説明

イオン注入装置

【課題】半導体ウェーハとチャックピンとの接触に起因するパーティクルの発生を抑制する。
【解決手段】本発明のイオン注入装置のチャック機構は、支持盤の半導体ウェーハ28が載置される面の反対側の面に、回転体の中心と半導体ウェーハの中心を結ぶ線(対称軸40)に軸対称に起立して設けられた支軸42と、支軸回りに回動可能かつ一端部が半導体ウェーハの内周側の周縁部より外側へ突出して設けられたリンク部材44と、リンク部材の一端部から半導体ウェーハの方向に起立して設けられたチャックピン46と、リンク部材を時計回りに回動させるチャックバネ48を備えている。リンク部材は、チャックバネによる回動を妨げる方向に回転体の回転に伴う遠心力を働かせるカウンタウェイト52が着脱可能になっており、カウンタウェイトの重量を異ならせてこの遠心力を調整可能になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置に係り、特に、シリコンなどの半導体ウェーハにイオンを注入するイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)などの集積回路の高速・低消費電力化を図るために、SOI(Silicon on Insulator)ウェーハが用いられている。SOIウェーハは、シリコン支持体と表面シリコン層との間に酸化膜からなる絶縁層が埋め込まれて構成される。
【0003】
このようなSOIウェーハの製造方法の1つとして、シリコンウェーハに例えば酸素イオンを注入した後熱処理を行い、酸化膜からなる絶縁層つまりBOX(Buried Oxide)層を形成するSIMOX(Separation by IMplanted OXygen)法と称される方法が用いられている。
【0004】
特許文献1に記載されているように、SIMOXウェーハの製造においては、回転台に設けられた複数の支持盤上にそれぞれシリコンウェーハを載置し、回転台を回転させてシリコンウェーハを旋回させながら酸素イオンを注入することにより一括でバッチ処理することが知られている。
【0005】
より具体的には、SIMOXウェーハのイオン注入装置は、回転体と、回転体の回転軸回りに放射状に延在された複数のアームと、各アームの先端に設けられた支持盤と、旋回するシリコンウェーハにイオンを注入する注入手段などから構成される。
【0006】
イオン注入時には、複数の支持盤が盤面を回転軸にほぼ直交する方向に向けられた状態で旋回されるので、支持盤上に載置されたシリコンウェーハに遠心力が働く。この遠心力によりシリコンウェーハが外に飛び出さないように、各支持盤には、載置されたシリコンウェーハの回転体の回転軸から遠い側の周縁部に当接するようにストッパが設けられている。
【0007】
また、各支持盤は回転軸のほうに盤面を向けるように傾けられ、遠心力の分力を盤面で受けるように構成されているか、ウェーハの数ヶ所をチャックして固定する方式を採用している。さらに、ウェーハの数ヶ所をチャックして固定する方式では、シリコンウェーハを支持盤に保持する機構として、シリコンウェーハの回転体の回転軸から近い側の周縁部にチャックピンを当接させてシリコンウェーハをストッパに押し付けて固定している。
【0008】
【特許文献1】特開2007−59262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載された装置は、シリコンウェーハと保持機構との接触、特にシリコンウェーハとチャックピンとの接触に起因して生じる摩耗粒子(パーティクル)による弊害について配慮されていない。
【0010】
すなわち、イオン注入時にシリコンウェーハをしっかりと保持するという観点からすればチャックピンをウェーハに強く押し付けるのが望ましいが、チャックピンとウェーハとの接触力が強くなればなるほど接触摩擦が大きくなりシリコンウェーハが傷付くとともにパーティクルが発生するおそれがある。その一方で、チャックピンによる押し付け力が弱くなりすぎるとシリコンウェーハが振動してチャックピンとこすれることによりパーティクルが大量に発生するおそれがある。
【0011】
パーティクルが発生すると、例えばシリコンウェーハのイオン注入面に付着して、シリコンウェーハに対する均一なイオン注入が阻害されるおそれがあるなど、シリコンウェーハの品質維持の面から好ましくない。
【0012】
