説明

セラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法、セラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法、セラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤および半導体装置

【課題】ハイドロジェンシロキサン系ポリマーを使用して、無機質基材上の凹凸、段差を平坦化でき、クラック、ピンホールがなく、シラノール基等を実質的に含有していないセラミック状酸化ケイ素系被膜を形成する方法、かかる被膜を有する無機質基材の製造方法、かかる被膜に変換可能な被膜形成剤および半導体装置を提供する。
【解決手段】無機質基材にオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーを被覆し不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中で高温加熱して、該被膜をセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換することによる、セラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法、該被膜を有する無機質基材の製造方法。オルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー又はその溶液からなるセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤。無機質基板の酸化ケイ素系被膜上に少なくとも半導体層が形成されている半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法、表面にセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法、セラミック状酸化ケイ素系被膜に変換可能な被膜形成剤、および、無機質基材のセラミック状酸化ケイ素系被膜上に少なくとも半導体層が形成されている半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池等の半導体装置の電極層、半導体層、発光層等形成に使用される基板に要求される基本特性として、電極層、半導体層、発光層等形成プロセスにおける高温により変質したり劣化したり歪みを生じないこと、高い平坦性を有していること、大気中の湿気によりさび等の変化を生じないこと、また、半導体膜中にピンホール等の欠陥を生じさせないこと、さらには、反り、剥がれ、割れが生じないこと等が挙げられる。近年の電子機器、半導体装置の軽薄短小化、多様化に伴い、また経済性の面より、薄膜太陽電池、反射型液晶表示装置用薄膜トランジスター(TFT)、薄膜エレクトロルミネッセンス表示素子等の薄膜半導体素子ないし装置が注目されている。特に宇宙衛星用太陽電池は軽量化が最も重要な課題の一つであり、高性能の薄膜太陽電池が要望されている。そのための基板として、金属基板、ガラス基板、セラミック基板などがあり、それらの表面は一見平坦であるが、仔細に観察すると微細な凹凸(例えば、突起、隆起、窪み、溝、孔)がある。こうした表面に電極薄層、半導体薄層、発光薄層等を形成すると、不均一な薄層となり、欠陥箇所となりかねない。
【0003】
一方、これらの薄膜半導体デバイスの高集積化・多層化に伴い、半導体デバイスの複雑化および半導体デバイス表面の段差が著しくなってきている。半導体デバイスを、機械的損傷、化学的損傷、静電的損傷、イオン性汚染、非イオン性汚染および放射線汚染等から保護するため、あるいは、半導体デバイス表面の段差を平坦化するため、半導体デバイス表面にパッシベーション膜が形成されている。また、半導体デバイスの電気回路の多層化に伴い、配線間の電気絶縁および平坦化を目的として層間絶縁膜が形成されている。
【0004】
半導体デバイス表面に形成されるパッシベーション膜および層間絶縁膜としては、酸化ケイ素系膜が一般に用いられる。半導体デバイス表面に酸化ケイ素系膜を形成する方法としては、例えば、CVD(化学気相蒸着)法およびスピンコート法があり、スピンコート法により半導体デバイス表面に酸化ケイ素系膜を形成する方法として、例えば、特許文献1(特公平6-42478)に開示された無機SOG(スピンオングラス)を用いる方法、および、有機SOGを用いる方法がある。
【0005】
しかし、無機SOGにより形成された酸化ケイ素系被膜は、その膜厚が0.3μmを越えるとクラックを生じるため、1μm以上の段差を有する半導体デバイスの段差を埋めるため、すなわち、平坦化するには重ね塗りが必要であった。また、無機SOGは被膜自体の平坦化能力が乏しいため、被膜形成後エッチバックによる平坦化工程が必要であった。
【0006】
一方、有機SOGにより形成された酸化ケイ素系被膜は、1回の塗布でクラックを有しない厚さ2μm未満のシリカ系被膜を形成することは可能ではある。しかし、無機SOGと同様、被膜自体の平坦化能力が乏しいため、被膜形成後エッチバックによる平坦化工程が必要であった。また、酸化ケイ素被膜中に多量のシラノール基およびアルコキシ基が残存するため、吸湿性が高く、酸素プラズマ処理の際に残存アルコキシ基によるカーボンポイズン(炭素汚染)の問題が生じ、層間絶縁剤としては電気的信頼性が劣るという問題があった。
【0007】
このため、無機SOGおよび有機SOGにより形成された酸化ケイ素系被膜の問題点を改良する方法として、例えば、特公平6−42477(特許文献2)には、電子デバイス上に水素シルセスキオキサン樹脂溶液を被覆し、溶剤を蒸発させて水素シルセスキオキサン樹脂被膜を形成し、150〜1000℃で加熱することによりセラミック様酸化ケイ素系被膜を形成する方法が開示されている。特開平3−183675(特許文献3)には、基板上に水素シルセスキオキサン樹脂溶液をコーテイングし、溶剤を蒸発させて水素シルセスキオキサン樹脂被膜を形成し、500〜1000℃で加熱することによりセラミック様酸化ケイ素系被膜を形成する方法が開示されている。特開2005−26534(特許文献4)の特には段落[0061]、図11(b)にも同様の方法が記載されている。この方法は、加熱により水素シルセスキオキサン樹脂自体が溶融するので、電子デバイス表面の段差を平坦化する能力に優れており、エッチバック工程を必要としない。また、水素シルセスキオキサン樹脂はそのシロキサン構造中に有機基を有しないために、酸素プラズマ処理の際のカーボンポイズンの心配がないという利点を有する。
【0008】
しかし、特許文献2〜特許文献4に開示された酸化ケイ素系膜の形成方法では、0.8μm以上の膜厚を有する酸化ケイ素系被膜をクラックなしで形成することが容易でない。そのため、電子デバイス、特には半導体デバイス表面の0.8μm以上の段差を完全に平坦化することができないという問題があった。また、この方法により厚膜の酸化ケイ素系被膜を形成しようとすると、酸化ケイ素系被膜にクラックおよびピンホールを生じることがあり、電子デバイス、特には半導体デバイスの信頼性を著しく低下させるという問題があった。
【0009】
かかる問題点を解決する方法が、特開2007−111645号(特許文献5)、WO2007/046560A2(特許文献6)に開示されている。環状ジハイドロジェンポリシロキサン又は分岐状ハイドロジェンポリシロキサンを無機質基板に被覆し、加熱等することによりハイドロジェンポリシロキサンをシリカに変換して無機質基板上にシリカ系ガラス薄層を形成している。しかし、環状ジハイドロジェンポリシロキサン、分岐状ハイドロジェンポリシロキサンともに、通常ジハイドロジェンジクロロシランを合成原料としている。ジハイドロジェンジクロロシランは、沸点が8℃であり、易燃性であり、加水分解性が著しく大きいので、環状ジハイドロジェンポリシロキサン、分岐状ハイドロジェンポリシロキサン合成時の取り扱いに細心の注意を要するという問題がある。また、環状ジハイドロジェンポリシロキサン、分岐状ハイドロジェンポリシロキサンとも[H2SiO2/2]単位を有するので、製造時および保管時に細心の注意を要するという問題がある。縮合反応作用のある不純物が存在すると脱水素縮合反応が急激に起こるからである。
【0010】
【特許文献1】特公平6−42478号公報
【特許文献2】特公平6−42477号公報
【特許文献3】特開平3−183675号公報
【特許文献4】特開2005−26534号公報
【特許文献5】特開2007−111645号公報
【特許文献6】WO2007/046560A2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、上記問題点のないセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法、酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法を開発すべく鋭意研究した結果、無機質基材上にオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーからなる被膜を形成し、次いで、不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中でセラミック状酸化ケイ素に変換されるまで高温で加熱すればよいことを見出した。
【0012】
