説明

ガスバリア性積層体フィルム

【課題】透明性、耐熱性、耐衝撃性、及び寸法安定性に優れたガスバリア性積層体フィルムを提供する。
【解決手段】籠型シルセスキオキサン構造を有した硬化性樹脂を含んだ硬化性樹脂組成物からなり、引張応力−ひずみ曲線における引張弾性率が2000MPa以上、線膨張係数が80ppm/K以下、及びガラス転移温度が300℃以上である第一の層と、籠型シルセスキオキサン構造を有した硬化性樹脂を含んだ硬化性樹脂組成物からなり、引張応力−ひずみ曲線における引張弾性率が100MPa以上であって第一の層の引張弾性率未満であり、かつ、降伏点を有して塑性変形を示す第二の層とが積層され、この積層物の一方の面、又は両方の面には、ガスバリア層が設けられていることを特徴とするガスバリア性積層体フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性、耐衝撃性、及び寸法安定性に優れたガスバリア性積層体フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、電子ペーパーなどに代表されるフラットパネルディスプレイには、ガラス材料が用いられてきた。しかしながら近年、ディスプレイには、薄型化、軽量化、大画面化、意匠性、耐衝撃性が求められ、屈曲や衝撃に対して割れやすい、比重が大きい、柔軟性および加工性に乏しい等の課題を有するガラス材料に代わって、プラスチックフィルムの適応が検討されている。プラスチックフィルムは、ガラス材料に比べ軽量、屈曲や衝撃に対して割れにくい、ロールtoロール生産に適応可能などの特徴を有する。特に、フレキシブルディスプレイの製造を目的とした場合には、好適である。
【0003】
しかしながら、プラスチックフィルムはガラスに比べて耐熱性が低く、熱膨張や水蒸気の吸収・脱水による寸法安定性に劣るといった問題がある。例えば、プラスチックフィルムをディスプレイ用基板として用いる場合、カラーフィルター形成工程、薄膜トランジスタ形成工程、パネルの張り合わせ工程、配向膜形成工程、透明電極形成工程などの各種製造工程において、高いプロセス温度や水洗浄過程に繰り返し曝されることから、熱酸化劣化による基板へのダメージや熱膨張や水の吸収・脱水による寸法変動挙動が大きく、精度の高いディスプレイを作成することが困難である。
【0004】
上記のような熱プロセスで受ける基板への影響を防ぐために、プラスチックフィルム上に無機や有機化合物からなる薄膜(ガスバリア層とする)を形成し、ガスバリア性を持たせたガスバリアフィルムの検討が行われている。ガスバリア層を設けることで、基板と酸素との接触を遮断し熱酸化劣化を防ぐ、また基板の吸水率を低下させ、寸法変動挙動を抑えることが可能となる。さらにガスバリア層は、液晶表示パネルやEL表示パネル等に形成されている素子と、酸素や水蒸気等の外部から侵入するガスとの接触を遮断し、発光性能の劣化を防止する役割を有する。
【0005】
上記のような要求に対する材料として、ポリカーボネートフィルムやポリエステルフィルムなどの透明プラスチックフィルム上にガスバリア層を形成した材料が提案されている(特許文献1、2参照)。また、積層体として、可撓性基材の片面又は両面に、厚さ0.1〜10μmのアクリル系樹脂層及び厚さ20〜100nmの無機ガスバリア層を順次積層した積層構造を設けた材料も提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、このような材料は、透明性、柔軟性に優れたフィルムを得られるものの、フィルムのガラス転移温度が200℃以下であるため、150℃〜200℃以上の高温プロセスにおいて、基板の熱膨張によるガスバリア層の割れによってガスバリア性が保持できない、また熱による基板の変形といった問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−338901号公報
【特許文献2】特開2007−268711号公報
【特許文献3】特開2005−313560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プラスチックフィルム等の基材上にガスバリア層を形成する際、なるべく高温で形成させることで、緻密な膜構造となりガスバリア性能を高めることが可能となる。さらに加熱プロセスを想定し、基材の熱膨張による寸法変化の絶対量を小さくすることにより、ガスバリア層へのストレスを抑えてガスバリア層のクラックを防ぐことに繋がる。そのため耐熱性に優れ、低熱膨張性のプラスチックフィルムにガスバリア層を設けたガスバリアフィルムが求められている。
【0008】
本発明は、透明性、耐熱性、耐衝撃性、及び寸法安定性に優れたガスバリア性積層体フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような従来技術の問題を鑑みて鋭意検討を重ねた結果、籠型シルセスキオキサン構造を含有した硬化性樹脂からなる層を積層した積層物にガスバリア層を設けることで、これまでの課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、籠型シルセスキオキサン構造を有した硬化性樹脂を含んだ硬化性樹脂組成物からなり、引張応力−ひずみ曲線における引張弾性率が2000MPa以上、線膨張係数が80ppm/K以下、及びガラス転移温度が300℃以上である第一の層と、籠型シルセスキオキサン構造を有した硬化性樹脂を含んだ硬化性樹脂組成物からなり、引張応力−ひずみ曲線における引張弾性率が100MPa以上であって第一の層の引張弾性率未満であり、かつ、降伏点を有して塑性変形を示す第二の層とが積層され、この積層物の一方の面、又は両方の面には、ガスバリア層が設けられていることを特徴とするガスバリア性積層体フィルムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガスバリア性積層体フィルムは、ガスバリア性、透明性、耐熱性、耐衝撃性、及び寸法安定性に優れていることから、軽量であると共に、屈曲や衝撃に対して割れにくい、しかも、ロールtoロール生産に適応可能であるなど、フレキシブルディスプレイの製造を目的としたディスプレイ基板として特に好適である。そのため、本発明は、その産業上の利用価値が極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、製造例3で得られた成形体(第二の層)の引張応力−ひずみ曲線を示す。
