説明

エンジン出力制御装置

【課題】アクセル開度を一定にした発進時に、最ローからの変速開始で駆動力が低下して、加速の伸びが悪化するのを防止する。
【解決手段】車速VSPがアクセル開度APOごとに異なる最ローからの変速を開始すべき変速開始車速VSP1未満である間、目標スロットル開度tTVOを低車速用マップに対応した基準開度に決定し、その後は車速VSPの上昇につれて目標スロットル開度tTVOを高車速用マップに対応したアクセル開度APOごとの開度へと漸増させる。これにより、最ロー変速比からの変速が開始される車速VSP1になったのに調時して目標スロットル開度tTVOの上昇によるエンジン出力トルクの増大が行われることとなり、変速開始後に加速性能が悪化するのを防止し得るし、この作用効果を変速開始車速VSP1での駆動力変化を伴うことなく実現し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機と組み合わせて用いるエンジンの出力を、特に車両の発進加速時において好適に制御するためのエンジン出力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンおよび無段変速機の組み合わせになるパワートレーンを搭載した車両などでは、動力性能の向上と、燃費や運転性の向上との、トレードオフの関係にある要求を共に満足させる必要があり、
このため、エンジンについてはアクセルペダル操作に対するエンジン出力決定手段の動作量を任意に変更可能とし、
無段変速機については、アクセルペダル操作と車速との組み合わせに応じた目標変速比となるよう変速制御することが、
上記の要求を高次元で両立させる手段として大いに有用であると考えられている。
【0003】
先ず後者の無段変速制御について詳述するに、この制御に際しては一般的に図12に示すごとく、アクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)をパラメータとし、車速VSPおよび目標入力回転数tNiの二次元マップとして予め求めておいた変速マップを基に、アクセル開度APOおよび車速VSPから目標入力回転数tNiを求め、変速機入力回転数がこの目標入力回転数tNiとなるよう、若しくは、車速VSPから求めた変速機出力回転数換算値Noで上記の目標入力回転数tNiを除算して得られる目標変速比imに実変速比iが一致するよう無段変速機を変速制御する。
【0004】
前者のエンジン出力制御に際しては一般的に図13に示すごとく、アクセル開度APOに対するスロットルバルブ(エンジン出力決定手段)の目標動作量(目標スロットル開度tTVO)の予定マップを基に、アクセル開度APOから目標スロットル開度tTVOを検索し、これをエンジンに指令する。
これによりエンジンは、実スロットル開度TVOを目標スロットル開度tTVOに一致され、これと、エンジン回転数Neと、図示のエンジン出力特性とで決まるエンジン出力トルクTeを発生する。
【0005】
そして、上記のように制御されるエンジンおよび無段変速機の組み合わせになるパワートレーンによる車両の駆動力は、エンジン出力トルクTeと、変速比i(=目標変速比im)との乗算値に比例する。
ところで、上記のように車両の駆動力を決定するエンジン出力トルクTeおよび変速比i(=目標変速比im)のうち、図13のごとくエンジン出力トルクTeに関与する速度情報であるエンジン回転数Ne、および、図12のごとく変速比i(=目標変速比im)に関与する速度情報である車速VSPはそれぞれ、何の相関関係もなく、バラバラに車両の駆動力に影響を与えるため、以下に説明するような問題を生ずる。
【0006】
(問題1)
無段変速機には図12に示すように、最ロー(Low)変速比および最ハイ(High)変速比が設定されており、本発明が対象とする車両の発進加速時は勿論、最ロー(Low)変速比に制御される。
そして、発進直後から直ちにこの最ロー(Low)変速比から離れるようアップシフトさせる設定では、変速比幅の制限から高速側で有効な変速比を選択し得なくなることから、発進して暫くの間は最ロー(Low)変速比を保つように設定し、車速VSPが所定の変速開始車速に上昇した時から最ロー(Low)変速比を離れるようアップシフトを開始させるのが普通である。
【0007】