本発明の目的は、上記問題点のないセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法、セラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法、セラミック状酸化ケイ素系被膜に変換可能な被膜形成剤、セラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基板を使用した半導体装置を提供することにある。すなわち、製造時および保管時に細心の注意をしなくてもよいハイドロジェンシロキサン系ポリマーを使用して、無機質基材、特には無機質基板の微細な凹凸のある表面を平坦化することができ、無機質基材、特には電子デバイスの段差のある表面を平坦化することができ、1.0 μmを越える膜厚であってもクラックおよびピンホールがなく、かつ、形成されたセラミック状酸化ケイ素系被膜中に吸湿の原因となるシラノール基およびカーボンポイズンの原因となるアルコキシ基を実質的に含有していないセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法、かかるセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法、かかるセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換可能な被膜形成剤を提供することにある。さらには、かかる無機質基材を使用した、信頼性と耐久性に優れ、薄膜化が可能な半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
「[1] 無機質基材表面に、シロキサン単位式:(HRSiO2/2(HSiO3/2) (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択される1価炭化水素基であり、nは平均0.01≦n≦0.80の数であり、n+m=1である)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーからなる被膜を形成し、次いで、該被膜の形成された該無機質基材を不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中で高温加熱して、該被膜をセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換することを特徴とする、セラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。
[1-1] シロキサン単位式(1)中のnが平均0.05≦n≦0.50の数であることを特徴とする、[1]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。
[1-2] シロキサン単位式(1)中のRがメチル基、フェニル基、又は、メチル基とフェニル基であることを特徴とする、[1] 又は[1-1]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。
[2] 不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする、[1]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。
[2-1] 不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする、[1-1] 又は[1-2]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。
[3] 加熱温度が300〜600℃であることを特徴とする、[1]又は[2]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。
[3-1] 加熱温度が300〜600℃であることを特徴とする、[1-1]、[1-2]又は[2-1]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。」に関する。
【0014】
本発明は、さらには
[4] 無機質基材表面に、シロキサン単位式:(HRSiO2/2(HSiO3/2) (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択される1価炭化水素基であり、nは平均0.01≦n≦0.80の数であり、n+m=1である)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーからなる被膜を形成し、次いで、該被膜の形成された該無機質基材を不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中で高温加熱して、該被膜をセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換することを特徴とする、表面にセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法。
[4-1] シロキサン単位式(1)中のnが平均0.05≦n≦0.50の数であることを特徴とする、[4]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。
[4-2] シロキサン単位式(1)中のRがメチル基、フェニル基、又は、メチル基とフェニル基であることを特徴とする、[4] 又は[4-1]記載の無機質基材の製造方法。
[4-3] 不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする、[4] 、[4-1] 又は[4-2]記載の無機質基材の製造方法。
[4-4] 加熱温度が300〜600℃であることを特徴とする、[4] 、[4-1] 、[4-2] 又は[4-3]記載の無機質基材の製造方法。
[5] 無機質基材が金属基板、セラミック基板、ガラス基板、石英板又は電子デバイスであることを特徴とする、[4]記載の無機質基材の製造方法。
[5-1] 無機質基材が金属基板、セラミック基板、ガラス基板、石英板又は電子デバイスであることを特徴とする、[4-1]、[4-2]、[4-3] 又は[4-4]記載の無機質基材の製造方法。
[6] 金属基板が可撓性金属薄板であることを特徴とする、[5]記載の無機質基材の製造方法。
[6-1] 金属基板が可撓性金属薄板であることを特徴とする、[5-1]記載の無機質基材の製造方法。
[7] 可撓性金属薄板がステンレススチール箔であることを特徴とする、[6]記載の無機質基材の製造方法。
[7-1] 可撓性金属薄板がステンレススチール箔であることを特徴とする、[6-1]記載の無機質基材の製造方法。」に関する。
【0015】
本発明は、さらには
[8] (A) シロキサン単位式:(HRSiO2/2(HSiO3/2) (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択される1価炭化水素基であり、nは平均0.01≦n≦0.80の数であり、n+m=1である)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー、又は、前記成分(A)と成分(A)を溶解又は稀釈するに必要な量の(B)有機溶媒とからなり、不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中での高温加熱によりセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換可能なことを特徴とする、セラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤。
[9] シロキサン単位式(1)中のnが平均0.05≦n≦0.50の数であることを特徴とする、[8]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤。
[10] シロキサン単位式(1)中のRがメチル基、フェニル基、又は、メチル基とフェニル基であることを特徴とする、[8]又は[9]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤。
[10-1] 不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする、[8]、 [9] 又は[10]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤。
[10-2] 加熱温度が300〜600℃であることを特徴とする、[8]、 [9]、 [10] 又は[10-1]記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤。」に関する。
【0016】
本発明は、さらには
[11] [5]に記載の製造方法により得られた表面にセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する金属基板の当該酸化ケイ素系被膜上に少なくとも半導体層が形成されていることを特徴とする、半導体装置。
[11-1] [5-1]、[6]、[6-1]、[7]又は[7-1]に記載の製造方法により得られた表面にセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する金属基板の当該酸化ケイ素系被膜上に少なくとも半導体層が形成されていることを特徴とする、半導体装置。
[12] 金属基板がステンレススチール箔であり、半導体層がシリコン半導体薄層又は化合物半導体薄層であり、半導体装置が薄膜太陽電池であることを特徴とする、[11]記載の半導体装置。
[12-1] 金属基板がステンレススチール箔であり、半導体層がシリコン半導体薄層又は化合物半導体薄層であり、半導体装置が薄膜太陽電池であることを特徴とする、[11-1]記載の半導体装置。」に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法によると、オルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーを使用することにより、従来のものより形成時および保管時に従来のものよりも細心の注意をすることなく、無機質基材上にセラミック状酸化ケイ素系被膜を形成することができる。
