説明

シリコンゲルマニウムエッチング停止層システム

【課題】水性異方性エッチング剤に対して有用な、シリコン基板上のSiGeエッチング停止構造物を提供する。
【解決手段】SiGeエッチング停止構造物が、Si1−xGeまでの段階が設けられた弛緩されたバッファ層と、Si1−yGeの弛緩された均質なエッチング停止層とを有しており、x≦0.17、y≧0.3が好ましい。バッファ層は、基板/バッファとの界面における純粋シリコンからゲルマニウム組成にかけて、その厚みに対して一次的に変化する構成を有し、さらに、バッファ/エッチング停止界面に化学的不純物質を有する。界面のバッファサイドからエッチング停止物質にかけて、エッチング停止層がエッチング剤に対して非常に抵抗力があるように、ゲルマニウムおよび濃度において計画的な飛躍を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権情報
本出願は、1999年4月10日出願の仮出願第60/081,301号を根拠に優先権を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は、単結晶シリコン上のエッチング停止物質システムに関する。
【背景技術】
【0003】
微少電気機械システム(MEMS)は、従来の微少電子工学と、物理世界との間に橋を形成する。これらは実行可能な適用に広く対応する。MEMSは多様な装置を含む。例えば、センサ、アクチュエータ、化学リアクタ、ドラッグデリバリーシステム、タービン、表示技術等である。いずれのMEMSの中核も、シリコンその他の電子物質を「微細加工」した物理的構成(膜組織、片持ちビーム、ブリッジ、アーム、チャネル、格子)である。MEMSは関連の超小型電子機器とほぼ同サイズスケールであり、理想的にはこれと完全に一体化するので、超小型電気工学産業で使用すると同じ物質、処理、装置、技術を当然利用すべきである。VLSI電気工学においてシリコンに関して広範な処理技術が既に開発されているので、シリコンは微細加工における最優占物質である。またシリコンは、合成半導体物質や他の電子物質と比較して、機械的にも優れている。
【0004】
異方性湿性エッチング剤(エチレンジアミンおよびピロカテコール水溶液(EDP)、水酸化カリウム水溶液(KOH)またはヒドラジン(N)等)と化合させた高ボロン濃度の「エッチング停止」層を用いて、微細加工を行った多様なシリコンデバイスを作る。エッチング選択度は、他の物質より早い物質の優先的エッチング(preferential etching)として規定され、遅い速度に対する早い速度の比として定量化される。選択度は、ボロンレベルが1019cm−3より高い場合に実現し、ボロン濃度の上昇につれて改善される。
【0005】
エッチング停止は、SOI超小型電子機器用のボンドアンドエッチバックシリコンオンインシュレータ(BESOI)処理にも用いる。エッチング停止条件は微細加工条件とは幾分異なる(例えば、物理的寸法や欠陥等)が、基本は同じである。したがって、一方の分野の適用における習得知識や開発は、他方の分野にも導入できるし、そうするべきである。特に、高速電子機器基板としての弛緩SiGe合金(relaxed SiGe alloys)における進歩は、SiGeオンインシュレータを形成するボンドアンドエッチングスキームが、高速ワイヤレス通信システム形成において望ましい処理であることを示唆する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水性異方性エッチング剤に対して有用な、シリコン基板上のSiGeエッチング停止物質システムもしくは構造物、ならびにそれを形成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、単結晶シリコン基板上のSiGe単結晶エッチング停止物質システムを提供する。エッチング停止物質システムは厳密な組成に変化があるが、不純物添加(ドープ)または未添加のSi1−xGe(xは通常0.2〜0.5)合金である。その厚みにおいて、エッチング停止物質自身の組成は均質である。このエッチング停止を用いて、シリコンの水性異方性エッチング剤(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、エチレンジアミン/ピロカテコール/ピラジン(EDP)、THAM、ヒドラジン等)による微細加工を行う。例えば、片持ち梁(カンチレバー、cantilever)は、このエッチング停止物質システムによって作製でき、これらのエッチング剤の一つに露出することで、その基板と周囲の物質から開放(つまり「微細加工」)できる。これらの溶液は通常、7×1019cm−3未満の任意のボロンを含有する任意のシリコンまたは、不純物未添加のSi1−xGe(xは約18未満)合金をエッチングする。
【0008】
適度な濃度のゲルマニウムとシリコンとによる合金は、優秀なエッチング選択度(つまり、不純物未添加の純粋シリコンに対するエッチング速度の差異)を実現することがわかった。これは、ゲルマニウムを添加することによってエネルギーバンド構造が変化することに起因する。さらに、Si1−xGe合金において非縮退添加を行っても、エッチング停止反応用には影響しない。
【0009】
本発明のエッチング停止は、シリコン基板とSiGeエッチング停止物質との間に段階を有する構成のバッファを用いる。通常、このバッファは、基板/バッファとの界面における純粋シリコンからゲルマニウム組成にかけて、その厚みに対して一次的に変化する構成を有する。さらに、バッファ/エッチング停止界面に化学的不純物質を有する場合、この化学的不純物質を相当の速度でエッチングできる。ここで、界面のバッファサイドからエッチング停止物質にかけて、エッチング停止層がエッチング剤に対して非常に抵抗力があるように、ゲルマニウムおよび濃度において計画的な飛躍を行う。
【0010】
本発明の一つの実施形態によると、Si1−xGeの段階層と、Si1−yGeの均質なエッチング停止層とを有することを特徴とする、単結晶シリコン基板上に使用する単結晶エッチング停止層システムを提供する。特にある実施形態では、バッファ層に約Si0.8Ge0.2まで段階を設け、均質な約Si0.7Ge0.3のエッチング停止層を設けている。
【0011】
本発明の他の実施形態によると、単結晶シリコン基板上に単結晶エッチング停止層を形成する方法であって、前記シリコン基板上にSi1−xGeの段階バッファ層を堆積するステップと、前記段階バッファ層上にSi1−yGeの均質なエッチング停止層を堆積するステップとを有することを特徴とする方法を提供する。特にある実施形態では、シリコン基板上に約Si0.8Ge0.2まで段階を設けたバッファ層を設け、この段階バッファ層上に均質な約Si0.7Ge0.3のエッチング停止層を設けている。
【0012】
