られた1液性エポキシ接着剤を接着剤2とする。
【0112】
[実験例20](CFRP片とA7075片の接着試験)
実験例1で作成した45mm×15mmのA7075アルミニウム合金片(厚さ3mm)を多数用意し、それぞれの端部に実験例18で作成した接着剤1を塗布して染み込まし処理を行った。一方、実験例15において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグのみで構成されるCFRP部材)の粗面化範囲に接着剤1を塗布して染み込まし処理を行った。図14に示すように、A7075片とCFRP片の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。接着面積(図14の斜線部分)は0.5cm2程度となるようにした。これと同様の方法で、実験例1で作成したA7075片と実験例16において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグと本発明のCFRPプリプレグで構成されるCFRP部材)同士を接着剤1によって接着した。即ち、A7075片の端部に接着剤1を塗布して染み込まし処理を行い、一方でCFRP片の粗面化した範囲に接着剤1を塗布して染み込まし処理を行い、双方の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。
【0113】
これらを90℃にセットした熱風乾燥機に入れ、135℃に昇温して40分加熱した。その後、さらに165℃まで昇温して30分加熱した後、電源を切って放冷した。上記のようにして得られた接合体について、1週間後に試験機を使用して引っ張り破断して、せん断破断力を測定した。これらの試験は常温及び150℃において行った。その結果を表1に示す。実験例15で得たCFRP片とA7075片の複合体は、49.5MPaのせん断破断力を示した。一方、実験例16で得たCFRP片とA7075片の複合体は、56.8MPaのせん断破断力を示した。この結果から、接着範囲に本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片の方が、高い接着力を示すことが確認された。
【0114】
また、150℃においても接着範囲に本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片の方が、高い接着力を示した。なお、本実験例における接着には接着剤1を使用しているが、この接着剤1は、耐熱性を向上させるよう改良した1液性エポキシ接着剤である。150℃におけるせん断破断力は、実験例15のCFRP片を使用した場合で15.7MPa、実験例16のCFRP片を使用した場合で19.8MPaといずれも高く、1液性エポキシ接着剤の効果により耐熱性が良好であった。
【0115】
[実験例21](CFRP片とA7075片の接着試験)
実験例1で作成した45mm×15mmのA7075アルミニウム合金片(厚さ3mm)を多数用意し、それぞれの端部に実験例19で作成した接着剤2を塗布して染み込まし処理を行った。一方、実験例15において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグのみで構成されるCFRP部材)の粗面化範囲に接着剤2を塗布して染み込まし処理を行った。図14に示すように、A7075片とCFRP片の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。接着面積(図14の斜線部分)は0.5cm2程度となるようにした。これと同様の方法で、実験例1で作成したA7075片と実験例16において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグと本発明のCFRPプリプレグで構成されるCFRP部材)同士を接着剤2によって接着した。即ち、A7075片の端部に接着剤2を塗布して染み込まし処理を行い、一方でCFRP片の粗面化した範囲に接着剤2を塗布して染み込まし処理を行い、双方の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。
【0116】
これらを90℃にセットした熱風乾燥機に入れ、135℃に昇温して40分加熱した。その後、さらに165℃まで昇温して30分加熱した後、電源を切って放冷した。上記のようにして得られた接合体について、1週間後に試験機を使用して引っ張り破断して、せん断破断力を測定した。これらの試験は常温及び150℃において行った。その結果を表1に示す。実験例15で得たCFRP片とA7075片の複合体は、52.5MPaのせん断破断力を示した。一方、実験例16で得たCFRP片とA7075片の複合体は、58.8MPaのせん断破断力を示した。この結果から、接着範囲に本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片の方が、高い接着力を示すことが確認された。
【0117】
また、150℃においても接着範囲に本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片の方が、高い接着力を示した。ここで使用した接着剤2は、耐熱性を向上させるよう改良した1液性エポキシ接着剤である。150℃におけるせん断破断力は、実験例15のCFRP片を使用した場合で15.4MPa、実験例16のCFRP片を使用した場合で24.8MPaといずれも高く、1液性エポキシ接着剤の効果により耐熱性が良好であった。
【0118】
【表1】
【0119】
[実験例22〜32](CFRP片と金属合金片の接着試験)
A7075アルミニウム合金片に代えて、実験例2〜12で作成した各種金属合金片を用いて、実験例21と同様の接着実験を行った。即ち、実験例19で作成した接着剤2を使用して、実験例15で作成したCFRP片と各種金属合金片の接着実験を行い、実験例16で作成したCFRP片と各種金属合金片の接着実験を行った。その結果を表2に示す(実験22〜32)。
【0120】
ここで金属合金片の厚さが薄い場合、引っ張り破断試験の際に、曲げ応力に起因して、本来破断する時点(例えば金属合金片の厚さがA7075アルミニウム合金片の様に3mmあるときの破断時点)より前にせん断破断することになる。従って、金属合金片の厚さが薄いA5052アルミニウム合金、AZ31Bマグネシウム合金、C1100銅合金、C5191リン青銅合金、KFC銅合金、KLF5銅合金、「KS40」純チタン系チタン合金、「KSTi−9」α−β系チタン合金、及びSUS304ステンレス鋼に関しては、接着面と反対側の面に、1.6mm厚のSPCC冷間圧延鋼板片を1液性エポキシ接着剤により接着して補強した。図15に複合体30の外観を示す。各種金属合金片33とCFRP34が、接着剤塗布領域35を介して接合されている。上記金属合金33の底面側が、SPCC冷間圧延鋼板片36によって補強されている。これにより、曲げ強度が不十分であるために、せん断破断前に曲がりによる剥離破断が生じてしまうことを防止することができる。
【0121】
表2に示すように、全ての金属合金種において、市販のCFRPプリプレグのみにより構成されたCFRP片(実験例15)よりも、本発明のCFRPプリプレグにより構成されたCFRP片(実験例16)と接着させた場合に高いせん断破断力を示した。本発明のCFRPプリプレグを接着範囲に使用することで、常温下においては概ね5〜10MPa程度、150℃では概ね10〜15MPa程度の高いせん断破断力を示した。特に高温下における接着力が向上した理由は、マトリックス樹脂の耐熱性を向上させたことにある。なお、「KS40」純チタン系チタン合金、及び「KSTi−9」α−β系チタン合金に関しては、常温下におけるせん断破断力が2MPa程度しか向上していないが、これは表面形状がNATに規定する理想的な条件には合致していないからと考えられる。
【0122】
【表2】
【0123】
[実験例33](コキュア法によるCFRP片とアルミニウム合金片の接着)
(1)マトリックス樹脂の作成
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体が主成分の分子量約370のエポキシ樹脂「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、多官能型のフェノールノボラック型エポキシ樹脂「JER154(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、アニリン型の3官能エポキシ樹脂「JER630(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、4官能のエポキシ樹脂であるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン「JER604(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、粒径分布の中心が16μmの純アルミニウム系アルミニウム合金粉体「フィラー用アルミニウムパウダー(東洋アルミニウム株式会社製)」、エポキシ樹脂の硬化剤である微粉型ジシアンジアミド「DICY7(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレア「DCMU99(保土ヶ谷化学工業社製)」、粒径分布の中心が15μm径のクレー(焼成カオリン)「サテントン5(竹原化学工業株式会社製)」を入手した。
【0124】
乳鉢に「JER828」を50質量部、「JER154」を10質量部、「JER630」20質量部、「JER604」20質量部を取りエポキシ樹脂混合物100質量部とした。ここへ前記のアルミニウム粉体「フィラー用アルミニウムパウダー」15質量部、前記のクレー「サテントン5」を15質量部、硬化剤としての「DICY7」5質量部、及び硬化助剤としての「DCMU99」3質量部を取った。この乳鉢内容物を乳棒で3分混練した。1時間放置してから再度乳棒で1分混練した。このペースト状物をポリエチ瓶に取り5℃とした冷蔵庫に保管した。
【0125】
(2)CFRPプリプレグの作成
引っ張り強度4.4GPaの炭素繊維「パイロフィルTR30S(三菱レイヨン株式会社製)」を使用した厚さ約0.23mmの平織りCFクロス「パイロフィル3110M(三菱レイヨン株式会社製)」を入手し130mm四方に裁断した。シリコーン樹脂使用の離型紙を200mm四方に切って木製平板の上に置き、4方をテープとピンで固定した。次いでその中央に上記CFクロスを敷いて、これもテープとピンで固定した。次いで前記(1)で作成したペースト状のマトリックス樹脂を、プラスチック製ヘラを使用してCFクロスの上からやや厚く均一になるように塗り広めた。塗布面上に200mm×200mmに切った0.01mm厚のポリエチレンフィルムを被せた。そのポリエチレンフィルムの中央部に重しとなるブロックを置き、一定圧で押さえ付けた状態で中央部から端部に向かって移動させた。これにより、マトリックス樹脂がCFクロス表面に染み出し、余分なマトリックス樹脂はCFクロスの端から外部に押し出される。その後、離型紙及びポリエチレンフィルムに挟まれ、マトリックス樹脂が塗布された状態のCFクロスの端を、カッターによって切断し、110mm×110mmの正方形状のシートを作成した。同様の操作を繰り返して、110mm×110mmの正方形状のシートを多数作成した。これら正方形状のシートをデシケータに入れて密閉し、デシケータ内を真空ポンプで減圧し、5分ほどして常圧に戻した。これによって、マトリックス樹脂及びCFクロス内部の空気を抜いて、マトリックス樹脂をCFクロス全体に行き渡らせる。このようにして作成した多数のCFRPプリプレグ(離型紙及びポリエチレンフィルムに挟まれた状態)を袋に封じ、5℃とした冷蔵庫に保管した。
【0126】
(3)コキュア接着
図17に示す焼成治具1を用いてCFRP片とアルミニウム合金片をコキュア法で接着した接合体を作成する。金型本体2及び金型底板5を組み合わせると、金型本体2の側壁と金型底板5の上面によって金型凹部が形成される。この金型凹部を覆うように、0.05mm厚の離型用フィルム17を敷いた。この離型用フィルム17の上に、実験例1で得た45mm×18mm×3mm厚の表面処理済みA7075アルミニウム合金片11を置いた。このアルミニウム合金片11と金型本体2の側壁の空隙をポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、「PTFE」という。)製のスペーサ16で埋めた。
【0127】
次いで(2)で作成したCFRPプリプレグを42mm×15mmの小片(プリプレグ片)に裁断し、各プリプレグ片から離型紙とポリエチレンフィルムを除去した。次いで、A7075アルミニウム合金片11及びスペーサ16の上面に、プリプレグ片を13枚積層した。これらプリプレグ片13枚の積層物が図中のプリプレグ片積層物12として示されている。ここで、図17に示すプリプレグ片積層物12の最下層となるプリプレグ片の底面の左端部分が、A7075アルミニウム合金片11上面と接触している。この接着面積は約0.6cm2(15mm×4mm)である。このプリプレグ片積層物12と金型本体2の側壁の空隙を埋めるためにPTFE製のスペーサ13を設置し、これらを覆うように離型用フィルム14を敷いた。
【0128】
離型用フィルム14の上にPTFE製のブロック15を乗せ、ブロック15の上に鉄製の5kgの錘18を乗せて大型オートクレーブの中に置いた。オートクレーブの蓋を閉めて昇温を開始し、真空ポンプで内圧を減圧して15mmHg以下とした。金型本体2の温度が90℃に達したときに空気を入れて常圧に戻した。その後、昇温して135℃で1時間加熱し、その後更に165℃まで温度を上げて、165℃前後を維持するように調節しつつ20分加熱した。その後、加熱を停止してオートクレーブを開いた。温度が100℃まで低下した後、焼成治具1を取り出し、その30分後に分解してA7075アルミニウム合金片11とCFRP片12(プリプレグ片積層物12の硬化物)との接合体を得た。この接合体の作成においては、1液性エポキシ接着剤を使用していない。接着に供されているのはCFRPプリプレグのマトリックス樹脂による。
【0129】
上記のようにして得られたアルミニウム合金片とCFRP片の接合体について、1週間後に試験機を使用して引っ張り破断試験を行い、せん断破断力を測定した。これらの試験は常温、及び150℃において行った。その結果、せん断破断力(3対の平均)は、常温下で55.3MPa、150℃下では32.3MPaであった。常温下のせん断破断力は特に高いとはいえないが、150℃下のせん断破断力は極めて高く、従来のCFRPプリプレグでは得られなかったレベルである。この数値は、NATによりA7075アルミニウム合金片同士を接着したときの数値に近い。これは耐熱接着性に優れたマトリックス樹脂を使用したことと、引っ張り強度が中レベルの炭素繊維を使用したことによるとみられる。
【符号の説明】
【0130】
22…CFRP板
23…CFRP片
24…CFRP片
30…複合体
33…金属合金片
34…CFRP片
35…接着剤塗布領域
36…SPCC冷間圧延鋼板片
40…金属合金
41…セラミック質層
42…接着剤硬化物層
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送機器、電気機器、医療機器等の製造分野全般において使用されるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)に関する。具体的には、マトリックス樹脂を改良したCFRPプリプレグ、及びそのCFRPプリプレグと被着材(CFRP又は金属合金等)を接合した接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、金属合金同士、又は金属合金とCFRPをエポキシ接着剤により強固に接着する技術を開発した。特許文献1には、アルミニウム合金同士、又はアルミニウム合金とCFRPとを1液性エポキシ接着剤を使用して強固に接着する技術を開示している。同様に、特許文献2、3、4、5、及び6には、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び一般鋼材を、それぞれ金属合金又はCFRP部材と1液性エポキシ接着剤を使用して強固に接着する技術を開示している。
【0003】
ここで、上記技術においては金属合金表面を所定の形状、構造とすることで、アンカー効果によって接着力を獲得していた。本発明者らは、この理論を「NAT(Nano Adhesion Technologyの略)」と称している。NATでは、金属合金表面が以下に示す3条件を具備することで、被着材との強固な接着を達成することとしている。
【0004】
(1)第1の条件は、最新型のダイナミックモード型の走査型プローブ顕微鏡で金属合金表面を走査したときに、RSmが0.8〜10μmであり、Rzが0.2〜5μmである粗度面となっていることである。ここでRSmは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される輪郭曲線要素の平均長さであり、Rzは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される最大高さである。この粗度面を「ミクロンオーダーの粗度を有する表面」と称す。
(2)第2の条件は、上記ミクロンオーダーの粗度を有する金属合金表面に、さらに5nm周期以上の超微細凹凸が形成されていることである。当該条件を具備するために、上記金属合金表面に微細エッチングを行い、前述のミクロンオーダーの粗度をなす凹部内壁面に5〜500nm、好ましくは10〜300nm、より好ましくは30〜100nm(最適値は50〜70nm)周期の超微細凹凸を形成する。
(3)第3の条件は、上記金属合金の表層がセラミック質であることである。具体的には、元来耐食性のある金属合金種に関しては、その表層が自然酸化層レベルかそれ以上の厚さの金属酸化物層であることを要し、耐食性が比較的低い金属合金種(例えばマグネシウム合金や一般鋼材等)では、その表層が化成処理等によって生成した金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であることが第3の条件となる。
【0005】
これらを模式的に図にすると図16のようになる。金属合金40の表面にはミクロンオーダーの粗度を成している凹部(C)が形成され、さらにその凹部内壁には超微細凹凸(A)が形成され、表層はセラミック質層41となっており、この超微細凹凸に接着剤硬化物層42の一部が浸入している。このようにした金属合金表面に液状の接着剤が侵入し、侵入後に硬化すると、金属合金と硬化した接着剤は非常に強固に接合するという簡潔な考え方である。
