説明

ジーゼル排気の流動層浄化方法

【課題】従来ジーゼル排気の浄化は専ら小型ジーゼルを対象としたDPFや高価な金属触媒技術に頼らざるを得ないプロセスが開発されてきたが、目詰まりなどのトラブルのため長期間性能を維持するには問題がある。又、従来の方式は何れも大型ジーゼル排気浄化には適用できるものではない。大小を問わず全てのジーゼル排気中の有害物質を一工程で除去できる方法の開発が望まれている。
【解決手段】ジーゼル排気経路中に300℃乃至400℃に保った高炭素フェロマンガン(FMnH)の粉粒の流動層を形成させ、排気とFMnHを接触させることによりPMを着火燃焼し、NOxを還元分解し、SOxを吸着除去できる。多段流動層方式とすれば反応はより完全に進行するし、装置設置面積も小さくできる。又、横型多室流動層方式は自動車に装着可能である。FMnHは賦活再生装置によって再生し長期間循環使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大型から小型にわたるすべてのタイプのジーゼルエンジン排気中の有害物質を一工程で除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車向けの小型ジーゼル排気浄化を対象としてコモンレールによる燃焼制御手段を初めとして排気フィルター方式、各種触媒技術を利用する方式など様々な対策が提案され、その中から幾つかが実用化されているが、安定な性能維持に未だ問題があるばかりでなく、装置自体が高価なため行政等の補助施策なしでは普及し難いのが実情である。
【0003】
前記小型ジーセル排気浄化技術は、その何れも大型ジーゼル排気の浄化には全く適用できるものではないことが明らかであるため、船舶ジーゼル排気による大気汚染が無視できないにもかかわらず対策技術の見通しが立てられず、規制の対象となし得ない原因の一つになっている。
【0004】
又、従来の技術は燃料の硫黄含有量の低減が前提の上に成り立っており、燃料の厳しい脱硫処理が必要である。この点からも従来のジーゼル排気浄化技術は大型ジーゼル排気浄化に不適合であることは明らかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現行実用化されているジーゼル排気浄化技術はフィルタ、触媒、複雑な制御システムを利用している限り宿命的ともいえる目詰まり、劣化、システムの不具合の発生を伴うので性能の維持のためのメンテナンスに常に配慮が必要である。
【0006】
本発明は現行実用化ジーゼル排気浄化技術のトラブルの元となっているフィルタ、高価な触媒、複雑な制御システムを排除し、代わって一見ラフであるが確実で安価な化学ユニットプロセスの導入によって大型から小型ジーゼル排気浄化に共通して適用できる単純な技術の完成を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
Mn,Feの炭化物を含む高炭素フェロマンガン(FMnH)がジーゼル排気中のNOxを還元分解する能力を有することは既に特許文献1において公開されているが、それ等においてはFMnHの粉や粒の固定層を排気を通過させる方式であり反応が充分進行しない傾向があった。
【0008】
【特許文献1】 特開2005−125300
【0009】
本発明においては、大部分が0.08mmから0.5mmのサイズ範囲のFMnH粉粒を用い、排気自体によって流動層を形成させ又、必要に応じて多段流動層或いは多室流動層を構築することにより排気とFMnHとの反応が促進されることが確認できた。
【0010】
より具体的には300℃乃至400℃に保持したFMnH粉粒の流動層へジーゼル排気を通過させると排気中のNOxの96%が継続して還元分解されることが確認できた。(非特許文献1)同時に排気中のPMも70%以上低下した実験結果も得られた。PMがFMnH粉粒と衝突を繰り返しながら加熱され着火点に到達し燃焼して減少したものと考えることができる。
【0011】
【非特許文献1】 ディーゼル排気中の有害物質除去に関する研究 千葉大学工学部電子機械化 古山研究室 2009/ 1/ 7 検討会資料
【0012】
上記NOx及びPMの除去の結果は1段流動層におけるものであるから多段流動層を適用すれば、それ等の除去率は限りなく100%に近付けることが可能である。
