説明

MEMSデバイスおよびその製造方法

【課題】構造体の機械的な特性を保持しながら電気的な抵抗値を軽減し、優れた動作特性を有するMEMSデバイス、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン基板1上に形成された多結晶シリコンからなる固定電極10と、シリコン基板1上に形成された窒化膜3と隙間を設けて機械的に可動な状態で配置された多結晶シリコンからなる可動電極20と、可動電極20の周囲に形成され且つ固定電極10の一部を覆うように形成された第1層間絶縁膜13、第1配線層23、第2層間絶縁膜14、第2配線層24、および保護膜19がこの順に積層された配線積層部と、を有し、固定電極10の前記配線積層部に覆われた部分がシリサイド化されてシリサイド部分25が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板上に半導体製造プロセスを用いて形成される可動電極や固定電極などの構造体を備えたMEMSデバイスおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術の進展に伴い、半導体製造プロセスを用いて形成される可動電極と固定電極からなる微小な構造体を備えた電気機械系デバイス、例えば、共振器、フィルタ、センサ、モータ等の所謂MEMS(Micro Electro Mechanical System)デバイスが注目されている。MEMSデバイスは半導体製造プロセスを用いて製造されることから、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)との複合デバイスを形成することも可能であるため、近年ますます高まる電子機器の小型化と高機能化の要求に応え得るデバイスとしても期待されている。
【0003】
このような電子機器の高機能化の要求に伴って、MEMSデバイスには精緻な電流値制御や電気的な高速化が必要となり、MEMSデバイスの回路を構成する構造体や配線などのより一層の低抵抗化が求められている。例えば、無線通信用のRF(Radio Frequency)−MEMSなどの高周波数帯で扱われるMEMSデバイスは、挿入損失が大きいと特性そのものの劣化に直結するため、MEMSデバイスの回路全体における抵抗値を極力抑える必要がある。
【0004】
MEMSデバイスの製造方法の一例を説明すると、まず、シリコン(Si)などの半導体基板上に、固定電極と、一部が犠牲層上に形成された態様の可動電極とを形成し、さらに固定電極および可動電極の上に配線を含む配線積層部を形成する。そして、配線積層部および犠牲層の一部をエッチング(リリースエッチング)により除去して可動電極をリリースすることによって、機械的に可動な状態の可動電極を形成する。
【0005】
ところで、MEMSデバイスの回路における配線は、一般に、通常の半導体製造と同様にスパッタリング法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法あるいは真空蒸着法などによりアルミニウム(Al)などの金属を堆積させてからパターニングすることによって形成されるので低抵抗となっている。これに対して、MEMSデバイスの可動電極や固定電極などの構造体は、シリコンを堆積させてからパターニング形成した後で、半導体であるシリコンの低抵抗化を図るための何らかの処理を施す必要がある。シリコンからなる構造体の低抵抗化を図る処理の方法としては、シリコン膜にリンイオン(例えば、31+)などの不純物イオンをイオン注入して拡散層を形成する方法が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0006】
また、構造体のさらなる低抵抗化を図る方法として、例えば特許文献1や特許文献2に、スパッタリング法やCVD法あるいは真空蒸着法などによりシリコン膜上に金属を堆積させてから高温でアニールすることにより、金属であるチタンと接しているシリコンを拡散させて合金化させる所謂シリサイド化する方法が示されている。例えばチタン(Ti)によりシリサイド化されたシリサイド部分(TiSi)は約10-5Ωcmの比抵抗を有し、この値は不純物イオン注入による拡散層の約100分の1である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−221853号公報
【特許文献2】特開2001−264677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、シリコンからなる構造体に不純物イオンを注入して拡散層を形成する方法では、構造体の抵抗値を高周波帯で扱われるMEMSデバイスに要求される抵抗値にまで低減することは難しい。一方、シリコンからなる構造体をシリサイド化する方法は構造体の大幅な低抵抗化に有効な方法であるが、シリサイド用の金属の種類によっては、配線積層部の一部および犠牲層をエッチングにより除去して可動電極をリリースする際に、シリサイド部分がエッチング液に溶解する虞がある。シリサイド部分が溶解した場合には、却って抵抗値が上昇してしまったり、構造体が薄くなって機械的な強度が低下してしまったりすることにより、MEMSデバイスの電気的および機械的特性の変動が生じて所望の特性が得られないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、その目的は、構造体の機械的な特性を保持しながら電気的な抵抗値を軽減し、優れた動作特性を有するMEMSデバイス、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のMEMSデバイスは、半導体基板上に形成されたシリコンからなる固定電極と、半導体基板と隙間を設けて機械的に可動な状態で配置されたシリコンからなる可動電極と、可動電極の周囲に形成されて、且つ、固定電極の一部を覆うように形成された配線積層部であって、配線を含む配線積層部と、を有し、固定電極または可動電極に不純物イオンが打ち込まれて、且つ、固定電極の配線積層部に覆われた部分の少なくとも一部がシリサイド化されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、可動電極または固定電極が、不純物イオン打ち込みにより低抵抗化されている。特に、可動電極と固定電極のMEMSデバイスが製造される過程で、配線積層部の一部をリリースエッチングすることにより可動電極をリリースする際にリリースエッチング液に曝される部分、即ち、シリサイド化が困難な部分の低抵抗化が図られている。これにより、MEMSデバイスの回路全体の抵抗値が軽減されるという効果を奏する。
