説明

キャビン付き走行車両

【課題】走行車体から板状部材に伝達された振動を低減することができ、キャビン内の騒音を効率よく低減することができるキャビン付き走行車両を低コストで実現する。
【解決手段】キャビン付き走行車両において、走行車体3にキャビンブラケット30を備え、キャビンブラケット30に弾性部材36,46を介してキャビン8を支持し、キャビン8の板状部材28,29にウエイト部材51を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行車体にキャビンを支持してあるキャビン付き走行車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術しては、例えば特許文献1に開示されているように、キャビン(特許文献1の7)の操縦部の床面(特許文献1の図1の9)や天井壁部(特許文献1の図1の18)等に吸音シート(特許文献1の図1の21)を設けて、キャビン内の騒音を低減するように構成されたキャビン付き走行車両が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−356184号公報(図1、図3及び図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のキャビン付き走行車両では、キャビン内の騒音が吸音シートの表面に形成された複数の穴(特許文献1の図4の23)を介して吸音材(特許文献1の図4の25)に伝達され、吸音材の吸音効果によってキャビン内の騒音を低減するように構成されており、走行車体から操縦部の床面や天井壁部等に伝達された振動を低減することによってキャビン内の騒音を低減するものではなかった。その結果、吸音シートを操縦部の床面や天井壁部等に設けても、吸音シートを貼付又は敷設する面積に対する騒音低減効果が小さいだけでなく、キャビン内の騒音を十分に低減することができず、走行車体から操縦部の床面や天井壁部等に伝達された振動に起因する騒音が、依然として運転者にとって不快なキャビン内の騒音の大きな原因になっていた。
【0005】
また、特許文献1のキャビン付き走行車両では、操縦部の床面や天井壁部等の広範囲に亘って面積の広い吸音シートを貼付又は敷設することによってキャビン内の騒音を低減するように構成されている。その結果、吸音シートの部品単価が高くなって走行車両の製造コストが高騰するといった問題や、吸音シートを操縦部の床面や天井壁部等に貼付又は敷設する時間が多く掛かって走行車両の組立作業の作業性が悪くなるといった問題があった。
【0006】
そこで、操縦部の床面や天井壁部等に補強部材や振動を抑制する鋼板等を取り付けて、走行車体から操縦部の床面や天井壁部等に伝達された振動を低減して運転者にとって不快なキャビン内の騒音を低減することが考えられる。しかし、操縦部の床面や天井壁部等に補強部材や振動を抑制する鋼板等を取り付けると、この補強部材や振動を抑制する鋼板等の取り付けに伴って、走行車両の製造コストが高騰するといった問題や走行車両の車両重量が重くなるといった問題がある。
本発明は、走行車体から板状部材に伝達された振動を低減することができ、キャビン内の騒音を効率よく低減することができるキャビン付き走行車両を低コストで実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、キャビン付き走行車両を、次のように構成することにある。
走行車体にキャビンブラケットを備え、前記キャビンブラケットに弾性部材を介してキャビンを支持し、前記キャビンの板状部材にウエイト部材を取り付ける。
【0008】
(作用)
本発明の第1特徴によると、走行車体からの振動が弾性部材を介してキャビンに伝達されると、走行車体からの振動によって比較的剛性の低い板状部材が振動し、この板状部材に伝達された振動を、板状部材に取り付けたウエイト部材の重量効果によって低減することができる。その結果、走行車体から板状部材に伝達された振動に起因するキャビン内の騒音を低減することができ、キャビン内の騒音を効率よく低減することができる。
【0009】