【0013】
又、長時間反応後のFMnH粉粒を賦活再生処理した洗浄液の化学分析の結果から排気中の硫黄分がFMnH粉粒の表面に固定されることも明らかになった。これ等のことからジーゼル排気中の主要な有害物質即ちPM,NOx,SOxを流動層一工程で同時に除去できる見通しが得られた。
【0014】
流動層におけるFMnH粉粒はPMに対しては熱伝達媒体として、NOxに対しては還元分解材として、SOxに対しては硫酸塩の吸着固定材としての作用役割を分担するが、FMnH粉粒トータルの表面積が大きく且つ賦活再生処理されて新鮮な表面活性を持ったFMnH粉粒が常に流動層へ循環供給されるので上記夫々の役割分担が相互に妨げられることはない。
【0015】
ジーゼル排気中の有害物質の除去を円滑且つ確実に遂行するためには原則として多段流動層方式が適切である。多段式のメリットは排気とFMnH粉粒との接触時間が長く、熱効率が高く、温度分布も均一である。流動層の圧力損失も少なく装置の設置面積を小さくできる。
【0016】
装置の高さに制約のある自動車用としては仕切板によって幾つかのセクションに分けられた横型多室流動層方式を採用する。この方式は操作が容易で短時間に流動層が安定するので自動車用小型ジーゼルに適している。但し装置が傾斜すると流動層の高さやFMnH粉粒の横移動運動にムラを生ずる傾向があるので装置をなるべく水平に保つ機構を備えることが必要である。
【0017】
ジーゼル排気はエンジン排出口直後では400℃に近い温度であるが流動層装置に至るまでに温度が低下するので、必要な温度で反応を進行させるためには通常補助加熱を要する。通気スリットのある又は多孔板セラミックヒータを整流多孔板に近接して配置すると排気、FMnH粉粒、PMは加熱され、流動層温度が300℃乃至400℃に保持され、各有害物質除去反応は順調に進行する。流動層温度が300℃を下回るとNOxやPMの除去率が急激に低下するので流動層を所定の温度に保つことは必須の条件である。
【0018】
エンジン出力の変動に伴い排気量の変化が流動層の高さの変動になって現れる。流動層の高さが適正範囲、通常は30mmから200mmを越えると反応にムラが生ずるばかりでなく排気圧が過大になると最上段の流動層からFMnH粉粒が系外へ持ち去られる量が増加する。従って流動層の高さを適正巾に制御する手段が要求される。
【0019】
一つの手段として最大出力時に最上段の流動層の高さが200mm以下に収まる流動床面積を決め、後は出力に応じて流動床面積絞り機構とサイクロンブロワーとの連携によって流動層の高さを適正な範囲に制御することができる。尚、FMnH粉粒の供給速度も制御因子である。大型ジーゼルにおいては複数基のサイクロンを配置すると流動層の制御が容易となる。
【0020】
本発明において使用されるFMnH粉粒は繰り返し循環して反応に供される。即ち流動層を形成しているFMnH粉粒は各床の整流多孔板又は溢流管を通って順次下段の流動層を形成しながら装置底部のスクリュウコンベア式の賦活再生装置に集められ所定の賦活再生処理を受けて系外へ排出されるが、再び最上段の流動層へ供給され、循環システムが構成される。
【0021】
前記したように自動車用小型ジーゼル排気に対しては横型多室流動層装置を利用する。装置の溢流堰から排出されたFMnH粉粒は供給ホッパーへ戻し循環する。自動車燃料の軽油は硫黄含有量が低いためFMnHの劣化が少ないので、一定期間使用後別途無機酸液洗浄賦活再生処理品と入れ替える方が装置が簡素化できる。
【0022】
これまでの所、FMnHとジーゼル排気中のNOx,SOxとの反応の機作の詳細は不明であるが長時間反応を継続すると次第にFMnHの性能が低下してくることが認められた。FMnHの表面に薄い酸化被膜や硫黄化合物の生成吸着のためと考えられるので1乃至2N程度の無機酸液で洗浄したところバージンFMnH粉粒よりも高い性能に賦活再生できた。
【0023】
FMnHの他の賦活再生方法としては、400℃乃至500℃に加熱され且つ炭化水素又は水素などにより還元性雰囲気に保持された空間を通過させるとFMnH粉粒表面の酸化被膜は還元され又硫黄化合物も分解除去され表面活性は回復する。
【0024】