更に、かように変速を開始させるといっても、アクセル開度APOが一定のもとでの発進加速時の動作を示す図14により説明すると、目標入力回転数tNiが有段自動変速機のように変速開始車速VSP1以上で車速VSPの上昇につれ波線図示のごとく上下するのでは、無段変速機搭載車として違和感になることから、目標入力回転数tNiが変速開始車速VSP1以上で車速VSPの上昇によっても実線図示のごとく滑らかなものとなるよう設定する必要がある。
【0008】
ところで、かように目標入力回転数tNiの変動を抑制する設定では、エンジン回転数Neもほぼ一定に保たれることから、図13につき前述した通りこのエンジン回転数Neおよびアクセル開度APOで決まるエンジン出力トルクTeもほぼ一定に保たれる。
【0009】
一方で無段変速機は、変速開始車速VSP1以上で車速VSPの上昇につれ変速比iを実線図示のごとくに低下させるアップシフトを行い、この変速は、上記の通りエンジン出力トルクTeがほぼ一定に保たれていることから、車両の駆動力Fを実線図示のごとく漸減させてしまう。
このため運転者は発進加速時に、変速開始車速VSP1以上で車速VSPの上昇につれ加速性能の悪化、つまり車速の伸びが悪いのを実感することとなり、発進加速について不満を感じさせるという問題1を生ずる。
【0010】
この問題1は、特許文献1に記載の技術によって解決可能である。
この技術は図15に示すように、アクセル開度APOおよび車速VSPから予定のマップを基に車両の目標駆動力tFを求め、アクセル開度APOおよび車速VSPから予定のマップを基に無段変速機の目標入力回転数tNiを求め、これを、車速VSPから判る変速機出力回転数Noで除算することにより目標変速比imを求め、車速VSPから判る変速機入力回転数(トルクコンバータ出力回転数)およびエンジン回転数Ne(トルクコンバータ入力回転数)からトルクコンバータのトルク比を求める。
【0011】
そして、上記の目標駆動力tFを目標変速比imで除算し、更にトルクコンバータのトルク比で除算し、最後にその結果を終減速比およびタイヤ有効半径で処理して目標エンジントルクtTeを決定するものである。
特許文献1に記載の技術は、かように定めた目標エンジントルクtTeが実現されるようエンジンを出力制御することにより目標駆動力tFを達成するが、この目標駆動力tFを上記の通り車速VSPに応じて決定することから、この目標駆動力tFに関する予定のマップに対し前記の問題1、つまり変速開始車速VSP1以上で車速VSPの上昇につれ駆動力が低下するという問題を解消するための変更を施すことで、前記の問題1を解消することができる。
【0012】
なお、その他のエンジン出力制御装置としては従来より、特許文献2に記載のようなものも知られている。
この技術は図17に示すようなもので、目標スロットル開度演算部内に、アクセル開度APOに対するスロットルバルブ(エンジン出力決定手段)の目標動作量(目標スロットル開度tTVO)の予定マップとして複数のマップを具え、目標スロットル開度演算部はマップ切り替えパラメータに応じてこれらマップのうちの1つを選択し、この選択したマップを基に、アクセル開度APOから目標スロットル開度tTVOを検索し、これをエンジンに指令する。
【0013】
これによりエンジンは、実スロットル開度TVOを目標スロットル開度tTVOに一致され、これと、エンジン回転数Neと、図示のエンジン出力特性とで決まるエンジン出力トルクTeを発生する。
【0014】
特許文献2に記載の技術は更に、パラメータの変化に応じて選択マップを切り替えるとき、この切り替えによっても目標スロットル開度tTVOが急変することのないよう、マップ切り替えによる特性の移行を徐々に行わせるというものである。
【特許文献1】特開平09−240322号公報
【特許文献2】特開昭62−326153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし特許文献1に記載の技術によれば、前記した問題1を解消し得るものの、以下に説明する別の問題2,3を生ずる。
【0016】
(問題2)
つまり、問題1を解消するのに図15の目標駆動力tFとして物理的にエンジンで実現不可能な値を設定することになった場合、例えば、図16(a)に実線で示すような目標駆動力tFが指令された結果、目標エンジントルクtTeが一時的に実現可能最大エンジントルクTemaxを超えて、この間エンジントルクが目標エンジントルクtTeに至らず実現可能最大エンジントルクTemaxにとどまることになった場合につき説明するに、実駆動力が波線で示すごとく目標駆動力tFに充たないものとなってその変化率が急変し、ハッチングを付して示す駆動力の一時的な凹みがショックとなる。
