説明

オーディオ装置

【課題】効果的な方向感制御を行いつつ、該方向感制御で使用されるスピーカと同一のスピーカで空間制御をも共存させること。
【解決手段】AVNシステム1は、音声出力を聴取させる対象となる聴取者に相対して前方および後方に補助スピーカを配設し、補助スピーカから出力される音像を所定位置に定位させる「音像定位制御」およびメインスピーカから出力される直接音に補助スピーカから出力される効果音を付加する「効果音付加制御」を両立して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスピーカから出力される所望の出力音声に対して音声出力制御を行うオーディオ装置に関し、特に、効果的な方向感制御(音像定位制御)を行いつつ、該方向感制御で使用されるスピーカと同一のスピーカで空間制御(効果音付加制御)をも共存させることができるオーディオ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自車両の予定経路を登録し、音声によって経路誘導を行うナビゲーション装置が知られている。このナビゲーション装置は、自車両が右左折する交差点を予定経路と地図情報、現在位置をもとに特定し、事前に運転者に通知することで設定した経路通りに自車両を走行させるものである。
【0003】
この時、運転者への通知には、画面表示と音声出力とが併用されるが、車両の運転時にディスプレイを注視させることは好ましくないので、音声による通知が非常に有用である。このように、かかるナビゲーション装置では、音声出力における情報量を増加させ、運転者による車両操作に負担をかけることなく効果的な経路誘導を実現することが要求されている。
【0004】
そのため、特許文献1では、ナビゲーション装置の案内音声が運転者に対して相対角度方向から聴取されるように「方向感制御」を行うことで、音声の方向を情報として活用するボイスナビゲーション装置が提案されている。
【0005】
ここで、かかる「方向感制御」(すなわち、誘導方向への方向感を付与する音像定位制御)は、車載の2スピーカシステムでFIRフィルタに頭部伝達関数 (Head Relate Transfer Function HRTF)を畳み込んだり、または4スピーカシステムで各スピーカの音量にレベル差を付けたりするオーディオ装置によって実現されている。このように、ナビゲーション装置は、オーディオ装置と接続或いは統合され、オーディオ一体型カーナビゲーションシステム(AVNシステム)として構成されることが多い。
【0006】
また、かかるAVNシステムでは、拡がり感および奥行き感がある音響空間を提供するために、音楽などの音声出力に対して効果音を付加する「SFC」などの空間制御なども行われている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−57190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の従来技術におけるスピーカの配設位置では、FIRフィルタに伝達関数を畳み込む方法(スピーカを前方に設置)で「方向感制御」を行う場合に、聴取者それぞれの聴取特性の個人差を吸収することができず、場合によっては、真後ろに音像があるのに真正面に音像が存在すると誤認されてしまうという事態を招くおそれがあり、効果的な方向感制御を行うことができないという問題点があった。
【0009】
また、同様に、4つのスピーカシステムで各スピーカの音量にレベル差を設ける方法で「方向感制御」を行う場合においても、聴取者に対して音声出力を行うべき位置から乖離した箇所にスピーカが配設されているため、効果的な方向感制御を行うことができないという問題点があった。
【0010】
具体的に説明すると、4つのスピーカシステムで各スピーカの音量にレベル差を設ける方法で「方向感制御」を行う場合には、4スピーカの取り付け位置を聴取者に対して均等に配置する必要がある。ところが、車室内にスピーカを配設する際には、スピーカの配設位置は、大きな制約を受けるため、そのような取り付け位置を確保することは極めて難しい。このため、上記の従来技術では、聴取者に方向感を的確に知覚させることができず、効果的な方向感制御を行うことができなかった。
【0011】
また、上記の従来技術は、拡がり感および奥行き感のある音響空間を付与する空間制御を行う場合、小さなFIRフィルタで極めて短い効果音を作り、それにフィードバックと減衰を繰り返して効果音を作るものであるため、ユーザの満足が得られる空間制御(すなわち、拡がり感および奥行き感を付与する効果音付加制御)を行うに足るものではなかった。
【0012】
そこで、本発明は、上述した従来技術による課題(問題点)を解消するためになされたものであり、効果的な方向感制御(音像定位制御)を行いつつ、該方向感制御で使用されるスピーカと同一のスピーカで空間制御(効果音付加制御)をも共存させることができるオーディオ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1の発明に係るオーディオ装置は、移動体の室内に搭載されるメインスピーカと、音声出力を聴取させる対象となる聴取者に対して前方または後方またはその両方に配設される補助スピーカと、から音声出力を行うオーディオ装置であって、前記メインスピーカと前記補助スピーカから出力される音声信号の音像を所定位置に定位させる音像定位制御、および前記メインスピーカから出力される音声信号の効果音を前記補助スピーカから出力させる効果音付加制御を行う音声出力制御手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項2の発明に係るオーディオ装置は、移動体の車内に搭載されるメインスピーカと、音声出力を聴取させる対象となる聴取者に対して前方および後方に配設される補助スピーカと、から音声出力を行うオーディオ装置であって、前記補助スピーカから出力される音声信号の音像を所定位置に定位させる音像定位制御、および前記メインスピーカから出力される音声信号の効果音を前記補助スピーカから出力させる効果音付加制御を行う音声出力制御手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項3の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、前記音像定位制御と前記効果音付加制御を排他的に行うことを特徴とする。
【0016】
また、請求項4の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、効果音に係る伝達関数および頭部伝達関数が畳み込まれた係数をデジタルフィルタに反映して、前記補助スピーカから出力される効果音の音像を所望位置に定位させる音像定位制御を行うことを特徴とする。
【0017】
また、請求項5の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記所定位置は、聴取者に通知すべき誘導方向に位置するものであって、前記音声出力制御手段は、各補助スピーカから出力される音声出力のレベル配分を調節して前記音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うことを特徴とする。
【0018】
また、請求項6の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、前記誘導方向が聴取者に相対して前方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで前方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、前記誘導方向が聴取者に相対して後方向に位置する場合には、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで後方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うことを特徴とする。
【0019】
また、請求項7の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、前記誘導方向が聴取者に相対して前方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで前方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、前記誘導方向が聴取者に相対して後方向に位置する場合には、後方の補助スピーカから出力される音声出力のレベル配分を調節して前記音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うことを特徴とする。
【0020】
