説明

III族窒化物基板

【課題】転位が抑制されて特性に優れ、製造が容易で安価なIII族窒化物基板を提供する。
【解決手段】基板2上に多層膜層3を形成するIII族窒化物基板1であって、多層膜層3は、III族窒化物からなる膜層を複数重ねる複数膜層5と、この複数膜層5の表面に形成するIII族窒化物層6を備え、複数膜層5は、表面に凹凸を有する膜を複数積層してなる第1の層5aと、この第1の層5aの表面に形成し、表面が平坦な膜を複数積層してなる第2の層5bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転位が低減されたIII族窒化物基板の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物基板はフォトニクスデバイスや電子デバイス等に用いられ、単結晶の基板の上にIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長して形成したエピタキシャル基板として供給される。そしてその製造には、MOCVD法(有機金属化学的気相成長法)、MBE法(分子線エピタキシ−法)等の薄膜形成方法が用いられる。
【0003】
これらの方法で製造されるIII族窒化物基板は、基板とIII族窒化物結晶との間の格子ミスマッチに起因して両者の界面において転位が発生し、これがIII族窒化物基板表面まで到達して結晶品質が悪化するという問題点がある。
【0004】
そこで、この転位を低減するためのIII族窒化物基板の構造やその製造方法が提案されている。例えば特許文献1には、基板上にAlGaNからなる第1の層とGaNまたはAlGaNからなる第2の層とを、交互に複数積層した多層膜構造のバッファ層を設ける方法が開示されている。しかしながら特許文献1の方法でも、転位抑制効果は必ずしも十分とはいえない。
【0005】
また特許文献2には、基板上にストライプ状または格子状のAlGaN層を形成し、基板露出領域とAlGaN層上部領域にGaN層を形成させる方法が開示されている。GaNは3次元的にエピタキシャル成長するので、基板露出領域では選択的に横方向成長してここに低転位領域が形成されることで転位低減効果が得られる。
【0006】
しかしながら特許文献2の方法では、ストライプ状や格子状のマスク形成や基板加工などの手順が必要でMOCVD工程以外の新たな製造工程が必要となり、さらにマスク材料が基板中に混入するので、この不純物が原因となる転位の発生源となる。
【0007】
さらに特許文献3では、基板に第1のIII族窒化物結晶の成長下地層をエピタキシャル形成してなる下地基板に対して、成長下地層の表面に三次元的な微細凹凸を加熱形成しさらに下地基板の上に結晶層として第2のIII族窒化物をエピタキシャル形成する方法が開示されている。これにより、結晶層と下地基板との界面に凹凸に起因する微細な空隙が散在し、この空孔領域が基板から伸展してきた転位を分散させる効果がある。
【0008】
しかしながら特許文献3の方法は、結晶層と下地基板との界面に微細な空隙を作製する工程が必要となるので、製造方法が複雑となりやはりコスト高となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−115606号公報
【特許文献2】特開2005−60227号公報
【特許文献3】特開2007−53251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、特に多層膜構造のバッファ層を有する基板において、従来の製造方法に準じた安価な製造方法で、従来よりも転位が抑制されたIII族窒化物基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るIII族窒化物基板では、基板と、前記基板上に形成されたバッファ層と前記バッファ層上に形成された表面に凹凸を有する層が複数積層された凹凸層と表面が平坦な層が複数積層された平坦層とを交互に複数回繰り返してなる複数膜層と、前記複数膜層上に形成されたIII族窒化物層とからなることを特徴とする。
【0012】
また、前記バッファ層は材質の異なる複数の窒化物層が堆積されてなることが好ましい。
【0013】
そして凹凸層は、III族窒化物基板を劈開して得られる断面において基板とバッファ層の界面を基準線として、基準線と平行方向へ単位基準長さ400nmあたりの基準線からの最大高さが、10nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0014】
さらに、複数膜層は六方晶のウルツ鉱型の結晶を有するGaN(0001)面が成長された層と、六方晶のウルツ鉱型の結晶を有するAlN(0001)面が成長された層とが交互に積み重ねられることが好ましい。
【0015】
このような構成をとることにより、効果的に貫通転位を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るIII族窒化物基板によれば、従来の多層膜構造を有するIII族窒化物基板とほぼ同等の製造方法によって、より貫通転位が低減されたIII族窒化物基板を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る、III族窒化物基板の概念図。
【図2】本発明の一実施形態に係る、凹凸層の模式図。
【図3】本発明の一実施形態に係る、実施例でのGaN基板の構造図。
