説明

NbSi2系ナノ複合被覆層及びその製造方法

【課題】 ニオビウムまたはその合金の表面に被覆して、高温における等温耐酸化性及び反復耐酸化性を向上させ、被覆層の高温機械的性質を改善し得る新しいナノ複合被覆層及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 高温で母材表面に炭素または窒素を気相蒸着してニオビウム炭化物またはニオビウム窒化物拡散層を形成した後、シリコンを気相蒸着して固相置換反応によってナノ複合被覆層を製造する。前記ナノ複合被覆層は、等軸晶のNbSi2結晶粒界にSiCまたはSi34粒子が分布された微細組織を有し、ナノ複合被覆層内に存在するSiCまたはSi34粒子の体積分率の調整によって、母材の熱膨張係数と類似した熱膨張係数を有するNbSi2系ナノ複合被覆層が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温構造材として使用されるニオビウム(Nb)またはその合金の表面に形成される耐酸化性及び耐食性に優れたNbSi2系ナノ複合被覆層及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニオビウムまたはその合金は、密度(8.55g/cm3)が低くて、且つ、他の金属に比べて高温機械的、熱的特性に優れているため、航空宇宙、原子力などの分野に活用される核心素材である。しかしながら、高温で酸素と反応してNb25を形成しやすく、この酸化物は酸素の拡散が非常に速いため、Nb25酸化物は、ニオビウムを保護するための酸化被膜として使用されることができず、よって、使用条件が真空、還元性、または不活性雰囲気に制限されるという大きな短所がある。
【0003】
ニオビウムまたはその合金の高温耐酸化性を改善するために合金元素を添加すると、高温機械的特性が低下するため、高温耐酸化性及び高温機械的特性に優れたニオビウム合金は、まだ開発されていない。従って、高温耐酸化性に優れた材料をニオビウム母材表面に被覆処理する方法が広く使用されている。
【0004】
1965年プライスマン(Priceman)とサマ(Sama)などによってCrとFeが添加されたNbSi2被覆層(R 512E coating)が開発されて以後(非特許文献1参照)、多くの研究者は、高温耐酸化性に優れた新しい被覆層の開発のために研究している。
【0005】
一般的に、ニオビウム合金に高温耐酸化性を付与するためには、この合金が高温の酸化性雰囲気の下に露出されたとき、酸素と反応して緻密な酸化物被膜を形成し得る能力によって被覆層の性能は決定されるが、1000℃以上の高温で安定な酸化物被膜は、Al23及びSiO2などがある。従って、ニオビウム合金の表面保護被膜としてニオビウムアルミナイドまたはニオビウムシリサイド組成の被覆層が開発されているが、ニオビウム合金の使用温度が徐々に高まるにつれて、主にニオビウムシリサイド被覆層の耐酸化性向上に関する多くの研究が進行中であり、主に次の2つの問題点を解決するための研究に集中されている。
【0006】
第1に、NbSi2の場合、高温で酸素と反応してそれぞれNb25及びSiO2からなる複合酸化物層を形成するようになるが、Nb25酸化物層を通した酸素の拡散が非常に速いため、前記複合酸化物層が急速に成長して被覆層から剥離されやすいので、高温で長時間維持できる等温耐酸化性が悪い。
【0007】
第2に、NbSi2被覆層を高温で製造した後、または、被覆されたNbSi2を高温で使用した後、常温に冷却するとき、母材及び被覆層の熱膨張係数差によって被覆層内に導入されたクラックのため、高温反復耐酸化性が悪い。
【0008】
従って、これらの問題点を解決し得る新しい被覆層の開発が望まれている。
【非特許文献1】S.Priceman and L.Sama, Electrochemical Technology vol.6, 1968, p.315