具体的には、例えば図9、図11及び図12に示すように、板状部材の一例としてのフロアパネル(例えば図9の28)におけるキャビン内の騒音の原因になり易い固有振動数の発生している領域(例えば図9のA)にウエイト部材(例えば図9の51)を備えることにより、ウエイト部材の重量効果によって走行車体からフロアパネルに伝達された振動の振動加速度のピーク値を図11におけるP1からP2に移動させることができ、キャビン内の騒音の原因になり易い周波数(例えば図11のP1(200Hz付近))での振動を低減できる。その結果、走行車体からフロアパネルに伝達された振動に起因するキャビン内の騒音を低減することができ、キャビン内の騒音を効率よく低減することができる(例えば図12の中心周波数が200Hzでの騒音のスペクトル値を低減できるとともに、OA値を低減できる)。
【0010】
本発明の第1特徴によると、例えば板状部材の全面に亘って吸音シートを貼付又は敷設してキャビン内の騒音を低減する場合や、補強部材や振動を抑制する鋼板等を取り付けて板状部材の振動を低減しキャビン内の騒音を低減する場合に比べ、板状部材に部分的に取り付けたウエイト部材によってキャビン内の騒音を効率よく低減することができる。その結果、キャビン内の騒音を低減する構造を簡素化することができ、比較的低コストでキャビンの騒音を低減することができる。
【0011】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、騒音が小さい状態での運転や作業が可能になって、運転者の運転環境を改善できる。
【0012】
本発明の第1特徴によると、走行車両の製造コストを削減し、走行車両の車両重量の増加を低く抑えながら、キャビンの騒音を効率よく低減することができる。
【0013】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴のキャビン付き走行車両において、次のように構成することにある。
前記板状部材を、前記キャビンのフロアパネル又は後輪フェンダーで構成する。
【0014】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第2特徴によると、剛性が比較的低く面積の広いフロアパネル又は後輪フェンダーにウエイト部材を取り付けることにより、振動し易くキャビン内の騒音の原因になり易い効果的な位置にウエイト部材を取り付けることができ、キャビン内の騒音の原因になり易いフロアパネル又は後輪フェンダーの振動を低減することができる。その結果、走行車体からフロアパネル又は後輪フェンダーに伝達された振動に起因するキャビン内の騒音を低減することができ、キャビン内の騒音を更に効率よく低減できる。
【0015】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によると、騒音が小さい状態での運転や作業が可能になって、運転者の運転環境を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
〔トラクタの全体構成〕
図1〜図4に基づいて、キャビン付き走行車両の一例であるトラクタの全体構成について説明する。図1は、トラクタの全体側面図を示し、図2及び図3は、キャビン8の横断平面図及び側面図をそれぞれ示す。また、図4は、キャビンブラケット30付近の縦断背面図を示す。
【0017】
図1〜図3に示すように、このトラクタは、左右一対の操向操作及び駆動自在な前輪1と、左右一対の駆動自在な後輪2とを走行車体3に備えた四輪駆動仕様に構成されている。走行車体3の前部に、エンジン4等が内装されたボンネット部5を備え、走行車体3の後部に、ステアリングハンドル6、運転座席7等が内装されたキャビン8を備える。
【0018】
エンジン4の下部から前方に前部フレーム10が延出されており、この前部フレーム10に前輪1を装着する車軸ケース等(図示せず)が支持されている。また、エンジン4から後方にクラッチハウジング11が延出されており、このクラッチハウジング11に運転座席7の下方に位置するミッションケース12が連結されて、エンジン4からの動力が後輪2に伝達されるように構成されている。
【0019】
走行車体3の後部に、左右一対のリフトアームにより構成されたリンク機構13及び動力取り出し軸14を備え、リンク機構13にロータリ耕耘装置等(図示せず)を昇降操作自在に連結し、動力取り出し軸14にロータリ耕耘装置等を連動連結することで、ロータリ耕耘装置等の昇降操作及び駆動ができるように構成されている。
【0020】
キャビン8は、キャビンフレーム20と、キャビンフレーム20の前面を覆うフロントガラス16と、キャビンフレーム20の両側面の乗降口に設けられた揺動開閉可能なドア17と、このドア17の後部に設けられたサイドガラス18と、キャビンフレーム20の後面を覆うリアガラス19とを備えて構成されている。
