説明

カーボンナノバッド分子の使用およびこれを含む素子

チューブ状の炭素分子の側面に共有結合された少なくとも1つのフラーレン部分を有するカーボンナノバッド分子(3、9、18、23、29、36)は、素子の中で電磁放射線と相互作用するために使用され、電磁放射線との相互作用は当該カーボンナノバッド分子の緩和および/または励起を介して起こる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノテクノロジーに関する。とりわけ、本発明は、光学活性なナノ材料を使用することに基づく光学素子および光電子素子、ならびにそれらの製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子および光電子素子は、例えば電気通信網および計測学で多くの応用例が見出される。上述の分野の素子は、レーザー、増幅器および検出器などの能動素子、ならびにフィルタ、偏光子および吸収体などの受動素子を含んでもよい。一般に、これらの素子の鍵となるパラメータは、消費電力(能動素子について)、素子の寿命を決定付ける安定性、および素子の機能に関連する種々のパラメータである。機能パラメータは、例えば電磁放射線の可飽和吸収、電磁放射線の偏光依存的吸収、内部量子効率および/または外部量子効率などを挙げることができる。
【0003】
例えばナノチューブ、ナノ細線、フラーレン、量子ドット、ナノ粒子およびナノウイスカーを含めた新規なナノ材料は、光学素子および光電子素子における鍵となるパラメータを調整するための新しい方法を提示する。例えば、非線形光学効果は、素子構造体の中の適切な場所でこれらのナノ材料を使用することにより、素子の中に導入されて増大されうる。光学素子および光電子素子の鍵となるパラメータを改善する上で新しいナノ材料およびナノ構造体は有望性を示すが、それらの材料は、同時に、これらの素子の製造に対して新しい難題を提示する。
【0004】
ナノ構造体の合成のための方法は、その構造体自体に大きく依存する。いくつかのナノ構造体、例えば量子ドットは、MOCVDツールなどの従来の薄膜堆積ツールで合成されてもよいが、他方で、例えばナノワイヤを含む繊維状ネットワーク構造体は、これらの高アスペクト比分子(HARM)の合成および/または堆積のために特別に設計されたツールを必要とする場合がある。それらの新しいナノ材料を含む素子の製作は、分子分解能での物質の操作を必要とすることが多い。高アスペクト比の分子の特定の配向が素子の光学特性に著しい影響を及ぼす可能性があるHARMを含む光学素子では、とりわけこれは、重要である。このような素子の例は、光透過率が入射光の偏光に依存する偏光子(または偏光フィルタ)である。
【0005】
加えて、光学用途では非常に重要なのは、ナノ材料の純度および均質性である。素子の中にHARMを組み込むために、当該分子は、例えばガス流からフィルタにかけられ、および/または溶液の中に分散される。これらの操作は、光学素子の中への不純物の取り込みという危険があり、溶液でのHARMの分散は、均質な材料を得るには一般に不十分である。さらに、分散液は、超音波処理などの過酷な処理の使用ならびに/または界面活性剤および機能化物質の使用を必要とすることが多いが、これらは素子の動作には有害である場合がある。
【0006】
ナノ構造体に基づく現在公知の光学素子および光電子素子の多くの性能は、製作の困難さおよび機能的ナノ材料の特性という問題を抱えている。例えば特許文献1は、光学的結合ゲル(optical coupling gel)または光学接着剤の中にナノ材料を含む組成物を開示する。特許文献1に開示される発明は、光学ゲル(optical gel)または光学接着剤の中でのナノ材料(例えばナノドット)の不均一な分散という問題を抱えている。さらには、特許文献1に開示されるナノ材料から、光学素子または光電子素子用の十分な純度のナノ材料を得ることは困難である場合がある。
【0007】
既存のものの改善のため、ならびに新しい光学素子および光電子素子の開発のために、改善された機能性、純度、多用途性および均質性をもつ新しいナノ材料を見出すことが重要である。分解をもたらさず、かつこれらの素子で利用される材料の鍵となる特性を悪い方向に変えない新しい製造方法を開発することが、同じく重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/025966(A1)号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、フラーレンで機能化されたおよび共有結合されたフラーレンで機能化されたチューブ状の炭素分子を使用することに基づく新しい種類の光学素子および光電子素子を提供することにより、先行技術の上述の技術的問題を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る使用は、独立請求項1に提示されるものによって特徴付けられる。
【0011】
本発明に係る素子は、独立請求項10または独立請求項12に提示されるものによって特徴付けられる。
【0012】
本発明によれば、チューブ状の炭素分子の側面に共有結合された少なくとも1つのフラーレン部分を有するカーボンナノバッド分子が、素子の中で電磁放射線と相互作用するために使用され、この電磁放射線との相互作用は当該カーボンナノバッド分子の緩和および/または励起を介して起こる。
【0013】
本発明に係る素子は、チューブ状の炭素分子の側面に共有結合された少なくとも1つのフラーレン部分を有するカーボンナノバッド分子を含む。この素子は、1以上の少なくとも部分的にp型の電気伝導性カーボンナノバッド分子および1以上の少なくとも部分的にn型の電気伝導性カーボンナノバッド分子を含み、この1以上の少なくとも部分的にp型の電気伝導性カーボンナノバッド分子は、この1以上の少なくとも部分的にn型の電気伝導性カーボンナノバッド分子と電気接触しており、放射性の電子−ホール再結合を可能にする。
【0014】
本発明に係る素子は、チューブ状の炭素分子の側面に共有結合された少なくとも1つのフラーレン部分を有するカーボンナノバッド分子を含み、当該素子のスペクトル特性に影響を及ぼすため、および当該分子に対する電磁放射線の吸収特性の非線形性を増大させるために発色団が当該カーボンナノバッド分子に結合される。
【0015】
