説明

CVD装置

【課題】、生産コストの高騰や、装置の大型化を招来することなく、サセプターの品質や生産性を飛躍的に向上させることができるCVD装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 炭素質基材5を支持部材により支持した状態で、内部にガスを導入することにより、炭素質基材5の表面にSiC被膜を形成するCVD装置において、上記支持部材は、上記炭素質基材5が載置されて炭素質基材の下部を支持する下部支持部材6と、上記炭素質基材5の上部を支持する上部支持部材13とを有し、この上部支持部材13は上記炭素質基材5の外周縁に設けられると共に、この上部支持部材13にはV字状の溝13dが形成され、このV字状の溝13dにより構成される炭素質基材配置空間17内には、十分な遊びを有する状態で上記炭素質基材5が配置されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質基材の表面にSiC被膜を形成するCVD装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体エピタキシャルグロースに使用されるサセプターなどは、炭素質基材の表面にSiC被覆層を形成した材質で構成されている。炭素質基材面へのSiC被膜の形成は、通常、炭化水素のようなカーボン源を含むハロゲン化有機珪素化合物を還元性気流中で熱分解反応させて炭素質基材の表面に直接的にSiCを蒸着させるCVD法(化学的気相析出法)によって行われるが、形成されるSiC被膜は炭素質基材の全面にピンホールのない極めて緻密かつ均質な層として被覆させる必要がある。
【0003】
ここで、上記SiC被膜の形成時には、炭素質基材を複数点で支持しつつ、炭素質基材を横向き(寝かせた状態)で被膜形成が行われていた。しかし、当該方法では、以下に示す課題を有していた。
【0004】
(1)支持点はSiC被膜が形成されないために、全面にSiC被膜を形成しようとすると、SiC被膜を形成した後、CVD装置を開放して炭素質基材の支持点を変更し、再度SiC被膜を形成しなければならないため、サセプターの製造コストが高騰する。
【0005】
(2)SiC被膜の形成は高温で行われるため、サセプターにそりが発生し、特にサセプターの厚みが小さいときにはそりが顕著となる。また、炭素質基材を横向きで被膜形成を行うと、炭素質基材の表面にパーティクルが存在するという状態でSiC被膜が形成されることになる。これらのことから、サセプターの品質が低下するという課題を有していた。
【0006】
尚、上記課題を考慮して、被処理基材(炭素質基材)を支持羽根から一端持ち上げ、支持羽根と被処理基材との接触位置を変更するという動作を、CVD反応の途中で実施することにより、CVD装置を開放することなくSiC被膜を形成するという提案がなされている(下記特許文献1参照)。しかし、このような提案であっても上記(2)に示すような課題を解決することはできない。
【0007】
このようなことを考慮して、炭素質基材を、炭素質基材の貫通孔の直径より小さな断面積を有する回転支持杵に懸架することにより、炭素質基材の支持接点を連続的に移動させるという提案がなされている(下記特許文献2参照)。このような提案であれば、上記(1)(2)の課題は解決することができる。しかしながら、上記特許文献2に示す提案では、孔を有するサセプターにしか適用できず、しかも回転支持杵を作動させるための駆動手段等が別途必要となって、CVD装置の生産コストの高騰や、CVD装置の大型化を招来するといった新たな課題が生じる。
そこで、図20に示すように、サセプター自立式のCVD装置が提案されている。具体的には、当該CVD装置においては、先端先細り状の支持台50のナイフエッジ部50aに炭素質基材51を載置すると共に、炭素質基材51の両面をピン52で支持するという構造となっている。このような構造であれば、孔を有しないサセプターにも適用でき、しかも、回転支持杵を作動させるための駆動手段等が不要となるので、CVD装置の生産コストが高騰したり、CVD装置が大型化したりするのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−213429号公報
