説明

FRP複合シャフト及びその製造方法

【課題】FRP円筒と継手部材の接合部に捩り方向の力が加わったときに起こる接着剤破壊(接着界面破壊)を確実に防止し、加工が簡単で低コストであるFRP複合シャフト及びその製造方法を得ること。
【解決手段】本発明は、FRP円筒の中空端部内に継手部材を挿入し、接着剤を介して接合してなるFRP複合シャフトにおいて、上記FRP円筒の内周面と上記継手部材の外周面の間のクリアランス内に挿入する上記接着剤中に、上記FRP円筒の内周面の呼び径と上記継手部材の外周面の呼び径との差をXとしたとき、X/2よりも粒径が大きくかつ上記FRP円筒及び上記継手部材よりも機械的強度が強い無機粒子を含有させたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のフレームに用いられるFRP複合シャフト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP複合シャフトは、FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチックス)円筒の中空端部内に例えば金属製の継手部材を挿入し、接着剤を介して接合してなるもので、全体が金属のシャフトに比べて軽量という利点がある。しかし、FRP円筒と継手部材との接合強度を如何にして高くするかが大きな技術課題であり、従来各種の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フランジ継手の嵌合部の外周面上に軸線方向に延びる複数の突条からなる嵌合のきつい接合部を形成し、嵌合部の外周面及びCFRP製シャフトの端部内周面に接着剤を塗布してフランジ継手をCFRP製シャフトの端部に挿入して接着固定することにより、突条がある部分でフランジ継手とCFRP製シャフトの同軸度及び真直度を向上させるとともに、突条がない部分に接着剤を行き渡らせて接合強度を高めることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、FRP製シャフトの端部に挿入される継手のボスの外周面の一部にローレット歯によって凹凸加工を施すとともに、この凹凸部の外表面を砥石によって研削して案内部を形成し、この案内部によって継手をFRP製シャフトに対してセンタリングした状態でボスとFRP製シャフトとの間に介在される接着剤によって接着固定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−83240号公報
【特許文献2】特開平11−166552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らによれば、FRP複合シャフトにおいては、FRP円筒と継手部材の接合部に捩り方向の力が加わったときに起こる接着剤破壊(接着界面破壊)を防止する必要があるのに対し、特許文献1及び特許文献2記載の従来技術は、この接着剤破壊への対策が十分とは言えない。接着剤破壊が起こるとFRP円筒と継手部材が自由に相対回転できる状態となってトルクを伝達できず、もはやFRP複合シャフトとしての機能を発揮することができない。
【0007】
また、特許文献1及び特許文献2記載の従来技術にあっては、フランジ継手の嵌合部の外周面上に軸線方向に延びる複数の突条を形成する加工及びFRP製シャフトの端部に挿入される継手のボスの外周面の一部にローレット歯によって凹凸加工を施す加工が長時間に亘って煩雑であり、加工コストが高くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、以上の問題意識に基づき、FRP円筒と継手部材の接合部に捩り方向の力が加わったときに起こる接着剤破壊(接着界面破壊)を確実に防止し、加工が簡単で低コストであるFRP複合シャフト及びその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来FRP円筒と継手部材を接合するための接着剤中に、FRP円筒の内周面と継手部材の外周面のクリアランスより粒径が大きくかつFRP円筒及び継手部材よりも機械的強度が強い無機粒子を含有させれば、FRP円筒と継手部材の接合部に捩り方向の力が加わっても、この無機粒子がFRP円筒と継手部材の双方に噛み合って(引っ掛って)捩り方向の力を受け止める結果、接着剤が変形して破壊されるのを効果的に防止することができるとの結論に達して、本発明をするに至った。