これに関して、当該カーボンナノバッド分子と電磁放射線との相互作用は、電磁放射線の吸収または発光を引き起こす当該ナノバッド分子の励起または緩和を含めたすべてのプロセスを含むと理解されたい。発光、吸収および/または電磁放射線との他の相互作用に関連する機能を果たすために1以上のカーボンナノバッド分子を使用してもよい素子の例としては、例えばエミッター、ディスプレイ、レーザー、増幅器、フィルタ、偏光子、光検出器、(例えばカメラ用の)検出器アレイ、生化学センサ、分光学または蛍光関連の応用例で使用するためのマーカー、信号再生器、波形整形回路、分散補償器、波長変換器、光給電アクチュエータ(例えばレーザー駆動のナノモーター)、光スイッチ、リソグラフィープロセス用の構造化増強物質(structurization−enhancing materials)、優れた化学抵抗性、機械的抵抗性または照射抵抗性を有する反射防止(AR)コーティングまたは選択的反射コーティング、増大した情報記憶密度のための写真材料またはホログラフィー材料、および位相または振幅変調器が挙げられる。これらの素子の中の1以上のカーボンナノバッド分子は、例えばネットワーク、堆積物または膜の形態をとってもよいし、またはそれらはマトリクス物質(ガラス、石英、結晶性物質、ポリマー、光学ゲルまたは光学接着剤など)の中に組み込まれてもよい。
【0016】
本発明に従って電磁放射線と相互作用するために使用されるカーボンナノバッド分子を含む部品は、とりわけ種々の光学素子または光電子素子に適している。この理由は、カーボンナノバッド分子についての合成プロセスは、例えば炭素ナノチューブについての従来の合成プロセスよりも純粋で、結晶性でかつ均質な材料を製造することができるということである。これは、付加的な、損傷を与える可能性がある精製工程の必要性がない合成プロセスを可能にする、ナノバッド分子の特有の幾何構造の結果である。この製造方法は、多くの光学的応用例についての高い純度、品質および均質性の要求を満たす材料をもたらす。当該カーボンナノバッド分子は、さらには、当該ナノバッド分子が組み込まれている材料の特性および挙動を改変するために機能化することができる安定でおよび堅牢な構造の中で、チューブ状の炭素分子およびフラーレン分子の機能的特徴部を組み合わせる。これは、可飽和吸収、逆可飽和吸収、光増幅および偏光などの機能を果たす非線形光学用途においてとりわけ有用である可能性がある。加えて、当該カーボンナノバッド分子のフラーレン部分は、当該カーボンナノバッド分子を含む材料の光学特性を変える可能性があるチューブ−チューブ相互作用を回避するかまたは別の態様で制御するために、単純な幾何学的考慮によりまたは当該フラーレン部分の機能化により、ナノバッド分子のチューブ状部分をその隣接分子から隔てるための手段を提供する。当該カーボンナノバッド分子のフラーレン部分はフラーレン分子、またはフラーレン分子含む可能性がある他のフラーレン様の構造であってもよいということに留意されたい。
【0017】
さらには、当該カーボンナノバッド分子のチューブ状部分に結合されたフラーレン部分またはフラーレン様の構造体は、当該カーボンナノバッド分子を含む材料のバンドギャップ(電気伝導性または半導性)を変えるために利用することができる。これによって、当該材料の中での吸収、発光または他の電磁的相互作用が、波長、温度、化学的環境または他の局所的条件の関数として調整されるようになる。当該カーボンナノバッド分子のチューブ状部分に結合されたフラーレン様の構造体は、さらに、直接または別の橋架け分子(エステル基など)を介してのいずれかによる、2つのナノバッド分子間の橋架け分子として使用することができる。これは、例えば、当該ナノバッド分子内でのキャリアの緩和を増大させるため、および/または当該カーボンナノバッド分子を含む材料の回復時間を減少させるため、および/または堆積物もしくは膜の機械的な堅牢性を高めるために利用されうる。
【0018】
本発明の1つの実施形態では、当該カーボンナノバッド分子に対する電磁放射線の吸収特性の非線形性を増大させるために、発色団が当該ナノバッド分子に結合される。
【0019】
本発明の別の実施形態では、当該カーボンナノバッド分子に対する電磁放射線の吸収特性の非線形性を増大させるために、その発色団は当該ナノバッド分子のフラーレン部分に結合される。
【0020】
当該チューブ状部分またはフラーレン部分の中のカーボンナノバッド分子の中の反応性部位に発色団を結合することにより、非線形光学材料が実現されうる。この種の材料は、当該カーボンナノバッド分子の安定性の結果として、先行技術の非線形光学材料と比べて改善された安定性を呈する。発色団は、これに関して、電磁放射線と相互作用するときに所望の光学効果を発生する任意の分子構造として理解することができる。カーボンナノバッド分子の中で非線形光学効果を誘導する発色団の例としては、ポリマー、オリゴマー、単量体および二量体などの有機分子が挙げられる。特に、染料分子、例えばフェノサフラニン(PSF)は、強い非線形吸収特性をカーボンナノバッド分子に誘導する。発色団は、上記の橋架け分子としても作用することができる。
【0021】
当該カーボンナノバッド分子の光学的品質を改善するために、カーボンナノバッド分子は、例えば液状の溶液からの当該ナノバッド分子の分散を使用することなく、気相から直接的に素子構造体の上に堆積することができる。スピンコーティングまたはマトリクス物質の中に分散させることなどの他の製造方法も可能である。国際公開第2007/057501(A1)号パンフレットに詳細に記載されている方法による光学部品構造体などの基板上での気相からの直接のカーボンナノバッド分子の堆積によって、ナノ材料がマトリクス物質の中に分散されている方法と比べて、当該分子のより均一な分布が可能になる。気相からの直接の堆積は、当該カーボンナノバッド分子が気体の中の他の分子または粒子から効率的に隔てられる限り、不純物の混入の危険性および中間の処理工程に起因する特性の変化の危険性をさらに低下させる。参照された方法を用いて当該カーボンナノバッド分子を気相から直接的に堆積することのさらなる恩恵は、個々のカーボンナノバッド分子の光学特性、例えば結晶性および欠陥密度が改善されるということである。さらには、このナノバッド分子は、このプロセスの間に界面活性化(surfacted)されることおよび再び束状構造になる(rebundle)ことができ、これは液体の中または固体基板上でのその分子の分散を促進する。当該カーボンナノバッド分子の汚染の危険性を最小にするために、当該カーボンナノバッド分子の堆積のために使用される基板は、最終的な基板とは異なっていてもよい。カーボンナノバッド分子を含むネットワークは、フィンランド国特許出願第20075482号に記載されている方法を使用して、準備のための基板から最終の基板(これは、例えば光学部品の一部であってもよい)の上へと移されてもよい。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、当該素子は2以上のカーボンナノバッド分子を含み、この2以上のカーボンナノバッド分子は、1つのカーボンナノバッド分子の光捕捉断面を増大させるために互いに隔てられている。
【0023】
