説明

Y−分岐型炭素ナノチューブの製造

本発明は、Y−分岐型炭素ナノチューブの製造方法及びこの方法によって製造されたY−分岐型炭素ナノチューブに関し、具体的には、炭素ナノチューブ担体に触媒を担持させ、触媒−担持された炭素ナノチューブを前処理して触媒を炭素ナノチューブ表面に強く結合させ、結果として得られた触媒−担持された炭素ナノチューブ状の触媒を用いて炭素ナノチューブの合成反応を行うことを含むY−分岐型炭素ナノチューブの製造方法が提供される。
本発明によるY−分岐型炭素ナノチューブ製造方法は、既存の炭素ナノチューブ製造のための工程条件と装置を用いて様々な形態のY−接合を1つ以上有するY−分岐型炭素ナノチューブを容易に簡便かつ大量で合成することができるようにするため、工業的に非常に有望である。このように製造されたY−分岐型炭素ナノチューブは電極の材料、高分子の強化材、トランジスタあるいは電気化学的材料で卓越した潜在性を有している。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Y−分岐型炭素ナノチューブの製造方法及びこれによって製造されたY−分岐型炭素ナノチューブに関する。具体的に、本発明は、炭素ナノチューブに触媒金属を担持させ、触媒−担持された炭素ナノチューブを前処理して触媒を炭素ナノチューブ表面に強く結合させ、このように得られた触媒−担持された炭素ナノチューブ触媒を用いて炭素ナノチューブの合成反応を行うことにより製造されたY−分岐型炭素ナノチューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素ナノチューブ(carbon nanotube)は、1つの炭素原子に隣合う3つの炭素原子が結合されており、このような炭素原子間の結合によって六角環状が形成されて、これらが蜂の巣状で繰り返された平面が巻かれて円筒状チューブを成す物質である。
【0003】
このような炭素ナノチューブは、その熱的、機械的、電気的特性と関連した好ましい性質によって最近10余年間、それらの物性、製造方法、応用方法等に関して、幾多の研究が進められてきた。炭素ナノチューブの合成方法では、アーク放電法(arc discharge)、レーザ気化法(laser evaporation)、CVD(thermal chemical vapor deposition)法、触媒的合成法、プラズマ(plasma)合成法等、様々な方法が提示されている[参照、USP5,424,054(アーク放電);Chem.Phys.Lett.243,1−12(1995)(レーザ気化法);Science,273:483−487(1996)(レーザ気化法);USP6,210,800(触媒的合成法);USP6,221,330(気体相合成法);WO00/26138(気体相合成法)]。
【0004】
しかしながら、上記のような方法は、チューブまたは棒状の1次元的な炭素ナノチューブを合成することであって、Y−接合(Y−junction)構造を有するY−分岐型炭素ナノチューブ(Y−branched carbon nanotube)を合成することには限界がある。本明細書において言及している1次元、2次元及び3次元という用語は、一般に空間を区分する次元を意味するものではなく、下記の意味を有する。すなわち、‘1次元構造を有する直線型炭素ナノチューブ'は、チューブや棒のように炭素ナノチューブの始めと終わりに他の炭素ナノチューブが連結されていない一直線形の炭素ナノチューブを意味し、‘2次元構造を有するY−分岐型炭素ナノチューブ'とは、ただ一つのY−接合を有している炭素ナノチューブを意味し、‘3次元構造を有するY−分岐型炭素ナノチューブ'とは一直線形の炭素ナノチューブ上に多数のY−接合から出た分岐が木(tree)形状を成している炭素ナノチューブを意味する。
【0005】
現在の炭素ナノチューブを用いた様々な応用分野が提示されており、それぞれの応用分野は、特性化された炭素ナノチューブを要求している。例えば、炭素ナノチューブが電極の材料、高分子の強化材、トランジスタあるいは電気化学的材料として用いられるには、1次元チューブやワイヤ構造を有する直線型炭素ナノチューブよりは2次元あるいは3次元の木型構造を有する枝状の炭素ナノチューブがさらに有利であることができる。
【0006】
一方、このようなY−分岐型炭素ナノチューブは、直線型炭素ナノチューブが1991年に飯島博士[S.Iijima,Nature354(1991)56]によって見出された直後に、その存在が予見され、[参照:A.L.Mackay et al.,Nature352(1991)762;G.E.Scuseria,Chem.Phys.Lett.195(1992)534]、以降の多くの論文によりこれらの知見が報告された。
【0007】
