説明

ゼロクロス検出回路

【課題】
商用電源の交流電圧に対する重畳ノイズ及び波形歪みに対して、ゼロクロスを定周期にかつ安定に検出することができるゼロクロス検出回路を実現する。
【解決手段】
交流電圧がゼロ電位をクロスするタイミングに同期したパルス信号を生成するゼロクロス検出回路において、前記交流電圧の正の半サイクル又は負の半サイクルの少なくともいずれかに同期した矩形波信号を生成する矩形波変換手段と、前記矩形波信号によりトリガされるモノステイブルマルチバイブレータ手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電圧がゼロ電位をクロスするタイミングに同期したパルス信号を生成するゼロクロス検出回路に関する。ゼロクロス検出回路は、電力測定関連製品など電源位相を使用する製品に広く使用されている。
【背景技術】
【0002】
ゼロクロス検出回路に関連する先行技術文献としては、次のようなものがある。
【0003】
【特許文献1】特開平2−223218号公報
【0004】
図6は、ゼロクロス検出回路の基本構成を示す機能ブロック図である。1は商用電源である。2は直流絶縁・整流手段であり、商用電源1の電圧Eを入力し、直流絶縁した後に全波整流した信号Fを出力する。3はスレッシュホールド値Lを有するコンパレータであり、信号Fがスレッシュホールド値以下の期間にパルス信号Poを生成し、これをゼロクロス検出信号とする。
【0005】
図7は、特許文献1に開示されているゼロクロス検出回路の回路構成図である。商用電源1の交流電圧Eは、半サイクル毎にフォトカプラ手段21及び22を介して直流絶縁及び等価的な全波整流が実行される。フォトカプラ手段21より得られる一方の半サイクル信号F1でモノステイブルマルチバイブレータ4をトリガする。
【0006】
モノステイブルマルチバイブレータ4の出力パルスP1と、フォトカプラ手段22より得られる他方の半サイクル信号F2を直接増幅した信号P2とを、ダイオード51及び52よりなる論理和回路で加算した信号をゼロクロス検出信号Poとする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図8は、図6に示した機能ブロック図の各部の信号波形図である。図8(A)は交流電圧Eの波形、(B)はそれを全波整流した信号Fの波形、(C)は信号Fがスレッシュホールド値L以下の期間にオンとなるパルス信号Poの波形である。
【0008】
交流電圧Eの波形が、図8(A)のようにきれいな正弦波の場合では、(C)のようにゼロクロスのタイミングで安定した1個のパルス信号Poを得ることができるが、重畳するノイズにより交流電圧Eが乱れた場合や、波形歪を受けた場合には、安定したゼロクロス検出ができなくなる問題がある。
【0009】
図9は、交流電圧Eが重畳するノイズにより乱れた場合の波形図である。図9(A)に示すように、交流電圧Eがゼロクロスの近傍でスレッシュホールド値Lを複数回に渡って往復することにより、(B)に示すようにパルス信号Poが連続して2回以上発生する。このため、定周期のゼロクロス波形を得ることができない。
【0010】
図10は、交流電圧Eが波形歪を受け矩形波のようになった場合の波形図である。図10(A)のタイミングt1及びt2では、ゼロクロス近傍の交流電圧Eの変化が急峻で、短時間でスレッシュホールド値Lをよぎるために、(B)に示すパルス信号Poは急峻なパルス信号となり、十分なパルス幅を得ることができない。最悪の場合、タイミングt3のようにパルス信号Poが欠落してしまい、同様に、定周期のゼロクロス波形を得ることができない。
【0011】
図7に示した、交流電圧の半サイクルに対応してモノステイブルマルチバイブレータ4をトリガする構成では、モノステイブルマルチバイブレータ4が作動する一方の半サイクルでは交流電圧に重畳するノイズで複数のゼロクロス信号が発生するおそれはないが、他方の半サイクルでは問題が解決されない。
【0012】
更に、モノステイブルマルチバイブレータ4は、フォトカプラ手段21の出力を増幅した信号F1で直接トリガされるので。交流信号Eがノイズで乱されている場合には、安定してトリガがかからず、信号P1が欠落する可能性があり、全体として定周期のゼロクロス波形を安定に得ることができない。
【0013】
従って本発明が解決しようとする課題は、商用電源の交流電圧に対する重畳ノイズ及び波形歪みに対して、ゼロクロスを定周期にかつ安定に検出することができるゼロクロス検出回路を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を達成するために、本発明の構成は次の通りである。
