説明

CVD単結晶ダイヤモンド材料

化学気相堆積(CVD)を用いて製造される単結晶ダイヤモンド材料、特に、レーザーのような光学的用途における使用に適する特性を有するダイヤモンド材料が、開示される。特に、室温で測定した場合に、最長長さ内部寸法、複屈折及び吸収係数の好ましい特性を有するCVD単結晶ダイヤモンド材料が、開示される。ラマンレーザーを含めて、前記ダイヤモンド材料の使用、及び前記ダイヤモンドの製造方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相堆積(CVD)を用いて製造される単結晶ダイヤモンド材料に、特に、レーザーのような光学的用途における使用に適する特性を有するダイヤモンド材料に関する。
【背景技術】
【0002】
化学気相堆積(CVD)は、基板上に材料を堆積させるための確立された技術である。この技術は、特許及び他の文献に幅広く記載されている。ダイヤモンドの堆積では、CVD法は、通常、解離により炭素及び水素を供給できるガス混合物を供給することを含む。原料ガス混合物の解離は、エネルギー源によって、例えば、マイクロ波、高周波エネルギー、炎、高温フィラメント、又はジェットに基づく技術によって、引き起こされる。通常700℃と1200℃の間に保たれた、適切な基板上に反応性化学種を堆積させて、ダイヤモンドを生成する。
CVDダイヤモンド内の欠陥の存在をできる限り少なくすることは、いくつかの用途では、この上なく重要である。CVDダイヤモンドにおいては様々な種類の欠陥が発生する。成長雰囲気内の不純物がダイヤモンド格子内に混入すると、点欠陥が発生し得る。別の種類の欠陥は転位である。転位は、恐らく、ダイヤモンド成長面上でのピット(pit)の生成のせいで、結晶内にでき、成長の間にさらに大きくなり得る。このようなピットは、また、他の欠陥及び不純物を含むことの原因でもあり得る。
これらの欠陥の存在の増加は、CVDダイヤモンド材料のいくつかの特性にとって有害である。全ての種類の欠陥の存在の増加は、特定の特性に影響を及ぼし、例えば、熱伝導率を低下させる(フォノンが散乱されるので)。点欠陥は、また、光子の吸収に影響を及ぼし、その結果、光学的透明性にとって有害である。転位は、それらの異方性のある、格子の立方対称の乱れに起因する局所的複屈折を生じ、そのため、また、ダイヤモンド材料の光学特性にとって有害である。
ホモエピタキシャルCVDダイヤモンド層における転位は、それらの基板との界面で、又は界面近くで、核生成する傾向があることが見出された。転位は、通常、局所成長面に対して垂直に近い線方向を有し、その結果、歪みに関連する複屈折は特徴的な異方性を示し、成長方向に平行な視線方向で、より一層明白であることもまた見出された。
【0003】
国際公開WO2004/046427号は、結晶欠陥の成長を抑制するために、制御された低レベルの窒素を用いることによって、CVD法により「光学品質ダイヤモンド材料」を製造することを記載する。CVDダイヤモンド材料中にどの程度の窒素が存在すれば、有害な吸収及び結晶品質の低下を防ぐ又は小さくするのに十分であって、欠陥を生成する局所歪みを防ぐ又は小さくするのに充分に低いはずであるかが記載されている。
米国特許第6096129号は、成長したダイヤモンド材料が、出発基板より大きな面積を有するように、基板表面にダイヤモンド材料を成長させる方法を記載する。この参考文献は、初期の単結晶ダイヤモンドベース材料を用意し、その上に単結晶ダイヤモンド材料をホモエピタキシャル気相堆積させて、結果としてダイヤモンド材料を生成し、得られたダイヤモンド材料を切断、研磨して次のベース材料を形成し、このベース材料上に再び単結晶材料を成長させ、それによって、大きい面積を有する単結晶ダイヤモンド材料を生成することを記載している。米国特許6096129号の図4A〜4Cに最もよく例示されているように、最初のベース材料は、実質的に正方形で{100}側面を有し、成長は、上側{001}面で主に起こり、その成長は、上側{001}面から垂直にだけでなく、横方向にも起こるので、成長面は、初期のベース材料のものに比べて大きくなった横方向の寸法を有する。成長したダイヤモンド材料から切り出される次のベース材料は、横断面が正方形である。この正方形の側面は、初期のベース材料の側面に対して45°回転しており、<110>エッジ(edge)を有する。次のベース材料の正方形横断面積は、成長したダイヤモンド材料の{111}面の浸食(encroachment)のせいで、初期のベース材料の正方形横断面積の2倍未満である。次いで、次のベース材料は、さらなる成長に用いられ、このさらなる成長は、<110>エッジからである。好ましい成長速度比αは、少なくとも3:1であると記載されている。
成長速度比αは、CVD単結晶ダイヤモンド材料プロセスにおいてモニターできるパラメータであり、CVDによるダイヤモンド材料合成の技術分野においてよく理解されている。パラメータαは、<111>方向における成長速度(GR)(R<111>)に対する<001>方向における成長速度(R<001>)の比に比例し、次のように定義される。
【0004】
【数1】

【0005】
既知のCVD法において、パラメータαは、とりわけ、圧力、温度及びガス流条件を含めて、実施される1組の合成条件に応じて、通常1から3の範囲で変動することが知られている。パラメータαは、合成完了後に、成長したままのダイヤモンド材料について測定を行い、αを計算するために簡単な幾何学的関係式及び結晶学を用いることによって、計算できる。当技術分野において、一定の範囲の圧力、温度及びガス流組成の組合せの下で成長したダイヤモンド材料を測定することによって(やはり事後の測定によって)、特定の合成プロセスの「αパラメータマップ」を作成することもまた知られている。所与の1組の条件に対するαパラメータを評価する手順は、広く報告されているが、特に有用な参考文献は、Silva et al.,Diamond & Related Materials(2009),doi:10. 1016/j.diamond.2009.01.038である。Silva等は、予め決められたαパラメータの値を得るために、温度、ガス圧力、パワー、及びプロセス化学(例えば、メタン、酸素、窒素、水素及びアルゴンガスなどの量)を如何に選択するかを記載する。これらの特性の各々の正確な値は、Silvaによって用いられたプロセスに特有であるが、当業者は、どのような他のプロセスも容易に特徴付けることができ、Silva等の教示を用いて上の特性の各々の適正な値を選択することによって、所望のαパラメータを得ることができる。
単結晶ダイヤモンドは、米国特許第2005/0163169号に記載されているように、ラマンレーザーに潜在的用途が見出されている。このような用途は、使用し得るダイヤモンド材料に厳しい要求を課す。
【0006】
ラマンレーザーはラマン散乱の過程に依拠する。自発的なラマン散乱は、材料に入射する光子が、振動モードの初期のエネルギーレベルから励起仮想状態への、振動モードの励起を起こすときに起きる。次いで、この仮想状態は、元のレベルとは異なるエネルギーレベルに戻ることができ、入射光子とは異なるエネルギー(及び振動数)の光子を生成する。自発ラマン散乱された光子の大部分は、最終エネルギーレベルが初期のレベルより高く、その結果、散乱された光子は入射光子より低いエネルギーを有し、これはストークス散乱と呼ばれる。入射光子と散乱光子の間のエネルギー差が、結果的に1つのフォノン(量子化された格子振動)を生じる。
ラマンレーザーでは、散乱された光子は、同じ波長のラマン散乱光子をさらに誘導するために利用される:誘導ラマン散乱(SRS)。これは、Optics Express,2008 16 (23),18950-18955、及びOptics Letters,2009 34,2811-2813に記載されているように、通常、ラマン散乱媒質を適切な光共振器内に保つことによって、散乱された光子をラマン散乱媒質中に戻すことにより実現される。
自発ラマン散乱では、第1ストークス光子のラマン散乱のせいで、第2ストークス光子を観察することもまた可能である。この過程はさらに繰り返され、(ポンプ光子振動数−特性光子振動数の整数倍)に等しい振動数で、より高次の一連のストークス光子が観察できる。ラマンレーザーにおいて、これらの高次ストークス波長は基本的には、所望のストークス波長で共振するように光キャビティを単に設計することによって、デバイスの主放出波長であるように作製できる。
したがって、ラマンレーザーは、入力光の振動数を変えることが可能であり、有利には、通常のレーザー技術ではこれまで得ることができなかった、電磁スペクトルの部分にある振動数を有する出力光線を生成する。
【0007】
単結晶ダイヤモンドは、ラマンレーザー内のラマン散乱媒質として用いられる有望な材料である。単結晶ダイヤモンドは、大きなラマン利得係数を有し、広い範囲の電磁スペクトルで低い吸光度を有し(入力、中間及び出力振動数の選択における多様性を許容する)、過程の不可欠な部分としてフォノンの形で発生される熱エネルギーの良好な散逸体であり、また、低い熱膨張係数を有する(温度に関連する歪みを最小限にする)。
ラマン利得係数、gRは、次のように定義される。
【0008】
【数2】

ここで、T2は、光学フォノン干渉性消失時間(decoherence time)であり、λSは、ストークスシフトした出力波長であり、また、constは、材料に依存する比例定数である。