例えば、ダンジョウ(Dan Zhou)等は、アーク放電法で炭素ナノチューブを合成した後、生成された炭素ナノチューブにおいて、L、Y、T形態の炭素ナノチューブと共に生成することができると報告した[参考文献:Chem.Phys.Lett.238(1995)286]。しかしながら、これらの結果は、合成された大部分がワイヤ形態の1次元的炭素ナノチューブであり、極めて一部分の2次元的な炭素ナノチューブだけが合成することができると確認したものである。
【0008】
イワノフ(V.Ivanov)等は、カーボンブラックやシリカ担体(support)に鉄、コバルト、銅等を触媒に担持してワイヤ形態の炭素ナノチューブと共にコイル形態を有する炭素ナノチューブが合成されることを報告した[参考文献:Chem.Phys.Lett.223(1994)329]。
【0009】
スイ(Y.C.Sui)等は、3次元の起工構造を有するアノードソング酸化アルミニウムテンプルレート(Anodic Aluminum Oxide(AAO)template)を製造した後、ここにコバルト触媒を担持して炭素ナノチューブを合成して3次元の構造を有する炭素ナノチューブを合成した[参考文献:Carbon39(2001)1709]。
【0010】
バイロ(L.P.Biro)等は、C60−フラーレンをステンレス鋼板に分散させた後、300〜450℃の温度で気化させて生成される炭素ナノチューブのうち、Y−接合を有する炭素ナノチューブを見出した[Chem.Phys.Lett.306(1999)155]。また、これらは、触媒[例えば、Iron(II)phthalocyanine(FePc)]を反応器に導入して反応温度800−1000℃でY−接合構造を有する炭素ナノチューブを大量に合成することができると報告した[参考文献:Physica B323(2002)336]。これらは、特に、Y−接合を有する炭素ナノチューブを最大30%までも生産することができると報告した。
【0011】
しかしながら、上記例示したY−接合を有する炭素ナノチューブまたはY−分岐型炭素ナノチューブの合成方法は、単純合成それ自体を確認するステップである。このような方法によって合成された生産物の大部分は、接合点の数が1個であるか、または多ければ2個乃至3個以下の単純構造を有している2次元的な炭素ナノチューブである。
【0012】
さらに、上記のように、炭素ナノチューブを電極の材料、高分子の強化材、トランジスタあるいは電気化学的材料として用いるためには、1次元的な構造を有する直線型炭素ナノチューブよりは2次元あるいは3次元の構造を有するY−分岐型炭素ナノチューブがさらに有利である。したがって、2次元あるいは3次元の構造を有するY−分岐型炭素ナノチューブは、ナノスケールのトランジスタやアンプリファイアあるいは電極の材料として卓越した潜在性を有している。
【0013】
特に、電極の材料として用いられる場合、炭素ナノチューブと炭素ナノチューブの間の接合あるいは炭素ナノチューブと電流収集体(current collector)との接合において1つのツリー状構造を有する2次元あるいは3次元的なY−分岐型炭素ナノチューブは電極の効率性と安全性側面において非常に優れたものと予想される。
【0014】
したがって、2次元または3次元Y−分岐型炭素ナノチューブの製造方法の開発及びこれを大量に製造することができる方法の確立は非常に大きな意味を有している。
【0015】
かくして、本発明者は、炭素ナノチューブの合成に用いられる触媒は、可逆触媒として反応条件により炭素ナノチューブの分解反応を触媒することができるという事実に着目して、炭素ナノチューブ表面に微細な触媒粒子を担持して、このように得られた触媒−担持された炭素ナノチューブを適切に処理して炭素ナノチューブの表面を部分的に損傷させるか、または破壊することで触媒粒子を炭素ナノチューブにさらに強く結合させて、次いで、これを炭素ナノチューブ合成反応で触媒として用いると、上記付着した触媒粒子から炭素ナノチューブが成長し、これによってY−分岐型炭素ナノチューブが形成されるということを見出して本発明を完成した。
【0016】
さらに、このように製造されたY−分岐型炭素ナノチューブに再度本発明の方法を適用すれば、Y−分岐が重複するように示されるようになり、多数の分岐が木形状に形成された3次元炭素ナノチューブを製造することができるということをさらに見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、炭素ナノチューブに触媒を担持させて、触媒−担持された炭素ナノチューブを前処理して触媒を炭素ナノチューブ表面に強く結合させ、結果として得られた触媒−担持された炭素ナノチューブを用いて炭素ナノチューブ合成反応を行うことを含むY−分岐型炭素ナノチューブの製造方法を提供する。
【0018】