本発明の更に他の実施形態によると、単結晶シリコン基板上に単結晶エッチング停止層を形成する方法であって、前記シリコン基板上に約Si1−xGeまで段階が設けられたバッファ層を堆積するステップと、前記段階バッファ層上に約Si1−yGeの均質なエッチング停止層を堆積するステップとを有することを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
Si微細加工またはある種のSOI処理においてエッチング停止を形成する従来の方法では、ボロン濃度が非常に高い場合にしか好適なエッチング停止が得られなかった。また、シリコン結晶構造に対する化学的不純物の影響も非常に重要であった。シリコン原子サイトを、シリコンより小さな原子であるボロンで代用することで、シリコン格子を縮小する。不純物添加格子は、不純物未添加基板の格子と密着しているので、基板面に二軸「格子不一致」ストレスが生じる。このストレスは、同一面上の不純物添加物質を二軸的に引き伸ばす(つまり、弾性的に引っ張る)。ユニットセルのベースが歪むので、ポアソン歪曲により、高さも歪む。したがって、Si:B格子は、垂直方向に縮小し、水平方向に拡張する。これによって、均衡値より小さな垂直定数となる。Si:B層が薄い場合、弾性的引き伸ばし(つまり「仮像」(pseudomorphic))は、この物質にとってエネルギー的に好ましい。
【0014】
しかし、不純物添加層が厚くなると、フィルムのユニット領域毎の総緊張エネルギーが比例して増える。層の厚みが「臨界厚」を超える場合、フィルムを弾性的に引っ張るよりも、転位する(dislocation)ことがエネルギー的に好ましい。転位ループは、フィルム表面またはフィルム端部に異成分的に凝集し、基板とフィルムとの界面に向かって大きく成長する。ループが界面に達すると、二つの端部(フィルム厚を逆転する(フィルム厚を横切る)ので「ネジきり(threading)」転位(貫通転位)と呼ぶ)は、「ミスフィット」転位として知られる、界面の転位(線転位、line defect)を伝って引き続き相互に離れる方向に進む。ミスフィット転位は格子不一致ストレスを調整し、水平および鉛直方向の緊張を開放して、面内(in-plane)および垂直格子定数を均衡値に回復する(つまり物質を「緩和する」)。不一致度が小さく、軽く緊張したエピタキシャルフィルムが菱形立方体または閃亜鉛鉱基板上にある場合、直交<110>ミスフィット転位(orthogonal <110> misfit dislocations)のメッシュが最も適当な構成である。これは、上昇した温度における、こうした結晶構造(拡散および多くのCVD処理に関連する構造等)に対する{111}<110>イージースリップシステム(easy slip system)のためである。
【0015】
量が充分に多い場合、寸法が異なる任意の原子をシリコン微少構造上に配置して代用しても、その効果はボロンを用いた場合と同様である。もちろん、この影響は、代用物の相対的な寸法と濃度とにより異なる。また、シリコンより大きな原子(例えばゲルマニウム)を含めると、Si:Bの場合のような張力状態というより、圧縮ストレスおよび緊張が生じるであろう。
【0016】
従来のエッチング停止処理では、高いエッチング速度選択度を達成するためには非常に高濃度のボロンが必要であった。ボロン濃度が非常に高いと、多くのMEMS適用に望ましい厚いフィルムの場合に、転位が生じる。p++処理は通常、拡散処理によって行われるので、転位濃度およびボロン濃度に勾配がある。エッチングはボロン濃度の勾配において停止するので、フィルムの薄い部分は通常、大きく湾曲する。これはアニール処理で補償する。さらに、エッチング停止選択度はボロン濃度に非常に敏感である。ボロン濃度が臨界値7×1019cm−3を下回ると選択度は急激に変化する。したがって、このボロン濃度は溶解性限界に近いので、化学的不純物濃度が垂直および側面方向に変動すれば、MEMS処理の収率は低くなる。このSiGeエッチング停止によって、化学的不純物の濃度とエッチング選択度との関連を断ち切る。また、SiGe合金は混和性合金システムなので、SiとGeとの間には継続的かつ完全な溶解性がある。
【0017】
Seidel等が説明した(J.Electrochem.Soc.137,pp.3626−31(1990)、これをここで言及して援用する)シリコンの異方性エッチング論理は、適切なモデルであると広く考えられている。エッチング絶対レートや溶解生成物のような特質は異なるかもしれないが、一般的な概念は、全異方性エッチング剤に関して有効である。これは、これら全てがアルカリ水溶液であって、HOやOH−程度にしかエッチング剤に寄与しないように設計されているためである。実際、既存の文献は、エッチング剤間で一貫した反応を述べている。
【0018】
++Si:Bにおけるエッチング速度の減少に関する初期の研究は、実験データを超える仮説を提唱していない。エッチング停止現象に関する2つの説明が提案された。つまり、高濃度ボロンによる強固な接合力、またはボロンベースの保護膜の形成である。研究が進むにつれ、エッチング停止理論は2つの信頼できるアプローチにたどり着いた。電子モデルによると、エッチング停止反応はキャリア行動に起因するとし、保護モデルによると、エッチング停止反応はシリコン表面上に形成された酸化物ベースの保護層に直接起因するものとした。
【0019】
他の者は、エッチング速度の減少は正孔濃度に敏感であって、ボロンまたはストレスの原子濃度ではないとした。彼らは、エッチング速度の減少は、ボロン濃度が約3×1019cm−3を超えた場合、ボロン濃度の上昇の4乗に比例することを観察した。彼らが説明する酸化還元エッチング処理には4個の電子が必要なので、彼らは、p++物質におけるエッチング停止の効果として、高い正孔濃度のために電子が失われてオージェ再結合となる可能性が増えると説明した。
【0020】
Seidel等は電子再結合仮説に賛同した。彼らは、約2〜3×1019cm−3においてエッチング速度が減少し始めることを観察した。これは、縮退開始の不純物添加レベルである2.2×1019cm−3と一致する。縮退において、フェルミレベルが価電子帯まで減少し、バンド屈曲(band-bending)が約1原子層の厚さに制限される。エッチングに必要な注入電子は、そのような狭い電位井戸を通りぬけ、p++バルク結晶で再結合できる。これによってエッチング反応が中断する。エッチング停止期間内の残りのエッチング速度は伝導帯電子によって決まる。伝導帯電子の量は正孔濃度(つまりボロン濃度)に反比例する。1シリコン原子をエッチングするために4電子が必要であるということは、残りのエッチング速度がボロン濃度の4乗に依存することを説明する。
【0021】
KOH水溶液中のp++Si:B(2×1020cm−3)に保護層が形成されたことが、自然位のエリプソメータ測定により観察された。p−Siの場合、表面上により多くの数の孔があると、薄い酸化物のような層によって自発的に皮膜される。この層は、熱酸化物のような完全な網状組織にはなっていないのでより早くエッチングされるが、それでも、層全域において反応物とエッチング生成物とは移動する。このため、全体的に有限なエッチング速度(some finite overall etch rate)となる。高濃度の化学的不純物を添加して格子緊張を誘引し、これによって層の成長を促進できた。更に、エッチング速度の減少は、p−シリコンおよびn−シリコンの両方を多く添加した場合に見られるので、この現象はフェルミレベル効果ではない。
