説明

GNSS受信装置及び測位方法

【課題】マルチパスの影響を低減し、測位精度を向上させること。
【解決手段】GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置は、GNSS衛星からの測位信号に基づいて、測位演算を行う測位演算部と、GNSS衛星からの測位信号以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置の位置を推定する位置推定部と、直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する経路差変化率推定部と、経路差の変化率に基づいて、測位演算結果と位置推定結果との間の重み付けを設定する重み付け設定部と、設定された重み付けに従って、当該GNSS受信装置の位置を求める位置演算部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GNSS用周回衛星からの信号を受信し、測位するGNSS受信装置及び測位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星航法(GNSS: Global Navigation Satellite System)とは、航空機から3つの航法衛星(GNSS用周回衛星)(以下、GNSS衛星と呼ぶ)を捕捉することで各GNSS衛星からの距離を得るとともに、4つ目の航法衛星からの信号で時刻合わせを行い、航空機の3次元での飛行位置を得ることができる航法システムである。衛星航法には、全地球的測位システム(GPS: Global Positioning System)、ガリレオ(GALILEO)などが含まれる。
【0003】
例えば、GNSS受信装置は移動体に搭載され、該移動体の位置及び速度を測位する。例えば、GNSS受信装置は、複数のGNSS衛星からの電波を受信することによって、複数のGNSS衛星から当該GNSS受信装置までの距離(擬似距離)をそれぞれ算出し、該擬似距離に基づいて当該GNSS受信装置が搭載された移動体の測位を行う。GNSS衛星により発射された信号は、GNSS衛星とGNSS受信装置との間の距離を電波が伝搬する時間だけ遅れてGNSS受信装置に到達する。従って、複数のGNSS衛星について電波伝搬に要する時間を求めれば、測位演算によってGNSS受信装置の位置を求めることができる。例えば、複数のGNSS衛星により発射された電波は、GNSS受信装置の測拒部において、各GNSS衛星からGNSS受信装置までの距離が求められる。そして、測位演算部において、測拒部において求められた距離に基づいて、GNSS受信装置の位置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−218865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GNSS受信装置においては、当該GNSS受信装置とGNSS衛星とを直接結ぶ経路で到来する直接波以外に、建物などで反射して到来する反射波が受信される場合がある。このように、GNSS衛星からの電波が2以上の経路でGNSS受信装置に受信される現象はマルチパスと呼ばれる。GNSS受信装置が直接波ではなく反射波に基づいて擬似距離を求めた場合、反射波は直接波よりも到達時間が長くなるため、直接波により求められる擬似距離よりも誤差が大きくなる。
【0006】
例えば、GPS受信装置では、GPS衛星からの受信信号と該受信信号のレプリカ信号との相関が求められ、該相関ピークの位置から擬似距離が求められる。マルチパス環境下で、複数のGPS衛星からの受信信号に基づいて擬似距離が求められる場合、受信信号には反射波が含まれるため、受信信号と該受信信号のレプリカ信号との相関ピークの位置のばらつきが大きくなる。受信信号と該受信信号のレプリカ信号との相関ピークの位置のばらつきが大きくなるため、擬似距離のばらつきも大きくなり、測位結果の誤差も大きくなる。
【0007】
一方、移動体の位置を推定する方法として、INS(Inertial Navigation System)航法と呼ばれる航法がある。INS航法では、IMU(Inertial Measurement Unit)と呼ばれる移動体自体に搭載した加速度検出器などに基づいて、移動体の移動を積算して移動体の位置を推定する。
【0008】
また、衛星航法と慣性航法とを組み合わせて移動体の位置を測位する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。衛星航法と慣性航法とを組み合わせて移動体の位置を測位するシステムでは、人工衛星から発信される電波を利用した測位と自律航法による測位とを協調制御して、移動体の位置を推定する。該測位システムでは、捕捉された人工衛星の数が3未満の場合、電波を利用して測位された範囲から、慣性航法により測位された位置との距離が最小となる地点を抽出し、当該地点を、電波を利用して測位された衛星測位位置と推定する。該測位システムでは、捕捉された人工衛星の数が3未満、換言すれば衛星航法により正常に測位できない数になったら、自律航法による測位位置により補正する。しかし、衛星航法による測位演算に必要とされる衛星数を満たしていても、捕捉された人工衛星からの電波が測位演算に適していない場合がある。例えば、捕捉された人工衛星からの電波がマルチパスの影響を受けていたり、微弱であったりする場合には、測位演算に適さない。測位演算に適していない受信電波により測位演算を行った場合、測位結果に含まれる誤差は大きくなる。すなわち、該測位システムでは、既に悪化した状態の受信電波による測位結果が、自律航法による測位位置により補正される場合がある。
【0009】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、マルチパスの影響を低減し、測位精度を向上させることができるGNSS受信装置及び測位方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本GNSS受信装置は、
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置であって、
GNSS衛星からの測位信号に基づいて、測位演算を行う測位演算部と、
GNSS衛星からの測位信号以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置の位置を推定する位置推定部と、
前記測位信号に含まれる直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する経路差変化率推定部と、
該経路差変化率推定部により推定された経路差の変化率に基づいて、前記測位演算部による測位演算結果と前記位置推定部により推定された位置推定結果との間の重み付けを設定する重み付け設定部と、
該重み付け設定部により設定された重み付けに従って、当該GNSS受信装置の位置を求める位置演算部と
を有する。
【0011】
他の例では、
前記重み付け設定部は、経路差の変化率が大きくなるに従って、前記測位演算部による測位演算結果の重み付けを大きくし、前記位置推定部により推定された位置推定結果の重み付けを小さくする。