そこで、本発明は、半導体ウェーハとチャックピンとの接触に起因するパーティクルの発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のイオン注入装置は、回転駆動機構により回転される回転体と、この回転体の回転軸回りに放射状に延在された複数のアームと、この各アームに設けられた半導体ウェーハの支持盤と、この各支持盤に載置された半導体ウェーハの回転軸から遠い側の周縁部に当接するように設けられたストッパと、半導体ウェーハをストッパに押し付けて固定するチャック機構と、各支持盤に固定された状態で回転駆動機構により回転される半導体ウェーハにイオンを注入するイオン注入手段とを含んで構成される。
【0014】
チャック機構は、各支持盤の半導体ウェーハが載置される面の反対側の面に、回転体の中心と半導体ウェーハの中心を結ぶ線に軸対称に起立して設けられた一対の支軸と、この支軸回りに回動可能かつ一端部が半導体ウェーハの回転体の回転軸に近い側の周縁部より外側へ突出して設けられたリンク部材と、このリンク部材の一端部から半導体ウェーハの方向に起立して設けられたチャックピンと、チャックピンが半導体ウェーハの回転体の回転軸に近い側の周縁部に当接する方向にリンク部材を回動させる力を付与するチャックバネとを備えて構成される。
【0015】
特に、上記課題を解決するため、リンク部材は、チャックバネによるリンク部材の回動を妨げる方向に回転体の回転に伴う遠心力を働かせるカウンタウェイトを着脱可能になっており、かつこのカウンタウェイトの重量を異ならせてリンク部材の回動を妨げる方向に働く遠心力を調整可能になっていることを特徴としている。特に、半導体ウェーハのパーティクルの発生量が最少となるようにカウンタウェイトの重量を異ならせてリンク部材の回動を妨げる方向に働く遠心力を調整するのが好ましい。
【0016】
これによれば、イオン注入時に半導体ウェーハを確実に固定し、かつ最もパーティクルの発生が抑制されるようにチャックピンの半導体ウェーハに対する接触力をカウンタウェイトの重量を異ならせて調整することができる。したがって、本発明によれば半導体ウェーハとチャックピンとの接触に起因するパーティクルの発生を抑制することができる。
【0017】
カウンタウェイトの調整は、例えば重量の異なる複数種類のカウンタウェイトを着脱可能にすることなどにより行なうことができる。また、半導体ウェーハの確実な固定とパーティクルの抑制という2つの観点からの最も適切な接触力は、例えば使用する半導体ウェーハの種類などによって様々に異なる場合もあるが、本発明によれば、半導体ウェーハの種類に応じてチャックピンの半導体ウェーハに対する接触力を調整可能なので、半導体ウェーハとチャックピンとの接触に起因するパーティクルの発生を抑制することができる。
【0018】
本発明において、チャックピンを、柱状に形成するとともに柱軸に沿って順次縮径した後拡径させたくびれ部を形成し、このくびれ部を半導体ウェーハの回転体の回転軸に近い側の周縁部と当接させることができる。
【0019】
この場合、くびれ部が半導体ウェーハに強く接触しすぎるとパーティクルの発生量は増える一方、くびれ部の接触力が弱くなりすぎると、半導体ウェーハの周縁部がチャックピンのくびれ部を形成する上下のスロープ部分の間に隙間を有して挟まれ、イオン注入時に半導体ウェーハの周縁部が上下のスロープ部に振動しながら接触してこすれてパーティクルの発生量が増加する。したがって、チャックピンのくびれ部を半導体ウェーハに当接させて固定する場合、チャックピンの半導体ウェーハに対する接触力が最適になるように調整して、半導体ウェーハとチャックピンとの接触に起因するパーティクルの発生を抑制することが望ましい。また、くびれ部を形成する下側のスロープ部に、半導体ウェーハにかかる遠心力の分力を受ける平坦面を設けてもよい。
【0020】
また、回転体とアームからなる回転台を揺動させる揺動機構を備えており、半導体ウェーハが、揺動機構により揺動され、かつ回転駆動機構により回転されながらイオン注入手段によりイオンを注入されるイオン注入装置に適用するのが好ましい。
【0021】
つまり、イオン注入手段を固定させ、半導体ウェーハを揺動させてスキャンし、かつ回転させながらイオンを注入する装置の場合、イオン注入手段自体を移動させてスキャンする装置に比べて、一般的に回転体の回転速度が速くなるため、半導体ウェーハと保持機構との間に発生する摩擦が大きくなる場合がありパーティクルによる弊害が生じ易い。したがって、このようなイオン注入装置に本発明を適用するのが特に好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、半導体ウェーハとチャックピンとの接触に起因するパーティクルの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を適用してなるイオン注入装置の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一機能部品については同一符号を付して重複説明を省略する。図1は、本実施形態のイオン注入装置の全体概略構成の側面図である。図2は、本実施形態のイオン注入装置の全体概略構成の正面図であり、イオン注入時の半導体ウェーハの動作状態を説明するものである。