【0006】
接着剤接合の手順を以下に示す。まず、金属合金表面をエッチングし、上記3条件を満たすようにする。そして、液状の1液性エポキシ接着剤をその金属合金の所定範囲に塗布し、デシケータに入れて一旦真空下に置き、その後常圧に戻すなどして金属合金表面の超微細凹凸に接着剤を侵入させる。即ち、金属合金表面に接着剤を充分に染み込ませる。その後、前記所定範囲に被着材を貼り合わせ、加熱して接着剤を硬化させる。
【0007】
こうした場合、エポキシ接着剤が液体であれば、その粘度が高くとも、金属合金表面のミクロンオーダーの粗度に係る凹部(前記第1条件における凹凸の凹部)内に侵入可能である。そして侵入したエポキシ接着剤は、その後の加熱でこの凹部内で硬化することになる。実際には、この凹部の内壁面には超微細凹凸がさらに形成されており(前記の第2条件)、且つこの超微細凹凸は、セラミック質の高硬度の薄膜(前記の第3条件)で覆われていることから、凹部内部に侵入して固化したエポキシ樹脂は、スパイクのような超微細凹凸に掴まって抜け難くなる。
【0008】
本発明者らは、「NAT」によって、金属合金同士、又は金属合金とCFRP(carbon fiber reinforced plasticsの略)との高強度の接着が可能であることを実証した。一例として、「NAT」の条件を具備するA7075アルミニウム合金同士を、市販の1液性エポキシ接着剤を使用して接着した結果、70MPaもの強烈なせん断破断力、引っ張り破断力を示す接合体を得ることができた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 2008/114669 A1(アルミニウム合金)
【特許文献2】WO 2008/133096 A1(マグネシウム合金)
【特許文献3】WO 2008/126812 A1(銅合金)
【特許文献4】WO 2008/133030 A1(チタン合金)
【特許文献5】WO 2008/133296 A1(ステンレス鋼)
【特許文献6】WO 2008/146833 A1(一般鋼材)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「高性能を生む接着剤えらび」前田勝啓著,p51,平成4年3月1日初版第7刷(技術評論社)
【非特許文献2】スリーボンド・テクニカルニュース19(昭和62年10月1日発行,株式会社スリーボンド)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、前述したように市販の1液性エポキシ接着剤を使用し、「NAT」に基づいて、金属合金同士又は金属合金とCFRPを接着接合する実験を行ったが、金属合金とCFRPの接着に関しては、金属合金同士を接着した場合と比較して、せん断破断力及び引っ張り破断力が低下する傾向にあった。金属合金とCFRPの強固な接着は、航空機や船舶等の様々な分野で待望されている。しかしながら、金属合金とCFRPを1液性エポキシ接着剤で接着した場合に、金属合金同士の接着と同等の接着力を安定的に得ることができなかった。具体的に言えば、金属合金とCFRPを接着した複合体は、せん断破断力及び引っ張り破断力の複合体間のばらつきが大きく、実用性に問題があった。接着剤を改良することで、複合体間の接着力のばらつきを幾分小さくすることは可能であったが、根本的な解決には至らなかった。また、このばらつきを小さくしようとすると接着力自体が低下するという問題も生じた。
【0012】
本発明者らが、金属合金同士の接着力と比較してCFRPと金属合金の接着力が劣る要因を調査した結果、以下の事実が明らかになった。端的に述べると、CFRPと金属合金の複合体が破断する要因はCFRP中の炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力にあることが判明した。CFRPと金属合金の複合体を引っ張り破断した後、その金属合金の破断面を拡大観察したところ、その全てについて炭素繊維が多く付着していた。即ち、硬化したCFRPプリプレグ表層における硬化したマトリックス樹脂と硬化した接着剤の間の接着力が、硬化したCFRPプリプレグ内部における硬化したマトリックス樹脂と炭素繊維の間の接着力を超えていたのである。これにより、破断時は、硬化したマトリックス樹脂と炭素繊維の間で先に剥離が生じ、これが低い接着力として現れていた。言い換えると、金属合金表面と接着剤硬化物間、及び接着剤硬化物とマトリックス樹脂硬化物間の相互間の接着力は極めて高く、且つ接着剤硬化物自体も極めて強固であるため、金属合金とCFRPの接着力を決定する要因は、炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力にある。
【0013】
このことから、炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力の向上が、金属合金とCFRPとの接着力向上に直接的に寄与すると推定される。本発明は、このような背景のもとになされたものであり、その目的は、炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力を向上させたCFRPプリプレグを提供すること、また、そのCFRPプリプレグと被着材(CFRP又は金属合金)が強固に接合された接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
CFRPは超軽量ながら鋼を超える強靭さを有し、極めて優れた構造材料として認められている。高価であるため当初は戦闘機用構造材として使用されるに留まっていたが、近年は航空機、ゴルフクラブ、テニスラケット、釣竿等の民生品にも使用されており、一般的な構造材料として認識されつつある。このような事情もあり、CFRPプリプレグの炭素繊維、炭素繊維の表面処理方法、及びマトリックス樹脂等に関する技術は確立されている。しかしながら、上述したように本発明者らが「NAT」を開発した結果、金属合金と1液性エポキシ接着剤、当該1液性エポキシ接着剤とCFRPとの強固な接着が可能となり、その結果として、CFRPプリプレグにおける炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力が問題化した。
【0015】
炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力を向上させるための手法として(1)最適な炭素繊維の選択(繊維強度ではなく表面性に着目する)、(2)炭素繊維の表面処理方法の改良、及び(3)マトリックス樹脂の改良が考えられる。ここで(1)及び(2)に関しては炭素繊維メーカーでなければ困難であるものの、(3)は炭素繊維メーカー以外でも可能である。近年は、表面処理が施された炭素繊維束又は炭素繊維織物が市場に流通している。本発明ではCFRPプリプレグに使用するマトリックス樹脂を改良することによって、当該マトリックス樹脂と炭素繊維との接着力を向上させた。以下、本発明のCFRPプリプレグの特徴について、通常のCFRPプリプレグと比較して説明する。
【0016】
[CFRPプリプレグ]
30年以上前の資料ではCFRPはACM(Advanced composite materialの略)と言われ、そのプリプレグは炭素繊維織物に1液性エポキシ接着剤を染み込ましたものであった。即ち、離型紙の上に炭素繊維布を敷き、そこへ粘性液体である1液性エポキシ接着剤を塗布し、炭素繊維布全体に浸透させて、これにポリエチレン製フィルムを被せてプリプレグとしていた。このプリプレグはマトリックス樹脂(ここでは1液性エポキシ接着剤)が染込んだ炭素繊維束や炭素繊維布であり、表面は粘着性を有する。それ故、運搬や保管に不便であるため、離型紙又はポリエチレンフィルムをカバー材として使用している。使用時には、カバー材で挟んだ状態のシート状プリプレグを鋏で切断し、その後にカバー材を剥がし、成形治具上にプリプレグを積層して焼成していた。
【0017】
現在ではマトリックス樹脂中のエポキシ樹脂及び硬化剤が改良され、マトリックス樹脂は常温で固体又は高粘度の熱硬化性エポキシ樹脂組成物となっている。従って、CFRPプリプレグの加工は容易にできる。現在市販されているCFRPプリプレグの組成、特に、マトリックス樹脂の具体的な組成はメーカーの重要機密であり非公開なので詳細は不明であるが、概ね以下の組成を基本としている。マトリックス樹脂となるエポキシ樹脂は、その主成分がビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体型であり、その他にビスフェノールA型エポキシ樹脂の多量体型、及び、3個以上のエポキシ基を有する多官能型エポキシ樹脂を含む3〜5種類程度の異なったエポキシ樹脂同士の混合物となっている。この混合物に硬化剤として芳香族ジアミン又はジシアンジアミドを加え、加熱しつつ混練したものをマトリックス樹脂としている。
【0018】
硬化剤を芳香族ジアミンとすると、エポキシ樹脂硬化物のTg(ガラス転移点)を150〜190℃と高くすることができ、CFRPの耐熱性を確保できる(非特許文献1)。芳香族ジアミンの添加量はエポキシ当量に基づいた値が最適であり、通常、エポキシ樹脂100質量部に対して25〜35質量部となる。硬化剤として最もよく使用される芳香族ジアミンはジアミノジフェニルスルホン(「DDS」という)であり、これは固体である。エポキシ樹脂混合物は高粘度の液体であり、これに混合する硬化剤は固体であって、かつ、その添加量が上述したように多い。それ故、エポキシ樹脂混合物を60〜80℃に加熱した状態で硬化剤との混合操作を行うことになる。具体的には加熱ロールによって両者が混練されてシート状のマトリックス樹脂となる。即ち、混練物は常温で固体となる。このシート化されたマトリックス樹脂2枚によって、炭素繊維束又は炭素繊維布を挟み込み、再び加熱しつつロールにかけて1層物にしたものがCFRPプリプレグとなる。この方法によるCFRPプリプレグは全体として硬く薄いシート状物であり、マトリックス樹脂が固体となっているのでカバー材は原則必要なく、これを切断する際に自動制御されたカッターが使用できる。
【0019】
一方、硬化剤をジシアンジアミドとした場合、そのエポキシ樹脂硬化物のTgはエポキシ樹脂組成によって変化する(非特許文献2)。この非特許文献2には「エポキシ樹脂間の重合について、硬化剤として脂肪族ポリアミン又は芳香族ジアミンを使用した場合と、ジシアンジアミドを硬化剤とした場合とで異なり、ジシアンジアミドの場合は付加重合だけでなく触媒的重合も生じている」とある。その根拠として、ジシアンジアミド粉体を硬化剤として用いた場合、最適の添加量はエポキシ当量に基づく値より遥かに少なく、エポキシ樹脂100質量部に対し3〜8質量部となる。それ故、ジシアンジアミドを硬化剤とした場合、マトリックス樹脂は、硬化剤添加前のエポキシ樹脂混合物より若干の粘度上昇が生じるに過ぎず、常温では固体とならずに通常は高粘度液状物となる。
【0020】
それ故、CFRPプリプレグの製造方法は前述した旧式の方法となる。CFRPプリプレグの両面を離型紙又はポリオレフィンフィルムで挟み込んで製品化している。このCFRPプリプレグの切断には鋏やカッターを使用できる。CFRPプリプレグからCFRP部材を作成する際は、CFRPプリプレグを切断して多数のプリプレグ片を作成する。このプリプレグ片を治具内に積層して全体を締め付けた状態とし、その治具をオートクレーブに入れて真空にしつつ加熱する。または、その治具を耐熱バッグに入れて真空にし、真空にしたまま熱風乾燥機、加熱プレス、又はオートクレーブに入れて加熱する。マトリックス樹脂が加熱されて80〜90℃になると、一端溶融して高粘度液状物となる。従って、この温度で減圧することでCFRPプリプレグ間及びCFRPプリプレグ中の空気を抜くことが出来る。その後、さらに昇温しつつオートクレーブ内を加圧状態にすることが好ましい。このようにすることで、CFRPプリプレグ間やCFRPプリプレグ中の空気が抜けたあとのボイドは潰され、マトリックス樹脂中の気泡を排除して完全硬化させることが可能となる。加熱温度は140〜180℃とし、この温度で1〜2時間加熱することが好ましい。
【0021】
[マトリックス樹脂の改良]
本発明の目的は硬化したマトリックス樹脂と炭素繊維の間の接着力を向上することにある。本発明者らは前述したNATに適した1液性エポキシ接着剤を開発する過程において、この1液性エポキシ接着剤の組成をCFRPプリプレグのマトリックス樹脂に応用することを検討した。本発明者らは、NATにおける3条件を具備する金属合金同士を1液性エポキシ接着剤によって接着させ、その接着力を測定する実験を行った。このとき明らかになったことは、エポキシ接着剤による金属合金同士の接着力は、金属合金の表面形状、即ち、物理的要因で決定されるということである。言い換えると、金属合金全般に対して化学的な要因、即ち接着剤の濡れ性は好ましかった。これらの金属合金の表層は金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であるから、エポキシ樹脂は含酸素基やイオン性を有する基との親和性が良いと推定される。
【0022】
一方、炭素のみからなるカーボンナノチューブは親油性であるから、炭素繊維も同様の親油性表面を有し、表面に含酸素基は少ないと推定される。それ故に炭素繊維自体はエポキシ樹脂との濡れ性は良くないと推定される。このような問題に対して、(1)炭素繊維に表面処理を施し、繊維表面を酸化させてカルボン酸基又は水酸基等を当該繊維表面に付けることでエポキシ樹脂との親和性を高めるという手段が考えられる。即ち、親和点濃度の向上である。この他にも、(2)炭素繊維表面に凹凸が存在する低級炭素繊維を敢えて選択することで、マトリックス樹脂との接着性を向上させるという方法がある。但し、この方法では炭素繊維自体の繊維強度が低下するという問題がある。その他、(3)マトリックス樹脂中のエポキシ基濃度を向上させる方法も考えられる。
【0023】
上記(1)及び(2)に関しては、炭素繊維メーカーでないと詳細な検討が困難である。本発明者らは(3)に関して検討した。(3)を達成するために、エポキシ樹脂の平均エポキシ当量を低下させることを試みた。そのためにエポキシ樹脂中のビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体型の比率を高め、エポキシ当量の小さい多官能型のエポキシ樹脂の比率を高めた。さらに、硬化剤の含量が少なくて済むように、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を使用した。ジシアンジアミド粉体を使用した場合、その接着性能が最高になる添加量はエポキシ樹脂100質量部に対して3〜8質量部に過ぎず、エポキシ当量に基づいて算出される15〜30質量部と大きく異なる。要するに、マトリックス樹脂の硬化剤に芳香族ジアミンでなくジシアンジアミド粉体を使用することで、マトリックス樹脂中の硬化剤の比率を減らし、マトリックス樹脂中のエポキシ基濃度を高めることが出来る。
【0024】
本発明に係るマトリックス樹脂の組成は以下の通りである。このマトリックス樹脂を構成する全エポキシ樹脂混合物を100質量部としたときに、(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とするビスフェノールA型エポキシ樹脂を45〜75質量部、(2)エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ樹脂を55〜25質量部混合したものである。(2)としては、エポキシ当量180以下のものが好ましく、フェノールノボラック型エポキシ樹脂「JER154(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、アニリンに3つのエポキシ基が付いたアニリン型エポキシ樹脂「JER630(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(略号でTGDDM)「JER604(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」等を使用できる。このエポキシ樹脂混合物100質量部に対して、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を3〜8質量部添加し、更に硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを1〜4質量部添加した。
【0025】
本発明は、マトリックス樹脂中の基本組成、即ち、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量に含まれるエポキシ基含量を相対的に増やすことで、マトリックス樹脂硬化後の炭素繊維とマトリックス樹脂との接着力を向上せんとするものである。それ故、エポキシ樹脂の全量を分子量の小さいビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体にした場合でもその効果を得ることが出来る。しかしながら、エポキシ樹脂分をビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体のみとした場合、常温下におけるマトリックス樹脂と炭素繊維の接着力は高いが、CFRP部材の耐熱性(硬化したマトリックス樹脂の耐熱性)が低く、高温下(150℃)における接着力は極めて低くなってしまうという問題がある。それ故、マトリックス樹脂硬化物に耐熱性を備えさせるべく、(2)芳香環を有し且つエポキシ基を3個以上有する多官能型エポキシ樹脂を55〜25質量部混合している。また、マトリックス樹脂硬化物の迅性を向上させるべく、(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂中に分子量の大きいビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーを0〜15質量部混合するようにしたものである。
【0026】
ここで(2)多官能型エポキシ樹脂55〜25質量部中には、分子量300以下のエポキシ樹脂が十分含まれることが重要である。即ち、この多官能型エポキシ樹脂中の70〜100質量%を分子量300以下のもので構成することが好ましい。このような多官能型エポキシ樹脂を混合することによって、マトリックス樹脂硬化物の硬度を向上させ、高い耐熱性を確保することができた。
