説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】回転電機の回転を第1軸上から該第1軸と平行な第2軸上に減速して伝達する伝達機構を小型化し、サスペンション装置やブレーキ装置等に干渉することの防止が可能なインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】インホイールモータ駆動装置1は、モータ3と、モータ3の回転を第1軸AX1上から第2軸AX2上に減速して伝達する減速ギヤ機構20と、減速ギヤ機構20により伝達された回転を減速する減速プラネタリギヤ40と、該減速プラネタリギヤ40の減速回転をホイールに出力する出力軸50とを備えている。その減速ギヤ機構20において、第1軸AX1及び第2軸AX2と平行な第3軸AX3上に、小径ギヤ21と大径ギヤ25aとに噛合するアイドラギヤ22を配設する。減速ギヤ機構20で十分な減速比を設定し、かつ大径ギヤ25aを小径化することが可能となり、インホイールモータ駆動装置1の小型化が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハイブリッド車両、電気車両等に搭載されるインホイールモータ駆動装置に係り、詳しくは、第1軸上に配置された回転電機の回転を該第1軸と平行な第2軸上に配置された減速機構及び出力軸に伝達するインホイールモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費向上や環境性能の向上を図るために、例えばハイブリッド車両や電気車両等のモータ・ジェネレータ(以下、単に「モータ」という)を搭載した車両が種々提案されており、このようなモータを搭載する車両にあって、車内空間の確保を図るため、駆動・回生効率の向上を図るため、或いはアスクルシャフトやディファレンシャル装置を省略して軽量化を図るために、車輪のホイール内に配設するインホイールモータ駆動装置の開発が進められている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−126189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように、モータ(トラクションモータ20)及び減速機構(減速機30)をホイールの中心軸と同軸上に配置したものでは、その軸長が長くなるため、モータがホイール幅より大きく突出し、車両側に侵出してしまう。このように車両側に侵出すると、インホイールモータ駆動装置を配設していない車両のサスペンション装置には干渉してしまうため、インホイールモータ駆動装置を装着するために新たなサスペンション装置を開発する必要が生じ、車両設計を含めて、大幅なコストアップを招いてしまうという問題がある。
【0005】
そこで、軸方向の短縮化のために、減速機構とモータとを平行な軸上に配置し、かつ減速機構とモータとが径方向から見て軸方向に重なるように配置し、つまり伝達経路が断面視でコの字状になる二軸状のインホイールモータ駆動装置を構成することが本出願人によって考えられている。
【0006】
ところで、このように二軸状に構成した場合にあっても、モータの出力を向上するために該モータを大径化してしまうと、インホイールモータ駆動装置の径方向が拡径してしまい、ホイール内に配置されるブレーキ装置やサスペンション装置(例えばハブアーム)等と干渉してしまう虞がある。そのため、モータと減速機構との間で動力伝達を行う伝達機構において、さらに減速するようにギヤ比を設定し、モータの小型化を図ることが考えられる。
【0007】
しかしながら、このようなモータと減速機構との間で動力伝達を行う伝達機構にあって、減速比を設定するためには、モータのロータに駆動連結される第1ギヤよりも、減速機構に駆動連結される第2ギヤを大径化する必要がある。そして、これら第1及び第2ギヤを噛合させるためには、第2ギヤを減速機構よりも大径化しないと、第1ギヤに届かないことになるが、該第2ギヤが減速機構よりも大径となると、結局はその部分が肥大化してしまい、ブレーキ装置やサスペンション装置等と干渉してしまう虞が生じるという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、回転電機の回転を第1軸上から該第1軸と平行な第2軸上に減速して伝達する伝達機構を小型化し、もってサスペンション装置やブレーキ装置等に干渉することを防止することが可能なインホイールモータ駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は(例えば図1乃至図5参照)、車輪のホイールの内側に取付けられ、該車輪を駆動し得るインホイールモータ駆動装置(1)において、
第1軸(AX1)上に配置された回転電機(3)と、
前記回転電機(3)の回転を、前記第1軸(AX1)上から該第1軸(AX1)と平行な第2軸(AX2)上に減速して伝達する伝達機構(20)と、
前記第2軸(AX2)上に配置され、前記伝達機構(20)により伝達された回転を減速する減速機構(40)と、
前記第2軸(AX2)上に配置され、前記減速機構(40)の減速回転を前記ホイールに出力する出力軸(50)と、を備え、
前記伝達機構(20)は、
前記第1軸(AX1)上に配置され、前記回転電機(3)に駆動連結された第1ギヤ(21)と、
前記第2軸(AX2)上に配置され、前記減速機構(40)に駆動連結されると共に前記第1ギヤ(21)より大径な第2ギヤ(25a)と、
前記第1軸(AX1)及び前記第2軸(AX2)と平行な第3軸(AX3)上に配置され、前記第1ギヤ(21)と前記第2ギヤ(25a)とに噛合する第3ギヤ(22)と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は(例えば図3参照)、前記第3軸(AX3)は、前記第1軸(AX1)及び前記第2軸(AX2)を通る直線(X)上に配置されたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は(例えば図1乃至図5参照)、前記回転電機(3)と前記伝達機構(20)と前記減速機構(40)と前記出力軸(50)の一部とを収納するケース部材(2)と、
