説明

ソーワイヤ、ソーワイヤの製造方法、半導体インゴットの切断方法及びワイヤソー

【課題】遊離砥粒を含有するスラリを用いなくともインゴット等をスライスすることができる固定砥粒方式によるインゴット等のスライスに適したソーワイヤであって、表面の硬度が高く、また、長寿命で耐久性が高いソーワイヤ及びそれを用いた半導体インゴットの切断方法を提供する。そして、ソーワイヤの製造に適した製造方法を提供する。
【解決手段】ワイヤ基材1A,1B,1Cにダイヤモンド薄膜又はダイヤモンド状薄膜2が被着されてなるソーワイヤであって、ソーワイヤ表面に凸部が形成されているソーワイヤを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体インゴットやセラミック、ガラス基板等の硬脆材料を切断するソーワイヤ及びその製造方法等、詳しくは半導体インゴット等のスライスに適したソーワイヤ及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体インゴット等からウェハをスライスする方法として、スチールワイヤ製のソーワイヤを用いて複数枚を同時にスライスする方法(マルチスライス)が知られている。前記方法は、詳しくは、テンションの掛けられた複数のソーワイヤを列状に配置して、インゴットに向けて走行させ、走行するソーワイヤに炭化珪素砥粒等の遊離砥粒を含有するスラリを吹き付けると、インゴットとソーワイヤとの間に遊離砥粒が引き込まれ、インゴットを摩滅させながら複数枚のウェハをスライスするという方法(遊離砥粒方式とも呼ばれる)である。
【0003】
前記方法に用いられるソーワイヤは、スライスの際にソーワイヤ自体が遊離砥粒等により磨耗しやすく、このような磨耗は、経時的に切断効率を低下させ、また、磨耗が不均一に生じた場合には、スライスしたウェハにソリやうねりが生じてウェハの寸法精度の低下を招くという問題があった。
【0004】
前記のような磨耗による問題を解決する手段として、例えば、下記特許文献1にはソーワイヤの表面にセラミックで被覆したソーワイヤが、下記特許文献2にはダイヤモンド被膜またはダイヤモンドに近似した硬度を有する炭素質膜が設けられたソーワイヤが開示されている。前記開示技術は、いずれも、ソーワイヤの表面硬度を高めて、ソーワイヤの磨耗を抑制することにより、ソーワイヤの硬度を高めて耐久性を向上させることを目的とするものである。
【0005】
前記従来技術におけるソーワイヤを用いた遊離砥粒方式によるスライスに用いられるスラリとしては、クーラントとも呼ばれる鉱物油に遊離砥粒を分散させてなる油性スラリが用いられている。油性スラリは油を分散媒体とするために引火性があり、マルチスライス工程の長時間の無人運転には適さない。また、油性スラリは臭気が強い等、作業環境上好ましくないという問題もあった。さらに、スライス後のウェハには油及び砥粒が付着するために、それらを洗浄する必要があるが、その工程は煩雑なものである。また、前記洗浄により得られる廃スラリ処理においては、砥粒の回収は可能であるものの、油分の再利用は困難であり、環境への負荷も大きかった。
【0006】
また、油性スラリを用いた遊離砥粒方式におけるスライス工程の問題点を解決するために、引火性のない水性クーラントを用いた水性スラリも提案されている。水性スラリを用いたスライス工程で得られるウェハは洗浄の際には必ずしも有機溶媒を必要とせず、水だけでも洗浄できるという利点がある。しかしながら、水性スラリに高い含有割合で砥粒を安定分散させること、また砥粒の分散状態を保持することが困難であるという問題があった。
【0007】
前記遊離砥粒方式における問題を解決する手段として、ワイヤ自身にダイヤモンド砥粒を接着させることにより歯を形成させる固定砥粒方式が提案されている(例えば、特許文献3)。
【0008】
前記固定砥粒方式はダイヤモンド砥粒を樹脂でワイヤに接着したものである。このような固定砥粒方式によるシリコンウェハのスライスは、遊離砥粒を含有しない、水、又は少量の界面活性剤等を含有する水のみによりインゴットをスライスすることができる。
【特許文献1】特開昭62−251061号公報
【特許文献2】特開昭63−11274号公報
【特許文献3】WO98/35784パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ワイヤ表面にダイヤモンド砥粒を樹脂で接着して形成されるソーワイヤは砥粒の接着力が弱く、スライスの際にワイヤ表面から砥粒が脱落することがあるために、ソーワイヤの耐久性が低く、寿命が短いという問題があった。
【0010】
本発明は、前記各種課題、すなわち、遊離砥粒を含有する油性スラリを用いずに、遊離砥粒の含有割合が低い水性スラリ、または、遊離砥粒を全く含有しない水性溶液のみでインゴット等をスライスすることができる固定砥粒方式によるソーワイヤであって、表面の硬度が高く、また、長寿命で耐久性が高いソーワイヤ及びそれを用いた半導体インゴットの切断方法及び前記ソーワイヤを用いたワイヤソーを提供することを課題とする。そして、前記ソーワイヤの製造に適した製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のソーワイヤは、ワイヤ基材にダイヤモンド薄膜又はダイヤモンド状薄膜(以下、単にダイヤモンド状薄膜等ともよぶ)が被着されてなるソーワイヤであって、前記ソーワイヤ表面に凸部が形成されていることを特徴とするものである。このように表面にダイヤモンド状薄膜等を被着させ、また、ソーワイヤ表面に凸部を形成することにより、凸部が歯の働きをし、遊離砥粒を含有するスラリを用いなくともインゴット等をスライスすることができる。また、ソーワイヤ表面にはダイヤモンド状薄膜等が被着されているために、表面の硬度が高く、長寿命で耐久性の高いソーワイヤが得られる。
