説明

センサ付きシール装置およびそれを用いた転がり軸受装置

センサ付きシール装置7は、車体側軌道部材3に固定される固定側シール部材8と、車輪側軌道部材4に固定される回転側シール部材9とからなる。固定側シール部材8は、芯金21と、インサート成形により芯金21に一体化された樹脂部材22と、芯金21に樹脂モールドされたセンサ11と、芯金21に接着された弾性シ
ール65とを備えている。固定側シール部材8の芯金21は、車体側軌道部材3に嵌合固定される嵌合用円筒部61と、回転側シール部材9の円筒部31に向かってのびる連結部62と、連結部62に連なって軸方向外方にのびる水分浸入防止用円筒部65とを有し、嵌合用円筒部61の軸方向外側端部が樹脂22内に位置させられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、センサ付きシール装置およびそれを用いた転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
自動車においては、その制御を行うために種々の情報が必要であることから、車輪が取り付けられる車輪側軌道部材、車体側に固定される車体側軌道部材、および両軌道部材の間に配置された二列の転動体を有するハブユニット(転がり軸受装置)に、センサ装置を設けることが提案されている。
このような転がり軸受装置として、特許文献1(特開平5−26233号公報)には、外輪、内輪、両輪間に配置された転動体、および両輪端部間に配されたシールとを備えており、センサが設けられたセンサ支持部材が外輪の端面に取り付けられるとともに、内輪に固定されたスリンガーの軸方向外側の面にリング状磁石が固定されているものが記載されている。
この種の転がり軸受装置を自動車のハブユニットに適用するに際しては、その軸方向寸法を所定値以下に抑えることが必要であり、上記特許文献1のものでは、リング状磁石およびセンサ支持部材が軸受装置よりも軸方向に突出し、自動車のハブユニットへの適用が難しいという問題があった。
そこで、シール装置を構成する芯金にセンサを樹脂モールドし、これにより、軸方向寸法を抑えることが考えられるが、この場合には、樹脂が収縮することによって樹脂とこれを保持する芯金との間に隙間が生じ、芯金と樹脂とが分離したり、芯金と樹脂との境界から水分が軸受内部に浸入したりする可能性があり、その防止策が課題となる
この発明の目的は、シール装置を構成する芯金にセンサを樹脂モールドし、これにより、センサ付きシール装置および転がり軸受装置の軸方向寸法を抑えるとともに、芯金と樹脂との分離および芯金と樹脂との境界からの水分の浸入を防止することができるセンサ付きシール装置およびそれを用いた転がり軸受装置を提供することにある。
【発明の開示】
この発明によるセンサ付きシール装置は、固定部材に嵌合固定される芯金および芯金に樹脂モールドされたセンサを有している固定側シール部材と、回転部材に嵌合固定される円筒部および円筒部の軸方向外側端部に連なって固定側シール部材に向かってのびるフランジ部を有する回転側シール部材とからなり、固定側シール部材の芯金は、固定部材に嵌合固定される嵌合用円筒部と、同円筒部の軸方向内側端部に連なって回転側シール部材の円筒部に向かってのびる連結部と、連結部に連なって軸方向外方にのびる水分浸入防止用円筒部とを有し、嵌合用円筒部の軸方向外側端部が樹脂内に位置するようにインサート成形されるとともに、芯金および回転側シール部材の少なくとも一方に、同他方に摺接する弾性シールが設けられていることを特徴とするものである。
固定部材は、例えば、転がり軸受の外輪または内輪とされ、回転部材は、例えば、転がり軸受の内輪または外輪とされるが、これに限られるものではない。
芯金は、1つの剛性リングによって形成されることもあり、2つ以上の剛性リングから形成されることもある。芯金は、1つの剛性リングによって形成されるか2つ以上の剛性リングから形成されるかにかかわらず、大径円筒部および小径円筒部を有するものとされ、これらの円筒部間に、樹脂モールドされたセンサが位置させられる。例えば、芯金は、嵌合用円筒部および内向きフランジ部からなる第1剛性リングと、第1剛性リングの嵌合用円筒部に嵌合固定される大径円筒部、大径円筒部の内径側に連なり第1剛性リングの内向きフランジ部に当接させられるフランジ部、およびフランジ部の内周縁に連なる小径円筒部からなる第2剛性リングとから構成される(第1剛性リングの内向きフランジおよび第2剛性リングのフランジ部によって連結部が構成される)ことがあり、また、大径円筒部、小径円筒部、およびこれらを連結する連結部からなる1つの剛性リングとされることがある。
弾性シールは、回転側シール部材のフランジ部に設けられて、固定側シール部材の芯金の水分浸入防止用円筒部に摺接するものとされることがあり、固定側シール部材の芯金の水分浸入防止用円筒部の軸方向外側端部に設けられたフランジ部に設けられて、回転側シール部材の円筒部および/またはフランジ部に摺接するものとされることがある。
弾性シールは、芯金の水分浸入防止用円筒部および回転側シール部材の軸方向外側端部の間だけでなく、必要に応じて、両者の軸方向内側端部の間にも設けられる。
センサは、例えば、MR素子またはホール素子を用いた磁気センサとされるが、これに限られるものではない。通常、回転側シール部材には、磁気センサに対向してこれに信号を与えるパルサが設けられる。パルサは、組み合わされるセンサが回転信号を出力するために、N極とS極とを交互に配置して磁力を発生させるもので、環状の支持部材と、これに接着された着磁体とからなるものとされる。
芯金と樹脂とはインサート成形され、この際、芯金の嵌合用円筒部の軸方向外側端部が樹脂内に位置させられる。すなわち、芯金が樹脂の表面にのみ密着させられるのではなく、芯金の端部が樹脂の内部にインサートされる。そして、嵌合用円筒部の軸方向内側端部が固定部材に嵌合固定される。
回転側シール部材に設けられるパルサは、大径円筒部、小径円筒部、および連結部からなる支持部材と、センサに対向するように支持部材に設けられた着磁体とからなるものとされ、弾性シールは、固定側シール部材の水分浸入防止用円筒部の軸方向外側端部に設けられて回転側シール部材の円筒部の軸方向外側部分およびフランジ部に臨まされていることがある(請求項2の発明=第1の構成の発明)。