本発明の無機質基材の製造方法によると、オルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーを使用することにより、従来のものより製造時および保管時に従来のものよりも細心の注意をすることなく、セラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材を製造することができる。
本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法、本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜によると、無機質基材、特には無機質基板の微細な凹凸のある表面を平坦化することができ、具体的には表面粗さが10nm以上の表面でも平坦化することができる。また、無機質基材、特には電子デバイスの段差のある表面を平坦化することができ、具体的には段差が1.0 μm以上の表面でも平坦化することができる。
形成されたセラミック状酸化ケイ素系被膜は1.0 μmを越える膜厚であってもクラックおよびピンホールがなく、かつ、形成されたセラミック状酸化ケイ素系被膜中に吸湿の原因となるシラノール基およびカーボンポイズンの原因となるアルコキシ基を実質的に含有していない。
【0018】
本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤は、無機質基材にコーテイングして不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中で高温加熱すると、セラミック状酸化ケイ素系被膜に変換され、その、セラミック状酸化ケイ素系被膜は、1.0μmを超える膜厚であってもクラックおよびピンホールがなく、かつ、形成されたセラミック状酸化ケイ素系被膜中に吸湿の原因となるシラノール基およびカーボンポイズンの原因となるアルコキシ基を実質的に含有していない。
本発明の半導体装置は、金属基板のセラミック状酸化ケイ素系被膜上に少なくとも半導体層が形成されているので、信頼性と耐久性に優れ、薄膜化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の、セラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法および表面にセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法は、
無機質基材表面に、シロキサン単位式:(HRSiO2/2(HSiO3/2) (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択される1価炭化水素基であり、nは平均0.01≦n≦0.80の数であり、n+m=1である)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーからなる被膜を形成し、次いで、該被膜の形成された該無機質基材を不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中で高温加熱して、該被膜をセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換することを特徴とする。
【0020】
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーは、(HRSiO2/2)単位と(HSiO3/2) 単位とからなる共重合体であり、不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中で300〜600℃といった高温下におくと、セラミック状酸化ケイ素に変換される。
【0021】
シロキサン単位式(1)中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択される1価炭化水素基である。このアルキル基として、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ヘキシル基,オクチル基が例示され、このアリール基として、フェニル基,トリル基,キシリル基が例示される。Rは、製造容易性とセラミック状酸化ケイ素への変換容易性の点で、好ましくはメチル基、フェニル基、又は、メチル基とフェニル基である。
【0022】
シロキサン単位式(1)中のnは平均0.01≦n≦0.80であり、n+m=1である。
nが0. 01未満であると、シロキサン単位式(1)で示されるコポリマーを合成する際にゲル化しやすく、合成時にゲル化しなくても、このコポリマーを溶液状態で保存中に高分子量化する傾向がみられる。また、高温加熱してセラミック状酸化ケイ素被膜に変換する際に、被膜にクラックが入りやすくなる。こうした合成時・合成後の安定性、セラミック状酸化ケイ素被膜への変換時の耐クラック性の観点から、nは0.05以上であることが好ましい。
nが0.80をこえると、セラミック状酸化ケイ素系被膜の硬度が十分に大きくならず、また、コポリマー中の有機基含有量が相対的に大きくなるため、被膜形成後の酸素プラズマ処理工程において、十分なエッチング耐性が得られない。こうしたセラミック状酸化ケイ素系被膜の硬度、エッチング耐性の観点からnは0.50以下であることが好ましい。
上記観点から、nは、好ましくは平均0. 05≦n≦0.50である。
【0023】
このコポリマーの分子構造は、nの数値により異なり、分岐した鎖状、分岐状、網状、三次元構造などである。nの数値が0.01に近づくにしたがって分岐度が増大し三次元構造となる。0.80に近づくにしたがって分岐度が減少し、分岐した鎖状構造となる。
このコポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、加熱時に溶融流動することによって、無機質基材、特には金属基板、セラミック基板、ガラス基板の凹凸、電子デバイスや半導体デバイスの凹凸、段差を平坦化するためには、好ましくは1,000以上、100,000以下である。
このコポリマーは、常温で液状ないし固形状である。液状である場合粘度は特に限定されず、固形状である場合軟化点は特に限定されないが、加熱時の溶融流動性の点で好ましくは400℃以下である。
【0024】
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーは、(HRSiO2/2)単位と(HSiO3/2) 単位とからなる共重合体ができれば、その製造方法は特に限定されない。例えば、非極性有機溶媒、塩酸、イオン系界面活性剤の混合液中で、(a)式HRSiX(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択される有機基であり、Xはハロゲン原子又はアルコキシ基である)で示されるオルガノハイドロジェンジクロロシランnモルと(b) 式 HSiX(式中、Xはハロゲン原子又はアルコキシ基である)mモルを、0.01≦n≦0.80,n+m=1であるようなモル比で共加水分解縮合させ、生成したオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーを含有する非極性有機溶媒層を水洗し、乾燥し、非極性有機溶媒、アルコキシ基由来のアルコールなどの揮発性成分を留去することにより容易に製造することがきる。
【0025】
ここで、Rはメチル基のみ、フェニル基のみ、又は、メチル基とフェニル基が好ましい。
ここで使用される非極性有機溶媒として、芳香族炭化水素系有機溶媒と脂肪族炭化水素系有機溶媒が例示され、芳香族炭化水素系有機溶媒としてトルエン、キシレンが例示され、脂肪族炭化水素系有機溶媒としてヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンが例示される。
ここで使用される塩酸は、濃塩酸が好ましく、より好ましくは塩化水素含有量が15〜37質量%の塩酸である。塩化水素含有量は、非極性有機溶媒の10〜80質量%の範囲が好ましい。
【0026】
ここで使用されるイオン系界面活性剤は、ハイドロジェントリクロロシランの急激な加水分解縮合および単独縮合によるゲル化を抑制し、オルガノハイドロジェンジクロロシランとの共加水分解縮合を促進する。イオン系界面活性剤には、アニオン系界面活性剤とカチオン系界面活性剤と両性界面活性剤がある。
【0027】
アニオン系界面活性剤として、脂肪族炭化水素スルホン酸アルカリ金属塩、例えば、炭素原子数6〜20のアルキルスルホン酸アルカリ金属塩、炭素原子数6〜20のアルケンスルホン酸アルカリ金属塩;アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩;脂肪族炭化水素スルホン酸、例えば、炭素原子数6〜20のアルキルスルホン酸、炭素原子数6〜20のアルケンスルホン酸;アルキルベンゼンスルホン酸;アルキル硫酸エステルアルカリ金属塩;高級脂肪酸アルカリ金属塩が例示される。ここでアルカリ金属はナトリウムとカリウムが好ましい。
【0028】
カチオン系界面活性剤として、第4級アンモニウム塩、例えばテトラメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド;アルキルアミン塩酸塩,例えばドデシルアミン塩酸塩が例示される。
【0029】
両性界面活性剤として、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ウンデシルカルボキシメトキシエチルカルボキシメチルイミダゾリニウムベタインナトリウム、ウンデシルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインナトリウム、ウンデシル−N−ヒドロキシエチル−N−カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン、塩酸アルキルジアミノエチルエチルグリシン、ステアリルジヒドロキシエチルベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルベタインナトリウム、ステアリルジメチルベタインナトリウムが例示される。