また、請求項8の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、前記誘導方向が聴取者に相対して後方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで後方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、前記誘導方向が聴取者に相対して前方向に位置する場合には、前方の補助スピーカから出力される音声出力のレベル配分を調節して前記音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うことを特徴とする。
【0021】
また、請求項9の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、初期効果音を畳み込み可能なタップ数を有するFIRフィルタを用いて前記効果音付加制御を行うことを特徴とする。
【0022】
また、請求項10の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、ハイパスフィルタ処理もしくはバンドパスフィルタ処理が組み込まれた前記FIRフィルタを用いて効果音を生成することを特徴とする。
【0023】
また、請求項11の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、効果音に含まれるボーカル成分を通常時に比較して低減する処理、或いは効果音に含まれるボーカル成分を遮断する処理が組み込まれた前記FIRフィルタを用いて効果音を生成することを特徴とする。
【0024】
また、請求項12の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、後方の補助スピーカから効果音を出力する前記効果音付加制御を行うことを特徴とする。
【0025】
また、請求項13の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、後方の補助スピーカから遅延処理が施された効果音を出力することを特徴とする。
【0026】
また、請求項14の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、前記メインスピーカから出力される音声信号を遅延させて、前記前方の補助スピーカから出力することを特徴とする。
【0027】
また、請求項15の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、前記メインスピーカから出力される音声信号を遅延させるとともに、バンドパスフィルタ処理、ゲイン処理のいずれかもしくは両方を組合わせて行い、前記前方の補助スピーカから出力することを特徴とする。
【0028】
また、請求項16の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記補助スピーカは、通常のスピーカに比較して強い指向性を有することを特徴とする。
【0029】
また、請求項17の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記補助スピーカのうち前方の補助スピーカは、複数のスピーカが近接された構成であることを特徴とする。
【0030】
また、請求項18の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記メインスピーカは、通常のスピーカに比較して不要振動の少ないスピーカであることを特徴とする。
【0031】
また、請求項19の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、前記効果音付加制御を行う場合に、前記メインスピーカから出力される音声信号の出力レベルを通常時に比較して低下させることを特徴とする。
【0032】
また、請求項20の発明に係るオーディオ装置は、上記の発明において、前記音声出力制御手段は、前記メインスピーカから出力される音声出力をもとに前記音像定位制御を行う場合に、前記補助スピーカから出力される音声出力で前記音像の可動を支援することを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
また、本発明によれば、メインスピーカと補助スピーカから出力される音声信号の音像を所定位置に定位させる音像定位制御、およびメインスピーカから出力される音声信号の効果音を補助スピーカから出力させる効果音付加制御を行うこととしたので、効果的な方向感制御(音像定位制御)を行いつつ、該方向感制御で使用されるスピーカと同一のスピーカで空間制御(効果音付加制御)をも共存させることが可能になる。さらに、これに関連して、特定の聴取者に対して補助スピーカを配設することにより、他の乗員に違和感を与えることなく、パーソナルな方向感および音響空間を提供することが可能になる。
【0034】
また、本発明によれば、補助スピーカから出力される音声信号の音像を所定位置に定位させる音像定位制御、およびメインスピーカから出力される音声信号の効果音を補助スピーカから出力させる効果音付加制御を行うこととしたので、効果的な方向感制御(音像定位制御)を行いつつ、該方向感制御で使用されるスピーカと同一のスピーカで空間制御(効果音付加制御)をも共存させることが可能になる。さらに、これに関連して、特定の聴取者に対して補助スピーカを配設することにより、他の乗員に違和感を与えることなく、パーソナルな方向感および音響空間を提供することが可能になる。
【0035】
また、本発明によれば、音像定位制御と効果音付加制御を排他的に行うこととしたので、「方向感制御」および「空間制御」をより効率的に両立させることが可能になる。さらに、これに関連して、「方向感制御」および「空間制御」を実施するに際して、デジタル信号処理を行うデジタルフィルタ(例えば、FIRフィルタ、IIRフィルタなど)を兼用することができ、最小限の構成で「方向感制御」および「空間制御」を両立させることが可能になる。
【0036】
また、本発明によれば、効果音に係る伝達関数および頭部伝達関数が畳み込まれた係数をデジタルフィルタに反映して、補助スピーカから出力される効果音の音像を所望位置に定位させる音像定位制御を行うこととしたので、効果音を出力する音源を聴取者に近接した位置から「空間制御」を行うに適した位置に移動させることができ、「空間制御」による拡がり感を向上させることが可能になる。さらに、これに関連して、反射除去係数やクロストークキャンセル係数を組み込むことにより、より理想的な音響空間を提供することが可能になる。
【0037】
また、本発明によれば、各補助スピーカから出力される音声出力のレベル配分を調節して音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うこととしたので、「方向感制御」を行う際に行う信号処理を簡易化することが可能になる。
【0038】
また、本発明によれば、誘導方向が聴取者に相対して前方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで前方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、誘導方向が聴取者に相対して後方向に位置する場合には、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで後方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うこととしたので、水平方向および垂直方向の全域にわたる広範囲な領域に音像を自在に定位させることができ、より多様な「方向感制御」を行うことが可能になる。
【0039】
また、本発明によれば、誘導方向が聴取者に相対して前方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで前方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、誘導方向が聴取者に相対して後方向に位置する場合には、後方の補助スピーカから出力される音声出力のレベル配分を調節して音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うこととしたので、誘導頻度が高い誘導方向に誘導する場合に明瞭な「方向感制御」を行いつつ、誘導頻度が低い誘導方向に誘導する場合に「方向感制御」の信号処理を簡易化することが可能になる。
【0040】
また、本発明によれば、誘導方向が聴取者に相対して後方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで後方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、誘導方向が聴取者に相対して前方向に位置する場合には、前方の補助スピーカから出力される音声出力のレベル配分を調節して音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うこととしたので、音像の定位を知覚し難い方向に経路誘導する場合に明瞭な「方向感制御」を行いつつ、音像の定位を知覚し易い方向に経路誘導する場合に「方向感制御」の信号処理を簡易化することが可能になる。
【0041】
