説明

スパッタリングターゲット、透明導電性酸化物、およびスパッタリングターゲットの製造方法

【課題】スパッタリング法により透明導電性酸化物を成膜する際のノジュールの発生を抑制し、安定にスパッタリングを行うことのできるターゲット、このようなターゲットからなる透明導電性酸化物、およびこのようなターゲットの製造方法を提供する。
【解決手段】In/(In+Zn)で表わされる原子比が、0.75〜0.97の範囲であるとともに、In23 (ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下の値であるスパッタリングターゲットから成膜してなる透明導電性酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット(以下、単に、ターゲットと称する場合がある。)、スパッタリングターゲットからなる透明導電性酸化物、およびスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
特に、スパッタリング法を用いて透明導電性酸化物を成膜する際に発生するノジュールを抑制し、安定にスパッタリングを行うことのできるターゲット、そのようなターゲットからなる透明導電性酸化物、およびそのようなターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置の発展はめざましく、液晶表示装置(LCD)や、エレクトロルミネッセンス表示装置(EL)、あるいはフィールドエミッションディスプレイ(FED)などが、パーソナルコンピュータや、ワードプロセッサなどの事務機器や、工場における制御システム用の表示装置として使用されている。そして、これら表示装置は、いずれも表示素子を透明導電性酸化物により挟み込んだサンドイッチ構造を備えている。
このような透明導電性酸化物としては、文献1:「透明導電膜の技術」((株)オーム社出版、日本学術振興会、透明酸化物・光電子材料第166委員会編、1999)に開示されているように、スパッタリング法、イオンプレーティング法、あるいは蒸着法によって成膜されるインジウム錫酸化物(以下、ITOと略称することがある)が主流を占めている。
かかるITOは、所定量の酸化インジウムと、酸化錫とからなり、透明性や導電性に優れるほか、強酸によるエッチング加工が可能であり、さらに基板との密着性にも優れているという特徴がある。
一方、特開平3−50148号、特開平5−155651号、特開平5−70943号、特開平6−234565号等に開示されているように、所定量の酸化インジウムと、酸化錫と、酸化亜鉛とからなるターゲットや、かかるターゲットから成膜されてなる透明電極(以下、IZOと略称することがある。)が知られており、弱酸によるエッチング加工が可能であり、また、焼結性や透明性が良好なことから広く使用されている。
このように、ITOやIZOは、透明導電性酸化物の材料として優れた性能を有するものの、ターゲットを用いてスパッタリング法により成膜する際に、第2図(写真)に示されるようなノジュール(突起物)がターゲット表面に発生しやすいという問題が見られた。
特に、エッチング性の改良を目的としたアモルファスITO膜の成膜に際しては、そのスパッタリングチャンバー内に微量の水や水素ガスを導入するために、ターゲット表面が還元されてノジュールがさらに発生しやすいという問題が見られた。
そして、かかるノジュールがターゲット表面に発生すると、スパッタリング中のプラズマのパワーによってノジュールが飛散しやすくなり、このため飛散物が成膜中または成膜直後の透明導電性酸化物に異物として付着するという問題が見られた。
また、このターゲット表面に発生したノジュールは、異常放電の原因の一つにもなっていた。
そこで、ターゲットにおけるノジュールの発生を抑制する方策として、特開平8−283934号に開示されているように、高温焼結による高密度化により細孔を減らす努力がなされている。すなわち、理論相対密度において99%のターゲットが製造されているが、この場合においてもノジュール発生を完全に無くするまでには至っていない。
このような状況から、スパッタリングによる成膜時のノジュール発生を抑制して、安定にスパッタリングを行うことのできるターゲットの開発が望まれていた。
そこで、本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意検討を重ねた結果、基本的に、ターゲット表面に発生するノジュールは、スパッタ時の掘れ残りであり、この掘れ残りが生ずる原因は、ターゲットを構成する金属酸化物の結晶粒径の大きさ(例えば、10μm以上)に依存していることを見出したものである。
つまり、スパッタによってターゲットの表面から削られる場合、結晶面の方向により、その削られる速度が異なり、ターゲット表面に凹凸が発生することになる。そして、この凹凸の大きさは、焼結体中に存在する金属酸化物の結晶粒径に依存していることが確認されている。
したがって、大きな結晶粒径を有する焼結体からなるターゲットを用いた場合、ターゲット表面に発生する凹凸がしだいに大きくなり、その凹凸の凸部分よりノジュールが発生すると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
すなわち、本発明は、スパッタリング法により透明導電性酸化物を成膜する際のノジュールの発生を抑制し、安定にスパッタリングを行うことのできるターゲット、このようなターゲットからなる透明導電性酸化物、およびこのようなターゲットの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
[1] 本発明によれば、少なくとも酸化インジウムおよび酸化亜鉛を含有してなるスパッタリングターゲットにおいて、In/(In+Zn)で表わされる原子比を0.75〜0.97の範囲内の値とするとともに、In23(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径を5μm以下の値としたスパッタリングターゲットが提供され、上述した問題を解決することができる。
すなわち、結晶粒径の大きさを所定範囲に制限することにより、ターゲット表面に発生する凹凸の大きさを制御し、結果として、ノジュール発生を効果的に抑制することができる。
【0005】
[2] また、本発明のスパッタリングターゲットを構成するにあたり、酸化インジウムを67〜93重量%の範囲、酸化錫を5〜25重量%の範囲、および酸化亜鉛を2〜8重量%の範囲で含むとともに、錫/亜鉛の原子比を1以上の値とすることが好ましい。
このように構成すると、ターゲットが緻密となり、ノジュール発生をより効果的に抑制することができる。
また、このように錫/亜鉛の原子比を1以上の値とすることにより、結晶化後の電気抵抗を効果的に低下させ、導電性に優れた透明導電性酸化物を得ることができる。
【0006】
[3] また、本発明のスパッタリングターゲットを構成するにあたり、六方晶層状化合物のかわりに、あるいは六方晶層状化合物とともに、Zn2SnO4で表されるスピネル構造化合物を含有し、該スピネル構造化合物の結晶粒径を5μm以下の値とすることが好ましい。
このように構成すると、ターゲットが緻密となり、ノジュール発生をより効果的に抑制することができる。
また、このように構成すると、スパッタリング法を用いて、透明性や導電性に優れた透明導電性酸化物を得ることができる。
【0007】
[4] また、本発明のスパッタリングターゲットを構成するにあたり、バルク抵抗を1×10-3Ω・cm未満の値とすることが好ましい。
このように構成すると、スパッタリング中の異常放電(スパーク)が減少し、安定してスパッタ膜を得ることができる。逆に、バルク抵抗が1×10-3Ω・cm以上の値となると、ターゲット表面に電荷(チャージ)が蓄積し、異常放電が生じやすくなるためである。
【0008】
[5] また、本発明のスパッタリングターゲットを構成するにあたり、密度を6.7g/cm3以上の値とすることが好ましい。
このように構成すると、優れた機械的特性が得られるとともに、ターゲットが緻密となり、ノジュール発生をより効果的に抑制することができる。
【0009】
[6] また、本発明の別の態様は、In/(In+Zn)で表わされる原子比が、0.75〜0.97の範囲であるとともに、In23 (ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下の値であるスパッタリングターゲットから成膜してなる透明導電性酸化物(非晶質透明導電性酸化物)である。
このように構成すると、透明性や導電性に優れた非晶質透明導電性酸化物を効果的に得ることができる。
【0010】
[7] また、本発明の透明導電性酸化物を構成するにあたり、スパッタリングターゲットが、酸化インジウムを67〜93重量%の範囲、酸化錫を5〜25重量%の範囲、および酸化亜鉛を2〜8重量%の範囲で含むとともに、錫/亜鉛の原子比が1以上の値であることが好ましい。
このように構成すると、透明性や導電性に優れた非晶質透明導電性酸化物を効果的に得ることができる。
【0011】
[8] また、本発明の透明導電性酸化物を、230℃以上の温度で結晶化してあることが好ましい。
このように構成すると、さらに透明性や導電性に優れた透明導電性酸化物を効果的に得ることができる。
また、このような温度であれば、基材上に形成した場合であっても、基材を損傷するおそれが少なくなる。
【0012】
[9] また、本発明の透明導電性酸化物を構成するにあたり、X線光電子分光法(XPS)で測定される酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅を3eV以下の値とすることが好ましい。
このように構成すると、透明性や導電性に優れた透明導電性酸化物を効果的に得ることができる。
【0013】
[10] また、本発明の透明導電性酸化物を構成するにあたり、基材上、または該基材上に設けた着色層上に形成してあることが好ましい。
このように構成すると、透明電極や、カラーフィルタ付き透明電極等を効果的に提供することができる。
【0014】
[11] また、本発明の透明導電性酸化物を構成するにあたり、JIS B0601に準拠して測定されるP−V値を1μm以下の値とすることが好ましい。
このように構成すると、透明電極や、カラーフィルタ付き透明電極等に使用した場合に、断線やショートの発生を有効に防止することができる。
【0015】
[12] また、本発明の別の態様は、In23(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下の値であるスパッタリングターゲットの製造方法において、下記(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法である(以下、第1の製造方法)。
(1)酸化インジウム粉末と、平均粒径が2μm以下の酸化亜鉛粉末とを配合する工程
(2)In/(In+Zn)で表わされる原子比が、0.75〜0.97の範囲である成形体を形成する工程
(3)成形体を、1,400℃以上の温度で焼結する工程
【0016】
このように実施すると、スパッタリング法により透明導電性酸化物を成膜する際のノジュールの発生を抑制し、安定にスパッタリングを行うことのできるターゲットを効果的に提供することができる。
【0017】
[13] また、本発明のスパッタリングターゲットの第1の製造方法を実施するにあたり、前記工程(1)で、67〜93重量%の酸化インジウム粉末と、5〜25重量%の酸化錫粉末と、2〜8重量%の酸化亜鉛粉末とを配合するとともに、前記工程(2)で、錫/亜鉛の原子比を1以上の成形体を形成することが好ましい。
このように実施すると、スパッタリング法により透明導電性酸化物を成膜する際のノジュールの発生を抑制し、安定にスパッタリングを行うことのできるターゲットを効果的に提供することができる。
【0018】
[14] また、本発明の別の製造方法の態様は、In23(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下の値であるスパッタリングターゲットの製造方法において、下記(1)〜(5)の工程を含むことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法である(以下、第2の製造方法)。
(1)In23(ZnO)(ここで、mは2〜20の整数である。)で表わされる六方晶層状化合物を生成する工程
(2)生成した六方晶層状化合物を粒径が5μm以下に調整する工程
(3)粒径が調整された六方晶層状化合物と、酸化インジウム粉末とを混合する工程
(4)In/(In+Zn)で表わされる原子比が、0.75〜0.97の範囲である成形体を形成する工程
(5)成形体を、1,400℃以上の温度で焼結する工程
【0019】
このように実施すると、予め粒径が制御された六方晶層状化合物を使用することができるため、ターゲット中での平均粒径の制御がさらに容易となる。
【0020】
[15] また、本発明の第1および第2の製造方法を実施するにあたり、焼結する工程を、酸素ガス雰囲気または酸素ガス加圧下に、実施することが好ましい。
このように実施すると、ノジュールの発生をさらに抑制し、安定にスパッタリングを行うことのできるターゲットを効果的に提供することができる。
【0021】
[16] また、本発明の第1および第2の製造方法を実施するにあたり、酸化インジウム粉末の平均粒径を0.1〜2μmの範囲内の値とすることが好ましい。
このように実施すると、六方晶層状化合物の結晶粒径が所定範囲に制御されたターゲットをより効果的に提供することができる。
【0022】
[17] また、本発明の第1および第2の製造方法を実施するにあたり、酸化インジウム粉末とともに、酸化錫粉末をさらに配合するとともに、当該酸化錫粉末の平均粒径を0.01〜1μmの範囲内の値とすることが好ましい。
このように実施すると、六方晶層状化合物およびスピネル構造化合物の結晶粒径が所定範囲に制御されたターゲットをより効果的に提供することができる。
【0023】
[18] また、本発明の第1および第2の製造方法を実施するにあたり、成形体を形成する際に、粒径が5μm以下に調整されたスピネル化合物をさらに配合することが好ましい。
このように実施すると、予め粒径が制御されたスピネル化合物を使用することができるため、ターゲット中での平均粒径の制御がさらに容易となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のスパッタリングターゲットによれば、結晶粒径の大きさを所定以上の値に制御することにより、透明導電性酸化物をスパッタリングにより成膜する際のノジュールの発生を効果的に抑制することができ、安定して、長時間スパッタリングを行うことができるようになった。
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、スパッタリングにより透明導電性酸化物を成膜する際のノジュールの発生を抑制することができるターゲットを効果的に提供することができるようになった。
また、本発明の透明導電性酸化物によれば、優れた導電性や透明性が得られるとともに、平滑な表面特性が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1図は、第1の実施形態のターゲット(スパッタリング後)における表面写真である。
【図2】第2図は、従来のターゲット(スパッタリング後)の表面写真である。
【図3】第3図は、第1の実施形態のターゲット(スパッタリング後)における結晶粒径と、ノジュール数との関係を示す図である。
【図4】第4図は、第2の実施形態のターゲット(スパッタリング後)における結晶粒径と、ノジュール数との関係を示す図である。
【図5】第5図は、六方晶層状化合物を含有するターゲットにおけるX線回折チャートである。
【図6】第6図は、スピネル構造化合物を含有するターゲットにおけるX線回折チャートである。
【図7】第7図は、透明導電性酸化物の抵抗安定率を示す図である。
【図8】第8図は、透明導電性酸化物の光透過率曲線を示す図である。
【図9】第9図は、透明導電性酸化物の屈折率曲線を示す図である。
【図10】第10図は、透明導電性酸化物を作成する際の熱処理温度の影響を示す図である。
【図11】第11図は、カラーフィルタの製造工程図である。
【図12】第12図は、透明導電性酸化物の酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークを示す図である(その1)。
【図13】第13図は、透明導電性酸化物の酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークを示す図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を適宜参照して、本発明(第1〜第6の発明)に関する実施の形態1〜8について具体的に説明する。
なお、参照する図面は、この発明が理解できる程度に各構成成分の大きさ、形状および配置関係を概略的に示してあるに過ぎない。したがって、この発明は図示例にのみ限定されるものではない。また、図面では、断面を表すハッチングを省略する場合がある。
【0027】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、第1の発明に関する実施形態であり、少なくとも酸化インジウムおよび酸化亜鉛を含有してなるスパッタリングターゲットにおいて、In/(In+Zn)で表わされる原子比を0.75〜0.97の範囲内の値とするとともに、In23(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径を5μm以下の値としたスパッタリングターゲットである。
【0028】
(1)組成比
第1の実施形態では、ターゲットの構成成分である各金属酸化物の組成に関しては、In/(In+Zn)で表わされる原子比を0.75〜0.97の範囲内の値とする必要がある。
