説明

タングステン系焼結体およびその製造方法

本発明は、従来技術で得られなかった相対密度99.5%以上(ポアの体積率が0.5%以下)で、組織は均一で等方性を有するタングステン系焼結体を得ることを課題とする。
また、前記焼結体を用いた放電灯用電極、スパッタリングターゲット、るつぼ、放射線遮蔽部材、抵抗溶接用電極などを得ることを課題とした。
タングステン系粉末に、圧力は350MPa以上にてCIP処理を行い、水素ガス雰囲気中にて焼結温度1600℃以上、保持時間5時間以上の条件で焼結を行い、アルゴンガス中150MPa以上、1900℃以上の条件でHIP処理を行うことにより課題のタングステン系焼結体が得られる。
また、このタングステン系焼結体は、放電灯用電極、スパッタリングターゲット、るつぼ、放射線遮蔽部材、放電加工用電極、半導体素子搭載基板、構造用部材などに好適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン系焼結体およびその製造方法に関する。
【0002】
また、タングステン系焼結体を用いた放電灯用電極、スパッタリングターゲット、るつぼ、放射線遮蔽部材、抵抗溶接用電極、半導体素子搭載基板、構造用部材、スイッチ用接点、半導体製造装置用部材、イオン注入装置用部材、核融合炉内部材に関する。
【背景技術】
【0003】
一般にタングステン系焼結体の焼結は一般に、棒状のタングステン成形体の両端に電極を取り付け、それに高電圧で通電して焼結する方法である「通電焼結法」が用いられている。
【0004】
通電焼結法には4つの大きな欠点がある。
【0005】
一点目は棒状の成形体の両端に端子を接続し、通電しながら雰囲気ガス中で焼結するため焼結体形状の自由度が極めて低いことである。また、一般的に棒状の単純形状以外は、焼結後の加工を行う必要があり、棒状以外の形状では多大な製造費用を要する。
【0006】
二点目は、通電焼結後に加工を施さなければ充分な密度を得ることができないことである。通電焼結後にスエージングなどによる鍛造加工などを施すことにより密度は上がるが、形状はより制限される。また、鍛造などの塑性加工により密度を上げるために、大きく、充分な密度を持つ焼結体を得るには、鍛造前の焼結体をさらに大きくする必要があるために、大きな費用を要す専用設備が必要になる。また、タングステン系焼結体は高温強度が高いために、前記専用設備で加工を行う際も、高い圧力と熱が必要であり、大きな製造費用を要する。
【0007】
三点目は鍛造加工により結晶組織が変形することである。例えば焼結後にスエージングした場合は、結晶組織が配向して強度、電気抵抗率、熱伝導などに異方性が生じる。そのために焼結体としての均一性に欠ける。
【0008】
四点目は、鍛造加工によって転位が導入され、加工後に温度を上げるとある温度以上では再結晶現象を生じてしまうことである。これにより、焼結体の性状が著しく変化し、悪影響が生じる場合がある。
【0009】
これらの問題を解決するために、通電焼結を行わずにタングステンの焼結をセラミックスや超硬合金で一般に用いられる製造方法、すなわち粉末のプレス成形を行い、脱脂および焼結を行い、必要に応じて熱間静水圧プレス(HIP)処理を行う方法が特許文献1に開示されている。この技術は140〜310MPaでプレスしたタングステン粉末を非酸化性雰囲気で焼結して密度17.7〜18.4g/cm、その後に1850℃、アルゴンガス1360〜1940気圧にてHIP処理を行うことにより密度を18.9〜19.2g/cmとする技術である。
【0010】
また、特許文献2には、同様に成形をプレス圧98〜147MPaにて行い、水素雰囲気1600〜1700℃にて10Hr保持する焼結を行い密度17.0〜18.2g/cmの焼結体を得て、その後にアルゴンガス雰囲気1460℃、1800atmにてHIP処理を行う方法が開示されている。
【0011】
特許文献1および特許文献2の製法で得られるタングステン焼結体は、例えば最大理論密度の99.3%、19.16g/cmが上限であるが、この密度では放電灯等の真空システム光源で使用する大型電極では充分に密度が高くないため、焼結体中のポアの部分にガスや不純物が溜まり、点灯時にそれらが放出され、多大な悪影響が生じる。ポアの量は少なければ少ない程良く、ポアによる悪影響が生じないために充分なタングステン系焼結体の気孔率は0.5%未満であり、純タングステンの密度で19.25g/cm以上である(密度は添加物の種類、量により異なる)。
【0012】
前記放電灯用電極以外の用途でポアが少なく、高密度が要求される高温構造部材、放射線遮蔽部材、抵抗溶接用電極、るつぼ、スパッタリングターゲット、半導体製造装置用部材、半導体素子搭載基板、スイッチ用接点などである。これらはいずれも焼結体中のポアが少ないほど優れた特性を得ることができる。
【特許文献1】米国特許第4,612,162号
