説明

ウェットエッチングを採用した電子部品の製造方法、電子部品及びハードディスク用サスペンション

【課題】導電性無機物層、絶縁層を有する枚葉の積層体のポリイミドの絶縁層をドライフィルムを用いたウェットエッチングにより電子部品を製造するのに、低コストで、廃棄処理に問題のある有機溶剤を使用することがなく製造する方法を提供する。
【解決手段】該積層体における絶縁層はウェットエッチング可能で、単層構造又は2層以上の絶縁ユニット層の積層構造であり、全ての層がポリイミド樹脂であり、前記ウエットエッチングによる絶縁層のパターニングは、ドライフィルムレジストのラミネート体に対してウエットエッチングする方法により行う。ドライフィルムレジストのラミネート体に露光、現像してパターニングした後、絶縁層のエッチャントに対するドライフィルムレジストの耐性を向上させる処理として、紫外線照射処理、加熱処理、及び紫外線照射処理と加熱処理の組合せから選ばれた処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットプロセスによって絶縁層のパターニングが可能な導電性無機物−絶縁層−導電性無機物、又は導電性無機物−絶縁層という層構成からなる枚葉の積層体を用いて、絶縁層をウェットエッチングによりパターニングする工程により、電子部品を製造する方法、該製造方法により得られた電子部品自体、及びハードディスクドライブ用サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体技術の飛躍的な発展により半導体パッケージの小型化、多ピン化、ファインピッチ化、電子部品の極小化などが急速に進み、いわゆる高密度実装の時代に突入した。それに伴い、プリント配線基板も片側配線から両面配線へ、さらに多層化、薄型化が進められている(岩田, 原園, 電子材料,35(10),53(1996))。
【0003】
そのような電子部品の配線・回路を形成する際のパターン形成方法には、導電性無機物層(主として金属層)−絶縁層−導電性無機物層(主として金属層)という層構成における基板上の導電性無機物層を塩化第二鉄のような酸性溶液でエッチングし、配線を形成した後、層間の導通をとるために、プラズマエッチング等のドライ状態や、ヒドラジン等のウェット状態で絶縁層を所望の形に除去し(特開平6−164084号公報)、めっきや導電ペースト等で配線間をつなぐ方法がある。また、別のパターン形成方法には、感光性ポリイミド(特開平4−168441号公報)などを用いて絶縁層を所望の形に設けた後に、その空隙にめっきで配線を形成する方法(エレクトロニクス実装学会第7回研究討論会予稿集 1999年発行)などがある。
【0004】
近年、電気製品、特に、パーソナルコンピューターは低価格化が進み、これらに用いる部材や部品等も低価格の指向が強いので、いかに低コストで電子部品を作るかというのが、非常に大きな課題となっている。
【0005】
現在、パーソナルコンピューターの生産量の急激な伸びに伴い、それに組み込まれているハードディスクドライブもまた生産量が増大している。ハードディスクドライブにおける、磁気を読み取るヘッドを支持しているサスペンションといわれる部品は、ステンレスの板ばねに、銅配線を接続するものから、小型化への対応のためステンレスの板ばねに直接銅配線が形成されているワイヤレスサスペンションといわれるものへと主製品が移り変わりつつある。
【0006】
このようなワイヤレスサスペンションは導電性無機物層(主として金属層)−絶縁層−導電性無機物層(主として金属層)からなる3層材を用いて作製されているものが主流である。該3層材は、例えば、絶縁層の片側に銅合金箔、もう一方の側にステンレス箔が積層された層構成が挙げられる。ワイヤレスサスペンションは、高速で回転するディスク上をスキャンし、細かな振動が加わる部材であるため、配線(導電性無機物層)の絶縁層への密着強度は非常に重要であり、厳しいスペックが求められている。また、ハードディスクは情報を記録する装置であるので、データの読み書きに対する高度の信頼性が要求され、配線の密着強度やサスペンションから発生する塵などのごみやアウトガスに対してもスペックは厳しい。
【0007】
一般に、電子部品に用いられる前記の3層材等の積層体は、基板の反りを防ぐため導電性無機物層と絶縁層との熱膨張率を同じにするために、低膨張性の絶縁層、特に、低膨張性ポリイミドを含ませることが多い。絶縁層に、低膨張性ポリイミドのみを用いた積層体は、低膨張性ポリイミドとして東レ−デュポン株式会社製のカプトン(商品名)、宇部興産株式会社製のユーピレックス(商品名)、鐘淵化学工業株式会社製のアピカル(商品名)等のポリイミドフィルムを用いており、これらは低膨張性ポリイミドフィルムの表面にスパッタリングや無電解めっき等で、金属層(主に銅)を形成し、その後、電解めっきによって導体層の厚さを大きくしたものがある(種類Iの積層体という)。また、別の種類の積層体として、低膨張性ポリイミドの表面にポリイミド以外の接着剤(例えばエポキシ系接着剤)の層を形成してなる、ポリイミド以外の接着剤−低膨張性ポリイミド−ポリイミド以外の接着剤からなる3層構造の絶縁体を用い、熱圧着により導体箔を該絶縁層に接着した積層体がある(種類IIの積層体という)。さらに別の種類の積層体として、低膨張性ポリイミドの表面に接着性ポリイミドの層を形成してなる、接着性ポリイミド−低膨張性ポリイミド−接着性ポリイミドからなる3層構造の絶縁体を用い、熱圧着により導体箔を該絶縁層に接着した積層体がある(種類III の積層体という)。
【0008】
前記種類Iの積層体は、絶縁層が単一組成のポリイミドよりなっているため、反りが生じにくく、また、金属層を薄くすることが可能であるので、細い配線を形成するのに有利であるという利点がある。前記種類IIの積層体及び種類III の積層体は、導体層を熱圧着により形成するため、導体層を種々選択できる。たとえば、圧延銅箔やステンレス箔等を用いた積層体の作製が可能である。種類IIの積層体は接着性が良好であり、また、種類III の積層体は接着層が耐熱性の良好なポリイミドであるため、耐熱性が良好であるという利点がある。また、両者は、金属層の厚さを大きくすることができるという利点もある。
【0009】
ワイヤレスサスペンションは、バネ性を必要とするため、金属層としてステンレス箔が用いられることが多く、積層構造としては、例えば、銅箔−接着性ポリイミド−低膨張性ポリイミド−接着性ポリイミド−ステンレスが挙げられる。従来、ワイヤレスサスペンションは絶縁層のエッチング面積が大きいため、レーザーではなく、同じドライプロセスであるプラズマエッチングにより絶縁層がパターニングされているものが主である。しかしながら、プラズマエッチングは、エッチングレートが小さいため、エッチングに要する時間が長く、しかもシート単位(枚葉)毎の生産であるため、生産性が悪く、また装置も高価なため生産コストが非常に高くなってしまう欠点がある。
【0010】
このような理由から、エッチングレートが大きく、したがって、生産性が高く装置コストも安くすることが可能なウェットプロセスにより、絶縁層のパターニングを行うことが望まれてきた。
【0011】
さらに、多層基板の層間の導通をとるための穴をレーザーで開け、それを所望の形に金型で型抜きしていた、フレキシブルプリント基板や多層基板等の電子部品も、ウェットエッチング技術を用いることで、穴開けと型抜きの工程を同時に行え、しかも、金型では切り出せなかった微細な形状までも、形成が可能となることから、電子部品の各分野でもウェットプロセスで絶縁層のパターニングが望まれている。
【0012】
前記種類IIの積層体については、エポキシ系接着剤が使用される場合は、耐溶剤性が高すぎて全くウェットエッチングできないという不都合がある。
【0013】
前記種類III の積層体については、接着性ポリイミド層と低膨張性ポリイミド層のエッチング特性の違いが大きすぎるため、エッチングしたときの断面形状がきれいにならず、事実上ウェットエッチングにより電子部品を作製するのが困難である。
【0014】
前記種類Iの積層体については、ウェットエッチングによる加工が一部行われている。しかしながら、導電性無機物層の形成がスパッタ等の処理であるため、ポリイミド表面に金属を高速で衝突させて行うので、金属が表層だけではなくポリイミド層の内部まで食い込むため、表層のポリイミドが若干変性してしまう。種類Iの積層体における、絶縁層と導電性無機物層との密着性は、導電性無機物層と絶縁層の化学結合や化学的相互作用によるものが主であるため、導電性無機物層と絶縁層との親和性が強くなっている。したがって、種類Iの積層体に対してウェットエッチングした場合には、導電性無機物層との界面の絶縁層において、変性している部分がエッチング残りとなる不良が発生し易いという問題がある。
【0015】
一方、プレスで導電性無機物層と絶縁層を一体化させた積層体は、化学結合や化学的相互作用よりも導電性無機物層の表面の凹凸によるアンカー効果が密着力に対して大きく寄与しているため、エッチング残りが起きにくい。また、前記したように、プレスによる積層体の製造においては、導電性無機物層を選択する自由度が大きいため、これまでスパッタで導電性無機物層を形成したものでは、適用不可能であった製品まで作製することが可能となる。
【0016】
