説明

インホイールモータ駆動装置及び車両用制御装置

【課題】ブレーキ機構を備えつつもコンパクトな構成のインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】インホイールモータ駆動装置1は、回転電機12を車体に対して回転不能に取付けられるケース部材3に収納して構成されている。また、車輪2に駆動連結される車輪側の回転系Aとケース部材3に相対回転不能に連結されるケース部材側の回転固定系Bとを、付与される押圧力によって摩擦係止する摩擦ブレーキ41と、回転系Aに設けられる第1噛合部61と、前記回転固定系Bに設けられる第2噛合部62とを有する噛合機構60と、を備えており、これら摩擦ブレーキ41及び噛合機構60をアクチュエータ42によって作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハイブリッド車両、電気車両等に搭載されるインホイールモータ駆動装置及び車両用制御装置に係り、詳しくは、インホイールモータ駆動装置のブレーキ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費向上や環境性能の向上を図るために、例えばハイブリッド車両や電気車両等の回転電機を搭載した車両が種々提案されており、このような回転電機を搭載する車両にあって、車内空間の確保を図るため、駆動・回生効率の向上を図るため、或いはアスクルシャフトやディファレンシャル装置を省略して軽量化を図るために、車輪のホイール内に回転電機を配設するインホイールモータ駆動装置の開発が進められている。
【0003】
このようなインホイールモータ駆動装置において、ブレーキ機構として、車輪側に設けられたブレーキディスク33をモータハウジング側に取付けられたキャリパ32によって係止する油圧ディスクブレーキ機構23と、パーキングブレーキケーブル36によってカム86を駆動させ、摩擦材91をロータ41へ押付けることによって、ロータ41を周り止めする駐車ブレーキ機構37と、を有するインホイールモータ駆動装置が案出されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載のインホイールモータ駆動装置のように、駐車ブレーキ機構37をパーキングブレーキケーブル36のようなケーブルによって駆動させるように構成すると、寒冷地においてパーキングブレーキケーブル36が凍結してしまう虞があり、上述した油圧ブレーキディスク機構23などからなる通常の走行時に使用される常用ブレーキだけでなく、主に駐車時に使用される上記駐車ブレーキ機構37などの駐車ブレーキも、アクチュエータによって作動させることが要望されている。
【0005】
そこで、従来、駐車ブレーキを、インターロックシャフト63と、このインターロックシャフト63を移動駆動させるアクチュエータ34と、によって構成し、アクチュエータ34によってインターロックシャフト63を出力軸62のインターロックシャフト係合凹部64に係合させることによって、車輪の回転を係止するものがある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−56957号公報
【特許文献2】特開2007−314037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2に記載のように、駐車ブレーキをアクチュエータによって駆動させるように構成すると、寒冷地においてもケーブルの凍結などを心配する必要がない。しかしながら、インホイールモータ駆動装置は、車輪のホイールの内側に配設されるため、そのコンパクト化も強く要望されており、駐車ブレーキを作動させるためだけに専用のアクチュエータを設けると、そのアクチュエータの分だけインホイールモータ駆動装置が大きくなってしまうという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、インホイールモータ駆動装置に、車輪側の回転系とケース部材側の回転固定系とを係止する摩擦ブレーキ及び噛合機構を設けると共に、これら摩擦ブレーキ及び噛合機構を、1つのアクチュエータにより駆動させることによって、上記課題を解決したインホイールモータ駆動装置及び車両用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は(例えば図1乃至図4参照)、ロータ(12b)及びステータ(12a)を有する回転電機(12)と、該回転電機(12)を内部に収納すると共に車体(6)に対して回転不能に取付けられるケース部材(3)と、を備え、前記回転電機(12)によって車輪(2)を駆動し得るように該車輪(2)のホイール(10)の内側に配置されるインホイールモータ駆動装置(1)において、
前記車輪(2)に駆動連結される車輪側の回転系(A)と前記ケース部材(3)に相対回転不能に連結されるケース部材側の回転固定系(B)とを、付与される押圧力によって摩擦係止する摩擦ブレーキ(41)と、
前記摩擦ブレーキ(41)の押圧力を自在に付与するアクチュエータ(42)と、
前記回転系(A)に設けられる第1噛合部(61)と、前記回転固定系(B)に設けられる第2噛合部(62)とを有し、前記アクチュエータ(42)の駆動に基づいて、これら第1及び第2噛合部(61,62)が噛合し得る噛合位置と、これら第1及び第2噛合部(61,62)の噛合いが解除される解除位置とに移動駆動される噛合機構(60)と、を備えた、
ことを特徴とする。
【0010】
また(例えば図2参照)、前記アクチュエータ(42)は、その駆動範囲内に、前記摩擦ブレーキ(41)の押圧力を変更する制動領域と、前記押圧力が生じない範囲であって、前記噛合機構(60)の噛合位置と解除位置とを切換える切換領域と、を有すると好適である。
【0011】
更に(例えば図2参照)、前記回転系(A)は、前記ロータ(12b)が駆動連結される入力部(13)と、前記車輪(2)のホイール(10)が駆動連結される出力部(7)と、前記入力部(13)からの回転を前記出力部(7)に減速して出力する減速機構(15)と、を有し、
前記第1噛合部(61)は、前記入力部(13)に設けられると好適である。
【0012】