【0024】
図1に示すように、イオン注入装置10は、イオン源12と質量分離器14などを含んで構成されるイオン注入手段と、処理対象物としてイオンが注入される例えばシリコンなどの半導体ウェーハが収納される処理室16とを備えて構成されている。イオン注入手段は、例えば酸素などのイオンを処理対象物に注入する。
【0025】
イオン源12は、図示していない真空排気されたパイプを介して質量分離器14と連結されており、マイクロ波を用いて例えば酸素イオンによるイオンビーム17を生成し、生成したイオンビーム17を質量分離器14側へ出射するようになっている。質量分離器14は、図示していない真空排気されたパイプを介して処理室16と接続されており、イオン源12からのイオンビーム17に対して電磁力を与えてイオンビーム17をほぼ90度偏向させるとともに、イオンビーム17の中から必要な質量を有するイオン種、例えば酸素イオンのみを分離して取り出し処理室16内に入射するようになっている。
【0026】
処理室16内には、回転駆動機構としてのモータ18と、モータ18を収容するモータボックス20と、モータ18により回転される回転軸22と、回転軸22に嵌合された回転体24と、回転体24の回転軸22回りに放射状に延在された複数のアーム26と、各アーム26の先端部に設けられた半導体ウェーハ28の支持盤30とが収納されている。
【0027】
また、モータボックス20に連結された揺動アーム32を介してモータ18、回転体24、アーム26、及び支持盤30などを処理室16内で振り子状に揺動させる揺動機構34が、処理室16の天面上に設けられている。
【0028】
図2に示すように、本実施形態のイオン注入装置は、揺動機構34により図示矢印Aのように半導体ウェーハ28を振り子状に揺動し、かつモータ18により回転軸22を中心に図示矢印Bのように回転しながら、イオン注入手段によりイオンを注入するものである。
【0029】
また、図1に示すように、本実施形態のイオン注入装置10では、イオン注入時には、支持盤30は、盤面が回転軸22にほぼ直交する方向に向けられた状態で回転されるので、支持盤30上に載置された半導体ウェーハ28に遠心力が働く。この遠心力により半導体ウェーハ28が外に飛び出さないように、各支持盤30は回転軸22のほうに盤面を向けるようにわずかに傾けられており、遠心力の分力を盤面で受けるように構成されている。
【0030】
しかし、イオン注入の制約上、支持盤30の傾きをあまり大きくできない。そこで、本実施形態のイオン注入装置10では、載置された半導体ウェーハ28を保持する保持機構が各支持盤30に設けられている。
【0031】
図3は、半導体ウェーハ28の支持盤30への保持機構の概略構成を示す斜視図である。図3に示すように、支持盤30には、半導体ウェーハ28の回転体24の回転軸22から遠い側の周縁部に当接するようにストッパ36が設けられている。また、支持盤30の半導体ウェーハ28が載置される面の反対側には、半導体ウェーハ28をストッパ36に押し付けて固定するチャック機構38が設けられている。チャック機構38は、図3に示す破線矢印方向に回動することにより半導体ウェーハ28をストッパ36に押し付けるようになっている。
【0032】
ストッパ36及びチャック機構38を用いて半導体ウェーハ28を支持盤へ固定してイオン注入が行なわれる。イオン注入時に、半導体ウェーハ28からストッパ36を介して電流が流れて半導体ウェーハ28のストッパ36との当接部から放熱することにより、当接部は他の部分より温度が下がって温度ムラが生じ、SOI膜の膜厚ムラが生じる場合がある。このため、ストッパ36の例えば半導体ウェーハ28との当接面と反対側の面にヒータを設けて、ストッパ36を局所的に加熱することにより温度ムラを抑制し、SOI膜の膜厚ムラを抑制するよう構成することができる。
【0033】
図4は、支持盤30の半導体ウェーハ28が載置される面の反対側から見たチャック機構の構成を示す平面図であり、(イ)はアンチャック状態を、(ロ)はチャック状態を示している。なお、図4では、説明の便宜上、チャック機構38と半導体ウェーハ28の位置関係のみを図示し、チャック機構38と半導体ウェーハ28の間に存在する支持盤30を省略している。また、左右対称のチャック機構38のうち一方のみを図示しているが、回転体24の中心と半導体ウェーハ28の中心を結ぶ線を対称軸40とした場合に、この対称軸40に軸対称に同様の構成が一対に配置される。また、図4における紙面上側は回転体24の中心方向を示している。
