III族窒化物半導体光素子
【課題】ピエゾ電界の影響が抑制されていると共に、高い結晶品質を有するIII族窒化物半導体光素子を提供する。
【解決手段】III族窒化物半導体光素子11aは、c軸方向に延びる基準軸Cxに直交する基準平面Scに対して有限の角度をなす主面13aを有するIII族窒化物半導体基板13と、III族窒化物半導体基板13の主面13a上に設けられ、III族窒化物半導体からなる井戸層28、及び、III族窒化物半導体からなる複数のバリア層29を含む量子井戸構造の活性層17とを備え、主面13aは、半極性を示し、活性層17は、1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有しており、複数のバリア層29は、井戸層28のIII族窒化物半導体基板側の下部界面28Sdと接する上部界面近傍領域29uにおいて、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含む。
【解決手段】III族窒化物半導体光素子11aは、c軸方向に延びる基準軸Cxに直交する基準平面Scに対して有限の角度をなす主面13aを有するIII族窒化物半導体基板13と、III族窒化物半導体基板13の主面13a上に設けられ、III族窒化物半導体からなる井戸層28、及び、III族窒化物半導体からなる複数のバリア層29を含む量子井戸構造の活性層17とを備え、主面13aは、半極性を示し、活性層17は、1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有しており、複数のバリア層29は、井戸層28のIII族窒化物半導体基板側の下部界面28Sdと接する上部界面近傍領域29uにおいて、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1〜3には、多重量子井戸構造の活性層を有する窒化物半導体素子が記載されている。これらの窒化物半導体素子においては、活性層のバリア層は、n型不純物を含んでいる。これにより、特許文献1の窒化物半導体素子では、発振閾値を低下させて素子の長寿命化が可能であること、特許文献2の窒化物半導体素子では、素子特性を悪化させることなく順方向電圧を低減することが可能であること、及び、特許文献3の窒化物半導体素子では、逆方向耐圧特性が向上することが、それぞれ記載されている。
【0003】
下記特許文献4には、III族窒化物発光層を含む発光半導体素子を製造する方法が記載されている。この方法においては、ピエゾ電界の大きさを減少させるために、c面から傾いた半極性面を主面とする基板上に上記III族窒化物発光層等を成長させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−298090号公報
【特許文献2】特開2001−102629号公報
【特許文献3】特開2002−84038号公報
【特許文献4】特許第3955367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
III族窒化物半導体光素子として、窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物基板上に、活性層等を含む半導体積層体が形成されたものがある。このようなIII族窒化物半導体光素子において、c面を主面とするGaN基板を用いた場合、活性層に比較的大きな歪みが生じてしまう。このため、ピエゾ電界による量子シュタルク効果が生じ、電子および正孔が空間分離されて発光効率が低下するといった問題が生じる。
【0006】
上記特許文献1〜3に記載されているように、活性層のバリア層にn型不純物を含ませると、ピエゾ電界をスクリーニングすることが可能であることが知られている。そのため、c面を主面とするGaN基板を用い、活性層のバリア層にn型不純物を含ませる方法も考えられる。
【0007】
しかしながら、c面を主面とするGaN基板を用いたIII族窒化物半導体光素子においては、活性層の井戸層の組成ゆらぎに起因する局在準位発光のため、素子の発光効率が高くなっていることが知られている。発明者らの知見によると、このようなIII族窒化物半導体光素子において、活性層のバリア層にn型不純物を含ませると、井戸層の組成ゆらぎが低下し、素子の発光効率が低下してしまう。このように、c面を主面とするGaN基板を用いたIII族窒化物半導体光素子において活性層のバリア層にn型不純物を含ませると、井戸層の組成ゆらぎの変化に起因して素子特性が劣化してしまう。このようなことが原因で、c面を主面とするGaN基板を用いると、ピエゾ電界の影響を抑制して十分な特性を有するIII族窒化物半導体光素子を得ることは困難である。
【0008】
このようなピエゾ電界による悪影響を抑制するため、上記特許文献4に記載されているように、半極性面を主面とするGaN基板を用いるIII族窒化物半導体光素子が知られている。
【0009】
しかしながら、半極性面を主面とする基板上に半導体積層体を形成すると、半導体積層体の成長時に各層のc面が成長し易いことに起因して、半導体積層体の各層のモフォロジーが悪化してしまう。このモフォロジーの悪化により、半導体積層体の結晶品質が劣化するため、十分な特性を有するIII族窒化物半導体素子を得ることは困難である。
【0010】
半極性面を主面とする基板上に半導体積層体を形成した場合であっても、上記特許文献1〜3に記載されているように活性層のバリア層にn型不純物を含ませると、半導体積層体の各層のモフォロジーを改善(モフォロジーを平坦化)させることが可能であることが知られている。しかしながら、バリア層中のn型不純物が過剰となると、半導体積層体の結晶品質は劣化するため、バリア層中にn型不純物を含ませるだけでは、半導体積層体の結晶品質を十分に改善させることは困難な場合がある。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、ピエゾ電界の影響が抑制されていると共に、高い結晶品質を有するIII族窒化物半導体光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するため、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子は、III族窒化物半導体からなり、該III族窒化物半導体のc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対して有限の角度をなす主面を有するIII族窒化物半導体基板と、III族窒化物半導体基板の主面上に設けられ、III族窒化物半導体からなる井戸層、及び、III族窒化物半導体からなる複数のバリア層を含む量子井戸構造の活性層と、を備え、主面は、半極性を示し、活性層は、エピタキシャル層であって、1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有しており、複数のバリア層は、井戸層のIII族窒化物半導体基板側の界面と接する界面近傍領域において、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子においては、半極性を示す主面を有するIII族窒化物半導体基板上に活性層を設けているため、主面がc面であるIII族窒化物半導体基板上に活性層を設けたIII族窒化物半導体光素子と比較して、ピエゾ電界の影響を抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子においては、活性層のバリア層は、井戸層のIII族窒化物半導体基板側の界面と接する界面近傍領域において、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上の濃度で含んでいる。これにより、バリア層のモフォロジーが改善するため、当該界面近傍領域に接するように当該界面近傍領域上にエピタキシャル成長する井戸層のモフォロジーが改善し、活性層全体の結晶品質が向上する。また、バリア層が含むn型不純物の濃度は、1×1019cm−3以下であるため、井戸層のモフォロジーを悪化させることはない。また、発明者らの知見によると、活性層に1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の濃度範囲の酸素を含ませることにより、活性層の各層のモフォロジーが改善し、活性層の結晶品質が向上する。
【0015】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子においては、バリア層は、酸素以外のn型不純物と酸素の両方を含んでいるが、酸素以外のn型不純物と酸素とでは、バリア層内において取り込まれるサイトが異なる。具体的には、酸素以外のn型不純物は、バリア層を構成するIII族窒化物半導体のIII族原子サイトに取り込まれるのに対し、酸素はバリア層を構成するIII族窒化物半導体の窒素サイトに取り込まれる。
【0016】
そのため、バリア層内の酸素以外のn型不純物と酸素のそれぞれの濃度が、仮に酸素以外のn型不純物と酸素をそれぞれ単独でバリア層にドープさせたときに、それぞれ活性層の各層のモフォロジーを改善させることが可能なそれぞれの許容濃度範囲内であれば、活性層の各層のモフォロジーを改善させ、活性層の結晶品質を向上させることができる。その結果、バリア層に酸素以外のn型不純物のみをドープすることにより活性層のモフォロジーを改善させる場合よりも、活性層の結晶品質を向上させることができる。
【0017】
また、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子においては、バリア層に酸素以外のn型不純物をドープしていることに起因して、井戸層の組成ゆらぎが小さくなる可能性がある。しかし、半極性を示す主面を有するIII族窒化物半導体基板上に活性層を設けると、井戸層の組成ゆらぎは小さくなる。そのため、主面がc面であるIII族窒化物半導体基板上に活性層を設けたIII族窒化物半導体光素子における場合と異なり、元々井戸層の組成ゆらぎは小さいため、井戸層の組成ゆらぎが小さくなることに起因した素子特性の変化は抑制される。
【0018】
以上より、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子によれば、ピエゾ電界の影響を抑制することができると共に、結晶品質が高くなる。
【0019】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、バリア層が含むn型不純物は、シリコン、ゲルマニウム、及び、スズのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、複数のバリア層は、井戸層の界面と接する界面近傍領域において、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことが好ましい。これにより、バリア層は、井戸層の界面と接する全ての界面近傍領域において、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度の酸素以外のn型不純物を含む。その結果、バリア層のモフォロジーはさらに改善されるため、活性層の各層のモフォロジーもさらに改善する。その結果、素子の結晶品質がさらに高くなる。
【0021】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、複数のバリア層は、その厚さ方向の全体にわたって、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことが好ましい。これにより、バリア層のモフォロジーはさらに改善されるため、活性層の各層のモフォロジーもさらに改善する。その結果、素子の結晶品質がさらに高くなる。
【0022】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、上記n型不純物の濃度は、5×1017cm−3以上であることが好ましい。これにより、井戸層における転位の発生が特に抑制される。
【0023】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、上記n型不純物の濃度は、1×1018cm−3以上であることが好ましい。これにより、III族窒化物半導体光素子の動作電圧を特に低下させることができる。
【0024】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、主面の法線方向を示す法線ベクトルと基準軸の方向を示す基準ベクトルとの成す角度は、10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲にあることが好ましい。この場合、主面と基準平面との成す角度も10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲となる。これにより、主面は、III族窒化物半導体の安定面であるm面やa面から傾いた面となる。その結果、井戸層における組成ゆらぎを抑制することができるため、井戸層における転位の発生が抑制される。
【0025】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、法線ベクトルと基準ベクトルとの成す角度は、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあることが好ましい。この場合、主面と基準平面との成す角度も63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲となる。これにより、主面は、III族窒化物半導体の安定面である{10−11}面から傾いた面となる。その結果、井戸層における組成ゆらぎを特に抑制することができるため、井戸層における転位の発生が特に抑制される。
【0026】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、法線ベクトルと基準ベクトルとの成す角度は、71度以上79度以下及び101度以上109度以下の範囲にあることが好ましい。この場合、主面と基準平面との成す角度も71度以上79度以下及び101度以上109度以下の範囲となる。これにより、井戸層における組成ゆらぎをさらに抑制することができるため、井戸層における転位の発生が特に抑制されると共に、井戸層におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、本発明のIII族窒化物半導体光素子を長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合に特に有利となる。
【0027】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、法線ベクトルは、基準ベクトルをIII族窒化物半導体のa軸の周りに回転させた方向であることができる。この場合、主面は、基準平面をIII族窒化物半導体のm軸の方向に傾斜させた半極性面となる。
【0028】
さらに、この場合において、主面とa面とが成す角度は、87度以上93度以下であることができる。この場合、主面は、基準平面をIII族窒化物半導体のm軸の方向に傾斜させ、さらにa軸の方向に微細な角度、即ち、−3度以上+3度以下の範囲の有限の角度傾斜させた半極性面となる。これにより、酸素以外のn型不純物を含むバリア層のモフォロジーが特に改善される。
【0029】
また、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、法線ベクトルは、基準ベクトルをIII族窒化物半導体のm軸の周りに回転させた方向であることができる。この場合、主面は、基準平面をIII族窒化物半導体のa軸の方向に傾斜させた半極性面となる。
【0030】
さらに、この場合において、主面とm面とが成す角度は、87度以上93度以下であることができる。この場合、主面は、基準平面をIII族窒化物半導体のa軸の方向に傾斜させ、さらにm軸の方向に微細な角度、即ち、−3度以上+3度以下の範囲の有限の角度傾斜させた半極性面となる。これにより、酸素以外のn型不純物を含むバリア層のモフォロジーが特に改善される。
【0031】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、主面は、{20−21}面であることが好ましい。これにより、井戸層における組成ゆらぎをさらに抑制することができるため、井戸層における転位の発生が特に抑制されると共に、井戸層におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、本発明のIII族窒化物半導体光素子を長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合に特に有利となる。
【0032】
また、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、主面は、{20−2−1}面であることが好ましい。これにより、井戸層における組成ゆらぎをさらに抑制することができる。その上、{20−21}面の裏面に相当する{20−2−1}面を主面とする場合、{20−21}面を主面とする場合よりもさらに井戸層におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、本発明のIII族窒化物半導体光素子を長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合にさらに有利となる。
【0033】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、活性層を貫通している転位密度は、1×106cm−2以下であることが好ましい。これにより、本発明のIII族窒化物半導体光素子を発光波長が緑色領域の半導体光素子とする場合においても、十分な信頼性を確保できる。