また、回転部材の端部に、軸方向内側部分およびこれよりも凹まされた軸方向外側部分からなる段部が形成され(回転部材が内輪の場合、軸方向内側部分の外径>軸方向外側部分の外径とされ、回転部材が外輪の場合、軸方向内側部分の内径<軸方向外側部分の内径とされる。)、回転側シール部材の円筒部は、段部の軸方向外側部分に嵌合されており、回転部材の段部の軸方向内側部分に、円筒状支持部材および着磁体からなるパルサの支持部材が嵌合され、パルサの着磁体は、センサに対向するように支持部材に設けられており、弾性シールは、固定側シール部材の芯金の水分浸入防止用円筒部の軸方向外側端部に設けられて回転側シール部材に臨まされていることがある(請求項3の発明=第2の構成の発明)。
上記第1および第2の構成の発明について、固定側軌道部材が外輪、回転側軌道部材が内輪とすると、第1の構成の発明では、固定部材の芯金嵌合部内径=芯金の嵌合用円筒部(大径円筒部)外径>芯金の水分浸入防止用円筒部(小径円筒部)内径>パルサの支持部材の大径円筒部の外径>パルサの支持部材の小径円筒部外径>回転側シール部材の円筒部内径=回転部材の回転側シール部材嵌合部外径という関係を保つ必要があり、このため、固定部材内径と回転部材外径との間にスペースが十分にない場合、芯金およびパルサの支持部材の折り曲げが難しくなり、また、この状態で折り曲げた場合に、折り曲げの精度が悪くなって、固定部材と芯金との嵌合すなわちシール性が悪くなるという問題が生じうる。そのため、固定部材(外輪)と回転部材(内輪)との間のスペースが小さい場合には、第1の構成の発明が適用できない可能性がある。これに対し、第2の構成の発明では、パルサの支持部材の曲げが1回少なくなり(小径および大径の2つの円筒部ではなく、円筒部は1つだけ)、これに伴って、固定部材の芯金嵌合部内径=芯金の嵌合用円筒部外径>芯金の水分浸入防止用円筒部内径>パルサの支持部材の外径>パルサの支持部材の内径=回転部材のパルサ嵌合部外径という関係を保てばよく、芯金の嵌合用円筒部と水分浸入防止用円筒部との間の空間を大きくすることが可能となり、したがって、芯金の折り曲げが容易となり、この第2の構成の発明であれば、固定部材(外輪)と回転部材(内輪)との間のスペースが小さい場合でも、容易に適用することができる。しかも、回転側シール部材の円筒部は、パルサの支持部材が嵌め合わせられる部分が不要となって、第1の構成のものに比べて短くすることができ、その嵌め合い精度を確保する点からも有利となる。
特に自動車用ハブユニットとして使用される場合には、固定部材は、これの外径に嵌め合うナックルの内径寸法により、その最大限界寸法が制約され、回転部材は、回転軸の外径および軸受の仕様(容量、寿命など)により最小の限界寸法が制約される。したがって、センサ付きシール装置は、これらの制約によってそのスペースを確保することができない場合が生じることから、上記第2の構成の発明がより好適に使用される。
また、センサがMR素子を用いたICである場合、ホール素子を用いたICに比べて、寸法が大きくなるため、スペース確保が難しくなることから、このような場合も、上記第2の構成の発明が好適に使用される。
上記のセンサ付きシール装置において、固定側シール部材の芯金の嵌合用円筒部の軸方向外側端部に、センサと信号処理手段とを接続する配線を通すための配線取出し用切欠き部が設けられていることが好ましい。切欠き部は、貫通孔であってもよく、また、その形状は、方形でも円形でもよい。上述のように、嵌合用円筒部の軸方向外側端部が樹脂内に位置させられることから、樹脂の外面(露出面)に設けられるコネクタとセンサとをつなぐ配線のためのスペースが少なくなるが、この部分に切欠き部を設けて、配線をこの切欠き部に通すことにより、配線を迂回させることなく、センサ機能を確保することができる。
固定側シール部材は、回転側シール部材よりも軸方向外方に張り出しておりかつ内径が軸方向外方に行くに連れて広がる張出樹脂部を有していることがある。内径が軸方向外方に行くに連れて広がる形状は、典型的には、テーパ状(円錐状)とされるが、これに限定されるものではない。また、張出樹脂部の一端から他端までの全域にわたって軸方向外方に行くに連れて広がる必要はなく、張出樹脂部の端部に同じ径の部分が存在してもよい。テーパ状とされる場合のテーパ角度は、0°(円筒面)より大きくかつ90°より小さい範囲で適宜選択可能であるが、20°〜70°が好ましく、30°〜60°がより好ましい。
このようにすると、張出樹脂部に付着した水滴は、同部の下部において外広がりの内径に案内されて軸方向外方に移動し、その端から落下することになり、水滴の溜まり部が存在しない。したがって、樹脂部に溜まった水滴が固定側シール部材と回転側シール部材との間に浸入することが防止される。
センサを保持する樹脂部材は、芯金の軸方向外側端部から軸方向外方に所定距離離れた位置決め用平坦端面を有し、平坦端面の径方向外側の面および内側の面は、平坦端面よりも軸方向内方に位置させられていることがある。位置決め用平坦端面は、固定側シール部材を固定部材に嵌合固定する際の押圧面とされる。そして、押圧の際には、芯金の端面と樹脂部材の平坦端面との間の樹脂が変形させられるが、その変形量が芯金によって抑制されるので、変形量を精度よく管理することができる。この結果、固定部材に対する固定側シール部材の嵌合固定時の位置決めが精度よく行われ、回転側シール部材と固定側シール部材との位置決めの精度が向上し、シール性能の確保が容易となる。また、平坦端面の径方向外側の面および内側の面が平坦端面よりも軸方向内方に位置させられていることから、芯金の端面と樹脂部材の平坦端面との距離のみを管理すればよく、この点でも、固定部材と固定側シール部材との組み付け精度を向上させることができる。
センサ付きシール装置を自動車のハブユニットに適用するに際しては、センサ装置をコンパクトにするだけでなく、シール部材同士を精度よく位置決めすることも必要となる。嵌合用円筒部の軸方向外側端部が樹脂内に位置するようにインサート成形されることにより、芯金から露出している樹脂部分ができ、センサ付きシール装置を転がり軸受に取り付けるに際しては、露出樹脂部分の軸方向外面が圧入用治具の押圧面となり、露出樹脂部分の軸方向内面が固定部材(例えば外輪)に接触することでシール装置が位置決めされる。樹脂にはひけや反りが生じやすく、成型後の樹脂の収縮や押圧時に樹脂の変形が大きいため、そのままでは精度のよい位置決めが難しいものとなるが、上記の位置決め用平坦端面を設けることにより、この問題を解消することができる。
