説明

アキシャルギャップモータ及びそれを用いたファン装置

【課題】
高効率,低コスト,低騒音なアキシャルギャップモータ及びファン装置を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、アキシャルギャップモータの固定子鉄心をアモルファス金属リボンを巻き取ることによって形成することを特徴とし、モータの高効率,簡易構造による生産性向上,コスト低減を実現するものである。また、アモルファス金属リボンを巻取り後、切断することによって固定子鉄心を形成することも可能であり、モータの高効率化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス金属を用いたアキシャルギャップモータ及びそれを用いたファン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーと環境問題の観点よりモータの高効率化が求められている。モータの高効率化は電磁鋼板や磁石材料などの材料特性の向上と共に達成されてきた。その中で、アモルファス金属は高透磁率,低損失を特徴としておりモータの高効率化への貢献が期待できる。アモルファス金属をモータに用いる形態として、生産性の良い極力加工を施さない簡易構造やモータ効率を向上させる構造が求められる。
【0003】
特許文献1及び2には、アモルファス金属を積層することにより固定子鉄心を形成することが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、極力加工を施さない固定子鉄心を用いたアキシャルギャップモータの例が開示されており、電磁鋼板を巻回して固定子鉄心を形成する方法について提案されている。
【0005】
【特許文献1】特表2006−516877号公報
【特許文献2】特表2002−518975号公報
【特許文献3】特開2007−104795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータの高効率化には低損失・高透磁率が特徴のアモルファス金属の適用が有効である。しかし、アモルファス金属は飽和磁束密度が低いためスロットティースモータのティース先端部など極端に磁束密度が高くなる箇所への適用は逆にモータ特性を低下させかねない。また、アモルファス金属は薄く,硬く,脆いため、電磁鋼板のように打ち抜きによる加工等が困難である。
【0007】
そこで、本発明では、スロットティースモータのティース先端部など極端に磁束密度が高くなる箇所が存在しない構造とし、さらに、極力加工を施さない簡易固定子鉄心構造とすることにより、高効率、且つ生産性の良い低コストなアキシャルギャップモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアキシャルギャップモータは、リボン状のアモルファス金属を巻回することで形成された固定子鉄心に、固定子巻き線が巻回された固定子と、永久磁石を有する回転子とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉄損低減による高効率,簡易構造による低コスト,コギングトルク・トルクリプル低減による低騒音なアキシャルギャップモータ並びに、高効率,低コスト,低騒音ファン装置を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のアキシャルギャップモータは、リボン状のアモルファス金属を巻回することで形成された固定子鉄心に、固定子巻き線が巻回された固定子と、永久磁石を有する回転子とを有することを特徴とする。
【0011】
その際に、固定子鉄心にスリットを有し、そのスリットを固定子の外周部に設けることを特徴とする。
【0012】
また、リボン状のアモルファス金属間に絶縁物を挟むことを特徴とし、固定子鉄心の巻き芯部の空隙に、磁性体を有することを特徴とする。
【0013】
さらに、リボン状のアモルファス金属を巻回する際に、リボン状のアモルファス金属の折り曲げ角部の半径が1mm以下であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のアキシャルギャップモータは、巻回したリボン状のアモルファス金属を切断することにより形成された固定子鉄心に、固定子巻き線を巻回した固定子と、永久磁石を有する回転子とを有することを特徴とする。
【0015】
その際に、固定子巻き線の折り曲げ角部の半径が1mm以下であることを特徴とし、固定子巻き線が薄板状であることを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明のアキシャルギャップモータは、複数個の回転子を有し、複数個の回転子が有する永久磁石が、異なった残留磁束密度を有することを特徴とし、複数個の回転子と固定子との間隔が、異なることを特徴とする。
【0017】
以上の通り、本発明は、アキシャルギャップモータの固定子鉄心をリボン状のアモルファス金属を巻取ることによって形成し、モータの高効率、簡易構造による生産性向上、コスト低減を実現するものである。また、アモルファス金属リボンを巻取り後、切断することによって固定子鉄心を形成することも可能である。さらに、固定子鉄心形成後、固定子鉄心に渦電流防止スリットを設けることで損失の増加を防止し、アモルファス金属の特徴である高透磁率・低損失を活かしたモータの高効率化が可能となる。
【0018】
尚、アモルファス金属を巻回する際、アモルファス金属間に絶縁物を挟むことでも渦電流損失を防止できる。さらに、固定子鉄心の形状を簡単に扁平形状とすることができ、扁平形状により、モータのコギングトルク・トルクリプルの低減が可能となる。
【0019】
以下、本発明の一実施例について図を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1に本発明の第1実施例であるアキシャルギャップモータを示す。本実施例のアキシャルギャップモータは複数個の固定子鉄心と固定子巻き線を有する固定子100と永久磁石3を有する回転子200からなる。回転子200は図1に示すように、固定子100の上下両側に配置される場合と、片側のみに配置される場合がある。
【0021】