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述したような問題点を解決するために提案されたもので、本発明の目的は、ニオビウムまたはその合金の表面に被覆して、高温における等温耐酸化性及び反復耐酸化性を向上させ、被覆層の高温機械的性質を改善し得る新しいナノ複合被覆層及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、請求項1の発明のNbSi2系ナノ複合被覆層は、母材としてのニオビウムまたはその合金表面上に形成された等軸晶のNbSi2結晶粒界にSiC粒子が分布した微細組織を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明のNbSi2系ナノ複合被覆層は、母材としてのニオビウムまたはその合金表面上に形成された等軸晶のNbSi2結晶粒界にSi34粒子が分布した微細組織を有することを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明のNbSi2系ナノ複合被覆層製造方法は、母材としてのニオビウムまたはその合金表面に炭素を蒸着してニオビウム炭化物拡散層を形成する段階と、該ニオビウム炭化物拡散層の表面にシリコンを蒸着してNbSi2−SiCナノ複合被覆層を形成する段階と、を含むことを特徴とする。
【0013】
この場合、請求項4のように、前記炭素源として、一酸化炭素、メタン、エタン及びヨウ化メチレンの何れか1つを使用するとよい。また、請求項5のように、前記シリコン源として、SiCl4、SiH2Cl2、SiH3Cl及びSiH4の何れか1つを使用するとよい。また、請求項6のように、前記前記シリコン源として、(1-70)wt%Si/(1-10)wt%NaF/(20-98)wt%Al2O3の組成を有するパックシリコナイジング処理用粉末を使用するようにしてもよい。
【0014】
請求項7の発明のNbSi2系ナノ複合被覆層の製造方法は、母材としてのニオビウムまたはその合金表面に窒素を蒸着してニオビウム窒化物拡散層を形成する段階と、該ニオビウム窒化物拡散層の表面にシリコンを蒸着してNbSi2−Si34ナノ複合被覆層を形成する段階と、を含むことを特徴とする。
【0015】
この場合、請求項8のように、前記窒素源として、アンモニアまたは窒素を使用するとよい。また、請求項9のように、前記のシリコン源として、SiCl4、SiH2Cl2、SiH3Cl及びSiH4の何れか1つを使用するとよい。また、請求項10のように、前記シリコン源として、(1-70)wt%Si/(1-10)wt%NaF/(20-98)wt%Al2O3の組成を有するパックシリコナイジング処理用粉末を使用するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、NbSi2-SiCまたはNbSi2−Si34ナノ複合被覆層内にそれぞれ形成されているSiCとSi34粒子の体積分率を調節することによって、ナノ複合被覆層と母材との熱膨張係数差を減少させることで、ナノ複合被覆層内に微細クラックが形成されるのを抑制し、または、完全に除去して高温耐酸化性を向上させることができる。また、高温で酸素と反応して形成された酸化物層内のSiO2相の分率を増加させることによって高温耐酸化性を向上でき、結晶粒微細化によって熱応力による微細クラックの伝播を抑制して被覆層の機械的性質を向上させることができる。
【0017】
また、本発明の製造方法によれば、被覆層の製造工程が単純で、且つ、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明によるNbSi2系ナノ複合被覆層及びその製造方法に関して詳細に説明する。
【0019】
本発明によるNbSi2系ナノ複合被覆層は、母材としてのニオビウムまたはその合金表面上に被覆され、等軸晶のNbSi2結晶粒界にそれぞれSiCまたはSi34粒子が分布され、NbSi2結晶粒の平均粒度が44〜135nm範囲で、SiCまたはSi34粒子の平均サイズが約33〜60nm範囲である微細組織の特徴を有することを特徴とする。尚、母材として使用されるニオビウム合金の具体的な例としては、Nb-19Ti-4Hf-13Cr-2Al-4B-16Si、Nb-10Si-9Al-10Ti、Nb-5Mo-1Zr、Nb-5Mo-2W-18Siなどがあるが、これに限定されず、その他の多様なニオビウム合金を使用することができる。
【0020】
前記ナノ複合被覆層において、NbSi2の微細組織は、等軸晶の結晶構造を有し、ナノ複合被覆層内にそれぞれ形成されたSiCまたはSi34粒子の体積分率を調節することで、NbSi2系ナノ複合被覆層の熱膨張係数をそれぞれの母材とほぼ一致させることにより、高温で被覆層を製造した後に常温に冷却する時、または、被覆処理された母材を高温及び常温で反復して使用する熱サイクル処理時、母材及び被覆層の熱膨張係数差による熱応力に起因する微細クラックの生成を抑制し、または、除去することができる。