【0030】
イオン系界面活性剤の使用量は、塩酸中の水の0.01〜50質量%が好ましく、0.1〜1.0質量%がより好ましい。
【0031】
共加水分解縮合反応は、例えば、非極性有機溶媒、塩酸、イオン系界面活性剤の混合物中に、オルガノハイドロジェンジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランを含有する非極性有機溶媒溶液を滴下し、撹拌することにより行なう。この際、滴下中も撹拌を継続することが好ましい。
【0032】
このようにして製造されたシロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーは、常温で液状であれば、有機溶媒で希釈することなく無機質基材表面へのコーテイングに供することができる。もっとも、該コポリマーが、薄くコーテイングすることができない粘度を呈するときは、有機溶媒で希釈することが好ましい。
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーが常温で固形状であっても、熱分解温度より低い温度で液状化する場合は、有機溶媒に溶解することなく無機質基板表面へのコーテイングに供することができる。もっとも、該コポリマーが、薄くコーテイングすることができない溶融粘度を呈するときは、有機溶媒に溶解することが好ましい。常温で固形状であり、軟化点が分解開始温度より高いときは、有機溶媒に溶解することが必要である。
【0033】
本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤は、
(A) シロキサン単位式:(HRSiO2/2(HSiO3/2) (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択される1価炭化水素基であり、nは平均0.01≦n≦0.80の数であり、n+m=1である)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー、又は、前記成分(A)と成分(A)を溶解稀釈するに必要な量の(B)有機溶媒とからなり、不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中での高温加熱によりセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換可能なことを特徴とする。
前記したように、成分(A)自体を無機質基材表面へ薄くコーテイングすることが可能であるときは、成分(B)は、不要である。
成分(A)自体を無機質基材表面へ薄くコーテイングすることが不可能であるときは、成分(B)による溶解又は稀釈が必要となる。
なお、シロキサン単位式(1)中の好ましいRとnは段落[0022]に記載したとおりであり、オルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの分子構造と性状と製造方法は、段落[0023]と段落[0024] に記載したとおりであり、好ましい不活性ガスは段落[0046] に記載したとおりであり、好ましい加熱温度と時間は、段落[0047] に記載したとおりである。
【0034】
有機溶剤である成分(B)は、成分(A)であるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーを均一に溶解又は稀釈することができ、悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。このような有機溶剤として具体的には、メタノール,エタノール等のアルコール系溶剤;メチルセロソルブ,エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤;メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン等のケトン系用溶剤;酢酸ブチル,酢酸イソアミル,メチルセロソルブアセテート,エチルセロソルブアセテート等のエステル系溶剤;鎖状ジメチルシロキサンオリゴマー(例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシロキサン,1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン),環状ジメチルシロキサンオリゴマー(例えば、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシクロシロキサン,1,3,5,7−テトラメチルテトラシクロシロキサン),アルキルシラン化合物(例えば、テトラメチルシラン,ジメチルジエチルシラン)などのシリコーン系溶剤が例示される。さらに上記有機溶剤の2種以上の混合物が例示される。
【0035】
本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤は、成分(A)に悪影響を与えなければ、成分(A)と成分(B)以外の任意成分を含有することができる。そのような任意成分として、脱水素縮合反応触媒が例示される。具体的には、塩化白金酸,白金とアルケンとの錯体,白金とβジケトンとの錯体,白金とジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体,塩化白金酸のアルコール変性液等の白金化合物触媒;テトラアルコキシチタン触媒、有機錫化合物触媒;塩酸,酢酸等の酸性触媒が例示される。これら触媒は、成分(A)の脱水素縮合反応を加速するので、コーテイング直前に少量ないし微量配合することが必要である。
【0036】
別の任意成分として、無機微粒子がある。無機微粒子として、無機微細球状粒子、無機微細チューブ、無機微細板が例示され、代表例としてコロイダルシリカ、コロイダルアルミナがある。成分(A)は、無機微粒子と併用することにより、高温加熱より変換された酸化ケイ素系被膜の物性(例えば、強度、熱膨張率)や耐久性を改善することができる。このような無機微粒子としてコロイダルシリカが好ましい。成分(A)とコロイダルシリカの好ましい配合比率は、前者100重量部に対して後者1〜100重量部である。コロイダルシリカは沸点200℃未満の有機溶媒中に分散したものを使用することが好ましい。
成分(A)と有機溶媒分散コロイダルシリカの混合物は、無機質基材表面に薄くコーテイングするのに十分な粘性を有することが必要である。
【0037】
本発明において、無機質基材表面に、シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーからなる被膜を形成する方法は、均一な被膜を形成できれば、特に限定されない。
その具体例として次の方法がある。
(1-1) 常温で固体状のオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーを加熱して液状化し、無機質基材表面にスピンコート、噴霧はけ塗り、滴下、その他の方法にて塗布する。
(1-2) 常温で液状のオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー自体又はオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの有機溶剤溶液を無機質基材表面にスピンコート、噴霧、はけ塗り、滴下、その他の方法にて塗布する。あるいは、
(1-3) 常温で固体状のオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーを加熱して液状化したもの、常温で液状のオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー自体、又は、オルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの有機溶剤溶液に、無機質基材を浸漬し、引き上げる。
(2) 次いで、必要により、放置、温風吹き付け、熱風循環式オーブン中での加熱などにより有機溶剤を除去する。
【0038】
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーからなる被膜の厚みは、高温加熱よりセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換したときに、無機質基材表面の凹凸、段差を平坦化するのに十分な厚み以上であれば特に限定されない。無機質基材のうち無機質基板の表面の微細な凹凸の深さ(最高部と最深部の差)は、通常10nm〜100nm、あるいは100nm〜1μmであるため、該被膜の厚みは、それを越える必要がある。もっとも、無機質基板の種類によっては、その表面の微細な凹凸の深さ(最高部と最深部の差)が、数百nm〜数μm(例えば200nm〜3μm)であるため、該被膜の厚みは、それを越える必要がある。無機質基材のうち電子デバイス、特には半導体デバイス、液晶デバイス、プリント配線板などの表面の段差は、通常数百nm〜数μm(例えば500nm〜6μm)であるため、該被膜の厚みは、それを越える必要がある。
【0039】
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの高温加熱より変換されてできたセラミック状酸化ケイ素系被膜は、従来公知の水素シルセスキオキサン樹脂からの酸化ケイ素系被膜に較べてクラックがはいりにくいという特徴があるので、被膜の厚みが1μm以上、1.5μm以上、あるいは2μm以上であってもクラックなしに被膜を形成することができる。該被膜の厚さの上限は臨界的でないが、無機質基材表面に形成可能な厚み以下である必要があり、材料が無駄にならず、高温加熱よりセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換したときに性能上弊害が生じない程度の厚み以下(例えば10μm以下)である。