最下段流動層の溢流管からのFMnH粉粒及びサイクロン捕集粉をスクリュウコンベア式の賦活再生装置へ送入する。賦活再生装置は400℃乃至500℃に加熱され、装置内を還元性雰囲気に保つのに必要なだけのメタン或いはプロパン等の炭化水素を送入しておけば賦活再生されたFMnHが排出されてくるのでこれを最上段の流動層へ循環供給する。この賦活再生工程を導入することにより長期間に亘ってFMnH粉粒の補給や入れ替え操作の必要はなくなる。
【0025】
FMnHはこれまで化学反応の触媒として認知された例はない。FMnHをNOxの単なる還元剤と見ることはできるが250℃から300℃という低温においてNOxを還元する能力があるとする他の研究報告例もない。しかしながら本発明者等が行ってきた研究開発によればジーゼル排気中の低濃度のNOxに対して選択的に作用してNOxを還元、分解する能力を有することが立証されている。
【0026】
その詳細な化学的機作の解明は今後の研究に俟たねばならないが、FMnHがNOxに対して選択的に作用し且つその表面積が増大するにつれて即ち粒度が小さくなる程NOx分解性能が向上し例えば350℃における0.08mmから0.4mmのFMnH粉粒流動層一回パス操作で96%のNOxが連続的に除去された実験結果からすると、この場合のFMnHは一種の触媒と解釈しても不合理は生じない。
【0027】
ジーゼル排気中の硫黄分の除去に関してはFMnHは単なる吸着固定剤として働いていると見ることもできる。排気中の硫黄分はSOxの形で存在するのでFMnHのFeやMnと硫酸塩又は亜硫酸塩を生成しFMnH粉粒表面に吸着固定される。これ等の塩類は賦活再生工程において比較的簡単に還元又は熱分解する。
【発明の効果】
【0028】
以上述べた諸項目を総合するとジーゼル排気の主要な有害物質PM,NOx,SOx,の何れもがFMnH粉粒の流動層プロセス処理という一工程で同時に除去できるシステムが完成した。
【0029】
本発明において採用した流動層プロセスは化学工学の分野で鉱石の焙焼から石炭、石灰石、スラグ、肥料、合成樹脂、食品の乾燥にいたるまで広く実施されているプロセスであり、装置、操作に関する技術は多方面から検討され確立されている。しかも反応媒体としてのFMnHは貴金属、希少金属触媒に比べれば数万分の一乃至数千分の一の価格でしかない極くありふれた工業材料であるので現行実用化されている排気浄化装置や他の開発中の浄化装置よりも格段に低価格のジーゼル排気浄化装置が構築できる。
【0030】
本発明においては多段流動層方式を採用することにより装置の設置面積を自由に小さくすることが可能である。又、反応媒体のFMnH粉粒の賦活再生工程を付属させることにより完全な循環システムが構成され装置の維持管理が容易となる。
【0031】
従来自動車用小型ジーゼル排気浄化を目的として開発されてきたフィルター、貴金属触媒技術を用いる方式は使用燃料の品質の違いからしても又装置の構造や触媒技術の原理からしても大型ジーゼル排気の浄化には耐えられない。本発明は船舶用および1万kw程度までの発電用大型ジーゼルから自動車用小型ジーゼルの排気まで幅広く適用できる方式であり、原則として大型ジーゼル排気には多段流動層方式を小型ジーゼル排気には横型多室流動層方式と使い分ける。
【0032】
本発明の適用によって高効率クリーンジーゼル発電機が実現できるのでピーク電力対応電力として役立つばかりでなく電力ネットワークの二層化による設備効率の向上に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。
【0034】
図1は多段流動層排気浄化装置の機能図で大型ジーゼル排気浄化用である。1は排気入口、2は通気スリットのあるセラミックヒータ、3は整流多孔板でこの上にFMnH粉粒の流動層が形成される。
【0035】
図1のA,B,Cは各段の流動層である。各流動層のFMnH粉粒は夫々4の溢流管へ流れ込み5のロータリバルブにより下方へ連続的に移動する。6は分散板である。
【0036】
底部にはヒータ加熱のスクリュウコンベア式のFMnH粉粒の賦活再生装置7を装備し、8から炭化水素を送入し、装置内は還元性雰囲気に保持されている。最下段流動層からの使用済みのFMnH粉粒はこの装置を通過する間に賦活再生され15のフローコンベアにより11のロータリフィーダへ送られ最上段の流動層へ循環供給される。7からの排ガスはやや酸性を示すのでアルカリ液のガス洗浄器を通して排出する。
【0037】
