説明

ガスクラスターイオンビームの改良された処理方法および装置

ガスクラスターイオンビーム(GCIB)中のガスクラスターイオンエネルギー分布を修飾して、対象物を処理するための改良された装置および方法に関する。減圧環境下で、ビームに加圧領域を通過させることにより、高エネルギーガスクラスターイオンを発生させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクラスターイオンビームにより表面処理を行う方法および装置に関し、特に、表面処理効果が改善された、修飾ガスクラスターイオンビームの処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面処理のためにクラスターイオンビームを使用することは公知である(例えば、米国特許5814194;デグチら)。ガスクラスターとは、標準温度と圧力下で気体状態である物質のナノサイズ集合体のことを言う。そのようなガスクラスターは典型的には緩く結束した数個から数千個の分子から成る集合体で構成されている。クラスターは電子衝撃等によってイオン化でき、制御可能なエネルギーを有する方向性ビームにすることができる。そのようなイオンは典型的には、それぞれがq×e(eは電荷であり、qは1以上の整数でクラスターイオンの荷電状態を表す)の正電荷を運搬する。非イオン化クラスターもまた、クラスターイオンビームの中に存在するかもしれない。大型クラスターイオンはしばしば最も有効である。なぜなら、クラスターイオン当たりのエネルギーを多量に運ぶことができるだけでなく、分子当たりのエネルギーは抑えることができるからである。クラスターは衝撃により分解し、個々の分子は全クラスターイオンのエネルギーのほんの一部を運搬しているだけである。その結果、大型クラスターイオンの衝撃効果は多大であるが、非常に浅い表面領域に限定される。このことから、クラスターイオンは様々な表面改質処理に有効利用でき、従来のモノマーイオンビーム処理による深い内層面の損傷を抑えることができる。
【0003】
ガスクラスターイオンビーム(以下GCIBという)の製造および加速方法は米国特許5814194に述べられている。ここでは、その内容を引用する。現在、利用可能なクラスターイオン源は多分散のサイズNを有するクラスターイオンを発生させる(Nは各クラスターイオンの分子数、アルゴンのような単原子ガスの場合には、単原子ガスは分子として扱い、そのような単原子ガスのイオン化された原子は、分子イオンまたは単にモノマーイオンとして扱う)。
【0004】
多くの有益な表面処理効果はGCIBsで表面を衝撃処理することにより達成される。これらの処理には限定されないが、洗浄、平滑化、エッチング、ドーピング、膜形成ないし膜成長などが含まれる。多くの場合、GCIB処理によって産業上の実用的な生産を達成するために、GCIB電流が数百から数千マイクロアンペア必要であることが知られている。GCIBの強度およびイオン化を増強する努力は、より高い電荷の状態のクラスター(q>1)の生産に向けられている。イオン化が電子衝撃によって行われるとき、ランダムな電子衝撃が進行する。非イオン化されたクラスターに対するイオン化されたクラスターの比率を高めるためには、電子衝撃が高くなければならず、その荷電状態の分布はおおよそ以下のポアソン統計式P(q)に近似する。
【0005】
(式1)

【0006】
(式中、qは荷電、

はイオナイザー処理後の平均イオン化クラスターの電荷状態を示す。)
【0007】
このように、高くイオン化されたクラスタービームは、ビーム中に高度に荷電したクラスターイオンを含んでいる。たとえば、理論的にGCIBの95%の荷電状態が平均して3とすれば、8%以上が6以上の荷電を有する。しかし、そのような高荷電状態のクラスターは、荷電交換反応や、部分的に蒸発し得るので、荷電状態の分布やエネルギー分布が異なることとなり、実用的ビームにおいては正確な荷電状態、エネルギー分布を容易には予測できない。
【0008】
従来技術においては、イオンビームの最適な運搬は低圧力状態下に達成されると理解されている。また、産業上の経済的スケールにおいて、物質表面の効率的な処理のために通常必要とされる適度な高強度GCIBsが、ガスクラスターイオンの形で本質的な量のガスを標的部位に運搬されることも知られている。GCIBのガスクラスターイオンが標的に到達したとき、クラスターは分解して分子状のガスとして放出される。GCIBが標的部位に衝突し、ビーム全体のガス負荷が放出されるのである。アルゴンビームの有するビーム電流をIとし、ガス流をF(sccm)とすると、ビームの運搬は下式により表される。
