説明

セルロースエステル化合物、セルロースエステルフィルム、セルロースエステルフィルムの製造方法、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】 本発明の目的は、広幅フィルムであっても、湿度変動によるリターデーション値の可逆的な変動を改善したセルロースエステルフィルム、かつ該セルロースエステルフィルムを用いた偏光板収率、視野角特性、視認性に優れた偏光板及び液晶表示装置を提供することにある。
【解決手段】 セルロースエステルと、炭素数6〜22の脂肪族を有しかつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、ビニルスルホン基、及びエチレンイミン基から選ばれるいずれか一つの基を分子内に有する化合物とを反応させた生成物であることを特徴とするセルロースエステル化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースエステル化合物、セルロースエステルフィルム、セルロースエステルフィルムの製造方法、偏光板、及び液晶表示装置に関し、より詳しくは広幅フィルムであっても、湿度変動によるリターデーション値の可逆的な変動を改善したセルロースエステルフィルム、かつ該セルロースエステルフィルムを用いた偏光板収率、視野角特性、視認性に優れた偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型軽量ノートパソコンや薄型で大画面のTVの開発が進み、それに伴って、液晶表示装置等の表示装置で用いられる偏光板の保護フィルムもますます薄膜化、大型化、高性能化への要求が強くなってきている。その中において、従来から液晶表示装置は、視野角が狭いことが問題とされていた。液晶表示装置の視野角を拡大するため、光学補償シートを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
【0003】
また、偏光板の破れを防止させる目的で架橋剤を導入する技術が提案されている。(例えば、特許文献6。)こらにより偏光板収率を向上させることができる。
【0004】
また、視野角による表示(コントラスト、色味、階調)の変化、特に色味変化について問題とされたが、新たに棒状化合物を導入することが提案されている。(たとえば、特許文献7、8参照。)
上記手段を用いることで個々の問題にある程度の改善はできるが、偏光板の大型化により湿度変動に対して偏光子の収縮力が増大し、偏光板保護フィルムとして使用されているセルロースエステルフィルムの収縮力との差により応力が発生し、リターデーション変動が発生することで白抜けが発生するという現象や、視野角による表示劣化が問題となり、これを解決できる技術的手段が求められていた。
【0005】
特に17インチ以上の大型パネルに、前記の光学補償シートを保護フィルムに用いた偏光板を装着したところ顕著な問題となることが判明した。光学補償シートは、液晶セルを光学的に補償する機能を有するのみでなく、使用環境の変化による耐久性にも優れている必要がある。
【特許文献1】特開平4−229828号公報
【特許文献2】特開平4−258923号公報
【特許文献3】特開平6−75116号公報
【特許文献4】特開平6−174920号公報
【特許文献5】特開平6−222213号公報
【特許文献6】特開2001−55402号公報
【特許文献7】特開2002−267847号公報
【特許文献8】特開2004−4550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、広幅フィルムであっても、湿度変動によるリターデーション値の可逆的な変動を改善したセルロースエステルフィルム、かつ該セルロースエステルフィルムを用いた偏光板収率、視野角特性、視認性に優れた偏光板及び液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0008】
(請求項1)
セルロースエステルと、炭素数6〜22の脂肪族を有しかつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、ビニルスルホン基、及びエチレンイミン基から選ばれるいずれか一つの基を分子内に有する化合物とを反応させた生成物であることを特徴とするセルロースエステル化合物。
【0009】
(請求項2)
前記セルロースエステル化合物が下記式(I)を満足することを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステル化合物。
【0010】
(I)1.0≦X≦2.5
(但し、Xはセルロースエステル化合物のアセチル基の置換度を表す)
(請求項3)
請求項1または2に記載のセルロースエステル化合物を有機溶媒で溶解して調製された溶液(ドープ)を支持体上に流延し、溶媒を蒸発せしめセルロースエステルフィルムを形成することを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0011】
(請求項4)
前記セルロースエステルフィルムを延伸倍率1.02〜1.5倍となるように延伸することを特徴とする請求項3に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0012】
(請求項5)
請求項3または4に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【0013】
(請求項6)
下記式(i)で表される面内リターデーション値Roが30〜300nmであることを特徴とする請求項5に記載のセルロースエステルフィルム。
【0014】
(i) Ro=(nx−ny)×d
(式中、nx、nyはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y方向の屈折率を表し、かつ、nx、nyはフィルム面内方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
(請求項7)
下記式(ii)で表される厚み方向のリターデーション値Rtが30〜300nmであることを特徴とする請求項5または6に記載のセルロースエステルフィルム。
【0015】
(ii) Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nx、ny、nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率を表し、かつ、nx、nyはフィルム面内方向の屈折率を、nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
(請求項8)
請求項5〜7のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムを有することを特徴とする偏光板。
【0016】
(請求項9)
請求項8に記載の偏光板を有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、広幅フィルムであっても、湿度変動によるリターデーション値の可逆的な変動を改善したセルロースエステルフィルム、かつ該セルロースエステルフィルムを用いた偏光板収率、視野角特性、視認性に優れた偏光板及び液晶表示装置を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明のセルロースエステル化合物は、脂肪族アシル基と炭素数6〜22の脂肪族を有し、かつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、ビニルスルホン基、及びエチレンイミン基から選ばれるいずれか一つの基がセルロースエステルの残留OH基に共有結合したものを有する化合物である。ここで本発明における炭素数6〜22の脂肪族を有し、かつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、ビニルスルホン基、及びエチレンイミン基から選ばれるいずれか一つの基を分子内に有する化合物とは、炭素数6〜22の脂肪族を有し、かつセルロースエステルの未反応ヒドロキシル基と反応し結合する基を有する化合物であり、例えば、オクチルアルデヒドで代表されるモノアルデヒド等のアルデヒド化合物であり、ビニルスルホン基を有する化合物とは、エチレンスルホニルオクチルに代表されるスルホニル基に結合したビニル基あるいはビニル基を形成しうる基を有する化合物、イソシアネート基、チオイソシアネート基を有する化合物とは、オクチルイソシアネート、ノニルチオイソシアネート、アダマンタンイソシアネート、シクロヘキシルチオイソシアネート、ジシクロヘキシルイソシアネート、に代表されるモノイソシアネート化合物、モノチオイソシアネート化合物、グリシジル基を有する化合物とは、グリシジルオクチルエーテル、グリシジルシクロヘキシルエーテル、グリシジルヘキシレート、グリシジルノニルエーテルに代表されるモノグリシジルエーテル化合物である。エチレンイミン基を有する化合物とは、1−フェネチルアリジリン、1−(2オルトトリルエチル)−アリジリンに代表されるモノエチレンイミン化合物である。これらの化合物を前記セルロースエステルの残留OH基に導入することにより、架橋ではなく、ペンダント化することで架橋によるフィルムの硬化による切断時の割れを防止し、且つ脂肪族化合物の導入による可塑化効果により、弾性率が低下する。弾性率が低下することにより、偏光子によるフィルムに発生する応力が低下し白抜けの発生が抑制される。また、セルロースエステルのOH基を塞ぐことで、水分の取り込みを抑制しリターデーション値の湿度変動を改善することもあわせて可能である。
【0020】
炭素数6〜22の脂肪族を有し、かつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、ビニルスルホン基、及びエチレンイミン基から選ばれるいずれか一つの基を分子内に有する化合物の添加量としては特に限定されないが、フィルムの延伸倍率、フィルム強度、平面性の点からは基質ポリマーに対して0.1〜10質量%の範囲が好ましく、より好ましくは1〜5質量%である。また、炭素数6〜22の脂肪族を有し、かつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、ビニルスルホン基、及びエチレンイミン基から選ばれるいずれか一つの基を分子内に有する化合物の分子量は1000以下が望ましい。
【0021】
