説明

ガラス基材への成膜方法

【課題】ガラス基材の割れおよび反りの発生を抑制して高品質の膜を成膜する。
【解決手段】300℃以上かつガラスの歪点より低い第1加熱温度下で、ガラス基材上に酸化物前駆体を溶質として含む水溶液を噴霧して1層目の膜を形成する第1成膜工程と、第1加熱温度より高い第2加熱温度下で、ガラス基材上に酸化物前駆体を溶質として含む水溶液を噴霧して2層目の膜を形成する第2成膜工程とを備える。また、第2成膜工程後に、ガラス基材をガラスの徐冷点以上の温度下で保持する歪取工程と、歪取工程後に、ガラス基材を室温まで徐冷する徐冷工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基材への成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、ディスプレイおよび太陽電池などの分野で、透明導電膜が広く利用されている。透明導電膜としては、STO(チタン酸ストロンチウム)およびITO(Snドープ酸化インジウム)などの金属酸化物からなるものが主流である。透明導電膜は、一般的に、スパッタリング法、蒸着法、および、有機金属化合物を用いた有機金属化学気相成長法などを用いて成膜される。
【0003】
スパッタリング法および蒸着法においては、真空プロセスで成膜するため、真空容器などの真空雰囲気を形成して維持する設備が必要となる。有機金属化学気相成長法においては、原料として用いる有機金属化合物が爆発性および毒性を有するため、機密性の高い設備が必要となる。このため、上記の成膜方法を行なうためには、高価な成膜装置が必要となる。
【0004】
そこで、従来とは異なる成膜方法としてミスト法が提案されている。ミスト法は、原料金属を溶質として含む溶液を霧化して基板上に噴霧することによって成膜する方法である。
【0005】
ミスト法においては、大気圧で成膜することができるため、真空容器およびポンプ類などの製造設備が不要である。また、ミスト法においては有機金属化合物のような危険物質を用いないため、簡易な構成で安価な成膜装置を使用することができる。
【0006】
スプレー熱分解法により被処理体上に薄膜を形成する成膜装置を開示した先行文献として、特開2007−77433号公報(特許文献1)がある。特許文献1に記載された成膜装置においては、被処理体を所定の温度まで加熱する前処理室と、所定の温度に保持した被処理体に向けて、吐出手段から原料溶液を噴霧することにより、被処理体に薄膜を形成する成膜室と、薄膜を形成した被処理体を所定の温度まで冷却する後処理室とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−77433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ミスト法またはスプレー熱分解法によりガラス基材上に薄膜を形成する際、加熱および冷却の熱履歴による内部歪によりガラス基材に割れまたは反りが発生することがある。ガラス基材に割れまたは反りが発生した場合、ガラス基材上に成膜された薄膜の膜特性が低下する。薄膜太陽電池においては、薄膜の膜特性が低下すると太陽電池の発電効率が低下する。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、ガラス基材の割れおよび反りの発生を抑制して高品質の膜を成膜できる、ガラス基材への成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づくガラス基材への成膜方法は、300℃以上かつガラスの歪点より低い第1加熱温度下で、ガラス基材上に酸化物前駆体を溶質として含む水溶液を噴霧して1層目の膜を形成する第1成膜工程と、第1加熱温度より高い第2加熱温度下で、ガラス基材上に酸化物前駆体を溶質として含む水溶液を噴霧して2層目の膜を形成する第2成膜工程とを備える。また、ガラス基材への成膜方法は、第2成膜工程後に、ガラス基材をガラスの徐冷点以上の温度下で保持する歪取工程と、歪取工程後に、ガラス基材を室温まで徐冷する徐冷工程とを備える。
【0011】
本発明の一形態においては、第2加熱温度がガラスの歪点より低い。
本発明の一形態においては、第2加熱温度がガラスの徐冷点以上である。
【0012】
好ましくは、徐冷工程において、ガラス基材の温度が5℃/分以上30℃/分以下の速度で低下するように冷却する。
【0013】