本発明のもう1つの目的は、上述したY−分岐型炭素ナノチューブの製造方法で製造された、1つまたは多数のY−接合を有するY−分岐型炭素ナノチューブを提供する。
【0019】
本発明のもう1つの目的は、上述したY−接合が2回以上繰り返して示すことができる、1つまたは多数の多重Y−接合(multipleY−junction)を有する3次元炭素ナノチューブ及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の1つの好ましい具現によれば、まず、炭素ナノチューブ担体に触媒、例えば、粒子状または溶液状金属または金属化合物からなる触媒を担持させ、次に、結果として得られた触媒−担持された炭素ナノチューブを前処理して上記触媒を炭素ナノチューブの表面に強く結合させて、結果として得られた触媒−担持された炭素ナノチューブを用いて炭素ナノチューブ合成反応を行うことを含む、1つ以上のY−接合を有する3次元炭素ナノチューブの製造方法が提供される。
【0021】
本発明において、触媒の担体として用いることができる炭素ナノチューブは、その製造方法に関わらず全ての炭素ナノチューブもしくは炭素ナノファイバであることができる。例えば、Y−分岐型構造を有するかまたは有しない単一壁または多重壁炭素ナノチューブまたは炭素ナノファイバを全て用いることができる。
【0022】
このような炭素ナノチューブの表面に触媒を存在させる方法としては、例えば、含浸法、沈澱法、ゾル−ゲル法のような一般に触媒分野において触媒を担体に担持する方法、例えば、化学的気相蒸着法、スパッタリング法、蒸発法のように、金属を担体に付着させる方法、または、例えば触媒粒子のミシェル(micelle)あるいは逆相ミシェル(reverse micelle)の散布法または噴霧法のようにコロイド溶液を用いて炭素ナノチューブの表面に塗布する方法等を言及することができる。しかしながら、本願発明はこれらに限定されない。
【0023】
上記方法のうち、担持法は、金属前駆体(precursor)を溶液に溶解した後、炭素ナノチューブと溶液を接触させて溶液を蒸発させるか、または取り除いて触媒を炭素ナノチューブの表面に小さな粒子として存在するようにする方法である。上記方法は、一般に触媒を担体に担持する時、用いられる方法と同一の方法であり、担持後、酸化、還元、窒化工程(prenitriding)、硫化工程(presulfiding)を通して容易に触媒の組成を変えることができる方法である。一方、担持法以外に上記例示した触媒を炭素ナノチューブの表面に付着または塗布する方法は、既に触媒の化学的組成や性質が決まった状態で表面に存在させる方法であり、用語に若干の差はあるが、二つの方法全ては、触媒金属化合物を炭素ナノチューブの表面に存在させる一般な方法として用いられる。
【0024】
本願発明においては、用語の統一のために触媒として用いられる金属や金属化合物を炭素ナノチューブの担体に存在させることができる全ての方法を通称して、‘担持(loading)または担持法'と表現する。すなわち、上で言及した含浸法、沈澱法、ゾル−ゲル法、気相蒸着法、スパッタリング法、蒸発法のような金属を担体に付着させる方法、触媒粒子のミセルあるいは逆相ミセルの散布法または噴霧法のようなコロイド溶液を用いて炭素ナノチューブの表面に塗布する方法等は全て担体の表面に触媒を存在させることに用いられる方法であるため、本発明においてはこのような方法を‘担持'または‘担持法'と称する。
【0025】
また、本願発明においては、用語の統一のために任意の上記の言及した方法によって触媒が表面に存在する炭素ナノチューブを‘触媒−担持された炭素ナノチューブ'にする。
【0026】
本発明で用いられる触媒は特に限定されない。一般に炭素ナノチューブ製造において用いられる任意の触媒金属、例えば、鉄、コバルト、ニッケルのような全ての転移金属、白金、パラジウムのような全ての貴金属、アルカリ金属及びアルカリ土金属を例えばこれらの金属元素自体、これらの酸化物、窒化物、ホウ素化物、弗化物、臭化物または硫化物、またはこれらの混合物の形態として用いられる。
【0027】
本発明の明細書において、触媒と炭素ナノチューブ表面の強い結合とは炭素ナノチューブ表面の分解、損傷または破壊による化学的結合または封入を意味するだけでなく、触媒が炭素ナノチューブ表面に物理的に強く付着されており、Y−接合点が触媒が付着したところで形成され、新たなY分岐と炭素ナノチューブ担体の分離なしに連続的に成長することができるようにする結合状態を意味する。
【0028】
このような強い結合は、例えば、酸化反応、還元反応、水素化反応(hydrogenation)、硫化反応(sulfidization)、硫酸や硝酸等を用いた酸処理等のような化学的方法、または圧着、乾燥、吸着、高温処理等のような物理的方法に達成することができる。