ポリイミドは、一般に溶媒溶解性が乏しいことが多いが、ヒドラジンやアルカリの溶液により分解されるため、薬液によるポリイミドフィルムのウェットエッチングが、これまで種々検討されてきた。たとえば、特開昭50−4577号公報では、ヒドラジンとアンモニアを用いた配線構造体の製造方法が開示されている。また、特開昭58−103531号公報では、無機塩基性水溶液によるポリイミドフィルムのエッチング方法が開示されている。また、特開昭57−65727号公報では、脂肪族ジアミンによるポリイミドのエッチング方法が開示されている。その他に、現在開示されているポリイミドのウェットエッチング方法は、ヒドラジン・無機アルカリ・有機アルカリ・脂肪族アミン(ジアミン)・脂肪族アルコールを溶媒として、水や有機極性溶媒を、それぞれ混合させた薬液を用いたものとなっている(例えば、特開昭58−74041号公報、特開昭58−96632号公報、特開平3−101228号公報、特開平5−190610号公報、特開平5−202206号公報、特開平7−157560号公報)。
【0017】
しかしながら、ポリイミドを分解する成分であるヒドラジンは、毒性が高いため、生産工程に用いるには適さないので、近年開示されている例は、無機塩基性水溶液にさまざまな添加剤を加えた系のエッチング溶液が多い。
【0018】
これらの従来のポリイミドフィルムのウェットエッチングによりパターニングを行う方法には、パターンマスクに金属を用いる方法(特開平5−283486号公報)、溶剤現像、溶剤剥離のネガ型液体レジストを用いる方法(特開平5−301981号公報)、溶剤現像、溶剤剥離のポジ型の液体レジストを用いる方法(特開昭51−27464号公報、特開昭53−49068号公報、特開昭53−49068号公報、特開昭57−65727号公報、特開昭58−74041号公報)がある。これら従来のポリイミドフィルムのウェットエッチングによりパターニングを行う方法は、絶縁層のパターニングに要する時間を短縮する効果はある。
【0019】
また、ポリイミドを絶縁層として用いる積層体は、厚みが薄いことが多く、剛性が低いため、従来の剛直なガラスエポキシ基板等に比べハンドリング性が劣ると言う問題をかかえているため、プロセスを設計する上で大きな制約条件となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平6−164084号公報
【特許文献2】特開平4−168441号公報
【特許文献3】特開昭50−4577号公報
【特許文献4】特開昭58−103531号公報
【特許文献5】特開昭57−65727号公報
【特許文献6】特開昭58−74041号公報
【特許文献7】特開昭58−96632号公報
【特許文献8】特開平3−101228号公報
【特許文献9】特開平5−190610号公報
【特許文献10】特開平5−202206号公報
【特許文献11】特開平7−157560号公報
【特許文献12】特開平5−283486号公報
【特許文献13】特開平5−301981号公報
【特許文献14】特開昭51−27464号公報
【特許文献15】特開昭53−49068号公報
【特許文献16】特開昭53−49068号公報
【特許文献17】特開昭57−65727号公報
【特許文献18】特開昭58−74041号公報
【特許文献19】特開平6−164084号公報
【特許文献20】特開昭60−157286号公報
【特許文献21】特開平10−97081号公報
【特許文献22】特開昭10−195214号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】岩田, 原園, 電子材料,35(10),53(1996)
【非特許文献2】エレクトロニクス実装学会第7回研究討論会予稿集 1999年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、前記、金属層をパターンマスクとして用いてポリイミドをエッチングする方法は、金属層を最終的な絶縁層のパターン形状となるようにエッチングし、該エッチングされた金属層をパターンマスクとして絶縁層をエッチングした後、該金属層をさらに目的とする配線の形状にエッチングによりパターニングし直す必要があった。即ち、この方法は金属のエッチング処理が合計2回必要であり、しかもポリイミドのエッチング時にエッチング液が金属に触れるため、金属層の劣化の原因となっていた。
【0023】
また、溶剤現像・剥離タイプの液体レジストを用いてレジストパターンを作製する場合には、現像液及び剥離液に有機溶媒が必要であるので、環境への負荷が大きく、廃液処理費用も必要であった。その上に、溶剤現像・剥離タイプの液体レジストを用いる場合は、均一な厚さの塗布膜を安定的に作成するのは次の理由から困難であった。即ち、ハードディスクドライブ用サスペンション等の電子部品では、剛性の低い基板に液体レジストを塗布、乾燥して製造することになり、均一な厚みの塗布膜を作製することは困難であった。ハードディスクドライブ用サスペンション等の電子部品には高精度のパターニングが要求されるが、塗布によりレジスト膜を製造する場合には、塗布膜を精度よく一定厚みにするには塗布・乾燥工程における非常に厳密な管理を必要としていた。
【0024】
基本的に塩基性水溶液現像・塩基性水溶液剥離が可能なレジストは、無機塩基性水溶液を含有しているポリイミドエッチング液を用いると、エッチング液のアルカリ成分により基板である積層体から剥離してしまうことが確認されていたため、このようなレジストを使用して、積層体のエッチングを行い電子部品を製造することを実現することは困難と思われていた。
【0025】
また、現在開示されているポリイミドのウェットエッチング技術は、ポリイミド層が1層からなる絶縁層を含む積層体を用いたものが主であり、ポリイミド層が複数層積層されている積層体を、ウェットエッチングにより加工した例の報告はわずかしかない(特開平6−164084号公報)。これは、ポリイミドが複数層積層されていると各層のエッチング特性が異なるため、ウェットエッチングにより良好な断面形状が得られないという問題があるためである。
【0026】
ハードディスク用のサスペンションは、バネ材のステンレスが必須要素であるため、両面に接着性樹脂層を設けた低膨張性ポリイミドフィルムを導体箔とステンレス箔の間に挟み、圧着することで作製した積層体や、ステンレス箔上にポリイミド層が複数層積層されており、さらに熱圧着により導体層を形成された積層体を用いて製造される。そのため、上記の各問題に直面し、ウェットエッチングによりポリイミド層をパターニングしサスペンションを作製することは、実現していなかった。
【0027】
そこで本発明は、導電性無機物層―絶縁層−導電性無機物層からなる積層体、又は導電性無機物層−絶縁層からなる積層体の絶縁層をウェットエッチングにより電子部品を製造するのに、低コストで、廃棄処理に問題のある有機溶剤を使用することがなく、しかも前記した従来技術の問題点を解消することができ、該積層体のシート単位(枚葉)毎で製造する方法を提供することを目的とする。
【0028】
本発明の付随的な目的は、導電性無機物層の劣化を防ぐために導電性無機物層のエッチングが1回で可能となる製造方法を実現し、レジストの現像・剥離に使用する薬液に環境への負荷が大きい有機溶媒を用いることなく、1層単層構造又は2層以上の絶縁ユニット層の積層構造の絶縁層にもレジストを用いたウェットエッチングが適用できる電子部品の製造方法を提供する。
【0029】
さらに本発明の付随的な目的は、ウェットエッチング後の断面形状が良好でエッチング精度の良い積層体となる電子部品の製造方法を提供し、該製造方法により得られた電子部品、及びハードディスク用サスペンションを提供する。
【0030】
さらに本発明の付随的な目的は、ドライフィルムレジストを用いた、水溶液、特に、塩基性水溶液での現像、塩基性水溶液での剥離の処理工程による前記積層体のウェットエッチングを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の電子部品の製造方法は、導電性無機物層―絶縁層−導電性無機物層からなる積層体、又は導電性無機物層−絶縁層からなる枚葉の積層体をウェットエッチングにより導電性無機物層のパターニング、次いでウェットエッチングにより絶縁層のパターニングを行う電子部品の製造方法であって、該積層体における絶縁層はウェットエッチング可能で、単層構造又は2層以上の絶縁ユニット層の積層構造であり、全ての層がポリイミド樹脂であり、前記ウエットエッチングによる絶縁層のパターニングは、前記導電性無機物層のパターニングを行った積層体に対してドライフィルムレジストを減圧下で面プレスによりラミネートし、得られたドライフィルムレジストのラミネート体に対してウエットエッチングする方法により行い、該ドライフィルムレジストは表面に微細な凹凸が形成されており、該微細な凹凸はエンボス加工によって設けられており、該ドライフィルムレジストは、塩基性水溶液により現像され、塩基性水溶液で剥離することが可能であり、前記ドライフィルムレジストのラミネート体に対してウエットエッチングする方法は、ドライフィルムレジストのラミネート体に露光、現像してパターニングした後、絶縁層のエッチャントに対するドライフィルムレジストの耐性を向上させる処理として、紫外線照射処理、加熱処理、及び紫外線照射処理と加熱処理の組合せから選ばれた処理を行うことを特徴とする。
【0032】
上記電子部品の製造方法において、ドライフィルムレジストが、水溶液、特に、塩基性水溶液により現像され、塩基性水溶液で剥離することが可能であることが、好ましい態様である。塩基性水溶液による現像、及び塩基性水溶液での剥離を行うことにより、装置コストが低減されることができ、使用済み有機溶剤の処理の問題がない利点がある。
【0033】