また、炭素数6〜22の脂肪族化合物成分が反応性化合物内に導入されていることにより、透湿性の向上を合わせて持たせることが可能である。フィルムの透湿性は、偏光子の水分による劣化に密接に関連しており、通常は疎水性添加剤の導入により対応していた。一方、課題であるフィルムの環境変動によるリターデーション値の変動は、膜厚を薄くするほど低下することが見出された。しかしながら、膜厚を薄くすると透湿度が比例して低下し、偏光子保護の観点から、疎水性添加剤の増量が必要であるが、一方相溶性の観点から導入量は制限されるという問題が新たに発生することとなった。上記添加剤の導入は必要な透湿度を達成する上で、疎水性添加剤の量を減少させる効果があり、薄膜の保護フィルムを作製する観点からも非常に効果が大きい。
【0022】
次に、セルロースの水酸基への炭素数6〜22の脂肪族を有し、かつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、ビニルスルホン基、及びエチレンイミン基から選ばれるいずれか一つの基を分子内に有する化合物の置換は、一般的には脱水縮合が挙げられる。導入する化合物の反応性の強さによるが、反応を促進させるために触媒を使用してもよい。触媒としては錫錯体等が挙げられる。
【0023】
上記の方法として本発明のセルロースエステル化合物の製造方法としては、セルロース脂肪酸モノエステル又はジエステルを一旦製造したのち、残りの水酸基に前記炭素数6〜22の脂肪族を有し、かつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、ビニルスルホン基、及びエチレンイミン基から選ばれるいずれか一つの基を導入する方法、セルロースに直接に、炭素数6〜22の脂肪族を有し、かつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、及びビニルスルホン基から選ばれるいずれか一つの基を反応させる方法、などがあげられる。
【0024】
セルロース脂肪酸エステル又はジエステルの製造方法自体は周知の方法であるが、これにさらに炭素数6〜22の脂肪族を有し、かつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、及びビニルスルホン基から選ばれるいずれか一つの基を導入する反応は、Journal of Applied Polymer Science 58 2163−2174(1995)に記載されている方法で合成することが可能である。該当する基の種類によって異なるが好ましくは反応温度50〜150℃、より好ましくは100〜140℃で、反応時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは30〜300分で行われる。
【0025】
上記の反応を無溶媒又は溶媒中のいずれで行っても良いが、好ましくは溶媒を用いて行われる。溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフランなどを用いることができる。
【0026】
炭素数6〜22の脂肪族を有し、かつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、ビニルスルホン基、及びエチレンイミン基から選ばれるいずれか一つの基の置換度はセルロース脂肪酸モノエステルの場合、残存する水酸基に対して2.0以下、好ましくは0.1〜2.0である。また、セルロース脂肪酸ジエステル(二酢酸セルロース)の場合、残存する水酸基に対して1.0以下、好ましくは0.1〜1.0である。
【0027】
本発明において、セルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることが出来る。また、これらから得られたセルロースエステルは、それぞれを単独で或いは任意の割合で混合使用することが出来るが、綿花リンターを50質量%以上使用することが好ましい。
【0028】
本発明に用いられるセルロースエステルは、セルロース原料のアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応を行って得ることが出来る。アシル化剤が酸クロライド(CH3COCl、C25COCl、C37COCl、C65COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応を行って得ることが出来る。具体的には、特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することが出来る。
【0029】
セルロースエステルの合成においては、アシル基がセルロース分子の水酸基に反応する。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基に誘導されたアシル基の数を置換度という。例えば、セルローストリアセテートでは、グルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している。
【0030】
本発明のセルロースエステル化合物の合成に用いることが出来るセルロースエステルには特に限定はないが、特に合成されたセルロースエステル化合物のアセチル基の置換度として、好ましくは下記式(I)を満足するセルロースエステルを使用することである。
【0031】
(I)1.0≦X≦2.5
(但し、Xはセルロースエステル化合物のアセチル基の置換度を表す)
アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に準じて測定することが出来る。
【0032】
また、本発明は上記セルロースエステル以外でも、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等や、特開平10−45804号、同8−231761号、米国特許第2,319,052号等に記載されているようなセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを用いることも出来る。上記記載の中でも、特に好ましく用いられるセルロースの低級脂肪酸エステルは、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートである。これらのセルロースエステルを本発明に係るセルロースエステルと混合して用いることが出来る。
【0033】
本発明のセルロースエステル化合物の数平均分子量Mn(測定法は下記)は、40000〜250000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く、且つ適度のドープ粘度となり好ましく、更には45000〜120000の範囲がより好ましい。また、重量平均分子量Mwとの比Mw/Mnが1.0〜5.0のセルロースエステルが好ましく使用され、更には1.5〜4.5のセルロースエステルが好ましく使用される。
【0034】
セルロースエステルの数平均分子量は、高速液体クロマトグラフィーにより、下記条件で測定出来る。
【0035】
溶媒 :アセトン
カラム :MPW×1(東ソー(株)製)
試料濃度 :0.2(質量/体積)%
流量 :1.0ml/分
試料注入量:300μl
標準試料 :ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量188,200)
温度 :23℃
また、セルロースエステルの製造中に使用する、または使用材料に微量ながら混在しているセルロースエステル中の金属(Ca、Mg、Fe、Na等)は、出来るだけ少ない方が好ましく、金属の総含有量は100ppm以下が好ましい。
【0036】
セルロースエステルを溶解したセルロースエステル溶液またはドープ形成に有用な有機溶媒としては、塩素系有機溶媒のメチレンクロライド(塩化メチレン)を挙げることが出来、これは、セルロースエステル、特にセルローストリアセテートの溶解に適している。
【0037】
また、非塩素系有機溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることが出来る。
【0038】
これらの有機溶媒をセルローストリアセテートに対して使用する場合には、常温での溶解方法も使用可能であるが、高温溶解方法、冷却溶解方法、高圧溶解方法等の溶解方法を用いることが、不溶解物を少なく出来るので好ましい。
【0039】
セルローストリアセテート以外のセルロースエステルに対しては、メチレンクロライドを用いることも出来るが、メチレンクロライドを使用せずに、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用することが出来る。特に酢酸メチルが好ましい。
【0040】
ここで、以下、上記セルロースエステルに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0041】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることでウェブをゲル化させ、ウェブを丈夫にし金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースエステルの溶解を促進したりする役割もある。
【0042】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることが出来る。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロースエステルに対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0043】
本発明の効果を得る上で、前記セルロースエステル化合物以外に、以下に示す棒状化合物をセルロースエステルフィルムに添加することは、表示装置の色味を改善する上でも好ましい。
【0044】
本発明で用いることの出来る棒状化合物は、少なくとも一つの芳香族環を有することが好ましく、少なくとも二つの芳香族環を有することが更に好ましい。棒状化合物は、直線的な分子構造を有することが好ましい。直線的な分子構造とは、熱力学的に最も安定な構造において棒状化合物の分子構造が直線的であることを意味する。熱力学的に最も安定な構造は、結晶構造解析または分子軌道計算によって求めることが出来る。例えば、分子軌道計算ソフト(例、WinMOPAC2000、富士通(株)製)を用いて分子軌道計算を行い、化合物の生成熱が最も小さくなるような分子の構造を求めることが出来る。分子構造が直線的であるとは、上記のように計算して求められる熱力学的に最も安定な構造において、分子構造の角度が140度以上であることを意味する。棒状化合物は、液晶性を示すことが好ましい。棒状化合物は、加熱により液晶性を示す(サーモトロピック液晶性を有する)ことが更に好ましい。液晶相は、ネマチィク相またはスメクティック相が好ましい。