しかも、上記の構成のMEMSデバイスは、固定電極の配線積層部に覆われた部分の少なくとも一部がシリサイド化されている。即ち、可動電極をリリースする際に、リリースエッチング液が触れない部分がシリサイド化されている。これにより、シリサイド用金属としてどのような金属を適用しても、固定電極のシリサイド部分が、例えばフッ化水素系のリリースエッチング液によって溶解されることなく、固定電極の低抵抗化を図ることができる。シリサイド化されたシリコンは、例えばリンイオンなどの不純物のイオン打ち込みのみを施した場合に比して、比抵抗を約100分の1にすることも可能であり、抵抗値の大幅な軽減を図ることができる。
したがって、上記構成のMEMSデバイスによれば、MEMSデバイスの回路全体の抵抗値を大幅に軽減することができ、MEMSデバイス動作時の挿入損失や通過特性を改善できるので、高周波デバイスなどに適用可能な優れた動作特性を有するMEMSデバイスを提供することができる。
【0012】
本発明のMEMSデバイスは、固定電極の配線積層部の外部に配置される部分と可動電極との一方または両方は、シリサイド化されていることを特徴とする。
このとき、シリサイド化に用いるシリサイド用金属が、タングステン(W)、またはモリブデン(Mo)であることが望ましい。
【0013】
この構成によれば、MEMSデバイスの構造体である固定電極と可動電極との、配線積層部の外部に配置される構造体およびその一部分を含めた略すべてがシリサイド化されたシリサイド部分を有する構成とすることも可能である。これにより、MEMSデバイスの回路全体のより顕著な低抵抗化を図ることができる。
このとき、シリサイド用金属としてタングステンまたはモリブデンを用いる構成とすれば、タングステンまたはモリブデンによりシリサイド化されたシリサイド部分は、例えばフッ化水素系のリリースエッチング液に特に溶解しにくい。したがって、MEMSデバイスを製造する過程において可動電極をリリースする際に、リリースエッチング液に触れる部分の構造体を安定してシリサイド化することができるので、より抵抗値が低減されたMEMSデバイスを安定して製造することができる。
【0014】
本発明は、半導体基板上に形成されたシリコンからなる固定電極と、半導体基板と隙間を設けて機械的に可動な状態で配置されたシリコンからなる可動電極と、可動電極の周囲に形成され、且つ、固定電極の一部を覆うように形成された配線積層部であって、配線を含む配線積層部と、を有するMEMSデバイスの製造方法であって、半導体基板上に固定電極を形成する工程と、一部が犠牲層上に形成された態様で可動電極を形成する工程と、固定電極および可動電極の上に配線積層部を形成する工程と、配線積層部および犠牲層の一部をエッチングにより除去して可動電極をリリースする工程と、を有し、固定電極を形成する工程と可動電極を形成する工程との一方または両方の工程において、固定電極または可動電極に不純物イオンをイオン打ち込みする工程を含み、且つ、固定電極を形成する工程において、固定電極の配線積層部に覆われた部分の少なくとも一部をシリサイド化する工程を含むことを特徴とする。
【0015】
この製造方法によれば、可動電極または固定電極に不純物イオンをイオン打ち込みすることにより、可動電極または固定電極の低抵抗化を図ることができる。特に、可動電極をリリースする工程において、リリースエッチング液が触れるためにシリサイド化が困難な部分の低抵抗化を図ることが可能になる。したがって、MEMSデバイスの回路全体での抵抗が軽減され、優れた動作特性を有するMEMSデバイスの製造に供する。
また、可動電極をリリースするときに、リリースエッチング液が触れない部分がシリサイド化されているので、シリサイド用金属としてどのような金属を適用しても、固定電極がリリースエッチング液により溶解されることがない。これにより、シリサイド部分が溶解して固定電極の抵抗値が上昇したり、固定電極の機械的強度が低下したりするのを防止できる。したがって、シリサイド化された固定電極を安定して形成することができ、MEMSデバイスの回路全体の抵抗値の大幅な軽減が可能になるので、優れた動作特性を有するMEMSデバイスを製造することができる。
【0016】
本発明のMEMSデバイスの製造方法では、固定電極を形成する工程と前記可動電極を形成する工程との一方または両方の工程において、前記固定電極の前記配線積層部の外部に配置される部分と前記可動電極との一方または両方をシリサイド化する工程を含むことを特徴とする。
また、本発明では、シリサイド化に用いるシリサイド用金属に、タングステン(W)、またはモリブデン(Mo)を用いることが望ましい。
【0017】
この構成によれば、固定電極および可動電極などのMEMSデバイスの構造体の略すべてをシリサイド化してシリサイド部分を形成することも可能である。これにより、MEMSデバイスの回路全体のより顕著な低抵抗化を図ることができる。