【図2】図2は、製造例4で得られた成形体(第二の層)の引張応力−ひずみ曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のガスバリア性積層体フィルムについて、好適な実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(第一の層)
第一の層(内層材)は、もう一方の第二の層の熱膨張を拘束し、ガスバリア性積層体フィルムの面内方向の熱膨張を抑制すると共に、面衝撃に対してガスバリア性積層体フィルムのたわみ量を低減させる役割を担う。そのため、寸法安定性に優れて剛性の高い材料からなることが条件となる。
【0015】
具体的には、籠型シルセスキオキサン構造を含有した硬化性樹脂を硬化して得られる成形体であって、引張応力−ひずみ曲線における引張弾性率が2000MPa以上、線膨張係数が80ppm/K以下、及びガラス転移温度が300℃以上を満たすフィルムであることが必要であり、波長550nmでの光透過率が90%以上であることが好ましい。
【0016】
第一の層の引張弾性率について、2000MPa未満であると面衝撃に対して内層のたわみ量が大きくなり、ガスバリア性積層体フィルムとして十分な耐衝撃性が得られない。
【0017】
ガスバリア性積層体フィルムの面内方向の熱膨張は、第一の層が第二の層の膨張を拘束することにより、ガスバリア性積層体フィルムとしての線膨張係数を第一の層の値まで抑えることが可能となる。故に、第一の層の線膨張係数が80ppm/Kを越える値であると、ガスバリア性積層体フィルムの線膨張係数が80ppm/K以上となり、ガスバリア性積層体フィルムを加熱処理した際、ガスバリア層と、第一の層と第二の層とからなる積層物(以下、「積層フィルム」と言うことがある)との熱膨張差が大きくなることから、ガスバリア層にクラックが入り、十分なガスバリア機能を発揮できなくなる。
【0018】
第一の層のガラス転移温度について、300℃未満であると得られるガスバリア性積層体フィルムとして、ディスプレイ製造工程において重要である耐熱性が不足する。
【0019】
第一の層の波長550nmでの光透過率が90%未満であると、得られるガスバリア性積層体フィルムとして、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの透明フィルム用途において重要である光透過性が不足となり、画像の視認性等に問題が生じる。
【0020】
上記のような第一の層を形成するに際して、硬化性を有する籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した硬化性樹脂組成物を用いるようにする。
【0021】
好ましくは、第一の層の形成に用いられる硬化性樹脂組成物には、下記一般式(1)
[RSiO3/2]n (1)
〔但し、nは8〜14の整数を示し、Rは又は下記一般式(2)、(3)又は(4)
【化1】

(但し、mは1〜3の整数であり、R1は水素原子又はメチル基を示す)のいずれか一つから選ばれる有機官能基)である〕で表される籠型シルセスキオキサン樹脂を含有させるのが良い。
【0022】
第一の層の形成に用いる籠型シルセスキオキサン樹脂は、ケイ素原子全てに(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はビニル基を有する有機官能基からなる反応性官能基を有して、分子量分布及び分子構造の制御された籠型シルセスキオキサン樹脂であるのが好ましいが、一部がアルキル基、フェニル基等に置き換わっていても差し支えなく、また、完全に閉じた多面体構造ではなく、一部が開裂したような構造であってもよい。
【0023】
また、第一の層の形成に用いる籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した硬化性樹脂組成物は、籠型シルセスキオキサン樹脂のほか、この籠型シルセスキオキサン樹脂と相溶性及び反応性を有する硬化性樹脂を混合した硬化性樹脂組成物であるのが良い。このような硬化性樹脂組成物としては、加熱処理により硬化可能な樹脂組成物、或いは活性エネルギー線を照射して硬化可能な樹脂組成物あればよく、特に制限されない。
【0024】
籠型シルセスキオキサン樹脂と相溶性及び反応性を有する硬化性樹脂としては例えば、構造単位の繰り返し数が2〜20程度の重合体である反応性のオリゴマー又は低分子量、低粘度の反応性モノマーが挙げられる。具体的には、反応性のオリゴマーとしては、エポキシアクリレート、エポキシ化油アクリレート、ウレタンアクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ビニルアクリレート、ポリエン/チオール、シリコーンアクリレート、ポリブタジエン、ポリスチリルエチルメタクリレート等を例示することができる。また、反応性モノマーとしては、スチレン、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、n−デシルアクリレート、イソボニルアクリレート、ジシクロペンテニロキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート等の単官能モノマー又は、ジシクロペンタニルジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能モノマーを例示することができる。
【0025】
籠型シルセスキオキサン樹脂と相溶性及び反応性を有する硬化性樹脂としては、以上に例示したもの以外に、各種反応性オリゴマー、モノマーを用いることができ、これらはそれぞれ単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。
【0026】
第一の層の形成に用いる籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した硬化性樹脂組成物は、本発明の目的から外れない範囲で各種添加剤を添加することができる。各種添加剤として有機/無機フィラー、可塑剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、発泡剤、核剤、着色剤、架橋剤、分散助剤等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
さらに、第一の層の形成に用いる籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した硬化性樹脂組成物は、籠型シルセスキオキサン樹脂を含有するものであることが必要であるが、このような籠型シルセスキオキサン樹脂の含有量は、3質量%以上となる量であることが好ましい。前記含有量が3質量%未満では、得られるガスバリア性積層体フィルムを高温プロセスが必要な用途に用いた場合、十分な耐熱性が得られない。
