説明

ギヤの磨耗検知機構及び磨耗検知方法

【課題】ピニオンギヤが速く回転しても確実にギヤの歯面磨耗を検知することができ、磨耗量の検知をユーザの任意の量で確実に検知できる手段を提供する。
【解決手段】ギヤの歯面の側面を検出する第1のセンサ1及び第2のセンサ2と、を備え、ギヤを回転させたときの、第1のセンサ1の信号の変化するタイミングから第2のセンサ2の信号の変化するタイミングの時間の差が、予め設定した閾値よりも大きくなったとき、ギヤが磨耗したと判断する磨耗検知機構を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば産業用ロボットの動作軸における上下軸や走行軸において、ラックギヤ歯面の磨耗状態を検知し、動作異常を事前に防止する機構及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、ある産業用ロボットの一例を示す全体図である。図4の産業用ロボット41は、液晶やウェハを搬送する搬送ロボットである。42は液晶やウェハを載置するハンド部である。ハンド部42は図中X軸方向に移動可能で、液晶等ワークを搬送する。43はハンド部42を支持して、支柱44に沿って図中Z軸方向で上下移動する移動体である。また、支柱44は支柱支持部45にて支持され、図中θ軸で回転可能である。そして、産業用ロボット41はコントローラ46に接続されて駆動制御される。通常、産業用ロボット41とコントローラ46とはセットで設置されてロボットシステムとして構成される。
【0003】
図3は、図4における支柱44の内部構造を示す、簡易的な模式図である。43は図4で説明した移動体43であり、移動体43には、図示しないサーボモータ及び減速機が搭載されており、減速機の出力軸に34のピニオンギヤが接続されている。そして、図中Y軸方向に沿って、ピニオンギヤ34に噛合するように、ラックギヤ33が敷設されている。また、移動体43は、ラックギヤ33に沿うように敷設されているリニアガイド32aの移動ブロック32bにも接続されている。
以上の構成により、産業用ロボット41の移動体43は、図示しないサーボモータの回転によって、ピニオンギヤ34を回転させ、ラックギヤ33に噛合して、リニアガイド32aに案内されながら上下方向(Y方向)に移動可能である。
なお、図3及び4では図示しないが、支柱支持部45は、上記と同様な、所謂ラックアンドピニオンの機構とリニアガイドとの構成によって、図4のY方向(走行軸)に移動可能とすることもできる。
【0004】
ところが、昨今のワークの大型化に伴い、ハンド部42が大型化し、移動体のY軸移動距離も伸びているのが現状である。ラックギヤとピニオンギヤは、こういった大型の産業用ロボットの上下軸や走行軸に使用されることが多いが、大型化した装置がギヤの磨耗により落下したり暴走することは避けなくてはならない。従ってギヤの磨耗を事前に検知し、移動体の落下事故や暴走事故を未然に防止することが重要である。
【0005】
そこで、従来技術のギヤの磨耗検出の例として、ピニオンギヤの回転駆動により上下する昇降体に、ラックの歯の形状を検知するセンサーが設けられ、この形状検出信号が正常状態での形状検出信号と比較され、変化が生じたときに警告を発するものがある。(例えば、特許文献1参照)。
すなわち、従来のギヤ歯面の磨耗検知では、近接センサが昇降体とともに移動し、ラックの歯のとの距離を歯の形状検知信号として出力し、予め記憶している正常状態での信号と比較して異常を検知するという手段がとられている。
【特許文献1】特公平6−65588号公報(第7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のギヤ磨耗検出では、ピニオンギヤの回転駆動により上下する昇降体に設けられた近接センサーによりラックギヤの歯の形状を検知し、この形状信号が、予め記憶されている正常状態での信号と比較されるという手段をとっているので、昇降体の移動する速度が大きくなると、ラックギヤの形状検出信号が正確に得られない場合があり、磨耗検知が正確に行えないという問題があった。