【0022】
Chen等(J.Electrochem.Soc.142,p.172(1995))は、上記の観察結果や仮説を自らの発見と同化して、電気化学モデルを作った。このモデルでは、エッチング停止は、高キャリア濃度下での酸化膜の成長レートの上昇に起因するとしている。キープロセスは、界面の正孔駆動酸化(hole-driven oxidataion)である。これは、Si−Si結合およびヒドロキシル基に対する反応と競合させて、エッチングを抑制する。しかし、より重要なことは、SiOバリアを形成して、エッチングを抑制することである。p++シリコンでは、エッチング停止反応に十分な量の正孔を、Seidal等が概説する電子行為(electron action)の逆(converse)として提供する。つまり、電位井戸を熱的に脱出した、あるいはこれを通り抜けてバルク結晶に達した電子の代わりに、バルク結晶からの正孔が、電位バリアを熱的に克服または通り抜けて界面に達する。このエッチング停止処理は動的であることが分かる。つまり、シリコン溶解と、酸化物のような層の形成および溶解との継続的競合であり、この最終的な結果は非零エッチング速度となる。
【0023】
ゲルマニウムはシリコンと均電子で、これと完全に融和し、シリコン内の化学的不純物および不純物よりも溶解しにくいので、抗エッチング添加物としては魅力的である。さらに、シリコンゲルマニウム合金のエピタキシは、酸化シリコンに対して選択的であるので、型抜きや組織化を容易にし、MEMSとモノリシックに一体化した電子機器に対して高キャリア可動性を付与する。
【0024】
既存のゲルマニウムベースのエッチング停止システムは、シリコン微細加工に僅かに適する程度であった。前述のゲルマニウム使用の利点にも拘わらず、最近では、シリコンゲルマニウム物質におけるエッチング停止の効果が適切に理解されておらず、高ゲルマニウム含有固溶体の異方性エッチングに関する情報は皆無である。
【0025】
純粋ゲルマニウムに対して多くの等方性エッチング剤がある。これら全てに共通なのは酸化剤(HNOまたはH等)、(HFまたはHPOのような)酸化物除去用錯化剤である。「Superoxol」(市販のH−HF処方)等の溶液による等方性ゲルマニウムエッチングについて初期研究が行われた。もっと最近では、HNO、HNO、HF、HSO、HSO、CHCOOH、H、HOの多様な組合わせについて研究されている。
【0026】
実際、これらの組成のいくつかは、シリコン上のゲルマニウムまたはシリコンゲルマニウム合金を選択的にエッチングする。これは、相対的酸化または酸化溶解レートの違いによる。しかし、ただ一つのエッチング剤が、このプロジェクトに関連して逆の優先(inverse preference)を示した。75℃の100%NHOHは、多結晶シリコンを2.5μm/hrで直接攻撃するが、ポリゲルマニウムは66nm(660オングストローム)/hrで直接攻撃する。ただし、選択度は約37に過ぎず、シリコンのエッチング速度は非実用的な程遅く、エッチングは等方性であるので、その有用性が微細加工にのみ限定される。
【0027】
シリコン中の高濃度ゲルマニウムを用いた結果は同様に、シリコン微細加工に関しても思わしくない。Shang等(J.Electrochem.Soc.141,p.507(1994)、ここに引用して援用する)は、KOH−プロパノール−KCr水溶液中の弛緩し転位したSi0.7Ge0.3:B(1019cm−3)に対して選択度6を得た。Yi等(Mat.Res.Soc.Symp.Proc.3779,p.91(1995))は、10%以上のゲルマニウム合金に対して、70℃での選択度が1000より良好な新規のNHNO−NHOHエッチング剤を開発した。この混合物は純粋ゲルマニウムをエッチングしないが、純粋シリコンは5.67μm/hrでエッチングする。これは、微細加工を目的とした場合には弱いペースである。これらのシステムは双方とも等方性である。
【0028】
Si0.7Ge0.3:Bフィルムを臨界厚以下に保持することで、Shangチームは同様のKOH−プロパノール−KCr水溶液における選択度を約40まで改善した。Narozny等(IEEE IEDM(1988)563)は、このような「緊張選択的」処方を最初に使用したが、(1018cm−3ボロンを添加した30%ゲルマニウムに対して)選択度20および、純粋シリコンに対して室温で1.5μm/hrという緩やかなエッチング速度を実現したにすぎなかった。Shang等およびNarozny等の結果は単に、充分に確立されたボロンのエッチング停止性能によるものかもしれないが、Godbey等(Appl.Phys.Lett.56,p374(1990))は、不純物未添加のSi0.7Ge0.3を用いて、選択度17を達成した。緊張選択的エッチング剤に関する記載の中で、選択度に関して説明したものはない。
【0029】
典型的なVLSI寸法と比べると、多くのMEMS構造は非常に大型であり得るので、エッチング速度が緩慢であることは深刻な問題である。また、緊張選択的エッチング剤に浸すMEMS構造は臨界厚より薄くなくてはならない。しかし、仮像構造が開放され、その緊張が開放されると、選択度は劣化する。犠牲となった緊張したエッチング停止層は使用可能かもしれないが追加的な処理や設計上の制約を必要とする。しかし、少なくとも、現在の酸化物/窒化物犠牲層を上回る利益をもたらす。単結晶度はこの層上で継続でき、酸化剤に対するシリコンゲルマニウムの成長選択度のために、設計/型抜きを自由にできる。
【0030】
研究会の共通認識として、低濃度のゲルマニウムがKOHやEDP等の異方性エッチング剤中のエッチング停止に及ぼす影響は、僅かあるいは皆無である。Seidel等は、12%までのゲルマニウムについて、エッチング速度が大きく抑制されないことを検出した。2%ゲルマニウムを有する緊張補償済みp++層は、ゲルマニウム無しのp++層と比べて目立った違いを示さない。ゲルマニウムを注入することで、Feijoo等(J.Electrochem.Soc.139,pp.2312−13(1992))は、80℃のEDPにおいて12〜24の最大選択度を達成した。これは、約0.6%のピーク濃度を有する投与量に相当する。
【0031】
しかし、Finne等(J.Electrochem.Soc.114,p.969(1967))は、Si1−xGe固溶液(xは0.05)は、エチレンジアミン・ピロカテコール水溶液(EPW)中ではエッチングしないことを観測した。この不一致は、{111}ウェハを使用したことに起因するであろう。これを使用すると、<111>方向でのエッチングが非常に緩慢になるので、正確な測定が困難になる。異方性媒体におけるゲルマニウムに富んだ合金に関して、この他の情報は報告されていない。