【0012】
前記ソーワイヤ表面の凸部は、表面に予め凸部が形成されたワイヤ基材にダイヤモンド状薄膜等を被着させる方法や、比較的平滑な表面を有するワイヤ基材にダイヤモンド状薄膜等を粒子状に成長させることにより形成することができる。その模式図を示すと図1のようになる。
【0013】
図1(A)及び図1(B)は、本発明のソーワイヤの拡大断面を示す模式図である。図1(A)及び図1(B)中、1A,1Bはワイヤ基材、2はダイヤモンド状薄膜等であり、ダイヤモンド状薄膜等2はワイヤ基材1A,1Bの表面に被着している。そして、ソーワイヤには凸部Rが形成されている。そして、図1(A)におけるワイヤ基材1Aは、表面が平滑なワイヤ基材であり、図1(B)におけるワイヤ基材1Bは表面が粗なワイヤ基材である。なお、表面が平滑なワイヤ基材とは、十点平均粗さ(Rz)が0.5μm未満程度の表面状態を有するワイヤ基材であり、表面が粗なワイヤ基材とは、十点平均粗さ(Rz)が0.5〜25μm程度の表面状態を有するワイヤ基材である。
【0014】
本発明のソーワイヤは図1(A)に示すような、表面が平滑なワイヤ基材1Aの表面に凸部を形成するようにダイヤモンド状薄膜等2を被着させた形態や、図1(B)に示すような、表面が粗なワイヤ基材1Bの表面にその表面状態に沿ってダイヤモンド状薄膜等2を被着させた形態、あるいは、これらを組み合わせた形態のいずれの形態であってもよい。
【0015】
本発明におけるダイヤモンド薄膜とは、Sp構造の結晶構造を持つダイヤモンド薄膜であり、ダイヤモンド状薄膜とは、DLC(Diamond like Carbon)、ダイヤモンド状硬質炭素、非晶質炭素とも呼ばれるSp構造及び/又はSp構造、並びにその他の炭素質を含有する薄膜である。
【0016】
前記ダイヤモンド状薄膜等の膜厚としては、0.01〜25μm程度、さらには、0.02〜5μm程度であることが好ましい。
【0017】
また、本発明におけるワイヤ基材とは従来からソーワイヤとして用いられている、高い抗張力を有する線径40〜400μm程度の金属線、具体的には、例えば、ピアノ線、硬鋼線等のFe系金属線や、タングステン線、いわゆるインコネル(Ni−Cr−Fe系合金)等の金属線がとくに限定なく用いられる。
【0018】
本発明のソーワイヤは、ワイヤ基材の表面に、公知の薄膜形成方法によりダイヤモンド状薄膜等を形成させることにより得られる。前記薄膜形成方法としては、例えば、炭素源としてCH,C,CO,低級アルコール等の有機物からなる炭素含有ガスを用いたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の各種CVD法や、黒鉛等を炭素源とする真空蒸着法、DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法、プラズマイオン注入法、重畳型RFプラズマイオン注入法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、レーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等が挙げられる。なお、CVD法を用いる場合においては、前記炭素含有ガスとともに、Si、B、F、N等の元素を含むガスを導入することにより、これらの元素を含有するダイヤモンド状薄膜等を形成することもできる。前記Si、B、F、N等の元素を含む原料ガスとしては、モノシラン、ジシラン、テトラメチルシラン、ジメチルシラン、CF4、HFC、ジボラン、テトラボラン、ヘキサボラン、N2、NH3、ピロール等のN含有五員環類等が挙げられる。これらのガスは、炭素含有ガスと予め混合して導入しても、また、別に導入しても良い。
【0019】
また、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ti、およびZr等の金属元素を含有する化合物を導入することによりダイヤモンド状薄膜等に前記のような金属元素を含有させることもできる。これらの元素を含有させることは、ダイヤモンド状薄膜等の硬度をさらに高めたり、ワイヤ基材との密着性を高めたりすることができる点から好ましい。ダイヤモンド状薄膜等におけるこのような金属元素の含有割合としては、該薄膜中の原子量組成比において、30%未満であることが好ましい。
【0020】
なお、本発明のソーワイヤに用いられるワイヤ基材の表面粗さとしては、上述のように十点平均粗さ(Rz)が0.5μm未満程度の表面が平滑なワイヤ基材や、十点平均粗さ(Rz)が0.5〜25μm程度の表面が粗なワイヤ基材が用いられる。
【0021】
前記表面が粗なワイヤ基材は、表面が平滑なワイヤ基材をエッチング処理や砥粒による研磨、あるいは、ワイヤ製造時における線引き工程においてダイス工具により傷つけ処理することにより得ることができる。このような表面が粗なワイヤ基材を用いた場合には、その粗化により形成されたワイヤ基材の凸部自体によりソーワイヤの歯が形成される。また、前記ワイヤ基材の凸部においては、薄膜形成の際に薄膜成長が優先的に起こり、凸部をさらに大きくする作用もある。
【0022】