【特許文献2】特許3121400号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術で得られなかった相対密度99.5%以上(ポアの体積率が0.5%未満)で、組織は均一で等方性を有するタングステン系焼結体を得ることを課題とする。焼結体の平均結晶粒径は30μm以下であり、組成はタングステン、タングステンにアルカリ金属を100ppm以下(0ppmを含まず)添加したドープタングステン、タングステンにセリウム、トリウム、ランタン、イットリウム、ストロンチウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウムの酸化物のうち少なくとも1種を最大4重量%(0重量%を含まず)添加した材料タングステン、モリブデンの合金の少なくとも1種である。また、焼結体内の1mmの単位断面積中に存在する長径が1μm以上のポアの数が、10000以下であるタングステン系焼結体を得ることを課題とする。
【0014】
また、前記焼結体について、特に下記に示す特性を得ることを目的とする。
【0015】
(1) 焼結体の表面と内部の硬度の差が、HRA(ロックウェル硬度、Aスケール)で1.0以下であること。
【0016】
(2) 再結晶温度が少なくとも1600℃以上であること。
【0017】
(3) 焼結体中の任意の2点間の電気抵抗率の最大値と最小値の比が1.1以下であること。
【0018】
(4) 焼結体中の任意の2点間の熱伝導率の最大値と最小値の比が1.1以下であること。
【0019】
さらに、前記いずれかの焼結体を用いた放電灯用電極、スパッタリングターゲット、るつぼ、放射線遮蔽部材、抵抗溶接用電極、半導体素子搭載基板、構造用部材、スイッチ用接点、半導体製造装置用部材、イオン注入装置用部材、核融合炉内部材を得ることを課題とした。
【0020】
またさらに、相対密度99.5%以上で、組織は等方性を有し均一であり、平均結晶粒径が30μm以下であるタングステン系焼結体の製造方法を得ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1に記載の本発明は、タングステン又はタングステンにアルカリ金属を100ppm以下(0ppmを含まず)若しくはセリウム、トリウム、ランタン、イットリウム、ストロンチウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウムの酸化物のうち少なくとも1種を4重量%以下(0重量%を含まず)添加したドープタングステン又はタングステンとモリブデンとの合金のうちの少なくとも1種からなり、結晶組織は等方性を有し、相対密度が99.5%以上で、平均結晶粒径が30μm以下であることを特徴とするタングステン系焼結体である。
【0022】
相対密度が99.5%以上であるので、ポアを中心に介在する焼結体中のガスや不純物が極めて少なく、使用雰囲気中にこれらの影響がない。
【0023】
また、組織は等方性を有し、均一である。そのために機械的特性、電気的特性、放電特性などが方向によらず一定であり、安定している。
【0024】
焼結体の平均粒径は、粒径が大きいと強度が大きく低下するために、焼結体の平均結晶粒径は30μm以下が好適である。
【0025】
放電特性を向上させたり、再結晶温度を上げたり粒成長を抑制する目的などで、タングステン系の焼結体には用途に応じてさまざまな添加剤を入れることができる。それらは焼結体の用途により異なるが、100ppm以下のアルカリ金属や4重量%以下のセリウム、トリウム、ランタン、イットリウム、ストロンチウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデンの中から選ばれる。また、放電特性が求められる場合や前記添加物を嫌う用途の場合は、高純度なタングステン(99.95〜99.99999%)が好適な場合もある。
【0026】
請求項2に記載の本発明は、焼結体内の1mmの単位断面積中に存在する長径が1μm以上のポアの数が、10000以下であることを特徴とする請求項1に記載のタングステン系焼結体である。
【0027】
相対密度が99.5%以上の焼結体であっても、そのなかのポアの形態や分布によっては、使用に適さないことがある。例えば、径が5μmを超えるようなポアが存在すれば高温での使用時に変形の原因になり、また、ポアにはガスが溜まりやすくなる。また、ポアの分布については径が1μ以下でできるだけ小さいポアが均一に分散している状態がよい。1μより大きいポアはできるだけ少ない方がよく、焼結体内の1mmの単位断面積中に10000以下であれば充分である。また、これらのポアも、粒界にあると移動しやすいために、少なくともポアの体積の半分以上が結晶粒内に存在していれば使用環境下でポアが移動しにくく、焼結体外にも放出されにくいためにさらによい。
【0028】
