説明

ガスバリアフィルムの製造方法

【課題】従来の方式では不十分であった、密着性、ガスバリア性を改善するため、ガスバリア性能と密着性を有した下地層、セラミック層、ガスバリア性能を有した保護層を減圧環境下におけるインライン成膜で形成することで、従来よりも密着性、ガスバリア性に優れたガスバリアフィルムを高い生産効率で提供すること。
【解決手段】プラスチックフィルム1の片面または両面に、下地層2を形成する工程と、前記下地層2の表面にセラミック層3を形成する工程と、前記セラミック層3の表面に保護層4を形成する工程とを具備し、全工程が減圧環境下におけるインライン成膜で各層を形成することを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池のバックシート、食品や医薬品等の包装分野に用いられるガスバリアフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池保護シートは太陽電池モジュールの起電部分であるパターニングされたシリコン薄膜の湿度による劣化を防止するために、太陽電池の裏側に配置されており、酸素や水蒸気といったガスを遮断し、同時に屋外などの過酷な状況下で使用されてもガスバリア性能が劣化しない耐久性能が求められる。
【0003】
ハードディスクや半導体モジュール、食品や医薬品類の包装に用いられる包装材料においても、内容物を保護することが必要である。特に、食品包装においては蛋白質や油脂などの酸化や変質を抑制し、味や鮮度を保持することが必要である。また無菌状態での取り扱いが必要とされる医薬品類においては有効成分の変質を抑制し、効能を維持することが求められる。これらの内容物の品質を保護するために、酸素や水蒸気、その他内容物を変質させる気体を遮断するガスバリア性を備える包装体が求められている。
【0004】
プラスチックフィルムからなる包装体としては、従来、高分子の中では比較的ガスバリア性能に優れるポリビニルアルコール(PVA)、エチレン‐ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル(PAN)などの樹脂フィルムや或いはこれらの樹脂をラミネートまたはコーティングしたプラスチックフィルムなどが好んで用いられてきた。しかしながら、これらのフィルムは、温度依存性が高く、高温または高湿度下においてガスバリア性能に劣化が見られ、また、食品包装用途においてはボイル処理や高温高圧力条件下でのレトルト処理を行うとガスバリア性能が著しく劣化する場合が多い。また、PVDC系の高分子樹脂組成物を用いたガスバリア性積層体は、湿度依存性は低いものの温度依存性がある上に、高いガスバリア性能(例えば、1cc/m・day・atm以下)を得ることができない。
【0005】
また、PVDCやPANなどは廃棄・焼却の際に有害物質が発生する危険性が高いため、高防湿性を有し、かつ高度のガスバリア性能を要求される包装体については、アルミニウムなどの金属箔などにてガスバリア性能を担保せざるを得なかった。しなしながら、金属箔は不透明であるため、包装材料を透過して内容物を識別することが難しく、金属探知機による内容物検査や、電子レンジでの加熱処理が出来ない。
【0006】
また、これらの包装体を屋外などの過酷な条件下に長期間曝した場合、プラスチックフィルムとセラミック層との間で層間剥離が発生し包装体としての機能を損なう問題があり、屋外などで使用される高耐久性を有するガスバリア包装体を得るには鋭意工夫が求められる。
【0007】
耐久性を付与するための手段の一つとして、従来から大気圧環境下において塗布方式による下地層を設け、プラスチックフィルムとセラミック層との密着性を向上させる試みがなされている。しかしながら、この方式では工程数が増えてしまうため生産効率が高いとはいえない。
【0008】
高いガスバリア性能(例えば、1cc/m・day・atm以下)を得る方式として、従来からセラミック層の上に塗布方式による保護層を設ける試みがなされている。しかしながら、この方式では工程数が増えてしまうため、生産効率が高いとはいえない。
なお、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)による成膜方法の従来技術としては、下記非特許文献1〜2が例示される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】All−In−Vacuum Deposited Transparent Multilayer Barrier on Polymer Substrates(2009 Society of Vacuum Coaters 765P)
【非特許文献2】Multifunctional Optical Coationg on Polymers Deposited by Pulse Magnetron Sputtering and Magnetron Enhanced PECVD(2009 Society of Vacuum Coaters 446P)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、従来の方式では不十分であった、密着性、ガスバリア性を改善するため、ガスバリア性能と密着性を有した下地層、セラミック層、ガスバリア性能を有した保護層を減圧環境下におけるインライン成膜で形成することで、従来よりも密着性、ガスバリア性に優れたガスバリアフィルムを高い生産効率で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明における課題を解決するための手段は、プラスチックフィルムの片面または両面に、下地層を形成する工程と、前記下地層の表面にセラミック層を形成する工程と、前記セラミック層の表面に保護層を形成する工程とを具備し、全工程が減圧環境下におけるインライン成膜で各層を形成することを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法である。