【0034】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、活性層を貫通している転位密度は、1×105cm−2以下であることが好ましい。これにより、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子をレーザ素子とする場合においても、十分な信頼性を確保できる。
【0035】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子は、III族窒化物半導体からなる第1導電型の第1半導体層と、III族窒化物半導体からなる第2導電型の第2半導体層と、をさらに備え、主面の法線と基準軸との成す角度は、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあり、第1半導体層は、III族窒化物半導体基板と活性層との間に設けられ、活性層は、第1半導体層と第2半導体層との間に設けられ、活性層は、複数の井戸層を含み、複数の井戸層のうち、最も第2半導体層側の井戸層と、第2半導体層との間には、酸素以外のn型不純物を含む半導体層が存在することが好ましい。
【0036】
主面の法線と基準軸との成す角度が上記範囲内である場合、活性層におけるピエゾ電界は、III族窒化物半導体基板のピエゾ電界の向きと逆向きになる。そのため、最も第2半導体層側の井戸層と第2半導体層との間において価電子帯のディップが形成され難くなる。そのため、最も第2半導体層側の井戸層と第2半導体層との間に酸素以外のn型不純物を含む半導体層を設けても、電子のオーバーフローが生じにくい。そして、このようなn型不純物を含む半導体層を設けると、III族窒化物半導体光素子の動作電圧を低下させることができる。そのため、電子のオーバーフローを抑制しつつ、動作電圧を低下させることが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、ピエゾ電界の影響が抑制されていると共に、高い結晶品質を有するIII族窒化物半導体光素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子を概略的に示す図面である。
【図2】III族窒化物半導体光素子の活性層近傍の断面構造を示す図である。
【図3】実施形態の変形例に係るIII族窒化物半導体光素子を概略的に示す図面である。
【図4】極性面及び半極性面上における、活性層、光ガイド層、及び、p型III族窒化物半導体層におけるバンドダイアグラムを示す図面である。
【図5】実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2の半導体積層体構造を示す図である。
【図6】実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、及び、表面粗さを示す図である。
【図7】実施例2のノマルスキー顕微鏡写真を示す図である。
【図8】実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4のLD構造を示す図である。
【図9】実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、及び、LDの駆動電圧、及び、LDのしきい値電流を示す図である。
【図10】実施例6、実施例7、比較例5のLED構造を示す図である。
【図11】実施例6、実施例7、及び、比較例5における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、暗点密度、及び、LED出力を示す図である。
【図12】比較例5及び比較例6のCL像を示す図である。
【図13】比較例6及び比較例7のLED構造を示す図である。
【図14】比較例6及び比較例7における、バリア層中のSi濃度、PL波長、及び、PL強度を示す図である。
【図15】比較例6及び比較例7のカソードルミネッセンス法による発光像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施の形態に係るIII族窒化物半導体光素子について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、可能な場合には同一要素には同一符号を用いる。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0040】
図1は、実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子を概略的に示す図面である。本実施形態のIII族窒化物半導体光素子は、例えば発光ダイオードに適用可能な構造を有する。図1に示すように、III族窒化物半導体光素子11aは、III族窒化物半導体基板13と、III族窒化物半導体領域15と、活性層17と、III族窒化物半導体領域19とを備える。III族窒化物半導体基板13は、例えばGaN、InGaN、AlGaNといったIII族窒化物半導体からなる。III族窒化物半導体基板13は、主面13a及び裏面13bを有する。III族窒化物半導体基板13の主面13aは、半極性を表す。
【0041】
図1には、III族窒化物半導体の六方晶系の結晶軸a軸、m軸及びc軸からなる結晶座標系CRを示している。例えば、六方晶におけるc面は「(0001)」と表記され、「(000−1)」と表記される面方位は(0001)面に対して反対を向く。また、図1には、幾何学座標軸X、Y、Zからなる直交座標系Sが示されている。直交座標系Sにおいては、主面13aと平行な方向にX軸及びY軸を設定し、III族窒化物半導体基板13の厚さ方向にZ軸を設定している。
【0042】
III族窒化物半導体基板13は、半極性の主面13aを有するため、III族窒化物半導体基板13の主面13aは、基準軸Cxに直交する基準平面Scに対して傾斜する。ここで、基準軸Cxは、III族窒化物半導体のc軸方向に延びる。
【0043】
基準平面Scは基準軸Cxに直交するため、基準平面ScはIII族窒化物半導体のc面と平行な平面となる。図1には、c軸方向を向いた基準ベクトルVCと、主面13aの法線方向を向いた法線ベクトルVNが示されている。法線ベクトルVNと基準ベクトルVCとがなす角度αは、主面13aと基準平面Scとがなす角度AOFFと等しい。この角度AOFFは、III族窒化物半導体基板13のc面に対するオフ角と呼ばれる。
【0044】
III族窒化物半導体領域15、活性層17、及び、III族窒化物半導体領域19は、それぞれエピタキシャル層であり、主面13a上に、Z軸と平行な軸Axに沿って配列されている。
【0045】
III族窒化物半導体領域15は、主面上13aに設けられている。III族窒化物半導体領域15は、一又は複数のIII族窒化物半導体層を含むことができる。本実施形態では、III族窒化物半導体領域15は、第1導電型III族窒化物半導体層21(第1半導体層)及びIII族窒化物半導体層23からなる。第1導電型III族窒化物半導体層21は、例えばn型半導体層であり、III族窒化物半導体層23は、例えば緩衝層であることができる。第1導電型III族窒化物半導体層21は、例えばn型窒化ガリウム系半導体からなり、n型窒化ガリウム系半導体には、例えばシリコンといったn型ドーパントが添加されている。n型窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaN等からなることができる。III族窒化物半導体層23は、例えばアンドープ窒化ガリウム系半導体からなる。窒化ガリウム系半導体は、例えばInGaN、InAlGaN、GaN等からなることができる。
【0046】
また、III族窒化物半導体領域19は、一又は複数のIII族窒化物半導体層を含むことができる。本実施形態では、III族窒化物半導体領域19は、III族窒化物半導体層25及び第2導電型III族窒化物半導体層27(第2半導体層)からなる。III族窒化物半導体層25は、例えばアンドープ又はp型窒化ガリウム系半導体からなることができる。第2導電型III族窒化物半導体層27は、例えばp型窒化ガリウム系半導体からなり、p型窒化ガリウム系半導体には、例えばマグネシウムといったp型ドーパントが添加されている。p型窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InAlGaN、InGaN等からなることができる。III族窒化物半導体層25は、例えば電子ブロック層であり、第2導電型III族窒化物半導体層27は、例えばp型コンタクト層であることができる。第1導電型III族窒化物半導体層21と第2導電型III族窒化物半導体層27との間には、活性層17が設けられている。活性層17は、III族窒化物半導体領域15上に設けられており、III族窒化物半導体領域19は、活性層17上に設けられている。
【0047】
III族窒化物半導体領域15、活性層17、及び、III族窒化物半導体領域19は、1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有している。この酸素濃度は、例えば、III族窒化物半導体領域15、活性層17、及び、III族窒化物半導体領域19をエピタキシャル成長させる際の、原料中の水分等の不純物濃度、基板のオフ角、成長温度、混晶の組成等により制御可能である。なお、本実施形態においては、III族窒化物半導体領域15、活性層17、及び、III族窒化物半導体領域19の全てが1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有しているが、少なくとも活性層17が1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有していればよい。
【0048】
次に、図2を参照しながら、活性層17の詳細について説明する。図2は、III族窒化物半導体光素子の活性層近傍の断面構造を示す図である。
【0049】
III族窒化物半導体光素子11aの活性層17は、交互に配列された井戸層28及びバリア層29を含む多重量子井戸構造を有することができる。最下層のバリア層29は、III族窒化物半導体層23と接し、最上層のバリア層29は、III族窒化物半導体層25と接している。井戸層28は、例えばGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaN等のIII族窒化物半導体からなることができ、バリア層29は、例えばGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaN等のIII族窒化物半導体からなることができる。なお、活性層17は、1つの井戸層28と2つのバリア層29とからなる単一量子井戸構造を有していてもよい。また、最下層のバリア層29と最上層のバリア層29は、省略されていてもよい。この場合、最下層の井戸層28は、III族窒化物半導体層23と接し、最上層の井戸層28は、III族窒化物半導体層25と接する。
【0050】
井戸層28は、III族窒化物半導体基板13側の下部界面28Sdと、III族窒化物半導体基板13側とは反対側の上部界面28Suとを有する。バリア層29は、III族窒化物半導体基板13側の下部界面近傍領域29dと、III族窒化物半導体基板13側とは反対側の上部界面近傍領域29uと、下部界面近傍領域29dと上部界面近傍領域29uの間の中間領域29nとを有する。井戸層28の上部界面28Suは、バリア層29の下部界面近傍領域29dと接し、井戸層28の下部界面28Sdは、バリア層29の上部界面近傍領域29uと接する。
【0051】
バリア層29は、少なくとも井戸層28の下部界面28Sdと接する上部界面近傍領域29uにおいて、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含む。酸素以外のn型不純物としては、例えば、IV族元素を用いることができる。IV族元素としては、例えば、シリコン、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)のうちの少なくとも1つを用いることができる。n型ドーパントがシリコンである場合、ドーピングガスとして、モノメチルシラン(CH3SiH)、モノシラン、ジシラン、テトラエチルシラン等を用いることができる。n型ドーパントがゲルマニウムである場合、ドーピングガスとして、モノゲルマン、テトラエチルゲルマニウム等を用いることができる。n型ドーパントがスズである場合、ドーピングガスとして、テトラエチルスズ、テトラメチルスズ等を用いることができる。
【0052】
次に、本実施形態の変形例に係るIII族窒化物半導体光素子について説明する。本変形例の説明においては、上述のIII族窒化物半導体光素子11aと同様の要素には、同一の符号を付すことにより、その詳細な説明を省略している部分がある。
【0053】
図3は、本実施形態の変形例に係るIII族窒化物半導体光素子を概略的に示す図面である。本変形例に係るIII族窒化物半導体光素子は、例えば半導体レーザに適用可能な構造を有する。図3に示すように、III族窒化物半導体光素子11bは、III族窒化物半導体基板13と、III族窒化物半導体領域15と、発光層37と、III族窒化物半導体領域19とを備える。本変形例では、発光層37は、活性層17と、第1の光ガイド層39と、第2の光ガイド層41とを含むことができる。活性層17は、第1の光ガイド層39と第2の光ガイド層41との間に設けられている。第1及び第2の光ガイド層39、41は、III族窒化物半導体からなり、このIII族窒化物半導体は、例えばアンドープであることができる。または、第1の光ガイド層39は、n型窒化物半導体からなってもよく、第2の光ガイド層41は、p型窒化物半導体からなってもよい。
【0054】
III族窒化物半導体領域19は、III族窒化物半導体層25、第2導電型III族窒化物半導体層27に加えて、さらに別の第2導電型III族窒化物半導体層43を含むことができる。第2導電型III族窒化物半導体層43は、例えばp型窒化ガリウム系半導体からなり、p型窒化ガリウム系半導体には、例えばマグネシウムといったp型ドーパントが添加されている。p型窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InAlGaN等からなることができる。第2導電型III族窒化物半導体層43は、例えばp型クラッド層であることができる。
【0055】
III族窒化物半導体領域15は、III族窒化物半導体層45を含むことができる。III族窒化物半導体層45は、例えばn型窒化ガリウム系半導体からなり、n型窒化ガリウム系半導体には、例えばシリコンといったn型ドーパントが添加されている。n型窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InAlGaN等からなることができる。III族窒化物半導体層45は、例えばn型クラッド層であることができる。
【0056】
III族窒化物半導体層45と第2導電型III族窒化物半導体層43との間には、発光層37が設けられる。III族窒化物半導体層45及び第2導電型III族窒化物半導体層43の屈折率は、第1の光ガイド層39及び第2の光ガイド層41の屈折率よりも小さい。III族窒化物半導体層45及び第2導電型III族窒化物半導体層43は、発光層37に光を閉じ込める。
【0057】
また、III族窒化物半導体光素子11bにおいて、第2導電型III族窒化物半導体層27上には、保護のための絶縁膜47が設けられている。絶縁膜47は、ストライブ状の開口47aを有する。絶縁膜47及び開口47a上に第1の電極(例えばアノード)49aが設けられる。III族窒化物半導体基板13の裏面13b上には、第2の電極(例えばカソード)49bが設けられる。
【0058】
このIII族窒化物半導体光素子11bは、例えば利得ガイド型レーザダイオードの構造を有する。III族窒化物半導体光素子11bは、一対の端面50a、50bを有することができる。端面50a、50bは、共振器を形成するために割段面であるとよい。III族窒化物半導体光素子11bによるレーザ光Lは、端面50a、50bの一方から出射される。
【0059】
上述のような本実施形態のIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいては、半極性を示す主面13aを有するIII族窒化物半導体基板13上に活性層17を設けているため、主面がc面であるIII族窒化物半導体基板上に活性層17を設けたIII族窒化物半導体光素子と比較して、ピエゾ電界の影響を抑制することができる。
【0060】
また、上述のように本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいては、活性層17のバリア層29は、少なくとも井戸層28のIII族窒化物半導体基板13側の下部界面28Sdと接する上部界面近傍領域29uにおいて、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上の濃度で含んでいる。これにより、バリア層29のモフォロジーが改善するため、上部界面近傍領域29uに接するように上部界面近傍領域29u上にエピタキシャル成長する井戸層28のモフォロジーが改善し、活性層17全体の結晶品質が向上する。酸素以外のn型不純物の濃度が1×1017cm−3未満であると、井戸層28のモフォロジーを十分に改善することができない場合がある。また、バリア層29が含むn型不純物の濃度が1×1019cm−3よりも大きいと、バリア層29中のn型不純物の濃度が過剰となって、バリア層29のモフォロジーが逆に悪化し、井戸層28のモフォロジーを悪化させる場合がある。
【0061】
また、発明者らの知見によると、活性層17に1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の濃度範囲の酸素を含ませることにより、活性層17を成長させる際、c面の生成を阻害し、非c面の生成を安定化させることができる。これにより、活性層17の各層(井戸層28及びバリア層29)のモフォロジーが改善し、活性層17の結晶品質が向上する。酸素濃度が1×1017cm−3未満であると、活性層17の各層のモフォロジーを十分に改善させることができない場合がある。また、酸素濃度が8×1017cm−3よりも大きいと、活性層17の各層のモフォロジーが逆に悪化し、活性層17の結晶品質が悪化する場合がある。