請求項3に記載の本発明は、焼結体の表面と内部での硬度の差が、HRAで1.0以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタングステン系焼結体である。表面と内部で硬度差があれば、製品に加工する際の加工性が悪くなるばかりでなく、仕上げの面粗さや、構造材としての耐摩耗性などの機械的特性にも悪影響を及ぼす。
【0029】
これらの弊害が生じないための許容される硬度差はHRAで1.0以下である。
【0030】
請求項4に記載の本発明は、再結晶温度が少なくとも1600℃以上であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載のタングステン系焼結体である。再結晶は、焼結体へ鍛造などの塑性加工を行うほど低い温度(1300〜1500℃)で起こる。本発明のタングステン系焼結体は鍛造加工などの塑性加工を行っていないために、再結晶温度は極めて高い。再結晶温度が1600℃より低い焼結体は、ランプ用電極や高温構造材などに使用する際に再結晶が起こるために、特に細い部分は粒界ですべりがおき変形する。そのために特に高温雰囲気にて使用される構造用部材や電極などは再結晶温度が高い方がよく、より好ましくは2000℃以上がよい。
【0031】
請求項5に記載の本発明は、焼結体中の任意の2点間の電気抵抗率の最大値と最小値の比が1.1以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のタングステン系焼結体である。
【0032】
用途が抵抗溶接用電極や、スイッチ用部材である場合は、焼結体の電気抵抗率が設計上の重要なファクターとなる。電気抵抗率が焼結体中の任意の2点間で大きく異なると、電流の流れや接点の開閉時発熱、耐アーク性、消耗などが一定せずに、設計に大きな幅を持たせる必要が生じる。本発明の焼結体は、焼結体中の任意の方向についての電気抵抗率が一定に近く、最大値と最小値の比が1.1以下である。そのために、焼結体の方向性を考慮せずこれらの用途に用いることができる。
【0033】
請求項6に記載の本発明は、焼結体中の任意の2点間の熱伝導率の最大値と最小値の比が1.1以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のタングステン系焼結体である。
【0034】
用途が放熱部材や半導体搭載用基板などの場合は、熱伝導率が重要となる。熱伝導率が焼結体中の任意の2点間で大きく異なると、放熱効率や、温度勾配などが一定せずに、設計
上大きな制約が生じる。本発明の焼結体は、焼結体中の任意の2点間についての熱伝導率が一定に近く、最大値と最小値の比が1.1以下である。そのために、焼結体の方向性を考慮せずこれらの用途に用いることができる。
【0035】
請求項7に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかのタングステン系焼結体からなる放電灯用電極である。放電灯用電極はさまざまな特性が求められるが、以下にその主なもの列記する。
【0036】
(1)放電特性が優れていること。
【0037】
(2)使用時に放電灯用電極からの不純物で放電灯内を汚染しないこと。
【0038】
(3)熱伝導率が充分高く放電灯内が異常発熱しないこと。
【0039】
(4)細い電極であっても、使用時に変形しないこと。
【0040】
本発明の放電灯用電極は、タングステン系焼結体からなるために、放電特性は優れている。タングステンは高純度タングステンやアルカリ金属を100ppm以下ドープしたタングステンなどから、用途や封入ガスなどに対して適当な材質を選べばよい。
【0041】
不純物のほとんどは、使用前の焼結体中のポア中にガスとして存在する。本発明の放電灯用電極は、そのポアが非常に少なく、また、1μmを超えるようなポアも少ないために汚染源となるガスの発生も極めて少ない。また、ポアの分布が焼結体全体で均一なので、電極の形状により汚染度が左右されない。
【0042】
また、本発明の放電灯用電極は、熱伝導を任意の方向にほぼ一定とすることができるために、焼結体の結晶の方向性などにより電気抵抗が左右されることがなく、異常発熱に対する信頼性が高い。
【0043】
さらに、本発明の放電灯用電極はランプは再結晶温度が高いために、使用時にも再結晶が起こりにくく、細い電極であっても変形を押さえることができる。
【0044】
請求項8に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなるスパッタリングターゲットである。スパッタリングターゲットには、不純物の少なさと、ポアの少なさが求められる。ポアが多ければ、使用中にポアの周囲に不均一な消耗(以下「偏消耗」と記載する)が生じる。本発明のスパッタリングターゲットは、相対密度が99.5%以上と高いために偏消耗が起こりにくい。また、ポアが少ないために、その内部に存在するガスや不純物などが極めて少なく、不純物によるスパッタリング対象物の汚染を防ぐことができる。