素子の中で当該カーボンナノバッド分子が互いの近くに存在するかまたは互いに接触してさえもいる状況とは異なり、当該分子が素子の中で互いに隔てられていることを確実にすることによって、素子の中のカーボンナノバッド分子の平均光捕捉断面は増加されうる。前者の状況では、当該カーボンナノバッド分子は互いを隠し、そのためその平均光捕捉断面が減少する可能性がある。カーボンナノバッド分子の分離を増大させる1つの方法は、堆積段階ですでにこれらの分子の束状構造からカーボンナノバッド分子を隔てることである。これは、例えば束ねられたカーボンナノバッドと個々のカーボンナノバッド分子との間の電荷の差を活用することにより成し遂げられてもよい。増加した光捕捉断面は、当該カーボンナノバッド分子を含む材料において、光学的プロセスの増大を生じる。分離を増大させるための別の方法は、当該カーボンナノバッド分子が処理の間に束状構造になる(bundle)かまたは再び束状構造になる可能性がより低くなるように、例えば、橋架け分子により当該ナノバッド分子のフラーレンまたはフラーレン様の部分を繋ぎ合わせることにより、個々のナノバッド分子を一緒に結合することである。分離を増大させるためのさらに別の方法は、当該カーボンナノバッド分子が束状構造になる可能性がより低くなるように、例えば、適切なマトリクス分子(ポリマーなど)を介して当該ナノバッド分子のフラーレンまたはフラーレン様の部分をマトリクス物質に繋ぎ合わせることにより、個々のナノバッド分子をマトリクスまたは表面材料に結合することである。
【0024】
本発明の1つの実施形態では、当該カーボンナノバッド分子は、電磁放射線を可飽和的に吸収するために使用される。
【0025】
本発明の別の実施形態では、当該カーボンナノバッド分子は、電磁放射線を逆可飽和的に吸収するために使用される。
【0026】
本発明の別の実施形態では、当該チューブ状の炭素分子は電磁放射線を可飽和的に吸収するために使用され、当該チューブ状の炭素分子に共有結合されたフラーレン部分は、電磁放射線を逆可飽和的に吸収するために使用される。
【0027】
本発明のさらに別の実施形態では、2以上の相互に整列したカーボンナノバッド分子は、当該素子の中で電磁放射線の異方性吸収を可能にするために使用される。
【0028】
当該カーボンナノバッド分子の非対称的な形状に起因して、これらの分子は、例えば電場または磁場の中にそれらを置くことにより、容易に静電的にまたは他の態様で思うがままに分極および整列されてもよい。吸収性分子を正確に整列させる可能性のため、カーボンナノバッド分子を含む材料のための異方性の吸収または変調パターンが可能になる。この特徴は、カーボンナノバッド分子の可飽和吸収特性および逆可飽和吸収特性と一緒になって、例えば光電気通信網でのパルス再生で使用することができる波形整形用途のための興味深い機会を提示する。
【0029】
本発明の1つの実施形態では、当該カーボンナノバッド分子は、偏光発光のために使用される。
【0030】
本発明の1つの実施形態では、当該素子は、1以上の少なくとも部分的にn型の電気伝導性カーボンナノバッド分子と電気接触している第1の電極、1以上の少なくとも部分的にp型の電気伝導性カーボンナノバッド分子と電気接触している第2の電極、ゲート電極、およびこのゲート電極を当該カーボンナノバッド分子から電気的に絶縁するためのこのゲート電極とカーボンナノバッド分子との間の絶縁層を含む。
【0031】
本願明細書にこれまで記載された本発明の実施形態は、互いとのいかなる組み合わせででも使用することができる。これらの実施形態のうちのいくつかは、一緒に組み合わされて、本発明のさらなる実施形態を形成してもよい。本発明が関連する使用または素子は、本願明細書にこれまで記載された本発明の実施形態のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0032】
以下で、本発明がより詳細に説明される。添付の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(先行技術)少なくとも1つのフラーレン分子またはフラーレン様の分子構造がチューブ状の炭素分子に共有結合されているカーボンナノバッド分子についての5つの異なる分子モデルを提示する。
【図2】本発明の1つの実施形態に係る発光ダイオードを概略的に提示する。
【図3】本発明の1つの実施形態に係るレーザーを概略的に提示する。
【図4】本発明の1つの実施形態に係る発光FET構造体を概略的に提示する。
【図5】本発明の1つの実施形態に係る素子構成を概略的に提示する。
【図6】本発明の1つの実施形態に係る別の素子構成を概略的に提示する。
【図7a】本発明の1つの実施形態に係る半導体レーザーの長手方向断面を概略的に提示する。
【図7b】本発明の1つの実施形態に係る半導体レーザーの横断方向断面を概略的に提示する。
【図8】本発明の1つの実施形態に係るファイバーレーザーの断面を概略的に提示する。
【図9】本発明の1つの実施形態に係るリングレーザーの構成を概略的に提示する。
【図10】本発明の1つの実施形態に係る別の素子構成を概略的に提示する。
【図11】可飽和吸収機能を概略的に提示する。
【図12】逆可飽和吸収機能を概略的に提示する。
【図13】合わせた可飽和吸収および逆可飽和吸収機能を概略的に提示する。
【図14a】光パルスのストリームに対する可飽和吸収、逆可飽和吸収ならびに合わせた可飽和吸収および逆可飽和吸収機能の効果を提示する。
【図14b】どのようにして、光パルスストリームの中のより狭いパルスが増加したパルス繰り返し数を可能にするかを提示する。
【図14c】カーボンナノバッド系の可飽和吸収体および逆可飽和吸収体を用いて再形成する前の光パルスシーケンスを提示する。
【図14d】カーボンナノバッド系の可飽和吸収体および逆可飽和吸収体を用いて再形成した後の光パルスシーケンスを提示する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1に概略的に図示されるカーボンナノバッド分子は、触媒前駆体(フェロセンなど)、または熱線発生装置から発生された触媒(金属粒子など)、およびナノバッド分子の成長を促進することに加えて、生成物の純度を高めるさらなる薬剤を使用して、例えば、炭素ソース(例えば一酸化炭素)から合成することができる。合成プロセスの詳細は、国際公開第2007/057501(A1)号パンフレット(これを、参考文献として本願明細書に援用する)の中に見出すことができる。
【0035】