【0062】
また、上述のような本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいては、バリア層29は、酸素以外のn型不純物と酸素の両方を含んでいるが、酸素以外のn型不純物と酸素とでは、バリア層29内において取り込まれるサイトが異なる。具体的には、酸素以外のn型不純物は、バリア層29を構成するIII族窒化物半導体のIII族原子サイト(例えば、Gaサイト)に取り込まれるのに対し、酸素はバリア層29を構成するIII族窒化物半導体の窒素サイトに取り込まれる。
【0063】
そのため、バリア層29内への酸素ドープと、バリア層29内への酸素以外のn型不純物のドープは、互いに干渉し難くなる。具体的には、バリア層29内の酸素以外のn型不純物と酸素のそれぞれの濃度が、仮に酸素以外のn型不純物と酸素をそれぞれ単独でバリア層29にドープさせたときに、それぞれ活性層17の各層のモフォロジーを改善させることが可能なそれぞれの許容濃度範囲内であれば、活性層17の各層のモフォロジーを改善させ、活性層17の結晶品質を向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいては、バリア層29に酸素以外のn型不純物をドープしていることに起因して、井戸層28の組成ゆらぎが小さくなる可能性がある。しかし、半極性を示す主面13aを有するIII族窒化物半導体基板13上に活性層17を設けると、井戸層28の組成ゆらぎは小さくなる。そのため、主面がc面であるIII族窒化物半導体基板上に活性層を設けたIII族窒化物半導体光素子における場合と異なり、元々井戸層28の組成ゆらぎは小さいため、井戸層28の組成ゆらぎが小さくなることに起因した素子特性の変化は抑制される。
【0065】
以上より、上述のような本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bによれば、ピエゾ電界の影響を抑制することができると共に、結晶品質が高くなる。
【0066】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、複数のバリア層29は、井戸層28の下部界面28Sdに接する上部界面近傍領域29uに加え、井戸層28の上部界面28Suに接する下部界面近傍領域29dにおいても、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことが好ましい(図2参照)。これにより、バリア層29は、井戸層28の界面(下部界面28Sd及び上部界面28Su)と接する全ての界面近傍領域(上部界面近傍領域29u及び下部界面近傍領域29d)において、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度の酸素以外のn型不純物を含む。これにより、バリア層29のモフォロジーはさらに改善されるため、活性層17の各層のモフォロジーもさらに改善する。その結果、III族窒化物半導体光素子11a、11bの結晶品質がさらに高くなる。
【0067】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、複数のバリア層29は、その厚さ方向の全体にわたって、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことが好ましい(図2参照)。これにより、バリア層29のモフォロジーはさらに改善されるため、活性層17の各層のモフォロジーもさらに改善する。その結果、III族窒化物半導体光素子11a、11bの結晶品質がさらに高くなる。
【0068】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、バリア層29が含む酸素以外のn型不純物の濃度は、5×1017cm−3以上であることが好ましい。これにより、井戸層28における転位の発生が特に抑制される。
【0069】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、バリア層29が含む酸素以外のn型不純物の濃度は、1×1018cm−3以上であることが好ましい。これにより、III族窒化物半導体光素子11a、11bの動作電圧を特に低下させることができる。
【0070】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aの法線VNと基準軸Cxとの成す角度αは、10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲にあることが好ましい(図1及び図3参照)。この場合、主面13aと基準平面Scとの成す角度AOFFも10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲となる。これにより、主面13aは、III族窒化物半導体の安定面であるm面やa面から傾いた面となる。その結果、井戸層28における組成ゆらぎを抑制することができるため、井戸層28における転位の発生が抑制される。
【0071】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aの法線と基準軸Cxとの成す角度、即ち、法線ベクトルVNと基準ベクトルVCとの成す角度αは、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあることが好ましい(図1及び図3参照)。この場合、主面13aと基準平面Scとの成す角度AOFFも63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲となる。これにより、主面13aは、III族窒化物半導体の安定面である{10−11}面から傾いた面となる。その結果、井戸層28における組成ゆらぎを特に抑制することができるため、井戸層28における転位の発生が特に抑制される。
【0072】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aの法線と基準軸Cxとの成す角度、即ち、法線ベクトルVNと基準ベクトルVCとの成す角度αは、71度以上79度以下及び101度以上109度以下の範囲にあることが好ましい(図1及び図3参照)。この場合、主面13aと基準平面Scとの成す角度AOFFも71度以上79度以下及び101度以上109度以下の範囲となる。これにより、井戸層28における組成ゆらぎをさらに抑制することができるため、井戸層28における転位の発生が特に抑制されると共に、井戸層28におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、III族窒化物半導体光素子11a、11bを長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合に特に有利となる。
【0073】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aの法線は、基準軸CxをIII族窒化物半導体のa軸の周りに回転させた方向であること、即ち、法線ベクトルVNは、基準ベクトルVCをIII族窒化物半導体のa軸の周りに回転させた方向であることができる。この場合、主面13aは、基準平面ScをIII族窒化物半導体のm軸の方向に傾斜させた半極性面となる。
【0074】
さらに、この場合において、主面13aとa面(a軸と直交する面)とが成す角度は、87度以上93度以下であることができる。この場合、主面13aは、基準平面ScをIII族窒化物半導体のm軸の方向に傾斜させ、さらにa軸の方向に微細な角度、即ち、−3度以上+3度以下の範囲の有限の角度傾斜させた半極性面となる。これにより、酸素以外のn型不純物を含むバリア層29のモフォロジーが特に改善される。
【0075】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aの法線は、基準軸CxをIII族窒化物半導体のm軸の周りに回転させた方向であること、即ち、法線ベクトルVNは、基準ベクトルVCをIII族窒化物半導体のm軸の周りに回転させた方向であることができる。この場合、主面13aは、基準平面ScをIII族窒化物半導体のa軸の方向に傾斜させた半極性面となる。
【0076】
さらに、この場合において、主面13aとm面(m軸と直交する面)とが成す角度は、87度以上93度以下であることができる。この場合、主面13aは、基準平面ScをIII族窒化物半導体のa軸の方向に傾斜させ、さらにm軸の方向に微細な角度、即ち、−3度以上+3度以下の範囲の有限の角度傾斜させた半極性面となる。これにより、酸素以外のn型不純物を含むバリア層29のモフォロジーが特に改善される。
【0077】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aは、{20−21}面であることが好ましい。{20−21}面は、基準平面Scをm軸の方向に75度傾けた場合の主面である。これにより、井戸層28における組成ゆらぎをさらに抑制することができるため、井戸層28における転位の発生が特に抑制されると共に、井戸層28におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、III族窒化物半導体光素子11a、11bを長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合に特に有利となる。
【0078】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aは、{20−2−1}面であることが好ましい。これにより、井戸層28における組成ゆらぎをさらに抑制することができる。その上、{20−21}面の裏面に相当する{20−2−1}面を主面13aとする場合、{20−21}面を主面13aとする場合よりもさらに井戸層28におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、III族窒化物半導体光素子11a、11bを長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合にさらに有利となる。
【0079】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、活性層17を貫通している転位密度は、1×106cm−2以下であることが好ましい。これにより、III族窒化物半導体光素子11a、11bを発光波長が緑色領域の半導体光素子とする場合においても、十分な信頼性を確保できる。なお、活性層17を貫通している転位密度は、例えば、活性層17が有する酸素濃度や、バリア層29が有する酸素以外のn型不純物濃度等を適切に選択することにより、減少させることができる。
【0080】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、活性層17を貫通している転位密度は、1×105cm−2以下であることが好ましい。これにより、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bをレーザ素子とする場合において、発光領域(例えば、2μm×600μmのリッジ部に対応する領域)における貫通転位密度を、1個以下とすることができる。その結果、十分な信頼性を確保できる。
【0081】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、法線ベクトルVNと基準ベクトルVCとの成す角度αは、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあり、井戸層28のうち、最も第2導電型III族窒化物半導体層27側の井戸層28m(図2参照)と、第2導電型III族窒化物半導体層27との間には、酸素以外のn型不純物を含む半導体層が存在することが好ましい(図1及び図3参照)。これは、例えば、最も第2導電型III族窒化物半導体層27側のバリア層29(最上バリア層)に酸素以外のn型不純物を含ませたり、III族窒化物半導体層25を、n型不純物を含む半導体層に置き換えたりすることにより実現できる。この場合、次のような利点を有する。
【0082】
図4は、極性面及び半極性面上における、活性層、ガイド層、及び、p型III族窒化物半導体層におけるバンドダイアグラムを示す図面である。図4(a)に示すように、主面が極性面である半導体基板上に活性層を設けた場合、井戸層におけるピエゾ電界は、第2導電型半導体層から第1導電型半導体層に向かう方向(矢印A1の方向)になり、ブロック層におけるピエゾ電界は、その逆の方向(矢印A2の方向)になるため、最もクラッド層側の井戸層とブロック層との間において価電子帯のディップが形成される。この状態で、さらに最上バリア層や光ガイド層にn型不純物をドープすると、さらに価電子帯のディップが大きくなり、キャリアオーバーフローが増大してしまう。
【0083】
それに対して、図4(b)に示すように、主面が半極性面である半導体基板上に活性層を設けた場合、井戸層におけるピエゾ電界は、第1導電型半導体層から第2導電型半導体層に向かう方向(矢印A3の方向)になり、ブロック層におけるピエゾ電界は、その逆の方向(矢印A4の方向)になるため、最もクラッド層(第2導電型III族窒化物半導体層27)側の井戸層28mとブロック層との間において価電子帯のディップは形成され難い。そのため、最もクラッド層側の井戸層28mとブロック層との間に酸素以外のn型不純物を含む半導体層を設けても、電子のオーバーフローが生じにくい。そして、このようなn型不純物を含む半導体層を設けると、III族窒化物半導体光素子11a、11bの動作電圧を低下させることができる。そのため、電子のオーバーフローを抑制しつつ、III族窒化物半導体光素子11a、11bの動作電圧を低下させることが可能となる。
【0084】
(実施例)
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0085】
実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2として、半導体積層体を作製した。図5は、実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2の半導体積層体構造を示す図である。図5に示すように、m軸方向にc面を75度傾斜させた半極性主面61aを有するGaN基板61を準備した。半極性主面61aは、基準平面Scと75度の角度を成す。基準平面Scは、GaN基板61のc軸方向に延びる基準軸Cxと直交する。半極性主面61aは、{20−21}面に相当する。GaN基板61を成長炉に配置し、アンモニア(NH3)及び水素(H2)を供給して、摂氏1050度の雰囲気にGaN基板61を10分間保持した。この前処理(サーマルクリーニング)の後に、原料ガスを成長炉に供給して以下の半導体積層体構造を作製した。
【0086】
まず、n型In0.03Al0.14Ga0.83Nクラッド層63を摂氏880度で1.2μm成長した。n型GaNガイド層65を摂氏1050度で0.25μm成長した。n型In0.03Ga0.97Nガイド層67を摂氏860度で0.1μm成長した。続いて、活性層69を成長した。活性層69は、15nmのGaNからなるバリア層と、3nmのIn0.30Ga0.70Nからなる井戸層が交互に積層された量子井戸構造とした。井戸層の数は、3層とした。井戸層の成長温度は、摂氏720度、バリア層の成長温度は、摂氏860度とした。
【0087】
また、活性層69が1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有するように、n型In0.03Al0.14Ga0.83Nクラッド層63、n型GaNガイド層65、n型In0.03Ga0.97Nガイド層67、及び、活性層69の各層の成長時に、含有水分濃度を適宜調節したアンモニア(NH3)を窒素原料として供給した。また、バリア層の成長時に、シリコン(Si)をドープするために、水素(H2)で希釈したモノメチルシラン(CH3SiH)ガスを供給した。実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2のそれぞれについて、モノメチルシラン(CH3SiH)ガスの供給量を変え、バリア層中のシリコン濃度を変化させた。シリコン濃度は、SIMS(2次イオン質量分析法)で分析した。
【0088】
図6は、実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、及び、表面粗さを示す図である。図6に示すように、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量(sccm)は、比較例1、実施例1、実施例2、比較例2の順に、それぞれ0、0.2、1、10とした。バリア層中のSi濃度(cm−3)は、比較例1、実施例1、実施例2、比較例2の順に、それぞれ検出限界以下、2.5×1017、1.2×1018、1.5×1019となった。
【0089】
図7は、実施例2の活性層69表面のノマルスキー顕微鏡写真を示す図である。図7に示すように、ノマルスキー顕微鏡写真で判別可能なレベルでは、活性層69の表面は平坦であった。また、活性層69の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で測定した結果を、図6に示す。測定範囲は、5μm角とし、表面粗さはRMS(二乗平均粗さ)で評価した。
【0090】
図6に示すように、活性層69の表面粗さ(nm)は、比較例1、実施例1、実施例2、比較例2の順に、それぞれ0.8、0.3、0.4、1.2となった。これにより、バリア層中のSi濃度が、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の範囲内である実施例1及び実施例2においては、活性層69の表面粗さが小さくなることがわかった。
【0091】