【特許文献2】特開昭63−134663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の構造では、炭素質基材51の両面を単にピン52で支持する構造であるので、炭素質基材51がC方向或いはD方向に回転して斜め方向にずれたり、更には倒れたりすることがある。後者の如く炭素質基材51が倒れた場合、1の炭素質基材51のみが倒れるだけであれば問題もさほど大きくないが、1の炭素質基材51が倒れることにより、これに隣接する炭素質基材51も倒れてしまうことがある。この結果、多数の炭素質基材51が倒れて、所望のSiC被膜を形成することができなくなるという課題がある。また、前者の如く炭素質基材51が回転した場合には、ピン52がザグリ51a内に入り込むことがあるため、ザグリ51a内におけるSiC被膜の膜厚むらが生じ、色ムラが発生するという課題もある。
【0010】
更に、CVD装置においては、支持台50を回転させつつ炭素質基材51にSiC被膜を形成する構造となっているが、CVD装置の内部においては、中央部と周辺部とでは原料ガス供給部からの距離が異なるために反応する原料ガスの流量、流速が異なる。このため、従来のCVD装置の如く、炭素質基材51が一直線状に配列されていると、炭素質基材51の配置位置によっては被膜厚みが異なり、ザグリ面やザグリ51aのそり量が極めて大きくなることがあるという課題を有していた。
【0011】
そこで、本発明は、生産コストの高騰や、装置の大型化を招来することなく、サセプターの品質や生産性を飛躍的に向上させることができるCVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、炭素質基材を支持部材により支持した状態で、内部にガスを導入することにより、炭素質基材の表面にSiC被膜を形成するCVD装置において、上記支持部材は、上記炭素質基材が載置されて炭素質基材の下部を支持する下部支持部材と、上記炭素質基材の上部を支持する上部支持部材とを有し、この上部支持部材は上記炭素質基材の外周縁に設けられると共に、2枚の支持板を備え、上記支持板間に形成された炭素質基材配置空間内に、十分な遊びを有する状態で上記炭素質基材が配置されることを特徴とする。
【0013】
上記構成の上部支持部材では、炭素質基材の上端における支持(保持)が2つの支持板により行われることになるので、炭素質基材に外力が加わって炭素質基材に回転や位置ずれが生じても、SiC被膜形成中に炭素質基材が倒れるのを抑制できる。また、1の炭素質基材の倒れに起因する隣接する炭素質基材の倒れも防止できる。
【0014】
また、十分な遊びを有する状態で上記支持板間に上記炭素質基材が配置されるので、装置内にガスが導入されると、そのガス流による風力により、炭素質基材は上部支持部材の一方の支持板と接触したり他方の支持板と接触したりする。即ち、炭素質基材は上部支持部材の本体部と断続的に接触するので、炭素質基材の一部がコーティングされないという不都合を回避できる(即ち、炭素質基材の表面にSiC被膜が均一にコーティングされる)。更に、上部支持部材は炭素質基材の外周縁に設けられているので、上部支持部材が炭素質基材のザグリ内に入り込むことによるSiC被膜の膜厚むら(これに起因する色むら)が生じるのを抑止できる。
加えて、炭素質基材は自立式であり、しかも、上部支持部材で完全に固定されないため、炭素質基材に大きな外力が加わることがないので、サセプターに反りが発生するのを抑制できる。
【0015】
以上のことから、本発明のCVD装置によって作製されたサセプターでは、反り量が少なく、色ムラ発生率を抑えて外観が良好に保たれるので、サセプターの品質を向上させることができる。
更に、回転支持秤などの駆動手段等を別途必要としないので、CVD装置の生産コストの高騰や、CVD装置の大型化を招来するのを防止できる。
【0016】
上記上部支持部材は上記炭素質基材の上端位置に配置されていることが望ましい。
上部支持部材の配置位置を炭素質基材の上端位置以外の位置に設けると、炭素質基材の倒れ角が大きくなる。このため、ガス流による風力では炭素質基材が十分に揺動できなくなって、炭素質基材の一部がコーティングされないという不都合が生じうることを考慮したものである。また、サセプターへの原料ガスの流れを妨げない上でも好都合となる。
【0017】