カーボンナノバッド分子からの発光に基づく発光体構造を図2に提示する。この構造は、n型Si領域1およびp型Si領域2を含む。これらの領域の間に、絶縁性マトリクス4材料(ドーピングされていないSiまたは酸化ケイ素(SiO)の薄い(厚さ5〜10nm)層など)の中に埋め込まれている直接バンドギャップを有する半導体のカーボンナノバッド分子3を含む絶縁性領域がある。動作時は、この構造体のn型Si1側の電気接点5に負電圧−V/2が印加され、この構造体のp型Si2側の電気接点6に正電圧V/2が印加される。これは、n型Si1側から電子を、およびp型Si2側からホールを絶縁性領域に向かって注入する。ホールおよび電子が絶縁性領域の内側のカーボンナノバッド分子3に出会うと、それらは再結合を経て、有限の可能性で放射性(radiative)となる。
【0036】
カーボンナノバッド分子のバンドギャップは、これらの分子の合成のために使用されるプロセスを調整することにより、目的に合わせることができる。カーボンナノバッド分子のバンドギャップは、例えば、さらなる原子を用いた当該分子の機能化またはキラリティーを調整することにより改変されてもよい。取り囲む絶縁性マトリクス4よりも小さいバンドギャップを有するカーボンナノバッド分子3は、この発光体の内部量子効率を増大させるために、(絶縁性領域の中をトンネルされる)電荷キャリアをカーボンナノバッド分子3へと閉じ込める量子ドットのように動作してもよい。
【0037】
本発明の1つの実施形態では、図2の構造は、レーザーとして機能するように改変されてもよい。改変された構造は、図3に提示される。これは、図2に示された構造体の両側にブラッグ反射器を具える。このブラッグ反射器は、活性媒質が発光材料としてカーボンナノバッド分子を含むFabry−Perot微小キャビティを閉じ込める。このブラッグ反射器は、例えば反射性の高い干渉構造を形成するSi 7およびSiO 8の交互の層を含んでもよい。活性媒質の中で反転分布を成し遂げるのに十分高い速度で電子およびホールがその活性媒質の中へと注入されるとき、レーザー発振が始まる。図3の構造体のレーザー発振波長は、Fabry−Perotキャビティの長さとその発光体、すなわちカーボンナノバッド分子3の基本バンドギャップとの間の相互作用によって決定付けられる。当該ブラッグ反射器の中のSi 7およびSiO 8層の厚さは、そのレーザー発振波長に対して十分に高い反射率が達成されるように調整されるべきである。活性媒質の中への高レベルの電荷注入を達成するために、高度にドーピングされたn型Si 1およびp型Si 2 領域が有益である場合がある。
【0038】
対応する原理に従って動作する図2および図3の発光構造体に対して多くの変更態様が存在する可能性がある。あるいは、n型Si 1およびp型Si 2 領域は、例えば、それぞれ当該構造体のp型側および/またはn型側を形成するp型および/またはn型カーボンナノバッド分子のネットワークによって形成されてもよい。加えて、図3のレーザー構造体では、ブラッグ反射器が反射器構造の中にカーボンナノバッド分子を含んでもよいし、またはSi 7もしくはSiO2 8の層が、カーボンナノバッド分子を含む層によって置き換えられてもよい。
【0039】
発光構造体(図2のLEDおよび図3のレーザー)は、CVDまたはPECVDによってケイ素基板上にSiOおよびSiを堆積することにより、ならびにn型またはp型ドーピングのための適切なアニーリングプロセスを使用することにより、製作されてもよい。あるいは、ナノバッドが使用される場合、適切にドーピングされたn型またはp型ナノバッド分子を堆積させることができる。カーボンナノバッド分子3は、それらをSiとともにまたは絶縁材料(SiOなど)の適切な薄層とともに過剰成長させることにより、この発光素子の活性領域の中へと包埋される。
【0040】
本発明の1つの実施形態に係る素子は偏光源である。この素子は図4に概略的に提示される。この素子構造体は電界効果トランジスタ(FET)に似ており、それはソース電極10とドレイン電極11との間のカーボンナノバッド分子9、ゲート電極12、ゲート誘電体13ならびにドレイン電極11およびソース電極10の上のキャッピング層14を含む。ゲートの電位がソースの電位とドレインの電位との間にあるように電圧をゲート電極12に印加することにより、カーボンナノバッド分子9への同時の電子および正孔の注入が達成される。このようにして、p−n接合が1つのカーボンナノバッド分子9内で生成される。提示された素子内のカーボンナノバッド分子9の中で電子およびホールが再結合するとき、驚くべきことに偏光の発光が観察された。
【0041】
図4の素子、両極性FETの動作は、ソース10およびドレイン11の接点の境界におけるカーボンナノバッド分子9の各端部での薄いショットキー障壁の生成に頼る。この素子が上記のとおり適切にバイアスをかけられるとき、電子およびホールの両方は、ショットキー障壁をくぐりぬけてカーボンナノバッド分子9の中へと到達することができ、偏光発光を生じる。
【0042】
図4の素子は、例えばSiOをp−Si基板ウェーハ上に堆積し、絶縁性SiOゲート誘電体13上にカーボンナノバッド分子を分散させることにより製作されてもよい。Tiドレイン電極11およびソース10電極は、例えばPVDを使用して堆積され、次いで基板上の適切な位置に接点領域を生成するためにリソグラフィーによりパターン形成されてもよい。この段階で、例えば900℃でのAr雰囲気中でのアニーリングが、カーボンナノバッド分子9とTiドレイン11接点、およびTiソース10接点との間の電気接触を改善するために使用されてもよい。この構造体は、薄いSiO2キャッピング層14でキャッピングされてもよい。さらなる本発明の実施形態を形成するために、当該カーボンナノバッド分子は、図4の素子の中で2以上のカーボンナノバッド分子によって置き換えられてもよい。
【0043】
カーボンナノバッド分子のエレクトロルミネセンスに基づく上述の素子に加えて、これらの分子は、種々の機能を果たすために、付加的にまたはもっぱら光により励起されてもよい。これらの機能を果たす本発明の実施形態は、後述する。
【0044】
本発明の1つの実施形態では、1以上のカーボンナノバッド分子は、概略的におよび一般的に図5に図示される素子構成で使用することができる。この構成は、入力光源15、電磁放射線の入力光線16、1以上のカーボンナノバッド分子18を含む透明または半透明の材料17の平板17、電磁放射線の2つの出力光線(透過光線19および出射光線20)ならびに検出素子21を含む。これに関して、透明性は、図5に提示される電磁放射線の光線の波長での透明性として理解されるべきである。入力光源15は、例えばレーザーまたは広帯域光源であってもよく、かつそれは変調されてもよい。検出素子21は、例えば2つの出力光線19、20の波長の放射線を検出する能力を具えたフォトダイオードまたは他の感光性素子であってもよい。
【0045】
図5の透過光線19は、実質的に平板17との相互作用なしに、カーボンナノバッド分子18を含む平板17を透過した入力光線16の一部である。出射光線20は、入力光線16が平板17の中のカーボンナノバッド分子18と相互作用する結果として平板17から発せられる電磁放射線の光線である。