【0045】
請求項9に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなるるつぼである。高温中で使用されるるつぼには、タングステン系焼結体は適しているが、その際に問題になるのがるつぼからの汚染である。
【0046】
汚染する成分は使用環境、るつぼにて溶融する成分により異なるが、汚染源となる成分はるつぼのポアの内部に気体や、ポア壁に付着している成分がほとんどである。
【0047】
本発明のるつぼは、このポアの量が非常に少ないために、汚染源となるガスや付着性分が少なく、汚染を最小限に押さえることができる。
【0048】
請求項10に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる放射線遮蔽部材である。放射線遮蔽能は、遮蔽材の密度に比例する。本発明の放射線遮蔽材は、高純度タングステンを使用した際の密度が19.25g/cm以上であり、その放射線遮蔽能は従来のタングステン系焼結体からなる放射線遮蔽材と比較して高い。
【0049】
請求項11に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる抵抗溶接電極用部材である。抵抗溶接用の電極のチップ部にはタングステン系焼結体が用いられることがある。該部材に求められる特性は耐溶着性、耐熱性、電気抵抗率などさまざまであるが、従来のタングステン系焼結体には耐熱衝撃性が低いという欠点がある。本発明の抵抗溶接用電極は、ポアが少なく、結晶組織に方向性がないために、あらゆる方向に対する耐熱衝撃性が強い。そのために、熱衝撃による割れや欠けが発生しにくく、また、たとえクラックや欠けが発生した場合でもそれが伝播しにくい。そのために、抵抗溶接電極用部材として優れた特性を示す。
【0050】
請求項12に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる半導体素子搭載基板である。半導体素子搭載基板に求められる特性は、一定の熱膨張係数および熱伝導率である。本発明の半導体素子搭載基板は、結晶組織に方向性がないために、熱膨張の方向性がなく、ポアも少ないために熱伝導率が高い。そのために放熱が全ての方向に効率よく行われ、半導体素子搭載基板としての優れた特性を示す。
【0051】
請求項13に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる構造用部材である。
【0052】
構造用部材は、その形状としてブロック状、パイプ状、板状、棒状など用途に合わせてさまざま製作することができる。
【0053】
特に高温環境で使用する構造用部材には、使用環境時の強度および環境を汚染しないことが求められる。本発明の構造用部材は、前述の通り使用環境を極めて汚染しにくい。また、本発明の構造用部材は、再結晶温度が高いために、再結晶を起こすことなく使用することができる。従来用いられていたタングステン系焼結体は、再結晶温度が低いために、使用時に再結晶を起こし、高温強度が著しく低下していた。
【0054】
請求項14に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなるスイッチ用接点である。スイッチ用接点に求められる特性は、融点の高さおよび電気抵抗率である。本発明の半導体素子搭載基板はその融点は従来のタングステン系焼結体と同等であるが、ポアが少ないために熱伝導率は高く、しかも任意の方向にほぼ一定である。そのために放熱が全ての方向に効率よく行われ、優れた特性を示す。
【0055】
請求項15に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる半導体製造装置用部材である。半導体製造装置用部材には高融点で非磁性材料でかつ耐プラズマ性が高いタングステン材料は適している。そのなかでも、本発明品は、純度が高いために半導体や周辺部材への汚染が少なく、特に適している。
【0056】
請求項16に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなるイオン注入装置用部材である。半導体製造装置用部材のなかでも、特にイオン注入装置用部材は、使用時にプラズマや高温に晒されるためにタングステン系焼結体が適している。そのために、イオン注入装置の特にイオン注入装置の発生源容器に適している。本発明品は純度が高く、高密度でポアが少なく、またポアが小さいために、半導体ウェハーに対する汚染が少なく、耐プラズマ性が高いために特によい。
【0057】