ラマンレーザーにおけるラマン散乱媒質として用いられるダイヤモンド材料を最適化する際には、いくつかの考慮すべき事柄が存在する。点欠陥は、吸収を最小限にする(したがって、起こり得る効率の低下を最小限にする)ために、できる限り少なくしなければならない。転位は、複屈折を最小限にする(したがって、材料が光の偏りに敏感な用途に用いられる場合に、有害な影響を最小限にする)ために、最小限に抑えなければならない。ラマン散乱媒質が、温度に関連する材料の歪みを最小限に押さえながら高入力パワーを処理することができるように、高熱伝導率を保持するために、全ての欠陥は少なくなければならない。材料はまた、入射光に対する長い内部経路長がレーザーデバイスの閾値(デバイスがレーザーとして働くのに必要とされる最小入力パワー)を下げるので、入射光に対する長い内部経路長を有していなければならない。
ラマン散乱媒質の結晶品質に加えて、結晶の対称軸に対するポンプビームの偏りは、ラマン利得係数に影響を及ぼす別のパラメータである。<110>方向に沿う偏りベクトルを有する直線偏光ポンプビームでは、ストークスビームは、ポンプビームに平行に偏っている。<100>方向に沿って偏ったポンプビームでは、ストークスビームは、ポンプビームに垂直に偏っている。これは、ダイヤモンド利得結晶(gain crystal)の特に好都合な結晶形状構成を示唆しており、この形状構成では、2対の{110}面及び1対の{100}面による矩形ブロックが作製される。p偏光によりブルースター角で{110}面を通してダイヤモンドラマン散乱媒質結晶をポンピングすることによって、入射面及び出口面での反射は、ポンプ及びストークスビームの両方でなくなる。より一層良好な形状構成は、結晶内のポンプビームが<110>方向に沿って進むように、入射/出口面でブルースターファセット(facet)を処理することを伴う。この場合、これは、キャビティの長さ方向に垂直な、ポンプビームの方向の成分がなく、そのため、ポンプビームが結晶の1つの側面から出ていく恐れがないこと、及びポンプビームが<110>方向に正確にあることを保証する。
【0009】
ブルースター角ポンピングに対応するようにダイヤモンドを作製することによって、コスト及び複雑さを付加する反射防止コーティングの必要性がなくなる。
ダイヤモンドラマンレーザーは、いくつかの配置構成で作動できる。最も簡単なのは、ラマン発生器としてあり、高強度パルスポンプレーザー2が、ダイヤモンドラマン利得結晶4に集光され、その結果、レーザーの出力ビーム6を構成する複数のストークス次数へ、ポンプ波長が変換される(図1)。これは、光キャビティを必要としない比較的簡単な設計であるが、実際には、このような配置構成は、出力スペクトルの制御が限定されているせいで、ほとんど用いられない。
第2の型の配置構成は、外部ラマン共振器である。この場合には、SRS閾値を下げ、変換効率を高め、また出力波長14を要求に合わせるために、ラマン結晶4が、入力ミラー8及び出力ミラー10を備える光共振器内に置かれる(図2)。この配置構成では、キャビティは、連続波(cw)又はパルスレーザー光源12により外部からポンピングされる。ダイヤモンドの高いラマン利得係数のせいで、ラマン結晶は、他のラマン利得材料に比べて短くしておくことができる。このような外部ダイヤモンドラマン共振器は、それゆえに、多様なレーザー光源に対する、簡単でコンパクトなアドオン可能振動数変換と見なすことができる。
第3の配置構成は、イントラキャビティ(intracavity)ラマン共振器であり、ポンプレーザー媒質16及びラマン結晶4の両方が、入力ミラー8及び出力ミラー10を備えポンプ波長及びストークス波長の両方で共振する1つのキャビティ内に置かれる(図3)。この配置構成は、出力ビーム20への変換を高める高イントラキャビティポンプ場を利用する。このキャビティは、また、パルスモード動作のためのQスイッチ18のような他の光学要素も含み得る。
したがって、長い内部寸法を維持しながら、点欠陥がより少なく、転位がより少ないダイヤモンド材料を製造することが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、減少した点欠陥密度、減少した転位密度、及び増加した内部寸法を有し、ラマンレーザー内のラマン散乱媒質のような、要求水準の高い用途に適する単結晶CVDダイヤモンド材料を提供することである。さらに、このような単結晶ダイヤモンドの製造方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、CVD単結晶ダイヤモンド材料に関し、このダイヤモンド材料は、室温で測定した場合に、次の特性:
7mmを超える最長長さ内部寸法、
0.01mm2を超える横断面積を有する光ビームを用い、7mmを超える内部経路に沿って決定して、1×10-5未満の複屈折、及び
1064nmの波長で決定して、0.010cm-1未満の吸収係数、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ラマン発振器配置構成におけるラマンレーザーの略図である。
【図2】外部ラマン共振器配置構成におけるラマンレーザーの略図である。
【図3】イントラキャビティラマン発振器配置構成におけるラマンレーザーを略図である。
【図4】例1によって製造されるCVD単結晶ダイヤモンド材料の寸法及び方位を示す図である。
【図5】ラマンレーザーに用いられるようにファセット加工された図4のCVD単結晶ダイヤモンド材料を示す図である。
【図6】レーザー用途に用いられる計算経路長を示す、図5のCVD単結晶ダイヤモンド材料を示す図である。
【図7】光学的に利用可能な最長寸法を示す、図5のCVD単結晶ダイヤモンド材料を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
用語「室温」は、20℃と25℃の間の温度を定義し、より具体的には20℃である。
本発明のCVD単結晶ダイヤモンド材料は、7mmを超え、好ましくは7.5mmを超え、好ましくは8mmを超え、好ましくは10mmを超え、好ましくは12mmを超え、好ましくは15mmを超え、好ましくは18mmを超え、好ましくは20mmを超え、好ましくは25mmを超える、最長長さ内部寸法を有し得る。CVD単結晶ダイヤモンドの長さの増加は、いくつかの用途に、より詳細にはラマンレーザー内のラマン散乱媒質として役立ち、この場合、長さの増加は、レージング閾値(lasing threshold)の低下に繋がる。ラマン散乱媒質は、その内部で誘導ラマン散乱が誘発される、ラマンレーザー内の材料である。
用語「最長長さ内部寸法」は、完全にCVD単結晶ダイヤモンド材料の本体内部にある最長直線距離、例えば、立方体の体対角線に関する。
CVD単結晶ダイヤモンド材料は、さらに、1×10-5未満、好ましくは3×10-6未満、好ましくは1×10-6未満、好ましくは3×10-7未満、好ましくは1×10-7未満の複屈折を示す。この複屈折は、0.01mm2を超える面積、0.1mm2を超える面積、1mm2を超える面積、5mm2を超える面積、25mm2を超える面積にわたって;また、少なくとも7mm、好ましくは少なくとも7.5mm、好ましくは少なくとも8mm、好ましくは少なくとも10mm、好ましくは少なくとも12mm、好ましくは少なくとも15mm、好ましくは少なくとも18mm、好ましくは少なくとも20mm、好ましくは少なくとも25mmの経路長にわたって決定され得る。この減少した複屈折は、CVD単結晶ダイヤモンド材料内を通るどのような光の偏光解消(depolarisation)も減少させ、そのために偏光解消損失を減少させる。
【0014】
「偏光解消損失」は、ダイヤモンドの過度に大きな複屈折によって引き起こされるポンプ又はストークスビームの偏りの意図しない変化に起因する、光エネルギー損失を表す。このような損失の例は、ポンプ及びストークスビームがどちらもp偏光であるように、ダイヤモンドラマン利得媒質がブルースター角でポンピングされる特別な場合である。ダイヤモンドの如何なる複屈折も、両方のビームの偏光の回転を引き起こし、ビームの一部が結晶境界で反射され、次いで光キャビティから失われる。
複屈折は、Glazer et al. Proc. R. Soc. Lond. A December 8,1996 452:2751-2765に概略が示された方法によって決定できる。この方法を実施する市販の装置は入手可能であり、Metripolと呼ばれる。Metripolは、複屈折を示す試料について、2つの直交偏光ビームの間の位相の遅れδのサイン(sine)を測定し、ここで、δ=2π(Δn)d/λで、dは試料の厚さであり、λは測定に用いられる光の波長であり、ここでは550nmである。λ及びdは知られているので、これによりΔnが計算される。Metripolは、所与の方向における試料の全長に沿ってδを測定し、この計算されたΔnは、測定ビームの横断面積である領域に渡る、測定方向に沿った複屈折の平均値を表す。この研究においては、測定されたΔnは、Metripol装置による、550nmの波長での、測定方向に沿った平均値であると理解されている。
【0015】
CVD単結晶ダイヤモンドは、また、1064nmの波長の光で決定して、0.010cm-1未満、好ましくは0.007cm-1未満、好ましくは0.005cm-1未満、好ましくは0.003cm-1未満、好ましくは0.001cm-1未満の吸収係数を示す。吸収係数の減少は、CVD単結晶ダイヤモンド材料内を通る光の損失を減少させ、高い光学的透明性を生じる。このような高い光学的透明性により、CVD単結晶ダイヤモンド材料が、ラマンレーザー用途でラマン散乱媒質として用いられる場合の吸収損失が少なくなる。基本的に、最も重要である吸収係数は、材料が用いられる用途において用いられるビーム経路に沿って測定された吸収係数である。実際には、吸収係数は、より一般的に、測定装置によって用いられるビーム経路に沿って測定される。実際には、吸収係数は、実質的に材料の全体にわたって測定され得る。