この位置決め用平坦端面を設けることに代えて、芯金から露出している樹脂部分の軸方向外面および内面の少なくとも一方に、複数の凸部が周方向に所定間隔で設けられているようにしてもよい。樹脂部材の各面に複数の凸部を形成することにより、うねりの程度が抑えられ、位置決め精度が向上する。樹脂部材には、車体側に設けられた処理手段とセンサとを結ぶハーネスを取り付けるためのコネクタ部が形成され、複数の凸部は、このコネクタ部を避けて、例えば4つ(好ましくは3〜10)設けられる。複数の凸部は、芯金から露出している樹脂部分の軸方向外面および内面の少なくとも一方に設けられていればよいが、樹脂部材の軸方向外面および内面の両方に設けられていることが好ましく、この場合、軸方向外面の凸部は、固定側シール部材の固定部材への圧入時に押圧の基準面とされ、軸方向内面の凸部は、固定側シール部材の固定部材への圧入時に外輪と接触してそれ以上の芯金の圧入を防止するものとされる。こうして、軸方向外面の凸部が固定側シール部材の固定部材への圧入時に押圧の基準面とされることにより、および/または、軸方向内面の凸部が固定側シール部材の固定部材への圧入時に外輪と接触してそれ以上の芯金の圧入を防止するものとされることにより、位置決め精度を向上させることができる。
上記センサ付きシール装置は、固定部材としての固定輪、回転部材としての回転輪および両輪間に配置された転動体からなる転がり軸受と、転がり軸受に一体に設けられたセンサ付きシール装置とを備えている転がり軸受装置において好適に使用される。この場合、転がり軸受装置の基本構成は、固定輪、回転輪、両輪間に配置された転動体、固定輪の少なくとも一方の端部に設けられた固定側シール部材、および固定側シール部材に対向するように回転輪に設けられた回転側シール部材を備えている転がり軸受装置において、固定側シール部材は、固定輪に嵌合固定された嵌合用円筒部、同円筒部の軸方向内側端部に連なって回転輪に向かってのびる連結部、および連結部に連なって軸方向外方にのびる水分浸入防止用円筒部を有する芯金と、芯金に樹脂モールドされたセンサとを備えており、回転側シール部材は、回転輪に嵌合固定された円筒部と、円筒部の軸方向外側端部に連なって固定輪に向かってのびるフランジ部とを備えており、固定側シール部材の嵌合用円筒部の軸方向外側端部が樹脂内に位置するようにインサート成形されるとともに、芯金および回転側シール部材の少なくとも一方に、同他方に摺接する弾性シールが設けられているものとなる。
固定輪が外輪、回転輪が内輪とされてもよく、固定輪が内輪、回転輪が外輪とされてもよい。
この転がり軸受装置は、固定輪が車体への取付け部を有する車体側軌道部材とされ、回転輪が車輪取付け部を有する車輪側軌道部材とされることにより、自動車用ハブユニットとして好適に使用される。
この発明のセンサ付きシール装置によると、固定側シール部材および回転側シール部材からなり、固定側シール部材が芯金に樹脂モールドされたセンサを有しているので、シール装置にセンサが内蔵されることになり、例えば転がり軸受にセンサを取り付けるに際し、センサの転がり軸受への組み込みが容易であり、また、センサ付き転がり軸受装置の軸方向寸法を短くすることができる。しかも、嵌合用円筒部の軸方向外側端部が樹脂内に位置するようにインサート成形されているので、回転時のトルク等によって芯金が樹脂から外れることもない。さらにまた、芯金および回転側シール部材のいずれか一方に、同他方に摺接する弾性シールが設けられているので、固定側部材に芯金の嵌合用円筒部が嵌合固定された後に、芯金と樹脂との境界にできた隙間から水分が浸入しても、この水分は、嵌合用円筒部と樹脂との間および連結部(の軸方向外側の面)と樹脂との間を経て、水分浸入防止用円筒部と樹脂との間から軸方向外側に送り出されることになり、このセンサ付きシール装置が取り付けられている装置の内部に水分が浸入することが防止される。
また、この発明のセンサ付きシール装置を備えた転がり軸受装置によると、固定側シール部材にセンサが、回転側シール部材にパルサが内蔵されているので、回転情報の検出が可能となっているとともに、この検出のためのセンサ装置の転がり軸受への組み込みが容易で、しかも、センサ付き転がり軸受装置の軸方向寸法を短くすることができる。また、嵌合用円筒部の軸方向外側端部が樹脂内に位置するようにインサート成形されているので、回転時のトルク等によって芯金が樹脂から外れることもない。さらにまた、芯金および回転側シール部材のいずれか一方に、同他方に摺接する弾性シールが設けられているので、芯金と樹脂との境界にできた隙間から水分が浸入した場合に、この水分は、嵌合用円筒部と樹脂との間および連結部(の軸方向外側の面)と樹脂との間を経て、水分浸入防止用円筒部と樹脂との間から軸方向外側に送り出されることになり、軸受の内部に水分が浸入することが防止される。
【図面の簡単な説明】
図1は、この発明によるセンサ付きシール装置および転がり軸受装置の第1実施形態を示す縦断面図である。
図2は、同左側面図である。
図3は、この発明によるセンサ付きシール装置の第1実施形態を示す拡大縦断面図である。
図4は、この発明によるセンサ付きシール装置の第2実施形態のセンサ無し部分を示す拡大縦断面図である。
図5は、この発明によるセンサ付きシール装置の第2実施形態のセンサ有り部分を示す拡大縦断面図である。
図6は、この発明によるセンサ付きシール装置の第3実施形態を示す左側面図である。
図7は、同拡大縦断面図である。
図8は、この発明によるセンサ付きシール装置の第4実施形態を示す拡大縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
図1から図3までは、この発明のセンサ付きシール装置およびそれを用いた転がり軸受装置の第1実施形態を示している。以下の説明において、左右は図1の左右をいうものとする。なお、左が車両の内側に、右が車両の外側となっている。
転がり軸受装置は、ハブユニット(1)、ならびにそれに設けられたセンサ装置(2)および被検出部であるパルサ(10)を備えている。
ハブユニット(1)は、車体側に固定される車体側軌道部材(3)、車輪が取り付けられる車輪側軌道部材(4)、両部材(3)(4)の間に2列に配置された複数の転動体である玉(5)、および各列の玉(5)をそれぞれ保持する保持器(6)を備えている。
車体側軌道部材(3)は、軸受の外輪(固定輪)機能を有しているもので、内周面に2列の外輪軌道が形成されている円筒部(12)と、円筒部(12)の左端部近くに設けられて懸架装置(車体)にボルトで取り付けられるフランジ部(13)とを有している。
車輪側軌道部材(4)は、第1の軌道溝(15a)を有する大径部(15)および第1の軌道溝(15a)の径よりも小さい外径を有する小径部(16)を有している中空軸(14)と、中空軸(14)の小径部(16)外径に嵌め止められて右面が中空軸(14)の大径部(15)左面に密接させられている内輪(17)とからなる。中空軸(14)の内周には、セレーションが設けられており、中空軸(14)の右端近くには、車輪を取り付けるための複数のボルトが固定されるフランジ部(18)が設けられている。内輪(17)には、中空軸(14)の軌道溝(15a)と並列するように、軌道溝(17a)が形成されており、内輪(17)の左部に肩部(17b)が形成されている。車体側軌道部材(3)の右端部と中空軸(14)との間には、弾性シールおよび芯金からなるシール部材(20)が設けられている。
