説明

エンジンのシリンダ流入空気量計測装置を備えた燃料制御装置

【課題】左右バンクで吸気効率が異なると、H/Wセンサ等で計測されたエンジンの吸入空気量と、推定した吸気管圧力を元に計算されたシリンダ流入空気量と、に定常誤差が発生し、所望の空燃比にすることができない課題を解決する。
【解決手段】スロットルバルブを通過する空気量を演算する手段502と、スロットルバルブ下流側の推定圧力PMMHG、エンジンの回転数Ne、吸気温度THA、及び下流側推定圧力とエンジン回転数とからマップ検索して求めた吸気効率η、に基づいて、エンジンのシリンダに流入するシリンダ流入空気量QARを取得する手段505と、左右のバルブタイミングIN CAREA(0),(1)においてマップ検索して求めた左右の気筒群毎の吸気効率η0,η1と、取得したシリンダ流入空気量QARと、を基にして、左右の気筒群毎のシリンダに流入するシリンダ流入空気量QAR(0),QAR(1)を得る手段506と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダ流入空気量計測装置を備えた燃料制御装置に関し、特に左右バンク(気筒群)毎に可変バルブタイミング機構を具備したエンジンのシリンダに流入する空気量を正確に検出し、所望の空燃比を維持することのできる空燃比制御の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絞り弁の開度とエンジン回転数とから求めた予想空気流量とH/Wセンサ(熱式空気流量計)から検出される出力値とによって、シリンダに流入する空気流量を推定していた従来技術に対して、さらに、吸気管内に発生する圧力勾配をについて配慮して、この圧力勾配に影響を及ぼす、エンジン回転数、吸気温度、シリンダへの空気の流入速度、及び、H/Wセンサの応答性の遅れを考慮してシリンダへの流入空気の質量空気流量を推定するエンジンの燃焼制御装置が、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
また、エンジンの燃料制御装置に関する従来技術として、例えば特許文献2に示すように、エンジン回転数と吸気管圧力から一つの吸気効率をマップ検索して求め、この吸気効率を勘案してシリンダに流入する空気量を算出することが提案されていた。この特許文献2によると、エンジン状態の過渡時に吸気管内に生まれる圧力勾配に着目して、吸気管内の代表圧力を求め、この代表圧力とエンジン回転数から気筒内に流入する空気流量を求めており、アクセルが踏み込まれた時の過渡時においても、正確に気筒内に流入する空気質量流量を算出することができる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−326593号公報
【特許文献2】特許第2908924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1,2に示されたようなエンジンの燃料制御装置において、左右バンク毎に可変バルブタイミング機構を具備している場合、左右のバルブタイミングの位相が必ずしも一致しないとき、左右バンクでのシリンダ流入空気量はその流入タイミングがずれるため、所望の空燃比にすることができず、排気ガス性能、運転性を悪化させる虞があった。
【0006】
本発明は、基準となる吸気効率に対して、左右バンクのバルブタイミングの位相ずれから左右バンク別の吸気効率を求め、左右バンクのシリンダ流入空気量を算出することのできるエンジンの燃料制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
エンジンに設けられた吸気バルブ及び/又は排気バブルのバルブ開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング機構を左右の気筒群毎に備えたエンジンの燃料制御装置であって、
エンジンの吸入する空気量を計測する吸入空気量計測手段と、エンジンの回転数を検知する回転数演算手段と、エンジンのスロットルバルブの上流側の圧力を推定する手段と、エンジンの前記スロットルバルブの下流側の圧力を推定する手段と、前記スロットルバルブの開口面積を取得する手段と、吸気管を通過する吸気温度を計測する手段と、前記可変バルブタイミング機構のバルブタイミングを検出する手段と、を備え、
前記上流側の推定圧力、前記下流側の推定圧力、及び前記スロットルバルブの開口面積、に基づいて前記スロットルバルブを通過する空気量を演算する手段と、
前記スロットルバルブの下流側の推定圧力、前記エンジンの回転数、前記吸気温度、及び前記下流側推定圧力と前記エンジン回転数とからマップ検索して求めた吸気効率、に基づいて、エンジンのシリンダに流入するシリンダ流入空気量を取得する手段と、