本発明の一形態においては、1層目の膜は、ガラス基材からアルカリ金属イオンが移行するのを抑制するバリア層であり、2層目の膜は、透明導電膜である。
【0014】
本発明の一形態においては、1層目の膜は、Al23からなり、第1加熱温度は、350℃以上480℃未満であり、2層目の膜は、フッ素をドープされたSnO2からなり、第2加熱温度は、550℃以上600℃以下である。
【0015】
本発明の一形態においては、ガラス基材への成膜方法は、第2成膜工程と歪取工程との間に第3成膜工程をさらに備える。第3成膜工程においては、第2加熱温度より高い第3加熱温度下で、ガラス基材上に酸化物前駆体を溶質として含む水溶液を噴霧して3層目の膜を形成する。1層目の膜は、プリズム層であり、2層目の膜は、ガラス基材からアルカリ金属イオンが移行するのを抑制するバリア層であり、3層目の膜は、透明導電膜である。
【0016】
本発明の一形態においては、1層目の膜は、TiO2からなり、第1加熱温度は、300℃以上400℃未満であり、2層目の膜は、Al23またはMgOからなり、第2加熱温度は、350℃以上480℃未満であり、3層目の膜は、フッ素をドープされたSnO2からなり、第3加熱温度は、550℃以上600℃以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガラス基材の割れおよび反りの発生を抑制してガラス基材上に高品質の膜を成膜できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1に係るガラス基材への成膜方法に用いる成膜装置の構成を示す側面図である。
【図2】同実施形態に係る成膜装置に含まれる成膜室の構成を示す断面図である。
【図3】図2の成膜室を矢印III方向から見た図である。
【図4】同実施形態に係るガラス基材への成膜方法における基板の温度プロファイルを示す図である。
【図5】実施例1の計測結果を示すグラフである。
【図6】比較例の計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の実施形態1に係るガラス基材への成膜方法に用いる成膜装置について説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。本実施形態においては、薄膜太陽電池などに用いられる透明導電膜の成膜を例に説明するが、本発明はガラス基材上への様々な膜の成膜に応用可能である。
【0020】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るガラス基材への成膜方法に用いる成膜装置の構成を示す側面図である。図2は、本実施形態に係る成膜装置に含まれる成膜室の構成を示す断面図である。図3は、図2の成膜室を矢印III方向から見た図である。なお、図3においては、噴霧機構を簡略に図示している。
【0021】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る成膜装置10は、ガラス基材である基板200が投入される投入部11と、基板200が予熱される予熱部12と、基板200が成膜処理される成膜部13と、基板200が冷却される徐冷部14と、基板200が取り出される取出し部15とを有している。
【0022】
図1から3に示すように、成膜装置10は、基板200を搬送経路に沿って搬送する搬送手段である搬送コンベア110を備える。搬送コンベア110は、投入部11、予熱部12、成膜部13、徐冷部14および取出し部15に亘って設けられている。
【0023】
搬送コンベア110は、基板200が載置される搬送ベルト111と、搬送ベルト111が巻き掛けられたプーリ112と、プーリ112を駆動させる駆動軸113と、駆動軸113に動力を付与する図示しないモータとから構成されている。搬送ベルト111は、耐熱性を有する金属または樹脂から形成されている。
【0024】
基板200は、搬送コンベア110により矢印114で示す方向に搬送される。すなわち、本実施形態に係る成膜装置10においては、基板200の搬送経路は平面視において直線状である。ただし、搬送経路は直線状に限られず、搬送経路が平面視において屈曲していてもよいし、曲線状であってもよい。
【0025】