【0021】
キャビンフレーム20は、キャビン8を支持する角パイプ状の支持フレーム21と、この支持フレーム21に連結された下部フレーム22とを備えて構成されている。下部フレーム22の前端部、中央部及び後端部から左右一対のフロントピラー23、左右一対のセンターピラー24及び左右一対のリアピラー25がそれぞれ上方に延出されており、このフロントピラー23、センターピラー24及びリアピラー25が、それぞれ上部フレーム26に連結されている。キャビンフレーム20を構成する各種フレーム類はパイプ材等を溶接成形することによって構成されている。
【0022】
キャビンフレーム20の上部は、樹脂製でブロー成型によって中空状に構成されたアウタルーフ27によって上方から覆われており、このアウタルーフ27は、シール部材(図示せず)を介して上部フレーム26に固定されている。
【0023】
キャビンフレーム20の下部には、キャビン8の床を形成するフロアパネル28(板状部材に相当)が連結されており、このフロアパネル28の後部中央部に運転座席7が配設されている。フロアパネル28の下面側の左右両側部に、前後に長い角パイプ状の前後フレーム15が固着されており、この前後フレーム15の先端部は後述するブラケット41に固定され、前後フレーム15の後端部は、支持ブラケット44に固定されている。
【0024】
キャビン8の左右両側部に位置する下部フレーム22の下部には、後輪フェンダー29が固定されており、この後輪フェンダー29は、後輪2の外周部を上方から覆う形状に成形されたフェンダー本体29Aと、後輪2の内方側に位置するプレート29Bとを備えて構成されている。
【0025】
キャビンフレーム20を構成する左右のフロントピラー23に亘って、フロントガラス16が固定されており、キャビンフレーム20の前面がこのフロントガラス16で覆われている。キャビンフレーム20を構成する左右のリアピラー25に亘ってリアガラス19が取り付けられており、キャビンフレーム20の後面がこのリアガラス19で覆われている。
【0026】
フロントピラー23とセンターピラー24とに亘って形成されたキャビンフレーム20両側面の乗降口に、ドア17がその後端部の軸心周りに揺動開閉自在に取り付けられており、センターピラー24とリアピラー25とに亘ってサイドガラス18が揺動開閉可能に取り付けられている。
【0027】
キャビン8は、その前部の左右両側部が防振ゴム36(弾性部材に相当)を介してクラッチハウジング11から左右両側方に延出されたキャビンブラケット30に支持されており、その後部の左右両側部に位置する支持フレーム21の下端部に固定された支持ブラケット44が、防振ゴム46(弾性部材に相当)を介して後車軸ケース47から延出された後部キャビンブラケット45に支持されている。
【0028】
図4に示すように、キャビンブラケット30は、クラッチハウジング11に固定する固定部材31と、防振ゴム36を介してキャビン8を支持する支持部材32と、キャビンブラケット30の根元部に設けられた補強部材33と、キャビンブラケット30の先端部に設けられた調節部材34とを溶接で一体形成することによって構成されており、固定部材31をクラッチハウジング11に締め付け固定することで、キャビンブラケット30がクラッチハウジング11に固定されている。
【0029】
防振ゴム36は、連結ボルト38を挿入する筒状体36aと、ゴム製の防振本体36bと、取付穴が加工されたリング状の取付金具36cとを備えて構成されており、支持部材32に形成されたゴム挿入穴32aに防振ゴム36を内嵌挿入して、取付金具36cを支持部材32に締め付け固定することで、防振ゴム36をキャビンブラケット30に固定できる。
【0030】
キャビンブラケット30の先端部には、防振ウエイト40が着脱可能に取り付けられており、防振ウエイト40の枚数を変更することで、キャビンブラケット30の先端部の重量を変更調節でき、例えば、キャビン8やエンジン4の仕様等に応じてキャビンブラケット30を介してキャビン8に伝達される振動の特性を変更調節できる。
【0031】
キャビンフレーム20の下端面を形成するフロアパネル28の下面側に、ブラケット41が固着されており、このブラケット41の下面側に皿状の連係部材37が固定されている。連係部材37を防振ゴム36の上面側に接当させて防振ゴム36の筒状体36aに連結ボルト38を挿入し締め付けて固定することで、キャビン8と防振ゴム36を連結することができ、防振ゴム36を介してキャビン8をキャビンブラケット30に弾性支持できるように構成されている。