内輪(17)の肩部(17b)と車体側軌道部材(3)の左端部との間に、この発明によるセンサ付きシール装置(7)が設けられている。
センサ付きシール装置(7)は、車体側軌道部材(3)に固定された固定側シール部材(8)と、車輪側軌道部材(4)に固定された回転側シール部材(9)とからなる。
固定側シール部材(8)は、芯金(21)と、インサート成形により芯金(21)に一体化された樹脂部材(22)と、芯金(21)に樹脂モールドされたセンサ(11)と、芯金(21)に接着された弾性シール(23)とを備えている。
樹脂部材(22)は、環状であり、その環状部分の外径は、固定側軌道部材(3)の左端部の外径にほぼ等しくなされている。そして、環状部分の上部に、左方および径方向外方に突出する突出部(26)が設けられている。突出部(26)の上端部には、車体側に設けられた処理手段とセンサ(11)とを結ぶハーネスを取り付けるためのコネクタ部(27)が一体に成形されている。コネクタ部(27)には信号用のコネクタピン(28)が設けられており、センサ(11)とコネクタピン(28)とが、接合部(29)およびリード線(30)(またはリード線のみ)を介して接続されている。
回転側シール部材(9)は、車輪側軌道部材(4)の内輪(17)の肩部(17b)に嵌合固定された円筒部(31)と、円筒部(31)の軸方向外側端部(左端部)に連なって車体側軌道部材(3)に向かってのびる外向きフランジ部(32)と、円筒部(31)に固定されたパルサ(10)と、フランジ部(32)の外周縁部に接着された弾性シール(33)とを備えている。
センサ(11)と、センサ(11)の出力を外部に取り出すコネクタ部(27)、コネクタピン(28)、接合部(29)およびリード線(30)などの配線手段と、信号処理手段(図示略)などによってセンサ装置(2)が構成されている。センサ(11)は、磁気センサとされており、そのセンシング面は、パルサ(10)の外周面に径方向外方から臨まされている。
なお、図1においては、センサ(11)を車体側軌道部材(3)の上端部に配置しているが、これに限らず、センサ(11)は、車体側軌道部材(3)の下端部やその他任意の位置に配置可能である。
以下では、図3を参照して、センサ付きシール装置(7)のより詳しい説明を行う。
固定側シール部材(8)の芯金(21)は、第1および第2の剛性リング(24)(25)からなる。第1の剛性リング(24)は、車体側軌道部材(3)の左端部内径に嵌合固定された嵌合用円筒部(41)、および同円筒部(41)の軸方向内側端部(右端部)に連なって車輪側軌道部材(4)に向かってのびる内向きフランジ部(42)からなる。第2の剛性リング(25)は、第1剛性リング(24)の嵌合用円筒部(41)に嵌合固定される大径円筒部(43)、大径円筒部(43)の内径側に連なり第1剛性リング(24)の内向きフランジ部(42)に当接させられているフランジ部(44)、およびフランジ部(44)の内周縁に連なる水分浸入防止用円筒部(45)からなる。弾性シール(23)は、第1剛性リング(24)の内向きフランジ部(42)の内周縁部に接着されている。第1の剛性リング(24)の嵌合用円筒部(41)の左部は、車体側軌道部材(3)の左端よりも左方に突出させられて、樹脂部材(22)内に挿入されている。第2の剛性リング(25)の大径円筒部(43)の左端は、車体側軌道部材(3)の左端よりも右方に位置させられている。第2の剛性リング(25)の水分浸入防止用円筒部(45)は、樹脂部材(22)の内周面に当接させられており、その左端は、樹脂部材(22)よりも右方に位置させられている。なお、第2の剛性リング(25)は、磁気センサ(11)の検出面に磁力線が入りやすいように、SUS304などの非磁性の金属製とされている。第1の剛性リング(24)は、磁性体でも非磁性体でもよく、第1の剛性リング(24)を磁性または非磁性のステンレス鋼製、第2の剛性リング(25)をアルミニウム製などとすることもできる。
パルサ(10)は、組み合わされるセンサ(11)が回転信号を出力するために、N極とS極とを交互に配置して磁力を発生させるもので、環状の支持部材(34)と、これに接着された着磁体(35)とからなる。支持部材(34)は、SUS430などの磁性を有する金属製とされている。着磁体(35)は、ゴムをバインダとする磁性粉が着磁されることにより形成されている。
センサ(11)は、大径円筒部である第1剛性リング(24)の嵌合用円筒部(41)と小径円筒部である第2剛性リング(25)の水分浸入防止用円筒部(45)との間に充填された樹脂(22)内に位置させられている。樹脂部材(22)は、回転側シール部材(9)よりも軸方向外方に張り出している張出樹脂部(46)を有しており、この張出樹脂部(46)の内径(46a)は、突出部(26)の内径を含んで、軸方向外方に行くに連れて広がるように形成されている。
固定側シール部材(8)の芯金(21)の嵌合用円筒部(41)の軸方向外側端部に、センサ(11)と信号処理手段とを接続する配線(30)を通すための略方形の配線取出し用切欠き部(47)が設けられている。
パルサ(10)の支持部材(34)は、大径円筒部(36)、小径円筒部(37)および連結部(38)からなり、その小径円筒部(37)が回転側シール部材(9)の円筒部(31)の外径に圧入されている。小径円筒部(37)の右端位置は、回転側シール部材(9)の円筒部(31)の右端位置と面一で、固定側シール部材(8)の第1剛性リング(24)の内向きフランジ部(42)の右面よりもわずかに右方に位置させられており、大径円筒部(36)の右端は、内向きフランジ部(42)の左面と若干の間隙を置くように位置させられている。着磁体(35)は、大径円筒部(36)の外径に接着されている。着磁体(35)の右縁部には、大径円筒部(36)の右端部に接着されている折曲げ部が、同左縁部には、連結部(38)の左面に接着されている折曲げ部がそれぞれ設けられている。着磁体(35)と第2剛性リング(25)の水分浸入防止用円筒部(45)との間の隙間は、両者が接触しない範囲でできるだけ小さい値とされている。
固定側シール部材(8)の弾性シール(23)は、内向きフランジ部(42)内周縁部に接着させられたU字状の接着部(51)と、接着部(51)の底面から左方および径方向内方にのびてパルサ(10)の支持部材(34)の小径円筒部(37)に摺接する第1のラジアルリップ(52)と、接着部(51)の底面から径方向内方にのびてパルサ(10)の支持部材(34)の小径円筒部(37)に摺接する第2のラジアルリップ(53)とを有している。この弾性シール(23)によって、着磁体(35)と軸受内部との間がシールされている。