【0012】
他の例では、
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置であって、
GNSS衛星からの測位信号に基づいて、測位演算を行う測位演算部と、
GNSS衛星からの測位信号以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置の位置を推定する位置推定部と、
前記測位信号に含まれる直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する経路差変化率推定部と、
該経路差変化率推定部により推定された経路差の変化率が所定の規定値以上である場合に、前記測位演算部による測位演算結果及び前記位置推定部により推定された位置推定結果を用いて当該GNSS受信装置の位置演算を行う位置演算部と
を有する。
【0013】
他の例では、
前記位置演算部は、経路差の変化率が所定の規定値未満である場合に、前記位置推定部により推定された位置推定結果を用いて当該GNSS受信装置の位置演算を行う。
【0014】
他の例では、
前記規定値は、前記位置推定部による位置推定精度と、前記測位演算部による測位演算の精度に基づいて決定される。
【0015】
他の例では、
前記GNSS衛星からの測位信号以外の情報には、加速度センサ、角加速度センサ、及び地磁気センサのうち、少なくとも1つのセンサからの情報が含まれ、
前記位置推定部は、慣性航法により、当該GNSS受信装置の位置を推定する。
【0016】
他の例では、
前記経路差変化率推定部は、当該GNSS受信装置の移動速度から、前記経路差の変化率を推定する。
【0017】
他の例では、
前記経路差変化率推定部は、当該GNSS受信装置の位置、GNSS衛星の軌道情報、及び地図情報に基づいて、当該GNSS受信装置において受信される測位信号の経路を推定し、該経路の推定結果から前記経路差の変化率を推定する。
【0018】
他の例では、
前記経路差変化率推定部は、当該GNSS受信装置と前記反射波の経路に位置する反射体との距離を求めることにより、前記経路差の変化率を推定する。
【0019】
本測位方法は、
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置における測位方法であって、
GNSS衛星からの測位信号に基づいて、測位演算を行う測位演算ステップと、
GNSS衛星からの測位信号以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置の位置を推定する位置推定ステップと、
前記測位信号に含まれる直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する経路差変化率推定ステップと、
該経路差変化率推定ステップにより推定された経路差の変化率に基づいて、前記測位演算ステップによる測位演算結果と前記位置推定ステップにより推定された位置推定結果との間の重み付けを設定する重み付け設定ステップと、
該重み付け設定ステップにより設定された重み付けに従って、当該GNSS受信装置の位置を求める位置演算ステップと
を有する。
【0020】
本測位方法は、
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置における測位方法であって、
GNSS衛星からの測位信号に基づいて、測位演算を行う測位演算ステップと、
GNSS衛星からの測位信号以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置の位置を推定する位置推定ステップと、
前記測位信号に含まれる直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する経路差変化率推定ステップと、
該経路差変化率推定ステップにより推定された経路差の変化率が所定の規定値以上である場合に、前記測位演算ステップによる測位演算結果及び前記位置推定ステップにより推定された位置推定結果を用いて当該GNSS受信装置の位置演算を行う位置演算ステップと
を有する。
【発明の効果】
【0021】
開示のGNSS受信装置及び測位方法によれば、マルチパスの影響を低減し、測位精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施例に従ったGNSS受信装置の機能ブロック図である。
【図2】一実施例に従ったGNSS受信装置の機能ブロック図である。
【図3】一実施例に従ったGNSS受信装置における相関処理を示す説明図である。
【図4】一実施例に従ったGNSS受信装置における相関処理を示す説明図である。
【図5】一実施例に従ったGNSS受信装置の機能ブロック図である。
【図6】一実施例に従ったGNSS受信装置における相関処理を示す説明図であり、(a)は経路差を示す図、(b)、(c)は擬似距離を示す図である。
【図7】一実施例に従ったGNSS受信装置の動作を示す説明図である。
【図8】一実施例に従ったGNSS受信装置の動作を示すフロー図である。
【図9】一実施例に従ったGNSS受信装置の動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための最良の形態を、以下の実施例に基づき図面を参照しつつ説明する。
【0024】
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0025】
(第1の実施例)
(システム)
本実施例に従ったGNSS(Global Navigation Satellite System 全世界航法衛星システム)は、地球周りを周回するGNSS衛星と、地球上に位置し地球上を移動しうるGNSS受信装置100とを備える。本実施例では、GNSSの一例としてGPSについて説明する。GPS以外のGNSSに適用してもよい。
【0026】
GNSS衛星は、航法メッセージ(衛星信号)を地球に向けて常時放送する。航法メッセージには、対応するGNSS衛星に関する衛星軌道情報(エフェメリスやアルマナク)、時計の補正値、電離層の補正係数が含まれる。航法メッセージは、C/Aコードにより拡散され、L1帯の搬送波(周波数:1575.42MHz)に乗せられて、地球に向けて常時放送されている。尚、L1帯の搬送波は、C/Aコードで変調されたSin波とPコード(Precision Code)で変調されたCos波との合成波であり、直交変調されている。C/Aコード及びPコードは、擬似雑音(Pseudo Noise)符号であり、−1と1とが不規則に周期的に並ぶ符号列である。
【0027】
尚、現在、約30個のGNSS衛星が高度約20,000kmの上空で地球を一周しており、55度ずつ傾いた6つの地球周回軌道面があり、各々の軌道面に4個以上のGNSS衛星が均等に配置されている。従って、天空が開けている場所であれば、地球上のどの場所にいても、常時、少なくとも5個以上のGNSS衛星が観測可能である。
【0028】
(GNSS受信装置)
GNSS受信装置100は、例えば、移動体に搭載される。移動体には、車両、自動二輪車、列車、船舶、航空機、ロボットなど、また、人の移動に伴い移動する携帯端末などの情報端末などが含まれる。