吸収係数は、レーザー熱量測定を用い、熱電対を試験試料に取り付けて、要求される波長のレーザービームの通過により生じる温度上昇を測定することによって求められる。
CVD単結晶ダイヤモンド材料は、さらに、7mmを超え、好ましくは7.5mmを超え、好ましくは8mmを超え、好ましくは10mmを超え、好ましくは12mmを超え、好ましくは15mmを超え、好ましくは18mmを超え、好ましくは20mmを超え、好ましくは25mmを超える、光学的に利用可能な最長長さ寸法を含み得る。光学的に利用可能な寸法の増加は、光学的用途に、例えば、ラマンレーザーのラマン散乱媒質に役立つ。光学的に利用可能な寸法の増加は、ラマンレーザーのレージング閾値を下げる。
【0016】
「光学的に利用可能な最長長さ寸法」は、ダイヤモンド材料が屈折率n=1の空気によって囲まれている場合に、光が、1つの表面に入り別の表面で出ていくときに、それに沿って進むことができる、CVD単結晶ダイヤモンド材料の本体内の最長直線距離を表す。光ビームがCVD単結晶ダイヤモンド材料を出ていくためには、それは、表面垂線に対して測定される臨界角より小さい角度で、CVD単結晶ダイヤモンド材料の内部表面に入射しなければならない。角度が臨界角を超えると、光ビームは、CVD単結晶ダイヤモンド材料を出ていかず、内部全反射を行うであろう。したがって、CVD単結晶ダイヤモンド材料の光学的に利用可能な最長長さ寸法は、CVD単結晶ダイヤモンド材料内で、その材料の2つの面の間に延びる最長直線であり、その線は、2つの対抗する表面のそれぞれに、その表面に垂直な方向に対して測定した場合に、臨界角であるか、又はそれ未満である角度で入る。
臨界角は、光が入射する界面の両側の材料の屈折率に依存する。例えば、空気−ダイヤモンド界面で、ダイヤモンドから空気へと進む光は、内部全反射されるためには、表面垂線に対して測定して約24.4°を超える角度で入射しなければならないであろう。この臨界角は、用いられている光の波長に屈折率が依存するので、単なる例示である。
CVD単結晶ダイヤモンド材料は、さらに、室温で測定して、4psを超え、好ましくは6psを超え、好ましくは8psを超え、好ましくは10psを超え、好ましくは15psを超えるものとして決定される、光学フォノンの干渉性消失時間(T2)を示し得る。T2はラマン利得係数に比例し、それゆえに、T2の増加は、所与の入力パワーから、より大きな出力パワーを生じさせ得るので、ラマンレーザー用途におけるCVD単結晶ダイヤモンド材料の性能を向上させ得る。
【0017】
ラマン利得係数gRとT2との間のこの比例関係を示す式は、次の通りである。
【0018】
【数3】

ここで、T2は、光学フォノン干渉性消失時間であり、λSは、ストークスシフトした出力波長であり、constは、材料に依存する比例定数である。
用語「入力パワー」は、ラマン散乱媒質に入射するポンピング光ビームのパワーを表す。ポンピング光ビームは、ラマン散乱媒質内でラマン散乱を引き起こすために用いられる光ビームである。用語「出力パワー」は、ラマン散乱媒質から放出される誘導ラマン散乱ビームのパワーを表す。
【0019】
光学フォノンの干渉性消失時間は、ストークスラマン散乱中に生成される光学フォノンの寿命である。T2の上限は、2つの音響フォノンへの光学フォノンの、続いて起こる減衰によって定まる。しかし、本発明者等は、欠陥を含むダイヤモンド内のT2が、欠陥での光学フォノンの散乱のせいで、この上限に対して低下することを理解している。T2を増加させ、より大きなラマン利得係数を得るために、これらの欠陥は減らされなければならない。このような欠陥には、同位体不純物(C13が含まれる)、点欠陥、欠陥複合体、転位及び他の歪みの原因のような広がった欠陥が含まれる。
【0020】
2は、材料のラマンスペクトルの測定から求められる、1次ラマン線幅から推量できる。しかし、高品質単結晶ダイヤモンド(長いT2と、そのために狭いラマン線幅を生じる)では、このような測定には、分光計の分解能と励起光源の線幅によって、限界があり得る。直接T2を正確に測定する別の方法は、Waldermann et al. Phys. Rev. B 78 155201(2008)に記載されている、過渡コヒーレント超高速フォノン分光(Transient Coherent Ultra−fast Phonon Spectroscopy、TCUPS)の方法である。この方法は、1対の連続コヒーレントパルスによる、ラマン活性媒質の励起を含み、このパルスの長さは、T2に比べて短い。第1パルスは結晶でラマン散乱され、ストークス光子及び光学フォノンを生じる。第2パルスは、この過程を繰り返す。2つのストークスパルスは、それらが光学フォノンのT2未満の時間によって隔てられている場合、位相コヒーレントであろう。これは、分光計における干渉縞として検出できる。こうして、2つのストークスパルスの間の干渉縞の振幅減衰を、パルス間隔の関数として測定することによって、T2は推量できる。
【0021】
CVD単結晶ダイヤモンド材料は、また、CVD単結晶ダイヤモンド材料内に、中性電荷状態の孤立置換型(single−substitutional)窒素を、EPRによって測定して、5×1015原子cm-3以下で、好ましくは1×1015原子cm-3未満、好ましくは5×1014原子cm-3未満の含有量で含み得る。窒素含有量の低下は、CVD単結晶ダイヤモンド材料内の点欠陥濃度を下げる。これは、有利にも、吸収係数を減少させ、T2を増加させ、それぞれ、損失を低下させ、ラマン利得係数を増大させる。
【0022】
中性電荷状態の孤立置換型窒素の含有量は、電子常磁性共鳴(EPR)を用いることによって測定される。この方法は当技術分野においてよく知られているが、完全を期すために、ここに要約する。EPRを用いて実施される測定では、特定の常磁性欠陥(例えば、中性孤立置換型窒素欠陥)の存在度(abundance)は、その中心に由来する全てのEPR吸収共鳴線の積分強度に比例する。これにより、マイクロ波パワーの飽和の影響を防ぐ又は補正するように注意が払われれば、その積分強度を、基準試料で観察されるものと比較することによって、欠陥の濃度が決定される。連続波EPRスペクトルは、場変調を用い、記録されるので、EPR強度を、したがってまた欠陥濃度を求めるためには、2重積分が必要とされる。2重積分、ベースライン補正、限界のある積分端点などに付随する誤差を、特に、重なったEPRスペクトルが存在する場合に、最小限にするために、スペクトルフィッティング法(Nelder−Meadのシンプレックスアルゴリズム(J. A. Nelder and R. Mead、The Computer Journal,7(1965),308)を用いる)が、対象とする試料に存在するEPR中心の積分強度を求めるために用いられる。これは、試料に存在する欠陥のシミュレーションスペクトルで実験スペクトルをフィッティングすること、及びシミュレーションから、それぞれの積分強度を求めることを伴う。経験的に、ローレンツ型及びガウス型の曲線形状はいずれも、実験EPRスペクトルによくフィッティングせず、そのため、シミュレーションスペクトルを生成するために、ツァリス(Tsallis)関数が用いられる(D.F. Howarth,J.A. Weil,Z. Zimpel,J. Magn. Res.,161(2003),215)。さらに、低窒素濃度の場合には、良好な信号/雑音比を得るために、EPR信号の線幅に近い、又はそれを超える変調振幅を用いることが、多くの場合、必要である(有限の時間枠内に正確な濃度の決定を可能にする)。このため、記録されたEPRスペクトルへの良好なフィッティングを生じるように、ツァリス線幅と共に、擬似変調が用いられる(J.S. Hyde,M. Pasenkiewicz-Gierula,A. Jesmanowicz,W.E. Antholine,Appl. Magn. Reson.,1(1990),483)。この方法を用いて、濃度は、±5%より良好な再現性で求めることができる。
【0023】
本発明の合成CVD単結晶ダイヤモンド材料に存在する、中性電荷状態の孤立置換型窒素の濃度は、また、UV可視吸収分光を用い、270nmのピークを用いても測定され得る。UV可視吸収分光の方法は、当技術分野においてよく知られている。
合成CVD単結晶ダイヤモンド材料における中性電荷状態の孤立置換型窒素の濃度は、1332cm-1と1344cm-1の波数で、赤外吸収ピークを測定することによって見出され得る。1cm-1の分解能を有する分光計を用いると、1332cm-1及び1344cm-1のピークに対する吸収係数値(cm-1)と、正に荷電した状態及び中性状態における孤立窒素の濃度との間の変換因子は、それぞれ、5.5(S. C. Lawson et al.,J. Phys. Condens. Matter,10(1998),6171-6181)及び44である。しかし、1332cm-1のピークから導かれる値は、上限にすぎないことに注意しなければならない。
あるいは、窒素の全濃度は、2次イオン質量分析(SIMS)を用い、求められ得る。SIMSは、ダイヤモンド中の窒素に対して、約0.1ppmの検出下限を有し、その使用は、当技術分野においてよく知られている。CVD法によって製造された合成ダイヤモンドでは、固体中に存在する大多数の窒素は、中性孤立置換型窒素の状態にあり、その結果、全窒素濃度のSIMSによる測定は、必然的に、中性電荷状態の孤立置換型窒素濃度に対する上限を与えるが、それらは、また、通常、その実際の濃度の妥当な概略値も与える。
【0024】