【0040】
酸化ケイ素系被膜を形成するための無機質基材は、シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーを加熱して酸化ケイ素系被膜に変換するときの温度に耐え得ることが必要である。したがって、350℃以上、好ましくは600℃より大、さらに好ましくは700℃以上の耐熱性を有することが必要である。
さらには、表面加工と使用時の応力、変位に耐えることができる機械的強度と耐久性を有することが必要である。
【0041】
無機質基材の代表例は、金属基板、セラミック基板、ガラス基板、石英基板などの無機質基板、電子デバイスである。金属基板、セラミック基板、ガラス基板、石英基板のような無機質基板は、厚みがあって可撓性を有しないもの、薄くて可撓性を有するもののいずれでもよく、電子部品や電子機器の一部を構成しているものであってもよい。
もっとも、薄膜太陽電池、反射型液晶表示装置用薄膜トランジスター(TFT)、薄膜エレクトロルミネッセンス表示素子ないし装置等の半導体素子ないし装置用には、薄くて可撓性を有するものである必要がある。
【0042】
電子デバイスとして、半導体デバイス、プリント配線板、プリント配線板用ベアボード、液晶デバイスが例示される。半導体デバイスとして、トランジスタ、電界効果トランジスタ (FET)、サイリスタ (SCR)、ダイオード(整流器)、発光ダイオード (LED)などのディスクリート半導体素子、それらの製造途上品(例えば、表面に回路が形成されたシリコン半導体チップ);モノリシック集積回路(monolithic IC)、ハイブリッド集積回路、それらの製造途上品(例えば、表面に回路が形成された半導体基板)が例示される。プリント配線板として片面配線板、両面配線板、多層配線板、それらの製造途上品(例えば、表面にプリント配線が形成されたベアボード)が例示される。
液晶デバイスとして、液晶用ガラス基板、液晶用金属箔が例示される。
【0043】
無機質基板は、機械的強度の点で、金属基板(例えば、金属薄板、金属箔)が好ましく、金属の具体例として、金、銀、銅、ニッケル、チタン、チタン合金、アルミニウム、ジュラルミン、スチール、特には、ステンレススチール、モリブデン鋼が例示される。ステンレススチール箔として、フェライト系ステンレススチール箔、マルテンサイトステンレススチール箔、オーステナイトステンレススチール箔が例示される。これらのうちでは、耐熱性と可撓性の点でステンレススチール箔が好ましい。
無機質基板は、透明性の点では、ガラス基板、石英基板が好ましい。電気絶縁性、成形性、機械的強度の点でセラミック基板(例えば、アルミナ基板)が好ましい。
【0044】
無機質基板としての薄板は、厚みが10μm以上であり1mm以下が好ましく、20μm以上であり100μm以下がより好ましい。かかる薄板の厚みは薄いほど高屈曲性の可撓性基板となる。しかし、厚みが10μm未満では、撓みが大きくハンドリング性に欠けるという不都合があり、また、100μm、特には1mmを超えると、可撓性が小さくなる。薄膜太陽電池等の薄膜半導体装置の基板としては上記範囲外のものは不適になる。
このような無機質基板は表面に凹凸を有するものであり、本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法および酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法により、このような凹凸を有する無機質基板の表面粗さを低減でき、凹凸のある表面を平坦化することができる。
【0045】
次いで、上記シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー被膜を有する無機質基材を、不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中で高温加熱することにより、該コポリマーはセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換される。シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーは、オルガノハイドロジェンシロキサン単位を含有するので、架橋密度が十分に制御され、内部ストレスが十分に緩和されたセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換可能である。これにより、1μm以上、特には2μm以上の膜厚であってもクラックおよびピンホールのないセラミック状酸化ケイ素系被膜を形成することができる。
【0046】
不活性ガスは、シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーがセラミック状酸化ケイ素系に変換される過程で、該コポリマーおよび該酸化ケイ素系被膜に対して不活性なガスであることが好ましい。このような不活性ガスとして具体的には、窒素ガス,アルゴンガス,ヘリウムガスが例示される。不活性ガスは、酸素ガスを含有しても良いが、濃度が20体積%未満である必要がある。20体積%を超えると、酸化ケイ素系被膜中にクラックおよびピンホールが生成しかねない。こうした観点から、酸素ガス濃度は0.5体積%未満であることが好ましい。
【0047】
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー被膜を有する無機質基材を加熱する温度および時間は、該コポリマーをセラミック状酸化ケイ素に変換できれば、特に限定されない。しかし、該コポリマーが有機溶剤溶液であるときは、まず有機溶剤を揮発させるため、例えば、室温〜200℃の温度で10〜30分間加熱することが望ましく、その後、不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)雰囲気下で300℃〜600℃で30分間以上加熱することが好ましい。特には、350℃〜550℃で加熱することがより望ましい。
【0048】
シロキサン単位式:(HRSiO2/2(HSiO3/2) (1)
で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー中の(HRSiO2/2)単位のケイ素結合水素原子の酸化反応速度は、(HSiO3/2)単位のケイ素結合水素原子の酸化反応速度より遅いため、ケイ素結合水素原子の酸化反応および脱水素縮合反応が段階的に進行することができる。HRSiO2/2単位の含有率が増えるほど、硬化段階でポリシロキサン鎖の架橋密度が下がり、急激な架橋反応が起こらないので、内部ストレスの発生を防止緩和することができる。すなわち、HRSiO2/2単位の含有率が増えるほど、SiOSi結合を形成して架橋し、硬化する過程が徐々に進行するので、クラックが生じにくい。
【0049】
この際、該コポリマー被膜がセラミック状酸化ケイ素系被膜に十分変換されたことを確認することが好ましい。例えば、赤外線分光光度計により、無機質基材表面に形成されたシロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー被膜中のSiH基(910cm-1および2150cm-1にSiH基に由来するシャープな強い吸収ピークがある)、およびシラノール基(3500cm-1付近にシラノール基に由来するブロードな中程度の吸収ピークがある)、場合によってはさらにアルコキシ基(2870cm-1にアルコキシ基に由来するシャープな弱い吸収ピークがある)のそれぞれの含有量を測定し、次いで、高温加熱後のセラミック状酸化ケイ素系被膜のそれらを測定して、比較することにより確認することができる。
また、シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーをよく溶解する有機溶剤に、加熱後のセラミック状酸化ケイ素系被膜を浸漬し、該セラミック状酸化ケイ素系被膜が該有機溶剤に不溶であることにより、セラミック状酸化ケイ素系被膜に十分変換されたことを確認することができる。
【0050】
本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法およびセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法によると、平坦なセラミック状酸化ケイ素系被膜を、クラックおよびピンホールを生じることがなく形成することができる。セラミック状酸化ケイ素系被膜は、硬質であり、JIS K5400の8.4.2による鉛筆硬度が2H〜9H、好ましくは4H〜9Hであり、より好ましくは、実施例のセラミック状酸化ケイ素系被膜のように、7H〜9Hである。
【0051】
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの高温加熱より変換されてできたセラミック状酸化ケイ素系被膜の厚みは、無機質基材表面の凹凸、段差を平坦化するのに十分な厚み以上であれば特に限定されない。無機質基材のうち無機質基板の表面の微細な凹凸の深さ(最高部と最深部の差)は、通常10nm〜100nm、あるいは100nm〜1μmであるため、該被膜の厚みは、それを越える必要がある。もっとも、無機質基板の種類によっては、その表面の微細な凹凸の深さ(最高部と最深部の差)が、数百nm〜数μm(例えば200nm〜3μm)であるため、該被膜の厚みは、それを越える必要がある。
【0052】
無機質基材のうち電子デバイス、特には半導体デバイス、液晶デバイス、プリント配線板などの表面の段差は、通常数百nm〜数μm(例えば500nm〜6μm)であるため、該被膜の厚みは、それを越える必要がある。