【0045】
棒状化合物としては、下記一般式(1)で表されるトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸エステル化合物が好ましい。
【0046】
一般式(1) Ar1−L1−Ar2
式(1)において、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。本明細書において、芳香族基は、アリール基(芳香族性炭化水素基)、置換アリール基、芳香族性ヘテロ環基及び置換芳香族性ヘテロ環基を含む。アリール基及び置換アリール基の方が、芳香族性ヘテロ環基及び置換芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族性へテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることが更に好ましい。芳香族性へテロ環は一般に最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子または硫黄原子が好ましく、窒素原子または硫黄原子が更に好ましい。芳香族性へテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、及び1,3,5−トリアジン環が含まれる。芳香族基の芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環及びピラジン環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
【0047】
置換アリール基及び置換芳香族性ヘテロ環基の置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、アルキルアミノ基(例、メチルアミノ、エチルアミノ、ブチルアミノ、ジメチルアミノ)、ニトロ、スルホ、カルバモイル、アルキルカルバモイル基(例、N−メチルカルバモイル、N−エチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、スルファモイル、アルキルスルファモイル基(例、N−メチルスルファモイル、N−エチルスルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル)、ウレイド、アルキルウレイド基(例、N−メチルウレイド、N,N−ジメチルウレイド、N,N,N’−トリメチルウレイド)、アルキル基(例、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘプチル、オクチル、イソプロピル、s−ブチル、t−アミル、シクロヘキシル、シクロペンチル)、アルケニル基(例、ビニル、アリル、ヘキセニル)、アルキニル基(例、エチニル、ブチニル)、アシル基(例、ホルミル、アセチル、ブチリル、ヘキサノイル、ラウリル)、アシルオキシ基(例、アセトキシ、ブチリルオキシ、ヘキサノイルオキシ、ラウリルオキシ)、アルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ)、アリールオキシ基(例、フェノキシ)、アルコキシカルボニル基(例、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘプチルオキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(例、フェノキシカルボニル)、アルコキシカルボニルアミノ基(例、ブトキシカルボニルアミノ、ヘキシルオキシカルボニルアミノ)、アルキルチオ基(例、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ブチルチオ、ペンチルチオ、ヘプチルチオ、オクチルチオ)、アリールチオ基(例、フェニルチオ)、アルキルスルホニル基(例、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、ブチルスルホニル、ペンチルスルホニル、ヘプチルスルホニル、オクチルスルホニル)、アミド基(例、アセトアミド、ブチルアミド基、ヘキシルアミド、ラウリルアミド)及び非芳香族性複素環基(例、モルホリル、ピラジニル)が含まれる。
【0048】
置換アリール基及び置換芳香族性ヘテロ環基の置換基としては、ハロゲン原子、シアノ、カルボキシル、ヒドロキシル、アミノ、アルキル置換アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基及びアルキル基が好ましい。アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基及びアルキルチオ基のアルキル部分とアルキル基とは、更に置換基を有していてもよい。アルキル部分及びアルキル基の置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、アルキルアミノ基、ニトロ、スルホ、カルバモイル、アルキルカルバモイル基、スルファモイル、アルキルスルファモイル基、ウレイド、アルキルウレイド基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アミド基及び非芳香族性複素環基が含まれる。アルキル部分及びアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル、アミノ、アルキルアミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニル基及びアルコキシ基が好ましい。
【0049】
式(1)において、L1は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、二価の飽和ヘテロ環基、−O−、−CO−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基である。アルキレン基は、環状構造を有していてもよい。環状アルキレン基としては、シクロヘキシレンが好ましく、1,4−シクロへキシレンが特に好ましい。鎖状アルキレン基としては、直鎖状アルキレン基の方が分岐を有するアルキレン基よりも好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜15であることがより好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが更にまた好ましく、1〜6であることが最も好ましい。
【0050】
アルケニレン基及びアルキニレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することが更に好ましい。アルケニレン基及びアルキニレン基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましく、2〜8であることがより好ましく、2〜6であることが更に好ましく、2〜4であることが更にまた好ましく、2(ビニレンまたはエチニレン)であることが最も好ましい。二価の飽和ヘテロ環基は、3員〜9員のヘテロ環を有することが好ましい。ヘテロ環のヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子またはゲルマニウム原子が好ましい。飽和ヘテロ環の例には、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、ピロリジン環、イミダゾリジン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、1,3−ジオキサン環、1,4−ジオキサン環、テトラヒドロチオフェン環、1,3−チアゾリジン環、1,3−オキサゾリジン環、1,3−ジオキソラン環、1,3−ジチオラン環及び1,3,2−ジオキサボロランが含まれる。特に好ましい二価の飽和ヘテロ環基は、ピペラジン−1,4−ジイレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイレン及び1,3,2−ジオキサボロラン−2,5−ジイレンである。
【0051】
組み合わせからなる二価の連結基の例を示す。
【0052】
L−1:−O−CO−アルキレン基−CO−O−
L−2:−CO−O−アルキレン基−O−CO−
L−3:−O−CO−アルケニレン基−CO−O−
L−4:−CO−O−アルケニレン基−O−CO−
L−5:−O−CO−アルキニレン基−CO−O−
L−6:−CO−O−アルキニレン基−O−CO−
L−7:−O−CO−二価の飽和ヘテロ環基−CO−O−
L−8:−CO−O−二価の飽和ヘテロ環基−O−CO−
一般式(1)の分子構造において、L1を挟んで、Ar1とAr2とが形成する角度は、140度以上であることが好ましい。棒状化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物が更に好ましい。
【0053】
一般式(2) Ar1−L2−X−L3−Ar2
式(2)において、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。芳香族基の定義及び例は、式(1)のAr1及びAr2と同様である。
【0054】
式(2)において、L2及びL3は、それぞれ独立に、アルキレン基、−O−、−CO−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基である。アルキレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することが更に好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましく、1〜8であることがより好ましく、1〜6であることが更に好ましく、1〜4であることが更にまた好ましく、1または2(メチレンまたはエチレン)であることが最も好ましい。L2及びL3は、−O−CO−または−CO−O−であることが特に好ましい。
【0055】
式(2)において、Xは、1,4−シクロへキシレン、ビニレンまたはエチニレンである。以下に、式(1)で表される化合物の具体例を示す。
【0056】
【化1】