また、本発明によれば、初期効果音を畳み込み可能なタップ数を有するFIRフィルタを用いて効果音付加制御を行うこととしたので、きめ細かい初期効果音を生成することが可能になる。さらに、これに関連して、「空間制御」に必要なFIRフィルタのタップ数を最小限に抑えることにより、コストダウンに寄与することも可能になる。
【0042】
また、本発明によれば、ハイパスフィルタ処理もしくはバンドパスフィルタ処理が組み込まれたFIRフィルタを用いて効果音を生成することとしたので、補助スピーカに入力される音声信号から過度に低域な周波数帯域の成分を排除することができ、「空間制御」における音の再生歪を低減させることが可能になる。
【0043】
また、本発明によれば、効果音に含まれるボーカル成分を通常時に比較して低減する処理、或いは効果音に含まれるボーカル成分を遮断する処理が組み込まれたFIRフィルタを用いて効果音を生成することとしたので、閉塞感を生じさせる要因となるボーカル成分を効果音から低減または遮断することができ、拡がり感を向上させることが可能になる。
【0044】
また、本発明によれば、後方の補助スピーカから効果音を出力する効果音付加制御を行うこととしたので、拡がり感を向上させることが可能になる。
【0045】
さらに、これに関連して、前方の補助スピーカでは音楽を再生させない(通知音声だけ再生する)ため、前方の補助スピーカとして、小型かつ安価なものを採用することができる。
【0046】
また、本発明によれば、後方の補助スピーカから遅延処理が施された効果音を出力することとしたので、より拡がり感を向上させることが可能になる。
【0047】
また、本発明によれば、メインスピーカから出力される音声信号を遅延させて、前方の補助スピーカから出力することとしたので、奥行き感を向上させることが可能になる。
【0048】
また、本発明によれば、メインスピーカから出力される音声信号を遅延させるとともに、バンドパスフィルタ処理、ゲイン処理のいずれかもしくは両方を組合わせて行い、前方の補助スピーカから出力することとしたので、より効果的に奥行き感を向上させることが可能になる。
【0049】
また、本発明によれば、通常のスピーカに比較して強い指向性を有することとしたので、聴取者に音像の定位をより明確に知覚させることが可能になる。
【0050】
また、本発明によれば、複数のスピーカが近接された構成であることとしたので、前方の補助スピーカの取り付け位置に関する制約を緩和することが可能になる。
【0051】
また、本発明によれば、通常のスピーカに比較して不要振動の少ないメインスピーカを採用することとしたので、直接音と効果音を分離して再生させることができ、設計者が意図した通りの音響空間を忠実に再現することが可能になる。
【0052】
また、本発明によれば、効果音付加制御を行う場合に、メインスピーカから出力される音声信号の出力レベルを通常時に比較して低下させることとしたので、拡がり感を向上させるとともに、「空間制御」に伴う音圧の圧迫感を低減させることが可能になる。
【0053】
また、本発明によれば、メインスピーカから出力される音声出力をもとに音像定位制御を行う場合に、補助スピーカから出力される音声出力で音像の可動を支援することとしたので、「方向感制御」における音像の可動域を拡張することができ、より自由度の高い「方向感制御」を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下に添付図面を参照して、この発明に係るオーディオ装置の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明をオーディオ一体型カーナビゲーションシステム(AVNシステム)に適用した場合を実施例として掲げ、本実施例で用いる主要な用語、本実施例に係るAVNシステムの概要および特徴、本実施例1に係るAVNシステムを順に説明し、最後に本実施例に対する種々の変形例(実施例2)を説明する。
【0055】
(用語の説明)
以下に、本実施例で用いる用語の概念を簡単に説明する。本実施例で用いる「方向感制御」とは、音声ガイダンス(ナビ音声)の内容に誘導方向への移動感(方向感)を付与する音像定位制御を指し、また、「空間制御」とは、ラジオ、音楽などの音声出力の聴取環境として拡がり感および奥行き感がある音響空間を付与する効果音付加制御を指す。
【0056】
また、本実施例で用いる「ガイドポイント」とは、自車両の予定経路、現在位置および地図情報をもとに、運転者に対して音声案内すべきと判断される地点を指し、具体的には、誘導指示(例えば、右左折、方向転換などの指示)を実行すべき地点(例えば、交差点、道路の合流地点などのガイドポイント)のことを指す。
【0057】
(概要および特徴)
まず最初に、本発明に係るAVNシステムの概要および特徴を説明する。図1は、本実施例1に係るAVNシステム1の概要構成を示す概要構成図である。同図に示すように、このAVNシステム1は、複数のスピーカから出力される所望の出力音声に対して所定の音声出力制御を行うものである。
【0058】
ここで、本発明に係るAVNシステム1は、音声出力を聴取させる対象となる聴取者に相対して前方および後方に補助スピーカを配設し、補助スピーカから出力される音像を所定位置に定位させる「音像定位制御」および複数のスピーカから出力される直接音に補助スピーカから出力される効果音を付加する「効果音付加制御」を両立して行う点に主たる特徴があり、かかる一連の処理によって、効果的な方向感制御(音像定位制御)を行いつつ、該方向感制御で使用されるスピーカと同一のスピーカで空間制御(効果音付加制御)をも共存させることができるようにしている。
【0059】
この主たる特徴を具体的に説明すると、このAVNシステム1は、図2に示すように、音声出力を聴取させる対象となる聴取者に相対して、前方に補助スピーカSP−F1およびSP−F2(以下、適宜これらを前方の補助スピーカ群SP−Fと言う。)を均等に配設し、後方のシートなどに補助スピーカSP−R1およびSP−R2(以下、適宜これらを後方の補助スピーカ群SP−Rと言う。)を埋め込む。なお、聴取者それぞれの聴取特性の個人差を吸収するために、後方の補助スピーカ群SP−Rは、シートに取り付け可能で耳たぶの影響を可及的に抑制可能な位置に配設する。
【0060】
そして、このAVNシステム1は、前方の補助スピーカ群SP−Fおよび後方の補助スピーカ群SP−Rを共通利用して、補助スピーカから出力される音像を所定位置に定位させる「音像定位制御」および複数のスピーカ(メインスピーカ)から出力される直接音に補助スピーカから出力される効果音を付加する「効果音付加制御」を両立して行う。なお、この時、メインスピーカSP1〜SP4では、直接音のみが出力されることとなる。
【0061】
したがって、上記した従来技術の例で言えば、乗員全員を対象としたスピーカの配置で「方向感制御」および「空間制御」を行うのではなく、音声出力を聴取させる対象となる聴取者に相対して前方および後方に補助スピーカを配設して「方向感制御」および「空間制御」を両立して行うこととしたので、効果的な方向感制御(音像定位制御)を行いつつ、該方向感制御で使用されるスピーカと同一のスピーカで空間制御(効果音付加制御)をも共存させることが可能になる。さらに、これに関連して、特定の聴取者に対して補助スピーカを配設することにより、他の乗員に違和感を与えることなく、パーソナルな方向感および音響空間を提供することが可能になる。
【0062】
また、本発明に係るAVNシステム1は、上記の主たる特徴に関連して以下に列挙するような特徴も付加的に有するものである。例えば、本実施例では、補助スピーカから出力される音像を所定位置に定位させる音像定位制御、或いは複数のスピーカから出力される直接音に補助スピーカから出力される効果音を付加する効果音付加制御を排他的に行う。
【0063】
すなわち、経路誘導などの情報提供に係る「方向感制御」(音像定位制御)、並びに拡がり感および奥行き感などやすらぎ空間の提供に係る「空間制御」(効果音付加制御)は、同時処理を行う必要性が少ないため、排他制御とする。このように、「方向感制御」或いは「空間制御」を排他的に行うことで、「方向感制御」および「空間制御」をより効率的に両立させることが可能になる。さらに、これに関連して、「方向感制御」および「空間制御」を実施するに際して、デジタル信号処理を行うデジタルフィルタ(例えば、FIRフィルタ、IIRフィルタなど)を兼用することができ、最小限の構成で「方向感制御」および「空間制御」を両立させることが可能になる。
【0064】
また、本発明に係るAVNシステム1は、必ずしも「方向感制御」および「空間制御」を排他的に行う構成に限定されない。例えば、効果音に係る伝達関数および頭部伝達関数が畳み込まれた係数をデジタルフィルタに反映して、補助スピーカから出力される効果音の音像を所望位置に定位させる音像定位制御を行うように構成しても良い。
【0065】
すなわち、これによって、図7に示すように、効果音を出力する音源を聴取者に近接した位置から「空間制御」を行うに適した位置に移動させることができ、「空間制御」による拡がり感を向上させることが可能になる。さらに、これに関連して、反射除去係数やクロストークキャンセル係数を組み込むことにより、より理想的な音響空間を提供することが可能になる。
