説明

PWM電力変換装置のデッドタイム補償装置

【課題】デッドタイム補償前のPWMゲート指令とデッドタイム補償後の相電圧出力との誤差(位相差)を低減することで遅延誤差TDLYを短縮する。
【解決手段】デッドタイム補償部30は、PWMゲート指令Gate_UとPWM出力Vce_Uとの位相差に応じて求めるデッドタイム補償分Vcmp_UでPWM電圧指令Vcmd_Uの電圧値を増減し、この補償後のPWM電圧指令Vcmd_U’をPWM波形発生部20でPWMゲート指令に変換することで、デッドタイム補償前のPWMゲート指令とデッドタイム補償後の相電圧出力との誤差(位相差)を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWM電力変換装置の主回路スイッチング素子のドライブ信号に挿入するデッドタイム(短絡防止期間)補償装置に係り、特にデッドタイムの挿入によるスイッチング遅れで発生する出力電圧誤差の補償に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタやIGBTなどの電力用スイッチング素子を用いたインバータ、コンバータ等の電力変換装置は、主回路は直流電源(主回路電源)に対して2つのスイッチング素子(直流リンク電圧のP側アームとN側アーム)を直列に接続し、これらの2つのスイッチング素子を交互にON(閉路)させる制御を行う。この際、スイッチング指令に対し実際のスイッチング動作には時間遅れがあり、P側アームがONしたときにN側アームが未だON状態にあると、両スイッチング素子を通して主回路直流リンク部の電源のP側とN側が短絡状態になってしまい、スイッチング素子の破損を起こすおそれがある。
【0003】
この短絡発生を回避するため、スイッチング素子のON/OFF制御信号(ドライブ信号)にデッドタイム(短絡防止期間)を挿入するデッドタイム生成回路が設けられる。このデッドタイム期間中は直列接続された2個のスイッチング素子を両方ともOFFさせる。これにより、2個のスイッチング素子のスイッチング動作に時間遅れが存在しても、電源短絡を防止できる。
【0004】
ここで、2個のスイッチング素子のドライブ信号に挿入するデッドタイムに起因してスイッチング遅れが発生し、このスイッチング遅れによる出力電圧指令と出力電圧との間に電圧誤差が発生するため、これを補償するデッドタイム補償回路も付加する。
【0005】
図6はデッドタイム補償回路を付加したPWMインバータの構成例を示す。直流電圧源PNを入力とするPWMインバータ10は、各相をIGBTなどの2つのスイッチング素子を直列に接続した3相ブリッジ回路に構成され、各スイッチング素子U〜Zはゲート信号GU、GX、GV、GY、GW、GZによりオンオフ制御され、電圧および周波数が制御された3相出力を得て、負荷に供給される。
【0006】
ここで、インバータ10はPWM方式によって制御されている。三相電圧指令Vcmd_U,Vcmd_V,Vcmd_WはPWM波形発生部20にて搬送波Carrierと比較し、PWM波形の三相ゲート指令Gate_U,Gate_V,Gate_Wに変換する。さらに、デッドタイム生成部40は、インバータの上下アーム(例えば、U、X相の場合)のオンオフ間に一定の短絡防止期間を介挿できるよう、デッドタイムを付加したゲート信号GU、GX、GV、GY、GW、GZを生成出力する。
【0007】
このようなデッドタイムを付加したインバータにおいて、図5(a)のようにデッドタイムの存在が出力電流波形を歪ませる原因になる。この影響を防止するために、デッドタイム補償部30を追加し、出力電流波形の改善を行う。デッドタイム補償部30はPWM出力指令とPWM出力電圧検出信号との間の電圧誤差を補償するデッドタイム補償出力信号を得る。
【0008】
特許文献1または特許文献2では、Vce(出力電圧)検出部50によってインバータの各相電圧Vce_U,Vce_V,Vce_Wの位相を検出し、三相ゲート指令Gate_U,Gate_V,Gate_Wとのオンタイムおよびオフタイムの誤差Vce_DLYをそれぞれ検出し、誤差がある区間だけカウンタ値を加算したゲート信号Gate_U’,Gate_V’,Gate_W’(デッドタイム補償後のゲート信号)を得る。
【0009】
これらのブロック図を図7に、タイムチャートを図8に示す。なお、図7、図8では例としてU相のみの場合を示している。他相もU相と同様の図なのでここでは省略する。
【0010】
図7において、オンタイムの誤差を測るカウンタをON_COUNTとし、オフタイムの誤差を測るカウンタをOFF_COUNTとする。ON_COUNTおよびOFF_COUNTは、図示では1ビットのカウンタ(1つのフルアダー回路FAと1つの一時記憶用のフリップフロップで構成)を示すが、実際には1ビットカウンタをN段従属接続したNビットカウンタ構成とする。このときの各カウンタの動作は下式で表される。
【0011】
【数1】