【0027】
本発明者らは、以下のエポキシ樹脂を混合してマトリックス樹脂のエポキシ樹脂分を作成した。
(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とするビスフェノールA型エポキシ樹脂(以下の2つの混合物)
(1−1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体
「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
粘度:25℃で120〜150P(常温で液状)
エポキシ当量:184〜194
分子量:約370
(1−2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマー
「JER1004(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
粘度:25℃でQ〜U(ガードナーホルト粘度)
エポキシ当量:875〜975
分子量:約1650
(2)芳香環を有し且つエポキシ基を3個以上有する多官能型エポキシ樹脂(以下の2つの混合物)
(2−1)フェノールノボラック型エポキシ樹脂
「JER154(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
粘度:52℃で350〜650P(常温で固形)
エポキシ当量:176〜180
(2−2)アニリンに3つのエポキシ基が付いたアニリン型エポキシ樹脂
「JER630(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
粘度:25℃で5〜10P(常温で液状)
エポキシ当量:90〜105
【0028】
ここで、上記(2)としては、次の(2−3)を使用することもできる。
(2−3)4官能のエポキシ樹脂であるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
「JER604(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
粘度:25℃で50〜100P(常温で高粘度液体)
エポキシ当量:110〜130
【0029】
上記エポキシ樹脂の混合物に無機充填材を混合させて粘度を調整したものをマトリックス樹脂とした。無機充填材として使用するのはタルク又はクレー等の鉱物質充填材に限られない。本発明においては無機充填材としてアルミニウム粉末を使用したときに、マトリックス樹脂と炭素繊維との接着力を向上させることができた。本発明では充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるアルミニウム粉体を10〜30質量部と、粒径分布の中心が10〜30μmのクレーを0〜30質量部(好ましくは10〜25質量部)併用する。これらを十分に混練してマトリックス樹脂とする。
【0030】
このようにして得られるマトリックス樹脂は高粘度の液状、所謂ペースト状となり、高性能接着剤の組成に近いものとなる。このマトリックス樹脂には、さらに、耐衝撃性を高めることを目的としてCFRPプリプレグで使用されている水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体も添加することも可能である。粒径分布の中心が10〜30μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体を全エポキシ樹脂100質量部に対し0〜30質量部加えてもCFRPプリプレグの硬化性能、接着性能に影響はなかった。ポリエーテルスルホン樹脂(以下、「PES」という)は融点300℃以上の熱可塑性樹脂であり、常温から150℃程度までであれば十分に硬いが、非常な力がかかった時にはクリープして変形するのでCFRP部材に耐衝撃性を与える。
【0031】
このようにして作成したマトリックス樹脂と市販の炭素繊維を組み合わせてCFRPプリプレグを作成した。このCFRPプリプレグを積層してCFRP部材を作成し、被着材と接着させて接合体の接着力を測定した。その結果、市販のCFRPプリプレグと比較して接着力が著しく改善した。
【0032】
(CFRPプリプレグの作成方法)
市販の表面処理済み炭素繊維織物(以下「CFクロス」という)を用意する。このCFクロスより一回り大きいシリコーン樹脂使用の離型紙とポリエチレンフィルムを用意する。離型紙上にCFクロスを拡げて端部をテープ又はピンで固定し、このCFクロスに上記マトリックス樹脂を塗布する。このマトリックス樹脂はペースト状であり、塗布量はやや多めでよい。塗布後に塗布面をポリエチレンフィルムで覆い、軽く中央から端部に向かって押付けて空気を抜く。そして再度、中央から端部に向かって押付けて余剰のマトリックス樹脂を押し出す。これにより、離型紙、CFRPプリプレグ、ポリエチレンフィルムの3層構造のシート状物が完成する。このシート状物の周囲を切断して端を揃える。得られたシート状物はポリエチレン製の袋に入れて封じ、5℃以下にした冷蔵庫に保管した。使用時には冷蔵庫から出して1時間程度常温で放置し、袋から出して必要な大きさに切断した後、カバー材(離型紙及びポリエチレンフィルム)を剥がして積層して使用する。
【0033】
[コボンド法による接合体の作成]
コボンド法によるCFRP部材と被着材の接合体の作成方法について説明する。CFRPプリプレグの積層物を治具で固定し、オートクレーブに入れて減圧下で昇温し、90℃程度まで積層物の温度が上がった後に常圧に戻し、更には数気圧の加圧状態にする。CFRPプリプレグは90℃前後で一旦軟化するので、この時点でCFRPプリプレグの層間に挟まれていた空気が抜ける。次いで加圧されることで、空気が抜けたあとの空隙が潰される。更に積層物を硬化温度まで昇温して完全硬化させ、加熱を止めてオートクレーブから積層物を取り出す。この積層物をCFRP部材とする。又は、必要に応じて積層物を高圧水切断機で切断加工して形状化したものをCFRP部材とする。このCFRP部材と被着材(CFRP部材又は金属合金)を接着剤によって接着することで接合体を作成する。
【0034】
[コキュア法による接合体の作成]
一方、コキュア法による接合体の作成においては、既硬化のCFRP部材を被着材と接着させるのではなく、未硬化のCFRPプリプレグと被着材を抱き合わせた状態で加熱し、一体化する。例えば、未硬化のCFRPプリプレグの積層物同士を一体化する場合、CFRPプリプレグ積層物同士の所定範囲を密着させた状態で治具を使用して固定する。そして、治具によって固定した状態でオートクレーブに入れて全体を硬化させる方法がある。これがコキュア法によるCFRP(未硬化のCFRPプリプレグの積層物)同士の接着法である。ここで、未硬化のCFRPプリプレグの積層物同士をエポキシ接着剤を介して接着させるようにしても良い。即ち上記所定範囲にエポキシ接着剤を塗布しておき、オートクレーブ内でCFRPプリプレグのマトリックス樹脂とエポキシ接着剤を一時に硬化させる。これもコキュア法による接着である。CFRPプリプレグ積層物同士の接触面に対して上下から締め付ける力を加えることが困難な場合等には、エポキシ接着剤を使用することが好ましい。
【0035】
また未硬化のCFRPプリプレグの積層物と金属合金とを接着させる場合には、先だって金属合金表面の接着領域にエポキシ接着剤を塗布した後、後述する染み込まし処理を行う。その後、その金属合金と未硬化のCFRPプリプレグの積層物とを密着させ、治具によって固定する。これをオートクレーブに入れて加熱し、CFRPプリプレグのマトリックス樹脂とエポキシ接着剤を一時に硬化させる。これもコキュア法による接着である。
【0036】
[CFRP部材の粗面化]
CFRP部材を被着材と接着させる場合、CFRP部材表面を粗面化することで安定した接着力が得られる。この表面の研磨は研磨紙によって可能であり、本発明者らが試行錯誤を行った結果、JISR6252に規定される80番〜480番、好ましくは120番〜240番のやや目の粗い研磨紙でCFRP部材表面を10〜20回程度研磨したものが、安定的に高い接着力を発揮する被着材となった。粗面化後の表面に付着した汚れ(微粉)を除去するため、CFRP部材を洗剤を含む水溶液に浸漬した後、乾燥する。または、強い水流で粗面化した部分の汚れを取り去り、水道水又は純水に漬けて水洗し、乾燥しても良い。後述する実験例では研磨紙を使用したが、研磨用部材は研磨紙に限らない。量産工程では研磨紙に代えてサンドブラストを使用することが可能である。
【0037】
CFRP部材表面から炭素繊維の一部が剥き出しとなる程度の粗面化が好ましい。概して炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性よりも、炭素繊維と1液性エポキシ接着剤の接着性が優れているからである。市販の1液性エポキシ接着剤を使用した場合、常温下では炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性よりも、炭素繊維と1液性エポキシ接着剤の接着性が優れている。しかし、100℃以上の高温下においては市販の1液性エポキシ接着剤と炭素繊維との接着力が急激に低下して、この1液性エポキシ接着剤と炭素繊維との間で破断が生じる。即ち、高温下においては、本発明で使用するCFRPプリプレグにおける炭素繊維とマトリックス樹脂との接着力ではなく、炭素繊維と1液性エポキシ接着剤の接着力の低下によって破断に至るのである。
【0038】
この結果に基づけば、高温下における炭素繊維と1液性エポキシ接着剤との接着力を向上させることが可能であれば、常温から高温にかけてCFRP部材と被着材とが極めて強固に接着された接合体を得ることができることになる。即ち、常温下においては、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着力が問題となるので、マトリックス樹脂を改良することによって両者の接着力を向上させる。一方で、高温下においては、炭素繊維と1液性エポキシ接着剤との接着力が問題となるので、1液性エポキシ接着剤の改良によってこの接着力を向上させることを試みた。本発明者らが開発した耐熱型1液性エポキシ接着剤を使用した場合、高温においてCFRP部材と被着材とが極めて強固に接着された接合体を得ることができる。これは、剥き出しになった炭素繊維の周囲を改良した1液性エポキシ接着剤が覆うことになるからである。この接着剤に関して以下に説明する。
【0039】
[使用する接着剤]
本発明者らはNATを適用した接着において、主として1液性熱硬化型接着剤を使用した。主液と硬化剤を混合して接着剤を作成し、混合後の数分〜1時間以内に塗布して常温で硬化させる2液性接着剤であっても金属合金とCFRPの接着自体は可能である。しかしながら、接着力は1液性熱硬化型接着剤に及ばない。これはNATにおいては接着剤が金属合金表面のミクロンオーダーの粗度をなす凹部に侵入し、さらにその凹部内壁面にある超微細凹凸にまで侵入した後に硬化することによって強固な接着を可能としているからである。例えば2液性エポキシ樹脂接着剤等の2液性接着剤では、主液と硬化剤を混合した直後から高分子化・ゲル化が開始されるので、分子径が大きくなり過ぎて超微細凹凸に侵入せず、超微細凹凸が接着力の向上に寄与しないという問題がある。その結果として接着力の獲得が困難となる。また2液性接着剤では2液を混合してから金属合金表面に塗布し、金属合金表面に染み込ませる染込ませる作業(後述)までの時間を固定できず、接着力自体が安定しないという問題がある。但し、一般的に2液性接着剤に区分されている接着剤であっても、硬化剤を混合してから直ちに高分子化・ゲル化が起こらず、数時間程度は実質的に反応が進まない物であれば使用できる。少なくともNATを適用した接着においては1液性熱硬化型接着剤と同等に扱うことができる。
【0040】
[1液性エポキシ接着剤]
上記理由から本発明においてはCFRPと金属合金の接着に1液性エポキシ接着剤を使用した。NATの3条件を具備する金属合金同士を接着する場合、市販の汎用1液性エポキシ接着剤を使用しても常温下で60〜70MPaのせん断破断力が得られる。一方で150℃におけるせん断破断力は6〜15MPa程度であり、耐熱性が課題となっていた。 本発明者らが、エポキシ樹脂の組成及び充填材に関して改良を施した結果、常温下におけるせん断破断力を70〜80MPaに向上させ、150℃におけるせん断破断力を40MPa前後まで向上させることができた。本発明者らが開発した1液性エポキシ接着剤は特に耐熱性に優れており、NATの3条件を具備する金属合金同士の接着には当然有効であるが、CFRP部材を対象とした接着においても効果を発揮する。
【0041】
1液性エポキシ接着剤の組成は、前述したマトリックス樹脂と同様である。即ち、以下に示すものとなる。マトリックス樹脂を構成する全エポキシ樹脂混合物を100質量部としたときに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とするビスフェノールA型エポキシ樹脂を45〜75質量部、エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ当量180以下のエポキシ樹脂を55〜25質量部混合したものである。このエポキシ樹脂混合物100質量部に対して、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を3〜8質量部添加し、更に硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを1〜4質量部添加する。これに充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるアルミニウム粉体を10〜30質量部、粒径分布の中心が10〜30μmのクレーを10〜30質量部添加する。更に、これに粒径分布の中心が10〜30μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体を全エポキシ樹脂100質量部に対し0〜30質量部添加することが好ましい。
【0042】
(スペーサー)
本発明の目的は、CFRP部材と金属合金の強固な接着を可能とするものであるが、この接着に際しては線膨張率の違いが問題となる。CFRP部材の線膨張率は含まれる炭素繊維量によって異なるが、通常は0.3×10−5℃−1程度である。一方、アルミニウムは金属中で最も大きな線膨張率を有し、その値は2.2×10−5℃−1程度である。従って、この両者の間には、1.9×10−5℃−1程度の差がある。常温(25℃)で隙間無く接着したCFRP片とA7075アルミニウム合金片の複合体が150℃の環境下に置かれるとした場合、(1.9×10−5℃−1)×(150℃−25℃)=0.24%のズレが生じ、長さ10mmに対して、10mm×0.24%=0.024mmのズレが生じることになる。従って、耐熱性のある1液性エポキシ接着剤を使用した場合であっても、高温になると軟化して接着力が急激に低下する。それ故に接着される双方の材料が高硬度(高弾性率)であれば、高温下でズレを起そうとする力を接着力で押さえ込むことが不可能になり、破壊が進行すると予測される。
【0043】
要するに、A7075アルミニウム合金片同士の接合体の接着力よりもCFRP片とA7075アルミニウム合金片の接合体の接着力が常に低く、本発明等の利用によって、その差異を縮めることは可能である。しかし、150℃程度以上の高温下では線膨張率の違いによって生じるズレを完全に封じることは不可能である。本発明者らは高温下における線膨張率の差異を緩和すべく、A7075アルミニウム合金片とCFRP片に挟まれる接着剤硬化物層の厚さを厚くすることを試みた。これは150℃以上の高温となったときに、エポキシ樹脂硬化物の硬度が低下し、充填した純アルミ系アルミニウム粉体及びポリエーテルスルホン樹脂粉体の柔軟性がズレの緩和に寄与することを期待したためである。接着剤硬化物層の厚さとして、百〜数百μmの厚さを確保できれば充填材の迅性が十分に発揮され、その接着剤硬化物層の上面及び下面の間で生じるズレを吸収することができる。
【0044】
本発明者らは、45mm×15mm×3mm厚のCFRP片及びアルミニウム合金片を1液性エポキシ接着剤により接着した複合体を作成した。このときの接着面積は0.5cm2程度とした。接着方法はコボンド法であり、CFRP片とアルミニウム合金片の双方の端部に接着剤を塗布し、それぞれについて、後述する染み込まし処理を行った後で接着剤塗布領域同士を密着させてクリップで固定し、熱風乾燥機に入れて接着剤を加熱硬化させたものである。CFRP片及びアルミニウム合金片はクリップによる圧力で接着面の方向に押付けられ、間に挟まった接着剤の多くは縁部から外に押し出される。
【0045】
クリップによる圧力を考慮すると、通常の1液性エポキシ接着剤であれば接着剤硬化物層の厚さは0.1mm未満となる。この接着剤硬化物層の厚さが0.1mm以上となるようにすべく、1液性エポキシ接着剤中に粒径100μm前後の粉体を充填材として含ませることとした。この大粒径の粉体を「スペーサー」と称す。本発明者らは、スペーサーとして粒径75〜150μm程度で粒径分布が狭く、且つ入手容易な物を選択した。具体的には、ポリエーテルスルホン樹脂粉体、水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂の粉体、ステンレス鋼等の金属粉体、炭酸カルシウム粉体、タルク粉体等である。これらを1液性エポキシ接着剤に添加して、CFRPとA7075アルミニウム合金の接着試験を行った。
【0046】
常温下での接着力を比較した場合、スペーサー含有の1液性エポキシ接着剤とスペーサーを含有しない1液性エポキシ接着剤に明確な差異は認められない。少なくともスペーサーの含有が接着力を低下させる要因になることはないと考えられる。理論的にはエポキシ樹脂との親和性さえ良ければスペーサーとして使用することができる。後述する実験において使用した水酸基付きPES粉体及びステンレス鋼粉体はスペーサーとして適しているといえる。その他、粒径100μm程度のアルミニウム粉体、銅粉、銀メッキ付き銅粉等も使用可能と推定される。これらは市販されているので容易に入手可能である。なお、CFRP同士の接着においては線膨張率の差という問題が生じないのでスペーサーは不要である。スペーサーは接着剤塗布領域に一定の個数以上含まれることで効果が生じる。それ故、添加量に関しては接着面積にもよるが、概ねエポキシ樹脂100質量部に対して1〜20質量部含まれるようにすると良い。
【発明の効果】
【0047】