また、近接センサーのようなアナログ信号の比較は、信号の曖昧さのため、磨耗検知が不確実になるという問題があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、ピニオンギヤが速く回転しても確実にギヤの歯面磨耗を検知することができ、磨耗量の検知をユーザの任意の量で確実に検知できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するため、本発明は、次のようにしたのである。
請求項1に記載の発明は、センサの信号によってギヤの歯面の磨耗を検知するギヤの磨耗検知機構において、前記ギヤの歯面の側面を検出する第1のセンサ及び第2のセンサを備え、前記ギヤを回転させたときの、前記第1のセンサの信号の変化するタイミングから前記第2のセンサの信号の変化するタイミングの時間の差が、予め設定した閾値よりも大きくなったとき、前記ギヤが磨耗したと判断するギヤの磨耗検知機構とするものである。
また、請求項2に記載の発明は、前記センサは、非接触式の光学センサである請求項1記載のギヤの磨耗検知機構とするものである。
また、請求項3に記載の発明は、前記予め設定した閾値は、前記ギヤの回転速度がある所定の速度のときの、前記第1のセンサの信号の変化のタイミングから前記第2のセンサの信号の変化のタイミングの時間の差である請求項1記載のギヤの磨耗検知機構とするものである。
また、請求項4に記載の発明は、前記ギヤが磨耗したと判断するにあたって、前記ギヤを回転させたときの、前記第1のセンサと前記第2のセンサの信号の、それぞれのONとOFFが切り替わるタイミングが同時になるように、前記第1及び第2のセンサの位置を予め調整しておき、前記タイミングの時間の差が前記閾値を超えたときに磨耗と判断する請求項1記載のギヤの磨耗検知機構とするものである。
また、請求項5に記載の発明は、前記ギヤの歯面の側面を検出する位置は、前記ギヤのピッチ円直径近傍である請求項1記載のギヤの磨耗検知機構とするものである。
また、請求項6に記載の発明は、ラックに噛合するピニオンギヤを有し、前記ピニオンギヤを回転させることによって前記ラック上を移動する移動体と、前記ラックの近傍で固定され、前記ラックの特定の歯の側面の一端を検出する第1のセンサと、前記第1のセンサが検出する特定の歯の側面の他端を検出する第2のセンサと、を備え、前記第1または第2のセンサの信号が変化したとき、前記ラックの歯が磨耗したと判断するギヤの磨耗検知機構とするものである。
また、請求項7に記載の発明は、ラックに噛合するピニオンギヤを有し、前記ピニオンギヤを回転させることによって前記ラック上を移動する移動体と、前記ラックの近傍で固定され、前記ラックの特定の歯の側面の一端を検出する第1のセンサと、前記第1のセンサが検出する特定の歯の側面の他端を検出する第2のセンサと、を備え、前記第1及び第2のセンサの両方の信号が変化したとき、前記ラックの歯が磨耗したと判断するギヤの磨耗検知機構とするものである。
また、請求項8に記載の発明は、ギヤの歯面の側面を検出する第1の光学センサ及び第2の光学センサを備え、該第1及び第2の光学センサによって、前記ギヤの歯面の磨耗を検知するギヤの磨耗検知方法において、前記ギヤを所定の速度で回転させたときの、前記第1の光学センサと前記第2の光学センサのそれぞれの信号が変化するタイミングが同時になるように、前記第1及び第2のセンサの位置を調整し、前記タイミングの時間の差の閾値を設定し、前記所定の速度で前記ギヤを回転させてから前記第1及び第2の光学センサの信号を読み取り、前記第1の光学センサの信号が変化するタイミングから前記第2のセンサの信号が変化するタイミングの時間の差を算出し、前記時間の差が、前記閾値よりも大きくなったとき、前記ギヤが磨耗したと判断するギヤの磨耗検知方法とするものである。
また、請求項9に記載の発明は、ギヤの歯面の側面を検出する第1の光学センサ及び第2の光学センサと、前記ギヤを回転駆動するモータと、を備えたギヤの歯面の磨耗を検知するギヤの磨耗検知方法において、前記ギヤを所定の速度で回転させたときの、前記第1の光学センサと前記第2の光学センサのそれぞれの信号が変化するタイミングが同時になるように、前記第1及び第2のセンサの位置を調整し、前記タイミングの時間の差の閾値を設定し、前記モータの回転速度を検出するとともに、前記所定の速度で前記ギヤを回転させてから前記第1及び第2の光学センサの信号を読み取り、前記検出したモータの回転速度が、前記所定の速度に該当するモータの回転速度と異なるとき、これらの回転速度の比に応じて前記閾値を変更し、前記第1及び第2の光学センサの信号の変化するタイミングの差の時間を算出し、該時間の差が前記変更した閾値よりも大きくなったとき、前記ギヤが磨耗したと判断するギヤの磨耗検知方法とするものである。
