説明

アイドルストップ車両の触媒温度推定装置

【課題】アイドルストップが行われる場合にも、凝縮水の影響を考慮して、触媒温度を正確に推定できるようにする。
【解決手段】機関始動時からの吸気流量を積算して吸気流量積算値SUMQIを算出する(S12)。アイドルストップ中は、所定時間ΔTが経過するまで蒸発水が新たに発生(増加)しないと判断して、吸気流量積算値SUMQIをアイドルストップ開始時の値に保持し(S15)、所定時間ΔTが経過すると吸気流量積算値SUMQIを0にリセットする(S14)。吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLを超えているときには、蒸発水が既に蒸発していると判断し、触媒温度に関連する車両運転状態に応じて触媒温度を推定し(S17)、判定値SQASL以下であれば、蒸発水が残存していると判断して、触媒温度を外気温相当値に保持する(S18)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップ車両における内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、内燃機関の排気通路に設けられた触媒が劣化した状態で機関運転が継続されることを防止するために、触媒の劣化の検出・診断が従来より行われている。この種の触媒劣化診断としては、例えば触媒の上流側と下流側にそれぞれ空燃比センサ(あるいは酸素センサ)を設け、上流側の空燃比センサの出力信号に基づいて空燃比フィードバック制御を実行するとともに、触媒の劣化度合いと酸素ストレージ能力(OSC)とが十分な相関関係にあることから、両センサの出力信号の比較から触媒の劣化を診断する方法などがある。このように触媒劣化診断は、触媒が活性化している状態、すなわち触媒温度が触媒の活性温度を超えている状態で行う必要がある。
【0003】
但し、このような触媒活性判定に用いる触媒温度を直接的に検知する触媒温度センサを設けると、部品点数の増加やコストの増加などを招くため、このような専用の触媒温度センサを具備していないものも多く、例えば上記の特許文献1における実施形態(3)では、機関停止後の停止時間と機関停止時の触媒温度と吸気温度(又は冷却水温度)とに基づいて機関始動時の触媒温度を推定し、この機関始動時の触媒温度を基準として、機関始動後の触媒温度を、機関回転数や吸気流量や車速などの触媒温度に関連する運転状態を勘案して推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−310612号公報 段落[0064]−[0077]、図13等
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機関始動時、特に寒冷環境下での冷機始動時では、排気管内部の結露により生じる水分、いわゆる凝縮水が触媒へ流入し、この凝縮水の蒸発時に奪われる気化熱によって触媒温度が低下する。このような凝縮水による温度低下分を正確に把握することは極めて困難であるため、吸入空気量や機関回転数や車速などの触媒温度に関連する運転状態から触媒温度を正解に推定することができない。
【0006】
従って、このように機関始動直後の凝縮水が残存し得る状況では、触媒温度を例えば機関始動時における外気温相当の値に固定して触媒温度の推定を行わず、凝縮水が蒸発して無くなるのを待ってから、触媒温度に関連する運転状態に基づいて触媒温度の推定を開始することで、残存する凝縮水の影響によって触媒温度の推定が不正確になることを抑制・回避することができる。凝縮水の有無は、例えば機関始動時からの吸気流量(触媒を通流する空気流量)を積算し、この吸気流量積算値が所定の判定値を超えた時点で、凝縮水が無くなったと判定する。
【0007】
しかしながら、信号待ちなどの所定のアイドルストップ条件が成立すると内燃機関を自動的に停止するアイドルストップを行うアイドルストップ車両の場合には、運転状況に応じてアイドルストップ時間がその都度異なることから、例えば寒冷環境であっても必ずしも凝縮水が発生するとは限らず、触媒温度の推定に際し、以下のような新たな問題が生じる。
【0008】
例えばアイドルストップ時に触媒温度の推定値を一時的に保持し、アイドルストップからの再始動時に触媒温度の推定を再開すると、アイドルストップ時間が長くなって凝縮水が再び発生した場合に、この新たに発生した凝縮水の影響による温度低下分が反映されず、触媒温度の推定値が実際の触媒温度を上回ることがある。この場合、実際には触媒が活性していないにもかかわらず触媒が活性していると誤判定され、排気エミッションの悪化を招くとともに、正確な触媒劣化診断を行うことができない。