このとき、シリサイド用金属としてタングステンまたはモリブデンを用いる構成とすれば、タングステンとモリブデンは、フッ化水素系のリリースエッチング液に特に溶解しにくい。したがって、可動電極をリリースする工程において、リリースエッチング液に触れる部分の構造体を安定してシリサイド化することができるので、より抵抗値が低減されたMEMSデバイスを安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態であるMEMSデバイスの概略構造を説明する平面図、同図(b)は、図1(a)のA−A線断面図。
【図2】(a)〜(c)は、本発明の第2の実施形態であるMEMSデバイスの製造方法を説明する概略断面図。
【図3】(a)〜(c)は、本発明の第2の実施形態であるMEMSデバイスの製造方法を説明する概略断面図。
【図4】(a)〜(d)は、本発明の第2の実施形態であるMEMSデバイスの製造方法を説明する概略断面図。
【図5】本発明の第3の実施形態であるMEMSデバイスの概略構造を説明する概略断面図。
【図6】(a)〜(c)は、本発明の第4の実施形態であるMEMSデバイスの製造方法を説明する概略断面図。
【図7】(a)〜(c)は、本発明の第4の実施形態であるMEMSデバイスの製造方法を説明する概略断面図。
【図8】本発明のMEMSデバイスの変形例の概略構造を説明する概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のMEMSデバイスおよびその製造方法の実施形態について説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
まず、MEMSデバイスの一実施形態について図面に沿って説明する。図1(a)は、本発明に係るMEMSデバイスの好適な実施形態の構成を示す平面図であり、図1(b)は同図(a)のA−A線断面図である。
【0021】
図1に示すMEMSデバイス30は、シリコン基板1上に、固定された状態で設けられた固定電極10と、この固定電極10の一部の上方に積層された第1層間絶縁膜13、第1配線層23、第2層間絶縁膜14、第2配線層24、保護膜19からなる配線積層部と、を有している。また、配線積層部の略中央に形成された空間としての開口部C1内に可動な状態で設けられた可動電極20が備えられている。固定電極10の配線積層部に覆われた部分は、表面がシリサイド化されてシリサイド部分25が形成されている。
【0022】
シリコン基板1上には、酸化シリコン膜(SiO2、例えば、熱酸化膜)である絶縁膜2と、窒化シリコン(SiN)などからなる窒化膜3が、この順に積層されている。窒化膜3上には、CVD法などにより多結晶シリコン膜を積層させてからパターニングすることにより形成された固定電極10が設けられている。固定電極10は、パターニングされる前の多結晶シリコン膜を堆積させた段階で、多結晶シリコン膜にリンイオンなどの不純物イオンがイオン打ち込みされている。また、固定電極10は、後述する配線積層部に形成された開口部C1に露出された部分と、開口部C1から所定の面積を覆うように犠牲層11および層間膜12が順次積層された部分と、シリサイド用の金属によりシリサイド化されたシリサイド部分25とを有している。
このように、多結晶シリコンからなる固定電極10は、不純物イオンのイオン打ち込みが施されたうえに、一部がシリサイド化されてシリサイド部分25が形成されている。これにより、多結晶シリコンに不純物イオンのイオン打ち込みのみを行なった場合に比して、固定電極10のシート抵抗値を約100分の1に低減することが可能になる。したがって、MEMSデバイス30は、動作させたときの挿入損失や通過特性などの改善を図ることができ、高周波デバイスなどに適用可能な優れた動作特性を有する。
【0023】
固定電極10のシリサイド部分25上および犠牲層11と層間膜12が順次積層された部分の上には、第1層間絶縁膜13、第1配線層23、第2層間絶縁膜14、第2配線層24がこの順に積層された配線積層部を有している。第1層間絶縁膜13の一部がパターニングされ、固定電極10と第1配線層23が導通する。また、第2層間絶縁膜14の一部がパターニングされ、第1配線層23と第2配線層24が導通する。第2配線層24上には、保護膜(パッシベーション膜)19が積層されている。
なお、本実施形態では、第1層間絶縁膜13上に、第2層間絶縁膜14を挟んで第1配線層23と第2配線層24との二つの配線層を有する配線積層部の構成を説明するが、これに限らず、一つまたは三つ以上の配線層を有して構成された配線積層部とすることも可能である。
【0024】
犠牲層11、層間膜12、第1層間絶縁膜13、第1配線層23、第2層間絶縁膜14、第2配線層24、保護膜19がこの順に積層された配線積層部の略中央には、円筒形状もしくは矩形状の凹部である開口部C1が形成されている。この開口部C1の凹底部分には、CVD法などにより多結晶シリコン膜を積層させてからパターニングすることにより形成された可動電極20が備えられている。可動電極20は、一部が窒化膜3上に支持され、可動電極20の下側部分の犠牲層11が除去されていることにより、窒化膜3および固定電極10と所定の隙間を有して可動な状態で設けられている。また、可動電極20は、パターニングされる前の多結晶シリコン膜を堆積させた段階で、多結晶シリコン膜にリンイオンなどの不純物イオンがイオン打ち込みされている。
【0025】
次に、上記の構成を有するMEMSデバイス30の動作の一例について説明する。本実施形態では、固定電極10の、可動電極20を挟んだ両側に形成された一方を駆動電極、他方を検出電極として説明する。また、可動電極20には適切な直列バイアス電圧が印加されているものとする。
