説明

β−1,3−1,6−D−グルカンおよびその用途

【課題】 有用なβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液の提供
【解決手段】 β−1,3−1,6−D−グルカンの水溶液であって、該水溶液のH NMRスペクトルが4.7ppmと4.5ppmの2つのシグナルを有し、該水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5%(w/v)における粘度が50cP([mPa・s])以下であることを特徴とするβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物、特にオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物が菌体外に生産するβ−グルカン、特にβ−1,3−1,6−D−グルカンを主成分とする培養液から得られる、清涼飲料水や健康食品素材、食品用増粘剤、あるいは医薬などとして有用な多糖類であるβ−1,3−1,6−D−グルカンに関する。
【背景技術】
【0002】
β−グルカン(β−1,3−D−グルカン、あるいはβ−1,6−D−グルカン、あるいはβ−1,3−1,6−D−グルカン)は自然界に生息するきのこ(担子菌の子実体)に多く含まれる成分で、その子実体だけでなく培養菌糸体にも含まれていることが最近明らかになりつつある。またβ−グルカンには免疫賦活活性、抗腫瘍活性があることが知られている。例えばスエヒロタケ、カワラタケおよびシイタケから抽出されたβ−グルカンが抗がん剤などの医薬品として販売されている(非特許文献1、2参照)。
【0003】
一方、不完全菌であるオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物もβ−グルカンを菌体外に生産することが知られている。
この微生物がβ−1,3−1,6−D−グルカンとフラクトオリゴ糖とを同時に生産すること(特許文献1参照)やβ−グルカンとともにプルランを生産すること(特許文献2参照)が報告されている。
【0004】
オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)K-1株がシュークロースを炭素源とする培地中に、β−1,3−1,6−D−グルカンを菌体外に分泌生産(非特許文献3および4参照)し、その構造はβ−1,3−D−グルカンを主鎖とする構造にD−グルコースが側鎖としてβ−1,6−結合で結合していること、そしてその一部側鎖のグルコース残基がスルホ酢酸基(HO3SCH2COOH)で置換されていること、また、この多糖の分子量はゲルろ過法(GPC)により200万であると推定されている(非特許文献3、4、特許文献3参照)。
【0005】
オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物から生産されるβ−1,3−1,6−D−グルカンも免疫賦活活性を有していること、そしてこの物質が機能性食品(腸内ビフィズス菌の増殖、便秘防止、免疫増強)や整腸剤などに利用できることも報告されている(特許文献2、4、5参照)。
【0006】
一般に、β−グルカン水溶液はβ−グルカンが1重らせんや3重らせん構造を取るためゲルを形成しやすく、従ってβ−グルカンの培養液は高粘度であり、その精製はきわめて困難であった(非特許文献1参照)。例に漏れずオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物が生産するβ−グルカンも粘度が高く、その培養液から菌体とβ−グルカンを工業的に分離、回収、精製する方法は少ない。
現在報告されている方法は次のとおりである。
【0007】
1)特許文献1では、オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)FERM P-4257の培養液を加熱殺菌した後、ろ過または遠心分離して飲食物として利用可能な培養液を得る方法が開示されている。
2)特許文献6では、不溶性のβ−1,3−グルカンを有機溶媒存在下でアルカリ熱処理を行い、不溶性のβ−1,3−グルカンを回収する方法が開示されている。
3)特許文献7では、キノコや微生物などの菌体の懸濁液に過酸化物と水酸化物を加えpHを10−12にせしめ、不溶性β−グルカンを回収精製する方法が開示されている。
4)特許文献8では、培養液を熱殺菌後、菌体を遠心除去し、その上清にエタノールを60%(v/v)以上になるように加えβ−グルカンを沈殿させ、次いでろ過回収、乾燥するβ−グルカンの精製方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、上記1)の特許文献1の方法は、β−1,3−1,6−D−グルカンを高濃度に含むその培養液は常温で非常に粘度が高く(数千cP([mPa・s])以上)、ろ過や遠心分離により培養液から菌体などの不溶性物質を分離することは工業的には困難である。
上記2)、3)および4)の特許文献6−8に記載の方法はキノコや酵母などの主に微生物細胞壁に存在する不溶性のβ−グルカンを抽出・回収するための方法であり、これら特許文献6−8に記載の方法で得られるβ−D−グルカンは、非常に水に溶け難く、着色などの点で食品素材、特に飲料素材として用いるには問題があった。
そのため最近では、キノコなどから得られた不溶性のβ−グルカンを熱水やアルカリ抽出・部分精製した後、主にレシチンなどを乳化剤とする一般的な分散化剤の存在下で高圧処理(300−800kgf/cm2)し、コロイド状に超微粒子化する方法も開示されている(特許文献9参照)。しかしながらこの方法は特殊な微粉砕化処理や乳化剤を必要とする。
【0009】
β−グルカン水溶液は粘度が高いため低濃度のものしか得られず、それに伴う種々の問題があり、高濃度の水溶液の開発が望まれていた。
また、粉状の純粋なβ−グルカンの要望が高まっているが、菌体除去が困難で、菌体、培地、噴霧乾燥するための助剤、アルカリ等を含む純度の低い粉体の製法しか知られてない。またエタノールで水溶液から析出させる製法(特許文献8)の場合、β−グルカン濃度が低いため、工業的観点から実際的な方法とは言い難い。
【0010】
【特許文献1】特開昭61−146192号公報
【特許文献2】特開昭62−201901号公報
【特許文献3】特開平7−51082号公報
【特許文献4】特開平6−340701号公報
【特許文献5】特開2002−204687号公報
【特許文献6】特開平5−308987号公報
【特許文献7】特開平9−322795号公報
【特許文献8】特開平10−276740号公報
【特許文献9】国際公開第02/087603号パンフレット
【非特許文献1】Fragrance Journal, 5, 71-75(1995)
【非特許文献2】日経バイオ, No. 2, pp.91-94(2003)
【非特許文献3】Agric. Biol. Chem., 47, 1167-1172(1983)
【非特許文献4】科学と工業, 64, 131-135(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等はオーレオバシジウム(Aureobasidium sp.)属に属する微生物の培養液から、低粘度のβ−グルカンの製法を開発し、特許出願している(特願2003−106676)。すなわち、オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物が菌体外に生産する水溶性β−1,3−1,6−D−グルカンを主成分とする培養液に、常温でアルカリを加え、pHを12以上とし、粘度を低下させ、その後に酸を添加してpHを中性域(pH7.5)から酸性域付近(pH4以下)に調整し、不溶性の菌体とβ−1,3−1,6−D−グルカン含有液とを高収率で分離することを特徴とする低粘度、かつ水溶性β−1,3−1,6−D−グルカン含有水溶液の回収精製方法を開発した。
【0012】
本発明者等が開発した上記方法(特開2004−092330)で得られた培養液について、更に詳細に検討した結果、β−1,3−1,6−D−グルカンの溶解度とpH、温度、分子量、粒度分布に特徴があることを見出し、更に製法の改良について研究を行い、ゲル化、凝集などの、液体での保存安定性や熱安定性が改善され、更に免疫賦活特性などの効能を大幅に高める可能性のあるβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を見出し、本発明を完成した。更には、高純度のβ−1,3−1,6−D−グルカン粉末を、効率的に製造する方法も見出した。
【0013】
本発明が提供するβ−1,3−1,6−D−グルカンは水溶液となっているものと、微粒子として分散しているものが同時に存在しており、pH、金属イオン(Na、Ca)強度、温度で安定性が大幅に影響を受けることが分った。興味深いことに、本微粒子状β−1,3−1,6−D−グルカンは、pH、金属イオン(Na、Ca)強度、温度などの種々の条件下で決定される溶解度との関係により、溶解度範囲を超えたβ−1,3−1,6−D−グルカンが微粒子化することが明らかになった(実施例5、6参照)。そして本微粒子化β−1,3−1,6−D−グルカンは分子量1万から50万の可溶性グルカンに由来することが判明した。
【0014】
本微粒子化β−1,3−1,6−D−グルカンは金属イオンが多い状態では、35℃以上で凝集、更にはゲル化を生じてしまう。そのため、清涼飲料などの流動性を持った食品として用いる場合には、加熱滅菌時に、例えばpH3.5、温度90℃で熱処理を行う際に、凝集、更にはゲル化などの不均一化を招いてしまう。清涼飲料水用途の場合、濁りや沈殿物が生じるのは好ましくない。このような問題に対して金属イオン濃度をコントロールすることでこれら問題点が大幅に改善されることがわかった。
一方、ゲル化、増粘を積極的に狙う用途の場合、その用途の許容範囲内で逆に金属イオン濃度を高めることでゲル化、増粘を促進することができる。本発明の目的の1つは、熱および保存時の安定性がコントロールされたβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、β−1,3−1,6−D−グルカンの水溶液であって、1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする該溶液の1H NMR スペクトルが4.7ppmと4.5ppmの2つのシグナルを有し、該水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5%(w/v)における粘度(BM型回転粘度計、12rpm)が50cP([mPa・s])以下、好ましくは40cP、更に好ましくは30cP以下であることを特徴とするβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液に関する。
【0016】
本発明は、また上記β−1,3−1,6−D−グルカンの分子量が1万〜50万であるβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液;一次粒子径が0.05〜2.0μmである微粒子β−1,3−1,6−D−グルカンを含む上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液;β−1,3−1,6−D−グルカンのβ−1,3結合/β−1,6結合の結合比が0.5〜2.0である上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液;1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする1H NMR スペクトルにおけるβ−1,3結合とβ−1,6結合のシグナル積分比に基づく、β−1,3結合/β−1,6結合の結合比が1.0〜1.5である上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液;β−1,3−1,6−D−グルカンが硫黄含有基を有する上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液;β−1,3−1,6−D−グルカンがオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物が菌体外に産生するβ−1,3−1,6−D−グルカンである上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液;微生物がオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)である上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液;微生物がオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株、またはオーレオバシジウム プルランス(Aereobasidium pullulans)GM-NH-1A2株である上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液;微生物を含まない上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液;金属イオン濃度、特にNaイオンおよびCaイオン濃度が120mg/100ml以下である上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液;並びに上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液から微粒子β−1,3−1,6−D−グルカンを除去して得られるβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液に関する。
本発明は、上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液から、水溶解β−1,3−1,6−D−グルカンを除去して得られる微粒子β−1,3−1,6−D−グルカン;上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液および上記微粒子β−1,3−1,6−D−グルカンを任意に配合して得られるβ−1,3−1,6−D−グルカン含有液;並びに上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を乾燥して得られる乾燥β−1,3−1,6−D−グルカンにも関する。
【0017】
本発明は、またβ−1,3−1,6−D−グルカンを含む微生物培養液にアルカリ、またはその水溶液を加え、pHを12以上とし該培養液を低粘度化した後、微生物を含む不溶物を分離除去し、更に金属イオン濃度が120mg/100ml以下になるように該金属イオン、特にNaイオン濃度およびCaイオンを除去することを特徴とするβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液の調製方法;並びに上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を透析濃縮し、その濃縮液にアルコール類を添加しβ−1,3−1,6−D−グルカンを析出させ、得られるβ−1,3−1,6−D−グルカン/アルコール/水からなるスラリーを分液し、沈降スラリーを噴霧乾燥することを特徴とする高純度β−1,3−1,6−D−グルカン粉末の調製方法;上記β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を透析後、更に減圧濃縮し、次いで濃縮液を噴霧乾燥することを特徴とする高純度β−1,3−1,6−D−グルカン粉末の調製方法にも関する。
更に、本発明は本発明に係るβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを有効成分とする抗悪性新生物剤、特に抗悪性腫瘍剤あるいは抗癌剤、INF−γ産生剤、INF−γ産生効果に基づいて抑制あるいは治癒される疾病の治療剤、悪性新生物移転抑制剤、アレルギー性疾患抑制剤、特にI型アレルギー性疾患抑制剤、マクロファージ活性化剤にも関する。
【0018】
また、本発明はβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを含有する健康食品あるいは健康増進剤、外用剤、化粧品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において使用される微生物は、β−1,3−1,6−D−グルカンを生産し得る微生物なら特に限定されないが、好ましくはオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物である。
オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養して、β−1,3−1,6−D−グルカン(以下該グルカンと略称することもある。)を生産させる方法は種々報告されている。使用できる炭素源としては、シュークロース、グルコース、フラクトース、デンプンなどの炭水化物、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸などの有機酸、ペプトンや酵母エキスなどの有機栄養源を挙げることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウムや硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの無機窒素源を挙げることができる。場合によっては該β−グルカンの生産量を上昇させるために適宜、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などの無機塩、更には鉄、銅、マンガンなどの微量金属塩やビタミン類を添加するのも有効な方法である。
【0020】
たとえば、オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を炭素源としてシュークロースを含むツアペック培地にアスコルビン酸を添加した培地で培養した場合、高濃度のβ−1,3−1,6−D−グルカンを生産することが報告されている(非特許文献3、4、特許文献3)。しかしながら、培地は、微生物が生育し、β−1,3−1,6−D−グルカンを生産するものなら特に限定されない。必要に応じて酵母エキスやペプトンなどの有機栄養源を添加してもよい。
【0021】
オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を上記培地で好気培養するための条件としては、温度は10−45℃、好ましくは20−35℃であり、pHは3−7、好ましくは3.5−5である。
効果的に培養pHを制御するためにアルカリ、あるいは酸で培養液のpHを制御するのも得策である。更に培養液の消泡のために適宜、泡消剤を添加してもよい。培養時間は通常1−10日間が好ましく、通常1−4日間培養すれば該β−グルカンを生産することが可能である。なお、該β−グルカンの生産量を測定しながら培養時間を決めてもよい。
【0022】
上記条件下オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を4−6日間通気攪拌培養したところ、培養液にはβ−1,3−1,6−D−グルカンを主成分とするβ−グルカン多糖が0.1%から数%(w/v)含有されており、その培養液の粘度はBM型回転粘度計(東機産業社製)により30℃では数百cP([mPa・s])から数千cP([mPa・s])という非常に高い粘度を有していた。
この培養液を、常温で攪拌しながら、これにアルカリを添加すると、急激に粘度が低下する。利用できるアルカリは水に可溶化するものであれば特に制限はないが、水酸化ナトリウムでは最終濃度が0.5%(w/v)以上、好ましくは1.25%(w/v)以上になるように添加し良く攪拌することが必要である。すなわち、pHが12以上で、好ましくは13以上になるようにアルカリを添加し攪拌すると瞬時に培養液の粘度が数cP([mPa・s])にまで低下する。
【0023】
アルカリ処理培養液から菌体などの不溶性物質を分離する方法としては、培養液から菌体などの不溶性物質を分離できる方法であれば特に制限はなく、菌体が沈降するまで待って上澄みを回収する方法(デカント法)、遠心分離、ろ紙あるいはろ布を利用した全量ろ過、フィルタープレス、更に膜ろ過(MF膜などの限外ろ過)などで行うことができる。ろ紙あるいはろ布による全量ろ過の場合はセライトなどろ過助剤を利用するのも一つの手段である。工業的にはフィルタープレスによる菌体除去が好ましい。
【0024】
なお、菌体などの不溶物を分離する前に酸を添加しpHを中性から酸性域付近にしてもよいし、分離後にpHを中性から酸性域付近にしてもよい。なお、常温(15〜35℃)ではpHを中性付近から酸性付近に調整しなおしてもβ−グルカン多糖がゲル化するようなことは無く、粘度は高粘度化することなく低粘度のままである。このように本発明は、高粘度のβ−グルカン水溶液をアルカリ処理により低粘度化させ、引き続きpHを酸性(pH4>)に調整しなおしても粘度の上昇が無いことから、健康食品素材、特に健康食品飲料素材、更には化粧品等の外用剤として有用なβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を提供するものである。
【0025】
次に健康飲料の配合例を示す。