【0009】
一方、アイドルストップ時に凝縮水の発生を見込んで触媒温度を外気温相当にリセットし、アイドルストップからの再始動時に触媒温度の推定を再び開始すると、凝縮水が新たに生じることのないような短い単発的なアイドルストップの場合であっても触媒温度がリセットされるために、触媒温度の推定値が実際の触媒温度よりも大幅に低くなる。このように触媒温度推定値の低下側への乖離が大きくなると、触媒劣化診断の頻度・機会が低下し、また、触媒昇温制御が不必要に行われることによる排気性能や燃費性能が低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、所定のアイドルストップ条件が成立すると内燃機関を自動的に停止するアイドルストップを行うとともに、このアイドルストップ中に所定の再始動条件が成立すると内燃機関を自動的に再始動するアイドルストップ車両において、内燃機関の排気通路に設けられた触媒の触媒温度を推定する触媒温度推定手段と、上記触媒温度の推定値が所定の触媒活性温度以上であるときに、触媒の診断を行なう触媒診断手段と、機関始動時からの吸気流量を積算して吸気流量積算値を算出する吸気流量積算手段と、を有し、上記吸気流量積算手段は、アイドルストップの開始から所定時間、上記吸気流量積算値をアイドルストップ開始時の値に基づく値にするとともに、上記所定時間を経過すると、上記吸気流量積算値を初期値にリセットし、上記触媒温度推定手段は、吸気流量積算値が所定の判定値を超えているときに、触媒温度に関連する上記内燃機関の運転状態に応じて上記触媒温度を推定する、ことを特徴としている。
【0011】
つまり本発明においては、触媒を含む排気系に凝縮水が残存しているか否かを、吸気流量積算値と判定値との比較により判別しており、判定値を超える場合には凝縮水が残っていないと判断して触媒温度の推定を行い、判定値以下の場合には、凝縮水が残存していると判断して、基本的には触媒温度の推定を行わず、例えば触媒温度を外気温相当値に固定する。そして、この吸気流量積算値を、アイドルストップの長さに応じて保持あるいはリセットしている。すなわち、アイドルストップが所定時間を経過するまでは、触媒温度の推定に悪影響を与える(誤差を生じさせる)ほどには凝縮水が発生・増加していないと判断して、吸気流量積算値を開始時の値に保持し、アイドルストップが所定時間を経過すると、触媒温度の推定に悪影響を与えるほどに凝縮水が再び発生・増加していると判断して、吸気流量積算値を初期値、例えば0にリセットする。このように本発明では、アイドルストップの長さに応じて、触媒温度そのものではなく、吸気流量積算値の保持あるいはリセットを行うようにしているため、触媒温度の推定が既に開始している(つまり、機関始動後に凝縮水が一旦蒸発している)か否かにかかわらず、アイドルストップの影響による排気系内の凝縮水の残存状況を吸気流量積算値に正確に反映させることができる。従って、この吸気流量積算値に応じて触媒温度の推定開始やリセットを行うことで、アイドルストップによる凝縮水の影響を精度良く触媒温度に反映させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アイドルストップの長さに応じた凝縮水の発生や増加を考慮して吸気流量積算値を保持あるいはリセットし、この吸気流量積算値に応じて、触媒温度に関連する車両運転状態に応じた触媒温度の推定を行うか否かを判定するようにしたので、凝縮水の影響による触媒温度の推定精度の低下を抑制し、ひいては触媒劣化診断の精度や機会・頻度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例に係るアイドル車両の触媒温度推定装置を示すシステム構成図。
【図2】上記実施例の触媒温度の推定制御の流れを示すフローチャート。
【図3】外気温によるアイドルストップの所定時間の設定テーブルを示す特性図。
【図4】触媒温度の推定値と外気温相当値との切換処理を簡略的に示す説明図。
【図5】第1の運転シーンにおける触媒温度や吸気流量積算値等の変化を示すタイミングチャート。
【図6】第2の運転シーンにおける触媒温度や吸気流量積算値等の変化を示すタイミングチャート。
【図7】第3の運転シーンにおける触媒温度や吸気流量積算値等の変化を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい一実施例について、図面を参照して説明する。図1を参照して、内燃機関11の吸気通路12には、吸気ポートへ向けて燃料を供給する燃料噴射弁14が気筒毎に配設されているとともに、スロットル弁15が介装されており、その上流側に、吸入空気量を検出する例えば熱線式のエアフロメータ16が配設されており、このエアフロメータ16に吸気温を検出する吸気温センサが内蔵されている。