【0046】
平板17の中に包埋されたカーボンナノバッド分子18は、入力光線16の波長、またはいくつかの波長において電磁放射線を吸収してもよい。この吸収は、入力光線16の方向、偏光、強度および波長または波長スペクトル特性などの多くのパラメータに依存して変動する可能性がある。これらの依存性のため、平板17が、例えば通信および測定技術で利用されうる様々な機能を果たすことが可能になる。図5の平板17は、いずれの幾何学的形状をとってもよいことに留意されたい。
【0047】
電磁放射線がカーボンナノバッド分子(1つまたは複数個)18の中で吸収されるとき、電子がその分子の中でより高いエネルギー状態へと移動するため、これらの分子は励起される。同じ分子の緩和が起こるとき、電子はその分子の中でより低いエネルギー状態へと逆に移動し、カーボンナノバッド分子18に特徴的な1以上の波長でエネルギーが放出される可能性がある。驚くべきことに、カーボンナノバッド分子18は、例えば光領域全体にわたって論理演算、光スイッチングおよび変調を果たすために使用することができる非線形フォトルミネッセンスを呈することが観察された。
【0048】
非線形フォトルミネッセンスの結果として、図5の平板17から発せられたルミネセンス光(luminescent light)20の強度は、平板17の中のカーボンナノバッド分子18を励起するために使用される電磁放射線の強度、すなわち入力光線16の強度の非線形関数として変動する。それゆえ、図5の構成では、出射光線20の出力強度は、入力光線16の強度の関数として動的に制御することができる。それゆえ信号プロセシングおよび変調は、より従来的な電気光学変調器とは異なって、純粋な光学部品の中で実施されてもよい。これにより、光学的な信号プロセシングに関連する高スイッチング速度で、純粋に光学的な相互接続、信号プロセシングおよび最終的には論理演算が可能になる。
【0049】
入力光線16の強度が特定の閾値を超えて上昇するとき、突然の発光の増加が平板17から観察される可能性がある。それゆえ使用されるスイッチング制御パラメータは、入力光線16の関連するスペクトル成分のパワーPinである。このパワーの制御は、例えば入力光源15を電気光学的に変調することにより実現されてもよい。出射光線20の得られた強度は、
=σPin
の関係に従う。
【0050】
上記の非線形フォトルミネッセンス特性を呈する1以上のカーボンナノバッド分子18は、例えば国際公開第2007/057501(A1)号パンフレットに開示された上述の合成方法によって合成されてもよい。図5の平板17を製作するために、これらの1以上のカーボンナノバッド分子18は、例えば石英、ホウケイ酸塩または軟質ガラスから構成される透明または半透明な基板の上に堆積される。この透明な基板は、カーボンナノバッド分子18を基板の上に気相から直接的に堆積するために、カーボンナノバッド分子18が合成される反応器の中へと挿入されてもよいし、またはその反応器の後に置かれてもよい。あるいは、当該カーボンナノバッド分子は、フィンランド国特許出願第20075482号に記載されている方法を使用して、最初に準備用の基板の上に堆積されてもよく、次いでカーボンナノバッド分子を含むネットワークが、この準備的な基板から最終の基板(これは、例えば上述の透明または半透明な基板であってもよい)の上へと移されてもよい。
【0051】
非線形増幅についての閾値は、当該カーボンナノバッド分子の合成において使用されるプロセスパラメータに依存する。閾値に影響を及ぼす最も決定的なパラメータは、合成温度(例えば900℃であってもよい)ならびにHOおよびCOなどのさらなる試薬の濃度である。当該ナノバッド分子のチューブ状部分の中の炭素原子は、sp2結合によって互いに連結され六角形の環を形成するはずである。透明な基板上のカーボンナノバッド分子またはカーボンナノバッド分子の堆積された層18は、例えば1以上のカーボンナノバッド分子18を透明または半透明な膜によってコーティングすることにより、透明な構造体(平板17など)の内側に包埋されてもよい。
【0052】
可飽和吸収と呼ばれる別の非線形機能が、図5の単純な構成を使用して実現されうる。この機能があれば、例えば透過光線19の波形が整形されるかまたは変調される可能性があり、このことは、例えば光電気通信網におけるパルス再生においてまたは短レーザーパルスの再生におけるレーザー構成要素において有用である可能性がある。平板17の中のカーボンナノバッド分子18が可飽和吸収体として振る舞うとき、それらカーボンナノバッド分子18は、入力光線16の強度の関数として入力光線16の電磁放射線を吸収する。入力光線16の強度が飽和閾値よりも低い場合、吸収は高く、入力光線16の強度の非常に少ない割合が平板17を透過する。この強度が閾値を超える場合、カーボンナノバッド分子18はもはや入力光線16の放射線を吸収することはできず、飽和閾値(ブリーチング(bleaching)閾値とも呼ばれる)を超える強度の部分は、平板17を透過する。可飽和吸収機能は図11に図示されている。
【0053】
可飽和吸収は、カーボンナノバッド分子により直接的に実現されてもよいし、あるいは例えば当該カーボンナノバッド分子のチューブ状部分、このチューブ状部分の端部、もしくはフラーレン(もしくはフラーレン様の)部分上の反応性部位に発色団を取り付けることにより改変または増大されてもよい。非線形光学におけるこれらの発色団の活性は、その超分極率に基づく。とりわけフェノサフラニン(PSF)は、光学活性なカーボンナノバッド分子を含む材料の中に双極子を作り出すために使用することができる分子である。これらの双極子の生成は、光学活性材料の非線形特性を大きく増大させる。カーボンナノバッド分子は物理的にも化学的にも非常に安定な分子であるので、発色団を用いてカーボンナノバッドを機能化することにより得られる非線形光学材料により、その光学材料の分解の危険性なしに強い光場の使用が可能になる。
【0054】
カーボンナノバッド分子の可飽和吸収機能に基づく可飽和吸収体素子を利用する応用例は、可飽和吸収体ミラーである。これらのミラーは、可飽和吸収機能を果たす平板(平板17など)または層の背後に反射面を具える。可飽和吸収体ミラーは、例えば超短パルス発生のためのキャビティミラーとしてレーザーにおいて利用されてもよい。カーボンナノバッド分子に基づく可飽和吸収体ミラーは、例えば気相からの直接堆積、一次基板からの移動堆積(transfer deposition)、または適切な透明なマトリクス物質(例えばポリマー)の中の合成されたカーボンナノバッド分子を反射面上にスピンコーティングすることにより製作されてもよい。
【0055】
