説明

ステージ機構、及びそれを備えた電子顕微鏡、並びにステージ機構の位置決め制御方法

【課題】低振動でドリフトが小さく高精度の位置決めを行える電子顕微鏡用ステージ機構を実現する。
【解決手段】ステージの駆動機構に超音波モータを用いるとともに、停止剛性を高める固定機構をモータと一体化する。すなわち、与圧機構に超音波モータと共に固定機構のピエゾ素子をマウントする構造を用い、ステージの加速減速及び位置決めを駆動機構で行った後、固定機構によりステージを固定する際、ステージの両側に位置するピエゾ素子が伸長し、ステージを押圧するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージを固定するためのステージ機構、及びそれを備えた電子顕微鏡、並びにステージ機構の位置決め制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)は、収束した電子線をプローブとして試料表面を走査し、試料から放出された反射電子(Backscattered Electron)や二次電子(Secondary Electron)を検出して、試料のSEM像を得る装置である。このような、電子線等の荷電粒子線をプローブとする顕微鏡は、多様な研究開発分野に利用されるだけでなく、製造分野にも応用されるようになった。例えば、走査型電子顕微鏡によって観察対象(試料)のSEM像を得る技術は、半導体の微細構造の観察や寸法計測に応用され、半導体製造プロセスに不可欠なものとなっている。
【0003】
半導体集積回路は近年、そのデザインルールが微細化してきており、例えばパターン幅が100nm以下のものも多い。走査型電子顕微鏡の技術を利用し、微細パターンの寸法計測や形状観察、異物欠陥の検出等を行う半導体検査計測装置には、測長SEMやSEM式欠陥検査装置、レビューSEMなどがある。
【0004】
そして、半導体検査計測装置には高スループット化に加えて高精度の画像を得ることが求められるので、ウエハを載置する試料ステージには、高速に移動して正確に位置決めを行うこと、及び停止時の振動やドリフトを抑えることが要求される。
【0005】
試料ステージには従来、送りネジを駆動手段に用いた構造が多く用いられてきたが、近年は位置決め精度向上やウエハに対する潤滑油由来の化学的汚染を避ける等の目的で、圧電セラミック素子の圧電現象を利用したリニアアクチュエータである超音波モータを駆動源とするステージの提案が行われており、このようなステージの例としては、特許文献1に開示される「電子顕微鏡用ステージ」がある。
【0006】
また、位置決め後のステージのふらつきや微小移動、すなわちステージドリフトを防止する為に固定機構を設ける技術として、特許文献2に開示される「ターゲット移動装置」などがある。この例では、ステージに設けたピエゾ素子へ正の電圧を印加して左右方向に広がる変形を起こし、2つの柱部の境界部が支点となってブレーキングパッドがブレーキングレールを挟む方向に変位することによりブレーキングが実現される構造を用いている。
【0007】
【特許文献1】特開平3−129653号公報
【特許文献2】特開2001−196021号公報(特に、段落[0031]、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体素子の製造分野において検査・観察用途に多く用いられている電子顕微鏡は、シリコンウエハを切断せずに全面を観察する目的で、直径300ミリメートルのウエハを支持可能で、さらにウエハの直径を上回る可動範囲を持つ試料ステージを備える。しかし、このように大型の試料ステージは、重量に対する機械剛性を高くとることが難しく、機械共振周波数が低下するため、外部からの振動を拾いやすくなる。半導体製造ラインは一般にクリーンルーム環境であるため、空調から生ずる50〜200Hz程度の振動のレベルが高く、試料ステージの機械共振点がこの範囲に存在すると、その影響は深刻なものとなり画像ぶれや寸法測定精度の低下等を引起す。
【0009】
また、高倍率で試料を観察する際に、試料ステージにドリフト(時間の経過とともに停止位置が微小にずれていく現象)が存在すると、微細パターンの寸法測定などを行う際に測定精度が低下する。
【0010】
従って試料ステージには低振動性と低ドリフト性が要求される。具体的には、近年の半導体検査計測用電子顕微鏡に用いる電子光学系のビーム分解能が1.5ナノメートル程度に達しているため、良質な画像を取得するには振動等の外乱の影響を振幅にして1.5ナノメートル程度以下にする必要がある。また、微細パターン幅の測定再現性は0.1ナノメートル程度が要求されており、ステージ停止後に0.5ナノメートル毎秒程度以上のステージドリフトがあると測定再現性が低下するので、ドリフトをこれ以下に抑える必要がある。