前記第3ギヤ(22)の中心を貫通して該第3ギヤ(22)を回転自在に支持する軸部材(23,123)と、を備え、
前記軸部材(23,123)は、軸方向一方側に前記回転電機(3)が配置されると共に、軸方向他方側の端部(23c,123d)が前記ケース部材(2)の支持部(2e)に支持されたことを特徴とする。
【0012】
更に、本発明は(例えば図1乃至図3参照)、前記ケース部材(2)に支持されると共に、該ケース部材(2)の支持部(2e)と対向した対向部(24a)を有するプレート部材(24)を備え、
前記軸部材(23)は、前記軸方向一方側が前記プレート部材(24)の対向部(24a)に支持されたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は(例えば図1乃至図3参照)、前記回転電機(3)は、ステータ(4)及びロータ(5)を有し、
前記プレート部材(24)の対向部(24a)は、軸方向視で前記ステータ(4)と重なる部分に、該ステータ(4)とは軸方向反対側に凹む凹部(24b)を有することを特徴とする。
【0014】
更に、本発明は(例えば図1、図2、及び図4参照)、前記ケース部材(2)は、溝状に形成されて潤滑油を導く溝部(2d)を有し、
前記軸部材(23)は、軸方向に貫通形成され、前記溝部(2d)から潤滑油を導入する軸方向孔(23a)と、前記軸方向孔(23a)から外周側に向けて貫通形成され、前記第3ギヤ(22)を回転自在に支持する軸受(b3)に潤滑油を導く径方向孔(23b)と、前記ケース部材(2)の溝部(2d)に挿入される突起部(23e)と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は(例えば図1参照)、前記減速機構(40)と前記回転電機(3)とは、径方向から見て軸方向に重なる位置に配置され、
前記伝達機構(20)の第1ギヤ(21)、前記第2ギヤ(25a)、及び前記第3ギヤ(22)は、互いに径方向から見て軸方向に重なる位置に配置されたことを特徴とする。
【0016】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る本発明によると、伝達機構が、第1軸及び第2軸と平行な第3軸上に配置され、第1ギヤと第2ギヤとに噛合する第3ギヤを有しているので、該伝達機構で十分な減速比を設定することができるものでありながら、特に伝達機構の第2ギヤを小径化することができ、該伝達機構を小型化することができる。これにより、インホイールモータ駆動装置の小型化が図れ、サスペンション装置やブレーキ装置に干渉することの防止を図ることができる。
【0018】
請求項2に係る本発明によると、第3軸が、第1軸及び第2軸を通る直線上に配置されており、つまり第1、第2、及び第3ギヤが直線状に配置されるので、第3ギヤに対して第1ギヤから受けるスラスト力と、第3ギヤに対して第2ギヤから受けるスラスト力とが、第3ギヤにおいて周方向の真逆位置で生じるため、それらスラスト力がねじれ方向に作用することなく、打ち消し合うようにすることができる。これにより、第3ギヤの支持構造を簡易にすることができて、第3ギヤの支持構造の小型化も図ることができる。
【0019】
請求項3に係る本発明によると、第3ギヤを回転自在に支持する軸部材の軸方向他方側の端部をケース部材の支持部に支持させることで、該軸部材を、軸方向一方側に回転電機が配置される場所に配置することを可能とすることができる。
【0020】
請求項4に係る本発明によると、軸部材の軸方向一方側をプレート部材の対向部に支持させることで、該軸部材を、ケース部材の支持部とプレート部材の対向部とで両持ち構造にすることができる。これにより、第3ギヤの支持精度を向上することができ、耐久性の向上やギヤノイズの低減も図ることができる。
【0021】
請求項5に係る本発明によると、プレート部材の対向部が、軸方向視で回転電機のステータと重なる部分に、該ステータとは軸方向反対側に凹む凹部を有しているので、凹部の凹んだ分、回転電機とプレート部材とを軸方向に近づけることができる。これにより、インホイールモータ駆動装置を軸方向に短縮化することができる。
【0022】
請求項6に係る本発明によると、軸部材が、溝部から潤滑油を導入する軸方向孔と、軸方向孔から外周側に向けて貫通形成され、第3ギヤを回転自在に支持する軸受に潤滑油を導く径方向孔と、ケース部材の溝部に挿入される突起部とを有しているので、第3ギヤを回転自在に支持する軸受を潤滑する潤滑油を導くために形成された溝部を利用して、突起部によって軸部材の回り止めを行うことができ、つまり回り止め専用の部品を別途設けることを不必要とすることができる。
【0023】
請求項7に係る本発明によると、減速機構と回転電機とが径方向から見て軸方向に重なる位置に配置されているので、回転電機が車両側に突出することがなく、インホイールモータ駆動装置を軸方向に短縮化することができる。また、伝達機構の第1ギヤ、第2ギヤ、及び第3ギヤも、互いに径方向から見て軸方向に重なる位置に配置されているので、伝達機構が軸方向に膨らむことがなく、インホイールモータ駆動装置を軸方向に短縮化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置を示す正面断面図。
【図2】第1の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置を示す側面断面図。
【図3】図2のA−A矢視断面図。
【図4】アイドラ軸を示す斜視図。