また(例えば図2参照)、前記アクチュエータ(42)は、前記ケース部材(3)に固設されると共に、駆動軸(43)を往復駆動する直動アクチュエータであり、
前記摩擦ブレーキ(41)は、前記ケース部材(3)に相対回転不能に連結される第1摩擦板(46)と、前記出力部(7)に駆動連結される第2摩擦板(49)と、これら第1及び第2摩擦板(46,49)を押圧して係合させるピストン(50)と、前記ケース部材(3)に支持された支点を中心に回動可能に支持され、その一端部が前記アクチュエータ(42)に連結され、他端部が前記ピストン(50)を押圧する回動部材(51)と、を有すると好適である。
【0013】
更に(例えば図2参照)、前記噛合機構(60)は、前記回動部材(51)と前記第2噛合部(62)とを、前記ケース部材(3)と前記第1摩擦板(46)の外周との間を通して連結する連結部材(63)を有する、と好適である。
【0014】
また(例えば図6及び図7参照)、前記噛合機構(60)は、前記回転電機(12)を挟んで前記回動部材(51)と軸方向反対側に配設され、前記駆動軸(43)の、前記回動部材(51)が連結される一端部とは反対側の他端部と、前記第2噛合部(62)とを連結する連結機構(80)を有する、と好適である。
【0015】
更に(例えば図6及び図7参照)、前記連結機構(80)は、前記第2噛合部(62)を前記第1噛合部(61)に付勢する付勢手段(83,93)を有し、該第2噛合部(62)が前記噛合位置になった際に前記第1噛合部(61)と噛合えない場合、前記第2噛合部(62)を待機させ、これら第1及び第2噛合部(61,62)が噛合えるようになると、前記付勢手段(83,93)の付勢力によって前記第2噛合部(62)を移動させて、前記第1噛合部(61)と噛み合わせる噛合待機機構(86,90)を有する、と好適である。
【0016】
また(例えば図7参照)、前記第1及び第2噛合部(61,62)は、互いにスプライン係合するスプライン形状からなる、と好適である。
【0017】
更に(例えば図1乃至図7参照)、前記ケース部材(3)は、前記摩擦ブレーキ(41)及び噛合機構(60)を収納する、と好適である。
【0018】
また(例えば図4及び図5参照)、請求項1乃至9のいずれか1項記載のインホイールモータ駆動装置(1)が搭載された複数の車輪(2)を有する車両(100)の車両用制御装置(70)において、
前記複数のインホイールモータ駆動装置(1L,1R)の内の少なくとも1つの噛合機構(60)を作動させる際に、他のインホイールモータ駆動装置(1L,1R)の内、少なくとも1つのインホイールモータ駆動装置(1L,1R)の前記摩擦ブレーキ(41)を係止させる制御部(72)を備えると好適である。
【0019】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によると、1つのアクチュエータによって、車輪側の回転系とケース部材側の回転固定系とを摩擦係止する摩擦ブレーキに押圧力を付与すると共に、回転系に設けられる第1噛合部と回転固定系に設けられる第2噛合部とを有する噛合機構を、噛合位置と解除位置とに移動駆動させることによって、インホイールモータ駆動装置をコンパクトに構成することができる。
【0021】
請求項2に係る発明によると、アクチュエータの駆動範囲内に、摩擦ブレーキに押圧力を付与する領域と、噛合機構を噛合位置と解除位置とに切換える領域と、を設けることによって、これら摩擦ブレーキ及び噛合機構を1つのアクチュエータによって駆動させることができる。また、噛合機構を切換える上記切換領域を、摩擦ブレーキに押圧力が発生しないアクチュエータの駆動範囲に設定したことによって、上記摩擦ブレーキ及び噛合機構を別々に駆動させることができ、摩擦ブレーキを常用ブレーキとして、噛合機構を駐車ブレーキとして使用することができる。
【0022】
請求項3に係る発明によると、回転電機からの回転を減速して出力する減速機構よりも回転電機側に、噛合機構の第1噛合部を設けることによって、少しの車輪の回転によって、第1噛合部を大きく回転させることができる。これにより、噛合機構の第1噛合部と第2噛合部との歯が当接した場合においても、少ない車輪の移動でこれら第1噛合部及び第2噛合部を噛み合わせ、駐車ブレーキを利かせることができる。
【0023】
請求項4に係る発明によると、摩擦ブレーキを回転固定系に設けられた第1摩擦板と回転系に設けられた第2摩擦とを有して構成すると共に、この第2摩擦板を減速機構よりも車輪側の出力部に駆動連結することによって、回転系に設けられた第2摩擦板の回転速度を低くすることができる。そして、これにより、第2摩擦板によるオイルの撹拌抵抗を低減して、インホイールモータ駆動装置の引き摺りトルクを低減することができる。
【0024】
請求項5に係る発明によると、噛合機構の第2噛合部と、一端がアクチュエータに連結され、アクチュエータの往復駆動により支点を中心に回動して、他端が摩擦ブレーキのピストンを押圧する回動部材と、を、ケース部材と第1摩擦板の外周との間を通る連結部材によって連結したことによって、軸方向にコンパクトに噛合機構を構成することができる。
【0025】
請求項6に係る発明によると、噛合機構を、回転電機を挟んで回動部材とは反対側に設けることによって、噛合機構を配設するスペースを軸方向に広く取ることができ、設計の自由度を広げることができる。
【0026】
請求項7に係る発明によると、噛合機構が噛合位置になった際に、第1噛合部と第2噛合部が噛合えない場合、第2噛合部を待機させる噛合待機機構を設けたことによって、これら第1噛合部と第2噛合部が噛合えない場合においても、アクチュエータに負荷をかけることなく、第1噛合部と第2噛合部を噛み合わせることができる。
【0027】
請求項8に係る発明によると、第1噛合部と第2噛合部とをスプライン係合によって噛み合わせることによって、これら第1及び第2噛合部を噛み合わせるための第1噛合部の回転角を小さくすることができる。
【0028】
請求項9に係る発明によると、摩擦ブレーキ及び噛合機構をケース部材によって収納することにより、これら摩擦ブレーキ及び噛合機構に対する外部の温度変化の影響を低減することができると共に、ブレーキダストなどがほとんど発生しなくなるため、ブレーキ機構のメンテナンスを容易にすることができる。
【0029】