前記ワイヤ基材表面に施すエッチング処理としては、ワイヤ基材をプラズマ中で発生させたイオンまたはラジカルによってエッチングする方法(プラズマエッチング法)や、酸や塩化第二鉄等の腐食性液体を用いた湿式法によるエッチング、腐食性ガスを用いた乾式法によるエッチング等が挙げられる。前記プラズマエッチング法は、成膜にプラズマCVD法を用いれば、プラズマCVD装置を用いて、成膜プロセスの前工程としてエッチング処理を施すことができるため、製造工程を簡略化することができる点からとくに好ましい。
【0023】
また、前記砥粒による研磨としては、ダイヤモンド砥粒、炭化珪素砥粒、キュービックボロンナイト(c−BN)砥粒等、又はこれらを組み合わせた砥粒による表面粗化が挙げられ、また、前記ダイス工具による傷つけ処理としては、ワイヤ製造の際の線引き工程において用いられるダイスによる傷つけ処理によってワイヤ表面を粗くする方法が挙げられる。前記ダイスとしては、ダイヤモンド、炭化珪素、キュービックボロンナイト(c−BN)、タングステンカーバイドからなる表面をもつダイスを用いることが好ましい。さらに、ワイヤの線引き工程においては、前記のようなダイスとダイヤモンド砥粒、炭化珪素砥粒、キュービックボロンナイト(c−BN)砥粒等とを組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明の表面に凸部が形成されたソーワイヤの表面粗さとしては、十点表面粗さ(Rz)が0.05〜40μm、さらには2〜15μm程度であることが、インゴット等を切断する際の切断速度を高く維持できる点から好ましい。また、前記ダイヤモンド状薄膜等はワイヤ基材表面積全体に対し85〜100%の面積に被着されていることが、インゴット等を切断する際にダイヤモンド状薄膜等がワイヤ基材からより剥離しにくくなる点から好ましい。
【0025】
本発明のソーワイヤには、さらに、図1(C)に示すようにワイヤ基材1A表面とダイヤモンド状薄膜等2との間に、両者の密着性を向上させるための中間層3が形成されていることが好ましい。
【0026】
中間層3は、例えば、スパッタ法、DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法、CVD法、プラズマCVD法、溶射法、イオンプレーティング法又はアークイオンプレーティング法、プラズマイオン注入法、重畳型RFプラズマイオン注入法、イオンビーム蒸着法又はレーザーアブレーション法等の成膜法により得られる、チタン(Ti)等の4A族元素、5A族元素、クロム(Cr)等の6A族元素、鉄族元素、珪素(Si)、Alまたはこれらの炭化物、窒化物、炭窒化物の少なくとも1種を含むアモルファス膜、具体的には、例えば、珪素(Si)と炭素(C)、チタン(Ti)と炭素(C)又はクロム(Cr)と炭素(C)とを含有するアモルファス膜等を用いることができる。さらに具体的には、とくにイオンビーム蒸着法を用いて形成される炭化珪素膜がとくに好ましく、この場合のSi源及びC源としては、例えばモノシラン、ジシラン、テトラメチルシラン、ジメチルシラン、メタン、アセチレン、プロパン、ブタン、ベンゼンなどを用いることができ、これらの中でもとくにモノシラン、テトラメチルシラン、アセチレン、ベンゼンが好ましい。これらは、ワイヤ基材1の種類に応じて好ましいものを選択する。中間層4の厚みは、とくに限定されるものではないが、0.005〜0.3μm、さらには、0.01〜0.1μm程度であることが好ましい。
【0027】
本発明のソーワイヤの引張強さとしては3000N/mm以上であることが好ましい。このような強度であれば、ソーワイヤとして用いるための機械的強度を充分に満たす。また、ソーワイヤ表面のビッカース硬度としては1000〜4500Hvであることが、とくに優れた切削性を有し、また、より長寿命で耐久性が高い点から好ましい。
【0028】
前記説明した、本発明のソーワイヤは半導体インゴットを切断する際に、従来必要であった砥粒の含有割合が高いスラリの代わりに、砥粒の含有割合が低い、または、砥粒を全く含有しない水または水に界面活性剤等の水溶性添加剤を溶解させた水溶液のみでも半導体インゴットからウェハを効率よく切り出すことができる。
【0029】
なお、本発明のソーワイヤを製造するために、とくに好ましい製造方法としては、前記ワイヤ基材の表面にPVD及びプラズマCVDを併用する以下のような成膜方法によってダイヤモンド状薄膜等を形成することが好ましい。
【0030】
すなわち、複数本の炭素棒を収納するチャンバであって、これらの炭素棒が特定の中心軸の周囲にこの中心軸から互いに等しい距離を置いた位置でかつ周方向に等しい間隔を置く位置に互いに平行な姿勢で配置されたチャンバの内部に前記ワイヤ基材を挿入し、このワイヤ基材を前記中心軸に合致する位置に固定して当該ワイヤ基材に張力を与える工程と、前記チャンバ内を減圧し、かつ、炭素含有ガスを含む雰囲気にする工程と、前記雰囲気下で、前記各炭素棒に前記炭素含有ガスのプラズマを発生させるための放電電圧を印加し、かつ、これらの炭素棒の内側に固定された前記ワイヤに前記プラズマ中の陽イオンを捕捉するためのバイアス電圧を印加することにより、前記ワイヤの表面にPVD及びプラズマCVDによって前記ダイヤモンド薄膜又は前記ダイヤモンド状薄膜を形成する工程とを含むことを特徴とする製造方法が挙げられる。このような製造方法により、ワイヤ基材上に形成されるダイヤモンド状薄膜等は、粒子状(パーティクルライク)に膜が形成されやすくなるためにダイヤモンド状薄膜等からなる凸部を形成しやすく、また、その凸部の大きさも制御しやすい。また、その、成膜速度も速いために生産効率にも優れている。