続いて、実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4について説明する。実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4として、LD(レーザダイオード)を作製した。図8は、実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4のLD構造を示す図である。図8に示すように、m軸方向にc面を75度傾斜させた半極性主面71aを有するGaN基板71を準備した。半極性主面71aは、基準平面Scと75度の角度を成す。基準平面Scは、GaN基板71のc軸方向に延びる基準軸Cxと直交する。半極性主面71aは、{20−21}面に相当する。GaN基板71を成長炉に配置し、アンモニア(NH3)及び水素(H2)を供給して、摂氏1050度の雰囲気にGaN基板71を10分間保持した。この前処理(サーマルクリーニング)の後に、原料ガスを成長炉に供給して以下のようにLDのための構造を作製した。
【0092】
まず、n型In0.03Al0.14Ga0.83Nクラッド層72を摂氏880度で1.2μm成長した。n型GaNガイド層73を摂氏1050度で0.25μm成長した。n型In0.03Ga0.97Nガイド層74を摂氏860度で0.1μm成長した。続いて、活性層75を成長した。活性層75は、15nmのGaNからなるバリア層と、3nmのIn0.30Ga0.70Nからなる井戸層が交互に積層された量子井戸構造とした。井戸層の数は、2層とした。井戸層の成長温度は、摂氏720度、バリア層の成長温度は、摂氏860度とした。続いて、アンドープIn0.03Ga0.97Nガイド層76を摂氏860度で0.1μm成長した。0.02μmのp型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層77、0.25μmのp型GaNガイド層78、0.4μmのp型In0.03Al0.14Ga0.83Nクラッド層79、及び、0.05μmのp型GaNコンタクト層80を、順に摂氏900度で成長した。また、p型GaNコンタクト層80には、酸化シリコン(SiO2)からなる絶縁膜81の幅10μmのストライプ状の開口を介してNi/Auからなるアノード電極82を蒸着により形成すると共に、GaN基板71の裏面にTi/Alの電極とTi/Auのパッド電極からなるカソード電極部83を蒸着により形成した。ストライプ状の開口の延び方向は、GaN基板71のm軸を主面71aに投影した方向とした。そして、600μm間隔でストライプ状の開口の延び方向と垂直な面でGaN基板71を割断した。割断した一方の端面に反射率が80%の多層反射膜をコーティングし、他方の端面に反射率が95%の多層反射膜をコーティングした。このようにして、ゲインガイド型のLDを作製した。
【0093】
また、活性層75における酸素濃度が1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下となるように、n型In0.03Al0.14Ga0.83Nクラッド層72からp型GaNコンタクト層80までの各層の成長時に、含有水分濃度を適宜調節したアンモニア(NH3)を窒素原料として供給した。また、バリア層の成長時に、シリコン(Si)をドープするために、水素(H2)で希釈したモノメチルシラン(CH3SiH)ガスを供給した。実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4のそれぞれについて、モノメチルシラン(CH3SiH)ガスの供給量を変え、バリア層中のシリコン濃度を変化させた。シリコン濃度は、SIMS(2次イオン質量分析法)で分析した。
【0094】
図9は、実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、及び、LDの駆動電圧、及び、LDのしきい値電流を示す図である。駆動電圧及びしきい値電流の測定は、室温において、パルス幅0.5秒、デューティー比0.1%のパルス駆動で行った。図9に示すように、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量(sccm)は、比較例3、実施例3、実施例4、実施例5、比較例4の順に、それぞれ0、0.2、0.5、1、10とした。バリア層中のSi濃度(cm−3)は、比較例3、実施例3、実施例4、実施例5、比較例4の順に、それぞれ検出限界以下、2.5×1017、6.0×1017、1.2×1018、1.5×1019となった。出力5mWにおける駆動電圧(V)は、比較例3、実施例3、実施例4、実施例5、比較例4の順に、それぞれ10.8、7.2、6.4、5.7、5.4となった。しきい値電流(mA)は、比較例3、実施例3、実施例4、実施例5、比較例4の順に、それぞれ350、280、240、250、480となった。また、実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4の発振波長は、全て520nm〜530nmの範囲であった。
【0095】
これらの結果より、バリア層中のSi濃度が、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の範囲内である実施例3、実施例4、及び、実施例5では、LDの駆動電圧及びしきい値電流が小さくなることがわかった。
【0096】
続いて、実施例6、実施例7、比較例5について説明する。実施例6、実施例7、比較例5として、LED(発光ダイオード)を作製した。図10は、実施例6、実施例7、比較例5のLED構造を示す図である。図10に示すように、m軸方向にc面を75度傾斜させた半極性主面91aを有するGaN基板91を準備した。半極性主面91aは、基準平面Scと75度の角度を成す。基準平面Scは、GaN基板91のc軸方向に延びる基準軸Cxと直交する。半極性主面91aは、{20−21}面に相当する。GaN基板91を成長炉に配置し、アンモニア(NH3)及び水素(H2)を供給して、摂氏1050度の雰囲気にGaN基板91を10分間保持した。この前処理(サーマルクリーニング)の後に、原料ガスを成長炉に供給して以下のようにLEDのための構造を作製した。
【0097】
まず、n型GaNバッファ層92を摂氏1050度で2μm成長した。n型In0.03Ga0.97N緩衝層層93を摂氏860度で100nm成長した。続いて、活性層94を成長した。活性層94は、15nmのGaNからなるバリア層と、3nmのIn0.30Ga0.70Nからなる井戸層が交互に積層された量子井戸構造とした。井戸層の数は、3層とした。井戸層の成長温度は、摂氏720度、バリア層の成長温度は、摂氏860度とした。続いて、20nmのp型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層95、50nmのp型GaNコンタクト層96を、順に摂氏900度で成長した。また、p型GaNコンタクト層96上に、Ni/Auからなり、開口を有するアノード電極97と、Ti/Auからなり、アノード電極97の開口を介してp型GaNコンタクト層96に接するパッド電極98を蒸着した。
【0098】
また、活性層94における酸素濃度が1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下となるように、n型GaNバッファ層92からp型GaNコンタクト層96までの各層の成長時に、含有水分濃度を適宜調節したアンモニア(NH3)を窒素原料として供給した。また、バリア層の成長時に、シリコン(Si)をドープするために、水素(H2)で希釈したモノメチルシラン(CH3SiH)ガスを供給した。実施例6、実施例7、及び、比較例5のそれぞれについて、モノメチルシラン(CH3SiH)ガスの供給量を変え、バリア層中のシリコン濃度を変化させた。シリコン濃度は、SIMS(2次イオン質量分析法)で分析した。また、カソードルミネッセンス法(CL)によって、貫通転位密度と対応する暗点密度を測定した。
【0099】
図11は、実施例6、実施例7、及び、比較例5における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、暗点密度、及び、LED出力を示す図である。LED出力の測定は、室温においてパルス駆動で行った。図11に示すように、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量(sccm)は、比較例5、実施例6、実施例7、の順に、それぞれ0、1、5とした。バリア層中のSi濃度(cm−3)は、比較例5、実施例6、実施例7の順に、それぞれ検出限界以下、1.2×1018、6.1×1018となった。暗点密度(cm−2)は、比較例5、実施例6、実施例7、の順に、それぞれ2.0×106、3.0×105、8.0×104となった。駆動電流500mAにおけるLED出力(mW)は、比較例5、実施例6、実施例7、の順に、それぞれ11、14、15であった。また、実施例6、実施例7、及び、比較例5の発振波長は、全て520nm〜530nmの範囲であった。
【0100】
図11に示した測定結果より、バリア層中のSi濃度が、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の範囲内である実施例6及び実施例7は、暗点密度(貫通転位密度)が低くなり、LED出力が大きくなった。
【0101】
また、図12(a)は、比較例5のCL像を示す図であり、図12(b)は、実施例6のCL像を示す図である。図12に示すように、比較例5と実施例6とでは、暗点密度に差はあるが、CL像での強度の濃淡の度合いに大きな違いは見られなかった。これは、半極性主面91a上に成長した活性層の井戸層においては、バリア層へのSiドープの有無に関わらず、Inの組成ゆらぎが小さいことを示している。
【0102】
続いて、比較例6及び比較例7について説明する。比較例6及び比較例7として、LEDを作製した。図13は、比較例6及び比較例7のLED構造を示す図である。図13に示すように、主面101aがc面であるGaN基板101を準備した。主面101aは、極性面となる。極性を示す主面101aは、基準平面Scと平行である。基準平面Scは、GaN基板101のc軸方向に延びる基準軸Cxと直交する。主面101aは、{0001}面となる。GaN基板101を成長炉に配置し、アンモニア(NH3)及び水素(H2)を供給して、摂氏1050度の雰囲気にGaN基板101を10分間保持した。この前処理(サーマルクリーニング)の後に、原料ガスを成長炉に供給して以下のようにLEDのための構造を作製した。
【0103】
まず、n型Al0.12Ga0.88Nバッファ層102を摂氏1100度で50nm成長した。n型GaNガイド層103を摂氏1180度で2μm成長した。n型In0.03Ga0.97Nガイド層104を摂氏880度で100nm成長した。続いて、活性層105を成長した。活性層105は、15nmのIn0.02Ga0.98Nからなるバリア層と、5nmのIn0.14Ga0.86Nからなる井戸層が交互に積層された量子井戸構造とした。井戸層の数は、6層とした。井戸層の成長温度は、摂氏840度、バリア層の成長温度は、摂氏880度とした。続いて、20nmのp型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層106、50nmのp型GaNコンタクト層107を、順に摂氏1100度で成長した。
【0104】
また、バリア層の成長時に、シリコン(Si)をドープするために、水素(H2)で希釈したモノメチルシラン(CH3SiH)ガスを供給した。比較例6及び比較例7のそれぞれについて、モノメチルシラン(CH3SiH)ガスの供給量を変え、バリア層中のシリコン濃度を変化させた。シリコン濃度は、SIMS(2次イオン質量分析法)で分析した。また、カソードルミネッセンス法(CL)によって、発光像を測定し、フォトルミネッセンス法(PL)によって、発光波長と発光強度を測定した。
【0105】
図14は、比較例6及び比較例7における、バリア層中のSi濃度、PL波長、及び、PL強度を示す図である。図14に示すように、バリア層中のSi濃度(cm−3)は、比較例6及び比較例7の順に、それぞれ、バックグラウンドレベル、1.0×1018となった。PL波長(nm)は、比較例6及び比較例7の順に、それぞれ、467、449となった。PL強度(任意単位)は、比較例6及び比較例7の順に、それぞれ、950、530となった。図14に示す測定結果より、極性面(c面)を主面とするGaN基板を用いたLEDにおいては、バリア層にSiをドープすることにより、PL強度が大きく低下することがわかった。また、図15(a)は、比較例6のカソードルミネッセンス法による発光像を示す図であり、図15(b)は、比較例7のカソードルミネッセンス法による発光像を示す図である。図15に示す測定結果より、極性面(c面)を主面とするGaN基板を用いたLEDにおいては、バリア層にSiをドープすることにより、発光むらが減少することがわかった。これらの結果より、極性面(c面)を主面とするGaN基板を用いたLEDにおいては、バリア層にSiをドープしない場合、井戸層におけるIn組成ゆらぎによって生じる局在準位発光のためにPL強度が大きくなるが、バリア層にSiをドープすると、井戸層におけるIn組成ゆらぎの減少に伴って局在準位発光が低減し、PL強度が小さくなることがわかった。
【符号の説明】
【0106】
11a、11b・・・III族窒化物半導体光素子、13・・・III族窒化物半導体基板、13a・・・III族窒化物半導体基板の主面、17・・・活性層、28・・・井戸層、28Sd・・・下部界面、29・・・バリア層、29u・・・上部界面近傍領域、Cx・・・基準軸、Sc・・・基準平面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1〜3には、多重量子井戸構造の活性層を有する窒化物半導体素子が記載されている。これらの窒化物半導体素子においては、活性層のバリア層は、n型不純物を含んでいる。これにより、特許文献1の窒化物半導体素子では、発振閾値を低下させて素子の長寿命化が可能であること、特許文献2の窒化物半導体素子では、素子特性を悪化させることなく順方向電圧を低減することが可能であること、及び、特許文献3の窒化物半導体素子では、逆方向耐圧特性が向上することが、それぞれ記載されている。
【0003】
下記特許文献4には、III族窒化物発光層を含む発光半導体素子を製造する方法が記載されている。この方法においては、ピエゾ電界の大きさを減少させるために、c面から傾いた半極性面を主面とする基板上に上記III族窒化物発光層等を成長させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−298090号公報
【特許文献2】特開2001−102629号公報
【特許文献3】特開2002−84038号公報
【特許文献4】特許第3955367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
III族窒化物半導体光素子として、窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物基板上に、活性層等を含む半導体積層体が形成されたものがある。このようなIII族窒化物半導体光素子において、c面を主面とするGaN基板を用いた場合、活性層に比較的大きな歪みが生じてしまう。このため、ピエゾ電界による量子シュタルク効果が生じ、電子および正孔が空間分離されて発光効率が低下するといった問題が生じる。
【0006】
上記特許文献1〜3に記載されているように、活性層のバリア層にn型不純物を含ませると、ピエゾ電界をスクリーニングすることが可能であることが知られている。そのため、c面を主面とするGaN基板を用い、活性層のバリア層にn型不純物を含ませる方法も考えられる。
【0007】
しかしながら、c面を主面とするGaN基板を用いたIII族窒化物半導体光素子においては、活性層の井戸層の組成ゆらぎに起因する局在準位発光のため、素子の発光効率が高くなっていることが知られている。発明者らの知見によると、このようなIII族窒化物半導体光素子において、活性層のバリア層にn型不純物を含ませると、井戸層の組成ゆらぎが低下し、素子の発光効率が低下してしまう。このように、c面を主面とするGaN基板を用いたIII族窒化物半導体光素子において活性層のバリア層にn型不純物を含ませると、井戸層の組成ゆらぎの変化に起因して素子特性が劣化してしまう。このようなことが原因で、c面を主面とするGaN基板を用いると、ピエゾ電界の影響を抑制して十分な特性を有するIII族窒化物半導体光素子を得ることは困難である。
【0008】
このようなピエゾ電界による悪影響を抑制するため、上記特許文献4に記載されているように、半極性面を主面とするGaN基板を用いるIII族窒化物半導体光素子が知られている。
【0009】
しかしながら、半極性面を主面とする基板上に半導体積層体を形成すると、半導体積層体の成長時に各層のc面が成長し易いことに起因して、半導体積層体の各層のモフォロジーが悪化してしまう。このモフォロジーの悪化により、半導体積層体の結晶品質が劣化するため、十分な特性を有するIII族窒化物半導体素子を得ることは困難である。
【0010】