請求項17に記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる核融合炉内部材である。本発明は、タングステンは高融点なので炉内で溶融しにくい。また、耐スパッタリング性が高く、高温でも蒸気になりにくい。また、核融合の原料となるH(トリチウム)は従来用いられているカーボン系部材などと比較してHの吸蔵が小さいために、炉の放射能汚染が小さい。
【0058】
請求項18に記載の本発明は、原料粉末として粉末の平均粒径が0.5μm〜4μmであるタングステン、タングステンにアルカリ金属を100ppm以下添加したドープタングステンまたはタングステンにセリウム、トリウム、ランタン、イットリウム、ストロンチウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウムの酸化物のうち少なくとも1種を最大4重量%添加したタングステン系材料、タングステンとモリブデンの合金の少なくとも1種の粉末を、圧力は350MPa以上にてCIP処理を行い、水素ガス雰囲気中にて焼結温度1600℃以上、保持時間5時間以上の条件で焼結を行い、アルゴンガス中150MPa以上、1900℃以上の条件でHIP処理を行うことを特徴とするタングステン系焼結体の製造方法である。
【0059】
本発明のタングステン系焼結体の製造方法は次の1.〜6.に示す特徴を有する。
【0060】
1.少なくとも原料粉末のCIP法による成形、焼結、HIP処理の行程を含むこと。
【0061】
2.原料粉末はタングステン、タングステンにアルカリ金属を100ppm以下添加したドープタングステン、タングステンにセリウム、トリウム、ランタン、イットリウム、ストロンチウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウムの酸化物のうち少なくとも1種を最大4重量%添加したタングステン系材料、タングステンとモリブデンの合金のいずれかであること。
【0062】
3.前記粉末の平均粒径は0.5μm〜4μmであること。
【0063】
4.粉末のCIP処理の圧力は350MPa以上であること。
【0064】
5.焼結は水素ガス雰囲気中にて焼結温度1600℃以上、保持時間5時間以上の条件で行うこと。
【0065】
6. HIPはアルゴンガスにて150MPa以上、1900℃以上の条件で行うこと。
【0066】
上記項目3.〜6.の項目について詳細に説明を行う。
【0067】
3.粉末の平均粒径は0.5μm〜4μm
平均粒径0.5μm以上とした理由は、0.5μm以下のタングステン粉末は工業的に作るのが難しく、また強粉砕等により製作できたとしても、非常に活性であり酸化しやすいため粉末の取扱いが難しいためである。また、平均粒径4μm以下とした理由は、これ以上粒径の大きな粉末を使用すると焼結時の焼結性が悪くなるためである。
【0068】
4.粉末のCIP処理の圧力は350MPa以上。
【0069】
特許文献1および特許文献2に示されているCIP圧力はそれぞれ140〜310MPa、100〜150MPaである。この範囲の圧力では平均粒径0.5μm〜4μmのタングステン粉末は充分に潰れない。1μmの粉末を用いたCIP圧力と焼結後のタングステン焼結体との密度の関係を図1に示す。焼結条件は水素雰囲気中1700℃にて10時間保持である。
【0070】
図1の結果から、CIP圧力は最低でも350MPa必要であることが分かる。310MPa以下では焼結温度を高くしても充分な密度の焼結体が得られない。
【0071】
特許文献1および特許文献2の焼結後の焼結体の密度はそれぞれ17.7〜18.4、17g/cm以上(具体的な記載無し)といずれも充分ではない。本発明に示すように、CIP圧力を350MPa以上とすることにより、焼結後の焼結体密度は18.7g/cm以上とすることができる。
【0072】
5.焼結は水素ガス雰囲気中にて焼結温度1600℃以上、保持時間5時間以上の条件で行う
焼結雰囲気は水素ガス雰囲気の必要がある。還元性雰囲気のなかでも、水素雰囲気はタングステンへの汚染が小さく、また高温時にタングステン中の不純物と反応してそれを除去する働きもある。真空雰囲気やアルゴンガスなどの希ガスでは不純物の除去が充分でなく、カーボン還元雰囲気ではカーボンによる汚染が生じる。
【0073】
焼結温度は1600℃以上で保持時間5時間以上が適当である。平均粒径1μmの粉末を、400MPaにてCIP処理したプレス体を試料として、焼結温度および保持時間を変えて水素雰囲気にて焼結し、密度を測定した結果を図2に示す。
【0074】
この結果より、充分なHIP前の焼結体密度である18.6g/cm以上とするためには、1600℃以上で5時間以上の保持が必要であることが分かる。
【0075】
6.HIPはアルゴンガスにて150MPa以上、1900℃以上の条件で行う
特許文献1および特許文献2に記載のHIP条件は、最高でアルゴンガス200MPa、1850℃である。この条件は、圧力は充分であるが、温度は充分とはいえない。焼結後の焼結体密度が18.7g/cmである焼結体を試料として、条件を変えてHIP処理を行った結果を表1に示す。