この理由は、かかるIn/(In+Zn)で表わされる原子比が、0.75未満となると、スパッタリング法により得られる透明導電性酸化物の導電性が低下する場合があるためである。一方、In/(In+Zn)で表わされる原子比が、0.97を超えると、In含有量が多くなり、スパッタリング時にノジュールが発生しやすくなるためである。
したがって、得られる透明導電性酸化物の導電性と、ノジュールの発生防止とのバランスがより良好となることから、In/(In+Zn)で表わされる原子比を0.80〜0.95の範囲内の値とすることがより好ましく、0.85〜0.95の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0029】
(2)結晶構造1
また、第1の実施形態では、ターゲットの構成成分のうち、酸化インジウムと酸化亜鉛とが、一般式In23(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である)で表される六方晶層状化合物として含まれていることを特徴としている。
ここで、酸化インジウムや酸化亜鉛を混合物として単に存在させるのではなく、六方晶層状化合物の結晶形態(結晶粒径5μm以下)で含有させる理由は、ターゲットを緻密にしたり、ターゲットの密度を向上させることができ、また、得られる透明導電性酸化物の導電性が向上するためである。
また、酸化インジウムや酸化亜鉛を六方晶層状化合物の結晶形態で含有させることにより、酸化インジウムの結晶成長を抑制することもでき、結果として、スパッタリングを行う際に、ノジュールの発生が抑制され、安定性よくスパッタリングを行うことができるようになる。
なお、In23(ZnO)で表される六方晶層状化合物の存在は、結晶構造のX線回折分析によって確かめられる。例えば、第5図(a)〜(d)に示されるX線回折分析チャートおよびそのピークチャートが得られば、In23(ZnO)で表される六方晶層状化合物の存在を認めることができる。
【0030】
(3)結晶構造2
(i)結晶粒径
また、第1の実施形態では、ターゲット中の六方晶層状化合物の結晶粒径を5μm以下の値とする必要がある。
この理由は、かかる結晶粒径が5μmを超えると、スパッタリングを行う際に、ノジュールが著しく発生しやすくなるためである。
ただし、かかる結晶粒径が過度に小さくなると、制御が困難となったり、使用可能な原材料の種類が過度に制限される場合がある。
したがって、ターゲット中の六方晶層状化合物の結晶粒径を0.1〜4μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜3μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0031】
(ii)結晶粒径の大きさと、ノジュールの発生数との関係
ここで、第3図を参照して、六方晶層状化合物の結晶粒径の大きさと、ノジュールの発生数との関係をより詳細に説明する。
第3図の横軸には、六方晶層状化合物の結晶粒径の大きさ(μm)を採って示してあり、縦軸には、単位面積および単位スパッタリング時間あたりに発生したノジュール数(個/8Hrs/900mm2)を採って示してある。
この第3図から容易に理解できるように、六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下であれば、発生したノジュール数が0個/8Hrs/900mm2であるのに対して、六方晶層状化合物の結晶粒径が5μmをこえると、ノジュールの発生数が急激に増加し、8〜32個/8Hrs/900mm2のノジュールが発生している。
逆に言えば、この第3図から、ノジュールの発生を効果的に防止するためには、六方晶層状化合物の結晶粒径を5μm以下とすることが有効であり、結晶粒径を4μm以下とすることによりさらに確実にノジュールの発生数を防止できることが理解できる。
【0032】
(iii)結晶粒径の測定方法
また、六方晶層状化合物の結晶粒径は、電子線マイクロアナライザー(以下、EPMAと称する場合がある。)を用いて測定することができる。
より具体的には、ターゲット表面を平滑に研磨した後に、顕微鏡を用い、ターゲット表面を5,000倍に拡大した状態で、任意位置において30μm×30μmの枠内を設定し、その枠内で観察される六方晶層状化合物における結晶粒子についての最大径を、EPMAを用いて測定する。そして、少なくとも3箇所の枠内で結晶粒子の最大径を測定するとともに平均値を算出し、六方晶層状化合物の結晶粒径とすることができる。
なお、この六方晶層状化合物の結晶粒径は、EPMAによる亜鉛のマッピング(濃度分布)により、容易に識別することができ、それによって、結晶粒径を実測できるものである。
【0033】
(iv)結晶粒径の制御
また、六方晶層状化合物の結晶粒径は、ターゲットを構成する原料粉末の種類の選択、原料粉末の平均粒径、ターゲットの製造条件等を適宜変更することにより、所定範囲に制御することができる。
例えば、原料粉末の種類および平均粒径に関しては、ターゲットを作製する際に使用する酸化亜鉛粉末の平均粒径を2μm以下の値とすれば良い。
この理由は、酸化亜鉛粉末の平均粒径が2μmを超えると、酸化インジウムに対して、酸化亜鉛が拡散移動しやすくなり、結果として、形成される六方晶層状化合物の結晶粒径の制御が困難となるためである。逆に言えば、酸化亜鉛粉末の平均粒径が2μm以下であれば、酸化インジウムが、酸化亜鉛に対して拡散移動しやすくなり、六方晶層状化合物の結晶粒径の大きさを5μm以下の値に制御することができる。
ただし、酸化亜鉛粉末の平均粒径が過度に小さくなると、取り扱いが困難となったり、混合粉砕処理を厳格に行う必要が生じ、コストが高くなる場合がある。
したがって、酸化亜鉛粉末の平均粒径を0.1〜1.8μmの範囲内の値とすることが好ましく、0.3〜1.5μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜1.2μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
一方、酸化インジウム粉末の平均粒径についても、酸化亜鉛粉末の平均粒径と実質的に同等の大きさとすることが好ましい。
したがって、ターゲットを作製する際に使用する酸化インジウム粉末の平均粒径を2μm以下の値とすることが好ましく、0.1〜1.8μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.3〜1.5μmの範囲内の値とすることがさらにより好ましく、0.5〜1.2μmの範囲内の値とすることが最も好ましい。
【0034】
(4)バルク抵抗
また、ターゲットのバルク抵抗を、1×10-3Ω・cm未満の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるバルク抵抗が1×10-3Ω・cm以上の値となると、スパッタリング中の異常放電が発生する様になり、結果としてターゲット表面にノジュールが発生する場合があるためである。
ただし、かかるバルク抵抗が0.5×10-3Ω・cm未満の値となると、得られる膜質が結晶質になる場合がある。
したがって、ターゲットのバルク抵抗を、0.5×10-3〜0.9×10-3Ω・cmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.6×10-3〜0.8×10-3Ω・cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0035】
(5)密度
また、ターゲットの密度を6.7g/cm3 以上の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる密度が6.7g/cm3未満の値となると、ノジュールの発生が多くなったりする場合があるためである。
ただし、かかる密度が7.1g/cm3を超えると、ターゲット自体が金属質になり、スパッタの安定性が得られず、結果として、導電性や透明性に優れた膜が得られなくなる場合がある。
したがって、ターゲットの密度を、6.8〜7.0g/cm3の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0036】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第2の発明に関する実施形態であり、第1の実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、さらに、酸化インジウムを67〜93重量%の範囲、酸化錫を5〜25重量%の範囲、および酸化亜鉛を2〜8重量%の範囲で含むとともに、錫/亜鉛の原子比を1以上の値としたスパッタリングターゲットである。
【0037】
(1)組成比
(i)酸化インジウム
第2の実施形態では、ターゲットの構成成分である各金属酸化物の組成に関し、酸化インジウムの含有割合を67〜93重量%の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる酸化インジウムの含有割合が67重量%未満となると、熱処理による結晶化が困難となり、得られる透明導電性酸化物の導電性が低下する場合があるためである。一方、酸化インジウムの含有割合が93重量%を超えると、逆に容易に結晶化して、スパッタリング直後の膜質が結晶性になる場合があるためである。
したがって、透明導電性酸化物の導電性と結晶性のバランスがより優れたものとなることから、酸化インジウムの含有割合を80〜93重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、74〜93重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0038】
(ii)酸化錫
また、ターゲットにおける酸化錫の含有割合を5〜25重量%の範囲内の値とする。
この理由は、酸化錫の含有割合が5重量%未満となると、熱処理して結晶化が進んでも導電性が向上しない一方、得られる透明導電性酸化物の導電性が逆に低下する場合があるためである。
一方、酸化錫の含有割合が25重量%を超えると、熱処理によっても透明導電膜が結晶化せず導電性が低下したり、スパッタリング中にノジュールが発生しやすくなる場合があるためである。
したがって、透明導電性酸化物の結晶性と、導電性及びノジュールの発生防止とのバランスがより優れたものとなることから、酸化錫の含有割合を5〜20重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、7〜15重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0039】
(iii)酸化亜鉛
また、ターゲットにおける酸化亜鉛の含有割合を2〜8重量%の範囲内の値とする。
この理由は、酸化亜鉛の含有割合が2重量%未満となると、スパッタリング中に得られる透明導電性酸化物が容易に結晶化したり、ターゲットの結晶粒径が大きくなって、スパッタリング中にノジュールが発生しやすくなる場合があるためである。
一方、酸化錫の含有割合が8重量%を超えると、熱処理によっても透明導電性酸化物が結晶化しない場合があり、結果として、透明導電性酸化物の導電性が向上しない場合があるためである。また、酸化錫の含有割合が8重量%を超えると、ターゲットのバルク抵抗が1×10-3Ω・cmを超える場合があり、安定したスパッタが得られなくなる場合があるためである。
したがって、得られる透明導電性酸化物の導電性や、ターゲットのバルク抵抗と、ノジュールの発生防止とのバランスがより優れたものとなることから、酸化亜鉛の含有割合を2〜6重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、3〜5重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0040】
(iv)錫/亜鉛
また、錫の全金属原子に対する原子比が亜鉛の全金属原子に対する原子比と同等またはそれ以上の値とすることが好ましく、具体的に、錫/亜鉛の原子比率を1以上の値とすることが好ましい。
この理由は、錫/亜鉛の原子比率が1未満の値となると、加熱処理によっても、錫の拡散移動が少なくなり、いわゆるドーピング効果が小さくなって、得られる透明導電性酸化物の導電性が低下する場合があるためである。
ただし、かかる錫/亜鉛の原子比率が過度に大きくなると、未反応の錫がイオン性不純物として残り、いわゆるイオン性不純物散乱によって、導電性が低下する場合がある。
したがって、錫/亜鉛の原子比率を2〜10の範囲内の値とすることがより好ましく、3〜5の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0041】
(v)錫原子および亜鉛原子の重量百分率比
また、錫原子の全金属原子に対する重量百分率(Sn/(In+Sn+Zn)×100)の値が、亜鉛原子の全金属原子に対する重量百分率(Zn/(In+Sn+Zn)×100)の値よりも、少なくとも3%大きいことが好ましい。
この理由は、かかる重量百分率(%)の差を3%よりも大きくすることにより、加熱処理による錫のドーピング効果を効率的に引き出すことができるためである。したがって、得られる透明導電性酸化物の導電性を有効に向上させることができる。
ただし、かかる重量百分率(%)の差が過度に大きくなると、上述したイオン性不純物散乱により導電性が低下する場合がある。
したがって、かかる錫原子および亜鉛原子の重量百分率比を、4〜30%の範囲内の値とすることがより好ましく、5〜20%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0042】
(2)結晶構造1
第2の実施形態のターゲットにおいても、第1の実施形態と同様に、酸化インジウムと酸化亜鉛とが、一般式In23(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物として含まれていることが好ましい。
【0043】
(3)結晶構造2
(i)スピネル構造化合物
また、第2の実施形態の結晶構造に関し、ターゲット中、六方晶層状化合物のかわりに、あるいは六方晶層状化合物とともに、Zn2SnO4で表されるスピネル構造化合物を含有し、かつ、該スピネル構造化合物の結晶粒径を5μm以下の値とすることを特徴とする。
この理由は、酸化錫と酸化亜鉛を、Zn2SnO4で表されるスピネル構造化合物の結晶の形態で存在させることによって、ターゲットの密度を高め、かつ導電性の向上を図ることができるためである。したがって、このようなターゲットを用いることにより、スパッタリングを行う際の安定性をさらに高めることができる。
また、これら六方晶層状化合物やスピネル構造化合物を含むことにより、結果として、酸化インジウムの結晶の成長が抑制されるため、スパッタリングターゲット全体がより微細で、緻密な結晶組織となる。よって、得られる透明導電性酸化物の導電性を向上させることも可能となる。
【0044】
(ii)X線回折分析
また、かかるZn2SnO4で表されるスピネル構造化合物の存在は、結晶構造のX線回折分析によって確かめられる。
例えば、第6図(a)〜(d)に示されるX線回折分析チャートおよびそのピークチャートが得られれば、Zn2SnO4で表されるスピネル構造化合物の存在を認めることができる。
【0045】
(iii)結晶粒径
スピネル構造化合物の結晶粒径を5μm以下の値とすることが好ましい。この理由は、かかる結晶粒径が5μmを超えると、スパッタリングの際に、ノジュールが著しく発生しやすくなるためである。
ただし、かかる結晶粒径が過度に小さくなると、制御が困難となったり、使用可能な原材料の種類が過度に制限される場合がある。
したがって、ターゲット中のスピネル構造化合物の結晶粒径を0.1〜4μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜3μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、スピネル構造化合物の結晶粒径についても、第1の実施形態で説明したように、六方晶層状化合物と同様に、EPMAによる亜鉛のマッピング(濃度分布)により、容易に識別することができ、それによって、結晶粒径を実測することができる。
【0046】
(iv)結晶粒径の大きさとノジュールの発生数との関係
ここで、第4図を参照して、スピネル構造化合物および六方晶層状化合物の結晶粒径の大きさと、ノジュールの発生数との関係をより詳細に説明する。
第4図の横軸には、スピネル構造化合物および六方晶層状化合物が並存する状態での結晶粒径の大きさ(μm)を採って示してあり、縦軸には、単位面積および単位スパッタリング時間あたりに発生したノジュール数(個/8Hrs/900mm2)を採って示してある。
この第4図から容易に理解できるように、スピネル構造化合物および六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下であれば、ノジュールの発生数が0個/8Hrs/900mm2であるのに対して、スピネル構造化合物および六方晶層状化合物の結晶粒径が5μmをこえると、発生するノジュール数が急激に増加し、5〜32個/8Hrs/900mm2のノジュールが発生している。
逆に言えば、この第4図から、ノジュールの発生数を効果的に防止するためには、スピネル構造化合物および六方晶層状化合物の結晶粒径を5μm以下とすることが有効であり、かかる結晶粒径を4μm以下とすることによりさらに確実にノジュールの発生を防止できることが理解できる。
【0047】
(v)結晶粒径の制御
また、スピネル構造化合物の結晶粒径は、ターゲットを構成する原料粉末の種類の選択、原料粉末の平均粒径、ターゲットの製造条件等を適宜変更することにより、所定範囲に制御することができる。
例えば、原料粉末の種類および平均粒径に関しては、ターゲットを作製する際に使用する酸化亜鉛粉末の平均粒径を2μm以下の値とするとともに、酸化錫粉末の平均粒径を0.01〜1μmの範囲内の値とし、かつ、酸化錫粉末の平均粒径を酸化亜鉛粉末の平均粒径よりもさらに小さくすることが好ましい。