本発明では、マトリックス樹脂を改良することによって炭素繊維とマトリックス樹脂の接着力を向上させた。具体的には、エポキシ樹脂中に含まれるエポキシ基を増やし、硬化剤として芳香族ジアミン類を使用せずにジシアンジアミドを使用することによって硬化剤の添加量を少なくするようにした。即ち、マトリックス樹脂中に含まれるエポキシ基の濃度を向上させた。表面処理された炭素繊維に存在する親エポキシ点に対して、マトリックス樹脂中のエポキシ基濃度を高くすることで接着力を高めようとしたものである。
【0048】
本発明者らは、CFRPプリプレグを積層して硬化させたCFRP片同士を1液性エポキシ接着剤によって接着し、その接合体のせん断破断力を測定する実験を行った。その結果、本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片は、従来型CFRPプリプレグを使用したCFRP片と比較してせん断破断力で5MPa以上、上回っていた。このときのせん断破断力は、主に炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力で決定されるため、炭素繊維とマトリックス樹脂間の接着力が明確に向上していることになる。また、CFRP片と金属合金片を接着させた場合にも同様の結果を得た。
【0049】
本発明のCFRPプリプレグを使用することによって、CFRP部材(硬化させたCFRPプリプレグ)と被着材(金属合金又はCFRP部材)とが極めて強固に接着された接合体を得ることができた。この接合体の接着力は、金属合金同士を接着した接合体に近いものであった。さらに、CFRP部材と被着材の接着に際して、耐熱性を有する1液性エポキシ接着剤を使用することによって、常温から高温にかけて強固な接着力を有する接合体を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、A7075アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液で化学エッチングし、水和ヒドラジン水溶液で微細エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図2】図2は、A5052アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液で化学エッチングし、水和ヒドラジン水溶液で微細エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図3】図3は、AZ31Bマグネシウム合金をクエン酸水溶液で化学エッチングし、過マンガン酸カリ水溶液で化成処理した表面の10万倍電子顕微鏡写真((a)(b)いずれも10万倍)である。
【図4】図4は、C1100銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図5】図5は、C5191リン青銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図6】図6は、「KFC」銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図7】図7は、「KLF5」銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図8】図8は、「KS40」純チタン系チタン合金を1水素2弗化アンモニウム水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図9】図9は、「KSTi−9」α−β系チタン合金を1水素2弗化アンモニウム水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図10】図10は、SUS304ステンレス鋼を硫酸水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図11】図11は、SPCC冷間圧延鋼材を硫酸水溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図12】図12は、SPHC熱間圧延鋼材を硫酸水溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
【図13】図13は、CFRPプリプレグを積層してCFRP板を作成するための焼成治具の断面図である。
【図14】図14は、金属合金片とCFRP片、又はCFRP片同士を接着した試験片である。
【図15】図15は、補強した金属合金片とCFRP片を接着した試験片である。
【図16】図16は、金属合金と熱硬化性エポキシ樹脂組成物が接着したときの表面構造を示す断面模式図である。
【図17】図17は、CFRP部材と金属合金の複合体、又はCFRP部材同士の接合体を作成するための焼成治具の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
[被着材としての金属合金]
本発明のCFRPプリプレグは炭素繊維とマトリックス樹脂の接着力を高めたものである。しかし、その接着力が問題となるのは、前述したようにCFRP部材と接着剤硬化物間、接着剤硬化物と被着材間の接着力が極めて高い場合である。従って、被着材がNATの3条件に適合する表面を有する金属合金であれば、CFRPプリプレグのマトリックス樹脂を改良した効果を発揮することができる。以下、被着材としての金属合金について説明する。
【0052】
(NATの条件に適合する金属合金)
前述の「NAT」に基づく表面構造を具備する金属合金としては、理論上特にその種類に制限はない。しかし、実際に「NAT」を適用できるのは、硬質で実用的な金属合金である。本発明者等は、アルミニウム、マグネシウム、銅、チタン、及び鉄を主成分とする金属合金種に関して「NAT」が適用可能であることを確認した。特許文献1にアルミニウム合金に関する記載をした。特許文献2にマグネシウム合金に関する記載をした。特許文献3に銅合金に関する記載をした。特許文献4にチタン合金に関する記載をした。特許文献5にステンレス鋼に関する記載をした。特許文献6に一般鋼材に関する記載をした。しかし、「NAT」ではアンカー効果により接着力の向上を図っているので、少なくともこれらの金属合金種に限定されるものではない。以下、金属合金表面を「NAT」の条件に適合する表面構造とするための表面処理工程について述べる。
【0053】
(化学エッチング)
この表面処理工程における化学エッチングは、金属合金表面にミクロンオーダーの粗度を生じさせることを目的とする。腐食には全面腐食、孔食、疲労腐食など種類があるが、その金属合金に対して全面腐食を生じる薬品種を選んで試行錯誤し、適当なエッチング剤を選ぶことができる。文献記録(例えば「化学工学便覧(化学工学協会編集)」)によれば、アルミニウム合金は塩基性水溶液、マグネシウム合金は酸性水溶液、ステンレス鋼や一般鋼材全般は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、これらの塩、等の水溶液で全面腐食するとの記録がある。
【0054】
又、耐食性の強い銅合金は、高濃度の硝酸水溶液や強酸性とした過酸化水素などの酸化性酸や酸化剤配合液によって全面腐食させられるし、チタン合金は蓚酸や弗化水素酸系の特殊な酸で全面腐食させられることが専門書や特許文献から散見される。実際に市場で販売されている金属合金類は、純銅系銅合金や純チタン系チタン合金のように純度が99.9%以上で合金とは言い難い物もあるが、これらも本発明の金属合金に含まれる。実際に使用されている金属合金の殆どは、特徴的な物性を求めて多種多用な元素が混合されて純金属系の物は少なく、実質的にも合金である。
【0055】
即ち、金属合金の殆どは、元々の金属物性を低下させることなく耐食性を向上させることを目的として純金属から合金化されたものである。それ故、金属合金によっては、前記酸・塩基類や特定の化学物質を使っても、目標とする化学エッチングができない場合もよくある。実際には使用する酸・塩基水溶液の濃度、液温度、浸漬時間、場合によっては添加物を工夫しつつ試行錯誤して適正な化学エッチングを行うことになる。
【0056】
化学エッチング法については、特許文献1にアルミニウム合金に関する記載、特許文献2にマグネシウム合金に関する記載、特許文献3に銅合金に関する記載、特許文献4にチタン合金に関する記載、特許文献5にステンレス鋼に関する記載、及び特許文献6に一般鋼材に関する記載をした。
【0057】
実際に行う作業として全般的に共通する点を説明する。金属合金を所定の形状に形状化した後、当該金属合金用の脱脂剤を溶かした水溶液に浸漬して脱脂し、水洗する。この工程は、金属合金を形状化する工程で付着した機械油や指脂の大部分を除くための処理であり、常に行うことが好ましい。次いで、薄く希釈した酸・塩基水溶液に浸漬して水洗するのが好ましい。これは本発明者等が予備酸洗浄や予備塩基洗浄と称している工程である。一般鋼材のように酸で腐食するような金属合金では、塩基性水溶液に浸漬し水洗する。また、アルミニウム合金のように塩基性水溶液で特に腐食が早い金属合金では、希薄酸水溶液に浸漬し水洗する。これらは、化学エッチングに使用する水溶液と逆性のものを前もって金属合金に付着(吸着)させる工程であり、その後の化学エッチングが誘導期間なしに始まることになって処理の再現性が著しく向上する。それ故にこの予備酸洗浄、予備塩基洗浄工程は本質的なものではないが、実務上、採用することが好ましい。これらの工程の後に化学エッチング工程を行う。
【0058】
(微細エッチング・表面硬化処理)
また上記表面処理工程における微細エッチングは、金属合金表面に超微細凹凸を形成することを目的とする。また本発明における表面硬化処理は、金属合金の表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とすることを目的とする。金属合金種によっては前記化学エッチングを行っただけで同時にナノオーダーの微細エッチングもなされ、超微細凹凸が形成される場合がある。さらに、金属合金種によっては表面の自然酸化層が元よりも厚くなって表面硬化処理も完了している場合もある。例えば、純チタン系のチタン合金は化学エッチングだけを行うことで、表面がミクロンオーダーの粗度を有し、且つ超微細凹凸も形成される。即ち、化学エッチングと併せて微細エッチングもなされる。しかし、多くは化学エッチングによりミクロンオーダーの大きな凹凸面を作った後で微細エッチングや表面硬化処理を行う必要がある。
【0059】
この時でも予測できない化学現象に見舞われることが多い。即ち、表面硬化処理や表面安定化処理を目的に化学エッチング後の金属合金に酸化剤等を反応させたり化成処理をしたとき、得られる表面に偶然ながら超微細凹凸が形成される場合がある。マグネシウム合金を過マンガン酸カリ系水溶液で化成処理した場合に生じた酸化マンガンとみられる表面層は10万倍電子顕微鏡でようやく判別つく5〜10nm直径の棒状結晶が錯綜したものである。この試料をXRD(X線回折計)で分析したが、酸化マンガン類由来の回折線は検出できなかったが、表面が酸化マンガンで覆われていることはXPS分析で明らかである。XRDで検出できなかった理由は、結晶が検出限界を超えた薄い層であったからである。要するに、マグネシウム合金では表面硬化処理としての化成処理を施したことで、微細エッチングも併せて完了していたことになった。
【0060】
銅合金でも同様で、塩基性下の酸化で表面を酸化第2銅に変化させる表面硬化処理を行ったところ、純銅系銅合金では、その表面は楕円形の穴開口部で覆われた特有の超微細凹凸面になる。一方、純銅系でない銅合金では凹部型でなく10〜150nm径の粒径物又は不定多角形状物が連なり、一部融け合って積み重なった形の超微細凹凸面になる。この場合でも表面の殆どは酸化第2銅で覆われており、表面の硬化と超微細凹凸の形成が同時に起こる。
【0061】
一般鋼材に関しては、更なる検証が必要ではあるものの、ミクロンオーダーの粗度を形成するための化学エッチングだけで超微細凹凸も併せて形成されていることが多く、元来表層(自然酸化層)が硬いこともあって、表面硬化処理や微細エッチング処理を改めて行わずとも、「NAT」の条件を備える場合があった。その際の問題は、自然酸化層の耐食性が十分でないために接着工程までに腐食が開始してしまうこと、また、接着後の環境如何では短時間で接着力が低下することであった。これらは化成処理によって防ぐことができる。例を挙げると、化成処理をしていない一般鋼材(SPCC:冷間圧延鋼材)同士をフェノール樹脂系接着剤で接着した接合体に関しては、4週間という短期間で接着力が急激に低下した。一方、化成処理をした一般鋼材(SPCC)同士をフェノール樹脂系接着剤で接着した接合体に関しては、同じ期間では当初の接着力から低下しなかった。
【0062】
また、本発明者らは、一般に、化成処理によって金属合金表面に形成された被膜(化成被膜)の膜厚が厚いと、接着力が低下することが多いことを確認している。前記のマグネシウム合金に付着した酸化マンガン薄層のように、XRDで回折線が検出されないような薄層である方が、強い接着力が得られる。化成被膜が厚い金属合金同士をエポキシ接着剤で接着し、破壊試験した場合、破壊面は殆どが化成皮膜と金属合金層との間となる。本発明者らが行った実験では、厚い化成皮膜とエポキシ接着剤硬化物との接合力は、その化成皮膜と金属合金との接合力より常に強かった。即ち、一般鋼材でも、化成処理時間を更に長くして化成処理層を厚くすれば、接着力は長期間低下しないと考えられる。しかしながら化成皮膜を厚くすれば、接着力自体が低下する。従って、どの程度でバランスを取るかは、使用目的、用途等にもよる。
【0063】
[染み込まし処理]
(金属合金)
NATに適合する第1の条件〜第3の条件を具備する金属合金表面に1液性エポキシ系接着剤を塗布した後、その金属合金をデシケータ等の容器に入れて密閉し、容器内を真空ポンプ等で一旦減圧し、その後に常圧に戻す操作を行う。具体的には、容器内を数十mmHg程度まで減圧して一定時間以上(概ね数秒〜数分)置き、その後空気を入れて常圧に戻す(又は数気圧以上の圧力まで加圧する)ことが好ましい。減圧状態に置く時間は、接着剤の超微細凹凸への侵入具合に応じて調整する。この減圧/常圧戻し操作を数回繰り返すのが好ましい。この減圧/常圧戻し操作に使用する容器、例えばデシケータは使用前に50〜70℃に暖めておくことが好ましい。これは塗布した接着剤の粘度を下げて表面の超微細凹凸に染み込み易くするためである。接着剤の接着剤粘度を15Pa秒以下、好ましくは10Pa秒以下とすることで超微細凹凸に侵入させる。染み込まし処理を終えた金属合金を容器から取り出して熱風乾燥機に入れ、接着剤を硬化させる。
【0064】
ここで、金属合金表面に塗布しようとする接着剤の粘度が低い(例えば10Pa秒以下である)場合には上記減圧/常圧戻し操作を行うまでもなく、接着剤が超微細凹凸に侵入する場合がある。この場合には、当然染み込まし処理は不要である。また、塗布しようとする接着剤の粘度が高くても、金属合金を暖めておくことにより、塗布後に接着剤の粘度が低下して超微細凹凸に侵入する場合がある。この場合にも染み込まし処理は不要となる。これら、接着剤塗布前における金属合金の加熱、及び染み込まし処理は、接着剤の超微細凹凸への侵入具合に応じて行えばよい。
【0065】
(CFRP部材)
粗面化したCFRP部材の所定箇所に、1液性エポキシ接着剤を塗布した後、デシケータ等の容器に入れて密閉し、容器内を真空ポンプ等で一旦減圧し、その後に常圧に戻す操作を行う。具体的には、容器内を数十mmHg程度まで減圧して一定時間以上(概ね数秒〜数分)置き、その後空気を入れて常圧に戻す(又は数気圧以上の圧力まで加圧する)ことが好ましい。減圧状態に置く時間は、接着剤の粗面化部分に係る凹凸への侵入具合に応じて調整する。この作業は、粗面化により生じたCFRP部材表面の凹凸に接着剤を侵入させることを目的とする。即ち、CFRPのマトリックス樹脂が硬化したエポキシ樹脂硬化物に、エポキシ接着剤である接着剤を染み込ませるのである。硬化剤を混入した後の接着剤の粘度が数十Pa秒以上と高い場合には、染み込まし処理に使用する容器は予め50〜70℃に加熱しておく。これによりエポキシ接着剤の粘度を15Pa秒以下、好ましくは10Pa秒以下にする。
【0066】
ここで、CFRP部材に塗布しようとする接着剤の粘度が低い(例えば15Pa秒以下である)場合には上記減圧/常圧戻し操作を行うまでもなく、接着剤が粗面化部分に係る凹凸に侵入する場合がある。この場合には、当然染み込まし処理は不要である。また、塗布しようとする接着剤の粘度が高くても、CFRP部材を暖めておくことにより、塗布後に接着剤の粘度が低下して粗面化部分の凹凸に侵入する場合がある。この場合にも染み込まし処理は不要となる。これら、接着剤塗布前におけるCFRP部材の加熱及び染み込まし処理は、接着剤の凹凸への侵入具合に応じて行えばよい。
【0067】
[実験例]
以下、本発明の実施の形態を説明する。測定等に使用した機器類は以下に示したものである。
(a)X線表面観察(XPS観察)
数μm径の表面を深さ1〜2nmまでの範囲で構成元素を観察する形式のESCA「AXIS−Nova(クレイトス(米国)/株式会社 島津製作所(日本国京都府)製)」を使用した。
(b)電子顕微鏡観察
SEM型の電子顕微鏡「S−4800(株式会社 日立製作所製)」及び「JSM−6700F(日本電子株式会社(日本国東京都)製)」を使用し1〜2KVにて観察した。
(c)走査型プローブ顕微鏡観察
「SPM−9600(株式会社 島津製作所製)」を使用した。
(d)X線回折分析(XRD分析)
「XRD−6100(株式会社 島津製作所製)」を使用した。
(e)複合体の接合強度の測定
引っ張り試験機「MODEL−1323(アイコーエンジニアリング株式会社(日本国大阪府)製)」を使用し、引っ張り速度10mm/分でせん断破断力を測定した。
次に積層材を構成する金属合金板の表面処理について説明する。
【0068】
[実験例1](アルミニウム合金(A7075)の表面処理)