前記左右の気筒群毎に設けられた可変バルブタイミング機構で検出された前記左右のバルブタイミングにおいて前記マップ検索して求めた前記左右の気筒群毎の吸気効率と、前記取得したシリンダ流入空気量と、を基にして、前記左右の気筒群毎のシリンダに流入するシリンダ流入空気量を得る手段と、を有する構成とする。
【0008】
また、前記エンジンの燃料制御装置において、前記吸気効率は、少なくとも2つの異なるバルブタイミングに対応した、前記下流側推定圧力と前記エンジン回転数とをパラメータとする複数のマップに基づいて、任意のバルブタイミングに対応する吸気効率が求められるものである。さらに、前記左右の気筒群毎の吸気効率は、前記左右の気筒群毎に設けられた前記可変バルブタイミング機構におけるそれぞれのバルブタイミングを検出し、前記検出された左右のバルブタイミングと、前記下流側推定圧力と前記エンジン回転数とをパラメータとするマップと、に基づいて、算出するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、左右バンク毎に吸気効率が考慮されているため、左右バンク間での空燃比を安定させることができ、排気ガス性能、運転性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料制御装置における制御ブロックの全体構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る燃料制御装置が制御する制御対象のエンジン廻りの構成を示す図である。
【図3】本実施形態に係る燃料制御装置におけるシリンダ流入空気量計測装置を示すブロック図である。
【図4】本実施形態に関するエンジンの吸気系構成の物理モデルを表す構成例である。
【図5】本実施形態に係る燃料制御装置における左右バンク別のシリンダ流入空気量を求める制御ブロックを示す図である。
【図6】本実施形態に係る燃料制御装置におけるスロットル通過空気量を求める制御ブロックを示す図である。
【図7】図6に示す加重平均処理の制御ブロックの構成例を示す図である。
【図8】本実施形態に係る燃料制御装置におけるシリンダ流入空気量を算出する過程を説明する各種パラメータの波形を示す図である。
【図9】図8においてスロットル前後の逆流を考慮した場合の各種パラメータの波形を示す図である。
【図10】図9においてスロットル前後の正流・逆流に加重平均処理を施した場合の各種パラメータの波形を示す図である。
【図11】本発明の実施形態に係る燃料制御装置における燃料制御のフローチャートである。
【図12】図5に示す左右バンク別のシリンダ流入空気流量を求めるフローチャートである。
【図13】図6に示すスロットル通過空気量を求めるフローチャートである。
【図14】図7に示す加重平均処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るエンジンの燃料制御装置におけるシリンダ流入空気量計測装置について、図1〜図12を参照しながら以下詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測装置を備えた燃料制御装置の制御ブロックの全体構成例である。ブロック101は、エンジン回転数計算手段のブロックである。エンジンの所定のクランク角度位置に設定されたクランク角度センサの電気的信号、主にパルス信号変化の単位時間当たりの入力数をカウントし、演算処理することで、エンジンの単位時間当りの回転数を計算する。ブロック102は、可変バルブタイミング実進角計算手段のブロックである。前述のエンジンの所定のクランク角度位置毎の信号と吸気バルブ、排気バルブの開閉のカム位相信号からバルブタイミングを算出する。ブロック103は、H/Wセンサ出力、吸気温センサ出力、及びスロットルセンサ出力で、タービン−スロットル間圧力推定値、スロットル空気量、吸気管圧力推定値を演算し、それらを用いてエンジンのシリンダに流入する空気量を演算するブロックである。
【0013】
ブロック104は、前述のブロック101で演算されたエンジンの回転数、及び前述のエンジンのシリンダへ流入する空気量により、各領域におけるエンジンの要求する基本燃料及びエンジン負荷指標を計算する。ブロック105は、前述のブロック101で演算されたエンジンの回転数、前述のエンジン負荷により、前述のブロック103で計算された基本燃料のエンジンの各運転領域における補正係数を計算する。ブロック106は、前述のエンジン回転数、及び前述のエンジン負荷によりエンジンの各領域における最適な点火時期をマップ検索等で決定するブロックである。ブロック107は、前述のエンジン回転数、及び前述のエンジン負荷によるエンジンの各領域における最適な可変バルブタイミングをマップ検索等で決定するブロックである。
【0014】