【0012】
請求項2記載の発明における課題を解決するための手段は、前記下地層および前記保護層が、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により成膜されることを特徴とする請求項1記載のガスバリアフィルムの製造方法である。
【0013】
請求項3記載の発明における課題を解決するための手段は、前記下地層および前記保護層を、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により成膜する際、前記プラスチックフィルムは、高周波印加電極である金属ロール側を走行し、対向電極である接地電極側には永久磁石が設置されていることを特徴とする請求項2記載のガスバリアフィルムの製造方法である。
【0014】
請求項4記載の発明における課題を解決するための手段は、前記下地層および前記保護層を、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により成膜する際、その成膜圧力が1Pa以上20Pa以下であることを特徴とする請求項2または3記載のガスバリアフィルムの製造方法である。
【0015】
請求項5記載の発明における課題を解決するための手段は、前記下地層および前記保護層を、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により成膜する際、使用される高周波電源が10kHz以上30MHz以下であることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法である。
【0016】
請求項6記載の発明における課題を解決するための手段は、前記下地層および前記保護層を、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により成膜する際、使用される原料ガスが、テトラエチルシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、トリエチルシラン、トリメチルシラン、モノシラン、ジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、トリスジメチルアミノシラン、テトラクロロシラン、テトラエトキシシランおよびビスターティアリィブチルアミノシランから選択される1種類以上のガスと、酸素、オゾン、水、過酸化水素、アンモニア、窒素、亜酸化窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アルゴンおよびヘリウムから選択される1種類以上のガスとの混合ガスからなることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法である。
【0017】
請求項7記載の発明における課題を解決するための手段は、前記下地層、前記セラミック層または前記保護層が、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、二酸化珪素のうちの1種類からなる膜、もしくはこれらの積層膜であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法である。
【0018】
請求項8記載の発明における課題を解決するための手段は、前記下地層の厚さが5nm以上1000nm以下であり、算術平均粗さ(Ra)が3nm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法である。
【0019】
請求項9記載の発明における課題を解決するための手段は、前記保護層の厚さが5nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法である。
【0020】
請求項10記載の発明における課題を解決するための手段は、前記セラミック層の厚さが10nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法である。
【0021】
請求項11記載の発明における課題を解決するための手段は、請求項1から10のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたガスバリアフィルムである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に依れば、従来よりも密着性、ガスバリア性に優れたガスバリアフィルムを高い生産効率で提供することができる。
【0023】
本発明の一実施形態において、下地層を成膜する際基材となるプラスチックフィルムがプラズマに晒される場合、イオンや電子などのボンバード効果によって密着性が向上すると考えられる。
【0024】
本発明の一実施形態において、下地層を、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により形成する場合、下地層や保護層自体にバリア性が発現すること、また下地層表面がプラスチックフィルム以上に平滑になることによってバリア性が向上すると考えられる。
【0025】