MEMSデバイス30の固定電極10の駆動電極側に駆動電圧を注入すると、固定電極10と可動電極20との間に電位差が生じ、これに伴って電荷が蓄電される。この電位の時間変化、若しくは蓄電される電荷の時間変化により、通常のキャパシタと同様に固定電極10の駆動電極側と可動電極20との間には交流電流が流れる。これは固定電極10の検出電極側と可動電極20との間においても同様であり、MEMSデバイス30全体には2つのキャパシタを直列に接続した場合の静電容量値に相当した交流電流が流れる。
一方で、可動電極20は特定の周波数において固有の振動周波数を有し、特定の周波数において厚み方向へ屈曲が生じる。この場合、前述した固定電極10の駆動電極側および検出電極側と可動電極20との間の静電容量に変位が生じ、各構造体間に形成されるキャパシタには電圧に相当した電荷が蓄電されているが、静電容量が変動した場合、キャパシタへの蓄電量Q=CVを満足させるために電荷の移動が生ずる。この結果、可動電極20の固有振動周波数においては、静電容量の変化に伴い電流が流れる。可動電極20からの出力電流は、固定電極10の検出電極側から検出される。
【0026】
(第2の実施形態)
次に、上記第1の実施形態のMEMSデバイス30の製造方法について説明する。図2、図3、図4は、MEMSデバイス30の製造工程を説明する概略断面図である。なお、図2、図3、図4は、図1(b)と同じ位置のMEMSデバイス30の断面を図示している。
【0027】
MEMSデバイス30の製造においては、半導体製造プロセスが用いられる。
図2(a)において、シリコン基板1表面を熱酸化させるなどして酸化シリコン膜(SiO2)からなる絶縁膜2を形成した上に、CVD法やスパッタリング法などにより窒化シリコン(SiN)などで構成される窒化膜3を堆積させて形成する。この窒化膜3は、後述するリリースエッチングを行なう際のエッチングストップ層として機能するベース層となる。
【0028】
次に、窒化膜3上に、CVD法などにより多結晶シリコン膜を積層させ、リンイオン(例えば、31+)などの不純物イオンをイオン注入してから、フォトリソグラフィ法などによりパターニングすることによって固定電極10を形成する。
次に、固定電極10上に、スパッタリング法などにより酸化シリコンなどの酸化膜からなる犠牲層11を形成する。そして、犠牲層11上に、CVD法やスパッタリング法あるいは真空蒸着法などにより多結晶シリコン膜を積層させてから、リンイオンなどの不純物イオンを注入するイオン注入を行なった後、フォトリソグラフィ法などによりパターニングすることによって可動電極20を形成する。
【0029】
次に、図2(b)に示すように、CVD法やスパッタリング法などにより酸化シリコンなどの酸化膜からなる層間膜12を堆積させて形成する。続いて、図2(c)に示すように、フォトリソグラフィ法などにより層間膜12と犠牲層11の所定の領域を除去して固定電極10の多結晶シリコンの一部を露出させる。このとき露出された固定電極10の所定の領域は、後述する工程でシリサイド化される領域となる。
【0030】
次に、図3(a)に示すように、真空蒸着法やスパッタリング法あるいはCVD法などにより、固定電極10の一部をシリサイド化するためのシリサイド用金属層25aを形成する。この段階では、シリサイド用金属層25aは、固定電極10の多結晶シリコンが露出された一部と、層間膜12上に接触して形成される。なお、シリサイド用金属層25aには、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などの金属を用いることができる。
【0031】
次に、ランプアニールなどの方法により、所定の温度にて所定時間のアニールを行なう。これにより、固定電極10の多結晶シリコンが露出された部分がシリサイド用金属層25aによってシリサイド化されることによりシリサイド部分25が形成される(図3(b))。
このように、固定電極10の一部をシリサイド化してシリサイド部分25を形成することにより、シリサイド部分25のシート抵抗を一層低減することができる。その結果、MEMSデバイス全体での顕著なシート抵抗の低減を図ることができるので、MEMSデバイス30を動作させたときの挿入損失や通過特性などが改善され、優れた動作特性を有するMEMSデバイス30を製造することができる。
【0032】
続いて、図3(c)に示すように、アンモニア(NH4)と過酸化水素(H22)の水溶液により、シリサイド化されなかったシリサイド用金属層25aをエッチングして除去する。なお、ここで用いるエッチング液は、アンモニアと過酸化水素の水溶液に限らず、シリサイド部分25を残してシリサイド用金属層25aのみをエッチングする選択比を有する他のエッチング液を用いてもよい。
【0033】
次に、図4(a)に示すように、スパッタリングなどの方法により第1層間絶縁膜13を形成する。このとき、第1層間絶縁膜13を積層させる下地層は凹凸を有するが、後の工程で第1層間絶縁膜13上に積層される配線層などの形成を容易にするために、第1層間絶縁膜13の上面は平坦になるようにすることが望ましい。このため、第1層間絶縁膜13には、リフローすることにより平坦化することが可能なBPSG(Boron Phosphorus Silicon Glass)やPSG(Phosphorus Silicon Glass)を用いることが好ましい。この他にも、液状の絶縁性ガラス材料をスピンコート法により塗布して成膜するSOG(Spin On Glass)を層間絶縁膜として用いて、または、酸化シリコンなどをスパッタリングした後に化学的および機械的に研磨するCMP(Chemical Mechanical Polishing)などの平坦化技術を用いて層間絶縁膜の上面を平坦化する構成としてもよい。
【0034】