ブロック108は、前述のスロットル開度からエンジンの過渡判定を行い、過渡に伴う加減速燃料補正、及び加減速展示補正量を演算する。ブロック109は、エンジンのアイドリング回転数を一定に保つためにアイドリング時の目標回転数を設定し、ISC(Idle Speed Control)バルブ制御手段への目標流量及びISC点火時期補正量を演算する。
【0015】
ブロック110は、エンジンの排気管に設定された酸素濃度センサの出力から、エンジンに供給される燃料と空気の混合気が後述する目標空燃比に保たれるように空燃比帰還制御係数を計算する。尚、前述の酸素濃度センサは、本実施形態では、排気空燃比に対して比例的な信号を出力するものを示しているが、排気ガスが理論空燃比に対して、リッチ側/リーン側の2つの信号を出力するものでも差し支えはない。
【0016】
ブロック111は、前述のエンジン回転数、及び前述のエンジン負荷によりエンジンの各領域における最適な目標空燃比をマップ検索等で決定する。ブロック111で決定された目標空燃比は、前述のブロック110の空燃比帰還制御に用いられる。ブロック112は、前述のブロック104で演算された基本燃料をブロック105の基本燃料補正係数、ブロック108の加減速燃料補正量、及びブロック110の空燃比帰還制御係数等による補正を施す。ブロック113は、前述のブロック106でマップ検索された点火時期を、前述のブロック108の加減速燃料補正量等で補正を施す。
【0017】
ブロック114〜117は、前述のブロック112で計算された燃料量をエンジンに供給する燃料噴射手段である。ブロック118〜211は、前述のブロック113で補正されたエンジンの要求点火時期に応じてシリンダに流入した燃料混合気を点火する点火手段である。ブロック122は、前述のブロック109で計算されたアイドリング時の目標流量となるようにISCバルブを駆動する手段である。ブロック123は、前述のブロック107で計算された可変バルブタイミングとなるように制御する手段である。
【0018】
図2は、本実施形態の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測装置を備えた燃料制御装置が制御するエンジン廻りの一例を示している。エンジン200は、エンジンのスロットル絞り弁203を通過する空気量を計測するH/Wセンサ201と、H/Wセンサの下流側に設定され排気側のタービンに連動して吸入する空気量を加圧する過給器202と、吸入する空気量を運転者の開度調整により制限するスロットル絞り弁203と、スロットル絞り弁203をバイパスして、吸気管205へ接続された流路の流路面積を制御し、エンジンのアイドル時の回転数を制御するアイドルスピードコントロールバルブ(ISCバルブ)204と、吸気管205内の吸入空気量の吸気温を測定する吸気温センサ206と、エンジンの要求する燃料を供給する燃料噴射弁207と、を備えている。
【0019】
さらに、エンジン200は、エンジンの所定のクランク角度位置に設定されたクランク角度センサ208と、吸気バルブ、排気バルブの位相を制御する油圧弁215と、吸気バルブ、排気バルブの開度を検出するカム角度センサ214と、エンジンのシリンダ内に供給された燃料の混合気に点火する点火栓に、エンジン制御装置213の点火信号に基づいて点火エネルギを供給する点火モジュール209と、エンジンのシリンダブロックに設定されエンジンの冷却水温を検出する水温センサ210と、エンジンの排気管に設定され排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ211と、エンジンの運転、停止のメインスイッチであるイグニッションキイスイッチ212と、及びエンジンの各補器類を制御するエンジン制御装置213と、を備えている。
【0020】
尚、本実施形態におけるエンジン制御装置213はエンジンの全ての制御を実行する装置であり、その制御の内容は図1に示す通りである。また、本実施形態では、エンジンのアイドリング回転数はアイドルスピードコントロールバルブ204で制御しているが、スロットル絞り弁203をモータ等で制御するものにした場合は、アイドルスピードコントロールバルブ204は不用となる。また、過給器の排気側のタービンは図2では割愛している。
【0021】
図3は、本実施形態の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測装置を備えた燃料制御装置の内部構成の一例である。CPU301の内部にはエンジンに設置された各センサの電気的信号をデジタル演算処理用の信号に変換、及びデジタル演算用の制御信号を実際のアクチュエータの駆動信号に変換するI/O 部302が設定されており、I/O部302には、吸入空気量センサ303、吸気温センサ304、水温センサ305、クランク角センサ306、スロットル開度センサ307、酸素濃度センサ308、イグニッションSW309、吸気バルブ及び排気バルブ位相信号310〜311が入力されている。CPU301からは、出力信号ドライバ312を介して、燃料噴射弁313〜316、点火コイル317〜320、ISCバルブへのISC開度指令値321、及び可変バルブタイミング制御部322へ出力信号が送られる。