この理由は、酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末の平均粒径をこのような範囲にそれぞれ制限することにより、拡散移動を制御することができ、ターゲット中の六方晶層状化合物や、スピネル化合物の結晶粒径の制御(5μm以下)が容易となるためである。
したがって、酸化錫粉末の平均粒径を0.02〜0.5μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.03〜0.3μmの範囲内の値とすることがさらに好ましく、0.05〜0.2μmの範囲内の値とすることが最も好ましい。また、あらかじめ六方晶層状化合物や、スピネル化合物を生成せしめ、上記所望の粒径にした後、酸化インジウム粉末と混合せしめ、所望のターゲットをえることができる。
【0048】
(4)バルク抵抗や密度
第1の実施形態で説明したように、第2の実施形態においても、ターゲットのバルク抵抗を、1×10-3Ω・cm未満の値とすることが好ましく、さらにターゲットの密度を6.7g/cm3 以上の値とすることが好ましい。
【0049】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、第3の発明に関する実施形態であり、In/(In+Zn)で表わされる原子比が、0.75〜0.97の範囲であるとともに、In23(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下の値であるスパッタリングターゲットを用いて得られる透明導電性酸化物である。
【0050】
(1)ターゲット
第3の実施形態において、使用するターゲットとしては、第1の実施形態と同様の内容である。したがって、In/(In+Zn)で表わされる原子比が0.75〜0.97の範囲のターゲットであり、より好ましくは、0.80〜0.95の範囲のターゲットであり、さらに好ましくは、0.85〜0.95の範囲のターゲットである。
【0051】
(2)膜厚
また、透明導電性酸化物の膜厚は、用途や透明導電性酸化物が設けられる基材の材質等に応じて適宜選択可能であるが、通常、3〜3,000nmの範囲内であることが好ましい。
この理由は、かかる膜厚が3nm未満では、透明導電性酸化物の導電性が不十分となり易く、一方、3,000nmを超えると光透過性が低下したり、透明導電性酸化物材料を製造する過程や製造後に、この透明導電性酸化物材料を変形させたときに、透明導電性酸化物にクラック等が生じ易くなる場合があるためである。
したがって、透明導電性酸化物の膜厚を、5〜1,000nmの範囲内の値とすることが好ましく、10〜800nmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、第7図および第8図に、透明導電性酸化物の抵抗変化率や、光線透過率曲線に対する膜厚の影響を示す。
第7図によれば、透明導電性酸化物(基板PET)の膜厚を68nm(曲線A)、100nm(曲線B)、および200nm(曲線C)に変えた場合であっても、90℃、1,000時間加熱試験において、抵抗変化率にほとんど差が無いことが理解される。
また、第8図によれば、IZOの膜厚を100nm(曲線B)、220nm(曲線C)、および310nm(曲線D)に変えた場合には、膜厚が厚くなると、各波長での光線透過率が若干低下する傾向が見られた。
【0052】
(3)基材
また、ターゲットを用いて透明導電性酸化物を成膜する際には、基板上に形成することが好ましい。
このような基材としては、ガラス基材や透明樹脂製のフィルムまたはシート基材が好適である。
より具体的に、ガラス基材としては、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、硼硅酸ガラス、高硅酸ガラス、無アルカリガラスなどから製造されたガラス板が挙げられる。
これらのガラス板の中でも、無アルカリガラス板が、透明導電性酸化物中へのアルカリイオンの拡散が起こらないことからより好ましい。
また、透明樹脂としては、十分に高い光線透過率を有し、かつ電気絶縁性に優れた樹脂が好ましく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、マレイミド樹脂などが挙げられる。
これらの透明樹脂中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂またはポリエーテルスルホン樹脂が、耐熱性をも兼ね備えていることからより好適に用いられる。
【0053】
(4)熱処理
また、第3の実施形態の透明導電性酸化物においては、成膜後に、さらに熱処理(結晶化処理を含む。)することによって、導電性を高めることができる。
このような熱処理条件としては、180〜300℃の温度範囲、好ましくは200〜250℃の温度範囲において、処理時間を0.5〜3時間の範囲内の値とすることが好ましい。
このような熱処理条件であれば、成膜直後の透明導電性酸化物の比抵抗を、例えば、20〜80%の割合で低下できることが判明している。
【0054】
(5)比抵抗
透明導電性酸化物の比抵抗を、800μΩ・cm以下の値とすることが好ましい。
かかる比抵抗が、800μΩ・cmを超えると、使用可能な用途が過度に狭くなる場合があるためである。
したがって、透明導電性酸化物の比抵抗を、600μΩ・cm以下の値とすることがより好ましく、300μΩ・cm以下の値とすることがさらに好ましい。
【0055】
(6)光線透過率
透明導電性酸化物は、一例として、100nmの厚さにおいて、第8図の曲線B(IZO/7059ガラス)に示すされるように、光線透過率(波長500nmまたは550nm)が75%以上の値であることが好ましく、80%以上の値であることがより好ましい。
このような光線透過率であれば、高い透明性と導電性とが要求される液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子などの各種表示装置の透明電極に好適に用いることができる。
なお、第8図の曲線Aは、ガラス基板(7059ガラス)そのものの透過率曲線であり、曲線Cは、ガラス基板上に、厚さ220nmの第3の実施形態のIZO膜を形成した例であり、曲線Dは、ガラス基板上に、厚さ310nmの第3の実施形態のIZO膜を形成した例であり、曲線Eは、ガラス基板上に、厚さ220nmのITO膜を形成した例である。
【0056】
(7)屈折率
透明導電性酸化物の屈折率(波長500nm)を、一例として、90nmの厚さにおいて、第9図の曲線B(IZO/7059ガラス)に示されるように、2.5以下の値とすることが好ましい。
このような低屈折率であれば、高い透明性や、反射防止性が要求される液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子などの各種表示装置の透明電極に好適に用いることができる。
なお、第9図の曲線Aは、ガラス基板(7059ガラス)上に、厚さ30nmの第3の実施形態のIZO膜を形成した例である。
【0057】
(8)表面粗さ(P−V値)
透明導電性酸化物の表面粗さとしての指標として、P−V値(JIS B0601準拠)を、1μm以下の値とすることが好ましい。
このようなP−V値であれば、液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子などの各種表示装置の透明電極に用いた場合であっても、断線やショートの発生を有効に防止することができる。
なお、他の表面粗さとしての指標で表した場合、Ra(JIS B0601準拠)であれば、100nm以下の値とすることが好ましく、Rz(JIS B0601準拠)であれば、500nm以下の値とすることが好ましい。
【0058】
(9)成膜方法
また、透明導電性酸化物を基材上に成膜するにあたっては、マグネトロンスパッタリング装置、エレクトロンビーム装置、イオンプレーティング装置、レーザーアブレーション装置等を用いることができるが、マグネトロンスパッタリング装置を用いることがより好ましい。
また、例えば、このようなマグネトロンスパッタリング装置を用いて成膜する際の条件としては、ターゲットの面積や透明導電性酸化物の膜厚によりプラズマの出力は若干変動するものの、通常、プラズマ出力を、ターゲットの面積1cm2 あたり、0.3〜4Wの範囲内の値とするとともに、成膜時間を5〜120分間とすることが好ましい。
このような成膜条件とすることにより、所望の膜厚を有する透明導電性酸化物を容易に得ることができる。
【0059】
(10)用途
第3の実施形態の好適な用途としては、例えば、液晶表示素子の透明電極、エレクトロルミネッセンス素子の透明電極、太陽電池の透明電極等、あるいは、これらの透明電極をエッチング法により形成する際の母材、さらには、帯電防止膜や窓ガラス用の氷結防止ヒータ等が挙げられる。
【0060】
[第4の実施形態]
第4の実施形態は、第4の発明に関する実施形態であり、第3の実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、酸化インジウムを67〜93重量%の範囲、酸化錫を5〜25重量%の範囲、および酸化亜鉛を2〜8重量%の範囲で含むとともに、錫/亜鉛の原子比が1以上の値であるスパッタリングターゲットを用いて得られる透明導電性酸化物である。
【0061】
(1)ターゲット
第4の実施形態において使用するターゲットとしては、第2の実施形態と同様のターゲットを用いることができる。
すなわち、酸化インジウムが67〜93重量%の範囲、酸化錫が5〜25重量%の範囲、酸化亜鉛が2〜8重量%の範囲からなるターゲットである。
ただし、ターゲット組成としては、酸化インジウム74〜93重量%、酸化錫5〜20重量%、酸化亜鉛2〜6重量%の組成を有するものがより好ましく、さらに好ましくは、酸化インジウム80〜89重量%、酸化錫8〜15重量%、酸化亜鉛3〜5重量%の組成を有するものである。
また、第4の実施形態で使用するターゲットにおいて、第2の実施形態と同様に、この透明導電性酸化物の構成成分である酸化錫における錫原子についての全金属元素に対する原子比の値を、酸化亜鉛における亜鉛原子の全金属元素に対する原子比の値以上とする、すなわち、錫/亜鉛の比率を1以上の値とすることが好ましい。
さらに、第4の実施形態で使用するターゲットにおいて、第2の実施形態と同様に、酸化インジウムと酸化亜鉛とが、In23(ZnO)(m=2〜20)で表される六方晶層状化合物を形成し、酸化インジウムの結晶の中において六方晶層状化合物が局所的に偏在する形態を有する酸化物ターゲットを用いるのがより好ましい。
なお、この六方晶層状化合物を表す式におけるmの値は、2〜20であるが、好ましくは2〜8であり、さらに好ましくは2〜6である。
そして、第4の実施形態で使用するターゲットは、その純度が98%以上であることが好ましい。
かかる純度が98%未満では、不純物の存在により、得られる膜の化学的安定性が低下したり、導電性が低下したり、光透過性が低下する場合があるためである。
したがって、より好ましい純度は99%以上であり、さらに好ましい純度は99.9%以上である。
また、焼結体したターゲットを用いる場合、このターゲットの相対密度(理論密度)を、96%以上とすることが好ましい。この相対密度が96%未満では、成膜速度の低下や膜質の低下を招き易いためである。
したがって、焼結体ターゲットの相対密度は、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上である。
なお、ターゲットの相対密度(理論密度)は、各原材料の密度と、各添加量(重量%)とから算出される合計値である。
【0062】
(2)結晶化処理
また、第4の実施形態の透明導電性酸化物は、上述したターゲットを用いてスパッタリング法により非晶質の透明導電性酸化物を成膜した後、230℃以上の温度で結晶化させてなることが好ましい。
このように、スパッタリング法により成膜された際に、非晶質の透明導電性酸化物を形成しておくのは、透明導電性酸化物を構成する金属酸化物の組成が同一であっても、非晶質の透明導電性酸化物の方が、結晶性の透明導電性酸化物よりもエッチング特性に優れているからである。
次いで、非晶質の透明導電性酸化物を結晶化させて、透明導電性酸化物とするが、このような透明導電性酸化物であれば、導電性が大幅に向上したものとなる。また、このような透明導電性酸化物であれば、第7図に示されるように、高温下や、高湿下での電気抵抗の安定性にも優れている。
また、非晶質の透明導電性酸化物を結晶化させる際の熱処理温度は、より好ましくは250℃以上の値であり、さらに好ましくは280℃以上の値である。
なお、かかる熱処理温度は、より高い方が、結晶化速度が速いことから有利であるが、透明基材が熱変形を生じない温度とすることが好ましい。したがって、例えば、基材として樹脂を用いた場合には、250℃以下の温度とすることが好ましく、ガラス基板を用いた場合には、500℃以下の温度とすることが好ましい。また、熱処理により得られる結晶型としては、熱処理温度を考慮して、酸化インジウム単体のビックスバイト型結晶とすることが好ましい。この理由は、他の六方晶層状化合物や、スピネル化合物を含むと、いわゆるイオン性不純物散乱により導電性が低下する場合があるためである。
ここで、第10図を参照して、結晶化温度の影響をより詳細に説明する。
第10図の横軸には、結晶化温度として、熱処理温度(℃)を採って示してあり、縦軸には、比抵抗(μΩ・cm)を採って示してある。
この第10図から容易に理解できるように、熱処理温度が230℃未満となると、比抵抗の値が3,200μΩ・cmと極めて高くなり、逆に、熱処理温度が350℃を超えると、比抵抗の値が1,000μΩ・cm以上と高くなる。
逆に言えば、この第10図から、比抵抗の値を効果的に低下させるため、例えば、500μΩ・cm以下の値とするためには、熱処理温度を230〜320℃の範囲内の値とすることが好ましく、熱処理温度を240〜300℃の範囲内の値とすることがより好ましく、熱処理温度を250〜290℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0063】
(3)エッチング処理
また、第4の実施形態の透明導電性酸化物において、エッチング処理を施して、所定形状としてあることが好ましい。
すなわち、スパッタリング法により成膜された非晶質透明導電性酸化物は、一例として、濃度5重量%のシュウ酸水溶液を用いて容易にエッチングすることができる。
また、エッチング処理温度を高めることにより、エッチング特性を向上させることができる。例えば、40〜50℃でエッチングした場合、エッチング速度を、0.1μm/分以上の値とすることができる。
したがって、この非晶質透明導電性酸化物は、従来のITO膜におけるようにエッチング液として塩酸や王水などの強酸を用いたり、配線電極への保護膜の取付など煩雑な操作を必要としないので、エッチング操作を容易に行うことができるという特徴がある。
なお、エッチング液としては、濃度が3〜10重量%のシュウ酸水溶液が特に好適に用いられる。このシュウ酸水溶液の濃度については、3重量%よりも希薄であると、十分なエッチング速度が得られない場合があり、一方、かかる濃度が10重量%を超えると、溶液中に結晶が発生する場合があるためである。
また、エッチング液の温度を30〜90℃の範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、エッチング液の温度が30℃未満の値となると、エッチング速度が過度に低下する場合があるためであり、一方、エッチング液の温度が90℃を超えると、エッチング液の管理が困難となる場合があるためである。
したがって、エッチング液の温度を35〜70℃の範囲内の値とすることがより好ましく、エッチング液の温度を40〜50℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0064】
(4)膜厚
また、透明導電性酸化物の形態については特に制限はないが、例えば、フィルム状であることが好ましい。
その場合、膜厚は、用途や透明導電性酸化物が設けられる基材の材質等に応じて適宜選択可能であるが、第3の実施形態と同様に、3〜3,000nmの範囲内であることが好ましい。
【0065】
(5)多層複合体
また、透明導電性酸化物において、当該透明導電性酸化物を設けた面とは反対の側の基板面に、ガスバリヤー層、ハードコート層、反射防止層等を設け、多層複合体とすることも好ましい。
このようなガスバリヤー層の形成材料としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体やポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンなどが用いられる。
また、ハードコート層の形成材料としては、チタン系やシリカ系のハードコート剤、ポリメチルメタクリレート等の高分子材料、ポリフォスファゼン等の無機高分子材料等が用いられる。そして、反射防止層の形成材料としては、低屈折率ポリマー、MgF2やCaF2等のフッ化物、SiO2,ZnO,BiO2,Al23等の酸化物等からなるものが用いられる。
また、本発明の透明導電性酸化物においては、その表面上に有機重合体薄膜または無機薄膜を有していてもよい。
【0066】
(6)成膜方法
(i)成膜装置
次いで、本発明の透明導電性酸化物を製造する方法については、スパッタリング法、イオンプレーティング法、蒸着法、レーザーアブレーション法など、種々の方法により製造することが可能である。
ただし、透明導電性酸化物の性能、生産性等の点からスパッタリング法を用いることがより好ましい。
そして、スパッタリング法としては、RFマグネトロンスパッタリングあるいはDCマグネトロンスパッタリング等の通常のスパッタリング法(以下、ダイレクトスパッタリングという)でも、反応性スパッタリングでもよい。すなわち、使用するスパッタリングターゲットの組成やスパッタリング条件は、透明導電性酸化物の組成に応じて適宜選択すればよい。