【0032】
多くの出版物で語られるエッチング停止剤としてのゲルマニウムが有する顕著な非効率性に対応して、これまでに検出された有限選択度のソースに関してはあまり議論されていない。Seidel等は、多くの不純物を添加したボロンエッチング停止の彼らのモデルは、ゲルマニウムには適用不可であるとしてる。これは、この要素がシリコンと等電子であるためである。かわりに彼らは、エッチング速度の僅かな減少は、エネルギー帯構造の変化か、再結合センターとして作用し得る格子欠陥(ミスフィット転位等)が非常に多く集中している結果に起因するものとしている。
【0033】
本発明は、単結晶シリコン基板上のSiGe単結晶エッチング停止物質システムを提供する。エッチング停止物質システムは厳密な組成に変化があるが、不純物添加または未添加のSi1−xGe(xは通常0.2〜0.5)合金である。その厚みにおいて、エッチング停止物質自身の組成は均質である。このエッチング停止を用いて、シリコンの異方性エッチング剤(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、エチレンジアミン/ピロカテコール/ピラジン(EDP)、THAM、ヒドラジン等)による微細加工を行う。例えば、片持ち梁(cantilever)は、このエッチング停止物質システムによって作製でき、これらのエッチング剤の一つに露出することで、その基板と周囲の物質から開放(つまり「微細加工」)できる。これらの溶液は通常、7×1019cm−3未満の任意のボロンを含有するシリコンまたは、不純物未添加のSi1−xGe(xは約18未満)合金をエッチングする。
【0034】
したがって、適度な濃度のゲルマニウムとシリコンとによる合金は、優秀なエッチング選択度(つまり、不純物未添加の純粋シリコンに対するエッチング速度の差異)を実現することがわかった。これは、ゲルマニウムを添加することによってエネルギーバンド構造が変化することに起因する。さらに、Si1−xGe合金において非縮退添加を行っても、エッチング停止反応用には影響しない。
【0035】
本発明のエッチング停止は、シリコン基板とSiGeエッチング停止物質との間に段階を有する構成のバッファを用いる。通常、このバッファは、基板/バッファとの界面における純粋シリコンからゲルマニウム組成にかけて、その厚みに対して一次的に変化する構成を有し、さらに、バッファ/エッチング停止界面に化学的不純物質を有する。この化学的不純物質を更に相当の速度でエッチングできる。ここで、界面のバッファサイドからエッチング停止物質にかけて、エッチング停止層がエッチング剤に対して非常に抵抗力があるように、ゲルマニウムおよび濃度において計画的な飛躍(jump)を行う。例えば、バッファをSi0.85Ge0.15まで段階的に変化させ、その後、Si0.7Ge0.3の均質エッチング停止層に飛躍することができる。通常、バッファ中の組成勾配は5〜10%Ge/ミクロンであり、Ge濃度におけるこの飛躍は5〜15相対原子%Geである。化学的蒸着(CVD)または分子線エピタキシ(MBE)等によって、バッファとエッチング停止物質とを標準的なシリコン基板上にエピタキシャル的に堆積する。上記例において、ゲルマニウム濃度が各エッチング停止反応を導き、各ステップの添加濃度は、エッチング選択度に影響なく、独立的に変えられる。
【0036】
エッチング停止反応に対する結晶欠陥の影響に関して、Si1−xGe合金を用いる本発明によると、欠陥の影響は最小限である。段階バッファを用いることで、最上エッチング停止層のネジきり転位濃度(threading dislocation density)(TDD)を抑圧する。これによって、均質で欠陥がほぼ皆無なSi1−xGeエッチング停止を作ることができる。
【0037】
段階領域の端部において濃度飛躍を行うことが重要であるのは、この部分の限界を明確にし、寸法を十分に調整しなければならないからである。したがって、最上エッチング停止層と、段階領域の端部との間に高選択度を確保して、急激かつ予測可能なエッチング停止反応を行わなければならない。バッファからエッチング停止層までの組成を円滑に変化させることで、微少加工部分の端部を湾曲させ、より大きな寸法の変化を実現できる。一方、組成が急に変わると、開放された構成において、不純物が入らず鋭利な端部と正確な寸法とを実現できる。しかし、この組成変化が急でありすぎると(例えば、20〜25原子%Geより大きい)、これに応じて格子定数に変化(つまり格子不一致)が生じ、これによって欠陥となる。
【0038】
Si1−xGeエッチング停止物質システムは、多くのボロンが拡散した層の代わりとなることができ、不純物未添加(等電子)物質を含む入手可能なエッチング停止物質の範囲を広げる。したがって、微細加工構成の設計上の柔軟性を改善する。例えば、標準的な微細加工処理では、シリコンセンサ構成は一種類の均一な厚みを有する構成に制限される。慣性検知用の共鳴装置は、震源部(seismic mass)よりも薄い共鳴器を有するような柔軟な設計から、多くの利益を享受できる。本発明は、このような多厚構造を可能にする技術を提供する。こうした基本的な効果によって、シリコンの微細加工によるMEMSの製造に広く適用可能な新規技術をもたらす。
【0039】
非常に需要な適用の一つは、機械装置および電子装置を同じ物質上に一体化できることである。ICの要求とは両立しない、多くのボロンを添加したエッチング停止を、等電子あるいは適度に不純物が添加されたあるいはその両方である、デバイス品質のエッチング停止で代用することにより、同一ウェハ上の機械装置と、これに関連する電子器機とを同時に処理できる。ゲルマニウムはシリコンと完全に混和性を有し、化学的不純物や不純物よりも溶解しにくい。ゲルマニウムを用いて合金を作ることで、電子器機に高いキャリア流動性を付与できる。
【0040】
さらに、Si1−xGe合金のエピタキシは酸化シリコンに対して選択的である。これは、型抜きや構成を容易にする。また、欠陥は、これらの物質の効力に影響しないように思われる。
【0041】
本発明のゲルマニウムベースのエッチング停止を開発するにあたり、標準的な3”または4”燐添加(2〜4Ωcm)またはボロン添加(7〜10.2Ωcm)(001)シリコン基板を用いた。このウェハを、ピラニアバス(piranha bath)(3:1 水中に95%HSO:水中に30%H)に10分、4.4%HFおよびDI水に10秒漬けて清掃する。次に、基板を垂直UHVCVD反応器(vertical UHVCVD reactor)のロードロック(load lock)(〜10−8Torr)中に一晩置く。翌日、基板を反応器のヘリにあげて約2時間おき、揮発性物質、有機物、水を飛ばす。次に、ウェハから残存酸化物を払う。これは、ウェハを850〜900℃の反応器室に数分入れて行う。約1μmのシリコンバッファ層をSiHと共に堆積し、反応器を処理温度にする。毎回、この準備手順に続いて、エピタキシャル構造を750〜900℃の範囲で成長させる。これは、SiH、GeH、H中の1%B、H中の1%PHを用いて行う。