【0011】
ところが、特許文献1に記載の「電子顕微鏡用試料ステージ」では、(1)位置決め停止後にステージの微小な動きを生じるドリフト、特に超音波モータ特有のピエゾ素子の残留変形に由来するドリフトが生じ易い、(2)超音波モータが備えるピエゾ素子のみでステージが送り方向に対し固定される為、停止剛性が低く50〜200Hzの領域でステージが機械共振を起こしやすい、という問題点があった。
【0012】
また、特許文献2に記載の「ターゲット移動装置」でも同様に、(1)ブレーキング機構が、多数の溝を削って2つの柱部やその薄い境界部などを形成しているため、全体に剛性が低くなり、観察時に振動を生じやすい、(2)ピエゾ素子の変形が柱部を介し、境界部を支点として間接にブレーキパッドに伝わるため、充分な固定剛性を得られず、撓んでドリフトが発生しやすい、という問題点があった。
【0013】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、試料ステージの位置決めを高精度に行えるステージ機構、及びそれを備えた電子顕微鏡、並びにステージ機構の位置決め制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明では、試料ステージを超音波モータで駆動させて位置決めを行い、所望の位置にステージをセットしたら、このステージを固定とするとともに、ステージを駆動するための超音波モータをステージから切り離すようにしている。これにより、超音波モータのピエゾ素子の残留変形による影響を抑えることができるので、ステージのドリフトを発生させず、ステージの位置決めを高精度に行うことができる。
【0015】
即ち、より特定的には、本発明によるステージ機構は、テーブルとこのテーブルを載置するためのベース部材とを含むステージと、ステージを駆動する駆動ユニットと、を備えている。そして、駆動ユニットは、テーブルを駆動する超音波モータと、テーブルに対して超音波モータを押し付ける与圧機構と、テーブルを固定する固定手段と、を有し、固定手段は、与圧機構上に超音波モータと一体に移動可能に取り付けられている。なお、駆動ユニットは少なくとも一対設けられ、これによりテーブルを挟みこむ構造をなしている。ステージがXY2つのテーブルを備える場合には、4つの(二対の)駆動ユニットがそれぞれのテーブルを側面から挟み込むようになっている。
【0016】
また、上記固定手段はピエゾ素子で構成され、上記与圧機構はベース部材に固定された位置決め部材と、超音波モータと固定手段とが取り付けられた台座部材と、位置決め部材に台座部材を弾性的に支持する弾性部材(ばね)と、を備える。そして、固定手段が、テーブルを押圧してテーブルを固定するとともに、超音波モータをテーブルから切り離す。例えば、電圧をピエゾ素子に掛けるとピエゾが伸び、台座部材に固定されていないピエゾ素子の開放端によってテーブルを固定し、台座部材に固定されているピエゾ素子の固定端によって台座部材を押圧することにより超音波モータをテーブルから切り離す。
【0017】
本発明による別のステージ機構は、テーブルとこのステージを載置するためのベース部材とを含むステージと、ステージを駆動する駆動ユニットと、駆動ユニットとは独立にテーブルを固定する固定手段と、を備える。そして、駆動ユニットは、テーブルを駆動する超音波モータと、テーブルに対して超音波モータを押し付ける与圧機構と、超音波モータをテーブルから切り離す切り離し手段と、を有することを特徴とする。つまり、固定手段に超音波モータを切り離す作用をさせず、固定手段とは独立に設けられた切り離し手段によって超音波モータをテーブルから切り離すようにしている。なお、駆動ユニット及び固定手段の組が少なくとも一対設けられ、これによりテーブルを挟みこむ構造をなしている。ステージがXY2つのテーブルを備える場合には、4つの(二対の)駆動ユニット及び4つの固定手段がそれぞれのテーブルを側面から挟み込むようになっている。
【0018】
さらに、本発明は、上述の構成を備えるステージ機構を備えた電子顕微鏡も提供する。
【0019】
また、本発明は、電子顕微鏡の制御部が、超音波モータによるステージの加減速、位置決め、ピエゾ素子を用いたステージ固定機構による前記ステージの固定動作を制御する、ステージ機構の位置決め制御方法を提供する。位置決め制御の際、制御部は、ステージが位置決め目標位置に停止した後、ステージ固定機構を作用させ、超音波モータを駆動対象から切り離すようにする。また、別の態様として、制御部は、ステージが位置決め目標位置に停止した後、ステージ固定機構と別に設けられたモータ切り離し手段を作用させ、超音波モータを駆動対象から切り離すようにしてもよい。