回転側シール部材(9)の弾性シール(33)は、外向きフランジ部(32)外周縁部に嵌め被せられたU字状の接着部(54)と、接着部(54)の底面から左方および径方向外方にのびて水分浸入防止用円筒部(45)に摺接する第1のラジアルリップ(55)と、接着部(54)の底面から右方および径方向内方にのびて水分浸入防止用円筒部(45)に摺接する第2のラジアルリップ(56)とを有している。
固定側シール部材(8)の芯金(21)と樹脂部材(22)とは、インサート成形により一体化されている。この成形時の樹脂の収縮や、金属と樹脂との膨張率の差、泥水の浸入の繰り返し等により、芯金(21)と樹脂部材(22)との間の界面には、隙間が生じやすく、図3にAおよびBで示す位置から軸受内部に水分等の浸入の可能性があり、軸受機能の低下および寿命減が懸念される。この実施形態のセンサ付きシール装置(7)によると、図3にAで示す位置から浸入した水分は、芯金(21)の嵌合用円筒部(41)と固定側軌道部材(3)との嵌め合わせにより防止されて右方には移動できず、芯金(21)の嵌合用円筒部(41)の外周と樹脂部材(22)との間から左方に浸入することになる。上述したように、樹脂部材(22)と芯金(21)との境界面には隙間が生じる可能性があることから、浸入した水分は、嵌合用円筒部(41)の左端、同内周、第2剛性リング(25)の大径円筒部(43)内周、およびフランジ部(42)左面を経て、水分浸入防止用円筒部(45)左端部まで入り込む可能性があるが、この位置には、回転側シール部材(9)の弾性シール(33)があるため、軸受内部への水分の浸入は防止される。図3にBで示す位置から浸入した水分のパルサ(10)側への浸入は、弾性シール(33)で阻止される。また、第2剛性リング(25)の水分浸入防止用円筒部(45)と樹脂部材(22)との間の境界面にも隙間が生じる可能性があることから、図3にBで示す位置から浸入した水分は、Aで示す位置から浸入した水分の場合とは逆に、第2剛性リング(25)の水分浸入防止用円筒部(45)の外周およびフランジ部(44)左面を経て大径円筒部(43)の左端部まで入り込む可能性があるが、大径円筒部(43)の左端部から右方への水分の移動は、第1剛性リング(24)の嵌合用円筒部(41)と第2剛性リング(25)の大径円筒部(43)との嵌め合わせにより防止され、軸受内部への水分の浸入は防止される。こうして、Oリングを使用しなくても、確実に水分の浸入を防止することができる。また、固定側シール部材(8)の第1剛性リング(24)の嵌合用円筒部(41)が車体側軌道部材(3)に嵌合固定されているので、弾性シール(23)(33)の摺動に伴うトルクによって、芯金(21)が固定側シール部材(8)に対して滑ることもなく、さらにまた、固定側シール部材(8)の第1剛性リング(24)の嵌合用円筒部(41)の左部が樹脂部材(22)内に挿入された状態でインサート成形されているので、芯金(21)と樹脂部材(22)との間のすべりも防止される。
また、回転側シール部材(9)に水がかかった場合、この水は、回転側シール部材(9)の回転によって、径方向外方に飛ばされ、樹脂部材(22)の張出樹脂部(46)の外広がりの内径(46a)に案内されて軸方向外部へと送り出される。固定側シール部材(8)に付着した水は、重力によって張出樹脂部(46)の下部に移動させられ、張出樹脂部(46)の外広がりの内径(46a)に案内されて軸方向外方(左方)に移動し、その端から落下する。これにより、張出樹脂部(46)の下部には水滴の溜まり部が存在しないようになり、樹脂部に溜まった水滴が固定側シール部材(8)の水分浸入防止用円筒部(45)と回転側シール部材(9)の弾性シール(33)との間に浸入することが防止される。
図4および図5は、この発明によるセンサ付きシール装置およびそれを用いた転がり軸受装置の第2実施形態を示している。図4および図5に示すセンサ付きシール装置は、図1に示したセンサ付きシール装置に置き換えて使用可能なものであり、図5が図3に相当する図(センサ有り部分の図)であり、図4は図5から所定距離離れた箇所の図(センサ無し部分の図)となっている。第2実施形態の説明に際しては、、図1および図2に相当する図は省略し、図1および図2に対応する構成には同じ符号を付してその説明を省略する。
この実施形態では、固定側シール部材(8)の芯金(21)は、1つの剛性リングによって形成されており、車体側軌道部材(3)の左端部に嵌合固定された嵌合用円筒部(61)、同円筒部(61)の軸方向内側端部(右端部)に連なって内方(車輪側軌道部材(4)に向かう方向)にのびる連結部(62)、連結部(62)に連なって軸方向外方(左方)にのびる水分浸入防止用円筒部(63)、および水分浸入防止用円筒部(63)に連なって内方にのびる内向きフランジ部(64)を有しており、内向きフランジ部(64)の内周縁部に、弾性シール(65)が接着されている。嵌合用円筒部(61)の左部は、車体側軌道部材(3)の左端よりも左方に突出させられて、樹脂部材(22)内に挿入されている。水分浸入防止用円筒部(63)は、樹脂部材(22)の内周面に当接させられており、その左端は、樹脂部材(22)よりも右方に位置させられている。なお、芯金(21)は、磁気センサ(11)の検出面に磁力線が入りやすいように、SUS304などの非磁性の金属製とされている。
回転側シール部材(9)は、車輪側軌道部材(4)の内輪(17)の肩部(17b)に嵌合固定された円筒部(31)と、円筒部(31)の軸方向外側端部(左端部)に連なって車体側軌道部材(3)に向かってのびる外向きフランジ部(32)と、円筒部(31)に固定されたパルサ(10)とからなり、弾性シールは有していない。そして、外向きフランジ部(32)は、固定側シール部材(8)の芯金(21)の内向きフランジ部(64)との間に弾性シール(65)を収めることができるように、第1実施形態のものより軸方向外側(左方)に位置させられている。
パルサ(10)は、組み合わされるセンサ(11)が回転信号を出力するために、N極とS極とを交互に配置して磁力を発生させるもので、環状の支持部材(66)と、これに接着された着磁体(67)とからなる。着磁体は、ゴムをバインダとする磁性粉が着磁されることにより形成されている。