また、目標駆動力tFおよび目標変速比imの設定や、制御の成り行きで決まるトルクコンバータのトルク比の状況次第では、アクセル開度APOを一定に保った発進加速であるにもかかわらず、スロットル開度TVOの変動で図16(b)に示すように目標エンジントルクtTeが変動したり、エンジン音の変化を惹起することがあり、運転者が自己のアクセルペダル操作と異なるエンジン出力変動やエンジン音に違和感を覚える。
【0017】
(問題3)
更に、上記の問題2が発生するかどうかの確認を行う実験工数が膨大で、実際上は当該確認が困難であるし、この確認を行うと車両の開発に膨大な時間を要してコスト上不利になる。
【0018】
(問題4)
特許文献2に記載の技術を用いれば、マップ切り替えによる特性の移行を徐々に行わせることで、上記した問題2、つまり、図16(a)に示すように実駆動力が目標駆動力tFに充たないものとなることでその変化率が急変してショックを発生するという問題、および、図16(b)に示すようにスロットル開度TVOの変動で目標エンジントルクtTeが変動するという問題や、これらに伴って発生する上記の問題3を或る程度は解消し得るものの、
変速開始車速VSP1以上での駆動力低下に関する問題を解消すべく、目標スロットル開度tTVOに関するマップを切り替えようにも、変速開始車速VSP1がアクセル開度APOごとに異なるため、当該マップ切り替えを行うべき車速がアクセル開度APOごとに異なって対応することができず、結果として如何なるアクセル開度APOの場合も前記の問題1を解消し得るというものにはならない。
【0019】
以上のことから明らかなように、従来の技術ではいずれの場合も、図14に示すように発進加速時に変速開始車速VSP1以上で駆動力が低下して加速性が悪化するという問題と、図16(a)に示すように実駆動力が目標駆動力tFに充たないものとなることでその変化率が急変してショックを発生するという問題、および、図16(b)に示すように目標エンジントルクtTeが変動するという問題とを、同時に解消することができない。
【0020】
本発明は、まず前者の問題がエンジン出力を車速に応じて制御するようにすれば解消されるとの観点から、スロットルバルブに代表されるエンジン出力決定手段の動作量を従来のようにアクセルペダル操作のみに応じて決定するのではなく、車速に応じても決定するようになし、
また、かように車速に応じてもエンジン出力決定手段の動作量を決定するようにした場合、車速に応じたエンジン出力決定手段の動作量特性の与え方次第で後2者の問題も難なく解消し得るとの観点から、
この着想を具体化して前記諸々の問題を回避し得るようにしたエンジン出力制御装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的のため、本発明によるエンジン出力制御装置は、請求項1に記載のごとくに構成する。
先ず前提となるエンジン出力制御装置を説明するに、これは、
無段変速機と組み合わせたエンジンに用いられ、アクセルペダル操作に応動するエンジン出力決定手段の動作量によりエンジンの出力を決定するようにしたものである。
【0022】
本発明は、かかるエンジン出力制御装置において、
上記エンジン出力決定手段の動作量をアクセルペダル操作のほかに車速に応じても変更するよう構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
かかる本発明のエンジン出力制御装置によれば、
エンジン出力決定手段の動作量をアクセルペダル操作のほかに車速に応じても変更するよう構成したため、
発進加速時に変速開始車速以上で駆動力が低下することのないようにすることができ、かかる駆動力低下で加速性が悪化するという、図14につき前述した問題を解消することができる。
【0024】
また本発明のように、エンジン出力決定手段の動作量を車速に応じても決定するようにした場合、車速に応じたエンジン出力決定手段の動作量特性の与え方次第で、