また、請求項10に記載の発明は、前記検出したモータの回転速度が、前記所定の速度に該当するモータの回転速度と一致するときは、前記第1及び第2の光学センサの信号が変化するタイミングの差の時間を算出し、該時間の差が前記閾よりも大きくなったとき、前記ギヤが磨耗したと判断するギヤの磨耗検知方法とするものである。
また、請求項11に記載の発明は、ラックに噛合するピニオンギヤと、前記ピニオンギヤを回転させるサーボモータと、前記ピニオンギヤ及び前記サーボモータを搭載する移動体と、前記サーボモータを制御して前記移動体を前記ラックに沿って移動させるコントローラと、を少なくとも備えた産業用ロボットにおいて、前記移動体に載置されて、前記ピニオンギヤの歯面の側面を検出する第1のセンサ及び第2のセンサを備え、前記移動体が移動したとき、前記コントローラが、前記第1のセンサの信号の変化するタイミングから前記第2のセンサの信号の変化するタイミングの時間の差を算出し、該時間の差が予め設定した閾値よりも大きくなったとき、前記ピニオンギヤが磨耗したと判断する産業用ロボットとするものである。
また、請求項12に記載の発明は、ラックに噛合するピニオンギヤと、前記ピニオンギヤを回転させるサーボモータと、前記ピニオンギヤ及び前記サーボモータを搭載する移動体と、前記サーボモータを制御して前記移動体を前記ラックに沿って移動させるコントローラと、を少なくとも備えた産業用ロボットにおいて、前記移動体に載置されて、前記ラックの歯面の側面を検出する第1のセンサ及び第2のセンサを備え、前記移動体が移動したとき、前記コントローラが、前記第1のセンサの信号の変化するタイミングから前記第2のセンサの信号の変化するタイミングの時間の差を算出し、該時間の差が予め設定した閾値よりも大きくなったとき、前記ラックの歯面が磨耗したと判断する産業用ロボットとするものである。
また、請求項13に記載の発明は、ラックに噛合するピニオンギヤと、前記ピニオンギヤを回転させるサーボモータと、前記ピニオンギヤ及び前記サーボモータを搭載する移動体と、前記サーボモータを制御して前記移動体を前記ラックに沿って移動させるコントローラと、を少なくとも備えた産業用ロボットにおいて、前記移動体に載置されて、前記ラックの歯面の側面を検出する第1のセンサ及び第2のセンサと、前記移動体に載置されて、前記ラックの歯面の側面を検出する第3のセンサ及び第4のセンサと、を備え、前記移動体が移動したとき、前記コントローラが、前記第1のセンサの信号の変化するタイミングから前記第2のセンサの信号の変化するタイミングの時間の差を算出し、該時間の差が予め設定した閾値よりも大きくなったとき、前記ピニオンギヤの歯面が磨耗したと判断するとともに、前記第3のセンサの信号の変化するタイミングから前記第4のセンサの信号の変化するタイミングの時間の差を算出し、該時間の差が予め設定した閾値よりも大きくなったとき、前記ラックの歯面が磨耗したと判断する産業用ロボットとするものである。
また、請求項15に記載の発明は、前記予め設定した閾値は、前記ギヤの回転速度がある所定の速度のときの、前記第1のセンサの信号の変化のタイミングから前記第2のセンサの信号の変化のタイミングの時間の差である請求項11または12記載の産業用ロボットとするものである。
また、請求項16に記載の発明は、前記予め設定した閾値は、前記ギヤの回転速度がある所定の速度のときの、前記第3のセンサの信号の変化のタイミングから前記第4のセンサの信号の変化のタイミングの時間の差である請求項13記載の産業用ロボットとするものである。
また、請求項17に記載の発明は、前記ギヤが磨耗したと判断するにあたって、前記ギヤを回転させたときの、前記第1のセンサと前記第2のセンサの信号が変化するタイミングが同時になるように、前記第1及び第2のセンサの位置を予め調整しておき、前記タイミングの時間の差が前記閾値を超えたときに磨耗と判断する請求項11または12記載の産業用ロボットとするものである。