【0009】
(式2)

【0010】
この式によれば、ビーム電流400μAでN/q比5000のとき、ビームは27sccmのガス流を運搬する。典型的なGCIB処理装置の場合には、このガス負荷に対する低圧環境維持のために、大容量、複数の真空ポンプが採用される。
【0011】
高強度GCIBsは多様な荷電状態のクラスターを含んでおり、加速電圧VAcc(数kV程度)で加速すると、ビームに対してq値が加わり、q・VAccの増加したエネルギーをもつクラスターが生成する。一般的に、対象物の表面をGCIBを用いて処理すると得られる多くの有益な効果は、ビーム内のガスクラスターイオンのエネルギーに依存している。たとえば、表面のエッチングは、高いエネルギーのクラスターを用いればより早く進行する。GCIB処理の他の有利な適用としては、表面のスムージング(平滑化)があり、他の方法に比べて原子或いは近原子レベルで優れた効果を示す。ある種のビーム状態におけるGCIBによる表面処理は、例外的平滑面を生じるが、GCIB処理が表面を常に平滑にするとは限らないことに留意すべきである。事実、初期表面が比較的平滑であるときは、GCIB処理により却って表面を荒らす場合もある。表面のエッチングやスムージングは、状況に応じて実施する。処理条件を最適化する通常の技術(たとえば、クラスターガス源の選択や、加速電圧の選択、GCIB電流の選択、GCIB処理方法の選択など)を使用するとき、すでに平滑な表面に対する、適度なエッチング速度(同時に進行するスムージング速度)や表面を荒らさないようにする適当なGCIBビームの条件がしばしば見つからない。GCIB処理による進取的なエッチング速度は、通常高エネルギー、高強度のGCIB状態を必要とするが、表面を荒らさず平滑化するためには、低いエネルギーの(もしくはエッチングのためには実用的ではない状態の)ビームが望ましいことも知られているのである。そのような場合、所望の目的を達成するためにいくつかのGCIBステップを組み合わせることが必要であった。そのようなプロセスとしては、最初のビーム状態を進取的(aggressive)なエッチングができる条件、次いで最初のエッチングにより生じた荒さを減少させるようなエッチング条件、そしてエッチングが生じないがスムージングできるような条件による他のステップを適用する。そのようなステップの組み合わせもしくは複合化は、期待される最終的な結果には到達していないけれども、ある重要なプロセスにおいて低い生産性ではあるが技術的には知られている。たとえば、フェンナーらの米国特許6375790には、多段階の処理をGCIB処理装置に適用させて、そのような複合処理が可能であることを開示している。
【0012】
GCIBの形成にイオン化ガスクラスターの生産に有効なイオナイザーを適用すると、広い範囲のイオン化された状態のビームが得られるが、これらは対象物のGCIB処理による高生産性が求められる場合に必要な強力なビーム(式1で示すような)の生産条件では、特にマルチイオン化されたガスクラスターが含まれている。そのようなビームに、適度なエッチング速度を得るためのエネルギーを与えるのに十分な状態で加速されると、表面のスムージングだけでなく、表面を荒らす方向にも作用する。この問題は、GCIBプロセスの複合化または多段階化によって少なくとも軽減はされるが、所望の速度での生産性を上げてはいない。さらに、多くの異なるビーム状態を有する複合化処理であっても、究極レベルの平滑化は得られておらず、他の重要な処理方法が必要とされているのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の通り、本発明の目的は、良好なエッチング能力だけでなく良好なスムージング能力を有するビームを形成する特徴を有するGCIBの修飾方法を提供することを目的とする。
【0014】
本発明の他の目的は、より表面のスムージング能力が改善されたビームを形成する特徴を有するGCIBの修飾方法を提供することを目的とする。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、対象物を高いエッチング速度で、究極の平滑面を形成するための能力を有するGCIBを修飾する装置を提供することを目的とする。
【0016】