【0032】
防振ゴム36の筒状体36aの下端部には、複数の円板状のウエイト35が連結ボルト38によって共締めされており、このウエイト35の枚数を変更することで、キャビンブラケット30を介して伝達される振動の特性を変更調節できる。
【0033】
キャビンブラケット30の先端部には、位置決めピン39が下方側から締め付け固定されており、この位置決めピン39をブラケット41に設けた位置決め穴41aに内嵌することで、キャビンブラケット30に対するキャビン8の前後左右方向の位置決めが簡易迅速に行えるように構成されている。
【0034】
以上のようにキャビンブラケット30を構成することにより、補強部材33及び調節部材34によってキャビンブラケット30の剛性に強弱をつけることができる。その結果、補強部材33を設けた剛性の高い部分によってキャビンブラケット30の強度を確保しながら、クラッチハウジング11からの振動を、キャビンブラケット30の左右中央部の剛性が低く固有振動数の低い部分を介してキャビン8に伝達することができ、キャビンブラケット30の固有振動数を低く抑えることができる。
【0035】
また、キャビンブラケット30の先端部に防振ウエイト40を装着し、防振ゴム36の下部にウエイト35を装着することにより、防振ウエイト40及びウエイト35によってキャビンブラケット30を介してキャビン8に伝達された振動の固有振動数を調節することができ、キャビンブラケット30及び防振ゴム36を介してキャビン8に伝達される振動の固有振動数を低い値に調節することができる。その結果、キャビン8内で共鳴等が起こってこもり音が発生することを防止できる。
【0036】
〔ダイナミックダンパの詳細構造〕
図5〜図8に基づいて、ダイナミックダンパ50の詳細構造について説明する。図5及び図6は、フロアパネル28に取り付けたダイナミックダンパ50付近の縦断側面図及び縦断背面図をそれぞれ示す。図7及び図8は、後輪フェンダー29に取り付けたダイナミックダンパ50付近の背面図及び支持ブラケット44に取り付けたダイナミックダンパ50付近の縦断側面図をそれぞれ示す。
【0037】
図5及び図6に示すように、ダイナミックダンパ50は、ウエイト部材51と、粘性及び弾性を備えた弾性体としての防振ゴム52と、筒状部材53と、座板54と、固定ボルト56とを備えて構成されている。ウエイト部材51は、鋼板製のフラットバーによって構成されており、防振ゴム52を内嵌する上下向きの2つの取付穴51Aが形成されている。防振ゴム52は、所定の硬度に設定されたゴム製で、円筒状の本体部52Aと、この本体部52Aの端部に形成されたフランジ部52Bとによって構成されている。
【0038】
筒状部材53は、材質が鉄鋼製のパイプ材によって構成されており、この筒状部材53の上下方向の長さは、ダイナミックダンパ50をフロアパネル28に装着した状態で、上側のウエイト部材51の上面側とフロアパネル28の下面側との間に上側の防振ゴム52のフランジ部52Bが少し弾性変形して圧縮された状態で装着され、下側のウエイト部材51の下面側と座板54の上面側との間に下側の防振ゴム52のフランジ部52Bが少し弾性変形して圧縮された状態で装着される長さに設定されている。その結果、ウエイト部材51をフロアパネル28に弾性支持することができると共に、トラクタの走行等によってウエイト部材51が上下にずれ動くことを防止できる。
【0039】
このように、防振ゴム52を介してウエイト部材51をフロアパネル28に弾性支持することにより、例えばウエイト部材51をフロアパネル28に剛体支持する場合に比べ、効率よくフロアパネル28の振動を低減でき、キャビン8内の騒音を効率よく低減できる。なお、ウエイト部材51をフロアパネル28に弾性支持する構成として異なる構成を採用してもよく、例えば弾性体としてのバネ(図示せず)やダンパー(図示せず)等によってウエイト部材51をフロアパネル28に弾性支持する構成を採用してもよい。
【0040】
また、筒状部材53の上面及び下面がフロアパネル28の下面及び座板54の上面にそれぞれ接当して、ダイナミックダンパ50がフロアパネル28に固定されるように構成されており、固定ボルト56の締め付け力を、フロアパネル28、筒状部材53及び座板54に作用させることができる。その結果、トラクタの走行等による固定ボルト56の緩みを防止でき、トラクタの走行等によるダイナミックダンパ50の脱落を防止できる。
【0041】