上記遊びが1mm以上2mm以下であることが望ましい。
遊びが2mmを超えると、炭素質基材の倒れ角が大きくなって、上記と同様、炭素質基材の一部がコーティングされないという不都合が生じる一方、遊びが1mm未満になると、常に接触していなくても原料ガスの流路が狭いために流れ難くなり、基材の一部がコーティングされない不都合のため好ましくない。また、上部支持部材の加工精度を向上させなければならず、コストの高騰を招くからである。
【0018】
また、上部支持部材において、一体型の上記2枚の支持板により形成される炭素質基材配置空間が略V字状であることが望ましい。
2枚の支持板により形成される炭素質基材配置空間が略V字状であれば、上部支持部材を上下させるだけで、遊び量を調整することができる。
【0019】
上記下部支持部材の表面には熱分解炭素質層が存在することが望ましい。
上記構成であれば、熱分解炭素質膜はSiC被膜よりも強度が弱いことに起因して、下部支持部材からサセプターを取り外した場合に、サセプターからSiC被膜が剥離するのを抑制できる。
【0020】
上記下部支持部材の表面には、熱分解炭素質層が形成された熱膨張シートが存在することが望ましい。
上記構成であっても、上記と同様の理由により、下部支持部材からサセプターを取り外した場合に、サセプターからSiC被膜が剥離するのを抑制できる。また、この場合には、SiC被膜形成毎に下部支持部材を交換する必要がなく、熱分解炭素質層が形成された熱膨張シートのみを交換すれば良いので、生産性が向上する。更に、熱膨張シートは可撓性に富んでいるので、下部支持部材に炭素質基材を載置したときのクッション性に優れる。したがって、載置時において、炭素質基材に欠け等が生じるのを抑制できる。特に、炭素質基材が大きくて重量が大きい場合には、当該作用効果が十分に発揮される。
【0021】
複数の上記炭素質基材の表面にSiC被膜を形成する場合に、各炭素質基材は装置の中心から等距離となるように配置されることが望ましい。
CVD装置の内部においては、中央部と周辺部とでは原料ガス供給部からの距離が異なるが、各炭素質基材は装置の中心から等距離となるように配置されていれば、炭素質基材の配置位置による原料ガス供給部からの距離の差異は解消されるので、何れのサセプターにおいても、そのそり量を低減できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、生産コストの高騰や、装置の大型化を招来することなく、サセプターの品質や生産性を飛躍的に向上させることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のCVD装置の内部構造を示す斜視図である。
【図2】下部支持部材を示す斜視図である。
【図3】下部支持部材を示す図であって、同図(a)は側面図、同図(b)は正面図、同図(c)は同図(b)のB−B線矢視断面図である。
【図4】下部支持部材の本体部を示す斜視図である。
【図5】下部支持部材の本体部を示す図であって、同図(a)は側面図、同図(b)は正面図、同図(c)は同図(b)のA−A線矢視断面図である。
【図6】下部支持部材の接点部を示す斜視図である。
【図7】下部支持部材の接点部を示す図であって、同図(a)は正面図、同図(b)は下面図、同図(c)は側面図である。
【図8】上部支持部材を示す図であって、同図(a)は正面図、同図(b)は斜視図である。
【図9】上部支持部材と炭素質基材との関係を示す説明図である。
【図10】炭素質基材の支持手順を示す図であって、同図(a)(b)は下部支持部材上に炭素質基材と上部支持部材とを順次配置した状態を示す正面図と側面図であり、同図(c)(d)は嵌め合せ棒に嵌め合せ筒を嵌め込む状態を示す正面図と側面図であり、同図(e)(f)は炭素質基材の支持終了状態を示す正面図と側面図である。
【図11】上部支持部材と下部支持部材との関係を示す説明図である。
【図12】本発明のCVD装置における内部構造の変形例を示す斜視図である。
【図13】本発明のCVD装置における内部構造の他の変形例を示す斜視図である。
【図14】各冶具の配置状態を示す説明図である。
【図15】上部支持部材の変形例を示す正面図である。
【図16】上部支持部材の配置位置の変形例を示す正面図である。