(1)交流電圧がゼロ電位をクロスするタイミングに同期したパルス信号を生成するゼロクロス検出回路において、
前記交流電圧の正の半サイクル又は負の半サイクルの少なくともいずれかに同期した矩形波信号を生成する矩形波変換手段と、
前記矩形波信号によりトリガされるモノステイブルマルチバイブレータ手段と、
を備えたことを特徴とするゼロクロス検出回路。
【0015】
(2)前記矩形波変換手段は、前記交流電圧の正の半サイクルに同期する矩形波信号を生成する第1矩形波変換手段と、前記交流電圧の負の半サイクルに同期する矩形波信号を生成する第2矩形波変換手段と、
よりなることを特徴とする(1)に記載のゼロクロス検出回路。
【0016】
(3)前記モノステイブルマルチバイブレータ手段は、前記正の半サイクルに同期する矩形波信号でトリガされる第1モノステイブルマルチバイブレータ手段と、前記負の半サイクルに同期する矩形波信号でトリガされる第2モノステイブルマルチバイブレータ手段と、
よりなることを特徴とする(2)に記載のゼロクロス検出回路。
【0017】
(4)前記第1モノステイブルマルチバイブレータ手段の出力パルス信号と、前記第2モノステイブルマルチバイブレータ手段の出力パルス信号との論理和を演算する論理回路を備えることを特徴とする(3)に記載のゼロクロス検出回路。
【0018】
(5)前記モノステイブルマルチバイブレータ手段は、リトリガラブルモノステイブルマルチバイブレータであることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のゼロクロス検出回路。
【0019】
(6)前記交流電圧を供給する回路を、他の回路要素より直流的に絶縁するための直流絶縁手段を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のゼロクロス検出回路。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果がある。
(1)交流電圧の正の半サイクル又は負の半サイクルの少なくともいずれかに同期した矩形波信号を生成する矩形波変換手段を導入することにより、モノステイブルマルチバイブレータ手段を確実にトリガすることができる。これにより、図9のようにノイズにより電源波形が乱れた場合にも、モノステイブルマルチバイブレータ手段で波形整形した定周期のゼロクロス信号を安定に得ることができる。
【0021】
(2)交流電圧Eの波形が、図10のように歪んで矩形波のようになった場合でも、正の半サイクル及び負の半サイクルの双方に矩形波変換手段を導入することにより、交流電圧の正→負と負→正のゼロクロスを矩形波信号で得ることが可能となる。従って、これをモノステイブルマルチバイブレータ手段で波形整形した定周期のゼロクロス信号を安定に得ることができる。
【0022】
(3)モノステイブルマルチバイブレータ手段として、リトリガラブルモノステイブルマルチバイブレータを用いることで、波形が不安定の場合でも交流電圧の半サイクル毎に必ず1個のゼロクロス検出信号を生成することが可能となり、定周期のゼロクロス信号を安定に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は本発明を適用したゼロクロス検出回路の一実施形態を示す機能ブロック図である。図6、図7で説明した要素と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。以下、本発明の特徴部につき説明する。
【0024】
図1において、101及び102は、交流電圧Eの正及び負の各半サイクルに対応した第1及び第2直流絶縁・整流手段であり、夫々信号F1及びF2を出力する。201及び202は、信号F1及びF2を入力する第1及び第2矩形波変換手段であり、信号F1及びF2に同期した矩形波信号G1及びG2を出力する。
【0025】
301及び302は、夫々矩形波信号G1及びG2でトリガされる第1及び第2モノステイブルマルチバイブレータ手段であり、G1及びG2の立下りエッジ(又は立ち上がりエッジ)に同期した所定パルス幅を有するパルス信号P1及びP2を出力する。
【0026】
400は論理回路であり、パルス信号P1及びP2の論理和を演算し、最終的にゼロクロス検出信号Poを出力する。
【0027】
図2は、図1に示した機能ブロックの具体的構成を示した回路構成図である。第1及び第2直流絶縁・整流手段101及び102は、図7に示したフォトカプラ手段21及び22と同一機能であり、直流絶縁及び等価的な全波整流を実行し、交流電圧Eの各半サイクルに同期した信号F1及びF2を出力する。