【0010】
すなわち、本発明のFRP複合シャフトは、FRP円筒の中空端部内に継手部材を挿入し、接着剤を介して接合してなるFRP複合シャフトにおいて、上記FRP円筒の内周面と上記継手部材の外周面の間のクリアランス内に挿入する上記接着剤中に、上記FRP円筒の内周面の呼び径と上記継手部材の外周面の呼び径との差をXとしたとき、X/2よりも粒径が大きくかつ上記FRP円筒及び上記継手部材よりも機械的強度が強い無機粒子を含有させたことを特徴としている。
【0011】
また本発明のFRP複合シャフトの製造方法は、FRP円筒の中空端部内に継手部材を挿入し、接着剤を介して接合するFRP複合シャフトの製造方法において、上記FRP円筒の内周面の呼び径と上記継手部材の外周面の呼び径をそれぞれ測定するステップ;測定されたFRP円筒の内周面の呼び径と継手部材の外周面の呼び径との差をXとしたとき、X/2よりも粒径が大きくかつ上記FRP円筒及び上記継手部材よりも機械的強度が強い無機粒子を含む無機粒子群を選択するステップ;及び選択した無機粒子群を接着剤中に混合し、その混合接着剤をFRP円筒の内周面と継手部材の外周面との間のクリアランス内に挿入して固化させるステップ;を有することを特徴としている。
【0012】
継手部材を金属製(例えばアルミニウム製)として、FRP円筒と金属性の継手部材を接合したFRP金属複合シャフトとすることができる。あるいは、継手部材を接着剤よりも強度の強い樹脂を用いたFRP製として、FRPどうしを接合した複合シャフトとすることもできる。すなわち、継手部材の材質は、接着剤よりも強度が強いものであれば特に限定されない。
【0013】
「FRP円筒の内周面の呼び径」は、例えばボアマチックゲージなどの内径測定装置によりFRP円筒の内周面の径をその周方向位置を変えながら複数回測定し、その測定値を平均したものを意味する。また、「継手部材の外周面の呼び径」は、例えばノギスなどの測定装置により継手部材の外周面の径をその周方向位置を変えながら複数回測定し、その測定値を平均したものを意味する。
【0014】
X/2よりも粒径が大きい無機粒子を、X/2のクリアランス内に介在させることは一見不可能であるが、実際には、FRP円筒の内周面と継手部材の外周面(特にFRP円筒の内周面)は幾何的な円筒面ではなくて、微小な凹凸が存在することから、充分可能であることが確かめられた。そして、X/2のクリアランス内に、X/2よりも大きい粒径の無機粒子を介在させることで、無機粒子がFRP円筒と継手部材の双方に噛み合って(引っ掛って)捩り方向の力を受け止める結果、接着剤が変形して破壊されるのを効果的に防止することができる。
【0015】
好ましい一態様では、上記継手部材は、上記FRP円筒の内周面に密に嵌合する密嵌合部と、同FRP円筒の内周面に緩く嵌合する緩嵌合部とを有していて、上記FRP円筒の内周面と上記継手部材の緩嵌合部の外周面の間のクリアランス内に上記接着剤(混合接着剤)が挿入される。
【0016】
無機粒子(群)の選択(選定)には、各種の手法が考えられる。例えば、全粒子数を100としたとき、上記X/2よりも粒径が大きい無機粒子が30以上含まれる度数分布を示す無機粒子(群)を選択することが好ましい。
【0017】
このような無機粒子(群)を選択することにより、FRP円筒(の内周面)と継手部材(の外周面)に噛み合って捩り方向の力を受け止める無機粒子が一定の割合で存在するので、接着剤破壊を効果的に防止することができる。
【0018】
あるいは、無機粒子の粒径は、X/2[mm]〜(X/2+0.1)[mm]の範囲内とすることが好ましい。
【0019】