従来用いられた大気圧環境下における塗布方式による下地層やオーバーコート層の形成方法では、その度に製造装置を変える必要が有るのに対し、本発明の一実施形態において、全ての工程を減圧環境下に1つの装置で行う場合は、間接時間の減少や異物混入によるロスの発生を抑え、高い生産性が実現するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるガスバリアフィルムの一実施形態の断面図である。
【図2】本発明によるガスバリアフィルムの製造装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
図1は、本発明のガスバリアフィルムを説明する断面図である。プラスチックフィルム1上にプラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により形成された下地層2、セラミック層3、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により形成された保護層4が順次形成された構成になっている。下地層2、セラミック層3および保護層4は、プラスチックフィルム1の両面に形成してもよい。また、保護層4上にさらなる層を形成し、多層構成にしても良い。
【0029】
プラスチックフィルム1は特に制限を受けるものではなく公知のものを使用することが出来る。例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアミド系(ナイロン―6、ナイロン―66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などが挙げられるが特に限定されない。透明フィルムを用いた場合、大量生産に適するため好ましい。また、厚さに関しても特に制限を受けるものではなく、ガスバリアフィルムを形成する場合の加工性を考慮すると、実用的には12〜100μmの範囲が好ましい。
【0030】
プラスチックフィルム1上に下地層2を形成する場合、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)を用いることが有効である。プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)を用いることで、当初から基材に存在している凹凸や、欠陥を埋めることが可能であると共に、密着力とガスバリア性能に優れた膜を形成することができるので、下地層2上に形成されるセラミック層3のガスバリア性能向上が実現するだけでなく、下地層2そのもののガスバリア性能によって積層膜全体のガスバリア性能を向上させることができる。
【0031】
セラミック層3上に保護層4を形成する場合、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)を用いることが有効である。プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)を用いることで、セラミック層との密着性と、ガスバリア性能に優れた保護膜を形成することが可能となる。また、セラミック層に存在しているダングリングボンドや欠陥への埋め込みが可能となるので、保護層4がもつガスバリア性能だけでなく、セラミック層3のガスバリア性能向上も実現し、積層膜全体としてのガスバリア性能向上にも寄与することが可能となる。
【0032】
プラスチックフィルム1上に下地層2を、並びにセラミック層3上に保護層4をプラズマ化学的気相成長法(PECVD法)で形成することで、その他のスパッタリング法や真空蒸着法などを用いた場合と比較して、より薄い膜厚でガスバリア性能の発現が可能であると共に、平滑性、埋め込み性、フレキシブル性に優れた膜を形成することが可能である。
【0033】
プラスチックフィルム1上に下地層2を、並びにセラミック層3上に保護層4をプラズマ化学的気相成長法(PECVD法)で形成する際、プラズマを励起するためのガス種としては、テトラエチルシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、トリエチルシラン、トリメチルシラン、モノシラン、ジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、トリスジメチルアミノシラン、テトラクロロシラン、テトラエトキシシランおよびビスターティアリィブチルアミノシランから選択される1種類以上のガスと、酸素、オゾン、水、過酸化水素、アンモニア、窒素、亜酸化窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アルゴンおよびヘリウムから選択される1種類以上のガスとの混合ガスを用いることができるが、安全性・装置構成の簡素化などを考慮すると、ヘキサメチルジシロキサン、酸素、ヘリウムの混合ガスを用いることが好ましい。
【0034】
各種ガスの導入方法に関しては、特に規制されるものではない。
【0035】
ヘキサメチルジシロキサンを用いることで、安全かつ効率的に成膜を実施することができる。
また、酸素を用いることで、形成された膜の酸化反応を促進することが可能となる。
【0036】
ヘリウムを用いることで、電子温度、電子密度が上昇し、使用する原料ガスの分解をより促進することが可能であり、生産効率が向上すると共に、より優れたガスバリア性を発揮できることが可能である。またプラズマ中においてOイオンが支配的となり酸化作用の促進も可能となる。
【0037】
プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により下地層2、保護層4を形成する際、プラスチックフィルム1が、高周波印加電極である金属ロール側を走行することで、使用する原料ガスの分解をより促進することが可能であり、生産効率が向上すると共に、より優れたガスバリア性を発揮できることが可能である。また、高周波印加電極である金属ロール側を走行することで、プラズマ中のイオンや電子がプラスチックフィルム1へと効率的に衝突し、ボンバード効果を発揮することで、密着強度の低下を招く層を効率よく取り除くことが可能となり、結果優れた密着力を生み出すことが可能となる。
【0038】
プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により下地層2、保護層4を形成する際、対向電極である接地電極側に永久磁石が設置されることで、空間中のプラズマ密度が向上し、使用する原料ガスの分解をより促進することが可能であり、生産効率が向上すると共により優れたガスバリア性を発揮できることが可能である。
【0039】
空間中のプラズマ密度の向上方法としては、対向電極にも高周波電源を接続する方法もあるが、装置の複雑化や広幅化への障害となる可能性が大きい。
【0040】
プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により下地層2、保護層4を形成する際、その成膜圧力を20Pa以下に設定することで、使用する原料ガスの未分解に起因するガスバリア性能や密着性の劣化、セラミック層3のガスバリア性能発現の阻害を防ぐことが可能である。また、1Pa未満に設定した場合安定した放電を得ることができない。
【0041】
プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により下地層2、保護層4を形成する際、使用する高周波電源を10kHz以上にすることで、プラズマによる原料ガス分解性能が向上すると共に、1Paなどの比較的低い圧力でも安定した放電を得ることができる。30MHzを超えた場合、プラズマによる原料ガス分解はより向上し、イオンや電子の数も増加するが、電圧が低下するためボンバード効果は弱くなる。また、装置の大型化が非常に困難となる。
イオンや電子の数とボンバードの勢い、プラズマによる原料ガス分解、装置大型化などを考慮すると40kHzから400kHzがより好ましい。
【0042】
セラミック層3を形成する場合、スパッタリング法、真空蒸着法などを用いることが可能である。ただし、スパッタリング法では、膜厚が厚くなっていくに従い、膜の内部応力によるクラック等に起因するガスバリア性能の上げ留まりが生じてしまう、また真空蒸着法は生産性に最も優れる反面優れたガスバリア性を発揮することが困難となってしまう。プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)による下地層2、保護層4の生産スピードや、下地層2、保護層4によるセラミック層のガスバリア性向上効果、フレキシブル性を考慮すると、真空蒸着の方がより好ましいが、よりハイレベルの密着性、ガスバリア性が要求される場合は、スパッタリング法が有効である。
【0043】
下地層2、セラミック層3、保護層4は酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、二酸化珪素のうちの1種類からなる膜、もしくはこれらの積層膜とすることで耐久性、ガスバリア性に優れた膜とすることが可能である。酸化アルミニウムや酸化チタニウムとした場合と比較して耐久性に優れた膜にすることが可能であり。例えば、121℃30分のレトルト処理を実施しても密着性やガスバリア性の劣化が起きにくい。生産性などを考慮した場合、酸化珪素もしくは二酸化珪素が好ましい。
【0044】
全ての工程を減圧環境下におけるインライン成膜にて行うことで、不純物が交ざりにくく、成膜環境に適した状態を維持しやすくなる。また、下地層2や保護層4を塗布法で形成した場合のオフライン成膜と比べて、生産効率は向上すると考えられる。
【0045】
一般的に、スパッタリング法や真空蒸着と比較してプラズマ化学的気相成長法(PECVD法)による成膜は成膜レートが遅くインライン成膜を行う際律速となってしまう。プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)による下地層2、保護層4の生産スピードを向上させるには、原料ガス流量を増やす手段が有効であるが、原料ガス増加に伴い成膜圧力が向上してしまうと、原料ガスの未分解に起因するガスバリア性能や密着性の劣化、セラミック層3のガスバリア性能発現の阻害が生じる恐れがあるので、成膜圧力を1Pa以上20Pa以下に維持することが重要となる。
【0046】
原料ガス増加に伴い、1Pa以上20Pa以下の成膜圧力維持が困難な場合、下地層成膜ユニットや、保護層成膜ユニットの数を増やしラインスピード×成膜膜厚で定義されるダイナミックレートを維持する方法が有効である。例えば、下地層成膜ユニット2個セラミック層精膜ユニット1個保護層成膜ユニット3個とすることであり、必要膜厚と成膜速度とを鑑みたユニット数の選択が重要となる。
【0047】
プラスチックフィルム1上に下地層2を形成する場合、その厚さは5〜1000nmの範囲内が望ましく、その値は適宜選択される。ただし、その厚さが5nm未満の場合は、均一な膜厚を得ることが困難であったり、膜厚が不十分なために要求通りの密着性やガスバリア性、平滑性を得ることができなかったりすることがある。また、膜厚が1000nmを超える場合は、膜厚が厚すぎるために、成膜時間の長時間化により基材に熱負けが生じ外観不良が生じたり、ガスバリア性能などに悪影響を与えてしまったりする恐れがある。また算術平均粗さを3nm以下とすることで下地層2上にセラミック層3を形成した場合にセラミック層3のガスバリア性能向上や、下地層2とセラミック層3との密着性向上が実現する。下地層2の厚さはより好ましくは、10nm〜50nmとすることである。