市販の厚さ3mmのアルミニウム合金板材「A7075」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のA7075片を多数作成した。槽の水に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス株式会社(日本国東京都)製)」を投入して濃度7.5%の水溶液(60℃)とした。これに前記A7075片を7分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を1分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を4分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に3%濃度の硝酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記A7075片を2分浸漬し、水洗した。次いで5%濃度の過酸化水素水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を5分浸漬し、水洗した。次いで前記A7075片を、67℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0069】
上記処理をしたA7075片を電子顕微鏡観察したところ、40〜100nm径の凹部で覆われていることが分かった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図1に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。又、走査型プローブ顕微鏡にかけて粗度データを得た。これによるとRSmは3〜4μm、Rzは1〜2μmであった。
【0070】
[実験例2](A5052アルミニウム合金片の表面処理)
市販の厚さ1.6mmのアルミニウム合金板材「A5052」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のA5052片を多数作成した。槽の水に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を投入して濃度7.5%の水溶液(60℃)とした。これに前記A5052片を7分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A5052片を1分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記A5052片を2分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に3%濃度の硝酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A5052片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記A5052片を2分浸漬し、水洗した。次いで前記A5052片を、67℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0071】
上記処理をしたA5052片を電子顕微鏡観察したところ、30〜100nm径の凹部で覆われていることが分かった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図2に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。又、走査型プローブ顕微鏡にかけて粗度データを得た。これによるとRSmは1〜2μm、Rzは0.3〜0.5μmであった。
【0072】
[実験例3](AZ31Bマグネシウム合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmのマグネシウム合金板材「AZ31B」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のAZ31B片を多数作成した。槽の水に市販のマグネシウム合金用脱脂剤「クリーナー160(メルテックス株式会社製)」を投入して濃度7.5%の水溶液(65℃)とした。これに前記AZ31B片を5分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度の水和クエン酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記AZ31B片を6分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1%濃度の炭酸ナトリウムと1%濃度の炭酸水素ナトリウムを含む水溶液(65℃)を用意し、これに前記AZ31B片を5分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に15%濃度の苛性ソーダ水溶液(65℃)を用意し、これに前記AZ31B片を5分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に0.25%濃度の水和クエン酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記AZ31B片を1分浸漬して水洗した。次いで過マンガン酸カリを2%、酢酸を1%、水和酢酸ナトリウムを0.5%含む水溶液(45℃)を用意し、これに前記AZ31B片を1分浸漬し、15秒水洗した。次いで前記AZ31B片を、90℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0073】
上記処理をしたAZ31B片を電子顕微鏡観察したところ、5〜20nm径の棒状結晶が複雑に絡み合って100nm径程度の塊となり、その塊が面を作っている超微細凹凸形状で覆われている箇所があった。電子顕微鏡を10万倍として観察したときの写真を図3(a)及び(b)に示した。又、走査型プローブ顕微鏡で走査して粗度観測を行ったところRSmが2〜3μm、Rzが1〜1.5μmであった。
【0074】
[実験例4](C1100銅合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmの純銅系銅合金であるタフピッチ銅板材「C1100」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のC1100片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記C1100片を5分浸漬して水洗した。次いで1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)に前記C1100片を1分浸漬して水洗することで予備塩基洗浄した。次いで銅合金用エッチング材「CB−5002(メック株式会社(日本国兵庫県)製)」を20%、30%過酸化水素を18%含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記C1100片をを10分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記C1100片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記C1100片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬し、よく水洗した。その後、前記C1100片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0075】
上記処理をしたC1100片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは3〜7μm、Rzは3〜5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図4に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径又は長径短径の平均が10〜150nmの孔開口部又は凹部が30〜300nmの非定期な間隔で全面に存在する超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていた。
【0076】
[実験例5](C5191銅合金片の表面処理)
市販の厚さ0.8mmのリン青銅板材「C5191」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のC5191片を多数作成した。槽に市販のアルミ合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記C5191片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。続いて別の槽に銅合金用エッチング材「CB−5002」を20%分、30%過酸化水素水を18%分含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記C5191片を15分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記C5191片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記C5191片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬し、水洗した。その後、前記C5191片を、90℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0077】
上記処理をしたC5191片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.3〜0.4μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図5に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径又は長径短径の平均が10〜200nmの凸部が混ざり合って全面に存在する超微細凹凸形状であり、純銅系であるタフピッチ銅の微細構造とは全く異なった形状であった。
【0078】
[実験例6](KFC銅合金片の表面処理)
市販の厚さ0.7mmの鉄含有銅合金板材「KFC(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKFC片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記KFC片を5分浸漬し、水洗した。次いで1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)に前記KFC片を1分浸漬して水洗することで予備塩基洗浄した。次いで銅合金用エッチング材「CB5002」を20%分、30%過酸化水素水を18%分含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記KFC片を8分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記KFC片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記KFC片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬してよく水洗した。その後、前記KFC片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0079】
上記処理をしたKFC片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.3〜0.5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図6に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径又は長径短径の平均が10〜200nmの凸部が混ざり合って全面に存在する超微細凹凸形状で全面が覆われていた。
【0080】
[実験例7](KLF5銅合金の表面処理)
市販の厚さ0.7mmの特殊銅合金板材「KLF5(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKLF5片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記KLF5片を5分浸漬し、水洗した。次いで1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)に前記KLF5片を1分浸漬して水洗することで予備塩基洗浄した。次いで銅合金用エッチング材「CB5002」を20%分、30%過酸化水素水を18%分含む水溶液(25℃)をエッチング用水溶液として用意し、これに前記KLF5片を8分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液(65℃)を酸化用水溶液として用意し、これに前記KLF5片を1分浸漬してよく水洗した。次いで、前記KLF5片を再び前記エッチング用水溶液に1分浸漬して水洗した後、前記酸化用水溶液に1分浸漬してよく水洗した。その後、前記KLF5片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0081】
上記処理をしたKLF5片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.3〜0.5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図7に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡で観察したところ、直径10〜20nmの粒径物及び50〜150nm径の不定多角形状物が混ざり合って積み重なった形状、言わば溶岩台地斜面ガラ場状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていた。
【0082】
[実験例8](KS40チタン合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmの純チタン型チタン合金板材「KS40(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKS40片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記KS40片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。次いで別の槽に1水素2弗化アンモニウムを40%含む万能エッチング材「KA−3(株式会社 金属化工技術研究所(日本国東京都)製)」を2%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記KS40片を3分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。次いで前記KS40片を3%濃度の硝酸水溶液に1分浸漬し、水洗した。その後、前記KS40片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0083】
上記処理をしたKS40片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。その結果、RSmは1〜3μm、Rzは0.8〜1.5μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図8に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。電子顕微鏡での観察から、幅と高さが10〜数百nmで長さが数百〜数μmの湾曲した連山状突起が間隔周期10〜数百nmで面上に林立している超微細凹凸形状であることが分かった。さらに、XPSによる分析から、表面には酸素とチタンが大量に観察され、少量の炭素が観察された。これらから表層は酸化チタンが主成分であることが分かり、しかも暗色であることから3価のチタンの酸化物と推定された。
【0084】
[実験例9](KSTi−9チタン合金片の表面処理)
市販の厚さ1mmのα−β型チタン合金板材「KSTi−9(株式会社 神戸製鋼所製)」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のKSTi−9片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記KSTi−9片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。次いで別の槽に苛性ソーダ1.5%濃度の水溶液(40℃)を用意し、これに前記KSTi−9片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に、市販汎用エッチング試薬「KA−3」を2重量%溶解した水溶液(60℃)を用意し、これに前記KSTi−9片を3分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。このKSTi−9片には黒色のスマットが付着していたので、3%濃度の硝酸水溶液(40℃)に3分浸漬し、次いで超音波を効かしたイオン交換水に5分浸漬してスマットを落とし、再び3%硝酸水溶液に0.5分浸漬し、水洗した。次いで前記KSTi−9片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。乾燥後のKSTi−9片に金属光沢はなく暗褐色であった。
【0085】
上記処理をしたKSTi−9片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によるとRSmは4〜6μm、Rzは1〜2μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図9に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。その様子は実験例8の図8に酷似した部分に加え、表現が難しい枯葉状の部分が多く見られた。
【0086】
[実験例10](SUS304ステンレス鋼片の表面処理)
市販の厚さ1mmのステンレス鋼板材「SUS304」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のSUS304片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これを脱脂用水溶液とした。この脱脂用水溶液に前記SUS304片を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。続いて別の槽に1水素2弗化アンモニウムを1%と98%硫酸を5%含む水溶液(65℃)を用意し、これに前記SUS304片を4分浸漬し、イオン交換水でよく水洗した。次いで、前記SUS304片を、3%濃度の硝酸水溶液(40℃)に3分浸漬して水洗した。次いで前記SUS304片を、90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