【0021】
前記NbSi2系ナノ複合被覆層にそれぞれ形成されているSiCまたはSi34粒子は、NbSi2母材上で固溶度の限界によってNbSi2結晶粒界に優先的に形成される。
【0022】
前記SiC及びSi34粒子の熱膨張係数は、それぞれ4×10-6/℃及び2.9×10-6/℃程度で、8.5×10-6/℃程度の熱膨張係数を有する純粋なNbSi2に複合化することにより、被覆層が母材と類似した熱膨張係数を有するようして、微細クラックの生成を抑制し、コーティング層の反復高温耐酸化性を向上させる。また、前記SiC及びSi34粒子は、酸化性雰囲気下で酸素がNbSi2の結晶粒界を通して内部に拡散されると、容易にSiO2保護被膜を形成するために、それ以上酸素がNbSi2結晶粒界を通して内部に拡散され難くすることで、NbSi2系ナノ複合被覆層の低温耐酸化性を純粋なNbSi2被覆層より格段に向上する。
【0023】
NbSi2系ナノ複合被覆層のこのような組織上の特徴は、NbSi2−Si34またはNbSi2−SiC複合焼結体の場合より相対的に少ない量のSiC及びSi34粒子によってもNbSi2の結晶粒界を通した酸素拡散を効率的に抑制することができる。また、前記SiC及びSi34粒子は、NbSi2結晶粒成長を抑制する役割を遂行することで、結晶粒粗大化によって被覆層の機械的性質が悪くなることを防止する役割をする。
【0024】
<NbSi2−SiCナノ複合被覆層の製造>
まず、高温の高純度アルゴン雰囲気に維持された母材表面に炭素を化学蒸着法によって気相蒸着させる。化学蒸着法によって炭素を蒸着するとき、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)、エタン(C24)、またはヨウ化メチレン(CH22)などを使用することができる。この場合、前記母材の表面に蒸着された炭素は、母材と化学反応してニオビウム炭化物(NbC及びNb2C)拡散層を形成し、蒸着時間が経過するにつれて、これら母材表面に蒸着された炭素は、ニオビウム炭化物拡散層を通してニオビウム炭化物/ニオビウム界面まで移動した後、新しいニオビウムと反応してニオビウム炭化物拡散層を継続して生成する。
【0025】
ニオビウムまたはその合金表面に一定の厚さのニオビウム炭化物拡散層を製造した後、SiCl4、SiH2Cl2、SiH3Cl、またはSiH4を使用して化学蒸着法によってシリコンを一定時間の間に気相蒸着させる。この場合、シリコンを気相蒸着させる方法としては、(1-70)wt%Si/(1-10)wt%NaF/(20-98)wt%Al2O3の組成を有するパックシリコナイジング処理用粉末を使用するパックシリコナイジング法を使用することもできる。
【0026】
蒸着されたシリコンをニオビウム炭化物拡散層の内部に反応拡散させると、次のような反応式(1)、(2)のように固相置換反応によってNbSi2相及びSiC相が形成される。
【0027】
Nb2C+5Si → 2NbSi2+SiC (1)
NbC+3Si → NbSi2+SiC (2)
NbSi2相内で、炭素固溶度が非常に低いため、反応式(1)、(2)によって形成されたSiC粒子は、NbSi2結晶粒界で主に形成される。
【0028】
母材表面に蒸着されたシリコンは、NbSi2−SiCナノ複合被覆層を通して継続して内部に移動してニオビウム炭化物拡散層と反応して新しいNbSi2及びSiC粒子を形成することによって、数十〜数百μmの厚さのNbSi2−SiCナノ複合被覆層の製造が可能になる。
【0029】
前記反応式(1)によってNbSi2−SiCナノ複合被覆層を製造する場合、理論的に形成可能なSiC粒子の体積分率をNbSi2(26.61cm3/mol)及びSiC(12.61cm3/mol)のモール当たり体積を利用して計算すると、
SiC vol%=[12.61/(12.61+2×26.61)]×100=19.2%
程度であり、実験的に形成されたSiC粒子の体積分率は約17.3%程度であった。
【0030】
しかしながら、反応式(2)によってNbSi2−SiCナノ複合被覆層を製造する場合、理論的に形成可能なSiC粒子の体積分率を計算すると、
SiC vol%=[12.61/(12.61+26.61)]×100=32.2%
程度であり、実験的に形成されたSiC粒子の体積分率は約31.1%程度である。
【0031】