【0067】
(ii)成膜条件1
また、ダイレクトスパッタリング法により、透明基材上に、透明導電性酸化物を設ける場合のスパッタリング条件は、ダイレクトスパッタリングの方法やスパッタリングターゲットの組成、用いる装置の特性等により変化するために一概に規定することは困難であるが、DCマグネトロンスパッタリング法による場合には、例えば以下のように設定することが好ましい。
【0068】
(真空度)
ダイレクトスパッタリング法における到達真空度に関して、スパッタリングを行う前に、真空槽内を予め1×10-3Pa以下の値に減圧することが好ましい。
そして、スパッタリング時の真空度を1.3×10-2〜6.7Paの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、スパッタリング時の真空度が、1.3×10-2Paより高いとプラズマの安定性が低下する場合があり、一方、かかる真空度が6.7Paより低いとターゲットへの印加電圧を高めることが困難となる場合があるためである。
したがって、スパッタリング時の真空度を、より好ましくは2.7×10-2〜1.3Paの範囲とすることであり、さらに好ましくは4.0×10-2〜6.7×10-1Paの範囲とすることである。
【0069】
(印加電圧)
また、スパッタリング時のターゲットに対する印加電圧を200〜500Vの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる印加電圧が200V未満となると、良質の薄膜を得ることが困難になったり、成膜速度が制限される場合があるためであり、一方、かかる印加電圧が500Vを超えると異常放電を招くおそれがあるためである。
したがって、スパッタリング時のターゲットに対する印加電圧を、より好ましくは230〜450Vの範囲とすることであり、さらに好ましくは250〜420Vの範囲とすることである。
【0070】
(スパッタリングガス)
また、スパッタリング時のスパッタリングガス(雰囲気ガス)としては、アルゴンガス等の不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスが好ましい。したがって、不活性ガスとしてアルゴンガスを用いる場合、このアルゴンガスと酸素ガスとの混合比(体積比)を0.6:0.4〜0.999:0.001とすることが好ましい。
すなわち、酸素分圧を1×10-4〜6.7×10-1Paの範囲内の値とすることが好ましく、3×10-4〜1×10-1Paの範囲内の値とすることがより好ましく、4×10-4〜7×10-2Paの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
これらの混合比や酸素分圧の範囲を外れると、低抵抗かつ光透過率の高い透明導電性酸化物が得られない場合があるためである。
【0071】
(iii)成膜条件2
また、反応性スパッタリング法により、透明基材上に透明導電性酸化物を設ける方法においては、スパッタリングターゲットとして、インジウムと錫および亜鉛の合金からなるターゲットを用いる。
この合金ターゲットは、例えば、溶融インジウム中に錫および亜鉛の粉末またはチップの所定量を分散させた後、これを冷却することにより得られる。
なお、この合金ターゲットの純度は、ダイレクトスパッタリング用ターゲットと同様に98%以上であることが好ましく、より好ましい純度は99%以上であり、さらに好ましい純度は99.9%以上である。
また、反応性スパッタリングの条件は、スパッタリングターゲットの組成や用いる装置の特性等により条件が異なるが、スパッタリング時の真空度、ターゲット印加電圧および基板温度については、DCダイレクトスパッタリングの条件と同様とすることが好ましい。
また、雰囲気ガスとしては、アルゴンガス等の不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスが好ましいが、酸素ガスの割合はダイレクトスパッタリングのときよりも高めに設定することが好ましい。
なお、不活性ガスとしてアルゴンガスを用いる場合、このアルゴンガスと酸素ガスとの混合比(体積比)を、0.5:0.5〜0.99:0.01とするのが好ましい。
【0072】
(7)用途
第4の実施形態の透明導電性酸化物は、上述のような特性を備えていることから、例えば、液晶表示素子用の透明電極、エレクトロルミネッセンス素子用の透明電極、太陽電池用の透明電極等、種々の用途の透明電極をエッチング法により形成する際の母材や、帯電防止膜や窓ガラス用の氷結防止ヒータ等として好適である。
【0073】
[第5の実施形態]
第5の実施形態は、第5の発明に関する実施形態であり、第3〜第4の実施形態の透明導電性酸化物において、X線光電子分光法(XPS)で測定される酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅を3eV以下の値とした透明導電性酸化物である。
【0074】
(1)酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅
第5の実施形態の透明導電性酸化物は、第1〜第2の実施形態のターゲットを用い、スパッタリング法により成膜することによって得ることができる。
そして、透明導電性酸化物の表面におけるX線光電子分光法(XPS)で測定した酸素1S軌道の結合エネルギーピーク(バインディングエネルギーピーク)の半値幅を3eV以下の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる半値幅が、3eVを超えると、初期接続抵抗が大きくなったり、あるいは、長期使用中における接続抵抗が、著しく増大する場合があるためである。
ただし、かかる半値幅が、1eV以下となると、使用可能な材料の選択幅が過度に制限されたり、半値幅の値を制御することが困難となる場合がある。
したがって、かかる半値幅を1〜2.9eVの範囲内の値とすることがより好ましく、2.0〜2.8eVの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、このように酸素1S軌道の結合エネルギーピーク(バインディングエネルギーピーク)の半値幅を所定範囲に制限するのは、以下の知見に基づくものである。
すなわち、スパッタリング法により成膜された透明導電性酸化物の表面状態をX線光電子分光法で測定すると、金属酸化物に由来するピークと、金属−酸素−金属以外の元素、例えば、第13図に示すように、水素または炭素結合に由来するピークとの二つピークが現れる。そして、この金属−酸素−金属以外の元素の結合に由来するピーク、すなわち酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークが相対的に大きい透明導電性酸化物においては、この透明導電性酸化物と液晶駆動回路などの外部電気回路とを接続した場合に、その接続抵抗が大きくなったり、また、長期使用中に、接続抵抗が増大する場合があるためである。
そこで、第5の実施形態においては、透明導電性酸化物の表面におけるX線光電子分光法(XPS)で測定した酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅を所定値とし、初期接続抵抗を低減させるとともに、長期使用中における接続抵抗の漸増傾向を抑制するものである。
【0075】
(2)測定方法
透明導電性酸化物の表面における酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅は、酸素1S軌道ピークおよびそのベースラインから算出することができる。
すなわち、酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークは、X線光電子分光装置(XPS)を用いて、第12図に示すような、一つの酸素1S軌道ピークとして得ることができる。
次いで、得られた酸素1S軌道ピークにおいて、シレリー(Shirley)の式を用いてベースラインを設定することができる。そして、このベースラインからピークまでの長さが求まるため、その長さの半分の位置を設定することができる。
次いで、設定された長さの半分の位置において、酸素1S軌道ピークのバインディングエネルギー幅を実測できるので、このエネルギー幅を半値幅とすることができる。
【0076】
(3)半値幅の制御
(i)真空槽内の水分量
透明導電性酸化物のX線光電子分光法で測定した酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅を、スパッタリング時の真空槽内の水分量により、容易に制御することができる。
すなわち、半値幅が3eV以下である透明導電性酸化物を得るためには、スパッタリング法より成膜する際に、真空槽内の水分量を、1×10-5〜1×10-10Paの範囲内の値とすることが好ましい。
また、より好ましくは真空槽内の水分量を1×10-6〜1×10-10Paの範囲に維持してスパッタリングを行うことである。
【0077】
(ii)印加電圧
また、透明導電性酸化物の半値幅を、スパッタリング法により成膜を行う場合のスパッタリングターゲットへの印加電圧によっても制御することができる。
例えば、第4の実施形態と同様に、印加電圧を200〜500Vの範囲内の値とすることが好ましい。
【0078】
(iii)スパッタリングガス
また、透明導電性酸化物の半値幅を所定範囲に容易に制御するために、スパッタリングガス(雰囲気ガス)として、アルゴンガスなどの不活性ガスと、酸素ガスとの混合ガスを使用することが好ましい。
なお、混合ガス中の不活性ガスとして、アルゴンガスを用いる場合には、このアルゴンガスと酸素ガスとの混合比(体積比)を、0.6:0.4〜0.999:0.001にすることが好ましい。
このような混合ガスを用いると、得られる透明導電性酸化物の導電性が良好となり、しかも光線透過率の高い透明導電性酸化物を得ることができる。
【0079】
(4)基材
透明導電性酸化物を形成する際に用いる基材としては、ガラス基材や透明樹脂製のフィルムまたはシート基材が好適である。
透明ガラス基材としては、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、硼硅酸ガラス、高硅酸ガラス、無アルカリガラスなどで製造された透明ガラス板が挙げられる。これらの中でも、無アルカリガラス板が、透明導電性酸化物中へのアルカリイオンの拡散が起こらないことから好ましい。
また、透明樹脂としては、十分に高い光線透過率を有し、かつ電気絶縁性に優れた樹脂が好ましく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、マレイミド樹脂などが挙げられる。
ここで用いる透明基材は、透明ガラス基材、透明樹脂製基材のいずれの場合にも、その光透過率が70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上のものである。
また、この透明基材の厚さは、透明導電材料の用途やその材質に応じて適宜選択されるが、通常、15μm〜3mmの範囲内の値、好ましくは50μm〜1mmの範囲内の値とするのがよい。
【0080】
(5)中間層
第5の実施形態において、透明導電性酸化物が設けられる側の基材表面に、透明導電性酸化物との密着性を向上させるために、厚さ0.5〜10μmの中間層を設けることも好ましい。
この中間層は、金属酸化物(珪素の酸化物を含む)や、金属窒化物(珪素の窒化物を含む)、金属炭化物(珪素の炭化物を含む)、架橋性樹脂などからなる単層構造または複数層構造からなる層が好適に用いられる。
これら金属酸化物としては、Al23,SiOx(0<x≦2),ZnO,TiO2などが挙げられる。また、金属窒化物としては、AlN,Si34,TiNなどが挙げられる。金属炭化物としてはSiC,B4Cなどが挙げられる。さらに、架橋性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノキシエーテル樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。
また、このような中間層として、透明樹脂製の基材を用いる場合には、架橋性樹脂層と無機物層とが順次積層された2層構造とした形態のものが好ましい。
また、透明基材として透明ガラス基材を用いる場合には、無機物層と架橋性樹脂層とが順次積層された二層構造の形態が好ましい。このように二層構造とすると、単層構造の場合よりも密着性がさらに向上するためである。
また、いずれの場合にも、中間層の透明導電性酸化物が接する側に無機物層が配置されるように構成すると、より熱的安定性に優れた透明導電材料を得ることができる。
また、透明樹脂製基材の表面に中間層として架橋性樹脂層を設ける場合、基材表面と架橋性樹脂層との間に、接着層やガスバリヤー層を介在させてもよい。このような接着層の形成に用いる接着剤としては、エポキシ系、アクリルウレタン系、フェノキシエーテル系の接着剤などが挙げられる。また、ガスバリヤー層は、この透明導電材料を、液晶表示素子などの透明電極として用いた場合に、液晶への水蒸気や酸素などの拡散を防止することができる。
【0081】
(6)透明導電性酸化物
(i)エッチング
第5の実施形態の透明導電性酸化物は、非晶質であり、エッチング特性に優れている。したがって、この非晶質透明導電性酸化物は、従来のITO膜におけるようにエッチング液として塩酸や王水などの強酸を用いたり、配線電極への保護膜の取付など煩雑な操作を必要としないので、エッチング処理を容易に行うことができる。
この非晶質透明導電性酸化物のエッチング液としては、表示機器などの配線電極を腐食させることのない濃度3〜10重量%のシュウ酸水溶液を用いることが好ましい。
この理由は、シュウ酸水溶液の濃度が3重量%よりも希薄となると、十分なエッチング速度が得られない場合があるためであり、一方、シュウ酸水溶液の濃度が10重量%を超えると、溶液中に結晶が生成しやすくなる場合があるためである。
【0082】
(ii)熱処理
エッチングにより、非晶質透明導電性酸化物をパターニングした後に、熱処理して結晶化させ、導電性の向上を図ると同時に、高温高湿下での電気抵抗の安定性を図ることが好ましい。
この場合、結晶化させる熱処理温度を、230℃以上の値とすることが好ましく、250℃以上の値とすることがより好ましく、280℃以上の値とすることがさらに好ましい。
なお、熱処理温度については高い方が、結晶化速度が速いことから一般に有利であるが、基材の熱変形以下の温度とすることが好ましい。例えば、基材として透明樹脂を用いた場合には、熱処理温度を250℃以下の温度とすることが好ましく、ガラス基板を用いた場合には、熱処理温度を500℃以下の温度とすることが好ましい。
【0083】
(iii)膜厚
透明導電性酸化物の膜厚は、用途や透明導電性酸化物が設けられる基材の材質などに応じて、適宜選択可能であるが、第3の実施形態や第4の実施形態と同様に、3〜3,000nmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0084】
(iv)用途
なお、このような透明導電性酸化物は、優れた透明性や導電性、あるいはエッチング特性をいかして、液晶表示素子用の透明電極、エレクトロルミネッセンス素子用の透明電極、太陽電池用の透明電極などの用途に好適に用いることができる。
【0085】
[第6の実施形態]
第6の実施形態は、第6の発明に関する実施形態であり、基材上に設けた着色層上に形成してなる透明導電性酸化物である。以下、カラーフィルタを例に採って説明する。
【0086】
(1)構成
第6の実施形態のカラーフィルタは、第11図(d)に示すように、基板10上に、有機着色層12と透明導電膜(電極)24をこの順に積層して構成したカラーフィルタである。また、有機着色層12は、RGB画素(赤画素、緑画素、青画素)14,16,18と、その間隙に設けられたブラックマトリクス(遮光層)20とから構成してある。
そして、酸化インジウムを67〜93重量%、好ましくは74〜93重量%含み、酸化錫を5〜25重量%、好ましくは5〜20重量%含み、さらに酸化亜鉛を2〜8重量%、好ましくは2〜6重量%含み、かつ錫の全金属原子に対する原子比が亜鉛の全金属原子に対する原子比以上である組成を有し、積層時に非晶質である透明導電膜22を、200℃以上の温度で熱処理し、より好ましくは230℃〜300℃の範囲で熱処理し、電極として、結晶化させた透明導電膜24を有するカラーフィルタである。
【0087】
(2)透明導電膜
透明導電膜を構成する透明導電性酸化物の組成を上記の組成範囲とするのは、この組成範囲の透明導電性酸化物からなる焼結体ターゲットであれば、低温スパッタリングが可能なためである。
すなわち、基板温度を200℃以下とした場合であっても、スパッタリング法を用いて焼結体ターゲットから透明導電膜を形成することにより、有機着色層上に非晶質であってエッチング特性に優れた透明導電膜を形成することができるためである。
したがって、スパッタリング中における、下地としての有機着色層を損傷するおそれが少なくなる。
なお、かかる透明導電膜の厚さは、第1の実施形態で説明したとおり、3〜3,000nmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0088】
(3)基材
カラーフィルタにおいて用いる基板としては、ガラスや透明性に優れた合成樹脂、例えばポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアリレート、ポリエーテルスルホンなどのフィルムやシートが挙げられる。
【0089】
(4)着色層
基板上に設ける有機着色層は、基板上に直接形成してもよいし、あるいは、有機着色層の画素を平面分離するとともに、その間隙に遮光層(ブラックマトリクス)を設けてもよい。
次いで、この基板上または遮光層と隣接して設ける有機着色層は、着色剤とバインダー樹脂からなる組成物が用いられる。