このような無機粒子(群)を選択することにより、接着剤に含有される無機粒子の大部分が、FRP円筒(の内周面)と継手部材(の外周面)に噛み合って捩り方向の力を受け止めるので、接着剤破壊をより効果的に防止することができる。
【0020】
上記接着剤に含有される無機粒子は、上記接着剤の重量基準で3〜9重量%であることが好ましい。
【0021】
これにより、FRP円筒(の内周面)と継手部材(の外周面)を接着するという接着剤の役割(化学的接着)と、FRP円筒(の内周面)と継手部材(の外周面)に噛み合って捩り方向の力を受け止めるという無機粒子の役割(物理的接着)とのバランスが適切に維持される。この条件の上限を超えると、無機粒子の量が多すぎて内周面と外周面の接着面積が減り、また、無機粒子が完全な異物となってしまう為、FRP円筒(の内周面)と継手部材(の外周面)の接着が不十分となる。この条件の下限を超えると、FRP円筒(の内周面)と継手部材(の外周面)に噛み合う無機粒子の数が足りず、捩り方向の力が加わったときに接着剤破壊が発生するおそれがある。
【0022】
上記無機粒子(群)は、ジルコニア粒子(群)も採用可能であるが、機械的強度が強くコストが低いアルミナ粒子(群)とすることが好ましい。
【0023】
上記FRP円筒は、例えば、炭素強化繊維を熱硬化性樹脂シート中に含浸させてなる複数のプリプレグを筒状に巻回して熱硬化させた複数のCFRP層から構成することができる。
【0024】
上記継手部材は、上記FRP円筒の端面が当接するフランジ部を有し、このフランジ部の両側にそれぞれ上記密嵌合部及び緩嵌合部が形成されていることが好ましい。これにより、フランジ部でFRP円筒の軸方向(スラスト方向)の位置が規制されるとともに、フランジ部の両側にそれぞれFRP円筒を接合できるので、車両のフレームに用いるのに好適なFRP円筒が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、FRP円筒と継手部材の接合部に捩り方向の力が加わったときに起こる接着剤破壊(接着界面破壊)を確実に防止し、加工が簡単で低コストであるFRP複合シャフト及びその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るFRP複合シャフトを示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るFRP複合シャフトを示す断面図である。
【図3】図2の領域Aを拡大して示す図である。
【図4】FRP円筒の内周面と継手部材の外周面の間のクリアランスを誇張して描いた図2に対応する断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るFRP複合シャフトを軸線方向から見た図である。
【図6】図5の領域Bを拡大して示す図である。
【図7】本実施例で製造したアルミナ粒子から無作為に選んだ100個のサンプル粒子の粒径の分布を示すグラフである。
【図8】本実施例で製造したFRP複合シャフトの捩り破壊試験の結果を示す図である。
【図9】比較例として製造したFRP複合シャフトの捩り破壊試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1ないし図6を用いて、本発明の一実施形態に係るFRP複合シャフト(FRP金属複合シャフト)100を説明する。FRP複合シャフト100は、FRP円筒10の中空端部内に、金属製(例えばアルミニウム製)のフランジ継手(継手部材)20を挿入し、接着剤30を介して接合してなる。
【0028】
FRP円筒10は、炭素強化繊維を熱硬化性樹脂シート中に含浸させてなる複数のプリプレグを筒状に巻回して熱硬化させた複数のCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチックス)層からなる。
【0029】