請求項10に係る発明によると、複数あるインホイールモータの内、あるインホイールモータの噛合機構を作動させる場合、他のインホイールモータの摩擦ブレーキを作動させておくことによって、車両が動き出さないように制動した状態で、噛合機構を作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置を示す模式図。
【図2】図1の断面図。
【図3】図1のホイール側からの場合の側断面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置を搭載した車両を示す模式図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置の噛合機構を作動させる際のアクチュエータのストローク量及び車体保持力の関係を示すグラフ。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置を示す模式図。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置及び車両用制御装置について説明をする。なお、本実施の形態におけるインホイールモータ駆動装置は、前輪駆動のハイブリッド車両における後輪のホイール内に取付けて四輪駆動車両に変更するための駆動装置として用いられるものであるが、それ以外にも、例えば電気車両の駆動装置、シリーズ式のハイブリッド車両の駆動装置、後輪駆動のハイブリッド車両における前輪のホイール内に取付けて四輪駆動車両に変更するための駆動装置、等として用いることができる。
【0032】
<第1の実施の形態>
<インホイールモータの概略構成>
図1に示すように、インホイールモータ駆動装置1は、車輪2の内側に配設されると共に、ケース部材3がサスペンション装置5を介して、車体6(図4参照)に対して回転不能に取付けられている。また、このケース部材3の車体6とは反対側の側壁部3aからは、出力部7が突出しており、この出力部7のホイールハブ9には車輪2のホイール10が駆動連結されている。
【0033】
図2に示すように、上記ケース部材3は、ホイール10に沿って径方向に延設された側壁部3aと、この側壁部3aの外径側端部から軸方向に延設された環状部3aとを有し、車体側の側面が開口したメインケース3aと、このメインケース3aの開口を閉塞するケースカバー3bとがボルト11によって締結されて構成されており、密閉構造となってその内部にオイルが封入されている。
【0034】
また、オイルが封入されたケース部材3の内部には、インホイール駆動装置1の駆動源としての回転電機12、回転電機12からの回転が入力される入力部13、入力部13からの回転を減速して出力部7に出力する減速機構及15及び、出力部7が収納されており、インホイールモータ駆動装置1は、上記入力部13、減速機構15、出力部7を介して回転電機12からの回転を車輪2に伝達して駆動し得るように構成されている。
【0035】
具体的には、上記回転電機12は、メインケース3aに固設されたステータ12aと、ステータ12aの内側にて該ステータ12aと対向するように配置されたロータ12bと、有して構成されており、このロータ12bが入力部13の支持部材16によって回転自在に支持されている。
【0036】
入力部13は、詳しくは後述する出力部7の出力軸17と同一軸心上に配設されたロータ軸19と、ロータ軸19の軸方向中途部に形成された取付部19aに取付けられる上記支持部材16と、を有しており、このロータ軸19は、上記出力軸17と対向する側の端部が、出力軸17の端部に設けられた凹部20にニードルベアリング21を介して係合することによって、相互に回転自在に支持されていると共に、反対側の端部がケースカバー3bに取付けられたボールベアリング22によって回転自在に支持されている。
【0037】
また、上記支持部材16は、取付部19aと共に外径側に延設された立設部16aと、この立設部16aの上端部において車体側からホイール側に向かって軸方向に延設された円筒部16bと、を有して構成されており、この円筒部16bの外周面に上記ロータ12bを取付けるロータ取付部が形成されている。更に、この支持部材16はロータ12bと一体になって回転するため、立設部16bの中途部にケースカバー3bに向かって延びる鍔部16cが設けられており、この鍔部16cには、ロータ12bの回転位置を検出するレゾルバ25の回転子25aが取付けられている。ケースカバー3bには、この回転子25aに対向するように固定子25bがボルト26によって取付けられており、これら回転子25a及び固定子25bによってレゾルバ25が構成されている。
【0038】
一方、上記支持部材16の円筒部16bの内側には、減速機構15が回転電機12と径方向位置を違えて軸方向位置が回転電機と重なるように配設されている。この減速機構15は、減速プラネタリギヤによって構成されており、取付部19aと出力軸側の端部との間のロータ軸19に設けられたサンギヤ26と、リングギヤ27と、サンギヤ26と噛合する第1ギヤ29a及びリングギヤ27と噛合する第2ギヤ29bが軸方向に並設されたピニオンギヤ29と、を有している。
【0039】
また、上記ピニオンギヤ29は、側板30と出力軸17のフランジ部17aとに架け渡されたピニオンシャフト31に回転自在に支持されており、これらピニオンギヤ29、ピニオンシャフト31、側板30、及びフランジ部17aによって一体的なキャリヤ32が構成されている。
【0040】
更に、上記リングギヤ27は、メインケース3aの側壁部3aからのケース部材3の内側に向かって延設され、出力部7をメインケース3aに対して回転自在に支持するためのハブベアリング33が取付けられる円筒状のボス部35の車両側の端部を、上記ピニオンギヤ29の第2ギヤ29bの外径側まで延設し、この延設部の内周面に噛合歯を形成して構成されており、上記減速プラネタリギヤは、回転電機側から回転が入力される場合、サンギヤ26入力、キャリヤ32出力の減速プラネタリ機構となっている。なお、上記ピニオンギヤ29の第1及び第2ギヤ29a,29bは、第1ギヤ29aの方が第2ギヤ29bに比して大径のギヤによって形成されている。
【0041】