種々のドライフィルムレジストの各種エッチング液に対する耐性を調査した結果、塩基性水溶液現像・塩基性水溶液剥離タイプのドライフィルムレジストについてエッチング条件・ドライフィルムレジストの膜厚等を以下のようにして適正化すれば、ドライフィルムの材質によっては、エッチング液に対する耐性を持つことを見出した。また、塩基性水溶液現像・塩基性水溶液剥離以外の、乳酸水溶液現像、乳酸水溶液剥離タイプのドライフィルムレジストについても、同様に耐性を有することを見出した。
【0034】
即ち、このようなドライフィルムのエッチング耐性を積層体に付与するためには、導電性無機物層のパターニングが行われた積層体に対してドライフィルムレジストを真空プレスにより減圧下でラミネートし、得られたドライフィルムレジストのラミネート体に対してウェットエッチングすることが望ましい。ドライフィルムレジストを減圧下で積層体に対して面プレスを行うことにより、ラミネート後の反りの問題が解決される。
【0035】
このドライフィルムレジストのラミネート後の反りの発生は次のようにして起こる。通常用いられる3層構造の積層体は、高度の平坦性を追求し減圧下、熱圧着により作製されているためロール状に巻き取った長尺物ではなく枚葉毎のシート形態となっている。該積層体における絶縁層のパターンを形成するのに、ロールラミネータにより、金属のパターニングが終わった基板にドライフィルムレジストをラミネートすると、積層体自体が薄く剛性に乏しいために、積層体が反ってしまい、レジストに対する露光時のマスクとアライメントのずれが大きくなると言う問題が生じていた。絶縁層のウェットエッチングは、現行のドライプロセスであるプラズマエッチングに比べて、パターニングの寸法精度が良好であることも特徴であるため、このようなアライメントのずれは大問題であり、この問題の解決はウェットエッチングプロセスを確立する上で非常に重要である。
【0036】
したがって、本発明はドライフィルムレジストを減圧下で面プレスを行うことにより、ラミネート後の反りの問題が解決される。しかし、通常のドライフィルムレジストを用いると面プレスの場合は、絶縁層上に導電性無機物層の配線が形成されているため、該導電性無機物層の配線が凹凸となっているので、その凹部又は凸の淵の箇所において、ドライフィルムレジストの間に気泡が内包されてしまうことがあるという問題がある。
【0037】
また、上記のような気泡の内包を防ぐためには、ドライフィルムレジストの表面に、微細な凹凸が形成されていることが望ましい。表面に凹凸が形成されたドライフィルムレジストを、該凹凸が導電性無機物層の凹凸側(即ち配線側)に向くようにラミネートすることにより気泡の発生を抑制できる。即ち、凹凸により、気泡の逃げ場が生まれ、気泡を抱き込むことを防げる。
【0038】
また、上記のようなエッチング耐性を積層体に付与するためには、ドライフィルムレジストのラミネート体に露光、現像してパターニングした後、絶縁層のエッチャントに対するドライフィルムレジストの耐性を向上させる処理として、紫外線照射処理、加熱処理、及び紫外線照射処理と加熱処理の組合せから選ばれた処理を行うことが望ましい。
【0039】
また、上記のような条件が効果を発現するためには、積層体の絶縁層の厚さが、3μm〜500μmであることが望ましい。絶縁層が500μmより厚いとエッチングに要する時間が長くなり、ドライフィルムレジストがエッチング液に侵され、ドライフィルムレジストの形状保持ができなくなるからであり、また、3μm未満であると絶縁信頼性が低くなるからである。
【0040】
また、無機物層の露出を防ぎエッチング形状を良好にするためには、ドライフィルムレジストの厚さが、原料とする積層体の1層の導電性無機物層の厚さの1.1〜5倍であることが望ましい。
【0041】
また、上記のようなエッチング耐性を積層体に付与するためには、絶縁層のウェットエッチングに要する時間が10秒以上30分以内、好ましくは10秒以上15分以内、さらに好ましくは10秒以上5分以内であることが望ましい。
【0042】
また、生産性及びエッチング形状の安定性の観点から、絶縁層のウェットエッチング時の温度が10℃以上120℃以下であることか望ましい。
【0043】
塩基性水溶液で現像と剥離が行えるドライフィルムレジストは、現在、最も汎用的であるため安価であり、品種も多く選択の幅が広い、また、現像・剥離の工程に用いる装置も数多く市販されているために、入手が容易であり、価格も安価である。また、無機の塩基性水溶液の場合は、廃液の処理も容易であることから、溶剤現像・溶剤剥離タイプの液体レジストを用いる場合に比べ、プロセス全体にかかるコストを大幅に低減できる。
【0044】
本発明の積層体は、電子回路部品の製造方法、ウェットエッチング後の積層体の断面形状が良好でエッチング精度の良い積層体となるので、特に、ハードディスクドライブ用サスペンションに有用である。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、ウェットエッチングにより導電性無機物層のパターニング、引き続き、ウェットエッチングにより絶縁層のパターニングを行っているので、ドライエッチングに比べて短時間のエッチングが可能で生産性がよい。特に、ハードディスクドライブ用サスペンションのように、エッチングにより除去される絶縁層の面積が広く、しかも微細なパターンが必要とされている製品は、ウェットエッチングの適用における効果が絶大であるため、これまで以上に作業性が良く、不良の少ない製造方法となる。
【0046】
しかも、ハードディスクドライブ用サスペンション等の電子部品には高精度のパターニングが要求されるが、ハードディスクドライブ用サスペンション等を作製するための剛性の無い基板に対して液体レジストを塗布してレジスト膜を精度よい均一な厚みとすることは困難であり、塗布・乾燥工程における非常に厳密な管理を必要とし、微細なエッチングには不適であったが、本発明では絶縁層のパターニングを、ドライフィルムレジストを用いて行っているので、もともと一定の膜厚のドライフィルムを用いた方が、レジストを形成するのに工程管理が容易であるという利点や、微細なエッチングに適するという利点がある。
【0047】
ウェットエッチングの際に表面に微細な凹凸が形成されたドライフィルムレジストを使用して本発明の電子部品を製造する場合には、該微細な凹凸により、気泡の逃げ場が生まれ、ドライフィルムレジストをラミネートしても気泡を抱き込むことを防げ、したがって、積層体のエッチング耐性が向上する。
【0048】
本発明の電子部品の製造方法においては、ドライフィルムレジストをラミネートしたものを塩基性水溶液による現像、及び塩基性水溶液での剥離を行うことができるので、製造設備が安価であり、また、廃棄に問題のある有機溶剤を使用しない利点がある。
【0049】
本発明の電子部品の製造方法において、導電性無機物層のパターニングが行われた積層体に対して真空プレスにより減圧下でドライフィルムをラミネートする場合には、シート単位毎のラミネートでもラミネート後の反りの防止、且つ気泡抱き込みを防止することができる。
【0050】
本発明の電子部品の製造方法において、ドライフィルムレジストのラミネート体に露光、現像してパターニングした後、紫外線照射処理、加熱処理、及び紫外線照射処理と加熱処理の組合せた処理から選ばれた処理をした場合には、絶縁層のエッチャントに対するドライフィルムレジストの耐性を向上させることができる。
【0051】
絶縁層のウェットエッチングに要する時間が10秒以上30分以内、好ましくは10秒以上15分以内、さらに好ましくは10秒以上5分以内である場合には、強塩基性水溶液のエッチング液でエッチングしても、エッチング時にドライフィルムレジストが剥離することがなく、精度の良いウェットエッチングが行える。
【0052】
厚みが積層体表面の凹凸の1.1〜5倍の厚さのあるドライフィルムレジストを用いた場合は、ドライフィルムレジストのラミネート後に積層体の凸部がドライフィルムレジストを突き破って露出することがなく、良好なエッチングパターン形状が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ポリイミドの絶縁層の片面に銅の導電性無機物層、他の片面にSUSの導電性無機物層を形成した積層体を出発原料とした、ウェットエッチングによる電子部品の製造方法を示すプロセス図である。
【図2】良好にエッチングが終了したサンプルの電子顕微鏡写真である。
【図3】銅合金箔が露出し、エッチング不良が発生したサンプルの電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0054】
1 絶縁層
2、3 導電性無機物層
4、5 ドライフィルムレジスト
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下に本発明の電子部品の製造方法についてプロセス図を用いて好適な実施の形態の具体例を概説する。しかしながら、本発明はこれに限定されない。図1は、ポリイミドの絶縁層1の片面に銅の導電性無機物層3、他の片面にSUSの導電性無機物層2を形成した積層体を出発原料とした、ウェットエッチングによる電子部品の製造方法を示すプロセス図である。
【0056】