フランジ継手20は、大径のフランジ部21と、このフランジ部21の両側に続けて対称に設けられたフランジ部21より小径の嵌合部22とを有する。FRP円筒10の中空端部内にフランジ継手20を嵌合した状態(図2、図4)では、フランジ部21にFRP円筒10の端面11が当接し、嵌合部22にFRP円筒10の内周面12が嵌合する。図1はフランジ部21の片側(の嵌合部22)にのみFRP円筒10を接合した状態を示しており、図2及び図4はフランジ部21の両側(の嵌合部22)にFRP円筒10を接合した状態を示している。フランジ継手20は、継手の強度を高く維持するため、フランジ部21と嵌合部22を一体に有する一部材から構成されている。
【0030】
嵌合部22は、フランジ部21の側から遠ざかるように順に位置する密嵌合部22Aと緩嵌合部22Bとを有している。密嵌合部22Aは、FRP円筒10の中空端部内にフランジ継手20を嵌合した状態(図2、図4)では、FRP円筒10の内周面12に密に嵌合して、FRP円筒10とフランジ継手20を同軸に位置(センタリング)させる。緩嵌合部22Bは、FRP円筒10の中空端部内にフランジ継手20を嵌合した状態(図2、図4)では、FRP円筒10の内周面12に緩く嵌合して、FRP円筒10の内周面12と緩嵌合部22Bの外周面の間にクリアランスが形成される。図4では、FRP円筒10の内周面12と緩嵌合部22Bの外周面の間のクリアランスを誇張するため、密嵌合部22Aと緩嵌合部22Bの段差を誇張して描いている。
【0031】
FRP円筒10の内周面12と緩嵌合部22Bの外周面の間のクリアランスには接着剤30が充填固化されており、この接着剤30によりFRP円筒10とフランジ継手20が接合されている。接着剤30は、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂などの樹脂系溶剤型、ゴム系溶剤型の各種の材料からなる接着剤を使用できる。
【0032】
本実施形態では図6に示すように、接着剤30中に、FRP円筒10及びフランジ継手20よりも機械的強度が強いアルミナ粒子(無機粒子)31が含有されている。このアルミナ粒子31には、FRP円筒10の内周面12の呼び径Dと緩嵌合部22Bの外周面の呼び径dとの差をXとしたとき、X/2(=(D−d)/2)よりも粒径が大きいもの(FRP円筒10の内周面12と緩嵌合部22Bの外周面の間のクリアランスの幅よりも粒径が大きいもの)が含まれている。
【0033】
「FRP円筒10の内周面12の呼び径D」は、例えばボアマチックゲージなどの内径測定装置によりFRP円筒10の内周面12の径をその周方向位置を変えながら複数回測定し、その測定値を平均したものを意味する。また、「緩嵌合部22Bの外周面の呼び径d」は、例えばノギスなどの測定装置により緩嵌合部22Bの外周面の径をその周方向位置を変えながら複数回測定し、その測定値を平均したものを意味する。
【0034】
実際にはアルミナ粒子31の粒径にはある程度のバラツキがあるが、接着剤30に含有されるアルミナ粒子31の全粒子数を100としたとき、X/2よりも粒径が大きいものが30以上含まれていることが好ましい。あるいは、接着剤30に含有されるアルミナ粒子31の粒径は、X/2[mm]〜(X/2+0.1)[mm]の範囲内であることが好ましい。また、接着剤30に含有されるアルミナ粒子31は、接着剤30の重量基準で3〜9重量%であることが好ましい。
【0035】
接着剤30に含有されたアルミナ粒子31は、次の作用効果を奏する。FRP円筒10の内周面12及び緩嵌合部22Bの外周面は、図3に示すような平坦な形状ではなく、実際には図6に示すような微細な凹凸のある形状となっている。特にFRP円筒10の内周面12は、炭素繊維がある程度隆起しており凹凸の度合いが大きい。つまり、FRP円筒10の内周面12と緩嵌合部22Bの外周面の間のクリアランスをミクロに見たときには、クリアランスの幅がX/2より大きい部分と小さい部分が混在している。
【0036】
