説明

GPS受信装置

【課題】市街地での測位精度を容易に改善する。
【解決手段】GPS受信装置は、複数の衛星からの電波を受信しこれら電波に含まれる測位用情報を取得する受信処理部3と、複数の衛星の一部を選択するパラメータを記憶するパラメータ記憶部5と、受信処理部3によって取得された測位用情報に基いて複数の衛星から受信地点までの擬似距離を計算し、パラメータに従って選択された一部の衛星について得られる計算結果から受信地点の位置を測位する測位処理部4と、既知の受信地点の位置を入力するタッチパネルディスプレイ7とを備える。この受信装置は、既知の受信地点の位置がタッチパネルディスプレイ7によって入力されたときに、複数の衛星から既知の受信地点までの真の距離を計算し、この真の距離に対する擬似距離の誤差が少ない順に優先される衛星の仰角値および方位角値に基いて測位に適した仰角および方位角の範囲を決定し、これら範囲をパラメータとしてパラメータ記憶部5に設定する制御部5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にGPS衛星を用いて受信地点の位置を測位するGPS受信装置に関し、主に市街地で利用されるモバイル機器に組み込まれるGPS受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、携帯電話、携帯情報端末(PDA)のようなモバイル機器の普及が著しい。これらモバイル機器の多くは、ユーザの現在地を確認するためにGPS受信装置を搭載している。GPSはGlobal Positioning System の略で、米国国防総省によって民間に開放された衛星航法システムである。このシステムでは、合計24個のGPS衛星が軌道傾斜角度55度の6軌道面に4個ずつ配置されている。各GPS衛星は軌道面内で既知の位置から電波を送信する。この電波には、測位用情報がGPS信号形式で組み込まれている。
【0003】
測位用情報は他の全ての衛星の軌道情報を含むアルマナックデータ、並びに正確な自身の位置情報および送信時刻情報を含むエフェメリスデータである。アルマナックデータは主にGPS受信装置の電源を投入した直後に利用可能なGPS衛星を確認するために用いられ、エフェメリスデータは実際に受信地点の位置を測位するために用いられる。GPS受信装置は受信地点の緯度、経度、高度、および受信時刻の未知数に対応して少なくとも4衛星を測位用に必要とし、これら4衛星からの電波を受信して取得される測位用情報に基いて受信地点の位置を測位する。
【0004】
モバイル機器では、測位された受信地点の位置がディスプレイ上に地図と一緒に表示される特定のマークにより示される。モバイル機器のユーザは移動中に自身の現在地をこのマークを参照して確認する。例えば徒歩で移動する場合には、GPS受信装置が僅かな受信地点の変化を地図上のマークに反映させるために高い精度で測位を行う必要がある。ところが、市街地においては高層ビル等の大きな建物が周辺に建ち並んでいることが多く、GPS衛星からの電波がこれら建物で反射され、実際よりも長い経路でGPS受信装置に到達していることがある。このような状況では測位誤差が増大する。
【0005】
GPS受信装置は、仰角および方位角の範囲のような設定パラメータを用いて少なくとも4衛星を捕捉する。従来、測位誤差を低減する方策として、標準設定パラメータ以外に市街地用設定パラメータや郊外用設定パラメータを設け、これらを状況に応じて使い分けることが提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2004−12426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の市街地用設定パラメータでは、建物による電波の減衰や反射の影響を受けないようにするため、郊外用設定パラメータに比べて上方の衛星を捕捉対象とする大きな仰角が設定される。しかし、このような仰角の設定が利用可能なGPS衛星の捕捉を困難にする原因となり、市街地において測位誤差を期待通りに低減できないことがある。
【0007】