固定子鉄心1は図2に示すようにリボン状のアモルファス金属を巻回することで形成され、図3(a)や図3(b)に示す扇形の形状となる。その後、図4のように固定子鉄心1の外周に固定子巻き線2を巻回し、固定子100となる。また、固定子鉄心1と固定子巻き線2の間には、樹脂製のコイルボビンや絶縁テープなどで固定子鉄心1と固定子巻き線2の絶縁が保たれている。
【0022】
本実施例では、更に、図5に示すように渦電流防止スリット6を設ける。コーティングが施されないアモルファス金属をモータの固定子鉄心として用いる場合、渦電流損失が増大するが、渦電流防止スリット6を設けることで渦電流の発生を抑制でき低損失な鉄心を提供することができる。また、図6のような扁平形状も簡単な巻き構造で提供することができ、モータのコギングトルクやトルクリプルを低減でき低騒音なモータを提供できる。
【0023】
本実施例では固定子鉄心を巻回する際の固定子鉄心巻き芯部の空洞5が生じるが、空洞を圧粉磁心などの磁性体で満たすことで固定子鉄心の磁束が通る断面積を増加させモータ効率を向上させることができる。
【0024】
また、リボン状のアモルファス金属を巻回することで形成された固定子鉄心1の折り曲げ角部7の半径が1mm以下とすることで、固定子領域における固定子鉄心の割合が多くなり、モータ効率を向上させることができる。
【実施例2】
【0025】
次に、本発明の第2実施例である固定子鉄心の製造方法について述べる。図8に示す様に、リボン状のアモルファス金属を巻回する。その後、接着剤などを含浸し、図9に示すように任意の分割数に切断することで図10に示す巻き鉄心切り出し固定子鉄心9が得られる。また、図11の様に巻き鉄心切り出し固定子鉄心9の外周に固定子巻き線2を巻回し、固定子100となる。本実施例では、更に、図12に示すように渦電流防止スリット6を設けることで、渦電流損失の増大を防ぐことができる。
【0026】
このように、巻回した後に単純な加工のみで固定子鉄心を得ることができるとともに、実施例1の様に巻回のみで鉄心を得る場合には避けられない固定子鉄心巻き芯部の空洞5や固定子鉄心の折り曲げ角部が存在しない高効率な固定子鉄心を提供することができる。さらに、本実施例では図13の様に、分割したい分割数の2倍の数だけ切断し、図14の様に2個一組で使用し、図15の様に固定子巻き線2を巻回することで固定子100を提供することができる。このように、2個一組で用いることで、1つの加工条件のみの加工で渦電流抑制が得られる固定子鉄心を製造することができ、単純加工で低コスト,高効率な固定子鉄心を提供することができる。
【0027】
また、図16の様に、扁平な扇形形状となる様に切断することで、コギングトルク・トルクリプルを低減できる図17に示す扁平形状の固定子鉄心を簡単に製造することができる。
【0028】
本実施例では固定子鉄心の材質はアモルファス金属に限らず、電磁鋼板等薄板の磁性体に変更することができる。
【実施例3】
【0029】
本実施例では、実施例1,2の固定子巻き線2において、図18に示す固定子巻き線2の折り曲げ角部10の半径を1mm以下とすることにある。
【0030】
このように、固定子巻き線2の折り曲げ角部10を1mm以下とすることで、固定子領域における固定子鉄心の割合が多くなり、固定子巻き線2の占積率も上げることができ、モータ効率を向上させることができる。さらに、固定子巻き線2を薄板形状の銅箔などを用いることで、丸線の銅線を用いるより固定子巻き線の占積率を向上させることができるとともに、固定子巻き線領域における巻数を少なくできるので、少ない製造工程で固定子巻き線を形成することができる。
【実施例4】
【0031】
図19に本実施例のアキシャルギャップモータを用いたファン装置を示す。本発明のアキシャルギャップモータは固定子100の構造により高出力密度となるため、回転子200の永久磁石3の残留磁束密度が低くても小型・高効率のモータが提供できる。よって、フェライト磁石のような安価な永久磁石を用いることで低コスト化が実現できる。また、様々な永久磁石が選択可能となるのでの二つ以上の回転子200を有するアキシャルギャップモータにおいて、各々の回転子200の永久磁石3の残留磁束密度が異なるものを用いることによって、シャフトにスラスト方向の力が生じ、羽根13が回転することによって生じるスラスト方向の力を打ち消すことができ、低騒音なファン装置を提供することができる。さらに本実施例では、回転子200を二つ以上有するアキシャルギャップモータの固定子100と回転子200の間のギャップの距離が各々異なることによっても、シャフトにスラスト方向の力が生じ、羽根13が回転することによって生じるスラスト方向の力を打ち消すことができ、低騒音なファン装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明はアキシャルギャップモータは小型,高効率,低騒音であるため、家電製品のエアコン用の室内機及び室外機のファンモータとして用いることができ、また、アキシャルギャップ構造であるため扁平構造も可能なため産業用ファン装置や自動車用補機装置などにも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例に関わるアキシャルギャップモータの構造を示す図。
【図2】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心の製造方法を示す図。
【図3】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心を示す図。
【図4】本発明の一実施例に関わる固定子を示す図。
【図5】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心の渦電流抑制スリット構造を示す図。
【図6】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心を示す図。
【図7】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心を示す図。
【図8】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心の製造方法を示す図。