次に、図4(b)に示すように、第1層間絶縁膜13上に、スパッタリング法やCVD法、およびフォトリソグラフィ法などにより、第1配線層23、第2層間絶縁膜14、第2配線層24をこの順に積層させ、また、パターニングして形成する。第1配線層23および第2配線層24は、酸化シリコン(SiO2)などで構成される複数の配線を有し(図示せず)、表面にシリサイド部分25を有する固定電極10から配線を引き出している。なお、本実施形態では、第1配線層23および第2配線層24の二層の配線層を形成する例を説明した。ここで、配線層は単層でもよく、また、必要に応じて三層以上設ける構成としてもよい。
【0035】
次に、図4(c)に示すように、第2配線層24上に、窒化シリコンなどからなる保護膜(パッシベーション膜)19を形成する。保護膜19は、CVD法やスパッタリング法などにより堆積させて形成できる。この他、シリコンナイトライド(Si34)で構成される保護膜19は、例えばプラズマCVDを用いて形成することが好ましい。
【0036】
次に、可動電極20のリリースエッチングを行なう。リリースエッチングは、多結晶シリコンからなる固定電極10および可動電極20と、窒化シリコンからなる窒化膜3以外の、単結晶の酸化シリコンなどからなる各層をエッチングする選択比を有する例えばフッ化水素(HF)系のエッチング液を用いて行なう。まず、図4(d)に示す開口部C1を形成するためのフォトレジストパターンを形成し、このフォトレジストパターンをエッチングマスクとして、フッ化水素系のエッチング液によりウェットエッチングする。すると、図4(d)に示すように、保護膜19、第2層間絶縁膜14、第1層間絶縁膜13、可動電極20の上面および側面を覆っている層間膜12と、可動電極20の下側部分の犠牲層11が除去され、開口部C1が形成される。このリリースエッチングは、エッチングストップ層として機能する窒化膜3によって、厚み方向のエッチングが止まり、また、固定電極10がエッチングされずに残る。また、可動電極20の下側部分の犠牲層11が除去されることにより、可動電極20は、窒化膜3および固定電極10と所定の隙間を設けてリリースされて可動な状態となる。
【0037】
ここで、シリサイド用金属の種類によっては、シリサイド部分がフッ化水素系のリリースエッチング液に溶解して、逆にシート抵抗が上昇したり、構造体が薄くなって機械的な特性が変動したりするなどの不具合を生ずる虞がある。本実施形態の製造方法によれば、固定電極10のリリースエッチングされない領域をシリサイド化することができるので、リリースエッチング液によるシリサイド部分25の溶解を発生させることがない。また、リリースエッチング液への耐性を考慮することなく、広い選択肢にてシリサイド用金属層25aに用いる金属を選定して、MEMSデバイス30における固定電極10や可動電極20などのMEMS構造体をシリサイド化する効果を得ることができる。
【0038】
なお、リリースエッチングは、ドライエッチング法と組み合わせて複数の段階に分けて行なってもよい。例えば、まず、上記のフォトレジストパターンを介して、例えばCHF3などの反応性ガスを用いたRIE(リアクティブイオンエッチング)法により、保護膜19、第2層間絶縁膜14、および第1層間絶縁膜13を所定の深さまでドライエッチングする。続いて、フッ化水素系のエッチング液によりリリースエッチングを行なって可動電極20をリリースする。この方法によれば、RIE法によるドライエッチングは異方性に優れており、フォトレジストパターンの端部直下の保護膜19がエッチングされる所謂アンダーカットが起こりにくいので、略鉛直方向にエッチングを進めることができるとともに、リリースエッチング時間を短縮することが可能である。
【0039】
そして、リリースエッチング後に、フォトレジストパターンを剥離することにより、一連のMEMSデバイスの製造工程を終了する。
【0040】
以上述べたように、本実施形態の製造方法では、シリサイド部分25を有する固定電極10を備えたMEMSデバイス30は、半導体製造プロセスにより製造される。
これにより、シリコン基板1上に、MEMS構造体と、例えば発振回路などのCMOSを併設した複合MEMSデバイスを製造することが比較的容易に実現でき、より多機能化が図られたMEMSデバイス30を製造することができる。
【0041】
(第3の実施形態)
上記第2の実施形態の製造方法により製造される上記第1の実施形態のMEMSデバイス30は、固定電極10の、可動電極20をリリースする際にリリースエッチング液に曝されない部分をシリサイド化してシリサイド部分25を形成した。これに対して、この第3の実施形態では、リリースエッチング液に曝される可動電極および固定電極の一部分にシリサイド部分を形成する例を図面に沿って説明する。
【0042】
図5は、第3の実施形態のMEMSデバイス70を説明する概略断面図であり、上記第1の実施形態における図1(b)と同じ位置の断面を図示している。なお、第3の実施形態のMEMSデバイス70の構成のうち、第1の実施形態のMEMSデバイス30と同一の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0043】
図5において、MEMSデバイス70は、シリコン基板1上に、固定された状態で設けられた固定電極50と、この固定電極50の上方に積層された第1層間絶縁膜13、第1配線層23、第2層間絶縁膜14、第2配線層24、保護膜19からなる配線積層部と、を有している。また、配線積層部の略中央に形成された空間としての開口部C2内に可動な状態で設けられた可動電極60が備えられている。固定電極50は、表面がシリサイド化されてシリサイド部分55が形成されている。また、可動電極60は、表面がシリサイド化されてシリサイド部分65が形成されている。
【0044】