上記減速機構15から回転が伝達され得る出力部7は、減速機構15のキャリヤ32を構成するフランジ部17aが設けられる出力軸17と、ホイール10に複数のボルト36によって締結されるホイールハブ9と、を有して構成されている。出力軸17の内、メインケース3の側壁部3aからホイール側に向かって突出する端部の外周面にはスプライン17bが形成されており、この出力軸17のホイール側の端部に、内周面にスプライン9aが形成されたホイールハブ9のスリーブ部9aがスプライン嵌合している。なお、このホイールハブ9は、出力軸17の先端部にナット39が螺合されることにより抜け止め固定されている。
【0042】
上記ホイールハブ9は、メインケース3aのボス部35との間でハブベアリング33が嵌合される上記スリーブ部9aと、この軸方向の端部に形成された円板状のハブ部9bと、を有しており、該ハブ部9bに形成された複数のボルト孔に、ボルト36が嵌挿され、該ボルト36にホイール10がナット39により締結されることによって、車輪2として構成されている。
【0043】
なお、上述したホイールハブ9及び出力軸17からなる出力部7をケース部材3に対して回転自在に支持するハブベアリング33は、二つのボールベアリングを軸方向に並設した軸受によって構成されており、出力部7からの大きな荷重にも耐えられるようになっていると共に、径方向にコンパクトに構成されている。
【0044】
また、ホイールハブ9のスリーブ部9aと、メインケース3aのボス部35との間は、オイルシール40によってシールされており、ケース部材3の密閉性を高めている。
【0045】
インホイールモータ駆動装置1は、上述したように構成されているため、運転者のアクセル操作等に基づき制御装置70(図4参照)が回転電機12の力行制御を開始すると、電源(バッテリ)及びインバータ回路等から該回転電機12のステータ12aに電力が供給され、ロータ12bが回転駆動される。すると、支持部材16を介してロータ軸19に回転が伝達され、減速機構15のサンギヤ26が回転駆動される。サンギヤ26が回転駆動すると、減速プラネタリギヤからなる減速機構15において、回転が固定されたリングギヤ27を介してキャリヤ32が減速回転とされ、そのキャリヤ32の減速回転が、出力軸17及びホイールハブ9に伝達され、駆動回転として車輪2が回転駆動されることになる。
【0046】
反対に、例えば制御装置70が運転者のアクセル操作やブレーキ操作等に基づき回生制御を開始した場合は、出力軸17及びホイールハブ9が車体6の慣性力等により回転駆動され、減速機構15のキャリヤ32に逆入力される形で、回転が固定されたリングギヤ27を介してロータ軸19のサンギヤ26が増速回転される。そしてロータ軸19が回転すると、支持部材16を介してロータ12bが回転駆動され、ステータ12aに逆起電力が作用し、インバータ回路等を介して電源に電力として供給されて、電源の充電がなされる。
【0047】
<インホイールモータ駆動装置のブレーキ機構>
ついで、上述したインホイールモータ駆動装置1のブレーキ機構について説明をする。図1及び図2に示すように、インホイールモータ駆動装置1は、上述したロータ12b、入力部13、減速機構15及び出力部7などの車輪2に駆動連結される回転系Aと、車体6に回転不能に取付けられたケース部材3に相対回転不能に連結されるケース部材側の回転固定系Bと、の2つの系を有しており、上記ブレーキ機構は、これら回転系Aと回転固定系Bとを付与される押圧力によって摩擦係止する摩擦ブレーキ41と、この摩擦ブレーキ41に押圧力を自在に付与するアクチュエータ42と、を備えている。
【0048】
図2及び図3示すように、上記アクチュエータ41は、駆動軸43を往復駆動させる直動式アクチュエータから構成されていると共に、ケース部材3の上部に固設されており、このケース部材3は、アクチュエータ42が配設される上方部分が外径側に突出して形成されている。具体的には、ケース部材3のメインケース3aは、環状部3aの上方部分において外径側に突出した突出部3a21を有していると共に、この突出部3a21のケース内側には、メインケース3aの環状部3a22から略同じ曲率で延設された環状壁3a23が設けられている。
【0049】
そして、上記突出部3a21と環状壁3a23との間の空間によってアクチュエータ42の収納空間Sが形成されていると共に、アクチュエータ42は、この収納空間Sにおいて、駆動軸43の反対側の端部に形成されたフランジ状の取付部42aが、メインケース3aの端面に形成された角部Cと嵌合して位置決めされかつ、不図示のボルトによってメインケース3aに締結されている。
【0050】
また、上記環状壁3a23は、その内周面が突出部3a21以外の環状部3a22の内周面と連続して環状に形成されており、この内周面には、回転電機12のステータ12bが取付けられている。また、環状壁3a23は、その端部が上述したメインケース3aのボス部35の外周側まで軸方向に延設されており、このボス部35の外周面と対向する環状壁3a23の内周面及び、この環状壁3a23の内周面に連続するメインケース3aの環状部3a22の内周面には、スプライン45が形成されている。これらスプライン45が形成された環状壁3a23及び環状部3a22の内周面には、複数の外摩擦板46がスプライン嵌合しており、これら複数の外摩擦板46は、ケース部材3に相対回転不能に連結されていると共に、上記内周面にスプラインが形成された環状壁3a23及び環状部3a22によってクラッチドラム47が構成されている。
【0051】
上述の摩擦ブレーキ41は、上記外摩擦板46と、この外摩擦板46と交互に配設された複数の内摩擦板49と、これら外摩擦板46及び内摩擦板49を押し圧して係合させるピストン50と、アクチュエータ42の駆動によってピストン50を押圧する回動部材51と、を有する多板ブレーキによって構成されており、内摩擦板49は、減速機構15のキャリヤ32と一体に設けられ、上記クラッチドラム47に対向するように軸方向に延設されたクラッチハブ52に取付けられている。即ち、内摩擦板49は、クラッチハブ52の外周面に形成されたスプラインにスプライン嵌合しており、上記キャリヤ32の一部が出力軸17のフランジ部17aによって形成されることによって、出力部7に駆動連結されている。
【0052】