また、成膜装置10は、搬送経路中に並ぶように位置する複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)を備える。具体的には、基板200の搬送方向の上流側から順に、成膜室100a、成膜室100b、成膜室100c、成膜室100dが設けられている。本実施形態においては、4つの成膜室100(100a,100b,100c,100d)が設けられているが、複数の成膜室100が設けられていればよい。
【0026】
さらに、成膜装置10は、複数の成膜室100のうち隣接する成膜室同士を繋ぐように搬送経路に沿ってトンネル状に位置し、複数の成膜室100を順次通過する基板200を取り囲んで加熱する加熱炉120を備える。図3に示すように、筐体150の下部が、加熱炉120に覆われている。
【0027】
トンネル状の加熱炉120の上部に開口が設けられ、その開口内に筐体150が組み込まれている。加熱炉120は、4つの成膜室100(100a,100b,100c,100d)に亘って設けられている。加熱炉120は、基板200を予熱するために、基板200の搬送方向の上流側に位置する成膜室100aより上流側から設けられている。すなわち、加熱炉120は、予熱部12および成膜部13に亘って設けられている。
【0028】
基板200は、搬送コンベア110により加熱炉120内を搬送されつつ加熱される。基板200に成膜する際には、加熱炉120内は、成膜室毎にほぼ同一の温度に維持されている。
【0029】
本実施形態に係る成膜室100は、微粒子化した成膜材料160を基板200上に堆積させて成膜する装置である。図2に示すように、成膜室100は、筐体150と、筐体150の内部に成膜材料160を微粒子化した成膜ガスを噴霧する噴霧機構と、筐体150の1つの側壁に位置して成膜ガスを排気するための排気口152とを有している。
【0030】
図1に示すように、排気口152には、接続管310の一端が接続されている。接続管310の他端は、排気された成膜ガスを無害化処理するガス処理手段である除害装置300に接続されている。
【0031】
図2に示すように、筐体150は、キャリアガス170が導入される導入口151を有している。また、筐体150は、筐体150内を3つの空間に分割する仕切壁154を有している。第1の空間は、噴霧機構の一部が配置される噴霧機構配置空間158である。第2の空間は、噴霧機構から成膜ガスが噴霧される成膜ガス噴霧空間159である。第3の空間は、排気口152と繋がっている排気空間153である。
【0032】
筐体150は、成膜ガス噴霧空間159から成膜ガスを基板200上に流動可能とする、基板200と対向する開放部を有している。開放部は、筐体150の下部に形成されている。図1,3に示すように、開放部は、加熱炉120内に位置している。搬送コンベア110により搬送されている基板200と筐体150の開放部との間には、所定の隙間が設けられている。
【0033】
噴霧機構は、成膜材料160の溶液を貯留するタンク140と、図示しないコンプレッサーにより導入された圧縮空気と成膜材料160の溶液とが混合されて通過する通路141と、成膜材料160の溶液を微粒子化して成膜ガスとして噴霧するスプレーノズル130とから構成されている。筐体150には、スプレーノズル130の位置に対応して開口155が形成されている。
【0034】
スプレーノズル130の端部に、スプレーノズル130を冷却する冷却手段である冷却ジャケット131が取り付けられている。冷却ジャケット131は図示しない冷却水供給管と接続され、冷却ジャケット131の内部では冷却水が循環している。
【0035】
また、噴霧機構は、スプレーノズル130の先端に取り付けられた筒状の整流部材132を含む。本実施形態においては、整流部材132は、内側面に位置して成膜ガスを整流するテーパ状の整流部134を有している。ただし、整流部134の形状はこれに限られず、たとえば、ラッパ状の形状を有していてもよい。
【0036】
整流部材132は、整流部材132の外側面の一部に接続された図示しない接続部材が冷却ジャケット131の外側面の一部に接続されることにより、冷却ジャケット131に取り付けられている。
【0037】
スプレーノズル130は、成膜材料160の溶液と圧縮空気との2流体を混合してミスト状に噴霧する2流体スプレーノズルである。ここで、ミストとは、平均粒子経が0.1μm以上100μm以下の液滴が気体中に分散された状態のものをいう。ミストの平均粒子径は、液浸法によって算出された値とする。
【0038】