このような着色剤としては、例えばペリレン系顔料、レーキ系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、アントラセン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、フタロシアニン系顔料、トリフェニルメタン系塩基性染料、インダンスロン系顔料、インドフェノール系顔料、シアニン系顔料、ジオキサジン系顔料などを使用することができる。
また、バインダー樹脂としては耐熱性を有するものが好ましく、例えば、エポキシ樹脂や、ウレタン樹脂、尿素樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂およびこれらの混合物が好適に用いられる。これらの中でも、殊にポリイミド樹脂が高い耐熱性を有するので好ましい。
さらに、上述した遮光層としては、有機着色層間の相互作用を防止するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、クロム膜や部分酸化されたクロム膜、黒色に着色した有機着色層などからなる層が好適に用いられる。
【0090】
(5)形成方法
(i)着色層の形成
第11図(b)に示すように、有機着色層12を形成するにあたっては、上述した着色剤から選択される赤色、青色、緑色のそれぞれの顔料とバインダー樹脂をその溶媒に混合分散させてペーストを製造した後、フォトリソグラフィ法によってRGBの画素を形成することが好ましい。
例えば、ペーストを基板上またはストライプ状に加工した遮光層上に塗布してセミキュアした後、フォトリソグラフィ法によって画素に対応したストライプ状の緑色の有機着色層(G画素)を形成し、これを硬化させればよい。
また、赤色や青色の有機着色層(R画素およびB画素)についても同様の手法によって形成すればよい。
さらに、必要に応じて、この有機着色層の上に、ポリイミド樹脂などからなる保護層を形成してもよい。
【0091】
(ii)非晶質透明導電膜の形成
次いで、第11図(c)に示すように、有機着色層の上またはこの有機着色層上に設けた保護層の上に、非晶質透明導電膜を形成する。
この非晶質透明導電膜は、それぞれ酸化インジウムを67〜93重量%、好ましくは74〜93重量%、酸化錫を5〜25重量%、好ましくは5〜20重量%、さらに酸化亜鉛を2〜8重量%、好ましくは2〜6重量%の組成を有するとともに、かつ錫の全金属原子に対する原子比が亜鉛の全金属原子に対する原子比以上であって、しかも含まれる六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下のターゲットを用いて形成することが好ましい。
また、有機着色層上または保護層上に透明導電膜を形成する際には、マグネトロンスパッタリング装置が好適に用いられる。
したがって、非晶質透明導電膜を形成する際の条件は、ターゲットの面積や厚みにより若干は変動するが、通常、プラズマ出力を、ターゲットの面積1cm2あたり0.3〜4Wの範囲とし、形成時間を5〜120分間とすることにより、所望の厚みを有する非晶質透明導電膜が得られる。
なお、非晶質透明導電膜の厚みは、適用される表示装置の種類によって異なるが、通常、3〜3,000nmの範囲、好ましくは20〜600nmの範囲、より好ましくは30〜200nmの範囲である。
【0092】
(iii)非晶質透明導電膜のエッチング
得られた非晶質透明導電膜は、結晶質の透明導電膜に較べて格段にエッチング特性に優れている。したがって、パターニングする際のエッチング処理において、配線材料を腐食させるおそれのない弱酸、例えば濃度3〜10重量%のシュウ酸水溶液をエッチング液に用いることができる。
また、非晶質透明導電膜は、濃度5重量%のシュウ酸水溶液をエッチング液として用い、例えば、40〜50℃の条件においては、そのエッチング速度が0.1μm/分以上の優れたエッチング特性を有している。
【0093】
(iv)透明導電膜の結晶化
次いで、成膜した非晶質透明導電膜を、エッチング処理してパターニングした後に、第11図(d)に示すように、熱処理して結晶化させ、耐熱性や耐湿性に優れた結晶性透明導電膜とすることが好ましい。
この場合の熱処理条件としては、200℃以上、好ましくは230℃以上、さらに好ましくは250℃以上とし、処理時間は0.5〜3時間とするのがよい。
【0094】
[第7の実施形態]
第7の実施形態は、第1および第2の発明の製造方法に関する実施形態でありIn23(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下の値であるスパッタリングターゲットの第1の製造方法である。そして、下記(1)〜(3)の工程を含むスパッタリングターゲットの製造方法である。
(1)酸化インジウム粉末と、平均粒径が2μm以下の酸化亜鉛粉末とを配合する工程
(2)In/(In+Zn)で表わされる原子比が、0.75〜0.97の範囲である成形体を形成する工程
(3)成形体を、1,400℃以上の温度で焼結する工程
【0095】
(1)配合工程
(i)混合粉砕機
ターゲットの製造原料に用いる各金属酸化物は、通常の混合粉砕機、例えば湿式ボールミルやビーズミル、あるいは超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。
【0096】
(ii)原料粉末の平均粒径
また、原料粉末の混合粉砕は、ターゲットにおける六方晶層状化合物の結晶粒径の制御(5μm以下)が容易になるため、微細に粉砕するほどよいが、具体的に、酸化インジウム粉末や酸化亜鉛粉末等の平均粒径が2μm以下、より好ましくは0.1〜1.8μmの範囲、さらに好ましくは0.3〜1.5μmの範囲、さらにより好ましくは0.5〜1.2μmの範囲となるように混合粉砕処理することが好ましい。
一方、スピネル構造化合物を生成させるために、酸化錫粉末を配合する場合には、当該酸化錫粉末の平均粒径を0.01〜1μmの範囲内の値とすることが好ましく、0.1〜0.7μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.3〜0.5μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
この理由は、酸化錫粉末の平均粒径をこのような範囲に制限することにより、ターゲット中の六方晶層状化合物や、スピネル化合物の結晶粒径の制御(5μm以下)がさらに容易となるためである。
【0097】
(iii)原料粉末の種類
ここで、原料として用いるインジウム化合物および亜鉛化合物は、酸化物または焼成後に酸化物になる化合物、すなわち、インジウム酸化物前駆体や亜鉛酸化物前駆体であれば好ましい。
このようなインジウム酸化物前駆体や亜鉛酸化物前駆体としては、インジウムおよび亜鉛についての硫化物、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物(塩化物、臭化物等)、炭酸塩、有機酸塩(酢酸塩、しゅう酸塩、プロピオン酸塩、ナフテン酸塩等)、アルコキシド化合物(メトキシド化合物、エトキシド化合物等)、有機金属錯体(アセチルアセトナート化合物等)等が挙げられる。
これらの中でも、硝酸塩や有機酸塩、アルコキシド、有機金属錯体が、低温においても完全に熱分解し、不純物が残存しないので好ましい。
【0098】
(2)仮焼工程
次いで、インジウム化合物と亜鉛化合物および錫化合物の混合物を得た後、任意工程であるが、この混合物を仮焼することが好ましい。
この仮焼工程においては、500〜1,200℃で、1〜100時間の条件で熱処理することが好ましい。
この理由は、500℃未満または1時間未満の熱処理条件では、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が不十分となる場合があるためである。一方、熱処理条件が、1,200℃を超えた場合または100時間を超えた場合には、粒子の粗大化が起こる場合があるためである。
したがって、特に好ましいのは、800〜1,200℃の温度範囲で、2〜50時間の条件で、熱処理(仮焼)することである。
なお、ここで得られた仮焼物は、成形して焼結する前に粉砕するのが好ましい。この仮焼物の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて、粒子径が0.01〜1.0μmになるようにするのがよい。
【0099】
(3)成形工程
次いで、成形工程において、得られた仮焼物を用いてターゲットとして好適な形状に成形することが好ましい。
このような成形処理としては、金型成形、鋳込み成形、射出成形等が行なわれるが、焼結密度の高い焼結体を得るためには、CIP(冷間静水圧)等で成形した後、後述する焼結処理するを行うのが好ましい。
なお、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
【0100】
(4)焼成工程
次いで、得られた微粉末を造粒した後、プレス成形により所望の形状に成形し、焼成して、HIP(熱間静水圧)焼成等すればよい。
この場合の焼成条件は、酸素ガス雰囲気または酸素ガス加圧下に、通常、1,400〜1,600℃、好ましくは1,430〜1,550℃、さらにこのましくは1,500〜1,540℃において、30分〜72時間、好ましくは10〜48時間焼成することが好ましい。
一方、酸化インジウム粉末と酸化亜鉛粉末との混合物を、酸素ガスを含有しない雰囲気で焼成したり、1,400℃未満の温度において焼成すると、酸化亜鉛と酸化インジウムとの反応性が低下し、六方晶層状化合物の結晶の形成が十分でなくなる場合がある。そのため、得られるターゲットの密度を十分に向上させることができず、したがって、スパッタリング時のノジュールの発生を十分に抑制できなくなる場合がある。
また、この場合の昇温速度は、10〜50℃/分とすることが好ましい。
このように、酸化インジウム粉末と酸化亜鉛粉末との所定割合での混合物を、酸素ガス雰囲気または酸素ガス加圧下に1,400℃以上の温度で焼成すると、酸化インジウムと酸化亜鉛からなる六方晶層状化合物の結晶が、酸化インジウムの結晶粒子の間隙に偏在して生成するため、これが酸化インジウムの結晶成長を抑制して、微細な結晶組織を有する焼結体が形成されるようになる。
なお、上述した配合工程で、平均粒径が2μm以下の少なくとも酸化亜鉛を用いているため、結晶粒径が5μm以下である焼結体が得られることになる。
【0101】
(5)還元工程
得られた焼結体について、バルク抵抗を全体として均一化するために、任意工程であるが還元工程において還元処理を行うことが好ましい。
このような還元方法としては、還元性ガスによる方法や真空焼成または不活性ガスによる還元等を適用することができる。
また、還元性ガスによる場合、水素、メタン、一酸化炭素や、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
また、不活性ガス中での焼成による還元の場合、窒素、アルゴンや、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
なお、還元温度は100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元時間は、0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。
【0102】
(6)加工工程
このようにして焼結して得られた焼結体は、加工工程において、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、また装着用治具を取り付けてスパッタリングターゲットとすることが好ましい。
ここで、最終的に得られたスパッタリングターゲットにおいては、その構成成分である各金属酸化物の組成を上記範囲とするとともに、2μm以下の粒子を用いて酸素ガス雰囲気または酸素ガス加圧下に1,400℃以上の温度で焼成し、酸化インジウムと酸化亜鉛を六方晶層状化合物の結晶の形態で存在させてあるので、このターゲットのバルク抵抗が低減するとともに、その結晶粒径が5μm以下の緻密な結晶組織を有している。
したがって、このターゲットを用いてスパッタリング法により成膜する際、ノジュールの発生が抑制されることになる。そして、このノジュールのプラズマによる飛散も著しく低減することから、安定性の高いスパッタリングを行うことができ、その結果、異物の付着のない高品質の透明導電性酸化物を得ることができる。
【0103】
[第8の実施形態]
第8の実施形態は、第1および第2の発明の別な製造方法に関し、In23(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下の値であるスパッタリングターゲットの第2の製造方法である。そして、下記(1)〜(5)の工程を含むことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法である。
(1)In23(ZnO)(ここで、mは2〜20の整数である。)で表わされる六方晶層状化合物を生成する工程
(2)生成した六方晶層状化合物を粒径が5μm以下に調整する工程
(3)粒径が調整された六方晶層状化合物と、酸化インジウム粉末とを混合する工程
(4)In/(In+Zn)で表わされる原子比が、0.75〜0.97の範囲である成形体を形成する工程
(5)成形体を、1,400℃以上の温度で焼結する工程
このようにスパッタリングターゲットを製造すると、ターゲット内での六方晶層状化合物等の平均粒径の調節を極めて厳格に行うことができる。したがって、ターゲットを用いてスパッタリングする際のノジュールの発生を効果的に防止することができる。
【0104】
(1)六方晶層状化合物の生成工程
In23(ZnO)(ここで、mは2〜20の整数である。)で表わされる六方晶層状化合物を生成するにあたり、第7の実施形態と同様に、原料となる酸化インジウム(In23)および酸化亜鉛(ZnO)の各粉末は、湿式ボールミルやビーズミル、あるいは超音波装置を用いて、均一に混合しておくことが好ましい。
次いで、六方晶層状化合物を得るに際して、1200〜1300℃の温度で、30分〜3時間の範囲で、加熱処理することが好ましい。
なお、後述する粒径調整工程において、六方晶層状化合物の平均粒径を制御するため、六方晶層状化合物を生成する工程においては、必ずしも平均粒径が2μm以下の酸化インジウム粉末や酸化亜鉛粉末を必要は無い。
【0105】
(2)六方晶層状化合物の粒径調整工程
生成した六方晶層状化合物の平均粒径を5μm以下の値とする工程である。このように六方晶層状化合物の粒径を調整することにより、得られるるターゲットを使用する際に、ノジュールが発生するのを効果的に防止することができる。
ただし、六方晶層状化合物の平均粒径を過度に小さくすると、制御するのが困難となったり、あるいは歩留まりが低下して、経済的に不利益となる場合がある。したがって、六方晶層状化合物の平均粒径を0.1〜4μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜3μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、六方晶層状化合物の粒径を調整する方法については、特に制限されるものではないが、例えば、湿式ボールミル、ビーズミル、あるいは超音波装置を用いて、均一に粉砕した後、ふるい分けすることにより実施することができる。
【0106】
(3)酸化インジウム粉末の混合工程
粒径調整された六方晶層状化合物と、酸化インジウム粉末とを混合する工程である。
すなわち、成形体においてIn/(In+Zn)で表わされる原子比が0.75〜0.97の範囲となるように、酸化インジウム粉末を混合することが好ましい。
なお、スピネル化合物を、酸化インジウム粉末とともに添加することも好ましい。すなわち、酸化亜鉛(ZnO)と、酸化錫(SnO2)とを800〜1200℃の温度で、30分〜3時間の範囲で加熱処理した後、5μm以下に粒径調整しておき、この段階で添加することも好ましい。
【0107】
(4)成形体の形成工程
第7の実施形態と同様の成形条件とすることが好ましい。すなわち、緻密なターゲットを得るためには、CIP(冷間静水圧)等で予め成形体を形成することが好ましい。
【0108】
(5)焼結工程
第7の実施形態と同様の焼成条件とすることが好ましい。すなわち、(4)で得られた成形体を酸素ガス雰囲気または酸素ガス加圧下に、1,400〜1,600℃、30分〜72時間の条件で焼成することが好ましい。
【実施例】
【0109】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0110】
[実施例1]
(1)スパッタリングターゲットの製造および評価
(i)ターゲットの製造
原料として、平均粒径が1μmの酸化インジウムと、平均粒径が1μmの酸化亜鉛とを、インジウムの原子比〔In/(In+Zn)〕が、0.83となるように混合して、これを湿式ボールミルに供給し、72時間混合粉砕して、原料微粉末を得た。
得られた原料微粉末を造粒した後、直径10cm、厚さ5mmの寸法にプレス成形して、これを焼成炉に装入し、酸素ガス加圧下に、1,450℃において、36時間の条件で焼成して、透明導電材料からなる焼結体(ターゲット)を得た。
【0111】
(ii)ターゲットの評価
得られたターゲットにつき、密度、バルク抵抗値、X線回折分析、結晶粒径および各種物性を測定した。
その結果、密度は6.8g/cm3
であり、四探針法により測定したバルク抵抗値は、0.91×10-3Ω・cmであった。
また、この焼結体から採取した試料について、X線回折法により透明導電材料中の結晶状態を観察した結果、得られたターゲット中に、In23(ZnO)3で表される酸化インジウムと酸化亜鉛とからなる六方晶層状化合物が存在していることが確認された。