【表1】

【0076】
試料:焼結後密度が18.7g/cmのタングステン
この結果から、HIP処理後の焼結体密度が所望の19.25g/cm以上を得るためには、HIP条件はアルゴンガスにて150MPg/cm以上、1900℃以上の条件が必要ということが分かる。
【0077】
また、HIP条件をアルゴンガス150MPa、1900℃とし、密度がそれぞれ18.3〜19.0の焼結体にHIP処理を行ったところ、表2に示す密度となった。このことからも、HIP処理で充分密度を上げるためには、焼結後の焼結体密度として18.6g/cm以上が必要であることが分かる。
【表2】

【0078】
結論として、下記のことがいえる。
【0079】
1. HIP処理後の焼結体の密度を99.5%(19.25g/cm)以上にするためには、HIP条件をアルゴンガスにて150Ma以上、1900℃以上の条件で行う必要がある。
【0080】
2. HIP処理後に密度を19.25g/cm以上にするためには、焼結後の焼結体密度を少なくとも18.6g/cm以上にしておく必要がある。
【0081】
3. 焼結後の焼結体密度を18.6g/cm以上とするためには、焼結条件を水素雰囲気にて焼結温度1600℃以上、保持時間5時間以上で行う必要がある。
【0082】
4. 同じく焼結後の焼結体密度を18.6g/cm以上とするためには、CIP時の圧力を350MPa以上とする必要がある。
【0083】
相対密度が99.5%のタングステン系焼結体を鍛造などの加工を行わず得るためには、前記1.〜4.の全てを満たす行程で製作する必要がある。
【発明の効果】
【0084】
本発明のタングステン系焼結体は、高密度で組織は均一なタングステン系焼結体であり、ポアが少なく、再結晶温度が高く、硬さや熱伝導率、熱膨張率について等方性を有し、焼結体の表面と内部の差が極めて小さい。
【0085】
それらの特性を持つために、特に放電灯用電極、スパッタリングターゲット、るつぼ、放射線遮蔽部材、半導体素子搭載基板、構造用部材、スイッチ用接点に好適であり、能率向上、長寿命化、電気的特性安定、高温強度向上、汚染物質発生の抑制、偏消耗や偏摩耗の防止などの効果がある。
【0086】
また、本発明の製造方法でタングステン焼結体を製造することにより以下の効果が得られる。
【0087】
1. 特許文献1に示す方法と比較して、HIP処理後の焼結体密度を高くすることができ、理論密度に対して99.5%以上の焼結体が得られる。
【0088】
2. 通電焼結に鍛造加工を加えたタングステン焼結体の製造方法に対して、焼結できる形状の自由度が大きい。また、鍛造による変形による密度向上の必要がないために、鍛造が困難な大型部材の製造に適している。その際の製造費用も小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0089】
発明を実施するための最良の形態を下記に示す。
【0090】
まず、所望の焼結体を得るための原料を準備する。
【0091】
原料粉末はタングステン、タングステンにアルカリ金属を100μm以下添加したドープタングステン、タングステンにセリウム、トリウム、ランタン、イットリウム、ストロンチウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウムの酸化物のうち少なくとも1種を最大4重量%添加した材料、タングステンとモリブデンの合金のいずれかから用途に合わせて選択する。用途によっては前記タングステンとして高純度タングステン(99.95〜99.99999%)を用いてもよい。
【0092】
原料粉末の粒子径は、0.5〜4μmのものを用いる。粉末を調製の際に、有機バインダーを添加する方法も可能である。適当な有機バインダーを添加することで、CIPの際の成形性がよくなり、その後に中間加工を加えるのも容易である。加えた有機バインダーは焼結の際に同時に脱バインダーされる。
【0093】
次に、粉末をCIP処理する。CIP処理の際は柔軟性を持ったゴムや樹脂の密封容器中で行う。粉末を直接投入してもよいし、CIP処理前に例えば金型プレスなどで予め成形しておきその後にCIP処理を行ってもよい。また、圧力を変えて二度以上のCIPを施してもよい。
【0094】
この容器を圧力媒体となる液体中でCIPしてもよいし、乾式CIP機(ラバープレス機)を用いてもよい。
【0095】
CIP処理の必須条件は少なくとも一度は350MPa以上の圧力を加えることである。
【0096】
CIP処理後のプレス体に、必要がある場合は中間加工を加えて、焼結を行う。
【0097】
中間加工は、プレス体に行うものなので、焼結体に加工を加えるのと比較した場合、加工費用および時間は圧倒的に有利である。
【0098】