本発明の目的は、市街地での測位精度を容易に改善できるGPS受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、複数の衛星からの電波を受信しこれら電波に含まれる測位用情報をそれぞれ取得する受信処理回路と、複数の衛星の一部を選択するパラメータを記憶するパラメータ記憶部と、受信処理回路によって取得された測位用情報に基いて複数の衛星から受信地点までの擬似距離をそれぞれ計算し、パラメータに従って選択された一部の衛星について得られる計算結果から受信地点の位置を測位する測位処理回路と、既知の受信地点の位置を入力する入力部と、既知の受信地点の位置が入力部によって入力されたときに、複数の衛星から既知の受信地点までの真の距離を計算し、この真の距離に対する擬似距離の誤差が少ない順に優先される衛星の仰角値および方位角値に基いて測位に適した仰角および方位角の範囲を決定し、これら仰角および方位角の範囲をパラメータとしてパラメータ記憶部に設定する制御回路とを備えるGPS受信装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
このGPS受信装置では、既知の受信地点の位置が入力部によって入力されると、制御回路が複数の衛星から既知の受信地点までの真の距離を計算し、この真の距離に対する擬似距離の誤差が少ない順に優先される衛星の仰角値および方位角値に基いて測位に適した仰角および方位角の範囲を決定し、これら仰角および方位角の範囲をパラメータとしてパラメータ記憶部に設定する。市街地では、障害物の無い開けたスペースがビル間の通りに沿って続いていることが多く、ユーザはこのような通りに沿って移動することが一般的である。すなわち、ユーザが既知の受信地点の位置を入力したときに、周囲のビルによる影響をほとんど受けずに衛星からの電波を直接的に受信できるような仰角および方位角の範囲が判明し、パラメータ記憶部に設定される。従って、市街地での測位精度を容易に改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の第1実施形態に係るGPS受信装置について添付図面を参照して説明する。このGPS受信装置は、主に徒歩で移動中に利用される携帯電話やPDAのようなモバイル機器に組み込まれ、受信地点の位置を測位するために合計24個のGPS衛星を利用する。各GPS衛星は軌道面内で既知の位置から電波を送信する。この電波には、測位用情報がGPS信号形式で組み込まれている。測位用情報は他の全ての衛星の軌道情報を含むアルマナックデータ、並びに正確な自身の位置情報および送信時刻情報を含むエフェメリスデータである。アルマナックデータは主にGPS受信装置の電源を投入した直後に利用可能なGPS衛星を確認するために用いられ、エフェメリスデータは実際に受信地点の位置を測位するために用いられる。GPS受信装置は未知数の緯度、経度、高度、および時刻に対応して少なくとも4衛星を測位用に必要とし、これら4衛星からの電波を受信して取得される測位用情報に基いて受信地点の位置を測位する。
【0011】
図1はこのGPS受信装置1の回路構成を概略的に示す。GPS受信装置1は、アンテナ2、受信処理部3、測位処理部4、パラメータ記憶部5、制御部6、タッチパネルディスプレイ7、および地図データ記憶部8を備える。受信処理部3はアンテナ2と協力して複数のGPS衛星からの電波を受信しこれら電波に含まれる測位用情報をそれぞれ取得する受信処理回路を構成する。パラメータ記憶部6はこれら複数の衛星の一部として少なくとも4個の衛星を選択するパラメータを記憶する。測位処理部4は受信処理部3によって取得された測位用情報に基いて複数の衛星から受信地点までの擬似距離をそれぞれ計算し、パラメータ記憶部6に記憶されたパラメータに従って選択された衛星について得られる計算結果から受信地点の位置を測位する測位処理回路を構成する。
【0012】
制御部6、タッチパネルディスプレイ7、および地図データ記憶部8は、既知の受信地点の位置が入力されたときに、複数の衛星から既知の受信地点までの真の距離を計算し、この真の距離に対する擬似距離の誤差の少ない順に優先される衛星の仰角値および方位角値に基いて測位に適した仰角および方位角の範囲を上述のパラメータとしてパラメータ記憶部5に設定する制御回路を構成する。地図データ記憶部8は地図データを記憶し、タッチパネルディスプレイ7は地図を表示するために設けられる。タッチパネルディスプレイ7はさらに既知の受信地点の位置を入力することが可能であり、制御部6は既知の受信地点の位置がタッチパネルディスプレイ7から入力されたときに上述した制御回路の動作のための制御を行う。また、制御部6は測位処理部4の測位結果に基いて地図データから得られる受信地点の周辺地図および周辺地図内に配置される受信地点のマークをタッチパネルディスプレイ7に表示させるように構成される。タッチパネルディスプレイ7は、例えば液晶表示パネル上に透明なタッチパネルを重ねて一体化することにより得られる。ここでは、タッチパネルが周辺地図に対して行われるタッチペン等のポインタの操作により既知の受信地点の位置を入力する形式で入力部を兼ねる。制御部6はさらに既知の受信地点の位置を入力するために周辺地図を拡大するように構成される。