【0015】
排気通路13には、三元触媒17が介装されている。なお、この三元触媒17よりも下流側に、下流側の三元触媒17Aを設けるようにしても良い。触媒17の上流位置に上流側の空燃比センサ18が、下流位置に下流側の空燃比センサ19がそれぞれ配設されている。これらの空燃比センサ18,19は、排気中の残存酸素濃度に応じた起電力を発生するもので、特に、理論空燃比を境に起電力がステップ状に急変する特性を有している。
【0016】
また、内燃機関11には、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサ20が配設されている。クランク角センサ21は所定クランク角毎にパルス信号を発しており、機関回転数を検出するために設けられている。なお、本実施例においては、主に簡素化及び低コスト化のために、触媒17の下流側の排気通路13には、排気温度や触媒温度を検出するためのセンサが設けられておらず、後述するように、触媒温度は、相関の高い吸入空気量などの運転状態に基づいて推定される。
【0017】
上述した各種センサの検出信号が入力されるコントロールユニット23(制御部)は、マイクロコントローラを主体として構成され、空燃比センサ18,19に基づく燃料噴射弁14の噴射量制御、すなわち、フィードバック制御方式による空燃比制御を実行するとともに、触媒の劣化診断を行い、劣化有りと判定した場合には警告灯24を点灯させるように構成されている。
【0018】
本実施例の触媒劣化診断装置において、触媒劣化有無の判定に用いる指標値(触媒の劣化度合いを示す値)は、従来のものを適用することができる。例えば上流側の空燃比センサ18の出力信号のリッチ,リーンの反転周期をT1、下流側の空燃比センサ19の出力信号のリッチ,リーンの反転周期T2としたときに、周期T2と周期T1との比(T2/T1)を指標値として求め、この比が閾値以下となったときに触媒の劣化有りと判定する。ここで、内燃機関11(エンジン)の始動後、常時触媒17の状態(活性状態におけるリッチ状態またはリーン状態)をモニタしており、その触媒状態に応じて、触媒劣化判定に用いる閾値を逐次更新していく。なお、本実施例の触媒劣化診断装置の指標値はこれに限られない。
【0019】
図2は、上記のコントロールユニット23により記憶及び実行される触媒温度の推定処理の流れを示すフローチャートである。本ルーチンで推定された触媒温度を用いて触媒の活性状態が判定され、すなわち、推定された触媒温度が所定の活性温度に達していれば触媒が活性状態にあると判定され、この触媒の活性中に上述したような触媒の劣化診断が行われることとなる。尚、この様な触媒温度の推定値は、診断の実施ができる温度範囲に触媒があることを保証する、すなわち、活性化していないときに診断を実施して誤った故障判定が成されないようにする為のものだから、推定精度が良いのみならず、常に実際の触媒温度を上回ることが無いようになっていなければならない。つまり、実際の触媒温度を上回ることが無い範囲で、実際の触媒温度をできるだけ近似している必要がある。このような推定温度に基づけば、推定値が実際の温度を上回ることが無いので触媒が非活性のときに診断を行なって誤診断することを防ぎ、実際の温度を良く近似しているため触媒診断の機会を逃すことを少なくすることができる。
【0020】
本実施例が適用される車両は、信号待ちなどで所定のアイドルストップ条件が成立すると、内燃機関を自動的に停止するアイドルストップを行うとともに、このアイドルストップ中に所定の再始動条件が成立すると内燃機関を自動的に再始動するものである。上記のアイドルストップ条件は、例えば、ブレーキペダルが踏み込まれており、アクセルペダルが踏み込まれておらず、かつ、バッテリ蓄電量が所定量以上残っていることなどである。再始動条件は、アイドルストップ中にブレーキペダルが開放されること、あるいはバッテリ蓄電量が所定量未満に低下することなどである。
【0021】
なお、本明細書における「アイドルストップ車両」とは、本実施例のように車両駆動源として、若干の車両駆動が可能な機関始動用のスタータモータを除けば内燃機関11のみを具備するものの他、例えば車両駆動源として内燃機関とモータを併用するハイブリッド車両も含まれる。このようなハイブリッド車両では、モータ走行状態のように内燃機関を自動停止してモータにより走行を行うことも可能である。本明細書の実施例における「アイドルストップ」とは、基本的に、車両停止状態(車速が0の状態)で内燃機関が自動停止している状態を意味しているが、ハイブリッド車両でのモータ走行状態における内燃機関の自動停止もこれに含み得る。
