説明

エンジンの振動低減装置

【課題】加速性能の向上及び燃費の向上が図れるエンジンの振動低減装置を提供する。
【解決手段】エンジン1のクランク軸3に接続され該クランク軸3とは逆回転すれるスタータジェネレータ4の慣性モーメントによりローリング振動を低減するエンジン1の振動低減装置において、前記クランク軸3と前記スタータジェネレータ4との間に介設され、動力を断接するためのクラッチ12と、前記エンジン1の加速時に前記クラッチ12を断にし、その後エンジンの加速が終了して定速度運転になった時に前記クラッチ12を接にする制御装置13とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの振動低減装置に係り、特にトルク変動によるローリング振動を低減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気筒数の少ない例えば3気筒以下のレシプロエンジンでは、トルク変動によるローリング振動が問題となる。そこで、この問題を解決するために、エンジンのクランク軸の回転方向とは逆の方向に回転する慣性系を設け、この慣性系に生じるトルク反力によりクランク軸回りに生じるトルク反力を打ち消し、エンジンのローリング振動を低減することが行われている。
【0003】
前記慣性系は、いわゆるヘロン・バランサである。前記慣性系としては、スタータジェネレータを利用したもの、新たな重りを追加したもの、一次バランサに重りを追加したものが考えられている。また、これらを備えた往復ピストン式エンジンも知られている(特許文献1参照)。
【0004】
図2は、へロン・バランサの原理を示している。
【0005】
このヘロン・バランサにおいて、トルク反力Trは、
Tr=T(θ)×(I1+Σgii)/(I1+Σgi2i
となることが知られている。ここで、θはクランク角、T(θ)はクランクトルク、Trはトルク反力、I1はクランク軸回りの慣性モーメント、Iiはi番目の回転体の慣性モーメント、giはi番目の回転体のギア比である。図2中、Eはエンジン、Hはヘロン・バランサ、r1はクランク軸の半径、riはヘロン・バランサの半径である。
【0006】
このとき、分母の(I1+Σgi2i)が、エンジンの有効慣性モーメントであり、回転の向きに関係なく全て正の値である。上記式から、トルク反力Trは、(I1+Σgii)が最小となるように、エンジンとは逆回転の増速された回転体(いわゆるヘロン・バランサ)を設けることで最小とすることができる。
【0007】
クランク回りの慣性モーメントI1は、クラッチディスクのサイズから外径が決まってしまうフライホイール、プレッシャプレートの慣性モーメントが支配的であり、大きく低減することは難しい。従って、エンジンのトルク反力、すなわちローリング振動を抑えようとすると、結果的にエンジンの有効慣性モーメントが増加し、加速性能の悪化や燃費の悪化を生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2004−533575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記事情を考慮してなされたものであり、加速性能の向上及び燃費の向上を図ることができるエンジンの振動低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、エンジンのクランク軸に接続され該クランク軸とは逆回転するスタータジェネレータの慣性モーメントによりローリング振動を低減するエンジンの振動低減装置において、前記クランク軸と前記スタータジェネレータとの間に介設され、動力を断接するためのクラッチと、前記エンジンの加速時に前記クラッチを断にし、その後エンジンの加速が終了して定速度運転になった時に前記クラッチを接にする制御装置とを備えたことを特徴とする。
【0011】
前記スタータジェネレータの回転数を検出する回転センサを更に備え、前記制御装置が、前記クラッチを断にした後、前記エンジンの加速が終了して定速度運転になった時に前記スタータジェネレータをインバータ制御によりエンジン回転数と同期させてから前記クラッチを接にするように構成されていることが好ましい。
【0012】
前記クランク軸には駆動歯車が設けられ、前記スタータジェネレータの回転軸には前記駆動歯車と噛合する従動歯車が軸受を介して回転自在に設けられ、該従動歯車と前記スタータジェネレータの回転軸との間に前記クラッチが介設されていることが好ましい。
【0013】
前記クラッチが、電磁クラッチであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加速性能の向上及び燃費の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの振動低減装置を概略的に示す図である。