【0028】
また、第一の層の形成に用いる籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、重合開始剤を含有していてもよい。このような重合開始剤としては、光重合開始剤、または熱重合開始剤であればよく、市販されているものを適宜選択して使用することができる。光重合開始剤としては、例えば、アルキンフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、チタノセン系等が挙げられる。熱重合開始剤としては、例えば、ケトンパーオキサイド系、パーオキシケタール系、ハイドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、ジアシルパーオキサイド系、パーオキシジカーボネート系、パーオキシエステル系等が挙げられる。
【0029】
本発明では、適当な溶媒を希釈剤として用いて、硬化性樹脂組成物の粘度を調整するなどして用いることもできるが、溶媒の揮発除去工程を考慮すると、時間を要して生産効率が低下すること、また、硬化後に得られる樹脂層内部に残留溶媒等が存在して成形フィルムの特性低下につながることなどから、塗布される硬化性樹脂組成物中、溶媒の含有量は5%以下にとどめておくことがよく、より好ましくは、溶媒が含有されていないものを使用するのがよい。また、このような硬化性樹脂組成物は、硬化の際に揮発分を発生しないものであることが好ましい。
【0030】
(第二の層)
第二の層(外層材)は、ガスバリア性積層体フィルムとして用いる際、面衝撃で生じたガスバリア層のクラック伝播を抑制し、フィルムの破断を防ぐための衝撃吸収層としての役割を担う。そのため、外部応力に対して弾性限界を超えてすぐに破断するのではなく、塑性変形に変える降伏挙動によって応力を分散させる材料であることが必要条件となる。
【0031】
具体的には、籠型シルセスキオキサン構造を含有した硬化性樹脂から得られる成形体であって、引張応力−ひずみ曲線における引張弾性率が100MPa以上であって第一の層の引張弾性率未満であり、かつ、降伏点を有して塑性変形を示す材料から構成されることが必要であり、また波長550nmでの光透過率が90%以上であることが好ましい。なお、引張弾性率の上限の目安としては3000MPa程度である。
【0032】
第二の層の引張弾性率が100MPa未満であると、面衝撃に対して第二の層のたわみ量が大きくなるため、ガスバリア性積層体フィルムとして十分な耐衝撃性を得られない。また、引張弾性率が第一の層の弾性率を超える値であると、ガスバリア性積層体フィルムを加熱した際、第一の層が第二の層の熱膨張を抑制することができなくなるため、積層体フィルムの熱膨張が大きくなる。その結果、ガスバリア層と積層フィルムとの熱膨張差も大きくなるため、ガスバリア層にクラックが入り、十分なガスバリア機能を発揮できなくなる。
【0033】
また、第二の層が、引張応力−ひずみ曲線において、降伏点を有し塑性変形を示さない材料であると、面衝撃によって生じたガスバリア層のクラック伝播を抑制できずフィルムが容易に破断してしまう。具体的には、引張応力−ひずみ曲線において、引張降伏伸び及び引張破壊伸びを有することが必要であり、引張降伏伸びは特に制限はなく、引張破壊伸びが好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、及び引張降伏強さが好ましくは10MPa以上、より好ましくは30MPa以上、さらに引張破壊強さが好ましくは10MPa以上、より好ましくは30MPa以上である材料がよい。
【0034】
第二の層の波長550nmでの光透過率が90%未満であると、得られるガスバリア性積層体フィルムとして、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの透明フィルム用途において重要である光透過性が不足となり、画像の視認性等に問題が生じる。
【0035】
上記のような第二の層を形成するに際しては、籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体樹脂を含有した硬化性樹脂組成物を用いるようにする。
【0036】
第二の層を形成する硬化性樹脂組成物は、好ましくは、下記一般式(5)
Y−[Z−(O1/2−R22SiO1/2)a−(R3SiO3/2)k−(O1/2)b]l−Z−Y
(5)
〔但し、R2及びR3はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基であって、R2又はR3において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよいが、1分子中に含まれるR3のうち少なくとも1つはビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基のいずれかである。また、a及びbは0〜3の数であって、1≦a+b≦4の関係を満たし、kは8〜14の数を示し、kが奇数の場合は、aとbはゼロを含めた偶数と奇数との組み合わせであり、kが偶数の場合は、aとbはゼロを含めた偶数の組み合わせであり、lは1〜2000の数を示す。更に、Zは下記一般式(6)
【化2】

(但し、R4は水素原子、ビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基であって、R4は互いに同じか異なるものであってもよく、また、pは0〜30の数を示す。)で表される2価の基であり、Yは下記一般式(7)〜(10)から選ばれるいずれかの1価の基である。
[(R5O)R62SiO1/2]c−[R7SiO3/2]d−[O1/2]− (7)
[R51/2]e−[R7SiO3/2]d−[O1/2−R62SiO1/2]− (8)
(R51/2)− (9)
(R53SiO1/2)− (10)
(但し、R6及びR7はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基、又はオキシラン環を有する基であって、R6又はR7において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよく、R5は水素原子、メチル基又はエチル基から選ばれ、また、c及びeは0〜3の数であり、dは8〜14の数であり、dが奇数の場合は、cとeはそれぞれ独立に0又は2であり、dが偶数の場合は、cとeはそれぞれ独立に1又は3である。)〕で表される構成単位を有する籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体を含有するのが良い。