【0026】
次に化粧水の配合例を示す。

【0027】
アルカリ処理に用いられるアルカリとしては、炭酸カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液などの炭酸アルカリ水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液などの水酸化アルカリ水溶液、あるいはアンモニア水溶液など通常用いられるアルカリであれば特に制限はない。ただし、β−1,3−1,6−D−グルカンを食用に供するには食品添加物として認められているアルカリを用いることが好ましい。
【0028】
中和、酸処理に用いられる酸としては、塩酸、燐酸、硫酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸など通常アルカリを中和させることができるものであれば特に制限はない。ただし、これについても食用に供するには、食品添加物として認められている酸が好ましい。
【0029】
ここで、アルカリ処理、更に中和処理、または酸処理を行った培養液をこのまま食用に用いてもよいが、後の過熱滅菌や保存安定性を考えると、金属イオンを除去したほうが好ましい。
金属イオンの除去はUF膜を用いた脱塩が用いられる。金属イオン濃度は120mg/100ml培養液以下、より好ましくは50mg/100ml培養液以下、更に好ましくは20mg/100ml培養液以下にしておくことが好ましい。例えば、水酸化ナトリウムを用いてアルカリ処理による低粘度化を行った場合は、ここで挙げる金属イオンはナトリウムイオンである。
【0030】
下記に実施例1に示す培養液を用いて行った熱安定性実験の結果を表1に示す。バッファ交換および塩化ナトリウムの配合によりNaイオン濃度を調整した培養液を50℃恒温オ−ブンに静置し、安定性を調べた。ここで、多糖濃度は2mg/ml、Caイオンは10mg/100mlに調整した。
○印は変化なし、×印はゲル化、凝集、沈澱が生じたことを示す。ここでゲル化は流動性がなくなった状態と定義する。
【0031】
【表1】