(a)で示す層構成は出発原料の積層体である。該積層体の表裏面の各導電性無機物層2、3に対して、ドライフィルムレジスト4を、面プレスによりラミネートして、(b)で示す積層構造のラミネート体を得る。該ラミネート体に対して、導電性無機物層2、3が所望のパターンとなるようなマスクを被せ露光し、次いで、Na2 CO3 水溶液で現像を行い、(c)で示す状態のレジストパターンを形成する。次いで、FeCl3 水溶液で導電性無機物層2、3のエッチングを行うことにより、(d)で示す状態のレジストパターンに従った導電性無機物層2、3のエッチングパターンを形成する。次いで、NaOH水溶液又はKOH水溶液でレジストを溶解剥離し、(e)で示す状態の導電性無機物層2、3のエッチングパターンを得る。次いで、(e)の状態の導電性無機物層2、3の積層体の表裏面に対してドライフィルムレジスト5を、面プレスによりラミネートして、(f)で示す積層構造のラミネート体を得る。該ラミネート体に対して、絶縁層1が所望のパターンとなるようなマスクを被せ露光し、次いで、Na2 CO3 水溶液で現像を行い、(g)で示す状態のレジストパターンを形成する。次いで、塩基性水溶液で絶縁層1のエッチングを行うことにより、(h)で示す状態のレジストパターンに従った絶縁層1のエッチングパターンを形成する。次いで、NaOH水溶液又はKOH水溶液でレジストを溶解剥離し、(i)で示す状態のエッチングパターンが形成された本発明の電子部品を得る。
【0057】
次に本発明の各構成要件を具体的に説明する。
【0058】
積層体
本発明に用いる積層体は、導電性無機物層−絶縁層−導電性無機物層、または、絶縁層−導電性無機物層からなる層構成である。ここで、用いられる導電性無機物層とは有機物ではない導電性物質層のことを言い、たとえば、銅や鉄などの純金属層、ステンレスなどの合金層、それら金属層の表面に処理を施された物質層、単結晶シリコン層、無機半導体層、金属酸化物層等が挙げられ、導電性無機物層が絶縁層の両面に形成されている場合には、それぞれの導電性無機物層が同じでも良いし、異なってもよい。特に、電子部品として用いる場合には、銅、銅合金、鉄、ニッケル、ステンレス等が好適に用いられる。これら、導電性無機物層は、厚さが0.1μm〜1mmの範囲であることが好ましく、特に導電性無機物層が金属の場合は0.1μm〜200μmの範囲がより好ましい。
【0059】
本発明の電子部品の製造方法により得られる電子部品が、ハードディスクドライブ用サスペンション用途である場合には、出発原料としての積層体における導電性無機物層の一方が、ステンレスでさえあれば特に制限されるものではないが、サスペンションに必要なばね特性や寸法安定性の観点から、SUS304が好ましく、より好ましくは300℃以上の温度でテンションアニール処理がなされたものである。ステンレス箔の好ましい厚さ範囲は10〜70μm、より好ましくは15〜30μmである。
【0060】
出発原料としての積層体のもう一方の導電性無機物層は、厚さ3〜20μmの銅箔、銅合金箔などが挙げられる。銅合金箔とは、銅とニッケル、シリコン、亜鉛、すず、ベリリウム等の異種の元素からなる合金箔で、銅含有率80%以上のものをいう。
【0061】
これらステンレス箔及び銅合金箔については接着力等の改良を目的として、化学的あるいは機械的な表面処理を施してもよい。
【0062】
上記積層体における絶縁層は、絶縁性を有する物質であれば、特に限定されないが、薄膜での絶縁性と耐熱性の観点からポリイミド樹脂を少なくとも1層以上含むことが好ましい。また、導電性無機物層との接着性を向上させる目的から絶縁層を構成する複数層の絶縁ユニット層が積層されていても差し支えない。たとえば、接着性絶縁層を含んでも良い。その場合、耐熱性・絶縁性の観点から全ての層がポリイミドであることが好ましい。また、それら各層は、求められる特性に応じ全て異なる組成のものでも良いし、同じ組成のものが複数層用いられても良い。そのような例として、ステンレス−接着性ポリイミドA−低膨張性ポリイミド−接着性ポリイミドB−銅からなる積層体が挙げられ、接着性ポリイミドAとBは、それぞれ被着体である導電性無機物層が、ステンレスと銅と異なるため、それぞれ各被着体と良好に接着する組成に調整する必要性から異なった組成となっている。
【0063】
また、基板の反り防止の観点から、絶縁層のうち少なくとも1層は、導電性無機物層との熱膨張率(線熱膨張係数)が、比較的似通ったものを用いるのが好ましく(特開昭60−157286号公報参照)、その熱膨張率の差の許容範囲は、±15ppmである。さらに、一般に導電性無機物は30ppm以下の熱膨張率であることから、より好ましくは30ppm以下の熱膨張率を有する絶縁層を用いると良い。また、より厳しく反りの発生を抑えたい場合は、30ppm以下の絶縁層の総厚が、全絶縁層の総厚の1/2以上であることが好ましい。
【0064】
積層体における絶縁層が、特に、複数層あるポリイミド層のエッチング特性は重要である。本発明の積層体における絶縁層が、二層以上の絶縁ユニット層からなるものは、ウェットエッチング時の各層のエッチングレートの大きいものと小さいものの比が6:1〜1:1、好ましくは4:1〜1:1の範囲内にあるものが望ましい。この範囲内のエッチングレートを持つ各絶縁ユニット層を選択すれば、絶縁層が良好なエッチング形状となる。したがって、従来、厳しいスペックが求められているワイヤレスサスペンション用の積層体でもウェットエッチングが精度良く行えるので、ドライエッチングに比べて短時間のエッチングが可能で生産性が良い。
【0065】
また、絶縁層の総厚みは、3μm〜500μmの範囲が好ましい。さらに、生産性の観点から、またドライフィルムレジストのエッチング液に対する耐性の観点から10秒以上30分以内のウェットエッチング加工時間であることが好ましく、15分以内で加工できることがさらに好ましい。一方、30分間を超えることは生産性が悪くなることにつながる。ウェットエッチング加工を行う条件でのエッチングレートが、大きく30分で500μm以上の絶縁層のエッチングができる場合は、絶縁層の厚みは500μmでも良く、逆にエッチングレートが小さく30分かけても500μmをエッチングできない場合は、30分かけて絶縁層をエッチングできる厚さまでが許容範囲である。具体的に例示すると、絶縁層のエッチングレートが20μm/minである場合は600μmまでが絶縁層の厚さの許容範囲であり、エッチングレートが2μm/minである場合には60μm までが許容範囲である。
【0066】
絶縁層のウェットエッチングとは、塩基性水溶液での絶縁層としてのポリイミドのエッチングを例に取ると、イミド結合が溶液中の水酸化物イオンと反応して開環し、ポリアミック酸になる。この状態でも、ポリイミドの時よりは塩基性水溶液に溶解しやすくなるが、さらに、アミック酸のアミド基が水酸化物イオンに加水分解されポリマーの分子量が下がることで溶解性が向上する。また分子鎖中に加水分解されやすい基を有している場合はそこが加水分解される時もある。一般に同一の構造、同一の製造条件で作製された絶縁層の場合、近似的にその速さは、水酸化物イオンがポリイミドのイミド結合に衝突する回数に比例し、これは熱力学的に温度と共に指数関数的に増大する。
【0067】
このメカニズムにより、エッチングレートは直鎖上のポリマーである場合は、実用的な分子量の範囲であれば、それほど分子量の影響が出てこないと思われ、実際、発明者らの行なった実験でも上記の仮説を補強するデータが出ている。
【0068】
本発明に用いられる出発原料としての積層体において、絶縁層を構成する接着性絶縁層とは、主にポリイミドやそれに類する樹脂であるが、特に限定されず、耐熱性や絶縁性を有する樹脂であればよい(イミド結合の有無によらない)。本発明で接着性ポリイミドとは被着体との90°剥離試験における密着力100g/cm以上であるポリイミドの事で、主に熱可塑性ポリイミドが用いられるが特に限定されない。
【0069】
本発明に用いられる出発原料としての積層体は、導電性無機物層に直接絶縁層の溶液を1 層以上塗布・積層することにより絶縁層を形成し、それと、もう一方の導電性無機物層を積層後、熱圧着することで作製したもの(キャスト法)でも、予め用意された絶縁層としてのコアフィルムに接着性絶縁層を形成し、その上下に導電性無機物層を積層し熱圧着して作製したもの(フィルム法)または、接着性絶縁層を絶縁フィルム上に形成後、蒸着やスパッタ・めっき等で導電性無機物層を形成したもの等、最終的な積層体の層構成さえ同じであれば、その作製方法によらず、目的となる製品の要求性能に合わせて、適宜選択できる。
【0070】
目的とする電子部品が、圧延銅箔やステンレスなど、めっきにより形成できない導電性無機物層が必須の成分である場合は熱圧着により導電性無機物層を形成する方法により作成された積層体を用いるのが好ましく、配線幅が1μm 以下の非常に微細な導電性無機物層のパターニングが必要となる場合には、スパッタやめっきにより導電性無機物層が薄く形成された積層体を用いるのが好ましい。
【0071】
導電性無機物層を含めた積層体全体の厚さは、用いる用途により多様であるが、5μm 〜2000μm までの範囲が好ましい。特に、積層体における導電性無機物全てが金属である場合は、5μm から1000μm の範囲が好ましく、5〜500μm の範囲が特に好ましい。
【0072】
ドライフィルムレジスト
本発明におけるドライフィルムレジストには、紫外線(電磁波)を照射することで、現像液に対する溶解性が変化する物質が用いられる。ドライフィルムレジストとは、所望のパターンの露光マスクを通して紫外線(電磁波)を照射することで露光部と未露光部でのパターニングが可能である感光性樹脂組成物が、固体でありフィルム状に成形されたものを言う。露光部が現像液に溶出するポジ型と未露光部が現像液に溶出するネガ型があり、本発明には以下に述べる要求物性を満たしていれば、どちらを用いても良い。
【0073】