【0037】
第二の層の形成に用いる硬化性樹脂組成物としては、籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体、及びこの籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体と相溶性及び反応性を有する樹脂であれば、特に限定するものではない。
【0038】
籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体と相溶性及び反応性を有する硬化性樹脂としては、例えば、構造単位の繰り返し数が2〜20程度の重合体である反応性のオリゴマー又は低分子量、低粘度の反応性モノマーが挙げられる。具体的には、反応性のオリゴマーとしては、エポキシアクリレート、エポキシ化油アクリレート、ウレタンアクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ビニルアクリレート、ポリエン/チオール、シリコーンアクリレート、ポリブタジエン、ポリスチリルエチルメタクリレート等を例示することができる。また、反応性モノマーとしては、スチレン、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、n−デシルアクリレート、イソボニルアクリレート、ジシクロペンテニロキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート等の単官能モノマー又は、ジシクロペンタニルジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能モノマーを例示することができ、これらはそれぞれ単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。
【0039】
また、透明性、耐熱性、光学特性、寸法安定性等のガスバリア性積層体フィルムの特性を損なわない範囲で、各種添加剤を添加することができる。各種添加剤として熱可塑性樹脂及び熱硬化性のエラストマーやゴム、有機/無機フィラー、可塑剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、発泡剤、核剤、着色剤、架橋剤、分散助剤等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
第二の層の形成に用いる硬化性樹脂組成物における籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。前記含有量が3質量%未満では、得られる積層体フィルムを高温プロセスが必要な用途に用いた場合、十分な耐熱性が得られない。
【0041】
また、第二の層の形成に用いる籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体を含有した硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、重合開始剤を更に有していてもよい。このような重合開始剤としては、光重合開始剤、熱重合開始剤であればよく、市販されているものを適宜選択して使用することができる。光重合開始剤としては、例えば、アルキンフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、チタノセン系等が挙げられる。熱重合開始剤としては、例えば、ケトンパーオキサイド系、パーオキシケタール系、ハイドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、ジアシルパーオキサイド系、パーオキシジカーボネート系、パーオキシエステル系等が挙げられる。
【0042】
本発明では、適当な溶媒を希釈剤として用い硬化性樹脂組成物の粘度調整等して用いることもできるが、溶媒の揮発除去工程を考慮すると時間を要し、生産効率が低下すること、硬化後に得られる樹脂層内部に残留溶媒等が存在して成形フィルムの特性低下につながることなどから、塗布される硬化性樹脂組成物中、溶媒の含有量は5%以下にとどめておくことがよく、より好ましくは、溶媒が含有されていないものを使用するのがよい。また、このような硬化性樹脂組成物は、硬化の際に揮発分を発生しないものであることが好ましい。
【0043】
(積層フィルム)
第一の層と第二の層とを積層させた積層物(積層体フィルム)の厚みは、1〜400μmが好ましく、より好ましくは10〜200μmであり、さらに好ましくは50〜100μmであるのが良い。また、積層フィルムの第二の層と第一の層との厚み比率(第二の層の厚み÷第一の層の厚み)は0.01以上及び5.0以下となるようにするのが良い。より好ましくは、0.01以上及び2.0以下であるのが良い。厚み比率が5.0以上であると、第二の層が厚くなりすぎて、加熱により第一の層が第二の層の熱膨張を抑制することができなくなり、ガスバリア層を設けたガスバリア性積層体フィルムとした際、ガスバリア層にクラックが発生しやすくなる。一方、厚みの比率が0.01未満であると、第二の層が薄くなりすぎて、衝撃吸収層としての効果が発揮できず十分な耐衝撃性が得られない。
【0044】
積層フィルムは、第一の層を内側にして、外側両面に第二の層を設けた三層構造からなる積層体フィルムにすることが好ましい。外層材を片面のみに設けた積層体フィルムに比べて反りや変形等を更に低減させることができる。
【0045】
積層フィルムの面方向の線膨張係数は、好ましくは80ppm/K以下、より好ましくは60ppm/K以下であるのが良い。80ppm/Kを超える値であるとガスバリア層を設けたガスバリア性積層体フィルムを加熱した際、ガスバリア層と積層体フィルムの熱膨張差が大きくなるためガスバリア層にクラックが入り、十分なガスバリア機能を発揮できなくなる。なお、この積層フィルムの熱膨張係数について、外層材の面内方向の熱膨張は、低熱膨張性に優れた内層材により拘束されるため、単層では面内方向と厚み方向で同じ熱膨張挙動を示すものであっても、積層フィルムとすることで、外層材の熱膨張の一部は厚み方向の熱膨張の増加分として表れ、積層フィルムの熱膨張係数は面方向と厚み方向で異なる値を示すこととなる。よって、上記積層フィルムの熱膨張係数とは、積層フィルムの状態で、その面内方向の熱膨張係数を求めたものである。
【0046】