【図5】第2の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置の一部を示す正面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る第1の実施の形態を図1乃至図4に沿って説明する。なお、本実施の形態におけるインホイールモータ駆動装置1は、前輪駆動のハイブリッド車両における後輪のホイール内に取付けて四輪駆動車両に変更するための駆動装置として用いられるものであるが、それ以外にも、例えば電気車両の駆動装置、シリーズ式のハイブリッド車両の駆動装置、後輪駆動のハイブリッド車両における前輪のホイール内に取付けて四輪駆動車両に変更するための駆動装置、等として用いることができる。
【0026】
本インホイールモータ駆動装置1は、図1に示すように、ケース(ケース部材)2内に、大まかに、モータ・ジェネレータ(回転電機)3、減速ギヤ機構(伝達機構)20、減速プラネタリギヤ(減速機構)40、ホイールハブ51が固定された出力軸50等を備えて構成されている。このうちのモータ・ジェネレータ3(以下、単に「モータ3」という)が、第1軸AX1上に配置され、出力軸50及び減速プラネタリギヤ40が、詳しくは後述するホイール100の中心と同軸にあって、第1軸AX1と平行な第2軸AX2上に配置されている。また、減速ギヤ機構20は、その伝達経路が軸方向と垂直な方向に延びるように配置され、詳しくは後述するアイドラギヤ22及びアイドラ軸23が、第1軸AX1及び第2軸AX2と平行な第3軸AX3上に配置されている。これにより、モータ3、減速ギヤ機構20、減速プラネタリギヤ40、出力軸50により形成される伝達経路は、断面視でコの字状となるように構成されている。
【0027】
上記ケース2は、主要部品の大部分を収容すると共に、詳しくは後述するハブベアリング52のベアリング支持部2fを有し、該ベアリング支持部2fに対して軸方向の反対側が開口したメインケース2Aと、該メインケース2Aの開口を閉塞するケースカバー2Bと、を有して構成されている。該メインケース2Aとケースカバー2Bとは、メインケース2Aの孔2Ahとケースカバー2Bの孔2Bhとに螺合されるボルト11によって締結されている。
【0028】
なお、ケース2は、詳しくは後述する出力軸50の外周側がシールリング55によりシールされることで、オイルが封入される密封構造を構成している。即ち、該ケース2は、モータ3、減速ギヤ機構20、減速プラネタリギヤ40、出力軸50の一部等を収容すると共にオイルを封入して、ケース2の内部の下方側にオイル溜りを形成している。該オイル溜りは、第2軸AX2よりも下方部分に形成されており、詳しくは後述する減速プラネタリギヤ40及び減速ギヤ軸25の大径ギヤ25aの一部が浸かっている状態となり、上方に位置するモータ3はオイル溜りに浸からずに、減速プラネタリギヤ40や大径ギヤ25aの回転によって掻き上げられたオイル(潤滑油)によって潤滑・冷却される。従って、通常、モータ3はオイル溜りに浸かることがなく、モータ3にオイルの攪拌ロスが生じることはない。
【0029】
上述したように、メインケース2Aの上方部分には、モータ3が配設されている。モータ3は、ケース2に固定されるステータ4と、第1軸AX1上にあってケース2に回転自在に支持されるロータ軸7上に固定されたロータ5とを有して構成されており、該ロータ5に永久磁石が埋設されていない、いわゆる誘導モータからなる。ステータ4は、多数の鋼板が積層されて構成されるステータ鋼板4aと、ステータ鋼板4aに形成された複数のスリット(不図示)に嵌挿された多数のステータ巻線がロータ軸7の軸方向(以下、単に「軸方向」という)の両側に突出してそれぞれ折り返される部位であるコイルエンド4b,4bと、を有している。即ち、積層されたステータ鋼板4aは、略々円筒状となっており、その円筒状部分に形成されたスリットにステータ巻線が巻回されてステータコイルを構成しており、その両端部がステータコイルのコイルエンド4b,4bとなっている。なお、該ステータ鋼板4aは、図示を省略した固定部がボルト等によってケース2に締結されている。
【0030】
一方、上記ロータ5は、ステータ鋼板4aと同様に鋼板が積層され、例えば誘導電流を生じるように構成された円筒状のロータコア5aを有している。ロータコア5aの軸方向の両側には、環状のエンドプレート6A,6Bが配設されており、そのうちのエンドプレート6Aは、ロータ軸7に形成されたフランジ部7aに当接されている。また、エンドプレート6Bは、ロータ軸7に螺合するナット8により上記フランジ部7aに対して締め付けられ、これにより、ロータコア5aがロータ軸7上に一体的に固着されている。
【0031】
上記ロータ軸7は、メインケース2Aの内側面の環状部分に嵌合されたボールベアリングb1と、ケースカバー2Bの内側面の環状部分に嵌合されたボールベアリングb2とによって、いわゆる両持ち構造となるように回転自在に支持されている。また、上記ロータ軸7上には、ロータコア5aと軸方向に並設された形で、減速ギヤ機構20としての小径ギヤ(第1ギヤ)21が、ロータ軸7にスプライン嵌合して相対回転不能にされている(つまり駆動連結されている)と共に、該小径ギヤ21は、ボールベアリングb2と共にナット9によってロータ軸7の段差部分7bに締め付けられている。
【0032】
上記減速ギヤ機構20は、上述したロータ軸7に固着された上記小径ギヤ21と、該小径ギヤ21のはすば状の歯面21aに噛合するはすば状の歯面22aが形成されたアイドラギヤ(第3ギヤ)22と、該アイドラギヤ22のはすば状の歯面22aに噛合するはすば状の歯面25bが形成された減速ギヤ軸25の大径ギヤ(第2ギヤ)25aとを有して構成されている。このうちの詳しくは後述するアイドラギヤ22は、上述の第1軸AX1及び後述の第2軸AX2と平行な第3軸AX3上に配置されており、該第3軸AX3上に配置されたアイドラ軸(軸部材)23に対してニードルベアリング(軸受)b3を介して回転自在に支持されている。