【0022】
ステップS11では、アイドルストップ中であるか、つまり機関停止中であるかを判定する。機関実動中であれば、ステップS11が否定されてステップS12へ進み、吸気流量積算値SUMQIを積算する。この吸気流量積算値SUMQIは、判定値SQASLとの比較(ステップS16参照)により触媒17を含む排気系に凝縮水が残存しているか否かを判別するための指標値として用いられるものであり、イグニッションキーによる最初の機関始動時に初期値である0に初期化され、この機関始動時からの吸気流量を積算した値に相当する。つまり吸気流量積算値SUMQIは、機関実動中に触媒17が設けられた排気通路13を通流した空気(排気)の総量に相当し、例えばエアフロメータ16により検出される吸入空気量を積算することにより求められる。
【0023】
ステップS13〜S15の処理が本実施例の要部をなすもので、アイドルストップの長さに応じて、排気系に凝縮水が残存しているかの指標値である吸気流量積算値SUMQIを保持あるいは初期値(0)にリセットして、アイドルストップによる凝縮水の再発生や増加の影響を吸気流量積算値SUMQIに反映させている。
【0024】
具体的には、アイドルストップ(機関停止)中であれば、ステップS11からステップS13へ進み、アイドルストップの開始時期からの経過時間つまりアイドルストップ時間が、所定時間ΔTを経過したかを判定する。この所定時間ΔTは、機関停止中に触媒を含む排気系の温度が低下していくことで、排気系に凝縮水が再び発生・増加して、触媒温度の推定に悪影響を与えるようになる時間に相当するものである。機関停止時における触媒を含む排気系の温度は外気温と高い相関関係にあるために、図3に示すように、上記の所定時間ΔTは外気温に応じて設定され、詳しくは、外気温が高いときに長くなるように、外気温にほぼ比例する形で設定され、この実施例では150〜300秒程度の値に設定される。
【0025】
なお、この実施例では、エアフロメータ16に内蔵される吸気温センサの検出信号などから外気温を推定しているが、センサにより直接的に外気温を検出するようにしても良い。また、この実施例では触媒温度に相関の高い指標値として外気温を用いているが、これに代えて水温センサ20により検出されるエンジン水温を用いても良く、あるいは、排気温度センサが設置されている場合には、この排気温度センサによる排気温度を外気温に代えて用いても良い。
【0026】
アイドルストップが所定時間ΔTを経過していれば、ステップS13からステップS14へ進み、触媒温度の推定に悪影響を与えるほどに凝縮水が発生・増加すると判断して、吸気流量積算値SUMQIを初期値である0「ゼロ」にリセットする。なお、この初期値は、必ずしも0である必要はなく、例えば流量や温度のばらつき等を勘案して0近傍の適宜な初期値に設定することもできる。また、本実施例では制御の簡素化のために、このアイドルストップ中のリセット時にも機関始動時と同じ初期値「0」を用いているが、必ずしも同じ値である必要はなく、例えばアイドルストップ中のリセット時には周囲温度の上昇分等を加味して機関始動時よりも初期値を高く設定するようにしても良い。
【0027】
一方、アイドルストップの継続時間が所定時間ΔT以内であれば、触媒温度の推定に悪影響を与えるほどには凝縮水が新たに発生・増加しないと判断して、ステップS13からステップS15へ進み、上記の吸気流量積算値SUMQIを、アイドルストップの開始時点での吸気流量積算値SUMQIに保持・固定する。つまり、アイドルストップ中には、吸気通路や排気通路に空気が通流することがないために、吸気流量積算値SUMQIを積算したりリセットすることなく、アイドルストップの開始時点の値に固定する。尚、所定時間ΔT以内の吸気流量積算値SUMQIは必ずしもアイドルストップの開始時点での吸気流量積算値SUMQIに一定保持・固定する必要はなく、アイドルストップの開始時点での吸気流量積算値SUMQIに基づく値、例えば、触媒温度が緩やかに低下することを考慮して、時間に対する減少の割合を一定に徐々に減少する値に設定しても良い。
【0028】
そして、ステップS16では、上記のステップS12,S14,S16により設定・更新された吸気流量積算値SUMQIが、所定の判定値SQASLを超えているかを判定する。この判定値SQASLは、排気系に生じた凝縮水を蒸発させ得るだけの吸気流量(排気流量)の総量に相当する値であって、予め適合・設定される値である。
【0029】
吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLを超えていれば、凝縮水が既に蒸発しており、凝縮水による触媒温度の推定に悪影響を与えることがないと判断して、ステップS17へ進み、触媒温度に相関の高い車両運転状態に基づいて触媒温度を推定する。例えば図4に示すように、エンジン水温、燃料噴射量、機関回転数(エンジン回転数)及び吸入空気量などの機関運転状態を表す各種パラメータと、車両運転状態としての車速などに基づいて、触媒温度を推定する。つまり、機関負荷(あるいは燃料噴射量や排気温度、以下同様)と機関回転数(排気流量)に基づいて触媒へ供給される熱量を算出するとともに、吸入空気量(排気流量)による熱伝導、車速による走行風、エンジン水温による補正を加味して、触媒温度の推定値が演算される。基本的には、触媒温度の推定値は、エンジン水温,燃料噴射量,エンジン回転数及び吸入空気量が大きくなるほど高くなり、車速が速くなるほど低くなるように演算される。
【0030】
なお、触媒温度の推定としては、これに限られず、例えば排気の温度を検出する排気温度センサを具備する構成の場合であれば、主として排気温度に基づいて触媒温度を推定するようにしても良い。
【0031】
一方、吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASL以下であれば、排気系に凝縮水が残存しており、この凝縮水の影響により正確な触媒温度の推定ができないと判断して、ステップS16からステップS18へ進み、外気温に基づく外気温相当値を触媒温度とする。つまり、吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASL以下であることを含む所定条件下では、上述したような車両運転状態に応じた触媒温度の推定を行わず、触媒温度を、外気温度に応じた外気温相当値に固定する。
【0032】
なお、本実施例では、簡易的に、吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLであることのみを条件として触媒温度を外気温度に応じた外気温相当値に固定しているが、これに限らず、例えばアイドルストップ中に吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASL以下に低下した場合には、触媒温度(外気温度)の低下を考慮して、このアイドルストップからの自動再始動時に触媒温度を外気温度に応じた外気温相当値に固定するようにしても良い。すなわち、触媒の診断が行なわれる内燃機関の運転中において、上記吸気流量積算値が判定値以下のときに、上記触媒温度の推定値を、上記外気温度に応じた外気温相当値とすることができる。
【0033】
また、本実施例においては、簡易的に、アイドルストップの開始時(機関停止時)の外気温を、外気温相当値として用いているが、これに限らず、例えば現在の外気温を外気温相当値として用いるようにしても良い。また、実際の触媒温度により近い排気温度を検出する排気温度センサを搭載するものでは、外気温相当値として、この排気温度センサの値を用いるようにしても良い。
【0034】
図5〜図7は、代表的な3つの運転シーンにおける触媒温度や吸気流量積算値SUMQI等の変化を示すタイミングチャートである。図中、触媒温度の特性tCATは実際の触媒温度を表している。更に、時刻t1はイグニッションキー操作による初回の機関始動時を表しており、ΔITはアイドルストップ中の期間を表している。また、触媒温度と吸気流量積算値SUMQIの実線の特性は上記実施例を適用した場合のものであり、破線の特性は比較例の特性を表している。
【0035】
図5は、機関始動後に吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLに達する前に、所定時間ΔTを超える長いアイドルストップΔITが行われる運転シーンを示している。このように所定時間ΔTを超える長いアイドルストップΔITが行われた場合には、排気系の温度が低下し、排気系内の水分(凝縮水)が触媒温度の推定に悪影響を与えるほどに発生・増加していくことから、本実施例においては、アイドルストップΔITが所定時間ΔTを超えた時点t2で、吸気流量積算値SUMQIを初期値の0にリセットしている。これによって、長いアイドルストップにより再び増加した凝縮水の影響によって触媒温度の推定が大幅にばらつくことを回避することができる。つまり、凝縮水が残存している状況で触媒温度の推定が開始することを避け、凝縮水の蒸発による温度低下の影響により、触媒推定温度が実際の触媒温度tCATを上回るような事態を回避することができる。