【図17】膨張黒鉛シートの外表面に熱分解炭素層を形成した状態を示す説明図である。
【図18】比較サセプターZ3を作製する際の炭素質基材と上部支持部材との関係を示す説明図である。
【図19】サセプターの反り状態を示す説明図である。
【図20】従来のCVD装置の内部構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に示すように、本発明のCVD装置は、台座1と、この台座1の中央部に固定された支持軸2と、この支持軸2から放射状に延設された支持棒4と、この支持棒4の外方端に固定されて支持棒4と一体型となる支持リング3とを有しており、装置の作動時にはこれらが一体となって回転する。
【0025】
上記台座1の延出部1aの表面には、ザグリ5aが各3つ形成された炭素質基材5の下部を支持するための下部支持部材6を有しており、この下部支持部材6は、図2及び図3(a)〜(c)に示すように、本体部7とこの本体部7の上部に載置された接点部8とから構成されている。上記本体部7は、図4及び図5(a)〜(c)に示すように、内部に上記台座1の延出部1aから突出した突起(図示せず)に嵌って台座1と固定される孔7cが形成された基部7aと、この基部7aの上面に基部7aと一体形成された凸部7bとを有している。この凸部7bの上面7eが上記接点部8を載置するための載置面となっており、また、上面7eの両端に形成された突起7dの高さL1〔図5(b)参照〕は、上記接点部8の厚みL2〔図7(b)参照〕よりも大きくなっている。このような構造とすることにより、炭素質基材5が接点部8の表面に載置された際或いはその後に、炭素質基材5が若干傾いたり移動したりしても突起7dと当接することになるので、炭素質基材5にそれ以上の傾き等が生じるのを阻止できる。
【0026】
また、上記接点部8は、図6及び図7(a)〜(c)に示すように、黒鉛から成る本体部8aと本体部8aの外表面に形成された熱分解炭素層8bとから構成されている。更に、接点部8の外形は、略半円状を成しており、その長さL3〔図7(c)参照〕は、上記凸部7bの上面7eの長さL4〔図5(b)参照〕よりも若干小さくなるように構成されている。また、上記本体部8aの下面には、コ字状の溝8cが形成されており、その幅L5は、上記凸部7bの上面7eの幅L6〔図5(a)参照〕よりも若干小さくなるように構成されている。これら2つの構成により、本体部7の上面7eに接点部8を円滑に配置することができる。更に、上記熱分解炭素層8bはCVD装置により形成されるSiC被膜よりも強度が小さくなっているので、炭素質基材5にSiC被膜を形成した後、炭素質基材5をCVD装置から取り外す際に、炭素質基材5からSiC被膜が剥がれるのを阻止することができる。尚、熱分解炭素層8bは、上述の如く半円状の面にのみ形成される構成に限定するものではなく、本体部8aの全外表面に形成されていても良い。
【0027】
ここで、熱分解炭素層8bは、一般的に知られた方法により形成することができ、その一例を以下に示す。先ず、本体部8aを処理炉内に配置した後、炉内の圧力を0.1〜10Torr、炉内の温度を1600〜2000℃に維持しつつ、メタンガスやプロパンガス等の炭化水素ガスや水素ガスを導入する。そうすると、炉内で上記ガスが熱分解するので、熱分解した炭素が本体部8aの表面に沈着し、本体部8aの表面に熱分解炭素層8bが形成されることになる。尚、熱分解炭素層8bの純度向上を図るため、熱分解炭素層8bの形成後に、四塩化炭素等のハロゲンガス雰囲気下で約2000℃で熱処理することが望ましい。また、堆積速度を遅くしないと沈着する炭素が疎になり易く、更に、処理温度等の条件を変えることで、高配向の組織となったり、乱層構造の組織となったりする点に注意して実施する必要がある。
【0028】