【0033】
上記減速ギヤ軸25の大径ギヤ25aは、減速プラネタリギヤ40及び出力軸50と共に第2軸AX2上に並列配置されており、減速ギヤ軸25からフランジ状に形成された部分の外周面が上記アイドラギヤ22の歯面22aに噛合する歯面25bとして形成されることで、後述の減速プラネタリギヤ40に駆動連結されるギヤとして構成されている。該第2軸AX2上にある減速ギヤ軸25は、上記第1軸AX1上にあるロータ軸7と平行かつ下方側の軸上にあり、一端がボールベアリングb4によりケース2に対して回転自在に支持されていると共に、他端がボールベアリングb5により詳しくは後述する出力軸50及びハブベアリング52を介してケース2に対して回転自在に支持されている。該大径ギヤ25aは、上記アイドラギヤ22及び小径ギヤ21を介してモータ3の回転を伝達することになる。そして、該減速ギヤ軸25の軸方向の出力軸50側の外周面には、減速プラネタリギヤ40のサンギヤ25cの歯面が形成されている。
【0034】
なお、減速ギヤ機構20は、図2に示すように、側面視で、小径ギヤ21、アイドラギヤ22、大径ギヤ25aのそれぞれの中心が一直線上となるように(つまり第1軸AX1、第2軸AX2、第3軸AX3が直線X上に)配置されており、かつ図1に示すように、軸方向においても(正面視で)、モータ3及び減速プラネタリギヤ40とケースカバー2Bの側面とに沿って一直線上となるように配置されている。
【0035】
上記減速プラネタリギヤ40は、上記モータ3と径方向から見て軸方向に重なる位置に配置されており、上述のサンギヤ25cと、該サンギヤ25cに噛合する歯面43aが形成されたピニオンギヤ43と、該ピニオンギヤ43の歯面43aに噛合する歯面41aが形成されたリングギヤ41とを有している。該ピニオンギヤ43は、側板42と出力軸50のフランジ部50dとに架け渡されたピニオンシャフト44に回転自在に支持され、これらピニオンギヤ43、ピニオンシャフト44、側板42、及びフランジ部50dによって一体的なキャリヤ46を構成している。上記リングギヤ41は、その外周側に形成されたスプライン41sが、メインケース2Aの内周面に沿って構成される円筒部分に形成されたスプライン2sにスプライン係合されていると共に、スナップリング45によってメインケース2Aとの間に挟持されつつ回転不能に固定されている。
【0036】
上記出力軸50は、上述したように、軸方向の減速プラネタリギヤ40側の端部に、キャリヤ46の一部を構成するフランジ状のフランジ部50dが形成されており、該フランジ部50dの減速プラネタリギヤ40とは軸方向反対側が大径な大径部50cとして形成され、中間部分が大径部50cよりも小径となる小径部50bとして形成され、更に、先端部分に小径部50bよりも小径な先端部50aが形成されている。上記大径部50cの内周側には減速ギヤ軸25との間に上記ボールベアリングb5が嵌挿されている。
【0037】
上記出力軸50の大径部50cの外周面にはスリーブ54が嵌合されており、該スリーブ54とメインケース2Aの内周面との間には、シールリング55が配設され、上記オイル溜りの密封性の確保、及び外部からの遺物侵入の防止が図られている。また、スリーブ54の軸方向の減速プラネタリギヤ40側の外周面には、歯面54aが形成されており、その歯面54aに対向して該歯面54aの歯の通過を検出する回転数センサ59が配設されている。なお、該回転数センサ59は、出力軸50を介して固定されるホイールの回転を検出するので、速度センサやABSの回転数センサ等として用いることができる。
【0038】
一方、上記出力軸50の小径部50bの外周面には、ホイールハブ51がスプライン嵌合しており、該ホイールハブ51は、出力軸50の先端部50aにナット53が螺合されることにより抜け止め固定されている。上記ホイールハブ51の中空状に形成されたスリーブ部51aの外周側には、メインケース2Aのベアリング支持部2fとの間に、ハブベアリング52が嵌合されており、つまりホイールハブ51及び出力軸50がケース2に対して回転自在に支持されている。ハブベアリング52は、スナップリング56によりメインケース2Aのベアリング支持部2fとの間に挟持されていると共に、上記スリーブ54の側面に当接して、該スリーブ54の反対側の先端が上記フランジ部50dに当接することで、出力軸50の軸方向の位置決め支持精度を良好に確保している。
【0039】
上記ホイールハブ51の軸方向の端部には、円板状に形成されたハブ部51bが備えられており、該ハブ部51bに形成された複数のボルト孔にボルト(不図示)が嵌挿され、それらボルトにホイールがナットにより締結されて、車輪として構成される。
【0040】
なお、上記メインケース2Aのベアリング支持部2fの外周側には、キャリパ取付部2gが一体的に延設されており、該キャリパ取付部2gには、不図示のディスクブレーキ装置のキャリパが固定される。該キャリパは、出力軸50の中心(ホイールの中心)である第2軸AX2を中心として、周方向におけるモータ3と同径上に並列配置される形となる。更に、メインケース2Aにおいては、第2軸AX2を中心として、周方向におけるモータ3と同径上に並列配置される形で、サスペンション装置のハブアームの取付部が形成されている(不図示)。従って、ホイール内において、出力軸50や減速プラネタリギヤ40の周囲に順に、キャリパ、モータ3、ハブアームの取付部が並んで配置されていることになる。このような配置構造とすることで、ディスクブレーキ装置(キャリパ)やサスペンション装置を、例えばインホイールモータ駆動装置1を備えていない車両に対して、大幅な設計変更を行うことなく、略々そのまま配置することができる。
【0041】