積層フィルムの生産方法には特に制限はなく、例えば第一の層(内層材)となる籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した硬化性樹脂組成物を硬化したフィルム成形体の両面に、第二の層を形成する籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体樹脂を含有した硬化性樹脂組成物を塗布して硬化することにより、積層フィルムを作製する方法、または第二の層(外層材)となる籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体樹脂を含有した硬化性樹脂組成物を硬化したフィルム成形体で、内層材となる籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した硬化性樹脂組成物を挟み込み、積層フィルムを作製する方法、さらに外層材および内層材となる樹脂を塗布して同時に硬化することで積層フィルムとする方法等が挙げられる。
【0047】
(ガスバリア層)
ガスバリア層は、高いプロセス温度や水洗浄過程に繰り返し曝される製造工程が必要な部材として用いる場合、積層フィルムと酸素との接触を遮断し熱酸化劣化を防ぐ、また積層フィルムの吸水率を低下させ、寸法変動挙動を抑える、さらに液晶表示パネルやEL表示パネル等に形成されている素子と、酸素や水蒸気等の外部から侵入するガスとの接触を遮断し、発光性能の劣化を防止する役割を担う。
【0048】
ガスバリア層は、少なくとも一層以上を積層してなるものが好ましく、例えば酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素、酸化アルミ、酸化タンタル、アルミ膜からなるものなどが挙げられ、特に、光学特性、ガスバリア性能、高精細なディスプレイに重要である寸法安定性に優れることから、酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素を主体とするものが好ましい。また、ガスバリア層の厚みは1nm〜1000nmが好ましく、特に10nm〜300nmであることが好ましい。これらガスバリア層は有機層と積層化、多層化する事も出来る。また、ガスバリア層は、蒸着、スパッタ、PECVD、CatCVD、コーティングやラミネーティングなど公知の手法により形成することができる。
【0049】
ガスバリア層は、透明であることが好ましく、第一の層と第二の層とを積層させた積層物(積層フィルム)にガスバリア層を積層したガスバリア性積層体フィルムにおける波長550nmでの光透過率が、90%以上の透明性を有するように構成されることが好ましい。可視光線の透過率は、ガスバリア層の組成や厚さにも影響されるので両者を考慮して構成される。
【0050】
(ガスバリア性積層体フィルム)
本発明におけるガスバリア性積層体フィルムは、常温から150℃まで昇温した時にガスバリア層にクラックが生じないことが好ましい。クラック発生温度について、150℃未満であると高温プロセスが必要な用途に用いた場合、ガスバリア層にクラックが生じ、十分なガスバリア機能を発揮できなくなる。
【0051】
ガスバリア性積層体フィルムは、吸水率が1%未満であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下であるのが良い。吸水率が1%以上となるとガスバリア性積層体フィルムの寸法変化挙動が大きくなるため、高いプロセス温度や水洗浄過程に繰り返し曝される製造工程が必要な用途に用いた場合、ガスバリア層にクラックが生じ、十分なガスバリア機能を発揮できなくなる。
【0052】
ガスバリア性積層体フィルムは、160℃まで加熱した後23℃50%RHの条件下で冷却する加熱試験において、寸法変化率が0.1%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.01%以下である。寸法変化率が0.1%以上であると、素子が設計図面通りに基板上に形成できず位置ズレを起こしてしまう。
【0053】
以下、本発明のガスバリア性積層体フィルムについて、実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
[合成例1:第一の層(内層材)を形成するのに使用する硬化性樹脂の製造]
内層材を形成するのに使用する籠型シルセスキオキサン樹脂は、特開2004‐143449号公報に記載された方法により以下のようにして合成した。
撹拌機、滴下ロート、及び温度計を備えた反応容器に、溶媒として2-プロパノール(IPA)40mlと、塩基性触媒として5%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH水溶液)3.1gを装入した。滴下ロートにIPA 15mlと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12.7gを入れ、反応容器を撹拌しながら、室温で3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのIPA溶液を30分かけて滴下した。3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン滴下終了後、徐々に室温に戻し加熱することなく2時間撹拌した。撹拌後、減圧下でIPAを除去し、トルエン50mlで溶解した。反応溶液を飽和食塩水で中性になるまで水洗した後、無水硫酸マグネシウムで脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮することで加水分解生成物(シルセスキオキサン)を8.6g得た。このシルセスキオキサンは種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。
【0055】
次に、撹拌機、ディーンスタック、冷却管を備えた反応溶媒に上記で得られたシルセスキオキサン5.0gとトルエン20.5mlと10%TMAH水溶液0.75gを入れ、130℃で水を留去しながらトルエンを還流加熱して再縮合反応を行った。トルエン還流後3時間撹拌した後、室温に戻し反応を終了とした。反応溶液を10%クエン酸で中和にした後、飽和食塩水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮することで再縮合物を4.5g得た。得られた再縮合物は、種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であり、質量分析(LC-MS)、1H−NMRを測定した結果、籠型シルセスキオキサン構造を主とした樹脂であることを確認した。