本発明におけるドライフィルムレジストには、水溶液、特に、塩基性水溶液により現像と剥離が行えるものが好ましいが、エッチング液に耐性を持ち絶縁層をウェットエッチングしている間、パターン形状を保持することができるものであれば、特に限定されない。たとえば、塩基性水溶液により現像・剥離が行えるのは、旭化成工業株式会社製サンフォートシリーズ(商品名)、ニチゴーモ−トン社製ALPHOシリーズ(商品名)、LAMINARシリーズ(商品名)などが挙げられる。また、市販の乳酸溶液現像・乳酸溶液剥離タイプのドライフィルムレジスト SFP−00GI−25AR(商品名:新日鐵化学株式会社製)なども使用可能である。
【0074】
本発明における絶縁層のウェットエッチングは、絶縁層表面に導電性無機物層の配線等の凹凸が形成されている場合が多く、その場合、用いるドライフィルムレジストの膜厚は、導電性無機物層の厚みの1.1〜5倍であることが望ましい。1.1倍未満だと、ドライフィルムレジストのラミネート後に基板の凸部がドライフィルムレジストを突き破って露出する恐れがあり、エッチング形状不良の原因となる。また、パターン形状を安定化させる目的と、微細パターンを解像する目的から、膜厚の上限は絶縁層上の導電性無機物層の厚みの5倍までが好ましい。簡便に表記すると、ドライフィルムレジストの膜厚は、ドライフィルムレジストによりパターンを形成する側の導電性無機物層の厚さの1.1倍〜5倍の範囲であれば良好なパターン形状が得られる。
【0075】
通常、市販のドライフィルムレジストのアスペクト比は、2〜1程度であり、細線をパターニングするには、薄ければ薄いほど有利であるが、上記のような問題があるため、積層体に設けられた導電性無機物層より厚いことが必要である。
【0076】
ドライフィルムレジストのラミネート手法は、面プレス等公知のラミネート方法を用いることができるが、本発明に用いる積層体は、絶縁層の厚さが最大で500μmであり、好ましくは、300μm以下であるため、導電性無機物層を所望の形状にパターニングした状態では基板の剛性が低い。したがって、積層体をロールプレスによりラミネートを行うと、シート毎に加工した場合、基板が反ってしまう。基板が反ると、その後、露光を行うときにアライメントに大きなずれが生じる。このずれは、導電性無機物層のパターンと絶縁層のパターンのずれの原因になるため、できうる限り小さいものにしなければならない。そのため、シート上の基板にドライフィルムレジストをラミネートする場合には、面プレスを用いるのが精度良く設計どおりの製品を作製するのに必須の要件である。
【0077】
また、ドライフィルムレジストをエッチングされた導電性無機物層上にラミネートする際に、気泡の混入があると、例えば、エッチングにより導電性無機物層の凹凸の淵の箇所において、ドライフィルムレジストの間に気泡が内包されると、その部分が密着不良となり、エッチング形状に不良が出る。ウェットエッチングは、ドライプロセスであるプラズマエッチングよりも数十倍エッチング速度が大きいため、このような密着不良があると通常エッチングされない部位までエッチングされやすく、パターン不良がドライプロセス以上に広範囲にわたる。このため、本発明では、このラミネート工程を減圧状態乃至真空状態、好ましくは、80KPa(≒600mmHg)以下、さらに好ましくは40KPa(≒300mmHg)以下、最も好ましくは、6.7KPa(≒50mmHg) 以下の蒸気圧で行うことが気泡除去に望ましい。
【0078】
ところで、表面が平滑なドライフィルムレジストを用いる場合には、減圧の面プレスを行っても、基板表面の約20%以上が気泡となることがある。このような場合には、表面に微細な凹凸が施されているようなドライフィルムレジストを用い、基板側に凹凸を向けるようにしてラミネートすると、微細な凹凸が気泡の逃げる通路となり、この現象が発生せず、気泡の除去に非常に有効である。
【0079】
つまり、シート毎の処理でドライフィルムレジストをラミネートする場合に、寸法精度の良い製品を作製するには、減圧下における面プレスを実施すること、及び表面に凹凸が施されているドライフィルムレジストを用いることが好ましい態様となる。
【0080】
ドライフィルムレジスト表面に施された凹凸は、その表面粗さRzが0.5μm〜50μmの範囲であることが好ましく、その凹凸を形成する手法は、感光性樹脂組成物を塗布又は成形によりドライフィルムレジストにした後に、エンボス加工を施すことによりなされてもよく、或いは予め凹凸のついたフィルムに感光性樹脂組成物の溶液を塗布し、乾燥させることによって、凹凸が形成されたドライフィルムレジストを得てもよいが、その手法に関しては特に限定されない。
【0081】
ドライフィルムレジストをラミネートする条件は、20〜100℃の範囲の温度、0.05〜0.3MPa(0.5〜3kgf/cm2 )の範囲のプレス圧力で実施するのが好ましい。また、その時の雰囲気は減圧状態乃至真空状態、好ましくは、80KPa(≒600mmHg)以下、さらに好ましくは40KPa(≒300mmHg)以下、最も好ましくは、6.7KPa(≒50mmHg) 以下の蒸気圧であることが望ましい。加工する積層体のシートサイズにより真空吸引時間を調整するが、圧着時にドライフィルムレジストと積層体のシート間に気泡が残らないように、時間を設定する。また、ラミネート条件は、使用するドライフィルムレジストのTgにより異なり、導電性無機物層のパターン間を十分に被覆できる温度でラミネートを行う。このとき、温度を高くしすぎると露光時の感度が不安定になるので注意する。
【0082】
ドライフィルムレジストの現像と剥離は、用いるドライフィルムレジストに対応した現像液または剥離液を用い、その推奨条件で行うのが好ましいが、特に限定されない。先に述べたように、廃棄物処理の観点から、水溶液、好ましくは塩基性水溶液、特に好ましくは無機塩基性水溶液による現像が望ましい。本発明における水溶液とは、水が主成分である液体であれば良く、現像や剥離の条件に合わせ脂肪族アルコール、芳香族アルコール、有機極性溶媒、等の有機溶媒を50重量%未満で含んでもよい。現像方法は、ディップ法でも気中スプレー法でも、液中スプレー法でも良く、特に限定されない。
【0083】
ドライフィルムレジストをポリイミドのウェットエッチングに用いる場合には、エッチング液の成分が非常に反応性の高い成分を高濃度で含有しているため、ドライフィルムレジストがパターンを保持するのが他の場合に比べて困難である。そのような場合、ドライフィルムレジストをラミネートし、露光現像後、パターンが形成された状態で、加熱するか、ネガ型のドライフィルムレジストの場合には、再び、電離放射線、好ましくは、紫外線を照射すると、ドライフィルムレジストのパターンが強固になり、エッチング液に接触しても形状を保持する時間が長くなる。
【0084】
加熱する条件としては、30℃〜200℃、好ましくは70℃〜150℃の範囲であり、処理時間は、10秒〜20分の間が適当である。手法としては、ホットプレート上に静置する方法、オーブンに投入する方法、熱風で処理する方法、赤外線ヒーターを用いる方法等が挙げられるが特に限定されない。
【0085】
また、レジストパターンの形成後に紫外線(電磁波)を照射することで、パターン保持性を向上させる場合には、パターン露光時と同様の波長で、5mJ以上のエネルギーの照射を行うと良い。
【0086】
エッチング液
本発明で使用するエッチング液には、従来技術の欄で述べたような種々のエッチング液が使用できる。しかし、本発明の電子部品の製造方法は、高い生産性でかつ、低いプロセスコスト(装置コスト・維持管理コスト・廃棄物処理コスト)、低毒性であることを目的とするものであるので、エッチング液は低毒性で、且つ高寿命であることが望ましい。毒性の高いヒドラジンは含まないものであることが好ましいが、エッチング液に対して、重量で10wt%以下であれば添加剤と言う観点で含んでも良い。ヒドラジンが10%を超えると、エッチングを行ったときの形状が不安定になりやすく、工程の管理が難しくなる。これは、特開平5−301981号公報に述べられているようにヒドラジンは、エッチングの挙動が不安定であるためであり、ヒドラジン含有量が少ない方が工程管理上・作業環境上も好ましい。
【0087】
本発明で用いるエッチング液は、用いるドライフィルムレジストが形状を保持可能な時間内に、ポリイミドがエッチングできるだけの充分なエッチング速度を有していなければならない。具体的には、特開平10−97081号公報と特開平10−195214号公報に開示されている無機アルカリを主成分とした塩基性水溶液が、もっとも好ましい。本発明で使用できるエッチング液は、基本的には無機アルカリ・脂肪族アミン(ジアミン)・脂肪族アルコール・脂肪族アミノアルコールの単独、またはそれらの混合の水溶液に、尿素や有機極性溶媒が添加してあるものが挙げられ、pHが9より大きいことが望ましい。
【0088】
エッチングにおける処理温度は、用いるエッチング液の凝固点、または、沈殿が生じる温度より高く、沸点よりも低い温度の範囲であればよいが、生産性や工程管理上の関係から、10℃〜120℃、好ましくは30℃〜95℃、より好ましくは50℃〜90℃である。処理を行う温度で揮発する成分が含まれているエッチング液の場合は、長時間処理を継続すると、エッチング液の組成が変化してしまうことがあるため、処理温度はできるだけエッチング液の内容成分が揮発しない温度で行うのが好ましいが、必ずしもその温度で行う必要はない。
【0089】
エッチング浴内の温度分布は小さければ小さいほど良いが、±1℃の範囲で維持されているのが好ましく、±0.5℃の範囲で維持されているのがより好ましい。
【0090】