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの高温加熱より変換されてできたセラミック状酸化ケイ素系被膜は、従来公知の水素シルセスキオキサン樹脂からの酸化ケイ素系被膜に較べてクラックがはいりにくいという特徴があるので、被膜の厚みが1μm以上、1.5μm以上、あるいは2μm以上であってもクラックなしに被膜を形成することができる。該被膜の厚さの上限は臨界的でないが、無機質基材表面に形成可能な厚み以下である必要があり、材料が無駄にならず、性能上弊害が生じない程度の厚み以下(例えば10μm以下)である。
【0053】
さらに、本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法およびセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法によると、アルミニウムの融点(660℃)よりも低い温度でセラミック状酸化ケイ素系被膜を形成することができるため、半導体デバイスの回路配線に通常使用されているアルミニウムを溶融することがない。したがって、半導体デバイス表面のパッシベーション膜および層間絶縁膜の形成に有用である。得られたセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材表面に、さらにセラミック状酸化ケイ素系被膜や有機樹脂被膜を形成することができるので、多層半導体デバイスの層間絶縁膜の形成に有用である。
【0054】
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの変換物であるセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基板は、該セラミック状酸化ケイ素系被膜により平坦化されており、該セラミック状酸化ケイ素系被膜は優れた耐熱性、耐寒性、電気絶縁性、機械的強度、耐薬品性等を併せ持つので、太陽電池、反射型液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置等の製造に使用される基板として有用である。無機質基板が可撓性金属薄板である場合は、薄膜太陽電池、反射型液晶表示装置用薄膜トランジスター(TFT)、薄膜エレクトロルミネッセンス表示素子ないし装置、薄膜型リチウム電池の電極用基板として有用である。無機質基板がガラス薄板である場合は、薄膜太陽電池、透過型液晶表示装置用薄膜トランジスター(TFT)、薄膜エレクトロルミネッセンス表示素子ないし装置等の製造に使用される無機質基板としてとして有用である。
【0055】
例えば、シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの変換物であるセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する可撓性金属薄板の表面に第1電極薄膜を形成し、該第1電極薄膜上にシリコン半導体薄膜を形成し、ついで該シリコン半導体薄膜上に第2電極薄膜を形成して薄膜太陽電池を製造することができる。あるいは、シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの変換物であるセラミック状酸化ケイ素系被膜の表面に第1電極薄膜を形成し、該第1電極薄膜上に化合物半導体薄膜を形成し、ついで化合物半導体薄膜を熱処理して薄膜太陽電池を製造することができる。
【0056】
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの変換物であるセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する可撓性金属薄板の表面にアモルファスシリコン半導体薄膜を形成し熱処理して薄膜トランジスターを製造することができる。
【0057】
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの変換物であるセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する可撓性金属薄板の表面にシリコン含有導電性電極層を形成し、該シリコン含有導電性電極層上に電気絶縁層を形成し、該電気絶縁層上に発光層を形成し、ついで熱処理等して薄膜エレクトロルミネッセンス(EL)素子を製造することができる。
【0058】
さらには、シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの変換物であるセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する可撓性金属薄板の表面に酸化マンガン薄膜、LiMn等の正電極層を形成してリチウム電池の正極材料を製造することができる。
これらの製造時には、高温での蒸着、プラズマCVD、スパッタリング、高温熱処理等が行われるので、これら可撓性金属薄板がきわめて高温、例えば、400℃〜700℃に曝されるが、シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの変換物であるセラミック状酸化ケイ素系被膜を有するので、該可撓性金属薄板が変質、劣化、変形することがない。
【0059】
薄膜半導体装置の代表例である薄膜太陽電池は、一般に、金属薄板にまずモリブテン等の金属層を被着させた後、フォトエッチング等の手法により薄膜電極層を形成し、ついで半導体層を被着させた後、フォトエッチングやレーザースクライブ等の手法により薄膜半導体層を形成する。ついで該薄膜半導体層上に透明導電膜を被着させた後、フォトエッチング等の手法により薄膜電極層を形成する等の工程を経て製造される。このため、金属薄板は、耐薬品性、耐腐食性等が要求される。薄膜太陽電池は、可撓性が必要な用途に使用されるものであるため、金属薄板は、可撓性が必要であり、特には、熱伝導性、耐薬品性、耐腐食性の点より、ステンレススチール、モリブデン鋼、アルミナ等が適するが、前記特性を有する他、入手可能性、経済性等の観点より、特にはステンレススチール薄板、すなわち、ステンレススチール箔が好ましい。ステンレススチール箔として、フェライト系ステンレススチール箔、マルテンサイトステンレススチール箔、オールステナイトステンレススチール箔が例示される。
そこで、シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの変換物であるセラミック状酸化ケイ素系被膜を有するステンレススチール箔が基板として好適である。
【0060】
シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの変換物であるセラミック状酸化ケイ素系被膜上に形成される金属電極の金属の種類には特に制約はなく、モリブテン、アルミニウム、金、銀、銅、鉄、錫等、これら金属の合金が例示される。
この金属電極上に形成する半導体層用の半導体として、多結晶シリコン半導体、単結晶シリコン半導体、アモルファスシリコン半導体、化合物半導体が例示され、化合物半導体としては、CIS、CdTe、GICSが例示される。これらの半導体層上に形成する透明電極としては酸化インジウム−スズ合金、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛が例示される。この透明電極上にさらに必要に応じて保護層を形成するが、この保護層としてフッ素樹脂、透明ポリイミドなどの光透過率が高く、かつ耐候性にすぐれた高分子材料が好適である。
【0061】
かくして得られた薄膜太陽電池は、その基板がフレキシブルであり、折り曲げ可能であり、製造時あるいは取り扱い時に割れることがなく、シロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの変換物であるセラミック状酸化ケイ素系被膜にクラックが生じたり、ステンレススチール箔から剥がれたりすることがないため、生産性、ハンドリング性、耐久性等が優れている。薄膜太陽電池だけでなく、反射型液晶表示装置用薄膜トランジスター(TFT)、薄膜エレクトロルミネッセンス表示素子ないし装置、薄膜型リチウム電池等の薄膜半導体装置についても同様である。
【実施例】
【0062】
本発明を参考例、実施例および比較例により詳細に説明する。本発明の実施例および比較例に用いたシロキサン単位式(1)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーは、次の参考例に示す方法によって調製したが、その合成方法は次の参考例に示す方法に限定されない。
【0063】
参考例、実施例および比較例中、諸特性は下記の条件により測定した。Meはメチル基を意味し、Phはフェニル基を意味する。
[粘度]
メチルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーおよびフェニルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの粘度は、TOKIMEC製のE型回転粘度計により25℃で測定した。
【0064】
[重量平均分子量と分子量分布]
メチルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーおよびフェニルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの重量平均分子量と分子量分布は、ゲルパーミエーション(GPC)により測定した。装置として、屈折検出器とTSKgel GMHXL-L カラム(東ソー株式会社製)2個を取り付けたHLC-8020 ゲルパーミエーション(GPC)(東ソー株式会社製)を使用した。試料は2質量%クロロホルム溶液として測定に供した。検量線は分子量既知の標準ポリスチレンを用いて作成した。重量平均分子量は標準ポリスチレン換算して求めた。
【0065】
[29Si−NMRと1H−NMR]
メチルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーおよびフェニルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの29Si−NMRと1H−NMRは、Bruker ACP-300 Spectrometerにより測定した。
【0066】
セラミック状酸化ケイ素系被膜、ステンレススチール箔およびガラス薄板の表面粗さは、AFM DI 5000 Atomic Force Microscope (略称AFM)を用いて25μmスキャンで観測した。
セラミック状酸化ケイ素系被膜の厚さは、その切断面をFESEM- JEOL JSM-6335F Field Emission Scanning Electron Microscopeにより観測して求めた。
セラミック状酸化ケイ素系被膜のクラックは、KEYENCE VH-7000電子顕微鏡により観察した。
【0067】
[参考例1]
撹拌機と温度計と窒素ガス導入口と滴下ロート付き4口ガラスフラスコに、オクチルスルホン酸ナトリウムト1.0gとトルエン200mlと濃塩酸200mlを仕込み、窒素ガスを流しつつ−25℃〜−30℃で攪拌しながら、メチルハイドロジェンジクロロシラン4.7g(0.040 モル)とハイドロジェントリクロロシラン12.5g(0.093モル)の混合液(メチルハイドロジェンジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランのモル比=0.30:0.70)を滴下ロートから60分間かけて滴下した。滴下終了後、更に室温で1時間攪拌した後、分液ロートで有機層を分取し、中性になるまで水洗後、無水硫酸マグネシウム粉末を投入して乾燥した。無水硫酸マグネシウム粉末を濾別し、ロータリエバポレータにより加熱減圧下でトルエンを除去し、残渣を真空中で乾燥した。
【0068】
乾燥した残渣は無色透明の液体であり、収率は65%であり、分子量分布は複数のピークを有していた。その粘度は25,000mPa・sであり、重量平均分子量(Mw)は27.5X103であり、その29Si‐NMRのHMeSiO2/2単位に由来する−32.4ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する−84.9ppmのシグナルの積分値、又は1H‐NMRのHMeSiO2/2単位に由来する4.71ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する4.3ppmのシグナルとの積分値から求めた、メチルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの平均シロキサン単位式は、(HMeSiO2/20.28(HSiO3/2)0.72であることが判明した。
【0069】
[参考例2]
参考例1において、メチルハイドロジェンジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランの混合液の代わりに、ハイドロジェンフェニルジクロロシラン2.20g(0.012モル)とハイドロジェントリクロロシラン15.0g(0.085モル)(ハイドロジェンフェニルジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランのモル比=12:88)の混合物を用いた以外は、参考例1と同様の操作を行い、無色透明の固体を得た。収率は65%であり、重量平均分子量(Mw)は19,100であり、その29Si‐NMRのHPhSiO2/2単位に由来する−50.4ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する−84.9ppmのシグナルの積分値、又は1H‐NMRのHMeSiO2/2単位に由来する5.1ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する4.3ppmのシグナルとの積分値から求めた、フェニルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーの平均シロキサン単位式は、(HPhSiO2/20.11(HSiO3/2)0.89であることが判明した。
【0070】
[実施例1]
参考例1で得た液状メチルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーとトルエンとからなる液状被膜形成剤(固形分濃度20質量%)を、厚さ24μmであり表面の粗さRmaxが56.7nmのステンレススチール薄板、すなわち、ステンレススチール箔(150mm角の切片)にスピンコーターでコーテイング後、200℃で2時間加熱した。このコポリマー被膜を形成したステンレススチール箔を開放型円筒型環状炉に挿入し、窒素ガスを流しつつ(酸素ガス濃度50ppm)、400℃で1時間加熱して取り出した。ついで、セラミック状酸化ケイ素系被膜を有するステンレススチール箔を窒素ガス雰囲気下で徐冷し室温まで冷却した。
【0071】
ステンレススチール箔上に形成されたセラミック状酸化ケイ素系被膜の特性を測定したところ、最大厚さ2.39μmであり、セラミック状酸化ケイ素系被膜表面の粗さをAFMで観測したところRmaxが1.0nmであった。このステンレススチール箔表面の凹凸は均一に平坦化されていた。顕微鏡観察の結果、このセラミック状酸化ケイ素系被膜にはクラックおよびピンホールがないことが確認された。またフーリエ変換型赤外線分光分析器で透過モードにより構造解析を行ったところ、セラミック状酸化ケイ素系被膜中のSiH基のピーク(910cm-1および2150cm-1)、シラノール基のピーク(3500cm-1付近)は完全に消失していることが確認された。また、得られたセラミック状酸化ケイ素系被膜は、MIBK、アセトン等の有機溶剤に対して不溶であることが確認された。
【0072】
[実施例2]
参考例2で得た、フェニルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーとトルエンとからなる液状被膜形成剤(固形分濃度20質量%)を、実施例1で使用したステンレススチール箔と同じステンレススチール箔にスピンコーターでコーテイング後、200℃で2時間加熱した。このコポリマー被膜を有するステンレススチール箔を開放型円筒型環状炉に挿入し、窒素ガスを流しつつ(酸素ガス濃度10ppm)、450℃で1時間加熱した。ついで、セラミック状酸化ケイ素系被膜を有するステンレススチール箔を窒素ガス雰囲気下で徐冷し室温まで冷却した。
【0073】
ステンレススチール箔に形成されたセラミック状酸化ケイ素系被膜の特性を測定したところ、最大厚さ2.8μmであり、セラミック状酸化ケイ素系被膜表面の粗さをAFMで観測したところRmaxが1.0nmであった。このステンレススチール箔表面の凹凸は均一に平坦化されていた。
顕微鏡観察の結果、このセラミック状酸化ケイ素系被膜にはクラックおよびピンホールがないことが確認された。
またフーリエ変換型赤外線分光分析器で透過モードにより構造解析を行ったところ、セラミック状酸化ケイ素系被膜中のSiH基のピーク(910cm-1および2150cm-1)、シラノール基のピーク(3500cm-1付近)は完全に消失していることが確認された。また、得られたセラミック状酸化ケイ素系被膜は、MIBK、アセトン等の有機溶剤に対して不溶であることが確認された。
【0074】
[実施例3]
参考例2で得たフェニルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーを固形分濃度が20質量%に成るようにトルエンで希釈し、厚さ75μmであり表面の粗さRmaxが30.6nmのガラス薄板にディップコートし、200℃で2時間加熱した。
このコポリマー被膜を形成したガラス薄板を開放型円筒型環状炉に挿入し、窒素ガスを流しつつ(酸素ガス濃度50ppm)450℃で1時間加熱した。ついで、セラミック状酸化ケイ素系被膜を有するガラス薄板を窒素ガス雰囲気下で徐冷し室温まで冷却した。
【0075】
そのガラス薄板上に形成されたセラミック状酸化ケイ素系被膜の特性を測定したところ、最大厚さ2.5μmであり、セラミック状酸化ケイ素系被膜の表面の粗さをAFMで観測したところRmaxが1.0nmであった。このガラス薄板上の表面の凹凸は均一に平坦化されていた。
顕微鏡観察の結果、このセラミック状酸化ケイ素系被膜にはクラックおよびピンホールがないことが確認された。
フーリエ変換型赤外線分光分析器で透過モードにより構造解析を行ったところ、セラミック状酸化ケイ素系被膜中のSiH基のピーク(910cm-1および2150cm-1)、シラノール基のピーク(3500cm-1付近)は完全に消失していることが確認された。また、得られたセラミック状酸化ケイ素系被膜は、MIBK、アセトン等の有機溶剤に対して不溶であることが確認された。
【0076】
[実施例4]
実施例1で得られたセラミック状酸化ケイ素系被膜を有するステンレススチール箔および実施例2で得られたセラミック状酸化ケイ素系被膜を有するステンレススチール箔の各セラミック状酸化ケイ素系被膜上に、公知の方法でMo裏面電極薄層、CuInGaSe2からなるCIGS系光吸収薄層、CdS高抵抗バッファ薄層、ZnO半絶縁薄層、ITO透明電極薄層を順次蒸着することにより、図4に示す断面を有する薄膜化合物半導体太陽電池セルを製作した。この薄膜太陽電池セルは高い光変換効率を有していた。
【0077】
[比較例1]
東京応化工業株式会社製無機SOG(商品名:OCD−typeII)を実施例1で使用したステンレススチール箔と同じステンレススチール箔上にスピンコートし、最大厚さ0.55μmの無機SOG被膜を形成した。この無機SOG被膜を形成したステンレススチール箔を開放型円筒型環状炉に挿入し、空気中、400℃で1時間加熱した。ついで空気中で徐冷し室温まで冷却した。ステンレススチール箔上に形成された酸化ケイ素系被膜の特性を測定しようとしたが、肉眼で確認できるクラックが多数発生しており、膜厚は測定不能であった。