【0056】
[製造例1:内層材1の製造]
合成例1で得た籠型シルセスキオキサン樹脂:20質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート:25質量部、ジシクロペンタニルジアクリレート:55質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン:2.5質量部を混合し、脱泡して液状の硬化性樹脂組成物を得た。次に、ロールコーターを用いて、厚さ100μmになるようにキャスト(流延)し、80W/cmの高圧水銀ランプを用い、2000mJ/cm2の積算露光量で硬化させ、所定の厚みとしたシート状の成形体を得た。得られた成形体は、引張弾性率が3000MPa、線膨張係数が45ppm/K、ガラス転移温度が300℃以上であり、内層材としての物性を満たす材料であった。
【0057】
[製造例2:内層材2の製造]
合成例1で得た籠型シルセスキオキサン樹脂:30質量部、ジシクロペンタニルジアクリレート:70質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン:2.5質量部を混合し、脱泡して液状の硬化性樹脂組成物とした以外は、内層材の製造例1と同様の操作によって成形体を得た。得られた成形体は、引張弾性率が2500MPa、線膨張係数が60ppm/K、ガラス転移温度が300℃以上であり、内層材としての物性を満たす材料であった。
【0058】
上記製造例1及び2で得た内層候補材フィルム(成形体)について、以下のようにして評価を行い、その結果を表1にまとめて示す。
【0059】
[評価方法:引張弾性率]
引張試験機(ORIENTEC社製RTE-1210)を用いて、25℃における各フィルム成形体の引張弾性率を測定した。この際、チャック間距離50mmおよび引張速度2mm/minの条件で測定した。
【0060】
[評価方法:熱膨張係数]
熱機械分析装置(ブルカーエイエックス製TMA4030SA)を用いて、熱機械分析(TMA)法に基づき、昇温速度5℃/minの条件で50℃から150℃における熱膨張量の変化を測定した。
【0061】
[評価方法:ガラス転移温度]
動的粘弾性分析装置(レオロジー社製DVE-V4型)を用いて、昇温速度5℃/min、チャック間距離10mmの条件で測定した。
【0062】
[評価方法:光線透過率]
紫外可視分光光度計(日立製作所社製U4000)を用いて、各フィルムの400〜800nmの光での光透過率スペクトルを測定し、代表値として波長550nmの光の透過率を示した。
【0063】
【表1】

【0064】
[合成例2:第二の層(外層材)を形成するのに使用する硬化性樹脂の製造]
外層材を形成するのに使用する籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体樹脂は、特開2009-227863号公報に記載された方法により以下のようにして合成した。
反応容器にトルエン250mlとフェニルトリクロロシラン52.5gを装入し、0℃に冷却した。水を適量滴下し、加水分解が完了するまで撹拌した。加水分解生成物を水洗後市販の30%ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキサイド溶液8.3mlを加え、この混合物を4時間還流温度に加熱した。次いで全体を冷却し、約96時間放置した。この時間経過後得られたスラリーを再び24時間還流温度に加熱し次いで冷却し濾過を行い、白色の粉末としてオクタフェニルシルセスキオキサン37.5gを得た。
【0065】
次いで、ディンスターク、及び冷却管を備えた反応容器にトルエン100ml、水酸化テトラメチルアンモニウム0.123g(1.35mmol、25%のメタノール溶液として0.49g)、上記オクタフェニルシルセスキオキサン20.3g(19.7mmol)、及び3−メタクリロキシプロピルジエトキシメチルシラン5.12g(19.7mmol)を入れ、80℃で1時間加熱しメタノールを留去し、さらに100℃に加熱し2時間後、室温に戻し反応を終了とした。反応溶液はオクタフェニルシルセスキオキサンの白色粉末が消え、完全に反応が進行したと判断できた。
【0066】
反応溶液を10%クエン酸水溶液で中和した後、水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮することで籠型シルセスキオキサンを無色透明の粘性液体を19.7g、収率78%で得た。得られた籠型シルセスキオキサンはGPC、及びNMR測定により構造が確認された。さらに、窒素雰囲気下、滴下ロート及び冷却管を備えた反応容器に、トルエン15ml、上記で得られた籠型シルセスキオキサン9.0g(7mmol)、及び水酸化テトラメチルアンモニウム4mg(0.044mmol、2.5%のメタノール溶液として153mg)を装入した。反応溶液を70℃で撹拌しながら、滴下ロートよりシラノール末端ポリジメチルシロキサン(DMS-S12:Mn(数平均分子量)=400−700:アズマックス株式会社)4.6gを3時間かけて滴下した。更に3時間撹拌後、室温まで冷却した。
【0067】
反応溶液を10%クエン酸水溶液で中和した後、水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮することで籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体を無色透明の粘性液体として12.5g得た。得られた籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体のGPCを測定した結果、重量平均分子量(Mw)=14000であった。また1H−NMRを測定した結果、籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体を主とした樹脂であることを確認した。
【0068】
[製造例3:外層材1の製造]
合成例2で得た籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体樹脂:30質量部、ジシクロペンタニルジアクリレート:70質量部、光重合開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン:1.5質量部を混合し、脱法して得た液状の硬化性樹脂組成物を厚さ100μmになるようにキャストし、80W/cmの高圧水銀ランプを用い、2000mJ/cm2の積算露光量で硬化させ、所定の厚みとしたシート状の成形体を得た。前記成形体は、引張試験を行い、得られる引張応力−ひずみ曲線において、引張弾性率1650MPa、及び降伏点を有して塑性変形領域を有した曲線であり、外層材としての物性を満たす材料であった。図1に得られた成形体の引張応力−ひずみ曲線を示す。