【図9】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心の製造方法を示す図。
【図10】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心を示す図。
【図11】本発明の一実施例に関わる固定子を示す図。
【図12】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心の渦電流抑制スリット構造を示す図。
【図13】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心の製造方法を示す図。
【図14】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心を示す図。
【図15】本発明の一実施例に関わる固定子を示す図。
【図16】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心の製造方法を示す図。
【図17】本発明の一実施例に関わる固定子鉄心を示す図。
【図18】本発明の一実施例に関わる固定子を示す図。
【図19】本発明の一実施例に関わるファン装置を示す図。
【符号の説明】
【0034】
1 固定子鉄心
2 固定子巻き線
3 永久磁石
4 回転子ヨーク
5 固定子鉄心巻き芯部の空洞
6 渦電流防止スリット
7 固定子鉄心1の折り曲げ角部
8 巻き鉄心
9 巻き鉄心切り出し固定子鉄心
10 固定子巻き線2の折り曲げ角部
11 固定子100と回転子200の間のギャップ
12 シャフト
13 羽根
100 固定子
200 回転子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボン状のアモルファス金属を巻回することで形成された固定子鉄心に、固定子巻き線が巻回された固定子と、
永久磁石を有する回転子と、
を有することを特徴とするアキシャルギャップモータ。
【請求項2】
巻回したリボン状のアモルファス金属を切断することにより形成された固定子鉄心に、固定子巻き線を巻回した固定子と、
永久磁石を有する回転子と、
を有することを特徴とするアキシャルギャップモータ。
【請求項3】
前記固定子鉄心にスリットを有することを特徴とする請求項1に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項4】
前記スリットを、前記固定子の径方向に設けることを特徴とする請求項3に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項5】
リボン状のアモルファス金属間に、絶縁物を挟むことを特徴とする請求項1に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項6】
前記固定子鉄心の巻き芯部の空隙に、磁性体を有することを特徴とする請求項1に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項7】
前記リボン状のアモルファス金属の折り曲げ角部の半径が1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項8】
前記固定子巻き線の折り曲げ角部の半径が1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項9】
前記固定子巻き線が薄板状であることを特徴とする請求項8に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項10】
巻回したリボン状のアモルファス金属を切断することにより形成された固定子鉄心に、固定子巻き線を巻回した固定子と、
永久磁石を有する回転子と、
を有するモータであって、
前記モータは複数個の回転子を有し、前記複数個の回転子が有する永久磁石が、異なった残留磁束密度を有することを特徴とするアキシャルギャップモータ。
【請求項11】
巻回したリボン状のアモルファス金属を切断することにより形成された固定子鉄心に、固定子巻き線を巻回した固定子と、
永久磁石を有する回転子と、
を有するモータであって、
前記モータは複数個の回転子を有し、前記複数個の回転子と前記固定子との間隔が、異なることを特徴とするアキシャルギャップモータ。
【請求項12】
リボン状のアモルファス金属間に、絶縁物を挟むことを特徴とする請求項2に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項13】
前記固定子巻き線の折り曲げ角部の半径が1mm以下であることを特徴とする請求項2に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項14】
前記固定子巻き線が薄板状であることを特徴とする請求項2に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項15】
前記固定子鉄心にスリットを有することを特徴とする請求項2に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項16】
前記巻回したリボン状のアモルファス金属は、径方向に切断されることを特徴とする請求項2に記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項17】
巻回したリボン状のアモルファス金属を切断することにより形成された固定子鉄心に、固定子巻き線を巻回した固定子と、
永久磁石を有する回転子と、を有するモータであって、
前記モータは複数個の回転子を有し、前記複数個の回転子と前記固定子との間隔が、異なるアキシャルギャップモータを設けることを特徴とするファン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−284578(P2009−284578A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131461(P2008−131461)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】