【0087】
上記処理をしたSUS304片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によると、RSmは1〜2μmであり、Rzは0.3〜0.4μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図10に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。電子顕微鏡による観察から、表面が直径20〜70nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状、言わば溶岩台地斜面ガラ場状の超微細凹凸形状で覆われていた。更に別の1個をXPS分析にかけた。このXPS分析から、表面には酸素と鉄が大量に、又、少量のニッケル、クロム、炭素、ごく少量のモリブデン、珪素が観察された。これらから表層は金属酸化物が主成分であることが分かった。この分析パターンはエッチング前のSUS304と殆ど同じであった。
【0088】
[実験例11](SPCC鋼材片の表面処理)
市販の厚さ1.6mmの冷間圧延鋼板材「SPCC」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のSPCC片を多数作成した。槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記SPCC片を5分浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次いで別の槽に1.5%苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記SPCC片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に98%硫酸を10%含む水溶液(50℃)を用意し、これに前記SPCC片を6分浸漬し、イオン交換水で十分に水洗した。次いで前記SPCC片を、1%濃度のアンモニア水(25℃)に1分浸漬して水洗した。次いで前記SPCC片を、2%濃度の過マンガン酸カリ、1%濃度の酢酸、及び0.5%濃度の水和酢酸ナトリウムを含む水溶液(45℃)に1分浸漬して十分に水洗した。その後、前記SPCC片を、90℃とした温風乾燥機内に15分入れて乾燥した。
【0089】
上記処理をしたSPCC片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によると、RSmが1〜3μm、Rzが0.3〜1.0μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図11に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡による観察結果から、高さ及び奥行きが80〜200nmで幅が数百〜数千nmの階段が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていることが分かる。パーライト構造が剥き出しになった様子であり化成処理層はごく薄いことが分かる。
【0090】
[実験例12](SPHC鋼材片の表面処理)
市販の厚さ1.6mmの熱間圧延鋼材「SPHC」を入手し、切断して45mm×18mmの長方形のSPHC片を多数作成した。槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を7.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記SPHC片を5分浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次いで別の槽に1.5%苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記SPHC片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に98%硫酸を10%と1水素2弗化アンモニウム1%を含む水溶液(65℃)を用意し、これに前記SPHC片を2分浸漬し、イオン交換水で十分に水洗した。次いで前記SPHC片を、1%濃度のアンモニア水(25℃)に1分浸漬して水洗した。次いで前記SPHC片を、80%正リン酸を1.5%、亜鉛華を0.21%、珪弗化ナトリウムを0.16%、塩基性炭酸ニッケルを0.23%含む水溶液(55℃)に1分浸漬して十分に水洗した。その後、前記SPHC片を、90℃とした温風乾燥機内に15分入れて乾燥した。
【0091】
乾燥後、前記SPHC片を走査型プローブ顕微鏡で観察した。走査解析によると、RSmが1〜3μm、Rzが0.3〜1.0μmであった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図12に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。10万倍電子顕微鏡による観察結果から、高さ及び奥行きが80〜500nmで幅が数百〜数万nmの階段が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていることが分かり、これもパーライト構造であった。
【0092】
[実験例13](マトリックス樹脂の作成)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体が主成分の分子量約370のエポキシ樹脂「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、固体である分子量約1650の多量体のビスフェノールA型エポキシ樹脂「JER1004(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、多官能型のフェノールノボラック型エポキシ樹脂「JER154(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、アニリン型の3官能エポキシ樹脂「JER630(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、4官能のエポキシ樹脂であるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン「JER604(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、粒径分布の中心が16μmの純アルミニウム系アルミニウム合金粉体「フィラー用アルミニウムパウダー(東洋アルミニウム株式会社製)」、エポキシ樹脂の硬化剤である微粉型ジシアンジアミド「DICY7(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレア「DCMU99(保土ヶ谷化学工業株式会社製)」、粒径分布の中心が20μmの水酸基付きPES粉体「ウルトラゾーンE2020P−SRMicro(BASF社製)」、平均粒径が8〜12μmの微粉タルク「ハイミクロンHE5(竹原化学工業株式会社(日本国兵庫県)製)」、これと同等の粒径のクレー(カオリン)「サテントン5(竹原化学工業株式会社製)」を入手した。
【0093】
「JER828」を65質量部、「JER1004」を5質量部、「JER154」を10質量部、「JER630」20質量部をビーカーに取り、160℃とした熱風乾燥機内に放置して加熱し、固体型「JER1004」を溶融すると同時によく撹拌し、全体を均一化した。その後、放冷し、エポキシ樹脂液として保管した。
【0094】
次いで乳鉢に、前記混合物100質量部、粒径分布中心が16μmのアルミニウム粉体「フィラー用アルミニウムパウダー」14質量部、粒径分布中心が8〜12μmのクレー「サテントン5」を14質量部、硬化剤としての微粉型ジシアンジアミド「DICY7」5質量部、及び硬化助剤としての「DCMU99」2.5質量部を取った。この乳鉢内容物を乳棒で15分混練した。1時間放置してから再度乳棒で数分混練した。これをポリエチ瓶に取り1日間室温下で放置してエージングし、その後5℃とした冷蔵庫に保管した。
【0095】
[実験例14](CFRPプリプレグの作成)
厚さ約0.2mmのCFクロス「TR3110M(三菱レイヨン株式会社製)」を入手し130mm×130mmに切断した。一方、シリコーン樹脂使用の離型紙を200mm×200mmに切断して木製平板の上に置き、4方をテープとピンで固定した。次いで、その中央に130mm×130mmに切断したCFクロスを敷いて、4方をテープとピンで固定した。次いで実験例13で作成したペースト状のマトリックス樹脂を、プラスチック製ヘラを使用してCFクロスの上から塗布した。マトリックス樹脂の塗布層は均一に厚くなるようにした。塗布層の上から200mm×200mmに切断した0.01mm厚のポリエチレンフィルムを被せた。そのポリエチレンフィルムの中央部に重しとなるブロックを置き、一定圧で押さえ付けた状態で中央部から端部に向かって移動させた。これにより、マトリックス樹脂がCFクロス表面に染み出し、余分なマトリックス樹脂はCFクロスの端から外部に押し出される。その後、離型紙及びポリエチレンフィルムに挟まれ、マトリックス樹脂が塗布された状態のCFクロスの端を、カッターによって切断し、110mm×110mmの正方形状のシートを作成した。同様の操作を繰り返して、110mm×110mmの正方形状のシートを多数作成した。これら正方形状のシートをデシケータに入れて密閉し、デシケータ内を真空ポンプで減圧し、5分ほどして常圧に戻した。これによって、マトリックス樹脂及びCFクロス内部の空気を抜いて、マトリックス樹脂をCFクロス全体に行き渡らせる。このようにして作成した多数のCFRPプリプレグ(離型紙及びポリエチレンフィルムに挟まれた状態)を袋に封じ、5℃とした冷蔵庫に保管した。
【0096】
[実験例15](CFRP部材の作成)
市販の厚さ0.2mmの平織型CFRPプリプレグ「パイロフィルTR3110(三菱レイヨン株式会社製)」を用意し、これから220mm×220mmの正方形片(厚さ0.2mm)を多数切り出した。図13に示す焼成治具を使用し、CFRPプリプレグの積層物からなるCFRP板を作成する。金型本体2及び金型底板5を組み合わせると、金型本体2の側壁と金型底板5の上面によって金型凹部が形成される。この金型凹部を覆うように、0.05mm厚の離型用フィルム17を敷いた。
【0097】
この離型用フィルム17の上に、切断しておいた220mm×220mmの市販のCFRPプリプレグ15枚を積層した。これらCFRPプリプレグの積層物が図中のCFRPプリプレグ積層物22として示されている。このCFRPプリプレグ積層物22を覆うように離型用フィルム14を敷いた。離型用フィルム14の上にPTFE製のブロック15を乗せ、ブロック15の上に鉄製の錘18を乗せて大型オートクレーブの中に置いた。オートクレーブの蓋を閉めて内温を約90℃とした後に真空ポンプで内圧を10mmHg以下とした。この温度で15分加熱し、その後温度を上げて135℃に達したときに空気を入れて常圧に戻した。その後、135℃で40分加熱し、その後で更に165℃まで温度を上げて、165℃前後を維持するように調節しつつ30分加熱した。その後、加熱を停止して放冷した。その後、オートクレーブを開き、焼成治具1を分解してCFRP板(CFRPプリプレグ積層物22の硬化物)を得た。このCFRP板を高圧水切断機により切断して、45mm×15mmで厚さ3mmのCFRP片を多数作成した。同様の工程を繰り返し、CFRP片を多数作成した。
【0098】
上記のようにして作成したCFRP片の表面端部から15mmを、JISR6252に規定される120番の研磨紙で10数回しっかり研磨して、粗面化した。次いで、超音波発信端を設置した槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」7.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これに超音波をかけた状態として、粗面化したCFRP片を5分浸漬した。その後、このCFRP片を水洗し、80℃にセットした熱風乾燥機に15分入れて乾燥した。このようにして得られたCFRP片はアルミ箔で包んで保管した。
【0099】
[実験例16](CFRP部材の作成)
市販の厚さ0.2mmの平織型CFRPプリプレグ「パイロフィルTR3110(三菱レイヨン株式会社製)」を用意し、これから220mm×220mmの正方形片(厚さ0.2mm)を多数切り出した。また、実験例14で作成した110mm×110mmで厚さ0.2mmのCFRPプリプレグ(本発明)を多数用意した。このとき本発明のCFRPプリプレグはカバー材(離型紙及びポリエチレンフィルム)で覆われている状態である。図13に示す焼成治具を使用し、これらCFRPプリプレグの積層物からなるCFRP板を作成する。金型本体2及び金型底板5を組み合わせると、金型本体2の側壁と金型底板5の上面によって金型凹部が形成される。この金型凹部を覆うように、0.05mm厚の離型用フィルム17を敷いた。
【0100】
この離型用フィルム17の上に、220mm×220mmに切断しておいた「パイロフィルTR3110」12枚を積層した。更に積層した「パイロフィルTR3110」上に、その形状(220mm×220mm)に合わせて本発明のCFRPプリプレグ(110mm×110mm)を4枚(2枚×2枚)敷き詰めた。この際にはCFRPプリプレグからカバー材(離型紙及びポリエチレンフィルム)を剥がして積層した。さらに、この本発明のCFRPプリプレグ4枚からなる層を、3層構造とした。即ち、本発明のCFRPプリプレグ(110mm×110mm)は、4×3=12枚使用した。これらCFRPプリプレグの積層物が図中のCFRPプリプレグ積層物22として示されている。このCFRPプリプレグ積層物22を覆うように離型用フィルム14を敷いた。
【0101】
離型用フィルム14の上にPTFE製のブロック15を乗せ、ブロック15の上に錘18を乗せて大型オートクレーブの中に置いた。オートクレーブの蓋を閉めて内温を約90℃とした後に真空ポンプで内圧を10mmHg以下とした。この温度で15分加熱し、その後温度を上げて135℃に達したときに空気を入れて常圧に戻した。その後、135℃で40分加熱し、その後で更に165℃まで温度を上げて、165℃前後を維持するように調節しつつ30分加熱した。その後、加熱を停止して24時間放冷した。その後、オートクレーブを開き、焼成治具1を分解してCFRP板(CFRPプリプレグ積層物22の硬化物)を得た。このCFRP板を高圧水切断機により切断して、45mm×15mmで厚さ3mmのCFRP片を多数作成した。同様の工程を繰り返し、CFRP片を多数作成した。このCFRP片を構成するCFRPプリプレグ層15層のうち、表層3層が本発明のCFRPプリプレグにより構成される。
【0102】
上記のようにして作成したCFRP片の表面端部から15mmを、JISR6252に規定される120番の研磨紙で10数回しっかり研磨して、粗面化した。次いで、超音波発信端を設置した槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」7.5%を含む水溶液(60℃)を用意し、これに超音波をかけた状態として、粗面化したCFRP片を5分浸漬した。その後、このCFRP片を水洗し、80℃にセットした熱風乾燥機に15分入れて乾燥した。このようにして得られたCFRP片はアルミ箔で包んで保管した。
【0103】
[実験例17](コボンド法によるCFRP片同士の接着)
市販の1液性エポキシ接着剤「EP106NL(セメダイン株式会社製)」を入手した。実験例15において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグのみで構成されるCFRP部材)同士をこの接着剤によって接着した。まず、双方のCFRP片の粗面化した範囲に接着剤を塗布してデシケータに入れて密閉し、デシケータ内を減圧し、減圧下に数分置いてから常圧に戻した。この減圧/常圧戻しを数回繰り返した後、双方のCFRP片をデシケータから取り出した。図14に示すように、双方のCFRP片23、24の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。接着面積(図14の斜線部分25)は0.5cm2程度となるようにした。これと同様の方法で、実験例16において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグと本発明のCFRPプリプレグで構成されるCFRP部材)同士を上記接着剤によって接着した。即ち、双方のCFRP片の粗面化した範囲に接着剤を塗布して、染み込まし処理を行い、双方のCFRP片23、24の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。
【0104】
これらを90℃にセットした熱風乾燥機に入れ、135℃に昇温して40分加熱した。その後、さらに165℃まで昇温して30分加熱した後、電源を切って放冷した。このようにして得られたCFRP片23及び24の接合体20について、3日後に試験機を使用して引っ張り破断して、せん断破断力を測定した。これらの試験は常温及び150℃において行った。その結果、実験例15で得たCFRP片同士の接合体は、常温下で46.4MPaのせん断破断力を示した。一方、実験例16で得たCFRP片同士の接合体は、常温下で56.7MPaのせん断破断力を示した。この結果から、接着範囲に本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片の方が、高い接着力を示すことが確認された。なお、150℃におけるせん断破断力は、いずれの接合体も低く、数MPaであった。
【0105】
[実験例18](接着剤1の作成)
1液性エポキシ接着剤を以下のようにして作成した。「JER828」65質量部、「JER1004」5質量部、「JER154」10質量部、「JER630」15質量部、及び「JER604」5質量部をビーカーに取り、160℃とした熱風乾燥機内に放置して加熱し、固体型「JER1004」を溶融すると同時によく撹拌し、全体を均一化した。
【0106】