また、請求項18に記載の発明は、前記ギヤが磨耗したと判断するにあたって、前記ギヤを回転させたときの、前記第3のセンサと前記第4のセンサの信号が変化するタイミングが同時になるように、前記第3及び第4のセンサの位置を予め調整しておき、前記タイミングの時間の差が前記閾値を超えたときに磨耗と判断する請求項13記載の産業用ロボットとするものである。
また、請求項19に記載の発明は、前記ギヤの歯面の側面を検出する位置は、前記ギヤのピッチ円直径近傍である請求項11または12または13記載の産業用ロボットとするものである。
また、請求項20に記載の発明は、前記コントローラは、前記磨耗を判断したときロボットを非常停止させる請求項11または12または13記載の産業用ロボットとするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、ギヤの歯面磨耗を検知する2つのセンサの信号が変化するタイミングの時間差によって判断することができる。また、光学式の非接触センサを使えば、信号の変化はより明確になり、従来よりも明確な磨耗の判定、検知ができる。また、閾値をギヤの所定の回転速度毎に設定しておけば、ギヤがその速度になったときに信号変化のタイミングの時間差と閾値を比較することで、簡単に磨耗の判定ができる。また、センサの検知位置を歯のピッチ円直径近傍に据え付ければ、確実に歯の磨耗が検知できるようになる。
また、ラックアンドピニオンの磨耗を検知したい場合であって、ラックの歯だけを検知できればよいならば、ラックの近傍に歯面を検知する固定された2つのセンサを設けるだけで歯の磨耗が検知でき、その場合はセンサのケーブルをピニオン側の移動体に設けることが無いので信頼性が向上する。
また、ラックアンドピニオンによって移動する移動体を備えたロボットは、移動体側に2つのセンサを設けて上記の磨耗検知を行えば、確実に磨耗の検知が行えるとともに、ラックの歯とピニオンギヤの歯の両方の検知ができる構成とすることができる。また、特にラックの歯の検知は、移動体がラックの何処にあっても、またラックの特定の部分を頻繁に走行するような場合でも検知できる。
また、コントローラによって、モータの回転数すなわちギヤの回転数がどのような回転数でも磨耗が検知できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の方法の具体的実施例について、図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1(a)は、図3でいえば、ピニオンギヤ34とラック33の一部を拡大した部分図を示している。図1(b)は(a)の上面図であり、更に本発明実施例1のギヤの磨耗検知機構を加えて記載した図である。
図1(b)において、11は移動体43に搭載されているサーボモータ、12はサーボモータ11に接続されている減速機12を示している。そして減速機12の出力軸にはピニオンギヤ34が接続されている。13は、ピニオンギヤ34を覆うカバーである。カバー13はラック33とは干渉しないように構成してある。本発明では、このカバー13に、非接触式の光学センサを備えることでピニオンギヤまたはラックの歯面の磨耗(歯厚の磨耗)を検知する。
【0011】
まず、ピニオンギヤ34の歯面の磨耗を検知する構成について説明する。この場合、カバー13に第1の光学センサ1と第2の光学センサ2とを備え、それらセンサによってピニオンギヤ34の回転軸方向から、その歯の側面が検知できるように設けてある。勿論、カバー13は必ずしも必要ではない。具体的には、第1の光学センサ1の検出位置を、図1(c)のX部詳細図のように、側面から見た歯の凸形状部分のA点を検出するように設置する。A点はピニオンギヤの噛合いピッチ円の直径付近であって、歯の境界付近を検出する位置である。また、第2の工学センサ2の検出位置はB点を検出するように設置する。B点もピニオンギヤの噛合いピッチ円の直径付近であって、1つの歯または谷の歯厚においてA点と対称側で歯の境界付近を検出する位置である。
【0012】