【0031】
前記製造方法においては、前記のようにワイヤ基材の周囲に複数の炭素棒を等距離、等間隔で配設する。この複数の炭素棒は、プラズマCVD法における放電電極の機能及びPVD法における炭素源として機能するものである。前記炭素棒に放電電圧を与えることにより、放電電極である炭素棒間に存在する炭素含有ガスがプラズマ化されるとともに、炭素棒から炭素が飛び出す。そして、ワイヤ基材には、陽イオンを捕捉するためのバイアス電圧を印加することにより、放電電圧の印加により発生した炭素含有ガスのプラズマの陽イオンがワイヤ基材表面に引き寄せられる。また、前記のように処理されるワイヤ基材の周囲には複数の炭素棒が等距離、等間隔で配設されているために、ワイヤ基材の表面にほぼ均一に薄膜を被着させることができる。このように、本製造方法においては、ワイヤ基材の表面に均一に密着性よく薄膜が形成される。
【0032】
さらに、前記ソーワイヤの製造方法においては、前記各炭素棒により囲まれる領域にプラズマ密度を他の領域に比して局所的に高めるための磁界を形成することが好ましい。このように、ワイヤ基材の周囲であって、各炭素棒により囲まれる領域にプラズマ密度を高めるための磁界を形成することにより、薄膜の生成速度が速くなり、さらに、薄膜が粒子状に成長しやすくなる。
【0033】
以下に、前記本発明のソーワイヤの製造方法の好ましい実施の形態を、図2〜図4に基づいて詳しく説明する。
【0034】
図2は本発明のワイヤ基材用薄膜形成装置の構成を示す模式図である。また、図3(A)はワイヤ基材用薄膜形成装置内に配置される炭素棒及びワイヤ基材等の配置を示す模式図であり、図3(B)は図3(A)の右方から見た側面図を示す。さらに、図4は炭素棒に放電電圧を印加するための交流放電回路の回路図を示す。
【0035】
図2に示した、ワイヤ基材用薄膜形成装置4はプラズマCVD法とPVD法を併用することができる装置である。
【0036】
図2中、6はチャンバ、7は炭素棒及びワイヤ基材固定手段、7Aは炭素棒固定治具、8Aはガス導入口、8Bは排気口、F1、F2はガス流量調整用マスフローコントローラ、T1、T2はガスタンク、Pは減圧手段、Mはソレノイドコイル、Vは放電電圧用電源、Bはバイアス電源、S1及びS2はバネを示す。
【0037】
そして、図3(A)及び図3(B)に示すように、チャンバ内に設けられる炭素棒5A〜5D及びワイヤ基材1を固定するための炭素棒及びワイヤ基材固定手段7においては、セラミックス等の絶縁材料からなる炭素棒固定治具7Aに炭素棒5A〜5Dが固定され、炭素棒5A〜5Dがワイヤ基材1の周囲にワイヤ基材1から互いに等しい距離を置いた位置でかつワイヤ基材1の周方向に等しい間隔を置く位置に互いに平行な姿勢で配置されている。また、ワイヤ基材1はバネS1,S2により適当な張力がかけられて固定されている。さらに、ワイヤ基材1にはバイアス電圧を印加するためのバイアス電源Bが接続されている。
【0038】
なお、本実施形態においては、炭素棒を4本用いているが、その本数はワイヤ基材1の表面全体にほぼ均一にダイヤモンド状薄膜等を成膜できる複数の本数であればとくに限定されない。なお、このような位置関係で複数の炭素棒を配置することにより、各炭素棒から飛び出す炭素がワイヤ基材1表面にほぼ均一に付着するとともに、ワイヤ基材1の近傍で炭素含有ガスのプラズマを発生させることにより、プラズマ中の陽イオンもワイヤ基材1に引き寄せられ、効率的に成膜される。なお、本実施形態においては、4本の炭素棒5A〜5Dのうち、対角に位置する5Aと5C、5Bと5Dは等電位になるように銅線、銅板等の導電材5E、5Fにより導通されている。
【0039】
ソレノイドコイルMは電流を流すことで励磁され、チャンバ6内の炭素棒5A〜5Dにより囲まれる領域のプラズマ密度を他の領域に比して局所的に高めるための磁界を形成するためのものである。ワイヤ基材1の周囲であって、各炭素棒により囲まれる領域にプラズマ密度を高めるための磁界を形成することにより、薄膜の生成速度が速くなり、また、薄膜が粒子状に成長しやすくなる。なお、本実施形態においては前記のように磁界を形成するためにソレノイドコイルMはチャンバ6の外周部に設けられており、また、ワイヤ基材1は、チャンバ6内の中央部の磁場が一様になる部分に配置されている。
【0040】
前記のように構成されたワイヤ基材用薄膜形成装置4を用いたワイヤ製膜工程について図2〜図4を参照して説明する。
【0041】
はじめに、チャンバ6内において、前記のような配置で炭素棒5A〜5D及びワイヤ基材1を配置し、チャンバ6を密閉する。
【0042】
密閉されたチャンバ6は、減圧手段Pにより減圧される。減圧手段Pとしては、ロータリーポンプ(油回転ポンプ)や、油拡散ポンプ、又はそれらの組み合わせ等が用いられる。なお、減圧手段Pによる減圧は、可能な限り真空に近づけることが好ましく、具体的には
10-3Pa以下程度になるまで減圧することが好ましい。
【0043】
そして、減圧されたチャンバ6内にガス導入口8Aから炭素含有ガスを導入し、炭素含有ガスを含む雰囲気にする。ガス導入手段としては、マスフローコントローラ等の流量調整手段を備えたガス導入装置等が用いられる。このときの、ガスの圧力としてはプラズマの生成及び維持が可能である限りとくに限定されないが、1〜10Pa程度であることが成膜効率の点から好ましい。なお、このときに、炭素含有ガス以外のガス成分を炭素含有ガスと混合して、あるいは、別々に導入しても良い。
【0044】