ただし、噴霧機構はスプレーノズル130に限られず、超音波を用いてミスト状の成膜ガスを発生させるものでもよい。超音波振動子によってミスト状の成膜ガスを発生させる場合、スプレーノズル130によりミスト状の成膜ガスを発生させる場合に比べて、ミストの平均粒子径を均一にできるため、発生させたミスト同士が基板200に到達する前に凝集することを抑制できる。
【0039】
図3に示すように、複数のスプレーノズル130は、筐体150内において、基板200と対向して互いに間隔を置いて基板200の搬送方向と直交する方向に並んでいる。図3においては、3つのスプレーノズル130を配置しているが、スプレーノズル130の数は1つ以上であればよい。
【0040】
設けられるスプレーノズル130の数は、基板200の成膜処理の所望のタクトタイムを満たすために必要な単位時間当たりの成膜ガスの噴霧量、または、成膜処理を行なううえで必要な成膜速度に応じて適宜変更される。
【0041】
スプレーノズル130の吐出口と基板200の上面との間の距離Lhに対して、加熱炉120の上端と基板200との間の距離は、1/4Lhに設定されている。
【0042】
なお、後述する導入口151から導入されるキャリアガス170の一部は、スプレーノズル130を冷却するためにスプレーノズル130に対して送られる。スプレーノズル130にキャリアガス170を送るために、スプレーノズル130の近傍に図示しない冷却ファンが配置されている。スプレーノズル130は、冷却ファンにより空冷される。さらに、スプレーノズル130は上述の冷却ジャケット131により水冷される。
【0043】
このように、スプレーノズル130の近傍を冷却することにより、スプレーノズル130から噴き付けられる前の成膜材料160の溶液が沸点以下の温度まで冷却される。より好ましくは、成膜材料160の溶液が室温程度まで冷却される。
【0044】
この冷却により、成膜材料160の溶液中の溶媒がスプレーノズル130内において揮発することを抑制できるため、噴き付けられる成膜材料160の溶液の濃度を一定に保つことができる。また、スプレーノズル130内において成膜材料160の溶液中の溶媒が揮発することによる成膜材料160の固化を抑制できる。
【0045】
その結果、一定の濃度の成膜材料160を用いて成膜できるため、基板200上に成膜される膜の品質を安定させることができる。また、固化した成膜材料160によるスプレーノズル130の目詰まりを抑制することができる。
【0046】
成膜材料160の溶液としては、亜鉛、スズ、インジウム、カドミウムおよびストロンチウムからなる群より選択される無機材料の塩化物を、溶媒に溶解させた溶液を用いることができる。溶媒としては、水、メタノール、エタノールおよびブタノールなどを用いることができる。このような成膜材料160の溶液としては、たとえば、酢酸亜鉛を含む水溶液、酸化インジウム錫を含む水溶液および酸化錫を含む水溶液などを用いることができる。
【0047】
ただし、成膜材料160の溶液としてはこれに限られず、種々の溶液を用いることができる。成膜材料160の溶液の濃度は特に限定されないが、たとえば、0.1mol/L以上3mol/L以下の濃度である。
【0048】
ここで、筐体150内におけるガスの流動経路について説明する。まず、導入口151から、たとえば圧縮空気からなるキャリアガス170が筐体150の成膜ガス噴霧空間159内に導入される。成膜ガス噴霧空間159内に導入されたキャリアガス170は、矢印171で示す向きに流動する。キャリアガス170としては、たとえば、窒素、酸素、水素およびこれらの混合ガスを用いることができる。
【0049】
スプレーノズル130からミスト状の成膜ガスが、矢印161で示す向きに噴霧領域162中に噴霧される。ミスト状の成膜ガスとキャリアガス170とは、混合領域181において互いに混合されて混合ミストとなる。混合ミストは、矢印182で示す向きに流動して開放部に到達する。混合ミストは、開放部から基板200の主面上に噴き付けられる。成膜ガスを含む混合ミストが基板200上に噴き付けられる領域を、噴き付け領域Xと称する。
【0050】
噴き付け領域Xに到達した混合ミストは、基板200の主面に沿って流動する。具体的には、仕切壁154の一部であって基板200の主面と対向している対向面と、基板200の主面との間を矢印183で示す向きに混合ミストが流動する。混合ミストが矢印183で示す向きに流動する領域を、流路領域Yと称する。
【0051】