図16(a)につき前述した問題、つまり、実駆動力が目標駆動力tFに充たないものとなる時の変化率の急変でショックを発生するという問題や、図16(b)につき前述した問題、つまり、目標エンジントルクtTeが変動するという問題も難なく解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例になるエンジン出力制御装置を具えた車両のパワートレーンと、その制御系を示し、このパワートレーンをエンジン1と無段変速機2とで構成する。
エンジン1はガソリンエンジンであるが、その出力決定手段であるスロットルバルブ3を、運転者が操作するアクセルペダル4に機械的に連結させず、これから切り離してスロットルアクチュエータ5によりスロットルバルブ3の開度を電子制御するようになす。
【0026】
スロットルアクチュエータ5は、エンジンコントローラ6がアクセルペダル4の操作に応じ後述のごとくに決定する目標スロットル開度tTVOに応動して動作量を制御され、これによりスロットルバルブ3の開度を当該目標スロットル開度tTVOに一致させ、エンジン1の出力を、基本的にはアクセルペダル4の操作に応じた値となるように制御するが、アクセルペダル操作以外の因子によっても制御可能とする。
【0027】
なおエンジンコントローラ6は、スロットルアクチュエータ5を介した上記スロットル開度制御を行うだけでなく、図示しなかったが、その他エンジン1の運転に際して必要な燃料噴射量制御や、フューエルカット制御や、点火時期制御や、吸排気弁のバルブリフト量制御をも行うものとする。
これら燃料噴射量制御や、フューエルカット制御や、点火時期制御や、吸排気弁のバルブリフト量制御もエンジン出力を決定することから、エンジン出力決定手段は上記のスロットルバルブ3に限られず、これらの制御を司る機器であってもよいことは言うまでもない。
【0028】
無段変速機2は周知のVベルト式無段変速機とし、トルクコンバータ7を介してエンジン1の出力軸に駆動結合されたプライマリプーリ8と、これに整列配置したセカンダリプーリ9と、これら両プーリ間に掛け渡したVベルト10とを具える。
そして、セカンダリプーリ9にファイナルドライブギヤ組11を介してディファレンシャルギヤ装置12を駆動結合し、これらにより図示しない左右駆動輪を回転駆動するものとする。
【0029】
無段変速機2の変速動作は、プライマリプーリ8およびセカンダリプーリ9のそれぞれのV溝を形成するフランジのうち、一方の可動フランジを他方の固定フランジに対して相対的に接近させてV溝幅を狭めたり、逆に離間させてV溝幅を拡げることにより行うようにし、
両可動フランジのストローク位置を、変速制御油圧回路13からのプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecの比により決定する。
【0030】
変速制御油圧回路13は変速アクチュエータとしてのステップモータ14を具え、これを変速機コントローラ15が目標変速比imに対応したステップ位置に駆動させることで、無段変速機2を、実変速比が目標変速比imと一致するように無段変速させるものとする。
【0031】
エンジンコントローラ6および変速機コントローラ15は、個々に前記したエンジン1の制御および無段変速機2の制御を行うほか、入力情報はもとより、演算結果を相互間で通信し合って、エンジン1および自動変速機2を協調制御するものとする。
このためエンジンコントローラ6に、両コントローラ6,15に共通な入力情報として、アクセルペダル4の踏み込み量(アクセル開度)APOを検出するアクセル開度センサ21からの信号と、
無段変速機2の入力回転数Niを検出する入力回転センサ22からの信号と、
エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ23からの信号と、
車速VSPを検出する車速センサ24からの信号と、
スロットル弁3のスロットル開度TVOを検出するスロットル開度センサ25からの信号と、
無段変速機2の出力回転数Noを検出する出力回転センサ26からの信号とを入力する。
【0032】
変速機コントローラ15は、図12および図14につき前述したように目標変速比imを決定し、これによりステップモータ14を目標変速比imに対応したステップ位置に駆動させることで、無段変速機2を、実変速比i=Ni/Noが目標変速比im=tNi/Noと一致するように無段変速させるものとする。
【0033】
エンジンコントローラ6は、本発明の目的を達成するため、図2にブロック線図で示すような処理により目標スロットル開度tTVOを決定する。