また、上記ピストン50は、出力軸17に沿って軸方向に延設されるメインケース3aのボス部35の外周面に摺動自在に嵌合していると共に、このピストン50を押圧する上記回動部材51は、図3に示すように、アクチュエータ42の駆動軸43にピン53によって連結される一端部から二又に分かれて形成されたフォーク状の部材によって構成されている。
【0053】
即ち、上記回動部材51は、二又部51aのそれぞれの中途部にメインケース3aに取付けられる支点軸55が嵌挿されており、図2に示すように、メインケース3aの環状壁3a23と側壁部3aとの間の隙間部において、この支点軸55を中心に軸方向に回動自在に支持されている。
【0054】
そして、この回動部材51は、アクチュエータ42の駆動軸43が側壁部側に駆動することによって、上記二又部51aの先端である回動部材51の他端部がピストン50を押圧するように構成されている。なお、メインケース3aの側壁部3aは、回動部材51の他端部と当接しないように、この他端部に対応する位置の壁部をホイール側に膨出させている(図3参照)。
【0055】
ところで、インホイールモータ駆動装置1は、図2に示すように、上記摩擦ブレーキ41以外にも、ブレーキ機構として、回転系Aに設けられる第1噛合部61と、回転固定系Bに設けられる第2噛合部62とを備えた噛合機構60を有している。
【0056】
より詳しくは、上記噛合機構60は、ロータ12bのホイール側の端部に形成された噛合歯からなる第1噛合部61と、この第1噛合部61と噛合する第2噛合部62と、上記回動部材51と第2噛合部62とを連結する連結部材63と、を備えており、この連結部材63は、先端に上記第2噛合部62が設けられると共に、環状壁3a23と外摩擦板46との間を通る連絡部材63aと、この連絡部材63aを回動部材51に連結するリンク63bと、を有して構成されている。
【0057】
そして、上記リンク63bは、連絡部材63aを、回動部材51のアクチュエータ42が取付けられる端部と回動支点55との間に連結するため、噛合機構60は、アクチュエータ42の駆動軸43がメインケース3aの側壁部(車輪のホイール)側に向かって移動駆動すると、第2噛合部62が第1噛合部61から軸方向に離れてこれら第1及び第2噛合部の噛合いが解除される解除位置になると共に、アクチュエータ42の駆動軸43がケースカバー(車体)側に向かって移動駆動すると、第2噛合部62が第1噛合部61に近づいて、これら第1及び第2噛合部が噛合し得る噛合位置と、なる。
【0058】
即ち、噛合機構60は、上述した摩擦ブレーキ41に押圧力を付与する方向へのアクチュエータ42の駆動軸43の移動駆動に基づいて上記解除位置に移動駆動され、上述した摩擦ブレーキ41を解放する方向へのアクチュエータ42の駆動軸43の移動駆動に基づいて上記噛合位置に移動駆動されるようになっている。
【0059】
また、アクチュエータ42は、その駆動範囲内に、摩擦ブレーキ41の押圧力を変更する制動領域と、噛合機構60の噛合位置と解除位置とを切換える切換領域と、を有しており、この切換え領域を押圧力が生じない範囲に設定しているため、上記摩擦ブレーキ41と噛合機構60と2つのブレーキをそれぞれ使い分けることができるようになっている。
【0060】
なお、上記噛合機構60は、連絡部材63aが環状壁3a23の内周面と外摩擦板46とのスプライン45の間を通っていると共に、外摩擦板46及び内摩擦板49が押しつけられるエンドプレート65と回転電機12との間にて、回転電機12のロータ位置まで径方向内側に屈曲して構成されており、この屈曲部がエンドプレート65と当接するために側壁部側に抜けることはない。また、リンク63bが上記スプライン45の間を通ることはできないため、連絡部材63aが回転電機12のステータ12aと接触することもない。
【0061】
インホイールモータ駆動装置1のブレーキ機構は、上述したように構成されているため、制御装置70(図4参照)が運転者のブレーキ操作に基づき、制動制御を開始した場合は、制御装置70は、アクチュエータ42の駆動軸43を制動領域にて移動駆動させ、回動部材51によってピストン50を押圧する。ピストン50が押圧されると外摩擦板46と内摩擦板49とが摩擦係止され、これにより出力軸17の回転が制動される。そして、ブレーキの操作量に応じてアクチュエータ42を制御してピストン50への押圧力を調節し、上記出力軸17と駆動連結する車輪2にブレーキを掛ける。
【0062】
一方、車両が停止し、運転者によってシフトレンジがパーキングにされる、もしくはサイドブレーキが引かれると、制御装置70は、アクチュエータ42の駆動軸43をケースカバー側に移動させて切換領域まで移動駆動させ、回動部材51を時計回りに回動させる。これにより、摩擦ブレーキ41はピストン50に押圧力が付与されないため解放された状態になると共に、噛合機構60の第2噛合部62が連結部材63を介してケースカバー側に移動させられ、噛合位置となって、第1噛合部61の噛合歯と噛合う。そして、ロータ12bの端部に設けられた第1噛合部61がケース部材3に相対回転不能に取付けられた第2噛合部62に噛合うと、ロータ12bが回転不能となり、回転系Aの回転要素が回転できなくなるため、車輪2も回転不能となる。
【0063】
このように、インホイールモータ駆動装置1を構成したことによって、1つのアクチュエータ42によって、摩擦ブレーキ41と、噛合機構60との2つのブレーキを作動させることができ、インホイールモータ駆動装置1をコンパクトに構成することができる。
【0064】
また、上記摩擦ブレーキ41と、噛合機構60と、をアクチュエータ42の駆動範囲の内、別々の領域で作動するように構成したことにより、これら摩擦ブレーキ41と噛合機構60との使い分けを行うことができ、例えば、摩擦ブレーキ41を通常走行時に使用される常用ブレーキとして、噛合機構60を駐車時に車両の移動を防止するために使用される駐車ブレーキとして使用することができる。
【0065】
更に、噛合機構60の第1噛合部61を、回転電機12のロータ12bに設け、回転電機12から出力部7までの伝動経路上において、減速機構15より回転電機側に設けたことよって、少しの車輪2の回転によって第1噛合部61を大きく回転させることができる。これにより、第2噛合部62を噛合位置まで移動駆動させた際に、この第2噛合部62と第1噛合部との噛合歯が当接して噛合えない場合においても、ほとんど車両を移動させることなく第1噛合部を回転させて、これら第1及び第2噛合部61,62を噛合させることができる。