【0032】
次にCaイオンについても同様の実験を行った。その結果を表2に示す。実施例1に示す培養液を用いてUF膜で脱塩した後、塩化カルシウムの配合によりCaイオン濃度を調整した。50℃恒温オーブンに静置し、同様に、安定性を調べた。ここで、多糖濃度は2mg/ml、Naイオンは16mg/100mlに調整した。
○印は変化なし、×印はゲル化、凝集、沈澱が生じたことを示す。ここでゲル化は流動性がなくなった状態と定義する。
【0033】
【表2】

【0034】
本β−1,3−1,6−D−グルカンの回収精製法は、主にオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属するいずれの菌株が生産する高分子(分子量200万以上)から低分子(分子量数百から2万)β−グルカンにも適用することが可能であるが、すべての微生物やキノコが生産するβ−1,3−1,6−D−グルカンに適用することが可能である。特に好ましくはオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)K-1株の変異菌株であるオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株とオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A2株である。オリジナルの菌株であるオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)K-1株は高分子量のβ−グルカンを数種類(200万以上と100万程度のβ−グルカン)を生産することは知られている。またオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)K-1株の産生するβ−グルカンはスルホ酢酸基を有することが知られている(非特許文献3、4参照)。
【0035】
本変異菌株GM-NH-1A1株とGM-NH-1A2株は、実施例で示すようにメインピークが見かけ上50〜250万の高分子量のβ−グルカン(微粒子グルカン)とメインピークが2〜30万の低分子量のβ−グルカンの両方を生産する菌株で、GM-NH-1A1株とGM-NH-1A12株の性質は下記表に示した通りである。その結果、それぞれの菌株の形態学的性質および28SrDNAの塩基配列から本菌株はオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)に属する菌株として同定された。これらの菌株は独立行政法人産業技術研究所特許生物寄託センターにそれぞれFERM BP-10294とFERM BP-10295として寄託されている。
【0036】
次に、本培養液の粒度分布測定を行った結果、培養液は完全にβ−1,3−1,6−D−グルカンが溶解しているわけではなく、一部は一次粒子径が0.05〜2.0μm程度の微粒子から構成されていることがわかった。
更にこの微粒子β−1,3−1,6−D−グルカン含有水溶液にレシチンなどの公知の乳化剤や、環状デキストリン等の安定化剤の添加により、更に安定化させることもできる。
【0037】
【表3】

【0038】
本発明の低粘度β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液より、乾燥β−1,3−1,6−D−グルカンを製造するには、噴霧乾燥法、凍結乾燥法等公知の乾燥方法を採用することができる。この場合、低粘度β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液は菌体や塩を含んだものであってもよい。
本発明はβ−1,3−1,6−D−グルカンを含む微生物培養液にアルカリ、またはその水溶液を加え低粘度化後、必要により微生物を含む不要物を分離除去し、次いで透析濃縮し、その濃縮液に攪拌下にアルコール類を添加し、得られるβ−1,3−1,6−D−グルカン/アルコール/水からなるスラリーを分液し、沈降スラリー濃度を1.0%(w/w)以上になるように調製し、噴霧乾燥することを特徴とするβ−1,3−1,6−D−グルカン粉末の調製方法に関する。この方法によれば、低粘度なβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を濃縮し、容量を当初の数分の1から数十分の1に減らすことができるため、多糖沈殿精製のために添加するアルコールの量を飛躍的に減らすことができる。透析を必要に応じて十分行うことにより、不要な塩を減らすことができる。また本製法によれば、アルコール添加時に高分子量のβ−1,3−1,6−D−グルカンが優先的に沈降するため、クエン酸ナトリウム等の無機塩を取り除くことができ、純度向上、精製に大変有効である。
【0039】
微生物培養液としては特にオーレオバシジウム属に属する微生物が菌体外に生産するβ−グルカン、特にβ−1,3−1,6−D−グルカンを主成分とする培養液が好ましい。微生物の分離除去はフィルタープレスまたは遠心分離で行うことが好ましい。アルコール類としては培養液からβ−1,3−1,6−D−グルカンを析出させ得るものなら何でもよいが、特に好ましいアルコールはエタノールである。エタノールの使用量は培養液に対し1倍(容積比)以上、好ましくは2倍以上添加することが好ましい。分液後アルコール/水混合液よりアルコールを蒸留等により回収し、リサイクルすることができる。
【0040】
一方、本発明の低粘度β−1,3−1,6−D−グルカン粉末は下記製法により、アルコールを使用することなく実施することができる。即ち、β−1,3−1,6−D−グルカンを含む微生物培養液にアルカリ、またはその水溶液を加え低粘度化後、必要により微生物を含む不要物を分離除去し、次いで透析濃縮を必要に応じて十分行った後、更に減圧濃縮し、次いで濃縮液を噴霧乾燥することにより高純度β−1,3−1,6−D−グルカン粉末が得られることを見出した。この方法により、アルコール回収時のロスが無く、防爆型の設備も必要とせず、簡便かつ安価に高純度β−1,3−1,6−D−グルカン粉末が得られる。このような減圧濃縮工程を有するβ−1,3−1,6−D−グルカン粉末の製法は、本発明のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液が低粘度であるために可能となったものである。
【0041】
本発明のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液は実施例に示すように、マウスにおけるColon 26大腸癌細胞を用いた悪性新生物抑制実験で、抗悪性新生物効果、悪性新生物転移抑制効果が認められた。
従って、本発明に係るβ−1,3−1,6−D−グルカンまたはその水溶液は、悪性腫瘍治療剤などの抗悪性新生物剤として有用である。
更に腸管粘膜組織中のNK陽性細胞数およびINF−γ陽性細胞数がβ−グルカン非投与群と比べて有意に増加し、また、血中のIL−12産生をも増強していることがわかった。これは本β−1,3−1,6−D−グルカンが抗原提示細胞であるマクロファージの活性化を示唆しているものである。
【0042】
従って、本発明に係るβ−1,3−1,6−D−グルカンまたはその水溶液は、下記1−3の効果も期待される。
1.抗ウイルスおよび抗細菌感染剤:
INF−γは、細胞のRNAase(RNA分解酵素)の活性化を行い、更にDNA合成やたんぱく質合成、ペプチド合成が抑制され、その結果ウイルスの増殖が阻害される。具体的には、A型、B型およびC型肝炎、肝硬変、ヘルペス疾患、インフルエンザ・口内炎などウイルス性疾患、各種悪性新生物(ウイルス性のものも含む)の抑制およびその転移抑制などに効果が見られる。また、MRSA・VREなどの抗細菌感染にも効果がある。
2.I型アレルギー(アナフィラキシー反応)抑制剤:
INF−γは、IgE抗体産生に関わるヘルパーT細胞の1種であるTh2細胞の分化と活性化を阻害する。また、INF−γはIL4の産生を抑制することが報告されている。この結果、IgE抗体が関与するアレルギー(I型アレルギー)を抑制することが推測される。具体的には、花粉症、鼻炎アレルギー、アレルギー性結膜炎、食品アレルギー(蕁麻疹、下痢など胃腸アレルギー)、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、はち毒やペニシリンなどの薬剤によるショック症状の抑制効果が期待される。
3.IV型アレルギー抑制剤および自己免疫疾患抑制剤:
2.で述べたように、ウイルスや細菌の感染により部分的に変性した自己成分が抗原性を持つようになり(自己抗原)、自己免疫疾患になる。具体的には、慢性関節リュウマチ、リュウマチ熱、膠原病、シェグレン症候群、橋本病、バセドウ病、自己免疫性溶血性貧血や悪性貧血などの貧血、インスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)、重症筋無力症などが挙げられる。
本発明に係るβ−1,3−1,6−D−グルカンまたはその水溶液は好ましくは経口投与される。その投与量は症状、年齢、体重、投与形態、投与回数などによって異なるが、通常は1日当たり1−200mg(β−1,3−1,6−D−グルカンとして)、好ましくは5−100mg投与される。
【実施例】
【0043】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これらの例に限定されるものではない。
実施例1 オーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株の使用
1)β−グルカンの培養生産1
下記表4の組成からなる100mlの液体培地を500ml肩付きフラスコに入れ、121℃、15分間、加圧蒸気滅菌を行った後、オーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株を同培地組成のスラントより無菌的に1白金耳植菌し、24時間、30℃で130rpmの通気攪拌培養を行い種培養液を調製した。次いで、同組成の培地200Lを300L容培養装置(丸菱バイオエンジ製)に入れ、121℃、15分間、加圧蒸気滅菌を行い、先ほど得られた種培養液2Lを無菌的に植菌し、200rpm、27℃、40L/minの通気攪拌培養を行った。なお、pHは水酸化ナトリウムと塩酸を用いてpH4.2から4.5の範囲内で制御した。96時間後の菌体濁度はOD 660nmで23 ODで、多糖濃度は0.5%(w/v)であった。
多糖濃度は、培養液を数mlサンプリングし、菌体を遠心分離除去した後、その上清に最終濃度が66%(v/v)となるようにエタノールを加えて多糖を沈殿させ・回収後、イオン交換水に溶解し、フェノール硫酸法で定量した。
また、この菌体を除去した培養上清にエタノールを最終濃度が66%となるように添加し、β‐グルカンを沈殿回収した。その後、再度イオン交換水に溶解し、再度遠心分離後、その上清に最終濃度が0.9%になるように食塩を加えた後、再度66%エタノールでβ‐グルカンを回収した。このβ‐グルカン回収精製操作を更に2回繰り返し、得られたβ‐グルカン水溶液をイオン交換水で透析後、凍結乾燥によりβ‐グルカン粉末を得た。本β‐グルカンの組成分析結果からS含量は239mg/kgであり、これから計算される置換スルホ酢酸含量は0.09%であった。
【0044】
【表4】