2枚のウエイト部材51を上下に重ねて、上側のウエイト部材51の上方から2つの取付穴51Aに防振ゴム52を内嵌し、下側のウエイト部材51の下方から2つの取付穴51Aに防振ゴム52を内嵌する。そして、上下の防振ゴム52の本体部52Aに筒状部材53を内嵌して、円板状の座板54とワッシャ55を間に挟んで、下方側から固定ボルト56を挿入し、上方から座付きナット57を締め付け固定することで、防振ゴム52を介してウエイト部材51をフロアパネル28に簡易迅速に取り付けることができる。
【0042】
筒状部材53の外周面と防振ゴム52の内周面との間の隙間、及び防振ゴム52の本体部52Aの外周面とウエイト部材51の取付穴51Aの内周面との間の隙間は小さく設定されている。その結果、トラクタの走行等によってウエイト部材51が平面方向にずれ動くことを防止できる。
【0043】
図2に示すように、ダイナミックダンパ50は、平面視で、その長手方向が前後向きになるように、フロアパネル28の下面側に固着された前後フレーム15に沿って配設されており、右側のダイナミックダンパ50と、左側のダイナミックダンパ50は、前後方向に位置を少しずらして配設されている。
【0044】
図3及び図7に示すように、後輪2の内方側に位置する後輪フェンダー29のプレート29B(板状部材に相当)にダイナミックダンパ50が装着されている。前後フレーム15及びプレート29Bには、左右方向に貫通する2つ貫通穴が形成されており、この貫通穴に、ダイナミックダンパ50を構成するウエイト部材51,51、防振ゴム52,52及び筒状部材53が、座板54及びワッシャ55を介して固定ボルト56及び座付きナット57によって締め付け固定されている。
【0045】
後輪フェンダー29に装着したダイナミックダンパ50には、上述したフロアパネル28に装着したウエイト部材51と同じ形状のウエイト部材51が装着されており、ウエイト部材51の形状を共通化することにより、部品を共通化でき、製造コスト削減を図れる。なお、ダイナミックダンパ50の詳細構造は、上述したフロアパネル28に装着したダイナミックダンパ50と同様である。
【0046】
図3及び図8に示すように、防振ゴム46を介してキャビン8の後部を後部キャビンブラケット45に支持する支持ブラケット44(板状部材に相当)の上面側にダイナミックダンパ50が装着されている。支持ブラケット44には、上下方向に貫通する貫通穴が形成されており、この貫通穴に、ダイナミックダンパ50を構成するウエイト部材51、防振ゴム52,52及び筒状部材53が、座板54及びワッシャ55を介して固定ボルト56及び座付きナット57によって締め付け固定されている。
【0047】
支持ブラケット44に装着したダイナミックダンパ50には、支持ブラケット44の形状に合わせた形状に成形された一つのウエイト部材51が装着されており、上述したフロアパネル28及び後輪フェンダー29に装着したダイナミックダンパ50の約半分の重さになるように、ダイナミックダンパ50の重量が設定されている。なお、ダイナミックダンパ50の詳細構造は、ウエイト部材51、防振ゴム52及び筒状部材53の寸法が異なる以外は、上述したフロアパネル28に装着したダイナミックダンパ50と同様である。
【0048】
〔ダイナミックダンパの取付位置の設定方法〕
図9及び図10に基づいて、ダイナミックダンパ50の取付位置の設定方法について説明する。図9は、フロアパネル28へのダイナミックダンパ50の取付位置の設定方法を説明する概略平面図を示し、図10は、フロアパネル28等をモデリングした概略図を示す。なお、以下の説明においては、フロアパネル28に装着したダイナミックダンパ50の取付位置の設定方法について説明するが、後輪フェンダー29及び支持ブラケット44に装着したダイナミックダンパ50の取付位置の設定方法についても、装着する対象等が異なる以外の他の構成は、フロアパネル28に装着する場合と同様である。
【0049】
図9に示すように、振動が発生する状況(例えばエンジン4を全開にした状況)を現出して、図9の斜線で囲った範囲内のフロアパネル28のパネル面の振動を測定し、図9の太線で囲った範囲のキャビン8内の騒音の原因になり易い特定周波数(例えば200Hz)の振動が発生している領域(特定周波数領域A)を特定する。
【0050】
そして、図9の太線で囲った特定周波数領域Aの中心部の位置(図9中のA1)をダイナミックダンパ50の取付位置に設定する。このように、フロアパネル28における振動の周波数の測定結果に基づいて、キャビン8内の騒音の原因になり易い特定周波数の振動が発生している領域を特定し、ダイナミックダンパ50の取付位置を設定する。