【0057】
【化2】

【0058】
【化3】

【0059】
【化4】

【0060】
【化5】

【0061】
具体例(1)〜(34)、(41)、(42)、(46)、(47)、(52)、(53)は、シクロヘキサン環の1位と4位とに二つの不斉炭素原子を有する。但し、具体例(1)、(4)〜(34)、(41)、(42)、(46)、(47)、(52)、(53)は、対称なメソ型の分子構造を有するため光学異性体(光学活性)はなく、幾何異性体(トランス型とシス型)のみ存在する。具体例(1)のトランス型(1−trans)とシス型(1−cis)とを、以下に示す。
【0062】
【化6】

【0063】
前述したように、棒状化合物は直線的な分子構造を有することが好ましい。その為、トランス型の方がシス型よりも好ましい。具体例(2)及び(3)は、幾何異性体に加えて光学異性体(合計4種の異性体)を有する。幾何異性体については、同様にトランス型の方がシス型よりも好ましい。光学異性体については、特に優劣はなく、D、L或いはラセミ体のいずれでもよい。具体例(43)〜(45)では、中心のビニレン結合にトランス型とシス型とがある。上記と同様の理由で、トランス型の方がシス型よりも好ましい。
【0064】
溶液の紫外線吸収スペクトルにおいて最大吸収波長(λmax)が250nmより短波長である棒状化合物を、二種類以上併用してもよい。棒状化合物は、文献記載の方法を参照して合成出来る。文献としては、Mol.Cryst.Liq.Cryst.,53巻、229頁(1979年)、同89巻、93頁(1982年)、同145巻、111頁(1987年)、同170巻、43頁(1989年)、J.Am.Chem.Soc.,113巻、1349頁(1991年)、同118巻、5346頁(1996年)、同92巻、1582頁(1970年)、J.Org.Chem.,40巻、420頁(1975年)、Tetrahedron、48巻16号、3437頁(1992年)を挙げることが出来る。
【0065】
本発明におけるセルロースエステルフィルムは、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、微粒子(マット剤)等の添加剤を含有してもよい。
【0066】
可塑剤としては、特に限定はないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることが出来る。
【0067】
本発明のセルロースエステルフィルムは、可塑剤の少なくとも一種が下記一般式(3)で表される芳香族末端エステル系可塑剤であることが好ましい。
【0068】
一般式(3) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(3)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0069】
本発明に係る芳香族末端エステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0070】
本発明に用いられる芳香族末端エステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0071】
また、本発明に用いられる芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0072】
また、本発明に用いられる芳香族末端エステルの炭素数6〜12のアリールグリコール成分としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0073】
本発明に用いられる芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリールジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0074】
本発明に用いられる芳香族末端エステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜2000、より好ましくは500〜1500の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものが好適である。
【0075】
(芳香族末端エステルの酸価、水酸基価)
酸価とは、試料1g中に含まれる酸(分子末端に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価及び水酸基価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
【0076】
以下、本発明に用いられる芳香族末端エステル系可塑剤の合成例を示す。
【0077】
〈サンプルNo.1(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸820部(5モル)、1,2−プロピレングリコール608部(8モル)、安息香酸610部(5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.30部を一括して仕込み窒素気流中で攪拌下、還流凝縮器を付して過剰の1価アルコールを還流させながら、酸価が2以下になるまで130〜250℃で加熱を続け生成する水を連続的に除去した。次いで200〜230℃で6.65×103Pa〜最終的に4×102Pa以下の減圧下、留出分を除去し、この後濾過して次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0078】
粘度(25℃、mPa・s);19815
酸価 ;0.4
〈サンプルNo.2(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、アジピン酸500部(3.5モル)、安息香酸305部(2.5モル)、ジエチレングリコール583部(5.5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.45部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0079】
粘度(25℃、mPa・s);90
酸価 ;0.05
〈サンプルNo.3(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器にイソフタル酸570部(3.5モル)、安息香酸305部(2.5モル)、ジプロピレングリコール737部(5.5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.40部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0080】
粘度(25℃、mPa・s);33400
酸価 ;0.2
以下に、本発明に用いられる芳香族末端エステル系可塑剤の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0081】
【化7】

【0082】
【化8】

【0083】
本発明に用いられる芳香族末端エステル系可塑剤の含有量は、セルロースエステルフィルム中に1〜20質量%含有することが好ましく、特に3〜11質量%含有することが好ましい
本発明では、他の好ましい可塑剤として更に多価アルコールエステル系可塑剤が挙げられる。
【0084】
本発明で用いられる多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0085】
本発明に用いられる多価アルコールは、次の一般式(4)で表される。
【0086】
一般式(4) R1−(OH)n
式中、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。
【0087】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば、以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトールなどを挙げることが出来る。中でも、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0088】
本発明に用いられる多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸などを用いることが出来る。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると、透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0089】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。酢酸を用いるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0090】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることが出来る。好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上持つ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。特に、安息香酸が好ましい。
【0091】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、分子量300〜1500の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を示す。
【0092】
【化9】