【図2】ヘロン・バランサの原理を示す図である。
【図3】本実施形態の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0017】
図1において、1は例えば自動車のエンジンであり、気筒数の少ない例えば3気筒以下のレシプロエンジンである。このエンジン1は、ピストンロッドを接続する複数のクランク部2を有するクランク軸3を備えており、このクランク軸3にスタータジェネレータ4が接続されている。
【0018】
このスタータジェネレータ4は、ハウジング5内に回転自在に設けられた回転軸6と、この回転軸6に設けられたロータ7と、このロータ7を囲繞するようにハウジング5内に設けられたステータ8とを備えている。スタータジェネレータ4は、電動機の機能と発電機の機能を有し、エンジン1の始動時には電動機として機能し、エンジン1の始動後は発電機として機能する。
【0019】
そして、前記スタータジェネレータ4を、クランク軸回りに生じるトルク反力を打ち消してエンジン1のローリング振動を低減するヘロン・バランサないし振動低減装置として用いるために、前記クランク軸2の一端にはクランク軸2の回転方向とは逆の回転方向にクランク軸2の回転数よりも速い回転数で回転を伝えるための増速歯車機構9を介してスタータジェネレータ4が接続されている。
【0020】
前記増速歯車機構9は、クランク軸3の一端に設けられた駆動歯車(第1歯車)10と、スタータジェネレータ4の回転軸6の一端に設けられ、前記駆動歯車10と噛合する従動歯車(第2歯車)11とからなっている。また、前記増速歯車機構9は、スタータジェネレータ4がエンジン1のローリング振動を低減する有効な慣性モーメントを発揮するように適切なギア比に設定されている。
【0021】
ところで、スタータジェネレータ4は常時エンジンに接続されているため、特にエンジン1の加速時にはスタータジェネレータ4が大きな負荷になり、エンジン1の加速性能や燃費を悪化させてしまう。加速時にジェネレータの発電を停止して燃費を向上させることは知られているが、大型化することで慣性モーメントの影響も無視できない。そこで、スタータジェネレータ4を備えたエンジン1の加速性能の向上及び燃費の向上を図るために、前記エンジン1は、前記クランク軸3と前記スタータジェネレータ4との間に介設されて動力を断接するためのクラッチ12と、前記エンジン1の加速時に前記クラッチ12を断にし、前記エンジン1の加速が終了して定速度運転になった時に前記クラッチ12を接にするための制御装置13とを備えている。
【0022】
この場合、スタータジェネレータ4の回転軸6には前記従動歯車11が軸受(例えばボールベアリング)14を介して回転自在に設けられ、該従動歯車11と前記スタータジェネレータ4の回転軸6との間に前記クラッチ12が介設されていることが好ましい。また、前記回転軸6には回転板15が一体的に設けられ、この回転板15と前記従動歯車11との間にクラッチ12が設けられていることが好ましい。
【0023】
また、前記クラッチ12としては、例えば機械式や流体式のクラッチであってもよいが、滑り機構を備えた電磁クラッチであることが好ましい。エンジン1にはエンジン回転数を検出するためのエンジン用回転センサ16が設けられ、スタータジェネレータ4にはその回転軸6の回転数を検出するための回転センサ(スタータジェネレータ用回転センサ)17が設けられている。
【0024】
前記制御装置13は、エンジン用回転センサ16及びスタータジェネレータ用回転センサ17からの検出信号に基いて、前記クラッチ12を断にし、その後エンジン1の加速が終了して定速度運転になった時に前記スタータジェネレータ4をインバータ制御によりエンジン回転数と同期させてから前記クラッチ12を接にするように構成されている。具体的には、スタータジェネレータ4の回転軸6の回転数と、クランク軸3により駆動歯車10を介して駆動される従動歯車11の回転数とが同じになった時にクラッチ12を接にするようになっている。これによりクラッチ12の接続時に駆動歯車10から従動歯車11に加わる衝撃や衝撃音(打音)の発生及び衝撃によるこれら駆動歯車10や従動歯車11の損傷を防止することができ、増速歯車機構9、クラッチ12及びスタータジェネレータ4を含む振動低減装置の耐久性の向上が図れるようになっている。
【0025】
特に、加速性能が要求される低いギア位置からのエンジン1の加速時に、クラッチ12を切断し、その後、高速のギア位置になり、ある程度の定速度運転となった時に、スタータジェネレータ4を電動機として機能させた状態でインバータ制御によりスタータジェネレータ4の回転数をエンジン回転数と同期させてからクラッチ12を接続し、その接続後はスタータジェネレータ4を発電機として機能させる。
【0026】