そしてまた、他の目的は、より表面のスムージング能力が改善されたGCIBの製造装置であって、GCIBを修飾する装置を提供することを目的とする。
【0017】
そして、これらの目的は本発明における、GCIBの形成の間に環境圧力およびその幾何学的コントロールによって達成された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の理解を助けるため、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は従来技術による典型的なGCIB処理装置100の基本構成を示す概略図である。この装置の真空容器102は3つの連通チャンバーであるビーム源チャンバ104、イオン化/加速チャンバ106および処理チャンバ108に分割されている。これらの3つのチャンバはそれぞれ真空ポンプシステム146a、146bおよび146cで適当な作動圧に減圧されている。ガス保存シリンダ111に保存された濃縮性ガス112(たとえばアルゴンまたはN)はガス測定バルブ113とガス供給チューブ114を介して滞留チャンバ116に圧力下で送られ、適当な形状のノズル110を介して低圧の真空チャンバ内に放出される。そこで超音速ガスジェット118が発生する。ジェット流の膨張により冷却され、ガスジェット118の一部がクラスターに濃縮される。それぞれのクラスターは数個から数千個の弱い結合原子または分子で構成される。高圧が有害である下流領域(たとえばイオナイザー122、高電圧電極126、処理チャンバ108)で圧力を最小にするために、クラスタージェットから、クラスタージェットに濃縮されなかったガス分子を、ガススキマー開口部120が部分的に分離する。ここで適当な濃縮性ガス112は、限定されないが、アルゴン、窒素、二酸化炭素、酸素、その他のガスおよびガス混合物である。
【0020】
ガスクラスターを含んだ超音速ガスジェット118が形成された後に、クラスターはイオナイザー122内でイオン化される。イオナイザー122は典型的には電子衝撃型イオナイザーであり、1以上の白熱フィラメント124から熱電子を発生させ、電子を加速および指向させて、イオナイザー122をジェットが通過する際にガスジェット118内のガスクラスターと衝突させる。電子衝撃によって電子がクラスタから飛び出し、クラスターの一部が正にイオン化される。またあるクラスターは1個以上の電子を放出し、多重イオン化(multiply ionized)される。適切にバイアスされた高電圧電極126のセットはイオナイザーからクラスターイオンを抽出して、ビームを形成および加速して所望のエネルギー(典型的には数百Vから数百kVあるいはそれ以上)を与え、それらを合焦(focuses)させてGCIB128を形成させる。フィラメント電源136は、フィラメントに電圧Vを与え、イオナイザーフィラメント124を加熱する。アノード電源134はアノード電圧Vを与えフィラメント124から飛び出す熱電子を加速してクラスター含有ガスジェット118を照射してイオンを発生させる。導出電源138は導出電圧Vを与え高電圧電極をバイアスしてイオナイザー122のイオン化領域からイオンを導出し、GCIB128を形成する。加速電源140は加速電圧VAccを与え、イオナイザー122に関する高電圧電極をバイアスし、全GCIB加速ポテンシャルをVAccと等しくする。一以上のレンズ電源(142、144など)が与えられ、焦点電位(VL1、VL2など)の高電圧電極をバイアスしてGCIB128を焦点させる。
【0021】
GCIBで処理される半導体ウェハーまたは他の対象物である対象物152は対象物ホルダー150に保持され、GCIB128の通路内に配置される。ほとんどの適用形態では、大型対象物を空間的に均質に処理することを期待するので、スキャン処理システムは空間的に同種の結果を生じるように大きなエリアでGCIB128を均質にスキャンすることが望ましい。
【0022】