シリコン基板1上には、絶縁膜2と、窒化膜3とが、この順に積層され、窒化膜3上には、多結晶シリコン膜を積層させてイオン打ち込みされた後、パターニングすることにより固定電極50が形成されている。また、固定電極50の表面には、高融点金属からなるシリサイド用金属によりシリサイド化されたシリサイド部分55を有している。シリサイド用金属として用いる高融点金属は、可動電極60をリリースエッチングする際のフッ化水素系のエッチング液に溶解しにくく、特にエッチング液に難溶なタングステンやモリブデンが用いられていることが好ましい。
【0045】
このように、固定電極50は、多結晶シリコンに不純物イオン打ち込みが施されたうえに、表面がシリサイド化されてシリサイド部分55を有して形成されているので、シート抵抗値が大幅に軽減される。これにより、MEMSデバイス70を動作させたときの挿入損失や通過特性などがより改善される効果を奏する。
【0046】
固定電極50のシリサイド部分55の一部の上方には犠牲層11が積層されている。さらに、犠牲層11上には、第1層間絶縁膜13、第1配線層23、第2層間絶縁膜14、第2配線層24がこの順に積層された配線積層部が形成されている。配線積層部の上には、保護膜(パッシベーション膜)19が積層されている。
【0047】
配線積層部の略中央には、円筒形状もしくは矩形状の凹部である開口部C2が形成されている。この開口部C2の凹底部分には、一部が窒化膜3上に支持されて可動な状態で設けられた可動電極60が形成されている。可動電極60は多結晶シリコンからなり、多結晶シリコン膜に不純物イオン打ち込みが施されてから、パターニングすることにより形成されている。さらに、可動電極60の表面には、タングステンやモリブデンなどの高融点金属からなるシリサイド用金属によりシリサイド化されてシリサイド部分65が形成されている。
【0048】
可動電極60は、不純物イオン打ち込みが施されて低抵抗化が図られてからパターニングして形成されている上に、高融点金属によりシリサイド化されてシリサイド部分65を有しているので、シート抵抗の大幅に低減される。このように、MEMSデバイス70の構造体である可動電極60および固定電極50がシリサイド化されていることにより、MEMSデバイス70の回路全体の抵抗値は大幅に低減され、挿入損失や通過特性などがより良好になるので、高周波デバイスなどに適用可能な優れた動作特性を有するMEMSデバイス70を提供することができる。
【0049】
(第4の実施形態)
次に、上記第3の実施形態のMEMSデバイス70の製造方法について、図面に沿って説明する。なお、第4の実施形態のMEMSデバイス70の製造方法のうち、第2の実施形態のMEMSデバイス30の製造方法と同一の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0050】
図6(a)において、シリコン基板1表面を熱酸化させるなどして形成した絶縁膜2上に、CVD法やスパッタリング法などにより窒化膜3を堆積させて形成する。次に、CVD法などにより多結晶シリコン膜を積層させ、リンイオンなどの不純物イオンをイオン注入し低抵抗化を図ってから、フォトリソグラフィ法などによりパターニングすることによって固定電極50を形成する。さらに、固定電極50上には、真空蒸着法やスパッタリング法あるいはCVD法などにより、高融点金属からなるシリサイド用金属層55aを形成する。本実施形態では、シリサイド用金属層55aに用いる高融点金属としてのタングステンまたはモリブデンを用いる。
タングステンまたはモリブデンを用いてシリサイド化することにより形成される固定電極50のシリサイド部分は、後述する可動電極60をリリースする工程でリリースエッチングする際に用いるフッ化水素系のエッチング液に特に難溶である。これにより、シリサイド部分のリリースエッチング液に曝された部分が溶解して逆に抵抗値が上昇するなどの不具合を回避することができる。
【0051】
次に、図6(b)において、ランプアニールなどの方法により、所定の温度にて所定時間のアニールを行なう。これにより、固定電極50の多結晶シリコンと接触している部分がシリサイド用金属層55aによってシリサイド化されることによりシリサイド部分55が形成される。次に、アンモニア(NH4)と過酸化水素(H22)の水溶液などにより、シリサイド化されなかった窒化膜3上の未反応のシリサイド用金属層55aを除去する。
このように、固定電極50の一部をシリサイド化してシリサイド部分55を形成することにより、固定電極50のシート抵抗を一層低減することができる。その結果、MEMSデバイス全体での顕著なシート抵抗の低減を図ることができるので、MEMSデバイス70を動作させたときの挿入損失や通過特性などが改善された、優れた動作特性を有するMEMSデバイス70を製造することができる。
【0052】
次に、図6(c)において、固定電極50上に、スパッタリング法などにより酸化シリコンなどの酸化膜からなる犠牲層11を形成する。次に、犠牲層11上に、CVD法やスパッタリング法あるいは真空蒸着法などにより多結晶シリコン膜を積層させてから、リンイオンなどの不純物イオンを注入するイオン注入を行なって低抵抗化を図った後、フォトリソグラフィ法などによりパターニングすることによって可動電極60を形成する。さらに、真空蒸着法やスパッタリング法あるいはCVD法などにより、可動電極60をシリサイド化するためのシリサイド用金属層65aを積層させる。本実施形態では、シリサイド用金属層55aに用いる高融点金属としてのタングステンまたはモリブデンを用いる。
タングステンまたはモリブデンを用いてシリサイド化することにより形成される可動電極60のシリサイド部分は、後述する可動電極60をリリースする工程で用いるフッ化水素系のエッチング液に特に難溶である。これにより、シリサイド部分のリリースエッチング液に曝された部分が溶解して逆に抵抗値が上昇するなどの不具合を回避することができる。
【0053】
次に、図7(a)に示すように、ランプアニールなどの方法により、所定の温度にて所定時間のアニールを行なうことにより、可動電極60の多結晶シリコンがシリサイド用金属層65aによってシリサイド化されることによりシリサイド部分65が形成される。