【0042】
エッチングにおいて、KOH及びEDPが使われた。KOHは一般的に調査されているエッチング剤であり、最も簡易にまた容易に考慮することができ、使用が比較的容易及び安全である。実際のエッチング速度の詳細は異なるが、様々な非等方性シリコンエッチング剤の作用は一致する。広く承認されているセイデル等の非等方性エッチング理論は、明確にエッチング剤に依存しない。一般に、非等方性エッチング及びシリコンのエッチング停止に関する結果、討議、及び結論は、いずれの非等方性エッチング剤に対しても当てはまると考えられている。円筒形エッチング及びパターン化された酸化物マスクの両方が、Ge濃度のエッチング速度に対する効力を測定するために使われた。
【0043】
弛緩エピタキシャルSiGeエッチング停止の用途を試すために、図1Aから図1Dに示すように、WU_2、WU_3、WU_4、及びUHV_17のエピタキシャル構造物が製作された。図1Aは、シリコン基板102上に構成されたエピタキシャルSiGeエッチング停止構造物100(WU_2)の機能ブロック図である。この構造物は、基板表面におけるSi0.98Ge0.02,5×1020cm−3Bから上端表面層におけるSi0.74Ge0.26,1018cm−3Pまで変化する、複数の弛緩段階層104を含む。各層の厚さは、μmの単位で示される。
【0044】
図1Bは、シリコン基板112上に構成されたエピタキシャルSiGeエッチング停止構造物110(WU_3)の機能ブロック図である。この構造物は、基板表面におけるSi0.99Ge0.01から上端表面層におけるSi0.84Ge0.16までに変化する、複数の弛緩段階層114を含む。
【0045】
図1Cは、シリコン基板122上に構成されたエピタキシャルSiGeエッチング停止構造物120(WU_4)の機能ブロック図である。この構造物はSi0.66Ge0.34の弛緩段階層を含む。
【0046】
図1Dはシリコン基板132上に構成されたエピタキシャルSiGeエッチング停止構造物130(WU_4)の機能ブロック図である。この構造物は、基板表面上におけるSi0.97Ge0.03,3×1015cm−3Bから、上端表面層におけるSi0.66Ge0.34,4×1016cm−3Bまで変化する、複数の弛緩段階層134を含む。
【0047】
構成要素を徐々に変化させることにより、TDDを効果的に抑制すると同時に、表面上のエピタキシャル層を相当に弛緩できることが知られている。これらのエピ構造物(epistructure)の変化率を遅くし厚みに余裕を持たせることで、十分に弛緩された上端フィルムを保証する。したがって段階バッファは、弛緩された高品質の、ゲルマニウム含有率が高い合金におけるエッチング実験を可能にし、これまでには達成できなかったエッチングの領域を可能にする。上述のように従来の研究は、転位を最低限にするために、仮像Si1−xGe層又は低濃度のゲルマニウム又はネジきり転位が飽和した重いゲルマニウム合金を扱ってきた。今後、徐々に変化させる技法は、Si1−xGeの固体溶液に内在するエッチング停止特性を使うことを可能にする。
【0048】
断面TEMサンプルの概算の体積に基づき、TEMサンプル内の単一のネジきり転位は、約10cm−2のTDDを表す。図2は、構造物110(WU_3)の断面TEM顕微鏡写真である。上端表面は右上の方向にある。平行線(適合していない転位)が、段階バッファを定義する。ネジきり転位は一つも見あたらず、これにより結晶性の品質が高いことが確認できる。ぼやけている垂直な帯は、「屈曲輪郭線」と呼ばれるTEMの副産物であり、ネジきり転位ではない。
【0049】
図2においてネジきり転位が存在しないことにより、ほぼ同一の方法で処理された構造物110(WU_2)、120(WU_3)、及び130(UHV_17)が非常に少ない欠陥を有していることを確認できる。このような弛緩段階構造物におけるTDDは、10から10cm−2の範囲内にあることが示されている。段階バッファを省略することで、構造物120(WU_4)は、意味を持つ不完全な形に意図的に処理され、これは図3によって立証できる。図3は、構造物120(WU_4)の断面TEM顕微鏡写真である。上端表面は右にある。図2と違い、このフィルムはネジきり転位によって飽和されており、これにより結晶性の品質が低いことを確認できる。これら四つのサンプルの全ての適合していない転位は、このような厚い被覆層の下では埋まるので、上端表面からのエッチングに対しては到底影響を及ぼすことはできない。
【0050】
構造物100(WU_2)及び130(UHV_17)のドーピング不純物の濃度が、それぞれ図4及び図5のグラフに示される。ドーピング不純物の濃度は、図示するように、純粋なシリコン及び純粋なゲルマニウムの移動度から計算された。構造物130(UHV_17)は30%のゲルマニウムを含むため、正確なホウ素含有率は、純粋シリコンの線と純粋ゲルマニウムの線の間の、純粋シリコンの線に近いどこかに存在する。とにかく、ホウ素ドーピングでは、エッチング停止のために必要なレベルに達しないことは明らかである。構造物130はドーピングされたp型であり、これは、構造物100では意図的な背景n−ドーピングによって抑制された、ゲルマニウムとの潜在的な相互作用及び共同作用を調査するためである。
【0051】
これらの物質(上端層)のエッチングに関連する特性を次の表にまとめる。
【0052】
【表1】


構造物100(WU_2)が使われ、円筒形エッチングによりゲルマニウムの臨界濃度が識別され、上端表面からエッチングすることによりエッチング率の値が取得された。
【0053】
図6Aのグラフに示す、構造物100(WU_2)の円筒形エッチングの結果により、ゲルマニウムのエッチング停止作用が確認され、ゲルマニウム濃度の閾値が16%から22%の範囲に狭められた。この時、フィルムをn型にホウ素でドーピングすることによる影響がないことが確かめられた。グラフの左側の、円形の点によって定義される台地(テラス:terrace)は、エピ構造物の層を表す。左側の尺度は、各層の深さを反映し、右側の尺度は、各層の公称ゲルマニウム濃度に関連する。弧は当初の溝表面であり、正方形の点は、エッチングされた表面をなぞる。
【0054】
図6Bは、図6Aの左側の拡大図である。図から、18〜20%のゲルマニウムの辺りから、エッチング速度が劇的に増加することが明らかであり、これは、臨界ゲルマニウム濃度がその付近に存在することを示唆する。
【0055】
図7のグラフに示された、構造物130(UHV_17)の円筒形エッチングの結果は、4.8から5μmの深さの辺りから劇的にエッチングが加速することを示す。5%Ge/μmの段階率により、ゲルマニウム濃度の閾値が、20%ゲルマニウムの付近であることが無理なく確信できる。溝の各々の側の輪郭が示される。低いバーは、輪郭が、当初の溝のある形状から離れはじめる場所を印付ける。この点の深さは、上端表面から4.8〜5.0μmだけ下であるように見える。
【0056】
酸化物窓を用いたエッチング速度の試験の結果を次の表に示す。