【図4】本発明の一実施形態に係る、転位の模式図。
【図5】本発明の一実施形態に係る、転位の本数をカウントしたものを表に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るIII族窒化物基板の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るIII族窒化物基板1は、基板2上に多層膜層3が形成される。この多層膜層3は、基板上に形成されたバッファ層4と、バッファ層上に形成された表面に凹凸を有する層が複数積層された凹凸層と表面が平坦な層が複数積層された平坦層とを交互に複数回繰り返してなる複数膜層5と、複数膜層上に形成されたIII族窒化物層6とからなる。
【0020】
基板2は、SiCあるいはSiの単結晶が好ましいが、その他の材料として、ZnO、LiAlO、LiGaO、MgAl、LaSr、AlTaO、NdGaO、MgOといった各種酸化物材料、Si、Geといった各種IV族単結晶、SiGeといった各種IV−IV族化合物、GaAs、AlN、GaN、AlGaNといった各種III−V族化合物およびZrBといった各種ホウ化物などでもよい。このうち、(0001)面を主面とするIII族窒化物結晶をバッファ層4とする場合には、例えば(0001)面SiCあるいは(11−20)面及び(0001)面サファイアを基板として用いることができる。また、(11−20)面を主面とするIII族窒化物結晶をバッファ層4とする場合には、例えば(11−20)面SiCあるいは(10−12)面サファイアを基板として用いることができる。なお、基板2の厚みには特に制限はないが、取り扱い上数百μm〜数mmが好適である。
【0021】
バッファ層4は、材質の異なる第1のバッファ層4aと第2のバッファ層4bからなり基板とIII族窒化物層との熱膨張係数の差に起因する歪みを緩和する働きをする。この材質を適切に選択して2層構造とすることで、歪みをより効果的に緩和できる。一例として第1のバッファ層4aをAlN、第2のバッファ層4bをAlGaN、基板をSiCとすると、このバッファ層4の熱膨張係数はSiC基板の熱膨張係数とGaN系化合物の熱膨張係数との中間の値を有するので、歪の緩和効果が大きい。
【0022】
複数膜層5は、表面に凹凸面を有する膜が複数積層された第1の層5aと、この第1の層5aの表面に形成され表面が平坦な膜層が複数積層された第2の層5bを備え、複数膜層5は繰り返し積層されている。さらに、第1の層5aは材質の異なる第1の凹凸層5a1と、この第1の凹凸層5a1上に形成される第2の凹凸層5a2からなる。
【0023】
第1の凹凸層5a1および第2の凹凸層5a2の凹凸は、III族窒化物基板を劈開して得られる断面において基板とバッファ層の界面を基準線として、基準線と平行方向へ単位基準長さ400nmあたりの前記基準線からの最大高さが10nm以上100nm以下であるのが好ましい。
【0024】
基板とバッファ層の界面から発生した転位は、はじめは層の成長方向と同じ方向に伝播していくが、この凹凸層の界面に到達すると界面に沿って転位が伝播する。エピタキシャル成長中に形成される層には、もともと原子レベルでの凹凸は高密度に存在するが、転位の進行方向を変えるにはある程度大きな形状の凹凸、すなわち界面と平行な基準線からの最大高さが必要になる。図4に模式図を示す。
【0025】
この凹凸の最大高さが10nm以上100nm以下においては、転位の進行方向を変えるのに十分なでかつ凹凸自身が新たな転位発生源となるおそれが少なく、より好適であるといえる。また、単位基準長さ400nm以上での凹凸では、界面の起伏が緩やかになり転位の伝播効果が低減するので、好ましくない。
【0026】
第2の層5bは、材質が異なる表面が平坦な第1の平坦層5b1と、この第1の平坦層5b1上に形成される表面が平坦な第2の平坦層5b2からなる。この第2の層は、第1の層5aで形成された凹凸によって凹凸界面に沿って伝播してきた転位を層の成長方向と垂直方向に屈曲して伝播させる作用がある。さらに、図4に示すように、屈曲した転位同士は互いに合体することで転位がループ状に形成され、これがバッファ層から伸展してきた転位を抑制する効果がある。
【0027】
したがって複数膜層5は、材質の異なる層を積層することによる従来の転位抑制効果と、凹凸層の存在による転位を凹凸界面に沿って伝播させる効果と、これにつづいて形成された平坦層による転位屈曲効果とループ状転位形成による転位伝播低減効果という3つの作用効果を有することで、凹凸をもたない平坦層の積層のみの構造よりも転位を抑制する効果が得られる。さらに、凹凸を有する第1の層5aと凹凸を有しない第2の層5bとを順次積層することにより、転位が合体してループ状になることが段階的に進み、結果的に転位の密度は基板側から表層側へかけて減少し、III族窒化物層6中の転位が低密度になる。
【0028】

【実施例】
【0029】
図3に示すように、SiC基板にAlN層とAlGaN層からなるバッファ層を形成し、その上に凹凸面と平坦面を複数設けた複数膜層を形成し、さらにその上にGaN膜を形成したIII族窒化物基板を作成した。
【0030】
(実施例)
MOCVD装置を用いて4インチ径のウェーハ形状の6H−SiCの基板2に対して各種の膜を堆積した。
【0031】
バッファ層4