CVD単結晶ダイヤモンド材料は、さらに、104転位cm-2未満、好ましくは3×103転位cm-2未満、好ましくは103転位cm-2未満、好ましくは102転位cm-2未満、好ましくは10転位cm-2未満の転位密度を含み得る。転位密度の減少により、より低い複屈折を示すダイヤモンド材料が得られる。複屈折の低下は、それが偏光解消損失を減少させるので、有利である。
転位密度は、”X-ray topography studies of dislocations in single crystal CVD diamond”、Gaukroger et al.,Diamond and Related Materials,Volume 17,Issue 3、March 2008,262-269に記載されている方法を用い、X線トポグラフィーによって、検体となる所与の体積における転移の数を評価することによって求められる。X線トポグラフィーは、回転式アノードX線発生装置に付けられたラングカメラを用い、記録される。検体の全体に渡る転位についての情報を得るために、その全体積を曝すように、検体を平行移動してビームを通すことによって、投影トポグラフが記録される。
【0025】
バーガースベクトルの解析では、投影トポグラフは、4つの異なる<111>反射で記録される。ダイヤモンドにおける転位は、通常、<110>バーガースベクトルを有する。2つの異なる{111}面がそれらに沿って交差する線によって、6つの異なる<110>方向が与えられる。良い近似で、転位は、そのバーガースベクトルが、回折の原因となる原子層に平行である場合、所与のX線トポグラフでは見えない。これは、異なる<111>反射を用いてそれぞれが生成された、1組の4つのトポグラフで、<110>バーガースベクトルを有する所与の転位は、2つのトポグラフに存在するはずであるが、他の2つのトポグラフにはなく、後の2つのトポグラフでは、バーガースベクトルは回折面の交差線によって与えられることを意味する。
【0026】
次いで、コンピュータプログラムが、個々の線が検体の上面及び下面を突き抜ける点に対応する座標の対を特定するために、用いられる。このようにして、記録されたトポグラフのそれぞれに対して、線の位置及びコントラスト強度のリストを集めることができる。異なるトポグラフでの設定許容差内の座標対の合致は、同一の線が画像化されたという印と見なされる。これらの4つの画像を比較することによって、検体となった体積内の転位の全数の目安が得られる。
CVD単結晶ダイヤモンド材料は、さらに、室温で測定して、2000Wm-1-1を超え、好ましくは2100Wm-1-1を超え、好ましくは2300Wm-1-1を超え、好ましくは2500Wm-1-1を超える、熱伝導率を示し得る。熱伝導率の増加は、有利にも、CVD単結晶ダイヤモンド材料の温度に関連する歪みを減少させる。このような歪みは、例えば熱レンズ効果を増大させ、CVD単結晶ダイヤモンド材料の光学的特性にとって有害であり得る。CVD単結晶ダイヤモンド材料が、ラマンレーザーにおけるラマン散乱媒質として用いられる場合、熱レンズ効果の増大はビームを歪め得る。より大きな熱伝導により、このような有害な歪みにより損なわれることなく、より大きな入力パワーで、ラマンレーザーは作動され得る。
【0027】
熱伝導率は、Twitchen et al. Diamond and Related Materials,10(2001) 731によって記載されるように、レーザーフラッシュ法によって測定される。レーザーフラッシュ法では、試料の温度が正確に分かることを保証するために、試験されているダイヤモンドがクライオスタットに載せられる。高エネルギーの短いレーザーパルス(約8nsの持続時間)が用いられ、ダイヤモンドプレートの1つの面に当てられる。対向する面での温度上昇が、高速(20MHz)遠赤外ポイント光−起電力検出器により測定される。温度上昇を時間と共に記録することによって、熱拡散率が計算できる。次いで、ダイヤモンド材料の熱容量及び密度が分かれば、熱伝導率は、この熱拡散率の値から計算できる。
CVD単結晶ダイヤモンド材料は、さらに、多段階成長法の第2段階又はその後の段階として、成長され得る。多段階成長法の段階は、通常、成長の間、管理されるCVD反応器条件のいずれかの変更によって区別され得る。このようなCVD反応器条件は、これらに限らないが、ガス圧力、ガス温度、ガスの化学組成(窒素の濃度を含む)、及び基板温度を含む。CVD反応器条件のこれらの変更は、これらの段階の各々の間に堆積されるダイヤモンドの特性に影響を及ぼし得る。本発明者等によって、成長の間のCVD反応器条件を変えることによって、前に堆積されたダイヤモンドの他の特定の特性を維持しながら、後で堆積される、堆積ダイヤモンドの特定の特性を変えることが可能であることが見出された。この驚くべき観察により、成長過程の各段階における堆積ダイヤモンドの特性の制御が向上する。
この識見の利点をさらに例示するために、次の状況が示される。国際公開WO2004/046427号から、CVD単結晶ダイヤモンド内の転位の存在を最小限にするために、CVDによるダイヤモンドの製造中に用いられるガスに、通常、300ppbの窒素が存在することが重要であることが知られている。この窒素の存在は、また、ダイヤモンドの成長面でのピットの生成を減らし、転位密度の減少は、これらのピットの生成の減少に関連付けられ得る。ピットは、また、他の欠陥及び材料への不純物の含有の原因となり得る。
【0028】
管理されたレベルの窒素を加えることは、CVDダイヤモンドの転位の制御に関して利点があり得るが、特定の用途では、低い転位密度を維持すると同時に、窒素のレベルを下げることが望ましい。これは、ラマンレーザー内のラマン散乱媒質としてCVD単結晶ダイヤモンド材料を用いる場合に当て嵌まる。このような用途では、窒素の混入の低下により、通常、吸収がより少なくなり、このために、吸収に関連するキャビティでの損失が減少し、転位密度の低下により、複屈折に関連する偏光消失が減少し得る。こうして、ラマン散乱媒質として用いられるCVD単結晶材料における窒素及び転位密度の減少は、より低い閾値及びより大きな効率を有するラマンレーザーに繋がり得る。
CVD成長の1つの段階において、低転位密度ダイヤモンドを堆積させ、次いで、その後の段階のCVDによる製造の間に用いられるガスの窒素含有量を減らして、その段階での単結晶ダイヤモンド材料内の窒素混入を減らすことが可能であることが見出された。驚くべきことに、後の段階のCVDによる製造の間に用いられるガス内の窒素含有量の減少は、ピットの生成及び転位密度の相応する増加に繋がらないことが見出された。その結果、この後の段階の間に堆積されるCVD単結晶ダイヤモンド材料は、転位密度の低下及び窒素混入の減少の両方から利益を得る。これにより、この材料は、求められる用途、例えば、ラマンレーザー内のラマン散乱媒質に理想的になる。
堆積されるダイヤモンド材料内の窒素の混入は、CVDプロセス中に用いられる気相内の窒素濃度を変えることによって、変えることができる。特に、窒素の混入は、CVD反応器内の気相の窒素含有量を減らすことによって、減らすことができる。堆積されているダイヤモンド材料内の窒素の混入を変えるために、他のCVD反応器条件が変更され得る。
気相における窒素の十億分率(ppb)及び百万分率(ppm)が挙げられている場合、これらは、常に、分子窒素に対して計算されている。
【0029】
ダイヤモンドの「成長表面」は、CVDプロセスにおいてダイヤモンドの堆積が起こる表面に相当する。
用語「転位」は、刃状転位、らせん転位、混合転位、及び転位束(dislocation bundle)内の転位を含む、一群の線欠陥を表す。
窒素の混入は、CVD単結晶ダイヤモンド材料が成長するときに、その内部に窒素が含められることを表す。このような混入された窒素は、置き換わって格子内に、又は格子間に(interstially)、或いは欠陥複合体として、原子として混入され得る。窒素の混入速度は、一定の領域の上での、基板に垂直な、所与の距離のダイヤモンドの成長に対して混入される窒素の量の尺度を表す。
ダイヤモンドのCVDによる製造の範囲内で、多段階成長法を用いることによって制御され得るさらなる特性は、異なる結晶学的方向における相対成長速度である。このような相対成長速度は、パラメータαによって特徴付けることができる。パラメータαは、次のように定義される。
【0030】
【数4】

ここで、R<001>は、<001>方向にける成長速度であり、R<111>は、<111>方向にける成長速度である。パラメータαは、特定のCVD反応器条件、例えば、ガス圧力、ガス温度、ガスの化学組成(窒素濃度を含む)、及び基板温度によって制御できる。それゆえに、堆積されている単結晶ダイヤモンドの結晶学的方位(通常、基板の結晶学的方位によって決められる)を知ることによって、また、αに影響を及ぼすCVD反応器条件の1つを変えることによって、堆積されるダイヤモンドの幾何形状の発展に何らかの制御を加えることが可能である。対象とする単結晶ダイヤモンド材料の製造前の、先立つ段階の少なくとも1つでのαパラメータは、1.4から2.6、好ましくは1.6から2.4、好ましくは1.8から2.2、好ましくは1.9から2.1の範囲にある。
【0031】
CVD合成条件を要求に合わせることによって、例えば、前記の好ましい範囲のαでCVDダイヤモンド材料を成長させることによって、[001]方向における成長速度が、主(001)成長面のすぐ下及びそれに隣接する{111}ファセットの生成を実質的に妨げるように、<111>方向における成長速度に比べて丁度十分なだけ大きく、また、主(001)成長面自体が不安定になり、ヒロック(hillock)及び/又は他の有害な特徴(feature)を生成することを妨げるのに丁度十分なだけ小さいことが見出された。他の全てのことが同じであれば、好ましい限界値をαが超えていれば、{111}ファセットが形成され、双晶になり得るので、その結果、双晶が主(001)成長面を浸食し、そのために成長結晶の横方向の寸法のさらなる増加を妨げる若しくは停止させることが見出された。同様に、他の全てのことが同じであれば、αが好ましい限界値未満である場合、横方向の成長が限定され、(001)表面での滑らかな成長が失われることが見出された。