これまでの知見から温度が高くなればなるほど、ポリイミドのウェットエッチングのメカニズムから、指数関数的にエッチングレートが大きくなることが確認されている。エッチングレートが大きい条件で処理を行えば行うほど、温度に対するエッチングレートの違いが大きくなるため、エッチング浴内で温度分布があると基板面内でのパターン精度のばらつきが大きくなる。絶縁層のエッチングレートが大きい場合に特に顕著であり、極力温度分布を小さくすることが均一な加工を行う上で効果がある。
【0091】
エッチングを行う方法は、ディップ法、気中スプレー法、液中スプレー法、ディップ+超音波照射法等が挙げられるが、気中スプレー法の場合、エッチング液からの内容成分の揮発が多く、液の管理が困難になる。好ましくはディップ法、または液中スプレー法であり、エッチング形状のテーパー角をより小さくするためには、液中スプレー法が好ましい。
【0092】
エッチング液中において超音波を照射する場合には、超音波照射により、ドライフィルムレジストが部分的に剥離し、エッチング形状が不良とならないように超音波条件を考慮する必要がある。
【0093】
積層体のエッチング処理中は、積層体を垂直に立てた状態で処理を行っても良いし、水平にした状態で処理を行っても良い。垂直に立てて処理を行うとエッチング終了後にエッチング浴から取り出したときに、エッチング液の切れが良く、エッチング液のロスが少ない。水平にして処理を行うと、水平連続搬送が可能となり量産性により適しているし、また、エッチング液の温度分布が小さくなる利点がある。
【0094】
必要に応じて、エッチング処理前に界面活性剤で積層体表面を処理し、エッチング液との親和性を高める処理を施すと良い。エッチング液が、無機塩基性水溶液を主成分とするものの場合、絶縁層の表面との親和性が良くないことがあり、そのような場合には積層体全体が均一にエッチングされるために、界面活性剤による処理は親和性向上の効果がある。該目的のための界面活性剤の種類は、特に限定されないが、大量に処理を継続していく場合、界面活性剤が徐々にエッチング液中に含まれる状態となっていく。このような場合、イオン性の界面活性剤を用いると、バッファとしての作用が働いてしまいエッチング液を劣化させてしまう恐れがあるため、ノニオン系の界面活性剤が好ましい。
【0095】
また、エッチング液による処理後に必要に応じてリンス処理を行っても良い。リンス処理を行わないと、エッチング液の成分やエッチングされた絶縁層の残さが、基板表面に残存することがあり、好ましくない。該リンス処理に用いられるリンス液には、塩基性水溶液、有機極性溶媒と水の混合溶液、有機極性溶媒とアルコールの混合溶液、水、等が挙げられるが、特に限定されない。リンス処理の温度は、用いるリンス液の凝固点、または、沈殿が生じる温度より高く、沸点よりも低い温度の範囲であればよい。このとき、エッチング後の工程であるドライフィルムレジストの剥離の工程の剥離液をそのままリンス液として用いて、リンス処理とドライフィルムレジスト剥離の工程を同時に行ってもよい。
【0096】
リンス液に用いられる前記有機極性溶媒には、n−メチル‐2‐ピロリドン(NMP)やジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、等が挙げられるが特に限定されない。また、リンス液に用いられる前記アルコールとは、メタノール、エタノール、プロパノール、等脂肪族のアルコールのほか、フェノール、クレゾールのような芳香族のアルコールでも良く、ジオール等1分子中に複数の水酸基を有する物質でも良い。
【0097】
ドライフィルムレジストの剥離
ドライフィルムレジストの剥離は、用いるドライフィルムレジストの剥離の推奨条件を用いるが、使用する絶縁層であるポリイミド等がアルカリ耐性に乏しい場合は、エタノールアミン等の有機塩基性水溶液を使用すると良い。ドライフィルムレジストの剥離の手法は、通常、塩基性水溶液の薬液のスプレー剥離が用いられることが多いが、ディップ法でも超音波照射によるものでもよい。
【0098】
また、熱プレスにより作製された積層体に多く見うけられるが、積層体を形成する導電性無機物層表面に密着力向上のために粗化処理が行われており、その粗化面が絶縁層に転写されている場合は、その粗化面にドライフィルムレジストが埋め込まれているので、通常よりも条件を激しくする必要がある。また、前記のエッチング液耐性向上処理を行った場合も同様である。
【実施例】
【0099】
ウェットエッチング可能な積層体
[エッチング性試験]
絶縁層を形成するためのサンプルを製造するために、接着性樹脂として三井化学株式会社製ポリアミック酸ワニス:PAA−A(商品名)、新日本理化株式会社製ポリイミドワニス:EN−20(商品名)を用意した。コアとなる低膨張性ポリイミドとしては、鐘淵化学株式会社製ポリイミドフィルム APIKAL NPI(商品名、厚さ12.5μm )を用意した。エッチング試験に用いるエッチング液は、東レエンジニアリング株式会社製アルカリ−アミン系ポリイミドエッチング液TPE−3000(商品名)を用意した。
【0100】
前記接着性樹脂ワニスEN−20(商品名)を15cm×15cmの大きさの膜厚100μm のSUS304板上にスピンコートで膜厚20μm〜40μmとなるようにコーティングし、180℃30分間オーブンで乾燥した。PAA−A(商品名)は、アミック酸ワニスであるので120℃15分間の乾燥工程において溶媒を除去した後、所定の操作をして熱イミド化してポリイミドとした。各乾燥物を長さ約1.5cm、幅約2cmに切り出し、中心部にカッターナイフで傷をつけた後に、膜厚を触針式膜厚計Dektak16000(商品名、Sloan Technology社製)にて測定し、初期の膜厚とした。その後、70℃に調節され、マグネチックスターラーにて渦ができる程度に攪拌されたポリイミドエッチング液TPE−3000(商品名、東レエンジニアリング株式会社製)に浸積し、時間ごとに初期膜厚を測定した場所とほぼ同じ場所の膜厚を触針式膜厚計Dektak16000(商品名、Sloan Technology社製)にて測定し、初期の膜厚から浸積後の膜厚を引いたものを、膜減り量とした。その1分間当たりの膜減り量をエッチングレート(単位:μm/min)とした。その値を下記の表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
[エッチング性評価]
厚み12.5μmのポリイミドフィルムであるAPIKAL NPIフィルム(商品名、鐘淵化学株式会社製)に、乾燥後の膜厚が1.5μm±0.3μmになるようにEN−20(商品名、新日本理化株式会社製ポリイミドワニス)を両面に塗布し、前述の乾燥条件で乾燥した。得られたフィルムを接着層付きフィルムAとした。
【0103】
同様に、厚み12.5μmのAPIKAL NPIフィルム(商品名、鐘淵化学株式会社製)の両面にPAA−A(商品名、三井化学株式会社製)を塗布、成膜したものを接着層付きフィルムBとした。下記の表2に接着層付きフィルムA及びBのエッチングレートの比を示す。
【0104】
【表2】

【0105】
前記各接着層付きフィルムA及びBを、厚み20μmのSUS304HTA箔(商品名、新日本製鉄製)と、厚み18μm(Rz=1.5μm)のオーリン社製銅合金箔C7025(商品名)の間に挟み、20Kg/cm2 圧力、270℃で10分間、真空圧着し、SUS:絶縁層:銅からなる3層材を2種類作製した。得られた積層体を積層体A、積層体Bとした。
【0106】
[絶縁層のエッチング評価]
前記工程で得られた各積層体A及びBを、SUS側をマスクして、塩化第二鉄溶液に浸積し、銅箔をエッチングした。その後、乾燥し、適当な大きさに裁断した後、70℃でマグネチックスターラーで渦ができるほど攪拌した東レエンジニアリング社製エッチング液TPE−3000(商品名)に浸積した。きれいにポリイミド膜が除去され、SUS面が露出した時点で取り出した。このような方法で絶縁層をウェットエッチングした。
【0107】
また、同様にして、圧力25〜30Pa、プロセスガスNF3 /O2 =10/90%、周波数40kHzにてプラズマ処理を行い、絶縁層をプラズマエッチングした。
【0108】
SUS上にポリイミド層が目視で残存してないことが確認できるまでエッチングし、このエッチングに要した時間で、絶縁層の膜厚を割った値(エッチングレート)を下記表3に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
表3によれば、ウェットエッチングはプラズマエッチングに比べエッチングレートが大きく。非常に短時間で、絶縁層のエッチングが可能であることが確認された。
【0111】
製版性評価
[導電性無機物層のパターニング]
300mm×300mmの大きさの前記エッチング性評価の試験で調製した積層体Aのステンレス層上、及び銅合金箔層上の両方の面に厚み50μmの塩基性水溶液現像型ドライフィルムレジストを加熱したロールラミネーターにて0.5m/minの速さで、ロールの表面の温度105℃で、2〜4Kg/cmの線圧でラミネート後、15分間室温で放置した。このとき、積層体の両面にステンレス層と銅合金箔層があるため、ドライフィルムレジストのラミネート後も積層体は平坦であり、反りは確認されなかった。その後、所定のマスクを用いて真空密着露光機で100mJ/cm2 露光した。室温で15分間放置後、Na2 CO3 1重量%水溶液で、30℃、スプレー圧2Kg/cm2 で60秒間ドライフィルムレジストを現像し、レジストパターンを形成した。
【0112】