【0029】
本発明の変法によれば、触媒−担持された炭素ナノチューブで触媒と炭素ナノチューブの結合が十分に強い場合には、別途の前処理を行わないこともあるか、または触媒−担持された炭素ナノチューブの前処理は炭素ナノチューブの合成反応と同時に行われることもできる。しかしながら、このような場合は触媒の担持過程または炭素ナノチューブの合成過程が前処理過程を共に含むものであると理解しなければならない。したがって、このような変法は全て本発明の範疇に含まれる。
【0030】
触媒−担持された炭素ナノチューブを用いて、Y−分岐型炭素ナノチューブを合成するステップにおいて、任意の公知された通常的な炭素ナノチューブの合成法、例えば、アーク放電法、レーザ気化法、CVD法、触媒的合成法、プラズマ合成法、連続気相合成法等を全て用いることができる。
【0031】
本発明の1つの好ましい具現によれば、本発明の方法によって製造された触媒−担持された炭素ナノチューブを石英ボート(quartz boat)に担持して反応器内部に位置させて炭素ナノチューブを製造することができる。本発明のもう1つの変法によれば、本発明の方法によって製造された触媒−担持された炭素ナノチューブを溶媒に分散させて反応器内に連続的に供給しながら炭素ナノチューブ合成反応を行わせることによって、2次元または3次元Y−分岐型炭素ナノチューブを連続的に製造することができる。
【0032】
上記変法の好ましい具現によると、触媒−担持された炭素ナノチューブは水性または有機溶媒のコロイド性溶液の形態に製造することができる。このようなコロイド性の溶液を反応器内部で微分散または噴霧させ、その粒子滴を気体の中に浮遊させると、これらは一定時間、気体相コロイドとして存在して、これによって2次元または3次元炭素ナノチューブが気体相で連続的に合成されることができる。
【0033】
触媒−担持された炭素ナノチューブを溶媒に分散させて得られた分散液またはコロイド性溶液を気体相で形成する方法または気体の中に浮遊させる方法は特に限定されない。当業界の任意の通常的な方法、例えば、直接噴霧、サイフォン噴霧、粉砕(atomization)等により行うことができる。
【0034】
一方、触媒−担持された炭素ナノチューブを有機溶媒に分散させる時には、触媒−担持された炭素ナノチューブの凝集防止及び均一な分散のために炭素ナノチューブ合成反応に逆効果を与えない程度の量で界面活性剤を添加することができる。用いられる界面活性剤は非イオン性、陰イオン性、陽イオン性または両イオン性であることができ、炭化水素系、シリコーン系、フロロカーボン系等、全ての種類の界面活性剤を言及することができる。このような界面活性剤は少量で用いられ、炭素ナノチューブの合成反応で反応物として用いられるため、反応に逆効果を殆どまたは全く与えない。界面活性剤の使用量は、特に限定されず、当業者の水準で適切に選定することができる。
【0035】
炭素ナノチューブ合成に用いられる炭素源としては、例えば、一酸化炭素、炭素原子数1乃至6の飽和または不飽和脂肪族炭化水素及び炭素原子数6乃至10の芳香族炭化水素から構成された群から選ばれる有機化合物を言及することができる。このような炭素源は、酸素、窒素、塩素、フッ素及び硫黄から構成された群から選ばれるヘテロ原子を1〜3個有することができる。このような炭素源はコロイド性溶液の溶媒を取り替えるかまたはこれと部分的に混合することができる。
【0036】
本発明の1つの好ましい具現によると、水及び炭素源とともにH、HS、NH等のように特性化された気体を供給することもできる。
【0037】
本発明のもう1つの変法によれば、一直線上の1次元炭素ナノチューブではない2次元または3次元炭素ナノチューブに上記のような本発明の方法を適用することによって、Y−接合が2回以上に掛けて繰り返し発生した木形状のY−分岐型炭素ナノチューブを製造することができる。
【0038】
本発明のもう1つの変法によれば、対面積上に具現された一直線上の1次元炭素ナノチューブに本発明の方法を適用することによって、対面積上にY−接合を有する炭素ナノチューブを製造することができ、さらに本発明の方法を2回以上適用することによって、対面積上に繰り返されたY−接合を有する炭素ナノチューブを製造することができる。
【0039】
本発明による2次元あるいは3次元Y−分岐型炭素ナノチューブの合成に用いられる反応器としては、一般の炭素ナノチューブ合成に用いられる反応器を制限なしに用いられるが、例えば、熱的加熱法(thermal heating)、CVD法(chemical vapor deposition)、プラズマ法、レーザ気化法(laser ablation)、RF(radio frequency)加熱法等のような反応で用いられる反応器を言及することができる。このような反応器を用いて炭素ナノチューブまたは炭素ナノファイバを製造する反応工程は、上記の先行技術文献に記述されているので、当業界熟練された技術者はこのような工程パラメータ、例えば、温度、時間、圧力等を特別な困難性なしに適切に変更して本発明を行うことができる。