【0093】
【化10】

【0094】
【化11】

【0095】
【化12】

【0096】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、上記可塑剤以外の可塑剤を含有することも好ましい。
【0097】
2種以上の可塑剤を含有させることによって、可塑剤の溶出を少なくすることが出来る。その理由は明らかではないが、1種類当たりの添加量を減らすことが出来ることと、2種の可塑剤同士及びセルロースエステルとの相互作用によって溶出が抑制されるものと思われる。
【0098】
本発明で用いることの出来る他の可塑剤は下記のものが挙げられる。
【0099】
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等を用いることが出来る。
【0100】
これらの可塑剤は単独或いは2種以上混合して用いることが出来る。可塑剤の使用量は、セルロースエステルに対して1〜20質量%が好ましく、4〜16質量%が更に好ましく、特に好ましくは6〜11質量%である。可塑剤の添加量が多すぎると、フィルムが柔らかくなりすぎるため熱による弾性率の低下率が大きくなり、添加量が少なすぎるとフィルムの透湿性が低下する。
【0101】
紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、縮合多環化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。又、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
【0102】
本発明に有用な紫外線吸収剤の具体例として、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチル−フェノール(チヌビン(TINUVIN)171)、2−オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物(チヌビン(TINUVIN)109)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(チヌビン326)等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。また、上記のチヌビン109、チヌビン171、チヌビン326等チヌビンは何れもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の市販品で、好ましく使用出来る。
【0103】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。多環縮合環系化合物としては、ピレン、ベンゾイルナフタレン、キシリジイルナフタレン等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。
【0104】
また、本発明のセルロースエステルフィルムに用いることの出来る紫外線吸収剤は、プラズマ処理工程の汚染が少なく、また、各種塗布層の塗布性にも優れる為、特願平11−295209号に記載されている分配係数が9.2以上の紫外線吸収剤を含むことが好ましく、特に分配係数が10.1以上の紫外線吸収剤を用いることが好ましい。
【0105】
また、特開平6−148430号公報及び特願2000−156039号記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)を好ましく用いることが出来る。特開平6−148430号の一般式(1)、或いは一般式(2)、或いは特願2000−156039の一般式(3)(6)(7)記載の高分子紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。
【0106】
また、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることが出来る。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0107】
本発明のセルロースエステルフィルム中には微粒子が添加されることが好ましい。
【0108】
添加される微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることが出来る。中でもケイ素を含むものが濁度が低くなり、また、フィルムのヘイズを小さく出来るので好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0109】
二酸化珪素のような微粒子は有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下出来るため好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどを挙げることが出来る。
【0110】
二酸化珪素微粒子は、例えば、気化させた四塩化珪素と水素を混合させたものを1000〜1200℃にて空気中で燃焼させることで得ることが出来る。
【0111】
二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下、見掛比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmであるのがより好ましく、5〜12nmであるのが更に好ましい。1次粒子の平均径が小さい方がヘイズが低く好ましい。見掛比重は90〜200g/L以上がより好ましく、更に100〜200g/L以上がより好ましい。見掛比重が大きい程、高濃度の微粒子分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が発生せず好ましい。尚、本発明において、リットルをLで表すこととする。
【0112】
微粒子の添加量は、セルロースエステルフィルム1m2当たり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがより好ましく、0.08〜0.16gが更に好ましい。これにより、架橋剤により3次元架橋されたセルロースエステルフィルム表面に0.1〜1μmの凸部が好ましく形成される。
【0113】
好ましい二酸化珪素の微粒子としては、例えば、日本アエロジル(株)製のアエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されているものを挙げることが出来、アエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812を好ましく用いることが出来る。酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、何れも使用することが出来る。
【0114】
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972V、アエロジルTT600が本発明のセルロースエステルフィルムの濁度を低くし、且つ摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましい。
【0115】
ポリマーの微粒子の例として、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることが出来る。これらのうちシリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(東芝シリコーン(株)製)を挙げることが出来る。
【0116】
微粒子の1次平均粒子径の測定においては、透過型電子顕微鏡(倍率50万〜200万倍)で粒子を観察を行い、粒子100個を観察し、その平均値をもって、1次平均粒子径とすることが出来る。
【0117】
また、上記記載の見掛比重は、二酸化珪素微粒子を一定量メスシリンダーに採り、この時の重さを測定し、下記式で算出することが出来る。
【0118】
見掛比重(g/L)=二酸化珪素質量(g)/二酸化珪素の容積(L)
また、セルロースエステルフィルムは、溶液流延製膜でつくられたものであることが好ましい。特に、ドープを支持体上に流延し、剥離後乾燥させて、残留溶媒量が3〜40質量%であるときに幅手方向に1.00〜1.2倍延伸し、更に乾燥させて得られたセルロースエステルフィルムであることが好ましい。
【0119】
以下、本発明に係わるセルロースエステルフィルムの製膜方法について述べる。本発明に係るセルロースエステルフィルムは溶液流延製膜法により作製することが好ましい。
【0120】
溶解工程:セルロースエステル(フレーク状の)に対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該セルロースエステル、本発明に係る反応性化合物、添加剤等を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程、或いはセルロースエステル溶液に本発明に係る反応性化合物溶液、添加剤溶液等を混合してドープを形成する工程である。セルロースエステルの溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、または特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることが出来るが、特に、前記セルロースエステルと前記反応性化合物とを溶解した溶液を密閉容器内において80℃以上の温度で加熱する方法が好ましく、特に100℃以上で行うことが好ましい。更に加圧して行うことも好ましい。上記手段はセルロースエステルの溶解性を向上させるだけでなく、前記反応性化合物をセルロースエステルの残留ヒドロキシル基に熱縮合させることが可能である。ドープ中のセルロースエステルの濃度は10〜35質量%が好ましい。溶解中または後のドープに添加剤を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
【0121】