【0066】
また、摩擦ブレーキ41を回転電機12から出力部7までの伝動経路上において、減速機構15よりも車輪側に設けたことによって、摩擦ブレーキ41の摩擦板46,49の回転を低くすることができ、オイルが封入されたケース部材3内において、この摩擦板46,49が回転することによる引き摺りトルクを低減することができる。更に、常用ブレーキとして使用し得る摩擦ブレーキ41が減速機構15よりも車輪側にあるため、よりリニアに車輪2を制動することができる。
【0067】
また、第2噛合部62と回動部材51とを連結する連結部材63を、外摩擦板46と環状壁3a23との間を通したことによって、噛合機構60を軸方向にコンパクトに構成することができる。
【0068】
更に、上記摩擦ブレーキ41及び噛合機構60のブレーキをケース部材3内に収納したことと、これら摩擦ブレーキ41及び噛合機構60を共にアクチュエータ42によって駆動させたこととが相俟って、寒冷地においても確実にブレーキ機構を作動させることができる。また、上記摩擦ブレーキ41及び噛合機構60は、ケース部材3内において、油中で使用されるため、ブレーキダストがほとんど発生せず、メンテナンスが容易であると共に、高い耐久性を保持することができる。
【0069】
<車両搭載時のインホイールモータのブレーキ機構の制御>
ついで、上記インホイールモータ駆動装置1が、複数ある車両100の車輪2に搭載された際のブレーキ機構の制御方法について説明をする。図4に示すように、車両100は、それぞれ左右一対の前後輪2F,2Rによって支持された車体6を有していると共に、これら前後輪2F,2Rからなる車輪2の内、前輪2は車体6に搭載された不図示の回転電機及びエンジンからの動力によって駆動するように構成されている。
【0070】
また、左右の後輪2R,2Rには、それぞれホイール10の内部に上述したインホイールモータ駆動装置1L,1Rが取付けられており、このインホイールモータ駆動装置1L,1Rによって駆動されるようになっている。
【0071】
更に、上記車両6には、運転者のアクセル操作及びブレーキ操作に基づいて、インホイールモータ駆動装置1L,1Rのブレーキ機構41,60を制御する車両用制御装置70が搭載されている。この車両用制御装置70は、車両6に搭載された複数のブレーキの内、どのブレーキを使用するかを判断する判断部71と、この判断部71がインホイールモータ駆動装置1L,1Rの噛合機構60を作動させると判断し、上記複数のインホイールモータ駆動装置1L,1Rの内の少なくとも1つの噛合機構60を作動させる際に、他のインホイールモータ駆動装置1L,1Rの内、少なくとも1つのインホイールモータ駆動装置1L,1Rの摩擦ブレーキ41を係止させる車体保持制御部72と、を有している。
【0072】
即ち、運転者が坂道にて車両100を停車させ、ブレーキを踏みながらサイドブレーキもしくはシフトをパーキングにして駐車しようとすると、判断部71によって、車両100の駐車が判断され、通常の走行時に車両を制動する常用ブレーキとしての摩擦ブレーキ41から駐車ブレーキとしての噛合機構60によってブレーキを掛けることが判断される。
【0073】
上記判断部71によって、左右の後輪2R,2Rをインホイールモータ駆動装置1L,1Rの噛合機構60によってロックすることが判断されると、車体保持制御部71は、図5に示すように、左右の後輪2R,2Rの内、どちらか一方の車輪(本実施の形態では左輪)2Rのインホイールモータ駆動装置1Lの摩擦ブレーキ41を係止した状態で、他方の車輪(本実施の形態では右輪)2Rのインホイールモータ駆動装置1Rのアクチュエータ42を移動駆動させ、摩擦ブレーキ41を解放すると共に、噛合機構60の第1及び第2噛合部61,62を噛み合わせる。
【0074】
そして、一方の車輪(左輪)2Rのインホイールモータ駆動装置1Lの噛合機構60が噛合位置になると、他方の車輪(右輪)2Rのアクチュエータ42が移動駆動されて、係止していた摩擦ブレーキ41を解放すると共に、噛合機構60を解除位置から噛合位置へと切り換える。
【0075】
一方、駐車中の車両6において、運転者によってブレーキが踏み込まれると共に、サイドブレーキが解除されかつシフトが走行レンジにされると、判断部71によって車両6の発進準備が判断され、噛合機構60の噛合いを解除して、摩擦ブレーキ41を掛けることが判断される。
【0076】
上記判断部71によって、インホイールモータ駆動装置1L,1Rの噛合機構60の解除が判断されると、車体保持制御部72は、駐車時と同様に、左右の後輪2R,2Rの内、どちらか一方の車輪(本実施の形態では左輪)2Rのインホイールモータ駆動装置1Lの摩擦ブレーキ41を係止し、この一方の車輪2Rのインホイールモータ駆動装置1Lの摩擦ブレーキ41が係止された状態で、他方の車輪(本実施の形態では右輪)2Rの噛合機構60の噛合いを解除する。
【0077】
そして、今度は、噛合機構60の噛合が解除された他方の車輪2Rの摩擦ブレーキ41を係止し、この他方の車輪2Rのインホイールモータ駆動装置1Rの摩擦ブレーキ41を係止した状態で、一方の車輪2Rのインホイールモータ駆動装置1Lの噛合機構60の噛合を解除する。
【0078】
このように、インホイールモータ駆動装置1L,1Rの噛合機構60を作動させる場合、少なくとも1つのインホイールモータ駆動装置1L,1Rの摩擦ブレーキ41を係止し、一輪ごと噛合機構60を作動させて行くことにより、常に車両100は、いずれかのインホイールモータ駆動装置1L,1Rの摩擦ブレーキ41によって車体6が動きださないように係止された状態で、噛合機構60を作動させることができる。
【0079】
<第2の実施の形態>
ついで、本発明の第2の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置について説明をする。このインホイールモータ駆動装置は、第1の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置と、噛合機構の位置及び、第1噛合部と第2噛合部との噛合歯が当接した際に、第2噛合部を待機させる噛合待機機構を設けた点で異なっており、第1の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置と同一の構成については、その説明を省略すると共に、同一の機能を有する部品については、同一の名称及び参照符号を説明する。