【0032】
この制御は、先に記載された多段階成長法と組み合わせて利用でき、この場合、CVD反応器内のプロセスガス中の窒素濃度は、低転位密度及び低窒素含有量を都合よく有するCVD単結晶ダイヤモンド材料を得られるように、成長の第1段階の後の成長段階で減少した。窒素含有量は、また、パラメータαにも影響を及ぼす。本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する段階の前の、少なくとも1つの成長段階の間、転位の生成を最小限にする窒素の存在が、また、<100>方向に沿った成長を促進する。その結果、主{100}成長面及び{100}側面を有する基板を用いる場合、ホモエピタキシャル成長するときに、主成長面が基板のそれより大きいように、堆積ダイヤモンドが成長することが可能である。CVD反応器内のガスの窒素含有量が減少すると、横方向の成長速度が低下するが、この大きくなった成長表面上に、さらなる堆積が起こる。これは、本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンド材料を堆積させるために用いられる後の段階は、基板の寸法に合致するように強いられない寸法をもつことを意味する。1つの段階から次の段階への移行は、本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する成長段階の前の成長段階が、成長表面積の所望の増大を達成したときに行われるように選択できる。
【0033】
CVD単結晶ダイヤモンド材料を堆積する前に成長表面積を大きくできることは、結果として、通常得られる基板に比べて、低下した転位密度、低下した窒素含有量及び増加した寸法を有するCVD単結晶ダイヤモンド材料を生じる。これらの全ては、単結晶ダイヤモンド材料を、ラマンレーザー内のラマン散乱媒質として用いる場合に有利である。これらの特性は、複屈折を減少させ、吸収を減少させ、またCVD単結晶ダイヤモンド材料内の経路長を増大させ、その材料がレーザーとして働くのに必要とされる閾値パワーを低下させる。
「成長速度」は、CVD単結晶ダイヤモンドが合成される(又は成長する)速度を表し、単位時間当たりに、成長表面が、その表面に垂直な方向において位置を変える距離として定義される。
本明細書において用いられている結晶学的表記は、よく知られているミラー指数のそれであり、{hkl}は、結晶の対称性によって(hkl)に関連付けられる1組の面を表し、<uvw>は、結晶の対称性によって[uvw]に関連付けられる1組の結晶学的方向を表す。
「ホモエピタキシャル」は、堆積ダイヤモンドに関係する場合、それが堆積される基板と同じ結晶学的方位を、それが有することを意味する。
【0034】
本明細書では、CVD単結晶ダイヤモンド材料内の「経路長」は、材料に入射した光が、反射されることなく材料内を進む距離であると定義されている。したがって、それは、CVD単結晶ダイヤモンド材料の寸法、及び材料内の光の相対的方向に依存する。
多段階成長法の間に、堆積ダイヤモンド材料の特性を変えるために、CVD反応器内のガスの窒素含有量を用いる場合、本明細書では、初期段階の間、窒素含有量は相対的に多く、次いで、後の段階では、減らされるであろうと記載された。
本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する段階の前の、多段階成長法の少なくとも1つの成長段階において、CVD反応器内のガスにおける窒素含有量は、5ppm未満であり、2ppm未満であり得るし、1.5ppm未満であり得る。CVD反応器ガス内の窒素含有量は、300ppbを超え、好ましくは400ppbを超え、好ましくは500ppbを超え、好ましくは600ppbを超え、好ましくは700ppbを超え、好ましくは800ppbを超え、好ましくは1000ppbを超える。CVD反応器内のガスにおける窒素含有量の増加は、転位の生成の阻害を向上させる。
【0035】
本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンドを製造する段階の前の、多段階成長法の少なくとも1つの成長段階において、堆積単結晶ダイヤモンド材料内に混入される窒素含有量は、EPRによって測定して、5×1017原子cm-3未満であり、2×1017原子cm-3未満であり得る。堆積単結晶ダイヤモンド材料内に混入される窒素含有量は、EPRによって測定して、1×1016原子cm-3を超え、5×1016原子cm-3を超え得る。
本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンドを製造する段階の前の、多段階成長法の少なくとも1つの成長段階において、堆積ダイヤモンドの厚さは、30μmを超え、0.1mmを超え得るし、0.2mmを超え得るし、0.5mmを超え得るし、1mmを超え得るし、1.6mmを超え得るし、1.9mmを超え得るし、2mmを超え得る。堆積層の厚さは、20mm未満であり得るし、10mm未満であり得るし、5mm未満であり得るし、3mm未満であり得る。
【0036】
本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する成長段階の間、CVD反応器内のガスにおける窒素含有量は、250ppb未満、好ましくは200ppb未満、好ましくは150ppb未満、好ましくは120ppb未満である。CVD反応器内のガスにおける窒素含有量の低下は、結果として、CVD単結晶ダイヤモンド材料内の窒素含有量を低下させ、その結果、吸収係数を小さくする。CVD反応器ガス内の窒素含有量は、0.001ppbを超え、0.01ppbを超え得るし、0.1ppbを超え得るし、1ppbを超え得るし、10ppbを超え得る。
本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する成長段階の間、堆積単結晶ダイヤモンド材料内に混入される窒素含有量は、EPRで測定して、5×1015原子cm-3未満、好ましくは1×1015原子cm-3未満、好ましくは5×1014原子cm-3未満である。この窒素含有量の低下は、有利にも、吸収係数を減少させる。堆積単結晶ダイヤモンド材料内に混入される窒素含有量は、EPRで測定して、1×1010原子cm-3を超え、1×1011原子cm-3を超え得るし、1×1012原子cm-3を超え得るし、1×1013原子cm-3を超え得るし、5×1013原子cm-3を超え得る。
【0037】
本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する成長段階の間、堆積材料の厚さは、30μmを超え、0.1mmを超え得るし、0.2mmを超え得るし、0.5mmを超え得るし、1mmを超え得るし、1.6mmを超え得るし、1.9mmを超え得るし、2mmを超え得る。堆積材料の厚さは、20mm未満であり、10mm未満であり得るし、5mm未満であり得るし、3mm未満であり得る。
成長プロセスの各段階で堆積されるダイヤモンド材料の層は、30μmと20mmの間の、成長方向で測定される厚さを有する。各層は、安定したCVD反応器条件を維持して形成される。好ましくは、堆積材料内の窒素の混入における変化が堆積段階を区別する場合、ダイヤモンド材料内の窒素レベルは、要求される窒素含有量レベルの±50%以内、好ましくは要求される窒素レベルの±30%以内、好ましくは要求される窒素レベルの±20%以内、より好ましくは要求される窒素含有量レベルの±10%以内、に保たれる。
新しい成長段階を開始するために変更されているCVD反応器条件の変更を実施するために要する時間、すなわち、CVD反応器ガスの窒素濃度を、1つのレベルから別のレベルに変えるための時間は、重要ではない。
用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料を形作る層は、必ずしも最後の段階である必要はなく、第1段階の後の任意の成長段階で製造され得る。
用語「用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料」は、本発明の実施形態によって定義されるCVD単結晶ダイヤモンド材料を表す。
【0038】
多段階成長プロセスが完了した後、用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料を堆積させた段階の前又は後の段階で堆積されたダイヤモンド材料は、用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料から、機械的切断又はレーザー切断によって分離され、次いで、対象とする用途で求められる形に、さらに加工される。代わりに、他の層が保持され、用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料に付いていてもよい。他の層は、用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料の支持体のような、機能的部分をさえ形作り得る。さらに、用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料は、それ自体、複数の段階にわたって成長して、複数層からなるCVD単結晶ダイヤモンド材料を生成していてもよいが、但し、全ての層が本発明の実施形態に求められる特性を示すものとする。