低車速用目標スロットル開度演算部31では、アクセル開度APOに対する低車速用目標スロットル開度tTVO(Low)の変化特性マップLowMapを基にアクセル開度APOから、低車速用目標スロットル開度TVO(Low)を求める。
高車速用目標スロットル開度演算部32では、アクセル開度APOに対する高車速用目標スロットル開度tTVO(High)の変化特性マップHighMapを基にアクセル開度APOから、高車速用目標スロットル開度TVO(High)を求める。
【0034】
移行係数演算部33では、上記した低車速用マップLowMapから高車速用マップHighMapへの移行形態を定めるための移行係数Kpを求める。
移行係数演算部33には、車速VSPに対する移行係数Kpの変化特性を定めた予定の移行係数マップを具え、この移行係数Kpの変化特性は、移行係数Kp=0の移行開始車速VSP1よりも低車速でKp=0を保ち、移行係数Kp=1の移行終了車速VSP2よりも高車速でKp=1を保ち、VSP1〜VSP2の車速域で移行係数Kpが車速VSPの上昇につれ0から1に向け漸増するものとする。
【0035】
更に移行係数Kpの変化特性は、アクセル開度APOごとに異ならせ、アクセル開度APOの増大につれ実線で示す特性から一点鎖線で示すように、移行係数Kp=0の移行開始車速VSP1が低下すると共に移行係数Kp=1の移行終了車速VSP2が上昇するように変化するものとする。
【0036】
移行係数演算部33では、上記した移行係数Kpの変化特性マップを基にアクセル開度APOおよび車速VSPから、低車速用マップLowMapから高車速用マップHighMapへの移行係数Kpを検索して求める。
【0037】
高車速用目標スロットル開度TVO(High)は、車速VSPに応じた移行係数Kpをそのまま用いた重み付けを付与されてKp×TVO(High)となり、低車速用目標スロットル開度TVO(Low)は、(1−Kp)による重み付けを付与されて(1−Kp)×TVO(Low)となり、これら重み付けを付与された目標スロットル開度の和値、つまりKp×TVO(High)+(1−Kp)×TVO(Low)を最終的な目標スロットル開度tTVOとする。
【0038】
従って図3にも示したが、車速VSPがアクセル開度APOごとに異なる移行開始車速VSP1未満であれば低車速用マップLowMapに基づき目標スロットル開度tTVOが決定され、車速VSPがアクセル開度APOごとに異なる移行終了車速VSP2以上であれば高車速用マップHighMapに基づき目標スロットル開度tTVOが決定され、車速VSPがVSP1からVSP2に上昇するにつれ、低車速用マップLowMapから高車速用マップHighMapへと補間しながら目標スロットル開度tTVOが漸増するよう決定される。
【0039】
なお低車速用マップLowMapは例えば図2に示すように、目標スロットル開度tTVOがアクセル開度APOに対し線形特性をもって変化するようなものとし、移行開始車速VSP1未満における目標スロットル開度tTVOはこの低車速用特性に対応した基準スロットル開度となる。
よって目標スロットル開度tTVOは、車速VSPがVSP1からVSP2に上昇するにつれ、基準スロットル開度から高車速用マップHighMapに対応した目標スロットル開度へと漸増することとなる。
【0040】
本実施例では、上記のようにして図3に例示するごとくに決定した目標スロットル開度tTVOを図1および図2に示すようにエンジン1に指令する。
これによりエンジン1は、実スロットル開度TVOをスロットルアクチュエータ5(図1参照)により目標スロットル開度tTVOに一致され、これと、エンジン回転数Neと、図2に例示するエンジン出力特性とで決まるエンジン出力トルクTeを発生する。
【0041】
以上の構成になる本実施例のエンジン出力制御装置によれば、エンジン出力決定手段であるスロットルバルブ3の動作量(スロットル開度TVO)をアクセル開度APOのほかに車速VSPの上昇に応じて図3に例示するごとくに増大させる構成としたため、
図14につき前述したごとく発進加速時に変速開始車速VSP1以上で変速比iが低下する無段変速機2のアップシフトにより車両の駆動力Fが低下して加速性能が悪化するという問題を解消することができる。
【0042】