次に、ラック33の歯面の磨耗を検知する構成について説明する。この場合も上記とほぼ構成が同様であり、図1(b)のように、カバー13に第3の光学センサ3及び第4の光学センサ4を備え、それらセンサによって、ピニオンギヤ34の回転軸方向からラック33の歯の側面が検知できるように設ける。具体的には、第3の光学センサ3及び第4の光学センサ4の検出位置を、図1(d)のY部詳細図ような位置に設置し、ピニオンギヤの歯の検出と同様、ラック33の1つの歯または谷においてその両端部の境界付近が2つのセンサ検出できるように設置する。
【0013】
以上のように第1の光学センサ1と第2の光学センサ2、または、第3の光学センサ3と第4の光学センサ4を設置した後、まずピニオンギヤ34とラック33の歯が磨耗していない状態で、ピニオンギヤ34を回転させたとき、これら第1の光学センサ1と第2の光学センサ2、または、第3の光学センサ3と第4の光学センサ4、の出力のONとOFFが切り替わる、信号の変化のタイミングが同時になるように、その位置を調整しておく。
図5(a)はそのときの第1の光学センサ1と第2の光学センサ2、または、第3の光学センサ3と第4の光学センサ4の信号を示す図である。上段が第1または第3の光学センサの信号を、下段が第2または第4の光学センサの信号を示している。このように、2つのセンサの信号が時間軸に対して同時のタイミングでON/OFF反転するようにセンサを設置しておく。そして、第1及び第2の光学センサの各信号を、コントローラ46に取り込むように構成する。
【0014】
以上のように構成したときの、磨耗の検知方法について説明する。図2は、歯面の磨耗異常の有無を判断し、異常があればアラームを発生して、ロボット等の動作異常を防止する処理手順を示すフローチャートである。
まずステップ1として、サーボモータ11が回転してピニオンギヤ34が回転し、移動体43が移動していると、ピニオンギヤ34の歯の側面を検知する第1の光学センサ1と第2の光学センサ2、または第3の光学センサ3と第4の光学センサ4の、図5(a)に示す信号がそれぞれ検出され、これがコントローラ46に入力される。
次にステップ2として、2つのセンサの信号の変化のタイミングの時間の差が、コントローラ46に予め記憶されている閾値と比較して、大きいか否かを判断して、歯面の磨耗の有無を検知する。歯面の磨耗がない場合は、初期状態のセンサ信号である図5(a)のように、第1または第3の光学センサの信号と、第2または第4の光学センサの信号のONOFFのタイミングは同じであるが、磨耗が進めば歯厚が薄くなり、このタイミングは図5(b)のように次第にずれていき、そのタイミングの時間に差が出る。コントローラ46では、このタイミングの差の値を算出し、これが予めコントローラ46に設定された閾値より小さければステップ1へ戻り、閾値より大きい場合は異常と判断してステップ3へ進む。この閾値はサーボモータ11の回転数がある所定の回転数のときの、すなわちピニオンギヤ34がある所定の回転数のときの、2つの信号の時間差の上限値をユーザがコントローラ46に記憶させておくものである。そして、サーボモータ11がある所定の回転数のときの、2つのセンサ信号から算出されるONOFFタイミングの時間差と、閾値との比較をおこない、上記の判断を実行する。
次にステップ3でアラームを発生し、コントローラ46がロボットの非常停止命令を出す。
そして、ステップ4で、非常停止のアラームが解除されたとき、動作を開始するように設定する。
このように、本発明では、2つの光学センサのONOFF信号のタイミングを検知することにより、歯面の磨耗異常を検知された段階で、アラーム発生を行い、その動作を停止するので、ギヤの歯の異常磨耗による振動・騒音・移動体の位置ズレが防止できるのである。
【0015】
なお、本実施例ではラック及びピニオンギヤの両方の歯面が検出できる例を記載しているが、通常、ラック歯のほうがピニオンギヤの歯よりも弱いため、上記のラックの歯厚を検出する構成のみで実施しても良い。
また、検出点のA及びB点の設定位置は、ラックとピニオンの歯面が噛合する箇所及びその近傍以外の位置であればどこでもよい。
また、本実施例では所謂ラックアンドピニオンのギヤに関する磨耗検知を示しているが、本発明であれば、歯車の歯厚を2つのセンサによって監視できる形態のものであれば、ラックアンドピニオンに限られることはない。