流路領域Yを通過した混合ミストは、排気空間153内を矢印184で示す向きに流動する。このように混合ミストが基板の主面上から排気口152に向かう領域を、排気領域Zと称する。排気空間153内を通過して排気口152に到達した混合ミストは、除害装置300により無害化されて排気ガス180として外部に放出される。なお、図2においては、除害装置300を図示していない。
【0052】
上記の噴き付け領域Xと流路領域Yと排気領域Zとから開放部が構成されている。成膜ガスは、複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)の各々において、噴霧機構から開放部を通過して排気口152に向けて流動する。
【0053】
なお、排気口152においては、導入口151から導入されるキャリアガス170の3倍〜10倍程度大きな流量で混合ミストを排気している。ただし、導入されるキャリアガス170の流量および混合ミストの排気流量は適宜設定される。スプレーノズル130の吐出圧力、キャリアガス170の流量および排気流量を適切に設定することにより、混合ミストを安定して基板200の上面に到達させることができる。
【0054】
図1に示すように、成膜室100aにおいて、矢印400で示すように成膜ガスが流動する。成膜室100bにおいて、矢印410で示すように成膜ガスが流動する。成膜室100cにおいて、矢印420で示すように成膜ガスが流動する。成膜室100dにおいて、矢印430で示すように成膜ガスが流動する。
【0055】
上記のように成膜ガスが流動している状態で、開放部の近傍を基板200が通過することにより、基板200が成膜処理される。本実施形態の成膜装置10においては、開放部の近傍を基板200が通過するように搬送コンベア110が設けられている。
【0056】
基板200は、搬送コンベア110により、複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)の各々において、噴き付け領域X、流路領域Yおよび排気領域Zを順に通過するように搬送される。基板200は、噴き付け領域X、流路領域Yおよび排気領域Zを通過する間に、主面上に成膜材料160の微粒子が堆積することにより成膜される。
【0057】
以下、本実施形態に係るガラス基材への成膜方法について詳細に説明する。本実施形態においては、基板200上にアルカリバリア層としてAl23膜を形成する。さらにその上に、透明導電膜として、フッ素をドープされたSnO2からなるTCO(Transparent Conductive Oxide)膜を形成する。
【0058】
なお、アルカリバリア層は、基板200に含まれるアルカリ分によって太陽電池の性能低下を防止するためのものである。すなわち、アルカリバリア層は、ガラス基材からアルカリ金属イオンが移行するのを抑制するバリア層である。そのため、基板200がアルカリ分を多く含まない材質からなる場合、アルカリバリア層を形成しなくてもよい。
【0059】
まず、基板200を構成するガラスの徐冷点および歪点を、ビーム曲げ法により測定する。具体的には、所定の形状に切断および研削したガラスをビーム曲げ測定装置(東京工業株式会社製など)を用いてビーム曲げ法(ASTM−C598)により測定する。ガラスの徐冷点は、降温下でのたわみ速度から求める。ガラスの歪点は計算により算出する。
【0060】
本実施形態に係るガラス基材におけるガラスの徐冷点は543℃〜548℃程度であり、ガラスの歪点は498℃〜503℃程度である。なお、ガラスの徐冷点とは、ガラスの内部歪が15分間で実質的に除去される温度で、徐冷域における上限温度に相当し、粘度が1013dPa・sに相当する温度である。ガラスの歪点とは、ガラスの粘性流動が事実上起こりえない温度で、徐冷域における下限温度に相当し、粘度が1014.5dPa・sに相当する温度である。
【0061】
第1成膜工程として、成膜室100aにおいて、酸化物前駆体であるAl(acac)3を0.15mol/L、および、CH3COOHを20vol%含む水溶液を基板200上に噴霧する。成膜室100a内の第1加熱温度は、300℃以上かつガラスの歪点より低くなるように設定される。本実施形態においては、第1加熱温度を350℃以上480℃未満とする。より好ましくは、第1加熱温度を420℃以上480℃未満とする。第1成膜工程により、基板200上にAl23膜が形成される。
【0062】