次に、放電電圧用電源Vにより炭素棒5A〜5Dに放電電圧を印加して、前記炭素含有ガスのプラズマを発生させる。このとき図4に示すように、対角に位置する5Aと5C、5Bと5Dは導電材5E、5Fにより等電位にされている。なお、図4中、TRはトランス、K1,K2は保護抵抗、Vn,Vdは電圧計を示す。
【0045】
前記放電電圧はプラズマの生成及び維持が可能である限りとくに限定されないが、200〜500V、さらには、250〜400Vであることが好ましい。また、放電電流密度としてはプラズマの生成及び維持が可能である限りとくに限定されないが、0.01〜1mA/cm、さらには、0.1〜1mA/cm程度であることが好ましい。なお、このときの放電電圧は、例えば、図4に示すような電圧計Vdにより測定される電圧印加端子間の電位差であり、放電電流密度Idは、電圧計Vnで測定された保護抵抗K1間の電位差から計算される。
【0046】
そして、ワイヤ基材1にバイアス電圧を印加すると、放電により発生したプラズマに由来する陽イオンがワイヤ基材1の表面に引きつけられる。また、各炭素棒から、PVDの原理により、炭素が飛び出し、ワイヤ基材1の表面に付着する。そして、このまま一定時間保持することにより、ワイヤ基材1の表面にダイヤモンド状薄膜等が成膜される。
【0047】
前記バイアス電圧はワイヤ基材表面に前記陽イオンが引き寄せられて形成された薄膜を再スパッタしない範囲である限りとくに限定されないが、-50〜-250Vであることが好ましい。
【0048】
なお、ソレノイドコイルMに接続された図略のソレノイド励磁電源をONにし、チャンバ6内に各炭素棒により囲まれる領域にプラズマ密度を高める磁界を形成することが、成膜速度を高めるとともに、凸状の薄膜の生成を促す点から好ましい。磁界の磁束密度としては、前記のようにプラズマ密度を高める磁界を形成するものである限りとくに限定されないが、その磁束密度としては、例えば、100〜600ガウス、さらには、300〜600ガウスであることが好ましい。
【0049】
なお、本実施形態のソーワイヤの製造方法においては、処理されるワイヤ基材は、不連続に切断されたものであるが、チャンバの内部、又は、外部に、処理されるワイヤ基材の送り手段及び巻き取り手段を設け、順次、連続した長いワイヤ基材の一部を各炭素棒に対して前記のように配置される所定の位置に送ることにより、所望の長さの長いソーワイヤを得ることもできる。
【0050】
このような製造方法により得られるソーワイヤの特徴としては、ソーワイヤ表面に高硬度の凸形状のダイヤモンド状薄膜等が被着されていることから、砥粒を含有しない加工液を用いても前記凸形状の部分が歯の部分になり、高い切削効率で切断することができる。さらに、凸部の形態を制御できるために、半導体インゴット等のワークを高精度に切断することができる。また、ソーワイヤ表面には高硬度のダイヤモンド状薄膜等が被着されているために、ワークの硬度よりも高い硬度を有するために長寿命で高い耐久性を有するものになる。また、遊離砥粒を含有するスラリを用いる場合には、従来のスラリに比べて、遊離砥粒の含有割合の低い水系のスラリを用いても高い切削効率を維持することができ、ソーワイヤの凸部とワークとの間に隙間ができることによって、遊離砥粒がワイヤに保持されやすくなり、凸部との相乗効果により高効率の切断が可能になる。
【0051】
本発明のソーワイヤは、ソーワイヤを用いたワイヤソーで半導体インゴットを切断する際に、砥粒の含有割合が低いスラリ、あるいは、砥粒を含有しない水または水に界面活性剤等の水溶性添加剤を含有させた液を用いて、半導体インゴットからウェハを効率よく切り出すことができる。
【0052】
次に、本発明のソーワイヤを用いて半導体インゴットから複数枚のウェハを切り出す方法を以下に説明する。
【0053】
本発明のソーワイヤは、当該ソーワイヤを複数のガイドローラに複数回掛け渡してこれらのガイドローラのうちの特定のガイドローラ同士の間に前記ソーワイヤが平行な状態で複数列にわたり配列されたインゴット切断領域を形成し、かつ、このソーワイヤを当該ソーワイヤの軸方向に駆動する工程と、前記ソーワイヤを駆動した状態で前記切断領域に対し前記ソーワイヤの軸方向と略直交しかつ前記ソーワイヤの配列方向と略直交する方向に前記半導体インゴットを移送してこの半導体インゴットを前記ソーワイヤにより複数個所で切断する工程とを含むような切断方法に用いることができる。
【0054】
また、前記方法を具体化したワイヤソーとしては以下のようなものが好ましい。すなわち、半導体インゴットから複数枚のウェハを切り出すためのワイヤソーであって、本発明のソーワイヤと、前記ソーワイヤが複数回掛け渡される複数のガイドローラと、前記ソーワイヤを当該ソーワイヤの軸方向に駆動するワイヤ駆動手段とを備え、前記ソーワイヤが、前記ガイドローラのうちの特定のガイドローラ同士の間において平行な状態で複数列にわたり配列されることによりインゴット切断領域を形成するように配線されるとともに、前記ワイヤ駆動手段により前記ソーワイヤが駆動された状態で前記切断領域に対し前記ソーワイヤの軸方向と略直交しかつ前記ソーワイヤの配列方向と略直交する方向に前記半導体インゴットを移送することによりこの半導体インゴットを前記ソーワイヤにより切断させるインゴット移送手段を備えたことを特徴とするワイヤソーが挙げられる。
【0055】
前記ソーワイヤを用いた半導体インゴット等のワークの切断方法及びワイヤソーについて図5を参照にして、詳しく、説明する。
【0056】