【0029】
マルチパスは、ビルなどが林立している都市部で多く発生する。本GNSS受信装置100は、マルチパスの発生を検出する。そして、本GNSS受信装置100は、マルチパスの発生を検出した場合に、慣性航法による測位結果によりGNSS衛星からの測位信号に基づく測位結果を補正する。慣性航法による測位結果によりGNSS衛星からの測位信号に基づく測位結果を補正することにより、当該GNSS受信装置100がマルチパス環境下に位置する場合でも、GNSS受信装置100の位置の測位精度を向上させることができる。
【0030】
すなわち、本GNSS受信装置100は、衛星航法による測位結果と慣性航法による位置推定結果から、当該GNSS受信装置の搭載された移動体の位置(以下、GNSS受信装置の位置と呼ばれることもある)を特定する。そして、本GNSS受信装置100は、GNSS受信装置100の位置と地図DBに格納された地図情報とを組み合わせ、地図上にGNSS受信装置の位置を配置する。
【0031】
図1は、本実施例に従ったGNSS受信装置100を示す。
【0032】
本GNSS受信装置100は、GNSS測位部102と、INS位置推定部104と、位置演算処理部106と、経路差変化率推定部108と、マップマッチング処理部110と、地図DB(Database)112とを有する。
【0033】
GNSS測位部102は、GNSS衛星からの測位用の電波に基づいて、当該GNSS受信装置100の測位演算を行う。そして、GNSS測位部102は、測位演算結果を位置演算処理部106に入力する。該測位演算結果は、2次元の座標情報であってもよいし、3次元の座標情報であってもよい。
【0034】
図2は、GNSS測位部102を示す機能ブロック図である。
【0035】
GNSS測位部102は、測位信号処理部1022と、測位演算部1024とを有する。
【0036】
測位信号処理部1022は、C/Aコードのレプリカ信号を生成する。測位信号処理部1022は、L1帯のC/Aコードに対して、C/Aコードのレプリカ信号の位相をずらすことによりC/Aコード同期を行う。実際には、測位信号はデジタル中間周波数信号に変換され、図示しないミキサにより、図示しないPLLから供給されるレプリカキャリアが乗算されてから、測位信号処理部1022に入力される。測位信号処理部1022は、C/Aコードに対するC/Aコードのレプリカ信号の相関値がピークとなるコード位相を追尾することにより、捕捉したGNSS衛星からの電波を追尾する。アンテナの配置によっては、受信される電波(合成波)には、GNSS衛星から直接受信される直接波とGNSS衛星からビルなどの障害物により反射されて受信される反射波とが含まれる場合がある。測位信号処理部1022は、相関結果に基づいて、擬似距離を計算する。測位信号処理部1022は、C/Aコードに対するC/Aコードのレプリカ信号の相関値がピークとなるコード位相を、擬似距離として出力するようにしてもよい。
【0037】
C/Aコードのレプリカ信号とは、GNSS衛星からの衛星信号に乗せられるC/Aコードに対して、+1、−1の並びが同一のコードである。C/Aコード同期とは、受信したC/Aコードの位相に対して、C/Aコードのレプリカ信号の位相を同期させることである。C/Aコードは、1ビットの長さが1μsであり、1ビットに相当する長さが約300mである。従って、GNSS衛星に係る擬似距離ρは、GNSS衛星でC/Aコードが0ビット目であるとしてC/AコードのNビット目が受信されている場合には、ρ=N×300として求めることができる。すなわち、受信したC/AコードのGNSS衛星側のコード位相時刻とGNSS受信装置側の時刻との差を測定することにより、擬似距離ρが算出される。測位信号処理部1022は、測位演算部1024に、擬似距離を入力する。
【0038】
図3及び図4は、C/Aコードに対するC/Aコードのレプリカ信号の相関特性の一例を示す。該相関特性に示されるように、相関値のピークは、直接波及び反射波のL1帯のC/Aコードに対するC/Aコードのレプリカ信号の相関値に左右される。図3及び図4において、横軸は時間であり、縦軸は相関値を示す。図3及び図4において、プロンプトPA及びプロンプトPBは、測位信号処理部1022により得られる相関値のピークを示す。プロンプトPA及びプロンプトPBが得られる時間tsa及びtsbから擬似距離を計算することにより、それぞれ擬似距離A及びBが得られる。
【0039】
測位演算部1024は、測位信号処理部1022と接続される。測位演算部1024は、航法メッセージに含まれる衛星軌道情報に基づいて、GNSS衛星のワールド座標系での現在位置を計算する。尚、GNSS衛星は、人工衛星の1つであるので、その運動は、地球重心を含む一定面内(軌道面)に限定される。また、GNSS衛星の軌道は地球重心を1つの焦点とする楕円運動であり、ケプラーの方程式を逐次数値計算することで、軌道面上でのGNSS衛星の位置を計算できる。また、GNSS衛星の位置は、GNSS衛星の軌道面とワールド座標系の赤道面が回転関係にあることを考慮して、軌道面上でのGNSS衛星の位置を3次元的な回転座標変換することで得られる。尚、ワールド座標系とは、地球重心を原点として、赤道面内で互いに直交するX軸及びY軸、並びに、この両軸に直交するZ軸により定義される。
【0040】
測位演算部1024は、衛星位置の算出結果と、測位信号処理部1022から入力された擬似距離ρの算出結果に基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を測位する。当該GNSS受信装置100の位置は、3つのGNSS衛星100に対して得られるそれぞれの擬似距離及び衛星位置を用いて、三角測量の原理で導出されてよい。この場合、擬似距離は時計誤差を含むので、4つ目のGNSS衛星に対して得られる擬似距離及び衛星位置を用いて、時計誤差成分が除去される。
【0041】
尚、GNSS衛星の位置の測位方法としては、このような単独測位に限られず、干渉測位(既知の点に設置された固定局での受信データを併用する方式)であってもよい。干渉測位の場合、固定局及び当該GNSS受信装置100にてそれぞれ得られる擬似距離の1重位相差や2重位相差等を用いて当該GNSS受信装置100の位置が測位される。測位演算部1024は、位置演算処理部106に、測位演算結果を入力する。
【0042】
INS位置推定部104は、GNSSからの情報以外の情報から当該GNSS受信装置100の位置を推定する。例えば、INS位置推定部104は、IMUと呼ばれる当該GNSS受信装置100自体又は当該GNSS受信装置100が搭載された移動体に搭載した加速度検出器などに基づいて、当該GNSS受信装置100の移動を積算することにより位置を推定するようにしてもよい。
【0043】
図5は、INS位置推定部104を示す機能ブロック図である。
【0044】
INS位置推定部104は、センサ1042と、位置推定部1044とを有する。
【0045】