第2成膜工程として、成膜室100bにおいて、酸化物前駆体であるSnCl4・5H2Oを0.9M、NH4Fを0.3M、HClを30vol%、メタノールを2.5vol%含む水溶液を基板200上に噴霧する。成膜室100b内の第2加熱温度は、第1加熱温度より高くかつガラスの徐冷点以上となるように設定される。本実施形態においては、第2加熱温度を550℃以上600℃以下とする。より好ましくは、第2加熱温度を550℃以上580℃以下とする。
【0063】
第2成膜工程後に、歪取工程としてガラス基材をガラスの徐冷点以上の温度下で保持する。本実施形態においては、成膜室100bより下流側に位置する加熱炉120内の温度を550℃以上600℃以下に保持する。温度が600℃を超えると、成膜装置10への負担が大きくなり好ましくない。
【0064】
保持時間としては、5分以上30分以下であることが好ましい。保持時間が5分より短い場合、熱履歴による基板200の内部歪を除去できない。保持時間が30分より長い場合、成膜タクトタイムが長くなり成膜効率が低下する。
【0065】
本実施形態においては、第2加熱温度をガラスの徐冷点以上となるように設定しているため、歪取工程の保持時間を短くすることができる。その結果、成膜タクトタイムを短くして成膜効率を向上できる。
【0066】
歪取工程後に、徐冷工程としてガラス基材を室温まで徐冷する。徐冷速度は、成膜装置10の小型化および成膜タクトタイムの短縮化の観点から大きい方がよい。基板200の温度が5℃/分以上30℃/分以下の速度で低下するように空冷することが好ましい。より好ましくは、基板200の温度が10℃/分以上20℃/分以下の速度で低下するように空冷する。これにより、基板200の内部歪が残らないようにすることができる。
【0067】
図4は、本実施形態に係るガラス基材への成膜方法における基板の温度プロファイルを示す図である。図4においては、縦軸に基板温度、横軸に基板搬送位置を示している。基板搬送位置は、予熱部12、成膜部13および徐冷部14の範囲を示している。
【0068】
図4に示すように、基板200は、予熱部12を通過する間に加熱され、成膜部13の成膜室100a内の噴き付け領域Xを通過する際に温度が低下する。その後、昇温した基板200は、成膜部13の成膜室100b内の噴き付け領域Xを通過する際に再び温度が低下する。その後さらに昇温した基板200は、徐冷部14を通過する間に室温まで冷却される。なお、噴き付け領域Xで基板200の温度が低下する理由は、吹き付けられた水溶液の溶媒である水の気化熱により基板200の熱が奪われるためである。
【0069】
このように、ミスト法を用いて2層の膜を成膜する場合、基板200は加熱および冷却の繰り返しによる熱履歴を有することになる。この熱履歴により基板200に内部歪が蓄積されると、基板200に割れおよび反りなどが発生する。
【0070】
本実施形態においては、第2加熱温度を第1加熱温度より高くして基板200の内部歪の蓄積を抑制しつつ、歪取工程においてガラスの徐冷点以上の温度下で基板200を保持して基板200の内部歪を除去している。その結果、基板200に割れおよび反りが発生することを抑制しつつ、基板200上に高品質の2層の膜を成膜することができる。
【0071】
以下、本実施形態に係るガラス基材への成膜方法により成膜を行なった実験例について説明する。
【0072】
(実験例1)
実施例1として、第1加熱温度を475℃にして40nmの膜厚のAl23膜を形成し、第2加熱温度を570℃にして900nmの膜厚のSnO2膜を形成した。560℃で15分間保持した後、室温まで徐冷した。
【0073】
比較例として、スパッタリング法により、ガラス基材上に10nmの膜厚のTiO2膜を形成し、その上に25nmの膜厚のSiO2膜を形成し、さらにその上に900nmの膜厚のSnO2膜を形成した。
【0074】
実施例1で得られたSnO2膜からなるTCO膜の透過率は82%、シート抵抗値は10Ω/□、ヘイズ率は10%であった。また、飛行時間二次イオン質量分析計(TOF−SIMS(Time-of-flight secondary ion mass spectrometer))を用いて、実施例1および比較例のNaの分布を計測した。
【0075】
図5は、実施例1の計測結果を示すグラフである。図6は、比較例の計測結果を示すグラフである。図5,6においては、縦軸にNaの検出強度、横軸に膜表面からの深さを示している。
【0076】