GCIB128は変化せず、軸129を有し、対象物152はその表面をGCIB128によって効果的に処理するために機械的にスキャンされる。Xスキャンアクチュエーター202は対象物ホルダー150に直線運動を与え、紙面に対して垂直方向への動作208を行う。Yスキャンアクチュエーター204は対象物ホルダー150に同様に直線運動を与え、Xスキャン動作208に直交するようにYスキャン動作210の方向へ動かす。XスキャンとYスキャン動作の組み合わせによって、対象物ホルダー150に保持された対象物152が動かされ、GCIB128を通してラスターの様な(raster- like)なスキャン動作をすることにより、GCIB128による対象物128表面の均質な(もしくはプログラムされた)照射が行われる。対象物152をGCIB128の軸に対して傾斜して、対象物ホルダー150に保持することにより対象物152の表面に対するビーム入射角206を持たせる。ビーム入射角206は通常90度もしくはそれ以外の角度であってよく、典型的には90度または90度近辺である。Yスキャン処理の間に、対象物ホルダー150に保持された対象物152は152Aと150Aで示された位置を交互に移動する。これら2つの位置間での移動中に対象物152がGCIB128のスキャンを受け、両端の位置においてはGCIB128の通路から完全にはずれている(オーバースキャン)ことが分かる。図1には明確に示されてはいないけれども、Xスキャン動作の方向208(紙面に対して垂直方向)に対しても同様にスキャンおよびオーバースキャンがされているのである。
【0023】
ビーム電流センサ218はGCIB128の通路の対象物ホルダー150の後ろに設けられ、対象物ホルダー150がGCIB128の通路をスキャンアウトされたときGCIB128のサンプルをとらえる(intercept)。ビーム電流センサ218は典型的にはファラデーカップなどであり、ビームの入射口を除いて閉じられており、電気絶縁マウント212で真空容器102の壁に固定されている。
【0024】
マイコンベースのコントローラ220はXスキャンアクチュエーター202とYスキャンアクチュエーター204に電気的ケーブル216を介して接続され、両アクチュエーターを制御して対象物152がGCIB128の内外に出入りさせ、GCIB128に対して均一的にスキャンし、GCIB128による対象物152の適切な処理を実現する。コントローラ220はリード214を介してビーム電流センサ218で集められるビーム電流のサンプルを受信し、GCIBをモニターし、所定のGCIB照射量が投射されたときにGCIB128から対象物152を取り除くことによりGCIBの照射量を制御する。
【0025】
図2は本発明の具体例としてGCIB処理装置300の概略を示す。調節壁(baffle)302(複数の調節板を用いても良いが、例では簡略化するために一枚の板のみ示している)は分離された圧力チャンバ304を形成し、イオン化/加速化チャンバ106および処理チャンバ108の圧力よりも高い圧力を加えることができる。
【0026】
イオン化/加速化チャンバ106はGCIB128を圧力チャンバ304へ導入するためのイオン化/加速化チャンバ開口部306を有している。調節壁302は、圧力チャンバ304からGCIB128の出口となる圧力チャンバ開口部308を有する。圧力チャンバ304を通過するGCIB128は、その通路Dに沿った、長さdを有する。また調節壁302は、処理チャンバ108に対して1以上の開口部310を有していてもよい。圧力チャンバから処理チャンバ108通じるこの圧力チャンバ開口部308および付加的な開口部310は、トータルのガスコンダクタンスCを有する。イオン化/加速化チャンバ306のガスコンダクタンスはCである。圧縮ガス314はガス保存シリンダ312内に保存されている。圧縮ガス314は好ましくは不活性ガスであり、好適にはアルゴンである。ガス計測バルブ316は好ましくはマスフローコントロールタイプの計測バルブであり、ガス供給チューブ318およびディフューザ320を通して圧力チャンバ304に圧縮ガス314を調整しつつ流している。圧力チャンバ304に導入されたガス314は、イオン化/加速化チャンバ106および処理チャンバ108の基礎圧力と比較して、圧力チャンバ304内を加圧する。
【0027】
INはディフューザ320を通して圧力チャンバ304内に流れ込むガス流量を示す。
は圧力チャンバ304とイオン化/加速化チャンバ106の間のイオン化/加速化チャンバ開口部306を通る流量を示す。
は圧力チャンバ304と処理チャンバ108の間の圧力チャンバ開口部308および開口部310を通る流量を示す。
は圧力チャンバ304内の真空圧を示し、
は処理チャンバ108内の真空圧を示し、(図2には示されてはいないが)通常の真空圧ゲージを用いて測定した値であり、
はイオン化/加速化チャンバ106内の真空圧を示し、前記同様に測定した値である。
前記を用いて以下の式にて表すことができる。
【0028】

【0029】