【0012】
ON_COUNTがある一定値を越えた時のフラグをMax_ON、OFF_COUNTがある一定値を超えたときのフラグをMax_OFFとする。デッドタイム補償後のゲート指令Gate_U’はそのセット、リセット信号をそれぞれMax_ON、Max_OFFと設定し、SRフリップフロップF/Fを用いて生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−95773号公報
【特許文献2】特開平8−140362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図8に示すように、特許文献1、2では、ゲート指令Gate_Uとオンタイムおよびオフタイムの位相遅れVce_DLYはデッドタイム補償回路によって小さくなっているが、デッドタイム補償後のゲート指令Gate_U’と相出力電圧Vce_Uとの間には遅延誤差TDLYが残る。これは、ゲート指令Gate_Uを基準に相出力電圧Vce_Uの誤差を測定しているため、原理的に必ず存在する。
【0015】
上記の遅延誤差TDLYの発生は、PWMパルスの最小オン時間の制限時間を長くする要因となり、細いPWMパルスが出力できなくなり、結果的に出力電圧の上限が低下する。
【0016】
また、遅延誤差TDLYは、インバータの電流制御において無駄時間となるため、インバータを高応答用途で使用する場合、この遅延誤差TDLYは無いことが望ましい。
【0017】
本発明の目的は、デッドタイム補償前のPWMゲート指令とデッドタイム補償後の相電圧出力との誤差(位相差)を低減することで遅延誤差TDLYを短縮する電力変換装置のデッドタイム補償装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前記の課題を解決するため、PWMゲート指令と各相PWM出力との位相差に応じて求めるデッドタイム補償分でPWM電圧指令の電圧値を増減し、この補償後のPWM電圧指令をPWMゲート指令に変換することで、デッドタイム補償前のPWMゲート指令とデッドタイム補償後の相電圧出力との誤差(位相差)を低減するようにしたもので、以下の構成を特徴とする。
【0019】
(1)PWM電力変換装置の主回路スイッチング素子の三相ドライブ信号に所定時間のデッドタイムを挿入し、このデッドタイム挿入による主回路スイッチング素子のスイッチング遅れで発生するPWMゲート指令に対するPWM出力電圧の誤差をデッドタイム補償回路によって補償するPWM電力変換装置のデッドタイム補償装置であって、
前記デッドタイム補償回路は、PWMゲート指令と各相PWM出力との位相差に応じて求めるデッドタイム補償分でPWM電圧指令の電圧値を増減し、この補償後のPWM電圧指令をPWMゲート指令に変換することで、デッドタイム補償前のPWMゲート指令とデッドタイム補償後の相電圧出力との誤差(位相差)を低減する手段を備えたことを特徴とする。
【0020】
(2)前記デッドタイム補償回路は、
PWM電圧指令を基に生成するPWMゲート指令とPWM相出力の位相差をオンタイム誤差時間およびオフタイム誤差時間としてそれぞれ計測する回路と、
前記オンタイム誤差時間およびオフタイム誤差時間の計測値をPWM電圧指令と同じ単位に変換する回路と、
PWM波形の次回のオン/オフの極性に応じて、前記変換したオンタイム誤差時間およびオフタイム誤差時間の計測値を前記PWM電圧指令に加減算する回路と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上のとおり、本発明によれば、PWMゲート指令と各相PWM出力との位相差に応じて求めるデッドタイム補償分でPWM電圧指令の電圧値を増減し、この補償後のPWM電圧指令をPWMゲート指令に変換することで、デッドタイム補償前のPWMゲート指令とデッドタイム補償後の相電圧出力との誤差(位相差)を低減するようにしたため、遅延誤差TDLYを短縮できる。この遅延誤差TDLYの短縮によって 細いPWMパルスが出力可能となるし、PWMインバータの制御無駄時間が小さくなるなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】デッドタイム補償回路を付加したPWMインバータの構成図(実施形態)。
【図2】デッドタイム補償部30の回路構成図(実施形態)。
【図3】デッドタイム補償による各部タイムチャート(実施形態)。
【図4】デッドタイム補償前と補償後の各部波形図(実施形態)。
【図5】デッドタイム補償前と補償後の電流波形図。
【図6】デッドタイム補償回路を付加したPWMインバータの構成図(従来)。
【図7】デッドタイム補償部30の回路構成図(従来)。
【図8】デッドタイム補償による各部タイムチャート(従来)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)構成
図1は、デッドタイム補償回路を付加したPWMインバータの構成図である。同図が図6と異なる部分は、PWMゲート指令と各相PWM出力との位相差に応じて求めるデッドタイム補償分でPWM電圧指令Vcmd_U、Vcmd_V、Vcmd_Wの電圧値を増減し、この補償後のPWM電圧指令をPWMゲート指令Gate_U,Gate_V,Gate_Wに変換することで、デッドタイム補償前のPWMゲート指令とデッドタイム補償後の相電圧出力との誤差(位相差)を低減する点にある。
【0024】
図1において、キャリア生成部60は周波数Fc[Hz]、片振幅Acの三角搬送波Carrierを出力するものであり、同時にCarrierの最大値、最小値時のフラグCarrier_top、Carrier_btmを出力する(図3参照)。PWM波形発生部20は三角搬送波Carrierとデッドタイム補償後の電圧指令V_cmd_U’、V_cmd_V’、Vcmd_W’を大小比較し、ゲート指令Gate_U、Gate_V、Gate_Wを生成する。デッドタイム補償部30によるデッドタイム補償については後に説明する。
【0025】
デッドタイム生成部40は、インバータ10の上下アーム短絡防止のためにゲート指令Gate_U、Gate_V、Gate_Wに所定のデッドタイムを付加し、最終的なゲート指令GU、GXなどを生成する。デッドタイム補償部30による電圧指令の補償は下式のようになる。
【0026】
【数2】