【0057】
【表2】


<100>真性シリコンの、34%のKOH内における60℃でのエッチング速度は、セイデル等を参照し、18.29μm/hrとされた。構造物100(WU_2)、110(WU_3)、120(WU_4)、及び130(UHV_17)の実験データが表に示される。これらのデータを18.29μm/hrで正規化し、図8のグラフにセイデル等の点と共にグラフに描く。
【0058】
図8のいくつかの特徴が強調されるべきである。まず、「優良な」構造物120(WU_4)の個々のエッチング速度に、他の優良なサンプルよりもはっきりと大きな変化性が上下共に見られ、したがって誤差のバーが見られる。全てのデータの比較から、この原因が、格子が一致しないための応力及び高いTDDによる、構造物120(WU_4)の相当に粗い表面であろうという考えが支持される。よって、段階層がこの問題を示さないことから、段階層の効力がすでに証明された。
【0059】
新しい曲線の形状は、非常にEDP−ホウ素曲線に似ており、普遍的なエッチング停止モデルが存在することをほのめかすと同時に、新しいデータの信頼性を追加する。これに加え、EDPよりも環境にやさしいKOHは、SiGe合金に対しては、従来のp++エッチング停止を伴うEDPよりも、良いエッチング停止であるように思われる。
【0060】
文献における一般的な感傷にもかかわらず、十分なゲルマニウムを含むシリコン−ゲルマニウム合金は、ホウ素が最も重くドーピングされた物質に対抗できる、ひときわ優れたエッチング停止であることに議論の余地はない。三つの異なるエッチング技法及び二つのエッチング剤システム、KOH及びEDPがこれを決定的に示す。セイデル等では、「臨界濃度」と呼ばれ定義される、KOH−ゲルマニウム曲線の急勾配な部分と単位比較エッチング速度(unity relative etch rate)との交点は、ゲルマニウムでは2×1021cm−3、すなわち4%にあるように思われる。この値はホウ素に対する「臨界濃度」の100倍ではあるが、ゲルマニウムを用いて、より高い選択度を得ることが理論上は可能であり、これは、固体溶解性や電気的な活動に制限がないからである。
【0061】
十分に弛緩された、欠陥が少ないサンプル構造100(WU_2)、110(WU_3)、120(WU_4)、及び130(UHV_17)から得られる実質的な選択度は、欠陥又は異なる原子半径によって引き起こされる緊張がエッチングを停止させる性質の主要原因ではないことを示す。
【0062】
欠陥は、エッチング抵抗においては、中心的な役割は果たさない。低いTDDを持つWU_2、WU_3、及びUHV_17の弛緩物質による優秀な結果は、格子の欠陥が再結合の中心として働き、ゲルマニウム又は等電子付加物においてそれぞれ、エッチング停止の作用を引き起こすという推測に反する。更に、構造物120(WU_4)のKOH−ゲルマニウム傾向線(trendline)に対するエッチング速度の比較は、TDDが高い場合でもエッチングの停止に劇的な影響を(もしあったとしても)及ぼさず、予測できる形でも影響を及ぼさないことを示す。
【0063】
このゲルマニウムの新しく発見されたシリコン内におけるエッチング停止の有効性の直接的で魅力的な説明は、R. Leancu, Sensors and Actuators, A 46〜47 (1995) 35〜37にその概要が記されている仕組みであり、これをここに引用し編入する。15〜30%のゲルマニウムにおいては、ゲルマニウムが混ざらなければ純粋なシリコンの性質に、ゲルマニウムがどのような影響を及ぼすかのみを仮定するのではなく、純粋なゲルマニウムのバルク性質から補間する方法が、より論理的だと思われる。すなわち、ゲルマニウムはすでにドーピング不純物ではなく、本質的な合金の一種であるので、シリコン原子同様の影響力がゲルマニウムにあるものとすべきである。よって、問題となるシリコン−ゲルマニウム合金は、KOH内における遅い速度を含む、純粋なゲルマニウムのエッチング特性からの明確な影響を示すはずである。
【0064】
この単純な化学的研究方法を頭におき、シリコン−ゲルマニウムなどの完全混和性の二元性システムは、合金の構成内容に対して、一次従属するエッチング速度を示す。純粋なゲルマニウムを含む、高いゲルマニウム濃度におけるエッチング速度のデータを見るまでもなく、図8は、これが正しくないことを示す。同様に、もしエッチング速度が単純に化学的な構造の結果であるならば、すなわち各要素の比率の結果であるならば、エッチング停止効果に対して、なんらかのゲルマニウム臨界濃度が存在する理由が不明瞭である。実際に、非線型のグラフ及び臨界濃度は、エッチングの速度が、化学的な構造ではなくエネルギーバンド構造の関数であることを示唆する。
【0065】
これに関連して、図8はゲルマニウム−KOH曲線がホウ素−EDP曲線に、傾きは必ずしも似てはいないが形状が著しく似ていることを示し、これは、その形状が電子エッチング停止理論に帰することを示す。ゲルマニウム−KOHデータが、ゲルマニウムに適用できるとは思えない完全に異なるモデルに基づく、ホウ素−EDPデータと偶然に一致するとは考えにくい。すなわち、グラフの形状がこれほどまでに一致すると、ゲルマニウムのエッチング停止の本当の仕組みが、ホウ素の仕組みと完全に無関係である確率は低い。
【0066】
シリコン−ゲルマニウム固体溶液のエッチング停止作用に対して、エネルギーバンドモデルを考慮するにはいくつかの理由がある。まず、Si1−xGeのデータが、臨界濃度及び残存のエッチング速度の累乗従属法則を含むp++Si:Bのデータに似ており、p++Si:Bデータはエネルギーバンド効果によってうまく説明できる。この数量では、ゲルマニウムはシリコンのバンド構造を著しく変えることが知られている。更に、ゲルマニウムのエッチング停止効果の、考えられる二つの仕組みは、欠陥とエネルギーバンドであった。欠陥による向上された再結合は、発明者等の段階層による研究方法によって除去できる。エネルギーバンド構造が残された一つの可能性である。
【0067】
純粋なバルクシリコンが室温において1.22eVのエネルギーバンドギャップを有するのに対し、純粋なバルクゲルマニウムは室温において、0.66eVのエネルギーバンドギャップEを有する。したがって、ゲルマニウムをシリコンに追加することにより、バンドギャップは狭まる。サンプルWU_2、WU_3.WU_4、及びUHV_17の場合における、緊張の無いSi0.7Ge0.3の場合、約1.04eVのエネルギーギャップを有する。ゲルマニウムはまた、シリコンよりも低い電子親和力χを有し、シリコンの4.05eVに対し、ゲルマニウムの場合は4.00eVである。よって、ゲルマニウムを組み入れることにより、電子親和力も低減される。ゲルマニウムが追加されるに従って、縮まるバンドギャップ及び電子親和力が、バンド屈曲(band bending)、伝導帯内のポテンシャル井戸、及び価電子帯のポテンシャル障壁を低くする。
【0068】
価電子帯のポテンシャル障壁の高さbは、一般の真性半導体においては、
【数1】