その後、塩化第二鉄水溶液にてステンレス層、銅箔層を同時に、エッチングした。その後、50℃の3重量%NaOH水溶液で、スプレー圧1Kg/cm2 でドライフィルムレジストを剥離し、積層体Aの導電性無機物層をパターニングした。このようにして、ステンレス層及び銅合金層がパターニングされ部分的に絶縁層が露出した積層体Aが得られた。
【0113】
[ドライフィルムレジストの選定]
上記工程で得られた絶縁層が露出した積層体Aを用いて以下の作業を行った。積層体Aを、SUS側をマスクして、塩化第二鉄溶液に浸積し、銅箔をエッチングした。その様にして露出させた接着層面に上記の塩基性水溶液現像型ドライフィルムレジストを、加熱したロールラミネーターで0.5m/minの速さでロールの表面の温度105℃で、2〜4Kg/cmの線圧で、ラミネートした後、15分間室温で放置した。その後、ORC製作所製平行光密着露光機にて、ライン&スペースが、500μm/500μmと80μm/80μmのストライプマスクをサンプルに密着させ、ドライフィルムの推奨の露光量を30〜200mJの範囲で片面露光後、サンプルを裏返し、同様のマスクを密着させて露光した。室温で15分間放置後、Na2 CO3 1重量%水溶液で、30℃、スプレー圧2Kg/cm2 で60秒間ドライフィルムレジストを現像した。その後、乾燥し、70℃でマグネチックスターラーで渦ができるほど攪拌した東レエンジニアリング社製エッチング液TPE−3000(商品名)に浸積した。種々、浸漬時間を変化させたサンプルを、50℃の3重量%NaOH水溶液で、スプレー圧1Kg/cm2 でドライフィルムレジストを剥離した。その様にして、所望の形状に絶縁層をウェットエッチングした。ドライフィルムレジストには、旭化成工業社製サンフォートAQ−1558(商品名)、AQ−2058(商品名)、AQ−2538(商品名)、AQ−3038(商品名)、AQ−4038(商品名)、AQ−5038(商品名)、並びにニチゴーモートン社製NPE538(商品名)、NPE342(商品名)、新日鉄化学株式会社製SFP−00GI−25−AR(商品名)を使用した。ただし、SFP−00GI−25−AR(商品名)の現像に関しては指定の乳酸水溶液を用いた。
【0114】
各サンプルにつき、ストライプパターンの上部の寸法を計測し、その変化が急激な点を便宜的にドライフィルムレジストパターンが剥離、または溶解した時間とみなし、その時間までをドライフィルムレジストがパターン形状を保持している時間とした。
【0115】
各サンプルについてパターン保持時間を下記の表4に示す。
【0116】
【表4】

【0117】
表4によれば、旭化成工業社製サンフォートAQ5038(商品名)とニチゴーモートン社製NPE342(商品名)がエッチング液耐性に比較的優れていることがわかった。また、旭化成工業社製サンフォートAQ2538〜AQ5038(商品名)は、同一組成のドライフィルムレジストで厚さが違うだけであり、サンプル番号の大きくなるにつれてドライフィルムレジストの厚みが増えたものである。表4によれば、厚みが増えるにつれて、パターン保持時間が増えており、このことからエッチング液耐性も向上していると判断される。
【0118】
パターン補強処理
ドライフィルムレジストをパターニングした後に、ドライフィルムレジストのエッチング液に対する耐性をさらに与えるため、以下のような後処理を行った。用いたサンプルは、上記の工程で銅合金箔を前面除去した積層体Aを用い、旭化成工業社製サンフォートAQ5038(商品名)をL/S=500μm/500μmと80μm/80μmのストライプにパターニングして用いた。評価手法も前記ドライフィルムレジスト選定のときと同じ手法で評価した
[熱処理]
120℃に熱したホットプレート上に、アルミホイルを敷き、その上にサンプルAを静置し、パターン保持時間を求めた。このとき以下の表の様に時間を変化させた。処理時間に対するパターン保持率の結果を下記表5に示す。
【0119】
【表5】

【0120】
[後露光処理]
ネガ型のドライフィルムレジストを用いているため、現像後に、さらにレジストパターンを強化する必要があるので、以下のような条件で後露光を行い、パターン保持時間を求めた。露光量に対するパターン保持率を下記表6に示す。
【0121】
【表6】

【0122】
表5及び表6によれば、パターン補強処理において加熱によるものの方が効果が大きかったが、後露光によるものでも熱処理ほどではないが効果があった。これらは、求める電子部品やプロセスにより適宜選択すると良い。またこれらの組み合わせでも、効果が確認されたが熱処理の効果の寄与が大きく、露光による効果はそれほど目立たなかった。
【0123】
絶縁層のパターニング用ドライフィルムレジストの製版
[ドライフィルムレジスト]
塩基性水溶液現像・塩基性水溶液剥離タイプのネガ型ドライフィルムレジストとして、以下の物を用意した。旭化成工業株式会社製サンフォートAQ‐1558(商品名、厚み15μm)、同AQ‐2058(商品名、厚み20μm)、同AQ‐2538(商品名、厚み25μm)、同AQ‐3038(商品名、厚み30μm)、同AQ‐4038(商品名、厚み40μm)、同AQ‐5038(商品名、厚み50μm)、及びニチゴーモートン株式会社製ALPHO NPE538(商品名、厚み38μm、エンボス処理あり)、同NPE342(厚み42μm、商品名、エンボス処理あり)。
【0124】
上記のサンプルを以下の手法で、面プレス(減圧下、及び常圧下)とロールプレス(減圧下、及び常圧下)を行って、ドライフィルムレジストラミネート後の積層体Aの外観を検討した。
【0125】
[面プレス]
積層体Aを、ドライフィルムレジスト(DFR)により挟み、名機製作所製真空ラミネーターMVLP−500を用い、設定温度75℃の熱板上にドライフィルム−積層体−ドライフィルムからなる順番で積層し、セットした後、チャンバー内気圧を30mmHg(≒4KPa:大気圧の約1/25)まで減圧後、プレス圧10Paで80秒プレスした。また同様にして、プレスする際の内部気圧を常圧にしたものも行った。
【0126】
このようにしてラミネートを行った積層体は、常圧下では全てのサンプルにおいて、銅合金箔やステンレス箔がパターニングされている端部に所々に気泡が混入していた。また、減圧下でプレスを行ったときは、エンボスにより表面に微細な凹凸が施されているドライフィルムレジストは、気泡が混入していなかったが、エンボス加工がなされていないものは銅合金箔やステンレス箔がパターニングされている端部に所々に気泡が混入していた。しかし、全てのサンプルが平坦であり、反りは見うけられなかった。
【0127】
[ロールプレス]
積層体Aを、ドライフィルムレジストで挟み加熱したロールラミネーターで0.5m/minの速さでロールの表面の温度105℃で、2〜4Kg/cmの線圧でラミネートした後、15分間室温で放置した。このようにして、ラミネートを行った積層体は、すべて平坦な金属板上に静置すると、両端が約1cm〜2cmほど浮き上がり、銅合金箔がパターニングされている側に反りかえっていた。また、減圧下でラミネートを行ったものは気泡の混入はなかった。しかし、常圧で行ったものは、銅合金箔やステンレス箔がパターニングされている端部に所々に気泡が混入していた。
【0128】
それぞれのサンプルで、ドライフィルムレジストの表面からパターニングされたステンレス箔(厚さ20μm )や銅合金箔(厚さ18μm )が、露出していないかを確認したところ、それぞれ金属層の厚さとドライフィルムレジストの厚さが同じか、小さいときに部分的に金属がドライフィルムレジストを突き破り、露出していた。評価結果を下記の表7に示す。
【0129】
【表7】

【0130】
[露光・現像]
上記工程で得られたドライフィルムレジストを積層された積層体Aに対して、マスクパターンを被せ露光をi線で露光量30〜150mJ/cm2 で行い、30℃、1重量%Na2 CO3 でスプレー現像した。これにより、絶縁層加工レジストパターンは絶縁層上にパターニングされたステンレス層、及び銅合金箔層にオーバーラップするように形成した。
【0131】
もし、オーバーラップを行わないように絶縁層を残す領域にのみ絶縁層加工パターンを形成すると、ウェットエッチングによりレジストパターンもエッチングされ、当該パターンとステンレス層または銅合金層との間に隙間が形成されて、エッチングが入ってしまい、絶縁層の加工したくないところをエッチング加工してしまう可能性がある。これを防ぐために、絶縁層加工レジストパターンは、絶縁層上にパターニングされたステンレス層または銅合金層とオーバーラップするように形成した。特に、ステンレス層または銅合金層の線幅が狭い場合は、線幅の狭い導電層上に絶縁層加工レジストパターンを形成することは、このような点でも効果がある。
【0132】
このとき、反りのあったサンプルは露光時にマスクに密着せず、吸引により強制的に密着させたところ、その反りの程度によってアライメント精度が他のサンプルの3〜5倍程度悪化した。
【0133】
[ウェットエッチング]
上記工程で得られたサンプルを、以下の条件でウェットエッチングを行った。なお、ドライフィルムレジストのエッチング液耐性向上処理は行なわなかった。ウェットエッチング条件としては、前処理として、ノニオン系界面活性剤である日信化学工業製サーフィノール104E(商品名)の0.5%水溶液に、30秒浸漬させた後に、液中スプレー方式水平搬送型エッチング装置に投入した。エッチング液は東レエンジニアリング社製エッチング液TPE−3000を用い、処理温度は80℃とした。ポリイミド層のエッチング液に対するエッチングレートや、エッチングする温度にもよるが、この場合各サンプルの、エッチングに要する時間は70〜90秒程度であった。