続いて、インホイールモータ駆動装置1の潤滑構造と、該インホイールモータ駆動装置1の動作に伴うオイル(潤滑油)の流れについて説明する。図1及び図2に示すように、ケースカバー2Bの内面にあっては、ロータ軸7よりも上方側に、軸方向のモータ3側に突出するようにリブ部2aが一体的に形成されている。該リブ部2aの下方側は、オイルが掻き上げられてくる方向に向かって屈曲形成されており、これにより、掻き上げられたオイルを捕集する捕集面2bが構成されている。捕集面2bにおける下端部分からは、モータ3とは軸方向反対側に向けてかつ下方に向けて傾斜するように油孔2cが穿設されている。該油孔2cは、ロータ軸7の先端とケースカバー2Bとの間の空間2Dに連通されている。また、ケースカバー2Bの内面にあって、空間2Dから下方側に向けては、上記第3軸AX3及び上記第2軸AX2を通るように直線状でかつ溝状に形成された溝部2dが形成されている。
【0042】
例えば不図示の制御部が運転者のアクセル操作等に基づきモータ3の力行制御を開始すると、電源(バッテリ)及びインバータ回路等から該モータ3のステータ4に電力が供給され、ロータ5が回転駆動される。すると、ロータ軸7が回転駆動され、小径ギヤ21からアイドラギヤ22を介して減速ギヤ軸25の大径ギヤ25aに、該ロータ軸7の回転が減速されて伝達される。更に、減速ギヤ軸25のサンギヤ25cが回転駆動されることで、減速プラネタリギヤ40において、回転が固定されたリングギヤ41を介してキャリヤ46が更に減速回転とされ、そのキャリヤ46の減速回転が、出力軸50及びホイールハブ51に伝達され、駆動回転として車輪200が回転駆動されることになる。
【0043】
反対に、例えば不図示の制御部が運転者のアクセル操作やブレーキ操作等に基づき回生制御を開始した場合は、出力軸50及びホイールハブ51が車両の慣性力等により回転駆動され、減速プラネタリギヤ40のキャリヤ46に逆入力される形で、回転が固定されたリングギヤ41を介して減速ギヤ軸25のサンギヤ25cが増速回転される。更に、減速ギヤ軸25の回転は、大径ギヤ25a、アイドラギヤ22を介して小径ギヤ21に増速回転として伝達され、ロータ軸7が回転駆動され、ステータ4を負電圧とすることでロータ5の回転が該ステータ4に逆起電力が作用し、インバータ回路等を介して電源に電力として供給されて、電源の充電がなされる。
【0044】
なお、本第1の実施の形態におけるインホイールモータ駆動装置1のモータ3は、上述したように誘導モータからなるので、例えばハイブリッド駆動装置(不図示)によって他の車輪(例えば前輪)が駆動された走行状態にあって、モータ3を力行制御せずに空転させる場合であっても、逆起電力が発生することはなく、特にモータ3が高回転となる高速走行にあって、逆起電力によって発生するトルクを打ち消す、いわゆる弱め磁界制御を行う必要がなく、これにより、車両の燃費向上を図ることができる。
【0045】
このようにモータ3を力行制御した場合や回生制御した場合にあっても、車両が前進走行である状態では出力軸50の回転方向が前進回転であり、つまり減速ギヤ軸25の大径ギヤ25a及び減速プラネタリギヤ40のキャリヤ46の回転方向は一方向である。この前進走行状態では、図2に示すように、減速ギヤ軸25の大径ギヤ25aが矢印ωで示す方向に回転し、大径ギヤ25aにより下方側にあるオイル溜りのオイルが上方に向けて掻き上げられる。
【0046】
このように掻き上げられたオイルの大部分は、減速ギヤ機構20の各ギヤの歯面やモータ3に直接的にかかって、それら減速ギヤ機構20やモータ3を潤滑・冷却する。また、掻き上げられたオイルの一部は、上記リブ部2aの捕集面2bに捕集され、油孔2cから空間2Dに導かれる。この空間2Dに導かれたオイルにより該空間2Dに配置されたボールベアリングb2が潤滑されると共に、ロータ軸7に形成された軸方向の貫通孔7cを介して導かれたオイルにより、ボールベアリングb1が潤滑される。該ボールベアリングb1を潤滑したオイルは、モータ3のステータ4とメインケース2Aの内面との間を通ってモータ3を潤滑・冷却しつつオイル溜りに戻される。
【0047】
一方、空間2D内のオイルは、溝部2dを通って下方側にも流される。該溝部2dに流れてきたオイルは、その一部が、詳しくは後述するアイドラ軸23の軸方向孔23aに導入され、該軸方向孔23aから外周側に向けて貫通形成された径方向孔23bを介してアイドラギヤ22を回転自在に支持するニードルベアリングb3に導かれる。なお、軸方向孔23aから径方向孔23bに入らなかったオイルは、溝部2dと軸方向反対側の開口部分から排出され、オイル溜りに戻される。
【0048】
また、溝部2dを通ってアイドラ軸23よりも下方側に流れたオイルは、その一部がボールベアリングb4を潤滑しつつオイル溜りに戻されると共に、残りのオイルは減速ギヤ軸25に形成された軸方向の貫通孔25dを介して導かれ、ボールベアリングb5を潤滑しつつオイル溜りに戻される。
【0049】
ついで、本発明の要部となるアイドラギヤ22及びその支持構造について説明する。上述したアイドラギヤ22は、ニードルベアリングb3を介してアイドラ軸23に回転自在に支持されている。アイドラ軸23は、図1乃至図3に示すように、ケースカバー2Bとモータ3のステータ4のコイルエンド4bとの間に配置されており、つまりアイドラ軸23の軸方向一方側にはモータ3が配置されていることになる。また、アイドラ軸23は、図4に示すように、略々中空円筒状に構成されており、該アイドラ軸23には、中心に軸方向に貫通された軸方向孔23aが形成されていると共に、該軸方向孔23aから外周側に向かって貫通された径方向孔23b(図1参照)が形成されている。
【0050】