【0022】
図4は、本実施形態の対象となるエンジンの吸気系の物理モデルの一例である。この吸気系の入り口には、H/Wセンサ401(熱式空気流量センサ)が設定されており、エンジンの吸入する空気量QA00 402を検出する。H/Wセンサ401とスロットルバルブ405の中間には、吸入空気QA00 402を排気側のタービンと連動した過給器403で排圧により過給する。過給された圧力は、タービン−スロットル間圧力PMTRTH 404と示す。スロットル通過空気量はQAMTH 406は、タービン−スロットル間圧力PMTRTH 404と吸気管圧力PMMHG 407の差圧、スロットル開口面積405、及び吸気温等で決まる。シリンダ流入空気量QAR 408は吸気管圧力PMMHG 407、エンジン回転数、エンジン排気量、吸気温、及び運転領域で決まる非線形な吸気効率で決まる。
【0023】
図5は、本発明の実施形態の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測装置を備えた燃料制御装置のシリンダ流入空気量を求めるブロック図を示しており、本実施形態の特徴を表すシリンダ流入空気量計測装置の構成例を含んでいる。
【0024】
ブロック501はタービン−スロットル間圧力PMTRTHを計算するブロックである。吸入空気量QA00、吸気温THA、前回計算されたスロットル通過空気量QAMTH、前回計算されたタービン−スロットル間圧力PMTRTHを用いて、今回のPMTRTHを計算する。ブロック502はスロットル通過空気量QAMTHを計算するブロックである。スロットル開口面積AA、吸気温THA、タービン−スロットル間圧力PMTRTH、及び前回計算された吸気管圧力PMMHGを用いて、スロットル通過空気量QAMTHを計算する。ブロック503は吸気管圧力PMMHGを計算するブロックである。吸気温THA、スロットル通過空気量QAMTH、前回計算されたシリンダ流入空気量QAR、及び前回計算されたPMMHGを用いて、今回の吸気管圧力PMMHGを計算する。
【0025】
ブロック504は、エンジン回転数Ne及び吸気管圧力PMMHGから非線形要素である吸気効率ηをマップ検索して求める。吸気効率ηは、吸気管圧力、エンジン回転数、吸気温に基づいて求めるシリンダ流入空気量の理論値(後述のブロック505の入力,並びに後述の数4を参照)からのズレを補正するものである。少なくとも2つの異なるバルブタイミングに対応させた吸気効率マップ(予め実験データで求めたもの)に基づいて、任意のバルブタイミングに対応した吸気効率ηを求める。
【0026】
図5の図示例についてさらに説明すると、左右バンクの可変バルブタイミング機構(VTC)の角度が、例えば0deg(度)と20deg(度)の2つの吸気効率η0とη1がブロック504にマップとして備わっているとき、10degのバルブタイミング(VTCの位相角)に対応する吸気効率をマップ上のη0とη1に基づいて算出する。なお、所定のバルブタイミングにおける具体的な吸気効率は、ブロック504に入力される前記所定のバルブタイミング(IN CAREA)と吸気管圧力とエンジン回転数を基にして算出する。ここで、ブロック504の2つのIN_CAREAはそれぞれ左と右のバンクのVTCの位相角を表す。また、ブロック504におけるブロック505への出力はタイミングずれが無いときのηであり、ブロック506への出力は左右バンク別でタイミングずれがあるときのそれぞれのηである。
【0027】
ブロック505はシリンダ流入空気量QARを求めるブロックである。エンジン回転数Ne、吸気温THA、吸気管圧力PMMHG、及び吸気効率ηでシリンダ流入空気量QARを計算する。尚、本実施形態では、タービン−スロットル間圧力を吸入空気量等から推定するとしているが、タービン−スロットルの圧力を得る手段を具備している場合は、その出力値を用いてもよい。ブロック506は左右バンク別のシリンダ流入空気量QAR[0]、QAR[1]を求めるブロックである。ブロック504で求めた吸気効率ηと左右バンクのバルブタイミング(VTCの位相角)から左右バンクの吸気効率η[0]、η[1]を求め、ブロック505で求めたQARで、左右バンク別のQAR[0]、QAR[1]を求める。
【0028】