基板2の加熱温度を1000℃、TMA(トリメチルアルミニウム)ガスとNH(アンモニア)ガスを供給して、基板2の一方の主面に対して第1のバッファ層4aである厚さ100nmのAlN層を形成した。原料の供給量と供給時間により厚さを調整した。引き続き温度は1000℃のままで、TMA、TMG(トリメチルガリウム)とNHガスを供給して、第1のバッファ層4aの上面に厚さ100nmのAlGaNからなる第2のバッファ層4bを形成した。原料の供給量と供給時間により厚さを調整した。
【0032】
凹凸層5a
温度1000℃でTMGとNHガスを供給して、第2のバッファ層4bの上面に厚さ20nmのGaNからなる第1の凹凸層5a1を形成した。このとき凹凸を設けるためにGaとNの比、すなわちN/Gaが比較的低くなるようにTMGとNHガス流量の比を調整するが、ここではN/Ga=500とした。原料の供給量と供給時間により厚さを調整した。
【0033】
さらに、温度1000℃でTMAとNHガスを供給して、第1の凹凸5aの上面に厚さ5nmのAlNからなる第2の凹凸層5a2を形成した。原料の供給量と供給時間により厚さを調整した。
【0034】
上記のように、TMGガスとNHガスの流量を制御して、N/Gaを比較的低くすることで第1の凹凸層5a1及び第2の凹凸層5a2、すなわち第1の層5aは表面に凹凸を形成することが、MOCVD法で可能であり、製造が容易である。なお、平面を平坦にする通常のエピタキシャル成長では、N/Gaが比較的高くなるようにN/Ga=5000に調整する。
【0035】
平坦層5b
温度1000℃でTMGとNHガスを供給して、第2の凹凸層5a2の上に厚さ20nmのGaNからなる平坦層5b1を形成した。ここではN/Ga=5000とした。原料の供給量と供給時間により厚さを調整した。
【0036】
温度1000℃でTMAとNHガスを供給して、第1の平坦層5b1の上面に厚さ5nmのAlNからなる平坦層5b2を形成した。原料の供給量と供給時間により厚さを調整した。そして、複数層膜5は5aと5bの組み合わせで5回積層して形成した。
【0037】
III族窒化物層6
温度1000℃でTMGとNHガスを供給して、最後の第2の凹凸層5a2の上面に厚さ1μmのGaNからなるIII族窒化物層6を形成した。ここではN/Ga=5000とした。原料の供給量と供給時間により厚さを調整した。
【0038】
(比較例)
第1の凹凸層5a1でのエピ成長時のガス流量比がN/Ga=5000である以外は実施例と同様の工程でサンプルを作製した。
【0039】
評価方法は、TEM(透過電子顕微鏡)により窒化物基板の断面において複数膜層の基板側で観察された転位の本数と窒化物基板表面側まで達した貫通転位の本数を観察した。サンプル測定箇所は、基板の中心部から試料をサンプリングし、基準面に水平方向に対して幅2000nmの範囲を観察して、転位の本数をカウントしたものを表1に示した。
【0040】
表1で明らかなように、実施例における複数膜層の基板側Aでは、転位が20本であるのに対して、III族窒化物層側Bでは転位が15本であり、5本すなわち25%転位が減少していたが、複数膜層に凹凸が形成されていない比較例では、複数膜層の基板側Aでは転位が42本であるのに対して、III族窒化物層側Bでは転位が38本であり、4本すなわち9.5%の減少にとどまっていた。
【符号の説明】
【0041】
1 III族窒化物基板
2 基板
3 多層膜層
4 バッファ層
4a 第1のバッファ層
4b 第2のバッファ層
5 複数膜層
5a 第1の層
5a1 第1の凹凸層
5a2 第2の凹凸層
5b 第2の層
5b1 第1の平坦層
5b2 第2の平坦層
6 III族窒化物層
7 基準線
8 凹凸の最大高さ
9 凹凸の単位基準長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成されたバッファ層と、前記バッファ層上に形成された表面に凹凸を有する層が複数積層された凹凸層と表面が平坦な層が複数積層された平坦層とを交互に複数回繰り返してなる複数膜層と、前記複数膜層上に形成されたIII族窒化物層とからなることを特徴とするIII族窒化物基板。
【請求項2】
前記バッファ層は、材質の異なる複数の窒化物層が堆積されてなることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物基板。
【請求項3】
前記凹凸層は、前記III族窒化物基板を劈開して得られる断面において前記基板と前記バッファ層の界面を基準線として、前記基準線と平行方向へ単位基準長さ400nmあたりの前記基準線からの最大高さが、10nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1乃至2に記載のIII族窒化物基板。
【請求項4】
前記複数膜層は、六方晶のウルツ鉱型の結晶を有するGaN(0001)面が成長された層と、六方晶のウルツ鉱型の結晶を有するAlN(0001)面が成長された層とが交互に積み重ねられることを特徴とする請求項1乃至3に記載のIII族窒化物基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−228967(P2010−228967A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78484(P2009−78484)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】