【0020】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のステージ機構によれば、試料ステージの位置決めを高精度に行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0023】
本実施形態では、ウエハ(試料)表面に形成された微細なパターンの寸法を計測する走査電子顕微鏡(測長SEM)に適用した例が示されている。しかし、本発明によるステージ装置は、SEMに限らず、電子線描画装置、FIBなど、試料を保持したホルダを把持してXY2次元方向に移動するステージ装置を用いる荷電粒子線装置一般、さらには荷電粒子線装置に限らず光散乱等を利用して異物や欠陥の検査を行う光学式検査装置等にも適用できることは勿論である。また、ホルダに保持する試料はウエハに限らない。
【0024】
図1は、本発明による測長SEMの概略構成を示す図である。本発明による測長SEMは、荷電粒子光学系1と、後述のステージを収容してウエハ(試料)7を任意の検査位置に移動する試料室2とを備え、荷電粒子源から放出された荷電粒子線をウエハ7上に細く集束して走査し、ウエハ7から放出された2次電子等を検出してウエハ7の走査像を得、その信号からウエハ上に形成された最小で30ナノメートル幅程度の微細パターンの寸法を計測するものである。
【0025】
試料室2は、図1には示されていない真空ポンプ等で10のマイナス4乗パスカル程度の真空状態で使用される。試料室2の中に配置されるステージは、電子ビームが照射される測長位置にウエハ上の任意の部位を移動・位置決めする機構であり、ベース3と、Xテーブル4と、Yテーブル5と、及びチャック機構6と、を備えている。ベース3上に、Xテーブル4及びYテーブル5が設けられており、XY方向2次元にステージが移動する機構となっている。また、Xテーブル4上にはチャック機構6が設けられており、このチャック機構6によりウエハ7が固定される。
【0026】
以上までの構成は、以下説明する第1及び第2の実施形態において共通のものである。以下、第1及び第2の実施形態かかるステージ機構についてそれぞれ詳細に説明する。
【0027】
<第1の実施形態>
図2は、本発明による第1の実施形態に係るステージ機構の基本的構成を示す図である。ステージは、試料室2内においてY方向に移動可能なYテーブル5と、ベース3上をX方向に移動可能なXテーブル4から構成されるが、図2中にはYステージ5のみが示されている。また、Xテーブル4及びYテーブル5のそれぞれは、加減速及び位置決めを行う駆動機構、およびステージを固定する固定機構の両方を備えたステージ駆動ユニット8によりステージの加減速、位置決め停止及び固定が行なわれる。また、ステージ駆動ユニット8は、ステージの安定した加減速、位置決め及び固定を実施するため、ステージを挟み込むように配置されている。
【0028】
一般に、超音波モータを用いたステージ駆動機構においては、超音波モータを可動部分に弾性的に押し付ける為の与圧機構9が用いられる。その理由は、ピエゾ素子伸縮のストロークが数ミクロン以下と短い一方で、ステージ機構の製作精度には限度があり、その製作精度誤差によりステージ駆動ユニット8の可動部分への当たり方に移動ストローク内で差が生じる恐れがあるためである。
【0029】
本実施形態の与圧機構9は、ステージ駆動ユニット8を搭載している台座12を支持・加圧する板ばね11とコイルばね10の2種類のばねの組合せで構成されている。コイルばね10は押し付け力を発生し、板ばね11はステージ駆動ユニット8の回転方向等の姿勢変化、および送り方向の変位を押さえ、その押力によってステージ駆動ユニット8がステージに安定して押し付けられ、かつ送り方向には高剛性に支持されるようになる。
【0030】
図3(a)は、第1の実施形態によるステージ駆動ユニット8の基本的構成を示す図である。図3(a)に示されるように、ステージ駆動ユニット8は、与圧機構9(コイルばね10と板ばね11)と、台座12と、駆動機構としての超音波モータ13と、固定機構としてのピエゾブレーキ15と、を備えている。なお、図3(a)は、ピエゾブレーキ15が超音波モータの先端に取り付けられた駆動チップ14よりも前に出ているので、ステージ固定時(ブレーキがかかった状態)を示している。また、図3(a)は、後述の図3(c)を上面から見たときの構成を示している。