【0040】
一方、触媒を用いる炭素ナノチューブの一般的な合成方法において、合成される炭素ナノチューブの性状は用いられる触媒の種類及び状態に左右される。触媒の種類及び状態を適切に選択することによって、単一壁または多重壁炭素ナノチューブまたは炭素ナノファイバ構造を選択的に合成することが可能である。本発明において、合成される炭素ナノチューブ分岐(branch)の性状も用いられる触媒の種類及び状態によって左右されるものと見られ、触媒の類型及び状態を適切に選択することにおいて、分岐の構造を単一壁または多重壁炭素ナノチューブまたは炭素ナノファイバで調整することが可能である。
【0041】
結果として、本発明の方法によれば、2次元または3次元の構造を有するY−分岐型炭素ナノチューブまたは炭素ナノファイバを既存の炭素ナノチューブまたは炭素ナノファイバ製造用装置及び工程をそのまま用いて再現性のあるように、工業的に有利かつ大量で生産することが可能である。
【0042】
これだけでなく、本発明によるコロイド溶液に製造された触媒−担持された炭素ナノチューブを供給することによって、2次元または3次元構造を有するY−分岐型炭素ナノチューブまたは炭素ナノファイバを気体相で連続的に生産することも可能である。
【0043】
本発明の方法によって製造されたY−分岐型炭素ナノチューブは電極、トランジスタ、電子材料、構造が強化された高分子等に用いられる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、既存の工程方法と装置を用いて様々な形態のY−接合を1つ以上有するY−分岐型炭素ナノチューブを容易に簡便かつ大量で合成することができる、工業的に非常に有望な方法を提供する。また、このように製造されたY−分岐型炭素ナノチューブは、電極の材料、高分子の強化材、トランジスタあるいは電気化学的材料で卓越した潜在性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、 本発明の好ましい実施の形態を、 実施例に基づいて詳しく説明する。しかしながら、このような実施例は,本発明を例示するためだけのものであり、本発明の範囲はこれらに限定されない。
【0046】
実施例1
(1)触媒−担持された1次元炭素ナノチューブの製造
表面積20m2/gであり、直径60nmであった多重壁炭素ナノチューブ[WO03/008331に記載された方法で製造]10gにFe(NO9HO 1.81gを含浸法で担持して、110℃の温度で12時間以上乾燥させた。
【0047】
得られたFe(NO・9HO−担持された炭素ナノチューブを600℃の温度で水素(H)を供給しながら3時間還元させた。還元過程において、鉄粒子の還元だけではなく水素化反応を通じて担体として用いられた炭素ナノチューブの構造が一部破壊されて新たに生成される炭素ナノチューブと化学的に結合されたものと見られる。得られたFe−担持された炭素ナノチューブは、鉄を2.5wt%の量で含有した。
【0048】
(2)Y−分岐型炭素ナノチューブの製造
上記ステップ(1)で製造されたFe−担持された1次元炭素ナノチューブ0.2gを石英ボート(quartz boat)に担持して電気炉内部の直径27mmの石英管の中央部に位置させた。100ml/分の流量でヘリウム気体を流しながら1000℃まで反応炉の温度を上げた。
【0049】
反応器の温度が1000℃に到逹すれば、気化されたベンゼン2vol.%を含む水素気体を反応器内部で注入しながら30分間Y−接合を有する炭素ナノチューブを合成した。
【0050】
得られた生成物を走査電子顕微鏡(SEM)で分析した結果を図2に示す。図2に示されているように、担体で使った多重壁炭素ナノチューブの間に様々な形態のY−接合を有する炭素ナノチューブが合成されることを確認した。
【0051】
実施例2
(1)触媒−担持された1次元炭素ナノチューブの製造
還元過程を経ないことを除いては、実施例1と同一に処理してFe(NO・9HO−担持された炭素ナノチューブを製造した。
【0052】
(2)Y−分岐型炭素ナノチューブの製造
ステップ(1)で製造されたFe(NO・9HO−担持された炭素ナノチューブ0.2gを石英ボート(quartz boat)に担持して電気炉内部の直径27mmの石英管の中央部に位置させた。100ml/分の流量でヘリウム気体を流しながら1000℃まで反応炉の温度を上げた。この時、窒酸鉄の窒酸塩が熱分解されながら窒酸鉄粒子が担持された炭素ナノチューブの表面を酸化させて炭素ナノチューブの構造を一部破壊しながら鉄を炭素ナノチューブと強く結合させた。