前記制御装置13には、エンジン1が加速時であることを知る情報として、エンジン回転数だけでなく、車速aやアクセル開度bも入力されることが好ましい。また、エンジン1の加速時であっても、クラッチ12を断にすることが好ましくない場合の情報として、エンジン水温cや消費電流dなどの情報も入力されることが好ましい。エンジン水温cが低い場合(エンジンが暖機されていない場合)や、消費電流dが多い場合(ライトスイッチがオンされている場合)には、エンジン1の加速時であってもクラッチ12を断にしないように設定されていることが好ましい。
【0027】
以上の構成からなるエンジン1の振動低減装置によれば、前記クランク軸3と前記スタータジェネレータ4との間に介設され、動力を断接するためのクラッチ12と、前記エンジン1の加速時に前記クラッチ12を断にし、その後エンジン1の加速が終了して定速度運転になった時に前記クラッチ15を接にする制御装置13とを備えているため、エンジン1の加速時に前記クラッチ12を断にすることにより、エンジン加速時の有効慣性モーメントの増加を抑制でき、エンジンの加速性能の向上が図れると共に燃費の向上が図れる。
【0028】
図3に示すように一般的な加速では、低いギア位置から高回転までエンジン1を回転させ、ギア位置を順次上げて行き、目標速度に到達する時の回転数は、大きくは変わらないため、スタータジェネレータ4をエンジン1の回転数まで上げる際に余分な回転エネルギを消費させることがなく、燃費の向上が図れる。
【0029】
また、前記スタータジェネレータ4の回転数を検出する回転センサ17を更に備え、前記制御装置13が、前記クラッチ12を断にした後、前記エンジン1の加速が終了して定速度運転になった時に前記スタータジェネレータ4をインバータ制御によりエンジン回転数と同期させてから前記クラッチ12を接にするように構成されているため、再接続時における衝撃や衝撃音(打音)、駆動歯車10や従動歯車11の損傷等の発生を防止することができる。
【0030】
前記クランク軸3には駆動歯車10が設けられ、前記スタータジェネレータ4の回転軸6には前記駆動歯車10に噛合する従動歯車11が軸受14を介して回転自在に設けられ、該従動歯車11と前記スタータジェネレータ4の回転軸6との間に前記クラッチ12が介設されているため、簡単な構成でクランク軸3とスタータジェネレータ4との間の断接を容易に行うことができ、構造の簡素化及びコストの低減が図れる。
【0031】
また、前記クラッチ12が、電磁クラッチであるため、機械式や流体式のクラッチと比べて滑りが少なく、断接を確実に行うことができる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 エンジン
3 クランク軸
4 スタータジェネレータ
6 回転軸
10 駆動歯車
11 従動歯車
12 クラッチ
13 制御装置
14 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランク軸に接続され該クランク軸とは逆回転するスタータジェネレータの慣性モーメントによりローリング振動を低減するエンジンの振動低減装置において、前記クランク軸と前記スタータジェネレータとの間に介設され、動力を断接するためのクラッチと、前記エンジンの加速時に前記クラッチを断にし、その後エンジンの加速が終了して定速度運転になった時に前記クラッチを接にする制御装置とを備えたことを特徴とするエンジンの振動低減装置。
【請求項2】
前記スタータジェネレータの回転数を検出する回転センサを更に備え、前記制御装置が、前記クラッチを断にした後、前記エンジンの加速が終了して定速度運転になった時に前記スタータジェネレータをインバータ制御によりエンジン回転数と同期させてから前記クラッチを接にするように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの振動低減装置。
【請求項3】
前記クランク軸には駆動歯車が設けられ、前記スタータジェネレータの回転軸には前記駆動歯車に噛合する従動歯車が軸受を介して回転自在に設けられ、該従動歯車と前記スタータジェネレータの回転軸との間に前記クラッチが介設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの振動低減装置。
【請求項4】
前記クラッチが、電磁クラッチであることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のエンジンの振動低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−122566(P2011−122566A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283132(P2009−283132)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】