従って、ニオビウム炭化物拡散層を利用してNbSi2−SiCナノ複合被覆層を製造する場合、ニオビウム炭化物内に存在する炭素の含有量に応じてナノ被覆層内に存在するSiC相の体積分率の調節が可能である。これにより、それぞれの母材及びナノ複合被覆層の熱膨張係数を相互に一致させることが可能であるため、それぞれの母材及びナノ複合被覆層の熱膨張係数差によって生成された熱応力によって高温から低温に冷却するとき、ナノ複合被覆層内に形成されるクラックの量を減少することが可能になり、場合によっては、全くクラックのないNbSi2−SiCナノ複合被覆層の製造が可能になる。
【0032】
<NbSi2−Si34ナノ複合被覆層の製造>
まず、高温の高純度アルゴン雰囲気に維持された上記の母材表面に窒素を化学蒸着法によって気相蒸着させる。また、化学蒸着法によって窒素を蒸着させるとき、窒素またはアンモニアガスなどを使用することができる。この場合、前記母材の表面に蒸着された窒素は、母材と化学反応してニオビウム窒化物(NbN、Nb43及びNb2N)拡散層を形成し、蒸着時間が経過するにつれてこれら母材表面に蒸着された窒素は、ニオビウム窒化物拡散層を通してニオビウム窒化物/ニオビウム界面まで移動した後、新しいニオビウムと反応してニオビウム窒化物拡散層を継続して生成する。
【0033】
ニオビウムとその合金母材表面に一定の厚さのニオビウム窒化物拡散層を製造した後、SiCl4、SiH2Cl2、SiH3Cl、またはSiH4を使用して化学蒸着法によってシリコンを一定時間の間に気相蒸着させる。この場合、シリコンを気相蒸着させる方法としては、(1-70)wt%Si/(1-10)wt%NaF/(20-98)wt%Al2O3の組成を有するパックシリコナイジング処理用粉末を使用するパックシリコナイジング法を使用することもできる。
【0034】
蒸着されたシリコンをニオビウム窒化物拡散層内部に反応拡散させると、次のような反応式(3)、(4)のように固相置換反応によってNbSi2相及びSi34相が形成される。
【0035】
4Nb2N+19Si → 8NbSi2+Si34 (3)
4NbN+11Si → 4NbSi2+Si34 (4)
NbSi2相内で窒素固溶度が非常に低いため、反応式(3)、(4)によって形成されたSi34粒子は、NbSi2結晶粒界で主に形成される。
【0036】
母材表面に蒸着されたシリコンは、NbSi2−Si34ナノ複合被覆層を通して継続して内部に移動し、ニオビウム窒化物拡散層と反応して新しいNbSi2及びSi34粒子を形成することによって、数十〜数百μmの厚さのNbSi2−Si34ナノ複合被覆層の製造が可能になる。
【0037】
前記反応式(3)によってNbSi2−Si34ナノ複合被覆層を製造する場合、理論的に形成可能なSi34粒子の体積分率をNbSi2(26.61cm3/mol)及びSi34(44.3cm3/mol)のモール当たり体積を利用して計算すると、
Si34 vol%=[44.3/(8×26.61+44.3)]×100=17.2%
程度であり、実験的に形成されたSi34粒子の体積分率は約16.8%程度であった。
【0038】
しかしながら、反応式(4)によってNbSi2−Si34ナノ複合被覆層を製造する場合、理論的に形成可能なSi34粒子の体積分率を計算すると、
Si34 vol%=[44.3/(4×26.61+44.3)]×100=29.4%
程度であり、実験的に形成されたSi34粒子の体積分率は約24.4%程度である。
【0039】
従って、ニオビウム窒化物拡散層を利用してNbSi2−Si34ナノ複合被覆層を製造する場合、ニオビウム窒化物内に存在する窒素の含有量に応じてナノ被覆層内に存在するSi34相の体積分率の調節が可能である。これにより、それぞれの母材とナノ複合被覆層の熱膨張係数を相互一致させることができ、それぞれの母材とナノ複合被覆層の熱膨張係数差によって生成された熱応力によって高温から低温に冷却する時、ナノ複合被覆層内に形成されるクラックの量を減少することが可能になり、場合によっては、全くクラックのないNbSi2−Si34ナノ複合コーティング層の製造が可能になる。
<実施例1>