【0031】
超音波モータ13は、互いに所定角度をなして固定された一対のピエゾ素子を有し、その先端は共通の駆動チップ14に固定されている。一対のピエゾ素子に、互いに逆相の電圧を印加することにより、駆動チップ14は円運動によりステージ送り方向への変位を生じ、同相の電圧印加ではそれと垂直な与圧方向への変位を生ずる為、これらを利用して超音波リニアアクチュエータとして使用することができる。
【0032】
台座12には超音波モータ13と並列してピエゾブレーキ15が備えられている。ピエゾブレーキ15は伸縮によるその先端の移動ストロークの中心が、ステージ駆動中における駆動チップ14先端位置に概ね一致するよう設置される。このような設置位置により、ピエゾブレーキ15の先端が、駆動チップ14の先端よりも前にも後ろにも移動できるようになっている。
【0033】
図3(b)及び(c)は、それぞれステージ駆動時とステージ固定時のステージ駆動ユニット8の状態の比較を示している。図3(b)に示されるステージ駆動時には、ピエゾブレーキ15は縮んだ状態にあり、超音波モータ13のみがテーブルに接触し駆動が行われる。
【0034】
一方、図3(c)に示されるステージ固定時は、ピエゾブレーキ15を伸ばすことにより先端を超音波モータ13先端より突出させる。つまり、ピエゾブレーキ15は、伸びてテーブル5に当たり、さらに伸びてテーブル5を押し付ける。すると、駆動チップ14がテーブルから離れる。さらにテーブル5が押されると、ピエゾブレーキ15の後端部が台座12を後ろ方向に押し付ける。与圧機構9は、押し付け方向には弾性的に変形可能であるため、テーブル5を固定するために必要な圧力以上の圧力は、与圧機構9によって吸収されることになり、テーブル5にはピエゾブレーキ15先端のみが接触することになる。このように、ピエゾブレーキ15によって超音波モータの駆動チップ14をテーブルから切り離し、テーブル5に掛かる余計な圧力を与圧機構9によって逃がしているので、ドリフトを生じさせずに固定し、高精度に位置決めすることができる。
【0035】
次に、本実施形態をソフトウェアプログラムで実行する場合の動作について説明する。図5(a)は、第1の実施形態に係るステージ制御動作を説明するためのフローチャートである。図中各ステップは、特に断らない限り図示しない制御系(CPUを含む)によって実行される。
【0036】
ステップS101において、前回の測長終了後、まず、固定機構であるピエゾブレーキ15の印加電圧がオフとなり、ステージ固定が解除される。次に、ステップS102において、超音波モータ13に電圧が印加され、ステージが超音波モータ13により加減速され、次の測長位置にステージの位置決めが行なわれる。また、ステップS103のステージ位置決め終了後、ステップS104で超音波モータ13の駆動電圧が固定される。続いて、ステップS105において、固定機構であるピエゾブレーキ15に電圧が印加され、ピエゾブレーキ15のピエゾ素子が伸張することによりテーブルが固定されると共に、超音波モータ13の先端が駆動面から切り離される。ステップS106では、テーブル固定により、ドリフト及び振動の影響を受けずに測長が実施される。この際、ピエゾ素子の残留変形の収束待ちも不要となるので測長スループットの向上も可能となる。なお、固定後は、次のステージ起動まで超音波モータ13はテーブルに接触しない為、その間の駆動電圧は任意として良い。
【0037】
<第2の実施形態>
第2の実施形態によるステージ機構は、第1の実施形態とは異なり、ピエゾブレーキ15を台座12とは一体に設置しない構成であって、超音波モータを駆動面から切り離す別の機構を設けている。
【0038】
図4(a)及び(b)は、固定機構としてのピエゾブレーキ15を、超音波モータ13を設置した与圧機構9とは別に設置した構造を示している。図4に示されるように、与圧機構9に超音波モータ15をステージから切り離すための切り離し機構16が別途設けられている。切り離し機構16にはピエゾ素子を用いているが、他の機械的機構による切り離し機構を用いても良い。
図4(a)で示されるステージ駆動時は、固定機構であるピエゾブレーキ15、及び切り離し機構16は縮んだ状態にあり、超音波モータ13のみがテーブルに接触し駆動が行われる。
【0039】
一方、図4(b)で示されるステージ固定時は、固定機構であるピエゾブレーキ15を伸ばすことにより、テーブルにピエゾブレーキ15を接触させステージを固定する。同時に、切り離し機構16に電圧を印加して台座12を後退させることにより、機械的に超音波モータ13を駆動面から切り離し、与圧機構9の作用で超音波モータ13が駆動面に押し付けられないようにする。