【0080】
図6に示すように、インホイールモータ駆動装置1は、噛合機構60を、回転電機12を挟んで回動部材と軸方向反対側に配設している。また、アクチュエータ42は、その駆動軸43が本体部を貫通して、両側からその端部が突出するように構成されており、この駆動軸43の回動部材が連結される一端部43aとは反対側の他端部43bは、噛合機構60の連結機構80を介して第2噛合部62と連結されている。
【0081】
上記連結機構80は、一方側の端部が駆動軸43の他端部43bに取付けられるアーム部材81と、このアーム部材81の他方側の端部に軸方向にスライド自在に取付けられると共に、テーパー状の当接部が設けられたスライド部材82と、詳しくは後述するスライド部材82の当接部82aとアーム部材81との間に縮設されるスプリング(付勢手段)83と、第1噛合部61の外周側で対向するように配設されたポール85と、によって構成されている。
【0082】
上記スライド部材82は、アーム部材81の他端部にスライド自在に嵌挿される軸部82bと、この軸部のケースカバー3b側の端部において軸部82bよりも大径となっていると共に、先端部がテーパー状に形成された当接部82aとによって構成されており、この当接部82aのテーパー部分が上記ポール85と当接してポール85を回動させるようになっている。
【0083】
噛合機構60は、支持部材16の鍔部16cの外周面に第1噛合部61を形成していると共に、第2噛合部62を上記ポール85の第1噛合部61と対向する面に形成しており、このポール85が上記スライド部材82の当接部82aと当接して鍔部16cに向かって回動することにより、第2噛合部62と第1噛合部61とが噛合うようになっている。
【0084】
また、アクチュエータ42の駆動軸43がケースカバー3b側に移動駆動して、第2噛合部62が噛合位置となっても、これら第1噛合部61及び第2噛合部62の噛合歯が当接して噛合えない場合、スライド部材82が第2噛合部62を第1噛合部61に付勢するスプリング83の付勢力に抗して、回転電機12側にスライドして待機(図6の点線にて示す待機位置)するようになっており、第1噛合部61が回転して第2噛合部62と噛合えるようになると、上記スプリング83の付勢力によってスライド部材82がケースカバー3b側へと移動し、ポール85が回動して、これら第1噛合部61及び第2噛合部62が噛合うようになっている。
【0085】
即ち、上記スライド部材82、スプリング83及びポール85によって、第2噛合部62が噛合位置になった際に第1噛合部61と噛合えない場合、第2噛合部62を待機させ、これら第1及び第2噛合部61,62が噛合えるようになると、スプリング83の付勢力によって第2噛合部62を移動させて、第1噛合部61と噛み合わせる噛合待機機構86を構成している。
【0086】
このように噛合機構60を、回転電機12を挟んで回動部材51とは反対側に設けることによって、噛合機構60を配設するスペースを軸方向に広く取ることができ、設計の自由度を広げることができる。そして、これによって、上述した噛合待機機構86を容易に設けることができ、第1噛合部61及び第2噛合部62の噛合歯が当接してこれら第1噛合部61及び第2噛合部62が噛合えない場合においても、アクチュエータ42に負荷をかけることなく第1噛合部61と第2噛合部62とを噛み合わせることができる。
【0087】
<第3の実施の形態>
ついで、本発明の第3の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置について説明をする。このインホイールモータ駆動装置は、第2の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置と、噛合機構及び噛合待機機構の構成において異なっており、第1及び第2の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置と同一の構成については、その説明を省略すると共に、同一の機能を有する部品については、同一の名称及び参照符号を説明する。
【0088】
図7に示すように、連結機構80のアーム部材81の端部には、ケースカバー3bから延設された延設部3bの内面に形成されスプラインにスプライン係合する第1スライド部材91が取付けられており、噛合待機機構90は、この第1スライド部材91と、第スライド部材91の延設部3bとは反対側の内面に形成されたスプラインにスプライン係合する第2スライド部材92と、これら第1スライド部材91と第2スライド部材92との間に縮設されたスプリング93と、を有して構成されている。
【0089】
また、噛合機構60は、上記支持部材16の鍔部16cに第1噛合部61を形成していると共に、上記第2スライド部92に第2噛合部62を形成しており、これら第1及び第2噛合部61,62は、噛合歯がそれぞれスプライン形状となっている。
【0090】
そのため、アクチュエータ42の駆動軸43がケースカバー3b側に移動駆動すると、アーム部材81を介して、第1スライド部材91がケースカバー3b側に移動すると共に、この第1スライド部材91と共に第2スライド部材92もケースカバー3b側に移動し、第2噛合部62と第1噛合部61とが噛合う。
【0091】
また、これら第2噛合部62及び第1噛合部61の噛合歯が当接して噛合えない場合、スプリング93の付勢力に抗して第2スライド部材92が回転電機側にスライドして待機し(図6の点線にて示す待機位置)、第1噛合部61が回転して第2噛合部62と噛合えるようになると、上記スプリング93の付勢力によって第2スライド部材92がケースカバー3b側へと移動し、これら第1噛合部61及び第2噛合部62が噛合うようになっている。
【0092】
このように、第1噛合部61及び第2噛合部62をスプライン形状とすると、第1噛合部61及び第2噛合部62の噛合歯が当接して噛合えない場合でも、少ない第1噛合部61の回転で、第1噛合部61と第2噛合部62とが噛合えるようになる。