によって求められ、ここでdは基準真空準位であるE=0からフェルミ準位までの距離である。Si1−xGeのバンドギャップは、ゲルマニウムの濃度に対して完全に一次的には変化しないことが知られているが、電子親和力がなぜゲルマニウム含有率の増加と共に減少するのかは知られていない。しかしながら、これらの二つの関数が一次であると近似すると、bもまた、ゲルマニウム濃度に一次従属する。
【0069】
ゲルマニウムを真性シリコンに追加することにより、バンドギャップが狭まり、これにより平衡電子及び正孔の量n及びpが増加する。
【0070】
【数2】


ここでN及びNはそれぞれ伝導帯及び価電子帯の有効状態密度であり、kはボルツマン定数、Tは温度である。説明を簡略にするために、NとNは純粋なシリコンにおける値に等しい定数であると仮定する。ここでも、もしEのゲルマニウム濃度への従属性が一次であると考えた場合、pはゲルマニウム濃度とは指数関数的な関係にある。
【0071】
増加したpは、不動態化反応を増加させる。真性の場合、井戸/障壁が、トンネルを可能にするほど鋭くはないと仮定される。これは、浅い障壁を有するSi1−xGeにおいて、特に当てはまる。更に、表面の逆転層はn型である。そして、不動態化反応への正孔の供給は、熱によってポテンシャル障壁を超える、バルクからの正孔の量hである。したがって、hはボルツマン活性化処理である。
【0072】
【数3】


がゲルマニウム含有率に指数関数的に従属し、bが一次的に関連するので、hは、最終的にゲルマニウム含有率に指数関数的に関連する。これは、数式1及び数式2を数式3に代入し、
【数4】


を得ることでわかる。ここで、E及びχはゲルマニウム含有率に一次従属する。もし、エッチング処理を中断させるための臨界正孔濃度が存在するのであれば、臨界ゲルマニウム濃度が観測される。
【0073】
価電子帯でのポテンシャル障壁は、フェルミ準位が価電子帯に近づくほど増加するが、正孔濃度もp−ドーピングによって相当に増加される。実際には、これら二つの効果が正確にお互いを相殺する。外因性の場合、平衡正孔濃度pは、
【数5】


によって定義され、ここでE/2−Eは、物質がドーピングされた時のbの変化そのものである。そして、数式5が数式3のpに代入されると、E/2−Eは、数式3のbの変化を正確に相殺する。従って、非縮退ドーピングの場合、hの値は、
【数6】


から変化しない。ここで、bは真性物質の障壁の高さである。したがって、SiGeエッチング停止の大きな利点の一つは、エッチング選択度がGe濃度のみに依存することである。
【0074】
完全に非ドーピング物質である構造物110(WU_3)の試験構造が製作され調べられた。構造物110(WU_3)は、SiGe合金を使って可能な「最も堅い」エッチング停止を提供せず、これは、ゲルマニウム濃度(15%から17%)がエッチング停止選択度が落ち始める濃度に近かったからである。図9に示すように、結果は有望であった。図9は、微細加工された検査済の塊900を上から見た写真である。これらの低いGe濃度においても、試験済の塊900のようなエッチングされた部品が可能である。均一の層における、より高いGe濃度(30%)では、非常に堅いエッチング停止を1000:1に近い選択度で得ることができる。
【0075】
EDP及びKOHによる円筒形及び上端表面エッチング、及びEDP内で微細加工された実際の構造物から、十分なゲルマニウムを含む、弛緩シリコン−ゲルマニウム合金が、ひときわ優れたエッチング停止であることは明らかである。34%ゲルマニウムに対応する1000にまで高まる選択度が、KOH内で<100>方向に対して得られた。緊張及び欠陥は、これらの結果の原因ではない。高い欠陥密度は、Si1−xGeのエッチング速度に劇的な影響を与えない。相対エッチング速度とゲルマニウム濃度の関係のグラフは、臨界濃度及び残存の率の累乗従属の法則を含む、p++Si:Bのデータと同様の形状をなぞる。弛緩SiGe合金におけるエッチング停止作用は、バンド構造の変化に相関し、これはGe濃度のみに関係する。
【0076】
本発明のSiGeエッチング停止物質システムによって達成できる非常に高いエッチング選択度は、半導体/酸化物構造を形成する処理に直接応用できる。シリコンを絶縁体上に形成する方法の一つに、Siウェーハを、二酸化シリコンで覆われた他のSiウェーハ上に結合させる方法がある。ウェーハの一つが薄くされると、二酸化シリコン/Si上の薄いSi層が形成される。このような構造は、低電力電子機器及び高速電子機器において有用であり、これはSi活性層がバルクSi基板から二酸化シリコン層によって隔離されるからである。
【0077】
この処理の主な欠点は、シリコン基板−二酸化シリコン−シリコン基板サンドイッチの一つの側を薄くすることの困難さである。高い再現精度及び高い収率を得るためには、ウェーハ全体を均一にかつ非常に正確に薄くする必要がある。埋められたエッチングストップの使用は、成功しているとは言えない。埋められていても、緊張のあるSiGeの薄い層が使われていたが、前述の通り、これらのエッチングは、100よりもはるかに低いエッチング選択度を示し、したがって、これでは十分ではない。
【0078】
本発明の弛緩SiGe合金は、この種類のエッチング停止に最適である。シリコンウェーハ1002上に、段階SiGe層1004及び構成要素が均一の層1006を有する構造1000を、二酸化シリコン1012によって被覆されたシリコンウェーハ1010を有する構造1008に結合させることにより、本発明のエッチング停止は、非常に均一な弛緩SiGe合金を、二酸化シリコン上に形成するために使うことができ、この二酸化シリコンはシリコンウェーハ上にある。この処理は、図10に概略的に示される。
【0079】
一旦、構造が、例えばアニーリングによって結合されると、シリコン基板1002及び段階層1004が選択的にエッチング除去される。最終構造1014は、絶縁体上SiGe基板である。構造1008はまた、ガラスやガラスセラミックなどのバルク絶縁物質であってもよいことを理解されたい。
【0080】
高効率のエッチング停止を作るための全く新しい物質システムが開発された。この新しいシステムは、現在の技術に比べ数多くの利点を有する。ゲルマニウムは、シリコンに対して等電子であり、完全に可溶性であり、シリコン内でほとんど拡散しない。シリコンーゲルマニウムの堆積は、酸化物に対して選択性である。エッチング停止の効力は欠陥によっては弱められない。エッチング停止物質は、完全に非ドーピング性でもよく、提案されたバンド構造モデルによれば、非縮退ドーピングは、エッチング停止作用に影響を及ぼさない。これにより、使用及び設計の、途方も無い柔軟性を、特に超小型電子技術との一体化において可能にする。これに関しては、ゲルマニウムは更に高い担体移動度を可能にする。
【0081】
本発明はいくつかの好適な実施形態に関して示され説明されたが、本発明の精神及び範囲から離れることなく、その形態及び詳細に関する数々の変更、省略、及び追加が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1A】本発明に係るシリコン基板上に形成されたエピタクシSiGeエッチング停止構造の例を示す機能ブロック図である。