母材として使用するニオビウム試片の純度は、99.95%で、10mm×10mm×1mmサイズの板型として準備した。ニオビウム試片をシリコンカーバイド(SiC)研磨紙#1200で研磨した後、アセトン、アルコール及び蒸溜水などの順に超音波洗浄器でそれぞれ30分間洗浄して表面に存在する有機物ジルを除去して乾燥させる前処理過程を遂行した。前処理されたニオビウムを、炭素を気相化学蒸着させる高純度アルミナ反応管に装入し、高純度アルゴンガス(99.9999%)を吹入して反応管内の酸素を除去し、高純度アルゴンガスを100〜2000cm/minの流速で流しながら5〜20℃/minの加熱速度で800〜1500℃まで加熱した後、蒸着温度を安定化させるために約10〜20分間維持した後、メタンガス及び水素ガスをそれぞれ3〜2000及び3〜2000cm/minの流速で供給しながら、ニオビウム表面に10分〜200時間程度炭素を蒸着させた。
【0040】
母材の表面に蒸着された炭素は、ニオビウムと化学反応してNbCとNb2C組成からなる2つの拡散層を形成する。蒸着時間が経過するにつれてニオビウム金属表面に蒸着された炭素は、ニオビウム炭化物拡散層を通してニオビウム炭化物/ニオビウム界面まで移動し、新しいニオビウムと反応してニオビウム炭化物拡散層が蒸着時間の自乗根に比例して成長する。従って、特定厚さのニオビウム炭化物拡散層を製造するための蒸着温度及び時間は、速度論的に計算することができる。その一例として、1400℃の蒸着温度で約10時間の間に炭素を気相化学蒸着させると、ニオビウム金属表面に約4μm厚さのNb2C拡散層と約14μm厚さのNbC拡散層が成長するようになる。
【0041】
所定厚さのニオビウム炭化物拡散層を製造した後、メタンガスの供給を中断し、30〜3000cm/minの流速で高純度アルゴンを反応管に供給しながら5℃/minの冷却速度で1100℃まで冷却した後、四塩化シリコンガスと水素の流速比が約0.005〜0.5で、且つ、2つのガスの総流速が約30〜4000cm/minになるように固定した状態で反応管内に供給しながら、30分〜30時間程度、ニオビウム炭化物拡散層の表面にシリコンを気相化学蒸着させる。蒸着されたシリコンは、ニオビウム炭化物相との固相置換反応によってNbSi2相及びSiC相を形成する。蒸着時間が経過するにつれて、蒸着されたシリコンは、NbSi2−SiCナノ複合被覆層を通して継続して内部に移動し、ニオビウム炭化物拡散層と反応して新しいNbSi2とSiC粒子を形成することでNbSi2−SiCナノ複合被覆層が製造された。
【0042】
NbSi2−SiCナノ複合被覆層の厚さは、シリコンの気相蒸着時間の自乗根に比例して成長するので、特定厚さの複合被覆層を製造するための蒸着温度及び時間は、速度論的に計算することが可能である。その一例として、1100℃の蒸着温度でシリコンをニオビウム炭化物拡散層の表面に1.5時間気相化学蒸着させてニオビウム炭化物拡散層の内部に反応拡散させることにより、ニオビウムの表面に耐酸化性及び耐食性に優れた50μm厚さのNbSi2−SiCナノ複合被覆層を製造することができる。
【0043】
ナノ複合被覆層の製造後、高純度アルゴンガスを100〜2000cm/minの流速で流しながら、常温まで炉冷させる。
【0044】
本発明の実施例1で使用された水素と四塩化シリコンガスは、半導体分野で使用される高純度ガスを使用した。特に、四塩化シリコンガスは、気化温度が約54℃であるため、本実施形態では、バブルリング(bubbling)装置を利用して0〜30℃の温度に恒温維持されたバブラー(bubbler)中に四塩化シリコン溶液を注入した後、水素ガスを使用してバブルリングさせて反応管内に供給した。本発明において、気相化学蒸着は、内径が約20mmである高純度石英管で製作した反応管が装着された管状炉で実施した。
<実施例2>
一定の厚さのニオビウム炭化物拡散層が被覆されたニオビウム母材を(1〜70)wt%Si/(1〜10)wt%NaF/(20〜98)wt%Al2O3組成の混合された粉末中に埋めた後、パックシリコナイジング用反応管に装入する。高純度アルゴンガスを吹入して反応管内の酸素を除去し、高純度アルゴンガスを100〜2000cm/minの流速で流しながら、5〜20℃/minの加熱速度で800〜1500℃までそれぞれ加熱した後、30分〜30時間維持させて、前記金属表面にシリコンを気相化学蒸着させてニオビウム炭化物拡散層の内部に反応拡散させる。
【0045】
前記金属表面にNbSi2−SiCナノ複合被覆層を製造した後、高純度アルゴンガスを100〜2000cm/minの流速で流しながら常温まで炉冷させる。パックシリコナイジングによって製造されたNbSi2−SiCナノ複合被覆層の厚さも化学蒸着の場合と同様に、シリコン蒸着時間の自乗根に比例して増加するため、特定厚さの複合被覆層を製造するための蒸着温度及び時間は、速度論的に予測が可能である。