このクリアランスにアルミナ粒子31を含有した接着剤30を充填固化すると、各アルミナ粒子31は、自身の粒径とミクロに見たクリアランスの幅が合致する位置に入り込んで(X/2より大きい粒径の粒子はミクロに見てX/2より大きい幅のクリアランスに入り込み、X/2より小さい粒径の粒子はミクロに見てX/2より小さい幅のクリアランスに入り込んで)、FRP円筒10の内周面12と緩嵌合部22Bの外周面の双方にくさびを打ち込んだような状態で噛み合う(引っ掛る)。したがって、FRP円筒10とフランジ継手20の接合部に捩り方向の力が加わっても、アルミナ粒子31がこの捩り方向の力を受け止めてFRP円筒10とフランジ継手20の相対回転を規制する結果、接着剤30が変形して破壊されるのを効果的に防止することができる。
【0037】
本発明はアルミナ粒子31の製造方法を問うものではないが、次に製造方法の一例を説明する。まず、アルミナ粉末と分散剤と水を混合し、原料スラリー(液状原料)とする。一方、アルミナ粉末と撥水剤と水を混合した後、この混合物を100℃程度で乾燥させ、粉砕して篩いを通して敷き粉とし、この敷き粉を1mm程度の厚さに敷いて滴下面とする。そして、振動式のノズルから原料スラリーを滴下面に滴下する。その結果、滴下面では、原料スラリーの液滴が落下した箇所がわずかに沈み込んで液滴を受ける。その際、液滴は、滴下面上で球状液滴となる。次に、球状液滴を敷き粉とともに60度程度で加熱し、乾燥させ、球状液滴をアルミナ粒子31の前駆体としての小球体生成物とする。次に、小球体生成物の前駆体と敷き粉を篩い分けした後、小球体生成物を1200〜1300℃程度で焼成し、アルミナ粒子31を得る。このように、1200〜1300℃程度の低温で焼結することによって、粒子の急成長を防いで、例えば0.1〜0.5mm程度の粒径の微細なアルミナ粒子31を製造することができる。また、このように製造したアルミナ粒子31は、ビッカース硬度が19〜21GPaであり、一般的なアルミナ粒子のビッカース硬度(11〜13GPa)と比較して高硬度である。
【0038】
FRP複合シャフト100は、次のようにして製造する(組み立てる)。まず、上述のように構成されたFRP円筒10とフランジ継手20を準備する。次いで、フランジ継手20の緩嵌合部22Bの外周面に、アルミナ粒子31を含有する接着剤30を塗布する。接着剤30は硬化時に収縮するので、緩嵌合部22Bには十分な量の接着剤30を塗布して、硬化時に収縮しても均一な接着剤層が形成されるようにする。次いで、接着剤30を塗布したフランジ継手20の嵌合部22をFRP円筒10の中空端部内に嵌合する。すると、フランジ部21にFRP円筒10の端面11が当接してFRP円筒10の軸方向(スラスト方向)の位置が規制されるとともに、密嵌合部22Aの外周面にFRP円筒10の内周面12が密に嵌合してFRP円筒10とフランジ継手20が同軸に位置(センタリング)される(図2、図4)。同時に、FRP円筒10の内周面12と緩嵌合部22Bの外周面の間のクリアランス内にアルミナ粒子31が位置して両者に噛み合う(引っ掛かる)。この状態で所定時間が経過すると、接着剤30が固化(硬化)し、接着剤30の化学的接着とアルミナ粒子31の物理的接着の相乗効果によりFRP円筒10とフランジ継手20が強固に接合されたFRP複合シャフト100が完成する。尚、フランジ継手20の密嵌合部22Bの外周面には、アルミナ粒子を含まない接着剤を塗布してもよい。
【0039】
このように、本実施形態によれば、FRP円筒10の内周面12とフランジ継手(継手部材)20の緩嵌合部22Bの外周面の間のクリアランス内に挿入する接着剤30中に、FRP円筒10の内周面12の呼び径Dと緩嵌合部22Bの外周面の呼び径dとの差をXとしたとき、X/2(=(D−d)/2)よりも粒径が大きくかつFRP円筒10及びフランジ継手20よりも機械的強度が強いアルミナ粒子(無機粒子)31を含有させたので、このアルミナ粒子31が、FRP円筒10の内周面12とフランジ継手20の緩嵌合部22Bの外周面の双方に噛み合って(引っ掛かって)捩り方向の力を受け止める結果、接着剤30が変形して破壊されるのを防止することができる。
また、フランジ継手20の嵌合部22に複雑な加工を施す必要がなく低コストである。
【0040】
以上の実施形態では、FRP円筒をプリプレグ法で作製する場合を例示しているが、本発明は、FRP円筒の構成及び製法は問わずに適用することができる。例えば、フィラメントワインディング法などで製造したあらゆる構成のFRP円筒を適用可能である。