半極性面を主面とする基板上に半導体積層体を形成した場合であっても、上記特許文献1〜3に記載されているように活性層のバリア層にn型不純物を含ませると、半導体積層体の各層のモフォロジーを改善(モフォロジーを平坦化)させることが可能であることが知られている。しかしながら、バリア層中のn型不純物が過剰となると、半導体積層体の結晶品質は劣化するため、バリア層中にn型不純物を含ませるだけでは、半導体積層体の結晶品質を十分に改善させることは困難な場合がある。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、ピエゾ電界の影響が抑制されていると共に、高い結晶品質を有するIII族窒化物半導体光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するため、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子は、III族窒化物半導体からなり、該III族窒化物半導体のc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対して有限の角度をなす主面を有するIII族窒化物半導体基板と、III族窒化物半導体基板の主面上に設けられ、III族窒化物半導体からなる井戸層、及び、III族窒化物半導体からなる複数のバリア層を含む量子井戸構造の活性層と、を備え、主面は、半極性を示し、活性層は、エピタキシャル層であって、1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有しており、複数のバリア層は、井戸層のIII族窒化物半導体基板側の界面と接する界面近傍領域において、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子においては、半極性を示す主面を有するIII族窒化物半導体基板上に活性層を設けているため、主面がc面であるIII族窒化物半導体基板上に活性層を設けたIII族窒化物半導体光素子と比較して、ピエゾ電界の影響を抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子においては、活性層のバリア層は、井戸層のIII族窒化物半導体基板側の界面と接する界面近傍領域において、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上の濃度で含んでいる。これにより、バリア層のモフォロジーが改善するため、当該界面近傍領域に接するように当該界面近傍領域上にエピタキシャル成長する井戸層のモフォロジーが改善し、活性層全体の結晶品質が向上する。また、バリア層が含むn型不純物の濃度は、1×1019cm−3以下であるため、井戸層のモフォロジーを悪化させることはない。また、発明者らの知見によると、活性層に1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の濃度範囲の酸素を含ませることにより、活性層の各層のモフォロジーが改善し、活性層の結晶品質が向上する。
【0015】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子においては、バリア層は、酸素以外のn型不純物と酸素の両方を含んでいるが、酸素以外のn型不純物と酸素とでは、バリア層内において取り込まれるサイトが異なる。具体的には、酸素以外のn型不純物は、バリア層を構成するIII族窒化物半導体のIII族原子サイトに取り込まれるのに対し、酸素はバリア層を構成するIII族窒化物半導体の窒素サイトに取り込まれる。
【0016】
そのため、バリア層内の酸素以外のn型不純物と酸素のそれぞれの濃度が、仮に酸素以外のn型不純物と酸素をそれぞれ単独でバリア層にドープさせたときに、それぞれ活性層の各層のモフォロジーを改善させることが可能なそれぞれの許容濃度範囲内であれば、活性層の各層のモフォロジーを改善させ、活性層の結晶品質を向上させることができる。その結果、バリア層に酸素以外のn型不純物のみをドープすることにより活性層のモフォロジーを改善させる場合よりも、活性層の結晶品質を向上させることができる。
【0017】
また、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子においては、バリア層に酸素以外のn型不純物をドープしていることに起因して、井戸層の組成ゆらぎが小さくなる可能性がある。しかし、半極性を示す主面を有するIII族窒化物半導体基板上に活性層を設けると、井戸層の組成ゆらぎは小さくなる。そのため、主面がc面であるIII族窒化物半導体基板上に活性層を設けたIII族窒化物半導体光素子における場合と異なり、元々井戸層の組成ゆらぎは小さいため、井戸層の組成ゆらぎが小さくなることに起因した素子特性の変化は抑制される。
【0018】
以上より、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子によれば、ピエゾ電界の影響を抑制することができると共に、結晶品質が高くなる。
【0019】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、バリア層が含むn型不純物は、シリコン、ゲルマニウム、及び、スズのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、複数のバリア層は、井戸層の界面と接する界面近傍領域において、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことが好ましい。これにより、バリア層は、井戸層の界面と接する全ての界面近傍領域において、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度の酸素以外のn型不純物を含む。その結果、バリア層のモフォロジーはさらに改善されるため、活性層の各層のモフォロジーもさらに改善する。その結果、素子の結晶品質がさらに高くなる。
【0021】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、複数のバリア層は、その厚さ方向の全体にわたって、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことが好ましい。これにより、バリア層のモフォロジーはさらに改善されるため、活性層の各層のモフォロジーもさらに改善する。その結果、素子の結晶品質がさらに高くなる。
【0022】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、上記n型不純物の濃度は、5×1017cm−3以上であることが好ましい。これにより、井戸層における転位の発生が特に抑制される。
【0023】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、上記n型不純物の濃度は、1×1018cm−3以上であることが好ましい。これにより、III族窒化物半導体光素子の動作電圧を特に低下させることができる。
【0024】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、主面の法線方向を示す法線ベクトルと基準軸の方向を示す基準ベクトルとの成す角度は、10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲にあることが好ましい。この場合、主面と基準平面との成す角度も10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲となる。これにより、主面は、III族窒化物半導体の安定面であるm面やa面から傾いた面となる。その結果、井戸層における組成ゆらぎを抑制することができるため、井戸層における転位の発生が抑制される。
【0025】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、法線ベクトルと基準ベクトルとの成す角度は、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあることが好ましい。この場合、主面と基準平面との成す角度も63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲となる。これにより、主面は、III族窒化物半導体の安定面である{10−11}面から傾いた面となる。その結果、井戸層における組成ゆらぎを特に抑制することができるため、井戸層における転位の発生が特に抑制される。
【0026】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、法線ベクトルと基準ベクトルとの成す角度は、71度以上79度以下及び101度以上109度以下の範囲にあることが好ましい。この場合、主面と基準平面との成す角度も71度以上79度以下及び101度以上109度以下の範囲となる。これにより、井戸層における組成ゆらぎをさらに抑制することができるため、井戸層における転位の発生が特に抑制されると共に、井戸層におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、本発明のIII族窒化物半導体光素子を長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合に特に有利となる。
【0027】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、法線ベクトルは、基準ベクトルをIII族窒化物半導体のa軸の周りに回転させた方向であることができる。この場合、主面は、基準平面をIII族窒化物半導体のm軸の方向に傾斜させた半極性面となる。
【0028】
さらに、この場合において、主面とa面とが成す角度は、87度以上93度以下であることができる。この場合、主面は、基準平面をIII族窒化物半導体のm軸の方向に傾斜させ、さらにa軸の方向に微細な角度、即ち、−3度以上+3度以下の範囲の有限の角度傾斜させた半極性面となる。これにより、酸素以外のn型不純物を含むバリア層のモフォロジーが特に改善される。
【0029】
また、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、法線ベクトルは、基準ベクトルをIII族窒化物半導体のm軸の周りに回転させた方向であることができる。この場合、主面は、基準平面をIII族窒化物半導体のa軸の方向に傾斜させた半極性面となる。
【0030】
さらに、この場合において、主面とm面とが成す角度は、87度以上93度以下であることができる。この場合、主面は、基準平面をIII族窒化物半導体のa軸の方向に傾斜させ、さらにm軸の方向に微細な角度、即ち、−3度以上+3度以下の範囲の有限の角度傾斜させた半極性面となる。これにより、酸素以外のn型不純物を含むバリア層のモフォロジーが特に改善される。
【0031】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、主面は、{20−21}面であることが好ましい。これにより、井戸層における組成ゆらぎをさらに抑制することができるため、井戸層における転位の発生が特に抑制されると共に、井戸層におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、本発明のIII族窒化物半導体光素子を長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合に特に有利となる。
【0032】
また、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、主面は、{20−2−1}面であることが好ましい。これにより、井戸層における組成ゆらぎをさらに抑制することができる。その上、{20−21}面の裏面に相当する{20−2−1}面を主面とする場合、{20−21}面を主面とする場合よりもさらに井戸層におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、本発明のIII族窒化物半導体光素子を長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合にさらに有利となる。
【0033】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、活性層を貫通している転位密度は、1×106cm−2以下であることが好ましい。これにより、本発明のIII族窒化物半導体光素子を発光波長が緑色領域の半導体光素子とする場合においても、十分な信頼性を確保できる。
【0034】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子において、活性層を貫通している転位密度は、1×105cm−2以下であることが好ましい。これにより、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子をレーザ素子とする場合においても、十分な信頼性を確保できる。
【0035】
さらに、本発明に係るIII族窒化物半導体光素子は、III族窒化物半導体からなる第1導電型の第1半導体層と、III族窒化物半導体からなる第2導電型の第2半導体層と、をさらに備え、主面の法線と基準軸との成す角度は、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあり、第1半導体層は、III族窒化物半導体基板と活性層との間に設けられ、活性層は、第1半導体層と第2半導体層との間に設けられ、活性層は、複数の井戸層を含み、複数の井戸層のうち、最も第2半導体層側の井戸層と、第2半導体層との間には、酸素以外のn型不純物を含む半導体層が存在することが好ましい。
【0036】
主面の法線と基準軸との成す角度が上記範囲内である場合、活性層におけるピエゾ電界は、III族窒化物半導体基板のピエゾ電界の向きと逆向きになる。そのため、最も第2半導体層側の井戸層と第2半導体層との間において価電子帯のディップが形成され難くなる。そのため、最も第2半導体層側の井戸層と第2半導体層との間に酸素以外のn型不純物を含む半導体層を設けても、電子のオーバーフローが生じにくい。そして、このようなn型不純物を含む半導体層を設けると、III族窒化物半導体光素子の動作電圧を低下させることができる。そのため、電子のオーバーフローを抑制しつつ、動作電圧を低下させることが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、ピエゾ電界の影響が抑制されていると共に、高い結晶品質を有するIII族窒化物半導体光素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子を概略的に示す図面である。
【図2】III族窒化物半導体光素子の活性層近傍の断面構造を示す図である。
【図3】実施形態の変形例に係るIII族窒化物半導体光素子を概略的に示す図面である。
【図4】極性面及び半極性面上における、活性層、光ガイド層、及び、p型III族窒化物半導体層におけるバンドダイアグラムを示す図面である。
【図5】実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2の半導体積層体構造を示す図である。
【図6】実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、及び、表面粗さを示す図である。
【図7】実施例2のノマルスキー顕微鏡写真を示す図である。
【図8】実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4のLD構造を示す図である。
【図9】実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、及び、LDの駆動電圧、及び、LDのしきい値電流を示す図である。
【図10】実施例6、実施例7、比較例5のLED構造を示す図である。
【図11】実施例6、実施例7、及び、比較例5における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、暗点密度、及び、LED出力を示す図である。
【図12】比較例5及び比較例6のCL像を示す図である。
【図13】比較例6及び比較例7のLED構造を示す図である。
【図14】比較例6及び比較例7における、バリア層中のSi濃度、PL波長、及び、PL強度を示す図である。
【図15】比較例6及び比較例7のカソードルミネッセンス法による発光像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施の形態に係るIII族窒化物半導体光素子について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、可能な場合には同一要素には同一符号を用いる。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0040】
図1は、実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子を概略的に示す図面である。本実施形態のIII族窒化物半導体光素子は、例えば発光ダイオードに適用可能な構造を有する。図1に示すように、III族窒化物半導体光素子11aは、III族窒化物半導体基板13と、III族窒化物半導体領域15と、活性層17と、III族窒化物半導体領域19とを備える。III族窒化物半導体基板13は、例えばGaN、InGaN、AlGaNといったIII族窒化物半導体からなる。III族窒化物半導体基板13は、主面13a及び裏面13bを有する。III族窒化物半導体基板13の主面13aは、半極性を表す。
【0041】
図1には、III族窒化物半導体の六方晶系の結晶軸a軸、m軸及びc軸からなる結晶座標系CRを示している。例えば、六方晶におけるc面は「(0001)」と表記され、「(000−1)」と表記される面方位は(0001)面に対して反対を向く。また、図1には、幾何学座標軸X、Y、Zからなる直交座標系Sが示されている。直交座標系Sにおいては、主面13aと平行な方向にX軸及びY軸を設定し、III族窒化物半導体基板13の厚さ方向にZ軸を設定している。
【0042】
III族窒化物半導体基板13は、半極性の主面13aを有するため、III族窒化物半導体基板13の主面13aは、基準軸Cxに直交する基準平面Scに対して傾斜する。ここで、基準軸Cxは、III族窒化物半導体のc軸方向に延びる。
【0043】
基準平面Scは基準軸Cxに直交するため、基準平面ScはIII族窒化物半導体のc面と平行な平面となる。図1には、c軸方向を向いた基準ベクトルVCと、主面13aの法線方向を向いた法線ベクトルVNが示されている。法線ベクトルVNと基準ベクトルVCとがなす角度αは、主面13aと基準平面Scとがなす角度AOFFと等しい。この角度AOFFは、III族窒化物半導体基板13のc面に対するオフ角と呼ばれる。
【0044】