【0046】
パックシリコナイジング処理用粉末は、(1〜70)wt%Si/(1〜10)wt%NaF/(20〜98)wt%Al2O3組成に該当する粉末を50gになるように計量した後、回転及び上下運動を同時に遂行する混合器を使用して24時間混合した粉末を使用した。使用されたシリコン粉末は、純度99.5%、平均粒度44mmであり、活性剤は試薬級のNaFを、充填制は平均44mm大きさの高純度アルミナを使用した。
【0047】
1100℃以下の温度で行なわれたパックシリコナイジングは、内径が60mmであるインコネル600で製作された反応管が装着された管状炉で実施し、1200℃以上の場合には、高純度アルミナ管を使用した。混合されたパックシリコナイジング処理用粉末を40ccのアルミナるつぼに充填し、その中にニオビウム炭化物拡散層が被覆されたニオビウム金属を埋めた後、アルミナ蓋で閉じた。
【0048】
図4は、従来の表面処理方法である化学蒸着法、パックシリコナイジング法、溶融浸漬法などによって製造された柱状晶(columnar)組織を有するNbSi2被覆層の断面組織を光学顕微鏡で観察したものであり、図1は、本発明の実施例1によって製造されたNbSi2−SiCナノ複合被覆層の断面組織を透過電子顕微鏡で観察したものである。
【0049】
ニオビウム母材に従来の表面処理方法である化学蒸着法によってシリコンを蒸着して製造したNbSi2被覆層と、本発明の実施例1によって製造したNbSi2−SiCナノ複合被覆層を比較すると、以下のようである。
【0050】
本発明の実施例1によって製造されたNbSi2−SiCナノ複合被覆層は、図1に示すように、等軸晶NbSi2結晶粒界に超微細のSiC粒子が析出されており、像分析器(Image analyzer)を利用して測定した結果、等軸晶NbSi2の平均結晶粒サイズは、約67〜134nmであり、SiC析出物粒子の平均サイズ及び体積比は、約45〜60nm及び17.3〜31.1%程度であった。
【0051】
また、SiC粒子が主にNbSi2結晶粒界で形成されることによって、NbSi2結晶の成長が抑制されて約67〜134nm程度の平均結晶粒サイズを有する等軸晶NbSi2被覆層の製造が可能になる。
【0052】
一方、従来の表面処理方法の化学蒸着法によってシリコンを蒸着して製造されたNbSi2被覆層は、図4に示すように柱状晶(columnar)組織を有する。
【0053】
特に、本発明による実施例1によって製造されたNbSi2−SiCナノ複合被覆層の表面を光学顕微鏡で観察したクラックの発生密度(単位長さ当たりクラックの個数)を計算した結果、従来のNbSi2被覆層が約41個/cmであるのに対して、全くクラックが形成されないことが分かる。従って、実施例1によって製造されたNbSi2−SiCナノ複合被覆層の熱膨張係数は母材と非常に近いことが分かる。
<実施例3>
実施例1と同一の方法によって前処理されたニオビウムを、窒素を気相化学蒸着させることのできる高純度アルミナ反応管に装入し、高純度アルゴンガス(99.9999%)を吹入して反応管内の酸素を除去し、高純度アルゴンガスを100〜2000cm/minの流速で流しながら5〜20℃/minの加熱速度で800〜1500℃まで加熱した後、蒸着温度を安定化させるために約10〜20分間維持した後、窒素ガスを3〜2000cm/minの流速で供給しながら10分〜200時間程度ニオビウム金属表面に窒素を蒸着させる。
【0054】
母材の表面に蒸着された窒素は、ニオビウムと化学反応してNbN、Nb4N3及びNb2N組成からなる3つの拡散層を形成する。蒸着時間が経過するにつれてニオビウム金属表面に蒸着された窒素は、ニオビウム窒化物拡散層を通してニオビウム窒化物/ニオビウム界面まで移動して新しいニオビウムと反応し、ニオビウム窒化物拡散層が蒸着時間の自乗根に比例して成長するようになる。
【0055】
従って、特定厚さのニオビウム窒化物拡散層を製造するための蒸着温度及び時間は、速度論的に計算することができる。その一例として、1300℃の蒸着温度で約8時間窒素を気相化学蒸着させると、ニオビウム金属表面に約8μmの厚さのNb2N拡散層及び約10μmの厚さのNbNとNb43相の混合された拡散層が成長するようになる。
【0056】