【0041】
以上の実施形態では、接着剤に含有させる無機粒子をアルミナ粒子とした場合を例示して説明したが、FRP円筒及び継手部材よりも機械的強度(耐力)が強い無機粒子であれば、ジルコニア粒子を用いることもできる。
【0042】
以上の実施形態では、フランジ継手(継手部材)を金属製(例えばアルミニウム製)の材料から構成しているが、接着剤よりも強度の強い樹脂を用いたFRP製の材料から構成して、FRPどうしを接合した複合シャフトとすることもできる。
【実施例】
【0043】
本発明者らは、上述した方法で、アルミナ粒子を含有する接着剤によりFRP円筒と金属製のフランジ継手を接合したFRP複合シャフト(FRP金属複合シャフト)を実際に作製して捩り破壊試験を行った。
【0044】
まず、アルミナ粉体(大明化学工業株式会社製の商品名TM−DAR、アンモニウムアルミニウムカーボネイトハイドロオキサイドを熱分解し粉砕処理したアルミナ粉体、アルミナ含有率99.99%以上)100gを、適量の分散剤(東亞合成株式会社製の商品名アロンA−6114)とともに水37gに加えてボールミルにて混合し原料スラリー(液状原料)とした。アルミナ粉体の平均粒子径の測定にあたっては、アルミナ粉体をヘキサメタリン酸ソーダ0.07重量%溶液中で超音波分散機にて15分間分散させて試料懸濁液を調製した後、遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製のSA−CP3)にて粒度分布を測定した。
一方、敷き粉はアルミナ粉体100gと、撥水剤としてステアリン酸エマルジョン(中京油脂株式会社製の商品名セロゾール)50gと、水100gをボールミルにて混合した後、この混合物を100℃で乾燥させ、その後粉砕して80メッシュを通して調製した。次に、この敷き粉を1mm程度の厚さに敷いて滴下面を構成した。
次に、振動式のノズルから原料スラリーを滴下面に滴下させてスラリーを球状液滴とした。次に、球状液滴を敷き粉とともに約60℃の温度で加熱、乾燥させ、球状液滴をアルミナ粒子の前駆体としての小球体生成物とした。次に、小球体生成物と敷き粉を篩い分けした後、小球体生成物を1260℃の温度で2時間焼成し、アルミナ粒子を得た。尚、アルミナ粒子に付着している敷き粉由来の付着層は研磨により除去した。
【0045】
このようにして得たアルミナ粒子の見掛け密度は、3.89g/cm3であった。見掛け密度はゲーリュサック型比重瓶を用いて測定した。また真球度は98%であった。
【0046】
このようにして得たアルミナ粒子から100個のサンプル粒子を無作為に選び、SEM写真を画像解析することにより粒径を測定した。図7はその粒径の分布を示しており、100個のサンプル粒子のうち、0.25〜0.27mmの粒径の粒子が5個、0.27〜0.29mmの粒径の粒子が34個、0.29〜0.31mmの粒径の粒子が27個、0.31〜0.33mmの粒径の粒子が13個、0.33〜0.35mmの粒径の粒子が11個、0.35〜0.37mmの粒径の粒子が7個、0.37〜0.39mmの粒径の粒子が3個であった。100個のサンプル粒子のうち、最大粒径は0.376mm、最小粒径は0.260mmであった。また、100個のサンプル粒子の粒径の平均値を示す平均粒径は0.305mmであった。この実施形態は、アルミナ粒子の度数分布を調べた実施形態であり、平均粒径と分散から正規分布を求めた実施形態ではない。
【0047】
このようにして得たアルミナ粒子を接着剤(住友3M製 DP460)に混合した。アルミナ粒子の含有量は、接着剤の重量基準で3重量%であった。
【0048】
一方、準備したFRP円筒の内周面の呼び径Dは33.524mmであった。この呼び径Dは、内径測定機(Mitsutoyo製 568-338 SBM‐40C)によりFRP円筒の内周面の径をその周方向位置を変えて2回測定した結果(33.525mm、33.523mm)の平均値である。