一方、図1に示すように、上記支持棒4の上面には円柱状の嵌め合せ棒4aが立設されており、この嵌め合せ棒4aには、嵌め合せ棒4aの直径より若干大きな内径を有する嵌め合せ筒11が嵌められている。そして、隣接する嵌め合せ筒11同士は連結棒12により固定されており、この連結棒12の略中央部であって上記炭素質基材5の外周縁には上部支持部材13が固定されている。この上部支持部材13は、図8(a)(b)に示すように、基台13aの上面には上記連結棒12に取り付けるための取り付け部13bが形成される一方、基台13aの下面には本体部13cが形成されている。この本体部13cの下部には、上記炭素質基材5の上端を支持するV字状の溝13dが形成されており、この溝13dにより形成される空間が炭素質基材配置空間17を構成する。また、上記V字状の溝13dの内面は先端先細り状のナイフエッジ13eとなっており、これによって、炭素質基材5との接触面積を低減でき、SiC被膜の厚みがより均一化される。また、上記構成の上部支持部材13では、炭素質基材5の上端における支持(保持)が2つの支持板(V字状の溝13dを形成する2つの壁であって、ピンで支持するのではないということ)により行われることになるので、炭素質基材5に力が加わって炭素質基材5に位置ずれが生じても、SiC被膜形成中に炭素質基材5が倒れるのを抑制できる。
【0029】
また、炭素質基材5と溝13dとの距離L7〔図8(a)参照〕は、1〜2mm程度であることが望ましい。これは、以下に示す理由による。即ち、図9に示すように、炭素質基材5はCVD装置内のガス流及び装置の回転力により回動するため、一方のナイフエッジ13eと当接したり、他方のナイフエッジ13eと当接したりする。これにより、炭素質基材5の一部にSiC被膜が形成されないような不都合を回避している。しかしながら、炭素質基材5と溝13dとの距離L7が大き過ぎると、炭素質基材5の倒れ角θが大きくなって、炭素質基材5はCVD装置内のガス流により他方のナイフエッジへ戻ることができなくなり、この結果、炭素質基材5の一部にSiC被膜が形成されなくなるという不都合が生じる。一方、炭素質基材5と溝13dとの距離L7を余りにも小さくなるように規制すると、常に接触していなくても原料ガスの流路が狭いために、コーティングされないことや、溝13dの加工精度を向上させなければならず、コストの高騰を招くという不都合を生じるからである。
【0030】
尚、上述のような理由であれば、炭素質基材5の長さ(自立するときの高さ)が大きければ、炭素質基材5と溝13dとの距離L7を更に大きくしても良いのではとも考えられるが、現状で用いられる炭素質基材5の最大長さを考慮すれば、距離L7は2mmを限度とするのが望ましい。
【0031】
次に、炭素質基材5の配置方法について、図10(a)〜(c)について説明する。尚、説明の簡素化を図るため、ザグリ5aが1つの場合について説明する。
先ず、図10(a)(b)に示すように、下部支持部材6上に炭素質基材5を配置し、更に、炭素質基材5上に上部支持部材13を配置する。次に、図10(c)(d)に示すように、嵌め合せ棒4aに、嵌め合せ棒4aの直径より若干大きな内径を有する嵌め合せ筒11を嵌め込む。そして嵌め込みが終了すると、図10(e)(f)に示すように、準備終了状態となる。尚、炭素質基材5と上部支持部材13の溝13dとの距離L7が小さくなり過ぎるような場合には、例えば、図11に示すように、嵌め合せ棒4aにリング状の調節部材21を嵌め込むことにより、距離L7を調整することが可能である。
【0032】
(その他の事項)
(1)図12に示すように、台座1の延出部1a上に直接下部支持部材6を配置するのではなく、伸縮可能な支持棒22を介して下部支持部材6を配置すれば、短尺の炭素質基材5にも対応することができる。したがって、小ロットのものが存在する場合でも大ロットのものと同時に処理できるので、生産性を一層向上させることができる。
【0033】
(2)図14に示すように、各冶具24を放射状に配置し、図13に示すように、炭素質基材5を半径方向と平行な方向と垂直な方向とに配置して、SiC皮膜形成処理を行うこともできる。
【0034】
(3)上部支持部材13に形成される溝13dとしてはV字状のものに限定するものではなく、図15に示すように、コ字状或いはU字状であっても良い。但しこのような構成とした場合には、炭素質基材5と溝13dとの距離L7を変化させることはできないので、炭素質基材5の厚みが同一のものにしか適用することができない。
【0035】
(4)上部支持部材13の配置位置は炭素質基材5の上端に限定するものではなく、図16に示すように、炭素質基材5の中間位置に配置しても良い。但し、この場合には、炭素質基材5と溝13dとの距離L7を上記と同様1〜2mmとした場合であっても、図9に示したθが大きくなる。したがって、上部支持部材13の配置位置は炭素質基材5の上端であることが最も望ましい。