【0045】
2)アルカリ処理
実施例1で得られた培養液をBM型回転粘度計(東京計器製)を用いて、30℃、12rpmで測定したところ、1500cP([mPa・s])であった。測定に用いるロータは粘度にあわせて適当なものを選択した。この培養液に水酸化ナトリウム最終濃度が2.4%(w/v)となるように25%(w/w)水酸化ナトリウムを添加し攪拌したところ(pH13.6)、瞬時に粘度が低下し、引き続いて50%(w/v)クエン酸水溶液でpH5.0に中和してから粘度を測定したところ、そのときの粘度(30℃)は20cP([mPa・s])であった。次いで、この培養液にろ過助剤としてKCフロック(日本製紙社製)を1wt%添加し、薮田式ろ過圧搾機(薮田機械製)を用いて菌体を除去し、最終的に培養ろ液(約230L)を得た。その多糖濃度は0.5%(w/v)で、ほぼ100%の回収率であった。
【0046】
3)β−グルカン水溶液の脱塩
上記のβ−グルカン水溶液(培養ろ液)を0.3%に希釈後、UF膜(分子量カット5万、日東電工社製)によって脱塩を行い、最終的にナトリウムイオン濃度を20mg/100mlに落とした後、50%(w/v)クエン酸水溶液によりpHを3.5に調整した。引き続いて、ホット充填用加熱ユニット(日阪製作所製)を用いて95℃、3分間保持の殺菌処理を行い、最終製品のβ−グルカン水溶液を得た。この時のβ−グルカンの濃度はフェノール硫酸法により測定したところ0.22%(w/v)であった。また、培養液からのト−タル収率は約73%であった。また、得られたβ‐グルカン水溶液をイオン交換水で透析後、凍結乾燥によりβ‐グルカン粉末を得た。本β‐グルカンの組成分析結果からS含量は330mg/kgであり、これから計算される置換スルホ酢酸含量は0.12%であった。
【0047】
また、脱塩を行った上記培養ろ液について、コンゴーレッド法によって、480nmから525nm付近への波長シフトを確認することができたのでβ−1,3結合を含むグルカンを含有していることが証明された(K. Ogawa, Carbohydrate Research, 67, 527-535(1978)、今中忠行 監修, 微生物利用の大展開, 1012-1015, エヌ・ティー・エス(2002))。そのときの極大値へのシフト差分はΔ0.48/500μg多糖であった。
【0048】
上記培養ろ液15mlを取り出し、30mlの「エタノール」を添加し、4℃、1000rpm、10minで遠心して、沈殿する多糖を回収した。66%エタノールで洗浄し、4℃、1000rpm、10min遠心して、沈殿する多糖に2mlのイオン交換水と、1mlの1N水酸化ナトリウム水溶液を添加撹拌後、60℃、1時間保温して沈殿を溶解させた。次に−80℃にて凍結後、一晩、真空凍結乾燥を行い、乾燥後の粉末を1mlの重水に溶解させ、2次元NMR試料とした。2次元NMR(13C−1H COSY NMR)106ppmと相関関係を有する1H NMR スペクトル 4.7ppmと4.5ppm付近の2つのシグナルを得た(図1参照)。この結果、本β−グルカンがβ−1,3−1,6−Dグルカンであることが証明された(今中忠行 監修、微生物利用の大展開、1012-1015、エヌ・ティー・エス(2002))。それぞれのH NMRシグナルの積分比から、β−1,3結合/β−1,6結合の比は1.15であることが判明した。
また、上記1H NMRスペクトルを1N-NaOH重水溶媒からジメエチルスルホキシド−d重水素化溶媒に変えて、80℃で測定したところ、4.7ppmのピークは4.5ppmに、4.5ppmのピークは4.2ppmにそれぞれシフトした。
得られたβ−1,3−1,6−D−グルカンをエキソ型のβ−1,3−グルカナーゼ(キタラーゼM、ケイアイ化成社製)で30℃で数時間の加水分解処理をおこなった(方法は非特許文献3、非特許文献4を参照)。分解性生物の同定は、アミドカラム(TSK-GEL AMIDE-80、径4.6mm x 250mm、東ソー社製)を用いたHPLC分析(アセトニトリル/水、70/30;85℃;流速、1ml/min)により行い、分解性生物としてグルコースとゲンチオビオースの遊離が確認できた。それぞれのリテンションタイムは、グルコース、5.7分;ゲンチオビオース、8.5分であった。このことから本グルカンの構造はグルコースがβ−1,3-結合でつながった主鎖に対して、β−1,6-結合でグルコース1分子が側鎖に分岐していることを確認した。
【0049】
次に、レ−ザ回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA製LA−920)を用いて培養液の粒度を測定したところ、粒子としては0.3μmと100μm程度の大きさのところにピ−クが見られた。続いて、超音波を照射しながら、粒度測定を行うと、100μmのピ−クはみるみるうちに消失し、0.3μmのピ−クが増え、最終的に0.3μmのみとなった(図2参照)。0.3μmはβ−1,3−1,6−D−グルカンの一次粒子、100〜200μmはβ−1,3−1,6−D−グルカンの一次粒子が凝集した二次粒子であると考える。また、二次粒子はマグネチックスタラーによる攪拌、軽い振とうでも同じように消失し、一次粒子に容易に砕けることを確認した。よって、二次粒子は非常に緩い凝集(緩凝集状態)と考えられる。
【0050】
また、東ソー社製のトーヨーパールHW65(カラムサイズ 75cm×φ1cm、排除分子量250万(デキストラン))により0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を溶離液としてゲルクロマトグラフィーを行い、その溶解β−1,3−1,6−D−グルカンとβ−1,3−1,6−Dグルカンの1次粒子からなるβ−1,3−1,6−D−グルカン含有液の分子量を測定したところ、得られた多糖の分子量は溶解β−1,3−1,6−D−グルカンに由来する2〜30万のピークの低分子画分と、1次粒子に由来する見かけ上50〜250万の高分子画分の二種類からなることが判明した。ここで、分子量のマーカーとしてShodex社製のプルランを用いた。
【0051】
一方、水溶性β−1,3−1,6−D−グルカンと微粒子を分離するため、本法で調製したβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液(微粒子と可溶化グルカンを含むもの)をアドバンテック社製のフィルター(0.2μm)でろ過を行ったところ、50〜250万の高分子画分が消失した。すなわち高分子画分はβ−1,3−1,6−D−グルカンの一次粒子や一次粒子が凝集した二次粒子に相当することが判明した。よって、水溶性β−1,3−1,6−D−グルカンの分子量は2〜30万と考えられる。
【0052】
次に加熱滅菌時の、熱安定性を調べた。実施例1でアルカリ処理後、除菌を行い、金属イオンを50mg/100ml以下に除去後、多糖濃度を0.2%(2mg/ml)、0.40%、0.52%、0.77%、0.96%に調整した後、90℃のオートクレーブで15分間加熱滅菌を行った。結果を表5に示す。ここで、○印は変化なし、△印は凝集が一部見られ、×印は流動性のないゲルを示す。
多糖濃度が高いと凝集しやすい傾向が見られた。糖濃度が0.5%(5mg/ml)を超えると、凝集の傾向が見られ、0.7%以上では流動性のないゲルとなった。
【0053】
【表5】