【0093】
なお、上記第1乃至第3の実施の形態において、摩擦ブレーキ41及び噛合機構60をケース部材3の内部に収納していたが、ひとつのアクチュエータ42の駆動によって作動させることができれば、ケース部材3の外部に設けても良い。
【0094】
また、摩擦ブレーキは、多板ブレーキ以外にも、ドラムブレーキや、カムを摩擦材に押圧するようなブレーキなど、どのようなタイプの摩擦ブレーキでも良いと共に、噛合機構についても、2つの部材が互いに噛合うものであれば、どのような構成の噛合機構でも良い。
【0095】
更に、上述した第1乃至第3の実施の形態にて説明した発明は、どのように組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0096】
1 インホイールモータ駆動装置
2 車輪
3 ケース部材
6 車体
7 出力部
10 ホイール
12 回転電機
12a ステータ
12b ロータ
13 入力部
15 減速機構
41 摩擦ブレーキ
42 アクチュエータ
43 駆動軸
46 第1摩擦板
49 第2摩擦板
50 ピストン
51 回動部材
60 噛合機構
61 第1噛合部
62 第2噛合部
63 連結部材
70 車両用制御装置
72 制御部(車体保持制御部)
80 連結機構
83,93 付勢手段(スプリング)
86,90 噛合待機構
100 車両
A 回転系
B 回転固定系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ及びステータを有する回転電機と、該回転電機を内部に収納すると共に車体に対して回転不能に取付けられるケース部材と、を備え、前記回転電機によって車輪を駆動し得るように該車輪のホイールの内側に配置されるインホイールモータ駆動装置において、
前記車輪に駆動連結される車輪側の回転系と前記ケース部材に相対回転不能に連結されるケース部材側の回転固定系とを、付与される押圧力によって摩擦係止する摩擦ブレーキと、
前記摩擦ブレーキの押圧力を自在に付与するアクチュエータと、
前記回転系に設けられる第1噛合部と、前記回転固定系に設けられる第2噛合部とを有し、前記アクチュエータの駆動に基づいて、これら第1及び第2噛合部が噛合し得る噛合位置と、これら第1及び第2噛合部の噛合いが解除される解除位置とに移動駆動される噛合機構と、を備えた、
ことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、その駆動範囲内に、前記摩擦ブレーキの押圧力を変更する制動領域と、前記押圧力が生じない範囲であって、前記噛合機構の噛合位置と解除位置とを切換える切換領域と、を有する、
請求項1記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記回転系は、前記ロータが駆動連結される入力部と、前記車輪のホイールが駆動連結される出力部と、前記入力部からの回転を前記出力部に減速して出力する減速機構と、を有し、
前記第1噛合部は、前記入力部に設けられる、
請求項1又は2記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記アクチュエータは、前記ケース部材に固設されると共に、駆動軸を往復駆動する直動アクチュエータであり、
前記摩擦ブレーキは、前記ケース部材に相対回転不能に連結される第1摩擦板と、前記出力部に駆動連結される第2摩擦板と、これら第1及び第2摩擦板を押圧して係合させるピストンと、前記ケース部材に支持された支点を中心に回動可能に支持され、その一端部が前記アクチュエータに連結され、他端部が前記ピストンを押圧する回動部材と、を有する、
請求項3記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記噛合機構は、前記回動部材と前記第2噛合部とを、前記ケース部材と前記第1摩擦板の外周との間を通して連結する連結部材を有する、
請求項4記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
前記噛合機構は、前記回転電機を挟んで前記回動部材と軸方向反対側に配設され、前記駆動軸の、前記回動部材が連結される一端部とは反対側の他端部と、前記第2噛合部とを連結する連結機構を有する、
請求項4記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記連結機構は、前記第2噛合部を前記第1噛合部に付勢する付勢手段を有し、該第2噛合部が前記噛合位置になった際に前記第1噛合部と噛合えない場合、前記第2噛合部を待機させ、これら第1及び第2噛合部が噛合えるようになると、前記付勢手段の付勢力によって前記第2噛合部を移動させて、前記第1噛合部と噛み合わせる噛合待機機構を有する、
請求項6記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
前記第1及び第2噛合部は、互いにスプライン係合するスプライン形状からなる、
請求項7記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
前記ケース部材は、前記摩擦ブレーキ及び噛合機構を収納する、
請求項1乃至8のいずれか1項記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項記載のインホイールモータ駆動装置が搭載された複数の車輪を有する車両の車両用制御装置において、
前記複数のインホイールモータ駆動装置の内の少なくとも1つの噛合機構を作動させる際に、他のインホイールモータ駆動装置の内、少なくとも1つのインホイールモータ駆動装置の前記摩擦ブレーキを係止させる制御部を備えた、
ことを特徴とする車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−214103(P2012−214103A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80167(P2011−80167)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】