焼結を行う炉は水素雰囲気で焼結ができること、および、1600℃以上までの昇温が可能であることが求められる。
【0099】
昇温条件は特に限定されるものではないが、1000℃までの加熱は焼結体に特別の影響をもたらさないために速く昇温して構わない。1000℃から焼結温度までの昇温は、焼結体の大きさなどで変わるが1〜30℃/minが適当である。焼結後の冷却速度も同様である。冷却後に焼結体が得られる。
【0100】
焼結後の焼結体にHIP処理を行う。HIP装置は一般的なものでよいが、最低でも150MPa、1900℃にてアルゴンHIPが可能な装置の必要がある。昇温や高温、保持時間については一般的な条件でよい。
【0101】
HIP処理後に必要に応じて機械加工、電気加工などを行うことにより、所望の本発明のタングステン系焼結体を得ることができる。
【0102】
このようにして得られたタングステン系焼結体は、その原料粉末の粒径や製造条件(焼結条件、HIP条件など)を前記範囲内で変化させることにより、下記の特性を付与することができる。
【0103】
(1)焼結体内の断面組織中に存在する長径が1μm以上のポアの数が、焼結体内の1mmの断面積中に10000以下とできる。
【0104】
(2)焼結体の表面と内部の硬度の差が、HRAで1.0未満とできる。
【0105】
(3)再結晶温度が少なくとも1600℃以上とできる。
【0106】
(4)焼結体中の任意の2点間の電気抵抗率の最大値と最小値の比が1.1以下とできる。
【0107】
(5)焼結体中の任意の2点間の熱伝導率の最大値と最小値の比が1.1以下とできる。
【0108】
また、本発明(請求項7〜請求項17)の放電灯用電極、スパッタリングターゲット、るつぼ、放射線遮蔽部材、抵抗溶接用電極、半導体素子搭載基板、構造用部材、スイッチ用接点、半導体製造装置用部材、イオン注入装置用部材、核融合炉内部材は、いずれも前記方法にて形状を変えることにより得ることができる。
【0109】
以下実施例にて本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0110】
本発明のタングステン系焼結体を放電灯用電極に使用した実施例を示す。
【0111】
純度99.99%で平均粒径0.8μのタングステン粉末を出発原料に用いた。
【0112】
粉末を金型プレス、2MPaの圧力にてφ100×250の円筒状にプレスを行い、このプレス体を密封したゴム袋に入れて400MPaの圧力にてCIP処理を行った。
【0113】
CIP後の大きさはφ80×200であり、プレス体密度は約11g/cmであった。このプレス体を旋盤加工にて円柱の先端に半球を有する放電灯用電極形状に整形加工を行った。
【0114】
整形体を水素雰囲気、1800℃、6時間保持することにより焼結を行った。昇温速度は1000℃まで10℃/min、その後1800℃まで4℃/minで行った。
【0115】
焼結後の焼結体密度は18.8g/cmであった。
【0116】
次にこの焼結体にアルゴンガス、200MPa、2000℃の条件下でHIP処理を行った。HIP処理後の密度は19.28g/cm(99.9%)とほぼ理論密度に達していた。組織を観察したところ、等方性を有した組織であり、平均結晶粒径は15μmであった。また、HIP処理後の焼結体表面に近い部分と内部の組織を比較したが、違いは見られなかった。
【0117】
HIP処理後の焼結体を研削を行い、所望の形状に円筒研削盤、ターニングセンタにて機械加工を行い、放電灯用電極を得た。
【0118】
得られた放電灯用電極を放電灯の陽極として使用したところ、放電灯内の汚染が少なく高輝度を維持でき、陽極の消耗が少なく長寿命であった。
【0119】
従来の放電灯用電極との違いを表3に示す。
【表3】

【実施例2】
【0120】
実施例1と同様の方法にて得られる原料粉末および形状のみが異なる、スパッタリングターゲット、るつぼ、放射線遮蔽部材、抵抗溶接用電極、半導体素子搭載基板、スイッチ用接点をそれぞれ作製したところ、表4に示す本発明の焼結体の特徴よりそれぞれ性能、コスト面にて効果が得られた。
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の製造方法は、下記のタングステン焼結体からなる部材、製品の製造に利用することができる。
【0122】
1.放電灯用電極
2.スパッタリングターゲット
3.るつぼ
4.放射線遮蔽部材
5.抵抗溶接電極用部材
6.半導体素子搭載基板
7.スイッチ電極用部材
8.構造用部材(パイプ、ブロック形状など)
9.半導体製造装置用部材
10.イオン注入装置用部材
11.核融合炉内部材
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】CIP処理圧力と焼結体密度の関係
【図2】焼結時間・温度と焼結体密度の関係