また、アイドラ軸23は、取付けられた際にケースカバー2B側となる端部(軸方向他方側の端部)23cが、該ケースカバー2Bに形成された支持穴2eに嵌合されて、つまりケース2に対して支持される。該端部23cよりも軸方向のケースカバー2B側には、上記溝部2dに挿入される上下2箇所の突起部23e,23eが突出形成されており、それら突起部23e,23eは、該アイドラ軸23が該ケースカバー2Bの支持穴2eに嵌合される際に溝部2dに入り込んで、アイドラ軸23がケース2に対して回転不能となるように係合する。
【0051】
該アイドラ軸23のモータ3側となる端部(軸方向一方側の端部)23dは、図1及び図2に示すように、プレート部材24の嵌合穴24fに嵌合されて支持されている。該プレート部材24は、ケースカバー2Bの内周面に固定される2箇所の台座部24d,24dと、それら台座部24d,24dから略々垂直に屈曲形成された脚部24c,24cと、それら脚部24c,24cに支持され、かつケースカバー2Bの内面と平行に配置されると共に上記支持穴2eに対向する対向部24aと、を有して構成されている。即ち、プレート部材24は、その脚部24c,24cと対向部24aとで、アイドラギヤ22、アイドラ軸23、ニードルベアリングb3を帯状に包んだ形となる。なお、ケースカバー2Bの内面とアイドラギヤ22及びニードルベアリングb3との間、アイドラギヤ22及びニードルベアリングb3と対向部24aとの間には、それぞれワッシャ26,26が配置され、それらアイドラギヤ22及びニードルベアリングb3の軸方向が位置決め支持されている。
【0052】
上記台座部24d,24dには、図2及び図3に示すように、それぞれ2箇所(合計4箇所)のボルト孔24eが形成されており、該ボルト孔24eを貫通する形でケースカバー2Bに形成された雌ネジ部2Baにボルト12が螺合されることで、台座部24d,24dがケースカバー2Bに対して固着されるように締結される。これにより、プレート部材24の特に対向部24aは、ケース2に対して位置決め支持されていることになる。
【0053】
一方、対向部24aのケースカバー2B側には、上記アイドラ軸23の端部23dに嵌合する嵌合穴24fが形成されており、これにより、アイドラ軸23は、その両端部23c,23dが、ケースカバー2Bの支持穴2eとプレート部材24の対向部24aの嵌合穴24fとに嵌合して、いわゆる両持ち構造とされる。
【0054】
また、対向部24aのモータ3側には、軸方向視でステータ4のコイルエンド4bと重なる部分に、該ステータ4とは軸方向反対側に凹む凹部24bが形成されている。該凹部24bの深さは、アイドラ軸23のモータ3側の端面が露出する深さに形成されており、かつコイルエンド4bとプレート部材24の対向部24aとの隙間が、所定の絶縁距離となる深さに形成されている。この絶縁距離を有することで、ステータ4における巻線コイル同士に流れる電流が、プレート部材24を介してリークすることのないように構成されている。また、対向部24aに凹部24bが形成されていない場合に比して、プレート部材24とステータ4との軸方向の距離を最大限に短縮化されるように構成されていることになる。
【0055】
なお、凹部24bは、アイドラ軸23のモータ3側の端面が露出する深さに形成されているので、上記軸方向孔23aが開口されており(図2参照)、上記溝部2dから軸方向孔23aに導入され、径方向孔23bに導入されなかったオイルがオイル溜りに戻されるように構成されている。
【0056】
以上のように構成された本インホイールモータ駆動装置1によると、減速ギヤ機構20が、第1軸AX1及び第2軸AX2と平行な第3軸AX3上に配置され、小径ギヤ21と大径ギヤ25aとに噛合するアイドラギヤ22を有しているので、該減速ギヤ機構20で十分な減速比を設定することができるものでありながら、特に減速ギヤ機構20の大径ギヤ25aを小径化することができ、該減速ギヤ機構20を小型化することができる。これにより、インホイールモータ駆動装置1の小型化が図れ、サスペンション装置やブレーキ装置に干渉することの防止を図ることができる。
【0057】
また、第3軸AX3が、第1軸AX1及び第2軸AX2を通る直線X上に配置されており、つまり小径ギヤ21、アイドラギヤ22、大径ギヤ25aが直線状に配置されるので、アイドラギヤ22に対して小径ギヤ21から受けるスラスト力と、アイドラギヤ22に対して大径ギヤ25aから受けるスラスト力とが、アイドラギヤ22において周方向の真逆位置で生じるため、それらスラスト力がねじれ方向に作用することなく、打ち消し合うようにすることができる。これにより、アイドラギヤ22の支持構造(つまりアイドラ軸23及びプレート部材24)を簡易にすることができて、アイドラギヤ22の支持構造の小型化も図ることができる。
【0058】
更に、アイドラギヤ22を回転自在に支持するアイドラ軸23のケースカバー2B側の端部23cをケース2の支持穴2eに支持させることで、該アイドラ軸23を、軸方向反対側にモータ3が配置される場所に配置することを可能とすることができる。
【0059】
また、アイドラ軸23のモータ3側をプレート部材24の対向部24aに支持させることで、該アイドラ軸23を、ケース2の支持穴2eとプレート部材24の対向部24aとで両持ち構造にすることができる。これにより、アイドラギヤ22の支持精度を向上することができ、耐久性の向上やギヤノイズの低減も図ることができる。
【0060】
更に、プレート部材24の対向部24aが、軸方向視でモータ3のステータ4と重なる部分に、該ステータ4とは軸方向反対側に凹む凹部24bを有しているので、凹部24bの凹んだ分、モータ3とプレート部材24とを軸方向に近づけることができる。これにより、インホイールモータ駆動装置1を軸方向に短縮化することができる。
【0061】
また、アイドラ軸23が、溝部2dからオイルを導入する軸方向孔23aと、軸方向孔23aから外周側に向けて貫通形成され、アイドラギヤ22を回転自在に支持するニードルベアリングb3にオイルを導く径方向孔23bと、ケース2の溝部2dに挿入される突起部23e,23eとを有しているので、アイドラギヤ22を回転自在に支持するニードルベアリングb3を潤滑するオイルを導くために形成された溝部2dを利用して、突起部23e,23eによってアイドラ軸23の回り止めを行うことができ、つまり回り止め専用の部品を別途設けることを不必要とすることができる。