数1は、図5のタービン−スロットル間圧力PMTRTHを求める理論式を示している。数1の(1)は、連続域での理論式を示しており、タービン−スロットル間への微小時間での空気の流入/流出がタービン−スロットル間の圧力勾配となることを示している。数1の(2)は、数1の(1)の数を離散化したものであり、数1の(2)を実行することで、タービン−スロットル間圧力PMTRTHを求めている。また、数2は、図5のスロットル通過空気量QAMTHを求める理論式を示している。
【0029】
数3は、図5の吸気管圧力PMMHGを求める理論式を示している。前述の数1と同様に数3の(1)は連続域での理論式を示しており、吸気管への微小時間での空気の流入/流出が吸気管内の圧力勾配となることを示している。数3の(2)は、数3の(1)を離散化したものであり、数3の(2)を実行することで、吸気管圧力PMMHGを求めている。また、数4は、図5のシリンダ流入空気量QARを求める理論式を示している。数(4)によると、シリンダ流入空気量を求めるには空気効率ηが関係することを示している。
【0030】
図6は本実施形態の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測装置を備えた燃料制御装置におけるスロットル通過空気量を求める構成例である。この構成例では、前述の数2に対して、スロットル前後の圧力比より標準流量をテーブル検索して求め、且つこの圧力比の大きさに応じてスロットル通過空気量の正逆流を考慮する構成となっている。ブロック601では、圧力比1(吸気管圧力/タービン−スロットル間圧力)を演算する。ブロック602では、圧力比2(タービン−スロットル間圧力/吸気管圧力)を演算する。比較器603で吸気管圧力とタービン−スロットル間圧力を比較し、タービン−スロットル間圧力が大きい場合は、圧力比1を選択し、且つスイッチ605で正逆流係数を1.0とする。比較器603で吸気管圧力が大きい場合は、圧力比2を選択し、且つスイッチ605で正逆流係数を−1.0とする。
【0031】
ブロック606では上述した選択された圧力比で標準流量をテーブル検索する。ブロック607で吸気温THAから吸気温補正値をテーブル検索する。乗算器608,609,及び610で上記の標準流量に、開口面積AA、上記の吸気温補正値、及び正逆流係数を乗じて、スロットル通過空気量ベース値とする。ブロック611でスロットル通過空気量ベース値に加重平均処理を施し、スロットル通過空気量QAMTHとする。尚、本実施形態では、標準流量を求めるのに、圧力比に対するテーブルで求めているが、圧力比及び正逆流係数をスロットル前後圧により、図6に示す実施形態のように切り替えて、数2を用いて理論式で求めてもよい。
【0032】
図7(a)は前述の図6の加重平均ブロック611の一例である。ブロック701では図6で選択された圧力比で加重平均重みをテーブル検索する。本実施形態では、加重平均重みは、圧力比が小さくなる程(分母、分子の圧力が近くなる程)小さくなるように設定している。検索された加重平均重みは、乗算器でスロットル通過空気量ベース値に乗じられる。加算器703では、1.0−加重平均重みを計算し、前回計算されたスロットル通過空気量QAMTHに乗じる。前記2つの乗算値を加算器705で加算し、今回のスロットル通過空気量QAMTHを算出する。
【0033】
図7(b)は前述の図7(a)の加重平均ブロック611の他の例である。前述の図7(a)の場合と異なるのは、加重平均の重みを圧力比で検索していたのを、タービン−スロットル間圧PMTRTHと吸気管圧力PMMHGとの差分の絶対値で検索するようにしたものである。
【0034】
図8は本実施形態の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測装置を備えた燃料制御装置のシリンダ流入空気量算出を算出する過程を説明する各種パラメータの波形を示す図である。図8に示す波形例の前提は、エンジン高負荷側でタービン−スロットル間圧力PMTRTH≒吸気管圧力PMMHG、且つスロットル前後の逆流を考慮せず(逆流無し)、且つスロットル通過空気量の加重平均処理を行っていないものである。ここで、一点鎖線の左側はスロットルバルブが開いたとき、右側はスロットルバルブが閉じたときを表す。
【0035】
ライン801はタービン−スロットル間圧力PMTRTH、ライン802は吸気管圧力PMMHGを示す。図示例の場合は、前述したがスロットル前後の逆流を考慮していないため、PMMHG≧PMTRTHとなった場合にエリア803で示すように、PMMHG≧PMTRTHの状態が顕著となる。ライン804はスロットル通過空気量QAMTHを示している。逆流が考慮されていないため、エリア805で示すように、PMMHG≧PMTRTHとなった場合にスロットル通過空気量QAMTHが0となり、エンジン回転に従い、PMMHGが低下しPMMHG<PMTRTHとなった瞬間からQAMTHが急激に流れるようになっている。
【0036】