【0016】
また、ピニオンギヤの磨耗の検知は不要で、ラックの歯だけの磨耗を検知するだけでよい場合は、上記第3の光学センサ3及び第4の光学センサ4を、移動体43に搭載せずに、ラック33の近傍で固定し、ラック33の特定の歯厚のみを検知するように構成することが考えられる。そして、第3または第4のどちらか一方の信号がOFFとなったとき、あるいは両方のセンサの信号がOFFになったとき、に歯が磨耗したと判断すればよい。
この場合、移動体43にセンサを搭載しないため、センサの信号ケーブルやセンサ用アンプなどが移動体43に伴って移動しなくなり、ケーブルの断線などを考慮する必要が無くなる。しかし、移動体43が、ある範囲のラック部分だけを頻繁に移動する装置などに適用する場合は、ラックの歯の磨耗に偏りが発生するため、検知する特定のラック歯を慎重に選ぶ必要がある。一方、上記の実施例では、移動体43側に第3の光学センサ3と第4の光学センサ4とを設けているので、移動体43が頻繁に移動するラックの部分によらず、ラック歯の磨耗が検知できる。したがって、ラックのセンサは移動体には搭載せずに固定側に設置し、ピニオンギヤのセンサだけを移動体に設置するという形態も容易に構成できる。
【実施例2】
【0017】
図6にて本発明における磨耗検知方法の他の実施例を説明する。図6は磨耗検知方法の他の処理手順を示すフローチャートである。ここでは移動体43を駆動するサーボモータ11の回転速度に応じて、コントローラ46自身が、上述した閾値を判断する。
まず、ステップ1で、コントローラ46がセンサの信号を取り込むと同時に、サーボモータ11の現在の回転速度を取り込む。
ステップ2で、予め記憶している閾値の所定の回転速度と異なるかどうかを判断する。回転数が異なる場合は、ステップ3へ進む。回転速度が同じである場合は、そのままステップ4へ進む。
ステップ3では、それらの回転速度の比に応じて閾値を再設定してから、ステップ4へ進む。
次にステップ4で、ステップ2で変更された閾値または予め記憶している閾値のどちらかと比較し、歯面の磨耗を判断する。ステップ3では、実施例1におけるステップ2と同じように磨耗の判断する。
次にステップ3でアラームを発生し、コントローラ46がロボットの非常停止命令を出す。
そして、ステップ4で、非常停止のアラームが解除されたとき、動作を開始するように設定する。
この実施例では、コントローラ46がセンサの信号を取り込むのと同時に現在のサーボモータ11の回転速度を取り込み、予め記憶している閾値の回転速度と比較し、その速度比に応じて閾値を変更するので、コントローラ46に予め記憶させる閾値を複数の回転速度毎に設定しておかなくてよくなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、ラックとピニオンギヤを示す部分図である。(b)は(a)の上面図であり、本発明のギヤの磨耗検知機構を加えて記載した図である。(c)及び(d)は(a)の部分詳細図である。
【図2】本発明における磨耗検知のフローチャートである。
【図3】図3は、図4における支柱の内部構造を示す概略図である。
【図4】本発明が適用されるある産業用ロボットの一例を示す全体図である。
【図5】第1の光学センサ1と第2の光学センサ2、または、第3の光学センサ3と第4の光学センサ4の信号を示す図である。
【図6】本発明における磨耗検知方法の他の実施例のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサの信号によってギヤの歯面の磨耗を検知するギヤの磨耗検知機構において、
前記ギヤの歯面の側面を検出する第1のセンサ及び第2のセンサを備え、
前記ギヤを回転させたときの、前記第1のセンサの信号の変化するタイミングから前記第2のセンサの信号の変化するタイミングの時間の差が、予め設定した閾値よりも大きくなったとき、前記ギヤが磨耗したと判断することを特徴とするギヤの磨耗検知機構。
【請求項2】
前記センサは、非接触式の光学センサであることを特徴とする請求項1記載のギヤの磨耗検知機構。
【請求項3】
前記予め設定した閾値は、前記ギヤの回転速度がある所定の速度のときの、前記第1のセンサの信号の変化のタイミングから前記第2のセンサの信号の変化のタイミングの時間の差であることを特徴とする請求項1記載のギヤの磨耗検知機構。