【0053】
反応器の温度が1000℃に到逹すると、気化されたベンゼン2vol.%を含む水素気体を反応器内部に注入しながら30分間Y−接合を有する炭素ナノチューブを合成した。
【0054】
得られた生成物を走査電子顕微鏡(SEM)で分析した結果、実施例1のように、担体として用いた多重壁炭素ナノチューブの間に様々な形態のY−接合を有する炭素ナノチューブが合成されることを確認した。
【0055】
実施例3
(1)触媒−担持された1次元炭素ナノチューブの製造
実施例1のように処理して得られたFe(NO・9HO−担持された炭素ナノチューブにヘリウム気体を流しながら450℃まで温度を上げた。反応器の温度が450℃に到達すると、体積比95:5の水素及びHS混合気体を供給して2時間反応させて窒酸鉄を黄化鉄(FeS)に変換させた。
【0056】
(2)Y−分岐型炭素ナノチューブの製造
ステップ(1)で製造されたFeS−担持された炭素ナノチューブ0.2gを石英ボートに担持して電気炉内部の直径27mmの石英管の中央部に位置させた。100ml/分の流量でヘリウム気体を流しながら1000℃まで反応炉の温度を上げた。
【0057】
反応器の温度が1000℃に到逹した時、気化されたベンゼン2vol.%を含む水素気体を反応器内部に30分間注入してY−接合を有する炭素ナノチューブを合成した。
【0058】
得られた生成物を走査電子顕微鏡(SEM)で分析した結果を図3に示した。図3に示されているように、担体で使った多重壁炭素ナノチューブの間に様々な形態のY−接合を有する炭素ナノチューブが合成されることを確認した。
【0059】
実施例4
実施例1で用いたように、多重壁炭素ナノチューブ(直径60nm)をスパッタ(sputter)[(株)Comtecs、韓国)]に入れ、約10−6Torr程度の真空状態を作った。アルゴン(Ar)を流しながら約2×10−2Torrで圧力を調節して、DC電圧を用いてアルゴンプラズマを形成させ、これによってコバルトを5分間スパッタリングして約1wt%のコバルトが担持された炭素ナノチューブを製造した。
【0060】
このように製造されたCo−担持された炭素ナノチューブに1%酸素を含む窒素気体を流しながら220℃で約10分間酸化処理した。このような酸化処理によって炭素ナノチューブの構造が一部破壊されたものと思われる。
【0061】
前記Co−担持され、酸化処理された炭素ナノチューブを触媒として用いて実施例1と類似の方法で処理して、Y−接合を有する炭素ナノチューブを合成した。
【0062】
実施例5
実施例1で製造されたFe−担持された炭素ナノチューブをベンゼンと95:5重量比で混合した。このように製造された混合溶液を直径25mm、長さ1mの垂直型反応器内に噴射し、Y−接合を有する炭素ナノチューブを合成した。この時、反応温度は1000℃であり、アルゴンを500ml/分の流量で供給した。実施例5によれば、Fe−担持された炭素ナノチューブの混合溶液を反応器内に連続的に供給することができるため、Y−接合を有する炭素ナノチューブを大量生産することが可能である。
【0063】
実施例6
Fe担持された炭素ナノチューブをベンゼンにさらに均一に分散させるために、非イオン性界面活性剤Tween#20を10wt%の量で添加して実施例5の過程を繰り返して、Y−接合を有する炭素ナノチューブを大量生産した。
【0064】
得られた生成物を走査電子顕微鏡(SEM)で分析した結果を図3に示した。図3に示されているように、担体として用いた多重壁炭素ナノチューブの間に様々な形態のY−接合を有する炭素ナノチューブが合成されることを確認した。
【0065】
実施例7
実施例1で製造された炭素ナノチューブを用いて実施例1と類似した手続きを繰り返して、多重Y−接合を有する炭素ナノチューブを合成した。
下記の図面を参照して本発明の方法をさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明による2次元あるいは3次元Y−分岐型炭素ナノチューブの製造方法を説明する概略図である。図1において、(a)は、触媒が担持されない直線上炭素ナノチューブを示し、(b)は、触媒粒子が表面に担持された炭素ナノチューブを示し、(c)は、炭素ナノチューブの表面に担持された触媒粒子が前処理を通じて炭素ナノチューブ表面にさらに強く結合するか、または表面内に封入した状態を示し、(d)は、触媒の結合地点から成長した炭素ナノチューブ枝を有するY−分岐型炭素ナノチューブを示す。図1において、多重壁炭素ナノチューブに対して描写されたが、単一壁炭素ナノチューブも用いられる。
【図2】本発明によって製造されたY−分岐型炭素ナノチューブのSEM写真を示す。
【図3】本発明によって製造されたY−分岐型炭素ナノチューブのSEM写真を示す。