【0069】
[製造例4:外層材2の製造]
合成例2で得た籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体樹脂:45質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート:55質量部、光重合開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン:1.5質量部を混合し、脱法して得た液状の硬化性樹脂組成物を厚さ100μmになるようにキャストし、80W/cmの高圧水銀ランプを用い、2000mJ/cm2の積算露光量で硬化させ、所定の厚みとしたシート状の成形体を得た。前記成形体は、引張試験を行い、得られる引張応力−ひずみ曲線において、引張弾性率1300MPa、及び降伏点を有し塑性変形領域を有した曲線であり、外層材としての物性を満たす材料であった。図2に得られた成形体の引張応力−ひずみ曲線を示す。
【0070】
上記製造例3及び4で得た外層候補材フィルム(成形体)について、以下のようにして評価を行い、その結果を表2にまとめて示す。
【0071】
[評価方法:引張弾性率、引張降伏強さ、引張破壊強さ、引張破壊伸び]
引張試験機(ORIENTEC社製RTE-1210)を用いて、25℃における各フィルム成形体の引張弾性率を測定した。この際、チャック間距離50mmおよび引張速度2mm/minの条件で測定した。
【0072】
[評価方法:光線透過率]
紫外可視分光光度計(日立製作所社製U4000)を用いて、各フィルムの400〜800nmの光での光透過率スペクトルを測定し、代表値として波長550nmの光の透過率を示した。
【0073】
【表2】

【0074】
[実施例1:ガスバリア性積層体フィルム1の製造]
製造例1(内層材1の製造)と同様の配合で得た籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した硬化性樹脂組成物を、ロールコーターを用いて、厚さ50μmになるようにキャスト(流延)し、80W/cmの高圧水銀ランプを用い、2000mJ/cm2の積算露光量で硬化させ、所定の厚みとしたシート状の成形体を得た。次いで、得られた成形体の両面に、製造例3(外層材1の製造)と同様の配合で得た籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体を含有した硬化性樹脂組成物を各厚さ15μmになるようにキャストし、80W/cmの高圧水銀ランプを用い、2000mJ/cm2の積算露光量で硬化させ、所定の厚みとしたシート状の積層物を得た。さらにこの積層物の表層両面に、CVD法によりSiNO膜(ガスバリア層)を150nmの厚さで形成し、ガスバリア性積層体フィルム1を得た。なお、ガスバリア層の成膜条件については、成膜温度120℃、成膜ガス導入圧力10Pa、モノシラン流量8sccm、アンモニア流量20sccm、水素流量200sccm、及び酸素流量30sccmとした。
【0075】
[実施例2〜12:ガスバリア性積層体フィルム2〜12の製造]
内層材(製造例1、2)と外層材(製造例3、4)との組み合わせ、又は厚み構成を変えた以外は実施例1と同様にして、表3に示すようにガスバリア性積層体フィルムを得た。
【0076】
[比較例1]
製造例1と同様の配合で得た籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した硬化性樹脂組成物を、ロールコーターを用いて、厚さ50μmになるようにキャスト(流延)し、80W/cmの高圧水銀ランプを用い、2000mJ/cm2の積算露光量で硬化させ、所定の厚みとしたシート状の成形体を得た。次いで、得られた成形体の両面に製造例3と同様の配合で得た籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体を含有した硬化性樹脂組成物を各厚さ15μmになるようにキャストし、80W/cmの高圧水銀ランプを用い、2000mJ/cm2の積算露光量で硬化させ、所定の厚みとしたシート状の積層体フィルムを得た。
【0077】
[比較例2]
製造例1と同様の方法で得た成形体に、実施例1と同様の条件で成形体表層両面にSiNO膜を形成させ、ガスバリア性フィルムを得た。
【0078】
[比較例3]
製造例3と同様の方法で得た成形体に、実施例1と同様の条件で成形体表層両面にSiNO膜を形成させ、ガスバリア性フィルムを得た。
【0079】
[比較例4]
内層材にトリメチロールプロパントリアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレートTMP-A)を使用し、外層材にジシクロペンタニルジアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレートDCP-A)を使用した以外は実施例1と同様にして、表3に示すようにガスバリア性積層体フィルムを得た。
【0080】
上記実施例及び比較例で得たフィルム(ここで言う「フィルム」は、積層フィルム、ガスバリア性積層体フィルム、及びガスバリア性フィルムを含めたものである)について、以下のとおり評価を行った。結果を表3に示す。
【0081】
[評価方法:飽和吸水率試験]
10mm角に切断したフィルムを、熱風オーブンを用いて200℃で1時間加熱乾燥した(初期乾燥)。その後、純水に浸漬させ23℃×50%RHの環境下で水中に完全浸漬し、所定時間後のフィルムの質量を測定した。測定は24時間毎に行い、飽和に達した時点の値を吸水率とした。吸水率は次式を用いて算出を行った。
c={(b−a)/a}×100
ここで、c:吸水率(%)、a:初期乾燥後であって浸漬前のサンプル質量(g)、b:浸漬後のサンプル質量(g)、である。
【0082】
[評価方法:フィルムの寸法変化率]
150mm角に切断したフィルムの四隅に隣り合うマーキング間の距離が約100mmになるように微細な十字型のマーキングを施し、正確に(精度±1μm)各マーキング間の距離を測長した。このフィルムを、熱風オーブンを用いて160℃で1時間加熱後、23℃50%RHの条件下で15分放置して冷却した後、加熱前と同様に各マーキング間の距離を測長し、その値から寸法変化率を求めた。寸法変化率は、次式を用いて算出した。
f={(d−e)/d}×100