【請求項4】
前記ギヤが磨耗したと判断するにあたって、前記ギヤを回転させたときの、前記第1のセンサと前記第2のセンサの信号の、それぞれのONとOFFが切り替わるタイミングが同時になるように、前記第1及び第2のセンサの位置を予め調整しておき、前記タイミングの時間の差が前記閾値を超えたときに磨耗と判断することを特徴とする請求項1記載のギヤの磨耗検知機構。
【請求項5】
前記ギヤの歯面の側面を検出する位置は、前記ギヤのピッチ円直径近傍であることを特徴とする請求項1記載のギヤの磨耗検知機構。
【請求項6】
ラックに噛合するピニオンギヤを有し、前記ピニオンギヤを回転させることによって前記ラック上を移動する移動体と、
前記ラックの近傍で固定され、前記ラックの特定の歯の側面の一端を検出する第1のセンサと、前記第1のセンサが検出する特定の歯の側面の他端を検出する第2のセンサと、を備え、
前記第1または第2のセンサの信号が変化したとき、前記ラックの歯が磨耗したと判断することを特徴とするギヤの磨耗検知機構。
【請求項7】
ラックに噛合するピニオンギヤを有し、前記ピニオンギヤを回転させることによって前記ラック上を移動する移動体と、
前記ラックの近傍で固定され、前記ラックの特定の歯の側面の一端を検出する第1のセンサと、前記第1のセンサが検出する特定の歯の側面の他端を検出する第2のセンサと、を備え、
前記第1及び第2のセンサの両方の信号が変化したとき、前記ラックの歯が磨耗したと判断することを特徴とするギヤの磨耗検知機構。
【請求項8】
ギヤの歯面の側面を検出する第1の光学センサ及び第2の光学センサを備え、該第1及び第2の光学センサによって、前記ギヤの歯面の磨耗を検知するギヤの磨耗検知方法において、
前記ギヤを所定の速度で回転させたときの、前記第1の光学センサと前記第2の光学センサのそれぞれの信号が変化するタイミングが同時になるように、前記第1及び第2のセンサの位置を調整し、
前記タイミングの時間の差の閾値を設定し、
前記所定の速度で前記ギヤを回転させてから前記第1及び第2の光学センサの信号を読み取り、
前記第1の光学センサの信号が変化するタイミングから前記第2のセンサの信号が変化するタイミングの時間の差を算出し、
前記時間の差が、前記閾値よりも大きくなったとき、前記ギヤが磨耗したと判断することを特徴とするギヤの磨耗検知方法。
【請求項9】
ギヤの歯面の側面を検出する第1の光学センサ及び第2の光学センサと、前記ギヤを回転駆動するモータと、を備えたギヤの歯面の磨耗を検知するギヤの磨耗検知方法において、
前記ギヤを所定の速度で回転させたときの、前記第1の光学センサと前記第2の光学センサのそれぞれの信号が変化するタイミングが同時になるように、前記第1及び第2のセンサの位置を調整し、
前記タイミングの時間の差の閾値を設定し、
前記モータの回転速度を検出するとともに、前記所定の速度で前記ギヤを回転させてから前記第1及び第2の光学センサの信号を読み取り、
前記検出したモータの回転速度が、前記所定の速度に該当するモータの回転速度と異なるとき、これらの回転速度の比に応じて前記閾値を変更し、
前記第1及び第2の光学センサの信号の変化するタイミングの差の時間を算出し、該時間の差が前記変更した閾値よりも大きくなったとき、前記ギヤが磨耗したと判断することを特徴とするギヤの磨耗検知方法。
【請求項10】
前記検出したモータの回転速度が、前記所定の速度に該当するモータの回転速度と一致するときは、前記第1及び第2の光学センサの信号が変化するタイミングの差の時間を算出し、該時間の差が前記閾よりも大きくなったとき、前記ギヤが磨耗したと判断することを特徴とするギヤの磨耗検知方法。
【請求項11】
ラックに噛合するピニオンギヤと、前記ピニオンギヤを回転させるサーボモータと、前記ピニオンギヤ及び前記サーボモータを搭載する移動体と、前記サーボモータを制御して前記移動体を前記ラックに沿って移動させるコントローラと、を少なくとも備えた産業用ロボットにおいて、
前記移動体に載置されて、前記ピニオンギヤの歯面の側面を検出する第1のセンサ及び第2のセンサを備え、