センサ1042は、位置推定部1044に、GNSS以外から得られる情報を入力する。センサ1042には、例えば、加速度センサ、角加速度センサ、地磁気センサ(方位センサ)などが含まれる。センサ1042は、GNSS衛星からの電波を使用することなく当該GNSS受信装置100の位置を求めるためのデータが得られるセンサであるのが好ましい。例えば、センサ1042は、位置推定部1044に、加速度センサにより検出された加速度、角加速度センサにより検出された角加速度、地磁気センサにより検出された方位を入力する。
【0046】
位置推定部1044は、センサ1042と接続される。位置推定部1044は、センサ1042により入力された情報に基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を推定する。位置推定部1044は、加速度センサにより検出された加速度を積分することにより速度を求め、該速度を積分することにより当該GNSS受信装置100の移動距離を求めるようにしてもよい。位置推定部1044は、慣性航法装置であってもよい。位置推定部1044は、位置演算処理部106に、当該GNSS受信装置100の位置の推定値を入力する。
【0047】
経路差変化率推定部108は、位置演算処理部106と接続される。
【0048】
GNSS衛星からの電波がマルチパスの影響を受けた場合には、GNSS受信装置100は、GNSS衛星から直接受信される直接波と、建造物などから反射されてくる反射波とを同時に受信する。例えば、図6(a)に示されるように、移動体に搭載されたGNSS受信装置100は、直接波と反射波とを受信する。直接波と反射波とを同時に受信した場合、該受信波は直接波と反射波との合成波となり、該相関波形は合成波とC/Aコードのレプリカ信号との相関を求めることにより得られる。直接波と反射波とが同位相で受信された場合には、図6(b)に示されるように、コード位相が遅れる方向に誤差が発生する。すなわち、直接波のピーク位置を擬似距離として認識するのが好ましいが、合成波のピーク位置を擬似距離として認識する。従って、直接波のピーク位置と合成波のピーク位置との間の位相差分、コード位相が遅れる方向に誤差が発生する。コード位相が遅れる方向に誤差が発生することにより、実際より擬似距離が長く見える。
【0049】
反射波が直接波に対して逆位相で受信された場合には、図6(c)に示されるように、コード位相が進む方向に誤差が発生する。すなわち、直接波のピーク位置を擬似距離として認識するのが好ましいが、合成波のピーク位置を擬似距離として認識する。従って、直接波のピーク位置と合成波のピーク位置との間の位相差分、コード位相が進む方向に誤差が発生する。コード位相が進む方向に誤差が発生することにより、実際より擬似距離が短く見える。
【0050】
また、GNSS受信装置100が搭載された移動体及び/又はGNSS衛星が壁に対して移動する場合には、時間の経過とともに直接波と反射波との間の経路差が変化し、直接波と反射波との間の経路差が変化することにより、反射波の位相も変化する。反射波の位相が変化することにより、擬似距離に含まれる誤差も、真値を中心に変動を繰り返す。経路差とは、当該GNSS受信装置へ、GNSS衛星から直接到来する直接波の経路と、GNSS衛星から建物などで反射して到来する反射波の経路との間の差である。
【0051】
経路差変化率推定部108は、当該GNSS受信装置100により受信された直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する。例えば、経路差変化率推定部108は、以下の方法により経路差の変化率を推定するようにしてもよい。
【0052】
(1)経路差変化率推定方法(その1)
経路差変化率推定部108には、当該GNSS受信装置100の移動速度が入力される。該移動速度は、当該GNSS受信装置100が搭載された移動体の車速パルスに基づいて認識されたものであってもよいし、加速度センサにより検出された加速度に基づいて算出されたものであってもよいし、GNSS測位部102による測位演算に基づく測位演算結果(測位位置)の時間変化に基づいて算出されたものであってもよい。経路差変化率推定部108は、入力された移動速度から当該GNSS受信装置100により受信されたGNSS衛星からの直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する。経路差が所定の周期で変動することにより、擬似距離もある所定の周期で真値を中心に変動する。一方、移動速度により擬似距離の所定時間における変動回数を求めることができる。擬似距離が変動している場合には、経路差も変動していると想定されるため、経路差の一周期に相当する長さを該変動回数で除算することにより、移動速度から経路差の変化率(変動率)を推定することができる。経路差変化推定部108は、推定した経路差の変化率を位置演算処理部106に入力する。
【0053】
(2)経路差変化率推定方法(その2)
経路差変化率推定部108には、GNSS衛星の軌道情報と、地図情報とが入力される。該GNSS衛星の軌道情報は、GNSS測位部102において航法メッセージから取得された情報であってもよいし、該経路差変化率推定部108により取得するようにしてもよい。経路差変化率推定部108により取得される場合には、該経路差変化率推定部108には、GNSS衛星からの測位信号(搬送波)が入力される。経路差変化率推定部108は、C/Aコードを用いて、搬送波から航法メッセージを読み取る。経路差変化率推定部108は、地図情報に基づいて、GNSS測位部102による測位演算結果に含まれる測位位置の近傍に位置する建造物(障害物、反射体)の情報を求める。そして、経路差変化率推定部108は、当該GNSS受信装置100の近傍に位置する建造物の情報と、航法メッセージから取得されたGNSS衛星の位置情報に基づいて、当該GNSS受信装置100により受信される直接波と反射波との間の経路差を推定する。そして、経路差変化率推定部108は、経路差の時間変化を求めることにより経路差変化率を推定する。
【0054】
(3)経路差変化率推定方法(その3)
経路差変化率推定部108は、当該GNSS受信装置100と、GNSS衛星からの電波が反射されると想定される建造物(障害物、反射体)との距離を求める。該距離は、レーダからの検知信号、カメラからの画像信号などに基づいて推定されてもよい。例えば、レーダからの検知信号から建造物までの距離Rを求め、該建造物までの距離Rに基づいて、経路差が推定されてもよい。この場合、検出する建造物は、該建造物により電波が反射されることによりマルチパスの影響を受けると想定される範囲(距離)に位置する物体のみでよい。一般的な受信相関器では、検出エリアは半径150m程度であるため、該半径150m程度の範囲に位置する物体のみを検出するようにしてもよい。また、例えば、当該GNSS受信装置100と、GNSS衛星からの電波が反射されると想定される建造物との距離は、カメラからの画像信号に基づいて画像処理を行うことにより推定されてもよい。そして、経路差変化率推定部108は、該距離から、経路差変化率を推定する。当該GNSS受信装置100と建造物との距離を求めることにより、建造物と並行に当該GNSS受信装置100が移動した場合においても、経路差変化率を推定できる。
【0055】