【実施例1】
【0066】
次に、本実施例1に係るAVNシステムについて説明する。なお、ここでは、本実施例1に係るAVNシステムの構成を説明した後に、このAVNシステムの処理の流れを説明することとする。
【0067】
(AVNシステムの構成)
図1は、本実施例1に係るAVNシステム1の概要構成を示す概要構成図である。同図に示すように、このAVNシステム1は、ナビゲーションユニット2、オーディオユニット3、音処理部4、スピーカSP1〜SP4、補助スピーカSP−F1、SP−F2、SP−R1およびSP−R2を有する。
【0068】
このうち、ナビゲーションユニット2は、その内部にGPS(Global Positioning System)受信部21、経路設定部22、ガイド内容作成部23、ガイド音声制御部24およびガイド表示制御部25を有する。ここで、GPS受信部21、経路設定部22、ガイド内容作成部23、ガイド音声制御部24およびガイド表示制御部25は、マイコンなどによって構成しても良いし、電子回路によって構成しても良い。また、本構成は各機能によって区分したものであり、物理的な構成については、全体若しくは一部を統合或いは分散したものとしても良い。
【0069】
GPS受信部21は、GPS人工衛星からの情報を受信して時刻情報の取得、自車両の位置情報の特定を行う。また、GPS受信部21は、特定した自車両の位置をガイド内容作成部23に出力する。
【0070】
経路設定部22は、ユーザ(例えば、運転者)からのユーザ入力を受け付けて自車両の予定経路を設定・記憶する処理部である。また、経路設定部22は、設定した経路や地図情報をガイド内容作成部23に出力する。
【0071】
ガイド内容作成部23は、GPS受信部21および経路設定部22の出力をもとに、自車両の運転者に通知する内容を作成する処理部である。具体的には、運転者に音声案内を行うべき場所に関する情報(すなわち、ガイドポイント情報)として、自車両の現在位置からその場所(ガイドポイント)までの距離情報、並びにその場所で自車両が取るべき方向を示す方向情報を記憶する。
【0072】
ここで、ガイドポイントとは、自車両の予定経路、現在位置および地図情報をもとに、運転者に対して音声案内すべきと判断される場所を指し、例えば、自車両が現在位置から300m先の交差点で右折する場合、ガイドポイントは、300m先の交差点となる。なお、かかる判断手法、すなわち「どの場所で音声ガイダンスを出力すべきか」の判断手法については、従来技術と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0073】
そして、ガイド内容作成部23は、作成したガイドポイント情報に基づいて経路誘導の内容を決定する。さらに、経路誘導のうち、音声によって出力する内容(音声ガイダンス)については、ガイド音声制御部24に出力し、ディスプレイ33に表示する内容については、ガイド表示制御部25に出力する。
【0074】
ガイド音声制御部24は、ガイド内容作成部23の出力をもとに、音声ガイダンスを運転者に対してどの方向から出力するかを決定して音処理部4に送信する。具体的には、音声ガイダンスの波形を示す「経路誘導音声信号」および音声ガイダンスの音像の作成位置や移動内容を示す「音像制御信号」を音処理部4に送信して「経路誘導音声信号」に対する「方向感制御」を要請する。また、ガイド表示制御部25は、ガイド内容作成部23の出力をもとに、ディスプレイに表示する内容をオーディオユニット3に送信する。
【0075】
オーディオユニット3は、その内部に主制御部31、オーディオ出力制御部32およびディスプレイ33を有する。ここで、主制御部31およびオーディオ出力制御部32は、マイコンなどによって構成しても良いし、電子回路によって構成しても良い。また、本構成は各機能によって区分したものであり、物理的な構成については双方を統合したものとしても良い。
【0076】
主制御部31は、オーディオユニット3を全体制御する制御部であり、例えば、オーディオユニット3がDVDプレイヤーであるならば、DVDディスクに記憶された音楽情報などを読み出してオーディオ出力制御部32に出力するとともに、映像情報などを読み出してディスプレイ33に表示する。また、タッチパネルなどのユーザインターフェースを介して音響設定を受け付けてオーディオ出力制御部32に出力する。
【0077】
ここで、オーディオ出力制御部32は、主制御部31が出力した「オーディオ出力信号」および「空間制御信号」を音処理部4に送信して「オーディオ出力信号」に対する「空間制御」を要請する。なお、このオーディオユニット3は、DVDプレイヤーに限らず、コンパクトディスク、ハードディスク、ラジオ、テレビなどの機能を有するものであっても良い。
【0078】
ディスプレイ33は、ナビゲーションユニット2による経路誘導の画像表示と共用される。そこで、主制御部31は、ナビゲーションユニット2内部にガイド表示制御部25から受信した内容をディスプレイ33に表示させる機能を有する。すなわち、主制御部31は、各種媒体から情報の読出し、出力とともに、ディスプレイ33の統合管理を行うこととなる。
【0079】
音処理部4は、その内部にマイコン41、フラッシュメモリ42、コーディック43、DSP(Digital Signal Processor)44およびアンプ45を有する。マイコン41、コーディック43およびDSP44は、マイコンなどによって構成しても良いし、電子回路によって構成しても良い。また、本構成は各機能によって区分したものであり、物理的な構成については双方を統合したものとしても良い。
【0080】
コーディック43は、その内部に有するA/D部43aによってナビゲーションユニット2内のガイド音声制御部24から受信した「経路誘導音声信号」およびオーディオユニット3内部のオーディオ出力制御部32から受信した「オーディオ出力信号」をデジタル信号に変換し、音データとしてDSP44に出力する。
【0081】
また、マイコン41は、音処理部4を全体制御する制御部であり、具体的には、ナビゲーションユニット2からの音声出力と、オーディオユニット3からの音楽出力とを統合制御し、どのスピーカからどれだけの出力で音声再生および音楽再生を行うかを制御する。
【0082】
より詳細には、「オーディオ出力信号」を受信している最中に、ナビゲーションユニット2から「オーディオ出力ミュート信号」を伴う「経路誘導音声信号」を受信したならば、音楽情報の再生を停止し、「方向感制御」(音像定位制御)を実行する。また、「オーディオ出力信号」を受信していない場合に、ナビゲーションユニット2から「経路誘導音声信号」を受信した場合にも、「方向感制御」(音像定位制御)を実行する。
【0083】
また、「オーディオ出力信号」を受信している最中である場合、或いは新たに「オーディオ出力信号」を受信した場合に、「オーディオ出力ミュート信号」を伴う「経路誘導音声信号」を受信しなければ、「空間制御」(効果音付加制御)を実行する。
【0084】
DSP44は、主制御部41の出力をもとに、各スピーカからの出力内容を決定し、A/D部43aの出力について「方向感制御」または「空間制御」に係るデジタル信号処理を施し、コーディック43内部のDAコンバータ部(D/A部43b)に出力する。D/A部43bの出力は、アンプ45によって出力強度を調整され、スピーカSP1〜SP4、並びに補助スピーカSP−F1、SP−F2、SP−R1およびSP−R2から音声ガイダンスや音楽として再生される。なお、本発明に係る「方向感制御」(音像定位制御)並びに「空間制御」(効果音付加制御)の詳細については、後述する。
【0085】
スピーカSP1〜SP4は、車室内において、例えば、右フロントスピーカ、左フロントスピーカ、右リアスピーカ、左リアスピーカのように配置されるメインスピーカである。このメインスピーカは、それぞれの出力強度を制御することで、運転者に対して所望の方向から音声が聞こえるように音声の出力を行うことができる。なお、本実施例1では、このメインスピーカからは、音声ガイダンスや音楽の音声出力として直接音のみを出力することとする。
【0086】
また、このスピーカSP1〜SP4には、通常のスピーカに比較して不要振動の少ないスピーカを採用する。このようなスピーカを採用することとしたので、直接音と効果音を分離して再生でき、拡がり感および奥行き感のコントロールが容易になる。
【0087】
具体的に説明すると、図4に示すように、通常のスピーカから音声を出力したのでは(上部のグラフ参照)、「空間制御」を行う際に不要な振動や効果音で直接音および効果音を分離して再生させることが難しくなるため、「Time Domainスピーカ」(以下、TDスピーカ)のように通常のスピーカに比較して不要振動の少ないスピーカから音声を出力することで、直接音および効果音を分離して再生でき(下部のグラフ参照)、設計者が意図した通りの音響空間を忠実に再現できるようにする。
【0088】