【0054】
実施例2 オーレオバシジウム(Aureobasidium sp.)K−1株の使用
1)β−グルカンの培養生産2
前記、表4の組成からなる60mlの液体培地をバッフル付きの300ml三角フラスコに入れ、121℃、15分間、加圧蒸気滅菌を行った後、オーレオバシジウム(Aureobasidium sp.)K−1株を同培地組成のスラントより無菌的に1白金耳植菌し、96時間、30℃で130rpmの通気攪拌培養をして多糖生産実験を行った。96時間後の菌体濁度はOD 660nmで35 ODで、多糖濃度は0.5%(w/v)であった。多糖濃度は、培養液から菌体を遠心除去した後、66%(v/v)となるようにエタノールを加えて沈殿させ、イオン交換水に溶解後、フェノール硫酸法で定量した。また、本β‐グルカンの組成分析結果からS含量は2300mg/kgであり、これから計算される置換スルホ酢酸含量は0.9%であった。
【0055】
2)以下実施例1と同様にして、この多糖の性質をしらべた。
コンゴーレッドでのシフト効果を調べたところ、極大吸収が480nmから525nm付近へのシフトが観察されβ−1,3結合を含むグルカンを含有していることが証明された。そのときの極大値へのシフト差分はΔ0.50/500μg多糖であった。また2次元NMR(13C−1H COSY NMR)分析を行った。その結果より、得られた多糖はβ−1,3−1,6−D−グルカンであることが証明された。それぞれの1H シグナルの積分比より、β−1,3結合/β−1,6結合の比は1.38であった。更に分子量を測定したところ、その分子量は10〜300万であった。
得られたβ−1,3−1,6−D−グルカンを実施例1と同様にして分析し、本グルカンの構造はグルコースがβ−1,3-結合でつながった主鎖に対して、β−1,6-結合でグルコース1分子が側鎖に分岐していることを確認した。
【0056】
得られた培養液をBM型回転粘度計を用い実施例1と同様に測定したところ、粘度は30℃で1900cP([mPa・s])であった。この培養液に最終水酸化ナトリウム濃度が2.4%(w/v)となるように25%(w/w)水酸化ナトリウムを添加し攪拌したところ(pH13.4)、瞬時に粘度が低下した。続いてpHを50%(w/v)クエン酸水溶液でpH4.8に調整した。そのときの粘度は28cP([mPa・s])であった。
【0057】
実施例3 オーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A2株の使用
菌株をオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株からオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A2株に変更した以外はすべて実施例1の方法で行った。その結果、生成した多糖濃度は0.5%(w/v)、そのときの粘度は1300cP([mPa・s])であった。得られた培養液に実施例2と同様にして水酸化ナトリウムを最終濃度が2.4%(w/w)になる様に添加し(pH13.6)、引き続いて50%(w/v)クエン酸水溶液でpH5.0に調整してから実施例1と同様に粘度を測定したところ、粘度は7cP([mPa・s])に低下した。そのときの多糖濃度は0.5%(w/v)であった。
【0058】
以下実施例1と同様にして、この多糖の性質をしらべた。
コンゴーレッドでのシフト効果を調べたところ、極大吸収が480nmから525nm付近へのシフトが観察された。そのときの極大値へのシフト差分はΔ0.45/500μg多糖であった。また2次元NMR(13C−1H COSY NMR)分析を行った。
その結果より、得られた多糖はβ−1,3−1,6−D−グルカンであることが証明された。それぞれの1Hシグナルの積分比より、β−1,3結合/β−1,6結合の比は1.23であった。
更に分子量を測定したところ、その分子量は平均分子量で2〜30万のピークの低分子画分と50〜250万の高分子画分の二種類からなることが判明した。また、本β‐グルカンの組成分析結果からS含量は229mg/kgであり、これから計算される置換スルホ酢酸含量は0.09%であった。
【0059】
実施例4 培地組成の変更
菌株をオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A2株に変更し、表4の培地のアスコルビン酸を無添加とした以外はすべて実施例1の方法で行った。その結果、生成した多糖濃度は0.6%、そのときの粘度は1500cP([mPa・s])であった。得られた培養液に実施例2と同様にして水酸化ナトリウムの最終濃度が2.4%(w/w)になる様に添加し(pH13.6)、引き続いて50%(w/v)水溶液でpH4.9にしてから実施例1と同様に粘度を測定したところ、その粘度は7cP([mPa・s])に低下した。コンゴーレッド法で、極大吸収が480nmから525nm付近へのシフトが観察された。そのときの極大値へのシフト差分はΔ0.45/500μg多糖であった。
【0060】
また実施例1と同様に2次元NMR(13C−1H COSY NMR)分析を行った。その結果、得られた多糖はβ−1,3−1,6−D−グルカンであることが証明され、それぞれの1Hシグナルの積分比より、β−1,3結合/β−1,6結合の比は1.21であった。
次いで分子量を実施例3と同様の方法で測定したところ、その分子量は平均分子量で2〜30万のピークの低分子画分と50〜250の高分子画分の二種類からなることが判明した。
得られたβ−1,3−1,6−D−グルカンを実施例1と同様にして分析し、本グルカンの構造はグルコースがβ−1,3-結合でつながった主鎖に対して、β−1,6-結合でグルコース1分子が側鎖に分岐していることを確認した。
【0061】
実施例5 pHによる溶解度への影響
β−1,3−1,6−D−グルカンの溶解度は培養液のpHによって大きく変わった。実施例1に見られるように、粒度分布測定の結果、粒子として存在するβ−1,3−1,6−D−グルカンはその大部分が0.1μm以上の大きさであることが分ったので、アドバンテック社製のフィルター(0.21μm)で通過できるものを溶解しているもの、通過できなかったものを微粒子と考えることができる。ここでは、その存在比(0.2μmを通過した培養液の多糖の重さ/培養液の多糖の重さ×100(%))を溶解度と定義する。実施例1の培養液の多糖濃度を0.2%(2mg/ml)に調製後、pHを変えた時の溶解度を図3に示す。
【0062】
実施例6 温度による溶解度への影響
β−1,3−1,6−D−グルカンの溶解度は温度によっても大きく変わる。ここでは、温度を変えて、実施例5と同様にアドバンテック社製のフィルター(0.2μm)でろ過を行い、溶解度を求めた。実施例1の培養液の多糖濃度を0.2%(2mg/ml)に調製後、温度を変えた時の溶解度を図4に示す。ここでは、その存在比(0.2μmを通過した培養液の多糖の重さ/培養液の多糖の重さ×100(%))を溶解度と定義する。
【0063】
実施例5,6に見られるように、pHと温度をコントロールすることで溶解β−1,3−1,6−D−グルカン、微粒子β−1,3−1,6−D−グルカンを選択的に調製することが可能である。
【0064】
実施例7 粉末化グルカンの特徴
実施例1のアルカリ処理および菌体除去処理により調製された微粒子β−1,3−1,6−D−グルカンを含むβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液に、最終濃度が66%(v/v)となるようにエタノールを添加して、多糖グルカンを沈殿させ、遠心分離法により回収した。次いで凍結乾燥法によりエタノールと水分を除去し、乾燥β−1,3−1,6−D−グルカンを得た。そのときの収率はエタノール沈殿前の全糖濃度と比較して95%以上であった。次いで、得られた乾燥β−1,3−1,6−D−グルカンを最終濃度が0.3%(w/v)となるように水に溶解分散後、実施例1に示すように東ソー社製のトーヨーパールHW65(カラムサイズ 75cm×φ1cm、排除分子量250万(デキストラン))により0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を溶離液としてゲルクロマトグラフィーを行い、分子量を測定したところ、得られた多糖の分子量は2〜30万のピークの低分子画分と見かけ上50〜250万の高分子画分の二種類からなることが判明した。ここで、分子量のマーカーとしてShodex社製のプルランを用いた。
一方、水溶性β−1,3−1,6−D−グルカンと微粒子を分離するため、本法で調製したβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液(微粒子と可溶化グルカンを含むもの)をアドバンテック社製のフィルター(0.2μm)でろ過を行ったところ、50〜250万の高分子画分が消失した。よって、本法により得られたβ−1,3−1,6−D−グルカンを乾燥させても、再溶解させれば乾燥前のβ−1,3−1,6−D−グルカンと同様の物理的挙動を再現することが実証された。
【0065】
以上のように、オーレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物により生産される高粘度のβ−1,3−1,6−D−グルカンをアルカリ処理することにより低粘度化に成功した。本発明者等の手法で得られるβ−1,3−1,6−D−グルカンは水溶性成分と微粒子分散成分を含み、pH、温度でその割合をコントロールできる。また、脱塩工程で金属イオンの濃度をコントロールすることで、保存性および熱安定性に優れた培養液が得られることがわかった。この結果、β−1,3−1,6−D−グルカンを高収率で回収精製する方法を提供できる。
【0066】
実施例8 高純度β−1,3−1,6−D−グルカン粉末の製造
実施例1のアルカリ処理を行った培養液(多糖濃度0.5%(5mg/ml))90Lを50%クエン酸水溶液9kgで中和後、濾過助剤(日本製紙ケミカル製粉末セルロースKCフロック)を1.8kgプレコートした薮田式濾過圧搾機40D-4を通して、菌体を取り除いた。ろ液を限外濾過スパイラルエレメント(日東電工製NTU3150−S4)で9Lまで濃縮した。本濃縮液を攪拌しながら、エタノール18Lを加え、グルカン/エタノール/水スラリーを得た。スラリーの粘度はBM型粘度計で22mPa・s(30℃)であった。室温で3時間静置し、上澄み液(エタノール/水)約17Lを取り除いた。残ったスラリーの粘度は45mPa・s(30℃)であった。本濃縮スラリー10Lを坂本技研型の噴霧乾燥装置R-3を用いて噴霧乾燥し、360gのβ−1,3−1,6−D−グルカン粉末を得た(回収率80%)。得られたβ−1,3−1,6−D−グルカンの純度はNMRスペクトルの解析の結果、90%以上であった。
上記製法で得られたβ−1,3−1,6−D−グルカンは約10%のグルカン以外の水易溶性多糖を含んでいるが、水洗により、容易に精製することができた。
【0067】
実施例9
実施例1のアルカリ処理を行った培養液(多糖濃度5mg/ml)100Lを50%クエン酸水溶液10Lで中和後、濾過助剤(日本製紙ケミカル製粉末セルロースW−200を1.8kgプレコートした薮田式濾過圧搾機40D-4を通して、菌体を取り除いた。ろ液を限外ろ過スパイラルエレメント(日東電工製NTU−3150−S4)で半量の55Lまで濃縮した。続いて、加水濃縮を繰り返し、最終的に1/100濃度まで希釈した。この液を減圧濃縮により5Lまで濃縮した。濃縮液の粘度は100mPa・s、固形分濃度は10%に到達した。本濃縮エキスを坂本技研製の噴霧乾燥装置R−3をもちいて噴霧乾燥し(入口温度185℃、出口温度120℃、回転数33000rpm)、310gのβ−1,3−1,6−D−グルカン粉末を得た(回収率:62%)。得られたβ−1,3−1,6−D−グルカン粉末0.5%を水に溶かして、多糖濃度を測定した結果、多糖濃度は4.8mg/mlであった。このことから、この粉末の純度は約95%以上と推測された。得られた粉体は淡褐色で平均粒子径25μmであった。水への再分散性は良好で10%程度までは簡易な攪拌で行えた。15%ではペースト状となり容器をさかさまにしても落ちてこない状態であった。
【0068】
実施例10 悪性新生物抑制活性および免疫賦活活性について(腹腔投与)
実施例1で示した方法で調製したオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株由来のβ−1,3−1,6−D−グルカン(以下単にグルカンと記す。)を用いて、マウスによる悪性新生物抑制活性と悪性新生物転移抑制活性を検討した。
1.方法および材料
1)実験材料
Matrigel(Reduced Growth Factor)はBecton Dickison社から購入した。グルカンは実施例1で調製したものを用い、生理食塩水で透析し、0.45μmの膜でろ過除菌後、0.5mg/mlと1.5mg/mlのグルカン溶液を調製し実験に供した。マウス10g体重あたり0.1mlを腹腔内投与した。
【0069】
2)動物
Balb/cマウス(雄、5週齢)はクレア(株)から購入し、1週間予備飼育した後、健康なマウスを実験に使用した。
3)Colon 26大腸癌細胞
悪性新生物として東北大学加齢研究所医用細胞資源センターから分与されたColon 26大腸癌細胞を、継代維持したものを用いた。
4)脾臓内へのColon 26大腸癌細胞移植マウスの作成
Colon 26大腸癌細胞(5 × 104細胞数/ml)をリン酸−生理食塩緩衝液(PBS、pH7.4)に懸濁し、その細胞懸濁液に1mg/mlのMatrigelを加えた。Balb/cマウスをネンブタール麻酔下に背部に小切開を加え、脾臓を露出し、その脾臓内にColon 26大腸癌細胞懸濁液0.2ml(1 × 104細胞数/脾臓)を注入した。その後、直ちに小切開を縫合した。Colon 26大腸癌を移植した翌日から、調製したグルカン溶液を5mg/kg体重と15mg/kg体重の割合で1日1回腹腔内投与し、14日間投与した。正常群および対照群は生理食塩水のみを投与した。最終投与翌日(癌移植15日目)にエーテル麻酔下、下大静脈からヘパリン採血した。また、マウスは採血後、屠殺し、脾臓、肝臓および胸腺を摘出し、各組織重量を測定した。肝臓に転移したColon 26大腸癌細胞コロニー数を計測した。
【0070】
更に小腸を摘出し、10%中性ホルマリン緩衝液で固定した。パラフィン包埋後、小腸の病理切片を作成した。各小腸病理切片は、常法によって処理後、NK抗体およびINF−γ抗体を用い、免疫染色を行った。そしてNK陽性細胞数とINF−γ陽性細胞数を計測した。
次いで、脾臓内Colon 26大腸癌移植マウスの血液中IL−12の測定を行った。方法は血液を遠心分離後に血漿を得、血漿中のIL−12はELISAキットにより測定した。
【0071】
2.実験結果
1)脾臓内へのColon 26大腸癌移植マウスにおける原発腫瘍に及ぼすグルカンの効果
表6に示すように、脾臓内にColon 26大腸癌を移植すると、明らかに脾臓内で癌細胞が増殖したが、グルカン投与群は脾臓内の癌重量増加に対して抑制効果を示した。すなわち15mg/kg投与群において33.2%の抑制効果が見られた。
2)脾臓内へのColon 26大腸癌移植マウスにおける肝臓転移に及ぼすグルカンの影響
表6に示すように、脾臓内にColon 26大腸癌を移植すると、明らかに肝臓へのColon 26大腸癌の転移が認められ、肝臓重量が増加した。一方、グルカン腹腔内投与群では,肝臓への転移に対してColon 26大腸癌移植マウス群との比較において、有意に肝臓への癌転移コロニー数を抑制した。すなわち5mg/kg投与群で44.5%、15mg/kg投与群で31.2%の抗癌転移効果が見られた。
【0072】
【表6】