【0040】
次に、本実施形態をソフトウェアプログラムで実行する場合の動作について説明する。図5(b)は、第2の実施形態に係るステージ制御動作を説明するためのフローチャートである。図中各ステップは、特に断らない限り図示しない制御系(CPUを含む)によって実行される。
【0041】
ステップS201において、前回の測長終了後、まず、固定機構であるピエゾブレーキ15の印加電圧がオフとなり、ステージ固定が解除される。次に、ステップS202において、超音波モータ13に電圧が印加され、ステージが超音波モータ13により加減速され、次の測長位置にステージの位置決めが行なわれる。また、ステップS203のステージ位置決め終了後、ステップS204で超音波モータ13の駆動電圧が固定される。続いて、ステップS205において、固定機構であるピエゾブレーキ15に電圧が印加され、ピエゾブレーキ15のピエゾ素子が伸張することによりテーブルが固定される。そして、ステップS206において、切り離し機構16が動作して、超音波モータ13の先端が駆動面から切り離される。この切り離し動作は、超音波モータ13のドリフトによるテーブル位置決め位置の変動を避ける為、超音波モータ駆動電圧の固定後速やかに実行される必要がある。ステップS207では、テーブル固定により、ドリフト及び振動の影響を受けずに測長が実施される。この際、ピエゾ素子の残留変形の収束待ちも不要となるので測長スループットの向上も可能となる。なお、固定後は、次のステージ起動まで超音波モータ13はテーブルに接触しない為、その間の駆動電圧は任意として良い。
【0042】
<ピエゾ素子の残留変形による影響についての考察>
一般的なテーブル位置決め等の用途においては、超音波モータは固体接触構造であるため、位置決め完了後そのままで固定機構として使用できることがメリットであるとされている。このため、位置決め後にモータを切り離すような利用方法は採用されない。
しかし、半導体の極めて微細なパターンを計測するような、ナノメートルオーダのドリフトが問題になる分野では、ピエゾが持つ残留変形特性が問題となる。
【0043】
図6は、本発明でも備えられている超音波モータ13及びピエゾブレーキ15に用いられるピエゾ素子の一般特性を示した図である。横軸は経過時間t、縦軸はピエゾ素子変形量ΔLを示している。
【0044】
図6からも分かるように、ピエゾ素子は電圧の印加、除去により素子が伸縮する特性を持ち、その応答速度は非常に速く電圧印加により瞬時に変形が生ずる。ただし、その後の経過時間に伴い、量は僅かであるがピエゾ素子の残留変形が生じる事が広く知られている。
【0045】
また、超音波モータ13は、押し付け方向と垂直でない角度をなしてピエゾ素子が設置されているため、上記残留変形があると、ステージ駆動方向へのドリフトの原因となる。
【0046】
なお、ピエゾ素子に由来する残留変形はピエゾブレーキ15にも生じるが、残留変形方向がステージ駆動方向に垂直であることから加圧の変化としかならず、また、与圧機構9により変形が吸収されるため、ステージの駆動方向へのドリフトには影響を及ぼさない。
【0047】
従って、本発明によれば、ピエゾ素子残留変形由来のドリフト影響を受けないステージ機構を実現できる。
【0048】
また、超音波モータ13に用いるピエゾ素子は高速に応答する必要があるため、断面積を大きくすることが出来ないが、ピエゾブレーキ15に用いるピエゾ素子は100ミリ秒程度の応答速度を持てば良く、断面積の大きな素子を用いることが出来る。その結果、超音波モータ13を単独で用いる場合と比較して停止剛性を向上することが出来、ステージの振動特性が改善する。本発明を用いることにより具体的には、送り方向の機械共振点が超音波モータ13のみ使用の場合は70Hzであったステージが、ピエゾブレーキ15を使用することにより250Hzまで向上した。また、ステージドリフトはステージ停止1秒後以降に0.5ナノメートル毎秒まで抑制することが出来る。
【0049】
なお、各実施形態においては、移動しないベース側にステージ駆動ユニット8を設け、テーブルを駆動する構成としているが、移動するテーブル側に同様の駆動ユニットを設け、ベースとの間に駆動力を加え、あるいは固定を行うステージ構成も可能である。このような構成によっても上記述べたと同様の効果が期待でき、高性能な電子顕微鏡の実現が可能である。
【0050】
<まとめ>
本発明は、通常の電子顕微鏡におけるステージを固定するためのステージ機構として用いることができるが、高精度な位置決めをすることができることから、特に半導体素子製造分野における検査計測用の電子顕微鏡に用いる試料ステージ機構に用いるのに好適である。