また、準備したフランジ継手の緩嵌合部の外周面の呼び径dは32.90mmであった。この呼び径dは、ノギス(Mitsutoyo製 M型標準ノギス)によりフランジ継手の緩嵌合部の外周面の径をその周方向位置を変えて2回測定した結果(32.90mm、32.90mm)の平均値である。
したがって、FRP円筒の内周面と緩嵌合部の外周面の間のクリアランスを示すX/2(=(D−d)/2)は、0.31mmであった。
【0049】
捩り破壊試験は次のようにして行った。各試験片を油圧式捩り試験機に装填し、一端を完全拘束し、他端に角度変位を振幅±45°、速度0.02Hzの正弦波で与えた。完全拘束端に配されたトルク検出器により捩り強度を測定した。捩れ角度は、変位側の軸に取り付けられたエンコーダーにより測定を行った。
【0050】
図8(A)−(C)はそれぞれ同一の製法で作製した3つのFRP複合シャフトに対する捩り破壊試験の結果を示している。図8(A)−(C)に示すように、作製したいずれのFRP複合シャフトも、捩り角度(Angle/Deg)を大きくするに従って若干のトルク値(Tosional Moment/kNm)の落ち込みが数回見られるものの、捩り角度が40Degを超えるまで接着剤破壊(接着界面破壊)が起こることはなく、トルクが伝達できていた。
【0051】
また、捩り破壊試験を行った後に、FRP円筒からフランジ継手を引き抜いて接合部分を観察したところ、FRP円筒の内周面及びフランジ継手の緩嵌合部の外周面に、周方向に延びる引掻き傷が残っていた。これは接着剤に含有されるアルミナ粒子が、FRP円筒の内周面とフランジ継手の緩嵌合部の外周面の双方に噛み合って(引っ掛って)捩り方向の力を受け止めたことを示していると考えられる。
【0052】
図9(A)、(B)は、比較例として、アルミナ粒子を含有しない接着剤でFRP円筒とフランジ継手を接合した2つのFRP複合シャフトに対する捩り破壊試験の結果を示している。図9(A)では、捩り角度が25Degを超えた辺りで接着剤破壊(接着界面破壊)が起こり、FRP円筒とフランジ継手が自由に相対回転できる状態となってしまった。図9(B)では、捩り角度が13Degを超えた辺りで接着剤破壊(接着界面破壊)が起こり、FRP円筒とフランジ継手が自由に相対回転できる状態となってしまった。
【符号の説明】
【0053】
100 FRP複合シャフト(FRP金属複合シャフト)
10 FRP円筒
11 端面
12 内周面
20 フランジ継手(継手部材)
21 フランジ部
22 嵌合部
22A 密嵌合部
22B 緩嵌合部
30 接着剤(混合接着剤)
31 アルミナ粒子(無機粒子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FRP円筒の中空端部内に継手部材を挿入し、接着剤を介して接合してなるFRP複合シャフトにおいて、
上記FRP円筒の内周面と上記継手部材の外周面の間のクリアランス内に挿入する上記接着剤中に、上記FRP円筒の内周面の呼び径と上記継手部材の外周面の呼び径との差をXとしたとき、X/2よりも粒径が大きくかつ上記FRP円筒及び上記継手部材よりも機械的強度が強い無機粒子を含有させたことを特徴とするFRP複合シャフト。
【請求項2】
請求項1記載のFRP複合シャフトにおいて、
上記継手部材は、上記FRP円筒の内周面に密に嵌合する密嵌合部と、同FRP円筒の内周面に緩く嵌合する緩嵌合部とを有していて、上記FRP円筒の内周面と上記継手部材の緩嵌合部の外周面の間のクリアランス内に上記接着剤が挿入されているFRP複合シャフト。
【請求項3】
請求項1または2記載のFRP複合シャフトにおいて、
上記接着剤に含有される無機粒子は、全粒子数を100としたとき、上記X/2よりも粒径が大きい無機粒子が30以上含まれるFRP複合シャフト。
【請求項4】
請求項1または2記載のFRP複合シャフトにおいて、
上記接着剤に含有される無機粒子の粒径は、X/2[mm]〜(X/2+0.1)[mm]の範囲内であるFRP複合シャフト。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載のFRP複合シャフトにおいて、