このように、可動電極60をシリサイド化してシリサイド部分65を形成することにより、可動電極60のシート抵抗を一層低減することができる。さらに、本実施形態では、MEMSデバイス70の構造体である固定電極50もシリサイド化されてシリサイド部分55を有しているので、MEMSデバイス70の回路全体の大幅な低抵抗化が図られる。
【0054】
続いて、図7(b)において、まず、アンモニア(NH4)と過酸化水素(H22)の水溶液などにより、シリサイド化されなかったシリサイド用金属層65a(図7(a)を参照)をエッチングして除去する。次に、スパッタリングなどの方法により第1層間絶縁膜13を形成する。次に、第1層間絶縁膜13上に、スパッタリング法やCVD法、およびフォトリソグラフィ法などにより、第1配線層23、第2層間絶縁膜14、第2配線層24をこの順に積層させ、また、パターニングして配線積層部を形成する。そして、第2配線層24上に、CVD法やスパッタリング法などにより、窒化シリコンなどからなる保護膜(パッシベーション膜)19を形成する。
【0055】
次に、図7(c)に示すように、フッ化水素系などのリリースエッチング液により、保護膜19、第2層間絶縁膜14、第1層間絶縁膜13、可動電極60の下側部分の犠牲層11をエッチング除去して開口部C2を形成することにより、可動電極60を可動な状態にリリースする。
ここで、シリサイド用金属の種類によっては、シリサイド部分55,65がリリースエッチング液に溶解して、逆にシート抵抗が上昇したり、構造体が薄くなって機械的な特性が変動したりするなどの不具合を生ずる虞がある。本実施形態の製造方法によれば、固定電極50および可動電極60が、フッ化水素系などのリリースエッチング液に難溶なタングステンまたはモリブデンによりシリサイド化されている。これにより、各々のシリサイド部分55,65がリリースエッチング液によって溶解させることなく、MEMSデバイス70における固定電極50や可動電極60などのMEMS構造体をシリサイド化する効果を得ることができる。
【0056】
(変形例)
上記第1および第2の実施形態で説明したMEMSデバイス30は、固定電極10の配線積層部に覆われた部分は、可動電極20をリリースする工程においてリリースエッチング液に曝されない部分にシリサイド部分25を形成した。
また、上記第3および第4の実施形態で説明したMEMSデバイス70は、リリースエッチング液に難溶な高融点金属であるタングステンまたはモリブデンをシリサイド用金属として用いて、固定電極50のシリサイド部分55および可動電極60のシリサイド部分65を形成した。
これらに限らず、第1および第2の実施形態と、第3および第4の実施形態とを組み合わせた構成のMEMSデバイス、およびMEMSデバイスの製造方法としてもよい。
【0057】
図8は、上記実施形態の特徴を組み合わせた構成のMEMSデバイス90を説明する概略断面図である。なお、本変形例のMEMSデバイス90の構成のうち、上記実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0058】
図8において、MEMSデバイス90は、シリコン基板1上に、固定された状態で設けられた固定電極10と、この固定電極10の上方に積層された第1層間絶縁膜13、第1配線層23、第2層間絶縁膜14、第2配線層24、保護膜19からなる配線積層部と、を有している。また、配線積層部の略中央に形成された空間としての開口部C3内に可動な状態で設けられた可動電極60が備えられている。固定電極10の配線積層部に覆われた部分は、表面がシリサイド化されてシリサイド部分25が形成されている。また、可動電極60は、表面がシリサイド化されてシリサイド部分65が形成されている。
【0059】
シリコン基板1上には、絶縁膜2と、窒化膜3とが、この順に積層され、窒化膜3上には、多結晶シリコン膜を積層させてイオン打ち込みされた後、パターニングすることにより固定電極10が形成されている。また、固定電極10は、開口部C3に露出された部分と、開口部C3から所定の面積を覆うように犠牲層11および層間膜12が順次積層された部分と、シリサイド用の金属によりシリサイド化されたシリサイド部分25とを有している。
このように、固定電極10は、不純物イオンのイオン打ち込みが施されたうえに、一部がシリサイド化されてシリサイド部分25が形成されているので、シート抵抗値が大幅に低減することが可能になる。
また、固定電極10のシリサイド部分25は、配線積層部に覆われた部分に形成されている。換言すると、固定電極10のシリサイド部分25は、可動電極60をリリースする工程においてリリースエッチング液に曝されない領域に形成されている。これにより、シリサイド用金属の選定にあたって、リリースエッチング液に対する耐蝕性等を考慮する必要がなく、例えば安価な金属をシリサイド用金属として用いれば低コスト化も可能になる。
【0060】
配線積層部の略中央に形成された開口部C3の凹底部分に設けられた可動電極60は、多結晶シリコン膜に不純物イオン打ち込みが施されてから、パターニングすることにより形成されている。さらに、可動電極60の表面には、タングステンまたはモリブデンなどの高融点金属からなるシリサイド用金属によりシリサイド化されてシリサイド部分65が形成されている。
このように、不純物イオン打ち込みが施されたうえに、高融点金属としてのタングステンまたはモリブデンによりシリサイド化されてシリサイド部分65を有しているので、シート抵抗が大幅に低減される。
また、シリサイド用金属として用いるタングステンまたはモリブデンは、可動電極60をリリースする工程において用いられるフッ化水素系のリリースエッチング液に特に難溶であるため、リリースエッチング液に溶解して可動電極60のシート抵抗が逆に上昇してしまうなどの不具合を回避することができる。