【0034】
図3及び図4に示すように、チャック機構は、支持盤30の半導体ウェーハが載置される面の反対側の面に、回転体24の中心と半導体ウェーハ28の中心を結ぶ線(対称軸40)に軸対称に起立して設けられた支軸42と、支軸42回りに回動可能かつ一端部が半導体ウェーハ28の回転体24の回転軸22に近い側の周縁部より外側へ突出して設けられたリンク部材44と、リンク部材44の一端部から半導体ウェーハ28の方向に起立して設けられたチャックピン46と、チャックピン46が半導体ウェーハ28の回転体の回転軸に近い側の周縁部に当接する方向にリンク部材44を回動させる力を付与するチャックバネ48を備えて構成されている。
【0035】
リンク部材44は、支軸42からチャックピン46が起立して設けられる一端部の方向へ直線に形成される一方、支軸42から他端部へは対称軸40から離れる方向に折れ曲がって形成されている。チャックバネ48の一端はリンク部材44の他端部に連結されており、チャックバネ48の他端は支持盤30の半導体ウェーハが載置される面の反対側の面に起立して設けられたバネ固定軸49に連結されている。
【0036】
図4(イ)に示すように、アンチャック時には、チャックバネ48によってリンク部材44を支軸42回りに時計方向に回動させる力(図4における実線矢印で示すようにチャックピン46が半導体ウェーハ28の回転体の回転軸に近い側の周縁部に当接させる力)が付与されているが、にこのチャックバネ48による力を図示していないアンチャック機構により制限している。このため、半導体ウェーハ28とチャックピン46とが非接触となりアンチャック状態となる。
【0037】
一方、図4(ロ)に示すように、チャック時には、アンチャック機構によるチャックバネ48による付与力の制限が解除され、リンク部材44はチャックバネ48により支軸42回りに時計回りに回動する。これによりチャックピン46は半導体ウェーハ28の回転体の回転軸に近い側の周縁部に当接する方向(図4における実線矢印方向)に回動して半導体ウェーハ28に当接する。
【0038】
図5(イ),(ロ)は、チャックピン46の構成を模式的に示す縦断面図である。図5(イ),(ロ)は半導体ウェーハ28のチャック時の状態を示している。図5(イ)に示すように、チャックピン46は、柱状に形成されており、かつ柱軸に沿って順次縮径させて形成したスロープ部46aとこれに連続して順次拡径させて形成したスロープ部46bによりくびれ部46cを有して形成されている。くびれ部46cが半導体ウェーハ28の回転体24の回転軸22に近い側の周縁部と当接するようになっている。アンチャック時には、チャックピン46が図面左側へ移動し、半導体ウェーハ28はスロープ部46aをすべって裏面ピン50に保持されるようになっている。また、図5(ロ)に示すように、順次縮径するスロープ部46aに連続して柱軸に向かって水平に延在する平坦部46dを設け、平坦部46dから円弧状に順次拡径させてスロープ部46bを形成することによりくびれ部46cを形成し、平坦部46dで半導体ウェーハ28にかかる遠心力の分力を受けるようにすることもできる。
【0039】
ところで、このような半導体ウェーハの保持機構を有する従来のイオン注入装置においては、半導体ウェーハと保持機構との接触、特に半導体ウェーハ28とチャックピン46との接触に起因して生じるパーティクルによる弊害について配慮されていない。
【0040】
すなわち、イオン注入時に半導体ウェーハ28をしっかりと保持するという観点からすればチャックピン46のくびれ部46cをウェーハに強く押し付けるのが望ましい。しかしチャックピン46とウェーハとの接触力が強くなればなるほど接触摩擦が大きくなりシリコンウェーハが傷付くとともにパーティクルが発生するおそれがある。一方、チャックピン46による押し付け力が弱くなりすぎると、半導体ウェーハ28の周縁部がチャックピン46のくびれ部46cを形成する上下のスロープ部46a,46b間に隙間を有して挟まれることとなる。すると、イオン注入時に半導体ウェーハ28の周縁部が上下のスロープ部46a,46bに振動しながら接触してこすれてパーティクルの発生量が増加する場合がある。
【0041】
パーティクルが発生すると、例えば半導体ウェーハ28のイオン注入面に付着して、半導体ウェーハ28に対する均一なイオン注入が阻害されるおそれがあるなど、半導体ウェーハ28の品質維持の面から好ましくない。