ここで、f:寸法変化率(%)、d:加熱前のマーキング間の距離(μm)、e:加熱後のマーキング間の距離(μm)、である。
【0083】
[評価方法:耐熱評価試験]
得られたフィルムについて、それぞれ、熱風オーブンを用いて所定の温度で1時間加熱処理し、その後室温まで冷却して、フィルム表面のクラックの有無を偏光顕微鏡で観察した。その際、熱風オーブンの温度を100℃にして1時間、110℃にして1時間、120℃で1時間のように、加熱処理の温度を100℃から10℃刻みで上げていき、フィルム表面にクラックの発生が確認されるまで、これを続ける耐熱評価試験を行い、表3には、クラック発生が確認された手前の温度を記した。
【0084】
[評価方法:落錘衝撃試験]
任意の高さから10gの錘(R=2.5mm)をフィルムの表面に垂直に自由落下させる試験を5回以上行い、50%以上の確率でこの積層体フィルムが破壊するときの高さを評価した。
【0085】
[評価方法:光線透過率]
紫外可視分光光度計(日立製作所社製U4000)を用いて、各フィルムの400〜800nmの光での光透過率スペクトルを測定し、代表値として波長550nmの光の透過率を示した。
【0086】
[評価方法:熱膨張係数]
熱機械分析装置(ブルカーエイエックス製TMA4030SA)を用いて、熱機械分析(TMA)法に基づき、昇温速度5℃/minの条件で50℃から150℃における熱膨張量の変化を測定した。
【0087】
[評価方法:引張弾性率]
引張試験機(ORIENTEC社製RTE-1210)を用いて、25℃における各フィルム成形体の引張弾性率を測定した。この際、チャック間距離50mmおよび引張速度2mm/minの条件で測定した。
【0088】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のガスバリア性積層体フィルムは、ガスバリア性、透明性、耐熱性、耐衝撃性、及び寸法安定性に優れていることから、液晶表示素子用プラスチック基板、カラーフィルター用基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、電子ペーパー用基板、太陽電池基板等のディスプレイ基板として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
籠型シルセスキオキサン構造を有した硬化性樹脂を含んだ硬化性樹脂組成物からなり、引張応力−ひずみ曲線における引張弾性率が2000MPa以上、線膨張係数が80ppm/K以下、及びガラス転移温度が300℃以上である第一の層と、
籠型シルセスキオキサン構造を有した硬化性樹脂を含んだ硬化性樹脂組成物からなり、引張応力−ひずみ曲線における引張弾性率が100MPa以上であって第一の層の引張弾性率未満であり、かつ、降伏点を有して塑性変形を示す第二の層とが積層され、
この積層物の一方の面、又は両方の面には、ガスバリア層が設けられていることを特徴とするガスバリア性積層体フィルム。
【請求項2】
第一の層を形成する硬化性樹脂組成物が、下記一般式(1)
[RSiO3/2]n (1)
〔但し、nは8〜14の整数を示し、Rは下記一般式(2)、(3)又は(4)
【化1】

(但し、mは1〜3の整数であり、R1は水素原子又はメチル基を示す)のいずれか一つから選ばれる有機官能基)である〕で表される籠型シルセスキオキサン樹脂を含有することを特徴とする請求項1記載のガスバリア性積層体フィルム。
【請求項3】
第二の層を形成する硬化性樹脂組成物が、下記一般式(5)
Y−[Z−(O1/2−R22SiO1/2)a−(R3SiO3/2)k−(O1/2)b]l−Z−Y
(5)
〔但し、R2及びR3はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基であって、R2又はR3において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよいが、1分子中に含まれるR3のうち少なくとも1つはビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基のいずれかである。また、a及びbは0〜3の数であって、1≦a+b≦4の関係を満たし、kは8〜14の数を示し、kが奇数の場合は、aとbはゼロを含めた偶数と奇数との組み合わせであり、kが偶数の場合は、aとbはゼロを含めた偶数の組み合わせであり、lは1〜2000の数を示す。更に、Zは下記一般式(6)
【化2】

(但し、R4は水素原子、ビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基であって、R4は互いに同じか異なるものであってもよく、また、pは0〜30の数を示す。)で表される2価の基であり、Yは下記一般式(7)〜(10)から選ばれるいずれかの1価の基である。
[(R5O)R62SiO1/2]c−[R7SiO3/2]d−[O1/2]− (7)
[R51/2]e−[R7SiO3/2]d−[O1/2−R62SiO1/2]− (8)
(R51/2)− (9)
(R53SiO1/2)− (10)
(但し、R6及びR7はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基、又はオキシラン環を有する基であって、R6又はR7において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよく、R5は水素原子、メチル基又はエチル基から選ばれ、また、c及びeは0〜3の数であり、dは8〜14の数であり、dが奇数の場合は、cとeはそれぞれ独立に0又は2であり、dが偶数の場合は、cとeはそれぞれ独立に1又は3である。)〕で表される構成単位を有する籠型シルセスキオキサン含有硬化性シリコーン共重合体を含有することを特徴とする請求項1記載のガスバリア性積層体フィルム。
【請求項4】
ガスバリア層が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素のうちの少なくとも一種を主成分とした層からなることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層体フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−194648(P2011−194648A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62172(P2010−62172)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】