【0062】
そして、本実施の形態においては、減速プラネタリギヤ40とモータ3とが径方向から見て軸方向に重なる位置に配置されているので、モータ3が車両側に突出することがなく、インホイールモータ駆動装置1を軸方向に短縮化することができる。また、減速ギヤ機構20の小径ギヤ21、大径ギヤ25a、及びアイドラギヤ22も、互いに径方向から見て軸方向に重なる位置に配置されているので、減速ギヤ機構20が軸方向に膨らむことがなく、インホイールモータ駆動装置1を軸方向に短縮化することができる。
【0063】
<第2の実施の形態>
つづいて、上記第1の実施の形態を一部変更した第2の実施の形態について図5に沿って説明する。なお、本第2の実施の形態の説明においては、上記第1の実施の形態と同様な部分に、同符号を付し、その説明を省略する。
【0064】
本第2の実施の形態においては、上述した第1の実施の形態に比して、モータ3を誘導モータからIPM同期モータ(磁石埋設型モータ)に変更したものである。また、モータ3の変更に伴い、モータ3の正確な回転位置を検出して制御を行うため、ロータ軸7の回転位置を検出するレゾルバ装置30を取付けたものである。また、本第2の実施の形態においては、上述した第1の実施の形態に比して、アイドラギヤ22の支持構造を変更し、つまりアイドラ軸23及びプレート部材24の代わりに、アイドラ軸123を配設したものである。
【0065】
詳細には、インホイールモータ駆動装置1におけるレゾルバ装置30は、ロータ軸7のナット9よりも先端部(図5中右方側の先端)にナット33によって締結されたレゾルバロータ32と、ケースカバー2Bの側方面に固着されたレゾルバステータ31と、を有して構成されており、ケースカバー2Bに着脱自在に固定される蓋部材2Cに覆われたレゾルバ室34に収納されている。レゾルバ装置30は、本インホイールモータ駆動装置1を製造した後に、該蓋部材2Cを外して、ナット33を緩めることでレゾルバロータ32のロータ軸7に対する位相(角度)調整が可能となるように構成されている。
【0066】
なお、本インホイールモータ駆動装置1においては、レゾルバ装置30によりロータ軸7の回転数を検出できるため、その検出結果に減速ギヤ機構20及び減速プラネタリギヤ40のギヤ比を乗算することで出力軸50の回転数を算出できるので、回転数センサ59は省略することができる。
【0067】
このようにモータ3がIPM同期モータにより構成されたインホイールモータ駆動装置1は、上記第1の実施の形態における誘導モータに比して、高速回転で連れ回された際に逆起電力が発生するため、いわゆる弱め磁界制御を行う必要が生じるものの、モータ3の出力トルクが大きくなるので、車両全体としての駆動力の出力性能は高性能なものとなる。
【0068】
一方、本インホイールモータ駆動装置1において、アイドラギヤ22は、ニードルベアリングb3を介してアイドラ軸123によって回転自在となるように支持されている。該アイドラ軸123は、ニードルベアリングb3が配置される外周面よりも外周側に延びる鍔部123aと、中心に凹むように形成された穴部123bと、該穴部123bの底面より貫通形成されたボルト孔123cと、を有して構成されており、該ボルト孔123cを貫通する形でケースカバー2Bの雌ネジ部2Bbに螺合されるボルト124によって、該アイドラ軸123がケースカバー2Bに対して固定されている。また、アイドラ軸123のケースカバー2B側の端部(軸方向他方側の端部)123dは、該ケースカバー2Bの支持穴2eに嵌合されており、これにより、アイドラ軸123は、ケースカバー2Bに対して片持ち構造となるように取付けられている。
【0069】
以上のように構成された本インホイールモータ駆動装置1にあっても、減速ギヤ機構20が、第1軸AX1及び第2軸AX2と平行な第3軸AX3上に配置され、小径ギヤ21と大径ギヤ25aとに噛合するアイドラギヤ22を有しているので、該減速ギヤ機構20で十分な減速比を設定することができるものでありながら、特に減速ギヤ機構20の大径ギヤ25aを小径化することができ、該減速ギヤ機構20を小型化することができる。これにより、インホイールモータ駆動装置1の小型化が図れ、サスペンション装置やブレーキ装置に干渉することの防止を図ることができる。
【0070】
また、第3軸AX3が、第1軸AX1及び第2軸AX2を通る直線X上に配置されており、つまり小径ギヤ21、アイドラギヤ22、大径ギヤ25aが直線状に配置されるので、アイドラギヤ22に対して小径ギヤ21から受けるスラスト力と、アイドラギヤ22に対して大径ギヤ25aから受けるスラスト力とが、アイドラギヤ22において周方向の真逆位置で生じるため、それらスラスト力がねじれ方向に作用することなく、打ち消し合うようにすることができる。これにより、アイドラギヤ22の支持構造(つまりアイドラ軸123)を簡易にすることができて、アイドラギヤ22の支持構造の小型化も図ることができる。
【0071】
更に、アイドラギヤ22を回転自在に支持するアイドラ軸123のケースカバー2B側の端部123dをケース2の支持穴2eに支持させることで、該アイドラ軸23を、軸方向反対側にモータ3が配置される場所に配置することを可能とすることができる。
【0072】
そして、本実施の形態においても、減速プラネタリギヤ40とモータ3とが径方向から見て軸方向に重なる位置に配置されているので、モータ3が車両側に突出することがなく、インホイールモータ駆動装置1を軸方向に短縮化することができる。また、減速ギヤ機構20の小径ギヤ21、大径ギヤ25a、及びアイドラギヤ22も、互いに径方向から見て軸方向に重なる位置に配置されているので、減速ギヤ機構20が軸方向に膨らむことがなく、インホイールモータ駆動装置1を軸方向に短縮化することができる。