図5に示すワイヤソーは、一対のワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bと、その間に配された4つのガイドローラ24A,24B,26A,26Bを備えている。これらのガイドローラのうち、ガイドローラ24A,24Bは互いに同じ高さ位置に配され、ガイドローラ26A,26Bはそれぞれガイドローラ24A,24Bの下方の位置に配されている。
【0057】
前記ワイヤ繰出し・巻取り装置10Aとガイドローラ24A,24B,26A,26Bとの間には、ワイヤ繰出し装置10Aに近い側から順に、固定プーリ12A,14A,16A、ワイヤ長操作装置18A、可動プーリ20A、及び固定プーリ22Aが設けられている。同様に、前記ワイヤ繰出し・巻取り装置10Bとガイドローラ24A,24B,26A,26Bとの間には、ワイヤ巻取り装置10Bに近い側から順に、固定プーリ12B,14B,16B、ワイヤ長操作装置18B、可動プーリ20B、及び固定プーリ22Bが設けられている。
【0058】
各ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bは、ソーワイヤWが巻かれるボビン9A,9Bと、これを回転駆動するボビン駆動モータ11A,11Bとを備えている。一方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aのボビン9Aから繰り出されたソーワイヤWは、固定プーリ12A,14A,16A、ワイヤ長操作装置18Aの可動プーリ20A、及び固定プーリ22Aの順に掛けられ、さらにガイドローラ24A,24B,26B,26Aの外側に複数回巻回された後、固定プーリ22B、ワイヤ長操作装置18Bの可動プーリ20B、固定プーリ16B,14B,12Bの順に掛けられ、他方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bのボビン9Bに巻き取られるとともに、両ワイヤ長操作装置18A,18BによってソーワイヤWに適当な張力が与えられるようになっている。そして、ソーワイヤWは複数のガイドローラに複数列に渡って平行状態を保つように巻かれ、切断領域Cを形成している。
【0059】
ガイドローラ24A,24B,26B,26Aのうち、下側のガイドローラ26A,26Bの回転軸には、それぞれ、当該ガイドローラ26A,26Bを個別に回転駆動するメインモータ25A(第1駆動モータ)及びメインモータ25B(第2駆動モータ)が連結されている。そして、各ボビン駆動モータ11A,11Bによるボビン9A,9Bの回転駆動方向及びメインモータ25A,25Bによるガイドローラ26A,26Bの回転駆動方向が正逆に切換えられることにより、ソーワイヤWがボビン9Aから繰り出されてボビン9Bに巻き取られる状態と、ソーワイヤWがボビン9Bから繰り出されてボビン9Aに巻き取られる状態とに切換えられるようになっている。
【0060】
すなわち、このワイヤソーにおいては、ガイドローラ24A,24Bの間に多数本のワイヤWが互いに平行な状態で張られながらその長手方向に往復駆動されるようになっている。
【0061】
これらのガイドローラ24A,24B間に張られたソーワイヤWの上方には、円柱状のワーク(例えば半導体インゴット)28を移動させるワーク送り装置30が設けられている。このワーク送り装置30は、ワーク保持部32と、ワーク送りモータ34とを備えている。ワーク保持部32は、前記ワーク28をその結晶軸に基づいて目的の結晶方位が得られる向きに保持するものであり、ワーク送りモータ34は、図略のボールネジとの組み合わせにより、前記ワーク保持部32とワーク28とを一体に昇降させる(すなわち切断送りする)ものである。この実施の形態では、ワーク送りモータ34はサーボモータで構成され、ワーク28の切断送り位置を検出する送り位置検出手段を兼ねている。
【0062】
ガイドローラ24A,24B間に張られたソーワイヤWの上方において、ワーク28の左右両側の位置には、加工液供給装置36A,36Bが設けられている。これらの加工液供給装置36A,36Bは、高速駆動される各ソーワイヤWに対し、加工液を同時供給し、これをソーワイヤW表面に付着させるものである。
【0063】
そして、このワイヤソーでは、ガイドローラ24A,24B間に張られた複数本のソーワイヤWがその長手方向に同時高速駆動され、かつこれらのソーワイヤWに加工液供給装置36A,36Bから加工液が供給されながら、これらのソーワイヤWに対してワーク28が前記ソーワイヤWの軸方向と略直交しかつ配列方向と略直交する方向にワーク28を移送することにより切断領域C方向に切断送りされ、このワーク28から一度に多数枚のウェハが同時に切り出される。
【0064】
本発明のワイヤソーは、ワイヤ表面に凸部を有し、その表面にダイヤモンド状薄膜等が形成されたソーワイヤを用いるために、砥粒の含有割合の少ない水系スラリや、砥粒を含有しない摩擦熱の冷却効果を目的とする加工液を用いた場合でも、高い切削効率でワークを切断することができる。また、砥粒の含有割合が低い、または、砥粒を含有しなくとも高い切削効率で加工することができるために、ソーワイヤ自体の磨耗を低減することができる。従って、本発明のソーワイヤは、長寿命で耐久性が高いものである。
【発明の効果】
【0065】