コンダクタンスCおよびCは計算もしくは経験上決定でき、QINはガス計測バルブ316(好ましくはマスフローコントロールバルブ)によって制御できる。またPおよびPは通常の真空圧センサを用いて測定できるから、式5(もしくは式6の条件が満たされれば式7)を使用することによって、Pが既知量として表されるので、ガス計測バルブ316の調整により容易に制御することができる。
【0030】
また、任意に、圧力センサ322は圧力チャンバ304の中に設けることもできる。圧力センサ322はケーブル324によって圧力コントローラおよび読み出し表示装置326とつながっている。圧力コントローラと読み出し表示装置326は圧力チャンバ304内の圧力を直接読み取る。
【0031】
圧力チャンバ304はPおよびPより高い圧力Pを有する。GCIB128は高圧の圧力チャンバー304を通過するので、以下に示されるように、GCIBの特性はその処理の適合性を向上させる方向で修飾される。GCIBの修飾の程度は圧力Pおよび圧力チャンバ304内のGCIBの通過距離dに関係がある。より明確には、PがGCIB通路Dに沿ってほぼ一定の時は、GCIB特性の修飾程度は、圧力Pと距離dの積に(P)に関係する。圧力チャンバ内の圧力Pが通路Dに沿っていくらかの空間的変化を持っているときは、GCIB特性の修飾程度は、通路D(圧力−距離のインテグラル(PDI))に沿って、0からdまでの積分(P(x)・dx)に関係する。圧力−通路距離の積および/またはPDIは共に単位(torr・cm)として表すことができる。
【0032】
図3は本発明の第二の具体例であるGCIB処理装置350を表す概略図である。圧縮ガス314はガス保存シリンダ312内に保存されている。圧縮ガス314はたとえばアルゴンのような不活性ガスが好ましい。マスフローコントロールバルブ352は、圧力チャンバ304内のガス供給チューブ318およびディフューザ320を通る圧縮ガス314の流れを制御する。マイクロプロセッサベースのプログラム可能な多目的コントローラ358は、GCIB処理装置350の部分的ないし全体の制御に用いられ、圧力センサ322からケーブル324、圧力センサコントローラおよび読み出し表示装置326、ケーブル360を通して圧力チャンバ304内の圧力測定信号を受信する。コントローラ358はまたケーブル360、マスフローコントローラ356、ケーブル354を通してマスフローコントロールバルブ352を制御し、圧力チャンバ304内へのガス314の流入をセットし調整する。圧力センサ322からの圧力測定信号が利用されるかどうかに応じて、コントローラ358は開ループもしくは閉ループの制御アルゴリズムによる圧力チャンバ304内の圧力Pを制御する能力を有する。コントローラ358は他のセンサからの信号も受信し、ケーブル360を通してGCIB処理装置350の総合制御の一部として他のシステムへ制御信号を送信する。これら他の接続は識別子(identifier)362によって表される。
【0033】
図4は本発明の第三の具体例であるGCIB処理装置400を表す概略図である。イオン化/加速化チャンバ106と処理チャンバ108は互いに連通しており、実質的に同じ圧力PP2を有する。圧力セル402は、PP2よりも高い圧力PC2を、その圧力セル内部408においてかけることができる。圧力セル402は圧力セル入口開口部404と圧力セル出口開口部406を有する。GCIB128は開口部404を通って圧力セル402内に入り開口部406を通って圧力セルから出る。圧力セル402を通るGCIB128の通路Dは、長さdを有する。圧力セル入り口404と出口406はトータルガスコンダクタンスCP2を有する。圧縮ガス314は、ガス保存シリンダ312内に保存されている。圧縮ガス314はたとえばアルゴンのような不活性ガスが好ましい。マスフローコントロールバルブ352は、ガス供給チューブ318およびディフューザ410を通って圧力セル402内への圧縮ガス314の流入を制御する。この具体例における多目的コントローラ358もまた、マイクロプロセッサベースのプログラム可能であり、GCIB処理装置400の部分的ないし全体の制御に用いられ、ケーブル324、圧力センサコントローラおよび読み出し表示装置326、ケーブル360を通して圧力センサ412から測定圧力信号をPP2として受信する。コントローラ358はまた、ケーブル360、マスフローコントロールバルブコントローラ356、ケーブル354を通してマスフローコントロールバルブ352を制御し、圧力チャンバ304内のガス314の流れをセットし調整する。圧力センサ412からの圧力測定信号が利用されるかどうかに応じて、コントローラ358は開ループもしくは閉ループの制御アルゴリズムによる圧力セル402内の圧力PC2を制御する能力を有する。本発明に式12を適用することにより実施可能であるので、圧力PP2を測定することは必ずしも不可欠ではない。コントローラ358は他のセンサからの信号も受信し、ケーブル360を介してGCIB処理装置350の総合制御の一部として他のシステムへ制御信号を送信する。これら他の接続は識別子362によって表される。