図5,6に示すように、実施例1のTCO膜内のNaの検出強度が、比較例のTCO膜内のNa検出強度と略同様に低下していた。すなわち、スパッタリング法により形成した25nmの膜厚のSiO2膜と略同等に、ミスト法により形成した40nmの膜厚のAl23膜が、ガラス基材からアルカリ金属イオンが移行するのを抑制していた。
【0077】
本実験例により、本実施形態に係るガラス基材への成膜方法により高品質の膜が形成できることが確認された。
【0078】
以下、本発明の実施形態2に係るガラス基材への成膜方法について説明する。なお、本実施形態に係るガラス基材への成膜方法は、第3成膜工程を備える点のみ実施形態1に係るガラス基材への成膜方法と異なるため、他の構成については説明を繰り返さない。
【0079】
(実施形態2)
本実施形態においては、基板200上にプリズム層としてTiO2膜を形成する。その上に、アルカリバリア層としてAl23膜またはMgO膜を形成する。さらにその上に、透明導電膜として、フッ素をドープされたSnO2からなるTCO膜を形成する。
【0080】
第1成膜工程として、成膜室100aにおいて、酸化物前駆体であるペルオキソチタン酸の水溶液を基板200上に噴霧する。本実施形態においては、第1加熱温度を300℃以上400℃未満とする。第1成膜工程により、基板200上にTiO2膜が形成される。
【0081】
第2成膜工程として、成膜室100bにおいて、酸化物前駆体であるAl(acac)3を0.15mol/L、および、CH3COOHを20vol%含む水溶液を基板200上に噴霧する。成膜室100b内の第2加熱温度は、第1加熱温度より高くかつガラスの歪点より低くなるように設定される。本実施形態においては、第2加熱温度を350℃以上480℃未満とする。より好ましくは、第2加熱温度を420℃以上480℃未満とする。第2成膜工程により、基板200上にAl23膜が形成される。
【0082】
また、アルカリバリア層としてMgO膜を形成する場合には、酸化物前駆体である塩化マグネシウム水溶液を基板200上に噴霧する。第2加熱温度を350℃以上480℃未満とする。より好ましくは、第2加熱温度を430℃以上480℃未満とする。第2成膜工程により、基板200上にMgO膜が形成される。
【0083】
第3成膜工程として、成膜室100cにおいて、酸化物前駆体であるSnCl4・5H2Oを0.9M、NH4Fを0.3M、HClを30vol%、メタノールを2.5vol%含む水溶液を基板200上に噴霧する。成膜室100c内の第3加熱温度は、第2加熱温度より高くかつガラスの徐冷点以上となるように設定される。本実施形態においては、第3加熱温度を550℃以上600℃以下とする。より好ましくは、第3加熱温度を550℃以上580℃以下とする。
【0084】
歪取工程および徐冷工程は、実施形態1に係るガラス基材への成膜方法と同様に行なう。このように、ミスト法を用いて3層の膜を成膜する場合、基板200は加熱および冷却の繰り返しによる熱履歴を有することになる。この熱履歴により基板200に内部歪が蓄積されると、基板200に割れおよび反りなどが発生する。
【0085】
本実施形態においては、第3加熱温度を第1加熱温度および第2加熱温度より高くして基板200の内部歪の蓄積を抑制しつつ、歪取工程においてガラスの徐冷点以上の温度下で基板200を保持して基板200の内部歪を除去している。その結果、基板200に割れおよび反りが発生することを抑制しつつ、基板200上に高品質の3層の膜を成膜することができる。
【0086】
以下、本実施形態に係るガラス基材への成膜方法により成膜を行なった実験例について説明する。
【0087】
(実験例2)
実施例2として、第1加熱温度を340℃にして20nmの膜厚のTiO2膜を形成し、第2加熱温度を475℃にして50nmの膜厚のAl23膜を形成し、第3加熱温度を570℃にして900nmの膜厚のSnO2膜を形成した。560℃で15分間保持した後、室温まで徐冷した。
【0088】
実施例2で得られたTiO2膜は高い屈折率を示し、SnO2膜からなるTCO膜の透過率は81.5%、シート抵抗値は8.4Ω/□、ヘイズ率は7.3%であった。
【0089】
また、実施例2で作製されたTCO膜付基板を用いて薄膜太陽電池を作製してその特性値を測定した。その結果、太陽電池セルの出力が145.7W、開放電圧値が62.2V、短絡電流値が3.2A、フィルファクタが0.731%であった。
【0090】
本実験例により、本実施形態に係るガラス基材への成膜方法により高品質の膜が形成できることが確認された。
【0091】