III族窒化物半導体領域15、活性層17、及び、III族窒化物半導体領域19は、それぞれエピタキシャル層であり、主面13a上に、Z軸と平行な軸Axに沿って配列されている。
【0045】
III族窒化物半導体領域15は、主面上13aに設けられている。III族窒化物半導体領域15は、一又は複数のIII族窒化物半導体層を含むことができる。本実施形態では、III族窒化物半導体領域15は、第1導電型III族窒化物半導体層21(第1半導体層)及びIII族窒化物半導体層23からなる。第1導電型III族窒化物半導体層21は、例えばn型半導体層であり、III族窒化物半導体層23は、例えば緩衝層であることができる。第1導電型III族窒化物半導体層21は、例えばn型窒化ガリウム系半導体からなり、n型窒化ガリウム系半導体には、例えばシリコンといったn型ドーパントが添加されている。n型窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaN等からなることができる。III族窒化物半導体層23は、例えばアンドープ窒化ガリウム系半導体からなる。窒化ガリウム系半導体は、例えばInGaN、InAlGaN、GaN等からなることができる。
【0046】
また、III族窒化物半導体領域19は、一又は複数のIII族窒化物半導体層を含むことができる。本実施形態では、III族窒化物半導体領域19は、III族窒化物半導体層25及び第2導電型III族窒化物半導体層27(第2半導体層)からなる。III族窒化物半導体層25は、例えばアンドープ又はp型窒化ガリウム系半導体からなることができる。第2導電型III族窒化物半導体層27は、例えばp型窒化ガリウム系半導体からなり、p型窒化ガリウム系半導体には、例えばマグネシウムといったp型ドーパントが添加されている。p型窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InAlGaN、InGaN等からなることができる。III族窒化物半導体層25は、例えば電子ブロック層であり、第2導電型III族窒化物半導体層27は、例えばp型コンタクト層であることができる。第1導電型III族窒化物半導体層21と第2導電型III族窒化物半導体層27との間には、活性層17が設けられている。活性層17は、III族窒化物半導体領域15上に設けられており、III族窒化物半導体領域19は、活性層17上に設けられている。
【0047】
III族窒化物半導体領域15、活性層17、及び、III族窒化物半導体領域19は、1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有している。この酸素濃度は、例えば、III族窒化物半導体領域15、活性層17、及び、III族窒化物半導体領域19をエピタキシャル成長させる際の、原料中の水分等の不純物濃度、基板のオフ角、成長温度、混晶の組成等により制御可能である。なお、本実施形態においては、III族窒化物半導体領域15、活性層17、及び、III族窒化物半導体領域19の全てが1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有しているが、少なくとも活性層17が1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有していればよい。
【0048】
次に、図2を参照しながら、活性層17の詳細について説明する。図2は、III族窒化物半導体光素子の活性層近傍の断面構造を示す図である。
【0049】
III族窒化物半導体光素子11aの活性層17は、交互に配列された井戸層28及びバリア層29を含む多重量子井戸構造を有することができる。最下層のバリア層29は、III族窒化物半導体層23と接し、最上層のバリア層29は、III族窒化物半導体層25と接している。井戸層28は、例えばGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaN等のIII族窒化物半導体からなることができ、バリア層29は、例えばGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaN等のIII族窒化物半導体からなることができる。なお、活性層17は、1つの井戸層28と2つのバリア層29とからなる単一量子井戸構造を有していてもよい。また、最下層のバリア層29と最上層のバリア層29は、省略されていてもよい。この場合、最下層の井戸層28は、III族窒化物半導体層23と接し、最上層の井戸層28は、III族窒化物半導体層25と接する。
【0050】
井戸層28は、III族窒化物半導体基板13側の下部界面28Sdと、III族窒化物半導体基板13側とは反対側の上部界面28Suとを有する。バリア層29は、III族窒化物半導体基板13側の下部界面近傍領域29dと、III族窒化物半導体基板13側とは反対側の上部界面近傍領域29uと、下部界面近傍領域29dと上部界面近傍領域29uの間の中間領域29nとを有する。井戸層28の上部界面28Suは、バリア層29の下部界面近傍領域29dと接し、井戸層28の下部界面28Sdは、バリア層29の上部界面近傍領域29uと接する。
【0051】
バリア層29は、少なくとも井戸層28の下部界面28Sdと接する上部界面近傍領域29uにおいて、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含む。酸素以外のn型不純物としては、例えば、IV族元素を用いることができる。IV族元素としては、例えば、シリコン、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)のうちの少なくとも1つを用いることができる。n型ドーパントがシリコンである場合、ドーピングガスとして、モノメチルシラン(CH3SiH)、モノシラン、ジシラン、テトラエチルシラン等を用いることができる。n型ドーパントがゲルマニウムである場合、ドーピングガスとして、モノゲルマン、テトラエチルゲルマニウム等を用いることができる。n型ドーパントがスズである場合、ドーピングガスとして、テトラエチルスズ、テトラメチルスズ等を用いることができる。
【0052】
次に、本実施形態の変形例に係るIII族窒化物半導体光素子について説明する。本変形例の説明においては、上述のIII族窒化物半導体光素子11aと同様の要素には、同一の符号を付すことにより、その詳細な説明を省略している部分がある。
【0053】
図3は、本実施形態の変形例に係るIII族窒化物半導体光素子を概略的に示す図面である。本変形例に係るIII族窒化物半導体光素子は、例えば半導体レーザに適用可能な構造を有する。図3に示すように、III族窒化物半導体光素子11bは、III族窒化物半導体基板13と、III族窒化物半導体領域15と、発光層37と、III族窒化物半導体領域19とを備える。本変形例では、発光層37は、活性層17と、第1の光ガイド層39と、第2の光ガイド層41とを含むことができる。活性層17は、第1の光ガイド層39と第2の光ガイド層41との間に設けられている。第1及び第2の光ガイド層39、41は、III族窒化物半導体からなり、このIII族窒化物半導体は、例えばアンドープであることができる。または、第1の光ガイド層39は、n型窒化物半導体からなってもよく、第2の光ガイド層41は、p型窒化物半導体からなってもよい。
【0054】
III族窒化物半導体領域19は、III族窒化物半導体層25、第2導電型III族窒化物半導体層27に加えて、さらに別の第2導電型III族窒化物半導体層43を含むことができる。第2導電型III族窒化物半導体層43は、例えばp型窒化ガリウム系半導体からなり、p型窒化ガリウム系半導体には、例えばマグネシウムといったp型ドーパントが添加されている。p型窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InAlGaN等からなることができる。第2導電型III族窒化物半導体層43は、例えばp型クラッド層であることができる。
【0055】
III族窒化物半導体領域15は、III族窒化物半導体層45を含むことができる。III族窒化物半導体層45は、例えばn型窒化ガリウム系半導体からなり、n型窒化ガリウム系半導体には、例えばシリコンといったn型ドーパントが添加されている。n型窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InAlGaN等からなることができる。III族窒化物半導体層45は、例えばn型クラッド層であることができる。
【0056】
III族窒化物半導体層45と第2導電型III族窒化物半導体層43との間には、発光層37が設けられる。III族窒化物半導体層45及び第2導電型III族窒化物半導体層43の屈折率は、第1の光ガイド層39及び第2の光ガイド層41の屈折率よりも小さい。III族窒化物半導体層45及び第2導電型III族窒化物半導体層43は、発光層37に光を閉じ込める。
【0057】
また、III族窒化物半導体光素子11bにおいて、第2導電型III族窒化物半導体層27上には、保護のための絶縁膜47が設けられている。絶縁膜47は、ストライブ状の開口47aを有する。絶縁膜47及び開口47a上に第1の電極(例えばアノード)49aが設けられる。III族窒化物半導体基板13の裏面13b上には、第2の電極(例えばカソード)49bが設けられる。
【0058】
このIII族窒化物半導体光素子11bは、例えば利得ガイド型レーザダイオードの構造を有する。III族窒化物半導体光素子11bは、一対の端面50a、50bを有することができる。端面50a、50bは、共振器を形成するために割段面であるとよい。III族窒化物半導体光素子11bによるレーザ光Lは、端面50a、50bの一方から出射される。
【0059】
上述のような本実施形態のIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいては、半極性を示す主面13aを有するIII族窒化物半導体基板13上に活性層17を設けているため、主面がc面であるIII族窒化物半導体基板上に活性層17を設けたIII族窒化物半導体光素子と比較して、ピエゾ電界の影響を抑制することができる。
【0060】
また、上述のように本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいては、活性層17のバリア層29は、少なくとも井戸層28のIII族窒化物半導体基板13側の下部界面28Sdと接する上部界面近傍領域29uにおいて、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上の濃度で含んでいる。これにより、バリア層29のモフォロジーが改善するため、上部界面近傍領域29uに接するように上部界面近傍領域29u上にエピタキシャル成長する井戸層28のモフォロジーが改善し、活性層17全体の結晶品質が向上する。酸素以外のn型不純物の濃度が1×1017cm−3未満であると、井戸層28のモフォロジーを十分に改善することができない場合がある。また、バリア層29が含むn型不純物の濃度が1×1019cm−3よりも大きいと、バリア層29中のn型不純物の濃度が過剰となって、バリア層29のモフォロジーが逆に悪化し、井戸層28のモフォロジーを悪化させる場合がある。
【0061】
また、発明者らの知見によると、活性層17に1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の濃度範囲の酸素を含ませることにより、活性層17を成長させる際、c面の生成を阻害し、非c面の生成を安定化させることができる。これにより、活性層17の各層(井戸層28及びバリア層29)のモフォロジーが改善し、活性層17の結晶品質が向上する。酸素濃度が1×1017cm−3未満であると、活性層17の各層のモフォロジーを十分に改善させることができない場合がある。また、酸素濃度が8×1017cm−3よりも大きいと、活性層17の各層のモフォロジーが逆に悪化し、活性層17の結晶品質が悪化する場合がある。
【0062】
また、上述のような本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいては、バリア層29は、酸素以外のn型不純物と酸素の両方を含んでいるが、酸素以外のn型不純物と酸素とでは、バリア層29内において取り込まれるサイトが異なる。具体的には、酸素以外のn型不純物は、バリア層29を構成するIII族窒化物半導体のIII族原子サイト(例えば、Gaサイト)に取り込まれるのに対し、酸素はバリア層29を構成するIII族窒化物半導体の窒素サイトに取り込まれる。
【0063】
そのため、バリア層29内への酸素ドープと、バリア層29内への酸素以外のn型不純物のドープは、互いに干渉し難くなる。具体的には、バリア層29内の酸素以外のn型不純物と酸素のそれぞれの濃度が、仮に酸素以外のn型不純物と酸素をそれぞれ単独でバリア層29にドープさせたときに、それぞれ活性層17の各層のモフォロジーを改善させることが可能なそれぞれの許容濃度範囲内であれば、活性層17の各層のモフォロジーを改善させ、活性層17の結晶品質を向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいては、バリア層29に酸素以外のn型不純物をドープしていることに起因して、井戸層28の組成ゆらぎが小さくなる可能性がある。しかし、半極性を示す主面13aを有するIII族窒化物半導体基板13上に活性層17を設けると、井戸層28の組成ゆらぎは小さくなる。そのため、主面がc面であるIII族窒化物半導体基板上に活性層を設けたIII族窒化物半導体光素子における場合と異なり、元々井戸層28の組成ゆらぎは小さいため、井戸層28の組成ゆらぎが小さくなることに起因した素子特性の変化は抑制される。
【0065】
以上より、上述のような本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bによれば、ピエゾ電界の影響を抑制することができると共に、結晶品質が高くなる。
【0066】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、複数のバリア層29は、井戸層28の下部界面28Sdに接する上部界面近傍領域29uに加え、井戸層28の上部界面28Suに接する下部界面近傍領域29dにおいても、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことが好ましい(図2参照)。これにより、バリア層29は、井戸層28の界面(下部界面28Sd及び上部界面28Su)と接する全ての界面近傍領域(上部界面近傍領域29u及び下部界面近傍領域29d)において、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度の酸素以外のn型不純物を含む。これにより、バリア層29のモフォロジーはさらに改善されるため、活性層17の各層のモフォロジーもさらに改善する。その結果、III族窒化物半導体光素子11a、11bの結晶品質がさらに高くなる。
【0067】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、複数のバリア層29は、その厚さ方向の全体にわたって、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことが好ましい(図2参照)。これにより、バリア層29のモフォロジーはさらに改善されるため、活性層17の各層のモフォロジーもさらに改善する。その結果、III族窒化物半導体光素子11a、11bの結晶品質がさらに高くなる。
【0068】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、バリア層29が含む酸素以外のn型不純物の濃度は、5×1017cm−3以上であることが好ましい。これにより、井戸層28における転位の発生が特に抑制される。
【0069】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、バリア層29が含む酸素以外のn型不純物の濃度は、1×1018cm−3以上であることが好ましい。これにより、III族窒化物半導体光素子11a、11bの動作電圧を特に低下させることができる。
【0070】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aの法線VNと基準軸Cxとの成す角度αは、10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲にあることが好ましい(図1及び図3参照)。この場合、主面13aと基準平面Scとの成す角度AOFFも10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲となる。これにより、主面13aは、III族窒化物半導体の安定面であるm面やa面から傾いた面となる。その結果、井戸層28における組成ゆらぎを抑制することができるため、井戸層28における転位の発生が抑制される。
【0071】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aの法線と基準軸Cxとの成す角度、即ち、法線ベクトルVNと基準ベクトルVCとの成す角度αは、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあることが好ましい(図1及び図3参照)。この場合、主面13aと基準平面Scとの成す角度AOFFも63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲となる。これにより、主面13aは、III族窒化物半導体の安定面である{10−11}面から傾いた面となる。その結果、井戸層28における組成ゆらぎを特に抑制することができるため、井戸層28における転位の発生が特に抑制される。