【0073】
3)脾臓内Colon 26大腸癌細胞移植マウスにおける腸管免疫機能に及ぼす腹腔内投与グルカンの影響
表7に示すように、小腸粘膜組織中のNK陽性細胞数は、脾臓内にColon 26大腸癌を移植によって有意に低下し、5mgおよび15mg/kgのグルカン腹腔内投与は、小腸粘膜組織中のNK陽性細胞を有意に正常値まで回復した。また5mgおよび15mg/kgのグルカン腹腔内投与は、小腸粘膜内のINF−γ陽性細胞をColon 26移植マウスと比較して、有意に増加した。
4)脾臓内へのColon 26大腸癌移植マウスにおける血中IL-12値に及ぼす腹腔内投与グルカンの影響
表8に示すように、脾臓内にColon 26大腸癌を移植すると、血中のIL-12濃度は増加した。この事実は、癌を排除しようとする生体防御システムの作用による免疫機能が増強したことと考えられる。グルカンの腹腔内投与は何れの投与量においても、Colon 26大腸癌移植マウスより、IL-12の血中濃度を上昇させた。
グルカンの腹腔内投与によりIL-12の血中濃度を上昇させたことから、本グルカンが抗原提示細胞であるマクロファージの活性化能を有することが示唆される。
【0074】
【表7】