【0034】
IN2はディフューザ410を通して圧力セル402内に流れ込むガス流量を示す。
P2は処理チャンバ108とイオン化/加速化チャンバ106の間にある圧力セル402の、入口404から出口406を通して全体の流量を表す。
C2は圧力セル402内の真空圧を示し、
P2は処理チャンバ108およびイオン化/加速化チャンバ106内の真空圧を示し、圧力センサ412を用いて測定した値である。
前記を用いて以下の式にて表すことができる。
【0035】

【0036】
コンダクタンスCP2は計算もしくは経験上決定でき、QIN2はマスフローコントロールバルブ352によって制御される。またPP2は、圧力センサ412を用いて測定でき、式10(もしくは式11の条件が満たされれば式12)として示される。さらにPC2は既知の量として表され、マスフローコントロールバルブ352を調整することによって、容易に制御することができる。
【0037】
運転中は、圧力セル402はPP2よりも高い圧力で操作される。GCIB128が圧力が上昇した圧力セル402を通るときに、GCIBの特徴が修飾されて、ある種のGCIB処理の適合性を向上させるように改善される。GCIBの特徴が修飾される程度は、圧力PC2に関連し、圧力セル402中のGCIB通路の長さdに関連する。さらに明確には、PC2は、GCIB通路Dに沿っておおよそ一定である場合、GCIBの特徴を修飾する程度は、圧力PC2と長さdの積(PC2・d)に依存する。また圧力セル内の圧力PC2が通路Dに沿って空間的に変化する場合には、GCIB特性の修飾程度は通路Dに沿って、0からdまでの積分(PC2(x)・dx)(圧力−距離のインテグラル(PDI))に関係する。圧力と通路長さの積および/またはPDIはともに、単位(torr・cm)として表すことができる。
【0038】
図5はケースAからGまで圧力セル内の圧力条件を変化させてGCIB特性を測定した結果を示すグラフである。オリジナルGCIBは30kVの電位差によって加速されたアルゴンガスクラスターイオンビームである。グラフは、ガスクラスターイオンの分布(縦軸、任意の単位)と対するガスクラスターイオンエネルギーを電荷で割った値(横軸、keV/q)をプロットしたものである。ケースAからGまでは、圧力セルのPDI値を1.0×10−4から1.3×10−3torr-cmまで変化させたものである。ケースAの1.0×10−4torr-cmでは、実質的に圧力セルがほとんど無いに等しいケースであるが、ガスクラスターイオンエネルギーは22keV/q近傍に狭いピークを示している。PDI値を上げると、分布が広がってエネルギー分布のピークが低い方に動いていく。このようなエネルギー分布の修飾は単にビーム加速電位を下げることによって(本発明を用いないで)は得られない。より大きなPDI値から得られるこのような分布は、GCIBに高いスムージング性能を与え、低いエッチングの速度を与える。
【0039】
図6はPDI値に対するGCIBのエッチング速度を示したグラフである。この場合の対象物はSiO表面を有し、30kVの加速電圧によってアルゴンGCIBを加速して処理され、3×1015のガスクラスターイオン/cmの全量で照射されたものである。エッチング速度はPDI値が増加するに従ってゆっくりと低下し、高いPDI値になると速度低下が急激におこり、そしてほぼゼロに近づく。
【0040】
図7はPDI値に対する処理後の表面粗度を原子間力顕微鏡を用いて測定したグラフである。この場合の対象物はSiO表面を有し、30kVの加速電圧によってアルゴンGCIBを加速して処理され、3×1015のガスクラスターイオン/cmの全量で照射されたものである。低いPDI値では、PDI値が増加するに従って急激に荒さが解消され、高いPDI値になると粗度が低レベルで落ちついて、さらなる効果増進はない。
【0041】