例えば、図6(a)に示されるように、当該GNSS受信装置が搭載された移動体の進行方向と並行に壁が存在し、該壁によりマルチパスが発生した場合には、該移動体と壁との間の距離が変化しないため、GNSS衛星の移動を考慮しない場合には、経路差の変化率は、該移動体の移動速度に関わらず零に近い値となる。従って、当該GNSS受信装置が搭載された移動速度の進行方向と並行に壁が存在し、該壁によりマルチパスが発生した場合には、経路差の変化率を予測できない。経路差変化率をレーダからの検知信号、カメラからの画像信号に基づいて推定された距離に基づいて推定することにより、当該GNSS受信装置が、反射体と並行に移動する場合においても経路差の変化率を推定できる。
【0056】
また、経路差変化率推定部108は、当該GNSS受信装置100の移動速度、GNSS衛星の軌道情報、地図情報、及び当該GNSS受信装置100とGNSS衛星からの電波が反射されると想定される建造物との距離に基づいて、経路差変化率を推定するようにしてもよい。当該GNSS受信装置100の移動速度、GNSS衛星の軌道情報、地図情報、及び当該GNSS受信装置100とGNSS衛星からの電波が反射されると想定される建造物との距離から経路差変化率を推定することにより、経路差変化率の推定精度を向上させることができる。
【0057】
位置演算処置部106は、GNSS測位部102、INS位置推定部104、及び経路差変化率推定部108と接続される。位置演算処置部106は、経路差変化率推定部108により入力された経路差変化率に基づいて、GNSS測位部102により入力された測位演算結果とINS位置推定部104により入力された位置推定結果との間の重み付けを設定する。
【0058】
図7には、経路差変化率とINSによる位置推定結果の重み割合との対応の一例を示す。図7において、横軸は経路差変化率を周期(Hz)により示し、縦軸はINS位置推定部104により推定された位置推定結果のGNSS測位部102による測位演算結果に対する重みの割合(%)を示す。経路差の一周期に相当する長さを擬似距離の変動回数で除算することにより、経路差の変化率(変動率)を推定することができる。従って、経路差の変化率が大きくなるに従って、擬似距離の変動回数は小さくなるため、INS位置推定部104により推定された位置推定結果より、GNSS測位部102による測位演算結果の方の信頼性が高いと想定される。換言すれば、GNSS測位部102による測位演算結果の方が真値に近いと想定される。一方、経路差の変化率が小さくなるに従って、擬似距離の変動回数は大きくなるため、GNSS測位部102による測位演算結果より、INS位置推定部104により推定された位置推定結果の方の信頼性が高いと想定される。換言すれば、INS位置推定部104により推定された位置推定結果の方が真値に近いと想定される。従って、経路差の変化率が小さい値から大きい値になるに従って、大きい値から小さい値に、INS位置推定部104により推定された位置推定結果の重み割合を変更する。図7には、経路差の変化率が小さい値から大きい値になるに従って、大きい値から小さい値に、INS位置推定部104により推定された位置推定結果の重み割合を単調減少させる例が示される。
【0059】
位置演算処理部106は、GNSS測位部102により入力された測位演算結果に対応する重み割合と、INS位置推定部104により入力された位置推定結果に対応する重み割合とを調整することにより、当該GNSS受信装置100の位置を求め、該位置をマップマッチング処理部110に入力する。例えば、GNSS測位部102により入力された測位結果が(X、Y、Z)により示され、INS位置推定部104により入力された位置推定結果が(X´、Y´、Z´)により示され、経路差変化率に基づいて求められる測位演算結果に対する重みがαである場合について説明する。位置演算処理部106は、以下の式により当該GNSS受信装置100の位置(X´´、Y´´、Z´´)を求めるようにしてもよい。位置演算処理部106は、測位演算結果に対応する重み割合がαであることにより、GNSS測位部102により入力された測位演算結果とINS位置推定部104により入力された位置推定結果とを結んだ線分を2分する座標を求める。
【0060】
X´´=(αX+(1−α)X´)
Y´´=(αY+(1−α)Z´)
Z´´=(αY+(1−α)Z´)
GNSS測位部102により入力された測位演算結果とINS位置推定部104により入力された位置推定結果とを結んだ線分を2分する座標を求めることにより、演算処理負荷の増大を最小限にし、測位精度を向上させることができる。GNSS測位部102により入力された測位演算結果とINS位置推定部104により入力された位置推定結果とを結んだ線分を2分する座標を求める方法以外の方法により、当該GNSS受信装置100の位置を求めるようにしてもよい。
【0061】
マップマッチング処理部110は、位置演算処理部106と、地図DB112と接続される。マップマッチング処理部110は、地図DB112により入力される地図情報と、位置演算処理部106により入力される当該GNSS受信装置100の位置とのマッチングを行う。例えば、マップマッチング処理部110は、地図情報に基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を補正する。例えば、地図DB112により入力される地図情報に、位置演算処理部106により入力された当該GNSS受信装置100の位置をマッピングさせた場合に、該位置の地図情報における位置が適切でない場合に、適切な位置になるように補正する。例えば、該位置が道路上で無い場合に、道路上であるように補正する。マップマッチング処理部110は、補正した位置情報を出力する。
【0062】
地図DB112は、地図情報を記憶する。
【0063】
(測位方法)
図8は、本実施例に従ったGNSS受信装置100における測位方法を示す。
【0064】
GNSS受信装置100は、GNSS衛星からの測位信号に基づいて測位演算を行う(ステップS802)。GNSS測位部102は、GNSS衛星からの測位信号に含まれるL1帯のC/Aコードと、C/Aコードのレプリカ信号との相関処理を行い、該相関結果に基づいて、擬似距離を計算する。そして、GNSS測位部102は、航法メッセージの衛星軌道情報に基づく衛星位置の算出結果と、擬似距離の算出結果とに基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を測位する。
【0065】
GNSS受信装置100は、GNSS以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を推定する(ステップS804)。INS位置推定部104は、加速度センサにより検出された加速度、角加速度センサにより検出された角加速度、地磁気センサにより検出された方位などに基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を推定する
GNSS受信装置100は、直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する(ステップS806)。経路差変化率推定部108は、当該GNSS受信装置100の移動速度に基づいて、経路差の変化率を推定する。また、経路差変化率推定部108は、GNSS衛星の軌道情報、地図情報、及び当該GNSS受信装置100の測位演算結果に基づいて、当該GNSS受信装置100により受信される直接波と反射波との間の経路差を推定するようにしてもよい。また、経路差変化率推定部108は、当該GNSS受信装置100と、GNSS衛星からの電波が反射すると想定される建造物との距離に基づいて、経路差の変化率を推定するようにしてもよい。