次いで乳鉢に、前記エポキシ樹脂混合物100質量部、粒径分布の中心が16μmのアルミニウム粉体「フィラー用アルミニウムパウダー」14質量部、粒径分布の中心が8〜12μmのクレー「サテントン5」14質量部、硬化剤としての微粉型ジシアンジアミド「DICY7」5質量部、及び硬化助剤として「DCMU99」2.5質量部を取った。この乳鉢の内容物を乳棒で3分混練した。その後、1時間放置してから再度乳棒で数分混練した。これをポリエチ瓶に取り、5℃とした冷蔵庫に保管した。このようにして得られた1液性エポキシ接着剤を接着剤1とする。
【0107】
[実験例19](接着剤2の作成)
1液性エポキシ接着剤を以下のようにして作成した。「JER828」50質量部、「JER154」10質量部、「JER630」20質量部、及び「JER604」20質量部をビーカーに取り、160℃とした熱風乾燥機内に放置して加熱し、全体を均一化した。
【0108】
次いで乳鉢に、前記エポキシ樹脂混合物100質量部、粒径分布の中心が16μmのアルミニウム粉体「フィラー用アルミニウムパウダー」20質量部、粒径分布の中心が8〜12μmのクレー「サテントン5」20質量部、粒度分布の中心が20μmの水酸基付きPES粉体「ウルトラゾーンE2020P−SRMicro(BASF社製)」5質量部、硬化剤としての微粉型ジシアンジアミド「DICY7」5質量部、及び硬化助剤として「DCMU99」3質量部を取った。この乳鉢の内容物を乳棒で3分混練した。その後、1時間放置してから再度乳棒で数分混練した。この混合物をポリエチ瓶に取り、5℃とした冷蔵庫に保管した。
【0109】
一方、ステンレス鋼SUS304L製である粒径分布の中心が100μmのステンレス鋼粉体「DAP304L(大同特殊鋼株式会社製)」を入手し、100gをビーカーにとって、市販の中性液体洗剤「アタック(花王株式会社製)」を3質量%含む水溶液1リットルを加え、ガラス棒で1分間掻き回した後、10分放置した。その後、上記ビーカーの液体を濾過し、分離されたステンレス鋼粉体をイオン交換水を大量に使用して洗浄した。そのステンレス鋼粉体をビーカーに移し、苛性ソーダ1質量%を含む水溶液200ccを加えて軽く撹拌した後、1分間放置した。
【0110】
その後、上記ビーカーの液体を濾過し、分離されたステンレス鋼粉体をイオン交換水を大量に使用して洗浄した。そのステンレス鋼粉体をビーカーに移し、硫酸5質量%と1水素2弗化アンモニウム1質量%を含む水溶液500ccを加えて軽く撹拌した後、5分間放置した。そのビーカーの液体を濾過し、分離されたステンレス鋼粉体をイオン交換水を大量に使用して洗浄した。そのステンレス鋼粉体をビーカーに移し、硝酸3質量%を含む水溶液500ccを加えて軽く撹拌した後、5分間放置した。さらに、そのビーカーの液体を濾過し、分離されたステンレス鋼粉体をイオン交換水を大量に使用して洗浄した。これにより得られたステンレス鋼粉体を大型シャーレに移し、シャーレ全面に広げてからシャーレを傾けて下部に溜る水を濾紙等で吸い取り、100℃にセットした温風乾燥機内に30分置いて乾燥した。このようにして得られたステンレス鋼粉体を使用する。
【0111】
前述した冷蔵庫に保管していた混合物を取り出して乳鉢に入れた。その混合物中のエポキシ樹脂量100質量部に対して、ステンレス鋼粉体を5質量部、粒径が90〜106μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体を10質量部分加えて1分以上混練した。混練後の混合物を乳鉢からガラス瓶に移して蓋をした後、5℃とした冷蔵庫に保管した。ここで前述した粒径90〜106μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体は、水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂顆粒「スミカエクセル5003P(住友化学株式会社製)」を粉砕し、分級した物である。このようにして得られた1液性エポキシ接着剤を接着剤2とする。
【0112】
[実験例20](CFRP片とA7075片の接着試験)
実験例1で作成した45mm×15mmのA7075アルミニウム合金片(厚さ3mm)を多数用意し、それぞれの端部に実験例18で作成した接着剤1を塗布して染み込まし処理を行った。一方、実験例15において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグのみで構成されるCFRP部材)の粗面化範囲に接着剤1を塗布して染み込まし処理を行った。図14に示すように、A7075片とCFRP片の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。接着面積(図14の斜線部分)は0.5cm2程度となるようにした。これと同様の方法で、実験例1で作成したA7075片と実験例16において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグと本発明のCFRPプリプレグで構成されるCFRP部材)同士を接着剤1によって接着した。即ち、A7075片の端部に接着剤1を塗布して染み込まし処理を行い、一方でCFRP片の粗面化した範囲に接着剤1を塗布して染み込まし処理を行い、双方の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。
【0113】
これらを90℃にセットした熱風乾燥機に入れ、135℃に昇温して40分加熱した。その後、さらに165℃まで昇温して30分加熱した後、電源を切って放冷した。上記のようにして得られた接合体について、1週間後に試験機を使用して引っ張り破断して、せん断破断力を測定した。これらの試験は常温及び150℃において行った。その結果を表1に示す。実験例15で得たCFRP片とA7075片の複合体は、49.5MPaのせん断破断力を示した。一方、実験例16で得たCFRP片とA7075片の複合体は、56.8MPaのせん断破断力を示した。この結果から、接着範囲に本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片の方が、高い接着力を示すことが確認された。
【0114】
また、150℃においても接着範囲に本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片の方が、高い接着力を示した。なお、本実験例における接着には接着剤1を使用しているが、この接着剤1は、耐熱性を向上させるよう改良した1液性エポキシ接着剤である。150℃におけるせん断破断力は、実験例15のCFRP片を使用した場合で15.7MPa、実験例16のCFRP片を使用した場合で19.8MPaといずれも高く、1液性エポキシ接着剤の効果により耐熱性が良好であった。
【0115】
[実験例21](CFRP片とA7075片の接着試験)
実験例1で作成した45mm×15mmのA7075アルミニウム合金片(厚さ3mm)を多数用意し、それぞれの端部に実験例19で作成した接着剤2を塗布して染み込まし処理を行った。一方、実験例15において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグのみで構成されるCFRP部材)の粗面化範囲に接着剤2を塗布して染み込まし処理を行った。図14に示すように、A7075片とCFRP片の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。接着面積(図14の斜線部分)は0.5cm2程度となるようにした。これと同様の方法で、実験例1で作成したA7075片と実験例16において作成したCFRP片(市販のCFRPプリプレグと本発明のCFRPプリプレグで構成されるCFRP部材)同士を接着剤2によって接着した。即ち、A7075片の端部に接着剤2を塗布して染み込まし処理を行い、一方でCFRP片の粗面化した範囲に接着剤2を塗布して染み込まし処理を行い、双方の接着剤塗布領域同士を密着させて対とし、クリップで固定した。
【0116】
これらを90℃にセットした熱風乾燥機に入れ、135℃に昇温して40分加熱した。その後、さらに165℃まで昇温して30分加熱した後、電源を切って放冷した。上記のようにして得られた接合体について、1週間後に試験機を使用して引っ張り破断して、せん断破断力を測定した。これらの試験は常温及び150℃において行った。その結果を表1に示す。実験例15で得たCFRP片とA7075片の複合体は、52.5MPaのせん断破断力を示した。一方、実験例16で得たCFRP片とA7075片の複合体は、58.8MPaのせん断破断力を示した。この結果から、接着範囲に本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片の方が、高い接着力を示すことが確認された。
【0117】
また、150℃においても接着範囲に本発明のCFRPプリプレグを使用したCFRP片の方が、高い接着力を示した。ここで使用した接着剤2は、耐熱性を向上させるよう改良した1液性エポキシ接着剤である。150℃におけるせん断破断力は、実験例15のCFRP片を使用した場合で15.4MPa、実験例16のCFRP片を使用した場合で24.8MPaといずれも高く、1液性エポキシ接着剤の効果により耐熱性が良好であった。
【0118】
【表1】
【0119】
[実験例22〜32](CFRP片と金属合金片の接着試験)
A7075アルミニウム合金片に代えて、実験例2〜12で作成した各種金属合金片を用いて、実験例21と同様の接着実験を行った。即ち、実験例19で作成した接着剤2を使用して、実験例15で作成したCFRP片と各種金属合金片の接着実験を行い、実験例16で作成したCFRP片と各種金属合金片の接着実験を行った。その結果を表2に示す(実験22〜32)。
【0120】
ここで金属合金片の厚さが薄い場合、引っ張り破断試験の際に、曲げ応力に起因して、本来破断する時点(例えば金属合金片の厚さがA7075アルミニウム合金片の様に3mmあるときの破断時点)より前にせん断破断することになる。従って、金属合金片の厚さが薄いA5052アルミニウム合金、AZ31Bマグネシウム合金、C1100銅合金、C5191リン青銅合金、KFC銅合金、KLF5銅合金、「KS40」純チタン系チタン合金、「KSTi−9」α−β系チタン合金、及びSUS304ステンレス鋼に関しては、接着面と反対側の面に、1.6mm厚のSPCC冷間圧延鋼板片を1液性エポキシ接着剤により接着して補強した。図15に複合体30の外観を示す。各種金属合金片33とCFRP34が、接着剤塗布領域35を介して接合されている。上記金属合金33の底面側が、SPCC冷間圧延鋼板片36によって補強されている。これにより、曲げ強度が不十分であるために、せん断破断前に曲がりによる剥離破断が生じてしまうことを防止することができる。
【0121】
表2に示すように、全ての金属合金種において、市販のCFRPプリプレグのみにより構成されたCFRP片(実験例15)よりも、本発明のCFRPプリプレグにより構成されたCFRP片(実験例16)と接着させた場合に高いせん断破断力を示した。本発明のCFRPプリプレグを接着範囲に使用することで、常温下においては概ね5〜10MPa程度、150℃では概ね10〜15MPa程度の高いせん断破断力を示した。特に高温下における接着力が向上した理由は、マトリックス樹脂の耐熱性を向上させたことにある。なお、「KS40」純チタン系チタン合金、及び「KSTi−9」α−β系チタン合金に関しては、常温下におけるせん断破断力が2MPa程度しか向上していないが、これは表面形状がNATに規定する理想的な条件には合致していないからと考えられる。
【0122】
【表2】
【0123】
[実験例33](コキュア法によるCFRP片とアルミニウム合金片の接着)
(1)マトリックス樹脂の作成
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体が主成分の分子量約370のエポキシ樹脂「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、多官能型のフェノールノボラック型エポキシ樹脂「JER154(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、アニリン型の3官能エポキシ樹脂「JER630(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、4官能のエポキシ樹脂であるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン「JER604(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、粒径分布の中心が16μmの純アルミニウム系アルミニウム合金粉体「フィラー用アルミニウムパウダー(東洋アルミニウム株式会社製)」、エポキシ樹脂の硬化剤である微粉型ジシアンジアミド「DICY7(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレア「DCMU99(保土ヶ谷化学工業社製)」、粒径分布の中心が15μm径のクレー(焼成カオリン)「サテントン5(竹原化学工業株式会社製)」を入手した。
【0124】
乳鉢に「JER828」を50質量部、「JER154」を10質量部、「JER630」20質量部、「JER604」20質量部を取りエポキシ樹脂混合物100質量部とした。ここへ前記のアルミニウム粉体「フィラー用アルミニウムパウダー」15質量部、前記のクレー「サテントン5」を15質量部、硬化剤としての「DICY7」5質量部、及び硬化助剤としての「DCMU99」3質量部を取った。この乳鉢内容物を乳棒で3分混練した。1時間放置してから再度乳棒で1分混練した。このペースト状物をポリエチ瓶に取り5℃とした冷蔵庫に保管した。
【0125】
(2)CFRPプリプレグの作成
引っ張り強度4.4GPaの炭素繊維「パイロフィルTR30S(三菱レイヨン株式会社製)」を使用した厚さ約0.23mmの平織りCFクロス「パイロフィル3110M(三菱レイヨン株式会社製)」を入手し130mm四方に裁断した。シリコーン樹脂使用の離型紙を200mm四方に切って木製平板の上に置き、4方をテープとピンで固定した。次いでその中央に上記CFクロスを敷いて、これもテープとピンで固定した。次いで前記(1)で作成したペースト状のマトリックス樹脂を、プラスチック製ヘラを使用してCFクロスの上からやや厚く均一になるように塗り広めた。塗布面上に200mm×200mmに切った0.01mm厚のポリエチレンフィルムを被せた。そのポリエチレンフィルムの中央部に重しとなるブロックを置き、一定圧で押さえ付けた状態で中央部から端部に向かって移動させた。これにより、マトリックス樹脂がCFクロス表面に染み出し、余分なマトリックス樹脂はCFクロスの端から外部に押し出される。その後、離型紙及びポリエチレンフィルムに挟まれ、マトリックス樹脂が塗布された状態のCFクロスの端を、カッターによって切断し、110mm×110mmの正方形状のシートを作成した。同様の操作を繰り返して、110mm×110mmの正方形状のシートを多数作成した。これら正方形状のシートをデシケータに入れて密閉し、デシケータ内を真空ポンプで減圧し、5分ほどして常圧に戻した。これによって、マトリックス樹脂及びCFクロス内部の空気を抜いて、マトリックス樹脂をCFクロス全体に行き渡らせる。このようにして作成した多数のCFRPプリプレグ(離型紙及びポリエチレンフィルムに挟まれた状態)を袋に封じ、5℃とした冷蔵庫に保管した。
【0126】
(3)コキュア接着
図17に示す焼成治具1を用いてCFRP片とアルミニウム合金片をコキュア法で接着した接合体を作成する。金型本体2及び金型底板5を組み合わせると、金型本体2の側壁と金型底板5の上面によって金型凹部が形成される。この金型凹部を覆うように、0.05mm厚の離型用フィルム17を敷いた。この離型用フィルム17の上に、実験例1で得た45mm×18mm×3mm厚の表面処理済みA7075アルミニウム合金片11を置いた。このアルミニウム合金片11と金型本体2の側壁の空隙をポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、「PTFE」という。)製のスペーサ16で埋めた。
【0127】
次いで(2)で作成したCFRPプリプレグを42mm×15mmの小片(プリプレグ片)に裁断し、各プリプレグ片から離型紙とポリエチレンフィルムを除去した。次いで、A7075アルミニウム合金片11及びスペーサ16の上面に、プリプレグ片を13枚積層した。これらプリプレグ片13枚の積層物が図中のプリプレグ片積層物12として示されている。ここで、図17に示すプリプレグ片積層物12の最下層となるプリプレグ片の底面の左端部分が、A7075アルミニウム合金片11上面と接触している。この接着面積は約0.6cm2(15mm×4mm)である。このプリプレグ片積層物12と金型本体2の側壁の空隙を埋めるためにPTFE製のスペーサ13を設置し、これらを覆うように離型用フィルム14を敷いた。
【0128】
離型用フィルム14の上にPTFE製のブロック15を乗せ、ブロック15の上に鉄製の5kgの錘18を乗せて大型オートクレーブの中に置いた。オートクレーブの蓋を閉めて昇温を開始し、真空ポンプで内圧を減圧して15mmHg以下とした。金型本体2の温度が90℃に達したときに空気を入れて常圧に戻した。その後、昇温して135℃で1時間加熱し、その後更に165℃まで温度を上げて、165℃前後を維持するように調節しつつ20分加熱した。その後、加熱を停止してオートクレーブを開いた。温度が100℃まで低下した後、焼成治具1を取り出し、その30分後に分解してA7075アルミニウム合金片11とCFRP片12(プリプレグ片積層物12の硬化物)との接合体を得た。この接合体の作成においては、1液性エポキシ接着剤を使用していない。接着に供されているのはCFRPプリプレグのマトリックス樹脂による。
【0129】
上記のようにして得られたアルミニウム合金片とCFRP片の接合体について、1週間後に試験機を使用して引っ張り破断試験を行い、せん断破断力を測定した。これらの試験は常温、及び150℃において行った。その結果、せん断破断力(3対の平均)は、常温下で55.3MPa、150℃下では32.3MPaであった。常温下のせん断破断力は特に高いとはいえないが、150℃下のせん断破断力は極めて高く、従来のCFRPプリプレグでは得られなかったレベルである。この数値は、NATによりA7075アルミニウム合金片同士を接着したときの数値に近い。これは耐熱接着性に優れたマトリックス樹脂を使用したことと、引っ張り強度が中レベルの炭素繊維を使用したことによるとみられる。