【0048】
セラミック層3上に保護層4を形成する場合、その厚さは5〜1000nmの範囲内が望ましく、その値は適宜選択される。ただし、その厚さが5nm未満の場合は、均一な膜厚を得ることが困難であったり、膜厚が不十分なために要求通りの密着性やガスバリア性、セラミック層3への埋め込み性や得ることができなかったりすることがある。また、膜厚が1000nmを超える場合は、膜厚が厚すぎるために、成膜時間の長時間化により基材に熱負けが生じ外観不良が生じたり、ガスバリア性能などに悪影響を与えてしまったりする恐れがある。保護層4の厚さはより好ましくは30nm〜100nmとすることである。
【0049】
下地層2上にセラミック層3を形成する場合、その厚さは10〜1000nmの範囲内が望ましく、その値は適宜選択される。ただし、その厚さが10nm未満の場合は、均一な膜厚を得ることが困難であったり、膜厚が不十分なために要求通りのガスバリア性を発揮できなかったりする。また、厚が1000nmを超える場合は、膜厚が厚すぎるために、成膜時間の長時間化により基材に熱負けが生じ外観不良が生じたり、ガスバリア性能などに悪影響を与えてしまったりする恐れがある。また、下地層や保護層の成膜ユニットの数が膨大となり、装置構成が複雑になったり、大型化したりしてしまう恐れがある。セラミック層3の厚さはより好ましくは、10〜60nmとすることである。
【0050】
図2は本発明におけるガスバリアフィルムの製造装置を説明するための図である。図2に示す装置に限定されるものではない。ガスバリアフィルムの製造装置5は、図示しない送り出しロールから基材であるプラスチックフィルムを送り出し、下地層成膜ロール8上で高周波電源6および接地電極9を用いてPECVD法により下地層を形成し、続いてセラミック層成膜ロール10により例えば真空蒸着法によりセラミック層を形成し、次に保護層成膜ロール11上で高周波電源6および接地電極9を用いてPECVD法により保護層を形成し、最後に図示しない巻き取りロールにより製品を巻き取る。なお、ダイナミックレートを併せるために、下地層や保護層成膜ユニットの数を増やしてもよい。ロールトゥロール方式でなく、マルチチャンバー型バッチ装置やカルーセルタイプにすることも可能であるが、生産性を考慮するとロールトゥロール方式が好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0052】
<実施例1>
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にPECVD法により下地層を形成し、その上にセラミック層を設け、さらにその上にPECVD法により保護層を形成した。この時PECVD法にて、下地層および保護層を形成する際には400kHzのMF電源を用い、プラズマを励起するためのガス種としては酸素/ヘキサメチルジシロキサンの混合ガスを用いた。なおその際の処理圧力は5Paとし、その厚さは下地層30nm、保護層70nmとした。セラミック層の形成には、電子線加熱方式を利用した真空蒸着により酸化珪素膜を25nmの厚さで成膜して、ガスバリアフィルムを形成した。全ての工程をインラインで行った。
【0053】
<比較例1>
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、セラミック層として電子線加熱方式を利用した真空蒸着により、酸化珪素膜を25nmの厚さで成膜して、セラミック層を有するガスバリアフィルムを形成した。
【0054】
<比較例2>
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、PECVD法により下地層を30nm形成し、その上にセラミック層として電子線加熱方式を利用した真空蒸着により酸化珪素膜を25nmの厚さで成膜して、下地層およびセラミック層を有するガスバリアフィルムを形成した。全ての工程をインラインで行った。なお、PECVD法は、400kHzのMF電源を用い、プラズマを励起するためのガス種としては酸素/ヘキサメチルジシロキサンの混合ガスを用いた。
【0055】
<比較例3>
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、セラミック層として電子線加熱方式を利用した真空蒸着により酸化珪素膜を25nmの厚さで成膜し、その上にPECVD法により保護層を70nm成膜して、セラミック層および保護層を有するガスバリアフィルムを形成した。全ての工程をインラインで行った。なお、PECVD法は、400kHzのMF電源を用い、プラズマを励起するためのガス種としては酸素/ヘキサメチルジシロキサンの混合ガスを用いた。
【0056】
<比較例4>
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にプラズマCVD法により下地層のみを30nm成膜してガスバリアフィルムを形成した。なお、プラズマCVD法は、400kHzのMF電源を用い、プラズマを励起するためのガス種としては酸素/ヘキサメチルジシロキサンの混合ガスを用いた。
【0057】
<比較例5>
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にプラズマCVD法により保護層のみを70nm成膜してガスバリアフィルムを形成した。なお、プラズマCVD法は、400kHzのMF電源を用い、プラズマを励起するためのガス種としては酸素/ヘキサメチルジシロキサンの混合ガスを用いた。