【0036】
(5)上記接点部8において、熱分解炭素層8bは、本体部8aの外表面に直接形成したが、このような構成に限定するものではなく、図17に示すように、内側形状が本体部8aと同形状の膨張黒鉛シート26の外表面に熱分解炭素層8bを形成した後、これを本体部8aの外表面に被せるような構成であっても良い。尚、膨張黒鉛シート26とは、酸処理した鱗状天然黒鉛を、高温膨張処理させたものを圧縮加圧することにより作製したシート状の黒鉛製品であり、可撓性を有している。また、当該シートは、不純物の少ない高純度品であることが好ましく、具体的には、20ppm以下、特に10ppm以下、その中でも5ppm以下であることが望ましい。更に、熱分解炭素層8bの形成は、本体部8aの外表面に直接熱分解炭素層8bを直接形成する方法と同様の方法で形成することができる。
(6)上記構成の上部支持部材13では、2つの支持板(V字状の溝13dを形成する2つの壁)が一体的に形成されているが、このような構造に限定するものではなく、別体に形成しても良い。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、CVD装置は下記実施例の内容によって制限されるものではない。
〔実施例1〕
上記発明を実施するための形態の本文で示したCVD装置を用いてサセプターを作製した。尚、炭素質基材(サセプター)としては、直径8インチ、厚さ6mmのものを用いた。このことは、下記実施例2及び下記比較例1〜3においても同様である。
このようにして作製したサセプターを、以下、本発明サセプターA1と称する。
【0038】
〔実施例2〕
上記発明を実施するための形態における(その他の事項)の(5)で示したCVD装置を用いてサセプターを作製した。
このようにして作製したサセプターを、以下、本発明サセプターA2と称する。
【0039】
〔比較例1〕
炭素質基材を支持ピンにより複数点で支持しつつ、炭素質基材を横向き(寝かせた状態)に配置したCVD装置を用いてサセプターを作製した。
このようにして作製したサセプターを、以下、比較サセプターZ1と称する。
【0040】
〔比較例2〕
従来の技術の図20で説明したCVD装置を用いてサセプターを作製した。
このようにして作製したサセプターを、以下、比較サセプターZ2と称する。
【0041】
〔比較例3〕
図18に示すように、上部支持部材13の本体部13cと炭素質基材5とを常時接触させると共に、下部支持部材6における本体部8aの外表面に熱分解炭素層8bを形成しないCVD装置を用いてサセプターを作製した。
このようにして作製したサセプターを、以下、比較サセプターZ3と称する。
【0042】
〔実験1〕
上記本発明サセプターA1、A2及び比較サセプターZ1〜Z3の反り量、色ムラ発生率、外観、及び、SiC被膜剥離の有無について調べたので、その結果を表1に示す。尚、実験条件(被膜形成条件)は、以下の通りである。
・実験条件
装置内の圧力:0.1〜760Torr
炉内の温度:1150〜1500℃
導入ガス:CHSiCl (メチルトリクロロシラン)と、
キャリアガスとして水素ガス
SiC被膜の膜厚:40〜60μm
【0043】
【表1】

【0044】
表1から明らかなように、実施例1及び実施例2に示したCVD装置を用いた場合には、炭素質基材は上部支持部材の本体部と断続的に接触するので、炭素質基材の一部がコーティングされないという不都合を回避できる(即ち、炭素質基材の表面にSiC被膜が均一にコーティングされる)。したがって、本発明サセプターA1、A2では、反り量が少なく、色ムラ発生率を抑えることができるので外観が良好に保たれる。また、2つの板状の部材により炭素質基材の上端が支持されるので、炭素質基材が若干位置ずれ等しても初期の段階で位置ずれ等が規制されることになる。したがって、炭素質基材が転倒するのを抑止できる。加えて、下部支持部材の本体部に直接或いは膨張黒鉛を介して、SiC被膜より剥がれ強度が小さな熱分解炭素層が形成されているので、下部支持部材から本発明サセプターA1、A2を取り外した場合に、サセプターからSiC被膜が剥離するのを抑制できる。尚、このような場合、サセプター側に熱分解炭素が付着することがあるが、SiC被膜と熱分解炭素との熱膨張係数は大きく異なるので、サセプターから熱分解炭素を容易に除去することができる。