【符号の説明】
【0130】
22…CFRP板
23…CFRP片
24…CFRP片
30…複合体
33…金属合金片
34…CFRP片
35…接着剤塗布領域
36…SPCC冷間圧延鋼板片
40…金属合金
41…セラミック質層
42…接着剤硬化物層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維とマトリックス樹脂からなるCFRPプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂を構成するエポキシ樹脂分を100質量部としたときに、当該エポキシ樹脂分は(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とするビスフェノールA型エポキシ樹脂を45〜75質量部、(2)エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ樹脂を55〜25質量部含み、
前記マトリックス樹脂は、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を3〜6質量部含むことを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項2】
請求項1に記載したCFRPプリプレグであって、
(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーが0〜15質量部含まれることを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項3】
請求項2に記載したCFRPプリプレグであって、
(2)エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量が180以下であることを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項4】
請求項3に記載したCFRPプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂は、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを1〜4質量部含むことを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項5】
請求項3に記載したCFRPプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂は、充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるアルミニウム粉体を10〜30質量部含むことを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項6】
請求項5に記載したCFRPプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂は、充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるクレーを10〜30質量部さらに含むことを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項7】
請求項3に記載したCFRPプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂は、粒度分布の中心が10〜30μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体を0〜30質量部含むことを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項8】
請求項3に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
当該CFRPプリプレグと被着材は1液性エポキシ接着剤を介して接着されており、
前記1液性エポキシ接着剤は、当該接着剤に含まれるエポキシ樹脂分を100質量部としたときに、
(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とし、且つビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーを0〜15質量部含むビスフェノールA型エポキシ樹脂を45〜75質量部含み、
(2)エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ当量が180以下のエポキシ樹脂を55〜25質量部含み、
硬化剤としてジシアンジアミド粉体を3〜6質量部含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項9】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記1液性エポキシ接着剤は、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを1〜4質量部含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項10】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記1液性エポキシ接着剤は、充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるアルミニウム粉体を10〜30質量部含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項11】
請求項10に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記1液性エポキシ接着剤は、充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるクレーを10〜30質量部さらに含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項12】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記1液性エポキシ接着剤は、粒度分布の中心が10〜30μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体を0〜30質量部含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項13】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記1液性エポキシ接着剤は、スペーサーとして粒径分布の中心が75〜150μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体又は金属粉体をさらに含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項14】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記被着材も請求項3に記載したCFRPプリプレグであることを特徴とする前記接合体。
【請求項15】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記被着材は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鉄鋼材から選択されるいずれか1種の金属合金であって、
当該金属合金表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、その粗度を有する面内には5〜500nm周期の超微細凹凸が形成され、且つ、表層が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であり、
前記CFRPプリプレグと当該金属合金が、前記超微細凹凸に侵入した1液性エポキシ接着剤を介して接合されていることを特徴とする前記接合体。
【請求項16】
請求項3に記載したCFRPプリプレグ同士の接合体であって、
双方のCFRPプリプレグは、接着剤を介さずに各々のCFRPプリプレグのマトリックス樹脂を介して接合されていることを特徴とする前記接合体。
【請求項17】
請求項3に記載したCFRPプリプレグと金属合金の接合体であって、
前記金属合金は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鉄鋼材から選択されるいずれか1種の金属合金であって、
当該金属合金表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、その粗度を有する面内には5〜500nm周期の超微細凹凸が形成され、且つ、表層が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であり、
前記CFRPプリプレグと当該金属合金が、接着剤を介さずに前記超微細凹凸に侵入した当該CFRPプリプレグのマトリックス樹脂を介して接合されていることを特徴とする前記接合体。
【請求項1】
炭素繊維とマトリックス樹脂からなるCFRPプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂を構成するエポキシ樹脂分を100質量部としたときに、当該エポキシ樹脂分は(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とするビスフェノールA型エポキシ樹脂を45〜75質量部、(2)エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ樹脂を55〜25質量部含み、
前記マトリックス樹脂は、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を3〜6質量部含むことを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項2】
請求項1に記載したCFRPプリプレグであって、
(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーが0〜15質量部含まれることを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項3】
請求項2に記載したCFRPプリプレグであって、
(2)エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量が180以下であることを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項4】
請求項3に記載したCFRPプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂は、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを1〜4質量部含むことを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項5】
請求項3に記載したCFRPプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂は、充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるアルミニウム粉体を10〜30質量部含むことを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項6】
請求項5に記載したCFRPプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂は、充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるクレーを10〜30質量部さらに含むことを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項7】
請求項3に記載したCFRPプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂は、粒度分布の中心が10〜30μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体を0〜30質量部含むことを特徴とするCFRPプリプレグ。
【請求項8】
請求項3に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
当該CFRPプリプレグと被着材は1液性エポキシ接着剤を介して接着されており、
前記1液性エポキシ接着剤は、当該接着剤に含まれるエポキシ樹脂分を100質量部としたときに、
(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体を主体とし、且つビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーを0〜15質量部含むビスフェノールA型エポキシ樹脂を45〜75質量部含み、
(2)エポキシ基を3個以上有する多官能型であって且つ芳香環を有するエポキシ当量が180以下のエポキシ樹脂を55〜25質量部含み、
硬化剤としてジシアンジアミド粉体を3〜6質量部含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項9】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記1液性エポキシ接着剤は、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを1〜4質量部含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項10】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記1液性エポキシ接着剤は、充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるアルミニウム粉体を10〜30質量部含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項11】
請求項10に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記1液性エポキシ接着剤は、充填材として粒径分布の中心が10〜30μmであるクレーを10〜30質量部さらに含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項12】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記1液性エポキシ接着剤は、粒度分布の中心が10〜30μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体を0〜30質量部含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項13】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記1液性エポキシ接着剤は、スペーサーとして粒径分布の中心が75〜150μmの水酸基付きポリエーテルスルホン樹脂粉体又は金属粉体をさらに含むことを特徴とする前記接合体。
【請求項14】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記被着材も請求項3に記載したCFRPプリプレグであることを特徴とする前記接合体。
【請求項15】
請求項8に記載したCFRPプリプレグと被着材の接合体であって、
前記被着材は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鉄鋼材から選択されるいずれか1種の金属合金であって、
当該金属合金表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、その粗度を有する面内には5〜500nm周期の超微細凹凸が形成され、且つ、表層が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であり、
前記CFRPプリプレグと当該金属合金が、前記超微細凹凸に侵入した1液性エポキシ接着剤を介して接合されていることを特徴とする前記接合体。
【請求項16】
請求項3に記載したCFRPプリプレグ同士の接合体であって、
双方のCFRPプリプレグは、接着剤を介さずに各々のCFRPプリプレグのマトリックス樹脂を介して接合されていることを特徴とする前記接合体。
【請求項17】
請求項3に記載したCFRPプリプレグと金属合金の接合体であって、
前記金属合金は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鉄鋼材から選択されるいずれか1種の金属合金であって、
当該金属合金表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、その粗度を有する面内には5〜500nm周期の超微細凹凸が形成され、且つ、表層が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であり、
前記CFRPプリプレグと当該金属合金が、接着剤を介さずに前記超微細凹凸に侵入した当該CFRPプリプレグのマトリックス樹脂を介して接合されていることを特徴とする前記接合体。
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−116950(P2011−116950A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234485(P2010−234485)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000206141)大成プラス株式会社 (87)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000206141)大成プラス株式会社 (87)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]