ライン807はH/Wセンサ計測値QA00を示しており、ライン806はシリンダ流入空気量QARを示している。逆流が考慮されていないため、特に吸気効率誤差等により、エリア808の定常区間ではQA00>QARとなり、結果的にはエンジンの空燃比に影響することとなる。
【0037】
図9は、図8に対してスロットル前後の逆流を考慮した場合の一例である。ライン901はタービン−スロットル間圧力PMTRTH、ライン902は吸気管圧力PMMHGを示す。図示例の場合は、スロットル前後の逆流を考慮しているため、PMMHG≧PMTRTHとなった場合にエリア903で示すように、PMMHG≧PMTRTHの状態が顕著ならない。ライン904はスロットル通過空気量QAMTHを示している。逆流が考慮されているため、エリア905で示すように、PMMHG≧PMTRTHとなった場合にスロットル通過空気量QAMTHが負となり、PMMHG≒PMTRTHの近傍では、QAMTHが正負を繰り返すようになっている。
【0038】
ライン907はH/Wセンサ計測値QA00を示しており、ライン906はシリンダ流入空気量QARを示している。エリア908の定常区間でのQA00とQARの定常誤差はないが、スロットル通過空気量QAMTHの正負の繰り返し幅が大きいため、QARの振幅が大きくなり、結果的にはドライバビリティに影響することとなる。
【0039】
図10は、図9に対してスロットル前後の正逆流に加重平均処理を施した場合の一例である。ライン1001はタービン−スロットル間圧力PMTRTH、ライン1002は吸気管圧力PMMHGを示す。図示例の場合は、スロットル前後の正逆流に対して加重平均処理を施しているため、PMMHG≒PMTRTHの近傍においてPMMHG、PMTRTHともに比較的安定している。ライン1004はスロットル通過空気量QAMTHを示している。正逆流に加重平均処理が施されているため、エリア1005で示すように、正逆流の幅が比較的小さい。ライン1007はH/Wセンサ計測値QA00を示しており、ライン1006はシリンダ流入空気量QARを示している。エリア1008の定常区間でのQA00とQARの定常誤差もなく、スロットル通過空気量QAMTHの正負の繰り返し幅が比較的小さく、QARの振幅は殆ど無く、ドライバビリティを向上させることができる。
【0040】
図11は本実施形態の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測装置を備えた燃料制御装置の制御の詳細なフローチャートの一例である。ステップ1101でクランク角度センサの電気的信号を処理し、エンジン回転数Neを計算する。ステップ1102でH/WセンサQA00、吸気温センサTHA、及びスロットルセンサTVOの出力を読み込む。ステップ1103で今回の演算がエンジンKEY ON後初回の演算であるか否かを判断する。初回の演算であると判断された場合は、ステップ1104でタービン−スロットル間圧力と吸気管圧力の推定値を初期化する。初期化は主に大気圧とするが、大気圧センサ等を具備している場合は、その出力値を用いてもよい。
【0041】
ステップ1105で、タービン−スロットル間圧力PMTRTHを計算する。ステップ1106でスロットルセンサTVOの出力からスロットル開口面積AAを計算する。ステップ1107でスロットル通過空気量QAMTHを計算する。ステップ1108で吸気管圧力PMMHGを計算する。ステップ1109でシリンダ流入空気量QARを計算する。ステップ1110で基本燃料量及びエンジン負荷を計算する。ステップ1111で基本燃料補正係数をマップ検索する。ステップ1112でスロットルセンサ出力で加減速判定を行い、ステップ1113で加減速時燃料補正量を計算する。ステップ1114で酸素濃度センサの出力を読み込む。
【0042】
ステップ1115で目標空燃比を設定する。ステップ1116で目標空燃比が実現できるよう空燃比帰還制御係数を計算する。ステップ1117で基本燃料補正係数、及び空燃比帰還制御係数等を基本燃料量に補正する。ステップ1118で基本点火時期をマップ検索する。ステップ1119で加減速点火時期補正量を計算し、ステップ1120で基本点火時期を補正する。ステップ1121でISCの目標回転数を設定し、ステップ1122でISC目標流量を計算し、ISCバルブを制御する。
【0043】
図12は、本実施形態の特徴の1つを表す図5のシリンダ流入空気量を求めるブロック図に対するフローチャートの一例である。ステップ1201でH/Wセンサ出力QA00、吸気温センサ出力THA、前回計算されたスロットル通過空気量QAMTH、及び前回計算されたタービン−スロットル間圧力PMTRTHを読み込む。ステップ1202で今回のタービン−スロットル間圧力PMTRTHを計算する。ステップ1203でスロットル開口面積AAを読み込む。ステップ1204で上述したAA、THA、PMTRTH、及び前回計算された吸気管圧力PMMHGでスロットル通過空気量QAMTHを計算する。