本発明のソーワイヤを用いてインゴット等からウェハをスライスする場合、遊離砥粒の含有割合の少ない水系スラリや、遊離砥粒を全く含有しない水等のみを用いてインゴットを効率よくスライスすることができるために、スラリの分散媒体の揮発による引火のおそれや、悪臭の発生を抑制した切断環境を実現することができる。また、遊離砥粒を含有するスラリを用いる場合においても、スラリ中の遊離砥粒の量を従来よりも低減しても、切断効率を維持することができる。また、ソーワイヤ表面は硬質であるために切断効率が経時的に低下しにくい、長寿命のソーワイヤである。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳しく説明する。
【0067】
図2及び図3で示したような、ワイヤ基材用薄膜形成装置4を用いて、以下の方法により本発明のソーワイヤを製造した。なお、本実施例では、ワイヤ基材は直径0.3mmで十点平均粗さ(Rz)が2.78μmのピアノ線(表面が粗なワイヤ基材A)及び直径0.3mmで十点平均粗さ(Rz)が0.47μmのピアノ線(表面が平滑なワイヤ基材B)を用いた。
【0068】
図2及び図3中、6はチャンバ、5A〜5Dは円柱状の炭素棒(直径3mm、長さ300mm、炭素純度99.9995%)、F1,F2はガス流量調整用マスフローコントローラ(MFC)、T1,T2はガスタンク、Pは油拡散ポンプP1及びロータリーポンプP2からなる減圧手段、8Aはガス導入口、8Bは排気口、Vは放電電圧用電源、Bはバイアス電源、Mはソレノイドコイルを示す。
【0069】
なお、ソレノイドコイルMには電流源(MODEL:PAD 70-15L)が接続されており、励磁電流を印加することにより、磁界が形成される。また、放電電圧用電源Vは、放電用電圧を印加するためのものであり、AC600Hzの交流電源を用いた。さらに、放電電圧用電源Vは図4に示すような回路に接続されており、トランスTR(WTC-1K:MATSUNAGA MFG. CO.,LTD)により、交流電圧(1φ200V)を増幅し、回路中の保護抵抗K1,K2として1kΩ抵抗(RWH200G)を設け、保護抵抗K1の電位差から放電電流を測定した。さらに、炭素棒5A〜5Dに印加する電圧端子間に設けられた電圧計Vにより放電電圧を測定するように構成されている。
【0070】
ワイヤ基材1は図3(A)及び(B)に示すように、炭素棒5A〜5Dから等距離の位置に配設され、バネS1,S2を用いてテンションが保たれている。
【0071】
炭素棒5A〜5Dはそれぞれの炭素棒を一片5mmの正方形の4つの頂点に円柱の軸中心が位置するように配置し、またワイヤ基材をその中心軸が前記正方形の対角線の交点に位置するように形成されたセラミック製の炭素棒及びワイヤ基材固定手段7Aに配置した。そして、前記のように配置されたワイヤ基材1及び炭素棒5A〜5Dは、磁界分布が一様なチャンバ6の中央部に設置した。炭素棒には、幅が約1cmの銅板で導通することにより、対角に位置する炭素棒5Aと5C、5Bと5Dを等電位にした。
【0072】
ワイヤ基材1には、スパッタされたイオンを引き込むためのバイアス印加のために、一端はバネS2を介してバイアス電源Bに接続し、もう一端はバネS1に接続した。
【0073】
このように構成された装置4において、チャンバ6を減圧した後、ガス導入口8Aからメタンガスを導入した。そして、炭素棒5A〜5Dに放電用電圧を印加し、ワイヤ基材1にバイアス電圧を印加したまま10分間維持し、表面にダイヤモンド状薄膜が被着されたソーワイヤWが得られた。なお、このときの成膜条件を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
このようにして得られたソーワイヤWの表面の走査型電子顕微鏡による顕微鏡写真を図6(A)〜図6(C)に示す。
【0076】
図6(A)は表面が粗なワイヤ基材Aに薄膜を被着させたソーワイヤの表面を200倍の倍率で撮影した写真、図6(B)は表面が平滑なワイヤ基材Bに薄膜を被着させたソーワイヤの表面を200倍で撮影した写真、図6(C)は表面が平滑なワイヤ基材Bに薄膜を被着させたソーワイヤの表面を2000倍の倍率で撮影したときの写真である。
【0077】
また、表面が粗なワイヤ基材Aに薄膜を被着させたソーワイヤの表面の十点平均粗さ(Rz)を表面形状測定顕微鏡(VF−7500、CERSA−MCJ社製)で測定したところ7.1μmであった。一方、表面が平滑なワイヤ基材Bに薄膜を被着させたソーワイヤの表面の十点平均粗さ(Rz)を測定したところ3.1μmであった。
【0078】
なお、図6(B)のソーワイヤの表面に被着された薄膜を評価したラマン分光のスペクトルを図7に示す。前記スペクトルにおいては、1541.8cm−1をピークとするDLC膜の存在を示すブロードなピークが確認された。
【0079】
このようにして得られたソーワイヤは、表面に歯の働きをする凸部を有するために砥粒を含有するスラリを用いなくとも水性溶液のみによりインゴット等をスライスすることができる。従って、スラリの分散媒体の揮発による引火のおそれや、悪臭の発生を抑制した切断作業を実現することができる。また、遊離砥粒を含有するスラリを用いる場合においても、スラリ中の遊離砥粒の量を従来よりも大幅に低減しても、切断効率を維持することができる。また、ソーワイヤ表面は硬質であるために切断効率が経時的に低下しにくい、長寿命のソーワイヤである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1(A)〜(C)は、本発明のソーワイヤの拡大断面を示す模式図である。
【図2】図2は本発明のワイヤ基材用薄膜形成装置の構成を示す模式図である。
【図3】図3はワイヤ基材用薄膜形成装置内に配置される炭素棒及びワイヤ基材等の配置を示す模式図である。