【0039】
CVD単結晶ダイヤモンド材料を製造するために用いられる多段階成長法は、2つの段階からなっていてもよい。多段階成長法に関して記載されている全ての実施形態は、2段階成長法にも同様に適用され得る。
用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する段階の前の、先立つ成長プロセス段階で堆積されるダイヤモンドは、1064nmの波長で、0.010cm-1を超える吸収を有し得る。これは、用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する段階の前の、成長段階に起因し、要求される特性を有さない。
用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する段階の前の、先立つ成長プロセス段階で堆積されるダイヤモンドは、7mm未満の最長長さ内部寸法を有し得る。これは、やはり、用いられるCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する段階の前の、成長段階に起因し、要求される特性を有さない。
CVD単結晶ダイヤモンド材料の小さい複屈折、小さい吸収、及び増加した寸法により、それは、光学的用途における使用にとって理想的になる。
CVD単結晶ダイヤモンド材料は、ラマンレーザーに使用され得る。詳細には、それは、ラマンレーザー内のラマン散乱媒質として使用され得る。ラマンレーザーの構成は、本明細書においてすでに記載された形の1つを取り得る。
ラマンレーザーのポンピング光ビームは、ラマン散乱媒質として働くCVD単結晶ダイヤモンド材料内の少なくとも1つの転位の転位線の方向に実質的に垂直であるように、CVD単結晶ダイヤモンド材料に入射し得る。このことには、CVD単結晶ダイヤモンド材料内の転位の存在によって引き起こされる複屈折が、入射光ビームが転位の転位線に垂直に進む場合に、入射光ビームが転位線に平行に進む場合に比べて、小さいという利点がある。入射光ビームを転位線に垂直な方向に向けることによって、複屈折は減少し、これは、複屈折に関連する偏光損失の低下に繋がる。さらに、ラマンレーザーの光ビームは、少なくとも1つの転位の転位線に、実質的に平行であり得る。
【0040】
転位の転位線は、刃状転位では余分な原子半面の端に沿って、また、らせん転位のスパイラルの中心に沿って、延びる線である。
転位線に対して「実質的に垂直である」光ビームに言及される場合、これは、垂線の20°以内、好ましくは垂線の10°以内、好ましくは5°以内、好ましくは2°以内を意味する。通常、転位線は、CVD法によって製造される単結晶ダイヤモンド材料では、Friel et al. Diamond & Related Materials 18(2009) 808-815によって記載されるように、成長方向に実質的に平行(成長面に垂直)である。「実質的に平行」は、成長面に対する垂線の20°以内、好ましくは垂線の10°以内、好ましくは5°以内、好ましくは2°以内を意味する。
用いられる単結晶ダイヤモンド材料は、互いに実質的に平行で成長方向に実質的に平行な向きにある、複数の転位を含み得る。この場合、光ビームは、この複数の転位線に、実質的に垂直であるように、方向づけることができる。複数の転位を考えるとき、20%未満、好ましくは10%未満、好ましくは5%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1%未満が、成長方向に実質的に平行になっていないと考えられる。
【0041】
ラマン散乱媒質として、本発明のCVD単結晶ダイヤモンド材料を含むラマンレーザーは、ラマン散乱媒質として別の材料を用いるラマンレーザーより大きな効率を有するであろう。これは、ラマンレーザーに用いられる他の候補材料より大きなラマン利得係数、及び高い熱伝導率を有するダイヤモンドに起因する。ラマンレーザーにラマン散乱媒質として用いられる候補材料について、関連する特性の比較が表1に記載されている。ダイヤモンドの優れたラマン利得係数(1.064μmの一定波長の入射光及び室温での)及び熱伝導特性が、疑いなく明白である。
ラマンレーザー内のラマン散乱媒質として、光学的用途にダイヤモンドを用いるさらなる利点は、表1に記載されているスペクトルの透明領域から了解できる。ダイヤモンドは、他の候補材料より、電磁スペクトルのより広い領域で、光学的に透明である。これにより、ラマンレーザー及び他の用途において用いられる光の、入力、中間及び出力振動数の選択の幅が広がる。
無次元の熱性能指数を、様々な材料の比較を助けるために用いることができる。熱性能指数、F0Mは、次のように定義される。
【0042】
【数5】

ここで、κは材料の熱伝導率であり、gRは材料のラマン利得係数であり、Lは材料の長さであり、Δλは材料のラマン波長シフトであり、またdn/dTは温度による屈折率の変化率である。ダイヤモンドに6mmの、他の全ての材料に25mmの結晶長さを仮定すると、ダイヤモンドが最高の熱性能指数を有することが分かる。ダイヤモンドのこの熱性能指数を増加させることができれば、ラマンレーザー用途に用いられた場合のダイヤモンド材料の性能のさらなる向上を表すであろう。このような増加は、ラマン利得係数を増加させること、熱伝導率を増加させること、又は結晶の長さを増加させることによって実現できる。
結晶の長さは、結晶における光学的経路長であり、材料内で入射ビームが進む長さである。
CVD単結晶ダイヤモンド材料では、1.064μm及び室温での熱性能指数は、600を超え、好ましくは1000を超え、好ましくは2000を超え、好ましくは3000を超え、好ましくは4000を超え得る。CVD単結晶ダイヤモンド材料では、1.064μmでの熱性能指数は、12000未満であり得る。
【0043】
【表1】

【0044】
表1によって示されるように、他のラマン利得材料に比べて、本来的に高いダイヤモンドのgR及び広いスペクトル透明性は、現在、固体状態レーザー光源が不足している、1μmをかなり超える波長で出力を生じ得るダイヤモンドラマンレーザーを製造する可能性を開く。
【0045】
本発明のCVD単結晶ダイヤモンド材料をラマン散乱媒質として用いるラマンレーザーは、500μm未満の波長を有する光を生成し得る。
本発明のCVD単結晶ダイヤモンド材料をラマン散乱媒質として用いるラマンレーザーは、1μmを超え、代わりに5μmを超え、代わりに10μmを超え、代わりに50μmを超え、代わりに100μmを超える波長を有する光を生成し得る。
本発明のCVD単結晶ダイヤモンド材料をラマンレーザーのラマン散乱媒質として用いるラマンレーザーは、ポンピング光源をさらに含み得るが、ここで、ポンピング光源は、ラマン散乱媒質のストークスシフトの1倍又は複数倍だけ、レーザーの出力光ビームとは異なる波長を有するポンピング光ビームを生成する。ポンピング光ビームの振動数を変換して出力ビームを得るために、ストークスラマン散乱を利用することは、ラマン散乱媒質の1つのストークスシフトによって振動数を変えることが可能であることを意味する。ストークスラマン散乱された光子が、さらにストークスラマン散乱されて、ストークスシフトの複数倍だけ、ポンピング光ビームとは異なる振動数を有する光子を生成することもまた可能である。ストークス散乱された光子の振動数を、他の別の方法によって変換して、異なる振動数を有する出力ビームを生成することもまた可能である。他の方法を用いることは、用語「1倍又は複数倍のストークスシフト」が、整数倍のストークスシフトに限定されないことを意味する。
【0046】
CVD単結晶材料を含むラマンレーザー内で起こる振動数変換過程は、非常に効率的であり、また、ビームクリーンアップ(clean−up)によるビーム品質の向上をもたらすというさらなる利点を有し得る:高次の横モードを有するポンプビームに対して、通常、高強度基本モードだけが振動数変換されることを、SRSの非線形性が保証する。同様に、パルスモードの動作では、振動数変換は、閾値が超えられる時間的領域でのみ起き、パルス短縮に繋がる。同様に、完全に単色ではないが、限定されたスペクトル幅を有するポンプビームは、狭いスペクトル幅を有するストークスビームに変換できる。こうして、ダイヤモンドレーザーは、空間、時間及びスペクトルにおけるビーム特性を向上させる可能性を提供する。ビーム品質の向上におけるこれらの利点に加えて、他の非線形過程と異なり、運動量の不一致が励起光学フォノンによって吸収されるので、入射及びストークスビームの位相整合のために必要とされる特殊な技術(例えば、結晶の角度調整)はない。これは、ポンピングが、原理的に、任意の角度又は任意の範囲の角度からできることを意味する。
ビームクリーンアップ過程は、より高いレーザービーム品質の出力光ビームを生じる。レーザービームの品質は、レーザービームを如何に密に収束できるかの尺度である。ビーム品質を定めるために広く用いられる標準的パラメータは、M2因子である。
【0047】
【数6】

ここで、λはレーザービームの波長であり、θは遠視野におけるビーム広がり半角であり、W0はビームウエスト(beam waist)でのビーム半径であり、これらの量は当業者に理解されている。回折限界ガウシアンビーム(diffraction−limited Gaussian beam)では、W0とθの積がλ/πであり(例えば、参考文献: B. E. A. Saleh & M. C. Teich,Fundamentals of Photonics,Wiley 1991,Ch.3)、その結果、M2は1に等しく、これが、実現できるM2の最小値であることがよく知られている。非ガウシアンビーム出力を有するレーザー装置では、M2は1より大きいであろう。M2の値が1に近いほど、ビーム品質は高くなる。