カーボンナノバッド分子は、これらの非線形性を増大させる発色団の結合なしに、それら自体でさえ非線形可飽和吸収特性を呈する。発色団の結合の有無にかかわらず非線形吸収性のカーボンナノバッド分子は、ナノ複合材料を形成するためにゲルまたは光学接着剤の中に組み込まれてもよい。この複合材料の中のマトリクス物質(すなわちゲルまたは接着剤)は、特定の応用例特有の光学特性を有するように選択されてもよい。例えばマトリクス物質の屈折率は、光ファイバーの2つのセクションに光学的に合致するように選択されてもよい。この場合、図5の平板17は一片のナノコンポジット(いずれの幾何学的形態をとることもできる)に対応する。この一片は、入力光線16が伝播する媒質ならびに透過光線19および出射光線20が伝播する媒質を一緒に繋ぎ合わせてもよい。あるいは当該カーボンナノバッド分子は、単純に、図6に概略的に提示されるように、媒質にある切り込みまたは割れ目の中の1以上の表面上に堆積することができる。この切り込みは、(図6に示されるように)は、部分的なものであってもよいしまたは貫通したものであってもよい。この図では、カーボンナノバッド分子18を含むナノコンポジット17の一片は、中実な媒質28の中のビアの中へと堆積される。この中実な媒質は、例えば、レーザーの中または光ファイバーの中の利得媒質であってもよい。
【0056】
上記の光学的ナノコンポジットは、例えば合成されたカーボンナノバッド分子をマトリクス物質の中に取り込むことにより製作されてもよい。次いでこの溶液は、マトリクス物質(これは、例えば液体の光学結合ゲルまたは光学接着剤であってもよい)中のカーボンナノバッド懸濁液を生成するために、例えば超音波処理される。次いでこの懸濁液は、例えば超遠心分離法によって混合される。あるいは、このナノコンポジットは、例えば、ナノバッドが最初に一次基板上で堆積され、次いで二次基板の中へと移動および含浸されるフィンランド国特許出願第20075482号の方法によって製造することができる。
【0057】
カーボンナノバッド分子に基づく可飽和吸収性の膜は、例えばパルスファイバーレーザー、パルス導波路レーザーまたはパルスリングレーザーにおける受動モード同期のためにも使用することができる。これらの素子では、当該カーボンナノバッドに基づく可飽和吸収体は、超短レーザーパルスを生成するために、レーザーキャビティ内部でレーザー発振モードを受動的に変調するために使用される。この可飽和吸収体は、伝送モードで動作するために光学キャビティの内部に置かれてもよいし、またはレーザー発振モードのエバネッセント波との相互作用により動作するために光学キャビティの外部に置かれてもよい。後者の場合、エバネッセント波との相互作用は、例えばテーパーファイバーレーザーまたは非テーパーファイバーレーザーをカーボンナノバッド分子を含む膜でコーティングするか、またはチャネルまたは半導体レーザーの平面導波路上にカーボンナノバッド分子を含む層を堆積することにより、成し遂げることができる。上述のパルスレーザー素子は、例えばフェムト秒範囲の超短レーザーパルスを高い信頼性で生成するために、当該カーボンナノバッド分子の速い回復速度および優れた安定性を利用する。
【0058】
カーボンナノバッド分子と相互作用するエバネッセント波に基づく、可飽和吸収体を利用する受動モード同期レーザーダイオード構造体の概略的な例が、図7aの長手方向断面および図7bの横断方向断面によって提示されている。この構造体は、従来の半導体レーザーの活性領域30の外側の平面導波路に堆積されているカーボンナノバッド分子29を含む。この素子はさらに、上に半導体膜(活性領域30を含む)が堆積されるn型基板31(例えばn−GaAs)を含む。活性領域30は、例えばMOCVD反応器の中で例えばドーピングされたIII−V半導体(n型およびp型GaAsおよびAlGaAsなど)から従来のように製作されてもよく、この素子の活性領域30(利得媒質)は複数の量子井戸を含んでもよい。n型32およびp型33電気接点も図7aおよび図7bに見ることができる。レーザーキャビティは、キャビティミラーの目的を果たす、レーザーチップの劈開面34によって長手方向に画定される。横方向では、キャリア注入は、絶縁性キャリア誘導領域35を製作するために活性領域30を適切にドーピングすることにより制限されてもよい。
【0059】
レーザー発振モードが図7aおよび図7bの素子の活性領域30の中で生成されるとき、当該モードは、劈開面34によって画定される光学キャビティの中を伝播し、このモードの中へと集中される光パワー分布の一部、すなわちエバネッセント波は、カーボンナノバッド分子29と重なる。カーボンナノバッド分子29の可飽和吸収は、レーザーモードの光パワーを受動的に変調し、レーザーのモード同期を生じる。
【0060】
図8は、伝送モードで可飽和吸収体として作用するために、カーボンナノバッド分子36は、モード同期ファイバーレーザーのキャビティ37の内部にどのように配置されてもよいかを概略的に提示する。図8では、カーボンナノバッド分子36は、レーザーキャビティ37の長さを画定するファイバーブラッググレーティング38のうちの1つに近い、キャビティ37の端部に配置される。この構成では、レーザーキャビティ37の中で誘導される光学モードは、それらがカーボンナノバッド分子36を含む領域を通過するにつれて、可飽和吸収によって変調される。本発明の1つの実施形態では、モード同期のために可飽和吸収機能を果たすために、当該カーボンナノバッド分子は、キャビティミラーの一部としてレーザーの中に包埋されてもよい。
【0061】
図9は、モード同期を成し遂げるために、当該カーボンナノバッド分子はリングレーザー構成の中の可飽和吸収体においてどのように利用されうるかを概略的に提示する。この構成は、例えば光カプラーを用いてこの平板の入力側および出力側にて光ファイバー39のリングに適切に連結されたカーボンナノバッド分子18を含む平板17などの可飽和吸収性要素を含む。この構成はさらに、50:50カプラー40、第1の光アイソレータ41、第2の光アイソレータ42およびエルビウムドープファイバー増幅器(EDFA)43を含む。EDFA 43は、ポンプレーザー(図示せず)を用いて光学的に励起される。
【0062】
図9のモード同期リングレーザー構造体では、EDFA 43は利得媒質の目的を果たし、第1の光アイソレータ41はリング39の中での光の逆(反時計方向の)伝播を防ぎ、第2の光アイソレータ42は出力光路44の中での光の逆伝播を防ぐ。50:50カプラーは、リング39の中を伝播する光の強度の半分を出力光路44に結合し、他方の半分をEDFA 43へと戻す。図9のリングレーザーによって支持されるレーザー発振モードの波長は、リング39の周りのこれらのモードについての伝播経路の光路長によって決定される。支持される波長は、光の建設的干渉がファイバーリング39の周りを伝播する各波に対して達成されるようでなければならない。これにより、EDFA 43の中での対応するモードへの光の誘導放出が可能になる。可飽和吸収性のカーボンナノバッド分子18を含む平板17が図9に提示されるようにリングキャビティ内に配置される場合、平板17が果たす可飽和吸収機能は、レーザー発振モードを変調し、リングレーザーの受動モード同期をもたらす。