【0066】
GNSS受信装置100は、経路差の変化率に基づいて、ステップS802による測位演算結果及びステップ803による位置推定結果に対する重み割合を設定する。位置演算処理部106は、経路差変化率推定部108により入力された経路差変化率の推定結果に基づいて、GNSS測位部102により入力された測位演算結果及びINS位置推定部104により入力された位置推定結果に対応する重みを設定する。
【0067】
GNSS受信装置100は、ステップS808により設定された重み付けに従って、当該GNSS受信装置100の位置を求める(ステップS810)。位置演算処理部106は、設定した重み付けに従って、当該GNSS受信装置100の位置を求める。
【0068】
GNSS受信装置100は、マップマッチング処理により、ステップS810により求められた位置を補正する(ステップS812)。マップマッチング処理部110は、地図DB112により入力された地図情報と、位置演算処理部106により入力された位置情報とのマッチング処理を行い、必要に応じて該位置情報を補正する。
【0069】
ステップS802とステップS804の順序はどちらが先であってもよいし、同時であってもよい。
【0070】
本実施例によれば、直接波と反射波との間の経路差の変化率に基づいて、GNSS測位演算による測位演算結果とINSにより推定された位置推定結果との間の重み付けを設定する。経路差の変化率に基づいて重み付けを設定することにより、当該GNSS受信装置がマルチパス環境に位置し、移動速度が遅くなった場合においても、INS測位(慣性航法)により推定された位置情報を有効に用いることができ、測位精度を向上させることができる。
【0071】
また、経路差の変化率が大きくなるに従って、GNSS測位演算による測位演算結果の重み付けを大きくし、INSにより推定された位置推定結果の重み付けを小さくする。経路差の変化率が大きくなるに従ってGNSS測位演算による測位演算結果の重み付けを大きくすることにより、マルチパスの影響を想定し、マルチパスの影響が低いと想定される場合に、GNSS測位演算による測位演算結果の重み付けを大きくできる。
【0072】
また、経路差の変化率が小さくなるに従って、GNSS測位演算による測位演算結果の重み付けを小さくし、INSにより推定された位置推定結果の重み付けを大きくする。経路差の変化率が小さくなるに従ってGNSS測位演算による測位演算結果の重み付けを小さくすることにより、マルチパスの影響を想定し、マルチパスの影響が大きいと想定される場合に、GNSS測位演算による測位演算結果の重み付けを小さくできる。
【0073】
また、GNSS衛星からの測位信号以外の情報には、加速度センサ、角加速度センサ、及び地磁気センサのうち、少なくとも1つのセンサからの情報が含まれ、慣性航法により、当該GNSS受信装置の位置を推定する。慣性航法により、当該GNSS受信装置の位置を推定することにより、GNSS衛星からの情報以外の情報により、当該GNSS受信装置の位置を推定することができる。
【0074】
また、当該GNSS受信装置の移動速度から、経路差の変化率を推定することにより、経路差を直接求めることなく、間接的に経路差の変化率を推定することができる。
【0075】
また、当該GNSS受信装置の位置、GNSS衛星の軌道情報、及び地図情報に基づいて、当該GNSS受信装置において受信される測位信号の経路を推定し、該経路の推定結果から前記経路差の変化率を推定することにより、GNSS衛星からの情報以外の情報により、当該GNSS受信装置の位置を推定することができる。
【0076】
また、当該GNSS受信装置と反射波の経路に位置する反射体との距離を求め、該距離から経路差の変化率を推定することにより、GNSS衛星からの情報以外の情報により当該GNSS受信装置の位置を推定することができる。
【0077】
(第2の実施例)
(GNSS受信装置)
本実施例に従ったGNSS受信装置100は、上述した第1の実施例に従ったGNSS受信装置と同様の機能ブロックにより説明される。本GNSS受信装置100は、第1の実施例に従ったGNSS受信装置と、位置演算処理部106による処理が異なる。
【0078】
位置演算処理部106には、GNSS測位部102により測位演算結果が入力され、INS位置推定部104により位置推定結果が入力され、経路差変化率推定部108により経路差変化率の推定結果が入力される。
【0079】
位置演算処理部106は、経路差変化率の推定結果が規定値以上である場合に、測位演算結果及び位置推定結果の両方を用いて、当該GNSS受信装置100の位置の演算を行い、位置情報をマップマッチング処理部110に入力する。該規定値は、INS位置推定部104による位置推定精度と、GNSS測位部102による測位演算の精度に基づいて決定される。経路差変化率が大きくなるに従い、擬似距離の所定時間における変動回数が少なくなるため、経路差変化率が規定値以上である場合には、GNSS測位部102による測位結果の方の信頼性が高いと想定される。経路差変化率の推定結果が規定値以上である場合、位置演算処理部106は、GNSS測位部102による測位結果により絶対的な位置座標を求め、INS位置推定部104により推定された位置推定結果により該絶対的な位置座標からの移動を求めるようにしてもよい。また、経路差変化率の推定結果が規定値以上である場合、位置演算処理部106は、当該GNSS受信装置100がGNSS衛星からの測位信号を受信できない位置に移動した場合に、INS位置推定部104により推定された位置推定結果を用いるようにしてもよい。
【0080】
一方、位置演算処理部106は、経路差変化率の推定結果が規定値未満である場合に、位置推定結果を用いて、当該GNSS受信装置100の位置の演算を行い、位置情報をマップマッチング処理部110に入力する。経路差変化率が小さくなるに従い、擬似距離の所定時間における変動回数が多くなるため、経路差変化率が規定値未満である場合には、INSにより推定された位置情報の方の信頼性が高いと想定される。
【0081】
マップマッチング処理部110は、地図DB112により入力される地図情報と、位置演算処理部106により入力された当該GNSS受信装置100の位置とのマッチングを行う。例えば、マップマッチング処理部110は、地図情報に基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を補正する。例えば、マップマッチング処理部110は、地図情報に基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を補正する。例えば、地図DB112により入力される地図情報に、位置演算処理部106により入力された当該GNSS受信装置100の位置をマッピングさせた場合に、該位置の地図情報における位置が適切でない場合に、適切な位置になるように補正する。例えば、該位置が道路上で無い場合に、道路上であるように補正する。マップマッチング処理部110は、補正した位置情報を出力する。