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンまたはタングステンにアルカリ金属を100ppm以下(0ppmを含まず)添加したドープタングステン、またはセリウム、トリウム、ランタン、イットリウム、ストロンチウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウムの酸化物のうち少なくとも1種を4重量%以下(0重量%を含まず)添加したタングステン系材料またはタングステンとモリブデンとの合金のうちの少なくとも1種からなり、結晶組織は等方性を有し、相対密度が99.5%以上で、平均結晶粒径が30μm以下であることを特徴とするタングステン系焼結体。
【請求項2】
焼結体内の1mmの単位断面積中に存在する長径が1μm以上のポアの数が、10000以下であることを特徴とする請求項1に記載のタングステン系焼結体。
【請求項3】
焼結体の表面と内部での硬度の差が、HRAで1.0以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタングステン系焼結体。
【請求項4】
再結晶温度が少なくとも1600℃以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のタングステン系焼結体。
【請求項5】
焼結体中の任意の2点間の電気抵抗率の最大値と最小値の比が1.1以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のタングステン系焼結体。
【請求項6】
焼結体中の任意の2点間の熱伝導率の最大値と最小値の比が1.1以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のタングステン系焼結体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる放電灯用電極。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなるスパッタリングターゲット。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなるるつぼ。
【請求項10】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる放射線遮蔽部材。
【請求項11】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる抵抗溶接用電極。
【請求項12】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる半導体素子搭載基板。
【請求項13】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる構造用部材。
【請求項14】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなるスイッチ用接点。
【請求項15】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる半導体製造装置用部材。
【請求項16】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなるイオン注入装置用部材。
【請求項17】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のタングステン系焼結体からなる核融合炉内部材。
【請求項18】
原料粉末として粉末の平均粒径が0.5μm〜4μmであるタングステン、タングステンにアルカリ金属を100ppm以下添加したドープタングステン、タングステンにセリウム、トリウム、ランタン、イットリウム、ストロンチウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウムの酸化物のうち少なくとも1種を最大4重量%添加した材料、タングステンとモリブデンの合金の少なくとも1種の粉末を、圧力は350MPa以上にてCIP処理を行い、水素ガス雰囲気中にて焼結温度1600℃以上、保持時間5時間以上の条件で焼結を行い、アルゴンガス中150MPa以上、1900℃以上の条件でHIP処理を行うことを特徴とするタングステン系焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/073418
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517537(P2005−517537)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001274
【国際出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】