【0013】
次に、測位結果として得られた受信地点の位置が間違っている場合に制御部6によって行われる位置修正処理について説明する。図2はこの位置修正処理のフローを示す。位置修正処理は、例えばタッチペンの操作によってタッチパネルから入力される位置修正要求に従って開始される。位置修正処理が実際に開始されると、制御部6がステップST1で測位結果に基いてタッチパネルディスプレイ7に表示された周辺地図を拡大し、ステップST2で位置修正可能状態に移行したことを通知するメッセージをタッチパネルディスプレイ7に表示させる。制御部6はステップST3で既知の受信地点が周辺地図上で入力されたか調べる。この既知の受信地点はユーザが周囲を見回して確認された真の現在地である。制御部6はステップST4で測位用情報が取得された複数の衛星から既知の受信地点までの真の距離を入力位置に基いて計算する。制御部6はステップST5で測位用情報が取得された複数の衛星から既知の受信地点までの擬似距離を測位処理部4から出力させる。ステップST6では、制御部6がステップST4で得られた複数の衛星から既知の受信地点までの真の距離と、ステップST5で得られた複数の衛星から既知の受信地点までの擬似距離とを比較する。ステップST7では、制御部6が真の距離に対する擬似距離の誤差の少ない順に優先される衛星の仰角値および方位角値を求め、これらに基いて測位に適した仰角および方位角の範囲を決定する。ステップST8では、制御部6がこれら仰角および方位角の範囲をパラメータとしてパラメータ記憶部5に設定する。これにより、複数の衛星の一部として選択される少なくとも4個の衛星が擬似距離の誤差の少ないものになり、受信地点のマークが既知の受信地点に移動されることになる。
【0014】
図3は、図1に示すタッチパネルディスプレイ7に表示される周辺地図を示す。ここでは、周辺地図が立体地図として拡大されているが、平面地図として拡大されてもよい。受信地点のマークが測位結果としてこの周辺地図上で位置Aに表示されたときに、ユーザの現在地が位置Bである場合がある。この場合、ユーザが位置修正要求を行ってタッチペンの接触により既知の受信地点として位置Bを指定すれば、この位置Bにおいて最適な方位角および仰角の範囲が複数の衛星の一部を選択するパラメータとして設定される。具体的には、方位角が大通りに沿って決定され、仰角も比較的低く決定される。
【0015】
図4はGPS受信装置と測位に使用される衛星との位置関係を示す。GPS受信装置の場所、すなわち受信地点の位置(緯度X、経度Y、高度Z)の3つの未知数は、3衛星に関して用意される連列方程式を解けばよい。しかしながら、GPS受信装置の内蔵時計は、GPS衛星に設けられる原子時計のような精度を持たないため、この内蔵時計の利用は誤差を増大させる。このため、現在時刻Tも未知数として計算する必要があり、4個の衛星S1,S2,S3,S4に関して用意される連立方程式を解くことになる。これら4衛星のエフェメリスデータがそれぞれ(x1, y1, z1, t1)、(x2, y2, z2, t2)、(x3, y3, z3, t3)、(x4, y4, z4, t4)であり、衛星S1,S2,S3,S4から受信地点の位置(X,Y,Z)までの距離がそれぞれd1, d2, d3, d4であり、さらに光の速さがcであるとすれば、図5に示す4つの連立方程式が成り立ち、これを解くことにより受信地点の位置を求められる。ここでは、受信地点の位置を緯度X、経度Y、および高度Zで表したが、緯度Xおよび経度Yだけで表す場合には3個の衛星を利用して測位を行うことが可能である。
【0016】