【0044】
ステップ1205で上述したTHA、QAMTH、前回計算されたシリンダ流入空気量QAR、及び前回計算されたPMMHGで今回のPMMHGを計算する。ステップ1206でエンジン回転数Ne及び吸気管圧力PMMHGで吸気効率ηを検索する。ステップ1207でエンジン回転数Ne、吸気温THA、吸気管圧力PMMHG、及び吸気効率ηでシリンダ流入空気量QARを計算する。ステップ1208で左右の可変バルブタイミング(左右のVTCの位相角)により左右バンクの吸気効率η[0]、η[1]で左右バンクのシリンダ流入空気量QAR[0]、QAR[1]を計算する。
【0045】
図13は図6のスロットル通過空気量を求めるブロック図に対するフローチャートの一例である。ステップ1301で吸気管圧力PMMHG、タービン−スロットル間圧力PMTRTHを読み込む。ステップ1302で圧力比1としてPMMHG/PMTRTHを計算する。ステップ1303で圧力比2としてPMTRTH/PMMHGを計算する。ステップ1304でPMTRTHとPMMHGを比較し、PMTRTHが大きい場合は、ステップ1305で圧力比1をpmratに選択し、ステップ1306で正逆流係数を1.0に選択する。PMMHGが大きい場合は、ステップ1307で圧力比2をpmratに選択し、ステップ1308で正逆流係数を−1.0に選択する。
【0046】
ステップ1309で前述の選択された圧力比pmratで標準流量qanormをテーブル検索する。ステップ1310で吸気温THAにより吸気温補正係数を検索する。ステップ1311で標準流量qanormにAA、吸気温補正係数、及正逆流係数を乗じて、スロットル通過空気量ベース値qamthbを計算する。ステップ1312でスロットル通過空気量ベース値qamthbに加重平均処理を施し、スロットル通過空気量QAMTHを計算する。
【0047】
図14は、図7の加重平均ブロック図に対するフローチャートの一例である。ステップ1401で選択された圧力比pmratを読み込む。ステップ1402で圧力比pmratで加重平均重みを検索する。ステップ1403で加重平均重みをスロットル通過空気量ベース値qamthbに乗じる。ステップ1404で1.0−加重平均重みを前回計算されたスロットル通過空気量QAMTHに乗算する。ステップ1405でこの乗算値を加算し、今回のスロットル通過空気量QAMTHを計算する。
【0048】
以上説明したように、本発明の実施形態の概要は、下記の課題を解決するために採用され、次のような構成を備えることを特徴とするものである。すなわち、V型エンジンのような左右独立したバンク(気筒群)で、任意のタイミングでバルブタイミングを設定できる機構を有するエンジンでは、左右のバルブタイミング位相が必ずしも一致しないため、左右バンクで吸気効率が違ってくる。この状況下では定常時であっても、H/Wセンサ等で計測されたエンジンの吸入空気量と、推定した吸気管圧力を元に計算されたシリンダ流入空気量と、に定常誤差が発生し、所望の空燃比にすることができないという課題が生じていた。そこで、本実施形態では、左右バンク(気筒群)に可変バルブタイミング機構を備えた内燃機関において、可変バルブタイミングに応じて左右バンク別に吸気効率を演算し、その値に基づいて左右バンク別にシリンダに流入する空気量を計算して求めるものである。
【0049】
そして、本実施形態の具体的な構成は、エンジンに設けられた吸気バルブおよび排気バルブの少なくとも一方のバルブの開閉タイミングを変更する変更機構が気筒群(バンク)毎に設けられた可変バルブタイミング装置であって、
エンジンの吸入する空気量を得る手段と、エンジンの回転数を得る手段と、エンジンのスロットルバルブの上流側の圧力を推定する手段と、エンジンのスロットルバルブの下流側の圧力を推定する手段と、前記スロットルバルブの開口面積を得る手段と、前記上流側の圧力と前記下流側の圧力と前記スロットルバルブの開口面積よりスロットルバルブを通過する空気量を得る手段と、前記スロットルバルブの下流側の圧力と前記エンジンの回転数に基づいてエンジンのシリンダに流入する空気量を得る手段と、前記可変バルブタイミングを検出する手段と、前記検出された左右バンクのバルブタイミングから左右バンク毎の吸気効率を得る手段と、前記得られた左右バンク毎の吸気効率から左右バンク毎のシリンダに流入する空気量を得る手段と、を備えることを特徴とするものである。
【符号の説明】
【0050】
103 シリンダ流入空気量計算手段
200 エンジン
201 H/Wセンサ
202 タービン
203 スロットル絞り弁
205 吸気管
206 吸気温センサ
207 燃料噴射弁
208 クランク角度センサ
213 燃料制御装置