流延工程:得られたドープを送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイに送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えばステンレスベルト、或いは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。ダイの口金部分のスリット形状を調整出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。或いは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のセルロースエステルフィルムを得ることが好ましい。
【0122】
溶媒蒸発工程:ウェブ(金属支持体上にドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)を金属支持体上で加熱し、金属支持体からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。裏面液体伝熱の場合は、ドープ使用有機溶媒の主溶媒または最も低い沸点を有する有機溶媒の沸点以下で加熱するのが好ましい。
【0123】
剥離工程:金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。尚、剥離する時点でのウェブの残留溶媒量(下記式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させ過ぎてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
【0124】
ここで、製膜速度を上げる方法(残留溶媒量が出来るだけ多いうちに剥離することで製膜速度を上げることが出来る)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。例えば、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め製膜速度を上げることが出来るのである。金属支持体上でのウェブの乾燥が条件の強弱、金属支持体の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することが出来るが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易いため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を10〜40℃とするのが好ましく、15〜30℃とするのがより好ましい。また、該剥離位置におけるウェブの残留溶媒量を10〜120質量%とすることが好ましい。残留溶媒量は下記の式で表すことが出来る。
【0125】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、Nは質量Mのものを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0126】
乾燥及び延伸工程:剥離後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置、及び/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて、ウェブを乾燥する。本発明においては、セルロースステルフィルムは1.02〜1.5倍に延伸することが好ましく、その方法として、テンター装置を用いて延伸することが好ましい。更に好ましくは縦及び横方向等、互いに直行する2軸方向に2軸延伸されたものである。
【0127】
互いに直行する2軸方向に延伸することにより得られるフィルムの膜厚変動が減少出来る。セルロースエステルフィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなり、光学補償フィルムとして用いたとき着色等の問題が生じる。セルロースエステルフィルムの膜厚変動は、±3%、更に±1%の範囲とすることが好ましい。以上の様な目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ1.02〜1.5倍、1.02〜1.5倍の範囲とすることが出来、特に好ましくはそれぞれ1.02〜1.3倍、1.02〜1.3倍の範囲とすることである。
【0128】
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、或いは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、所謂テンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行うことが出来、破断等の危険性が減少出来るので好ましい。
【0129】
また、本発明のセルロースエステルフィルムは、下記式(i)、(ii)で表される膜厚方向のリターデーション値Rtが20〜300nm、面内方向のリターデーション値Roが20〜300nmであることが好ましく、特に好ましくはRtが70〜200nm、Roが30〜100nmである。
【0130】
(i) Ro=(nx−ny)×d
(ii) Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nx、ny、nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率を表し、かつ、nx、nyはフィルム面内方向の屈折率を、nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
尚、リターデーション値(Ro)、(Rt)は自動複屈折率計を用いて測定することが出来る。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmで求めることが出来る。
【0131】
以上のようにして得られたフィルムは、最終仕上がりフィルムの残留溶媒量で2質量%以下、更に0.4質量%以下であることが、寸度安定性が良好なフィルムを得る上で好ましい。
【0132】
乾燥の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。全体を通して、通常乾燥温度は40〜250℃の範囲で行われる。使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。本発明では、溶液流延製膜によりフィルムを形成した後、乾燥工程にて乾燥温度は100〜125℃の範囲に設定することが好ましく、特に好ましくは115〜125℃である。125℃より高い温度に設定するとリターデーション値の低下が発生し、100℃以下であるとフィルムの経時での寸法安定性が劣化する。上記熱処理は1時間以上5時間以下の範囲で行うことが本発明の効果が安定的に得られること、及び生産性の観点で好ましい。
【0133】
また、セルロースエステルフィルムの透過率は、90%以上であるのが好ましく、92%以上であるのがより好ましく、94%以上であるのが特に好ましい。また、セルロースエステルフィルムのヘイズは、0〜1%であるのが好ましく、0〜0.1%であるのが特に好ましい。また、本発明のセルロースエステルフィルムにおいては、透湿度を250g/m2・24時間以下とするのが好ましく、更に0〜220g/m2・24時間とするのが好ましく、特に1〜200g/m2・24時間とするのが好ましい。尚、透湿性が低過ぎると、偏光子と貼合する際にポリビニルアルコール水溶液等の接着剤に含まれる水分の蒸発速度が遅くなり好ましくないが、セルロースエステルフィルム自身は透湿性・吸水性を有しているので、本発明においては大きな問題はない。
【0134】
また、本発明の光学フィルムの端部には、所謂ナーリング部が設けられているのが好ましい。特に、ナーリングの高さは、セルロースエステルフィルムの膜厚の25%以下であるのが好ましく、ナーリング部を設けることによりロール状フィルムの保管における安定性が改善される。
【0135】
(偏光板)
本発明の偏光板について説明する。本発明の偏光板に用いる偏光子としては、従来公知のものを用いることが出来る。例えば、ポリビニルアルコールの如き親水性ポリマーからなるフィルムを、ヨウ素の如き二色性染料で処理して延伸したものや、塩化ビニルの如きプラスチックフィルムを処理して配向させたものを用いる。こうして得られた偏光子を、セルロースエステルフィルムにより貼合する。このとき、セルロールエステルフィルムのうちの少なくとも一枚は、本発明のセルロースエステルフィルムを用いることが必要であるが、従来公知の偏光板用支持体として用いられていたセルローストリアセテート(TAC)フィルムを他の偏光子の面の貼合に用いても良いが、本発明に記載の効果を最大に得るためには、偏光板保護膜の両面の物性の同一性の点で偏光板を構成する全てのセルロースエステルフィルムとして、本発明のセルロースエステルフィルムを用いることが好ましい。
【0136】
更に、二色性物質を含有する偏光子の光透過軸と前記偏光子に貼合する光学的に二軸性を有するセルロースエステルフィルムの流延製膜時の幅方向の延伸方向とが略平行になるように貼合されることが好ましく、また、各々の軸のなす角の好ましい角度は±10°以内、好ましくは±3°以内、更に好ましくは±1°以内である。
【0137】
更に、偏光板の作製時、二色性物質を含有する偏光子と光学的に二軸性を有するセルロースエステルフィルムとを貼合するが、生産効率向上の観点から、長尺ロールとして作製されたセルロースエステルフィルムが好ましく用いられる。本発明において、長尺とは、500m以上を示すが、好ましくは1000m以上であり、特に好ましくは1000m〜4000mである。
【0138】
また、近年の液晶ディスプレイの大型化を鑑みると、偏光子保護フィルムの幅は1m以上が好ましい。他方で、4mを超えると装置が大型化し、また搬送が困難となるため、本発明のセルロースエステルフィルムの幅は1〜4mが好ましく、特に好ましくは1.4〜2mである。本発明によれば1.4m以上の幅を有するフィルムでも、フィルム全幅に渡って本発明の効果を均一に得ることが出来る。
【0139】
(液晶表示装置)