図6および7についてはSiOのエッチングおよび平滑化について示した。しかし、同様な結果は他の材料であっても得られ、たとえば金属や、酸化物、セラミックス、半導体、などにおいても同様である。PDI(または圧力−通路長の積)が5×10−4torr-cmより大きいと、(表面が荒らされることなしに)有意な平滑化が達成され、エッチング速度の減少も少ない。高いエッチング速度ならびに、優れた平滑化および/または表面が荒らされることのない処理は、従来のGCIB源の調整や、加速化電圧の調整によっては得られないことが多い。PDI値を高めることによって、エッチング速度が次第に低下するが、高度な平滑化が得られる。高いPDI値においては、従来のGCIB源の調整によっては得られなかったレベルの平滑化が多くの物質において得られるのである。
【0042】
以上、本発明を種々な具体例を示して説明したが、本発明の思想の範囲内でそのほかの様々な改良・改善が可能であると理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は従来技術のGCIB処理装置の基本的構成を示す概略図である。
【図2】図2は本発明の具体例であるGCIB処理装置300を示す概略図である。
【図3】図3は本発明の第二の具体例であるGCIB処理装置350を示す概略図である。
【図4】図4は本発明の第三の具体例であるGCIB処理装置400を示す概略図である。
【図5】図5は種々の圧力状態で、圧力セル内を通過させたときのGCIBの特性を測定したグラフである。
【図6】図6はGCIBのエッチング速度をPDI(圧力−距離を積分した)値と対比したグラフである。
【図7】図7はPDI値による表面粗度を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾されたガスクラスターイオンエネルギー分布を持つガスクラスターイオンビームの発生装置であって、
減圧された減圧チャンバと、
ガスクラスターイオンビーム通路を有する高エネルギーガスクラスターイオンビーム発生のための、前記チャンバ内のガスクラスターイオンビーム源と、
減圧チャンバ内の、減圧を上回る平均圧力を有する圧力コントロール領域と、
を含んで構成され、ガスクラスターイオンビーム通路の少なくとも一部が前記圧力コントロール領域を通ることによって、圧力コントロール領域のより高い圧力により修飾されることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記ガスクラスターイオンビーム源がさらに、
加圧されたガス源と、
減圧チャンバ内に前記加圧ガス源からの加圧ガスを導入してガスクラスターを形成するノズルと、
ガスクラスターをイオン化させてガスクラスターイオンビームを形成するイオナイザーと、
前記ガスクラスターイオンビームを加速して前記高エネルギーガスクラスターイオンビームを形成するアクセラレータとを含んで構成されている請求項1記載の装置。
【請求項3】
圧力コントロール領域を通るガスクラスターイオンビーム通路の部分が、圧力コントロール領域内の通路に沿って約5×10−4torr-cm以上の圧力-距離の積分を有する、請求項1記載の装置。
【請求項4】
圧力コントロール領域の平均圧力をコントロールするシステムをさらに含んでいる請求項1記載の装置。
【請求項5】
高エネルギーガスクラスターイオンビームが、少なくとも一部が多重イオン化されたガスクラスターイオンを含む請求項1記載の装置。
【請求項6】
圧力コントロール領域が圧力チャンバ内の一部を構成する請求項4記載の装置。
【請求項7】
減圧チャンバがガスクラスターイオンビーム源を含むイオン化/加速化チャンバを有し、
圧力コントロール領域が圧力チャンバを含み、
圧力チャンバがイオン化/加速化チャンバよりも高圧であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項8】
減圧チャンバがさらに処理チャンバを含み、
圧力チャンバが処理チャンバよりも高圧であることを特徴とする請求項7記載の装置。
【請求項9】
圧力コントロール領域が、圧力セル内の領域を含む請求項1記載の装置。
【請求項10】
ガスクラスターイオンビーム源がさらに以下の構成、
ガスクラスターをガスクラスターイオンビームにイオン化するイオナイザーと、
ガスクラスターイオンビームを高エネルギーガスクラスターイオンビームに加速するアクセラレータ、
を含む請求項9記載の装置。
【請求項11】