【0072】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aの法線と基準軸Cxとの成す角度、即ち、法線ベクトルVNと基準ベクトルVCとの成す角度αは、71度以上79度以下及び101度以上109度以下の範囲にあることが好ましい(図1及び図3参照)。この場合、主面13aと基準平面Scとの成す角度AOFFも71度以上79度以下及び101度以上109度以下の範囲となる。これにより、井戸層28における組成ゆらぎをさらに抑制することができるため、井戸層28における転位の発生が特に抑制されると共に、井戸層28におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、III族窒化物半導体光素子11a、11bを長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合に特に有利となる。
【0073】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aの法線は、基準軸CxをIII族窒化物半導体のa軸の周りに回転させた方向であること、即ち、法線ベクトルVNは、基準ベクトルVCをIII族窒化物半導体のa軸の周りに回転させた方向であることができる。この場合、主面13aは、基準平面ScをIII族窒化物半導体のm軸の方向に傾斜させた半極性面となる。
【0074】
さらに、この場合において、主面13aとa面(a軸と直交する面)とが成す角度は、87度以上93度以下であることができる。この場合、主面13aは、基準平面ScをIII族窒化物半導体のm軸の方向に傾斜させ、さらにa軸の方向に微細な角度、即ち、−3度以上+3度以下の範囲の有限の角度傾斜させた半極性面となる。これにより、酸素以外のn型不純物を含むバリア層29のモフォロジーが特に改善される。
【0075】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aの法線は、基準軸CxをIII族窒化物半導体のm軸の周りに回転させた方向であること、即ち、法線ベクトルVNは、基準ベクトルVCをIII族窒化物半導体のm軸の周りに回転させた方向であることができる。この場合、主面13aは、基準平面ScをIII族窒化物半導体のa軸の方向に傾斜させた半極性面となる。
【0076】
さらに、この場合において、主面13aとm面(m軸と直交する面)とが成す角度は、87度以上93度以下であることができる。この場合、主面13aは、基準平面ScをIII族窒化物半導体のa軸の方向に傾斜させ、さらにm軸の方向に微細な角度、即ち、−3度以上+3度以下の範囲の有限の角度傾斜させた半極性面となる。これにより、酸素以外のn型不純物を含むバリア層29のモフォロジーが特に改善される。
【0077】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aは、{20−21}面であることが好ましい。{20−21}面は、基準平面Scをm軸の方向に75度傾けた場合の主面である。これにより、井戸層28における組成ゆらぎをさらに抑制することができるため、井戸層28における転位の発生が特に抑制されると共に、井戸層28におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、III族窒化物半導体光素子11a、11bを長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合に特に有利となる。
【0078】
また、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、主面13aは、{20−2−1}面であることが好ましい。これにより、井戸層28における組成ゆらぎをさらに抑制することができる。その上、{20−21}面の裏面に相当する{20−2−1}面を主面13aとする場合、{20−21}面を主面13aとする場合よりもさらに井戸層28におけるIII族元素の取り込み効率が高くなるため、III族窒化物半導体光素子11a、11bを長波長(青色〜緑色)の半導体光素子とする場合にさらに有利となる。
【0079】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、活性層17を貫通している転位密度は、1×106cm−2以下であることが好ましい。これにより、III族窒化物半導体光素子11a、11bを発光波長が緑色領域の半導体光素子とする場合においても、十分な信頼性を確保できる。なお、活性層17を貫通している転位密度は、例えば、活性層17が有する酸素濃度や、バリア層29が有する酸素以外のn型不純物濃度等を適切に選択することにより、減少させることができる。
【0080】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、活性層17を貫通している転位密度は、1×105cm−2以下であることが好ましい。これにより、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bをレーザ素子とする場合において、発光領域(例えば、2μm×600μmのリッジ部に対応する領域)における貫通転位密度を、1個以下とすることができる。その結果、十分な信頼性を確保できる。
【0081】
さらに、本実施形態に係るIII族窒化物半導体光素子11a、11bにおいて、法線ベクトルVNと基準ベクトルVCとの成す角度αは、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあり、井戸層28のうち、最も第2導電型III族窒化物半導体層27側の井戸層28m(図2参照)と、第2導電型III族窒化物半導体層27との間には、酸素以外のn型不純物を含む半導体層が存在することが好ましい(図1及び図3参照)。これは、例えば、最も第2導電型III族窒化物半導体層27側のバリア層29(最上バリア層)に酸素以外のn型不純物を含ませたり、III族窒化物半導体層25を、n型不純物を含む半導体層に置き換えたりすることにより実現できる。この場合、次のような利点を有する。
【0082】
図4は、極性面及び半極性面上における、活性層、ガイド層、及び、p型III族窒化物半導体層におけるバンドダイアグラムを示す図面である。図4(a)に示すように、主面が極性面である半導体基板上に活性層を設けた場合、井戸層におけるピエゾ電界は、第2導電型半導体層から第1導電型半導体層に向かう方向(矢印A1の方向)になり、ブロック層におけるピエゾ電界は、その逆の方向(矢印A2の方向)になるため、最もクラッド層側の井戸層とブロック層との間において価電子帯のディップが形成される。この状態で、さらに最上バリア層や光ガイド層にn型不純物をドープすると、さらに価電子帯のディップが大きくなり、キャリアオーバーフローが増大してしまう。
【0083】
それに対して、図4(b)に示すように、主面が半極性面である半導体基板上に活性層を設けた場合、井戸層におけるピエゾ電界は、第1導電型半導体層から第2導電型半導体層に向かう方向(矢印A3の方向)になり、ブロック層におけるピエゾ電界は、その逆の方向(矢印A4の方向)になるため、最もクラッド層(第2導電型III族窒化物半導体層27)側の井戸層28mとブロック層との間において価電子帯のディップは形成され難い。そのため、最もクラッド層側の井戸層28mとブロック層との間に酸素以外のn型不純物を含む半導体層を設けても、電子のオーバーフローが生じにくい。そして、このようなn型不純物を含む半導体層を設けると、III族窒化物半導体光素子11a、11bの動作電圧を低下させることができる。そのため、電子のオーバーフローを抑制しつつ、III族窒化物半導体光素子11a、11bの動作電圧を低下させることが可能となる。
【0084】
(実施例)
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0085】
実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2として、半導体積層体を作製した。図5は、実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2の半導体積層体構造を示す図である。図5に示すように、m軸方向にc面を75度傾斜させた半極性主面61aを有するGaN基板61を準備した。半極性主面61aは、基準平面Scと75度の角度を成す。基準平面Scは、GaN基板61のc軸方向に延びる基準軸Cxと直交する。半極性主面61aは、{20−21}面に相当する。GaN基板61を成長炉に配置し、アンモニア(NH3)及び水素(H2)を供給して、摂氏1050度の雰囲気にGaN基板61を10分間保持した。この前処理(サーマルクリーニング)の後に、原料ガスを成長炉に供給して以下の半導体積層体構造を作製した。
【0086】
まず、n型In0.03Al0.14Ga0.83Nクラッド層63を摂氏880度で1.2μm成長した。n型GaNガイド層65を摂氏1050度で0.25μm成長した。n型In0.03Ga0.97Nガイド層67を摂氏860度で0.1μm成長した。続いて、活性層69を成長した。活性層69は、15nmのGaNからなるバリア層と、3nmのIn0.30Ga0.70Nからなる井戸層が交互に積層された量子井戸構造とした。井戸層の数は、3層とした。井戸層の成長温度は、摂氏720度、バリア層の成長温度は、摂氏860度とした。
【0087】
また、活性層69が1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有するように、n型In0.03Al0.14Ga0.83Nクラッド層63、n型GaNガイド層65、n型In0.03Ga0.97Nガイド層67、及び、活性層69の各層の成長時に、含有水分濃度を適宜調節したアンモニア(NH3)を窒素原料として供給した。また、バリア層の成長時に、シリコン(Si)をドープするために、水素(H2)で希釈したモノメチルシラン(CH3SiH)ガスを供給した。実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2のそれぞれについて、モノメチルシラン(CH3SiH)ガスの供給量を変え、バリア層中のシリコン濃度を変化させた。シリコン濃度は、SIMS(2次イオン質量分析法)で分析した。
【0088】
図6は、実施例1、実施例2、比較例1、及び、比較例2における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、及び、表面粗さを示す図である。図6に示すように、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量(sccm)は、比較例1、実施例1、実施例2、比較例2の順に、それぞれ0、0.2、1、10とした。バリア層中のSi濃度(cm−3)は、比較例1、実施例1、実施例2、比較例2の順に、それぞれ検出限界以下、2.5×1017、1.2×1018、1.5×1019となった。
【0089】
図7は、実施例2の活性層69表面のノマルスキー顕微鏡写真を示す図である。図7に示すように、ノマルスキー顕微鏡写真で判別可能なレベルでは、活性層69の表面は平坦であった。また、活性層69の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で測定した結果を、図6に示す。測定範囲は、5μm角とし、表面粗さはRMS(二乗平均粗さ)で評価した。
【0090】
図6に示すように、活性層69の表面粗さ(nm)は、比較例1、実施例1、実施例2、比較例2の順に、それぞれ0.8、0.3、0.4、1.2となった。これにより、バリア層中のSi濃度が、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の範囲内である実施例1及び実施例2においては、活性層69の表面粗さが小さくなることがわかった。
【0091】
続いて、実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4について説明する。実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4として、LD(レーザダイオード)を作製した。図8は、実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4のLD構造を示す図である。図8に示すように、m軸方向にc面を75度傾斜させた半極性主面71aを有するGaN基板71を準備した。半極性主面71aは、基準平面Scと75度の角度を成す。基準平面Scは、GaN基板71のc軸方向に延びる基準軸Cxと直交する。半極性主面71aは、{20−21}面に相当する。GaN基板71を成長炉に配置し、アンモニア(NH3)及び水素(H2)を供給して、摂氏1050度の雰囲気にGaN基板71を10分間保持した。この前処理(サーマルクリーニング)の後に、原料ガスを成長炉に供給して以下のようにLDのための構造を作製した。
【0092】
まず、n型In0.03Al0.14Ga0.83Nクラッド層72を摂氏880度で1.2μm成長した。n型GaNガイド層73を摂氏1050度で0.25μm成長した。n型In0.03Ga0.97Nガイド層74を摂氏860度で0.1μm成長した。続いて、活性層75を成長した。活性層75は、15nmのGaNからなるバリア層と、3nmのIn0.30Ga0.70Nからなる井戸層が交互に積層された量子井戸構造とした。井戸層の数は、2層とした。井戸層の成長温度は、摂氏720度、バリア層の成長温度は、摂氏860度とした。続いて、アンドープIn0.03Ga0.97Nガイド層76を摂氏860度で0.1μm成長した。0.02μmのp型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層77、0.25μmのp型GaNガイド層78、0.4μmのp型In0.03Al0.14Ga0.83Nクラッド層79、及び、0.05μmのp型GaNコンタクト層80を、順に摂氏900度で成長した。また、p型GaNコンタクト層80には、酸化シリコン(SiO2)からなる絶縁膜81の幅10μmのストライプ状の開口を介してNi/Auからなるアノード電極82を蒸着により形成すると共に、GaN基板71の裏面にTi/Alの電極とTi/Auのパッド電極からなるカソード電極部83を蒸着により形成した。ストライプ状の開口の延び方向は、GaN基板71のm軸を主面71aに投影した方向とした。そして、600μm間隔でストライプ状の開口の延び方向と垂直な面でGaN基板71を割断した。割断した一方の端面に反射率が80%の多層反射膜をコーティングし、他方の端面に反射率が95%の多層反射膜をコーティングした。このようにして、ゲインガイド型のLDを作製した。
【0093】
また、活性層75における酸素濃度が1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下となるように、n型In0.03Al0.14Ga0.83Nクラッド層72からp型GaNコンタクト層80までの各層の成長時に、含有水分濃度を適宜調節したアンモニア(NH3)を窒素原料として供給した。また、バリア層の成長時に、シリコン(Si)をドープするために、水素(H2)で希釈したモノメチルシラン(CH3SiH)ガスを供給した。実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4のそれぞれについて、モノメチルシラン(CH3SiH)ガスの供給量を変え、バリア層中のシリコン濃度を変化させた。シリコン濃度は、SIMS(2次イオン質量分析法)で分析した。
【0094】
図9は、実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、及び、LDの駆動電圧、及び、LDのしきい値電流を示す図である。駆動電圧及びしきい値電流の測定は、室温において、パルス幅0.5秒、デューティー比0.1%のパルス駆動で行った。図9に示すように、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量(sccm)は、比較例3、実施例3、実施例4、実施例5、比較例4の順に、それぞれ0、0.2、0.5、1、10とした。バリア層中のSi濃度(cm−3)は、比較例3、実施例3、実施例4、実施例5、比較例4の順に、それぞれ検出限界以下、2.5×1017、6.0×1017、1.2×1018、1.5×1019となった。出力5mWにおける駆動電圧(V)は、比較例3、実施例3、実施例4、実施例5、比較例4の順に、それぞれ10.8、7.2、6.4、5.7、5.4となった。しきい値電流(mA)は、比較例3、実施例3、実施例4、実施例5、比較例4の順に、それぞれ350、280、240、250、480となった。また、実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び、比較例4の発振波長は、全て520nm〜530nmの範囲であった。
【0095】
これらの結果より、バリア層中のSi濃度が、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の範囲内である実施例3、実施例4、及び、実施例5では、LDの駆動電圧及びしきい値電流が小さくなることがわかった。
【0096】
続いて、実施例6、実施例7、比較例5について説明する。実施例6、実施例7、比較例5として、LED(発光ダイオード)を作製した。図10は、実施例6、実施例7、比較例5のLED構造を示す図である。図10に示すように、m軸方向にc面を75度傾斜させた半極性主面91aを有するGaN基板91を準備した。半極性主面91aは、基準平面Scと75度の角度を成す。基準平面Scは、GaN基板91のc軸方向に延びる基準軸Cxと直交する。半極性主面91aは、{20−21}面に相当する。GaN基板91を成長炉に配置し、アンモニア(NH3)及び水素(H2)を供給して、摂氏1050度の雰囲気にGaN基板91を10分間保持した。この前処理(サーマルクリーニング)の後に、原料ガスを成長炉に供給して以下のようにLEDのための構造を作製した。
【0097】