【0073】
なお、以上説明した第1及び第2の実施の形態のインホイールモータ駆動装置1,1においては、モータ3(第1軸AX1)を第2軸AX2よりも上方側に配置したものを説明したが、ブレーキ装置のキャリパの位置やサスペンション装置の取付位置等によっては、モータ3(第1軸AX1)を第2軸AX2よりも下方側に配置してもよく、つまりモータ3がブレーキ装置やサスペンション装置に干渉しないように配置することが好ましい形態である。
【0074】
また、本第1及び第2の実施の形態においては、減速機構として減速プラネタリギヤ40を一例として説明したが、減速機構はどのようなものであってもよい。減速機構としては、例えばサイクロイド減速機(特開2009−58005号公報)やローラ減速機(特開2006−103521号公報)等が考えられる。
【0075】
また、本第1及び第2の実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置1,1は、基本的に車両進行方向に対する右側の車輪に搭載されるものとなるが、当然に左右車輪にそれぞれ搭載されるべきものであり、左側の車輪に搭載されるインホイールモータ駆動装置1,1は、図1乃至図5では前後方向が逆(鏡面に写した形)になるものである。
【符号の説明】
【0076】
1 インホイールモータ駆動装置
2 ケース部材
2d 溝部
2e 支持部(支持穴)
3 回転電機(モータ)
4 ステータ
5 ロータ
20 伝達機構
21 第1ギヤ(小径ギヤ)
22 第3ギヤ(アイドラギヤ)
23 軸部材(アイドラ軸)
23a 軸方向孔
23b 径方向孔
23c 軸方向他方側の端部
23e 突起部
24 プレート部材
24a 対向部
24b 凹部
25a 第2ギヤ(大径ギヤ)
40 減速機構(減速プラネタリギヤ)
50 出力軸
123 軸部材(アイドラ軸)
123d 軸方向他方側の端部
AX1 第1軸
AX2 第2軸
AX3 第3軸
X 直線
b3 軸受(ニードルベアリング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪のホイールの内側に取付けられ、該車輪を駆動し得るインホイールモータ駆動装置において、
第1軸上に配置された回転電機と、
前記回転電機の回転を、前記第1軸上から該第1軸と平行な第2軸上に減速して伝達する伝達機構と、
前記第2軸上に配置され、前記伝達機構により伝達された回転を減速する減速機構と、
前記第2軸上に配置され、前記減速機構の減速回転を前記ホイールに出力する出力軸と、を備え、
前記伝達機構は、
前記第1軸上に配置され、前記回転電機に駆動連結された第1ギヤと、
前記第2軸上に配置され、前記減速機構に駆動連結されると共に前記第1ギヤより大径な第2ギヤと、
前記第1軸及び前記第2軸と平行な第3軸上に配置され、前記第1ギヤと前記第2ギヤとに噛合する第3ギヤと、を有する、
ことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記第3軸は、前記第1軸及び前記第2軸を通る直線上に配置された、
ことを特徴とする請求項1記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記回転電機と前記伝達機構と前記減速機構と前記出力軸の一部とを収納するケース部材と、
前記第3ギヤの中心を貫通して該第3ギヤを回転自在に支持する軸部材と、を備え、
前記軸部材は、軸方向一方側に前記回転電機が配置されると共に、軸方向他方側の端部が前記ケース部材の支持部に支持された、
ことを特徴とする請求項1または2記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記ケース部材に支持されると共に、該ケース部材の支持部と対向した対向部を有するプレート部材を備え、
前記軸部材は、前記軸方向一方側が前記プレート部材の対向部に支持された、
ことを特徴とする請求項3記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記回転電機は、ステータ及びロータを有し、
前記プレート部材の対向部は、軸方向視で前記ステータと重なる部分に、該ステータとは軸方向反対側に凹む凹部を有する、
ことを特徴とする請求項4記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
前記ケース部材は、溝状に形成されて潤滑油を導く溝部を有し、
前記軸部材は、軸方向に貫通形成され、前記溝部から潤滑油を導入する軸方向孔と、前記軸方向孔から外周側に向けて貫通形成され、前記第3ギヤを回転自在に支持する軸受に潤滑油を導く径方向孔と、前記ケース部材の溝部に挿入される突起部と、を有する、
ことを特徴とする請求項4または5記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記減速機構と前記回転電機とは、径方向から見て軸方向に重なる位置に配置され、
前記伝達機構の第1ギヤ、前記第2ギヤ、及び前記第3ギヤは、互いに径方向から見て軸方向に重なる位置に配置された、
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか記載のインホイールモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−201289(P2012−201289A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69327(P2011−69327)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】