【0028】
第1矩形波変換手段201は、信号F1を入力するインバータA1とその出力側に接続された抵抗R1及びコンデンサC1よりなるフィルタ回路で構成され、矩形波信号G1を出力する。
【0029】
同様に、第2矩形波変換手段202は、信号F2を入力するインバータA2とその出力側に接続された抵抗R2及びコンデンサC2よりなるフィルタ回路で構成され、矩形波信号G2を出力する。
【0030】
第1モノステイブルマルチバイブレータ手段301は、矩形波信号G1の立下りエッジでトリガされ、抵抗R3及びコンデンサC3で設定される時定数で決まるパルス幅を有するパルス信号P1を出力する。
【0031】
同様に、第2モノステイブルマルチバイブレータ手段302は、矩形波信号G2の立下りエッジでトリガされ、抵抗R4及びコンデンサC4で設定される時定数で決まるパルス幅を有するパルス信号P2を出力する。
【0032】
これらパルス信号P1及びP2は、論理回路400に入力され、論理和演算されて最終的なゼロクロス検出信号Poが出力される。
【0033】
図3は、交流電圧がノイズや歪の影響を受けていない場合の各部の信号波形図である。図3(A)は、交流電圧Eの波形図である。(B)は、フォトカプラ手段201から出力される正の半サイクルに対応する整流波F1の波形図、(C)は信号F1に同期した矩形波信号G1の波形図、(D)は矩形波信号G1の立下りでトリガされる第1モノステイブルマルチバイブレータ手段301のパルス信号P1の波形図である。
【0034】
図3(E)は、フォトカプラ手段202から出力される負の半サイクルに対応する整流波F2の波形図、(F)は信号F2に同期した矩形波信号G2の波形図、(G)は矩形波信号G2の立下りでトリガされる第2モノステイブルマルチバイブレータ手段302のパルス信号P2の波形図である。
【0035】
図3(H)は、最終的なゼロクロス検出信号Poの波形図であり、(D)に示す第1モノステイブルマルチバイブレータ手段301のパルス信号P1と、(G)に示す第2モノステイブルマルチバイブレータ手段302のパルス信号P2の論理和である。
【0036】
本発明によれば、第1モノステイブルマルチバイブレータ手段301及び第2モノステイブルマルチバイブレータ手段302は、前段の第1矩形波変換手段201及び第2矩形波変換手段202の矩形波信号の立下りで確実にトリガされ、交流電圧Eの各半サイクル毎に確実にゼロクロス信号Poを生成することができる。
【0037】
図4は、図9で説明したと同様に、交流電圧Eが重畳するノイズにより乱れた場合の波形図である。図4(A)に示すように、交流電圧Eがゼロクロスの近傍でゼロ電位を複数回に渡って往復することにより、(B)に示すように正の半サイクルに対応する矩形波信号G1は複数回オンオフ変化する。
【0038】
この矩形波信号でトリガされる第1モノステイブルマルチバイブレータ手段301は、(C)に示すように、矩形波信号G1の最初の立下りに同期してオンとなり、抵抗R3及びコンデンサC3で設定される時定数で決まるパルス幅(Ams)を有するパルス信号P1を出力する。
【0039】
この時、モノステイブルマルチバイブレータとしてリトリガラブルモノステイブルマルチバイブレータを用いた場合にはオンオフ変化の最後の立下りのタイミングからAms継続するパルス幅の信号P1となる。
【0040】
図4(D)は、負の半サイクルに対応する矩形波信号G2を示しており、(B)と同様に、交流電圧Eがゼロクロスの近傍でゼロ電位を複数回に渡って往復することにより、複数回オンオフ変化する。
【0041】
この矩形波信号でトリガされる第2モノステイブルマルチバイブレータ手段302は、(E)に示すように、矩形波信号G2の最初の立下りに同期してオンとなり、抵抗R4及びコンデンサC4で設定される時定数で決まるパルス幅(Ams)を有するパルス信号P2を出力する。
【0042】
この時、モノステイブルマルチバイブレータとしてリトリガラブルモノステイブルマルチバイブレータを用いた場合にはオンオフ変化の最後の立下りのタイミングからAms継続するパルス幅の信号P2となる。
【0043】
このように、モノステイブルマルチバイブレータとしてリトリガラブルモノステイブルマルチバイブレータを用いた場合には、パルス信号G1及びG2のオンオフ変動でパルス信号P1及びP2のパルス幅が変化するが、交流電圧Eの各半サイクルで確実にゼロクロス検出できるメリットがある。