【0051】
なお、上述したように、このトラクタでは、前後フレーム15との位置関係上、図9中のA1に近い位置で、前後フレーム15に沿った位置にダイナミックダンパ50を装着している。
【0052】
図10(イ)に示すように、このトラクタのフロアパネル28をモデリングすると、図10(イ)に示す両端固定梁のように仮定できる。この両端固定梁の中間位置付近の振動の大きい部位(振動の腹Lに近い部位)に、ダイナミックダンパ50を装着することにより、振動を効果的に低減することができる。
【0053】
なお、例えば、後輪フェンダー29のプレート29B及び支持ブラケット44をモデリングすると、図10(ロ)に示すように、片持固定梁に仮定でき、プレート29B及び支持ブラケット44の先端部が振動の大きい部位(振動の腹Lに近い部位)に相当する。
【0054】
以上のように、フロアパネル28のパネル面の振動を測定し、特定周波数の振動が発生している特定周波数領域Aを特定することにより、図10(イ)に示す両端固定梁の振動の腹Lに相当するフロアパネル28のパネル面の領域を特定することができ、この特定周波数領域Aの中心部の位置A1にダイナミックダンパ50を装着することにより、ウエイト部材51の質量と、粘性及び弾性を備えた防振ゴム52との減衰効果によって、フロアパネル28の振動を効果的に減衰することができる。
【0055】
なお、ダイナミックダンパ50の重量は、上述した取付位置で、ダイナミックダンパ50のウエイト部材51の枚数や厚さを変更して振動が発生する複数の状況を現出し、このウエイト部材51の枚数を変更して測定した複数の測定結果に基づいて、フロアパネル28の振動を効果的に減衰できるダイナミックダンパ50の重量を設定する。
【0056】
〔振動加速度及び騒音の測定結果〕
図11〜図17に基づいて、周波数毎の振動加速度の測定結果、及びダイナミックダンパ50を装着した場合の騒音の測定結果について説明する。図11、図13及び図15は、フロアパネル28(図11)、後輪フェンダー29(図13)又は支持ブラケット44(図15)にダイナミックダンパ50を取り付けた状態で、振動を測定する位置(例えばフロアパネル28の場合には、図9中のA1の位置)に振動ピックアップ(図示せず)を装着し、振動ピックアップを装着した位置の周辺をハンマー等(図示せず)で叩いて振動を発生させ、振動ピックアップで周波数毎の振動加速度(G)を測定したデータと、ダイナミックダンパ50を取り付けていない状態で、振動を測定する位置に振動ピックアップを装着し、振動ピックアップを装着した位置の周辺をハンマー等で叩いて振動を発生させ、振動ピックアップで周波数毎の振動加速度(G)を測定したデータとを比較したグラフを示す。
【0057】
図12、図14及び図16は、フロアパネル28(図12)、後輪フェンダー29(図14)又は支持ブラケット44(図16)にダイナミックダンパ50を取り付けた状態で、エンジン4を全開にして運転座席7の運転者の耳元付近での騒音(dBA)を測定したデータと、ダイナミックダンパ50を取り付けていない状態で、エンジン4を全開にして運転座席7に着座した運転者の耳元付近での騒音(dBA)を測定したデータとを比較したグラフを示す。図12、図14及び図16においては、A特性での1/3オクターブバンド毎の騒音(dBA)のスペクトル値を、1/3オクターブバンドの中心周波数毎に棒グラフ状に表示する。なお、OA値は、オーバーオール値の略であり、オクターブバンド毎の騒音の測定値から演算した値を示し、騒音の総合的な評価に用いる。
【0058】
なお、図17は、フロアパネル28、後輪フェンダー29、支持ブラケット44にダイナミックダンパ50を装着した場合の騒音のスペクトル値及びOA値を比較した表を示す。
【0059】
図11に示すように、フロアパネル28にダイナミックダンパ50を装着すると、ダイナミックダンパ50を装着していない場合に比べ、振動加速度のピーク値での周波数を約210Hz(図11中のP1)から約170Hz(図11中のP2)に移動することができ、周波数が200Hz付近でのフロアパネル28の振動加速度を低く抑えることができる。その結果、キャビン8内の騒音の原因になり易いフロアパネル28の200Hz付近での振動を低く抑えることができ、フロアパネル28の共振を抑制できる。
【0060】