【0042】
したがって、チャックピン46のくびれ部46cを半導体ウェーハ28に当接させて固定する場合、チャックピン46の半導体ウェーハ28に対する接触力が最適になるように調整して、半導体ウェーハ28とチャックピン46との接触に起因するパーティクルの発生を抑制することが望ましい。
【0043】
そこで、本実施形態のイオン注入装置10は、半導体ウェーハ28とチャックピン46との接触に起因するパーティクルの発生を抑制すべく、図4に示すように、リンク部材44に、チャックバネ48によるリンク部材44の回動を妨げる方向に回転体24の回転に伴う遠心力を働かせるカウンタウェイト52が設けられている。このカウンタウェイト52はリンク部材44に対して着脱可能になっている。また、例えば重量の異なる複数種類のカウンタウェイト52を交換可能にすることによりカウンタウェイト52の重量を異ならせてリンク部材44のチャックバネ48による回動を妨げる方向に働く遠心力を調整可能になっている。
【0044】
カウンタウェイト52によるリンク部材44の回動を妨げる方向に働く遠心力を調整について図4(ロ)を用いて説明する。図4(ロ)に示すようなチャック状態においてモータ18により回転体24が回転されると、カウンタウェイト52には破線矢印で示す方向に遠心力が作用する。この遠心力はリンク部材44を支軸42中心に反時計回りに回動させる。言い換えれば、この遠心力はチャックピン46の半導体ウェーハ28への接触力を低減させてチャック状態からアンチャック状態へ近づける作用を持つ。また、この遠心力はカウンタウェイト52の重量に応じて変化するものであるので、カウンタウェイト52の重量を異ならせることによりリンク部材44のチャックバネ48による回動を妨げる方向に働く遠心力を調整することができる。
【0045】
図6は、リンク部材44に取り付けるカウンタウェイト52の重量と、チャックピン46による半導体ウェーハ28のチャック力と、パーティクル発生数との関係を示す図である。図6において、横軸がカウンタウェイトの重量(g)、左側の縦軸がチャックピン46による半導体ウェーハ28のチャック力(g・cm)、右側の縦軸が0.2μm以上のパーティクルの発生数を示している。カウンタウェイトの重量とチャック力との関係を図6のラインaで示し、カウンタウェイトの重量とパーティクルの発生数との関係を図6のラインbで示している。
【0046】
ラインaに示すように、カウンタウェイト52の重量が大きくなるにしたがってチャック力は約6000g・cmから減少していく。言い換えればカウンタウェイト52の重量とチャック力はほぼ比例関係になっている。これに対して、ラインbに示すように、カウンタウェイト52の重量とパーティクル発生数との関係は、カウンタウェイト52の重量が0gから100g付近の間では、カウンタウェイトの重量の増加にともなってパーティクルの発生数が約370から約200へとほぼ比例的に減少している。カウンタウェイト52の重量が100g付近より大きくなると、カウンタウェイトの重量の増加にともなってパーティクルの発生数が約250まで増加している。
【0047】
また、カウンタウェイト52の重力が約110gのときにチャック力がほぼ0(g・cm)になっていることから、カウンタウェイト52の重量が約110gより小さいときはチャック状態、約110gより大きいときはアンチャック状態になっていることがわかる。すなわち、この場合、半導体ウェーハ28の確実な固定とパーティクルの抑制という2つの観点からのカウンタウェイト52の最も適切な重量は100g付近ということがわかる。言い換えれば、チャックピン46の半導体ウェーハ28に対する最も適切な接触力を求めることができる。半導体ウェーハ28は種類によって硬度などパーティクル発生に関連する性質が異なる場合があるが、カウンタウェイト52の最も適切な重量は使用する半導体ウェーハ28の種類などに応じてあらかじめ実験等により求めておくことができる。
【0048】
以上、本実施形態によれば、イオン注入時に半導体ウェーハ28を確実に固定し、かつ最もパーティクルの発生が抑制されるように、チャックピン46の半導体ウェーハ28に対する接触力をカウンタウェイトの重量を異ならせて調整することができる。したがって、本発明によれば半導体ウェーハとチャックピンとの接触に起因するパーティクルの発生を抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態では、揺動機構34により半導体ウェーハ28を振り子状に揺動し、かつモータ18により回転軸22を中心に回転しながらイオンを注入するイオン注入装置について説明したが、これには限られない。例えば、揺動機構34を設けることなく、半導体ウェーハ28をモータ18により回転軸22を中心に回転させながら、イオン注入手段を半導体ウェーハ28の回転方向に交差する方向に移動させてイオンビームをスキャンさせるイオン注入装置においても、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態のイオン注入装置の全体概略構成の側面図である。