まず、n型GaNバッファ層92を摂氏1050度で2μm成長した。n型In0.03Ga0.97N緩衝層層93を摂氏860度で100nm成長した。続いて、活性層94を成長した。活性層94は、15nmのGaNからなるバリア層と、3nmのIn0.30Ga0.70Nからなる井戸層が交互に積層された量子井戸構造とした。井戸層の数は、3層とした。井戸層の成長温度は、摂氏720度、バリア層の成長温度は、摂氏860度とした。続いて、20nmのp型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層95、50nmのp型GaNコンタクト層96を、順に摂氏900度で成長した。また、p型GaNコンタクト層96上に、Ni/Auからなり、開口を有するアノード電極97と、Ti/Auからなり、アノード電極97の開口を介してp型GaNコンタクト層96に接するパッド電極98を蒸着した。
【0098】
また、活性層94における酸素濃度が1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下となるように、n型GaNバッファ層92からp型GaNコンタクト層96までの各層の成長時に、含有水分濃度を適宜調節したアンモニア(NH3)を窒素原料として供給した。また、バリア層の成長時に、シリコン(Si)をドープするために、水素(H2)で希釈したモノメチルシラン(CH3SiH)ガスを供給した。実施例6、実施例7、及び、比較例5のそれぞれについて、モノメチルシラン(CH3SiH)ガスの供給量を変え、バリア層中のシリコン濃度を変化させた。シリコン濃度は、SIMS(2次イオン質量分析法)で分析した。また、カソードルミネッセンス法(CL)によって、貫通転位密度と対応する暗点密度を測定した。
【0099】
図11は、実施例6、実施例7、及び、比較例5における、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量、バリア層中のSi濃度、暗点密度、及び、LED出力を示す図である。LED出力の測定は、室温においてパルス駆動で行った。図11に示すように、バリア層成長時のモノメチルシランガスの流量(sccm)は、比較例5、実施例6、実施例7、の順に、それぞれ0、1、5とした。バリア層中のSi濃度(cm−3)は、比較例5、実施例6、実施例7の順に、それぞれ検出限界以下、1.2×1018、6.1×1018となった。暗点密度(cm−2)は、比較例5、実施例6、実施例7、の順に、それぞれ2.0×106、3.0×105、8.0×104となった。駆動電流500mAにおけるLED出力(mW)は、比較例5、実施例6、実施例7、の順に、それぞれ11、14、15であった。また、実施例6、実施例7、及び、比較例5の発振波長は、全て520nm〜530nmの範囲であった。
【0100】
図11に示した測定結果より、バリア層中のSi濃度が、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の範囲内である実施例6及び実施例7は、暗点密度(貫通転位密度)が低くなり、LED出力が大きくなった。
【0101】
また、図12(a)は、比較例5のCL像を示す図であり、図12(b)は、実施例6のCL像を示す図である。図12に示すように、比較例5と実施例6とでは、暗点密度に差はあるが、CL像での強度の濃淡の度合いに大きな違いは見られなかった。これは、半極性主面91a上に成長した活性層の井戸層においては、バリア層へのSiドープの有無に関わらず、Inの組成ゆらぎが小さいことを示している。
【0102】
続いて、比較例6及び比較例7について説明する。比較例6及び比較例7として、LEDを作製した。図13は、比較例6及び比較例7のLED構造を示す図である。図13に示すように、主面101aがc面であるGaN基板101を準備した。主面101aは、極性面となる。極性を示す主面101aは、基準平面Scと平行である。基準平面Scは、GaN基板101のc軸方向に延びる基準軸Cxと直交する。主面101aは、{0001}面となる。GaN基板101を成長炉に配置し、アンモニア(NH3)及び水素(H2)を供給して、摂氏1050度の雰囲気にGaN基板101を10分間保持した。この前処理(サーマルクリーニング)の後に、原料ガスを成長炉に供給して以下のようにLEDのための構造を作製した。
【0103】
まず、n型Al0.12Ga0.88Nバッファ層102を摂氏1100度で50nm成長した。n型GaNガイド層103を摂氏1180度で2μm成長した。n型In0.03Ga0.97Nガイド層104を摂氏880度で100nm成長した。続いて、活性層105を成長した。活性層105は、15nmのIn0.02Ga0.98Nからなるバリア層と、5nmのIn0.14Ga0.86Nからなる井戸層が交互に積層された量子井戸構造とした。井戸層の数は、6層とした。井戸層の成長温度は、摂氏840度、バリア層の成長温度は、摂氏880度とした。続いて、20nmのp型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層106、50nmのp型GaNコンタクト層107を、順に摂氏1100度で成長した。
【0104】
また、バリア層の成長時に、シリコン(Si)をドープするために、水素(H2)で希釈したモノメチルシラン(CH3SiH)ガスを供給した。比較例6及び比較例7のそれぞれについて、モノメチルシラン(CH3SiH)ガスの供給量を変え、バリア層中のシリコン濃度を変化させた。シリコン濃度は、SIMS(2次イオン質量分析法)で分析した。また、カソードルミネッセンス法(CL)によって、発光像を測定し、フォトルミネッセンス法(PL)によって、発光波長と発光強度を測定した。
【0105】
図14は、比較例6及び比較例7における、バリア層中のSi濃度、PL波長、及び、PL強度を示す図である。図14に示すように、バリア層中のSi濃度(cm−3)は、比較例6及び比較例7の順に、それぞれ、バックグラウンドレベル、1.0×1018となった。PL波長(nm)は、比較例6及び比較例7の順に、それぞれ、467、449となった。PL強度(任意単位)は、比較例6及び比較例7の順に、それぞれ、950、530となった。図14に示す測定結果より、極性面(c面)を主面とするGaN基板を用いたLEDにおいては、バリア層にSiをドープすることにより、PL強度が大きく低下することがわかった。また、図15(a)は、比較例6のカソードルミネッセンス法による発光像を示す図であり、図15(b)は、比較例7のカソードルミネッセンス法による発光像を示す図である。図15に示す測定結果より、極性面(c面)を主面とするGaN基板を用いたLEDにおいては、バリア層にSiをドープすることにより、発光むらが減少することがわかった。これらの結果より、極性面(c面)を主面とするGaN基板を用いたLEDにおいては、バリア層にSiをドープしない場合、井戸層におけるIn組成ゆらぎによって生じる局在準位発光のためにPL強度が大きくなるが、バリア層にSiをドープすると、井戸層におけるIn組成ゆらぎの減少に伴って局在準位発光が低減し、PL強度が小さくなることがわかった。
【符号の説明】
【0106】
11a、11b・・・III族窒化物半導体光素子、13・・・III族窒化物半導体基板、13a・・・III族窒化物半導体基板の主面、17・・・活性層、28・・・井戸層、28Sd・・・下部界面、29・・・バリア層、29u・・・上部界面近傍領域、Cx・・・基準軸、Sc・・・基準平面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体からなり、該III族窒化物半導体のc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対して有限の角度をなす主面を有するIII族窒化物半導体基板と、
前記III族窒化物半導体基板の前記主面上に設けられ、III族窒化物半導体からなる井戸層、及び、III族窒化物半導体からなる複数のバリア層を含む量子井戸構造の活性層と、
を備え、
前記主面は、半極性を示し、
前記活性層は、エピタキシャル層であって、1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有しており、
前記複数のバリア層は、前記井戸層の前記III族窒化物半導体基板側の界面と接する界面近傍領域において、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことを特徴とするIII族窒化物半導体光素子。
【請求項2】
前記バリア層が含む前記n型不純物は、シリコン、ゲルマニウム、及び、スズのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項3】
前記複数のバリア層は、前記井戸層の界面と接する界面近傍領域において、前記酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項4】
前記複数のバリア層は、その厚さ方向の全体にわたって、前記酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項5】
前記n型不純物の濃度は、5×1017cm−3以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項6】
前記n型不純物の濃度は、1×1018cm−3以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項7】
前記主面の法線方向を示す法線ベクトルと前記基準軸の方向を示す基準ベクトルとの成す角度は、10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項8】
前記法線ベクトルと前記基準ベクトルとの成す角度は、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項9】
前記法線ベクトルと前記基準ベクトルとの成す角度は、71度以上79度以下及び101度以上109度以下の範囲にあることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項10】
前記法線ベクトルは、前記基準ベクトルを前記III族窒化物半導体のa軸の周りに回転させた方向であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項11】
前記主面とa面とが成す角度は、87度以上93度以下であることを特徴とする請求項10に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項12】
前記法線ベクトルは、前記基準ベクトルを前記III族窒化物半導体のm軸の周りに回転させた方向であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項13】
前記主面とm面とが成す角度は、87度以上93度以下であることを特徴とする請求項12に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項14】
前記主面は、{20−21}面であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項15】
前記主面は、{20−2−1}面であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項16】
前記活性層を貫通している転位密度は、1×106cm−2以下であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項17】
前記活性層を貫通している転位密度は、1×105cm−2以下であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項18】
III族窒化物半導体からなる第1導電型の第1半導体層と、
III族窒化物半導体からなる第2導電型の第2半導体層と、
をさらに備え、
前記第1半導体層は、前記III族窒化物半導体基板と前記活性層との間に設けられ、
前記活性層は、前記第1半導体層と前記第2半導体層との間に設けられ、
前記活性層は、複数の前記井戸層を含み、
前記複数の前記井戸層のうち、最も前記第2半導体層側の井戸層と、前記第2半導体層との間には、酸素以外のn型不純物を含む半導体層が存在することを特徴とする請求項8〜17のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項1】
III族窒化物半導体からなり、該III族窒化物半導体のc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対して有限の角度をなす主面を有するIII族窒化物半導体基板と、
前記III族窒化物半導体基板の前記主面上に設けられ、III族窒化物半導体からなる井戸層、及び、III族窒化物半導体からなる複数のバリア層を含む量子井戸構造の活性層と、
を備え、
前記主面は、半極性を示し、
前記活性層は、エピタキシャル層であって、1×1017cm−3以上8×1017cm−3以下の酸素濃度を有しており、
前記複数のバリア層は、前記井戸層の前記III族窒化物半導体基板側の界面と接する界面近傍領域において、酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことを特徴とするIII族窒化物半導体光素子。
【請求項2】
前記バリア層が含む前記n型不純物は、シリコン、ゲルマニウム、及び、スズのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項3】
前記複数のバリア層は、前記井戸層の界面と接する界面近傍領域において、前記酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項4】
前記複数のバリア層は、その厚さ方向の全体にわたって、前記酸素以外のn型不純物を1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の濃度で含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項5】
前記n型不純物の濃度は、5×1017cm−3以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項6】
前記n型不純物の濃度は、1×1018cm−3以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項7】
前記主面の法線方向を示す法線ベクトルと前記基準軸の方向を示す基準ベクトルとの成す角度は、10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項8】
前記法線ベクトルと前記基準ベクトルとの成す角度は、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項9】
前記法線ベクトルと前記基準ベクトルとの成す角度は、71度以上79度以下及び101度以上109度以下の範囲にあることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項10】
前記法線ベクトルは、前記基準ベクトルを前記III族窒化物半導体のa軸の周りに回転させた方向であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項11】
前記主面とa面とが成す角度は、87度以上93度以下であることを特徴とする請求項10に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項12】
前記法線ベクトルは、前記基準ベクトルを前記III族窒化物半導体のm軸の周りに回転させた方向であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項13】
前記主面とm面とが成す角度は、87度以上93度以下であることを特徴とする請求項12に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項14】
前記主面は、{20−21}面であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項15】
前記主面は、{20−2−1}面であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項16】
前記活性層を貫通している転位密度は、1×106cm−2以下であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項17】
前記活性層を貫通している転位密度は、1×105cm−2以下であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【請求項18】
III族窒化物半導体からなる第1導電型の第1半導体層と、
III族窒化物半導体からなる第2導電型の第2半導体層と、
をさらに備え、
前記第1半導体層は、前記III族窒化物半導体基板と前記活性層との間に設けられ、
前記活性層は、前記第1半導体層と前記第2半導体層との間に設けられ、
前記活性層は、複数の前記井戸層を含み、
前記複数の前記井戸層のうち、最も前記第2半導体層側の井戸層と、前記第2半導体層との間には、酸素以外のn型不純物を含む半導体層が存在することを特徴とする請求項8〜17のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体光素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図7】
【図12】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図7】
【図12】
【図15】
【公開番号】特開2011−23539(P2011−23539A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167143(P2009−167143)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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