【0051】
本発明によるステージ機構および電子顕微鏡では、ステージの駆動機構において、超音波モータと停止剛性を高める固定機構とを一体化する。すなわち、超音波モータを被駆動体に押し付ける与圧機構に超音波モータと共に固定機構のピエゾ素子をマウントする構造を用い、ステージの加速減速及び位置決めを駆動機構で行った後、固定機構によりステージを固定する際、固定機構のピエゾ素子が伸長し、ステージを押圧すると共に、超音波モータをステージのテーブル(被駆動体)から切り離す。これにより、超音波モータを構成するピエゾ素子の残留変形の影響を被駆動体が受けないので、ドリフトが被駆動体に伝わらないようにすることができる。
【0052】
よって、ステージ停止時におけるドリフトや振動によるノイズを抑え、かつ、位置決め精度が高い試料ステージ機構および電子顕微鏡を提供できる。また、超音波モータ特有のドリフトを抑制することにより、ステージが静止するまでの待ち時間を短縮することが可能となるため、電子顕微鏡のスループットを向上させることができる。
【0053】
なお、超音波モータのみでもステージの加減速に加え位置決め停止が可能であるが、超音波モータのみによるステージ固定では、(1)前述のピエゾ素子の残留変形の問題により、超音波モータ特有のドリフトがステージ駆動方向に生じる、(2)十分な固定剛性が得られない、等の問題を生じる。このため、本実施形態のような構成を採れば、このような問題点を解決することができる。
【0054】
また、本発明とは別に、一般的な固定方法として、超音波モータとは別途にピエゾ素子等を応用した固定機構を設ける方法も考えられる。しかし、超音波モータは、送りストロークにおける面当たりを均一化するためには与圧機構を用いて弾性的に駆動面に押し当てる必要があるため、超音波モータ自体を駆動電圧により変形させて駆動チップを引っ込めても、与圧機構の作用で超音波モータが駆動面に押し付けられているため面から離すことが出来ない。この結果として位置決め後に超音波モータとピエゾブレーキの両方がステージに同時に作用することになり、ピエゾブレーキ15による固定に対し、超音波モータ特有の残留変形由来の力がステージ駆動方向に加わり、ステージの微動が生じる可能性がある。また、相反する力の作用で、駆動チップとテーブルの間に滑りを生じ、発塵や磨耗、面荒れの問題が生じやすい。
【0055】
本発明の第1の実施形態においては、超音波モータと固定機構を並列に与圧機構上に設けることにより、固定機構の作用時に超音波モータを駆動面から離すことができるため、上述のような問題は起こらない。また、本発明の第2の実施形態においても、超音波モータを切り離す機構を固定機構とは別途に設けたことにより、上述のような問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明による一実施形態の電子顕微鏡装置を示す概略構成図である。
【図2】電子顕微鏡装置における一実施形態のステージの概略構成図である。
【図3】(a)は、本発明の第1の実施形態であるステージ駆動ユニットの概略構成図である。(b)は、第1の実施形態による、ステージ駆動時のステージ駆動ユニットの断面図である。(c)は、第1の実施形態による、ステージ固定時のステージ駆動ユニットの断面図である。
【図4】(a)は、本発明の第2の実施形態によるステージ駆動時のステージ駆動ユニットの概略図である。(b)は、第2の実施形態によるステージ固定時のステージ駆動ユニットの概略図である。
【図5】(a)は、第1の実施形態によるステージ制御フローを示す説明図である。(b)は、第2の実施形態によるステージ制御フローを示す説明図である。
【図6】ピエゾ素子の経過時間に対する伸張量の関係の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 荷電粒子光学系
2 試料室
3 ベース
4 Xテーブル
5 Yテーブル
6 チャック機構
7 ウエハ
8 ステージ駆動ユニット
9 与圧機構
10 コイルばね
11 板ばね
12 台座
13 超音波モータ
14 駆動チップ
15 ピエゾブレーキ
16 切り離し機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブルとこのテーブルを載置するためのベース部材とを含むステージと、前記ステージを駆動する駆動ユニットと、を備え、
前記駆動ユニットは、前記テーブルを駆動する超音波モータと、前記テーブルに対して超音波モータを押し付ける与圧機構と、前記テーブルを固定する固定手段と、を有し、