図12に示すように、フロアパネル28にダイナミックダンパ50を装着すると、ダイナミックダンパ50を装着していない場合に比べ、中心周波数が200Hzでの騒音のスペクトル値を約6.7dBA低減することができ、OA値を約0.5dBA低減することができる。その結果、運転座席7に着座した運転者の耳元付近の騒音を低減できる。
【0061】
図13に示すように、後輪フェンダー29にダイナミックダンパ50を装着すると、ダイナミックダンパ50を装着していない場合に比べ、振動加速度のピーク値での周波数を約125Hz(図12中のP3)から約170Hz(図12中のP4)に移動することができ、周波数が125Hz付近での振動加速度を低く抑えることができる。また、周波数が200Hz付近での振動加速度を低く抑えることができる。その結果、キャビン8内の騒音の原因になり易い周波数が125Hz及び200Hz付近での後輪フェンダー29の振動を低く抑えることができ、後輪フェンダー29の共振を抑制できる。
【0062】
図14に示すように、後輪フェンダー29にダイナミックダンパ50を装着すると、ダイナミックダンパ50を装着していない場合に比べ、中心周波数が125Hzでの騒音のスペクトル値を約10dBA低減することができ、中心周波数が200Hzでの騒音のスペクトル値を約2.0dBA低減することができ、OA値を約0.6dBA低減することができる。その結果、運転座席7に着座した運転者の耳元付近の騒音を低減できる。
【0063】
図15に示すように、支持ブラケット44にダイナミックダンパ50を装着すると、ダイナミックダンパ50を装着していない場合に比べ、振動加速度のピーク値での周波数を約400Hz(図15中のP5)から約680Hz(図15中のP6)に移動することができ、周波数が400Hz付近での振動加速度を低く抑えることができる。その結果、キャビン8内の騒音の原因になり易い周波数が400Hz付近での支持ブラケット44の振動を低く抑えることができ、支持ブラケット44の共振を抑制できる。
【0064】
図16に示すように、支持ブラケット44にダイナミックダンパ50を装着すると、ダイナミックダンパ50を装着していない場合に比べ、中心周波数が400Hzでの騒音のスペクトル値を約4.4dBA低減することができ、OA値を約0.4dBA低減することができる。その結果、運転座席7に着座した運転者の耳元付近の騒音を低減できる。
【0065】
図17に示すように、フロアパネル28、後輪フェンダー29及び支持ブラケット44にダイナミックダンパ50を装着することにより、フロアパネル28、後輪フェンダー29及び支持ブラケット44が振動することによってキャビン8の運転座席7に着座した運転者の耳元付近の騒音の原因になり易い周波数での騒音のスペクトル値を低減することができ、運転座席7に着座した運転者の耳元付近の騒音のOA値を低減することができる。
【0066】
フロアパネル28にダイナミックダンパ50を装着すると、中心周波数が200Hzでの騒音のスペクトル値を大きく低減でき、後輪フェンダー29にダイナミックダンパ50を装着すると、中心周波数が125Hzでの騒音のスペクトル値を大きく低減でき、支持ブラケット44にダイナミックダンパ50を装着すると、中心周波数が400Hzでの騒音のスペクトル値を大きく低減できる。その結果、狙った周波数帯域での騒音のスペクトル値を効果的に低減でき、その効果が騒音の測定結果としてOA値に現れていることが測定データにより確認できる。
【0067】
また、フロアパネル28、後輪フェンダー29及び支持ブラケット44に装着したダイナミックダンパ50によって、それぞれ異なる周波数でキャビン8内の騒音低減効果が発揮されることを確認できた。
【0068】
なお、図11〜図17においては、フロアパネル28、後輪フェンダー29又は支持ブラケット44にダイナミックダンパ50を別々に装着した場合の振動加速度及び騒音の測定データを例に示したが、フロアパネル28、後輪フェンダー29及び支持ブラケット44のいずれか2つ又は全部にダイナミックダンパ50を装着すると、キャビン8内の騒音を更に効果的に低減することができる。
【0069】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、フロアパネル28、後輪フェンダー29及び支持ブラケット44にダイナミックダンパ50(ウエイト部材51)を取り付けた例を示したが、キャビン8を構成する異なる板状部材にダイナミックダンパ50(ウエイト部材51)を取り付けてもよく、例えばアウタルーフ27等にダイナミックダンパ50(ウエイト部材51)を取り付けてもよい。また、フロアパネル38等へのダイナミックダンパ50(ウエイト部材51)の取付位置は異なる取付位置であってもよく、例えばフロアパネル28後部の運転座席7の外周部にダイナミックダンパ50(ウエイト部材51)を装着してもよい。