上記接着剤に含有される無機粒子は、上記接着剤の重量基準で3〜9重量%であるFRP複合シャフト。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載のFRP複合シャフトにおいて、
上記無機粒子はアルミナ粒子からなるFRP複合シャフト。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項記載のFRP複合シャフトにおいて、
上記FRP円筒は、炭素強化繊維を熱硬化性樹脂シート中に含浸させてなる複数のプリプレグを筒状に巻回して熱硬化させた複数のCFRP層からなるFRP複合シャフト。
【請求項8】
請求項2ないし7のいずれか1項記載のFRP複合シャフトにおいて、
上記継手部材は、上記FRP円筒の端面が当接するフランジ部を有し、このフランジ部の両側にそれぞれ上記密嵌合部及び緩嵌合部が形成されているFRP複合シャフト。
【請求項9】
FRP円筒の中空端部内に継手部材を挿入し、接着剤を介して接合するFRP複合シャフトの製造方法において、
上記FRP円筒の内周面の呼び径と上記継手部材の外周面の呼び径をそれぞれ測定するステップ;
測定されたFRP円筒の内周面の呼び径と継手部材の外周面の呼び径との差をXとしたとき、X/2よりも粒径が大きくかつ上記FRP円筒及び上記継手部材よりも機械的強度が強い無機粒子を含む無機粒子群を選択するステップ;及び
選択した無機粒子群を接着剤中に混合し、その混合接着剤をFRP円筒の内周面と継手部材の外周面との間のクリアランス内に挿入して固化させるステップ;を有することを特徴とするFRP複合シャフトの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載のFRP複合シャフトの製造方法において、
上記継手部材は、上記FRP円筒の内周面に密に嵌合する密嵌合部と、同FRP円筒の内周面に緩く嵌合する緩嵌合部とを有していて、上記FRP円筒の内周面と上記継手部材の緩嵌合部の外周面の間のクリアランス内に上記混合接着剤が挿入されているFRP複合シャフトの製造方法。
【請求項11】
請求項9または10記載のFRP複合シャフトの製造方法において、
上記混合接着剤に含有される無機粒子群は、全粒子数を100としたとき、上記X/2よりも粒径が大きい無機粒子が30以上含まれるFRP複合シャフトの製造方法。
【請求項12】
請求項9または10記載のFRP複合シャフトの製造方法において、
上記混合接着剤に含有される無機粒子群の粒径は、X/2[mm]〜(X/2+0.1)[mm]の範囲内であるFRP複合シャフトの製造方法。
【請求項13】
請求項9または10記載のFRP複合シャフトの製造方法において、
上記混合接着剤に含有される無機粒子群は、上記混合接着剤の重量基準で3〜9重量%であるFRP複合シャフトの製造方法。
【請求項14】
請求項9ないし13のいずれか1項記載のFRP複合シャフトの製造方法において、
上記無機粒子群はアルミナ粒子群からなるFRP複合シャフトの製造方法。
【請求項15】
請求項9ないし14のいずれか1項記載のFRP複合シャフトの製造方法において、
上記FRP円筒は、炭素強化繊維を熱硬化性樹脂シート中に含浸させてなる複数のプリプレグを筒状に巻回して熱硬化させた複数のCFRP層からなるFRP複合シャフトの製造方法。
【請求項16】
請求項10ないし15のいずれか1項記載のFRP複合シャフトの製造方法において、
上記継手部材は、上記FRP円筒の端面が当接するフランジ部を有し、このフランジ部の両側にそれぞれ上記密嵌合部及び緩嵌合部が形成されているFRP複合シャフトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−245803(P2011−245803A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123376(P2010−123376)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】