高い出力レーザービーム品質は、通常、望ましい特性であり、かなりの数の要因によって影響を受ける。レーザー利得媒質と無縁な要因には、ポンプビームの品質、共振器のデザイン、及びレーザー装置に用いられる光学部品(例えば、ミラー)の品質が含まれる。出力ビームの品質を高める、レーザー利得媒質に固有の要因には、すでに記載された、ポンプビームをクリーンアップする能力、及び、最小の熱レンズ効果を示す利得材料が含まれる。その結果、ダイヤモンドラマンレーザーは、高ビーム品質のストークス出力ビームの生成に秀でている。
【0048】
2は、ISO標準法(ISO標準 11146、「Lasers and laser-related equipment - Test methods for laser beam widths, divergence angles and beam propagation ratios」(2005))に従って測定でき、この標準では、ビーム伝播方向に沿うビーム半径の変化が測定され、解析される。このような測定は、広く市販されているビームプロファイラを用い、実施できる。
本発明のCVD単結晶ダイヤモンド材料を含むラマンレーザーからの出力光ビームのM2因子は、10.0未満、好ましくは5.0未満、好ましくは2.0未満、好ましくは1.5未満、好ましくは1.1未満である。M2因子の低下は、レーザービーム品質の向上を示す。このレーザービーム品質の向上により、レーザー用途において有益である、レーザービームの広がりの小さいレーザーが得られる。
【0049】
請求項1において定義される特性を有するCVD単結晶ダイヤモンド材料の製造方法もまた提供される。このような方法は、複数の成長段階が少なくとも2つの段階からなる、複数の成長段階からなり得る。これらの段階の各々は、先に記載されたように、CVD反応器条件における変更によって区別できる。このような変更の1つは窒素の混入率であり、これは、転じて、CVD反応器内のプロセスガスにおける窒素濃度を変えることによって変化をもたらされ得る。特に、本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する成長段階で、CVD単結晶ダイヤモンド材料内の窒素の混入率を下げることが有利である。これは、本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する成長段階で、CVD反応器内のプロセスガスの窒素濃度を、好ましくは本明細書において論じられた限界値以内に、下げることによって実現され得る。所望のCVD単結晶ダイヤモンド材料は、多段階成長法の最終成長段階において、又は最初の成長段階の後の任意の成長段階の間に、製造され得る。
【0050】
複数の成長段階により、気相を用いるCVD反応器内でCVD単結晶ダイヤモンドを製造するさらなる方法が提供され、複数の成長段階の少なくとも2つは、CVD反応器内の気相における窒素濃度を変えることによって区別され、この少なくとも2つの成長段階の少なくとも1つは、分子窒素として計算して、300ppb以上(好ましくは400ppbを超え、好ましくは500ppbを超え、好ましくは600ppbを超え、好ましくは700ppbを超え、好ましくは800ppbを超え、好ましくは1000ppbを超える)で、5ppm未満(2ppm未満であり得るし、1.5ppm未満であり得る)の気相内窒素濃度を有し、また、少なくとも2つの成長段階の他の少なくとも1つは、分子窒素として計算して、0.001ppbを超え(0.01ppbを超え得るし、0.1ppbを超え得るし、1ppbを超え得るし、10ppbを超え得る)、250ppb未満(好ましくは200ppb未満、好ましくは150ppb未満、好ましくは120ppb未満)の気相内窒素濃度を有する。
【実施例】
【0051】
本発明の例示的実施形態がこれから説明される。
例1
(001)の約5°以内の、ほぼ平行な主面対を有する合成タイプ1b HPHTダイヤモンドプレートを選択した。このプレートを、単結晶CVDダイヤモンド材料のホモエピタキシャル合成に適する正方形基板に、次のステップ
i)基板をレーザー切断して、全て<100>エッジを有するプレートを製造するステップと、
ii)成長が行われる主面をラッピング及び研磨するステップと
を含むプロセスによって加工し、ラッピング及び研磨された部分は、400μmの厚さで、約6.0mm×6.0mmの寸法を有し、全ての面は{100}であった。基板表面の、又はその下の欠陥レベルは、EP 1 292 726、及びEP 1 290 251に開示されている通りに、基板の注意深い準備によって、最低限にする。見えるようにするプラズマエッチングを用いることによって、このプロセスによって導入された欠陥レベルを明らかにすることが可能である。見えるようにするエッチングの後で測定できる欠陥密度が、主に材料品質に依存し、5×103mm-2未満であり、通常、102mm-2未満である基板を製造することは、ごく普通に可能である。この段階での表面粗さは、少なくとも50μm×50μmの測定面にわたって、10nm未満であった。基板を、高温ダイヤモンド材料用ろう材(braze)を用いて基板保持材に装着した。次いで、基板及びその保持材を、CVD反応器チャンバに導入し、エッチング及び成長のサイクルを、次のようにチャンバ内にガスを供給することによって開始した。
【0052】
最初に、230Torrの圧力、及び787℃の基板温度で、in situ酸素プラズマエッチングを行い、その後、水素エッチングを行い、酸素は、この段階でガス流から除去した。次いで、第1段階の成長プロセスを、22sccm(標準状態立方センチ毎秒)でメタンを添加することによって開始した。窒素は、気相において800ppbのレベルを達成するように添加した。水素もまたプロセスガス中に存在した。この段階での基板温度は827℃であった。続く24時間にわたって、メタン含有量を30sccmに増加させた。これらの成長条件は、前の試験運転に基づき、2.0±0.2の範囲のαパラメータ値をもたせるように選択され、結晶学的検査によって、遡って確認された。
段階1の成長層が、2.5mmの厚さに達した後、段階2の成長を、気相に存在する窒素を、気相において150ppbのレベルまで下げることによって開始した。段階2の成長層が1.7mmの厚さに達した後、成長を終わらせた。
成長したCVDダイヤモンドプレートの調査により、それには(001)面に双晶及びクラックがなく、<110>側面によって境界を定められていること、及び双晶のない(001)上面の合成後の寸法は、8.7mm×8.7mmに増加したことが明らかになった。成長したままの結晶表面の光学顕微鏡下の検査は、表面ピットが全くないことを明らかにした。
【0053】
段階2の層は、段階1と基板の層から、レーザー切断によって分離し、ラッピング及び研磨によって、さらに加工し、2対の対向{110}面及び1対の対向{100}面を有する、8.0mm×2.0mm×1.5mmの矩形プレートを製造した(図4)。
対向する面の対は、0.06°以内で平行であるように研磨した。1.5mm×2.0mmの大きさの{110}面の1つに垂直な光経路に沿う平均複屈折は、550nmでMetripolによって測定して、2×10-6未満であった。材料の吸収係数は、レーザー熱量測定によって、1064nmで、0.007cm-1と測定された。転位密度は、X線トポグラフィーによって、2×103転位cm-2であると測定された。TCUPSによって測定した光学フォノン干渉性消失時間は、8psであった。中性電荷状態の孤立置換型窒素の濃度は、EPRによって、3.5×1015原子cm-3と測定された。熱伝導率は、レーザーフラッシュ熱量測定によって、2050Wm-1-1と測定された。
【0054】
7.2mmの経路長を与える(図6)、最長結晶寸法に平行な<110>方向に沿うポンプ及びストークスビームの伝播のために、角度67.5°のブルースターファセットを、1.5mm×2.0mmの大きさの{110}面で研磨加工した(図5)。光学的に利用可能な最長長さ寸法は、ファセットの垂線に対して90°の角度でファセットに入射する光ビームを考えることによって(このような状況は、実際には実現困難であろうが、光学的に利用可能な最大寸法を与える)、計算できる。この光ビームは、それが入射するファセットの垂線に対する臨界角で結晶内を伝播するように屈折するであろう。こうして、光学的に利用可能な最長寸法は、結晶が、1の屈折率を有する空気によって囲まれていると仮定して、三角法によって、7.3mmであると計算できる(図7)。ダイヤモンド結晶を、熱電冷却されるマウントに装着し、入力カプラ(532nmで94.2%を透過;560〜650nmで高反射)及び出力カプラ(532nmで高反射、573nmで25%透過、620nmで80%透過)からなる光共振器内に置いた。これらのミラーカプラのどちらも、20cmの曲率半径を有していた。出力カプラは、ポンプを再帰反射して、2回目のラマン結晶の通過をもたらす。
【0055】
5kHzのパルス繰返し周波数で動作され、1064から532nmへ周波数を2倍にされた、パルス継続時間8nsのqスイッチNd:YAGレーザーによって外部から、ダイヤモンドラマン共振器をポンピングした。p偏光ポンプビームは、ブルースターファセットの1つにブルースター角で入射し、こうして、<110>偏光ポンプ及びストークスビームが、ダイヤモンド結晶内で、<110>に沿って伝播することを保証した。ポンプビーム経路に置かれたハーモニックセパレータは、1064nmの元の残留ポンプ光が全くラマン共振器に達しないことを保証した。ポンプビームは、10cm焦点距離レンズを用い、結晶に収束させた。