【0027】
ここで、Vcmd_U、Vcmd_V、Vcmd_Wをデッドタイム補償前の三相電圧指令、Vcmp_U、Vcmp_V、Vcmp_Wをデッドタイム補償電圧指令とする。
【0028】
(2)作用・動作
従来の技術では、PWM比較結果後のゲート指令を使用してデッドタイム補償を行っていた。しかし、先に述べたようにこの方法では必ず遅延誤差が発生する。本実施形態では、PWM波形生成前のPWM電圧指令に対してPWMゲート指令が補償前と比較して遅延が生じないように補償することで、遅延誤差を無くす。以下の説明では、U相についてのみ言及するが、他の相もU相と同様になるためその説明を省略する。
【0029】
図2はデッドタイム補償部30の回路構成を示し、図3に各部タイムチャートを示す。デッドタイム補償部30は、まず、PWM波形発生部20により生成するPWMゲート指令Gate_Uと、Vce検出部50で検出したU相出力電圧Vce_Uの位相を比較する。この比較により、PWMゲート指令Gate_UとU相出力電圧Vce_Uの位相差をオンタイム誤差時間Vce_DLY1およびオフタイム誤差時間Vce_DLY2としてそれぞれ計測する。このときのオンタイム誤差時間だけ動作するカウンタをON_COUNT、オフタイム誤差時間だけを動作するカウンタをOFF_COUNTとする。これらカウンタは図6と同様に、Nビットのフルアダ―回路FAとフリップフロップで構成される。
【0030】
これらのオンタイム誤差時間、オフタイム誤差時間の計測値は、デッドタイム補償に使用するため、電圧指令Vcmd_Uと同じ単位に変換する必要がある。誤差発生時に加算する値を変換ゲインclk_pwmとすれば、これらのカウンタは時間Tclk[s]当たりに加算されるため、誤差時間を計測しながらPWMの単位に変換可能である。下式にフルアダー回路FAの一方の入力とするclk_pwmの定義を示す。
【0031】
【数3】

【0032】
ON_COUNTはCarrier_topの後にリセット、OFF_COUNTはCarreir_btmの後にリセットされる。ON_COUNTとOFF_COUNTはNビットのカウンタであり、カウンタ内の加算器はNビットのフルアダー回路FAで構成し、下式のように動作する。
【0033】
【数4】