また本実施例のように、スロットル開度TVOをアクセル開度APOだけでなく車速VSPに応じても制御するようにする場合、アクセル開度APOや車速VSPに応じた目標スロットル開度tTVOの変化特性の与え方次第で、つまり、アクセル開度APOの変化や、車速VSPの変化に対する目標スロットル開度tTVOの変化が緩やかになるよう設定することで、
図16(a)につき前述した問題、つまり、実駆動力が目標駆動力tFに充たないものとなる時の変化率の急変でショックを発生するという問題や、図16(b)につき前述した問題、つまり、目標エンジントルクtTeが変動するという問題も難なく解消することができる。
【0043】
図4は本発明の他の実施例を示し、本実施例においては、低車速用マップLowMapから高車速用マップHighMapへの移行開始車速VSP1、つまり、目標スロットル開度tTVOを低車速用マップLowMapに対応した基準スロットル開度から増大させ始める車速VSP1を、アクセル開度APOごとに以下のように決定する。
つまり、変速機コントローラ15が図12および図14につき前述したと同様にして目標入力回転数tNiを決定するときに用いる変速マップ上の最ロー変速比からの変速開始車速VSP1(図14に或るアクセル開度APOの時のものを示したが、図4に示すごとくアクセル開度APOごとに異なる)に、移行開始車速VSP1をアクセル開度APOごとに一致させる。
この要求は、図2における移行係数Kpのマップを目的に符合するよう操作により実現することができる。
【0044】
かかる本実施例の構成によれば、図14につき説明すると、最ロー変速比からの変速が開始される車速VSP1になったのに調時して目標スロットル開度tTVOの上昇によるエンジン出力トルクTeの増大が行われることとなって、
当該変速開始による駆動力低下に調時したエンジン出力トルクTeの増大で、加速性能の悪化に関する問題解決を駆動力の変化を伴うことなく滑らかに実現することができる。
【0045】
上記実施例はいずれも、発進加速時における変速開始後の駆動力不足に関する問題解決を目的とするが、発進直後には図5に波線で示すように、トルクコンバータのスリップによるトルク増大作用で車両加速度Gの唐突感が発生する懸念がある。
この問題は、図6に示すように発進直後に目標スロットル開度tTVOを低車速用特性に対応した基準スロットル開度よりも小さくしておき、これにより車両加速度Gのピークを図5に実線で示すごとく抑制することで解決することができる。
【0046】
この発進直後の小さな目標スロットル開度tTVOは、スロットル開度TVOの連続性を確保するため、車速VSPの上昇につれ基準スロットル開度に向け漸増するように決定する必要がある。
ところで、この際図7に示すように、目標スロットル開度tTVOが基準スロットル開度に到達するときの基準開度到達車速と、図4につき前述したように定めた移行開始車速(変速開始車速)VSP1とを、アクセル開度APOごとに一致させるようにしないと、図8に示すように基準開度到達車速と移行開始車速(変速開始車速)VSP1との間の車速域で目標スロットル開度tTVOが基準スロットル開度に保持される。
【0047】
この場合、図9にt1〜t2として示す当該期間においてエンジン回転数Neが上昇を停止され、エンジン音も同じレベルに維持される。
しかし発進加速時であるにもかかわらず、かようにエンジン回転数やエンジン音の一時的な停滞があると、実際の加速が停滞気味になるだけでなく、感覚的にも加速遅れを感じて、違和感や運転性の悪化を生ずる。
【0048】
図10は、この問題を解決するようにした本発明の更に他の実施例を示し、本実施例においては、エンジンコントローラ6が目標スロットル開度tTVOを低車速用マップLowMapに対応した基準スロットル開度から増大させ始める移行開始車速VSP1を、図4につき前述したと同様に決定する。
【0049】
つまり、変速機コントローラ15が図12および図14につき前述したと同様にして目標入力回転数tNiを決定するときに用いる変速マップ上の最ロー変速比からの変速開始車速に、移行開始車速VSP1をアクセル開度APOごとに一致させる。
そして、この移行開始車速VSP1から車速VSPが上昇するにつれ、アクセル開度APOごとの目標スロットル開度tTVOを基準スロットル開度から高車速用特性に対応した開度へと増大させる。
【0050】