【0078】
[比較例2]
特開平11-106658の参考例に従って、エタノールにハイドロジェントリエトキシシランを溶解し、これを氷水で冷却しながら攪拌し、ハイドロジェントリエトキシシランの3グラム当量倍の水を滴下した。滴下終了後、室温で攪拌した後沈殿物を濾別し、エタノールを除去し、真空中で乾燥してハイドロジェンポリシルセスキオキサンレジンを得た。
モレキュラーシーブで脱水したメチルイソブチルケトンに、このハイドロジェンポリシルセスキオキサンレジンを固形分濃度が30質量%になるように溶解して、30質量%溶液を調製した。
【0079】
この溶液を実施例1で使用したステンレススチール箔と同じステンレススチール箔上にスピンコートし、最大厚さ1.15μmのハイドロジェンポリシルセスキオキサンレジン被膜を形成した。このハイドロジェンポリシルセスキオキサンレジン被膜を形成したステンレススチール箔を開放型円筒型環状炉に挿入し、空気中、400℃で1時間加熱した。ついで、該ステンレススチール箔を取り出して、空気中で徐冷し室温まで冷却した。ステンレススチール箔上に形成された酸化ケイ素系被膜の最大厚さは0.98μmであったが、顕微鏡観察したところ、この酸化ケイ素系被膜には多数のマイクロクラックが発生していることが確認された。
【0080】
[比較例3]
実施例1で調製したメチルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーのトルエン溶液を、実施例1で使用したステンレススチール箔と同じステンレススチール箔上にスピンコートすることにより、ステンレススチール箔表面に最大厚さ2.30μmのメチルハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー被膜を形成した。このコポリマー被膜を形成したステンレススチール箔を開放型円筒型環状炉に挿入し、空気中で、400℃で1時間加熱した。ついで、該ステンレススチール箔を取り出して、空気中で徐冷し室温まで冷却した。ステンレススチール箔上に形成された酸化ケイ素系被膜の最大厚さは2.10μmであったが、顕微鏡観察したところ、この酸化ケイ素系被膜には多数のマイクロクラックが発生していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法は、無機質基材上に、凹凸、段差を平坦化でき、クラックおよびピンホールがないセラミック状酸化ケイ素系被膜を形成するのに有用である。
本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法は、太陽電池、反射型液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示素子等の電子装置、特には半導体装置用の無機質基板、特には薄膜太陽電池、反射型液晶表示装置用薄膜トランジスター、薄膜エレクトロルミネッセンス表示素子等の薄膜半導体装置用の無機質基板、また、薄膜型リチウム電池の電極形成用の無機質基板を製造するのに有用である。
本発明のセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤は、無機質基材表面の凹凸、段差を平坦化するのに有用であり、無機質基材上にクラックおよびピンホールがないセラミック状酸化ケイ素系被膜を形成するのに有用である。具体的には電子デバイスの電気絶縁被膜用、平坦化膜用、パッシベーション膜用、層間絶縁膜用として有用である。
本発明の半導体装置は、ソーラハウス、映像機器、携帯電話機、コンピュータ、デイスプレー、家庭電器、OA機器、自動車、航空機、宇宙衛星、船舶等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施例1の、片面にセラミック状酸化ケイ素系被膜を有するステンレススチール箔の断面図である。
【図2】本発明の実施例3の、両面にセラミック状酸化ケイ素系被膜を有するガラス薄板の断面図である。
【図3】本発明の実施態様である、片面にセラミック状酸化ケイ素系被膜を有するステンレススチール箔の酸化ケイ素系被膜上に半導体層を有する半導体装置の断面図である。
【図4】本発明の実施例4の、薄膜化合物半導体太陽電池セルの断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1:セラミック状酸化ケイ素系被膜
2:ステンレススチール箔
3:ガラス薄板
4:半導体薄層
5a:Mo裏面電極薄層
5b:ITO透明電極薄層
6:CdS高抵抗バッファ薄層
7:CuInGaSe2からなるCIGS系光吸収薄層
8:ZnO半絶縁薄層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質基材表面に、シロキサン単位式:(HRSiO2/2(HSiO3/2) (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択される1価炭化水素基であり、nは平均0.01≦n≦0.80の数であり、n+m=1である)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーからなる被膜を形成し、次いで、該被膜の形成された該無機質基材を不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中で高温加熱して、該被膜をセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換することを特徴とする、セラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。
【請求項2】
不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする、請求項1記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。
【請求項3】
加熱温度が300〜600℃であることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜の形成方法。
【請求項4】
無機質基材表面に、シロキサン単位式:(HRSiO2/2(HSiO3/2) (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択される1価炭化水素基であり、nは平均0.01≦n≦0.80の数であり、n+m=1である)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマーからなる被膜を形成し、次いで、該被膜の形成された該無機質基材を不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中で高温加熱して、該被膜をセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換することを特徴とする、表面にセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する無機質基材の製造方法。
【請求項5】
無機質基材が金属基板、セラミック基板、ガラス基板、石英基板又は電子デバイスであることを特徴とする、請求項4記載の無機質基材の製造方法。
【請求項6】
金属基板が可撓性金属薄板であることを特徴とする、請求項5記載の無機質基材の製造方法。
【請求項7】
可撓性金属薄板がステンレススチール箔であることを特徴とする、請求項6記載の無機質基材の製造方法。
【請求項8】
(A) シロキサン単位式:(HRSiO2/2(HSiO3/2) (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択される1価炭化水素基であり、nは平均0.01≦n≦0.80の数であり、n+m=1である)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン・ハイドロジェンシロキサンコポリマー、又は、前記成分(A)と成分(A)を溶解又は稀釈するに必要な量の(B)有機溶媒とからなり、不活性ガス又は酸素ガス含有不活性ガス(酸素ガスは20体積%未満である)中での高温加熱によりセラミック状酸化ケイ素系被膜に変換可能なことを特徴とする、セラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤。
【請求項9】
シロキサン単位式(1)中のnが平均0.05≦n≦0.50の数であることを特徴とする、請求項8記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤。
【請求項10】
シロキサン単位式(1)中のRがメチル基、フェニル基、又は、メチル基とフェニル基であることを特徴とする、請求項8又は請求項9記載のセラミック状酸化ケイ素系被膜形成剤。
【請求項11】
請求項5に記載の製造方法により得られた表面にセラミック状酸化ケイ素系被膜を有する金属基板の当該酸化ケイ素系被膜上に少なくとも半導体層が形成されていることを特徴とする、半導体装置。
【請求項12】
金属基板がステンレススチール箔であり、半導体層がシリコン半導体薄層又は化合物半導体薄層であり、半導体装置が薄膜太陽電池であることを特徴とする、請求項11記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−94239(P2009−94239A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262513(P2007−262513)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【出願人】(500295461)ダウ コーニング コーポレーション (15)
【Fターム(参考)】