【0075】
【表8】

【0076】
実施例11 悪性新生物抑制活性および免疫賦活活性について(経口投与実験について)
実施例1で示した方法で調製したオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株由来のβ−1,3−1,6−D−グルカン(以下単にグルカンと記す。)を用いて、マウスによる悪性新生物抑制活性と悪性新生物転移抑制活性を検討した。
1.方法および材料
実験材料
1)Matrigel(Reduced Growth Factor)はBecton Dickison社から購入した。グルカンは実施例1で調製したものを用い、蒸留水で透析後、5mg/mlと4.5mg/mlのグルカン溶液を調製し実験に供した。マウス10g体重あたり0.1mlを経口投与した。
2)動物
Balb/cマウス(雄、5週齢)はクレア(株)から購入し、1週間予備飼育した後、健康なマウスを実験に使用した。
3)Colon 26大腸癌細胞
悪性新生物として、東北大学加齢研究所医用細胞資源センターから分与されたColon 26大腸癌細胞を、継代維持したものを用いた。
4)脾臓内へのColon 26大腸癌細胞移植マウスの作成
Colon 26大腸癌細胞(5 × 104細胞数/ml)をリン酸−生理食塩緩衝液(PBS、pH7.4)に懸濁し、その細胞懸濁液に1mg/mlのMatrigelを加えた。Balb/cマウスをネンブタール麻酔下に背部に小切開を加え、脾臓を露出し、その脾臓内にColon 26大腸癌細胞懸濁液0.2ml(1 × 104細胞数/脾臓)を注入した。その後、直ちに小切開を縫合した。Colon 26大腸癌を移植した翌日から、調製したグルカンを50mg/kg体重と450mg/kg体重で1日1回経口投与し、14日間投与した。正常群および対照群は生理食塩水のみを投与した。最終投与翌日(癌移植15日目)にエーテル麻酔下、下大静脈からヘパリン採血した。また、マウスは採血後、屠殺し、脾臓、肝臓および胸腺を摘出し、各組織重量を測定した。肝臓に転移したColon 26大腸癌細胞コロニー数を計測した。
【0077】
また更に小腸を摘出し、10%中性ホルマリン緩衝液で固定した。パラフィン包埋後、小腸の病理切片を作成した。各小腸病理切片は、常法によって処理後、INF−γ抗体を用い、免疫染色を行った。INF−γ陽性細胞数を計測した。
【0078】
2.実験結果
1)脾臓へのColon 26大腸癌移植マウスにおける原発腫瘍に及ぼすグルカンの効果
以下の表9に示すように、脾臓内にColon 26大腸癌を移植すると、明らかに脾臓内で癌細胞が増殖したが、グルカン投与群は脾臓内の癌重量増加に対して有意に抑制効果を示した。すなわち50mg/kg投与群で27.9%、450mg/kg投与群で23.9%の抑制効果が見られた。
2)脾臓内へのColon 26大腸癌移植マウスにおける肝臓転移に及ぼすグルカンの影響
以下の表9に示すように、脾臓内にColon 26大腸癌を移植すると、明らかに肝臓へのColon 26大腸癌の転移が認められ、肝臓重量が増加した。一方、グルカン経口投与群では,肝臓への転移に対してColon 26大腸癌移植マウス群との比較において、有意に肝臓への癌転移コロニー数を抑制した。すなわち50mg/ml投与群で37.3%、450mg/kg投与群で4.9%の抗癌転移効果が見られた。
【0079】
【表9】

【0080】
3)脾臓内Colon 26大腸癌細胞移植マウスにおける腸管免疫機能に及ぼす経口投与グルカンの影響
表10に示すように、脾臓内にColon 26大腸癌を移植すると、小腸粘膜組織中のINF−γ陽性細胞数は減少した。50mg/kgのグルカンの経口投与では、INF−γ陽性細胞数がColon 26大腸癌移植マウスと比較して、有意に増加した。高用量(450mg/kg)では、INF−γ陽性細胞数に対し、有意に増加しなかった。
【0081】
【表10】

【0082】
実施例12 アレルギー抑制効果について
1.方法
1)卵白アルブミン経口摂取によるアレルギー感作方法
Balb/cマウス(雌、4週齢)にβ‐グルカン含有粉末飼料(0, 0.25%, 0.5%, 1.0%)を実験期間中に自由摂取させた(β−グルカン投与マウス群、なお、β−グルカン未含有粉末飼料を摂取させたマウスをコントロールマウス群とした)。飼育期間中、ケージ毎(7匹のマウスを1ケージで飼育実験)の摂餌量は毎日測定し、マウスの体重は1週間毎に測定した。β‐グルカン摂取開始後、2週間目から1週間1%の卵白アルブミン水溶液を自由に摂取させた(1次抗体産生、1次感作実験)。さらに後半の3日間は2.5%の卵白アルブミン水溶液を朝夕2回の強制経口投与を行った(卵白アルブミン5mg x 2回/マウス/日)。
卵白アルブミン水溶液による摂飲終了後、3および7日目に水酸化アルミニウムゲル1.6mg含有25μg卵白アルブミン生理食塩溶液を腹腔内投与し、免疫誘導した(2次抗体産生、2次感作実験)。2回の卵白アルブミン腹腔内投与終了翌日、エーテル麻酔下、下大静脈から採血して血清を得た。脾臓、胸腺、および小腸は速やかに摘出し、脾臓および胸腺は重量を測定し、摘出した小腸は10%ホルマリン緩衝液で固定し、病理切片を作成した。
2)血清中のサイトカイン類および免疫グロブリン類の測定
血清中の卵白アルブミン特異的免疫グロブリンIgG、IgG1、IgG2a、IgAおよびIgEは卵白アルブミンをコーティングした96穴プレートおよび各種抗免疫グロブリン抗体を用いてELISA法で測定した。
3)小腸の免疫組織学的評価
ホルマリン固定した小腸切片を常法に従い、パラフィン包埋後、厚さ5μmの病理切片を作成した。その後、脱パラフィン処理を行って、CD4、CD8、INF-γ、IgA抗体を用いて免疫染色を行った。その後、CD4およびCD8陽性細胞数、INF-γおよびIgA分泌細胞数を計測した。
【0083】
2.結果
1)卵白アルブミン感作免疫反応時の体重、摂取量、全身反応性に及ぼすβ−グルカンの影響
β−グルカン摂取マウス群とコントロールマウス群の2週間後の体重推移、卵白アルブミン溶液摂取1週間の体重推移および卵白アルブミン腹腔内投与に免疫感作誘導における体重推移に対して、卵白アルブミンで感作していないマウス群(ノーマルマウス群)と比較して、体重の推移、卵白アルブミン投与(1次感作)後の体重の推移、卵白アルブミン腹腔投与(2次感作)後の体重推移に差は見られなかった。
1回目と2回目の卵白アルブミン腹腔投与による2次感作では、β−グルカン投与マウス群では、ノーマルマウス群(卵白アルブミンで感作していないマウス群)に比較して著しい摂餌量の低下が認められた。すなわち両者間では即時アレルギー症状が観察された。1回目の卵白アルブミン感作において、摂餌量はβ−グルカン投与マウス群はノーマルマウス群に比較して減少した。2回目の卵白アルブミン感作では、摂餌量はコントロールマウス群では低下し、1回目と同様のアレルギー症状が見られたが、β−グルカン投与マウス群(1.0%と0.5%含有餌)では、コントロールマウス群に比較して摂餌量は増加し、ノーマルマウス群に近い摂餌量を示した。すなわちアレルギー症状が劇的に緩和された。
1回目および2回の卵白アルブミン感作に伴う全身の反応性に関して、1回目および2回目の卵白アルブミン感作(2次感作)によって、マウスの振るえ、立毛、うずくまりの行動が顕著に観察された。1回目の卵白アルブミン感作によるマウスの振るえ、立毛、うずくまり行動は、12時間後の観察においても回復は認められず、β−グルカンの投与によって解消されなかった。2回目の卵白アルブミン感作によるマウスの振るえ、立毛、うずくまり行動は、β−グルカン(0.5%および1.0%含有混餌)の摂取によって、卵白アルブミン投与4時間後に平常の行動を示し、回復していることが判明した。
2)卵白アルブミン感作免疫反応時の脾臓と胸腺重量に及ぼすβ−グルカンの影響
脾臓重量は卵白アルブミン感作によって、ノーマル群(卵白アルブミン投与していないマウス)に比して増加した。一方、胸腺重量は低下した。β−グルカン投与マウス群では、コントロールマウス群に比して、β−グルカン1.0%混餌摂取群ではさらに脾臓重量を増加し、胸腺重量を低下した。この事実からβ−グルカン投与による脾臓からの免疫機能亢進が考えられる(表11)。
【0084】
【表11】