【図4】図4は炭素棒に放電電圧を印加するための交流放電回路の回路図である。
【図5】図5は本発明のワイヤソーを示す模式図である。
【図6】図6は実施例で得られた本発明のソーワイヤの表面の電子顕微鏡による拡大写真である。
【図7】図7はソーワイヤの表面をラマン分光法により評価したラマン分光のスペクトルである。
【符号の説明】
【0081】
1,1A,1B ワイヤ基材
2 ダイヤモンド状薄膜等
3 中間層
4 ワイヤ基材用薄膜形成装置
5A〜5D 炭素棒
5E,5F 導電材
6 チャンバ
7 炭素棒及びワイヤ基材固定手段
7A 炭素棒固定治具
8A ガス導入口
8B 排気口
9A,9B ボビン
10A,10B ワイヤ繰出し・巻取り装置
11A,11B ボビン駆動モータ
12A,12B,14A,14B,16A,16B,22A,22B 固定プーリ
18A,18B ワイヤ長操作装置
20A,20B 可動プーリ
24A,24B,26A,26B ガイドローラ
25A,25B メインモータ
28 ワーク
30 ワーク送り装置
32 ワーク保持部
34 ワーク送りモータ
36A,36B 加工液供給装置
C 切断領域
Id放電電流
K1,K2 保護抵抗
V 放電電圧用電源
、V 電圧計
TR トランス
S1,S2 バネ
M ソレノイドコイル
B バイアス電源
P 減圧手段
P1油拡散ポンプ
P2 ロータリーポンプ
R 凸部
W ソーワイヤ
F1,F2 ガス流量調整用マスフローコントローラ
T1、T2 ガスタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ基材にダイヤモンド薄膜又はダイヤモンド状薄膜が被着されてなるソーワイヤであって、前記ソーワイヤ表面に凸部が形成されていることを特徴とするソーワイヤ。
【請求項2】
前記ソーワイヤの表面粗さ(十点平均粗さRz)が0.05〜40μmであることを特徴とする請求項1に記載のソーワイヤ。
【請求項3】
前記ワイヤ基材の表面粗さ(十点平均粗さRz)が0.5〜25μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のソーワイヤ。
【請求項4】
ワイヤ基材表面にダイヤモンド薄膜又はダイヤモンド状薄膜を被着させることによるソーワイヤを製造する方法であって、
複数本の炭素棒を収納するチャンバであって、これらの炭素棒が特定の中心軸の周囲にこの中心軸から互いに等しい距離を置いた位置でかつ周方向に等しい間隔を置く位置に互いに平行な姿勢で配置されたチャンバの内部に前記ワイヤ基材を挿入し、このワイヤ基材を前記中心軸に合致する位置に固定して当該ワイヤ基材に張力を与える工程と、
前記チャンバ内を減圧し、かつ、炭素含有ガスを含む雰囲気にする工程と、
前記雰囲気下で、前記各炭素棒に前記炭素含有ガスのプラズマを発生させるための放電電圧を印加し、かつ、これらの炭素棒の内側に固定された前記ワイヤに前記プラズマ中の陽イオンを捕捉するためのバイアス電圧を印加することにより、前記ワイヤの表面にPVD及びプラズマCVDによって前記ダイヤモンド薄膜又は前記ダイヤモンド状薄膜を形成する工程とを含むことを特徴とするソーワイヤの製造方法。
【請求項5】
請求項4記載のソーワイヤの製造方法において、前記各炭素棒により囲まれる領域でのプラズマ密度を他の領域に比して局所的に高めるための磁界を前記チャンバ内に形成することを特徴とするソーワイヤの製造方法。
【請求項6】
半導体インゴットから複数枚のウェハを切り出す方法であって、
請求項1〜3の何れか1項に記載のソーワイヤを複数のガイドローラに複数回掛け渡してこれらのガイドローラのうちの特定のガイドローラ同士の間に前記ソーワイヤが平行な状態で複数列にわたり配列されたインゴット切断領域を形成し、かつ、このソーワイヤを当該ソーワイヤの軸方向に駆動する工程と、
前記ソーワイヤを駆動した状態で前記切断領域に対し前記ソーワイヤの軸方向と略直交しかつ前記ソーワイヤの配列方向と略直交する方向に前記半導体インゴットを移送してこの半導体インゴットを前記ソーワイヤにより複数個所で切断する工程とを含むことを特徴とする半導体インゴットの切断方法。
【請求項7】
半導体インゴットから複数枚のウェハを切り出すためのワイヤソーであって、
請求項1〜3の何れか1項に記載のソーワイヤと、
前記ソーワイヤが複数回掛け渡される複数のガイドローラと、
前記ソーワイヤを当該ソーワイヤの軸方向に駆動するワイヤ駆動手段とを備え、
前記ソーワイヤが、前記ガイドローラのうちの特定のガイドローラ同士の間において平行な状態で複数列にわたり配列されることによりインゴット切断領域を形成するように配線されるとともに、
前記ワイヤ駆動手段により前記ソーワイヤが駆動された状態で前記切断領域に対し前記ソーワイヤの軸方向と略直交しかつ前記ソーワイヤの配列方向と略直交する方向に前記半導体インゴットを移送することによりこの半導体インゴットを前記ソーワイヤにより切断させるインゴット移送手段を備えたことを特徴とするワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−203417(P2007−203417A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26378(P2006−26378)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【出願人】(597150599)ジャパンファインスチール株式会社 (11)
【Fターム(参考)】