ポンプからストークスへの変換効率を、約2.2W(これは、0.44mJのパルスエネルギーに相当する)までの入力パワーについて調べた。入力及び出力エネルギーは、校正したエネルギーメータを用い、測定した。出力エネルギーを入力エネルギーの関数として測定し、約0.08mJのラマンレージングに対する閾値、及びポンプからストークス光への変換の78%のスロープ効率を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVD単結晶ダイヤモンド材料であって、室温で測定した場合に、次の特性:
7mmを超える最長長さ内部寸法、
0.01mm2を超える横断面積を有する光ビームを用い、7mmを超える内部経路に沿って決定して、1×10-5未満の複屈折、及び
1064nmの波長で決定して、0.010cm-1未満の吸収係数、
を有する、上記CVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項2】
7mmを超える光学的に利用可能な最長長さ寸法を有する、請求項1に記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項3】
CVD単結晶ダイヤモンド材料が特性T2を有し、T2が室温で測定して、4psを超えるものとして決定される、請求項1又は2に記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項4】
CVD単結晶ダイヤモンド材料が中性電荷状態の孤立置換型窒素を含み、CVD単結晶ダイヤモンド材料内の中性電荷状態の孤立置換型窒素含有量が、EPRによって測定して、5×1015原子cm-3以下である、請求項1から3のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項5】
CVD単結晶ダイヤモンド材料が転位を含み、転位密度が104転位cm-2未満である、請求項1から4のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項6】
CVD単結晶ダイヤモンド材料が熱伝導率を示し、熱伝導率が、室温で測定して、2000Wm-1-1を超える、請求項1から5のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項7】
多段階成長法における第2又はその後の段階として成長する、請求項1から6のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項8】
多段階成長法が2段階からなる、請求項7に記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項9】
請求項1に記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料が成長する段階の前の、先行する段階の少なくとも1つの間に成長したダイヤモンドが、0.010cm-1を超える、1064nmの波長での吸収を有する、請求項7又は8に記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項10】
請求項1に記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料が成長する段階の前の、先行する段階の少なくとも1つの間に成長したダイヤモンドが、7mm未満の最長長さ内部寸法を有する、請求項7、8又は9に記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項11】
請求項1に記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料が成長する段階の前の、先行する段階の少なくとも1つの間に成長したダイヤモンドが、中性電荷状態の孤立置換型窒素を含み、先行する段階の1つの内の中性電荷状態の孤立置換型窒素含有量が、EPRによって測定して、1×1016原子cm-3を超える、請求項7から10のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料の、光学的用途における使用。
【請求項13】
光学的用途がラマンレーザーである、請求12に記載の使用。
【請求項14】
ラマンレーザーが、CVD単結晶ダイヤモンド材料を含むラマン散乱媒質を有する、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
ラマンレーザーが、CVD単結晶ダイヤモンド材料に入射するポンピング光ビームを有し、CVD単結晶ダイヤモンドが、転位線を有する少なくとも1つの転位を含み、ポンピング光ビームが、CVD単結晶ダイヤモンド材料内の転位線の方向に実質的に垂直である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
CVD単結晶ダイヤモンド材料が複数の転位を含み、複数の転位線が実質的に平行である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
ラマンレーザーが、1μmと500μmの間の波長を有する出力光ビームを生じるように作動している、請求項13から16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
請求項1から11のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料を含むラマン散乱媒質を含む、ラマンレーザー。
【請求項19】
ポンピング光源をさらに含み、ポンピング光源が、ラマン散乱媒質のストークスシフトの1倍又は複数倍だけ、レーザーの出力光ビームとは異なる波長を有するポンピング光ビームを生成する、請求項18に記載のラマンレーザー。
【請求項20】
出力光ビームが、M2因子によって規定されるビーム品質を有し、出力光ビームのM2因子が10.0未満である、請求項19に記載のラマンレーザー。
【請求項21】
CVD単結晶ダイヤモンド材料が熱性能指数を示し、1.064μmでの熱性能指数が600を超える、請求項18、19又は20に記載のラマンレーザー。
【請求項22】
複数の成長段階による、気相を用いるCVD反応器内でのCVD単結晶ダイヤモンドの製造方法であって、複数の成長段階の少なくとも2つが、CVD反応器内の気相における窒素濃度を変えることによって区別され、少なくとも2つの成長段階の少なくとも1つが、分子窒素として計算して、300ppb以上で5ppm未満の気相内窒素濃度を有し、少なくとも2つの成長段階の他の少なくとも1つが、分子窒素として計算して、0.001ppbを超え250ppb未満の気相内窒素濃度を有する方法。
【請求項23】
CVD技術が複数の成長段階を含む、請求項1に記載のCVD単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項24】
請求項1に記載のCVD単結晶ダイヤモンド材料が、第1の成長段階の後の成長段階において製造される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
複数の成長段階が2段階からなる、請求項22、23又は24に記載の方法。
【請求項26】
CVD技術が気相を用い、気相が、成長するダイヤモンド材料に混入される窒素を含み、成長プロセスの複数の段階が、堆積されるダイヤモンド内の窒素の混入率の変化によって区別される、請求項23から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
請求項1に記載のCVD単結晶ダイヤモンドを製造する成長段階に関する窒素の混入率が、それに先立つ成長段階の少なくとも1つに比べて減少する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
窒素の混入率を、プロセスガス中の窒素濃度を変えることによって変える、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
窒素の混入を、プロセスガス中の窒素濃度を低下させることによって減少させる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
気相内の窒素濃度が、最終の成長段階の前の、少なくとも1つの成長段階において、分子窒素として計算して、300ppbと5ppmの間である、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
窒素濃度が、その後の成長段階において、分子窒素として計算して、0.001ppbと250ppbの間である、請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−517631(P2013−517631A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549314(P2012−549314)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050477
【国際公開番号】WO2011/086164
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(503458043)エレメント シックス リミテッド (45)
【Fターム(参考)】