本実施形態では、既知の受信地点の位置がタッチパネルディスプレイ7によって入力されると、制御部6が複数の衛星から既知の受信地点までの真の距離を計算し、この真の距離に対する擬似距離の誤差が少ない順に優先される衛星の仰角値および方位角値に基いて測位に適した仰角および方位角の範囲を決定し、これら仰角および方位角の範囲をパラメータとしてパラメータ記憶部5に設定する。市街地では、障害物の無い開けたスペースがビル間の通りに沿って続いていることが多く、ユーザはこのような通りに沿って移動することが一般的である。すなわち、ユーザが既知の受信地点の位置を入力したときに、周囲のビルによる影響をほとんど受けずに衛星からの電波を直接的に受信できるような仰角および方位角の範囲が判明し、パラメータ記憶部5に設定される。従って、市街地での測位精度を容易に改善できる。
【0017】
尚、本発明は上述の実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で様々に変形可能である。
【0018】
例えば、タッチパネルディスプレイ7はモバイル機器の操作パネルおよびディスプレイと共用可能である。
【0019】
また、本発明は、衛星からの時刻情報の一時的な精度の低下に対処するために、位置の分っている基地局が発信するFM放送電波等を利用してGPS測位結果を修正して測位制度を高めるdifferentialGPS方式にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係るGPS受信装置の回路構成を概略的に示す図である。
【図2】図1に示す制御部によって行われる位置修正処理の流れを示す図である。
【図3】図1に示すタッチパネルディスプレイに表示される周辺地図を示す図である。
【図4】図1に示すGPS受信装置と測位に使用される衛星との位置関係を示す図である。
【図5】図4に示す位置関係において受信地点の位置を求めるための連立方程式を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1…GPS受信装置、2…アンテナ、3…受信処理部、4…測位処理部、5…パラメータ記憶部、6…制御部、7…タッチパネルディスプレイ、8…地図データ記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の衛星からの電波を受信しこれら電波に含まれる測位用情報をそれぞれ取得する受信処理回路と、前記複数の衛星の一部を選択するパラメータを記憶するパラメータ記憶部と、前記受信処理回路によって取得された測位用情報に基いて前記複数の衛星から受信地点までの擬似距離をそれぞれ計算し、前記パラメータに従って選択された一部の衛星について得られる計算結果から前記受信地点の位置を測位する測位処理回路と、既知の受信地点の位置を入力する入力部と、前記既知の受信地点の位置が前記入力部によって入力されたときに、前記複数の衛星から前記既知の受信地点までの真の距離を計算し、この真の距離に対する前記擬似距離の誤差が少ない順に優先される衛星の仰角値および方位角値に基いて測位に適した仰角および方位角の範囲を決定し、これら仰角および方位角の範囲を前記パラメータとして前記パラメータ記憶部に設定する制御回路とを備えるGPS受信装置。
【請求項2】
前記制御回路は地図データを記憶する地図データ記憶部、地図を表示するディスプレイ部、および前記測位処理回路の測位結果に基いて前記地図データから得られる前記受信地点の周辺地図および前記周辺地図内に配置される前記受信地点のマークを前記ディスプレイ部に表示させる表示制御部を含む請求項1に記載のGPS受信装置。
【請求項3】
前記ディスプレイ部は、前記周辺地図に対して行われるポインタの操作により前記既知の受信地点の位置を入力する形式で前記入力部を兼ねるタッチパネルディスプレイである請求項2に記載のGPS受信装置。
【請求項4】
前記表示制御部は前記既知の受信地点の位置を入力するために前記周辺地図を拡大するように構成される請求項3に記載のGPS受信装置。
【請求項5】
徒歩で移動中に利用されるモバイル機器に組み込まれる請求項1に記載のGPS受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−298607(P2008−298607A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145455(P2007−145455)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】