【0082】
(測位方法)
図9は、本実施例に従ったGNSS受信装置100における測位方法を示す。
【0083】
GNSS受信装置100は、GNSS衛星からの測位信号に基づいて測位演算を行う(ステップS902)。GNSS測位部102は、GNSS衛星からの測位信号に含まれるL1帯のC/Aコードと、C/Aコードのレプリカ信号との相関処理を行い、該相関結果に基づいて、擬似距離を計算する。そして、GNSS測位部102は、航法メッセージの衛星軌道情報に基づく衛星位置の算出結果と、擬似距離の算出結果とに基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を測位する。
【0084】
GNSS受信装置100は、GNSS以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を推定する(ステップS904)。INS位置推定部104は、加速度センサにより検出された加速度、角加速度センサにより検出された角加速度、地磁気センサにより検出された方位などに基づいて、当該GNSS受信装置100の位置・速度を推定する。
【0085】
GNSS受信装置100は、直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する(ステップS906)。経路差変化率推定部108は、当該GNSS受信装置100の移動速度に基づいて、経路差の変化率を推定する。また、経路差変化率推定部108は、GNSS衛星の軌道情報、地図情報、及び当該GNSS受信装置100の測位演算結果に基づいて、当該GNSS受信装置100により受信される直接波と反射波との間の経路差を推定するようにしてもよい。また、経路差変化率推定部108は、当該GNSS受信装置100と、GNSS衛星からの電波が反射すると想定される反射体との距離に基づいて、経路差の変化率を推定するようにしてもよい。
【0086】
GNSS受信装置100は、経路差の変化率に基づいて、ステップS902による測位演算結果及びステップ904による位置推定結果の両方を使用するか、ステップ904による位置推定結果のみを使用するかを決定する(ステップ908)。位置演算処理部106は、経路差変化率推定部108により入力された経路差変化率の推定結果に基づいて、該経路差変化率の推定結果が規定値以上である場合には、GNSS測位部102により入力された測位結果の方の信頼性が高いと判断し、測位演算結果及びINS位置推定部104により入力された位置推定結果の両方を使用すると判断する。経路差変化率の推定結果が規定値以上である場合には、擬似距離の所定時間における変動回数が少ないと想定されるためである。一方、位置演算処理部106は、経路差変化率推定部108により入力された経路差変化率の推定結果に基づいて、該経路差変化率の推定結果が規定値未満である場合には、INS位置推定部104により入力された位置推定結果の方の信頼性が高いと判断し、INS位置推定部104により入力された位置推定結果を使用すると判断する。経路差変化率の推定結果が規定値未満である場合には、擬似距離の所定時間における変動回数が多いと想定されるためである。
【0087】
GNSS受信装置100は、マップマッチング処理により、ステップS908により求められた位置を補正する(ステップS910)。マップマッチング処理部110は、地図DB112により入力された地図情報と、位置演算処理部106により入力された位置情報とのマッチング処理を行い。該位置情報を補正する。
【0088】
ステップS902とステップS904の順序はどちらが先であってもよいし、同時であってもよい。
【0089】
本実施例において、直接波と反射波との間の経路差の変化率に基づいて、該経路差の変化率が所定の規定値以上である場合に、上述した第1の実施例に従ったGNSS受信装置の動作を適用するようにしてもよい。具体的には、経路差の変化率が所定の規定値以上である場合に、GNSS測位演算による測位演算結果とINSにより推定された位置推定結果との間の重み付けを設定するようにしてもよい。
【0090】
本実施例によれば、直接波と反射波との間の経路差の変化率に基づいて、該経路差の変化率が所定の規定値以上である場合に、GNSS測位演算による測位演算結果及びINSにより推定された位置推定結果を用いて当該GNSS受信装置の位置演算を行う。経路差の変化率に基づいてGNSS測位演算による測位演算結果及びINSにより推定された位置推定結果を用いて当該GNSS受信装置の位置演算を行うことにより、マルチパス環境に位置し、移動速度が遅くなった場合においても、INS測位(慣性航法)により推定された位置情報を有効に用いることにより、測位精度を向上させることができる。
【0091】
直接波と反射波との間の経路差の変化率に基づいて、該経路差の変化率が所定の規定値未満である場合に、INSにより推定された位置推定結果を用いて当該GNSS受信装置の位置演算を行う。経路差の変化率に基づいてINSにより推定された位置推定結果を用いて当該GNSS受信装置の位置演算を行うことにより、マルチパス環境に位置し、移動速度が遅くなった場合に、INS測位(慣性航法)により推定された位置情報を有効に用いることにより、測位精度を向上させることができる。
【0092】
規定値は、INSによる位置推定精度と、GNSS測位演算による測位演算の精度に基づいて決定される。規定値を、位置推定精度と測位演算の精度に基づいて決定することにより、GNSS測位による位置演算の精度が確保できない場合に、INSにより推定された位置を用いることができる。
【0093】
また、GNSS衛星からの測位信号以外の情報には、加速度センサ、角加速度センサ、及び地磁気センサのうち、少なくとも1つのセンサからの情報が含まれ、慣性航法により、当該GNSS受信装置の位置を推定する。慣性航法により、当該GNSS受信装置の位置を推定することにより、GNSS衛星からの情報以外の情報により、当該GNSS受信装置の位置を推定することができる。
【0094】
また、当該GNSS受信装置の移動速度から、経路差の変化率を推定することにより、経路差を直接求めることなく、間接的に経路差の変化率を推定することができる。
【0095】
また、当該GNSS受信装置の位置、GNSS衛星の軌道情報、及び地図情報に基づいて、当該GNSS受信装置において受信される測位信号の経路を推定し、該経路の推定結果から前記経路差の変化率を推定することにより、GNSS衛星からの情報以外の情報により、当該GNSS受信装置の位置を推定することができる。
【0096】
また、当該GNSS受信装置と反射波の経路に位置する反射体との距離を求めることにより、経路差の変化率を推定することにより、GNSS衛星からの情報以外の情報により、当該GNSS受信装置の位置を推定することができる。
【0097】
以上、本発明は特定の実施例を参照しながら説明されてきたが、各実施例は単なる例示に過ぎず、当業者は様々な変形例、修正例、代替例、置換例等を理解するであろう。説明の便宜上、本発明の実施例に従った装置は機能的なブロック図を用いて説明されたが、そのような装置はハードウエアで、ソフトウエアで又はそれらの組み合わせで実現されてもよい。本発明は上記実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形例、修正例、代替例、置換例等が包含される。