本発明の液晶表示装置は、上記本発明の偏光板と液晶セルを有する液晶表示装置であって、本発明に係るセルロースエステルフィルムが該偏光板の二色性物質を含有する偏光子と該液晶セルとの間に配置されることが本発明の効果を得る上で好ましい。
【0140】
本発明の偏光板を液晶表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた本発明の液晶表示装置を作製することが出来る。本発明のセルロースエステルフィルム及び偏光板は反射型、透過型、半透過型LCD或いはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。特に画面が30型以上、特に30型〜54型の大画面の表示装置では、画面周辺部での白抜けなどもなく、その効果が長期間維持され、特にMVA型液晶表示装置では顕著な効果が認められる。また、色むら、ぎらつきや波打ちむらが少なく、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
【実施例】
【0141】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0142】
《セルロースエステル化合物の作製》
《セルロースエステル化合物1の作製》
冷却管、撹拌機、温度計のついた200mlの3頭コルベンにヘキサンイソシアネート7g(0.056mol)と2酢酸セルロース12.3g(0.05mol)とテトラヒドロフラン50mlを加え溶解させた。溶解後ジブチル錫ラウレート0.1gを添加し、5時間加熱還流させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、ジクロロメタン50mlを加えた後、撹拌しながらメタノール1000mlにゆっくり滴下し再沈させた。得られた沈殿を濾過し、乾燥した。前記乾燥品を再度メタノール1000ml中にいれ撹拌洗浄を行い、濾過後乾燥することで目的物を得た。得られたものをセルロースエステル化合物1とする。収量16g(87%)、アセチル基の置換度をNMRより求めた結果0.9であった。
【0143】
《セルロースエステル化合物2の作製》
冷却管、撹拌機、温度計のついた200mlの3頭コルベンにグリシジルオクチルエーテル7.9g(0.056mol)と2酢酸セルロース12.3g(0.05mol)とテトラヒドロフラン50mlを加え溶解させた。溶解後ジブチル錫オキサイド0.1gを添加し、5時間加熱還流させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、ジクロロメタン50mlを加えた後、撹拌しながらメタノール1000mlにゆっくり滴下し再沈させた。得られた沈殿を濾過し、乾燥した。前記乾燥品を再度メタノール1000ml中にいれ撹拌洗浄を行い、濾過後乾燥することで目的物を得た。得られたものをセルロースエステル化合物2とする。収量17g(88%)、アセチル基の置換度をNMRより求めた結果0.9であった。
【0144】
《セルロースエステル化合物3の作製》
冷却管、撹拌機、温度計のついた200mlの3頭コルベンにエチレンスルホニルオクチル11g(0.056mol)と2酢酸セルロース12.3g(0.05mol)とテトラヒドロフラン50mlを加え溶解させた。溶解後ジブチル錫オキサイド0.1gを添加し、5時間加熱還流させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、ジクロロメタン50mlを加えた後、撹拌しながらメタノール1000mlにゆっくり滴下し再沈させた。得られた沈殿を濾過し、乾燥した。前記乾燥品を再度メタノール1000ml中にいれ撹拌洗浄を行い、濾過後乾燥することで目的物を得た。得られたものをセルロースエステル化合物3とする。収量17g(86%)。アセチル基の置換度をNMRより求めた結果0.9であった。
【0145】
《セルロースエステル化合物4の作製》
冷却管、撹拌機、温度計のついた200mlの3頭コルベンにオクチルアリジリン8.6g(0.056mol)と2酢酸セルロース12.3g(0.05mol)とテトラヒドロフラン50mlを加え溶解させた。溶解後ブチル錫オキサイド0.1gを添加し、5時間加熱還流させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、ジクロロメタン50mlを加えた後、撹拌しながらメタノール1000mlにゆっくり滴下し再沈させた。得られた沈殿を濾過し、乾燥した。前記乾燥品を再度メタノール1000ml中にいれ撹拌洗浄を行い、濾過後乾燥することで目的物を得た。得られたものをセルロースエステル化合物4とする。収量16g(86%)、アセチル基の置換度をNMRより求めた結果0.88であった。
【0146】
《セルロースエステル化合物5の作製》
冷却管、撹拌機、温度計のついた300mlの3頭コルベンにオクタンイソシアネート17g(0.11mol)と1酢酸セルロース20.4g(0.1mol)とテトラヒドロフラン100mlを加え溶解させた。溶解後ジブチル錫ラウレート0.1gを添加し、8時間加熱還流させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、ジクロロメタン100mlを加えた後、撹拌しながらメタノール2000mlにゆっくり滴下し再沈させた。得られた沈殿を濾過し、乾燥した。前記乾燥品を再度メタノール1000ml中にいれ撹拌洗浄を行い、濾過後乾燥することで目的物を得た。得られたものをセルロースエステル化合物5とする。収量47g(92%)、アセチル基の置換度をNMRより求めた結果1.8であった。
【0147】
《セルロースエステル化合物6の作製》
冷却管、撹拌機、温度計のついた300mlの3頭コルベンにグリシジルヘキシルエーテル15.6g(0.11mol)と1酢酸セルロース20.4g(0.1mol)とテトラヒドロフラン100mlを加え溶解させた。溶解後ジブチル錫オキサイド0.1gを添加し、8時間加熱還流させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、ジクロロメタン50mlを加えた後、撹拌しながらメタノール1500mlにゆっくり滴下し再沈させた。得られた沈殿を濾過し、乾燥した。前記乾燥品を再度メタノール1000ml中にいれ撹拌洗浄を行い、濾過後乾燥することで目的物を得た。得られたものをセルロースエステル化合物6とする。収量44g(89%)、アセチル基の置換度をNMRより求めた結果1.8であった。
【0148】
《セルロースエステルフィルムの作製》
〈微粒子分散液の作製〉
微粒子 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0149】
〈微粒子添加液の作製〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクにセルロースエステル樹脂Aを添加し、加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。濾過後のセルロースエステル溶液を充分に攪拌しながら、ここに微粒子分散液をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
【0150】
(微粒子添加液組成)
メチレンクロライド 99質量部
セルロースエステル樹脂A 4質量部
微粒子分散液 11質量部
〈主ドープ液の作製〉
加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。次にセルロースエステル樹脂A(セルロースエステル化合物1)、可塑剤(A)、(B)、紫外線吸収剤(A)、(B),(C)を70℃にて加熱混合溶解した。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
【0151】
(主ドープ液組成)
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 57質量部
セルロースエステル樹脂A 100質量部
可塑剤(A) 9.5質量部
可塑剤(B) 2.2質量部
紫外線吸収剤(A) 0.5質量部
紫外線吸収剤(B) 0.6質量部
紫外線吸収剤(C) 0.6質量部
主ドープ液100質量部と微粒子添加液2質量部となるように加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分に混合し、次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープ液を温度33℃、1.5m幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は25℃に制御した。ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力130N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。
【0152】
剥離したセルロースエステルフィルムを、120℃〜130℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に1.3延伸した。延伸開始時の残留溶媒は30%であった。
【0153】
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は120℃で、乾燥時間は2時間、搬送張力は150〜350N/mの間で変化させた。
【0154】
以上のようにして、幅1.5m、かつ端部に幅1cm、高さ8μmのナーリングを有する膜厚80μmのセルロースエステルフィルム101を得た。
【0155】
表1記載の各素材を使用し、更に主ドープ組成、延伸条件を表2に記載のように変更した以外は、上記と同様にして本発明のセルロースエステルフィルム102〜107、比較例のセルロースエステルフィルム201を作製した。
【0156】
尚、セルロースエステルフィルム107には、例示棒状化合物(10)を主ドープ液に3質量部添加した。また、可塑剤Dの芳香族末端エステルサンプルNo.3は前記芳香族末端エステルの合成方法により調製した。
【0157】
【表1】