補助スピーカは、音声出力を聴取させる対象となる聴取者に相対して前方および後方に配設される補助用のスピーカである。例えば、図3に示すように、前方に補助スピーカSP−F1およびSP−F2を近接させて1ユニットとして配設し、後方のシートに補助スピーカSP−R1およびSP−R2を埋め込む。このように、補助スピーカのうち前方の補助スピーカ群を近接させる構成を採用することで、前方の補助スピーカの取り付け位置に関する制約を緩和することが可能になる。なお、前方の補助スピーカ群SP−Fは、ステアリングコラム上に配設するようにしても良い。
【0089】
また、この補助スピーカには、通常のスピーカに比較して強い指向性を有するスピーカを採用する。このように、通常のスピーカに比較して強い指向性を有するスピーカを採用することとしたのは、聴取者に音像の定位をより明確に知覚させるためである。
【0090】
つぎに、本発明に係る「方向感制御」(音像定位制御)について説明する。「方向感制御」は、ガイド音声制御部24から音処理部4に送信される「音像方制御信号」をもとに、音声ガイダンスの音像移動を制御することによって行われるものである。
【0091】
例えば、この「音像制御信号」が音像の移動を伴わない制御信号である場合(図5−1参照)、音像GV1に示すように、音像作成範囲51において運転者50に相対して誘導方向(例えば、右方向)に存在する音像固定点51aに音像を定位させる。なお、この場合、音像固定点51aは、音像作成範囲51内に限定されるものではなく、運転者に対して誘導方向を示唆することが可能な位置であれば良い。
【0092】
また、この「音像制御信号」が音像の移動を伴う制御信号である場合(図5−2参照)、GV(音像)2に示すように、音像作成範囲52において移動開始位置52aに音像を定位し、音声出力とともに音像位置を移動させる。その後、音像の移動方向を方向変化位置52bから変化させることで、自車両がどちらの方向に進むべきかを音像の移動方向によって示す。なお、この場合、移動開始位置52aおよび方向変化位置52bは、音像作成範囲52内に限定されるものではなく、音像位置を移動することによって誘導方向を示唆することが可能な位置であれば良い。
【0093】
このように、「音像制御信号」は、音像の移動を伴わない制御信号であっても良いし、音像の移動を伴う制御信号であっても良く、音声ガイダンスの音像を誘導方向に定位制御するものであれば、本発明に同様に適用することができる。
【0094】
ここで、本発明に係る「方向感制御」に密接に関連する音処理部4におけるDSP44の具体的な構成を展開しつつ、「方向感制御」の説明を続ける。DSP44は、図6に示すように、「方向感制御」を行う際の音源(すなわち、「経路誘導音声信号」および「オーディオ出力信号」)を切り替えるセレクタ110と、FIRフィルタ120、遅延器130を備える。なお、「方向感制御」を行う際には、遅延器130を使用しないため、遅延器130については、「空間制御」を説明する際に説明することとする。
【0095】
このうち、FIRフィルタ120は、「経路誘導信号」に対する頭部伝達関数の「畳込演算処理」を行うデジタルフィルタであり、図6に示す例では、前方の補助スピーカライン用にFIRフィルタ120a、後方の補助スピーカライン用にFIRフィルタ120bが配設されている。なお、以下では、FIRフィルタ120aおよび120bを合わせた説明を行う場合には、適宜これらをFIRフィルタ120と言う。
【0096】
ここで、かかるFIRフィルタ120を用いた「畳込演算処理」について具体的に説明する。まず、コーディック43内のA/D部43aは、「経路誘導音声信号」をデジタル信号に変換する。続いて、マイコン41は、ナビゲーションユニット2から受信した「音像制御信号」をもとに、音像の定位方向および聴取者に対する音像の相対距離に対応した頭部伝達関数の係数をフラッシュメモリ42における係数テーブル42aから読み出す。
【0097】
より詳細には、音像(音声ガイダンスの音像)を定位させる方向が前方向もしくは横方向である場合(すなわち、誘導方向が聴取者に相対して前方向もしくは横方向に位置する場合)には、フラッシュメモリ42における係数テーブル42aから音像の定位方向(すなわち、前方向もしくは横方向)および聴取者に対する音像の相対距離に対応した頭部伝達関数の係数を読み出し、音像を定位させる方向が後方向である場合(すなわち、誘導方向が聴取者に相対して後方向に位置する場合)には、フラッシュメモリ42における係数テーブル42aから音像の定位方向(すなわち、後方向)および聴取者に対する音像の相対距離に対応した頭部伝達関数の係数を読み出し、このようにして読み出した頭部伝達関数の係数をFIRフィルタ120に出力する。
【0098】
そして、FIRフィルタ120は、マイコン41から入力された頭部伝達関数の係数およびコーディック43内のA/D部43aによってデジタル信号に変換された「経路誘導音声信号」をもとに、「経路誘導音声信号」に対する頭部伝達関数の「畳込演算処理」を行い、該「畳込演算処理」が行われた「経路誘導音声信号」をコーディック43内のD/A部43bに出力する。
【0099】
その後、コーディック43内のD/A部43bは、「畳込演算処理」が行われた「経路誘導音声信号」をアナログ信号に変換してアンプ部45に出力し、アンプ部45は、アナログ信号に変換された「経路誘導音声信号」を増幅して前方の補助スピーカ群SP−Fまたは後方の補助スピーカ群SP−Rから出力する。
【0100】
このように、上記の一連の「方向感制御」を経て補助スピーカから出力された音声ガイダンスの音像は、聴取者によって誘導方向に定位したように知覚されることとなる。
【0101】
なお、本実施例1では、誘導方向が聴取者に相対して前方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで前方の補助スピーカ群から出力される音像を当該誘導方向に定位させる方向感制御を行い、誘導方向が聴取者に相対して後方向に位置する場合には、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで後方の補助スピーカ群から出力される音像を当該誘導方向に定位させる方向感制御を行うこととする。このように、音像を定位させる方向がどの方向である場合にでも「経路誘導音声信号」に対する頭部伝達関数の「畳込演算処理」を行うことで、水平方向および垂直方向の全域にわたる広範囲な領域に音像を自在に定位させることができ、より多様な「方向感制御」を行うことが可能になる。
【0102】
つぎに、本発明に係る「空間制御」について同様に説明する。本実施例1では、「30msec」〜「50msec」程度の効果音(すなわち、一般的に初期効果音と呼ばれる領域)が生成できるだけのタップ数を有するFIRフィルタで本システムを構成する。
【0103】
例えば、図6に示す例では、サンプリング周波数が「48kHz」である場合に必要となるタップ数(約2048タップ)を保持する例を示しているが、これにより本発明が限定されるものではなく、例えば、サンプリング周波数が「96kHz」であれば、その倍のタップ数(約4096タップ)を保持するようにすれば良い。
【0104】
このように、初期効果音を畳み込み可能なタップ数を有するFIRフィルタを用いて「空間制御」(効果音付加制御)を行うことで、きめ細かい初期効果音を生成することが可能になる。さらに、これに関連して、「空間制御」に必要なFIRフィルタのタップ数を最小限に抑えることにより、コストダウンに寄与することも可能になる。また、初期効果音が生成できるタップ数を保持していれば、「方向感制御」で頭部伝達関数を畳み込む場合にも十分なタップ数を確保したと言うことができる。
【0105】
ここで、「空間制御」を行う場合における「畳込演算処理」について説明する。なお、ここでは、効果音が出力される後方の補助スピーカラインに係る信号処理を説明した後に、直接音が出力される前方の補助スピーカラインに係る信号処理を説明する。
【0106】
まず、コーディック43内のA/D部43aは、「オーディオ出力信号」をデジタル信号に変換する。続いて、マイコン41は、オーディオユニット2から受信した「空間制御信号」をもとに、ユーザによって予め設定された音響設定に対応した効果音に係る関数(インパルス応答)の係数をフラッシュメモリ42における係数テーブル42aから読み出し、該読み出したインパルス応答の係数をFIRフィルタ120bに出力する。
【0107】
続いて、FIRフィルタ120bは、マイコン41から入力されたインパルス応答の係数およびコーディック43内のA/D部43aによってデジタル信号に変換された「オーディオ出力信号」をもとに、「オーディオ出力信号」にインパルス応答を畳み込んで後方の補助スピーカ群SP−Rから出力する効果音の音声信号を生成し、該生成された効果音の音声信号を遅延器130bに出力する。
【0108】
そして、遅延器130bは、効果音の音声信号に「遅延処理」を行い、該「遅延処理」が行われた効果音の音声信号をコーディック43内のD/A部43bに出力する。なお、この時、音の分離が発生しない範囲で効果音に「遅延処理」を施すこととする。
【0109】