【0045】
これに対して、比較例1に示したCVD装置では、厚みが極めて小さな炭素質基材を横向きにして被膜形成するので、比較サセプターZ1では反りやうねりが生じて、反り量が著しく多くなっていることが認められる。また、炭素質基材の横載置によって、ザグリ面側にパーティクルが載った状態で被膜形成が行われ、更に、支持ピンが炭素質基材と常時接していることから支持痕が残る等の理由により、比較サセプターZ1では色ムラが多数認められた。更に、炭素質基材と支持ピンとに直接SiC被膜が形成されることから、比較サセプターZ1を装置から取り外す際に、SiC被膜の剥離が認められた。
【0046】
また、比較例2に示したCVD装置を用いた場合には、ナイフエッジから炭素質基材がずれて当該炭素質基材が転倒したり、更には隣接する炭素質基材まで転倒することがあるため、比較サセプターZ2ではSiC被膜ができていない箇所が生じ、色ムラ発生率が高くなることが認められた。加えて、このように均一なSiC被膜が形成されないため、比較サセプターZ2では反り量が多くなっていることが認められる。更に、炭素質基材とナイフエッジとに直接SiC被膜が形成されることから、比較サセプターZ2を装置から取り外す際に、SiC被膜の剥離が認められた。
【0047】
更に、比較例3に示したCVD装置を用いた場合には、炭素質基材は上部支持部材によって常に支持されている(即ち、炭素質基材と上部支持部材とが常時接触している)ので、熱処理時に炭素質基材に大きな応力がかかり易くなって、比較サセプターZ3の反り量が多くなっていることが認められた。また、下部支持部材の表面に熱分解炭素被膜が形成されていないことから、比較サセプターZ3の色ムラ発生率が高くなり、しかも、比較サセプターZ3を装置から取り外す際に、SiC被膜の剥離が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のCVD装置は、半導体エピタキシャルグロース用サセプターの製造等に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
5:炭素質基材
6:下部支持部材
7:本体部
8:接点部
8a:本体部
8b:熱分解炭素層
13:上部支持部材
13d:溝
13e:ナイフエッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質基材を支持部材により支持した状態で、内部にガスを導入することにより、炭素質基材の表面にSiC被膜を形成するCVD装置において、
上記支持部材は、上記炭素質基材が載置されて炭素質基材の下部を支持する下部支持部材と、上記炭素質基材の上部を支持する上部支持部材とを有し、この上部支持部材は上記炭素質基材の外周縁に設けられると共に、2枚の支持板を備え、上記支持板間に形成された炭素質基材配置空間内に、十分な遊びを有する状態で上記炭素質基材が配置されることを特徴とするCVD装置。
【請求項2】
上記上部支持部材は上記炭素質基材の上端位置に配置されている、請求項1に記載のCVD装置。
【請求項3】
上記遊びが1mm以上2mm以下である、請求項1又は2に記載のCVD装置。
【請求項4】
上部支持部材において、一体型の上記2枚の支持板により形成される炭素質基材配置空間が略V字状である、請求項1〜3の何れか1項に記載のCVD装置。
【請求項5】
上記下部支持部材の表面には熱分解炭素質層が存在する、請求項1〜4の何れか1項に記載のCVD装置。
【請求項6】
上記下部支持部材と上記熱分解炭素質層との間には、熱膨張シートが存在する、請求項5に記載のCVD装置。
【請求項7】
複数の上記炭素質基材の表面にSiC被膜を形成する場合に、各炭素質基材は装置の中心から等距離となるように配置される、請求項1〜6の何れか1項に記載のCVD装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−174338(P2010−174338A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19142(P2009−19142)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】