さらに、得られた焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、EPMAであるJXA−8621MX(日本電子社製)により5,000倍に拡大した焼結体表面の30μm×30μm四方の枠内で観察される六方晶層状化合物の結晶粒子の最大径を測定した。3個所の枠内で同様に測定したそれぞれの最大粒子径の平均値を算出し、この焼結体の結晶粒径が3.0μmであることを確認した。
また、(i)で得られた焼結体を切削加工して、直径約10cm、厚さ約5mmのスパッタリングターゲット〔A1〕を作製し、物性の測定を行った。
【0112】
(2)透明導電性酸化物の成膜
上記(1)で得られたスパッタリングターゲット〔A1〕を、DCマグネトロンスパッタリング装置に装着し、室温において、ガラス基板上に透明導電性酸化物を成膜した。
ここでのスパッタ条件としては、アルゴンガスに適量の酸素ガスを混入して用い、スパッタ圧力3×10-1Pa、到達圧力5×10-4Pa、基板温度25℃、投入電力100W、成膜時間20分間とした。
この結果、ガラス基板上に、膜厚が約120nmの透明導電性酸化物が形成された透明導電ガラスが得られた。
【0113】
(3)ノジュール発生数
(1)で得られたスパッタリングターゲット〔A1〕を、DCマグネトロンスパッタリング装置に装着し、アルゴンガスに3%の水素ガスを添加した混合ガスを用いた他は、上記(2)と同一条件下に、8時間連続してスパッタリングを行った。
次いで、スパッタリング後のターゲット表面を、実体顕微鏡により30倍に拡大して観察した。そして、ターゲット上の3箇所で、視野900mm2中における20μm以上のノジュールの発生数をそれぞれ測定し、平均値を算出した。
この結果、上記(1)で得られたスパッタリングターゲット〔A1〕の表面には、第1図(写真)に示すように、ノジュールは全く観察されなかった。
【0114】
(4)透明導電性酸化物の物性の評価
上記(2)で得られた透明導電ガラス上の透明導電性酸化物の導電性について、四探針法により比抵抗を測定したところ、2.5×10-4Ω・cmであった。
また、この透明導電性酸化物は、X線回折分析により非晶質であることを確認した。一方、膜表面の平滑性についても、P−V値(JISB0601準拠)が5nmであることから、良好であることを確認した。
さらに、この透明導電性酸化物の透明性については、分光光度計により波長500nmの光線についての光線透過率が82%であり、透明性においても優れたものであった。
【0115】
[実施例2〜3]
(1)スパッタリングターゲットの製造
実施例2では、原料として、実施例1と同様の酸化インジウムと酸化亜鉛とを、インジウムの原子比〔In/(In+Zn)〕が、0.93となるように混合したものを使用し、実施例3では、原料として、実施例1と同様の酸化インジウムと酸化亜鉛とを、インジウムの原子比〔In/(In+Zn)〕が、0.95となるように混合したものをそれぞれ使用したほかは、実施例1の(1)と同様にしてターゲット〔B1〕および〔C1〕を得た。
ここで得られたターゲット〔B1〕および〔C1〕の組成と物性の測定結果を、それぞれ第1表に示す。
【0116】
(2)ターゲットおよび透明導電性酸化物の評価
実施例1と同様にして、得られたターゲット〔B1〕および〔C1〕から、それぞれ透明導電性酸化物を成膜して、ターゲットおよび透明導電性酸化物を評価した。得られた結果を第2表に示す。
【0117】
[比較例1〜2]
(1)スパッタリングターゲットの製造
ターゲット中のIn/(In+Zn)で表わされる原子比の影響を検討した。
すなわち、比較例1では、原料として、実施例1と同様の酸化インジウムと酸化亜鉛とを、In/(In+Zn)で表わされる原子比が0.98となるように混合したものを使用し、比較例2では、原料として、実施例1と同様の酸化インジウムと酸化亜鉛とを、In/(In+Zn)で表わされる原子比が0.6となるように混合したものをそれぞれ使用した他は、実施例1と同様にしてターゲット〔D1〕および〔E1〕を得た。
得られたターゲット〔D1〕および〔E1〕の組成と物性の測定結果を、第1表に示す。
【0118】
(2)ターゲットおよび透明導電性酸化物の評価
実施例1と同様にして、得られたターゲット〔D1〕および〔E1〕から、それぞれ透明導電性酸化物を成膜して、ターゲットおよび透明導電性酸化物を評価した。得られた結果を第2表に示す。
【0119】
[比較例3]
(1)スパッタリングターゲットの製造
ターゲット中のIn/(In+Zn)で表わされる原子比の影響および焼結温度の影響を検討した。
すなわち、原料として、酸化インジウムと酸化錫との混合物であって、In/(In+Sn)の原子比が、0.90となるように混合したものを使用し、かつこれら原料から得られる成形体の焼結温度を1,400℃とした他は、実施例1の(1)と同様にしてターゲット〔F1〕を得た。
得られたターゲット〔F1〕の組成と物性の測定結果を、第1表に示す。
【0120】
(2)ターゲットおよび透明導電性酸化物の評価
実施例1と同様にして、得られたターゲット〔F1〕から、それぞれ透明導電性酸化物を成膜して、ターゲットおよび透明導電性酸化物を評価した。得られた結果を第2表に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】

【0123】
[実施例4]
(1)スパッタリングターゲットの製造
原料として、平均粒径が1μmの酸化インジウム粉末と、平均粒径が1μmの酸化亜鉛粉末と、および平均粒径が0.5μmの酸化錫粉末とを、酸化インジウム75重量%、酸化亜鉛5.5重量%および酸化錫19.5重量%の比率になるように、湿式ボールミルにそれぞれ供給し、次いで、72時間混合粉砕して、原料微粉末を得た。
ここで得られた原料微粉末を造粒した後、直径10cm、厚さ5mmの寸法にプレス成形して、これを焼成炉に装入し、酸素ガス加圧下に、1,450℃において、36時間焼成して、透明導電材料からなる焼結体を得た。
この焼結体は、その密度が6.8g/cm3 であり、四探針法により測定したバルク抵抗値は、0.84×10-3Ω・cmであった。
また、この焼結体から採取した試料について、X線回折法により透明導電材料中の結晶状態を観察した結果、第6図に示すように、酸化錫と酸化亜鉛とが、Zn2SnO4で表されるスピネル構造化合物で存在していることが確認された。
次いで、得られた焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.5μmのアルミナ粒子で研磨した。その後、EPMAを用いて、5,000倍に拡大した焼結体表面(30μm四方の枠内)における六方晶層状化合物とスピネル構造化合物の最大結晶粒子の最大径を測定した。
同様に最大結晶粒子の最大径を3箇所の枠内で測定し、平均値を算出した。その結果、六方晶層状化合物およびスピネル構造化合物の結晶粒径は、4.1μmであることが確認された。
次いで、このようにして得られた焼結体を切削加工して、直径約10cm、厚さ約5mmのターゲット〔A2〕を作製した。
ここで得られたターゲット〔A2〕の組成と物性の測定結果を、第3表に示す。
【0124】
(2)透明導電性酸化物膜の成膜
上記(1)で得られたスパッタリングターゲット〔A2〕を、DCマグネトロンスパッタリング装置に装着し、室温において、ガラス基板上に透明導電性酸化物膜を成膜した。
スパッタ条件としては、アルゴンガスに適量の酸素ガスを混入して用い、スパッタ圧力3×10-1Pa、到達圧力5×10-4Pa、基板温度25℃、投入電力100W、成膜時間20分間とした。
この結果、ガラス基板上に、膜厚約120nmの透明導電性酸化物膜が形成された透明導電ガラスが得られた。
【0125】
(3)ノジュール発生数
次いで、上記(1)で得られたスパッタリングターゲット〔A2〕を、DCマグネトロンスパッタリング装置に装着した後、アルゴンガスに3%の水素ガスを添加した混合ガスを用いた他は、上記(2)と同一条件下に、8時間連続してスパッタリングを行った。
次いで、スパッタリング後のターゲット表面を、実体顕微鏡により30倍に拡大して観察した。そして、ターゲット上の3箇所で、視野900mm2中における20μm以上のノジュールの発生数をそれぞれ測定し、平均値を算出した。
この結果、上記(1)で得られたスパッタリングターゲット〔A2〕の表面にはノジュールの発生は全く観察されなかった。かかるノジュール発生数の結果を第4表に示す。
【0126】
(4)透明導電性酸化物膜の評価
上記(2)で得られた透明導電性酸化物膜の導電性(比抵抗)を、四探針法により測定したところ、2.8×10-4Ω・cmであった。
また、透明導電性酸化物膜は、X線回折分析より非晶質であることを確認した。一方、膜表面の平滑性に関しては、表面粗さ計で測定されるP−V値が5nmであり、極めて良好であることを確認した。
さらに、この透明導電性酸化物膜の透明性については、分光光度計により光線透過率(波長500nm)を測定した。その結果、かかる光線透過率は82%であり、得られた透明導電性酸化物膜は、透明性においても優れたものであることを確認した。
【0127】
(5)透明導電性酸化物膜の熱処理
上記(2)で得られた透明導電ガラスの熱処理を行った。ここでの熱処理は、アルゴンガス雰囲気下、20℃/分の昇温速度において、215℃まで加熱し、この温度での保持時間を1時間の条件とした。
この結果、得られた透明導電性酸化物膜は、非晶質であるものの、その比抵抗は2.1×10-4Ω・cmであった。
したがって、この熱処理によって、透明導電性酸化物膜の比抵抗を、約25%低減させることができることを確認した。この透明導電性酸化物膜の熱処理による比抵抗の変化を、第4表に示す。
【0128】
(6)透明導電性酸化物膜のエッチング加工性
次いで、得られた透明導電性酸化物膜のエッチング加工性について評価した。
すなわち、透明導電ガラス上の透明導電性酸化物膜の一部を、40℃のシュウ酸水溶液(5重量%濃度)を用いて、線幅10〜100μmのライン状にエッチングを行い、エッチング部と非エッチング部との境界部分の断面を電子顕微鏡により観察した。
その結果、エッチング部に透明導電性酸化物膜が残存することはなく、非エッチング部に残存する透明導電性酸化物膜のエッジ部が、エッチング部に向けて滑らかに傾斜した断面形状をなしていることが観察された。よって、得られた透明導電性酸化物膜は、優れたエッチング加工性を有することが判明した。
【0129】
なお、この透明導電性酸化物膜のエッチング加工性についての評価を以下の基準に拠った。
◎:10μmの線幅にエッチングすることができ、残渣がまったく観察されない。
○:50μmの線幅にエッチングすることができ、残渣は観察されない。
△:100μmの線幅にエッチングすることができるが、残渣が一部観察される。
×:100μmの線幅にエッチングすることが困難であり、顕著な残渣が観察される。
【0130】
[実施例5〜8]
(1)スパッタリングターゲットの製造
原料の配合比率の影響を検討した。
すなわち、実施例5では、酸化インジウム73重量%、酸化錫20重量%および酸化亜鉛7重量%の配合比率とし、実施例6では、酸化インジウム87重量%、酸化錫10重量%および酸化亜鉛3重量%の配合比率とし、実施例7では、酸化インジウム88重量%、酸化錫10重量%および酸化亜鉛2重量%の配合比率とし、実施例8では、酸化インジウム91重量%、酸化錫7重量%および酸化亜鉛2重量%の配合比率とした他は、それぞれ実施例4と同様にして、ターゲット〔B2〕、〔C2〕、〔D2〕、および〔E2〕を得た。
得られたターゲット〔B2〕、〔C2〕、〔D2〕、および〔E2〕の組成と物性の測定結果を、第3表に示す。
【0131】
(2)ターゲットおよび透明導電性酸化物膜の評価
実施例4と同様にして、得られたターゲット〔B2〕、〔C2〕、〔D2〕、および〔E2〕から、それぞれ透明導電性酸化物を成膜して、ターゲットおよび透明導電性酸化物を評価した。得られた結果を第4表に示す。
【0132】
[比較例4]
(1)スパッタリングターゲットの製造
原料として平均粒径が3μmの酸化亜鉛粉末を使用するとともに、原料の配合比率を酸化インジウム90重量%と、酸化亜鉛10重量%とした他は、実施例4と同様にして、スパッタリングターゲット〔F2〕を得た。ここで得られたスパッタリングターゲット〔F2〕の組成と物性の測定結果を、第3表に示す。
【0133】
(2)ターゲットおよび透明導電性酸化物膜の評価
実施例4と同様にして、得られたターゲット〔F2〕から、それぞれ透明導電性酸化物を成膜して、ターゲットおよび透明導電性酸化物を評価した。得られた結果を第4表に示す。
【0134】
[比較例5〜7]
(1)スパッタリングターゲットの製造
原料の配合比率の影響を検討した。
すなわち、原料の配合比率を、比較例5では、酸化インジウム90重量%、酸化錫10重量%の配合比率とし、比較例6では、酸化インジウム87重量%、酸化錫10重量%および酸化亜鉛3重量%の配合比率とし、比較例7では、酸化インジウム90重量%、酸化錫5重量%および酸化亜鉛5重量%の配合比率とし。
次いで、比較例5および比較例7では、それぞれ実施例4と同様にして、ターゲット〔G2〕および〔I2〕を得た。
また、比較例6では、成形体の焼結温度を1,100℃とした他は、実施例4と同様にして、ターゲット〔H2〕を得た。
それぞれ得られたターゲット〔G2〕、〔H2〕、および〔I2〕の組成と物性の測定結果を、第3表に示す。
【0135】
(2)ターゲットおよび透明導電性酸化物膜の評価
実施例4と同様にして、得られたターゲット〔G2〕、〔H2〕、および〔I2〕から、それぞれ透明導電性酸化物を成膜して、ターゲットおよび透明導電性酸化物を評価した。得られた結果を第4表に示す。
なお、比較例6のターゲット〔H2〕について、X線回折法により結晶性を観察したところ、In23(ZnO)〔ただし、mは2〜20の整数である。〕で表される六方晶層状化合物は観察されなかった。
【0136】
【表3】

【0137】
【表4】

【0138】
[実施例9]
(1)導電性透明フィルムの製造
透明樹脂製基材として、厚さ100μmの2軸延伸ポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を用い、このフィルム上に、ターゲットとして、六方晶層状化合物(結晶粒径4.0μm以下)であるIn23(ZnO)3と、In23と、SnO2とからなる焼結体〔In/(In+Zn)=0.93,Sn/(In+Zn+Sn)=0.08,相対密度=98%〕を用い、スパッタリング法により透明導電性酸化物膜を形成して、導電性透明フィルムを製造した。
すなわち、ポリエステルフィルムをRFスパッタリング装置に装着し、真空槽内を1×10-3Pa以下まで減圧した後、アルゴンガス(純度99.99%)と酸素ガスとの混合ガス〔酸素ガスの濃度=0.28%〕を1×10-1Paまで導入し(酸素分圧:2.8×10-4Pa)、RF出力1.2W/cm2、基材温度20℃の条件で、膜厚250nmの透明導電性酸化物膜を形成した。
【0139】
(2)導電性透明フィルムの評価
(i)膜厚
得られた透明導電性酸化物膜の膜厚を、スローン(Sloan)社製のDEKTAK3030を使用して、触針法により測定した。
【0140】
(ii)X線回折測定
また、透明導電性酸化物膜につき、ロータフレックスRU−200B(リガク社製)を使用して、X線回折測定を行った。その結果、透明導電性酸化物膜は、非晶質であることが確認された。
【0141】
(iii)誘導結合プラズマ発光分光分析
透明導電性酸化物膜におけるIn/(In+Zn)およびSn/(In+Zn+Sn)についての原子比測定を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPS−1500VR(セイコー電子工業社製)を用いて行った。
その結果、原子比In/(In+Zn)は0.93であり、Sn/(In+Zn+Sn)は、0.08であることを確認した。
【0142】
(iv)UV分光測定
透明導電性酸化物膜の光線透過率(光波長500または550nm)を、UV分光測定装置U−3210(日立製作所製)により、測定した。
【0143】
(v)表面抵抗および比抵抗
透明導電性酸化物膜の表面抵抗(初期表面抵抗)を、抵抗測定装置ロレスタFP(三菱化学社製)を使用して測定するとともに、四端子法により比抵抗(初期比抵抗R0 )を測定した。
その結果、初期表面抵抗は10.4Ω/□であり、また初期比抵抗(R0)は2.6×10-4Ω・cmであった。
【0144】
(vi)キャリアの移動度
キャリアの移動度を、ホール係数測定装置であるRESITEST8200(van der Pauw法に基づく測定装置、東洋テクニカ社製)を使用して測定した。その結果、透明導電性酸化物膜におけるキャリアの移動度は、27cm2/V・secであることが判明した。
【0145】
(vii)耐熱性試験
得られた導電性透明フィルムを2つに分け、一方の断片について、耐熱性試験を行った。
すなわち、導電性透明フィルムを、大気中、90℃、1,000時間の条件に放置した後に、透明導電性酸化物膜の比抵抗(R1000)を測定した。
そして、耐熱性試験後の比抵抗(R1000)と、初期比抵抗(R0)との比〔R1000/R0〕で定義される抵抗変化率を算出したところ、1.10と低い値であることを確認した。
【0146】
(viii)エッチング性評価
得られた導電性透明フィルムにおける他方の断片について、温度40℃、濃度5重量%のシュウ酸水溶液をエッチング液として、エッチング性を評価した。その結果、透明導電性酸化物膜のエッチング速度(初期エッチング速度)は、0.2μm/分であることを確認した。
【0147】
[実施例10]
透明基材として、コーニング社製の#7059を使用して、無アルカリガラス基板を用いた他は、実施例9と同様にして導電性透明ガラスを得た。ここでの成膜条件および透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
また、このようにして得られた導電性透明ガラスにおける透明導電性酸化物膜の評価結果を第6表に示す。
さらに、ここで得られた導電性透明ガラスについては、試験片を3つに分け、このうちの2片について、実施例9と同様にして、透明導電性酸化物膜の初期表面抵抗、初期比抵抗(R0)、キャリア移動度、抵抗変化率、および初期エッチング速度を測定した。