【図2】本実施形態のイオン注入装置の全体概略構成の正面図であり、イオン注入時の半導体ウェーハの動作状態を説明するものである。
【図3】半導体ウェーハの支持盤への保持機構の概略構成を示す斜視図である。
【図4】支持盤の半導体ウェーハが載置される面の反対側から見たチャック機構の構成を示す平面図であり、(イ)はアンチャック状態を、(ロ)はチャック状態を示している。
【図5】チャックピンの構成を模式的に示す縦断面図である。
【図6】リンク部材に取り付けるカウンタウェイトの重量と、チャックピンによる半導体ウェーハのチャック力と、パーティクル発生数との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 イオン注入装置
22 回転軸
24 回転体
26 アーム
28 半導体ウェーハ
30 支持盤
32 揺動アーム
34 揺動機構
36 ストッパ
38 チャック機構
40 対称軸
42 支軸
44 リンク部材
46 チャックピン
48 チャックバネ
52 カウンタウェイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動機構により回転される回転体と、該回転体の回転軸回りに放射状に延在された複数のアームと、該各アームに設けられた半導体ウェーハの支持盤と、該各支持盤に載置された前記半導体ウェーハの前記回転軸から遠い側の周縁部に当接するように設けられたストッパと、前記半導体ウェーハを前記ストッパに押し付けて固定するチャック機構と、前記各支持盤に固定された状態で前記回転駆動機構により回転される前記半導体ウェーハにイオンを注入するイオン注入手段とを含んでなり、
前記チャック機構は、前記各支持盤の前記半導体ウェーハが載置される面の反対側の面に、前記回転体の中心と前記半導体ウェーハの中心を結ぶ線に軸対称に起立して設けられた一対の支軸と、該支軸回りに回動可能かつ一端部が前記半導体ウェーハの前記回転体の回転軸に近い側の周縁部より外側へ突出して設けられたリンク部材と、該リンク部材の前記一端部から前記半導体ウェーハの方向に起立して設けられたチャックピンと、前記チャックピンが前記半導体ウェーハの前記回転体の回転軸に近い側の周縁部に当接する方向に前記リンク部材を回動させる力を付与するチャックバネとを備えて構成されるイオン注入装置であって、
前記リンク部材は、前記チャックバネによる前記リンク部材の回動を妨げる方向に前記回転体の回転に伴う遠心力を働かせるカウンタウェイトを着脱可能になっており、かつ該カウンタウェイトの重量を異ならせて前記リンク部材の回動を妨げる方向に働く遠心力を調整可能になっていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記半導体ウェーハのパーティクルの発生量が最少となるように前記カウンタウェイトの重量を異ならせて前記リンク部材の回動を妨げる方向に働く遠心力を調整する請求項1のイオン注入装置。
【請求項3】
前記チャックピンは、柱状に形成されるとともに柱軸に沿って順次縮径した後拡径させたくびれ部を有して形成され、該くびれ部を前記半導体ウェーハの前記回転体の回転軸に近い側の周縁部と当接させる請求項1のイオン注入装置。
【請求項4】
前記回転体と前記アームからなる回転台を揺動させる揺動機構を備え、
前記半導体ウェーハは、前記揺動機構により揺動され、かつ前記回転駆動機構により回転されながら前記イオン注入手段によりイオンを注入される請求項1のイオン注入装置。
【請求項5】
前記イオン注入手段は、前記半導体ウェーハの前記回転駆動機構による回転方向に交差する方向に移動しながら前記半導体ウェーハにイオンを注入するビームスキャン式である請求項1のイオン注入装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−118459(P2010−118459A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290059(P2008−290059)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】