エンジンコントローラ6は更に、図8および図9につき前述した問題を解消するために、そして図7におけると同様に、車速VSPが移行開始車速(変速開始車速)VSP1よりも低いほどアクセル開度APOごとに目標スロットル開度tTVOを基準スロットル開度から徐々に低下させる。
この要求は、低車速用マップLowMapを図2の線形特性から、目標スロットル開度tTVOが線形特性に対応した値よりも小さくなるような非線形特性に変更することで満足させることができる。
【0051】
かかる本実施例の構成によれば、同一アクセル開度での発進加速を示す図10につき説明すると、以下の作用効果が奏し得られる。
図10は、瞬時t1にアクセル開度APOを波線で示すように上昇させ、一定開度に保った状態で車両を発進させる場合の動作タイムチャートである。
変速比iが最ロー変速比から離れ始める変速開始車速になる瞬時t2までの間は、目標スロットル開度tTVOが基準スロットル開度よりも小さくされ、目標スロットル開度tTVOに追従制御される実スロットル開度TVOはエンジン出力トルクTeおよびエンジン回転数Neをそれぞれ波線で示す基準スロットル開度対応のトルクおよび回転数よりも低下させる。
これにより車両加速度Gが、発進直後の波線で示す唐突感を持ったものから、これを緩和された実線図示のごときものへと変化し、滑らかな発進を行わせることができる。
【0052】
変速開始車速に至った瞬時t2以後は、目標スロットル開度tTVOが車速の上昇につれ基準スロットル開度よりも徐々に大きくされ、目標スロットル開度tTVOに追従制御される実スロットル開度TVOはエンジン出力トルクTeおよびエンジン回転数Neをそれぞれ波線で示す基準スロットル開度対応のトルクおよび回転数よりも大きくする。
従って、変速開始瞬時t2以後最ロー変速比からの変速で駆動力が不足するのを、目標スロットル開度tTVOの増大に伴うエンジン出力トルクTeおよびエンジン回転数Neの上昇で補うことができ、図14につき前述した発進加速の悪化に関する問題を解消することができる。
【0053】
また、変速開始車速になる瞬時t2まで基準スロットル開度よりも低下されていた目標スロットル開度tTVOを基準スロットル開度に戻すタイミング、および、目標スロットル開度tTVOを基準スロットル開度から高速用特性に対応した開度へ向け増大させ始めるタイミングを、ともに変速開始瞬時t2に一致させることから、
図8および図9につき前述したように目標スロットル開度tTVOが基準スロットル開度に保持される期間を生ずることがなく、発進加速であるにもかかわらず、エンジン回転数やエンジン音レベルが維持されて、加速が停滞気味になったり、加速遅れを感じさせるという問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施例になるエンジン出力制御装置を具えた車両用パワートレーンを、その制御系と共に示すシステム図である。
【図2】同パワートレーン制御系におけるエンジンコントローラが目標スロットル開度を求める時の処理を示す機能別ブロック線図である。
【図3】図2に示す処理により求めた目標スロットル開度の変化状況を示す説明図である。
【図4】本発明の他の実施例になるエンジン出力制御装置を具えた車両用パワートレーンの制御系におけるエンジンコントローラおよび変速機コントローラを示すブロック線図である。
【図5】図1〜4の実施例によっても発進加速直後に発生する車両減速度の唐突感を示すための車両減速度の変化タイムチャートである。
【図6】図5に示す車両減速度の唐突感を緩和するのに必要な発進加速直後における目標スロットル開度の変化特性図である。
【図7】図6に示す発進加速直後における目標スロットル開度を、図4の実施例により求めた目標スロットル開度と組み合わせるときの好適例を示す、図4と同様なブロック線図である。
【図8】図6に示す発進加速直後における目標スロットル開度を、図4の実施例により求めた目標スロットル開度と組み合わせるとき、図7の例とは異なる好ましくない態様で組み合わせたときの目標スロットル開度の変化特性図である。
【図9】この好ましくない組み合わせを採用した場合による、目標スロットル開度およびエンジン回転数の時系列変化を示すタイムチャートである。
【図10】図7に示す好適な組み合わせを採用して構成した本発明の更に別の実施例になるエンジン出力制御装置を示す、図4および図7と同様なブロック線図である。
【図11】同実施例の動作タイムチャートである。