そして、残りの1片について、これを200℃で1時間加熱した後に、透明導電性酸化物膜の表面抵抗およびエッチング速度を、実施例9と同様に測定した。また、加熱後における透明導電性酸化物膜の比抵抗を算出した。これら加熱後の透明導電性酸化物膜の評価結果を第7表に示す。
【0148】
[実施例11]
基板温度を215℃とした他は、実施例10と同様にして導電性透明ガラスを得た。ここでの成膜条件および透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
また、得られた導電性透明ガラスにおける透明導電性酸化物膜の評価結果を第6表に示す。
さらに、加熱後の透明導電性酸化物膜の評価結果を第7表に示す。
【0149】
[実施例12]
透明基材として、実施例9と同一のポリエステルフィルムを用いるとともに、スパッタリングターゲットとして、六方晶層状化合物(結晶粒径3.8μm以下)であるIn23(ZnO)3と、In23とSnO2とからなる焼結体〔In/(In+Zn)=0.96,Sn/(In+Zn+Sn)=0.18,相対密度=97%〕を用いて導電性透明フィルムを製造した。
そして、スパッタリングガスとして、アルゴンガス(純度99.99%)と酸素ガスとの混合ガス(酸素ガスの濃度=0.50%)を1×10-1Pa(酸素分圧:5×10-4Pa)まで導入して使用した他は、実施例9と同様にして、透明導電性酸化物膜をポリエステルフィルム上に形成した。ここでの成膜条件と、得られた透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
また、得られた導電性透明ガラスにおける透明導電性酸化物膜の評価結果を第6表に示す。
さらに、加熱後の透明導電性酸化物膜の評価結果を第7表に示す。
【0150】
[実施例13]
透明基材として、実施例10と同一の無アルカリガラス基板を用いた他は、実施例12と同様にして、導電性透明ガラスを得た。ここでの成膜条件と得られた透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
また、得られた導電性透明ガラスにおける透明導電性酸化物膜の評価結果を第6表に示す。
さらに、加熱後の透明導電性酸化物膜の評価結果を第7表に示す。
【0151】
[実施例14]
透明基材として、実施例10と同一の無アルカリガラス基板を用い、スパッタリングターゲットとして、六方晶層状化合物(結晶粒径3.6μm)であるIn23(ZnO)3と、In23とSnO2とからなる焼結体ターゲット〔In/(In+Zn)=0.91,Sn/(In+Zn+Sn)=0.10,相対密度=97%〕を用いた他は、実施例9と同様にして導電性透明ガラスを製造した。ここでの成膜条件と得られた透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
また、得られた導電性透明ガラスにおける透明導電性酸化物膜の評価結果を第6表に示す。
さらに、加熱後の透明導電性酸化物膜の評価結果を第7表に示す。
【0152】
[実施例15]
透明基材として、実施例9と同一のポリエステルフィルムを用い、その表面に、厚さ1μmのエポキシ樹脂層をスピンコート法により設け、UV照射によりこのエポキシ樹脂を光硬化させて架橋性樹脂層を形成した。
次いで、この架橋性樹脂層の上に、実施例14と同様にして、透明導電性酸化物膜を設けることにより、導電性透明フィルムを得た。ここでの成膜条件と得られた透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
また、得られた導電性透明フィルムにおける透明導電性酸化物膜の評価結果を第6表に示す。
さらに、加熱後の透明導電性酸化物膜の評価結果を第7表に示す。
【0153】
[実施例16]
透明基材として、実施例9と同一のポリエステルフィルムを用いるとともに、スパッタリングターゲットとして、六方晶層状化合物(結晶粒径3.8μm)であるIn23(ZnO)3と、In23とSnO2とからなる焼結体〔In/(In+Zn)=0.95,Sn/(In+Zn+Sn)=0.10,相対密度=98%〕を用いて、導電性透明フィルムを作製した。ここでの成膜条件と、得られた透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
また、得られた導電性透明フィルムにおける透明導電性酸化物膜の評価結果を第6表に示す。
さらに、加熱後の透明導電性酸化物膜の評価結果を第7表に示す。
【0154】
[実施例17]
透明基材として、実施例9と同一のポリエステルフィルムを用い、その上に、エレクトロンビーム蒸着法により、厚さ100nmのSiO2層を形成した。次いで、このSiO2層の表面に、実施例12と同様にして透明導電性酸化物膜を設けて、導電性透明フィルムを作製した。
ここでの成膜条件と、得られた透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
また、得られた導電性透明フィルムにおける透明導電性酸化物膜の評価結果を第6表に示す。
さらに、加熱後の透明導電性酸化物膜の評価結果を第7表に示す。
【0155】
[実施例18]
透明基材として、実施例10と同一の無アルカリガラス基板を用い、このガラス基板の温度を215℃とし、かつ、スパッタリング時の混合ガス中の酸素ガス量を3%(酸素分圧:3×10-3Pa)とした他は、実施例9と同様にして導電性透明ガラスを得た。
ここでの成膜条件と、得られた透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
また、得られた導電性透明ガラスにおける透明導電性酸化物膜の評価結果を第6表に示す。
さらに、加熱後の透明導電性酸化物膜の評価結果を第7表に示す。
【0156】
[比較例8]
透明基材として、実施例10と同一の無アルカリガラス基板を用い、スパッタリングターゲットとして、In23(ZnO)3で表される六方晶層状化合物(結晶粒径12μm)と、In23とからなる焼結体〔In/(In+Zn)=0.95,相対密度=80%〕を用いた他は、実施例9と同様にして、導電性透明ガラスを作製した。
ここでの成膜条件とm得られた透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
また、得られた導電性透明ガラスについて、実施例9と同様にして評価した。その評価結果を第6表に示す。
なお、ここで成膜した透明導電性酸化物膜を加熱処理した後の透明導電性酸化物膜は、X線回折法による分析の結果、酸化インジウムの結晶が存在することが確認された。
【0157】
[比較例9]
透明基材として、実施例10と同一の無アルカリガラス基板を用い、スパッタリングターゲットとして、ITOターゲット〔In23/5at.%SnO2〕を用いた他は、実施例11と同様にして、導電性透明ガラスを得た。
得られた導電性透明ガラスの透明導電性酸化物膜は、X線回折測定の結果、酸化インジウムの結晶が存在することが確認された。
また、ここでの成膜条件と、得られた透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
さらに、導電性透明ガラスの評価結果を第6表に示す。
【0158】
[比較例10]
透明基材として、実施例10と同一の無アルカリガラス基板を用いるとともに、スパッタリングターゲットとして、六方晶層状化合物(結晶粒径8μm以下)であるIn23(ZnO)3と、In23とSnO2とからなる焼結体〔In/(In+Zn)=0.98,Sn/(In+Zn+Sn)=0.05,相対密度=94%〕を用いた他は、実施例11と同様にして、導電性透明ガラスを得た。
得られた導電性透明ガラスの透明導電性酸化物膜には、X線回折測定の結果、酸化インジウムの結晶が存在することが確認された。
また、ここでの成膜条件と、得られた透明導電性酸化物膜の構成金属の原子比を第5表に示す。
さらに、導電性透明ガラスの評価結果を第6表に示す。
【0159】
【表5】

【0160】
【表6】

【0161】
【表7】

【0162】
[実施例19]
(1)透明導電材料の製造
平均粒径が1μmの酸化インジウム粉末と、平均粒径が1μmの酸化亜鉛粉末と、および平均粒径が0.5μmの酸化錫粉末とが、酸化インジウム80重量%、酸化亜鉛5重量%および酸化錫15重量%の比率になるように湿式ボールミルに供給し、次いで、72時間混合粉砕して、原料微粉末を得た。
次いで、造粒し、ターゲットの形状にプレス成形して、さらに温度1,450℃において焼成することにより、焼結体を得た。
得られた焼結体(結晶粒径4.0μm以下)の相対密度は98%であり、また、そのバルク抵抗は、0.83mΩ・cmであった。
次いで、この焼結体にスパッタリング装置への装着用治具を取り付て、ターゲットとして使用した。このターゲットは、直径10.16cmの大きさとしたものを用いた。
そして、このターゲットを用いて、無アルカリガラス基板#7059(コーニング社製)上に、スパッタリングにより、透明導電性酸化物膜を形成した。すなわち、無アルカリガラス基板#7059を、RFマグネトロンスパッタリング装置に装着した後、真空槽内を5×10-4Pa以下まで減圧した、次いで、アルゴンガスと酸素ガスとの混合ガスを3×10-1Paまで導入し、RF出力を100ワットとし、基板温度を室温に保持しながらスパッタリングして、透明導電性酸化物膜を形成し、透明導電ガラスを得た。
【0163】
(2)ターゲットおよび透明導電性酸化物膜の評価
上記(1)で得られた焼結体(ターゲット)の組成、相対密度、バルク抵抗、結晶性について評価した。それら結果を第8表に示す。
また、上記(1)で得られた焼結体(ターゲット)を用いて、透明基材の温度を室温に保持してスパッタした場合と、200℃に保持してスパッタした場合にそれぞれ得られた透明導電性酸化物膜の比抵抗と結晶性の評価をした。これら評価結果を第9表に示す。
得られた透明導電性酸化物膜の結晶性については、X線回折測定装置であるロータフレックスRU−200B(リガク社製)を用いて行い、X線回折チャートから判断して、非晶質であることを確認した。
また、透明導電性酸化物膜の組成分析については、誘導結合プラズマ発光分光分析をSPS−1500VR(セイコー電子工業社製)を使用して行った。
また、この導電性透明ガラスの光線透過率(光波長500nmまたは550nm)は、UV分光測定装置U−3210(日立製作所製)を使用して、測定した。
また、透明導電性酸化物膜の表面抵抗(以下、初期表面抵抗という)を、抵抗測定装置ロレスタFP(三菱化学社製)を使用して測定し、その比抵抗を四端子法により測定した。
さらに、透明導電性酸化物膜の膜厚については、触針法により、DEKTAK3030(スローン(Sloan)社製)を使用して測定した。
【0164】
(3)透明導電性酸化物膜の熱処理
上記(1)で得られた透明導電ガラスにつき、透明基材の温度を室温で成膜した透明導電性酸化物膜では280℃、透明基材の温度を200℃で成膜した透明導電性酸化物膜では250℃において、それぞれ1時間の熱処理を行った。そして、この熱処理後の透明導電性酸化物膜について、その比抵抗および結晶性の評価をした。これら評価結果を第9表に示す。
【0165】
[実施例20〜22]
(1)焼結体および透明導電性酸化物膜の製造
原料の配合割合を第8表に示すとおりに変更した他は、実施例20〜22において、実施例19と同様にして焼結体を製造した。
次いで、それぞれ得られた焼結体を用いて、実施例19と同様にして透明導電性酸化物膜を製造した。
なお、スパッタリング時の透明基材の温度は、第9表に示す温度とした。
【0166】
(2)焼結体および透明導電性酸化物膜の評価
上記(1)で得られた焼結体および透明導電性酸化物膜につき、実施例19の(2)と同様にしてこれらの評価をした。結果を第8表および第9表に示す。
【0167】
(3)透明導電性酸化物膜の熱処理
上記(1)で得られた透明導電材料につき、第9表に示す熱処理温度とした他は、実施例19の(3)と同様に熱処理した。結果を第9表に示す。
【0168】
[比較例11〜15]
(1)焼結体および透明導電性酸化物膜の製造
原料の配合割合を第8表に示すとおりに変更した他は、比較例11〜15において、実施例19と同様にしてそれぞれ焼結体を製造した。
なお、平均粒径が3μmの酸化インジウム粉末、平均粒径が3μmの酸化亜鉛粉末および平均粒径が3μmの酸化錫粉末を使用した。
次いで、得られた焼結体を用いて、実施例19と同様にして透明導電性酸化物膜を製造した。
なお、スパッタリング時の透明基材の温度は、第9表に示す温度とした。
【0169】
(2)焼結体および透明導電性酸化物膜の評価
上記(1)で得られた焼結体および透明導電性酸化物膜につき、実施例19の(2)と同様にしてこれらの評価をした。結果を第8表および第9表に示す。
【0170】
(3)透明導電性酸化物膜の熱処理
上記(1)で得られた透明導電材料につき、第2表に示す熱処理温度とした他は、実施例19の(3)と同様に熱処理した。結果を第9表に示す。
【0171】
【表8】

【0172】
【表9】

*微結晶を含むことを意味する。
【0173】
[実施例23]
(1)透明導電性酸化物膜の形成
平均粒径が1μmの酸化インジウム粉末と、平均粒径が1μmの酸化亜鉛粉末と、および平均粒径が0.5μmの酸化錫粉末とが、酸化インジウム84.8重量%、酸化亜鉛5.2重量%および酸化錫10.0重量%の比率になるように、これら金属酸化物の粉末を、湿式ボールミルによって混合粉砕した。その後、造粒し、ターゲットの形状にプレス成形して、さらに温度1,450℃において焼成することにより、焼結体(結晶粒径3.7μm以下)を得た。
次いで、得られた焼結体にスパッタリング装置への装着用治具を取付て、スパッタリングターゲットとして使用した。このターゲットの寸法は、直径10.16cmの大きさであった。
次いで、このターゲットを用いてスパッタリングを行った。透明基材として、無アルカリガラス基板〔コーニング社製:#7059〕を用いた。また、スパッタリング装置としては、平行平板型のマグネトロンスパッタリング装置を用い、この装置内の真空排気を5×10-5Paまで行った。このときの真空チャンバー内の水分量をマススペクトルメーターにより測定したところ、8×10-6Paであった。
次いで、この装置内に酸素ガス含有割合が1容量%のアルゴンガスを導入し、スパッタ圧力を0.3Paに調整して、スパッタリングを行い、ガラス基板上に透明導電性酸化物膜を成膜した。得られた透明導電性酸化物膜の厚みは、1.2nmであった。
そして、X線光電子分光法による酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの測定には、アルバックファイ社製のESCA5400を用い、X線源としては、Mg−Kαを使用した。また、検出器は静電半球型を用い、パスエネルギーは35.75eVとした。そして、ピークの基準は、インジウムの3d5/2を444.4eVに設定して測定した。さらに、ここで得られたピークの半値幅は、シレリーの式を用いてベースラインを設定してその値を算出した。
その結果、透明導電性酸化物膜表面のXPS法による酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅は、2.6eVであった。
なお、ここで測定した透明導電性酸化物膜表面のXPS法による酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークを第12図に示す。
【0174】
(2)透明導電性酸化物膜の評価
上記(1)で得られた透明導電性酸化物膜について、結晶性、光線透過率、比抵抗およびエッチング特性の評価をした。
透明導電性酸化物膜の結晶性については、ロータフレックスRU−200B(リガク社製)を使用して、X線回折測定することにより確認した。
また、透明導電性酸化物膜の光線透過率(光波長500nmまたは550nm)は、U−3210(日立製作所製)を使用して、UV分光測定によりガラス基板を含めて測定した。
さらに、透明導電性酸化物膜の表面抵抗は、ロレスタFP(三菱化学社製)を使用して、四端子法により測定し、その比抵抗を算出した。
そして、エッチング特性については、エッチング液として濃度3.4重量%のシュウ酸水溶液を用い、40℃において測定した。
【0175】
(3)接続抵抗の測定
次いで、上記(1)で得られた透明導電性酸化物膜を、ピッチ110μm、ギャップ20μmのストライプ状にエッチングした後、このストライプ状の透明導電性酸化物膜の上に、異方導電膜を重ねて180℃において熱圧着し、これら透明導電性酸化物膜と異方導電膜との間の接続抵抗を測定した。この抵抗の平均値は、8Ωであった。
さらに、この接続抵抗の長期安定性を確認するために、透明導電性酸化物膜上に異方導電膜を重ねて熱圧着した試験片を、95℃に保持されたオーブン内に120時間放置した後の試験片につき、再度、接続抵抗を測定した。この試験片においては、このような長時間の加熱処理後においても接続抵抗に変化は見られなかった。
ここで得られた透明導電性酸化物膜の組成および評価結果を、第10表に示す。
【0176】
[実施例24]
原料の金属酸化物成分の配合割合を、酸化インジウム87.3重量%と、酸化錫9.5重量%および酸化亜鉛3.2重量%に変更した他は、実施例23と同様にターゲットを作製するとともに、透明導電性酸化物膜を成膜した。この場合、真空チャンバー内の水分量は、7×10-6Paであった。
そして、得られた透明導電性酸化物膜の酸素1S軌道におけるバインディングエネルギーピークの半値幅をXPS法により測定したところ、2.5eVであった。
この透明導電性酸化物膜の組成および評価結果を、第10表に示す。
【0177】
[実施例25]
原料の金属酸化物成分の配合割合を、酸化インジウム81.6重量%、酸化錫12.2重量%、および酸化亜鉛6.2重量%に変更した他は、実施例23と同様にターゲットを作製するとともに、透明導電性酸化物膜を成膜した。この場合、真空チャンバー内の水分量は、9×10-6Paであった。