圧力セル内の圧力をコントロールするシステムをさらに含む請求項9記載の装置。
【請求項12】
高エネルギーガスクラスターイオンビームが、少なくとも一部が多重イオン化されたガスクラスターイオンを含む請求項9記載の装置。
【請求項13】
圧力セルが、減圧チャンバよりも高い圧力を有する請求項9記載の装置。
【請求項14】
対象物をガスクラスターイオンビームで処理する方法であって、次の各工程
減圧チャンバ内のガスクラスターイオンビーム源からガスクラスターイオンビームを発生させる工程、
高エネルギーガスクラスターイオンビームを形成するために、ビーム通路を有するアクセラレータにより前記ガスクラスターイオンビームを加速する工程、
減圧チャンバ内に対象物を保持する工程、
アクセラレータと対象物の間に加圧領域を提供し、前記ビーム通路の少なくとも一部が前記加圧領域を通過する工程、
を含むことを特徴とする処理方法。
【請求項15】
さらに、
加圧ガス源を提供する工程、
ノズルを提供する工程、
加圧ガス源から減圧チャンバへ導入することによってガスクラスターを形成するために、加圧ガスをノズルから放出する工程、
イオナイザーを提供する工程、
ガスクラスターをガスクラスターイオンビームへイオン化する工程、
を含む請求項14記載の方法。
【請求項16】
さらに、
加圧領域内で圧力をコントロールするシステムを提供する工程、
前記システムにより加圧領域の圧力をコントロールする工程、
を含む請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記加圧領域を通る前記ビーム通路の少なくとも一部が、加圧領域内の通路に沿って約5×10−4torr-cmを超える圧力-距離の積分を有する、請求項14記載の方法。
【請求項18】
高エネルギーガスクラスターイオンビームが、少なくとも一部が多重イオン化されたガスクラスターイオンを含む請求項14記載の方法。
【請求項19】
加速されたガスクラスターイオンビーム中のガスクラスターイオンのエネルギー分布を修飾する方法であって、
減圧チャンバ内のガスクラスターイオンビーム源からガスクラスターイオンビームを発生させる工程、
前記ガスクラスターイオンビームを、ビーム通路およびエネルギー分布を有するガスクラスターイオンを含む高エネルギーガスクラスターイオンを形成するために、減圧チャンバ内のアクセラレータにより加速する工程、
減圧チャンバ内に加圧領域を供給する工程、
ガスクラスターイオンビーム通路の少なくとも一部が前記加圧領域を通過するように、高エネルギーガスクラスターイオンのビーム通路を導く工程、修飾されたガスクラスターイオンエネルギー分布を有するガスクラスターイオンビームを生成する工程、
を含む修飾方法。
【請求項20】
加圧領域を通るガスクラスターイオンビーム通路の少なくとも一部が、加圧領域内の通路に沿って約5×10−4torr-cmを超える圧力-距離の積分を有する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
さらに、
加圧領域内で圧力をコントロールするシステムを提供する工程、
加圧領域の圧力をコントロールする工程、
を含む請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記コントロールする工程が、加圧領域内を通路に沿って約5×10−4torr-cmを超える圧力−距離の積分を有するように圧力コントロールされる請求項21記載の方法。
【請求項23】
高エネルギーガスクラスターイオンビームが、少なくとも一部が多重イオン化されたガスクラスターイオンを含む請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−529876(P2007−529876A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504128(P2007−504128)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【国際出願番号】PCT/US2005/008983
【国際公開番号】WO2005/091990
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(505099750)エピオン コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】