センサ(11)は、大径円筒部である嵌合用円筒部(61)と小径円筒部である水分浸入防止用円筒部(63)との間に充填された樹脂(22)内に位置させられている。樹脂部材(22)は、回転側シール部材(9)よりも軸方向外方に張り出している張出樹脂部(46)を有しており、この張出樹脂部(46)の内径(46a)は、突出部(26)の内径を含んで、軸方向外方に行くに連れて広がるように形成されている。
固定側シール部材(8)の芯金(21)の嵌合用円筒部(61)の軸方向外側端部に、センサ(11)と信号処理手段とを接続する配線(30)を通すための配線取出し用切欠き部(47)が設けられている。
パルサの支持部材(66)は、大径円筒部(68)、小径円筒部(69)および連結部(70)からなり、その小径円筒部(69)が回転側シール部材(9)の円筒部(31)の軸方向内側部分外径に圧入されている。小径円筒部(69)の右端位置は、回転側シール部材(9)の円筒部(31)の右端位置と面一で、固定側シール部材(8)のフランジ部(62)の右面よりもわずかに左方に位置させられており、大径円筒部(68)の右端は、小径円筒部(69)の右端よりもわずかに左方に位置させられている。着磁体(67)は、大径円筒部(68)の外径に接着されている。着磁体(67)の右縁部には、大径円筒部(68)の右端部に接着されている折曲げ部が、同左縁部には、連結部(70)の左面に接着されている折曲げ部がそれぞれ設けられている。着磁体(67)と水分浸入防止用円筒部(63)との間の隙間は、両者が接触しない範囲でできるだけ小さい値とされている。
弾性シール(65)は、内向きフランジ部(64)内周縁部に接着させられたU字状の接着部(71)と、接着部(71)の左面から左方にのびて回転側シール部材(9)のフランジ部(32)に摺接するアキシャルリップ(72)と、接着部(71)の底面から左方および径方向内方にのびて回転側シール部材(9)の円筒部(31)に摺接する第1のラジアルリップ(73)と、接着部(71)の底面から径方向内方にのびて回転側シール部材(9)の円筒部(31)の軸方向外側部分に摺接する第2のラジアルリップ(74)とを有している。
図4に示すように、樹脂部材(22)は、芯金(21)の嵌合用円筒部(61)の軸方向外側端部(左端部)から軸方向外方(左方)に所定距離離れた位置決め用平坦端面(22a)を有し、平坦端面の径方向外側の面および内側の面は、平坦端面(22a)よりも軸方向内方(右方、したがって、平坦端面に対して凹となるよう)に位置させられている。位置決め用平坦端面(22a)は、固定側シール部材(8)を車体側軌道部材(3)に嵌合固定する際の押圧面とされる。そして、押圧の際には、芯金(21)の嵌合用円筒部(61)の端面と樹脂部材(22)の平坦端面(22a)との間の樹脂が変形させられるが、その変形量は、芯金(21)によって抑制されるので、精度よく管理することができる。この結果、車体側軌道部材(3)に対する固定側シール部材(8)の位置決めが精度よく行われ、回転側シール部材(9)と固定側シール部材(8)との位置決めの精度が向上し、シール性能の確保が容易となる。また、平坦端面(22a)の径方向外側の面および内側の面が平坦端面(22a)よりも軸方向内方に位置させられていることから、芯金(21)の嵌合用円筒部(61)の端面と樹脂部材(22)の平坦端面(22a)との距離を管理すればよく、この点でも、組み付け精度を向上させることができる。
固定側シール部材(8)の芯金(21)と樹脂部材(22)とは、インサート成形により一体化されている。この成形時の樹脂の収縮や、金属と樹脂との膨張率の差、泥水の浸入の繰り返し等により、芯金(21)と樹脂部材(22)との間の界面には、隙間が生じやすく、図5にAおよびBで示す位置から軸受内部に水分等の浸入の可能性があり、軸受機能の低下および寿命減が懸念される。この実施形態のセンサ付きシール装置(7)によると、図5にAで示す位置から浸入した水分は、芯金(21)の嵌合用円筒部(61)と固定側軌道部材(3)との嵌め合わせにより防止されて右方には移動できず、芯金(21)の嵌合用円筒部(61)の外周と樹脂部材(22)との間から左方に浸入することになる。上述したように、樹脂部材(22)と芯金(21)との境界面には隙間が生じる可能性があることから、浸入した水は、嵌合用円筒部(61)の左端、同内周および連結部(62)左面を経て、水分浸入防止用円筒部(63)左端部まで入り込む可能性があるが、この位置には、弾性シール(65)があるため、軸受内部への水分の浸入は防止される。図5にBで示す位置から浸入した水分のパルサ(10)側への浸入は、弾性シール(65)で阻止される。また、芯金(21)の水分浸入防止用円筒部(63)と樹脂部材(22)との間の境界面にも隙間が生じる可能性があることから、図5にBで示す位置から浸入した水分は、芯金(21)の水分浸入防止用円筒部(63)の外周、連結部(62)左面および嵌合用円筒部(61)の左端部を経て嵌合用円筒部(61)の外周まで入り込む可能性があるが、嵌合用円筒部(61)の左端部から右方への水分の移動は、芯金(21)の嵌合用円筒部(61)と固定側軌道部材(3)との嵌め合わせにより防止され、軸受内部への水分の浸入は防止される。こうして、Oリングを使用しなくても、確実に水分の浸入を防止することができる。また、固定側シール部材(8)の芯金(21)の嵌合用円筒部(61)が車体側軌道部材(3)に嵌合固定されているので、弾性シール(65)の摺動に伴うトルクによって、芯金(21)が固定側シール部材(8)に対して滑ることもなく、さらにまた、固定側シール部材(8)の芯金(21)の嵌合用円筒部(61)の左部が樹脂部材(22)内に挿入された状態でインサート成形されているので、芯金(21)と樹脂部材(22)との間のすべりも防止される。
また、回転側シール部材(9)に水がかかった場合、この水は、回転側シール部材(9)の回転によって、径方向外方に飛ばされ、樹脂部材(22)の張出樹脂部(46)の外広がりの内径(46a)に案内されて軸方向外部へと送り出される。固定側シール部材(8)に付着した水は、重力によって張出樹脂部(46)の下部に移動させられ、張出樹脂部(46)の外広がりの内径(46a)に案内されて軸方向外方(左方)に移動し、その端から落下する。これにより、張出樹脂部(46)の下部には水滴の溜まり部が存在しないようになり、樹脂部に溜まった水滴が固定側シール部材(8)の樹脂部材(46)の内径(46a)と回転側シール部材(9)のフランジ部(32)の外周縁部との間に浸入することが防止される。
なお、この第2実施形態では、芯金(21)を構成する剛性リングの数が減少させられるとともに、回転側シール部材(9)側の弾性シールが省略されており、第1実施形態のものに比べて、部品数を低減できるという利点も有している。