【0070】
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、防振ゴム52を介してフロアパネル28、後輪フェンダー29及び支持ブラケット44にウエイト部材51を取り付けて、ダイナミックダンパ50として機能するように構成した例を示したが、簡易には、防振ゴム52を介さずにウエイト部材51を取り付ける構成を採用してもよい。このように構成することにより、ウエイト部材51の取り付け構造を簡素化することができ、製造コストを削減できる。
【0071】
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、フロアパネル28、後輪フェンダー29及び支持ブラケット44にウエイト部材51を固定ボルト56で取り付けた例を示したが、フロアパネル28等にウエイト部材51を取り付ける方法として異なる方法を採用してもよく、例えばウエイト部材51に防振ゴム52を接着し、このウエイト部材51に接着した防振ゴム52をフロアパネル28等に接着する構成を採用してもよい。また、防振ゴム52を介さずにウエイト部材51を装着する場合には、ウエイト部材51をフロアパネル28等に溶着する構成を採用してもよい。
【0072】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、キャビン付き走行車両の一例としてトラクタを例に示したが、キャビン付き走行車両であれば異なる走行車両であっても同様に適用でき、例えば、コンバイン等の農作業車、土木用作業車、建設用作業車等のキャビン付き走行車両においても同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】トラクタの全体左側面図
【図2】キャビンの構造を示す横断平面図
【図3】キャビンの構造を示す左側面図
【図4】キャビンブラケット付近の縦断背面図
【図5】フロアパネルのダイナミックダンパ付近の縦断側面図
【図6】フロアパネルのダイナミックダンパ付近の縦断背面図
【図7】後輪フェンダーのダイナミックダンパ付近の背面図
【図8】支持ブラケットのダイナミックダンパ付近の縦断側面図
【図9】ダイナミックダンパの取付位置の設定方法を説明する概略平面図
【図10】フロアパネル等をモデリングした概略図
【図11】フロアパネルでの周波数毎の振動加速度の測定結果の一例を示すグラフ
【図12】フロアパネルにダイナミックダンパを装着した場合の周波数毎の騒音の測定結果の一例を示すグラフ
【図13】後輪フェンダーでの周波数毎の振動加速度の測定結果の一例を示すグラフ
【図14】後輪フェンダーにダイナミックダンパを装着した場合の周波数毎の騒音の測定結果の一例を示すグラフ
【図15】支持ブラケットでの周波数毎の振動加速度の測定結果の一例を示すグラフ
【図16】支持ブラケットにダイナミックダンパを装着した場合の周波数毎の騒音の測定結果の一例を示すグラフ
【図17】取付位置毎の騒音の測定結果を比較した表
【符号の説明】
【0074】
3 走行車体
8 キャビン
28 フロアパネル(板状部材)
29 後輪フェンダー(板状部材)
30 キャビンブラケット
36 防振ゴム(弾性部材)
46 防振ゴム(弾性部材)
51 ウエイト部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体にキャビンブラケットを備え、前記キャビンブラケットに弾性部材を介してキャビンを支持し、
前記キャビンの板状部材にウエイト部材を取り付けてあるキャビン付き走行車両。
【請求項2】
前記板状部材を、前記キャビンのフロアパネル又は後輪フェンダーで構成してある請求項1記載のキャビン付き走行車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−265374(P2008−265374A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107189(P2007−107189)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】