そして、この透明導電性酸化物膜のXPS法により測定した酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅は2.7eVであった。この透明導電性酸化物膜の組成および評価結果を、第10表に示す。
【0178】
[比較例16]
平均粒径が3μmの酸化インジウム粉末と、平均粒径が3μmの酸化錫粉末と、および平均粒径が3μmの酸化亜鉛粉末とを用いるとともに、配合割合を、酸化インジウム88.7重量%、酸化錫10.1重量%、および酸化亜鉛1.2重量%に変更した他は、実施例23と同様にターゲット(結晶粒径15μm)を作製するとともに、透明導電性酸化物膜を成膜した。
この場合、真空チャンバー内の水分量は、9×10-6Paであった。
得られた透明導電性酸化物膜のXPS法により測定した酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅は2.9eVであった。
また、ここで得られた透明導電性酸化物膜は、エッチング速度が4.4オングストローム/秒と小さいものであった。
この透明導電性酸化物膜の組成および評価結果を、第10表に示す。
【0179】
[比較例17]
平均粒径が3μmの酸化インジウム粉末と、平均粒径が3μmの酸化錫粉末と、および平均粒径が3μmの酸化亜鉛粉末とを用いるとともに、配合割合を、酸化インジウム84.8重量%、酸化錫10.0重量%および酸化亜鉛5.2重量%にした他は、実施例23と同様にターゲット(結晶粒径11μm)を作製した。
次いで、スパッタリング開始時の真空排気を2×10-5Paまで排気し、酸素ガスを1容量%含有するアルゴンガスにより、0.3Paに圧力調整した後、真空チャンバー内の水分量を9×10-4Paに調整した他は、実施例23と同様に透明導電性酸化物膜を成膜した。
得られた透明導電性酸化物膜における酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅は3.3eVであった。
また、得られた透明導電性酸化物膜を、95℃、120時間の条件で熱処理したところ、接続抵抗が大幅に増大した。
この透明導電性酸化物膜の組成および評価結果を、第10表に示す。
【0180】
[比較例18]
平均粒径が3μmの酸化インジウム粉末と、平均粒径が3μmの酸化錫粉末と、および平均粒径が3μmの酸化亜鉛粉末とを用いるとともに、配合割合を、酸化インジウム83.4重量%、酸化錫4.3重量%、および酸化亜鉛12.3重量%に変更した他は、実施例23と同様にターゲット(結晶粒径14μm)を作製するとともに、透明導電性酸化物膜を成膜した。この場合、真空チャンバー内の水分量は、1×10-7Paであった。
得られた透明導電性酸化物膜における酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークにおける半値幅は3.8eVであった。ここで測定した透明導電性酸化物膜表面のXPS法による酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークを第13図に示す。
また、得られた透明導電性酸化物膜を95℃、120時間の条件で熱処理したところ、接続抵抗が大幅に増大した。
この透明導電性酸化物膜の組成および評価結果を、第10表に示す。
【0181】
[比較例19]
平均粒径が3μmの酸化インジウム粉末と、平均粒径が3μmの酸化錫粉末とを用いるとともに、配合割合を、酸化インジウム90.0重量%および酸化錫10.0重量%としたほかは、実施例23と同様にターゲット(結晶粒径18μm)を作製した。
次いで、スパッタリング開始時の真空排気を2×10-5Paまで排気し、酸素ガスを1容量%含有するアルゴンガスにより、0.3Paに圧力調整した後、真空チャンバー内の水分量を、9×10-4Paに調整した他は、実施例23と同様に透明導電性酸化物膜を成膜した。
このようにして得られた透明導電性酸化物膜の酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅は3.4eVであった。
また、得られた透明導電性酸化物膜を95℃、120時間の条件で熱処理したところ、接続抵抗が大幅に増大した。
この透明導電性酸化物膜の組成および評価結果を、第10表に示す。
【0182】
【表10】

*結晶評価における非晶とは非晶質を意味する。
【0183】
[実施例26]
(1)基板への有機着色層の形成
基板として、ガラス基板を用い、その表面に酸化クロムからなる遮光層を形成した。遮光層の形成はスパッタリング法により行い、酸化クロム層の厚みは0.1μmとした。
次いで、フォトリソグラフィ法により、上記遮光層をその一方向に110μmのピッチで、またこれに直交する方向に330μmのピッチで、線幅30μmの格子状に加工した。
次いで、緑色顔料としてフタロシアニングリーン系顔料(Color Index No74160 Pigment Green 36)を用いて、透明なポリイミド前駆体溶液セミコファインSP−910(東レ社製)に分散混合したペーストを、格子状の酸化クロム層の上に塗布した。これをセミキュアし、画素に対応した幅90μm、ピッチ330μmのストライプ状の緑色有機着色層を形成した後、これを硬化させた。この緑色有機着色層の厚さは、1.5μmとした。
また、赤色顔料としてはキナクリドン系顔料(Color Index No73905 Pigment Red 209)を用い、青色顔料としてフタロシアニンブルー系顔料(Color Index No 74160 Pigment Blue 15−4)を用いて、これらをそれぞれ上記ポリイミド前駆体溶液に分散混合して得たペーストにより、上記と同様にして赤色有機着色層と青色有機着色層を形成した。
そして、これら有機着色層の上に、上記ポリイミド前駆体溶液を塗布して硬化させることにより、厚さ2μmの保護層を形成した。
【0184】
(2)透明導電膜の形成
上記(1)で得られた有機着色層を有するガラス基板の有機着色層上に、スパッタリング法により透明導電膜(透明導電性酸化物膜)を形成した。
ここで用いたスパッタリングターゲットは、次のように作製した。すなわち、酸化インジウム粉末80重量%と酸化錫粉末15重量%および酸化亜鉛5重量%の混合物を、湿式ボールミルにより混合粉砕した。その後、造粒してプレス成形し、さらに焼成炉において、酸素ガス加圧下に、1,450℃、36時間の条件で焼結し、結晶粒径が4.0μmのターゲット〔A6〕を得た。
得られたターゲット〔A6〕を、DCマグネトロンスパッタリング装置に装着し、上記ガラス基体の有機着色層上に、スパッタリングにより透明導電膜を形成させた。
この場合のスパッタ条件としては、雰囲気はアルゴンガスに適量の酸素ガスを混入して用い、スパッタ圧力3×10-1Pa、到達圧力5×10-4Pa、基板温度25℃、投入電力100W、成膜時間20分間とした。
この結果、有機着色層上に、膜厚が約120nmの透明導電膜が形成された。
この透明導電膜についてX線回折法により結晶性の観察をした結果、非晶質であることを確認した。
また、別のガラス基板の有機着色層上に、スパッタ時の基板温度を180℃の条件にして、透明導電膜を形成した。この透明導電膜も非晶質であった。
透明導電膜の原料組成および物性を第11表に示す。
【0185】
(3)透明導電膜のエッチング性の評価
得られた透明導電膜のエッチング性について評価した。
すなわち、有機着色層上に形成した透明導電膜の一部を、5重量%濃度のシュウ酸水溶液により40℃においてエッチングし、エッチング部と非エッチング部との境界部分の断面を電子顕微鏡により観察した。
その結果、エッチング部に透明導電膜が残存するようなことはなく、非エッチング部に残存する透明導電膜のエッジ部が、エッチング部に向けて滑らかに傾斜した断面形状をなしていることが確認された。
よって、得られた透明導電膜は、弱酸を用いたエッチングにおいても加工性が良好であることが判明した。
なお、透明導電膜のエッチング加工性を評価するにあたり、実施例4に記載した評価基準を採用した。評価結果を第2表に示す。
【0186】
(4)透明導電膜の熱処理による結晶化
次いで、上記(2)で得られたガラス基板の有機着色層上に形成した透明導電膜の熱処理を実施した。
この場合の熱処理条件としては、アルゴンガス雰囲気下、20℃/分の昇温速度において、230℃まで加熱し、230℃での保持時間を1時間とした。
この熱処理後の透明導電膜は、結晶質であり、その四探針法により測定した比抵抗は230×10-6Ω・cmであった。
さらに、この透明導電性酸化物膜の透明性については、分光光度計により波長500nmの光線についての光線透過率が82%であり、透明性においても優れたものであった。
なお、この熱処理による有機着色層の熱劣化等の悪影響は見られなかった。
【0187】
[実施例27]
(1)透明導電膜の形成
実施例26の(1)と同様にして得られた有機着色層を有するガラス基板の有機着色層上に、スパッタリングターゲットとして、酸化インジウム粉末84重量%と酸化錫粉末12重量%および酸化亜鉛4重量%の混合物を原料とした他は、実施例26の(2)と同様にして製造したターゲット〔B6〕(結晶粒径4.0μm)を用いて、透明導電膜を形成した。
その原料組成および物性を第11表に示す。
【0188】
(2)透明導電膜のエッチング性の評価
上記(1)で得られた透明導電膜のエッチング性を、実施例26の(3)と同様にして評価した。結果を第12表に示す。
【0189】
(3)透明導電膜の熱処理による結晶化および透明導電膜の評価
次いで、上記(1)で得られた透明導電膜の熱処理を、実施例26の(4)と同様にして実施し、透明導電膜を得た。結果を第12表に示す。
【0190】
[実施例28]
(1)透明導電膜の形成
実施例26の(1)と同様にして得られた有機着色層を有するガラス基板の有機着色層上に、スパッタリングターゲットとして、酸化インジウム粉末87重量%と酸化錫粉末10重量%および酸化亜鉛2重量%の混合物を原料とした他は実施例26の(2)と同様にして製造したターゲット〔C6〕(結晶粒径4.1μm)を用いて、透明導電膜を形成した。
その原料組成および物性を第11表に示す。
【0191】
(2)透明導電膜のエッチング性の評価
上記(1)で得られた透明導電膜のエッチング性を、実施例26の(3)と同様にして評価した。結果を第12表に示す。
【0192】
(3)透明導電膜の熱処理による結晶化
次いで、上記(1)で得られた透明導電膜の熱処理を、実施例26の(4)と同様にして実施した。結果を第12表に示す。
【0193】
[実施例29]
(1)透明導電膜の形成
実施例26の(1)と同様にして得られた有機着色層を有するガラス基板の有機着色層上に、スパッタリングターゲットとして、酸化インジウム粉末88重量%と酸化錫粉末10重量%および酸化亜鉛2重量%の混合物を原料とした他は実施例26の(2)と同様にして製造したターゲット〔D6〕(結晶粒径4.0μm)を用いて、透明導電膜を形成した。
その原料組成および物性を第11表に示す。
【0194】
(2)透明導電膜のエッチング性の評価
上記(1)で得られた透明導電膜のエッチング性を、実施例26の(3)と同様にして評価した。結果を第12表に示す。
【0195】
(3)透明導電膜の熱処理による結晶化
次いで、上記(1)で得られた透明導電膜の熱処理を、実施例26の(4)と同様にして実施した。結果を第12表に示す。
【0196】
[比較例20]
(1)透明導電膜の形成
実施例26の(1)と同様にして得られた有機着色層を有するガラス基板の有機着色層上に、酸化インジウム粉末90重量%と、酸化錫粉末10重量%の混合物を原料としており、酸化亜鉛粉末を含まないターゲット〔E6〕(結晶粒径12μm)を用いて、透明導電膜を形成した。
ここで得られた透明導電膜はX線回折法により結晶性の観察をした結果、結晶質であった。
その原料組成および物性を第11表に示す。
【0197】
(2)透明導電膜のエッチング性の評価
上記(1)で得られた透明導電膜のエッチング性を、実施例26の(3)と同様にして評価した。結果を第12表に示す。
【0198】
(3)透明導電膜の熱処理
次いで、上記(1)で得られた透明導電膜の熱処理を、実施例26の(4)と同様にして実施した。結果を第12表に示す。
【0199】
[比較例21]
(1)透明導電膜の形成
実施例26の(1)と同様にして得られた有機着色層を有するガラス基板の有機着色層上に、スパッタリングターゲットとして、酸化インジウム粉末90重量%と、平均粒径が3μmを超える酸化亜鉛粉末10重量%の混合物を原料とした他は、実施例26の(2)と同様にして製造したターゲット〔F6〕(結晶粒径18μm)を用いて、透明導電膜を形成した。
ここで得られた透明導電膜はX線回折法により結晶性の観察をした結果、非晶質であった。その原料組成および物性を第11表に示す。
【0200】
(2)透明導電膜のエッチング性の評価
上記(1)で得られた透明導電膜のエッチング性を、実施例26の(3)と同様にして評価した。結果を第12表に示す。
【0201】
(3)透明導電膜の熱処理
次いで、上記(1)で得られた透明導電膜の熱処理を、実施例26の(4)と同様にして実施した。結果を第12表に示す。
【0202】
[比較例22]
(1)透明導電膜の形成
実施例26の(1)と同様にして得られた有機着色層を有するガラス基板の有機着色層上に、スパッタリングターゲットとして、平均粒径が3μmを超える酸化インジウム粉末94重量%と、平均粒径が3μmを超える酸化錫粉末5重量%と、平均粒径が3μmを超える酸化亜鉛粉末1重量%との混合物を原料とした他は、実施例26の(2)と同様にして製造したターゲット〔G6〕(結晶粒径15μm)を用いて、透明導電膜を形成した。
ここで得られた透明導電膜はX線回折法により結晶性の観察をした結果、非晶質であった。
また、このターゲット〔G6〕を用いて、スパッタ時の基板温度を200℃として透明導電膜を形成した。
得られた透明導電膜は結晶質であった。その原料組成および物性を第11表に示す。
【0203】
(2)透明導電膜のエッチング性の評価
上記(1)で得られた透明導電膜のエッチング性を、実施例26の(3)と同様にして評価した。結果を第12表に示す。
【0204】
(3)透明導電膜の熱処理
次いで、上記(1)における基板温度を室温として形成した透明導電膜の熱処理を、実施例26の(4)と同様にして実施した。結果を第12表に示す。
【0205】
[比較例23]
(1)透明導電膜の形成
実施例26の(1)と同様にして得られた有機着色層を有するガラス基板の有機着色層上に、平均粒径が3μmを超える酸化インジウム粉末90重量%と、平均粒径が3μmを超える酸化錫粉末5重量%と、平均粒径が3μmを超える酸化亜鉛粉末5重量%との混合物を原料としたスパッタリングターゲット〔H6〕(結晶粒径17μm)を用いて、透明導電膜を形成した。
得られた透明導電膜は、X線回折法により結晶性の観察をした結果、非晶質であった。
また、このターゲット〔H6〕を用いて、スパッタ時の基板温度を200℃として透明導電膜を形成した。
得られた透明導電膜は結晶質であった。その原料組成および物性を第11表に示す。
【0206】
(2)透明導電膜のエッチング性の評価
上記(1)で得られた透明導電膜のエッチング性を、実施例26の(3)と同様にして評価した。結果を第12表に示す。
【0207】
(3)透明導電膜の熱処理
次いで、上記(1)における基板温度を室温として形成した透明導電膜の熱処理を、実施例26の(4)と同様にして実施した。結果を第12表に示す。
【0208】
【表11】

【0209】
【表12】

*結晶評価における非晶とは非晶質を意味する。
*結晶評価における結晶とは結晶質を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
In/(In+Zn)で表わされる原子比が、0.75〜0.97の範囲であるとともに、In23 (ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径が5μm以下の値であるスパッタリングターゲットから成膜してなる透明導電性酸化物。
【請求項2】
前記スパッタリングターゲットが、酸化インジウムを67〜93重量%の範囲、酸化錫を5〜25重量%の範囲、および酸化亜鉛を2〜8重量%の範囲で含むとともに、錫/亜鉛の原子比が1以上の値であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性酸化物。
【請求項3】
230℃以上の温度で結晶化させてなる請求項1または2に記載の透明導電性酸化物。
【請求項4】
X線光電子分光法で測定される酸素1S軌道のバインディングエネルギーピークの半値幅を3eV以下の値とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明導電性酸化物。
【請求項5】
基材上、または該基材上に設けた着色層上に形成してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の透明導電性酸化物。
【請求項6】
JIS B0601に準拠して測定されるP−V値を1μm以下の値とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の透明導電性酸化物。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−68993(P2011−68993A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238811(P2010−238811)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【分割の表示】特願2001−539936(P2001−539936)の分割
【原出願日】平成12年11月22日(2000.11.22)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】