前記固定手段は、前記与圧機構上に、前記超音波モータと一体に移動可能に取り付けられていることを特徴とするステージ機構。
【請求項2】
前記駆動ユニットは少なくとも一対設けられ、これにより前記テーブルを挟みこむ構造をなしていることを特徴とする請求項1に記載のステージ機構。
【請求項3】
前記固定手段は、ピエゾ素子で構成され、
前記与圧機構は、前記ベース部材に固定された位置決め部材と、前記超音波モータと前記固定手段とが取り付けられた台座部材と、前記位置決め部材に前記台座部材を弾性的に支持する弾性部材と、を備え、
前記固定手段は、前記テーブルを押圧して前記テーブルを固定するとともに、前記超音波モータを前記テーブルから切り離すことを特徴とする請求項1又は2に記載のステージ機構。
【請求項4】
前記固定手段は、前記台座部材に固定されていないピエゾ素子の開放端によって前記テーブルを固定し、前記台座部材に固定されているピエゾ素子の固定端によって前記台座部材を押圧することにより前記超音波モータを前記テーブルから切り離すことを特徴とする請求項3に記載のステージ機構。
【請求項5】
テーブルとこのステージを載置するためのベース部材とを含むステージと、前記ステージを駆動する駆動ユニットと、前記テーブルを固定する固定手段と、を備え、
前記駆動ユニットは、テーブルを駆動する超音波モータと、前記テーブルに対して超音波モータを押し付ける与圧機構と、前記超音波モータを前記テーブルから切り離す切り離し手段と、を有することを特徴とするステージ機構。
【請求項6】
前記駆動ユニット及び前記固定手段の組が少なくとも一対設けられ、これにより前記テーブルを挟みこむ構造をなしていることを特徴とする請求項5に記載のステージ機構。
【請求項7】
前記固定手段は、ピエゾ素子で構成され、前記ベース部材に固定されており、
前記与圧機構は、前記ベース部材に固定され、前記切り離し手段が取り付けられた位置決め部材と、前記超音波モータが取り付けられた台座部材と、前記位置決め部材に前記台座部材を弾性的に支持する弾性部材と、を備え、
前記固定手段は、前記テーブルを押圧して前記テーブルを固定し、
前記切り離し手段は、前記固定手段が前記テーブルに作用した後、前記超音波モータを前記テーブルから切り離すことを特徴とする請求項5又は6に記載のステージ機構。
【請求項8】
前記切り離し段は、ピエゾ素子で構成されていることを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載のステージ機構。
【請求項9】
前記ステージは、2次元平面上のX方向に移動可能なXテーブルと、Y方向に移動可能なYテーブルと、を有し、
前記駆動ユニットが、複数個設けられ、少なくとも1つは前記Xテーブルを駆動させ、少なくとも1つは前記Yテーブルを駆動させて、前記ステージを2次元移動できるようにしたことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のステージ機構。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載のステージ機構を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項11】
制御部が、超音波モータによるステージの加減速、位置決め、ピエゾ素子を用いたステージ固定機構による前記ステージの固定動作を制御する、ステージ機構の位置決め制御方法であって、
前記制御部は、前記ステージが位置決め目標位置に停止した後、前記ステージ固定機構を作用させ、前記超音波モータを駆動対象から切り離すことを特徴とするステージ機構の位置決め制御方法。
【請求項12】
制御部が、超音波モータによるステージの加減速、位置決め、ピエゾ素子を用いたステージ固定機構による前記ステージの固定動作を制御する、ステージ機構の位置決め制御方法であって、
前記制御部は、前記ステージが位置決め目標位置に停止した後、前記ステージ固定機構と別に設けられたモータ切り離し手段を作用させ、前記超音波モータを駆動対象から切り離すことを特徴とするステージ機構の位置決め制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−218163(P2008−218163A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53271(P2007−53271)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】