図6および図7は、この発明によるセンサ付きシール装置およびそれを用いた転がり軸受装置の第3実施形態を示している。図6は、図2に相当する図で、図7は、図4に相当する図であり、同じ構成には同じ符号を付しその説明を省略する。
上述のように、芯金(21)の嵌合用円筒部(61)の軸方向外側端部が樹脂内に位置するようにインサート成形されていることから、樹脂部材(22)は、芯金(21)から露出している樹脂部分を有している。そして、この実施形態では、芯金(21)から露出している樹脂部分の軸方向外面(22b)および内面(22c)に、それぞれ複数(図示は4つ)の凸部(57)(58)が周方向に所定間隔で設けられている。複数の凸部(57)(58)は、処理手段とセンサとを結ぶハーネスを取り付けるためのコネクタ部(27)を避ける位置でかつ互いに対向するように、インサート成形時に樹脂部材(22)に一体形成されている。
センサ付きシール装置(7)をハブユニット(1)に取り付けるに際しては、露出樹脂部分の軸方向外面(22b)が圧入用治具の押圧面となり、露出樹脂部分の軸方向内面(22c)が車体側軌道部材(3)に接触することでセンサ付きシール装置(7)が位置決めされる。樹脂にはひけや反りが生じやすいため、樹脂部材(22)のこれらの面(22b)(22c)にうねりが生じやすいものとなっている。このセンサ付きシール装置(7)によると、樹脂部材(22)のこれらの面(22b)(22c)に複数の凸部(57)(58)が形成されていることにより、うねりの程度が抑えられており、これらの凸部(57)(58)の面同士で寸法管理することにより、寸法公差を小さくすることができ、位置決め精度が向上する。これにより、シール性が確保されるとともに、各部のすきまを小さくすることができ、コンパクト化も可能となる。なお、凸部(57)(58)の面同士の公差レンジは、0.1〜0.4mm(±0.05〜±0.2mm)が適当である。
図8は、この発明によるセンサ付きシール装置およびそれを用いた転がり軸受装置の第4実施形態を示している。図8に示すセンサ付きシール装置は、図4に示した第2実施形態と同様に、図1に示したセンサ付きシール装置に置き換えて使用可能なものであり、図4に相当する部分のみを示す。
固定側シール部材(8)の芯金(21)は、第2実施形態のものと同様の形状とされており、車体側軌道部材(3)の左端部に嵌合固定された嵌合用円筒部(61)、同円筒部(61)の軸方向内側端部(右端部)に連なって内方(車輪側軌道部材(4)に向かう方向)にのびる連結部(62)、連結部(62)に連なって軸方向外方(左方)にのびる水分浸入防止用円筒部(63)、および水分浸入防止用円筒部(63)に連なって内方にのびる内向きフランジ部(64)を有しており、内向きフランジ部(64)の内周縁部に、弾性シール(65)が接着されている。嵌合用円筒部(61)の左部は、車体側軌道部材(3)の左端よりも左方に突出させられて、樹脂部材(22)内に挿入されている。水分浸入防止用円筒部(63)は、樹脂部材(22)の内周面に当接させられており、その左端は、樹脂部材(22)よりも右方に位置させられている。
そして、この実施形態では、車輪側軌道部材(回転部材)(4)の内輪(17)の左端面が第2実施形態に比べて左方に位置させられるとともに、この内輪(17)の肩部に、軸方向内側部分(80a)およびこれよりも凹まされた軸方向外側部分(80b)からなる段部(80)が形成されている。軸方向外側部分(80b)の外径は、第2実施形態の内輪(17)の肩部外径にほぼ等しくなされており、軸方向内側部分(80a)の外径は、第2実施形態の内輪(17)の肩部外径よりも大きくなされている。
回転側シール部材(9)は、車輪側軌道部材(4)の段部(80)の軸方向外側部分(80b)に嵌合固定された円筒部(82)および円筒部(82)の軸方向外側端部(左端部)に連なって車体側軌道部材(固定部材)(3)に向かってのびる外向きフランジ部(83)からなるスリンガ(81)と、パルサ(10)とを備えている。スリンガ(81)の円筒部(82)の軸方向の長さは、第2実施形態においてこれに相当する円筒部(31)の軸方向長さに比べて、車輪側軌道部材(4)の段部(80)の軸方向内側部分(80a)だけ短くなっており、スリンガ(81)の外向きフランジ部(83)の内輪(17)左端面からの突出距離は、第2実施形態における外向きフランジ部(32)の突出距離よりも小さくなっている。これにより、円筒部(31)が長い第2実施形態のものに比べて、内輪(17)との嵌め合いの精度を確保することが容易であり、シール性を確保する上でより有利なものとなっている。
パルサ(10)は、組み合わされるセンサ(11)が回転信号を出力するために、N極とS極とを交互に配置して磁力を発生させるもので、支持部材(86)と、これに接着された着磁体(87)とからなり、回転側シール部材(9)のスリンガ(81)にではなく、車輪側軌道部材(4)の内輪(17)に直接固定されている。着磁体(87)は、ゴムをバインダとする磁性粉が着磁されることにより形成されている。
パルサ(10)の支持部材(86)は、車輪側軌道部材(4)の段部(80)の軸方向内側部分(80a)に嵌合固定された円筒部(88)と、円筒部(88)の軸方向外側端部(左端部)に連なって内方(車体側軌道部材(3)から離れる方向)にのびる内向きフランジ部(89)とからなる。円筒部(69)の軸方向の長さは、段部(80)の軸方向内側部分(80a)の軸方向長さにほぼ等しく、段部(80)の軸方向内側部分(80a)と軸方向外側部分(80b)との間に形成されている段差面に支持部材(86)の内向きフランジ部(89)が当接させられることにより、パルサ(10)が位置決めされている。
センサ(11)は、芯金(21)の嵌合用円筒部(61)と水分浸入防止用円筒部(63)との間に充填された樹脂(22)内に位置させられており、パルサ(10)の着磁体(87)は、センサ(11)に対向するように支持部材(86)の円筒部(88)の外周に設けられている。着磁体(87)は、支持部材(86)の内向きフランジ部(89)の外側面に接着させられている、内向きフランジ部を有しており、これにより、着磁体(87)と支持部材(86)との接着性がより高められている。着磁体(87)と水分浸入防止用円筒部(63)との間の隙間は、両者が接触しない範囲でできるだけ小さい値とされている。
弾性シール(65)は、内向きフランジ部(64)内周縁部に接着させられたU字状の接着部(71)と、接着部(71)の左面から左方にのびてスリンガ(81)のフランジ部(83)に摺接するアキシャルリップ(72)と、接着部(71)の底面から左方および径方向内方にのびてスリンガ(81)の円筒部(82)に摺接する第1のラジアルリップ(73)と、接着部(71)の底面から径方向内方にのびてスリンガ(81)の円筒部(82)に摺接する第2のラジアルリップ(74)とを有している。こうして、弾性シール(65)は、固定側シール部材(8)の水分浸入防止用円筒部(63)の軸方向外側端部に設けられて回転側シール部材(9)のスリンガ(81)に臨まされている。