【0063】
可飽和吸収特性を有するカーボンナノバッド分子は、国際公開第2007/057501(A1)号明細書に開示されている方法を用いて合成されてもよい。発色団(例えばPSF)をこれらの分子に結合するために、当該カーボンナノバッド分子は、当該カーボンナノバッド分子のチューブ状部分および/またはフラーレン部分上にカルボキシル基を形成するために、まず酸の中、例えばHSO/HNOの中で処理することができる。次いでPSF分子は、カルボキシル化されたカーボンナノバッドを、PSFを含有する脱イオン水の中に漬けることによりこれらのカルボキシル基に結合することができる。
【0064】
本発明の1つの実施形態に係る別の素子構成が図10に提示されている。この構成は、2つのミラー、後面ミラー24と前面ミラー25との間に非線形吸収性のカーボンナノバッド分子23を含む層22を含む。この干渉構造は、入力光26とカーボンナノバッド分子23との相互作用を増大させるために使用されてもよい。(入射光26の側から見ると)ナノバッド層の背後のミラーである後面ミラー24は非常に高い反射率を有し、そのため、入射光26は後面からこの構造体を抜けることはできない。光がこの構造体に突き当たるとき、光はあまり反射的でない前面ミラー25を透過し、2つのミラー24、25間での複数の反射を経て、その後、前面ミラー25の側からこの構造体を抜ける。カーボンナノバッド分子23を含む層22を通る各通過の間に、入射光26の一部はナノバッド層22と相互作用し、これにより全相互作用体積が増加する。2つのミラー24、25間にある光学キャビティはそのキャビティの長さに依存して特定の波長しか支持しないため、この種の干渉計は、さらに、スペクトル選択性を呈する。図10の素子構成は、電圧Vがカーボンナノバッド分子23を含む層22にわたって印加されてもよいように、電気接点27をさらに含む。この電圧Vは、例えば層22の光学特性を電気的に変調するために使用されてもよい。
【0065】
図5の平板17または図10の層22が効率的に非線形光学部品として作用するためには、平板17または層22の光吸収体積は最大化されなければならない。この目的のために、1つのカーボンナノバッド分子あたりのカーボンナノバッド分子の平均光捕捉断面は最大化されなければならない。この平均光捕捉断面は、平板17または層22の中で当該分子が互いに隔てられているということを確実にすることにより、増加される可能性がある。カーボンナノバッド分子の分離を増大させるための1つの方法は、堆積段階ですでにそれらをこれらの分子の束状構造から隔てることである。これは、例えば束ねられたカーボンナノバッドと個々のカーボンナノバッド分子との間の電荷の差を利用することにより成し遂げられてもよい。光捕捉断面の増加は、当該カーボンナノバッド分子を含む材料の中での光プロセスの増大をもたらす。
【0066】
本発明の1つの実施形態では、当該素子はカーボンナノバッド分子の逆可飽和吸収機能を利用する。例えば図5の場合、逆可飽和吸収は、入力光線16の吸収が入力光線16の強度の関数として増加するということを意味する。従って、カーボンナノバッド分子18、またはカーボンナノバッド分子を含む一片の材料(図5の平板17など)は、保護素子における光リミッタとして利用されうる。これらの素子は、例えば光学センサおよび眼の保護設備で応用される可能性がある。逆可飽和吸収機能は図12に図示されている。驚くべきことに、当該カーボンナノバッド分子のフラーレン部分は逆可飽和吸収体として効率的に作用するということが観察された。とりわけ、フラーレン様の構造体またはフラーレン、例えばバックミンスターフラーレンC60は、カーボンナノバッド分子における効率的な逆可飽和吸収体であるということが観察された。加えて、当該カーボンナノバッド分子のチューブ状部分は、それ自体でまたは発色団による機能化を介して上記のとおりの可飽和吸収特性を呈するので、そのカーボンナノバッド分子は異方的に機能する光学素子または光電子素子のための非常に優れたプラットフォームを提供する。
【0067】
加えて、当該ナノバッド分子のフラーレン部分の逆可飽和吸収機能は、可飽和吸収機能と組み合わせて、上述の本発明の実施形態のうちのいずれかにおけるカーボンナノバッド分子を含む領域を透過した電磁放射線の強度を制限するために使用することができる。当該ナノバッドの中のフラーレン部分の濃度を制御することにより、逆可飽和吸収効果を制御することができる。この機能は、例えば、素子の出力強度を制限するため、または過剰の電磁エネルギーが原因となる損傷から素子の部分を保護するために使用することができる。
【0068】
当該カーボンナノバッド分子は可飽和吸収(ナノバッド分子のチューブ状部分)および逆可飽和吸収(ナノバッド分子のフラーレン部分)の特徴の両方を呈するので、これらの分子は、可飽和吸収および逆可飽和吸収機能を兼ね備える図13に係る入力−出力関係を生成するために容易に使用されてもよい。この関係は、例えば図5の素子構成において入力光線16と透過光線19との間で観察される可能性がある。この種の多用途の入力−出力機能は、例えば光信号処理、パルス再生、波形整形および光スイッチングの応用例で効率的に使用することができる。
【0069】
図14aに示されるように、可飽和吸収機能を兼ね備えた逆可飽和吸収機能により、電磁パルスが整形されるようになる。図14aは、例えば、より長い立ち上がり時間および立ち下がり時間を有する幅広い、十分に形成されていない元のパルスシークエンス45から、より急激な立ち上がり時間および立ち下がり時間を有するより方形のパルスを生成するために、元のパルスシークエンス45が、本発明の1つの実施形態に係る可飽和吸収機能のみにより(46)、逆可飽和吸収機能のみにより(47)、および可飽和吸収および逆可飽和吸収機能の組み合わせにより(48)、どのように改変されるかを図示する。このような改変されたパルスはより狭くかつ検出素子によって分離することがより容易であり、従って例えば光ファイバーにおける光情報ストリームのパルス繰り返し数および帯域幅の増加が可能になる。改善されたパルス間隔は、記載された方法を用いて再形成する前(図14c)およびした後(図14d)のパルスについて、図14cおよび図14dに示されている。より狭いパルスの結果としてパルス繰り返し数を増加させることができるということは、4つの異なるパルスシークエンスを異なる点線で図示する図14bから明らかになる。これらのパルスシークエンスでは、これらの別々のパルスは容易に分離することができる。