所定厚さのニオビウム窒化物拡散層を製造した後、窒素ガスの供給を中断し、30〜3000cm/minの流速で高純度アルゴンを反応管に供給しながら5℃/minの冷却速度で1100℃まで冷却した後、四塩化シリコンガスと水素の流速比が約0.005〜0.5で、且つ、2ガスの総流速が約30〜4000cm/minになるように固定した状態で反応管内に供給しながら30分〜30時間程度ニオビウム窒化物拡散層の表面にシリコンを気相化学蒸着させる。
【0057】
蒸着されたシリコンは、ニオビウム窒化物相との固相置換反応によってNbSi2相及びSi34相を形成する。蒸着時間が経過するにつれて蒸着されたシリコンは、NbSi2−Si34ナノ複合被覆層を通して継続して内部に移動してニオビウム窒化物拡散層と反応し、新しいNbSi2及びSi34粒子を形成させることにより、NbSi2−Si34ナノ複合被覆層の製造が可能になる。
【0058】
NbSi2−Si34ナノ複合被覆層の厚さは、シリコンの気相蒸着時間の自乗根に比例して成長するので、特定厚さの複合被覆層を製造するための蒸着温度及び時間は、速度論的に計算することができる。その一例として、1100℃の蒸着温度でシリコンをニオビウム窒化物拡散層の表面に3時間気相化学蒸着させてニオビウム窒化物拡散層の内部に反応拡散させることにより、ニオビウムの表面に耐酸化性及び耐食性に優れた54μmの厚さのNbSi2−Si34ナノ複合被覆層を製造することができる。
【0059】
ナノ複合被覆層の製造後、高純度アルゴンガスを100〜2,000cm/minの流速で流しながら常温まで炉冷させる。
【0060】
一方、実施例3による、気相化学蒸着によるSiの蒸着と違って、一定の厚さのニオビウム窒化物拡散層が被覆されたニオビウム母材を(1〜70)wt%Si/(1〜10)wt%NaF/(20〜98)wt%Al2O3組成の混合された粉末中に埋めた後、実施例2の方法と同様にパックシリコナイジング処理することでNbSi2−Si34ナノ複合被覆層を製造することができる。
【0061】
図2は、本発明の実施例3によって製造されたNbSi2−Si34ナノ複合被覆層の断面組織を透過電子顕微鏡で観察したものである。
【0062】
一方、ニオビウム母材に従来の表面処理方法の化学蒸着法によってシリコンを蒸着することで製造されたNbSi2被覆層と、本発明の実施例3によって製造されたNbSi2−Si34ナノ複合被覆層を比較すると、次のようである。
【0063】
本発明の実施例3によって製造されたNbSi2−Si34ナノ複合被覆層は、図2に示すように、等軸晶NbSi2の結晶粒界に超微細のSi34粒子が析出されており、像分析器(Image analyzer)を利用して測定した結果、等軸晶NbSi2の平均結晶粒サイズは約44〜125nmであり、Si34析出物粒子の平均サイズ及び体積比は、約33〜45nm及び16.8〜24.4%程度であった。
【0064】
また、Si34粒子が主にNbSi2結晶粒界で形成されることによって、NbSi2結晶の成長が抑制されて約44〜125nm程度の平均結晶粒サイズを有する等軸晶NbSi2被覆層の製造が可能になる。
【0065】
特に、図2に示すように、本発明の実施例3によって製造されたNbSi2−Si34ナノ複合被覆層表面のクラックの発生密度(単位長さ当たりクラックの個数)を計算した結果、従来のNbSi2被覆層が約41個/cmであるのに対して、全くクラックが形成されないことが分かる。従って、実施例3によって製造されたNbSi2−Si34ナノ複合被覆層の熱膨張係数は、母材と非常に近いことが分かる。
【0066】
実施例1〜実施例3の方法を使用してニオビウム母材表面上に製造されたNbSi2-SiC及びNbSi2−Si34ナノ複合被覆層と既存の反応拡散法によって製造された単純なNbSi2被覆層の高温等温耐酸化性を1100℃で比較評価すると、次のようである。
<比較例>
約60μmの厚さのNbSi2層で被覆されたニオビウム試片と実施例1によって製造された50μmの厚さのNbSi2−SiCナノ複合被覆層が形成されたニオビウム試片及び実施例3によって製造された54μmの厚さのNbSi2−Si34ナノ複合被覆層が形成されたニオビウム試片を使用して1100℃、80%Ar−20%O2雰囲気で次のような耐酸化試験を実施した。
【0067】