【0036】
一方、破線の特性で示される比較例ではアイドルストップΔITの期間中、吸気流量積算値SUMQIをアイドルストップ開始時の値に固定し、機関再始動時に吸気流量積算値SUMQIの積算を再開する場合を示している。このような比較例では、触媒内水分の影響で実際の触媒の温度上昇が鈍いにも関わらず、吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLを超えるt3のタイミングで触媒温度の推定が開始されてしまうので、図中F1で示すように、触媒温度の推定値が実際の触媒温度を超えてしまう恐れがある。
【0037】
本実施例では、触媒内水分の影響を考慮して吸気流量積算値SUMQIをリセットするので、触媒温度の推定値が実際の触媒温度を超えることがなく、触媒が活性化していないにも関わらず診断が行なわれて誤診断することを回避することができる。
【0038】
図6は、機関始動後に吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLに達する前に一度目の短いアイドルストップΔIT1があり、その後に、2度目のアイドルストップΔIT2が行われる運転シーンを表している。同図に示すように、本実施例では、いずれのアイドルストップΔIT1,ΔIT2においても、アイドルストップ時間が所定時間ΔTに達する前にアイドルストップが終了しているために、吸気流量積算値SUMQIがアイドルストップ開始時の値に保持されている。これに対し、比較例では、アイドルストップΔITの開始時に吸気流量積算値SUMQIを0に初期化した場合を示しており、アイドルストップΔITからの機関自動再始動時に、イグニッションキー操作による機関始動時と同様に、吸気流量積算値SUMQIの積算を開始している。アイドルストップΔIT1,ΔIT2毎(t4,t6)に吸気流量積算値SUMQIが0にリセットされるために、本実施例に比して吸気流量積算値SUMQIが大幅に低いものとなっている。
【0039】
ここで、機関始動開始時点t1から吸気流量積算値SUMQIの増加(つまり、排気温度の増加)に応じて触媒内の水分(凝縮水)は蒸発により徐々に低下していくが、吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLに達する前に短い単発的なアイドルストップΔIT1が行われても、排気系の温度低下はわずかなものであるために、触媒内の水分(凝縮水)が再び増えることはほとんど無いにもかかわらず、比較例のようにアイドルストップ毎に吸気流量積算値SUMQIを0にリセットすると、実際には十分な吸気流量(排気量)により蒸発水が全て蒸発した状況であっても、吸気流量積算値SUMQIの値が判定値SQASLに達することができず、触媒温度が外気温相当値に固定されたままとなることで、実際の触媒温度tCATとの乖離が大きくなる。図6の比較例ではいつまでたっても触媒温度の推定が始まらない。
【0040】
これに対し本実施例では、上述したように排気温度の大幅な低下を伴わない程度の短期間(つまり、所定時間ΔT以内)のアイドルストップであれば、吸気流量積算値SUMQIをリセットすることなく保持するようにしたために、比較例のように吸気流量積算値SUMQIの値が必要以上に低くなることがなく、この吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLに達した時点t5で、触媒温度の推定を適切に開始することで、実際の触媒温度tCATとの乖離を比較例に比して十分に小さく抑制することができる。これにより触媒の診断機会を得損ねることを減少させられる。
【0041】
図7は、機関始動後t1に吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLを超えて、触媒温度の推定を一旦開始した後に(t7)、所定時間ΔTを超える長いアイドルストップΔITが行われる運転シーンを示している。同図に示すように、比較例では、一旦吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLを超えると、再度凝縮水が発生・増加する状況を想定しておらず、吸気流量積算値SUMQIを参照することなく、アイドルストップΔIT中にも触媒温度の推定を継続しているため、この凝縮水が蒸発する際の触媒温度低下分が考慮されておらず、符号F2に示すように、触媒温度の推定値が実際の触媒温度を上回るおそれがある。
【0042】