【0134】
その際に、レジストパターンに気泡が混入していたサンプルとステンレス層および、銅合金箔層が露出していたサンプルは、エッチングが目的の形状になっていない部位が多く見うけられた。このような不良の原因は、ウェットエッチングはエッチングレートが非常に大きいため、エッチング液にすこし触れただけでもエッチングが行われるため、銅合金箔層のエッチングパターンを完全にドライフィルムレジストが被覆していない場合は、不良となりやすいからである。
【0135】
良好にエッチングが終了したサンプルの電子顕微鏡写真を図2に、エッチング不良が発生したサンプルの電子顕微鏡写真を図3に示す。図3によれば、銅合金箔のエッチングパターンの基部における周辺のポリイミドの絶縁層が浸食されていることが分かる。このような不良は、図1(g)において、ドライフィルムレジスト5の厚みが導電性無機物層3又は2の厚さの1.1倍未満の場合に導電性無機物層3又は2の基部における絶縁層1の周辺に発生する。
【0136】
[ウェットエッチング後処理]
上記の積層体Aに、旭化成工業社製サンフォートAQ5038(商品名)をラミネートし、絶縁層のウェットエッチングを行ったサンプルについて、エッチング浴から取り出した後、以下のような組成のリンス浴の満たされたバットにサンプルを30秒間浸漬し、そのバットを揺動するという手法でリンス処理を行った。リンス処理を行わないと、エッチングされたポリイミドの残渣やエッチング液等が表面に残り外観を損ねる。このとき、ドライフィルムレジストの剥離の工程における剥離液をそのままリンスとして用いて、リンスとドライフィルム剥離の工程を同時に行ってもよい。
下記の表8のリンス無しとは、エッチング液から取り出した後、放置した場合である。
【0137】
【表8】

【0138】
[剥離]
絶縁層のパターニングに用いたドライフィルムレジストに対して、50℃、水酸化ナトリウム3Wt% の高温塩基性水溶液をスプレーすることにより、ドライフィルムレジストを積層体から剥離した。絶縁層がポリイミド等のアルカリ耐性に乏しい場合は、エタノールアミン等の有機塩基性水溶液を使用すると良い。
【0139】
[酸洗・防錆処理・金めっき・はんだ印刷]
上記の方法により形成されたHDD用のワイヤレスサスペンションブランクのパターニングされた銅合金箔層に、加工の仕上げとして金めっきを施した。該金めっきは、日本高純度化学製シアン金めっき浴:テンペレジストEX(商品名)を用いて、65℃にて電流密度Dk=0.4A/dm2 で約4分間通電して1μm厚の成膜を行った。
【0140】
上記のようにして作製した、サンプルについて各性能を評価したところ、ドライフィルムレジストをラミネートした状態で、反りが見うけられたサンプルはアライメント精度が悪く、気泡の混入があったもの、パターニングされたステンレス箔や銅合金箔がドライフィルムレジストから露出していたものはエッチング形状不良が見うけられた。その結果を下記の表9に示す。
【0141】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、ウェットプロセスによって絶縁層のパターニングが可能な導電性無機物−絶縁層−導電性無機物、又は導電性無機物−絶縁層という層構成からなる、枚葉の積層体を用いて、絶縁層をウェットエッチングによりパターニングする工程により、電子部品を製造する方法、該製造方法により得られた電子部品自体、及びハードディスクドライブ用サスペンションに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性無機物層―絶縁層−導電性無機物層からなる積層体、又は導電性無機物層−絶縁層からなる枚葉の積層体をウェットエッチングにより導電性無機物層のパターニング、次いでウェットエッチングにより絶縁層のパターニングを行う電子部品の製造方法であって、
該積層体における絶縁層はウェットエッチング可能で、単層構造又は2層以上の絶縁ユニット層の積層構造であり、全ての層がポリイミド樹脂であり、
前記ウエットエッチングによる絶縁層のパターニングは、前記導電性無機物層のパターニングを行った積層体に対してドライフィルムレジストを減圧下で面プレスによりラミネートし、得られたドライフィルムレジストのラミネート体に対してウエットエッチングする方法により行い、
該ドライフィルムレジストは表面に微細な凹凸が形成されており、該微細な凹凸はエンボス加工によって設けられており、
該ドライフィルムレジストは、塩基性水溶液により現像され、塩基性水溶液で剥離することが可能であり、
前記ドライフィルムレジストのラミネート体に対してウエットエッチングする方法は、ドライフィルムレジストのラミネート体に露光、現像してパターニングした後、絶縁層のエッチャントに対するドライフィルムレジストの耐性を向上させる処理として、紫外線照射処理、加熱処理、及び紫外線照射処理と加熱処理の組合せから選ばれた処理を行うことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の電子部品の製造方法において、原料とする積層体の絶縁層の厚さが、3μm〜500μmであることを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電子部品の製造方法において、前記ドライフィルムレジストの厚さが、原料とする積層体の1層の導電性無機物層の厚さの1.1〜5倍であることを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項記載の電子部品の製造方法において、前記絶縁層のウェットエッチングに要する時間が10秒以上30分以内であることを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項記載の電子部品の製造方法において、前記絶縁層のウェットエッチング時の温度が10℃以上120℃以下であることを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁層における単層構造又は2層以上の絶縁ユニット層のうち少なくとも1層が線熱膨張率30ppm以下の低膨張性ポリイミドである請求項1乃至5の何れか1項記載の電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁層が接着性ポリイミド−低膨張性ポリイミド−接着性ポリイミドからなる層構成である請求項6記載の電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記接着性ポリイミド−低膨張性ポリイミド−接着性ポリイミドからなる層構成の絶縁層において、2つの接着性ポリイミドは互いに異なる組成のポリイミドである請求項7記載の電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁層のエッチングに用いられるエッチング液のpHが、9より大きいことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載の電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記積層体における1層又は2層の導電性無機物層は、全ての層が銅、又は銅に表面処理を施した物質である請求項1乃至9の何れか1項記載の電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記積層体における1層又は2層の導電性無機物層は、全ての層が銅合金、又は銅合金に表面処理を施した物質である請求項1乃至9の何れか1項記載の電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記積層体における1層又は2層の導電性無機物層は、全ての層がステンレス、又はステンレスに表面処理を施した物質である請求項1乃至9の何れか1項記載の電子部品の製造方法。
【請求項13】
前記積層体における2層の導電性無機物層は、1層がステンレス、又はステンレスに表面処理を施した物質であり、その他の層が銅合金、又は銅合金に表面処理を施した物質である請求項1乃至9の何れか1項記載の電子部品の製造方法。
【請求項14】
前記積層体における2層の導電性無機物層は、1層がステンレス、又はステンレスに表面処理を施した物質であり、その他の層が銅または、銅に表面処理を施した物質である請求項1乃至9の何れか1項記載の電子部品の製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至14の何れか1項記載の電子部品の製造方法により作製された電子部品。
【請求項16】
請求項1乃至14の何れか1項記載の電子部品の製造方法により作製されたハードディスクドライブ用サスペンション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−254082(P2011−254082A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138167(P2011−138167)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【分割の表示】特願2001−97436(P2001−97436)の分割
【原出願日】平成13年3月29日(2001.3.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】