【0058】
<評価1 ガスバリア性>
実施例および比較例で調製したガスバリアフィルムのガスバリア性を水蒸気透過度測定装置(モダンコントロール社製 MOCON PERMATRAN 3/21 40℃90%RH雰囲気)を用い測定した。なお、測定は、初期と121℃30分のレトルト処理後の2回行った。その結果を表1に示す。
【0059】
<評価2 密着性>
実施例および比較例で調製したガスバリアフィルムの密着性をテンシロン万能試験機(ORIENTEC社製 RTC−1250)を用い測定した。その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明おけるガスバリアフィルムの産業上の利用可能性としては、太陽電池のバックシート、食品や医薬品等の包装分野に用いられるガスバリアフィルムが挙げられる。
【符号の説明】
【0062】
1・・・プラスチックフィルム
2・・・下地層
3・・・セラミック層
4・・・保護層
5・・・製造装置
6・・・高周波電源
7・・・プラスチックフィルム
8・・・下地層成膜ロール
9・・・接地電極
10・・・セラミック層成膜ロール
11・・・保護層成膜ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムの片面または両面に、下地層を形成する工程と、
前記下地層の表面にセラミック層を形成する工程と、
前記セラミック層の表面に保護層を形成する工程とを具備し、
全工程が減圧環境下におけるインライン成膜で各層を形成することを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記下地層および前記保護層が、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により成膜されることを特徴とする請求項1記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記下地層および前記保護層を、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により成膜する際、前記プラスチックフィルムは、高周波印加電極である金属ロール側を走行し、対向電極である接地電極側には永久磁石が設置されていることを特徴とする請求項2記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記下地層および前記保護層を、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により成膜する際、その成膜圧力が1Pa以上20Pa以下であることを特徴とする請求項2または3記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記下地層および前記保護層を、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により成膜する際、使用される高周波電源が10kHz以上30MHz以下であることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記下地層および前記保護層を、プラズマ化学的気相成長法(PECVD法)により成膜する際、使用される原料ガスが、テトラエチルシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、トリエチルシラン、トリメチルシラン、モノシラン、ジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、トリスジメチルアミノシラン、テトラクロロシラン、テトラエトキシシランおよびビスターティアリィブチルアミノシランから選択される1種類以上のガスと、酸素、オゾン、水、過酸化水素、アンモニア、窒素、亜酸化窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アルゴンおよびヘリウムから選択される1種類以上のガスとの混合ガスからなることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記下地層、前記セラミック層または前記保護層が、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、二酸化珪素のうちの1種類からなる膜、もしくはこれらの積層膜であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記下地層の厚さが5nm以上1000nm以下であり、算術平均粗さ(Ra)が3nm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記保護層の厚さが5nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記セラミック層の厚さが10nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたガスバリアフィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−57237(P2012−57237A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204100(P2010−204100)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】