排気入口1から入ったジーゼル排気は2のセラミックヒータと接触して加熱され3の整流多孔板を通過してFMnH粉粒の流動層を形成しながらNOxの還元分解反応、SOxの固定化反応及びPMの燃焼の進行と共に浄化され12のサイクロンを経て13のブロワーにより大気へ排出される。
【0038】
各段流動床の下には流動床面積制御絞り機構14が付属しており13のブロワーとの連携によりエンジン出力の変動に対応して流動層を安定させる。
【0039】
以上のように本実施形態によれば長期間安定循環型のジーゼル排気浄化システムが構築できる。
【0040】
図2は横型多室流動層排気浄化装置の機能図で自動車などの小型ジーゼル排気浄化用である。排気入口1から入った排気はセラミックヒータ2、整流多孔板3を通過しFMnH粉粒を排出口8の方向へ移動させながら各室の流動層を形成する。この方式は構造が簡単で運転が容易且つ短時間で安定状態に達する。
【0041】
溢流堰5を越えて排出口8に集積するFMnH粉粒はフローコンベア9により連続的に7の供給口へ循環供給される。一定期間毎にFMnH粉粒は全量を入れ替え、別途無機酸水溶液により洗浄、賦活再生処理をして繰り返し使用する。
【0042】
以上のように図2の実施形態により自動車などの小型ジーゼル排気についても循環浄化システムが構築できる。尚、自動車の登降坂時、横型多室流動層排気浄化装置が重力に対して大きく傾斜し続けると流動層の高さの差(圧力ヘッド差)のため反応にムラが生じたり、FMnH粉粒の横方向の順調な移動が妨げられたりするおそれがあるので装置全体を常に水平に保つ機構が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】 多段流動層排気浄化装置の機能図
【図2】 横型多室流動層排気浄化装置の機能図
【符号の説明】
【0044】
[図1]
2 セラミックヒータ
3 整流多孔板
4 溢流管
7 賦活再生装置
8 還元ガス入口
10 ガス洗浄器
12 サイクロン
13 ブロワー
14 絞り機構
15 フローコンベア
16 FMnH流動層 A,B,C
【0045】
[図2]
1 排気入口
2 セラミックヒータ
3 整流多孔板
4 仕切板
5 溢流堰
6 排気出口
7 FMnH供給口
8 FMnH排出口
9 フローコンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジーゼル排気経路中に300℃乃至400℃に保った高炭素フェロマンガン(FMnH)粉粒の流動層を形成させ、排気とFMnHを接触させることにより排気中のNOxを還元分解し、同時にPMを着火燃焼し、SOxを吸着除去することを特徴とするジーゼル排気の流動層浄化方法。
【請求項2】
流動層を多段流動方式とするか又は横型多室流動方式にする請求項1のジーゼル排気の流動層浄化方法。
【請求項3】
流動層の反応温度を保持するために整流多孔板に接近した位置にセラミックヒータを設置してFMnH粉粒、排気、及び排気中のPMを加熱する請求項1のジーゼル排気の流動層浄化方法。
【請求項4】
ジーゼル排気流速の変動に対応して流動層床面積を可変調節する絞り機構を流動層の床部に近接して装着する請求項1のジーゼル排気の流動層浄化方法。
【請求項5】
流動層を形成するFMnH粉粒は溢流管又は整流多孔板を通して下段へ移動し、順次流動層を形成しながら最下段の溢流管から賦活再生装置を経て系外へ排出され、これを最上段の流動層へ繰り返し循環供給するシステムからなる請求項1のジーゼル排気の流動層浄化方法。
【請求項6】
請求項5記載の賦活再生装置を400℃乃至500℃に加熱し、内部を炭化水素など還元ガスによって還元性雰囲気に保持し、FMnH表面の酸化被膜や硫黄化合物を還元分解して賦活再生し、これを循環使用する請求項1のジーゼル排気の流動層浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−188333(P2010−188333A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58668(P2009−58668)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(591163351)
【出願人】(500544543)
【Fターム(参考)】