【0070】
例えば、カーボンナノバッド分子の中のフラーレン部分の濃度、マトリクス物質の中のナノバッド分子の濃度、ナノバッド分子の直径、ならびに例えば発色団を用いたナノバッド分子の機能化の種類および量の調整は、電磁放射線に当該カーボンナノバッドが加える変調機能を決定するために、従って得られたパルス波形および強度を決定するために、使用することができる。
【0071】
カーボンナノバッド分子の非対称の形状から生じる分極を使用することにより、カーボンナノバッド分子は、外部電場に曝すことにより、特定の方向に整列されてもよい。この整列はカーボンナノバッド分子の逆可飽和吸収性のフラーレン部分および可飽和吸収性のチューブ状部分の相対的な配向を決定付けるので、電磁放射線の入力光線(例えば図5の入力光線16)が、当該カーボンナノバッド分子に対する入力光線の入射角に依存して可飽和吸収または逆可飽和吸収を経験する素子を設計することが可能である。
【0072】
当業者には明らかなように、本発明は上記の実施例には限定されず、それらの実施形態は、特許請求の範囲の範囲内で、制限なしに変更されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子の中で電磁放射線と相互作用するための、チューブ状の炭素分子の側面に共有結合された少なくとも1つのフラーレン部分を有するカーボンナノバッド分子(3、9、18、23、29、36)の使用であって、電磁放射線との相互作用は前記カーボンナノバッド分子の緩和および/または励起を介して起こる、使用。
【請求項2】
前記カーボンナノバッド分子は、電磁放射線を可飽和的に吸収するために使用される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記カーボンナノバッド分子は、電磁放射線を逆可飽和的に吸収するために使用される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記チューブ状の炭素分子は、電磁放射線を可飽和的に吸収するために使用され、前記チューブ状の炭素分子に共有結合された前記フラーレン部分は、電磁放射線を逆可飽和的に吸収するために使用される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
2以上の相互に整列したカーボンナノバッド分子が、前記素子の中で電磁放射線の異方性吸収を可能にするために使用される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記カーボンナノバッド分子は偏光発光のために使用される、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記ナノバッド分子に対する電磁放射線の吸収特性の非線形性を増大させるために、発色団が前記カーボンナノバッド分子に結合される、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記ナノバッド分子に対する電磁放射線の吸収特性の非線形性を増大させるために、前記発色団は前記カーボンナノバッド分子の前記フラーレン部分に結合される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記素子は2以上のカーボンナノバッド分子を含み、前記2以上のカーボンナノバッド分子は、1つのカーボンナノバッド分子の光捕捉断面を増大させるために互いに隔てられている、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
チューブ状の炭素分子の側面に共有結合された少なくとも1つのフラーレン部分を有するカーボンナノバッド分子(3、9、18、23、29、36)を含む素子であって、前記素子は、1以上の少なくとも部分的にp型の電気伝導性のカーボンナノバッド分子および1以上の少なくとも部分的にn型の電気伝導性カーボンナノバッド分子を含み、その結果、前記1以上の少なくとも部分的にp型の電気伝導性カーボンナノバッド分子は、前記1以上の少なくとも部分的にn型の電気伝導性カーボンナノバッド分子と電気接触しており、放射性の電子−ホール再結合を可能にすることを特徴とする、素子。
【請求項11】
前記素子は、前記1以上の少なくとも部分的にn型の電気伝導性カーボンナノバッド分子(9)と電気接触している第1の電極(10)と、前記1以上の少なくとも部分的にp型の電気伝導性カーボンナノバッド分子(9)と電気接触している第2の電極(11)と、ゲート電極(12)と、前記ゲート電極(12)を前記カーボンナノバッド分子(9)から電気的に絶縁するための前記ゲート電極(12)と前記カーボンナノバッド分子(9)との間の絶縁層(13)とを含む、請求項10に記載の素子。
【請求項12】
素子であって、チューブ状の炭素分子の側面に共有結合された少なくとも1つのフラーレン部分を有するカーボンナノバッド分子(3、9、18、23、29、36)を含み、前記素子のスペクトル特性に影響を及ぼすため、および前記分子に対する電磁放射線の吸収特性の非線形性を増大させるために、発色団が前記カーボンナノバッド分子に結合されることを特徴とする、素子。
【請求項13】
前記素子のスペクトル特性に影響を及ぼすため、および前記分子に対する電磁放射線の吸収特性の非線形性を増大させるために、前記発色団は前記カーボンナノバッド分子の前記フラーレン部分に結合される、請求項12に記載の素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14a】
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【図14b】
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【図14c】
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【図14d】
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【公表番号】特表2011−526699(P2011−526699A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515506(P2011−515506)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050578
【国際公開番号】WO2009/156596
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(510334941)
【Fターム(参考)】