【0044】
図5は、図10で説明したと同様に、交流電圧Eが波形歪を受け矩形波のようになった場合の波形図である。図5(A)は、交流電圧Eの波形図であり、タイミングt1乃至t5ではゼロクロス近傍の交流電圧Eの変化が急峻である。
【0045】
ゼロクロス近傍の交流電圧Eの変化が急峻であっても、図5(B)及び(D)に示すように本発明によれば、矩形波変換手段201及び202は確実に作動し、矩形波信号G1及びG2が確実に得られるので、(C)及び(E)に示すようにモノステイブルマルチバイブレータ301及び302からパルス幅Amsの安定したパルス信号P1及びP2を得ることができる。
【0046】
本発明は、電力測定関連機器のような、電源位相を必要とする製品一般に応用することができる。具体的には、電圧電流などの位相差により、電力の符号などを判定する回路等に応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明を適用したゼロクロス検出回路の一実施形態を示す機能ブロック図である。
【図2】図1に示した各機能ブロックの具体的構成を示した回路構成図である。
【図3】本発明の構成において、交流電圧がノイズや歪の影響を受けていない場合の各部の信号波形図である。
【図4】本発明の構成において、交流電圧が重畳するノイズにより乱れた場合の波形図である。
【図5】本発明の構成において、交流電圧が波形歪を受け矩形波のようになった場合の波形図である。
【図6】ゼロクロス検出回路の基本構成を示す機能ブロック図である。
【図7】特許文献1に開示されているゼロクロス検出回路の回路構成図である。
【図8】図6に示した機能ブロック図の各部の信号波形図である。
【図9】交流電圧が重畳するノイズにより乱れた場合の波形図である。
【図10】交流電圧が波形歪を受け矩形波のようになった場合の波形図である。
【符号の説明】
【0048】
1 商用電源
101 第1直流絶縁・整流手段
102 第2直流絶縁・整流手段
201 第1矩形波変換手段
202 第2矩形波変換手段
301 第1モノステイブルマルチバイブレータ
302 第2モノステイブルマルチバイブレータ
400 論理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧がゼロ電位をクロスするタイミングに同期したパルス信号を生成するゼロクロス検出回路において、
前記交流電圧の正の半サイクル又は負の半サイクルの少なくともいずれかに同期した矩形波信号を生成する矩形波変換手段と、
前記矩形波信号によりトリガされるモノステイブルマルチバイブレータ手段と、
を備えたことを特徴とするゼロクロス検出回路。
【請求項2】
前記矩形波変換手段は、前記交流電圧の正の半サイクルに同期する矩形波信号を生成する第1矩形波変換手段と、前記交流電圧の負の半サイクルに同期する矩形波信号を生成する第2矩形波変換手段と、
よりなることを特徴とする請求項1に記載のゼロクロス検出回路。
【請求項3】
前記モノステイブルマルチバイブレータ手段は、前記正の半サイクルに同期する矩形波信号でトリガされる第1モノステイブルマルチバイブレータ手段と、前記負の半サイクルに同期する矩形波信号でトリガされる第2モノステイブルマルチバイブレータ手段と、
よりなることを特徴とする請求項2に記載のゼロクロス検出回路。
【請求項4】
前記第1モノステイブルマルチバイブレータ手段の出力パルス信号と、前記第2モノステイブルマルチバイブレータ手段の出力パルス信号との論理和を演算する論理回路を備えることを特徴とする請求項3に記載のゼロクロス検出回路。
【請求項5】
前記モノステイブルマルチバイブレータ手段は、リトリガラブルモノステイブルマルチバイブレータであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のゼロクロス検出回路。
【請求項6】
前記交流電圧を供給する回路を、他の回路要素より直流的に絶縁するための直流絶縁手段を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のゼロクロス検出回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−258698(P2006−258698A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78922(P2005−78922)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】