【0085】
3)卵白アルブミン感作による卵白アルブミン反応血中免疫グロブリン類産生(2次抗体産生)に及ぼすβ−グルカンの影響
卵白アルブミン感作による抗体産生(IgG,IgG1(Th1細胞由来免疫グロブリン)、IgG2a(Th2細胞由来免疫グロブリン)、IgAおよびIgE)は、ノーマルマウス群に比較して、コントロールマウス群では有意に増加し、卵白アルブミンの経口投与によって2次抗体産生が引き起こされ、免疫反応を引き起こしていることが判明した。また、IgG,IgG1、IgG2aおよびIgAの産生はβ−グルカン摂取によってもコントロールマウス群と比較して影響を与えなかった(表12)。
一方、アレルギー反応に関わるIgE産生は、β−グルカン投与マウス群(1.0%混餌)で低下が認められた(表12)。この事実はβ−グルカンが抗アレルギー作用を有する可能性が示唆された。
【0086】
【表12】

【0087】
4)卵白アルブミン感作による小腸免疫反応に及ぼすβ−グルカンの影響(免疫組織学的評価)
表13に示すように、卵白アルブミン摂取により、小腸内のリンパ球のCD4陽性細胞数とCD8陽性細胞数はコントロールマウス群に比して、β−グルカン摂取群(0.5%と1.0%混餌)で有意に増加した。この事実は卵白アルブミン感作による小腸内での免疫炎症反応をβ−グルカンがさらに増強していることを示し、異物への生体防御反応として作用している可能性を示唆している。すなわち、CD4のTh1細胞が活性化し、IFN-γなどを産生し、B細胞に働き免疫グロブリンを産生するとともに病原微生物などを排除している可能性がある。また、CD8陽性細胞数が増加したことは、腸管での過剰な免疫炎症反応の制御と過剰な抗原進入の排除をしている可能性がある。
また、CD4陽性細胞はTh1およびTh2細胞にみられ、ヘルパーT細胞を活性化していることを示している。β−グルカン投与群のIgA分泌細胞数が、コントロールマウス群に比して有意な差が見られなかったものの亢進している傾向がある。一方、CD8陽性細胞はTh1細胞の活性化により誘導されるキラーT細胞の活性化を示しており、CD8陽性数の増加がTh2細胞系に比してTh1細胞系を有意に活性化していることを示唆している。このことからβ−グルカンはアレルギー反応を抑制することが示唆される。
【0088】
【表13】

【0089】
結論)
以上の結果から、β−グルカンの摂取は食物抗原となる卵白アルブミンに対して、免疫反応に伴う炎症を制御し、生体防御反応を維持する機能があることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】2次元NMR(13C−1H COSY NMR)スペクトルを示す。
【図2】超音波照射後の粒度分布(メジアン径0.23μm)を示す。
【図3】溶解度とpHの関係(多糖濃度0.2%、25℃の場合)を示す。
【図4】溶解度と温度の関係(多糖濃度0.2%、pH4の場合)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−1,3−1,6−D−グルカンの水溶液であって、1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする該溶液のH NMRスペクトルが4.7ppmと4.5ppmの2つのシグナルを有し、該水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5%(w/v)における粘度が50cP([mPa・s])以下であることを特徴とするβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項2】
β−1,3−1,6−D−グルカンの分子量が1万〜50万である請求項1に記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項3】
一次粒子径が0.05〜2.0μmである微粒子β−1,3−1,6−D−グルカンを含む請求項1または2に記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項4】
β−1,3−1,6−D−グルカンのβ−1,3結合/β−1,6結合の結合比が0.5〜2.0である、請求項1〜3のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項5】
1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とするH NMRスペクトルにおけるβ−1,3結合とβ−1,6結合シグナルの積分比に基づく、β−1,3結合/β−1,6結合の結合比が1.0〜1.5である、請求項1〜3のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項6】
β−1,3−1,6−D−グルカンが硫黄含有基を有する請求項1〜5のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項7】
β−1,3−1,6−D−グルカンはオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物が菌体外に産生するβ−1,3−1,6−D−グルカンである請求項1〜6のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項8】
微生物がオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)である請求項7に記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項9】
微生物がオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株(寄託番号:FERM P-19285、国際寄託番号 FERM BP-10294)、またはオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A2株(寄託番号:FERM P-19286、国際寄託番号 FERM BP-10295)である請求項8に記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項10】
微生物を含まない請求項1〜9のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項11】
金属イオン濃度が120mg/100ml以下である請求項1〜10のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項12】
金属イオンがNaイオンおよびCaイオンである請求項11に記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液から微粒子β−1,3−1,6−D−グルカンを除去して得られるβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液から、水溶解β−1,3−1,6−D−グルカンを除去して得られる微粒子β−1,3−1,6−D−グルカン。
【請求項15】
請求項13により得られるβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液および請求項14により得られる微粒子β−1,3−1,6−D−グルカンを任意に配合して得られるβ−1,3−1,6−D−グルカン含有液。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を乾燥して得られる乾燥β−1,3−1,6−D−グルカン。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを有効成分とする抗悪性新生物剤。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを有効成分とする悪性新生物転移抑制剤。
【請求項19】
請求項1〜16のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを有効成分とするINF−γ産生剤。
【請求項20】
請求項1〜16のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを有効成分とするINF−γ産生に起因して抑制あるいは治癒される疾患の治療剤。
【請求項21】
請求項1〜16のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを有効成分とするアレルギー抑制剤。
【請求項22】
請求項1〜16のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを有効成分とするマクロファージ活性化剤。
【請求項23】
請求項1〜16のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを含有する健康食品あるいは健康増進剤。
【請求項24】
請求項1〜16のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを含有する外用剤。
【請求項25】
請求項1〜16のいずれかに記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを含有する化粧品。
【請求項26】
β−1,3−1,6−D−グルカンを含む微生物培養液にアルカリ、またはその水溶液を加え、pHを12以上とし該培養液を低粘度化した後、微生物を含む不溶物を分離除去し、更に金属イオン濃度が120mg/100ml以下になるように該金属イオンを除去することを特徴とするβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液の調製方法。
【請求項27】
金属イオンがNaイオン濃度およびCaイオンである請求項26に記載のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液の調製方法。
【請求項28】
請求項1〜10のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を透析濃縮し、その濃縮液にアルコール類を添加しβ−1,3−1,6−D−グルカンを析出させ、得られるβ−1,3−1,6−D−グルカン/アルコール/水からなるスラリーを分液し、沈降スラリーを噴霧乾燥することを特徴とする高純度β−1,3−1,6−D−グルカン粉末の調製方法。
【請求項29】
請求項1〜10のβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を透析後、更に減圧濃縮し、次いで濃縮液を噴霧乾燥することを特徴とする高純度β−1,3−1,6−D−グルカン粉末の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−104439(P2006−104439A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88793(P2005−88793)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】