このように、後方の補助スピーカ群から「遅延処理」が施された効果音を出力することで、拡がり感を向上させることができるようにしている。
【0110】
その後、コーディック43内のD/A部43bは、「遅延処理」が行われた効果音の音声信号をアナログ信号に変換してアンプ部45に出力し、アンプ部45は、アナログ信号に変換された効果音の音声信号を増幅して後方の補助スピーカ群SP−Rから出力する。
【0111】
一方、前方の補助スピーカラインに入力された「オーディオ出力信号」は、「畳込演算処理」が行われず、FIRフィルタ120aを通過して遅延器130aに入力されることとなる。これを受けて、遅延器130aは、前方の補助スピーカ群SP−Fから出力する「オーディオ出力信号」(直接音)に「遅延処理」を行い、該「遅延処理」が行われた直接音の音声信号をコーディック43内のD/A部43bに出力する。
【0112】
このように、前方の補助スピーカ群から「遅延処理」が施された直接音を出力することで、奥行き感を向上させることができるようにしている。
【0113】
その後、コーディック43内のD/A部43bは、「遅延処理」が行われた「オーディオ出力信号」(直接音)をアナログ信号に変換してアンプ部45に出力し、アンプ部45は、アナログ信号に変換された「オーディオ出力信号」(直接音)を増幅して前方の補助スピーカ群SP−Fから出力する。なお、この時、スピーカ(メインスピーカ)SP1〜SP4からも「オーディオ出力信号」(直接音)が出力されることとなる。
【0114】
このように、上記の一連の「空間制御」を経て前方の補助スピーカ群およびメインスピーカから出力された「オーディオ出力信号」(直接音)、並びに後方の補助スピーカ群から出力された効果音により、音楽などの音声出力に際して、拡がり感および奥行き感のある音響空間が提供されることとなる。
【0115】
(AVNシステムの各種処理の手順)
次に、本実施例1に係るAVNシステムの各種処理の手順を説明する。なお、ここでは、音処理部における基本制御手順(1)を説明した後に、補助スピーカから出力される音像を所定位置に定位させる音像定位制御の処理手順(2)を説明し、メインスピーカから出力される直接音に補助スピーカから出力される効果音を付加する効果音付加制御の処理手順(3)を説明することとする。
【0116】
(1)音処理部における基本制御手順
まず最初に、本実施例1に係る音処理部の基本制御手順を説明する。図8は、本実施例1に係る音処理部の基本制御手順を示すフローチャートである。この処理は、AVNシステム1の動作時に回帰的に実行される。
【0117】
同図に示すように、音処理部4におけるマイコン41は、「オーディオ出力信号」を受信している最中(または、新たに「オーディオ出力信号」を受信した場合)に(ステップS801肯定)、「オーディオ出力ミュート信号」を伴う「経路誘導音声信号」を受信しなければ(ステップS802否定)、「空間制御」(効果音付加制御)を継続実行(もしくは、新に開始)する(ステップS803)。
【0118】
また、「オーディオ出力信号」を受信している最中(ステップS801肯定)に、ナビゲーションユニット2から「オーディオ出力ミュート信号」を伴う「経路誘導音声信号」を受信したならば(ステップS802否定)、音楽情報の再生を停止し、「方向感制御」(音像定位制御)を実行する(ステップS805)。
【0119】
一方、「オーディオ出力信号」を受信していない場合(ステップS801否定)に、ナビゲーションユニット2から「経路誘導音声信号」を受信したならば(ステップS804肯定)、「方向感制御」(音像定位制御)を実行する(ステップS805)。
【0120】
このようにして、上記のステップS801〜S805までの処理は、AVNシステム1の電源が落とされるまで回帰的に行われる。
【0121】
(2)音像定位制御の処理手順
次に、本実施例1に係る音像定位制御の処理手順について説明する。図9は、本実施例1に係る音像定位制御の処理手順を示すフローチャートである。この処理は、ナビゲーションユニット2から「経路誘導音声信号」を受信した場合に開始されることとなる。
【0122】
同図に示すように、コーディック43内のA/D部43aは、「経路誘導音声信号」をデジタル信号に変換する(ステップS901)。続いて、マイコン41は、ナビゲーションユニット2から受信した「音像制御信号」をもとに、音像の定位方向および聴取者に対する音像の相対距離に対応した頭部伝達関数の係数をフラッシュメモリ42における係数テーブル42aから読み出す。
【0123】
このとき、音像(音声ガイダンスの音像)を定位させる方向が前方向もしくは横方向である場合(ステップS902肯定)には、フラッシュメモリ42における係数テーブル42aから音像の定位方向(すなわち、前方向もしくは横方向)および聴取者に対する音像の相対距離に対応した頭部伝達関数の係数を読み出し(ステップS903)、該読み出した頭部伝達関数の係数をFIRフィルタ120に出力する。
【0124】
また、音像を定位させる方向が後方向である場合(ステップS902否定)には、フラッシュメモリ42における係数テーブル42aから音像の定位方向(すなわち、後方向)および聴取者に対する音像の相対距離に対応した頭部伝達関数の係数を読み出し(ステップS904)、該読み出した頭部伝達関数の係数をFIRフィルタ120に出力する。
【0125】
そして、FIRフィルタ120は、マイコン41から入力された頭部伝達関数の係数およびコーディック43内のA/D部43aによってデジタル信号に変換された「経路誘導音声信号」をもとに、「経路誘導音声信号」に対する頭部伝達関数の「畳込演算処理」を行い(ステップS905)、該「畳込演算処理」が行われた「経路誘導音声信号」をコーディック43内のD/A部43bに出力する。
【0126】
その後、コーディック43内のD/A部43bは、「畳込演算処理」が行われた「経路誘導音声信号」をアナログ信号に変換してアンプ部45に出力し(ステップS906)、アンプ部45は、アナログ信号に変換された「経路誘導音声信号」を増幅して前方の補助スピーカ群SP−Fまたは後方の補助スピーカ群SP−Rから出力する(ステップS907)。
【0127】
このように、上記の一連の「方向感制御」(音像定位制御)を経て補助スピーカから出力された音声ガイダンスの音像は、聴取者によって誘導方向に定位したように知覚されることとなる。
【0128】
(3)効果音付加制御の処理手順
次に、本実施例1に係る効果音付加制御の処理手順について説明する。図10は、本実施例1に係る効果音付加制御の処理手順を示すフローチャートである。この処理は、オーディオユニット3から「オーディオ出力信号」を受信した場合に開始されることとなる。
【0129】
同図に示すように、コーディック43内のA/D部43aは、「オーディオ出力信号」をデジタル信号に変換する(ステップS1001)。続いて、マイコン41は、オーディオユニット2から受信した「空間制御信号」をもとに、ユーザによって予め設定された音響設定に対応した効果音に係る関数(インパルス応答)の係数をフラッシュメモリ42における係数テーブル42aから読み出し(ステップS1002)、該読み出したインパルス応答の係数をFIRフィルタ120bに出力する。
【0130】
この後、後方の補助スピーカラインで行われる信号処理および前方の補助スピーカラインで行われる信号処理に相違点があるため、最初に、効果音が出力される後方の補助スピーカラインに係る信号処理(ステップSR1003〜SR1006)を説明し、その後、直接音が出力される前方の補助スピーカラインに係る信号処理(ステップSF1003〜SF1005)を説明する。
【0131】
(後方の補助スピーカラインに係る信号処理)
ステップS1002を経て、FIRフィルタ120bは、マイコン41から入力されたインパルス応答の係数およびコーディック43内のA/D部43aによってデジタル信号に変換された「オーディオ出力信号」をもとに、「オーディオ出力信号」にインパルス応答を畳み込んで後方の補助スピーカ群SP−Rから出力する効果音の音声信号を生成し(ステップSR1003)、該生成された効果音の音声信号を遅延器130bに出力する。
【0132】
そして、遅延器130bは、効果音の音声信号に「遅延処理」を行い(ステップSR1004)、該「遅延処理」が行われた効果音の音声信号をコーディック43内のD/A部43bに出力する。
【0133】
その後、コーディック43内のD/A部43bは、「遅延処理」が行われた効果音の音声信号をアナログ信号に変換してアンプ部45に出力し(ステップSR1005)、アンプ部45は、アナログ信号に変換された効果音の音声信号を増幅して後方の補助スピーカ群SP−Rから出力する(ステップSR1006)。
【0134】
(前方の補助スピーカラインに係る信号処理)
一方、前方の補助スピーカラインに入力された「オーディオ出力信号」は、「畳込演算処理」が行われず、FIRフィルタ120aを通過して遅延器130aに入力されることとなる。これを受けて、遅延器130aは、前方の補助スピーカ群SP−Fから出力する「オーディオ出力信号」(直接音)に「遅延処理」を行い(ステップSF1003)、該「遅延処理」が行われた直接音の音声信号をコーディック43内のD/A部43bに出力する。