前記移動体が移動したとき、前記コントローラが、前記第1のセンサの信号の変化するタイミングから前記第2のセンサの信号の変化するタイミングの時間の差を算出し、該時間の差が予め設定した閾値よりも大きくなったとき、前記ピニオンギヤが磨耗したと判断することを特徴とする産業用ロボット。
【請求項12】
ラックに噛合するピニオンギヤと、前記ピニオンギヤを回転させるサーボモータと、前記ピニオンギヤ及び前記サーボモータを搭載する移動体と、前記サーボモータを制御して前記移動体を前記ラックに沿って移動させるコントローラと、を少なくとも備えた産業用ロボットにおいて、
前記移動体に載置されて、前記ラックの歯面の側面を検出する第1のセンサ及び第2のセンサを備え、
前記移動体が移動したとき、前記コントローラが、前記第1のセンサの信号の変化するタイミングから前記第2のセンサの信号の変化するタイミングの時間の差を算出し、該時間の差が予め設定した閾値よりも大きくなったとき、前記ラックの歯面が磨耗したと判断することを特徴とする産業用ロボット。
【請求項13】
ラックに噛合するピニオンギヤと、前記ピニオンギヤを回転させるサーボモータと、前記ピニオンギヤ及び前記サーボモータを搭載する移動体と、前記サーボモータを制御して前記移動体を前記ラックに沿って移動させるコントローラと、を少なくとも備えた産業用ロボットにおいて、
前記移動体に載置されて、前記ラックの歯面の側面を検出する第1のセンサ及び第2のセンサと、
前記移動体に載置されて、前記ラックの歯面の側面を検出する第3のセンサ及び第4のセンサと、を備え、
前記移動体が移動したとき、前記コントローラが、前記第1のセンサの信号の変化するタイミングから前記第2のセンサの信号の変化するタイミングの時間の差を算出し、該時間の差が予め設定した閾値よりも大きくなったとき、前記ピニオンギヤの歯面が磨耗したと判断するとともに、前記第3のセンサの信号の変化するタイミングから前記第4のセンサの信号の変化するタイミングの時間の差を算出し、該時間の差が予め設定した閾値よりも大きくなったとき、前記ラックの歯面が磨耗したと判断することを特徴とする産業用ロボット。
【請求項14】
前記センサは、非接触式の光学センサであることを特徴とする請求項11または12または13記載の産業用ロボット。
【請求項15】
前記予め設定した閾値は、前記ギヤの回転速度がある所定の速度のときの、前記第1のセンサの信号の変化のタイミングから前記第2のセンサの信号の変化のタイミングの時間の差であることを特徴とする請求項11または12記載の産業用ロボット。
【請求項16】
前記予め設定した閾値は、前記ギヤの回転速度がある所定の速度のときの、前記第3のセンサの信号の変化のタイミングから前記第4のセンサの信号の変化のタイミングの時間の差であることを特徴とする請求項13記載の産業用ロボット。
【請求項17】
前記ギヤが磨耗したと判断するにあたって、前記ギヤを回転させたときの、前記第1のセンサと前記第2のセンサの信号が変化するタイミングが同時になるように、前記第1及び第2のセンサの位置を予め調整しておき、前記タイミングの時間の差が前記閾値を超えたときに磨耗と判断することを特徴とする請求項11または12記載の産業用ロボット。
【請求項18】
前記ギヤが磨耗したと判断するにあたって、前記ギヤを回転させたときの、前記第3のセンサと前記第4のセンサの信号が変化するタイミングが同時になるように、前記第3及び第4のセンサの位置を予め調整しておき、前記タイミングの時間の差が前記閾値を超えたときに磨耗と判断することを特徴とする請求項13記載の産業用ロボット。
【請求項19】
前記ギヤの歯面の側面を検出する位置は、前記ギヤのピッチ円直径近傍であることを特徴とする請求項11または12または13記載の産業用ロボット。
【請求項20】
前記コントローラは、前記磨耗を判断したときロボットを非常停止させることを特徴とした請求項11または12または13記載の産業用ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−82759(P2008−82759A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260865(P2006−260865)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】