固定側シール部材(8)の芯金(21)と樹脂部材(22)とは、インサート成形により一体化されている。この場合に、芯金(21)と樹脂部材(22)との間の界面に隙間が生じやすく、図8にAおよびBで示す位置から軸受内部に水分等の浸入の可能性があるが、この浸入に対する防止効果などは、第2実施形態のものと同じであり、その説明は省略する。
この第5実施形態のものでは、パルサ(10)の支持部材(86)が円筒部(88)および内向きフランジ部(89)とからなるので、第2実施形態のパルサ(10)の支持部材(34)が大径円筒部(36)、小径円筒部(37)および連結部(38)からなるのに比べ、パルサ(10)の支持部材(86)の曲げが1回少なくなっており、これに伴って、車体側軌道部材(3)の左端部と車輪側軌道部材(4)の左端部との間に、センサ付きシール装置を構成する部材(8)(9)(10)(11)を配置するスペースが確保しやすいものとなっている。しかも、回転側シール部材(9)のスリンガ(81)には、パルサ(10)の支持部材(86))を嵌め合わせる部分がないことから、その円筒部(82)の長さを短くすることができ、その嵌め合い精度を確保しやすいものとなっている。
なお、上記各実施形態のハブユニット(1)は、等速ジョイントの軸部が挿入可能なように中空軸(14)にセレーションが設けられた駆動輪用として示されているが、中空軸を従動輪の回転軸に代えることにより、従動輪用とすることができることはもちろんである。また、ハブユニット(1)を例に取り説明したが、上記センサ付きシール装置(7)は、ハブユニット(1)以外の各種転がり軸受装置や相対的に回転を行う各種回転装置にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
この発明によるセンサ付きシール装置およびそれを用いた転がり軸受装置は、シール装置を構成する芯金にセンサを樹脂モールドし、これにより、センサ付きシール装置および転がり軸受装置の軸方向寸法を抑えるとともに、水分の浸入を防止し、しかも、芯金がセンサの検知精度に悪影響を与えることを防止することができるので、自動車のハブユニットに容易に適用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材に嵌合固定される芯金および芯金に樹脂モールドされたセンサを有している固定側シール部材と、回転部材に嵌合固定される円筒部および円筒部の軸方向外側端部に連なって固定側シール部材に向かってのびるフランジ部を有する回転側シール部材とからなり、固定側シール部材の芯金は、固定部材に嵌合固定される嵌合用円筒部と、同円筒部の軸方向内側端部に連なって回転側シール部材の円筒部に向かってのびる連結部と、連結部に連なって軸方向外方にのびる水分浸入防止用円筒部とを有し、嵌合用円筒部の軸方向外側端部が樹脂内に位置するようにインサート成形されるとともに、芯金および回転側シール部材の少なくとも一方に、同他方に摺接する弾性シールが設けられていることを特徴とするセンサ付きシール装置。
【請求項2】
回転側シール部材は、円筒部の軸方向内側部分に設けられたパルサを有しており、パルサは、大径円筒部、小径円筒部、および連結部からなる支持部材と、センサに対向するように支持部材に設けられた着磁体とからなり、弾性シールは、固定側シール部材の水分浸入防止用円筒部の軸方向外側端部に設けられて回転側シール部材の円筒部の軸方向外側部分およびフランジ部に臨まされていることを特徴とする請求項1のセンサ付きシール装置。
【請求項3】
回転部材の端部に、軸方向内側部分およびこれよりも凹まされた軸方向外側部分からなる段部が形成され、回転側シール部材の円筒部は、段部の軸方向外側部分に嵌合されており、回転部材の段部の軸方向内側部分に、円筒状支持部材および着磁体からなるパルサの支持部材が嵌合され、パルサの着磁体は、センサに対向するように支持部材に設けられており、弾性シールは、固定側シール部材の水分浸入防止用円筒部の軸方向外側端部に設けられて回転側シール部材に臨まされていることを特徴とする請求項1のセンサ付きシール装置。
【請求項4】
固定側シール部材の芯金の嵌合用円筒部の軸方向外側端部に、センサと信号処理手段とを接続する配線を通すための配線取出し用切欠き部が設けられている請求項1から3までのいずれかのセンサ付きシール装置。
【請求項5】
固定側シール部材は、回転側シール部材よりも軸方向外方に張り出しておりかつ内径が軸方向外方に行くに連れて広がる張出樹脂部を有している請求項1のセンサ付きシール装置。
【請求項6】
センサを保持する樹脂部材は、芯金の軸方向外側端部から軸方向外方に所定距離離れた位置決め用平坦端面を有し、平坦端面の径方向外側の面および内側の面は、平坦端面よりも軸方向内方に位置させられている請求項1のセンサ付きシール装置。
【請求項7】
芯金から露出している樹脂部分の軸方向外面および内面の少なくとも一方に、複数の凸部が周方向に所定間隔で設けられている請求項1のセンサ付きシール装置。
【請求項8】
複数の凸部は、樹脂部材の軸方向外面および内面の両方に設けられており、軸方向外面の凸部は、固定側シール部材の固定部材への圧入時に押圧の基準面とされ、軸方向内面の凸部は、固定側シール部材の固定部材への圧入時に外輪と接触してそれ以上の芯金の圧入を防止することを特徴とする請求項7のセンサ付きシール装置。
【請求項9】
固定部材としての固定輪、回転部材としての回転輪および両輪間に配置された転動体からなる転がり軸受と、転がり軸受に一体に設けられたセンサ付きシール装置とを備えており、センサ付きシール装置が請求項1から8までのいずれかとされている転がり軸受装置。
【請求項10】
固定輪が車体への取付け部を有する車体側軌道部材とされ、回転輪が車輪取付け部を有する車輪側軌道部材とされて、自動車用ハブユニットとして使用されることを特徴とする請求項9の転がり軸受装置。

【国際公開番号】WO2005/040647
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515072(P2005−515072)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016484
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】