【0135】
その後、コーディック43内のD/A部43bは、「遅延処理」が行われた「オーディオ出力信号」(直接音)をアナログ信号に変換してアンプ部45に出力し(ステップSF1004)、アンプ部45は、アナログ信号に変換された「オーディオ出力信号」(直接音)を増幅して前方の補助スピーカ群SP−Fから出力する(ステップSF1005)。
【0136】
なお、この時、スピーカ(メインスピーカ)SP1〜SP4からも「オーディオ出力信号」(直接音)が出力されることとなる。
【0137】
上述してきたように、本実施例1に係るAVNシステム1によれば、音声出力を聴取させる対象となる聴取者に相対して前方および後方に補助スピーカを配設して「方向感制御」および「空間制御」を両立して行うこととしたので、効果的な方向感制御(音像定位制御)を行いつつ、該方向感制御で使用されるスピーカと同一のスピーカで空間制御(効果音付加制御)をも共存させることが可能になる。さらに、これに関連して、特定の聴取者に対して補助スピーカを配設することにより、他の乗員に違和感を与えることなく、パーソナルな方向感および音響空間を提供することが可能になる。
【実施例2】
【0138】
さて、これまで本発明の実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、上記特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施例にて実施されてもよいものである。そこで、以下に示すように、(1)構成、(2)方向感制御(音像定位制御)、(3)空間制御(効果音付加制御)、(4)その他等にそれぞれ区分けして異なる実施例を説明する。
【0139】
(1)構成
例えば、実施例1に示した構成は、本発明の利用の一例であり、各種変形を行って実施してもよいものである。例えば、実施例1では、ナビゲーションユニット、オーディオユニット、スピーカ制御をそれぞれ独立した構成としたが、これらを一体に構成するようにしても良い。
【0140】
また、実施例1では、音声出力を聴取させる対象となる聴取者を「一人」(例えば、運転手)とした場合の実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、補助スピーカを各聴取者ごとに配設することで、同一車室内において聴取者ごとに異なる音響空間を提供することができる。
【0141】
(2)方向感制御
例えば、実施例1では、「経路誘導音声信号」に頭部伝達関数を畳み込む「畳込演算処理」を行う実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各補助スピーカから出力される音声出力のレベル配分を調節して音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うようにしても良い。すなわち、これによって、「方向感制御」を行う際に行う信号処理を簡易化することができる。
【0142】
また、これに関連して、誘導方向が聴取者に相対してどの方向で位置する場合にでも「経路誘導音声信号」に頭部伝達関数を畳み込む「畳込演算処理」を行う実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、誘導方向が聴取者に相対して前方向もしくは横方向に位置する場合に、「経路誘導信号」に伝達関数を畳み込んで前方の補助スピーカ群から出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、誘導方向が聴取者に相対して後方向に位置する場合には、後方の補助スピーカ群から出力される音声出力のレベル配分を調節して音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うようにしても良い。
【0143】
すなわち、誘導方向が経路誘導される頻度の高い「前方向」である場合には、「経路誘導音声信号」に対する頭部伝達関数の「畳込演算処理」を行い、誘導方向が経路誘導される頻度の低い「後方向」である場合には、音量のレベル配分を調節することで、誘導頻度が高い誘導方向に誘導する場合に明瞭な「方向感制御」を行いつつ、誘導頻度が低い誘導方向に誘導する場合に「方向感制御」の信号処理を簡易化することができる。
【0144】
さらに、これに関連して、誘導方向が聴取者に相対して後方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで後方の補助スピーカ群から出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、誘導方向が聴取者に相対して前方向に位置する場合には、前方の補助スピーカ群から出力される音声出力のレベル配分を調節して音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うようにしても良い。すなわち、これによって、音像の定位を知覚し難い方向に経路誘導する場合に明瞭な「方向感制御」を行いつつ、音像の定位を知覚し易い方向に経路誘導する場合に「方向感制御」の信号処理を簡易化することが可能になる。
【0145】
また、実施例1では、メインスピーカからは、直接音のみを出力し、補助スピーカからの音声出力のみで「方向感制御」を行う実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、メインスピーカから出力される音声出力をもとに音像定位制御を行う場合に、補助スピーカから出力される音声出力で音像の可動を支援するようにしても良い。すなわち、図11に示すように、「方向感制御」における音像の可動域を拡張することができ、より自由度の高い「方向感制御」を行うことが可能になる。
【0146】
(3)空間制御
例えば、本発明では、ハイパスフィルタ処理もしくはバンドパスフィルタ処理が組み込まれたFIRフィルタを用いて効果音を生成するようにしても良い。具体的には、本発明に係る補助スピーカは、取り付け場所や実現すべき機能から、出力対象の周波数帯域が比較的高く、口径の小さいスピーカを採用する必要があるが、このようなスピーカに周波数帯域が低い音声信号が入力されると再生音に歪みが発生してしまう。
【0147】
このため、FIRフィルタにハイパスフィルタ処理もしくはバンドパスフィルタ処理が組み込まれた係数を設定する。すなわち、これによって、補助スピーカに入力される音声信号から過度に低域な周波数帯域の成分を排除することができ、「空間制御」における音の再生歪を低減させることが可能になる。
【0148】
また、本発明では、効果音に含まれるボーカル成分を通常時に比較して低減する処理、或いは効果音に含まれるボーカル成分を遮断する処理が組み込まれたFIRフィルタを用いて効果音を生成するようにしても良い。すなわち、これによって、閉塞感を生じさせる要因となるボーカル成分を効果音から低減または遮断することができ、拡がり感を向上させることが可能になる。
【0149】
また、本発明では、前方の補助スピーカ群から出力される遅延処理が施された直接音に、バンドパスフィルタ処理、ゲイン処理もしくはこれらの処理を組み合わせて行うようにしても良い。すなわち、遅延処理が施された直接音の帯域を制限したり、音量レベルを低減することで、より効果的に奥行き感を向上させることが可能になる。
【0150】
また、本発明では、「方向感制御」(効果音付加制御)を行う場合に、メインスピーカから出力される直接音の出力レベルを通常時に比較して低下させるようにしても良い。すなわち、これによって、拡がり感を向上させるとともに、「空間制御」に伴う音圧の圧迫感を低減させることが可能になる。
【0151】
(4)その他
例えば、本発明に係る「方向感制御」および「空間制御」の各種設定は、ユーザからの入力に基づき任意に設定することができる。例えば、図12に示すように、設定画面200で「方向感制御」および「空間制御」の「ON」/「OFF」の選択入力を受け付けることで、ユーザの意思で「方向感制御」および「空間制御」の「ON」/「OFF」を任意に設定することができる。また、この他に、スピーカ(メインスピーカ)SP1〜SP4、並びに補助スピーカSP−F1、SP−F2、SP−R1およびSP−R2のうち、ユーザが使用を希望するスピーカを任意に受け付けるようにしても良い。
【0152】
また、本実施例において説明した各処理のうち、自動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を手動的におこなうこともでき、あるいは、手動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的におこなうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0153】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本実施例1に係るAVNシステムの概要構成を示す概要構成図である。
【図2】補助スピーカの配設位置を説明する説明図である。