214 カム角度センサ
401 H/Wセンサ
402 吸入空気量QA00
403 タービン
404 タービン−スロットル間圧力PMTRTH
405 スロットル絞り弁
406 スロットル通過空気量QAMTH
407 吸気管圧力PMMHG
408 シリンダ流入空気量QAR
601,602 圧力比
606 標準流量テーブル
611 加重平均処理ブロック
AA スロットル開口面積
THA 吸気温
Ne エンジン回転数
IN CAREA バルブタイミング(VTCの位相角)

【数1】

【数2】

【数3】

【数4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに設けられた吸気バルブ及び/又は排気バブルのバルブ開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング機構を左右の気筒群毎に備えたエンジンの燃料制御装置であって、
エンジンの吸入する空気量を計測する吸入空気量計測手段と、エンジンの回転数を検知する回転数演算手段と、エンジンのスロットルバルブの上流側の圧力を推定する手段と、エンジンの前記スロットルバルブの下流側の圧力を推定する手段と、前記スロットルバルブの開口面積を取得する手段と、吸気管を通過する吸気温度を計測する手段と、前記可変バルブタイミング機構のバルブタイミングを検出する手段と、を備え、
前記上流側の推定圧力、前記下流側の推定圧力、及び前記スロットルバルブの開口面積、に基づいて前記スロットルバルブを通過する空気量を演算する手段と、
前記スロットルバルブの下流側の推定圧力、前記エンジンの回転数、前記吸気温度、及び前記下流側推定圧力と前記エンジン回転数とからマップ検索して求めた吸気効率、に基づいて、エンジンのシリンダに流入するシリンダ流入空気量を取得する手段と、
前記左右の気筒群毎に設けられた可変バルブタイミング機構で検出された前記左右のバルブタイミングにおいて前記マップ検索して求めた前記左右の気筒群毎の吸気効率と、前記取得したシリンダ流入空気量と、を基にして、前記左右の気筒群毎のシリンダに流入するシリンダ流入空気量を得る手段と、を有する
ことを特徴とするエンジンの燃料制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記吸気効率は、少なくとも2つの異なるバルブタイミングに対応した、前記下流側推定圧力と前記エンジン回転数とをパラメータとする複数のマップに基づいて、任意のバルブタイミングに対応した吸気効率として求める
ことを特徴とするエンジンの燃料制御装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記左右の気筒群毎の吸気効率は、前記左右の気筒群毎に設けられた前記可変バルブタイミング機構におけるそれぞれのバルブタイミングを検出し、前記検出された左右のバルブタイミングと、前記下流側推定圧力と前記エンジン回転数とをパラメータとするマップと、に基づいて、算出する
ことを特徴とするエンジンの燃料制御装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記スロットルバルブの下流側の推定圧力は、前記スロットルバルブを通過する空気量と前記スロットルバルブの開口面積に基づいて求める
ことを特徴とするエンジンの燃料制御装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記スロットルバルブを通過する空気量は、前記スロットルバルブの上流側の推定圧力と下流側の推定圧力の比を基にして標準流量をテーブル検索して求め、前記求めた標準流量に前記スロットルバルブの開口面積を乗じて算出したスロットルバルブ通過空気量ベース値を求め、前記スロットルバルブ通過空気量ベース値に前記推定圧力の比を基にして加重平均処理を施して算出される
ことを特徴とするエンジンの燃料制御装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記左右の気筒群毎のシリンダに流入するシリンダ流入空気量を基にして前記左右気筒群毎の基本燃料噴射量を算出する手段と、
前記基本燃料噴射量を、エンジン回転数とエンジン負荷をパラメータとする補正マップによって前記左右気筒群毎に補正する手段と、を有する
ことを特徴とするエンジンの燃料制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−248949(P2010−248949A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97166(P2009−97166)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】