これに対して本実施例では、触媒温度の推定開始後、つまり凝縮水が一旦蒸発した状況であっても、所定時間ΔTを超えるような比較的長いアイドルストップΔITが行われると、再び排気系に蒸発水が生じることを考慮して、吸気流量積算値SUMQIを0にリセットしている(t8)。つまりアイドルストップの長期化により再度発生した凝縮水の影響を吸気流量積算値SUMQIに反映させている。この結果、吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLを下回り、再び吸気流量積算値SUMQIが判定値SQASLを超えるまで、触媒温度が外気温相当値に固定される。このため、アイドルストップの長期化により再度発生した凝縮水の影響により触媒温度の推定がばらつくことがなく、比較例のように推定値が実際の触媒温度よりも高くなるという事態を回避することができる。
【0043】
以上のように本実施例によれば、機関始動時からの吸気流量を積算した値である吸気流量積算値SUMQIと判定値SQASLとの比較により排気系内に凝縮水が残存するかを判別しており、この吸気流量積算値SUMQIを、触媒温度の推定が行われているか否かにかかわらず、アイドルストップの長さに応じて保持あるいはリセットするという簡素な制御処理の追加によって、この吸気流量積算値SUMQIにアイドルストップによる凝縮水の増減の影響を良好に反映させることができる。従って、この吸気流量積算値SUMQIに基づいて触媒温度の推定開始やリセットを行うことで、アイドルストップによる凝縮水の増減の影響をも反映させた形で触媒温度を推定することができ、上述したような様々な運転シーンにおいて、触媒温度を実際の触媒温度よりも低く抑制しつつ、実際の触媒温度からの乖離を十分に低く抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1…内燃機関
12…吸気通路
13…排気通路
14…燃料噴射弁
15…スロットル弁
16…エアフロメータ
17,17A…触媒
18,19…空燃比センサ
20…水温センサ
23…コントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のアイドルストップ条件が成立すると内燃機関を自動的に停止するアイドルストップを行うとともに、このアイドルストップ中に所定の再始動条件が成立すると内燃機関を自動的に再始動するアイドルストップ車両において、
内燃機関の排気通路に設けられた触媒の触媒温度を推定する触媒温度推定手段と、
上記触媒温度の推定値が所定の触媒活性温度以上であるときに、触媒の診断を行なう触媒診断手段と、
機関始動時からの吸気流量を積算して吸気流量積算値を算出する吸気流量積算手段と、を有し、
上記吸気流量積算手段は、アイドルストップの開始から所定時間、上記吸気流量積算値をアイドルストップ開始時の値に基づく値にするとともに、上記所定時間を経過すると、上記吸気流量積算値を初期値にリセットし、
上記触媒温度推定手段は、吸気流量積算値が所定の判定値を超えているときに、触媒温度に関連する上記内燃機関の運転状態に応じて上記触媒温度を推定する、
ことを特徴とするアイドルストップ車両の触媒温度推定装置。
【請求項2】
上記所定時間は、外気温が低いときに外気温が高いときに比べて短くなるように、上記外気温に応じて設定されることを特徴とする請求項1に記載のアイドルストップ車両の触媒温度推定装置。
【請求項3】
外気温を検出あるいは推定する外気温検出手段を有し、
上記触媒温度推定手段は、上記吸気流量積算値が判定値以下のときに、上記触媒温度の推定値を、上記外気温度に応じた外気温相当値とすることを特徴とする請求項1または2に記載のアイドルストップ車両の触媒温度推定装置。
【請求項4】
上記触媒温度推定手段は、触媒の診断が行なわれる内燃機関の運転中において、上記吸気流量積算値が判定値以下のときに、上記触媒温度の推定値を、上記外気温度に応じた外気温相当値とすることを特徴とする請求項3に記載のアイドルストップ車両の触媒温度推定装置。
【請求項5】
上記所定時間は、アイドルストップの開始から排気通路に凝縮水が発生するまでの時間に対応して設定されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアイドルストップ車両の触媒温度推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−21490(P2012−21490A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161141(P2010−161141)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】