【符号の説明】
【0098】
100 GNSS受信装置
102 GNSS測位部
1022 測位信号処理部
1024 測位演算部
104 INS位置推定部
1042 センサ
1044 位置推定部
106 位置演算処理部
108 経路差変化率推定部
110 マップマッチング処理部
112 地図DB(Database)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置であって、
GNSS衛星からの測位信号に基づいて、測位演算を行う測位演算部と、
GNSS衛星からの測位信号以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置の位置を推定する位置推定部と、
前記測位信号に含まれる直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する経路差変化率推定部と、
該経路差変化率推定部により推定された経路差の変化率に基づいて、前記測位演算部による測位演算結果と前記位置推定部により推定された位置推定結果との間の重み付けを設定する重み付け設定部と、
該重み付け設定部により設定された重み付けに従って、当該GNSS受信装置の位置を求める位置演算部と
を有することを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項2】
請求項1に記載のGNSS受信装置において、
前記重み付け設定部は、経路差の変化率が大きくなるに従って、前記測位演算部による測位演算結果の重み付けを大きくし、前記位置推定部により推定された位置推定結果の重み付けを小さくすることを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項3】
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置であって、
GNSS衛星からの測位信号に基づいて、測位演算を行う測位演算部と、
GNSS衛星からの測位信号以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置の位置を推定する位置推定部と、
前記測位信号に含まれる直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する経路差変化率推定部と、
該経路差変化率推定部により推定された経路差の変化率が所定の規定値以上である場合に、前記測位演算部による測位演算結果及び前記位置推定部により推定された位置推定結果を用いて当該GNSS受信装置の位置演算を行う位置演算部と
を有することを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項4】
請求項3に記載のGNSS受信装置において、
前記位置演算部は、経路差の変化率が所定の規定値未満である場合に、前記位置推定部により推定された位置推定結果を用いて当該GNSS受信装置の位置演算を行うことを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項5】
請求項4に記載のGNSS受信装置において、
前記規定値は、前記位置推定部による位置推定精度と、前記測位演算部による測位演算の精度に基づいて決定されることを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
前記GNSS衛星からの測位信号以外の情報には、加速度センサ、角加速度センサ、及び地磁気センサのうち、少なくとも1つのセンサからの情報が含まれ、
前記位置推定部は、慣性航法により、当該GNSS受信装置の位置を推定することを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
前記経路差変化率推定部は、当該GNSS受信装置の移動速度から、前記経路差の変化率を推定することを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
前記経路差変化率推定部は、当該GNSS受信装置の位置、GNSS衛星の軌道情報、及び地図情報に基づいて、当該GNSS受信装置において受信される測位信号の経路を推定し、該経路の推定結果から前記経路差の変化率を推定することを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
前記経路差変化率推定部は、当該GNSS受信装置と前記反射波の経路に位置する反射体との距離を求めることにより、前記経路差の変化率を推定することを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項10】
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置における測位方法であって、
GNSS衛星からの測位信号に基づいて、測位演算を行う測位演算ステップと、
GNSS衛星からの測位信号以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置の位置を推定する位置推定ステップと、
前記測位信号に含まれる直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する経路差変化率推定ステップと、
該経路差変化率推定ステップにより推定された経路差の変化率に基づいて、前記測位演算ステップによる測位演算結果と前記位置推定ステップにより推定された位置推定結果との間の重み付けを設定する重み付け設定ステップと、
該重み付け設定ステップにより設定された重み付けに従って、当該GNSS受信装置の位置を求める位置演算ステップと
を有することを特徴とする測位方法。
【請求項11】
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置における測位方法であって、
GNSS衛星からの測位信号に基づいて、測位演算を行う測位演算ステップと、
GNSS衛星からの測位信号以外の情報に基づいて、当該GNSS受信装置の位置を推定する位置推定ステップと、
前記測位信号に含まれる直接波と反射波との間の経路差の変化率を推定する経路差変化率推定ステップと、
該経路差変化率推定ステップにより推定された経路差の変化率が所定の規定値以上である場合に、前記測位演算ステップによる測位演算結果及び前記位置推定ステップにより推定された位置推定結果を用いて当該GNSS受信装置の位置演算を行う位置演算ステップと
を有することを特徴とする測位方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−164496(P2010−164496A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8427(P2009−8427)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】