高温等温耐酸化試験は、熱重量分析器(Thermogravimetric analyzer)(Thermo Cahn 700)を使用して次のように実施した。石英管ボート上に試片を装入した後、高純度アルゴン雰囲気下で分当り15℃の加熱速度で1100℃まで加熱した後、80%Ar−20%O2の雰囲気下で、酸化時間による試片の単位面積当たりの重量変化を観察し、その結果を図3に示す。図3に示すように、NbSi2−Si34ナノ複合被覆層の等温耐酸化性が最も優れており、NbSi2−SiCナノ複合被覆層と単純なNbSi2被覆層の順序で等温耐酸化性が優れている。従って、本発明のNbSi2系ナノ複合被覆層は、単純なNbSi2被覆層と比較して高温耐酸化性が顕著に向上することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施例1によるニオビウム表面に形成されたNbSi2−SiCナノ複合被覆層断面の透過電子顕微鏡組織写真である。
【図2】本発明の実施例2によるニオビウム表面に形成されたNbSi2−Si34ナノ複合被覆層断面の透過電子顕微鏡組織写真である。
【図3】本発明の実施例1及び実施例2によるナノ複合被覆層と従来の反応拡散法によるNbSi2被覆層の等温耐酸化特性を比較した図である。
【図4】従来の反応拡散法によってニオビウム表面に製造された柱状晶組織を有するNbSi2被覆層断面の光学顕微鏡組織写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材としてのニオビウムまたはその合金表面上に形成された等軸晶のNbSi2結晶粒界にSiC粒子が分布した微細組織を有するNbSi2系ナノ複合被覆層。
【請求項2】
母材としてのニオビウムまたはその合金表面上に形成された等軸晶のNbSi2結晶粒界にSi34粒子が分布した微細組織を有するNbSi2系ナノ複合被覆層。
【請求項3】
母材としてのニオビウムまたはその合金表面に炭素を蒸着してニオビウム炭化物拡散層を形成する段階と、
該ニオビウム炭化物拡散層の表面にシリコンを蒸着してNbSi2−SiCナノ複合被覆層を形成する段階と、
を含むことを特徴とするNbSi2系ナノ複合被覆層の製造方法。
【請求項4】
前記炭素源として、一酸化炭素、メタン、エタン及びヨウ化メチレンの何れか1つを使用することを特徴とする請求項3に記載のNbSi2系ナノ複合被覆層の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン源として、SiCl4、SiH2Cl2、SiH3Cl及びSiH4の何れか1つを使用することを特徴とする請求項3に記載のNbSi2系ナノ複合被覆層の製造方法。
【請求項6】
前記前記シリコン源として、(1-70)wt%Si/(1-10)wt%NaF/(20-98)wt%Al2O3の組成を有するパックシリコナイジング処理用粉末を使用することを特徴とする請求項3に記載のNbSi2系ナノ複合被覆層の製造方法。
【請求項7】
母材としてのニオビウムまたはその合金表面に窒素を蒸着してニオビウム窒化物拡散層を形成する段階と、
該ニオビウム窒化物拡散層の表面にシリコンを蒸着してNbSi2−Si34ナノ複合被覆層を形成する段階と、
を含むことを特徴とするNbSi2系ナノ複合被覆層の製造方法。
【請求項8】
前記窒素源として、アンモニアまたは窒素を使用することを特徴とする請求項7に記載のNbSi2系ナノ複合被覆層の製造方法。
【請求項9】
前記のシリコン源として、SiCl4、SiH2Cl2、SiH3Cl及びSiH4の何れか1つを使用することを特徴とする請求項7に記載のNbSi2系ナノ複合被覆層の製造方法。
【請求項10】
前記シリコン源として、(1-70)wt%Si/(1-10)wt%NaF/(20-98)wt%Al2O3の組成を有するパックシリコナイジング処理用粉末を使用することを特徴とする請求項7に記載のNbSi2系ナノ複合被覆層の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−45661(P2006−45661A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381809(P2004−381809)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(399101854)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (68)
【Fターム(参考)】