【0034】
オンタイムおよびオフタイム遅延誤差計測時の動作は図3のタイムチャートに示すようになる。
【0035】
デッドタイム補償回路30は、デッドタイムを補償するために、計測したカウンタの値を電圧指令に重畳し補償をする。オンタイムの誤差とオフタイムの誤差はIGBTの特性や電流極性による通流路により相違があるため、それぞれ個別に補償を行う。Vce検出はPWM指令に対して遅れて検出される。オンタイムを補償するためにはゲート指令Gate_Uの立ち上がりを進めればよい。ゲート指令の立ち上がりを進めるためには、キャリアCarrierの下降中に電圧指令が増加すればよい。また、オフタイムを補償するためにはゲート指令Gate_Uの立ち下がりを進めればよい。ゲート指令の立下りを進めるためには、キャリアCarrierの上昇中に電圧指令が減少すればよい。
【0036】
よって、PWM波形の次回のオン/オフの極性に応じて、前記変換したオンタイム誤差時間およびオフタイム誤差時間の計測値を前記PWM電圧指令に加減算する。例えば、オンタイムの補償を行うにはCarrier_topでON_COUNTの値をVcmd_Uに対して加算、オフタイムの補償を行うにはCarrier_btmでOFF_COUNTをVcmd_Uに対して減算すればよい。この補償関係を図4に示す。これより電圧補償値V_cmp_Uは下式になる。
【0037】
【数5】

【0038】
図4に示す補償の前後におけるゲート指令を説明する。Gate_Uの波形が理想的な出力電圧波形である。キャリア周期毎にオンタイム、オフタイムの誤差が変化無ければ、補償前のゲート指令Gate_Uと補償後の検出相電圧Vce_Uは完全に一致するため、補償による遅延誤差は発生せず、理想的なデッドタイム補償が可能である。たとえ、変化があったとしても従来の技術より格段に遅延誤差が小さくなる。
【0039】
図5に実際に実施形態のインバータに誘導性負荷を接続し、補償を適用した場合の電流波形を示す。実施形態に示したデッドタイム補償によって、従来の図5(a)と比較して、本実施形態では図5(b)のように電流のひずみ(6f成分)が低減していることが確認できた。
【0040】
(3)効果
本実施携帯によるデッドタイム補償によれば、以下の効果がある。
【0041】
・補償前のPWM指令Gate_Uと補償後の検出相電圧Vce_Uの誤差をほぼ零にすることができる。
【0042】
・デッドタイム補償による無駄時間TDLYがなくなるため、最小オンパルス時間の制限が小さくなる。この最小オンパルス時間の制限が小さくなることにより、より細いPWMパルスが出力可能になる。このより細いPWMパルスが出力可能であれば、電力変換装置の最大出力電圧が大きくなる。
【0043】
・デッドタイム補償による無駄時間TDLYがなくなるのでPWMインバータの制御無駄時間が小さくなる。このPWMインバータの無駄時間が小さくなることで、電流制御および周波数制御の応答が向上する。
【0044】
・デッドタイム補償により、出力電流の6f成分(電流歪み)が小さくなる。
【符号の説明】
【0045】
10 PWMインバータ
20 PWM波形発生部
30 デッドタイム補償部
40 デッドタイム生成部
50 Vce(出力電圧)検出部
60 キャリア生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWM電力変換装置の主回路スイッチング素子の三相ドライブ信号に所定時間のデッドタイムを挿入し、このデッドタイム挿入による主回路スイッチング素子のスイッチング遅れで発生するPWMゲート指令に対するPWM出力電圧の誤差をデッドタイム補償回路によって補償するPWM電力変換装置のデッドタイム補償装置であって、
前記デッドタイム補償回路は、PWMゲート指令と各相PWM出力との位相差に応じて求めるデッドタイム補償分でPWM電圧指令の電圧値を増減し、この補償後のPWM電圧指令をPWMゲート指令に変換することで、デッドタイム補償前のPWMゲート指令とデッドタイム補償後の相電圧出力との誤差(位相差)を低減する手段を備えたことを特徴とするPWM電力変換装置のデッドタイム補償装置。
【請求項2】
前記デッドタイム補償回路は、
PWM電圧指令を基に生成するPWMゲート指令とPWM相出力の位相差をオンタイム誤差時間およびオフタイム誤差時間としてそれぞれ計測する回路と、
前記オンタイム誤差時間およびオフタイム誤差時間の計測値をPWM電圧指令と同じ単位に変換する回路と、
PWM波形の次回のオン/オフの極性に応じて、前記変換したオンタイム誤差時間およびオフタイム誤差時間の計測値を前記PWM電圧指令に加減算する回路と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のPWM電力変換装置のデッドタイム補償装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−16232(P2012−16232A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152745(P2010−152745)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】