【0061】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態およびその変形例について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0062】
例えば、上記実施形態では、多結晶シリコンをパターニングすることによりMEMSデバイスのMEMS構造体である可動電極および固定電極の原型を形成したが、これに限らない。MEMS構造体の原型を非晶質(アモルファス)シリコンにより形成する構成としてもよい。
【0063】
非晶質シリコンにより形成されたMEMS構造体は、結晶質シリコンのように規則正しい結晶配列を有さないので、特に可動電極の連続動作において結晶粒界に沿った金属疲労が抑えられる。また、非晶質シリコンは、例えばトランジスタのゲート電極の材料として併用でき、また、被膜形成温度が比較的低いことから、既存の半導体製造プロセスによりCMOSと融合された高機能なMEMSデバイスを製造することが可能である。
【0064】
また、上記実施形態では、固定電極および可動電極のそれぞれを形成する工程で、固定電極または可動電極の原型となる多結晶シリコンを積層させてから不純物イオンのイオン打ち込みを施した。これに限らず、固定電極を形成する工程、または可動電極を形成する工程のいずれかの工程で、固定電極または可動電極のいずれか一方に不純物イオンをイオン打ち込みして低抵抗化を図る構成によってもMEMSデバイスの回路全体の低抵抗化に効果を奏する。
【符号の説明】
【0065】
1…半導体基板としてのシリコン基板、3…エッチングストップ層としての窒化膜、10,50…固定電極、13…配線積層部の一つとしての第1層間絶縁層、14…配線積層部の一つとしての第2層間絶縁層、23…配線が形成される第1配線層、24…配線が形成される第2配線層、19…配線積層部の一つとしての保護膜、20,60…可動電極、25,55,65…シリサイド部分、25a,55a,65a…シリサイド用金属層、30,70,90…MEMSデバイス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に形成されたシリコンからなる固定電極と、
前記半導体基板と隙間を設けて機械的に可動な状態で配置されたシリコンからなる可動電極と、
前記可動電極の周囲に形成されて、且つ、前記固定電極の一部を覆うように形成された配線積層部であって、配線を含む前記配線積層部と、
を有し、
前記固定電極または前記可動電極に不純物イオンが打ち込まれて、且つ、
前記固定電極の前記配線積層部に覆われた部分の少なくとも一部がシリサイド化されていることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のMEMSデバイスにおいて、
前記固定電極の前記配線積層部の外部に配置される部分と前記可動電極との一方または両方は、シリサイド化されていることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のMEMSデバイスにおいて、
前記シリサイド化に用いるシリサイド用金属が、タングステン(W)、またはモリブデン(Mo)であることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項4】
半導体基板上に形成されたシリコンからなる固定電極と、
前記半導体基板と隙間を設けて機械的に可動な状態で配置されたシリコンからなる可動電極と、
前記可動電極の周囲に形成され、且つ、前記固定電極の一部を覆うように形成された配線積層部であって、配線を含む前記配線積層部と、
を有するMEMSデバイスの製造方法であって、
前記半導体基板上に前記固定電極を形成する工程と、
一部が犠牲層上に形成された態様で前記可動電極を形成する工程と、
前記固定電極および前記可動電極の上に前記配線積層部を形成する工程と、
前記配線積層部および前記犠牲層の一部をエッチングにより除去して前記可動電極をリリースする工程と、を有し、
前記固定電極を形成する工程と前記可動電極を形成する工程との一方または両方の工程において、前記固定電極または前記可動電極に不純物イオンをイオン打ち込みする工程を含み、且つ、
前記固定電極を形成する工程において、前記固定電極の前記配線積層部に覆われた部分の少なくとも一部をシリサイド化する工程を含むことを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のMEMSデバイスの製造方法において、
前記固定電極を形成する工程と前記可動電極を形成する工程との一方または両方の工程において、前記固定電極の前記配線積層部の外部に配置される部分と前記可動電極との一方または両方をシリサイド化する工程を含むことを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項6】
請求項4または5に記載のMEMSデバイスの製造方法において、
前記シリサイド化に用いるシリサイド用金属に、タングステン(W)、またはモリブデン(Mo)を用いることを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−280055(P2010−280055A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171709(P2010−171709)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2007−131316(P2007−131316)の分割
【原出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】