【図3】補助スピーカの配設位置を説明する説明図である。
【図4】メインスピーカに不要振動の少ないスピーカを採用する趣旨を説明する説明図である。
【図5−1】音像の移動を伴わない場合の音像定位制御を説明する説明図である。
【図5−2】音像の移動を伴う場合の音像定位制御を説明する説明図である。
【図6】本実施例1に係るDSPの内部構成を示す図である。
【図7】効果音を出力する音源の移動を説明する説明図である。
【図8】本実施例1に係る音処理部の基本制御手順を示すフローチャートである。
【図9】本実施例1に係る音像定位制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】本実施例1に係る効果音付加制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】メインスピーカおよび補助スピーカの双方を用いて音像定位制御を行った場合における音像可動域の拡張を説明する説明図である。
【図12】設定画面の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0155】
1 AVNシステム
2 ナビゲーションユニット
3 オーディオユニット
4 音処理部
21 GPS
22 経路設定部
23 ガイド内容作成部
24 ガイド音声制御部
25 ガイド表示制御部
31 主制御部
32 オーディオ出力制御部
33 ディスプレイ
41 マイコン
42 フラッシュメモリ
42a 係数テーブル
43 コーディック
44 DSP
45 アンプ
50 運転者
110 セレクタ
120 FIRフィルタ
130 遅延器
GV1、GV2 音像
SP1〜SP4 スピーカ(メインスピーカ)
SP−F1、SP−F2、SP−R1、SP−R2 補助スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の室内に搭載されるメインスピーカと、音声出力を聴取させる対象となる聴取者に対して前方または後方またはその両方に配設される補助スピーカと、から音声出力を行うオーディオ装置であって、
前記メインスピーカと前記補助スピーカから出力される音声信号の音像を所定位置に定位させる音像定位制御、および前記メインスピーカから出力される音声信号の効果音を前記補助スピーカから出力させる効果音付加制御を行う音声出力制御手段を備えたことを特徴とするオーディオ装置。
【請求項2】
移動体の車内に搭載されるメインスピーカと、音声出力を聴取させる対象となる聴取者に対して前方および後方に配設される補助スピーカと、から音声出力を行うオーディオ装置であって、
前記補助スピーカから出力される音声信号の音像を所定位置に定位させる音像定位制御、および前記メインスピーカから出力される音声信号の効果音を前記補助スピーカから出力させる効果音付加制御を行う音声出力制御手段を備えたことを特徴とするオーディオ装置。
【請求項3】
前記音声出力制御手段は、前記音像定位制御と前記効果音付加制御を排他的に行うことを特徴とする請求項1または2に記載のオーディオ装置。
【請求項4】
前記音声出力制御手段は、効果音に係る伝達関数および頭部伝達関数が畳み込まれた係数をデジタルフィルタに反映して、前記補助スピーカから出力される効果音の音像を所望位置に定位させる音像定位制御を行うことを特徴とする請求項1、2または3に記載のオーディオ装置。
【請求項5】
前記所定位置は、聴取者に通知すべき誘導方向に位置するものであって、
前記音声出力制御手段は、各補助スピーカから出力される音声出力のレベル配分を調節して前記音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のオーディオ装置。
【請求項6】
前記音声出力制御手段は、前記誘導方向が聴取者に相対して前方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで前方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、前記誘導方向が聴取者に相対して後方向に位置する場合には、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで後方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のオーディオ装置。
【請求項7】
前記音声出力制御手段は、前記誘導方向が聴取者に相対して前方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで前方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、前記誘導方向が聴取者に相対して後方向に位置する場合には、後方の補助スピーカから出力される音声出力のレベル配分を調節して前記音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のオーディオ装置。
【請求項8】
前記音声出力制御手段は、前記誘導方向が聴取者に相対して後方向もしくは横方向に位置する場合に、音声出力対象の音声信号に伝達関数を畳み込んで後方の補助スピーカから出力される音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行い、前記誘導方向が聴取者に相対して前方向に位置する場合には、前方の補助スピーカから出力される音声出力のレベル配分を調節して前記音像を当該誘導方向に定位させる音像定位制御を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のオーディオ装置。
【請求項9】
前記音声出力制御手段は、初期効果音を畳み込み可能なタップ数を有するFIRフィルタを用いて前記効果音付加制御を行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載のオーディオ装置。
【請求項10】
前記音声出力制御手段は、ハイパスフィルタ処理もしくはバンドパスフィルタ処理が組み込まれた前記FIRフィルタを用いて効果音を生成することを特徴とする請求項9に記載のオーディオ装置。
【請求項11】
前記音声出力制御手段は、効果音に含まれるボーカル成分を通常時に比較して低減する処理、或いは効果音に含まれるボーカル成分を遮断する処理が組み込まれた前記FIRフィルタを用いて効果音を生成することを特徴とする請求項9または10に記載のオーディオ装置。
【請求項12】
前記音声出力制御手段は、後方の補助スピーカから効果音を出力する前記効果音付加制御を行うことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一つに記載のオーディオ装置。
【請求項13】
前記音声出力制御手段は、後方の補助スピーカから遅延処理が施された効果音を出力することを特徴とする請求項12に記載のオーディオ装置。
【請求項14】
前記音声出力制御手段は、前記メインスピーカから出力される音声信号を遅延させて、前記前方の補助スピーカから出力することを特徴とする請求項12または13に記載のオーディオ装置。
【請求項15】
前記音声出力制御手段は、前記メインスピーカから出力される音声信号を遅延させるとともに、バンドパスフィルタ処理、ゲイン処理のいずれかもしくは両方を組合わせて行い、前記前方の補助スピーカから出力することを特徴とする請求項14に記載のオーディオ装置。
【請求項16】
前記補助スピーカは、通常のスピーカに比較して強い指向性を有することを特徴とする請求項1〜15のいずれか一つに記載のオーディオ装置。
【請求項17】
前記補助スピーカのうち前方の補助スピーカは、複数のスピーカが近接された構成であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一つに記載のオーディオ装置。
【請求項18】
前記メインスピーカは、通常のスピーカに比較して不要振動の少ないスピーカであることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一つに記載のオーディオ装置。
【請求項19】
前記音声出力制御手段は、前記効果音付加制御を行う場合に、前記メインスピーカから出力される音声信号の出力レベルを通常時に比較して低下させることを特徴とする請求項18に記載のオーディオ装置。
【請求項20】
前記音声出力制御手段は、前記メインスピーカから出力される音声出力をもとに前記音像定位制御を行う場合に、前記補助スピーカから出力される音声出力で前記音像の可動を支援することを特徴とする請求項18または19に記載のオーディオ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−222686(P2006−222686A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33560(P2005−33560)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】