なお、本発明は、ガラス基材上に4層以上の膜を成膜する場合にも適用可能である。この場合、成膜する際の加熱温度を1層毎順に高く設定し、最後に成膜する際の加熱温度をガラスの徐冷点以上にすることにより、ガラス基材の割れおよび反りの発生を抑制しつつ、ガラス基材上に高品質の膜を成膜することができる。
【0092】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0093】
10 成膜装置、11 投入部、12 予熱部、13 成膜部、14 徐冷部、15 取出し部、100,100a,100b,100c,100d 成膜室、110 搬送コンベア、111 搬送ベルト、112 プーリ、113 駆動軸、120 加熱炉、130 スプレーノズル、131 冷却ジャケット、132 整流部材、134 整流部、140 タンク、141 通路、150 筐体、151 導入口、152 排気口、153 排気空間、154 仕切壁、155 開口、158 噴霧機構配置空間、159 成膜ガス噴霧空間、160 成膜材料、162 噴霧領域、170 キャリアガス、180 排気ガス、181 混合領域、200 基板、300 除害装置、310 接続管、X 噴き付け領域、Y 流路領域、Z 排気領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
300℃以上かつガラスの歪点より低い第1加熱温度下で、ガラス基材上に酸化物前駆体を溶質として含む水溶液を噴霧して1層目の膜を形成する第1成膜工程と、
前記第1加熱温度より高い第2加熱温度下で、前記ガラス基材上に酸化物前駆体を溶質として含む水溶液を噴霧して2層目の膜を形成する第2成膜工程と、
前記第2成膜工程後に、前記ガラス基材をガラスの徐冷点以上の温度下で保持する歪取工程と、
前記歪取工程後に、前記ガラス基材を室温まで徐冷する徐冷工程と
を備える、ガラス基材への成膜方法。
【請求項2】
前記第2加熱温度が前記ガラスの歪点より低い、請求項1に記載のガラス基材への成膜方法。
【請求項3】
前記第2加熱温度が前記ガラスの徐冷点以上である、請求項1に記載のガラス基材への成膜方法。
【請求項4】
前記徐冷工程において、前記ガラス基材の温度が5℃/分以上30℃/分以下の速度で低下するように冷却する、請求項1から3のいずれかに記載のガラス基材への成膜方法。
【請求項5】
前記1層目の膜は、前記ガラス基材からアルカリ金属イオンが移行するのを抑制するバリア層であり、
前記2層目の膜は、透明導電膜である、請求項1から4のいずれかに記載のガラス基材への成膜方法。
【請求項6】
前記1層目の膜は、Al23からなり、
前記第1加熱温度は、350℃以上480℃未満であり、
前記2層目の膜は、フッ素をドープされたSnO2からなり、
前記第2加熱温度は、550℃以上600℃以下である、請求項5に記載のガラス基材への成膜方法。
【請求項7】
前記第2成膜工程と前記歪取工程との間に第3成膜工程をさらに備え、
前記第3成膜工程においては、前記第2加熱温度より高い第3加熱温度下で、前記ガラス基材上に酸化物前駆体を溶質として含む水溶液を噴霧して3層目の膜を形成し、
前記1層目の膜は、プリズム層であり、
前記2層目の膜は、前記ガラス基材からアルカリ金属イオンが移行するのを抑制するバリア層であり、
前記3層目の膜は、透明導電膜である、請求項1から4のいずれかに記載のガラス基材への成膜方法。
【請求項8】
前記1層目の膜は、TiO2からなり、
前記第1加熱温度は、300℃以上400℃未満であり、
前記2層目の膜は、Al23またはMgOからなり、
前記第2加熱温度は、350℃以上480℃未満であり、
前記3層目の膜は、フッ素をドープされたSnO2からなり、
前記第3加熱温度は、550℃以上600℃以下である、請求項7に記載のガラス基材への成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−95944(P2013−95944A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237948(P2011−237948)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【特許番号】特許第5048862号(P5048862)
【特許公報発行日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】