【図4】本発明によって製造されたY−分岐型炭素ナノチューブのSEM写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含むY−分岐型炭素ナノチューブの製造方法。
(a)炭素ナノチューブ担体に触媒を担持させ、
(b)触媒−担持された炭素ナノチューブを前処理して触媒を炭素ナノチューブ表面に強く結合させ、
(c)得られた触媒−担持された炭素ナノチューブを用いて炭素ナノチューブの合成反応を行う。
【請求項2】
前記炭素ナノチューブ担体は、Y−分岐型構造を有するか、または有しない単一壁または多重壁炭素ナノチューブ、または炭素ナノファイバであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒は、Y−分岐型炭素ナノチューブの製造に用いられる金属または金属化合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒は、金属元素自体、その酸化物、窒化物、ホウ素化物、弗化物、臭化物、硫化物またはこれらの混合物の形態で用いられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒は、1種以上の金属を含む金属の複合物または合金であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
触媒を担持させるステップは、含浸法または沈澱法、ゾル−ゲル法、化学的気相蒸着法、スパッタリング法、蒸発法、散布法または噴霧法により行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒と炭素ナノチューブの表面の間の強い結合は酸化反応、還元反応、水素化反応、硫化反応及び酸処理からなる群から選ばれる同一の化学的前処理または圧着、乾燥、吸着及び高温処理からなる群から選択された物理的前処理によって達成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒と炭素ナノチューブの表面の間の強い結合は、炭素ナノチューブ表面の分解、損傷または破壊によることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒−担持された炭素ナノチューブを溶媒に分散させた分散液を用いて合成反応を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記分散液は界面活性剤をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記界面活性剤は、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、両イオン性界面活性剤、及び炭化水素系、シリコーン系及びフロロカーボン系から構成された群から選ばれることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
合成反応は、熱的加熱法、化学的気相蒸着法(CVD)、プラズマ法、レーザ気化法及びRF(radio frequency)加熱法から構成された群から選択された方法で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の方法によって製造され、Y−接合を1つ以上有することを特徴とするY−分岐型炭素ナノチューブ。
【請求項14】
請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の方法によって製造され、Y−接合が2回以上繰り返された多重Y−接合を有することを特徴とするY−分岐型炭素ナノチューブ。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載のY−分岐型炭素ナノチューブを含む電極、トランジスタ、電子材料及び構造が強化された高分子からなる群から選ばれることを特徴とする物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−528339(P2007−528339A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552051(P2006−552051)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【国際出願番号】PCT/KR2005/000337
【国際公開番号】WO2005/075340
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(506185218)ケイエイチ ケミカルズ カンパニー、リミテッド (3)
【Fターム(参考)】