【図1B】本発明に係るシリコン基板上に形成されたエピタクシSiGeエッチング停止構造の例を示す機能ブロック図である。
【図1C】本発明に係るシリコン基板上に形成されたエピタクシSiGeエッチング停止構造の例を示す機能ブロック図である。
【図1D】本発明に係るシリコン基板上に形成されたエピタクシSiGeエッチング停止構造の例を示す機能ブロック図である。
【図2】図1Bの構造のTEM顕微鏡断面図である。
【図3】図1Cの構造のTEM顕微鏡断面図である。
【図4】図1Aの構造の化学的不純物濃度を示すグラフである。
【図5】図1Dの構造の化学的不純物濃度を示すグラフである。
【図6A】図1Aの構造の円柱形エッチングの結果を示すグラフである。
【図6B】図6Aの左側を拡大したグラフである。
【図7】図1Dの構造の円柱形エッチングの結果を示すグラフである。
【図8】図1A−1Dの構造における、18.29μm/hrで正規化した、60℃の34%KOH中の<100>真性シリコンに対するエッチング速度を示すグラフである。
【図9】微細加工した試験用塊体の上面図を示す写真である。
【図10】SiGeオンインシュレータ構造を形成する処理を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si1−xGeまでの段階が設けられた弛緩されたバッファ層と、Si1−yGeの弛緩された均質なエッチング停止層とを有し、
x≦0.17かつy≧0.3であり、
前記弛緩されたバッファ層および弛緩された均質なエッチング停止層は、いずれも格子不一致ストレスを調整し、水平および鉛直方向の緊張を開放して、面内および垂直格子定数を均衡値に回復するミスフィット転位が生じた層であり、
前記エッチング停止層は、シリコンに比べ、シリコンの水性異方性エッチング剤におけるエッチング速度が遅く、
前記シリコンの水性異方性エッチング剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、エチレンジアミン/ピロカテコール/ピラジン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)およびヒドラジンからなる群から選択されることを特徴とする、単結晶シリコン基板上に使用する単結晶エッチング停止層システム。
【請求項2】
単結晶基板上に単結晶エッチング停止層を形成する方法であって、
前記シリコン基板上にSi1−xGeまで段階が設けられた弛緩されたバッファ層を堆積するステップと、
前記段階バッファ層上にSi1−yGeの弛緩された均質なエッチング停止層を堆積するステップと、
を有し、x≦0.17かつy≧0.3であり、
前記弛緩されたバッファ層および弛緩された均質なエッチング停止層は、いずれも格子不一致ストレスを調整し、水平および鉛直方向の緊張を開放して、面内および垂直格子定数を均衡値に回復するミスフィット転位が生じた層であり、
前記エッチング停止層は、シリコンに比べ、シリコンの水性異方性エッチング剤におけるエッチング速度が遅く、
前記シリコンの水性異方性エッチング剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、エチレンジアミン/ピロカテコール/ピラジン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)およびヒドラジンからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項3】
集積デバイスを微細加工する方法であって、
シリコン基板上にSi1−xGeまでの段階が設けられた弛緩されたバッファ層を堆積するステップと、
前記段階バッファ層上にSi1−yGeの弛緩された均質なエッチング停止層を堆積するステップと、
前記エッチング停止層を開放するために、前記シリコン基板および前記弛緩された段階バッファ層の部分をエッチングするステップと、
前記開放されたエッチング停止層を処理するステップと、
を有し、x≦0.17かつy≧0.3であり、
前記弛緩された段階バッファ層および弛緩された均質なエッチング停止層は、いずれも格子不一致ストレスを調整し、水平および鉛直方向の緊張を開放して、面内および垂直格子定数を均衡値に回復するミスフィット転位が生じた層であり、
前記エッチング停止層は、シリコンに比べ、シリコンの水性異方性エッチング剤におけるエッチング速度が遅く、
前記シリコンの水性異方性エッチング剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、エチレンジアミン/ピロカテコール/ピラジン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)およびヒドラジンからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
半導体構造を形成する方法であって、
第一基板上にSi1−xGeまでの段階が設けられた弛緩されたバッファ層を堆積するステップと、
前記段階バッファ層上にSi1−yGeの弛緩された均質なエッチング停止層を堆積するステップと、
前記均質なエッチング停止層を、第二基板上に設けられた酸化シリコンフィルムに接合するステップと、
前記第一基板を除去するステップと、
を有し、x≦0.17かつy≧0.3であり、
前記弛緩された段階バッファ層および弛緩された均質なエッチング停止層は、いずれも格子不一致ストレスを調整し、水平及び鉛直方向の緊張を開放して、面内および垂直格子定数を均衡値に回復するミスフィット転位が生じた層であり、
前記エッチング停止層は、シリコンに比べ、シリコンの水性異方性エッチング剤におけるエッチング速度が遅く、
前記シリコンの水性異方性エッチング剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、エチレンジアミン/ピロカテコール/ピラジン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)およびヒドラジンからなる群から選択されることを特徴とする方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−140507(P2006−140507A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339702(P2005−339702)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【分割の表示】特願2000−544004(P2000−544004)の分割
【原出願日】平成11年4月9日(1999.4.9)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】