【図12】無段変速機の一般的な目標入力回転数および目標変速比の求め方を例示するブロック線図である。
【図13】電子制御式スロットルバルブの目標スロットル開度を求める一般的な方法を説明するためのブロック線図である。
【図14】無段変速機および電子制御式スロットルバルブ付きエンジンとの組み合わせになるパワートレーンを搭載した車両を一定アクセル開度で発進させる時の一般的な動作タイムチャートである。
【図15】従来のエンジン出力制御装置を示すブロック線図である。
【図16】図15のエンジン出力制御装置による問題点を示し、 (a)は、目標エンジントルクが実現可能最大エンジントルクを超える場合の動作タイムチャート、 (b)は、目標エンジントルクが変動する場合の動作タイムチャートである。
【図17】目標エンジン出力制御装置の別の従来例を示すブロック線図である。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン
2 無段変速機
3 スロットルバルブ(エンジン出力決定手段)
4 アクセルペダル
5 スロットルアクチュエータ
6 エンジンコントローラ
7 トルクコンバータ
8 プライマリプーリ
9 セカンダリプーリ
10 Vベルト
11 ファイナルドライブギヤ組
12 ディファレンシャルギヤ装置
13 変速制御油圧回路
14 ステップモータ
15 変速機コントローラ
21 アクセル開度センサ
22 入力回転センサ
23 エンジン回転センサ
24 車速センサ
25 スロットル開度センサ
26 出力回転センサ
31 低車速用目標スロットル開度演算部
32 高車速用目標スロットル開度演算部
33 移行係数演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機と組み合わせたエンジンに用いられ、アクセルペダル操作に応動するエンジン出力決定手段の動作量によりエンジンの出力を決定するようにしたエンジン出力制御装置において、
前記エンジン出力決定手段の動作量を前記アクセルペダル操作のほかに車速に応じても変更するよう構成したことを特徴とするエンジン出力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン出力制御装置において、
前記エンジン出力決定手段がエンジンのスロットルバルブであることを特徴とするエンジン出力制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジン出力制御装置において、
前記アクセルペダル操作に対するエンジン出力決定手段の動作量特性を車速に応じ変化させることにより、エンジン出力決定手段の動作量を前記アクセルペダル操作のほかに車速に応じても変更するよう構成したことを特徴とするエンジン出力制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジン出力制御装置において、
前記アクセルペダル操作に対するエンジン出力決定手段の動作量特性を、設定車速以上でエンジン出力決定手段の動作量が低車速用特性に対応した基準動作量よりも、車速の上昇につれて徐々に大きくなるような特性としたことを特徴とするエンジン出力制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエンジン出力制御装置において、
前記設定車速を、発進加速時に前記無段変速機が変速を開始する変速開始車速に一致するよう定めたことを特徴とするエンジン出力制御装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載のエンジン出力制御装置において、
前記アクセルペダル操作に対するエンジン出力決定手段の動作量特性を、前記設定車速未満で車速の低下につれエンジン出力決定手段の動作量が低車速用特性に対応した基準動作量よりも小さくなるような特性としたことを特徴とするエンジン出力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−23936(P2007−23936A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208791(P2005−208791)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】