【0158】
【表2】

【0159】
《偏光板の作製》
厚さ、120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光膜を得た。
【0160】
次いで、下記工程1〜5に従って偏光膜と前記作製したセルロースエステルフィルム101〜107、201、裏面側偏光板保護フィルムのセルロースエステルフィルムを貼り合わせて偏光板を作製した。裏面側の偏光板保護フィルムには位相差を有さないセルロースエステルフィルム(コニカミノルタタックKC8UX:コニカミノルタオプト(株)製)を用いてそれぞれ偏光板とした。
【0161】
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化したセルロースエステルフィルムを得た。
【0162】
工程2:前記偏光膜を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
【0163】
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理したセルロースエステルフィルムの上にのせて積層し配置した。
【0164】
工程4:工程3で積層した前記作製したセルロースエステルフィルムと偏光膜と裏面側のセルロースエステルフィルムを圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
【0165】
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光膜とセルロースエステルフィルムとを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、偏光板を作製した。セルロースエステルフィルム101〜107、201をそれぞれ用いて、偏光板101〜107、201を作製した。
【0166】
《液晶表示装置の作製》
視野角測定を行う液晶パネルを以下のようにして作製し、液晶表示装置としての特性を評価した。
【0167】
富士通製15型ディスプレイVL−150SDの予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板101〜107、201をそれぞれ液晶セルのガラス面に貼合した。
【0168】
その際、前記作製したセルロースエステルフィルム101〜107、201が偏光子と液晶セルとの間に配置され、かつ、偏光板の貼合の向きは、予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、液晶表示装置101〜107、201を各々作製した。
【0169】
以上の様にして得られたセルロースエステルフィルム101〜107、201、偏光板101〜107、201、液晶表示装置101〜107、201を用いて下記の評価を行った。
【0170】
《評価項目、評価方法》
(弾性率)
作製したセルロースエステルフィルムを23℃、55%RHの環境下で24時間調湿し、JIS K7127に記載の方法に従って弾性率を測定した。引っ張り試験器はオリエンテック(株)社製テンシロンRTA−100を使用し、試験片の形状は1号形試験片で、試験速度は100mm/分でおこなった。また、弾性率解析開始点は2MPa、弾性率解析終了点は60MPaで弾性率を計算した。
【0171】
(湿度変化に対するリターデーション値変動)
作製したセルロースエステルフィルムの各湿度によるリターデーション値を各々求め、その値よりRt(a)を求めた。
【0172】
Rt(a)変動は、Rt(b)は23℃、20%RHにて5時間調湿した後、同環境で測定したRt値を測定しこれをRt(b)とし、Rt(c)は同じフィルムを続けて23℃、80%RHにて5時間調湿した後、同環境で測定したRt値を求めこれをRt(c)とし、下記の式よりRt(a)を求めた。
【0173】
Rt(a)=|Rt(b)−Rt(c)|
更に調湿後の試料を再度23℃55%RHの環境にて測定を行い、この変動が可逆変動であることを確認した。
【0174】
表3に弾性率、湿度変化に対するリタデーション値変動を示した。本発明のフィルム101〜107は弾性率が低く、湿度変化に対するリタデーション値変動共に小さく、比較例に対し本発明の効果が高いことが分かる。
【0175】
即ち、湿度変動によるコントラスト変動、湿度変動によるコーナームラ等の物性関連の故障に対して改善効果の大きいフィルムであることが示されている。
【0176】
【表3】

【0177】
〈偏光板収率〉
偏光板製造過程での故障、トラブルを3段階で評価した。表4の結果より本発明の偏光板では偏光板製造過程での故障、トラブルが少なく、歩留まりに優れていた。
【0178】
◎:偏光板の製造過程で皺や折れ曲がりや傷の発生が全くない
○:偏光板の製造過程で皺や折れ曲がりや傷の発生が殆どない
△:偏光板の製造過程で、皺や折れ曲がりや傷の発生がある
×:偏光板の製造過程で皺や折れ曲がりや傷の発生が多い
〈視野角劣化〉
23℃55%RHの環境でELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて液晶表示装置の視野角測定を行った。続いて23℃20%RH、更に23℃80%RHの環境下で、作製した液晶表示装置(市販のパネル+自作楕円偏光板)の視野角を測定し下記基準にて評価した。最後に23℃55%RHの環境でもう一度視野角測定を行い、前記測定の際の変化が可逆変動であることを確認した。尚、これらの測定は、液晶表示装置を当該環境に5時間置いてから測定を行った。
【0179】
◎:視野角変動が全くない
○:視野角変動が殆どない
△:視野角変動が認められる
×:視野角変動が非常に大きい
《視認性の評価》
上記作製した各液晶表示装置について、60℃、90%RHの条件で100時間放置した後、23℃、55%RHに戻した。その結果、表示装置の表面を観察すると本発明のセルロースエステルフィルムを用いたものは、平面性に優れていたのに対し、比較の表示装置は細かい波打ち状のむらが認められ、長時間見ていると目が疲れ易かった。
【0180】
◎:表面に波打ち状のむらは全く認められない
○:表面にわずかに波打ち状のむらが認められる
△:表面に細かい波打ち状のむらがやや認められる
×:表面に細かい波打ち状のむらが認められる
上記評価結果を表4に示す。
【0181】
【表4】

【0182】
本発明のセルロースエステルフィルム101〜107は偏向板収率が良好で、それを用いた液晶表示装置101〜107は、視野角劣化・視認性が良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルと、炭素数6〜22の脂肪族を有しかつグリシジル基、イソシアネート基、ホルミル基、ビニルスルホン基、及びエチレンイミン基から選ばれるいずれか一つの基を分子内に有する化合物とを反応させた生成物であることを特徴とするセルロースエステル化合物。
【請求項2】
前記セルロースエステル化合物が下記式(I)を満足することを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステル化合物。
(I)1.0≦X≦2.5
(但し、Xはセルロースエステル化合物のアセチル基の置換度を表す)
【請求項3】
請求項1または2に記載のセルロースエステル化合物を有機溶媒で溶解して調製された溶液(ドープ)を支持体上に流延し、溶媒を蒸発せしめセルロースエステルフィルムを形成することを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記セルロースエステルフィルムを延伸倍率1.02〜1.5倍となるように延伸することを特徴とする請求項3に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【請求項6】
下記式(i)で表される面内リターデーション値Roが30〜300nmであることを特徴とする請求項5に記載のセルロースエステルフィルム。
(i) Ro=(nx−ny)×d
(式中、nx、nyはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y方向の屈折率を表し、かつ、nx、nyはフィルム面内方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
【請求項7】
下記式(ii)で表される厚み方向のリターデーション値Rtが30〜300nmであることを特徴とする請求項5または6に記載のセルロースエステルフィルム。
(ii) Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nx、ny、nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率を表し、かつ、nx、nyはフィルム面内方向の屈折率を、nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムを有することを特徴とする偏光板。
【請求項9】
請求項8に記載の偏光板を有することを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2006−335842(P2006−335842A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161095(P2005−161095)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】